特許第6976486号(P6976486)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6976486-熱可塑性樹脂組成物 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976486
(24)【登録日】2021年11月11日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20211125BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20211125BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   C08L67/02
   C08K7/00
   C08K3/36
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2021-519682(P2021-519682)
(86)(22)【出願日】2020年11月30日
(86)【国際出願番号】JP2020044422
(87)【国際公開番号】WO2021117529
(87)【国際公開日】20210617
【審査請求日】2021年4月15日
(31)【優先権主張番号】特願2019-224488(P2019-224488)
(32)【優先日】2019年12月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−226814(JP,A)
【文献】 特開2005−029638(JP,A)
【文献】 特開2006−342211(JP,A)
【文献】 特開2007−084383(JP,A)
【文献】 特開2007−145015(JP,A)
【文献】 特開2008−156414(JP,A)
【文献】 特開2011−168755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00 − 67/08
C08L 77/00 − 77/12
C08K 3/00 − 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、及びポリブチレンテレフタレート樹脂のうちのいずれかと、平均厚みが0.5〜2μmであり、メジアン径が10〜60μmであり、かつ、5gを純水95ml中で3分間撹拌した後に測定したpHが5.5〜8.0であるフレーク状シリカとを含み、
前記フレーク状シリカが、分散質としてシリコン酸化物コロイド粒子を、分散媒として水を含み、pHが7以上であるシリコン酸化物ゾルを液体中に供給して、液体中にシリコン酸化物コロイド粒子の凝集体を生成させる工程と、凝集体を乾燥、加熱および加圧から選ばれる少なくとも一つにより処理して前記凝集体を構成するシリコン酸化物コロイド粒子の結着力を増加させることにより、凝集体を水に不溶であるフレーク状シリカとする工程とを含むゾルゲル法により作製され、前記シリコン酸化物ゾルに含有される主たるカチオンがアルカリ金属イオン以外のイオン種である、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記フレーク状シリカの含有量が、液晶性樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、及びポリブチレンテレフタレート樹脂のうちのいずれか100質量部に対して5〜30質量部である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記フレーク状シリカ以外のフレーク状フィラーをさらに含む、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物に関し、詳細には、コネクタなどの電子部品の材料として有用な熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話;無線LAN;GPS、VICS(登録商標)、ETC等のITS技術等の情報通信分野において著しい技術進歩を遂げている。これに応じて、マイクロ波、ミリ波等の高周波領域において適用可能な高性能な高周波対応電子部品のニーズが増大している。このような電子部品を構成する材料は、個々の電子部品の設計に応じて、適切な誘電特性を有することが求められている。
【0003】
特に、次世代無線通信システムとして5G規格の導入が予定されており、5G規格においては高周波帯が利用されることから、それを担う電子部品には高周波帯において信号にノイズを混入させないことが要求される。そのため、5G規格において使用される、例えば同軸ケーブル用コネクタは、送受信両側の特性インピーダンスを揃える必要がある。
【0004】
ここで、同軸ケーブルにおける特性インピーダンスは以下の式で表される。以下の式中、Cは定数(樹脂材料の誘電特性によらない)、εは内部導体を被覆する誘電体(樹脂材料)の比誘電率、aは内部導体の外径、bは外部導体の内径を表す。
【0005】
【数1】
【0006】
特性インピーダンスの数値は、上記式中の変数(ε、a、b)を適宜設定することにより調整することができる。ところが、規格や設計上の制約からb/aを調整するのは困難である。そこで、種々の樹脂材料を選定することにより誘電体の誘電率εを設定して特性インピーダンスの数値を調整することが考えられる。また、上記誘電体の誘電率は低いことが要求される。すなわち、上記ケースにおいては、比誘電率εが低い樹脂材料を選定する必要がある。
