(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、「ペット」とは人に飼育されている動物をいう。より狭義の意味では、ペットは飼い主に愛玩される動物である。また、「ペットフード」とは、ペット用の飼料をいう。本発明にかかるペットフードを「動物用飼料」又は「動物の餌」として販売することが可能である。
【0010】
<水分含有率の測定方法>
本明細書において、水分含有率は常圧加熱乾燥法で求められる値である。
具体的には、被測定物を粉砕機にかけて1mmの篩を通過するように粉砕し、これを試料とする。アルミ秤量缶の質量(W1グラム)を恒量値として予め測定する。このアルミ秤量缶に試料を入れて質量(W2グラム)を秤量する。つぎに強制循環式の温風乾燥器を使用して、135℃、2時間の条件で試料を乾燥させる。乾燥雰囲気中(シリカゲルデシケーター中)で放冷した後、質量(W3グラム)を秤量する。得られた各質量から下記式を用いて水分含有率を求める。
水分含有率(単位:質量%)=(W2−W3)÷(W2−W1)×100
ペットフードの水分含有率は、包装容器に収容して密閉した製品を、製造日から30日以内に開封した直後に測定した値、またはこれと同等の条件で測定した値とする。
【0011】
<各成分の含有量の測定方法>
本明細書において、ペットフードの下記の各成分の固形分換算の含有量(単位:質量%)は以下の測定方法で得られる値である。
[糖類]
糖類の含有量は、社団法人日本飼料協会発行の飼料分析基準注解(第2版)に記載されている高速液体クロマトグラフ法により測定される値である。
[遊離システイン]
遊離システインの含有量は、社団法人日本飼料協会発行の飼料分析基準注解(第2版)に記載されている高速液体クロマトグラフ法により測定される値である。
[加水分解システイン・加水分解メチオニン]
加水分解システインまたは加水分解メチオニンの各含有量は、社団法人日本飼料協会発行の飼料分析基準注解(第2版)に記載されているアミノ酸自動分析法により測定される値である。
【0012】
[粗タンパク質]
粗タンパク質の含有量は、社団法人日本飼料協会発行の飼料分析基準注解(第2版)に記載されているケルダール法により測定した窒素含量(単位:質量%)に、タンパク係数として6.25を乗じて粗タンパク質含有量(単位:質量%)を算出する。
本方法では、純粋なタンパク質以外にアミノ酸やアミノ類も含む合計の含有量が、粗タンパク質含有量として測定される。
[粗脂肪]
粗脂肪の含有量は、社団法人日本飼料協会発行の飼料分析基準注解(第2版)に記載されている酸分解ジエチルエーテル抽出法により測定される値である。
[カルシウム・リン・ナトリウム・カリウム・マグネシウム]
カルシウム、リン、ナトリウム、カリウム、またはマグネシウムの各含有量は、社団法人日本飼料協会発行の飼料分析基準注解(第2版)に記載されているICP発光分析法により測定される値である。
[ビタミン類・チアミン・リボフラビン・ピリドキシン]
ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、チアミン、リボフラビン、ピリドキシン、またはビタミンB
12の各含有量は、社団法人日本飼料協会発行の飼料分析基準注解(第2版)に記載されている高速液体クロマトグラフ法により測定される値である。
【0013】
<ペットフード>
[水分含有率]
本発明のペットフードは水分含有率が15〜30質量%である。水分含有率が15質量%以上のペットフードは、いわゆるセミモイストタイプのペットフードである。保存性の点からは30質量%以下が好ましい。
【0014】
[糖類の含有量]
本発明のペットフードは、糖類の含有量が5質量%以下である。糖類の含有量が5質量%以下であると、メイラード反応による嗜好性の向上効果が不十分になりやすいため、本発明を適用することによる効果が大きい。糖分が少ないペットフードを望む消費者にとって、該糖類の含有量は少ない方が好ましい。たとえば4質量%以下が好ましく、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、ゼロでもよい。
通常のペットフードにおいて、嗜好性向上のために添加される一般的な糖類はブドウ糖、果糖、またはショ糖の3種である。本明細書ではペットフード中の糖類の含有量として、代表的にブドウ糖、果糖、およびショ糖の固形分換算の含有量(単位:質量%)を測定し、これらの合計量を糖類の含有量とする。
