(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エッチング対象膜が形成された被処理体を第1の処理ガスの露点以下の温度まで冷却しながら、前記第1の処理ガスに基づく吸着物を前記エッチング対象膜に物理吸着させる物理吸着工程と、
前記吸着物と前記エッチング対象膜とを第2の処理ガスのプラズマにより反応させることにより、前記エッチング対象膜をエッチングするエッチング工程と
を含むことを特徴とするプラズマエッチング方法。
エッチング対象膜が形成された被処理体を第1の処理ガスの昇華点以下の温度まで冷却しながら、前記第1の処理ガスに基づくパッシベーション膜を吸着物として前記エッチング対象膜に物理吸着させる物理吸着工程と、
前記吸着物と前記エッチング対象膜とを第2の処理ガスのプラズマにより反応させることにより、前記エッチング対象膜をエッチングするエッチング工程と
を含むことを特徴とするプラズマエッチング方法。
エッチング対象膜が形成された被処理体を冷却しながら、前記エッチング対象膜が第1の処理ガスに対して化学反応性を有さないように前記第1の処理ガスに基づく吸着物を前記エッチング対象膜に物理吸着させる物理吸着工程と、
前記吸着物と前記エッチング対象膜とを第2の処理ガスのプラズマにより反応させることにより、前記エッチング対象膜をエッチングするエッチング工程と
を含むことを特徴とするプラズマエッチング方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0011】
[プラズマエッチング装置の構成]
まず、一実施形態に係るプラズマエッチング装置について、
図1に基づき説明する。
図1は、一実施形態に係るプラズマエッチング装置10の断面の一例を概略的に示す図である。
図1に示すプラズマエッチング装置10は、容量結合型プラズマエッチング装置である。
【0012】
プラズマエッチング装置10は、チャンバ本体12を備えている。チャンバ本体12は、略円筒形状を有する。チャンバ本体12は、その内部空間をチャンバ12cとして提供している。チャンバ本体12の内壁面には、耐プラズマ性を有する被膜が形成されている。この被膜は、アルマイト膜、又は、酸化イットリウムから形成された膜であり得る。チャンバ本体12は、接地されている。チャンバ本体12の側壁には、開口12gが形成されている。チャンバ本体12の外部からチャンバ12cへのウェハWの搬入時、及び、チャンバ12cからチャンバ本体12の外部へのウェハWの搬出時に、ウェハWは開口12gを通過する。チャンバ本体12の側壁には、開口12gの開閉のために、ゲートバルブ14が取り付けられている。
【0013】
チャンバ本体12の底部上には、支持部15が設けられている。支持部15は、略円筒形状を有している。支持部15は、例えば、絶縁材料から構成されている。支持部15は、チャンバ12c内において、チャンバ本体12の底部から上方に延在している。チャンバ12c内には、ステージ16が設けられている。ステージ16は、支持部15によって支持されている。
【0014】
ステージ16は、その上に載置されたウェハWを保持するように構成されている。ステージ16は、下部電極18及び静電チャック20を有している。下部電極18は、第1プレート18a及び第2プレート18bを含んでいる。第1プレート18a及び第2プレート18bは、例えばアルミニウムといった金属から構成されており、略円盤形状を有している。第2プレート18bは、第1プレート18a上に設けられており、第1プレート18aに電気的に接続されている。
【0015】
静電チャック20は、第2プレート18b上に設けられている。静電チャック20は、絶縁層、及び、当該絶縁層内に設けられた膜状の電極を有している。静電チャック20の電極には、直流電源22がスイッチ23を介して電気的に接続されている。静電チャック20の電極には、直流電源22から直流電圧が印加される。静電チャック20の電極に直流電圧が印加されると、静電チャック20は、静電引力を発生して、ウェハWを当該静電チャック20に引き付けて、当該ウェハWを保持する。なお、静電チャック20内には、ヒータが内蔵されていてもよく、当該ヒータには、チャンバ本体12の外部に設けられたヒータ電源が接続されていてもよい。
