(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976678
(24)【登録日】2021年11月12日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】含フッ素化合物、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 323/52 20060101AFI20211125BHJP
C07C 319/20 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
C07C323/52CSP
C07C319/20
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-94698(P2016-94698)
(22)【出願日】2016年5月10日
(65)【公開番号】特開2017-202989(P2017-202989A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2019年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】原 正治
【審査官】
伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/142308(WO,A1)
【文献】
特開2011−020924(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第109384695(CN,A)
【文献】
特開昭62−181230(JP,A)
【文献】
国際公開第01/096263(WO,A1)
【文献】
特開平03−193765(JP,A)
【文献】
KIM, Y. K. et al.,Journal of Heterocyclic Chemistry,1974年,Vol. 11,pp. 563-568
【文献】
FUCHIGAMI, T. et al.,Electrochimica Acta,1998年,Vol. 43,pp. 1985-1989
【文献】
HIGASHIYA, S. et al.,The Journal of Organic Chemistry,Vol. 64,1999年,pp. 133-137
【文献】
GOUAULT, S. et al.,Synlett,2002年,No. 6,pp. 996-998
【文献】
YIN, B. et al.,Synlett,2011年,No. 9,pp. 1313-1317
【文献】
CHUNGANG, M. et al.,Acta Optica Sinica,2014年,Vol. 34,pp. 1230002-1〜1230002-7
【文献】
ROZEN, S.,Advanced Synthesis & Catalysis,Vol. 352,2010年,pp. 2691-2707
【文献】
KIM, Y. K. et al.,Journal of Heterocyclic Chemistry,1974年,Vol. 11,pp. 563-568
【文献】
ERIAN, A. W. et al.,The Journal of Organic Chemistry,1995年,Vol. 60,pp. 7654-7659
【文献】
YUASA, H. et al.,Letters in Organic Chemistry,2008年,Vol. 5,pp. 262-264
【文献】
HIGASHIYA, S. et al.,The Journal of Organic Chemistry,1999年,Vol. 64,pp. 133-137
【文献】
FUCHIGAMI, T. et al.,The Journal of Organic Chemistry,1992年,Vol. 57,pp. 3755-3757
【文献】
SAKANASHI, T. et al.,Electrochemistry,2008年,No. 12,pp. 896-899
【文献】
ZHU, N. et al.,Journal of Combinatorial Chemistry,2010年,Vol. 12,pp. 531-540
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
R1−S−CFR2−CO−R3 (1)
[式中、
R1は、フルオロアルキル基(当該アルキルには、エーテル結合が挿入されていてもよい)。を表し、
R2は、水素原子、又はフッ素原子を表し、及び
R3は、ハロゲン原子、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族オキシ基、又は水酸基を表す。]
で表される化合物。
【請求項2】
R1は、フルオロアルキル基(当該アルキルには、エーテル結合が挿入されていてもよい)。であり、及び
R3は、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族オキシ基である
請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式(1):
R1−S−CFR2−CO−R3 (1)
[式中、
R1は、フルオロアルキル基(当該アルキルには、エーテル結合が挿入されていてもよい)。を表し、
R2は、水素原子、又はフッ素原子を表し、及び
R3は、ハロゲン原子、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族オキシ基、又は水酸基を表す。或いは、R1、及びR3が連結して1個以上の置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。]
で表される化合物の製造方法であって、
