特許第6976224号(P6976224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6976224血流解析装置、血流解析プログラム、血流解析システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976224
(24)【登録日】2021年11月11日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】血流解析装置、血流解析プログラム、血流解析システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/026 20060101AFI20211125BHJP
   A61B 5/22 20060101ALI20211125BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   A61B5/026 120
   A61B5/22 100
   A61B5/11 230
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-123983(P2018-123983)
(22)【出願日】2018年6月29日
(65)【公開番号】特開2020-596(P2020-596A)
(43)【公開日】2020年1月9日
【審査請求日】2020年10月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 毅
(72)【発明者】
【氏名】倉田 明佳
(72)【発明者】
【氏名】豊村 崇
【審査官】 高松 大
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−142087(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/122705(WO,A1)
【文献】 特表2010−520773(JP,A)
【文献】 VILLAR Rodrigo et al.,Vascular conductance and muscle blood flow during exercise are altered by inspired oxygen fraction and arterial perfusion pressure,Physiological Reports,2017年03月07日,Volume5, Issue5, e13144,pages1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/026
A61B 5/22
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の筋肉内の血流を解析する血流解析装置であって、
前記被検体の筋肉に対して光を照射する光照射部、
前記被検体から反射された前記光を検出する光検出器、
前記被検体の筋肉の動きを計測する動きセンサ、
前記光検出器が前記光を検出することにより取得した光検出信号を解析するとともに、前記動きセンサが前記被検体の動きを計測することにより取得した動き計測信号を解析する、解析部、
を備え、
前記解析部は、前記動き計測信号にしたがって、前記動きセンサが計測する箇所に存在する前記被検体の筋肉が筋負荷運動をしている筋負荷運動期間を特定し、
前記解析部は、前記筋負荷運動期間における前記光検出信号を解析することにより、前記筋負荷運動期間における前記被検体の筋肉内の血流変化の特徴量を算出し、
前記動きセンサは、前記被検体の筋肉の加速度または角速度のうち少なくともいずれかを計測するセンサであり、
前記解析部は、前記動きセンサが計測した前記被検体の筋肉の加速度または角速度のうち少なくともいずれかにしたがって、前記筋負荷運動期間を特定するとともに、前記被検体が前記筋負荷運動を終了して安静にしている回復期間を特定し、
前記解析部は、前記回復期間における前記被検体の筋肉内の血流量の変化率が所定閾値未満に達する時点、または前記回復期間における前記被検体の筋肉内の血流量が前記筋負荷運動期間の開始前における血流量まで戻る時点を特定することにより、前記回復期間が終了した時点を特定し、
前記解析部は、前記被検体が前記筋負荷運動をしている間における前記被検体の筋肉内の血流量と、前記回復期間が終了した時点における前記被検体の筋肉内の血流量との間の差分を、前記特徴量として算出する
ことを特徴とする血流解析装置。
【請求項2】
記血流解析装置は、筋肉の加速度または角速度の変化パターンと運動種別との間の対応関係を記述した運動モデルデータを格納する記憶装置を備え、
前記解析部は、前記動きセンサが計測した前記被検体の筋肉の加速度または角速度のうち少なくともいずれかと、前記運動モデルデータとを比較することにより、前記筋負荷運動の運動種別と繰り返し回数を推定する