【0016】
第2プレート18bの周縁部上には、フォーカスリング24が設けられる。フォーカスリング24は、略環状の板である。フォーカスリング24は、ウェハWのエッジ及び静電チャック20を囲むように配置される。フォーカスリング24は、エッチングの均一性を向上させるために設けられている。フォーカスリング24は、例えば、シリコン、石英といった材料から形成され得る。
【0017】
第2プレート18bの内部には、流路18fが設けられている。流路18fには、チャンバ本体12の外部に設けられているチラーユニットから、配管26aを介して冷媒が供給される。流路18fに供給された冷媒は、配管26bを介してチラーユニットに戻される。即ち、流路18fとチラーユニットとの間では、冷媒が循環される。この冷媒の温度を制御することにより、ステージ16(又は静電チャック20)の温度及びウェハWの温度が調整される。なお、冷媒としては、例えばガルデン(登録商標)が例示される。
【0018】
プラズマエッチング装置10には、ガス供給ライン28が設けられている。ガス供給ライン28は、伝熱ガス供給機構からの伝熱ガス、例えばHeガスを、静電チャック20の上面とウェハWの裏面との間に供給する。
【0019】
プラズマエッチング装置10は、上部電極30を更に備えている。上部電極30は、ステージ16の上方に設けられている。上部電極30は、部材32を介して、チャンバ本体12の上部に支持されている。上部電極30は、電極板34及び支持体36を含み得る。電極板34の下面は、チャンバ12cに面している。電極板34には、複数のガス吐出孔34aが設けられている。この電極板34は、シリコン又は酸化シリコンといった材料から形成され得る。
【0020】
支持体36は、電極板34を着脱自在に支持するものであり、アルミニウムといった導電性材料から形成されている。支持体36の内部には、ガス拡散室36aが設けられている。ガス拡散室36aからは、ガス吐出孔34aに連通する複数のガス通流孔36bが下方に延びている。支持体36には、ガス拡散室36aにガスを導くガス導入口36cが形成されている。ガス導入口36cには、ガス供給管38が接続されている。
【0021】
ガス供給管38には、バルブ群42及び流量制御器群44を介して、ガスソース群40が接続されている。ガスソース群40は、複数のガスソースを含んでいる。複数のガスソースは、少なくとも、第1の処理ガスのガスソースと、第2の処理ガスのガスソースとを含んでいる。第1の処理ガスは、ウェハWのエッチング対象膜に物理吸着されるガスである。第2の処理ガスは、エッチング対象膜のエッチングに用いられるガスである。なお、複数のガスソースは、第1の処理ガス及び第2の処理ガス以外のガスのソースを含んでいてもよい。
【0022】
バルブ群42は複数のバルブを含んでおり、流量制御器群44はマスフローコントローラ又は圧力制御式の流量制御器といった複数の流量制御器を含んでいる。ガスソース群40の複数のガスソースはそれぞれ、バルブ群42の対応のバルブ及び流量制御器群44の対応の流量制御器を介して、ガス供給管38に接続されている。
【0023】
支持部15とチャンバ本体12の側壁との間にはバッフル部材48が設けられている。バッフル部材48は、例えば、板状の部材であり、アルミニウム製の母材の表面にY2O3等のセラミックスを被覆することにより形成され得る。バッフル部材48には、当該バッフル部材48を貫通する複数の孔が形成されている。バッフル部材48の下方において、チャンバ本体12の底部には、排気管52を介して排気装置50が接続されている。排気装置50は、圧力調整弁といった圧力制御器、及び、ターボ分子ポンプといった真空ポンプを有しており、チャンバ12cを所望の圧力に減圧することができる。
【0024】