式(2):
R1−S−CH2−CO−R3 (2)
[式中の記号は前記と同意義を表す。]
で表される化合物
をBrF3と反応させる工程Aを含む製造方法。
【請求項4】
R1は、フルオロアルキル基(当該アルキルには、エーテル結合が挿入されていてもよい)。であり、及びR3は、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族オキシ基である請求項3に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素化合物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素化合物は、機能性材料、医農薬化合物、電子材料等の各種化学製品、その中間体等として極めて重要な化合物である。
従来から、フッ素化合物を得る方法としては、(1)フッ素ガス、フッ化水素、IF5等の様々なフッ素化剤を用いて各種の有機化合物をフッ素化するフッ素化法、及び(2)ビルディングブロック法が知られている。
前記のフッ素化剤であるIF5は、毒性、腐食性、反応時における爆発危険性等のために取り扱いが困難であるが、更に近年では、空気中で安定であり、取扱いが容易なIF5−ピリジン−HFも提供されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】S.Hara, M.Monoi, R.Umemura, C.Fuse, Tetrahedron, 2012, 68, 10145-10150
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規含フッ素化合物、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、フッ素樹脂との共重合成分原料等として有用であることができる新規化合物である、式(1):
R
1−S−CFR
2−CO−R
3 (1)
[式中、
R
1は、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族基、1個以上の置換基を有していてもよいアリール基、又は1個以上の置換基を有していてもよいヘテロ環基を表し、
R
2は、水素原子、又はフッ素原子を表し、及び
R
3は、ハロゲン原子、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族オキシ基、脂肪族アミノ基、又は脂肪族チオ基を表す。或いは、R
1、R
2、及びR
3のうちの2個、又は3個が互いに連結して1個以上の置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。]
で表される化合物(本明細書中、化合物(1)と称する場合がある。)を、
その原料化合物として式(2):
R
1−S−CH
2−CO−R
3 (2)
[式中の記号は前記と同意義を表す。]
で表される化合物(本明細書中、化合物(2)と称する場合がある。)を用いてフッ素化法で合成することを試みた。
【0006】
しかし、フッ素ガス等を用いたフッ素化法では、化合物(2)の硫黄原子の酸化やC−C結合の開裂が進行してしまい、化合物(1)を得ることができなかった。
【0007】
また、前記非特許文献1に記載の方法による合成では、フッ素化反応が進行せず、当該化合物を得ることはできなかった。
【0008】
また、ビルディングブロック法は、これにより生成できる化合物に制約があるので、そもそも化合物(1)の製造には採用できなかった。
【0009】
従って、化合物(1)の合成方法の発明には困難を極めたが、本発明者らは、驚くべきことに、多種多様なフッ素化剤の中でも、BrF
3を用いた場合には、化合物(1)が得られることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させた。本発明者らは、この成果が、硫黄原子の酸化ののちにカルボニルのα位の酸性度が高いことによる脱フッ化水素によって当該反応が進行し、しかし、更なる、反応生成物のC−C結合の開裂、及び酸化は進行しなかったものと推察しているが、当該推察は本発明を限定するものではない。
【0010】
本発明は、次の態様を含む。
【0011】
項1.
式(1):
R
1−S−CFR
2−CO−R
3 (1)
[式中、
R
1は、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族基、1個以上の置換基を有していてもよいアリール基、又は1個以上の置換基を有していてもよいヘテロ環基を表し、
R
2は、水素原子、又はフッ素原子を表し、及び
R
3は、ハロゲン原子、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族オキシ基、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族アミノ基、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族チオ基、又は水酸基を表す。或いは、R
1、R
2、及びR
3のうちの2個、又は3個が互いに連結して1個以上の置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。]
で表される化合物。
項2.
R
1は、パーフルオロ脂肪族基であり、及び
R
3は、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族オキシ基である
項1に記載の化合物。
項3.
項1に記載の化合物の製造方法であって、
式(2a):
R
1−S−CH
2−CO−R
3 (2a)
[式中の記号は前記と同意義を表す。]
で表される化合物
をBrF
3と反応させる工程Aを含む製造方法。
項4.