【0015】
[システインまたはその塩]
本発明で用いられるシステインまたはその塩の具体例としては、L−システイン、システイン塩酸塩等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ナトリウムの含有量が低い方が好ましい場合はL−システインが好ましく、安価でありながら嗜好性向上効果が十分に得られる点ではシステイン塩酸塩が好ましい。
原料混合物にシステインまたはその塩を添加し、加熱工程を経てペットフードを製造すると、該加熱工程において、原料混合物中の水とシステインまたはその塩とが反応して香り成分を生成する。該香り成分が嗜好性の向上に寄与すると考えられる。
システインまたはその塩の合計の添加量は、ペットフードの原料混合物に対して、固形分換算で0.01質量%以上であり、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。該システインの添加量が0.01質量%以上であると、嗜好性向上効果が十分に得られる。
該システインの添加量が多すぎると、人が好ましくない臭いを感じやすくなる。このため該システインの添加量は0.5質量%以下が好ましく、0.4質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下がさらに好ましい。
【0016】
加熱前の原料混合物にシステインまたはその塩を含有させた場合、加熱後のペットフードにおいては、その痕跡として遊離システインが検出される。具体的に、本発明のペットフードは、上述の測定方法で遊離システインの含有量を測定すると、検出限界値である0.001質量%以上の遊離システインが検出される。
一方、システインは容易に酸化されてシスチンになることが知られており、肉由来原料等にはシスチンとして含まれている。原料混合物にシスチンが含まれており、システインまたはその塩が添加されていない場合、該原料混合物を加熱して得られるペットフードにおいて加水分解システインは検出されるが、遊離システインは検出されない。
【0017】
<原料>
システインまたはその塩以外の原料は、飼料として使用可能なものであればよい。ペットフードの製造において公知の原料を適宜用いることができる。ただし、ペットフードにおける糖類の含有量が5質量%以下となる範囲で用いる。
例えば、生肉類(鶏肉、牛肉、豚肉、鹿肉、魚肉等)、下記粉体原料、および下記液体原料から選ばれる原料を組み合せて原料混合物を構成し、さらに外添剤を用いることが好ましい。外添剤とは、原料混合物が成形された後に添加(外添)される成分を意味する。
【0018】
[粉体原料]
粉体原料として、穀類(トウモロコシ、小麦、米、大麦、燕麦、ライ麦等)、豆類(丸大豆等)、澱粉類(小麦澱粉、トウモロコシ澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉等)、植物性タンパク質源(コーングルテンミール、大豆加工品(脱脂大豆、大豆他タンパク質等)等)、動物性タンパク質源(ミール類、卵類(卵パウダー等)等)、野菜類、糖類(果糖、ブドウ糖、ショ糖等)、粉体の添加物(ビタミン類、ミネラル類、システインまたはその塩以外のアミノ酸類、フレーバー原料、繊維類、着色料、嗜好剤等)が挙げられる。
動物性タンパク質源としてのミール類とは肉類または魚介類を圧縮させ細かく砕いた粉体を意味する。例えば、チキンミール、豚ミール、牛ミール、フィッシュミール、これらの混合ミール等が挙げられる。
嗜好剤としては、畜肉、魚介等の動物原料エキス粉末や、植物原料エキス粉末等が挙げられる。
【0019】
[液体原料]
液体原料として、保湿剤(水溶液でもよい)、油脂、液状の嗜好剤、添加水等が挙げられる。添加水とは、液体原料中の溶媒とは別に、水の状態で添加される水を意味する。
油脂は、植物性油脂(コーン油、パーム油、大豆油、菜種油等)でもよく、動物性油脂(鶏油、豚脂(ラード)、牛脂(ヘット)、または乳性脂肪等)でもよい。常温で固体の油脂は液状となるように加温して用いる。油脂を用いる場合、予め乳化剤とともに液体原料を混合して、乳化液である液体原料組成物を調製し、これを粉体原料に添加することが好ましい。
原料混合物に含有させる液状の嗜好剤としては、畜肉、魚介等の動物原料エキス、または植物原料エキス等が挙げられる。
