(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976422
(24)【登録日】2021年11月11日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】二次電池用固体電解質組成物及びこれより製造された固体電解質
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20211125BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01B1/06 A
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2020-514998(P2020-514998)
(86)(22)【出願日】2018年7月20日
(65)【公表番号】特表2020-533762(P2020-533762A)
(43)【公表日】2020年11月19日
(86)【国際出願番号】KR2018008244
(87)【国際公開番号】WO2019054622
(87)【国際公開日】20190321
【審査請求日】2020年3月12日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0118035
(32)【優先日】2017年9月14日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0080139
(32)【優先日】2018年7月10日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】スジ・クォン
(72)【発明者】
【氏名】ジョンエ・ユン
(72)【発明者】
【氏名】ソン・スー・ユン
(72)【発明者】
【氏名】キョン・オ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジョンヒョン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ヨンジュ・イ
(72)【発明者】
【氏名】デイル・キム
(72)【発明者】
【氏名】ルシア・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジョンホン・クワク
【審査官】
井原 純
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/058016(WO,A1)
【文献】
中国特許出願公開第101792510(CN,A)
【文献】
特開2002−270237(JP,A)
【文献】
特開2003−077539(JP,A)
【文献】
特開2003−203676(JP,A)
【文献】
特開2006−221873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0565
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系重合体上にアルキレンオキシド基及び架橋性官能基を含む単量体がグラフトされた高分子を含
み、
前記グラフトされた高分子は、下記化学式2の構造を含む、二次電池用固体電解質組成物。
【化2】
(前記化学式2において、q、n、p、m及びoはそれぞれ独立的に0≦q≦20,000、1≦n≦22,000、2≦p≦230、1≦m≦200及び2≦o≦50の整数である)
【請求項2】
前記単量体は、アルキレンオキシド基と架橋性官能基を99.5:0.5ないし80:20のモル比で含むことを特徴とする請求項1に記載の二次電池用固体電解質組成物。
【請求項3】
前記フッ素系重合体は、電解質組成物全体100重量部に対して0.2ないし40重量部で含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の二次電池用固体電解質組成物。
【請求項4】
前記電解質組成物は、前記架橋性官能基と反応することができる官能基を2つ以上有する多官能架橋剤をさらに含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の二次電池用固体電解質組成物。
【請求項5】
前記多官能架橋剤は、イソシアネート架橋剤、エポキシ架橋剤、アジリジン架橋剤及び金属キレート架橋剤からなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする請求項4に記載の二次電池用固体電解質組成物。
【請求項6】
前記多官能架橋剤は、電解質組成物全体100重量部に対して0.1ないし6重量部で含まれることを特徴とする請求項4または5に記載の二次電池用固体電解質組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の二次電池用固体電解質組成物の熱硬化物である二次電池用固体電解質。