ことを特徴とする請求項1記載の血流解析装置。
【請求項3】
記解析部は、前記筋負荷運動期間における前記特徴量を算出するとともに、前記回復期間における前記特徴量を算出する
ことを特徴とする請求項2記載の血流解析装置。
【請求項4】
前記解析部は、前記光検出信号にしたがって、前記被検体の筋肉内の血流量を算出し、 前記解析部は、前記被検体が前記筋負荷運動を開始する前における前記被検体の筋肉内の血流量と、前記被検体が前記筋負荷運動をしている間における前記被検体の筋肉内の血流量との間の差分を、前記特徴量として算出する
ことを特徴とする請求項1記載の血流解析装置。
【請求項5】
前記解析部は、前記筋負荷運動期間における前記被検体の筋肉内の血流量を平滑化することにより、前記筋負荷運動期間における前記被検体の筋肉内の血流量の時間経過に対する勾配を、前記特徴量として算出する
ことを特徴とする請求項1記載の血流解析装置。
【請求項6】
記解析部は、前記回復期間における前記被検体の筋肉内の血流量の変化率が所定閾値未満に達する時点、または前記回復期間における前記被検体の筋肉内の血流量が前記筋負荷運動期間の開始前における血流量まで戻る時点を特定することにより、前記回復期間が終了した時点を特定し、
前記解析部は、前記回復期間の時間長を、前記特徴量として算出する
ことを特徴とする請求項1記載の血流解析装置。
【請求項7】
記解析部は、前記動きセンサが計測した前記被検体の筋肉の加速度または角速度のうち少なくともいずれかにしたがって前記被検体が前記回復期間を途中で中断して運動を再開したか否かを判定し、
前記解析部は、前記被検体が前記回復期間を途中中断して運動を再開したと判定した場合は、前記被検体が前記回復期間に入ってから途中中断するまでにおける前記被検体の筋肉内の血流量の変化を前記途中中断以後の時刻において補間することにより、前記回復期間における前記被検体の筋肉内の血流量が前記筋負荷運動期間の開始前における血流量まで戻る時点を推定し、
前記解析部は、その推定した時点にしたがって、前記回復期間の時間長を前記特徴量として算出する
ことを特徴とする請求項1記載の血流解析装置。
【請求項8】
前記解析部は、前記動き計測信号にしたがって、前記筋負荷運動の運動種別と前記筋負荷運動の繰り返し回数を推定し、
前記解析部は、前記筋負荷運動の運動種別、前記筋負荷運動の繰り返し回数、および前記特徴量にしたがって、前記筋負荷運動の効果を表す効果指標を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の血流解析装置。
【請求項9】
記解析部は、前記筋負荷運動の運動種別、前記筋負荷運動の繰り返し回数、前記筋負荷運動期間における前記特徴量、および前記回復期間における前記特徴量を用いて、前記効果指標を算出する
ことを特徴とする請求項記載の血流解析装置。
【請求項10】
前記血流解析装置はさらに、前記筋負荷運動の運動種別、前記筋負荷運動の繰り返し回数、および前記特徴量の関数として、前記効果指標を算出する基準となる基準関数を記述した基準関数データを格納する記憶装置を備え、
前記解析部は、前記動き計測信号にしたがって算出した前記筋負荷運動の運動種別、前記動き計測信号にしたがって算出した前記筋負荷運動の繰り返し回数、および前記特徴量によって求められる関数値と、前記基準関数との間の差分にしたがって、前記効果指標を算出する
ことを特徴とする請求項記載の血流解析装置。
【請求項11】
前記血流解析装置はさらに、前記基準関数を修正する指示入力を受け取るインターフェースを備え、
前記解析部は、前記指示入力にしたがって前記基準関数を修正し、その修正後の前記基準関数を前記基準関数データとして前記記憶装置に格納する
ことを特徴とする請求項1記載の血流解析装置。
【請求項12】
前記血流解析装置は、前記光検出器として、第1検出器と第2検出器を備え、
前記第1検出器は、前記光照射部から第1距離だけ離れた位置に配置されており、
前記第2検出器は、前記光照射部から前記第1距離よりも長い第2距離だけ離れた位置に配置されており、
前記解析部は、前記第1検出器が検出した前記光検出信号と、前記第2検出器が検出した前記光検出信号との間の差分にしたがって、前記被検体の筋肉内の血流量を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の血流解析装置。
【請求項13】
被検体の筋肉内の血流を解析する処理をコンピュータに実行させる血流解析プログラムであって、前記コンピュータに、
前記被検体の筋肉に対して光を照射して前記被検体から反射された前記光を検出することにより得られる光検出信号を取得するステップ、
前記被検体の筋肉の動きを計測する動きセンサにより得られる動き計測信号を取得するステップ、
前記光検出信号と前記動き計測信号を解析する解析ステップ、
を実行させ、
前記解析ステップにおいては、前記コンピュータに、前記動き計測信号にしたがって、前記動きセンサが計測する箇所に存在する前記被検体の筋肉が筋負荷運動をしている筋負荷運動期間を特定するステップを実行させ、
