特許第6976554号(P6976554)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976554
(24)【登録日】2021年11月12日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】接着剤および接合方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/00 20060101AFI20211125BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20211125BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20211125BHJP
   C09J 5/06 20060101ALI20211125BHJP
   C09J 163/00 20060101ALN20211125BHJP
【FI】
   C09J201/00
   C09J11/04
   C09J11/06
   C09J5/06
   !C09J163/00
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-167184(P2017-167184)
(22)【出願日】2017年8月31日
(65)【公開番号】特開2019-44041(P2019-44041A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】島本 太介
(72)【発明者】
【氏名】堀田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】堀口 潤
(72)【発明者】
【氏名】太田 アウン
(72)【発明者】
【氏名】中村 真一郎
【審査官】 澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−158988(JP,A)
【文献】 特表2001−522915(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0034231(US,A1)
【文献】 特開2008−156510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波の照射によって硬化する接着剤であって、
熱硬化性樹脂と、
炭素繊維と、を含有し、
前記炭素繊維の平均長さが、35μm以上200μm以下であり、
前記接着剤の全量を100体積%としたとき、前記炭素繊維の含有量は、0.体積%以上20体積%以下であることを特徴とする接着剤。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂が、硬化剤を含む請求項に記載の接着剤。
【請求項3】
熱硬化性樹脂と炭素繊維とを含有する接着剤にマイクロ波を照射して、前記接着剤を硬化させる工程を含み、
前記炭素繊維の平均長さが、35μm以上200μm以下であり、
前記接着剤の全量を100体積%としたとき、前記炭素繊維の含有量は、0.体積%以上20体積%以下であることを特徴とする接合方法。
【請求項4】
前記マイクロ波の波長が、300MHz以上3000MHz以下である請求項に記載の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤および接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂や樹脂複合材料などの樹脂材料同士の接合には、一般に、熱硬化性接着剤が使用されている。接着剤を用いて樹脂材料同士などを接合させる場合、熱風炉などを用いて接着剤を高温で長時間加熱して硬化させるため、エネルギー消費量が大きい。
【0003】
そこで、樹脂材料同士の接合時におけるエネルギー消費量を低減しながら、接着剤を硬化させる方法として、例えば、マイクロ波を利用する方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、マイクロ波を吸収して発熱するマイクロ波吸収物質と、接着成分とを含有し、マイクロ波吸収物質としてカーボンブラックまたはSiCを用いた接着剤が開示されている。この接着剤にマイクロ波を照射して硬化させることにより、接着接合が適用し難い構造体も低コストで接着できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−156510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の接着剤では、硬化速度を早めて、接着時間を短縮することについては記載されていない。樹脂材料同士を効率的に接合させるためには、接着剤をより早期に硬化させることが重要である。
【0007】