【請求項8】
前記電解質は、その厚さが50ないし400μmであることを特徴とする請求項7に記載の二次電池用固体電解質。
【請求項9】
前記電解質は、前記電解質組成物100重量部に対して30ないし70重量部のリチウム塩をさらに含むことを特徴とする請求項7または8に記載の二次電池用固体電解質。
【請求項10】
前記リチウム塩は、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiTFSI、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、CH3SO3Li、(CF3SO2)2NLi、LiN(SO2F)2、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、4−フェニルホウ酸リチウム及びリチウムイミドからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項9に記載の二次電池用固体電解質。
【請求項11】
前記電解質は、イオン伝導度が1×10−6S/cmないし4×10−5S/cmであることを特徴とする請求項7から10のいずれか一項に記載の二次電池用固体電解質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年09月14日付韓国特許出願第10−2017−0118035号及び2018年07月10日付韓国特許出願第10−2018−0080139号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は本明細書の一部として含む。
【0002】
本発明は、二次電池用固体電解質組成物及びこれより製造された固体電解質に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、ノートパソコン、スマートフォンで主に使われている高エネルギー密度のリチウム二次電池は、リチウム酸化物からなる正極と炭素系の負極、分離膜、及び液相または固相の電解質で構成されている。しかし、液相電解質で構成されたリチウム二次電池は、漏液、爆発のような安定性の問題があり、これを防止するために電池の設計が複雑になるという短所を持っている。
【0004】
このような液体電解質の問題を解決するために高分子電解質に対する研究が活発に進められている。高分子電解質は、大きくゲル型と固体型に分けられる。ゲル型高分子電解質は、高分子フィルム内に沸点が高い液体電解質を含浸させ、これをリチウム塩とともに固定して伝導度を表す電解質で液体電解質を多量含んでいて純粋液体電解質と類似なイオン伝導度を有するが、依然として電気化学的安定性の問題が残っている。
【0005】
一方、固体高分子電解質の場合、液体電解質が含まれていないので、漏液と係わる安定性の問題が改善されただけでなく、化学的、電気化学的安定性が高いという長所がある。しかし、常温でのイオン伝導度が液体電解質に対して約100倍低く、これを改善するための研究が多く進められている。
【0006】
現在、固体高分子電解質に最も多く使われている物質はポリエチレンオキシド(PEO)であり、固体相であるにもかかわらずリチウムイオンを伝導させる能力を持っている。しかし、線状のPEO高分子電解質の場合、高い結晶性によって鎖の流動性が制限され、誘電率(5.0)が低くて多量のリチウムイオンを解離させられなくて常温で伝導度が非常に低くてリチウム二次電池に適用しがたい。
【0007】
ここで、ポリエチレンオキシドに結晶性がない高分子をブレンドしたり、または可塑剤を添加して高分子主鎖の柔軟性を増加させる方法、非晶質の高分子主鎖に低分子量のエチレンオキシドの側枝を結合して結晶化度を下げる方法または架橋構造を有する高分子に、分子量が低いポリエチレンオキシドを固定させてポリエチレンオキシドが有している結晶性を下げて伝導度を向上させる方法などが研究されているが相変らず限界があるのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国登録特許第10−0796989号公報
【特許文献2】韓国登録特許第10−0796990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで本発明者らは前記問題を解決するために多角的に研究した結果、誘電率が高いフッ素系重合体上にイオン伝導性があるアルキレンオキシド基及び架橋性官能基を含む単量体をグラフト共重合させてリチウム二次電池用固体電解質を製造する場合、電解質のイオン伝導度と電気化学的安定性が向上されたことを確認して本発明を完成した。
【0010】