前記解析ステップにおいては、前記コンピュータに、前記筋負荷運動期間における前記光検出信号を解析することにより、前記筋負荷運動期間における前記被検体の筋肉内の血流変化の特徴量を算出するステップを実行させ
前記動きセンサは、前記被検体の筋肉の加速度または角速度のうち少なくともいずれかを計測するセンサであり、
前記解析ステップにおいては、前記コンピュータに、前記動きセンサが計測した前記被検体の筋肉の加速度または角速度のうち少なくともいずれかにしたがって、前記筋負荷運動期間を特定するとともに、前記被検体が前記筋負荷運動を終了して安静にしている回復期間を特定するステップを実施させ、
前記解析ステップにおいては、前記コンピュータに、前記回復期間における前記被検体の筋肉内の血流量の変化率が所定閾値未満に達する時点、または前記回復期間における前記被検体の筋肉内の血流量が前記筋負荷運動期間の開始前における血流量まで戻る時点を特定することにより、前記回復期間が終了した時点を特定するステップを実施させ、
前記解析ステップにおいては、前記コンピュータに、前記被検体が前記筋負荷運動をしている間における前記被検体の筋肉内の血流量と、前記回復期間が終了した時点における前記被検体の筋肉内の血流量との間の差分を、前記特徴量として算出するステップを実施させる
ことを特徴とする血流解析プログラム。
【請求項14】
請求項1記載の血流解析プログラムを実行するコンピュータ、
前記コンピュータによる解析結果を集約して蓄積するサーバ、
を有することを特徴とする血流解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の筋肉内の血流を解析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人の血液中のヘモグロビンは、近赤外光を吸収する。したがって人の体内に近赤外光を照射すると、血流量の変化に応じて近赤外光の反射量が変化する。この性質を利用し、脳に対して外部から近赤外光を照射して、反射してくる近赤外光を計測し、受光量を分析することにより、非侵襲で脳活動や筋活動を計測することができる。このような計測装置は近赤外分光装置(NIRS)と呼ばれる。例えばフィットネスを目的として、筋力トレーニングなどの運動においてNIRSを活用することにより、運動効果を簡易的に測定することが期待される。
【0003】
下記特許文献1は、筋血液の酸素濃度を光学的に測定することにより、運動効果を測定する技術を開示している。同文献は、『トレーニング効果を向上させることに寄与する運動補助装置を提供する。』を課題として、『運動補助装置1は電気的な複数の要素により構成される制御装置30を備える。制御装置30は、筋肉に負荷が与えられる第1の状態と筋肉に負荷が与えられない第2の状態とが繰り返されるトレーニングの実施中に筋肉に酸素を供給する血液の酸素濃度が反映された測定信号を出力する測定部10から測定信号を取得する。そして、制御装置30は、第2の状態から第1の状態に移行する時期である運動再開時期を含む運動情報を測定信号に基づいて報知部22に出力させる。』という技術を開示している(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−214309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
運動時における筋肉内の血流変化に基づき、筋肉内の代謝活動等を把握するためには、運動前/運動中/運動後などの各時点における血流変化パターンを抽出し、その増減の特徴を分析することが必要である。しかしながら、従来はこれらの抽出を目視観察によって実施することが通常であり、そのための人的コストが課題であった。
【0006】
特許文献1記載の技術は、筋肉内の血液の酸素濃度を用いて、運動開始時点や運動終了時点などを推定している。しかし筋肉内の血液の酸素濃度は運動以外の要因によって変動する場合もあるので、被検者の状態によっては必ずしも運動開始時点や運動終了時点などの推定精度が高くない可能性がある。したがって同文献記載の技術は、従来と同様の課題が残存していると考えられる。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、被検者が筋負荷運動をすることにともなう筋肉内の血流変化を精度よく識別することができる血流解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る血流解析装置は、動きセンサが計測する箇所に存在する被検体の筋肉が筋負荷運動をしている筋負荷運動期間を特定し、前記筋負荷運動期間における光検出信号を解析することにより、前記筋負荷運動期間における前記被検体の筋肉内の血流変化の特徴量を算出する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る血流解析装置によれば、被検者が筋負荷運動をしている期間を正確に特定することができる。これにより、被検者の筋負荷運動にともなう筋肉内の血流変化を正確に識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1に係る血流解析システム10の構成図である。