R
1は、パーフルオロ脂肪族基であり、及び
R
3は、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族オキシ基である
項3に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フッ素樹脂との共重合成分原料等として有用な、新規含フッ素化合物、及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
用語
本明細書中の記号及び略号は、特に限定のない限り、本明細書の文脈に沿い、本発明が属する技術分野において通常用いられる意味に理解できる。
本明細書中、語句「含有する」は、語句「から本質的になる」、及び語句「からなる」を包含することを意図して用いられる。
本明細書中、室温は、10〜40℃の範囲内の温度を意味する。
当業者が通常理解する通り、置換基等に併記される表記「Cn−m」(ここで、n、及びmは、数である。)は、当該置換基等の炭素数がn以上m以下であることを意味する。
【0014】
本明細書中、特に断りのない限り、「脂肪族基」(これは、脂肪族チオ基等の脂肪族部(aliphatic moiety)を包含する)は、飽和、又は不飽和の脂肪族基であることができる。
本明細書中、「脂肪族基」(及び脂肪族チオ基等の脂肪族部(aliphatic moiety))の例は、直鎖状、分枝鎖状、環状、又はこれらの組み合わせの構造を有するアルキル基;直鎖状、分枝鎖状、環状、又はこれらの組み合わせの構造を有するアルケニル基;及び直鎖状、分枝鎖状、環状、又はこれらの組み合わせの構造を有するアルキニル基を包含する。
【0015】
本明細書中、脂肪族基(及びこれに包含されるアルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基等)は、特に断りのない限り、エーテル結合が挿入されていていてもよい。すなわち、本明細書中、「アルキル基」は、エーテル結合が挿入されていてもよいアルキル基であることができ;「アルケニル基」は、特に断りのない限り、エーテル結合が挿入されていてもよいアルケニル基であることができ;及び「アルキニル基」は、特に断りのない限り、エーテル結合が挿入されていてもよいアルキニル基であることができる。
本明細書中、「アルキル基」の例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、及びオクチル等の、直鎖状又は分枝鎖状のC1−10アルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、及びシクロヘプチル等のC3−10シクロアルキル基;並びにこれらに1個以上のエーテル結合が挿入されている基を包含する。
【0016】
本明細書中、「アルケニル基」の例は、エテニル、1−プロペニル、2−プロペニル、2−メチル−1−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、3−メチル−2−ブテニル、1−ペンテニル、2−ペンテニル、3−ペンテニル、4−ペンテニル、4−メチル−3−ペンテニル、1−ヘキセニル、3−ヘキセニル、5−ヘキセニル、1−ヘプテニル、及び1−オクテニル等の、直鎖状又は分枝鎖状のC2−10アルキニル基;シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル等の、C3−10シクロアルケニル基;シクロブタジエニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル、シクロオクタジエニル、シクロノナジエニル、シクロデカジエニル等の、C4−10シクロアルカジエニル基;並びにこれらに1個以上のエーテル結合が挿入されている基を包含する。
【0017】
本明細書中、「アルキニル基」の例は、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、3−ブチニル、1−ペンチニル、2−ペンチニル、3−ペンチニル、4−ペンチニル、1−ヘキシニル、2−ヘキシニル、3−ヘキシニル、4−ヘキシニル、5−ヘキシニル、1−ヘプチニル、及び1−オクチニル等の、直鎖状又は分枝鎖状のC2−10アルキニル基;並びにシクロオクチニル基、及びシクロデシニル基等の、C4−10シクロアルキニル基;並びにこれらに1個以上のエーテル結合が挿入されている基を包含する。
【0018】