【0020】
(水)
原料混合物には、固体の原料中の水分の他に水を含有させる。原料混合物中の水は、加熱工程でシステインまたはその塩と反応し、香り成分を生成して嗜好性の向上に寄与する。
また、最終的に得られるペットフードの水分量は、固体の原料中の水分量と、水溶液の状態で添加される原料中の溶媒と、添加水との合計量によって調整できる。
原料混合物中の水の合計量、すなわち水溶液の状態で添加される原料中の溶媒と添加水との合計は、良好な成形性と、嗜好性の向上効果が十分に得られやすい点で、5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。上限は特に限定されず、ペットフードの水分量が15〜30質量%となる範囲であればよい。例えば、25質量%以下が好ましく、22質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0021】
(保湿剤)
保湿剤は、ペットフード中の水分を保持しつつ水分活性を低下させるために添加する成分である。
保湿剤として、プロピレングリコール、グリセリン、乳酸ナトリウムおよび糖アルコールからなる群から選ばれる1種以上が好ましく用いられる。糖アルコールとしては、ソルビトール、還元水飴が好ましい。2種以上を併用してもよい。これらの保湿剤は水溶液の状態で用いてもよい。
ペットフードに対する保湿剤(溶媒は含まない)の合計量は、固形分換算で4〜14質量%が好ましく、5〜10質量%がより好ましく、6〜8質量%がさらに好ましい。該保湿剤の添加量が上記の範囲内であると、セミモイストタイプのペットフードとして、良好な水分活性が得られやすい。
【0022】
[外添剤]
外添剤は、液体の外添剤および/または粉体の外添剤(例えば油脂)を用いることができる。
液体の外添剤としては、油脂類(動物性油脂、植物性油脂)、液状の嗜好剤(動物原料エキス、植物原料エキス)が挙げられる。
粉体の外添剤としては、粉体の嗜好剤としては、畜肉、魚介等の動物原料エキス粉末や、植物原料エキス粉末等が挙げられる。
2種以上の外添剤を用いる場合、予め混合して用いてもよく、例えば油脂をコーティングした後に、粉体または液体の外添剤をコーティングしてもよい。
【0023】
<原料の組成>
原料の組成は、得ようとするペットフードの栄養組成に応じて設計することが好ましい。具体的には、主要な栄養成分が、固形分換算で下記の組成を満たすことが好ましい。
粗タンパク質は18〜34質量%が好ましい。
粗脂肪は5〜22質量%が好ましく、7〜15質量%がより好ましい。
また、カルシウムが0.6〜2.5質量%、リンが0.5〜1.6質量%、ナトリウムが0.06〜1.0質量%、カリウムが0.2〜1.5質量%、マグネシウムが0.04〜0.3質量%含まれることが好ましい。
さらにビタミンAが5,000〜75万IU/kg、ビタミンDが500〜10,000IU/kg、ビタミンEが30〜1,500IU/kg、チアミンが1.0〜250mg/kg、リボフラビンが2.2〜250mg/kg、ピリドキシンが1.0〜250mg/kg、およびビタミンB
12が0.02〜250mg/kg含まれることが好ましい。
上記の組成を満たすペットフードは、栄養のバランスが良く、日常の食事として給餌されるペットフードとして好ましい。したがって、糖類の含有量が低く、嗜好性が良好で日常的に給餌することが可能であり、ペットの糖分摂取を抑制するための低糖ペットフードとして好適である。
特に、日常の食事として給餌されるペットフードにおいて糖分の低減と良好な嗜好性を実現すると、ペットの糖分の過剰摂取を防ぐ効果が大きい。
【0024】
<原料の配合例>
原料の配合は特に限定されない。上記の組成を満たすとともに、良好な成形性が得られるように設定することが好ましい。原料の配合例(外添剤も含む。合計100質量%)を以下に示す。
穀類、豆類および澱粉類の合計が20〜70質量%、植物性タンパク質源の合計が5〜20質量%、動物性タンパク質源の合計が5〜40質量%、水分(原料中の水分と添加水の合計)が15〜30質量%、外添剤が0.5〜6.0質量%、残りはその他の成分である。その他の成分の合計は1質量%以上であり、5質量%以上が好ましい。
【0025】
<ペットフードの製造方法>
本発明のペットフードを製造する方法は、システインまたはその塩と水とを含有する原料混合物を加熱する加熱工程を含む方法であれば特に限定されない。