本発明の一態様は、樹脂材料同士をより短時間で接合することができる接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様における接着剤は、マイクロ波の照射によって硬化する接着剤であって、熱硬化性樹脂と、炭素繊維と、を含有し、前記炭素繊維の平均長さが、35μm以上200μm以下であり、前記接着剤の全量を100体積%としたとき、前記炭素繊維の含有量は、0.体積%以上20体積%以下である。
【0009】
本発明の一態様における接合方法は、熱硬化性樹脂と炭素繊維とを含有する接着剤にマイクロ波を照射して、前記接着剤を硬化させる工程を含み、前記炭素繊維の平均長さが、35μm以上200μm以下であり、前記接着剤の全量を100体積%としたとき、前記炭素繊維の含有量は、0.体積%以上20体積%以下である。

【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、樹脂材料同士をより短時間で接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1−1、1−2および比較例1−1〜1−4の接着剤の硬化度の測定結果を示す図である。
図2図2は、実施例1−1、1−2および比較例1−1〜1−4の接着剤の接着強度の測定結果を示す図である。
図3図3は、実施例2−1〜2−4および比較例2−1の接着剤の硬化度の測定結果を示す図である。
図4図4は、実施例3−1、3−2および比較例3−1〜3−5の接着剤の曲げ強度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明による実施の形態について説明する。
【0013】
<接着剤>
本発明の実施形態に係る接着剤について説明する。本実施形態に係る接着剤は、熱硬化性樹脂と、炭素繊維とを有する。
【0014】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ビスマレイミド系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン・尿素・フェノールなどのアミノ系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、より短時間で硬化可能である点から、エポキシ系樹脂などが好ましい。
【0015】
上記エポキシ系樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、可撓性エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、アクリル酸変性エポキシ樹脂などが挙げられる。エポキシ系樹脂として、これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
炭素繊維は、熱硬化性樹脂中に分散した状態で含まれている。炭素繊維は、マイクロ波が照射されると、マイクロ波を吸収して発熱する性質を有する。
【0017】
炭素繊維としては、ピッチ(PITCH)系炭素繊維、またはポリアクリルニトリル(PAN)系炭素繊維を1種単独、または2種以上を混合して使用することができる。
【0018】
ピッチ系炭素繊維は、石油、石炭、コールタールなどの副生成物(PITCH)を原料として生成した炭素繊維である。PAN系炭素繊維は、PANを主成分とする合成繊維を原料として生成した炭素繊維である。ピッチ系炭素繊維は、PAN系炭素繊維に比べて熱伝導率が高いという特徴を有する。PAN系炭素繊維は、強度が高く、樹脂などと混合させた際にも切れ難いという特徴を有する。接着剤を硬化させる際には、熱硬化性樹脂への熱伝導率を向上させる観点から、PAN系炭素繊維よりもピッチ系炭素繊維を用いることが好ましい。また、炭素繊維として、ピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維とを併用することで、接着剤の硬化を促進することができると共に、接着剤を硬化させた硬化体の強度を高めることができる。
【0019】
炭素繊維の平均長さは、35μm以上200μm以下であることが好ましい。炭素繊維の平均長さが35μm以上であれば、接着剤はマイクロ波を効率的に吸収できるため、硬化を促進できる。炭素繊維の平均長さが200μm以下であれば、接着剤の粘度が抑えられるため、接着剤は被着体の表面または被着体間への塗布を安定して行うことができる。炭素繊維の平均長さは、より好ましくは40μm以上150μm以下である。
【0020】
本実施形態において、炭素繊維の平均長さは、中央値をいう。炭素繊維の平均長さは、例えば、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡などで、炭素繊維を複数(例えば、1000本程度)観察して、計測した炭素繊維の長さの平均値をいう。
【0021】
