特許第6976894号(P6976894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6976894材料寿命の評価方法、評価装置、及び評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976894
(24)【登録日】2021年11月12日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】材料寿命の評価方法、評価装置、及び評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20211125BHJP
   G01N 33/2045 20190101ALI20211125BHJP
   G01N 33/207 20190101ALI20211125BHJP
【FI】
   G01N3/00 Q
   G01N3/00 R
   G01N33/2045 100
   G01N33/207
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-67028(P2018-67028)
(22)【出願日】2018年3月30日
(65)【公開番号】特開2019-178897(P2019-178897A)
(43)【公開日】2019年10月17日
【審査請求日】2020年12月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年10月6日北海道大学において開催されたM&M2017材料力学カンファレンスで発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年12月7日くまもと県民交流館パレアにおいて開催された高温強度・破壊力学合同シンポジウム(第55回高温強度シンポジウム、第18回破壊力学シンポジウム)で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】屋口 正次
【審査官】 外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−134417(JP,A)
【文献】 特開平09−189790(JP,A)
【文献】 特開2010−110820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00
G01N 33/2045
G01N 33/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム鋼の母材部から採取されたサンプルについてバナジウム系析出物の数密度と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記サンプルのバナジウム系析出物の数密度に対応する析出物反映係数が算定されると共に前記クロム鋼の前記母材部から採取された試験片についてスモールパンチクリープ試験の結果と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記試験片のスモールパンチクリープ試験の結果に対応する長期挙動反映係数が算定され、前記析出物反映係数の値と前記長期挙動反映係数の値とに基づいて母材部特性係数が特定され、母材部の標準クリープ試験の結果と溶接部の標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記母材部特性係数の値に対応する溶接部特性係数の値が特定され、当該溶接部特性係数の値が用いられて前記クロム鋼の溶接部の破断時間が算定されることを特徴とする材料寿命の評価方法。
【請求項2】
前記クロム鋼が改良9Cr−1Mo鋼であることを特徴とする請求項1記載の材料寿命の評価方法。
【請求項3】
クロム鋼の母材部から採取されたサンプルについてバナジウム系析出物の数密度と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記サンプルのバナジウム系析出物の数密度に対応する析出物反映係数を算定する手段と、前記クロム鋼の前記母材部から採取された試験片についてスモールパンチクリープ試験の結果と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記試験片のスモールパンチクリープ試験の結果に対応する長期挙動反映係数を算定する手段と、前記析出物反映係数の値と前記長期挙動反映係数の値とに基づいて母材部特性係数を特定する手段と、母材部の標準クリープ試験の結果と溶接部の標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記母材部特性係数の値に対応する溶接部特性係数の値を特定すると共に当該溶接部特性係数の値を用いて前記クロム鋼の溶接部の破断時間を算定する手段とを有することを特徴とする材料寿命の評価装置。
【請求項4】
前記クロム鋼が改良9Cr−1Mo鋼であることを特徴とする請求項3記載の材料寿命の評価装置。
【請求項5】
クロム鋼の母材部から採取されたサンプルについてバナジウム系析出物の数密度と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記サンプルのバナジウム系析出物の数密度に対応する析出物反映係数を算定する処理と、前記クロム鋼の前記母材部から採取された試験片についてスモールパンチクリープ試験の結果と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記試験片のスモールパンチクリープ試験の結果に対応する長期挙動反映係数を算定する処理と、前記析出物反映係数の値と前記長期挙動反映係数の値とに基づいて母材部特性係数を特定する処理と、母材部の標準クリープ試験の結果と溶接部の標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記母材部特性係数の値に対応する溶接部特性係数の値を特定すると共に当該溶接部特性係数の値を用いて前記クロム鋼の溶接部の破断時間を算定する処理とをコンピュータに行わせることを特徴とする材料寿命の評価プログラム。
【請求項6】
前記クロム鋼が改良9Cr−1Mo鋼であることを特徴とする請求項5記載の材料寿命の評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料寿命の評価方法、評価装置、及び評価プログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、例えば火力発電プラントの主蒸気管や高温再熱蒸気管としての改良9Cr−1Mo鋼配管の溶接部でのクリープ寿命の評価に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
600℃級火力発電プラントに関しては、主蒸気管や高温再熱蒸気管における改良9Cr−1Mo鋼溶接部でのクリープ寿命の評価は重要な検討課題である。改良9Cr−1Mo鋼をはじめとして、高温構造材料のクリープ寿命には、同一の試験条件下(言い換えると、同一の負荷条件下)であっても大きな差異(「ヒート間差」と呼ばれる)が存在する(Cr鋼のヒート間差に関する検討例として非特許文献1が挙げられる)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】阿部冨士雄「12%Cr鋼のクリープ寿命のヒート間差と長時間強度劣化挙動」,材料とプロセス(CD−ROM),Vol.21 No.2,一般社団法人日本鉄鋼協会,2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