プラズマエッチング装置10は、第1の高周波電源62及び第2の高周波電源64を更に備えている。第1の高周波電源62は、プラズマ生成用の第1の高周波電力(高周波電気エネルギー)を発生する電源である。第1の高周波電力は、例えば27〜100MHzの範囲内の周波数を有する。第1の高周波電源62は、整合器63を介して上部電極30に接続されている。整合器63は、第1の高周波電源62の出力インピーダンスと負荷側(上部電極30側)のインピーダンスを整合させるための回路を有している。なお、第1の高周波電源62は、整合器63を介して下部電極18に接続されていてもよい。
【0025】
第2の高周波電源64は、ウェハWにイオンを引き込むための第2の高周波電力(高周波電気エネルギー)を発生する電源である。第2の高周波電力は、例えば400kHz〜13.56MHzの範囲内の周波数を有する。第2の高周波電源64は、整合器65を介して下部電極18に接続されている。整合器65は、第2の高周波電源64の出力インピーダンスと負荷側(下部電極18側)のインピーダンスを整合させるための回路を有している。
【0026】
プラズマエッチング装置10は、制御部70によって、その動作が統括的に制御される。この制御部70には、CPUを備えプラズマエッチング装置の各部を制御するプロセスコントローラ71と、ユーザインターフェース72と、記憶部73とが設けられている。
【0027】
ユーザインターフェース72は、工程管理者がプラズマエッチング装置を管理するためにコマンドの入力操作を行うキーボードや、プラズマエッチング装置の稼動状況を可視化して表示するディスプレイ等から構成されている。
【0028】
記憶部73には、プラズマエッチング装置で実行される各種処理をプロセスコントローラ71の制御にて実現するための制御プログラム(ソフトウエア)や処理条件データ等が記憶されたレシピが格納されている。そして、必要に応じて、ユーザインターフェース72からの指示等にて任意のレシピを記憶部73から呼び出してプロセスコントローラ71に実行させることで、プロセスコントローラ71の制御下で、プラズマエッチング装置での所望の処理が行われる。また、制御プログラムや処理条件データ等のレシピは、コンピュータで読み取り可能なコンピュータ記録媒体(例えば、ハードディスク、CD、フレキシブルディスク、半導体メモリ等)などに格納された状態のものを利用したり、或いは、他の装置から、例えば専用回線を介して随時伝送させてオンラインで利用したりすることも可能である。
【0029】
例えば、制御部70は、後述するプラズマエッチング方法を実行するようにプラズマエッチング装置10の各部を制御する。詳細な一例を挙げると、制御部70は、エッチング対象膜が形成された被処理体を冷却しながら、第1の処理ガスに基づく吸着物をエッチング対象膜に物理吸着させる物理吸着工程を実行する。そして、制御部70は、吸着物とエッチング対象膜とを第2の処理ガスのプラズマにより反応させることにより、エッチング対象膜をエッチングするエッチング工程を実行する。ここで、被処理体は、例えば、ウェハWである。また、物理吸着工程とエッチング工程とは、複数回交互に繰り返されても良い。
【0030】
[ウェハWの構成]
図2は、ウェハWの構造の一例を示す図である。ウェハWは、例えば
図2に示すように、基板201上に、シリコン膜202、シリコン酸化膜203及びシリコン窒化膜204を有する。シリコン膜202、シリコン酸化膜203及びシリコン窒化膜204は、互いに隣接して配置されている。このうち、シリコン膜202又はシリコン酸化膜203は、エッチング対象膜の一例である。
【0031】
[プラズマエッチング方法]
次に、プラズマエッチング装置10によるプラズマエッチング方法の処理の流れの一例について説明する。
図3は、一実施形態に係るプラズマエッチング方法の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図4は、
図3に示した各工程の実行後のウェハWの断面の一例を示す図である。以下の説明において、プラズマエッチング装置10は、
図2に示したウェハWに対して、一連の処理を実行するものとする。
【0032】
本実施形態に係るプラズマエッチング方法では、まず、被処理体となるウェハWがチャンバ12c内に搬入されてステージ16上に載置される。この段階では、ウェハWの断面は、例えば、
図4の(a)に示す状態である。