したがって、本発明の目的はフッ素系重合体上にアルキレンオキシド基及び架橋性官能基を含む単量体がグラフトされた高分子を含む二次電池用固体電解質組成物を提供することにある。
【0011】
また、本発明のまた別の目的は、前記組成物を熱硬化して形成される二次電池用固体電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、
フッ素系重合体上にアルキレンオキシド基及び架橋性官能基を含む単量体がグラフトされた高分子を含む二次電池用固体電解質組成物を提供する。
【0013】
本発明の一具現例において、前記フッ素系重合体は下記化学式1の構造を含むことができる。
【0014】
【化1】
(前記化学式1において、p、q、rはそれぞれ独立的に0≦p≦20,000、1≦q≦22,000及び0≦r≦15,000の整数である)。
【0015】
本発明の一具現例において、前記グラフトされた高分子は下記化学式2の構造を含むことができる。
【0016】
【化2】
(前記化学式2において、q、n、p、m及びoはそれぞれ独立的に0≦q≦20,000、1≦n≦22,000、2≦p≦230、1≦m≦200及び2≦o≦50の整数である)
【0017】
本発明の一具現例において、前記アルキレンオキシド基は、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドであってもよい。
【0018】
本発明の一具現例において、前記架橋性官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシル基及びイソシアネート基からなる群から選択されるいずれか一つであってもよい。
【0019】
本発明の一具現例において、前記単量体はアルキレンオキシド基と架橋性官能基を99.5:0.5ないし80:20のモル比で含むものであってもよい。
【0020】
本発明の一具現例において、前記フッ素系重合体は組成物全体100重量部に対して0.2ないし40重量部で含まれるものであってもよい。
【0021】
本発明の一具現例において、前記組成物は前記架橋性官能基と反応することができる官能基を2個以上持つ多官能架橋剤をさらに含むものであってもよい。
【0022】
本発明の一具現例において、前記多官能架橋剤はイソシアネート架橋剤、エポキシ架橋剤、アジリジン架橋剤及び金属キレート架橋剤からなる群から選択されるいずれか一つであってもよい。
【0023】
本発明の一具現例において、前記多官能架橋剤は電解質組成物全体100重量部に対して0.1ないし6重量部で含まれてもよい。
【0024】
また、本発明は前記二次電池用固体電解質組成物を熱硬化して形成される二次電池用固体電解質を提供する。
【0025】
本発明の一具現例において、前記電解質はその厚さが50ないし400μmであってもよい。
【0026】
本発明の一具現例において、前記電解質は前記電解質組成物100重量部に対して30ないし70重量部のリチウム塩をさらに含むことができる。
【0027】
本発明の一具現例において、前記電解質は、LiCl、LiBr、LiI、LiClO
4、LiBF
4、LiTFSI、LiB
10Cl
10、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiAlCl
4、CH
3SO
3Li、(CF
3SO
2)
2NLi、LiN(SO
2F)
2、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、4−フェニルホウ酸リチウム及びリチウムイミドからなる群から選択される1種以上のリチウム塩をさらに含むことができる。
【0028】
本発明の一具現例において、前記電解質はイオン伝導度が1×10
−6S/cmないし4×10
−5S/cmであってもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明による二次電池用固体電解質組成物は、誘電率が高いフッ素系重合体上にアルキレンオキシド基及び架橋性官能基を含む単量体をグラフトして製造される高分子を含むことによってリチウム二次電池の電解質のイオン伝導度と電気化学的安定性を向上させることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0031】
本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は、通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に基づいて本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈されなければならない。
【0032】