図2】センサ300の構成を示す機能ブロック図である。
図3】加速度・角速度センサ305による計測対象を説明する図である。
図4】解析端末100の機能ブロック図である。
図5A】レッグプレス運動において加速度・角速度センサ305が計測する動き計測信号の例である。
図5B】スクワット運動において加速度・角速度センサ305が計測する動き計測信号の例である。
図6】解析プログラム111が被検者400の筋血流の特徴量を算出する手順を説明するフローチャートである。
図7】被検者400の筋肉内の血流の特徴量を例示するグラフである。
図8】ディスプレイ140が表示する運動効果指標の例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る血流解析システム10の構成図である。血流解析システム10は、被検者400が筋負荷運動をしているときにおける被検者400の当該筋肉内の血流変化を解析するシステムである。血流解析システム10は、解析端末100、解析サーバ200、センサ300を有する。
【0012】
センサ300は、被検者400の筋肉上に取り付けられている。センサ300は、被検者400の筋肉の動きを表す動き計測信号を取得するとともに、被検者400の筋肉内の血流変化を表す光計測信号を取得する。解析端末100は、センサ300から各計測信号を取得し、その計測信号を用いて、被検者400が筋負荷運動をしているときにおける筋肉内の血流変化を表す特徴量を算出する。解析サーバ200は、解析端末100から算出結果を収集し、複数の被検者400についての算出結果に基づき別の解析処理を実施することができる。例えば複数の被検者400の平均的な血流変化傾向を算出するなどが考えられる。
【0013】
図2は、センサ300の構成を示す機能ブロック図である。センサ300は、発光部301、受光部302aおよび302b、発光制御部303、AD変換器304aおよび304b、加速度・角速度センサ305、不揮発メモリ306、無線通信部307、プロセッサ308を備える。
【0014】
発光部301は、被検者400の皮膚401に接するように取り付けられ、被検者400の筋肉に対して近赤外光を照射する。受光部302aと302bは、被検者400の筋肉内から反射してきた近赤外光を受光し、その強度を表す光計測信号を出力する。受光部302aは、皮膚401上において、発光部301に対して受光部302bよりも近い位置に配置されている。したがって、受光部302aは比較的浅い位置から反射された近赤外光を多く受光し、受光部302bは比較的深い位置から反射された近赤外光を多く受光する。例えば受光部302aによる計測結果は脂肪402を通過した光成分を多く含み、受光部302bによる計測結果は筋肉403を通過した光成分を多く含む。
【0015】
加速度・角速度センサ305は、センサ300が取り付けられている部位の加速度と角速度を計測することにより、当該部位における筋肉の動きを計測し、その計測結果を表す動き計測信号を出力する。加速度・角速度センサ305は、例えばジャイロセンサを用いて構成することができる。加速度・角速度センサ305の具体的な構成例については後述する。
【0016】
発光制御部303は、発光部301を制御する。AD変換器304aと304bは、それぞれ受光部302aと302bが出力する計測信号をデジタル値に変換する。プロセッサ308は、加速度・角速度センサ305が取得した動き計測信号と受光部302aと302bが取得した光計測信号を収集し、解析端末100に対して送信する。不揮発メモリ306はプロセッサ308が用いるデータを格納する。無線通信部307は、プロセッサ308が収集した各計測信号を解析端末100に対して無線送信する通信インターフェースである。
【0017】
図3は、加速度・角速度センサ305による計測対象を説明する図である。加速度・角速度センサ305は、XYZ各軸における加速度を計測するとともに、XYZ各軸周りの回転を計測する。
【0018】
図4は、解析端末100の機能ブロック図である。解析端末100は、CPU(Central Processing Unit)110、RAM(Random Access Memory)120、ネットワークインターフェース130、ディスプレイ140、記憶装置150を備える。これらは通信線によって相互接続されている。解析端末100は、例えばスマートフォンなどのデバイスによって構成することができる。
【0019】