【0007】
樹脂材料の比誘電率を低下するには、樹脂材料中に低誘電率の中空ガラスなどのフィラーを充填することが考えられる(例えば、特許文献1、2参照)。しかし、そのようなフィラーを充填した樹脂材料は反りの発生や機械強度が低下するという問題が生じる。
また、反りの発生を抑えるには、マイカなどのフレーク状フィラーを用いることが考えられるが、マイカのみでは比誘電率を低下させることが困難となる。
以上より、低誘電率、低反り、及び高い機械強度のすべてを満足するには、それらのバランスを考慮して、複数種のフィラーを適宜混合して用いざるを得なかった。
【0008】
ところで、電子部品用途においては、製品の軽薄短小化に伴い電子部品の小型化、薄肉化が進んでおり、さらなる省スペース化、軽量化のため、樹脂部品に電子回路基板を組み込む立体回路基板形成技術の発展が求められている。樹脂成形品表面に立体的に電子回路パターンが形成されることで、回路基板設計の自由化、モジュールの小型化、部品点数の削減、組み立て工数の削減が可能となる。樹脂成形品に回路を形成する手法として、例えば、2回成形により回路形成箇所以外へマスキングを施すマスク形成手法や、レーザー照射による回路パターン描画手法などと、めっき等の金属化技術との組み合わせが挙げられ、電子部品を構成する樹脂材料には、優れた金属密着性を有することも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−15613号公報
【特許文献2】特開2008−31409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
樹脂材料に対して単一のフィラーを充填することにより、低誘電率、低反り、高い機械強度、及び優れた金属密着性のいずれも満足させることができれば有用である。そこで、シリカは低誘電率であること、及び金属などの極性物質に対する親和性が高いことから、フレーク状のシリカであれば、低誘電率であり、かつ、反りの発生の抑制や機械強度の向上、金属密着性の向上が期待される。しかし、上市されているフレーク状シリカは、ポリエステル樹脂又はポリエステルアミド樹脂を著しく分解させる傾向にあり、ポリエステル樹脂又はポリエステルアミド樹脂と併用することはできない。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、ポリエステル樹脂又はポリエステルアミド樹脂と、単一のフィラーとを併用しながらも、低誘電率、低反り、高い機械強度、及び優れた金属密着性のすべてを満足し得る熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)ポリエステル樹脂又はポリエステルアミド樹脂と、平均厚みが0.5〜2μmであり、メジアン径が10〜60μmであり、かつ、5gを純水95ml中で3分間撹拌した後に測定したpHが5.5〜8.0であるフレーク状シリカとを含む、熱可塑性樹脂組成物。
【0013】
(2)前記ポリエステル樹脂又はポリエステルアミド樹脂が液晶性樹脂である、前記(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
(3)前記ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂である、前記(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
(4)前記フレーク状シリカの含有量が、前記ポリエステル樹脂又は前記ポリエステルアミド樹脂100質量部に対して5〜30質量部である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0016】
(5)前記フレーク状シリカ以外のフレーク状フィラーをさらに含む、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ポリエステル樹脂又はポリエステルアミド樹脂と、単一のフィラーとを併用しながらも、低誘電率、低反り、高い機械強度、及び優れた金属密着性のすべてを満足し得る熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例及び比較例で用いた比誘電率測定用試験片の切り出し位置を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、ポリエステル樹脂又はポリエステルアミド樹脂と、平均厚みが0.5〜2μmであり、メジアン径が10〜60μmであり、かつ、5gを純水95ml中で3分間撹拌した後に測定したpHが5.5〜8.0である、フレーク状シリカとを含むことを特徴としている。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、上記特定条件を満たすフレーク状シリカを含むことにより、低誘電率、低反り、高い機械強度、及び優れた金属密着性のすべてを満足し得る。換言すると、単一のフィラーたるフレーク状シリカを含むことで上記諸性能を満足し得る。
以下、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の各成分について説明する。
【0020】
[ポリエステル樹脂又はポリエステルアミド樹脂]
ポリエステル樹脂としては種々のものが知られているが、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。また、ポリエステルアミド樹脂は、ポリエステル樹脂に対してアミド結合が導入された構造を有する。