【0033】
続いて、プラズマエッチング装置10は、工程の繰り返し回数をカウントするための変数m、及び、工程の繰り返し回数の上限値を示す変数m0について、設定値を設定する。プラズマエッチング装置10は、例えば、変数mに「1」を設定し、変数m0に例えば「10」を設定する(ステップS101)。なお、変数m0に設定される設定値は、任意の値である。変数m0に設定される設定値が例えば「1」である場合、物理吸着工程とエッチング工程とが1回ずつ行われ、工程の繰り返しは行われない。
【0034】
続いて、プラズマエッチング装置10は、ウェハWを第1の処理ガスの露点以下の温度まで冷却しながら、第1の処理ガスに基づく吸着物をエッチング対象膜に物理吸着させる物理吸着工程を実行する(ステップS102)。エッチング対象膜は、例えば、ウェハWにおけるシリコン酸化膜203である。第1の処理ガスは、例えば、CF系ガスを含む。CF系ガスは、例えば、C4F8又はC5F8である。第1の処理ガスに基づく吸着物とエッチング対象膜とは、例えば、ファンデルワールス力によって互いに物理吸着されると考えられる。ファンデルワールス力は、分子間又は原子間に作用する引力であり、分子又は原子の温度が低くなるほど、影響力が増大する。このため、エッチング対象膜が第1の処理ガスに対する化学反応性を有さない場合であっても、ウェハWが第1の処理ガスの露点以下の温度まで冷却される場合、第1の処理ガスが、ファンデルワールス力によってエッチング対象膜に物理吸着される。
【0035】
より詳細な一例を挙げて説明する。プラズマエッチング装置10の制御部70は、ステージ16の流路18f内を循環する冷媒の温度を制御して、ウェハWを第1の処理ガスであるC4F8の露点以下の温度(以下適宜「極低温(Cryogenic temperature)」と呼ぶ)まで冷却する。そして、制御部70は、ウェハWが極低温に維持された状態で、ガスソース群40からチャンバ12c内に第1の処理ガスとしてC4F8を供給する。その結果、C4F8に基づく吸着物がファンデルワールス力によって原子層単位でエッチング対象膜に物理吸着される。
【0036】
ステップS102に示した物理吸着工程の実行後のウェハWの断面は、例えば
図4の(b)に示す状態となる。すなわち、ウェハWが極低温まで冷却された状態で、C4F8がチャンバ12c内に供給されることにより、C4F8に基づく吸着物205がエッチング対象膜であるシリコン酸化膜203上に物理吸着される。なお、ウェハW全体が極低温まで冷却されているので、C4F8に基づく吸着物205は、シリコン酸化膜203上だけでなくシリコン膜202及びシリコン窒化膜204上にも物理吸着される。
【0037】
続いて、プラズマエッチング装置10は、吸着物とエッチング対象膜とを第2の処理ガスのプラズマにより反応させることにより、エッチング対象膜をエッチングするエッチング工程を実行する(ステップS103)。第2の処理ガスは、例えば、希ガスを含む。希ガスは、例えば、Arである。
【0038】
より詳細な一例を挙げて説明する。プラズマエッチング装置10の制御部70は、ウェハWが極低温まで冷却された状態で、ガスソース群40からチャンバ12c内に第2の処理ガスとしてArを供給し、C4F8をArに置換し、第1の高周波電源62からプラズマ生成用の第1の高周波電力を印加してArのプラズマを生成する。この際、制御部70は、第2の高周波電源64からイオン引き込み用の第2の高周波電力を印加しても良い。Arのプラズマが生成されることにより、エッチング対象膜上の吸着物に対するイオン(つまり、Arイオン)の衝突が促進され、吸着物とエッチング対象膜との反応が引き起こされる。その結果、吸着物の厚さに応じてエッチング対象膜が原子層単位でエッチングされる。
【0039】
ステップS103に示したエッチング工程の実行後のウェハWの断面は、例えば