設計段階では、各構造物で実際に使用される材料のヒートは不明であるため、材料のヒート間差は許容引張応力の設定における安全係数の一部として考慮されている。一方、余寿命評価の段階では、評価の対象とする構造物に実際に使用されている材料のヒートは既知であることから、原理的には材料のヒート間差の考慮は可能であると考えられる。しかしながら、この点に着目した余寿命評価技術に関する検討は殆ど行われていない。高温構造物の余寿命を高い精度で推定するには、各構造物固有の材料特性を考慮することができるクリープ寿命の評価手法を構築する必要がある。
【0005】
そこで、本発明は、材料各々に固有の材料特性/クリープ特性(別言すると、ヒート間差)を考慮した上でクリープ寿命を評価することができる材料寿命の評価方法、評価装置、及び評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者が系統的な試験・評価を実施した結果、配管における溶接継手のクリープ破断特性は母材のクリープ破断特性に依存するという知見が得られた。
【0007】
具体的には、改良9Cr−1Mo鋼配管に係る複数の長時間使用材に関するクリープ試験の結果と実機運用中の履歴とに基づき母材と溶接継手とについて「初期クリープ寿命」を推定した結果、図7に示す例のように、母材のクリープ特性と溶接継手のクリープ特性との間には相関があり、母材が高強度の材料ほど溶接継手も高強度の傾向を示すという知見が得られた。ここで、材料の「初期クリープ寿命」は、各長時間使用材が実機運用中に供された条件(具体的には、温度,周方向応力)におけるクリープ破断時間(即ち、前記実機運用条件に対応する「余クリープ寿命」)が算出され、算出された「余クリープ寿命」が実機での運転時間に加算された値である(屋口正次ほか「10万時間超の領域における改良9Cr−1Mo鋼溶接継手のクリープ強度の推定」,高温強度・破壊力学合同シンポジウム 第55回高温強度シンポジウム 第18回破壊力学シンポジウム 講演論文集,118,119−123頁,2017年)。
【0008】
なお、図7において、横軸は各母材の650 ℃,60 MPa に対して推定された「初期クリープ寿命」を同条件に対する「2015年データ検討会母材(板材)平均特性」(K.Kimuraほか「Re−evaluation of Long−term Creep Strength of Base Metal of ASME Grade 91 Type Steel」,Proc.PVP2016,Vancouver,Canada,PVP2016−63355,2016年)に基づく値で除した値であり、縦軸は各溶接継手の実機運用条件(具体的には、温度,周方向応力)に対して推定された「初期クリープ寿命」を「2015年データ検討会溶接継手平均特性」(M.Yaguchiほか「Re−evaluation of Long−term Creep Strength of Welded Joint of ASME Grade 91 Type Steel」,Proc.PVP2016,Vancouver,Canada,PVP2016−63316,2016年)に基づく値で除した値である。
【0009】
このことから、溶接継手の初期クリープ特性と母材の初期クリープ特性との間には正の相関関係が認められ、即ち溶接継手の初期クリープ特性は母材に依存しており、母材の初期クリープ特性が高いほど溶接継手の初期クリープ特性も高いことが知見された。つまり、各配管の溶接部のクリープ特性/ヒート間差は当該の配管の母材部のクリープ特性/ヒート間差に依存し、したがって各配管の母材部のクリープ特性/ヒート間差を評価することによって当該の配管の溶接部のクリープ特性/ヒート間差を推定し得ることが知見された。
【0010】
本発明の材料寿命の評価方法は、上記の発明者独自の知見に基づくものであり、クロム鋼の母材部から採取されたサンプルについてバナジウム系析出物の数密度と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記サンプルのバナジウム系析出物の数密度に対応する析出物反映係数が算定されると共にクロム鋼の母材部から採取された試験片についてスモールパンチクリープ試験の結果と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記試験片のスモールパンチクリープ試験の結果に対応する長期挙動反映係数が算定され、析出物反映係数の値と長期挙動反映係数の値とに基づいて母材部特性係数が特定され、母材部の標準クリープ試験の結果と溶接部の標準クリープ試験の結果との対応に基づいて母材部特性係数の値に対応する溶接部特性係数の値が特定され、当該溶接部特性係数の値が用いられてクロム鋼の溶接部の破断時間が算定されるようにしている。
【0011】
また、材料寿命の評価装置は、クロム鋼の母材部から採取されたサンプルについてバナジウム系析出物の数密度と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記サンプルのバナジウム系析出物の数密度に対応する析出物反映係数を算定する手段と、クロム鋼の母材部から採取された試験片についてスモールパンチクリープ試験の結果と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記試験片のスモールパンチクリープ試験の結果に対応する長期挙動反映係数を算定する手段と、析出物反映係数の値と長期挙動反映係数の値とに基づいて母材部特性係数を特定する手段と、母材部の標準クリープ試験の結果と溶接部の標準クリープ試験の結果との対応に基づいて母材部特性係数の値に対応する溶接部特性係数の値を特定すると共に当該溶接部特性係数の値を用いてクロム鋼の溶接部の破断時間を算定する手段とを有するようにしている。
【0012】
また、材料寿命の評価プログラムは、クロム鋼の母材部から採取されたサンプルについてバナジウム系析出物の数密度と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記サンプルのバナジウム系析出物の数密度に対応する析出物反映係数を算定する処理と、クロム鋼の母材部から採取された試験片についてスモールパンチクリープ試験の結果と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記試験片のスモールパンチクリープ試験の結果に対応する長期挙動反映係数を算定する処理と、析出物反映係数の値と長期挙動反映係数の値とに基づいて母材部特性係数を特定する処理と、母材部の標準クリープ試験の結果と溶接部の標準クリープ試験の結果との対応に基づいて母材部特性係数の値に対応する溶接部特性係数の値を特定すると共に当該溶接部特性係数の値を用いてクロム鋼の溶接部の破断時間を算定する処理とをコンピュータに行わせるようにしている。
【0013】
したがって、これらの材料寿命の評価方法,材料寿命の評価装置,材料寿命の評価プログラムによると、クロム鋼の母材部から採取された試料が用いられて母材部のクリープ特性が評価されて当該評価結果に基づいて当該のクロム鋼の溶接部のクリープ寿命(別言すると、クリープ破断特性)が評価される。したがって、材料・部材各々に固有のクリープ破断特性(別言すると、ヒート間差)が当該の材料・部材の溶接部の寿命評価において考慮されることにより、各材料・部材の溶接部が有する固有のクリープ破断特性が反映された寿命評価が行われる。
【0014】