炭素繊維は、接着剤の全量を100体積%としたとき、0.1体積%以上20体積%以下含まれている。炭素繊維の含有量が0.1体積%未満であると、接着剤が十分に硬化せず、十分な接着強度が得られない可能性がある。炭素繊維の含有量が20体積%を超えると、接着剤の粘度が高くなるので、接着剤は被着体の表面または被着体同士の間に塗布し難くなる。炭素繊維は、接着剤の全量を100体積%としたとき、5体積%以上20体積%以下含まれていることが好ましい。
【0022】
本実施形態に係る接着剤は、熱硬化性樹脂および炭素繊維を主成分として含み、さらに硬化剤を含むことができる。
【0023】
硬化剤は、熱硬化性樹脂と共に加熱したときに熱硬化性樹脂の主剤を硬化させる。硬化剤は、熱硬化性樹脂用の硬化剤であれば、特に限定されず、公知のものを使用することができる。硬化剤として、例えば、カルボキシル基、またはカルボン酸無水物基を有するカルボン酸系硬化剤(酸無水物系硬化剤);アミノ基、アミド基、ケトイミン基、イミダゾール基、ジシアンジアミド基などを有するアミン系硬化剤;またはフェノールノボラックなどのフェノール基を有するフェノール系硬化剤;などを使用することができる。
【0024】
酸無水物系硬化剤の具体例としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物、2,3−ナフタレンジカルボン酸無水物などが挙げられる。これらは単独または2種以上混合して使用することができる。
【0025】
アミン系硬化剤の具体例としては、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、m−キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン;イソフォロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサンなどの脂環式ポリアミン;N−アミノエチルピペラジン、1,4−ビス(2−アミノ−2−メチルプロピル)ピペラジンなどのピペラジン型のポリアミン;ジエチルトルエンジアミン、ジメチルチオトルエンジアミン、4,4'−ジアミノ−3,3'−ジエチルジフェニルメタン、ビス(メチルチオ)トルエンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチルトルエンジアミン、トリメチレンビス(4−アミノベンゾエート)、ポリテトラメチレンオキシド−ジ−p−アミノベンゾエートなどの芳香族ポリアミン類が挙げられる。また、市販品として、jERキュア ST−11(商品名、三菱ケミカル社製)などが挙げられる。これらは単独または2種以上混合して使用することができる。
【0026】
フェノール系硬化剤の具体例としては、フェノール性水酸基を有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を指し、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル(フェニレン、ビフェニレン骨格を含む)樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリフェノールメタン樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂などが挙げられる。これらは単独または2種以上混合して使用することができる。
【0027】
硬化剤の配合量は、熱硬化性樹脂や炭素繊維の種類や配合量に応じて適宜設定されると共に、硬化剤が通常使用される範囲内において成形条件や特性などに応じて適宜設定される。
【0028】
本実施形態に係る接着剤は、上記成分の他に、必要に応じて、公知の各種添加剤を含んでもよい。
【0029】
添加剤としては、例えば、軟化剤、老化防止剤、安定剤、接着促進剤、レベリング剤、消泡剤、可塑剤、無機フィラー、粘着付与性樹脂、可使用時間延長剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤、防黴剤、増粘剤、可塑剤、顔料などの着色剤、充填剤などを併用してもよい。
【0030】
接着剤の塗布方法は、特に限定されるものでなく、公知の方法を用いることができる。接着剤の塗布方法として、例えば、グラビアコート、ロールコート、スピンコート、リバースコート、バーコート、スクリーンコート、ブレードコート、エアーナイフコート、ディッピング、ディスペンシングなどの方法を用いることができる。
【0031】
本実施形態に係る接着剤の調製方法としては、1液型、または2液型のいずれをも採用可能である。なお、1液型の調製方法とは、すべての配合成分を予め配合したのち密封保存し、施工後空気中の湿気により硬化するものをいう。2液型の調製方法とは、硬化剤および溶媒と、必要に応じて、充填剤や可塑剤などの成分を配合しておき、主剤と硬化剤とを施工前に混合するものをいう。
【0032】
接着剤が1液型の場合、全ての成分が予め配合されているため、接着剤中に水分が存在すると貯蔵中に硬化が進行することがある。そこで、水分を含有する成分を予め脱水乾燥してから添加するか混合した状態で減圧するなどにより、脱水するのが好ましい。