本発明で使った用語は、単に特定の実施例を説明するために使われたもので、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は文脈上明らかに違う意味を有しない限り、複数の表現を含む。本発明において、「含む」または「持つ」などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定することあって、一つまたはそれ以上の別の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部品、またはこれらを組み合わせたもの存在または付加可能性を予め排除しないものとして理解しなければならない。
【0033】
二次電池用固体電解質組成物
フッ素系高分子は、誘電率が9ないし40程度でリチウムイオン解離度が非常に高く、リチウム二次電池に使われる場合、高電圧(5.0V)でも電気化学的安定性を持つという長所があるが、高い結晶性によって常温でイオン伝導度が非常に低いという短所がある。
【0034】
したがって、本発明ではフッ素系高分子のこのような短所を克服するために、誘電率が高いフッ素系重合体上にアルキレンオキシド基及び架橋性官能基を含む単量体をグラフト共重合して形成される高分子を含む二次電池用固体電解質組成物を提供する。
【0035】
本発明の一具現例によるフッ素系重合体は、ポリ(フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン−トリフルオロエチレン)(Poly(vinylidene fluoride−Chlorotrifluoroethylene−Trifluoroethylene)、以下P(VDF−CTFE−TrFE))系高分子であってもよく、前記フッ素系重合体は、下記化学式1で表される化合物であってもよい。
【0036】
【化3】
(前記化学式1において、p、q、rはそれぞれ独立的に0≦p≦20,000、1≦q≦22,000及び0≦r≦15,000の整数である)
【0037】
前記一具現例によるフッ素系重合体は、VDF、CTFE及びTrFEの三量体であってもよく、前記重合体はCTFEを必ず含むものであってもよい。
【0038】
前記フッ素系重合体のイオン伝導性と電気化学的安定性を向上させるためにアルキレンオキシド基及び架橋性官能基を含む単量体をグラフト共重合することができ、本発明による一具現例は原子移動ラジカル重合(atomic transfer radical polymerization、以下ATRP)を利用したグラフト共重合であってもよい。
【0039】
本発明によるフッ素系重合体は、原子移動ラジカル重合反応によって枝型鎖がグラフトされることができる重合体であって、このようなフッ素原子を含む高分子重合体であれば、どんな重合体を使っても構わないが、好ましくはポリフッ化ビニリデン(poly vinylidene fluoride)、ポリフッ化ビニル(poly vinyl fluoride)、ポリクロロトリフルオロエチレン(poly chloro trifluoro ethylene)、ポリテトラフルオロエチレン(poly tetrafluoro ethylene)、ポリトリフルオロエチレン(poly trifluoro ethylene)、ポリ−1,2−ジフルオロエチレン(poly−1、2−difluoro ethylene)、またはこれらを一つ以上含む共重合体を使った方がよく、好ましくはポリクロロトリフルオロエチレン(poly chloro trifluoro ethylene)、より好ましくはポリ(フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン−トリフルオロエチレン)(Poly(vinylidene fluoride−Chlorotrifluoroethylene−Trifluoroethylene)、以下、P(VDF−CTFE−TrFE))を使うことができる。
【0040】
本発明の一具現例は、原子移動ラジカル重合を通じて前記CTFE上のCl基(group)にイオン伝導性を持つアルキレンオキシド基を取り入れてフッ素系高分子電解質の結晶性を下げることができ、これによって高分子鎖の流動性を向上させることができる。なお、誘電率が大きいフッ素系高分子を適用することで、より多くのリチウムイオンを解離して既存のアルキレンオキシド系高分子に比べて高いイオン伝導度及び電気化学的安定性を示すことができる
本発明の一具現例による前記アルキレンオキシド基は、フッ素系重合体のイオン伝導性を向上させることができる物質であって、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドであってもよく、好ましくはエチレンオキシドであってもよい。
【0041】
しかし、前記フッ素系重合体にアルキレンオキシド基がグラフトされた高分子はゲル(gel)形態であって、高分子「固体」電解質を具現することができないし、電気化学的安定性の問題を依然として有しているので、本発明では高分子内に架橋性官能基をさらに含んで、前記ゲル型電解質の短所を解決した二次電池用固体電解質組成物を提供する。