また、本発明の材料寿命の評価方法,材料寿命の評価装置,材料寿命の評価プログラムは、前記クロム鋼が改良9Cr−1Mo鋼であるようにしても良い。この場合には、改良9Cr−1Mo鋼の溶接部の寿命評価において上述の作用が奏される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の材料寿命の評価方法,材料寿命の評価装置,材料寿命の評価プログラムによれば、材料・部材各々に固有のクリープ破断特性(別言すると、ヒート間差)を当該の材料・部材の溶接部の寿命評価において考慮するようにしているので、各材料・部材の溶接部が有する固有のクリープ破断特性を反映させた寿命評価を行うことができ、材料・部材毎の実質に即した寿命評価を行って寿命評価の推定精度の向上を図ることが可能になり、延いては寿命評価の信頼性の向上を図ることが可能になる。特に、従来の余寿命評価では全ての配管に対して一律に99%信頼下限特性が用いられているために保守的な結果を与える傾向があるのに対し、本発明では各材料・部材の実際の強度に即した材料特性が用いられるために一層合理的な評価結果を与えることが可能になる。
【0016】
本発明の材料寿命の評価方法,材料寿命の評価装置,材料寿命の評価プログラムは、改良9Cr−1Mo鋼を対象として適用されるようにした場合には、改良9Cr−1Mo鋼の溶接部の寿命評価において上述の作用効果を奏することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る材料寿命の評価方法の実施形態の一例を説明するフローチャートである。
図2】実施形態の材料寿命の評価方法を材料寿命の評価プログラムを用いて実施する場合の当該プログラムによって実現される材料寿命の評価装置の機能ブロック図である。
図3】析出物の数密度と配管の母材部の規格化した寿命との間の関係の一例を示す図である。
図4】スモールパンチクリープ試験において用いられる装置の一例を示す図である。
図5】破断時間と応力との間の関係の一例を示す図である。
図6】試料採取の位置を説明する配管の母材部の配管軸心方向直交断面図である。
図7】配管の母材のクリープ特性と溶接継手のクリープ特性との間の関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。以下の説明において、所定の記号や語句が単位であることを明確にするため、単位として用いられる記号や語句を〔 〕で括る場合がある。
【0019】
図1乃至図6に、本発明に係る材料寿命の評価方法,材料寿命の評価装置,材料寿命の評価プログラムが実機における改良9Cr−1Mo鋼(尚、種類の記号として「火SCMV28」とも表記される)配管の溶接部/溶接継手のクリープ寿命の評価に適用される場合の実施形態の一例を示す。
【0020】
本実施形態の材料寿命の評価方法は、クロム鋼の母材部から採取されたサンプルについてバナジウム系析出物の数密度と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記サンプルのバナジウム系析出物の数密度に対応する析出物反映係数が算定される(S1,S2,S3)と共にクロム鋼の母材部から採取された試験片についてスモールパンチクリープ試験の結果と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記試験片のスモールパンチクリープ試験の結果に対応する長期挙動反映係数が算定され(S1,S4,S5)、析出物反映係数の値と長期挙動反映係数の値とに基づいて母材部特性係数が特定され(S6)、母材部の標準クリープ試験の結果と溶接部の標準クリープ試験の結果との対応に基づいて母材部特性係数の値に対応する溶接部特性係数の値が特定されると共に当該溶接部特性係数の値が用いられてクロム鋼の溶接部の破断時間が算定される(S7)ようにしている(図1参照)。
【0021】
上記材料寿命の評価方法は、本発明に係る材料寿命の評価装置によって実施され得る。本実施形態の材料寿命の評価装置は、クロム鋼の母材部から採取されたサンプルについてバナジウム系析出物の数密度と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記サンプルのバナジウム系析出物の数密度に対応する析出物反映係数を算定する手段と、クロム鋼の母材部から採取された試験片についてスモールパンチクリープ試験の結果と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記試験片のスモールパンチクリープ試験の結果に対応する長期挙動反映係数を算定する手段と、析出物反映係数の値と長期挙動反映係数の値とに基づいて母材部特性係数を特定する手段と、母材部の標準クリープ試験の結果と溶接部の標準クリープ試験の結果との対応に基づいて母材部特性係数の値に対応する溶接部特性係数の値を特定すると共に当該溶接部特性係数の値を用いてクロム鋼の溶接部の破断時間を算定する手段とを有する。
【0022】
上記材料寿命の評価方法及び材料寿命の評価装置は、材料寿命の評価プログラムがコンピュータ上で実行されることによっても実施・実現され得る。ここでは、材料寿命の評価プログラムがコンピュータ上で実行されることによって材料寿命の評価方法が実施されると共に材料寿命の評価装置が実現される場合を説明する。
【0023】
本実施形態の材料寿命の評価プログラム17を実行するためのコンピュータ10(本実施形態では、材料寿命の評価装置10でもある)の全体構成を図2に示す。
【0024】
このコンピュータ10(材料寿命の評価装置10)は制御部11,記憶部12,入力部13,表示部14,及びメモリ15を備え、これらが相互にバス等の信号回線によって接続されている。
【0025】
制御部11は、記憶部12に記憶されている材料寿命の評価プログラム17に従ってコンピュータ10全体の制御並びに材料寿命の評価に係る演算を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。
【0026】
記憶部12は、少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクである。
【0027】
入力部13は、少なくとも作業者の命令や種々の情報を制御部11に与えるためのインターフェイス(即ち、情報入力の仕組み)であり、例えばキーボードやマウスである。なお、例えばキーボードとマウスとの両方のように複数種類のインターフェイスを入力部13として有するようにしても良い。
【0028】
表示部14は、制御部11の制御によって文字や図形或いは画像等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
【0029】
メモリ15は、制御部11が種々の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
【0030】
また、コンピュータ10に、必要に応じ、当該コンピュータ10との間でデータや制御指令等の信号の送受信(即ち、出入力)が可能であるように、バスや広域ネットワーク回線等の信号回線により、データサーバ20が接続されるようにしても良い。また、コンピュータ10は、必要に応じ、インターネットなどのネットワークを介してクラウドサーバ(図示していない)にアクセス可能であるようにしても良い。
【0031】