【0033】
接着剤が2液型の場合、主剤に硬化剤を配合する必要があるので接着剤中には若干の水分が含有されていても硬化の進行(ゲル化)の心配は少ないが、長期間の貯蔵安定性が必要とされる場合は、脱水乾燥するのが好ましい。
【0034】
本実施形態に係る接着剤を用いて被着体を接合する接合方法について説明する。接着剤を一方の被着体の接着面に塗布する。接着剤の塗布方法は、上述と同様の方法を用いることができる。その後、他方の被着体を一方の被着体の接着面に接着剤を介して張り合わせる。その後、被着体同士の間に介在させた接着剤にマイクロ波を照射して、接着剤を硬化させる。これにより、接着剤が硬化した硬化体を得ることができる。
【0035】
接着剤に照射するマイクロ波の波長は、300MHz以上3000MHz以下であることが好ましい。マイクロ波の波長が上記範囲内であれば、接着剤にマイクロ波を照射した際、接着剤を全体としてほぼ均一に加熱することができる。
【0036】
本実施形態に係る接着剤は、熱硬化性樹脂および炭素繊維を含み、炭素繊維の含有量を、接着剤の全量を100体積%としたとき、0.1体積%以上20体積%以下としている。接着剤にマイクロ波を照射することによって、炭素繊維から熱が生じる。この炭素繊維から生じる熱により熱硬化性樹脂の硬化を促進することができるので、熱硬化性樹脂の硬化を早めることができる。これにより、接着剤を、より短時間、例えば、従来の接着剤で推奨されている硬化時間の1/10以下の加熱時間(例えば、50秒以下)で硬化させることができる。よって、本接着剤は、樹脂材料同士をより短時間で安定して接合することができる。
【0037】
本実施形態に係る接着剤は、マイクロ波が照射されることで、硬化度を90%以上100%以下とすることができ、好ましくは、92%以上100%以下である。
【0038】
接着剤の硬化体の硬化度は、公知の方法を用いて評価することができる。例えば、示差走査熱量計を用いて、被着体に塗布した接着剤の加熱硬化に必要な総発熱量を測定する。その後、加熱硬化処理を行った後の接着剤を被着体から回収し、示差走査熱量計を用いて残留発熱量を測定する。硬化度(%)は、下記式(1)より求められる。
硬化度(%)=(総発熱量−残留発熱量)/総発熱量×100 ・・・(1)
【0039】
また、本実施形態に係る接着剤は、マイクロ波が照射されることで、熱硬化性樹脂の硬化を促進することができるので、硬化体の接着強度を、接着剤に炭素繊維を含まれない場合と比較して、例えば、2倍〜5倍程度高めることができる。
【0040】
本接着剤の硬化体の接着強度は、例えば、2つの被着体のうちの一方の被着体の端部に接着面が所定の範囲(例えば、100mm)となるように接着剤を塗布する。その後、一方の被着体の接着面に他方の被着体を重ね合わせた後、接着剤を加熱硬化させる。その後、万能試験機(例えば、AG−IS、島津製作所社製)を用いて、予め2つの被着体に取り付けたタブに万能試験機の引張り治具を引掛け、2つの被着体を反対方向に、引張速度1mm/分、27℃で条件にて引っ張る。2つの被着体が剥離した時の最大応力を、接着面(例えば、100mm)で除することで、接着強度が求められる。
【0041】
さらに、本実施形態に係る接着剤は、熱硬化性樹脂中に所定量の炭素繊維を含んでいるので、接着剤は繊維強化されている。そのため、本接着剤の硬化体は、接着剤に炭素繊維を含まれない場合と比較して、曲げ強度を高めることができる。
【0042】
接着剤の曲げ強度を評価する方法としては、JIS K 7171に準拠して行うことで、接着剤の硬化体の曲げ強度が求められる。
【0043】
本実施形態に係る接着剤は、上記のような特性を有することから、自動車や鉄道などの車両用部品、または航空機用部品などに好適に用いることができる。本実施形態に係る接着剤を、車両や航空機などに用いられる樹脂や炭素繊維強化樹脂、ガラス繊維強化樹脂などに用いることで、車両用部品や航空機用部品を短時間で製造することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例を示して実施形態を更に具体的に説明するが、実施形態はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>
[実施例1−1]
(接着剤の作製)
平均長さが約113μmの炭素繊維(XN−90C、日本グラファイトファイバー社製)をエポキシ系接着剤(PM−4、東都化学工業社製)に約5体積%混ぜて、接着剤を作製した。
(硬化体の作製)
炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料(BONDLAMINATES製)を用いてタブ付きに成形して、被着体を2つ準備した。タブ以外の被着体の大きさは、厚さ1mm×60mm×10mmとした。2つの被着体の片方の端部(10mm×10mm)に、上記の接着剤を約0.04g塗布して、被着体同士を重ね合わせた。その後、800Wで30秒間マイクロ波を接着剤に照射して、接着剤を加熱して硬化させ、硬化体を得た。