図4の(c)に示す状態となる。すなわち、エッチング対象膜であるシリコン酸化膜203上の吸着物205とシリコン酸化膜203との反応が引き起こされることにより、吸着物205の厚さに応じた厚さだけ、シリコン酸化膜203が選択的にエッチングされる。一方、エッチング対象ではないシリコン膜202及びシリコン窒化膜204と吸着物205との反応も引き起こされる。しかしながら、C4F8に基づく吸着物205に由来する炭素含有物206,207がそれぞれシリコン膜202及びシリコン窒化膜204上に形成されるため、シリコン膜202及びシリコン窒化膜204のエッチングは、抑制される。
【0040】
すなわち、ステップS103に示したエッチング工程において、以下の反応が引き起こされる。
SiO2 + CxFy → SiF4(Gas) + CO or CO2(Gas)
Si3N4 + CxFy → SiF4(Gas) + NF3(Gas) + C or CN(Solid)
Si + CxFy → SiF4(Gas) + 2C(Solid)
【0041】
続いて、プラズマエッチング装置10は、物理吸着工程とエッチング工程とを予め設定された回数だけ繰り返したか否か、つまり、変数mが変数m0以上であるか否かを判定する(ステップS104)。プラズマエッチング装置10は、変数mが変数m0未満である場合(ステップS104No)、変数mを1増加させ(ステップS105)、処理をステップS102に戻して物理吸着工程とエッチング工程とを繰り返す。一方、プラズマエッチング装置10は、変数mが変数m0以上である場合には(ステップS104Yes)、処理を終了する。
【0042】
なお、
図3に示した処理手順は、上記の処理手順に限定されるものではなく、処理内容を矛盾させない範囲で適宜変更しても良い。例えば、制御部70は、物理吸着工程とエッチング工程との間に、エッチング対象膜に物理吸着された吸着物の一部を蒸発又は昇華させることにより、吸着物の厚さを調整する調整工程を実行しても良い。
【0043】
次に、一実施形態に係るプラズマエッチング方法についてさらに詳細に説明する。
図5は、一実施形態に係るプラズマエッチング方法における各条件のタイムチャートを示す図である。ここでは、プラズマエッチング装置10の制御部70が、
図2に示したウェハWに対して、物理吸着工程、調整工程及びエッチング工程を順に繰り返し実行する場合を例に説明する。制御部70は、物理吸着工程、調整工程及びエッチング工程を順に実行する際、
図5のタイムチャートに従って、C4F8の供給、Arの供給、第1の高周波電力の供給、及び第2の高周波電力の供給の各タイミングを制御する。
【0044】
制御部70は、まず、ウェハWをC4F8の露点以下の温度(つまり、「極低温」)まで冷却しながら、C4F8に基づく吸着物205をシリコン酸化膜203に物理吸着させる物理吸着工程を実行する。具体的には、制御部70は、ウェハWが極低温に維持された状態で、
図5に示すように、時刻「t0」〜時刻「t1」の期間において、C4F8を供給する。これにより、C4F8に基づく吸着物205がシリコン酸化膜203上に物理吸着される。時刻「t0」〜時刻「t1」の期間は、例えば、2sec程度とすることができる。
【0045】
続いて、制御部70は、シリコン酸化膜203に吸着物として物理吸着された吸着物205の一部を蒸発あるいは昇華させることにより、吸着物205の厚さを調整する調整工程を実行する。具体的には、制御部70は、
図5に示すように、時刻「t1」において、C4F8の供給を停止するとともに、Arの供給を開始する。これにより、時刻「t1」〜時刻「t2」の期間において、C4F8がArによって置換されてC4F8の分圧が減少する。C4F8の分圧が減少すると、シリコン酸化膜203に物理吸着された、C4F8に基づく吸着物205の一部が気化する。結果として、C4F8に基づく吸着物205の厚さが所定の厚さ(例えば、1原子層に対応する厚さ)に調整される。時刻「t1」〜時刻「t2」の期間は、例えば、10sec程度とすることができる。
【0046】
続いて、制御部70は、吸着物として物理吸着された吸着物205とシリコン酸化膜203とをArのプラズマにより反応させることにより、シリコン酸化膜203をエッチングするエッチング工程を実行する。具体的には、制御部70は、