そして、コンピュータ10(以下、「材料寿命の評価装置10」と表記する)の制御部11には、材料寿命の評価プログラム17が実行されることにより、クロム鋼の母材部から採取されたサンプルについてバナジウム系析出物の数密度と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記サンプルのバナジウム系析出物の数密度に対応する析出物反映係数を算定する処理を行う析出物反映部11aと、クロム鋼の母材部から採取された試験片についてスモールパンチクリープ試験の結果と標準クリープ試験の結果との対応に基づいて前記試験片のスモールパンチクリープ試験の結果に対応する長期挙動反映係数を算定する処理を行う長期挙動反映部11bと、析出物反映係数の値と長期挙動反映係数の値とに基づいて母材部特性係数を特定する処理を行う特性評価部11cと、母材部の標準クリープ試験の結果と溶接部の標準クリープ試験の結果との対応に基づいて母材部特性係数の値に対応する溶接部特性係数の値を特定すると共に当該溶接部特性係数の値を用いてクロム鋼の溶接部の破断時間を算定する処理を行う寿命算定部11dとが構成される。
【0032】
本発明に係る手順は、データベースが整備された上で、大きくは、母材部関連の処理(S1乃至S6)と溶接部関連の処理(S7)とからなる。
【0033】
材料寿命の評価方法の実施に際しては、微視組織のデータベース,クリープ試験のデータベース,及びクリープ破断特性のデータベースが整備され準備される(便宜的に「S0」とする)。
【0034】
《微視組織のデータベース》
微視組織のデータベースには、改良9Cr−1Mo鋼に関する微視組織と長時間クリープ特性(別言すると、クリープ破断特性)との間の関係に関するデータが蓄積される。
【0035】
具体的には、例えば600℃級火力発電プラントで長時間(具体的には例えば、5〜15万時間程度;以下における「長時間」も同様)使用された状態の様々な、改良9Cr−1Mo鋼配管の母材が分析用試料として用いられて微視組織の観察・分析が行われると共にクリープ試験が行われ、同一の母材部から採取された二つの分析用試料に係る微視組織の観察・分析の結果として得られる析出物の数密度とクリープ試験の結果として得られるクリープ特性との組み合わせデータが蓄積されてデータベースが構成される。
【0036】
微視組織の観察・分析としては、具体的には例えば透過型電子顕微鏡(「TEM」とも呼ばれる)が用いられて析出物の数密度の計測が行われる。
【0037】
ここで、対象とする材料は旧オーステナイト粒界,パケット境界/ブロック境界,及びラスなどの階層構造を成しており、場所によって微視組織の状態は顕著に異なる。このため、観察場所が分析結果に及ぼす影響を減らすため、各析出物に応じて所定の観察面積を対象とした上で、微細な析出物の分析漏れがないように高分解能(具体的には例えば、4 nm 程度)にて、析出物の数密度の計測が行われることが好ましい。
【0038】
クリープ試験としては、日本工業規格 JIS Z2271「金属材料のクリープ及びクリープ破断試験方法」に則して、標準試験片が用いられてクリープ試験が行われる。なお、本発明の説明では、標準試験片が用いられて行われるクリープ試験のことを「標準クリープ試験」とも呼ぶ。
【0039】
析出物の数密度と改良9Cr−1Mo鋼配管の母材部の初期クリープ寿命との間の関係の一例を図3に示す。なお、材料の「初期クリープ寿命」は、上記の図7に関連して説明した内容と同様である(屋口正次ほか「10万時間超の領域における改良9Cr−1Mo鋼溶接継手のクリープ強度の推定」(前掲))。
【0040】
図3から、クロム(Cr)系析出物(主に、M236:但し、M=Cr,Fe)やモリブデン(Mo)系析出物(主に、ラーベス相)の数密度と母材部の初期クリープ寿命との間には相関は見られない一方で、バナジウム(V)系析出物(主に、MX:但し、M=V,Nb、また、X=C,N;特に、バナジウムナイトライド(VN))の数密度と母材部の初期クリープ寿命との間には正の相関が認められることが確認される。
【0041】
図3に示す結果から、改良9Cr−1Mo鋼配管各々の母材部のバナジウム系析出物の数密度を計測することにより、各材料・部材が有する固有のクリープ破断特性(別言すると、ヒート間差)を反映したクリープ寿命を評価し得ることが確認される。
【0042】
本実施形態では、分析用試料としての改良9Cr−1Mo鋼配管(特に、使用材)の母材毎のバナジウム系析出物の数密度〔μm-2〕と標準クリープ試験の結果(具体的には、試験温度,試験応力,破断時間など)との組み合わせデータが複数蓄積されたデータファイルが微視組織のデータベース21としてデータサーバ20に格納される。
【0043】
また、上記の分析用試料のそれぞれの実機での運用条件(具体的には、稼働温度〔℃〕,稼働応力〔MPa〕など)や使用時間〔時間〕の情報が、上記の組み合わせデータのそれぞれと関連付けられて整備される。
【0044】
《クリープ試験のデータベース》
クリープ試験のデータベースには、改良9Cr−1Mo鋼に関する短時間領域に於けるクリープ試験の結果と長時間領域に於けるクリープ特性(別言すると、クリープ破断特性)との間の関係に関するデータが蓄積される。
【0045】
具体的には、例えば600℃級火力発電プラントで長時間使用された状態の複数の、改良9Cr−1Mo鋼配管の母材が分析用試料として用いられてスモールパンチによるクリープ試験が行われると共に標準試験片によるクリープ試験(即ち、標準クリープ試験)が行われ、同一の母材部から採取された二つの分析用試料に係る二種類のクリープ試験の結果として得られるクリープ特性の組み合わせデータが蓄積されてデータベースが構成される。
【0046】
スモールパンチ(SP)によるクリープ試験としては、例えば、図4に示す装置が用いられると共に下記の仕様の試験片(「SP試験片」と表記する)が用いられて下記の試験条件に則してクリープ試験が行われる。
<SP試験片の仕様>
直径:8 mm
板厚:0.5 mm ±0.005 mm
研磨:湿式アルミナ鏡面研磨仕上げ
<クリープ試験の条件>
温度:650 ℃
荷重:190,230,300 N
雰囲気:高純度アルゴン(Ar)ガス(99.99%),150 ml/分
【0047】
標準試験片によるクリープ試験としては、日本工業規格 JIS Z2271「金属材料のクリープ及びクリープ破断試験方法」に則して、標準試験片が用いられてクリープ試験(即ち、標準クリープ試験)が行われる。
【0048】
同一の母材部から採取された二つの分析用試料に係るスモールパンチによるクリープ試験(具体的には例えば、上記の仕様や条件に従う試験)の結果と標準試験片によるクリープ試験(具体的には、JIS Z2271 に従う試験)の結果との間の関係の一例を図5に示す。図中の白抜きのプロットが標準試験片によるクリープ試験の結果であり、黒塗りのプロットがスモールパンチによるクリープ試験の結果である。
【0049】
図5に示す結果から、スモールパンチによるクリープ試験の結果と標準試験片によるクリープ試験の結果とでヒート間差の順序は同一であり、したがって、比較的短時間で実施され得るスモールパンチによるクリープ試験によって標準試験片の長時間領域に於けるヒート間差の順序が良好に再現され得ることが確認でき、延いては、短時間の試験の結果から長時間領域に於けるクリープ特性を評価し得ることが確認される。
【0050】
本実施形態では、分析用試料としての改良9Cr−1Mo鋼配管(特に、使用材)の母材毎のスモールパンチによるクリープ試験の結果(具体的には、試験温度,試験応力,破断時間など)と標準試験片によるクリープ試験の結果(具体的には、試験温度,試験応力,破断時間など)との組み合わせデータが複数蓄積されたデータファイルがクリープ試験のデータベース22としてデータサーバ20に格納される。
【0051】
また、上記の分析用試料のそれぞれの実機での運用条件(具体的には、稼働温度〔℃〕,稼働応力〔MPa〕など)や使用時間〔時間〕の情報が、上記の組み合わせデータのそれぞれと関連付けられて整備される。