【0046】
(硬化体の硬化度および硬化強度の確認)
硬化体の硬化度および硬化強度は、以下の方法により、確認した。
(硬化体の硬化度の確認)
初めに、示差走査熱量計を用いて接着剤の加熱硬化に必要な総発熱量を測定した。加熱硬化処理を行った後の接着剤を被着体から回収し、示差走査熱量計を用いて残留発熱量を測定した。下記式(1)の通り、総発熱量から残留発熱量を引いた値を総発熱量で除し、100を乗じることによって、接着剤の硬化度を求めた。硬化度を測定した結果を図1に示す。
硬化度(%)=(総発熱量−残留発熱量)/総発熱量×100 ・・・(1)
(硬化体の接着強度の確認)
まず、2つの被着体の接着剤を塗布した端部とは別の端部にタブ(厚さ1mm×20mm×10mm)を貼り付けた。その後、貼り付けたタブを万能試験機の引張り治具で掴んだ後、2つの被着体を反対方向に引っ張った。接着した2つの被着体が剥離した最大応力を、接着面100mmで除することで、硬化体の接着強度を求めた。接着強度を測定した結果を図2に示す。
【0047】
[実施例1−2]
実施例1−1において、炭素繊維の添加量を20体積%に変更したこと以外は、実施例1−1と同様にして硬化体を作製し、硬化体の硬化度および接着強度を測定した。硬化体の硬化度を測定した結果を図1に示し、硬化体の接着強度を測定した結果を図2に示す。
【0048】
[比較例1−1]
実施例1−1において、接着剤に炭素繊維粉末を加えない(0体積%)こと以外は、実施例1−1と同様にして硬化体を作製し、硬化体の硬化度および接着強度を測定した。硬化体の硬化度を測定した結果を図1に示し、硬化体の接着強度を測定した結果を図2に示す。
【0049】
[比較例1−2〜1−4]
実施例1−1、1−2、比較例1−1において、それぞれ、電気オーブンで接着剤を135℃で30秒間加熱することに変更したこと以外は、実施例1−1、1−2、比較例1−1と同様にして硬化体を作製し、硬化体の硬化度および接着強度を測定した。硬化体の硬化度を測定した結果を図1に示し、硬化体の接着強度を測定した結果を図2に示す。
【0050】
上記各実施例および比較例の熱硬化性樹脂の種類、炭素繊維の含有量および平均長さ、加熱条件、ないし硬化体の硬化度および接着強度を表1、図1および図2にまとめた。
【0051】
【表1】
【0052】
表1、図1、および図2に示すように、実施例1−1および1−2の接着剤では、硬化体の硬化度は約94%以上、接着強度は約2.3MPa以上であり、接着剤は硬化していた。これに対し、比較例1−1の接着剤では、硬化体の硬化度は約90%、接着強度は約0.7MPa以下であった。よって、接着剤の加熱にマイクロ波を使用しても、接着剤に炭素繊維が含まれていないと、硬化体は高い接着強度を有しないことが確認された。
【0053】
また、比較例1−2および2−3の接着剤では、硬化体の硬化度は約4%以下、接着強度は約0.003MPa以下であり、接着剤は硬化していなかった。よって、炭素繊維を含む接着剤にマイクロ波を照射して接着剤を硬化させれば、電気オーブンで接着剤を加熱した場合と比較して、被着体をより短時間で高強度に接着させることができるといえることが確認された。
【0054】
<実施例2>
[実施例2−1]
(接着剤の作製)
ピッチ系炭素繊維(XN−90C、日本グラファイトファイバー株式会社製)をミキサで粉砕し、平均長さを約36μmにした。接着剤の主剤である熱硬化性樹脂としてエポキシ系樹脂(jER827(登録商標)、三菱化学社製)と、硬化剤としてjERキュアST−11(三菱化学社製)を用いた。主剤および硬化剤中に炭素繊維を約0.1体積%混合し、接着剤を作製した。
(硬化体の作製)
被着体として、20mm角の厚さ1.5mmのシリコンゴムシートに、直径15mmの穴を空けたもう1枚の20mm角のシリコンゴムシートを重ね合わせてモールドを作製した。このモールドに、約0.3gの接着剤を入れて、800Wで50秒間マイクロ波を照射することで、接着剤を加熱硬化させ、硬化体を得た。
(硬化体の硬化度の確認)
2つの被着体を接着剤で接着して得られた接着構造体を用いて、硬化体の硬化度を求めた。硬化体の硬化度は、上記実施例1と同様の方法を用いて測定した。硬化度を測定した結果を図1に示す。
【0055】
[実施例2−2]
実施例2−1において、用いた炭素繊維の平均長さを約36μmから約113μmに変更したこと以外は、実施例2−1と同様にして硬化体を作製し、硬化度を測定した。硬化度を測定した結果を図3に示す。
【0056】
[実施例2−3]
実施例2−1において、用いた硬化剤をjERキュアST−11から4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物(4MCDA)に変更し、炭素繊維の添加量を0.1体積%から0.5体積%に変更し、マイクロ波の照射条件を800Wで50秒から480Wで50秒間に変更したこと以外は、実施例2−1と同様にして硬化体を作製し、硬化度を測定した。硬化度を測定した結果を図3に示す。