【0042】
前記架橋性官能基を有する単量体は、例えば、前記ポリ(エチレングリコール
メチルエーテルメタクリレート)(Poly(ethylene glycol
methyl ether methacrylate)、以下PEGMA)単量体のようにフッ素系重合体に共重合されることができる部位を有し、後述する熱硬化後に架橋されて電解質の機械的強度を維持できる官能基であってもよい。
【0043】
前記架橋性官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシル基及びイソシアネート基からなる群から選択されるいずれか一つであってもよく、好ましくはヒドロキシ基であってもよい。
【0044】
本発明の一具現例による前記単量体は、アルキレンオキシド基と架橋性官能基を99.5:0.5ないし80:20のモル比で含むものであってもよい。もし、アルキレンオキシド基が前記範囲以上である場合は、高分子間の架橋反応が難しくて固体高分子電解質の代わりにゲル型高分子電解質を生成する問題点があり、前記範囲以下である場合は、アルキレンオキシド基の含量が少なくて電解質のイオン伝達能力が劣ることがあるので、前記範囲で適切に選択する。
【0045】
本発明の一具現例による前記フッ素系重合体は、電解質組成物全体100重量部に対して0.2ないし40重量部で含まれてもよく、好ましくは5ないし25重量部で含まれてもよい。もし、フッ素系重合体の含量が前記範囲以上であれば電解質の機械的強度は高くなるが、高分子内の結晶性によってイオン伝導度が低下し、フッ素系重合体の含量が前記範囲未満である場合、フッ素系重合体の高い電気化学的安定性及び高いリチウムイオンの解離特性を具現することができなくなるので、前記範囲で適切に選択する。
【0046】
本発明の一具現例による二次電池用固体電解質組成物は、フッ素系重合体上にアルキレンオキシド基及び架橋性官能基を含む単量体がグラフトされた高分子と反応することができる官能基を少なくとも2つ以上有する多官能架橋剤をさらに含むことができる。
【0047】
前記多官能架橋剤は、前記高分子の官能基と追加的に反応して高分子間の架橋構造を形成することができ、前記架橋構造で形成された固体電解質は、ゲル型高分子電解質の電気化学的安定性の問題を克服することができる。
【0048】
多官能架橋剤の種類では、特に制限されないが、イソシアネート架橋剤、エポキシ架橋剤、アジリジン架橋剤及び金属キレート架橋剤からなる群から選択されるいずれか一つを使用することができる。
【0049】
イソシアネート架橋剤の具体例では、トルエンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソボロンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネートまたはナフタレンジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物、または前記ジイソシアネート化合物をポリオールと反応させた化合物を使うことができ、前記ポリオールとしては、例えば、トリメチロールプロパンなどを使用することができる。
【0050】
また、エポキシ架橋剤の具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジルエチレンジアミン及びグリセリンジグリシジルエーテルからなる群から選択された一つ以上を挙げることができ、アジリジン架橋剤の具体例としては、N,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキサミド)、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキサミド)、トリエチレンメラミン、ビスイソプロタロイル−1−(2−メチルアジリジン)及びトリ−1−アジリジニルホスフィンオキシドからなる群から選択された一つ以上を挙げることができるが、これに制限されることではない。また、前記金属キレート架橋剤の具体例としては、アルミニウム、鉄、亜鉛、スズ、チタン、アンチモン、マグネシウム及び/またはバナジウムのような多価金属がアセチルアセトンまたはアセト酢酸エチルなどに配位している化合物などを挙げることができるが、これに制限されない。
【0051】
前記多官能架橋剤は、電解質組成物100重量部に対して0.1ないし6重量部、好ましくは0.5ないし5重量部の割合で含まれてもよい。前記架橋剤の含量を前述した範囲内で調節して電解質の物性を目的とする水準で適切に示すことができる。
【0052】
本発明は、前述した二次電池用固体電解質組成物を熱硬化して形成される二次電池用固体電解質を提供する。前記固体電解質は前述した効果を奏することができる。