本実施形態においては、ポリエステル樹脂又はポリエステルアミド樹脂としては、液晶性樹脂が好ましい。また、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
以下、液晶性樹脂及びPBT樹脂について説明する。
【0021】
(液晶性樹脂(LCP樹脂))
液晶性樹脂(以下、「LCP樹脂」とも呼ぶ。)は、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本実施形態に適用できるLCP樹脂は直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0022】
上記のようなLCP樹脂の種類としては特に限定されないが、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。また、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。これらは60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1質量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dL/g、さらに好ましくは2.0〜10.0dL/gの対数粘度(IV)を有するものが好ましく使用される。
【0023】
本実施形態に適用できるLCP樹脂としての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドとして特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミドである。
【0024】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位からなるポリエステル;
(2) 主として
(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、
(b)芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(c)芳香族ジオール、脂環式ジオール、脂肪族ジオール及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上に由来する繰り返し単位、とからなるポリエステル;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位、とからなるポリエステルアミド;
(5)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸及びそれらの誘導体の1種又は2種以上に由来する繰り返し単位と、(d)芳香族ジオール、脂環式ジオール、脂肪族ジオール及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上に由来する繰り返し単位、とからなるポリエステルアミド等が挙げられる。さらに上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0025】
本実施形態に適用できるLCP樹脂を構成する具体的化合物の好ましい例としては、4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)及び下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;4−アミノフェノール、1,4−フェニレンジアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【0026】
【化1】

(X:アルキレン(C1〜C4)、アルキリデン、−O−、−SO−、−SO−、−S−、−CO−より選ばれる基である)
【0027】
【化2】
【0028】
【化3】

(Y:−(CH−(n=1〜4)、−O(CHO−(n=1〜4)より選ばれる基である。)
【0029】
本実施形態に用いられるLCP樹脂の合成は、上記のモノマー化合物(又はモノマーの混合物)から直接重合法やエステル交換法を用いて公知の方法で行うことができるが、通常は溶融重合法やスラリー重合法等が用いられる。エステル形成能を有する上記化合物類はそのままの形で重合に用いてもよく、又、重合の前段階で前駆体から該エステル形成能を有する誘導体に変性されたものでもよい。これらの重合に際しては種々の触媒の使用が可能であり、代表的なものとしては、ジアルキル錫酸化物、ジアリール錫酸化物、二酸化チタン、アルコキシチタンけい酸塩類、チタンアルコラート類、カルボン酸のアルカリ及びアルカリ土類金属塩類、BFの如きルイス酸塩等があげられる。触媒の使用量は一般にはモノマーの全質量に対して約0.001〜1質量%、特に約0.01〜0.2質量%が好ましい。これらの重合方法により製造されたポリマーはさらに必要があれば、減圧又は不活性ガス中で加熱する固相重合により分子量の増加を図ることができる。
【0030】
上記のような方法で得られたLCP樹脂の溶融粘度は特に限定されない。一般には成形温度での溶融粘度が剪断速度1000sec−1で10Pa・s以上600Pa・s以下のものが使用可能である。しかし、それ自体あまり高粘度のものは流動性が非常に悪化するため好ましくない。なお、上記LCP樹脂は2種以上のLCP樹脂の混合物であってもよい。
【0031】