【0057】
[実施例2−4]
実施例2−1において、硬化剤をjERキュアST−11から4MCDAに変更し、用いた炭素繊維の平均長さを約36μmから約113μmに変更し、炭素繊維の添加量を0.1体積%から0.5体積%に変更し、マイクロ波の照射条件を800Wで50秒から480Wで50秒間に変更したこと以外は、実施例2−1と同様にして硬化体を作製し、硬化度を測定した。硬化度を測定した結果を図3に示す。
【0058】
[比較例2−1]
実施例2−1において、硬化剤をjERキュアST−11から4MCDAに変更し、用いた炭素繊維の平均長さを約36μmから約13μmに変更し、炭素繊維の添加量を0.1体積%から0.5体積%に変更し、マイクロ波の照射条件を800Wで50秒から480Wで50秒間に変更したこと以外は、実施例2−1と同様にして硬化体を作製し、硬化度を測定した。硬化度を測定した結果を図3に示す。
【0059】
上記各実施例および比較例の熱硬化性樹脂の種類、炭素繊維の含有量および平均長さ、硬化剤の種類、マイクロ波照射条件、ないし硬化度を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2および図3に示すように、炭素繊維の平均長さが36μmまたは113μmである実施例2−1〜実施例2−4の接着剤では、いずれも硬化体の硬化度は約92%以上であり、接着剤は硬化していた。これに対し、炭素繊維の平均長さが13μmである比較例2−1の接着剤では、硬化体の硬化度は約66%であり、接着剤が硬化していなかった。よって、炭素繊維の平均長さが35μm以上であれば、硬化剤の種類に関わらず、効率よくマイクロ波を吸収して接着剤を加熱して硬化させるのに寄与するといえることが確認された。
【0062】
<実施例3>
[実施例3−1]
(硬化体の作製)
長さが約113μmの炭素繊維(XN−90C、日本グラファイトファイバー社製)をエポキシ系接着剤(PM−4、東京化学工業製)に約20体積%混ぜて、接着剤を作製した。
(硬化体の作製)
接着剤を、金型(4mm×10mm×80mm)を用いて135℃で5分間プレス成形した。その後、135℃になるようにマイクロ波の出力を調節しながら接着剤にマイクロ波を5分間照射して、接着剤を加熱して硬化させ、硬化体を得た。
(硬化体の曲げ強度の確認)
JIS K 7171に従って、3点曲げ試験を行い、硬化体の曲げ強度を測定した。硬化体の曲げ強度を測定した結果を図4に示す。なお、図4中、白塗りは、接着剤にマイクロ波を照射して加熱した場合であり、破線は、電気オーブンを使用して接着剤を加熱した場合である。
【0063】
[実施例3−2]
実施例3−1において、接着剤にマイクロ波を照射する時間を5分から20分に変更したこと以外は、実施例3−1と同様にして硬化体を作製し、硬化体の曲げ強度を測定した。硬化体の曲げ強度を測定した結果を図4に示す。
【0064】
[比較例3−1]
実施例3−1において、電気オーブンで接着剤を135℃で5分間加熱して硬化させたこと以外は、実施例3−1と同様にして硬化体を作製し、硬化体の曲げ強度を測定した。硬化体の曲げ強度を測定した結果を図4に示す。
【0065】
[比較例3−2]
実施例3−1において、電気オーブンで接着剤を135℃で20分間加熱して硬化させたこと以外は、実施例3−1と同様にして硬化体を作製し、硬化体の曲げ強度を測定した。硬化体の曲げ強度を測定した結果を図4に示す。
【0066】
[比較例3−3〜3−5]
実施例3−1において、接着剤に炭素繊維粉末を加えず(0体積%)、電気オーブンで接着剤を135℃で30分、60分、または90分間加熱して硬化させたこと以外は、実施例3−1と同様にして、それぞれ、硬化体を作製し、硬化体の曲げ強度を測定した。硬化体の曲げ強度を測定した結果を図4に示す。
【0067】
上記各実施例および比較例の熱硬化性樹脂の種類、炭素繊維の含有量および平均長さ、加熱条件、ないし曲げ強度を表3および図4に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
表3、および図4に示すように、実施例3−1および3−2の接着剤では、硬化体の曲げ強度は約68MPa以上であった。これに対し、比較例3−1および3−2の接着剤では、硬化体の曲げ強度は約65MPa以下であった。よって、炭素繊維を含む接着剤にマイクロ波を照射して接着剤を硬化させれば、より短時間で曲げ強度が高い硬化体を得ることができるといえることが確認された。
【0070】
また、比較例3−3〜3−5の接着剤では、硬化体の曲げ強度は約66MPa以下であった。よって、炭素繊維を含む接着剤にマイクロ波を照射して接着剤を硬化させれば、電気オーブンで接着剤を加熱した場合と比較して、より短時間で曲げ強度が高い硬化体を得ることができるといえることが確認された。
【0071】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4