CPU110は、解析プログラム111と通信プログラム112を実行する。以下では記載の便宜上、これらプログラムを動作主体として説明する場合があるが、実際にこれらプログラムを実行するのはCPU110である。解析プログラム111と通信プログラム112は、例えば記憶装置150内に格納することができる。
【0020】
解析プログラム111は、加速度・角速度センサ305が取得した動き計測信号を用いて被検者400の筋負荷運動期間を特定するとともに、受光部302aと302bが取得した光計測信号を用いてその筋負荷運動期間における筋血流の特徴量を算出する。具体的手順は後述する。通信プログラム112は、ネットワークインターフェース130を介して外部装置(例えば解析サーバ200)と通信する。
【0021】
RAM120は、CPU110が使用するデータを一時的に保持する。ディスプレイ140は、CPU110による計算結果を画面表示する。例えば後述する運動効果指標を提示する画面インターフェースを表示することができる。
【0022】
記憶装置150は、加速度・角速度データ151、運動モデルデータ152、運動効果データ153、血流量データ154、期間データ155、特徴量データ156、運動種データ157を格納する。これらデータの詳細については、解析プログラム111の動作と併せて説明する。
【0023】
図5Aは、レッグプレス運動において加速度・角速度センサ305が計測する動き計測信号の例である。レッグプレス運動は、被検者400の大腿部の筋肉が弛緩する工程(a)と収縮する工程(b)の繰り返しによって構成される。センサ300を被検者400の大腿部の外側に装着した場合、図3で説明したY軸方向の加速度とZ軸周りの角速度は図5Aに例示するように経時変化する。
【0024】
図5Bは、スクワット運動において加速度・角速度センサ305が計測する動き計測信号の例である。スクワット運動は、被検者400の大腿部の筋肉が弛緩する工程(a)と収縮する工程(b)の繰り返しによって構成される。センサ300を被検者400の大腿部の外側に装着した場合、図3で説明したY軸方向の加速度とZ軸周りの角速度は図5Bに例示するように経時変化する。
【0025】
図5A図5Bに例示した加速度と角速度それぞれの経時変化パターンは、運動種別ごとにある程度類型化することができる。特に筋負荷運動のように被検者400の特定部位の筋肉に対して負荷をかける運動種別は、その傾向が強いといえる。運動モデルデータ152は、このような筋負荷運動の運動種別ごとの加速度と角速度の経時変化パターンを記述している。解析プログラム111は、センサ300から取得した動き計測信号と運動モデルデータ152を比較することにより、被検者400が実施している筋負荷運動の種別を推定することができる。
【0026】
図6は、解析プログラム111が被検者400の筋血流の特徴量を算出する手順を説明するフローチャートである。以下図6の各ステップについて説明する。
【0027】
図6:ステップS601)
被検者400が筋負荷運動をしている間、加速度・角速度センサ305は動き計測信号を取得する。通信プログラム112はその動き計測信号をセンサ300から取得して加速度・角速度データ151として格納する。解析プログラム111は、分析対象範囲内の動き計測信号を、加速度・角速度データ151から読み出す。分析対象範囲とは、例えば被検者400の筋血流を解析しようとしている年月日などのことである。
【0028】
図6:ステップS602)
解析プログラム111は、ステップS601において読み出した加速度・角速度データ151と運動モデルデータ152とを比較することにより、加速度・角速度データ151が記述している被検者400の運動種別と繰り返し回数を識別する。繰り返し回数は、例えば運動種別を認識することにより1回の繰り返し単位の動きパターンを抽出するとともに、その個数をカウントすることにより、識別することができる。解析プログラム111は、識別した運動種別と繰り返し回数を、運動種データ157として格納する。
【0029】
図6:ステップS603)
解析プログラム111は、ステップS601と同じ分析対象範囲内の血流量の経時変化を血流量データ154から読み出す。以後のステップの処理において、動き計測信号と光計測信号を同期させる必要がある。すなわち同じ時刻における両データを対応付ける必要がある。解析プログラム111は、例えば両データの時間スケールが異なっている場合は、これを揃えるための処理を適宜実施してもよい。
【0030】
図6:ステップS604)
解析プログラム111は、ステップS601において読み出した動き計測信号のなかから、被検者400が筋負荷運動をしている運動期間と、運動を中断して安静にしている回復期間とをそれぞれ検出する。運動期間は、例えば加速度と角速度それぞれの変化率が閾値を超えたか否かによって、開始時点と終了時点いずれも検出することができる。回復期間の開始時点は、運動期間の終了時点と同じとすればよい。回復期間の終了時点については後述のステップで説明する。解析プログラム111は、検出した各期間を特定するデータ(例えば各時刻)を期間データ155として格納する。