(ポリブチレンテレフタレート樹脂)
ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT樹脂」と呼ぶ。)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1−6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られる樹脂である。PBT樹脂は、ホモポリブチレンテレフタレートに限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体であってもよい。
【0032】
PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、本実施形態の効果を阻害しない限り特に限定されない。PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0033】
PBT樹脂の固有粘度(IV)は、0.65〜1.20dL/gであることが好ましい。かかる範囲の固有粘度のPBT樹脂を用いる場合には、得られる樹脂組成物が特に機械的特性と流動性に優れたものとなる。逆に固有粘度0.65dL/g未満では優れた機械的特性が得られず、1.20dL/gを超えると優れた流動性が得られないことがある。
また、固有粘度が上記範囲のPBT樹脂は、異なる固有粘度を有するPBT樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度0.9dL/gのPBT樹脂と固有粘度0.7dL/gのPBT樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.8dL/gのPBT樹脂を調製することができる。PBT樹脂の固有粘度(IV)は、例えば、2−クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0034】
PBT樹脂において、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8−14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4−16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5−10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1−6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0035】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8−12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6−12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0036】
PBT樹脂において、1,4−ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオール等のC2−10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2−4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0037】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2−6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0038】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−カルボキシ−4’−ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε−カプロラクトン等)等のC3−12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1−6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0039】
[フレーク状シリカ]
本実施形態において用いられるフレーク状シリカは、平均厚みが0.5〜2μmであり、メジアン径が10〜60μmであり、かつ、その5gを純水95ml中で3分間撹拌した後に測定したpHが5.5〜8.0である。フレーク状シリカは、その名称の通り、形状がフレーク状であることから、他のフレーク状フィラー(マイカなど)と同様に、樹脂組成物に添加すると、反りの抑制及び機械強度の向上に寄与する。また、元来、シリカは比誘電率が低いため、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の比誘電率を低下することができる。さらに、シリカは金属などの極性物質に対する親和性が高いため、金属密着性を向上することができる。さらに、後述するように、熱可塑性樹脂としてポリエステル樹脂又はポリエステルアミド樹脂を用いる場合であっても、ポリエステル樹脂又はポリエステルアミド樹脂の分解を抑制することができる。
【0040】