【0053】
本明細書の一具現例によれば、前記電解質の厚さは50ないし400μmであってもよく、具体的に100ないし250μmであってもよい。電解質の厚さが100ないし250μmである時、電気的ショート(Electric Short)及び電解質物質のクロスオーバー(Cross Over)を低下させ、優れたリチウムイオン伝導度の特性を表すことができる。
【0054】
本明細書の一具現例によれば、前記高分子電解質のイオン伝導度は1×10
−6S/cmないし4×10
−5S/cmであってもよい。
【0055】
本発明の一具現例による前記固体電解質は、電解質組成物100重量部に対して30ないし70重量部のリチウム塩をさらに含むことができ、好ましくは35ないし60重量部をさらに含むことができる。もし、リチウム塩の含量が前記範囲以上である場合、電池の充放電時に電解質内の副反応が過度に発生し、前記範囲未満の場合、リチウム二次電池の出力改善及びサイクル特性改善効果が微々たるものなので、前記範囲で適切に選択する。
【0056】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池用電解質に通常使われるものであれば制限されずに使われてもよい。例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO
4、LiBF
4、LiTFSI、LiB
10Cl
10、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiAlCl
4、CH
3SO
3Li、(CF
3SO
2)
2NLi、LiN(SO
2F)
2、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、4−フェニルホウ酸リチウム及びリチウムイミドからなる群から選択される1種以上のリチウム塩をさらに含むことができ、好ましくはLiTFSIをさらに含むことができる。
【0057】
固体電解質組成物の製造方法
本発明による固体電解質組成物の製造方法は、混合段階及び重合段階を含むことができる。
【0058】
前記で混合段階は、フッ素系重合体上にアルキレンオキシド基及び架橋性官能基を含む単量体がグラフトされた高分子を製造するための原料を混合して混合物を形成する段階であってもよく、一つの例示的な前記混合段階は、フッ素系重合体と重合しようとする前記単量体を混合する段階であってもよい。以後、追加的に触媒及びリガンドを溶媒とともに混合する段階を経ることができる。
【0059】
前記フッ素系重合体は、前記グラフトされた高分子の主鎖になる部分であり、この具体例は前述したものと同様であって、本発明による一具現例としてポリ(ビニリデン−co−クロロドリフルオロエチレン)(以下、P(VDF−co−CTFE))であってもよい。また、前記アルキレンオキシド基及び架橋性官能基を有する単量体は、ポリ(エチレングリコール
メチルエーテルメタクリレート)(Poly(ethylene glycol
methyl ether methacrylate))(以下、PEGMA)またはヒドロキシエチルメタクリレート(Hydroxy ethyl methacrylate)(以下、HEMA)であってもよい。
【0060】
フッ素系重合体を極性溶媒に溶かした後、アルキレンオキシド基及び架橋性官能基を有する単量体をフッ素系重合体が溶けている溶液に入れて混合することができる。前記溶媒は技術分野で公知された多様な溶媒を使用することができ、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ガンマ−ブチロラクトン(GBL)ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)またはテトラヒドロフラン(THF)などを使うことができるが、これに制限されない。
【0061】
前記混合溶液にさらに触媒及びリガンドを溶媒とともに混合することができる。
【0062】
前記触媒は、例えば、Cu(II)Cl
2、Cu(II)Br
2、Cu(II)I
2、Fe(II)Cl
2、Fe(III)Cl
3またはこれらの混合物などが例示されるが、好ましくは、Cu(II)Cl
2、Cu(II)Br
2、Cu(II)I
2またはこれらの混合物が例示されてもよく、より好ましくはCu(II)Cl
2を使うことができる。
【0063】
また、前記触媒の含量は、組成物全体100重量部に対して0.001ないし1重量部、0.005ないし0.75重量部または0.01ないし0.5重量部であってもよい。前記触媒の含量が0.001重量部未満の場合、反応速度が非常に遅れるし、1重量部を超過する場合、重合された共重合体の分子量が低すぎる問題があるので、前記範囲で適切に選択する。また、前記触媒は同一技術分野で公知された多様な形態の触媒を使用することができる。例えば、パウダー、ワイヤまたはメッシュなどの形態であってもよいが、これに制限されない。