【0052】
《クリープ破断特性のデータベース》
クリープ破断特性のデータベースには、改良9Cr−1Mo鋼に関する母材部の標準クリープ試験の結果と溶接部の標準クリープ試験の結果との間の関係に関するデータが蓄積される。
【0053】
具体的には、例えば600℃級火力発電プラントで長時間使用された状態の複数の、改良9Cr−1Mo鋼配管の母材及び溶接継手が分析用試料として用いられてクリープ試験が行われ、同一の配管の母材部と溶接継手部とのそれぞれから採取された二つの分析用試料に係る二つのクリープ試験の結果として得られるクリープ特性の組み合わせデータが蓄積されてデータベースが構成される。
【0054】
クリープ試験としては、日本工業規格 JIS Z2271「金属材料のクリープ及びクリープ破断試験方法」に則して、標準試験片が用いられてクリープ試験(即ち、標準クリープ試験)が行われる。
【0055】
本実施形態では、分析用試料としての改良9Cr−1Mo鋼配管(特に、使用材)毎の、母材部の標準クリープ試験の結果(具体的には、試験温度,試験応力,破断時間など)と溶接継手部の標準クリープ試験の結果(具体的には、試験温度,試験応力,破断時間など)との組み合わせデータが複数蓄積されたデータファイルがクリープ破断特性のデータベース23としてデータサーバ20に格納される。
【0056】
また、上記の分析用試料のそれぞれの実機での運用条件(具体的には、稼働温度〔℃〕,稼働応力〔MPa〕など)や使用時間〔時間〕の情報が、上記の組み合わせデータのそれぞれと関連付けられて整備される。
【0057】
本発明において利用される上述の三つのデータベースは、既存のデータが利用・収集されて整備されるようにしても良く、或いは、データが新規に取得されて整備されるようにしても良く、さらに言えば、既存のデータと新規のデータとが組み合わされて整備されるようにしても良い。また、上述の三つのデータベースは、一旦整備された後は固定的なものとして扱われるようにしても良く、或いは、一旦整備された後に随時にデータが新たに追加されるなどして適時更新されるようにしても良い。
【0058】
そして、材料寿命の評価方法が実施される際の母材部関連の処理に係る手順として、まず、実機配管の母材部からの試料の採取が行われる(S1)。
【0059】
具体的には、例えば、実機配管の母材の外表面近傍位置(図6)から試料が採取される。本発明において実機配管の母材から採取される試料は、試料が採取された後の配管の強度や健全性に影響を与えることが無く、したがって試料採取後の配管の使用・運用に影響を与えることが無い程度に小さく、微小サンプルとも言い得る程度の大きさのものが用いられる。
【0060】
ここで、配管でクリープ損傷が進行すると一般に肉厚方向で損傷分布が生じるものの、改良9Cr−1Mo鋼配管をはじめとする実機の大径管(具体的には例えば、直径が400〜1000 mm 程度の配管)の場合は、材料及び運用が通常の範囲内である限り、溶接部でクリープ損傷が進行することはあっても、母材部ではクリープ損傷は殆ど進行しないと考えられる。したがって、配管の母材の場合は、肉厚方向でクリープ特性は概ね均一であり、外表面近傍から採取された試料について分析・試験が為されることにより、配管全体のクリープ特性を評価することが可能であると考えられる。ただし、配管の外表面直下では脱炭などによってクリープ特性が他の場所とは異なっていると考えられる。
【0061】
上記に関連し、600℃級火力発電プラントで長時間使用された様々な、改良9Cr−1Mo鋼配管(特に、大径管)の母材から採取された試料を対象として発明者が組織観察,化学成分,硬さ測定,ボイド観察,及び標準クリープ試験を肉厚方向について実施した結果として、表面から約0.2 mm の範囲では変質層が生じている一方でそれよりも内部では配管の母材のクリープ特性は概ね一定であるという知見が得られた。
【0062】
以上のことから、例えば火力発電プラントの主蒸気管や高温再熱蒸気管(特に、大径管)については配管の母材の外表面から約1 mm の領域を除いた部分から採取された試料が用いられて微視組織の分析(下述のS2の処理)及びスモールパンチクリープ試験(下述のS4の処理)が行われることが好ましく、これによって配管の母材のクリープ特性を適切に評価することが可能である。
【0063】
S1の処理では、実機配管の母材部から、S2の処理における微視組織分析用のサンプルとして例えば直径が3 mm で厚さが0.15 mm の円板形の試料が採取されると共に、S4の処理におけるスモールパンチクリープ試験用の試験片(即ち、SP試験片)として例えば直径が8 mm で厚さが0.5 mm の円板形の試料が採取される。
【0064】
材料寿命の評価方法のS1の処理では、さらに、材料寿命の評価プログラム17が実行される際の手順として、言い換えると、材料寿命の評価装置10における処理として、試料が採取された配管の母材についての、実機における稼働温度の値Tu〔℃〕及び稼働応力の値σu〔MPa〕並びに前記稼働温度及び稼働応力で使用された時間の値tu〔時間〕が入力部13を介して入力され、当該入力された値がメモリ15に記憶される。
【0065】
次に、S1の処理において採取されたサンプルの微視組織の分析が行われる(S2)。
【0066】
S2の処理では、S1の処理において採取された微視組織分析用のサンプルの微視組織の分析が行われてバナジウム系析出物の数密度〔μm-2〕が計測される。
【0067】
具体的には、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)が用いられて微視組織の分析が行われ、サンプルのバナジウム系析出物の数密度〔μm-2〕が計測される。
【0068】
本実施形態では、S1の処理において採取された微視組織分析用のサンプルについてのバナジウム系析出物の数密度の値ρu〔μm-2〕が入力部13を介して入力され、当該入力された値がメモリ15に記憶される。
【0069】
続いて、S2の処理における微視組織の分析の結果に基づいてクリープ特性の評価が行われる(S3)。
【0070】
S3の処理では、S2の処理によって判明した性質を備える母材サンプルの長時間領域に於けるクリープ特性(別言すると、クリープ破断特性)が、微視組織のデータベース21が参照されることによって推定される。
【0071】
具体的には、はじめに、評価のための準備として、微視組織のデータベース21に蓄積されたデータに係る分析用試料(具体的には、長時間使用された改良9Cr−1Mo鋼配管の母材)毎の初期クリープ寿命の推定が行われる(S3−1)。
【0072】
分析用試料の初期クリープ寿命は、例えば、以下の手順(「手順A」と呼ぶ)によって推定される(屋口正次ほか「10万時間超の領域における改良9Cr−1Mo鋼溶接継手のクリープ強度の推定」,高温強度・破壊力学合同シンポジウム 第55回高温強度シンポジウム 第18回破壊力学シンポジウム 講演論文集,118,119−123頁,2017年)。
【0073】
〈手順A−1〉
各分析用試料に関する標準クリープ試験のデータを対象としてラーソンミラーパラメータ法による回帰が行われ、回帰式における係数・定数が決定される。
【0074】
〈手順A−2〉
決定された回帰係数・定数が用いられて各分析用試料が実機運用中に供された条件(具体的には、温度,周方向応力)におけるクリープ破断時間(即ち、前記実機運用条件に対応する「余クリープ寿命」)が算定される。なお、周方向応力は、配管の寸法及び実機運用中の稼働応力に基づき、直管やエルボといった配管形状に対応する平均径式が用いられて算出される。また、実機での稼働温度や稼働応力は、分析用試料毎の組み合わせデータのそれぞれと関連付けられた情報として既知である。