本実施形態に係るフレーク状シリカは、ゾルゲル法により作製することができる。具体的には、特許第5870042号公報に記載の製造方法により作製することができる。その製造方法においては、分散質としてシリコン酸化物コロイド粒子を、分散媒として水を含み、pHが7以上であるシリコン酸化物ゾルを、所定の溶媒を含む液体中に供給して、液体中にシリコン酸化物コロイド粒子の凝集体を生成させる工程と、凝集体を乾燥、加熱および加圧から選ばれる少なくとも一つにより処理して当該凝集体を構成するシリコン酸化物コロイド粒子の結着力を増加させることにより、凝集体を水に不溶であるフレーク状シリカとする工程と、を含む。そして、シリコン酸化物の供給源たるpH7以上のシリコン酸化物ゾルに含有される主たるカチオンがアルカリ金属イオン以外のイオン種(例えば、アンモニウムイオン(NH))である。以下に、上記のような主たるカチオンを、アルカリ金属以外のイオン種とする理由について説明する。
【0041】
例えば、シリコン酸化物の供給源となるpH7以上のシリコン酸化物ゾルに、カチオンとしてアルカリ金属イオン、特にナトリウムイオン(Na+)で含まれると、得られるフレーク状シリカにはナトリウムイオンが混入することになる。そして、そのようなフレーク状シリカを、LCP等のポリエステル樹脂成形時に添加すると、混入したナトリウムイオンにより樹脂が加水分解するため、強度が高い樹脂組成物を得ることができない。得られたフレーク状シリカを水洗することで、ナトリウム含有量を1.0質量%以下に下げることが可能であるが、水洗したフレーク状シリカを使用した場合でも、ナトリウム溶出による樹脂の加水分解を完全に抑えるのは困難である。そこで、本実施形態においては、シリコン酸化物の供給源たるpH7以上のシリコン酸化物ゾルに含有される主たるカチオンをアルカリ金属イオン以外のイオン種とすることにより、ポリエステル樹脂又はポリエステルアミド樹脂の加水分解の抑制を図っている。そして、その場合、フレーク状シリカ5gを純水95ml中で3分間撹拌した後に測定したpHが5.5〜8.0となり、ポリエステル樹脂又はポリエステルアミド樹脂の加水分解を抑制することができる。
【0042】
フレーク状シリカの平均厚みは0.5〜2μmであり、当該範囲内であると、フレーク状シリカのアスペクト比が高くなり、熱可塑性樹脂組成物の機械強度、低そり性は向上する。フレーク状シリカの平均厚みは、0.8〜1.5μmであることが好ましい。なお、フレーク状シリカの平均厚みとは、走査型電子顕微鏡(例として、(株)キーエンス製、3Dリアルサーフェスビュー顕微鏡VE−8800S)によりフレーク状シリカを観察したときの20個の厚みの平均である。
【0043】
フレーク状シリカのメジアン径は10〜60μmであり、当該範囲内であると、樹脂組成物の機械強度及び低そり性は向上する。10μm未満であると樹脂組成物の機械強度及び低そり性の向上が十分ではなく、60μm超であると流動性が低下する。フレーク状シリカのメジアン径は、30〜60μmであることが好ましい。なお、フレーク状シリカのメジアン径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(例として、マイクロトラック・ベル(株)製、マイクロトラックMT3300)により測定することができる。
【0044】
本実施形態において、フレーク状シリカ5gを純水95ml中で3分間撹拌した後に測定したpHが5.5〜8.0である。この条件を満たすことにより、熱可塑性樹脂としてポリエステルを使用する場合において、その分解を抑制することができる。上記pHが5.5未満又は8.0を超えると、ポリエステルが分解してしまう。上記pHは6.0〜7.0であることが好ましい。なお、上記pHは、25℃においてpH計(例として、ニッコー・ハンセン(株)製、CyberScan pH110)により測定することができる。また、pHを5.5〜8.0とする手段としては、上述の通り、シリコン酸化物の供給源たるpH7以上のシリコン酸化物ゾルに含有される主たるカチオンをアルカリ金属イオン以外のイオン種とすることが挙げられる。
【0045】
フレーク状シリカの含有量は、低誘電率、低反り、及び高い機械強度を満足する観点から、ポリエステル樹脂又はポリエステルアミド樹脂100質量部に対して5〜30質量部であることが好ましく、5〜25質量部であることがより好ましい。
【0046】
[他のフィラー]
本実施形態においては、その効果を損なわない範囲で、フレーク状シリカと、他の無機フィラーとを併用してもよい。当該無機フィラーとしては、繊維状、粒状、フレーク状のものが挙げられる。
【0047】
繊維状無機フィラーとしてはガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、ウォラストナイトの如き珪酸塩の繊維、硫酸マグネシウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。特に代表的な繊維状フィラーはガラス繊維である。
【0048】
また、粉粒状無機フィラーとしてはカーボンブラック、黒鉛、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、クレー、硅藻土、ウォラストナイトの如き硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。
【0049】
また、フレーク状無機フィラーとしてはマイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。
【0050】
本実施形態において、フレーク状シリカと併用する無機フィラーとしては、フレーク状シリカ以外のフレーク状フィラーが好ましい。フレーク状シリカと、フレーク状フィラーとを併用することで低反りの効果をより向上させることができる。