【0064】
前記リガンドは、前記触媒と結合して重合反応に使われるものであれば特に制限されない。
【0065】
一例として、前記リガンドは、σ−結合を通じて触媒と配位することができる窒素、酸素、リン及び硫黄原子を1つ以上有するリガンド、またはπ−結合を通じて触媒と配位することができる2つ以上の炭素原子を含むリガンドなどが例示されてもよいが、これに制限されないし、具体的にはTPMA(トリス(2−ピリジルメチル)アミン(tris(2−pyridylmethyl)amine))リガンドを使うことができる。
【0066】
前記リガンドの含量は、前記触媒100重量部に対して100ないし2000重量部、150ないし1000重量部または200ないし500重量部であってもよい。前記リガンドの含量が100重量部未満である場合、触媒との結合による金属複合体の形成が少なしごて反応がとても遅かったり進められないし、2000重量部を超える場合、製造コストが上昇し、過量のリガンド使用による発色が表れる問題がある。
【0067】
ATRP反応の触媒、リガンド、ラジカル開始剤を混合して50ないし70℃で撹拌すれば、ATRP反応が起きてグラフトされた高分子を収得することができる。本発明の一具現例による高分子は、下記化学式2のようなPVDF−co−(PCTFE−g−(PEGMA−co−HEMA))であってもよい。
【0068】
【化4】
(前記化学式2において、q、n、p、m及びoはそれぞれ独立的に0≦q≦20,000、1≦n≦22,000、2≦p≦230、1≦m≦200及び2≦o≦50の整数である)
【0069】
前記グラフト重合反応を進めた後で生成された高分子をエーテル溶媒に浸して未反応単量体を取り除く段階をさらに経ることもできる。その後、前記高分子を真空条件で乾燥させる段階を経てゲル形態の高分子電解質組成物を収得することができる。
【0070】
固体電解質の製造方法
本発明による電解質は、前記固体電解質組成物に前述した多官能架橋剤を高分子全体の内に存在する架橋官能基に対して1:1〜1:0.01のモル比で投入し、溶媒に溶かして1ないし6時間撹拌する段階を含むことができる。以後、前記溶液をテフロン(登録商標)板にキャスティングした後、50ないし150℃で熱処理過程を経て高分子を架橋させ、フィルム形態で製造することができる。前記テフロン(登録商標)板を真空条件で3日間乾燥させた後、テフロン(登録商標)板から固体フィルムを取り外すとリチウム二次電池用高分子固体電解質が形成される。
【発明を実施するための形態】
【0071】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳しく説明する。しかし、本発明による実施例は、幾つか異なる形態で変形されてもよく、本発明の範囲が下述する実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0072】
製造例1.ATRP法によってグラフト共重合されたPVDF−co−(PCTFE−g−(PEGMA−co−HEMA)の製造(A1)
1000mlフラスコにフッ素系重合体として重量平均分子量(以下、Mw)600,000のP(VDF−co−CTFE)10g、重合しようとする単量体であるPEGMA116g及びHEMA3.35gを溶媒のアセトン450mlに入れて窒素条件下で1時間撹拌した。
【0073】
その後、ATRP反応触媒としてCuCl
2 0.00266g、リガンドとしてTPMA0.0091g、開始剤としてSn(EH)
2(2−エチルヘキサン塩スズ(II)(Tin(II)2−ethylhexanoate))0.245gを前記フラスコに投入した後窒素条件下で30時間撹拌してATRP反応を行った。
【0074】
反応を完了した後、生成された高分子をエーテル溶媒に3回浸して反応に参加していない単量体を取り除いた。最終的に得た高分子を真空条件で1週間乾燥させ、ゲル形態のPVDF−co−(PCTFE−g−(PEGMA−co−HEMA)高分子を収得した。
【0075】
製造例2.ATRP法によってグラフト共重合されたPVDF−co−(PCTFE−g−(PEGMA−co−HEMA)の製造(A2)
1000mlフラスコにフッ素系重合体として重量平均分子量(以下、Mw)600,000のP(VDF−co−CTFE)10g、重合しようとする単量体であるPEGMA54g及びHEMA1.5gを溶媒のアセトン300mlに入れて窒素条件下で1時間撹拌した。
【0076】
その後、ATRP反応触媒としてCuCl
2 0.002g、リガンドとしてTPMA0.0051g、開始剤としてSn(EH)