【0031】
図6:ステップS605)
解析プログラム111は、運動期間における血流変化の特徴量と、回復期間における血流変化の特徴量を、それぞれ算出する。これら特徴量の例については後述の図7を用いて改めて説明する。解析プログラム111は、算出した特徴量を特徴量データ156として格納する。
【0032】
図6:ステップS606)
解析プログラム111は、運動種/繰り返し回数/特徴量を用いて、被検者400が実施した筋負荷運動の効果を表す効果指標を算出する。例えば、運動種/繰り返し回数/特徴量の関数として構成された演算式に対してこれらの実測値を代入することにより、これらの実測値を効果指標に変換することが考えられる。さらには、例えば被検者400と同年代の別被検者についても同じ関数を用いて効果指標を算出してその平均値をあらかじめ記憶装置150内に格納しておき、本ステップにおいて算出した効果指標とその平均値とを比較することにより、相対的な効果指標を算出することもできる。例えば血流が落ち着くまでの時間が同年代平均よりも長くかかっている場合、被検者400にとってはそれだけ強度の高い運動をしたといえるので、運動効果は高かったということができる。
【0033】
図6:ステップS607)
解析プログラム111は、算出した効果指標をディスプレイ140上で被検者400に対して提示する。本ステップにおける画面表示例については後述の図9を用いて改めて説明する。
【0034】
図7は、被検者400の筋肉内の血流の特徴量を例示するグラフである。解析プログラム111は、図6のフローチャートを開始する前の適当な時点において、センサ300が計測する光検出信号にしたがって、被検者400の筋肉内の血流量を算出し、血流量データ154として格納することができる。解析プログラム111はステップS605において、図7に例示するΔ1、Δ2、α、tを、特徴量として求めることができる。以下各特徴量について説明する。
【0035】
Δ1は、被検者400が筋負荷運動を開始する前の筋血流量と、筋負荷運動をしている間における筋血流量との間の差分である。運動期間における筋血流量は経時変化しているので、例えば運動期間における筋血流量ピークと開始前の筋血流量との間の差分を、Δ1として求めることができる。あるいはこれに代えて、後述するαと開始前の筋血流量との間の差分を、Δ1として求めることができる。Δ1を求める時点は、運動期間における任意時点でよい。
【0036】
Δ2は、被検者400が筋負荷運動をしている間における筋血流量と、回復期間において血流が安定した時点における筋血流量との間の差分である。運動期間における筋血流量についてはΔ1と同様である。回復期間において血流が安定した時点は、例えば運動開始前における筋血流量まで戻った時点としてもよいし、回復期間において筋血流量の変化率が閾値未満になった時点としてもよい。
【0037】
αは、運動期間における筋血流量を平滑化した直線の傾きである。運動期間において被検者400がその運動に慣れてくると、筋血流量が若干安定する方向に変化する場合がある(その反対の場合もあり得る)。αは被検者400のそのような特性を間接的に表しているといえる。例えば運動期間における筋血流量の移動平均を、αとして求めることができる。その他適当な手法により筋血流量を平滑化してもよい。
【0038】
tは、回復期間の開始時点から血流が安定した時点までの時間長である。回復期間において血流が安定した時点は、上記のように求めることができる。tは被検者400がその筋負荷運動からどの程度の負荷を受けているかを間接的に表しているので、特徴量として適しているといえる。
【0039】
図8は、ディスプレイ140が表示する運動効果指標の例である。測定部位については例えば被検者400自身が解析端末100に対して入力することができる。運動内容は解析プログラム111が認識した運動種別である。運動効果と筋肉年齢は、解析プログラム111が算出した効果指標、または効果指標に基づきさらに算出した相対的効果指標などに相当する。解析プログラム111はさらに、効果指標にしたがって、被検者400に対してトレーニング上のアドバイスを提示することもできる。例えば被検者400の効果指標を同年代の効果指標の平均と比較し、その差分に応じて運動負荷を増減するように示唆するメッセージを提示することができる。図8は運動負荷が軽かった場合のアドバイスを例示した。
【0040】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る血流解析システム10は、加速度・角速度センサ305によって被検者400の運動期間と回復期間を特定し、その特定した期間における筋肉内の血流変化の特徴量を算出する。これにより、被検者400が筋負荷運動をしている期間をマニュアル作業によらず正確に特定した上で、筋負荷運動の効果を正確に算出することができる。
【0041】