図5に示すように、ウェハWの冷却及びArの供給を続けたまま、時刻「t2」〜時刻「t4」の期間において、第1の高周波電力を印加してArのプラズマを生成する。さらに、制御部70は、時刻「t3」〜時刻「t4」の期間において、第2の高周波電力を印加してウェハWへプラズマ中のイオンを引き込む。Arのプラズマが生成されることにより、シリコン酸化膜203上の吸着物205に対するイオン(つまり、Arイオン)の衝突が促進され、C4F8に基づく吸着物205とシリコン酸化膜203との反応が引き起こされる。その結果、C4F8に基づく吸着物205の厚さに応じてエッチング対象膜が原子層単位でエッチングされる。時刻「t2」〜時刻「t4」の期間は、例えば、25sec程度とすることができ、時刻「t3」〜時刻「t4」の期間は、例えば、20sec程度とすることができる。
【0047】
その後、制御部70は、物理吸着工程、調整工程及びエッチング工程を順に複数回繰り返し実行する。
【0048】
ここで、ウェハWの温度とシリコン酸化膜203のエッチング量との関係について、
図6A〜
図6Cを参照しながら、説明する。
図6Aは、ウェハWが−50℃まで冷却された状態で物理吸着工程、調整工程及びエッチング工程を順に4サイクル繰り返し実行した場合のシリコン酸化膜203のエッチング量の測定結果を示す図である。
図6Bは、ウェハWが−110℃まで冷却された状態で物理吸着工程、調整工程及びエッチング工程を順に4サイクル繰り返し実行した場合のシリコン酸化膜203のエッチング量の測定結果を示す図である。
図6Cは、ウェハWが−120℃まで冷却された状態で物理吸着工程、調整工程及びエッチング工程を順に4サイクル繰り返し実行した場合のシリコン酸化膜203のエッチング量の測定結果を示す図である。なお、
図6A〜
図6Cにおいて、「reference」は、シリコン酸化膜203の厚さの初期値を示し、「ALE 4 cycles」は、各工程を順に4サイクル繰り返し実行した場合のシリコン酸化膜203の厚さを示す。
【0049】
図6Aに示すように、ウェハWの温度がC4F8の露点より高い−50℃である場合、シリコン酸化膜203のエッチング量は、0.2nmであった。このエッチング量は、予め定められた許容スペック量を満たすものではなかった。
【0050】
また、
図6Bに示すように、ウェハWの温度がC4F8の露点より高い−110℃である場合、シリコン酸化膜203のエッチング量は、0.1nmであった。このエッチング量は、予め定められた許容スペック量をみたすものではなかった。
【0051】
これに対して、
図6Cに示すように、ウェハWの温度がC4F8の露点より低い−120℃である場合、シリコン酸化膜203のエッチング量は、1.5nmであった。このエッチング量は、予め定められた許容スペックを満たすものであった。
【0052】
ここで、ウェハWが−120℃まで冷却された状態で物理吸着工程、調整工程及びエッチング工程を順に複数サイクル繰り返し実行した場合のシリコン酸化膜203のエッチング量の変化について、
図10を参照しながら、説明する。
図10は、ウェハWが−120℃まで冷却された状態で物理吸着工程、調整工程及びエッチング工程を順に複数サイクル繰り返し実行した場合のシリコン酸化膜203のエッチング量の変化の測定結果を示す図である。
図10(A)には、シリコン酸化膜203のエッチング量の変化を示したグラフが示されている。
図10(B)には、
図10(A)のグラフのうち、4サイクル目に相当する部分を拡大したグラフが示されている。
【0053】
図10(A)に示すように、ウェハWの温度がC4F8の露点より低い−120℃である場合、各サイクルにおいて、シリコン酸化膜203のエッチング量は、一定の変化幅で増加し、飽和した。すなわち、ウェハWの温度がC4F8の露点より低い−120℃である場合、自己制御的なエッチングが実現されることが確認された。
【0054】
また、
図10(B)に示すように、1サイクル当たりのシリコン酸化膜203のエッチング量は、0.4nmであった。シリコン酸化膜203においてSi−O結合の原子間距離は、例えば、1.6〜1.7Åであるため、0.4nmは、おおよそ2つの原子層に相当する。すなわち、ウェハWの温度がC4F8の露点より低い−120℃である場合、シリコン酸化膜203を原子層単位でエッチングすることができることが確認された。