本明細書中、特に断りのない限り、「アリール基」は、単環性、2環性、3環性、又は4環性であることができる。
【0019】
本明細書中、特に断りのない限り、「アリール基」は、C6−18アリール基であることができる。
【0020】
本明細書中、「アリール基」の例は、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、2−ビフェニル、3−ビフェニル、4−ビフェニル、及び2−アンスリルを包含する。
【0021】
本明細書中、「ハロゲン原子」の例は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子を包含する。
【0022】
本明細書中、「脂肪族オキシ基」の例は、式:−OR(当該式中、Rは、脂肪族基である。)で表される基を包含する。その例は、アルコキシ基(例、C1−8(好ましくはC1−6)アルコキシ基)を包含する。
【0023】
本明細書中、「脂肪族オキシ基」の例は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、及びtert-ブトキシを包含する。
【0024】
本明細書中、「脂肪族アミノ基」特に断りのない限り、「脂肪族アミノ基」は、モノ、又はジ置換のアミノ基であることができる。
【0025】
本明細書中、「脂肪族アミノ基」の例は、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブトキシ基、及びtert-ブチルアミノ基等の、モノ、又はジC1−8アルキルアミノ基(好ましくは、モノ、又はジC1−6アルキルアミノ基)を包含する。
【0026】
本明細書中、「脂肪族チオ基」の例は、例えばメチルチオ、エチルチオ、カルバモイルメチルチオ、及びt−ブチルチオ等のC1−8(好ましくはC1−6)アルキルチオ基を包含する。
【0027】
本明細書中、「ヘテロ環基」は、非芳香族ヘテロ環基、又は芳香族ヘテロ環基であることができる。
【0028】
本明細書中、特に断りのない限り、「非芳香族ヘテロ環基」は、単環性、2環性、3環性、又は4環性であることができる。
【0029】
本明細書中、特に断りのない限り、「非芳香族ヘテロ環基」は、例えば、環構成原子として、炭素原子に加えて酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子から選ばれる1〜4個のヘテロ原子を含有する非芳香族ヘテロ環基である。
【0030】
本明細書中、特に断りのない限り、「非芳香族ヘテロ環基」は、飽和、又は不飽和であることができる。
【0031】
本明細書中、特に断りのない限り、「非芳香族ヘテロ環基」は、例えば、単環性、2環性、又は3環性、又は4環性の、5〜18員の非芳香族ヘテロ環基であることができる。
本明細書中、特に断りのない限り、「非芳香族ヘテロ環基」は、例えば、環構成原子として、炭素原子に加えて酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子から選ばれる1〜4個のヘテロ原子を含有する非芳香族ヘテロ環基である。当該「非芳香族ヘテロ環基」の炭素数は、例えば、3〜17であることができる。
【0032】
本明細書中、「非芳香族ヘテロ環基」の例は、テトラヒドロフリル、オキサゾリジニル、イミダゾリニル(例、1−イミダゾリニル、2−イミダゾリニル、4−イミダゾリニル)、アジリジニル(例、1−アジリジニル、2−アジリジニル)、アゼチジニル(例、1−アゼチジニル、2−アゼチジニル)、ピロリジニル(例、1−ピロリジニル、2−ピロリジニル、3−ピロリジニル)、ピペリジニル(例、1−ピペリジニル、2−ピペリジニル、3−ピペリジニル)、アゼパニル(例、1−アゼパニル、2−アゼパニル、3−アゼパニル、4−アゼパニル)、アゾカニル(例、1−アゾカニル、2−アゾカニル、3−アゾカニル、4−アゾカニル)、ピペラジニル(例、1,4−ピペラジン−1−イル、1,4−ピペラジン−2−イル)、ジアゼピニル(例、1,4−ジアゼピン−1−イル、1,4−ジアゼピン−2−イル、1,4−ジアゼピン−5−イル、1,4−ジアゼピン−6−イル)、ジアゾカニル(例、1,4−ジアゾカン−1−イル、1,4−ジアゾカン−2−イル、1,4−ジアゾカン−5−イル、1,4−ジアゾカン−6−イル、1,5−ジアゾカン−1−イル、1,5−ジアゾカン−2−イル、1,5−ジアゾカン−3−イル)、テトラヒドロピラニル(例、テトラヒドロピラン−4−イル)、モルホリニル(例、4−モルホリニル)、チオモルホリニル(例、4−チオモルホリニル)、2−オキサゾリジニル、ジヒドロフリル、ジヒドロピラニル、及びジヒドロキノリル等を包含する。