【0075】
〈手順A−3〉
算定された「余クリープ寿命」が実機での使用時間に加算された値が、前記実機運用条件における各分析用試料の「初期クリープ寿命」とされる。なお、実機での使用時間は、分析用試料毎の組み合わせデータのそれぞれと関連付けられた情報として既知である。
【0076】
なお、上述の推定方法では、ロビンソン則及び線形損傷則が成立することを前提条件としている。上述の推定方法によると、実機で蓄積された損傷の分だけ、標準クリープ試験に要する時間が短縮される。
【0077】
ここで、実機運用中に供された応力レベルで標準クリープ試験が実施されていない場合に、実機運用中に供された応力条件を回帰対象とすると過度な応力外挿によって不適切な回帰になってしまう場合がある。このような場合には、回帰の精度を確保するため、下記の手順(「手順B」と呼ぶ)により、実機運用中に供された条件における初期クリープ寿命が推定されるようにしても良い(屋口正次ほか「10万時間超の領域における改良9Cr−1Mo鋼溶接継手のクリープ強度の推定」(前掲))。
【0078】
〈手順B−1〉
各分析用試料について、温度To〔℃〕,応力σo〔MPa〕に対応する余クリープ寿命が特定される(尚、具体的には例えば、温度To=650〔℃〕,応力σo=60〔MPa〕などが考えられる)。具体的には、分析用試料毎に、応力σoでの実験データが有るものについては実験値が用いられ、応力σoでの実験データが無いものについてはラーソンミラーパラメータ法による回帰にて応力σoに対応する余クリープ寿命が算定される。
【0079】
〈手順B−2〉
線形損傷則が成り立つと仮定すると以下の数式1が成り立つ。
(数1) tx/X+ty/Y = 1
ここに、
X:実機での稼働温度,稼働応力における当該分析用試料の初期の寿命,
Y:温度To〔℃〕,応力σo〔MPa〕における当該分析用試料の初期の寿命,
tx:当該分析用試料に係る実機での使用時間,
ty:温度To〔℃〕,応力σo〔MPa〕に対応する当該分析用試料の余寿命
をそれぞれ表す。
【0080】
数式1について、実機での使用時間txは分析用試料毎の組み合わせデータのそれぞれと関連付けられた情報として既知であり、また、余寿命tyは上記〈手順B−1〉における処理の結果として既知である。
【0081】
〈手順B−3〉
X,Yの値として新材の母材部に関する平均的な特性に依るクリープ寿命が用いられて、数式1におけるX:Yの比k(即ち、k=X/Y)が算出される。なお、実機での稼働温度や稼働応力は、分析用試料毎の組み合わせデータのそれぞれと関連付けられた情報として既知である。
【0082】
新材の母材部に関する平均的な特性に依るクリープ寿命としては、具体的には例えば「2015年データ検討会母材(板材)平均特性」(K.Kimuraほか「Re−evaluation of Long−term Creep Strength of Base Metal of ASME Grade 91 Type Steel」,Proc.PVP2016,Vancouver,Canada,PVP2016−63355,2016年)に基づく値が用いられ得る。
【0083】
〈手順B−4〉
X=kYが数式1に代入されることにより、温度To〔℃〕,応力σo〔MPa〕における当該分析用試料の初期クリープ寿命であるYが算定される。
【0084】
上記の〈手順B−1〉乃至〈手順B−4〉により、実機使用中の影響が考慮された上で当該の分析用試料が初期に有していたクリープ寿命が算出される。
【0085】
本実施形態では、制御部11の析出物反映部11aにより、データサーバ20の微視組織のデータベース21から分析用試料としての母材部毎のバナジウム系析出物の数密度と標準クリープ試験の結果との組み合わせデータが読み込まれ、上述の手順Aまたは手順Bによって分析用試料毎の初期クリープ寿命が推定される。
【0086】
この際、必要に応じ、材料のクリープ特性/クリープ寿命を評価する際に適切な温度範囲(別言すると、温度区分)が考慮されるなどした上で、S1の処理においてメモリ15に記憶された実機における稼働温度の値Tu〔℃〕が参照されて、微視組織のデータベース21に蓄積されている組み合わせデータのうち前記実機における稼働温度の値Tu〔℃〕に対応する組み合わせデータのみが利用されるようにしても良い。
【0087】
そして、析出物反映部11aにより、微視組織のデータベース21に蓄積されたデータに係る分析用試料毎の、バナジウム系析出物の数密度,温度,応力,並びに前記温度及び応力における初期クリープ寿命(推定値)の組み合わせデータがメモリ15に記憶させられる。
【0088】
続いて、評価のための準備として更に、バナジウム系析出物の数密度とクリープ特性(ここでは具体的には、析出物反映係数)との間の相関関係の計算が行われる(S3−2)。
【0089】
具体的には、析出物反映部11aにより、S3−1の処理においてメモリ15に記憶されたバナジウム系析出物の数密度と初期クリープ寿命(推定値)との組み合わせデータが読み込まれる。
【0090】
この際、必要に応じ、材料のクリープ特性/クリープ寿命を評価する際に適切な応力範囲(別言すると、応力区分)が考慮されるなどした上で、S1の処理においてメモリ15に記憶された実機における稼働応力の値σu〔MPa〕が参照されて、メモリ15に記憶されている組み合わせデータのうち前記実機における稼働応力の値σu〔MPa〕に対応する組み合わせデータのみが利用されるようにしても良い。
【0091】
続いて、析出物反映部11aにより、メモリ15から読み込まれた初期クリープ寿命(推定値)が新材の母材部に関するクリープ寿命の基本値で除されて析出物反映係数Kが算出され、これにより、バナジウム系析出物の数密度と析出物反映係数Kとの組み合わせデータが生成される。
【0092】
新材の母材部に関するクリープ寿命の基本値としては、バナジウム系析出物の多寡を考慮することなく平均的な特性に依る母材部に関するクリープ寿命が用いられる。新材の母材部に関するクリープ寿命の基本値としては、具体的には例えば「2015年データ検討会母材(板材)平均特性」(前掲)に基づく値が用いられ得る。
【0093】
さらに、析出物反映部11aにより、上記によって生成された組み合わせデータが用いられてバナジウム系析出物の数密度と析出物反映係数Kとの間の相関関係が計算される。
【0094】
両者の間の相関関係の計算は、具体的には例えば以下の数式2のような回帰式が想定されて回帰係数・定数(具体的には、数式2では、a,b)が例えば回帰分析によって推定されることによって行われる。
【0095】
(数2) K = a×ρ+b
ここに、 K:析出物反映係数(但し、K≧0),
ρ:バナジウム系析出物の数密度〔μm-2〕,
a,b:回帰係数・定数 をそれぞれ表す。
【0096】
なお、バナジウム系析出物の数密度と析出物反映係数Kとの間の相関関係は、バナジウム系析出物の数密度ρの値の範囲(別言すると、区分)が設定された上で、数密度ρの値の範囲/区分別に計算されるようにしても良く、また、数密度ρの値が所定の範囲であるときは析出物反映係数Kが一定の値であるようにしても良い。
【0097】
そして、S2の処理における微視組織の分析の結果とS3−2の処理で計算された相関関係とが用いられて析出物反映係数の算定が行われる(S3−3)。
【0098】
具体的には、析出物反映部11aにより、S2の処理においてメモリ15に記憶されたバナジウム系析出物の数密度の値ρuが数式2へと当てはめられて(別言すると、代入されて)、析出物反映係数の値Kuが算定される。