【0055】
次に、プラズマエッチング装置10によるプラズマエッチング方法の処理の流れの他の一例について説明する。
図7は、一実施形態に係るプラズマエッチング方法の処理の流れの他の一例を示すフローチャートである。
図8は、
図7に示した各工程の実行後のウェハWの断面の一例を示す図である。以下の説明において、プラズマエッチング装置10は、
図2に示したウェハWに対して、一連の処理を実行するものとする。
【0056】
本実施形態に係るプラズマエッチング方法では、まず、被処理体となるウェハWがチャンバ12c内に搬入されてステージ16上に載置される。この段階では、ウェハWの断面は、例えば、
図8の(a)に示す状態である。
【0057】
続いて、プラズマエッチング装置10は、工程の繰り返し回数をカウントするための変数m、及び、工程の繰り返し回数の上限値を示す変数m0について、設定値を設定する。プラズマエッチング装置10は、例えば、変数mに「1」を設定し、変数m0に例えば「10」を設定する(ステップS111)。なお、変数m0に設定される設定値は、任意の値である。変数m0に設定される設定値が例えば「1」である場合、物理吸着工程とエッチング工程とが1回ずつ行われ、工程の繰り返しは行われない。
【0058】
続いて、プラズマエッチング装置10は、ウェハWを第1の処理ガスの昇華点以下の温度まで冷却しながら、第1の処理ガスに基づくパッシベーション膜を吸着物としてエッチング対象膜に物理吸着させる物理吸着工程を実行する(ステップS112)。エッチング対象膜は、例えば、ウェハWにおけるシリコン膜202である。第1の処理ガスは、例えば、ハロゲン及び酸素を含むガスを含む。ハロゲン及び酸素を含むガスは、例えば、SiF4/O2又はSi2F6/O2である。第1の処理ガスに基づくパッシベーション膜とエッチング対象膜とは、例えば、ファンデルワールス力によって互いに物理吸着されると考えられる。ファンデルワールス力は、分子間又は原子間に作用する引力であり、分子又は原子の温度が低くなるほど、増大する。このため、エッチング対象膜が第1の処理ガスに対する化学反応性を有さない場合であっても、ウェハWが第1の処理ガスの昇華点以下の温度まで冷却される場合、第1の処理ガスに基づくパッシベーション膜が、ファンデルワールス力によってエッチング対象膜に物理吸着される。
【0059】
より詳細な一例を挙げて説明する。プラズマエッチング装置10の制御部70は、ステージ16の流路18f内を循環する冷媒の温度を制御して、ウェハWを第1の処理ガスであるSiF4/O2の昇華点以下の温度(以下適宜「極低温(Cryogenic temperature)」と呼ぶ)まで冷却する。そして、制御部70は、ウェハWが極低温に維持された状態で、ガスソース群40からチャンバ12c内に第1の処理ガスとしてSiF4/O2を供給し、第1の高周波電源62からプラズマ生成用の第1の高周波電力を印加してSiF4/O2のプラズマを生成する。この際、制御部70は、第2の高周波電源64からイオン引き込み用の第2の高周波電力を印加しても良い。その結果、SiF4/O2に基づくパッシベーション膜である酸化被膜がファンデルワールス力によって原子層単位でエッチング対象膜に物理吸着される。
【0060】
ステップS112に示した物理吸着工程の実行後のウェハWの断面は、例えば
図8の(b)に示す状態となる。すなわち、ウェハWが極低温まで冷却された状態で、SiF4/O2のプラズマが生成されることにより、SiF4/O2に基づくパッシベーション膜である酸化被膜215がエッチング対象膜であるシリコン膜202上に物理吸着される。なお、ウェハW全体が極低温まで冷却されているので、SiF4/O2に基づく酸化被膜215は、シリコン膜202上だけでなくシリコン酸化膜203及びシリコン窒化膜204上にも物理吸着される。
【0061】
続いて、プラズマエッチング装置10は、吸着物とエッチング対象膜とを第2の処理ガスのプラズマにより反応させることにより、エッチング対象膜をエッチングするエッチング工程を実行する(ステップS113)。第2の処理ガスは、例えば、希ガスを含む。希ガスは、例えば、Arである。