2 0.231gを前記フラスコに投入した後、窒素条件下で30時間撹拌してATRP反応を行った。
【0077】
反応を完了した後、生成された高分子をエーテル溶媒に3回浸して反応に参加していない単量体を取り除いた。最終的に得た高分子を真空条件で1週間乾燥させ、ゲル形態のPVDF−co−(PCTFE−g−(PEGMA−co−HEMA)高分子を収得した。
【0078】
比較製造例1.P(VDF−co−CTFE)単独使用した高分子の製造(B1)
前記製造例1及び2で単量体であるPEGMA及びHEMAをグラフト共重合していない重量平均分子量(以下、Mw)600,000の単独P(VDF−co−CTFE)高分子を製造した。
【0079】
比較製造例2.P(VDF−co−CTFE)を使用しない高分子の製造(B2)
前記製造例1及び2で主鎖としてP(VDF−co−CTFE)を使用せずに、PEGMAとHEMAを9:1のモル比で重合した重量平均分子量(以下、Mw)230,000の高分子を製造した。
【0080】
前記製造例1ないし2及び比較製造例1ないし2を下記表1に示す。
【0081】
実験例‐ガラス転移温度及びH
Tm測定
測定装置:DSC discovery 250(TA instruments社)
測定条件:20℃ないし100℃(1stサイクル)、−90℃ないし200℃(2ndサイクル)、10℃/分、N
2雰囲気(atm)
【0082】
前記製造例1及び2、比較製造例1及び2で製造された高分子をそれぞれ10mgを取って前記DSCサンプルパンに入れて装置のセル(cell)に注入した。上記温度条件で測定した後、温度と熱容量のグラフから傾きが変わる部分の変曲点を取ってガラス転移温度(T
g)として測定した。温度と熱容量のグラフでガラス転移温度後にもう一度吸熱ピーク(peak)が表れるが、この地点がTm(融点)として、Tmが表れるピーク(peak)の広さをH
Tmとして測定した。H
Tmが大きいというのは結晶がとけるために多くのエネルギーが必要という意味で、H
Tmが大きいほど高分子の結晶性が大きいことを意味する。
【0084】
実施例‐固体電解質の製造
前記製造例1及び2で製造された高分子PVDF−co−(PCTFE−g−(PEGMA−co−HEMA)5g、多官能架橋剤として3官能トルエンジイソシアネート、リチウム塩としてLiTFSIの含量を下記表2のように異にしてテトラヒドロフラン(以下、THF)溶媒50mlに溶解させた溶液を6時間撹拌して均一な溶液を製造した。前記溶液を2cm×2cmサイズのテフロン(登録商標)板にキャスティングした後、乾燥室(dry room)で6時間常温乾燥した後、120℃温度で1時間加熱して熱硬化反応を行った。その後、ナイフを使って固体フィルムを前記テフロン(登録商標)板から引き外して二次電池用固体電解質を収得した。
【0085】
比較例‐固体電解質の製造
前記比較製造例1及び2で製造された高分子5g、多官能架橋剤として3官能トルエンジイソシアネート、リチウム塩としてLiTFSIの含量を下記表2のように異にしてTHF溶媒50mlに溶解させた溶液を6時間撹拌して均一な溶液を製造した。前記溶液を2cm×2cmサイズのテフロン(登録商標)板にキャスティングした後、乾燥室(dry room)で6時間常温乾燥した後、120℃温度で1時間加熱して熱硬化反応を行った。その後、ナイフを使って固体フィルムを前記テフロン(登録商標)板から引き外して二次電池用固体電解質を収得した。
【0086】
実施例1ないし5及び比較例1ないし6を下記表2に示す。
【0088】
実験例‐電解質のイオン伝導度測定
前記実施例1ないし5及び比較例1ないし6で製造された固体電解質のイオン伝導度は、そのインピーダンスを測定した後、下記数式1を利用して求めた。
【0089】
測定のために一定広さと厚さを有する前記固体電解質のフィルムサンプルを準備した。板状のサンプルの両面にイオン遮断電極(ion blocking electrode)として電子伝導性に優れるサス(SUS)基板を接触させた後、サンプル両面の電極を通じて交流電圧を印加した。この時、印加される条件として測定周波数0.1Hzないし10MHzの振幅範囲で設定した。測定されたインピーダンス軌跡の半円や直線が実軸と会う交点(R
b)からバルク電解質の抵抗を求め、サンプルの広さと厚さから高分子固体電解質膜のイオン伝導度を計算して下記表3に示す。
【0091】
σ:イオン伝導度
R
b:インピーダンス軌跡と実軸との交点
A:サンプルの広さ
t:サンプルの厚さ
【0093】
前記表3で見るように、グラフトされていない比較例に比べてフッ素系重合体上にアルキレンオキシド基及び架橋性官能基を含む単量体がグラフトされた高分子を含む二次電池用固体電解質のイオン伝導度が高く測定され、イオン伝導度が向上されたことが分かる。比較例3の場合はイオン伝導度は高いが、本発明による電解質膜が形成されないことが分かった。