【0033】
本明細書中、特に断りのない限り、「芳香族ヘテロ環基」は、例えば、単環性、2環性、又は3環性、又は4環性の、5〜18員の芳香族ヘテロ環基であることができる。
本明細書中、特に断りのない限り、「芳香族ヘテロ環基」は、例えば、環構成原子として、炭素原子に加えて酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子から選ばれる1〜4個のヘテロ原子を含有する芳香族ヘテロ環基である。当該「芳香族ヘテロ環基」の炭素数は、例えば、3〜17であることができる。
本明細書中、特に断りのない限り、「芳香族ヘテロ環基」は、「単環性芳香族ヘテロ環基」、及び「芳香族縮合ヘテロ環基」を包含する。
【0034】
本明細書中、「単環性芳香族ヘテロ環基」の例は、ピロリル(例、1−ピロリル、2−ピロリル、3−ピロリル)、フリル(例、2−フリル、3−フリル)、チエニル(例、2−チエニル、3−チエニル)、ピラゾリル(例、1−ピラゾリル、3−ピラゾリル、4−ピラゾリル)、イミダゾリル(例、1−イミダゾリル、2−イミダゾリル、4−イミダゾリル)、イソオキサゾリル(例、3−イソオキサゾリル、4−イソオキサゾリル、5−イソオキサゾリル)、オキサゾリル(例、2−オキサゾリル、4−オキサゾリル、5−オキサゾリル)、イソチアゾリル(例、3−イソチアゾリル、4−イソチアゾリル、5−イソチアゾリル)、チアゾリル(例、2−チアゾリル、4−チアゾリル、5−チアゾリル)、トリアゾリル(例、1,2,3−トリアゾール−4−イル、1,2,4−トリアゾール−3−イル)、オキサジアゾリル(例、1,2,4−オキサジアゾール−3−イル、1,2,4−オキサジアゾール−5−イル)、チアジアゾリル(例、1,2,4−チアジアゾール−3−イル、1,2,4−チアジアゾール−5−イル)、テトラゾリル、ピリジル(例、2−ピリジル、3−ピリジル、4−ピリジル)、ピリダジニル(例、3−ピリダジニル、4−ピリダジニル)、ピリミジニル(例、2−ピリミジニル、4−ピリミジニル、5−ピリミジニル)、及びピラジニルを包含する。
【0035】
本明細書中、「芳香族縮合ヘテロ環基」の例は、イソインドリル(例、1−イソインドリル、2−イソインドリル、3−イソインドリル、4−イソインドリル、5−イソインドリル、6−イソインドリル、7−イソインドリル)、インドリル(例、1−インドリル、2−インドリル、3−インドリル、4−インドリル、5−インドリル、6−インドリル、7−インドリル)、ベンゾ[b]フラニル(例、2−ベンゾ[b]フラニル、3−ベンゾ[b]フラニル、4−ベンゾ[b]フラニル、5−ベンゾ[b]フラニル、6−ベンゾ[b]フラニル、7−ベンゾ[b]フラニル)、ベンゾ[c]フラニル(例、1−ベンゾ[c]フラニル、4−ベンゾ[c]フラニル、5−ベンゾ[c]フラニル)、ベンゾ[b]チエニル、(例、2−ベンゾ[b]チエニル、3−ベンゾ[b]チエニル、4−ベンゾ[b]チエニル、5−ベンゾ[b]チエニル、6−ベンゾ[b]チエニル、7−ベンゾ[b]チエニル)、ベンゾ[c]チエニル(例、1−ベンゾ[c]チエニル、4−ベンゾ[c]チエニル、5−ベンゾ[c]チエニル)、インダゾリル(例、1−インダゾリル、2−インダゾリル、3−インダゾリル、4−インダゾリル、5−インダゾリル、6−インダゾリル、7−インダゾリル)、ベンゾイミダゾリル(例、1−ベンゾイミダゾリル、2−ベンゾイミダゾリル、4−ベンゾイミダゾリル、5−ベンゾイミダゾリル)、1,2−ベンゾイソオキサゾリル(例、1,2−ベンゾイソオキサゾール−3−イル、1,2−ベンゾイソオキサゾール−4−イル、1,2−ベンゾイソオキサゾール−5−イル、1,2−ベンゾイソオキサゾール−6−イル、1,2−ベンゾイソオキサゾール−7−イル)、ベンゾオキサゾリル(例、2−ベンゾオキサゾリル、4−ベンゾオキサゾリル、5−ベンゾオキサゾリル、6−ベンゾオキサゾリル、7−ベンゾオキサゾリル)、1,2−ベンゾイソチアゾリル(例、1,2−ベンゾイソチアゾール−3−イル、1,2−ベンゾイソチアゾール−4−イル、1,2−ベンゾイソチアゾール−5−イル、1,2−ベンゾイソチアゾール−6−イル、1,2−ベンゾイソチアゾール−7−イル)、ベンゾチアゾリル(例、2−ベンゾチアゾリル、4−ベンゾチアゾリル、5−ベンゾチアゾリル、6