加熱工程における加熱温度は70〜160℃が好ましく、80〜140℃がより好ましく、100〜120℃がさらに好ましい。上記の温度範囲内であると、システインまたはその塩と、水との反応による香り成分が十分に生成され、嗜好性向上効果が十分に得られる。160℃を超えると焦げが生じやすい。
最終製品のペットフードが得られるまでに、原料混合物に2回以上の加熱が施される場合は、いずれの回も加熱温度が160℃以下であり、少なくとも1回は70〜160℃であることが好ましい。
70〜160℃の温度で加熱される時間は、合計で5〜180秒間が好ましく、30〜60秒間がより好ましい。加熱時間が上記の範囲内であると原料混合物中のデンプンがアルファ化されるとともに、システインまたはその塩と水との反応による香り成分が十分に生成される。
【0026】
好ましくは、原料混合物を加熱するとともに造粒して、粒状のペットフードを製造する。造粒後に外添剤をコーティングすることが好ましい。粒状のペットフードは非膨化粒でもよく、膨化粒でもよい。膨化粒の方がより柔らかくなりやすい。
膨化粒は、原料混合物を加熱し、内部で気体を発生させて膨化させる膨化工程を設けるとともに、膨化工程の前、膨化工程の後、または膨化工程と同時に原料混合物を粒状に成形することにより製造できる。膨化工程では気体が発生することにより体積が増し多孔質の性状となる。また体積が増すことにより嵩密度が低下する。
【0027】
例えば、プレコンディショナーおよびエクストルーダーを備えた押出造粒機を用いて膨化粒を押出造粒する方法を用いることができる。
押出造粒機を用いて膨化粒を製造する方法は、例えば「Small Animal Clinical Nutrition 4th Edition」(Michael S. Hand、Craig D. Thatcher, Rebecca L. Remillard, Philip Roudebusg 編集、Mark Morris Associates 発行;2000年;p.157〜p.190)に記載されている方法等が適用できる。
【0028】
例えば、粉体原料を予め混合して混合粉体を調製する。また液体原料を予め混合して液体原料組成物を調製する。プレコンディショナーで、混合粉体と液体原料組成物とを混合しつつ加熱し、これらの混合物(原料混合物)をエクストルーダーに供給する。エクストルーダーでは、原料混合物を混練しつつ加熱し、エクストルーダーの出口で粒状に押出造粒する。得られた粒を冷却することにより粒状のセミモイストタイプのペットフードが得られる。
粒状のペットフードにおいて、粒の形状および大きさは、ペットが食するのに好適であればよく、特に制限されない。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[例1〜4]
表1に示す配合で粒状のセミモイストタイプのペットフード(総合栄養食)を製造した。
例1は、粉体の糖類および液糖が添加され、糖類を5質量%より多く含み、システインまたはその塩が含まれていない比較例である。
例2、3は、糖類を添加せず、糖類の含有量を5質量%以下とし、システインまたはその塩を配合した実施例である。
例4は、糖類を添加せず、糖類の含有量を5質量%以下とし、システインまたはその塩の代わりに、システインと同じ含硫アミノ酸であるメチオニンを配合した比較例である。
液糖および保湿剤はいずれも水溶液を用いた。表において水の配合量は、これらの溶媒としての水と添加水の合計である。牛脂および乳化剤の配合量は各例において共通とし、合計が100質量%となるように水の量を調整した。
【0030】
予め、表1に示す原料混合物の原料のうちの粉体原料(穀類、植物性タンパク源、動物性タンパク源、粉体の糖類、添加剤、L−システイン、システイン塩酸塩、およびメチオニン)を、グラインダーで粉砕しつつ混合し、混合粉体とした。これとは別に残りの原料(液糖、保湿剤、牛脂、乳化剤、および水)を混合して液体原料組成物(乳化液)を調製した。
押出造粒機のプレコンディショナーに、上記混合粉体および液体原料組成物を定量的に供給し、これらを混合しつつ、100℃で120秒間加熱した後、エクストルーダーに供給した。
エクストルーダーでは、プレコンディショナー内で混合された混合物(原料混合物)を、混練しつつ110℃で30秒間加熱し、エクストルーダーの出口で粒状に押出造粒すると同時に膨化させた。得られた膨化粒に外添剤をコーティングし、室温(25℃)で冷却して粒状のペットフードを得た。