【0099】
そして、析出物反映部11aにより、算定された析出物反映係数の値Kuがメモリ15に記憶させられる。
【0100】
また、S1の処理において採取されたSP試験片が用いられてスモールパンチクリープ試験が行われる(S4)。
【0101】
S4の処理では、S1の処理において微視組織分析用のサンプルと共に採取されたSP試験片が用いられてスモールパンチによるクリープ試験が行われてスモールパンチクリープ試験によるクリープ特性が把握される。
【0102】
スモールパンチ(SP)によるクリープ試験は、実機における稼働温度の値Tu〔℃〕及び稼働応力の値σu〔MPa〕が確認された上で、例えば、図4に示す装置が用いられると共に下記の試験条件に則して行われる。
<クリープ試験の条件>
温度:Tu ℃
荷重:σu MPa
雰囲気:高純度アルゴン(Ar)ガス(99.99%),150 ml/分
【0103】
そして、S1の処理において採取されたSP試験片についてのスモールパンチによるクリープ試験の結果に関する値(具体的には、試験温度,試験応力,破断時間など)が入力部13を介して入力され、当該入力された値がメモリ15に記憶される。
【0104】
続いて、S4の処理におけるスモールパンチクリープ試験の結果に基づいてクリープ特性の評価が行われる(S5)。
【0105】
S5の処理では、S4の処理によって判明した性質を備える母材試験片の長時間領域に於けるクリープ特性(別言すると、クリープ破断特性)が、クリープ試験のデータベース22が参照されることによって推定される。
【0106】
具体的には、はじめに、評価のための準備として、スモールパンチによるクリープ試験の結果に基づく余寿命の推定式の算定が行われる(S5−1)。
【0107】
具体的には、制御部11の長期挙動反映部11bにより、S4の処理においてメモリ15に記憶されたスモールパンチによるクリープ試験の結果のデータが読み込まれる。
【0108】
この際、必要に応じ、材料のクリープ特性/クリープ寿命を評価する際に適切な温度範囲(別言すると、温度区分)が考慮されるなどした上で、S1の処理においてメモリ15に記憶された実機における稼働温度の値Tu〔℃〕が参照されて、メモリ15に記憶されているスモールパンチクリープ試験結果のデータのうち前記実機における稼働温度の値Tu〔℃〕に対応するデータのみが利用されるようにしても良い。
【0109】
この際、必要に応じ、材料のクリープ特性/クリープ寿命を評価する際に適切な応力範囲(別言すると、応力区分)が考慮されるなどした上で、S1の処理においてメモリ15に記憶された実機における稼働応力の値σu〔MPa〕が参照されて、メモリ15に記憶されているスモールパンチクリープ試験結果のデータのうち前記実機における稼働応力の値σu〔MPa〕に対応するデータのみが利用されるようにしても良い。
【0110】
続いて、長期挙動反映部11bにより、上記によって読み込まれたスモールパンチクリープ試験の結果のデータが用いられて余寿命の推定式が算定される。
【0111】
余寿命の推定式の算定は、具体的には例えば以下の数式3のような回帰式が想定されて回帰係数・定数(具体的には、数式3では、a0,a1,a2,C)が例えば重回帰分析によって推定されることによって行われる。
【0112】
【数3】
ここに、
tr:余寿命の推定値〔時間〕
T:温度〔℃〕,
σ:応力〔MPa〕,
0,a1,a2,C:回帰係数・定数 をそれぞれ表す。
【0113】
続いて、評価のための準備として更に、S5−1の処理で算定された余寿命の推定式が用いられて初期クリープ寿命の推定値の算出が行われる(S5−2)。
【0114】
具体的には、長期挙動反映部11bにより、S1の処理においてメモリ15に記憶された実機における稼働温度の値Tu〔℃〕及び稼働応力の値σu〔MPa〕が数式3へと当てはめられて(別言すると、代入されて)、余寿命の推定値trが算出される。
【0115】
数式3によって算出される余寿命の推定値trは、すなわち、スモールパンチによるクリープ試験の結果に基づく、稼働温度がTu〔℃〕且つ稼働応力がσu〔MPa〕で継続使用された場合の残寿命である。
【0116】
続いて、長期挙動反映部11bにより、算出された余寿命の推定値trが以下の数式4に代入されて使用材の母材部の初期クリープ寿命の推定値tiが算出される。なお、実機における稼働温度Tu〔℃〕及び稼働応力σu〔MPa〕で使用された時間の値tu〔時間〕は、分析用試料毎の組み合わせデータのそれぞれと関連付けられた情報として既知である。
【0117】
(数4) ti = tu+tr
ここに、
ti:使用材の母材部の初期クリープ寿命の推定値〔時間〕,
tu:稼働温度Tu〔℃〕・稼働応力σu〔MPa〕で使用された時間〔時間〕,
tr:数式3によって算出される余寿命の推定値〔時間〕
をそれぞれ表す。
【0118】
そして、S5−2の処理で算出された使用材の母材部の初期クリープ寿命の推定値が用いられて長期挙動反映係数の算定が行われる(S5−3)。
【0119】
具体的には、長期挙動反映部11bにより、S5−2の処理によって算出された初期クリープ寿命の推定値tiが以下の数式5へと当てはめられて(別言すると、代入されて)、長期挙動反映係数の値Luが算定される。
【0120】
(数5) L = ti/ts
ここに、 L:長期挙動反映係数,
ti:使用材の母材部の初期クリープ寿命の推定値〔時間〕,
ts:新材の母材部に関するクリープ寿命の基本値〔時間〕
をそれぞれ表す。
【0121】
数式5における新材の母材部に関するクリープ寿命の基本値tsとしては、平均的な特性に依る母材部に関するクリープ寿命が用いられる。新材の母材部に関するクリープ寿命の基本値tsとしては、具体的には例えば「2015年データ検討会母材(板材)平均特性」(前掲)に基づく値が用いられ得る。
【0122】
そして、長期挙動反映部11bにより、算定された長期挙動反映係数の値Luがメモリ15に記憶させられる。
【0123】
次に、S3の処理における析出物に係るクリープ特性の評価の結果とS5の処理における長期挙動に係るクリープ特性の評価の結果とに基づいて母材部のクリープ特性の評価が行われる(S6)。
【0124】
S6の処理では、S3の処理によって算定された析出物反映係数とS5の処理によって算定された長期挙動反映係数とに基づいて実機配管の母材部のクリープ特性を表す係数が特定される。
【0125】
具体的には、制御部11の特性評価部11cにより、S3の処理においてメモリ15に記憶された析出物反映係数の値Kuが読み込まれると共に、S5の処理においてメモリ15に記憶された長期挙動反映係数の値Luが読み込まれる。
【0126】
続いて、特性評価部11cにより、読み込まれた析出物反映係数の値Kuと長期挙動反映係数の値Luとのうち小さい方の値が特定される。
【0127】
そして、特性評価部11cにより、上記によって特定された値が母材部特性係数の値Xuとしてメモリ15に記憶させられる。
【0128】
次に、S6の処理における母材部のクリープ特性の評価の結果に基づいて、溶接部関連の処理に係る手順として、溶接部のクリープ特性の評価が行われる(S7)。
【0129】
S7の処理では、母材部についてS6の処理によって特定された母材部特性係数の値Xuを備える実機配管における溶接部のクリープ破断特性が、クリープ破断特性のデータベース23が参照されることによって推定される。
【0130】
具体的には、はじめに、評価のための準備として、クリープ破断特性のデータベース23に蓄積されたデータに係る分析用試料(具体的には、長時間使用された改良9Cr−1Mo鋼配管の母材や溶接継手)毎の初期クリープ寿命の推定が行われる(S7−1)。