−ベンゾチアゾリル、7−ベンゾチアゾリル)、イソキノリル(例、1−イソキノリル、3−イソキノリル、4−イソキノリル、5−イソキノリル)、キノリル(例、2−キノリル、3−キノリル、4−キノリル、5−キノリル、8−キノリル)、シンノリニル(例、3−シンノリニル、4−シンノリニル、5−シンノリニル、6−シンノリニル、7−シンノリニル、8−シンノリニル)、フタラジニル(例、1−フタラジニル、4−フタラジニル、5−フタラジニル、6−フタラジニル、7−フタラジニル、8−フタラジニル)、キナゾリニル(例、2−キナゾリニル、4−キナゾリニル、5−キナゾリニル、6−キナゾリニル、7−キナゾリニル、8−キナゾリニル)、キノキサリニル(例、2−キノキサリニル、3−キノキサリニル、5−キノキサリニル、6−キノキサリニル、7−キノキサリニル、8−キノキサリニル)、ピラゾロ[1,5−a]ピリジル(例、ピラゾロ[1,5−a]ピリジン−2−イル、ピラゾロ[1,5−a]ピリジン−3−イル、ピラゾロ[1,5−a]ピリジン−4−イル、ピラゾロ[1,5−a]ピリジン−5−イル、ピラゾロ[1,5−a]ピリジン−6−イル、ピラゾロ[1,5−a]ピリジン−7−イル)、イミダゾ[1,2−a]ピリジル(例、イミダゾ[1,2−a]ピリジン−2−イル、イミダゾ[1,2−a]ピリジン−3−イル、イミダゾ[1,2−a]ピリジン−5−イル、イミダゾ[1,2−a]ピリジン−6−イル、イミダゾ[1,2−a]ピリジン−7−イル、イミダゾ[1,2−a]ピリジン−8−イル)等を包含する。
【0036】
本明細書中、化合物、基又は部分(moiety)の名称における接頭語「パーフルオロ」は、通常の意味に用いられ、及び前記化合物、基又は部分における炭素原子に結合している水素原子の全てがフッ素原子に置換されていることを意味することができる。
【0037】
化合物
まず、本発明の化合物について説明する。
本発明は、前述の通り、式(1):
R
1−S−CFR
2−CO−R
3 (1)
[式中、
R
1は、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族基、1個以上の置換基を有していてもよいアリール基、又は1個以上の置換基を有していてもよい環基を表し、
R
2は、水素原子、又はフッ素原子を表し、及び
R
3は、ハロゲン原子、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族オキシ基、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族アミノ基、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族チオ基、又は水酸基を表す。或いは、R
1、R
2、及びR
3のうちの2個、又は3個が互いに連結して1個以上の置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。]
で表される化合物
を提供する。
【0038】
R
1で表される「1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族基」の置換基の例は、オキソ基(=O)、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ヒドロキシ基、及びカルボキシ基を包含する。
【0039】
R
1で表される「1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族基」の置換基の好適な例は、フッ素原子、及びシアノ基を包含する。
【0040】
R
1で表される「1個以上の置換基を有していてもよいアリール基」の置換基の例は、脂肪族基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ヒドロキシ基、及びカルボキシ基を包含する。
R
1で表される「1個以上の置換基を有していてもよいヘテロ環基」の置換基の例は、オキソ基(=O)、1個以上の置換基(例、ハロゲン原子)を有していてもよい脂肪族基、1個以上の置換基(例、ハロゲン原子)を有していてもよいアリール基、1個以上の置換基(例、ハロゲン原子)を有していてもよいヘテロ環基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ヒドロキシ基、及びカルボキシ基を包含する。
【0041】
R