本実施形態1に係る血流解析システム10は、加速度・角速度センサ305が取得した動き計測信号と運動モデルデータ152を比較することにより、被検者400が実施した筋負荷運動の運動種別と繰り返し回数を推定する。これにより、被検者400が筋負荷運動の種別を解析端末100に対して入力する手間を省くことができる。特に筋負荷運動は運動部位と動きパターンが比較的特定しやすいので、解析プログラム111による推定精度を高くすることができる。
【0042】
<実施の形態2>
本発明の実施形態2では、解析プログラム111が実施形態1に加えて実施することができるその他の処理例について説明する。血流解析システム10の構成は実施形態1と同様であるので、以下では主に追加処理例について説明する。
【0043】
被検者400は、回復期間に入った後、筋血流量が安定する前に、次の運動を開始する場合がある。この場合、図7で説明した回復時間tを特定することができない。解析プログラム111はこの場合、被検者400が回復期間に入ってから運動を再開するまでの間における筋血流量の変化にしたがって、tを推定してもよい。例えば回復期間の開始時点から運動再開時点までの筋血流量の勾配(または平均変化率)を算出し、その勾配にしたがって筋血流量の経時変化を線形補間することにより、tを推定することができる。例えば筋血流量が運動開始前のレベルまで戻ると想定される時刻をもって、回復期間の終了時点とみなせばよい。その他適当な補間演算によってtを推定してもよい。被検者400が回復期間の途中で運動を再開したか否かは、運動期間の開始時点と同じ手法により判別することができる。
【0044】
実施形態1においては、被検者400と同年代の効果指標の平均と被検者400自身の効果指標を比較することを説明した。これに代えて、被検者400自身の効果指標の経時変化を基準として、運動実施ごとの効果指標を算出することもできる。例えば解析プログラム111が効果指標を算出するごとにその結果を運動効果データ153として蓄積するとともにその平均値を算出しておき、被検者400が運動を実施するごとに、その運動の効果指標と被検者400自身の過去の効果指標の平均値とを比較することにより、相対的な効果指標を算出することができる。
【0045】
被検者400の同年代の平均的な効果指標などのような基準とする効果指標は、被検者400自身が設定することもできる。例えば被検者400自身が運動負荷の目標値を定めるような場合がこれに相当する。この場合は例えばディスプレイ140が提供する画面インターフェースにおいて、運動種/繰り返し回数/特徴量のうち少なくともいずれかを入力するとともに、比較基準とする効果指標を被検者400自らセットする。例えばレッグプレス運動/30回/回復期間1分であれば効果指標は100点とする、などのように基準値をセットすることができる。
【0046】
実施形態1においては、解析プログラム111が運動種別と繰り返し回数を推定することを説明したが、これに加えて被検者400が解析端末100に対して運動種別を指定してもよい。例えば図8で説明した画面インターフェースにおいて、運動内容とその回数の一方または両方を入力してもよい。解析プログラム111はその入力にしたがって推定結果を訂正してもよいし、運動前に運動種別のみ入力した上で繰り返し回数のみ推定してもよい。
【0047】
<本発明の変形例について>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0048】
被検者400の血流変化の特徴量を算出する処理は、解析サーバ200が実施してもよい。この場合、解析端末100はセンサ300から計測信号を収集する役割を有することになる。さらに解析端末100と解析サーバ200との間で演算処理を分担することもできる。
【0049】
以上の実施形態においては、センサ300が加速度・角速度センサ305を備える例を説明したが、被検者400が実施する筋負荷運動の種別によっては、加速度センサと角速度センサのいずれか一方のみを用いてもよい。例えばセンサ300を取り付ける部位と筋肉の角速度のみを用いて運動種別を特定できるような場合は、角速度センサのみを用いることができる。
【0050】
以上の実施形態においては、特徴量の例として図7の4つを例示したが、その他パラメータを特徴量として用いることもできる。例えば運動期間の時間長はその候補の1つとして挙げることができる。
【符号の説明】
【0051】
10:血流解析システム
100:解析端末
110:CPU
111:解析プログラム
151:加速度・角速度データ
152:運動モデルデータ
153:運動効果データ
154:血流量データ
155:期間データ
156:特徴量データ
157:運動種データ
200:解析サーバ
300:センサ
301:発光部
302a〜302b:受光部
305:加速度・角速度センサ
400:被検者
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8