【0051】
以上のフィラーは、必要に応じて収束剤又は表面処理剤を使用することができる。
【0052】
[他の成分]
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、その効果を妨げない範囲で、滑剤、核剤、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、金属不活性剤、その他老化防止剤、UV吸収剤、安定剤、可塑剤、顔料、染料、着色剤、帯電防止剤、発泡剤、有機フィラー、導電性フィラー等を含有していてもよい。
【0053】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、低誘電率であり、低反り、及び高い機械強度を有することから、高周波対応電子部品を構成する材料として好適である。特に、5G規格において使用される、同軸ケーブル用コネクタは、上述の通り、送受信両側の特性インピーダンスを揃える必要があるが、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物においては、フレーク状シリカの添加量を調整することで、当該熱可塑性樹脂組成物の誘電率εを調整することができ、ひいては特性インピーダンスを容易に調整することができる。
【0054】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形品を得る方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで成形品を作製することができる。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[フレーク状シリカ1の作製]
2−プロパノール(イソプロピルアルコール)45g及び濃アンモニア水5g(濃アンモニア水のアンモニア濃度は2.8%)から成る有機溶媒50mlをビーカーに保持した。この有機溶媒に、主たるカチオンがアンモニウムイオンであるアルカリ性シリカゾル(日産化学工業(株)製「スノーテックス−N」)を0.01gずつ総量1g滴下した。アルカリ性シリカゾルを滴下する間、有機溶媒はマグネティックスターラー(回転数:800rpm)を用いて攪拌した。この操作により、有機溶媒中にコロイド粒子がスラリー状に凝集したことが目視により確認された。
次いで、コロイド粒子がスラリー状に凝集した溶媒から、吸引濾過により、コロイド粒子の凝集体を分離した。得られたコロイド粒子の凝集体を150℃の真空乾燥器内で乾燥させ、シリカの粉体(フレーク状のシリカ粒体の集合体)を得た。最後に、乾燥させたシリカの粉体を700℃で5時間焼成した。得られた粉体の質量は、約0.19gであった。
【0057】
[フレーク状シリカ2の作製]
2−プロパノール(イソプロピルアルコール)から成る有機溶媒50mlをビーカーに保持し、この有機溶媒に、アルカリ性シリカゾル(日本化学工業(株)製「シリカドール30S」)を0.01gずつ総量1g滴下した。シリカドール30Sは、水を分散媒とするpH9.0〜10.5のコロイダルシリカであり、含まれているコロイド粒子の粒子径は7〜10nmである。アルカリ性シリカゾルを滴下する間、有機溶媒はマグネティックスターラー(回転数:800rpm)を用いて攪拌した。
次いで、コロイド粒子がスラリー状に凝集した溶媒から、遠心分離により、コロイド粒子の凝集体を分離した。この凝集体を2−プロパノールで洗浄し、2−プロパノールをデカンテーションにより除去した。得られたコロイド粒子の凝集体を150℃の真空乾燥器内で乾燥させ、シリカの粉体(シリカ粒体の集合体)を得た。最後に、乾燥させたシリカの粉体を700℃で5時間焼成した。得られた粉体の質量は、0.2〜0.25g程度であった。
【0058】
以下に、フレーク状シリカ1及び2について、既述のようにして測定した、平均厚み、メジアン径、及びpHを下記表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
[実施例1]
熱可塑性樹脂としてPBT樹脂を100質量部、及び上記フレーク状シリカ1を17.6質量部、シリンダー温度320℃の二軸押出機の原料供給部(ホッパー)より投入し(フレーク状シリカ1は押出機のサイドフィード部より別添加)、押出量15kg/Hr、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練し、ペレット化した。なお、PBT樹脂は以下のようにして合成した。
【0061】
(PBT樹脂の合成)
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を210℃まで2時間かけて昇温し、エステル化反応を進行させた。その後、更に250℃まで30分かけて昇温し、そこから20分かけて0.5Torr(即ち66.5Pa)まで減圧して、メタノール、過剰の1,4−ブタンジオール、及びその他の低沸分を留出させながら重縮合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出した。その後、ストランドをペレタイズして樹脂ペレットを得た。
(原料)
テレフタル酸ジメチル;2204g(40モル%)
1,4−ブタンジオール;1535g(60モル%)
金属塩系触媒(チタン酸ブチル触媒);1250mg
【0062】
[実施例2]