1は、好ましくは、フルオロ(好ましくはパーフルオロ)脂肪族(好ましくはアルキル)基、より好ましくは、C1−10フルオロ(好ましくは、パーフルオロ)脂肪族(好ましくはアルキル)基、更に好ましくは、C1−5フルオロ(好ましくは、パーフルオロ)脂肪族(好ましくはアルキル)基、及びより更に好ましくはC1−3フルオロ(好ましくは、パーフルオロ)脂肪族(好ましくはアルキル)基である。
【0042】
R
3は、好ましくは、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族オキシ基(好ましくは、C1−10脂肪族オキシ基;より好ましくは、C1−7脂肪族オキシ基;及び更に好ましくは、C1−4脂肪族オキシ基)である。
【0043】
R
3で表される脂肪族オキシ基が有していてもよい置換基の例は、C1−10アルケニル基、C1−10アルキニル基、オキソ基(=O)、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ヒドロキシ基、及びカルボキシ基を包含する。
【0044】
R
3で表される脂肪族オキシ基が有していてもよい置換基の好適な例は、シアノ基を包含する。
【0045】
R
1、R
2、及びR
3のうちの2個、又は3個が互いに連結して形成していてもよい“1個以上の置換基を有していてもよい環”の例は、前記「1個以上の置換基を有していてもよい環基のうち、当該環(すなわち、R
1、R
2、及びR
3のうちの2個、又は3個が互いに連結して形成された、1個以上の置換基を有していてもよい環)に該当するものが例示される。
【0046】
本発明の好適な一態様において、
R
1は、パーフルオロ脂肪族基であり、及び
R
3は、1個以上の置換基(例、シアノ基)を有していてもよい脂肪族オキシ基である。
【0047】
本発明のより好適な一態様において、
R
1は、C1−10パーフルオロ脂肪族基であり、及び
R
3は、1個以上の置換基(例、シアノ基)を有していてもよいC1−10脂肪族オキシ基である。
【0048】
本発明の更に好適な一態様において、
R
1は、C1−5パーフルオロ脂肪族基であり、及び
R
3は、1個以上の置換基(例、シアノ基)を有していてもよいC1−7脂肪族オキシ基である。
【0049】
本発明のより更に好適な一態様において、
R
1は、C1−3パーフルオロ脂肪族基であり、及び
R
3は、1個以上の置換基(例、シアノ基)を有していてもよいC1−4脂肪族オキシ基である。
【0050】
本発明の化合物はフッ素樹脂との共重合成分原料等として好適に用いることができる。
【0051】
製造方法
以下に本発明の化合物の製造方法を説明する。
前記式(1)で表される化合物は、例えば、
式(2):
R
1−S−CH
2−CO−R
3 (2)
[式中の記号は前記と同意義を表す。]
で表される化合物
をBrF
3と反応させる工程を含む製造方法
によって製造することができる。
【0052】
前記式(2)で表される化合物をBrF
3と反応させることは、前記式(2)で表される化合物をBrF
3と接触させることにより実施できる。
当該接触は、例えば、BrF
3を入れた容器(例、樹脂製容器)に化合物(2)を投入し、及び攪拌することにより実施できる。
【0053】
工程AにおけるBrF
3の使用量は、前記式(2)で表される化合物の1モルに対して、好ましくは、0.5〜4.0モルの範囲内;より好ましくは、0.8〜3.0のモル範囲内;及び更に好ましくは0.8〜2.5であることができる。
【0054】
工程Aで用いられるBrF
3の一部、又は全部は、錯体を形成していてもよい。このような錯体の例は、ハロゲン化金属及びハロゲン化水素金属からなる群から選択される少なくとも一種の金属ハロゲン化物と、BrF
3とから形成される錯体を包含する。
金属ハロゲン化物の内で、ハロゲン化金属は、一般式:MXで表される化合物であり、ハロゲン化水素金属は、一般式:MHX
2で表される化合物である。
【0055】
当該式中のMは、M
1又は(M
2)
1/2で表されるものであって、M
1は第1族元素、M
2は第2族元素である。M
1で表される第1族元素の具体例としては、K, Li, Cs, 及びNa等を挙げることができ、M
2で表される第2族元素の具体例としては、Ca, 及びMg等を挙げることができる。
【0056】