コーティング終了後から、室温で12時間冷却したペットフードについて、水分含有率および表1に示す各成分の含有量を上記の方法により測定した。結果を表1に示す。
例4における加水分解メチオニンの含有量(固形分換算)は推測値である。原料由来のメチオニンに加えて0.3%を配合しているため、0.5〜0.8質量%程度と推測される。
また、例1〜4のいずれも、粗脂肪が7〜15質量%、カルシウムが0.6〜2.5質量%、リンが0.5〜1.6質量%、ナトリウムが0.06〜1.0質量%、カリウムが0.2〜1.5質量%、マグネシウムが0.04〜0.3質量%、ビタミンAが5,000〜25万IU/kg、ビタミンDが500〜5,000IU/kg、ビタミンEが50〜1,000IU/kg、チアミンが1.0〜250mg/kg、リボフラビンが2.2〜250mg/kg、ピリドキシンが1.0〜250mg/kg、およびビタミンB
12が0.022〜250mg/kgの栄養基準を満たすことを確認した。
なお、本例で得られたペットフードは、原料混合物を造粒し、外添剤(水分を含まない)をコーティングした後、加熱乾燥させずに得られたものであるため、原料混合物に含まれる水分量とペットフードに含まれる水分量とは同じとみなして、ペットフードに対する保湿剤の含有量(固形分換算)を算出した。
【0031】
<嗜好性の評価方法>
例1のペットフードPと、例2〜4の各ペットフードQとの組み合わせにおいて摂食量を比較する方法で嗜好性を評価した。20頭の犬をモニターとして2日間でテストを行った。
第1日は、ペットフードPおよびQのうち、一方を左から、他方を右から、犬1頭に対して所定の給餌量で同時に与え、犬がどちらか一方を完食した時点で又は1時間後に、犬が食べたペットフード量を測定した。
該犬1頭が第1日に食べた合計のペットフードの質量に対して、ペットフードPの摂食量とペットフードQの摂食量の比(P:Q、P+Q=100%)を百分率で求めた。モニターとした犬の数に基づいて、得られた百分率を平均して、第1日の結果とした。
第2日は、ペットフードPおよびQのうち、第1日とは反対に、一方を右から、他方を左から同時に与えたほかは第1日と同様にして、第2日の結果を得た。
第1日と第2日の結果を平均して、摂食量の比「P:Q」を求めた。PまたはQの数値が高いほどモニターである犬が好んで摂食したことを示す。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示されるように、原料混合物にL−システインを配合した例2、またはシステイン塩酸塩を配合した例3では、得られたペットフードに遊離システインが含まれていることが確認された。
これに対して、原料混合物にL−システインまたはシステイン塩酸塩のいずれも配合しなかった例1、4のペットフードには、加水分解システインは含まれていたが、遊離システインは検出されなかった。
【0034】
表1に示す嗜好性の評価結果に示されるように、例2、3で得られたセミモイストタイプのペットフードは、摂食量の比「P:Q」におけるPまたはQの数値が50±3%の範囲内であり、嗜好性は例1とほぼ同等であった。すなわち、例2、3のペットフードは、例1に比べて糖類の含有量が大幅に少ないにもかかわらず、例1と同等の嗜好性が得られた。
これに対して、例4のペットフードは、糖類の含有量が大幅に少ないため例1に比べて嗜好性が劣り、メチオニンを配合しても嗜好性の向上効果は見られなかった。
また例2、3のペットフードは、いわゆる腐卵臭(硫化水素臭)に似た独特の香りが感じられるのに対して、例1、4ではそのような香りは感じられなかった。
【0035】
[試験例1]
本例では、システイン水溶液を加熱したときの、温度と香り立ちの関係を調べた。
濃度が0.1質量%のL−システイン水溶液を、液温60℃、80℃、または100℃に加熱し、香りの強さを官能評価した。
その結果、60℃では香りは感じられず、80℃では香り立ちが認められ、100℃では香りが強くなった。その香りは、上記例2、3のペットフードで感じられた腐卵臭に似た香りと同様の香りであった。
この結果から、上記例2、3のペットフードで感じられた特有の香りは、加熱工程においてシステインと水との反応により生成されることがわかる。また表1の結果より、この香りが嗜好性の向上に寄与すると推測される。