PBT樹脂の代わりにLCP樹脂1を用いたこと、及びシリンダー温度を350℃としたこと以外は実施例1と同様にしてペレットを作製した。なお、LCP樹脂は以下のようにして合成した。
【0063】
[LCP樹脂1の合成]
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた(アシル化反応)。その後、更に340℃まで4.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら重縮合を行った(重縮合反応)。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出した。その後、ストランドをペレタイズして樹脂ペレットを得た。得られた樹脂ペレットについて、窒素気流下、300℃で2時間の熱処理を行って、目的のポリマーを得た。
(原料)
4−ヒドロキシ安息香酸(HBA);1380g(60モル%)
2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸(HNA);157g(5モル%)
テレフタル酸(TA);484g(17.5モル%)
4,4’−ジヒドロキシビフェニル(BP);388g(12.5モル%)
4−アセトキシアミノフェノール(APAP);160g(5モル%)
金属塩系触媒(酢酸カリウム触媒);110mg
アシル化剤(無水酢酸);1659g
【0064】
[実施例3]
フレーク状シリカ1の使用量を18.8質量部としたこと、及びマイカを6.3質量部添加したこと以外は実施例2と同様にしてペレットを作製した。
【0065】
[比較例1〜2]
実施例1〜2におけるフレーク状シリカ1を、以下に示すガラスバルーンに代えたこと以外はそれぞれ実施例1〜2と同様にしてペレットを作製した。すなわち、比較例1においてはPBT樹脂が使用され、比較例2においてはLCP樹脂が使用されている。
・ガラスバルーン:Y12000((株)セイシン企業製、メジアン径35μm)
【0066】
[比較例3]
実施例1におけるフレーク状シリカ1を、以下に示すマイカに代えたこと以外は実施例1と同様にしてペレットを作製した。
・マイカ:AB−25S((株)ヤマグチマイカ製、メジアン径22μm)
【0067】
[比較例4〜5]
実施例1〜2におけるフレーク状シリカ1を、以下に示すタルクに代えたこと以外はそれぞれ実施例1〜2と同様にしてペレットを作製した。すなわち、比較例4においてPBT樹脂が使用され、比較例5においてLCP樹脂が使用されている。
・タルク:クラウンタルクPP(松村産業(株)製、メジアン径14μm)
【0068】
[比較例6]
実施例1におけるフレーク状シリカ1を、上記フレーク状シリカ2に代えたこと以外は実施例1と同様にしてペレットを作製した。
【0069】
[実施例4]
PBT樹脂の代わりにLCP樹脂2を用いたこと、及びシリンダー温度を370℃としたこと以外は実施例1と同様にしてペレットを作製した。なお、LCP樹脂2は以下のようにして合成した。
【0070】
[LCP樹脂2の合成]
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で2時間反応させた(アシル化反応)。その後、更に360℃まで5.3時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら重縮合を行った(重縮合反応)。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出した。その後、ストランドをペレタイズして樹脂ペレットを得た。得られた樹脂ペレットについて、窒素気流下、300℃で8時間の熱処理を行って、目的のポリマーを得た。
(原料)
4−ヒドロキシ安息香酸(HBA);37g(2モル%)
2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸(HNA);1218g(48モル%)
テレフタル酸(TA);560g(25モル%)
4,4’−ジヒドロキシビフェニル(BP);628g(25モル%)
金属塩系触媒(酢酸カリウム触媒);330mg
アシル化剤(無水酢酸);1432g
【0071】
[実施例5]
フレーク状シリカ1の使用量を18.8質量部としたこと、及びマイカを6.3質量部添加したこと以外は実施例4と同様にしてペレットを作製した。
【0072】
[実施例6]
フレーク状シリカ1の使用量を18.8質量部としたこと、及びマイカを13.3質量部添加したこと以外は実施例4と同様にしてペレットを作製した。
【0073】
[比較例7]
実施例4におけるフレーク状シリカ1を、ガラスバルーンに代えたこと以外は実施例4と同様にしてペレットを作製した。
【0074】
[比較例8]
フレーク状シリカ1の代わりにマイカを32.4質量部添加したこと、及び以下に示すミルドファイバーを14.7質量部添加したこと以外は実施例4と同様にしてペレットを作製した。
・ミルドファイバー:PF70E001(日東紡(株)製、平均繊維径10μm、平均繊維長70μm(メーカー公称値))
【0075】
[評価]
各実施例・比較例で得られたペレットを用い、以下に示す評価を行った。
(1)比誘電率
得られたペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE−100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、80mm×80mm×1mmの平板状試験片を作製した。図1に示す通り、平板状試験片の中央から流動直角方向に80mm×1mm×1mmの試験片を切り出し、これを比誘電率測定用試験片とした。この試験片について、(株)関東電子応用開発製の以下の構成の空洞共振器摂動法複素誘電率評価装置を用いて、1GHzでの比誘電率を測定した。測定結果を表2に示す。