【0062】
より詳細な一例を挙げて説明する。プラズマエッチング装置10の制御部70は、ガスソース群40からチャンバ12c内に第2の処理ガスとしてArを供給し、SiF4/O2をArに置換し、第1の高周波電源62からプラズマ生成用の第1の高周波電力を印加してArのプラズマを生成する。この際、制御部70は、第2の高周波電源64からイオン引き込み用の第2の高周波電力を印加しても良い。Arのプラズマが生成されることにより、エッチング対象膜上の吸着物に対するイオン(つまり、Arイオン)の衝突が促進され、吸着物とエッチング対象膜との反応が引き起こされる。その結果、吸着物の厚さに応じてエッチング対象膜が原子層単位でエッチングされる。
【0063】
ステップS113に示したエッチング工程の実行後のウェハWの断面は、例えば
図8の(c)に示す状態となる。すなわち、エッチング対象膜であるシリコン膜202上の酸化被膜215とシリコン膜202との反応が引き起こされることにより、酸化被膜215の厚さに応じた厚さだけ、シリコン膜202が選択的にエッチングされる。一方、エッチング対象ではないシリコン酸化膜203及びシリコン窒化膜204は、シリコン膜202よりも結合解離エネルギーが大きいため、シリコン酸化膜203及びシリコン窒化膜204と酸化被膜215との反応は、抑制される。このため、シリコン酸化膜203及びシリコン窒化膜204のエッチングは、抑制される。
【0064】
続いて、プラズマエッチング装置10は、物理吸着工程とエッチング工程とを予め設定された回数だけ繰り返したか否か、つまり、変数mが変数m0以上であるか否かを判定する(ステップS114)。プラズマエッチング装置10は、変数mが変数m0未満である場合(ステップS114No)、変数mを1増加させ(ステップS115)、処理をステップS112に戻して物理吸着工程とエッチング工程とを繰り返す。一方、プラズマエッチング装置10は、変数mが変数m0以上である場合には(ステップS114Yes)、処理を終了する。
【0065】
なお、
図7に示した処理手順は、上記の処理手順に限定されるものではなく、処理内容を矛盾させない範囲で適宜変更しても良い。例えば、制御部70は、物理吸着工程とエッチング工程との間に、エッチング対象膜に物理吸着された吸着物の一部を蒸発又は昇華させることにより、吸着物の厚さを調整する調整工程を実行しても良い。
【0066】
図9は、物理吸着工程において冷却されたウェハWの温度と、シリコン膜202、シリコン酸化膜203及びシリコン窒化膜204の各エッチング量との関係の一例を示す図である。
図9において、「Temperature(℃)」は、物理吸着工程において冷却されたウェハWの温度(℃)を示す。また、
図9において、「a−Si(nm)」は、シリコン膜202のエッチング量(nm)を示し、「SiO2(nm)」は、シリコン酸化膜203のエッチング量(nm)を示し、「SiN(nm)」は、シリコン窒化膜204のエッチング量(nm)を示す。
【0067】
図9に示すように、ウェハWが−50℃まで冷却された場合に、シリコン膜202のエッチング量が51.612(nm)まで増加した。一方、シリコン酸化膜203及びシリコン窒化膜204のエッチング量は、シリコン膜202のエッチング量と比較して、小さかった。これは、シリコン酸化膜203及びシリコン窒化膜204は、シリコン膜202よりも結合解離エネルギーが大きいためであると考えられる。
【0068】
以上、本実施形態によれば、エッチング対象膜が形成された被処理体を冷却しながら、第1の処理ガスに基づく吸着物をエッチング対象膜に物理吸着させ、吸着物とエッチング対象膜とを第2の処理ガスのプラズマにより反応させて、エッチング対象膜をエッチングする。このため、選択可能なエッチング対象膜が、第1の処理ガスに対する化学反応性を有する物質に制限されず、且つ、吸着物の厚さに応じてエッチング対象膜のエッチング量を原子層単位で容易に制御することができる。この結果、選択可能なエッチング対象膜の制限を受けることなく、自己制御的なエッチングを実現することができる。