Xはハロゲン原子であり、具体例としては、フッ素原子、塩素原子などを挙げることができる。ハロゲン化水素金属では、2個のXは同一であってもよく、互いに異なってもよい。これらのハロゲン化金属及びハロゲン化水素金属は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0057】
工程Aの反応は、好ましくは、当初、その反応系を低温で維持し、その後、より高温で維持することにより、実施される。
【0058】
具体的には、例えば、工程Aを次のように実施する。
【0059】
工程Aの反応系の温度を、当初、
好ましくは、−78〜10℃の範囲内、−30〜5℃の範囲内、より好ましくは、0〜5℃の範囲内に維持する。この温度を工程Aの第1温度と称する場合がある。
反応系の第1温度での維持時間は、好ましくは、0.1〜24時間の範囲内、より好ましくは、0.5〜10時間の範囲内、及び更に好ましくは、0.5〜5時間の範囲内である。
【0060】
この間の工程Aの温度(第1温度)は、一定であってもよく、一定でなくてもよいが、通常は、一定にすればよい。
【0061】
次いで、工程Aの反応系の温度を
好ましくは、5〜100℃の範囲内、10〜80℃の範囲内、より好ましくは、20〜60℃の範囲内の温度まで上昇させ、及び維持する。この温度を工程Aの第2温度と称する場合がある。
反応系の第2温度での維持時間は、好ましくは、0.1〜10時間の範囲内、より好ましくは、0.5〜5時間の範囲内、及び更に好ましくは、0.5〜2時間の範囲内である。
【0062】
この間の工程Aの温度(第2温度)は、一定であってもよく、一定でなくてもよいが、通常は、一定にすればよい。
【0063】
第1温度から第2温度への昇温の速度は特に限定されないが、例えば、昇温が0.01〜3時間の範囲内で完了されることが好ましい。
【0064】
工程Aの反応は、溶媒の存在下、又は不存在下で実施され得る。
工程Aの反応に用いることができる溶媒の例は、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、及びパーフルオロヘキサン等のを包含する。念のために記載するに過ぎないが、当該「ハロゲン化炭化水素」は、ClCF2CF2Cl等のハロゲン化炭化フッ素を包含する。
当該溶媒は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
所望により、反応をクエンチしてもよい。クエンチ方法としては、一般的な方法を用いればよい。その例は、プロトン性溶媒(メタノールやイソプロピルアルコール等)を加える方法を包含する。
【0066】
このようにして得られた化合物(1)は、所望により精製してもよく、又はそのまま合成中間体として用いてもよい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0068】
実施例中の記号及び略号の意味を以下に示す。
【0069】
実施例1
−78℃にて樹脂製容器に、BrF
3(132 mg, 1 mmol)、及び塩化メチレン(3 ml)を入れ、そこに冷却した、methyl (trifluoromethylthio)acetateの塩化メチレン溶液(150mg, 0.86mmol)を加えた。−78℃にて1時間撹拌後、過剰量のメタノールを加え、クエンチした。当該反応液に内部標準としてC
6F
6を加えて
19F−NMR測定し、モノフルオロ体であるmethyl fluoro(trifluoromethylthio)acetate、及びジフルオロ体であるmethyl difluoro(trifluoromethylthio)acetateが生成していることを確認した。当該モノフルオロ体の
19F−NMR収率は60%であった。
【0070】
実施例2
−78℃にて樹脂製容器に、BrF
3(422 mg, 3.1 mmol)、及びパーフルオロヘキサン(10 ml)を入れ、そこに冷却した、methyl 2-((perfluorobutyl)thio)acetateのパーフルオロヘキサン溶液(1.00g 3.1mmol)を加えた。−78℃にて1時間撹拌後、過剰量のメタノールを加え、クエンチした。当該反応液に内部標準としてC
6F
6を加えて
19F−NMR測定し、モノフルオロ体であるmethyl 2-fluoro-2-((perfluorobutyl)thio)acetate、及びジフルオロ体であるmethyl 2,2-difluoro-2-((perfluorobutyl)thio)acetateが生成していることを確認した。当該モノフルオロ体の
19F−NMR収率は51%であった。