スカラーネットワークアナライザー:アジレントテクノロジー8757D
周波数シンセサイザー:アジレントテクノロジー 83650LスイープCWジェネレータ
固定減衰器:アジレントテクノロジー85025Dディテクター
空洞共振器:関東電子応用開発CP431
測定プログラム:関東電子応用開発CPMA−S2/V2
〔成形条件〕
シリンダー温度:
PBT樹脂:270℃
LCP樹脂1:350℃
LCP樹脂2:370℃
金型温度:
PBT樹脂:90℃
LCP樹脂1:90℃
LCP樹脂2:90℃
射出速度:33mm/sec
保圧:
PBT樹脂:90MPa
LCP樹脂1:50MPa
LCP樹脂2:50MPa
【0076】
(2)曲げ強度、曲げ弾性率
得られたペレットを、成形機(住友重機械工業社製 「SE−100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、80mm×10mm×4mmの曲げ試験片を作製した。この試験片を用いて、ISO178に準拠し、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。測定結果を表2に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度:
PBT樹脂:260℃
LCP樹脂1:350℃
LCP樹脂2:370℃
金型温度:
PBT樹脂:80℃
LCP樹脂1:90℃
LCP樹脂2:90℃
射出速度:33mm/sec
保圧:50MPa
【0077】
(3)反り量(平面度)
得られたペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE−100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、80mm×80mm×1mmの平板状試験片を5枚作製した。1枚目の平板状試験片を水平面に静置し、(株)ミツトヨ製のCNC画像測定機(型式:QVBHU404−PRO1F)を用いて、上記平板状試験片上の9箇所において、上記水平面からの高さを測定し、得られた測定値から平均の高さを算出した。高さを測定した位置は、平板状試験片の主平面上に、この主平面の各辺からの距離が3mmとなるように、一辺が74mmの正方形を置いたときに、この正方形の各頂点、この正方形の各辺の中点、及びこの正方形の2本の対角線の交点に該当する位置である。上記水平面からの高さが上記平均の高さと同一であり、上記水平面と平行な面を基準面とした。上記9箇所で測定された高さの中から、基準面からの最大高さと最小高さとを選択し、両者の差を算出した。同様にして、他の4枚の平板状試験片についても上記の差を算出し、得られた5個の値を平均して、反り量(平面度)の値とした。結果を表2に示す。
〔成形条件〕
シリンダー温度:
PBT樹脂:270℃
LCP樹脂1:350℃
LCP樹脂2:370℃
金型温度:
PBT樹脂:90℃
LCP樹脂1:90℃
LCP樹脂2:90℃
射出速度:33mm/sec
保圧:
PBT樹脂:90MPa
LCP樹脂1:50MPa
LCP樹脂2:50MPa
【0078】
(4)金属密着性(めっき密着性)
得られたペレットを、成形機(住友重機械工業(株)製 「SE−100DU」)を用いて、以下の成形条件で成形し、80mm×80mm×1mmの平板状試験片を作製した。この試験片上に真空蒸着機を用いて、処理時間30秒でアルミニウムを真空蒸着めっきし、めっき試験片を得た。得られためっき試験片をアセトン中で30分間、超音波洗浄した後、顕微鏡観察を行い、画像処理ソフトを用いて、めっきが剥がれた面積を算出し、金属密着性を以下の基準に従って評価した。
(評価基準)
1(優):めっきが剥がれた面積が2.5%以下であった。
2(良):めっきが剥がれた面積が2.5%超5%以下であった。
3(不良):めっきが剥がれた面積が5%超であった。
〔成形条件〕
シリンダー温度:
PBT樹脂:260℃
LCP樹脂1:350℃
LCP樹脂2:370℃
金型温度:
PBT樹脂:80℃
LCP樹脂1:90℃
LCP樹脂2:90℃
射出速度:33mm/sec
保圧:50MPa
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
表2及び表3より、実施例1〜2、4においてはいずれも、それぞれ同じ樹脂を用いた比較例との比較において、比誘電率が低く、反りが小さく、曲げ強度及び曲げ弾性率のいずれも大きく、金属密着性も良好であることが分かる。すなわち、フレーク状シリカのみを用いることで、低誘電率、低反り、高い機械強度、及び優れた金属密着性のすべてを満足し得る熱可塑性樹脂組成物が得られた。なお、実施例1〜6はポリエステル樹脂(PBT樹脂、LCP樹脂)を用いているが、当該樹脂の分解が生じることがなかった。また、フレーク状シリカとマイカとを併用した実施例3、5、6は、特に低反り、金属密着性において実施例2、4よりも良好な結果が得られた。
一方、比較例1〜5、7、8においてはいずれも、低誘電率、低反り、機械強度、及び金属密着性のすべてを同時に良好な結果とすることはできなかった。なお、比較例6は、試験片の成形することすらできなかったため、いずれの評価もできなかった。
図1