【0131】
分析用試料の初期クリープ寿命は、S3−1の処理に関連して説明した「手順A」または「手順B」によって推定される。
【0132】
具体的には、制御部11の寿命算定部11dにより、データサーバ20のクリープ破断特性のデータベース23から分析用試料としての配管毎の母材部の標準クリープ試験の結果と溶接継手部の標準クリープ試験の結果との組み合わせデータが読み込まれ、手順Aまたは手順Bによって分析用試料(即ち、同一の配管の母材と溶接継手)毎の初期クリープ寿命が推定される。
【0133】
この際、必要に応じ、材料のクリープ特性/クリープ寿命を評価する際に適切な温度範囲(別言すると、温度区分)が考慮されるなどした上で、S1の処理においてメモリ15に記憶された実機における稼働温度の値Tu〔℃〕が参照されて、クリープ破断特性のデータベース23に蓄積されている組み合わせデータのうち前記実機における稼働温度の値Tu〔℃〕に対応する組み合わせデータのみが利用されるようにしても良い。
【0134】
そして、寿命算定部11dにより、クリープ破断特性のデータベース23に蓄積されたデータに係る分析用試料毎の(言い換えると、同一の配管に関する)、温度,応力,並びに前記温度及び応力における母材部の初期クリープ寿命(推定値)と溶接部の初期クリープ寿命(推定値)との組み合わせデータがメモリ15に記憶させられる。
【0135】
続いて、評価のための準備として更に、母材部の初期クリープ寿命と溶接部の初期クリープ寿命との間の相関関係の計算が行われる(S7−2)。
【0136】
具体的には、寿命算定部11dにより、S7−1の処理においてメモリ15に記憶された母材部の初期クリープ寿命(推定値)と溶接部の初期クリープ寿命(推定値)との組み合わせデータが読み込まれる。
【0137】
この際、必要に応じ、材料のクリープ特性/クリープ寿命を評価する際に適切な応力範囲(別言すると、応力区分)が考慮されるなどした上で、S1の処理においてメモリ15に記憶された実機における稼働応力の値σu〔MPa〕が参照されて、メモリ15に記憶されている組み合わせデータのうち前記実機における稼働応力の値σu〔MPa〕に対応する組み合わせデータのみが利用されるようにしても良い。
【0138】
続いて、寿命算定部11dにより、メモリ15から読み込まれた母材部の初期クリープ寿命(推定値)が新材の母材部に関するクリープ寿命の基本値で除されると共に溶接部の初期クリープ寿命(推定値)が新材の溶接部に関するクリープ寿命の基本値で除され、これにより、規格化された母材部の初期クリープ寿命と溶接部の初期クリープ寿命との組み合わせデータが生成される。
【0139】
新材の母材部に関するクリープ寿命の基本値としては、平均的な特性に依る母材部に関するクリープ寿命が用いられる。新材の母材部に関するクリープ寿命の基本値としては、具体的には例えば「2015年データ検討会母材(板材)平均特性」(前掲)に基づく値が用いられ得る。
【0140】
また、新材の溶接部に関するクリープ寿命の基本値としては、平均的な特性に依る溶接部に関するクリープ寿命が用いられる。新材の溶接部に関するクリープ寿命の基本値としては、具体的には例えば「2015年データ検討会溶接継手平均特性」(M.Yaguchiほか「Re−evaluation of Long−term Creep Strength of Welded Joint of ASME Grade 91 Type Steel」,Proc.PVP2016,Vancouver,Canada,PVP2016−63316,2016年)に基づく値が用いられ得る。
【0141】
さらに、寿命算定部11dにより、上記によって生成された組み合わせデータが用いられて母材部の初期クリープ寿命と溶接部の初期クリープ寿命との間の相関関係が計算される。
【0142】
両者の間の相関関係の計算は、具体的には例えば以下の数式6のような回帰式が想定されて回帰係数・定数(具体的には、数式6では、p,q,r)が例えば回帰分析によって推定されることによって行われる。
【0143】
(数6) Y = pX2+qX+r
ここに、 Y:規格化された溶接部の初期クリープ寿命(但し、Y≧0),
X:規格化された母材部の初期クリープ寿命,
p,q,r:回帰係数・定数 をそれぞれ表す。
【0144】
なお、母材部の初期クリープ寿命と溶接部の初期クリープ寿命との間の相関関係は、Xの値の範囲(別言すると、区分)が設定された上で、Xの値の範囲/区分別に計算されるようにしても良く、また、Xの値が所定の範囲であるときはYが一定の値であるようにしても良い。
【0145】
数式6は、同一の配管における母材部と溶接部との規格化された状態の寿命の間の関係を表す式であり、言い換えると、同一の配管における母材部のクリープ特性と溶接部のクリープ特性との間の関係を表す式であり、したがって、母材部の特性係数を溶接部の特性係数へと換算する式であると言える。このことから、数式6におけるYのことを「溶接部特性係数」と呼ぶ。
【0146】
そして、S6の処理における母材部のクリープ特性の評価の結果とS7−2の処理で計算された相関関係とが用いられて実機配管の溶接部の破断時間の推定が行われる(S7−3)。
【0147】
具体的には、寿命算定部11dにより、S6の処理においてメモリ15に記憶された母材部特性係数の値Xuが数式6の母材部の初期クリープ寿命Xへと当てはめられて(別言すると、代入されて)、溶接部の初期クリープ寿命Yとして溶接部特性係数の値Yuが算出される。
【0148】
さらに、寿命算定部11dにより、上記によって算出された溶接部特性係数の値Yuが以下の数式7に代入されて溶接部の破断時間が推定される。
【0149】
(数7) twj = Y×t
ここに、 twj:溶接部の破断時間〔時間〕,
Y:溶接部特性係数,
t:新材の溶接部に関するクリープ寿命の基本値〔時間〕
をそれぞれ表す。
【0150】
数式7における新材の溶接部に関するクリープ寿命の基本値としては、平均的な特性に依る溶接部のクリープ寿命が用いられる。新材の溶接部に関するクリープ寿命の基本値としては、具体的には例えば「2015年データ検討会溶接継手平均特性」(前掲;以下の数式8)に基づく値が用いられ得る。
【0151】
【数8】
ここに、 t:新材の溶接部に関するクリープ寿命の基本値〔時間〕,
T:温度〔℃〕,
σ:応力〔MPa〕 をそれぞれ表す。
【0152】
S1の処理においてメモリ15に記憶された実機における稼働温度の値Tu〔℃〕及び稼働応力の値σu〔MPa〕が参照されて、数式8のTに稼働温度の値Tuを代入すると共にσに稼働応力の値σuを代入することにより、これら稼働温度及び稼働応力に対する新材の溶接部のクリープ寿命が算出される。
【0153】
数式7によって算定される溶接部の破断時間twjの値はS1の処理においてその母材部から試料が採取された実機における配管の溶接継手の破断時間〔時間〕であり、当該破断時間から実機における稼働温度(Tu〔℃〕)及び稼働応力(σu〔MPa〕)で使用された時間(tu〔時間〕)が引かれることにより、前記の稼働温度(Tu〔℃〕)及び稼働応力(σu〔MPa〕)に対応する実機における配管の溶接継手の残寿命〔時間〕が算出される。
【0154】
そして、算出された実機における配管の溶接継手の破断時間〔時間〕や溶接継手の残寿命〔時間〕が表示部14に表示されたりデータファイルとして記憶部12に保存されたりする。その上で、制御部11は、S1の処理において試料が採取された配管に関する寿命の評価を終了する。
【0155】
以上のように構成された材料寿命の評価方法,材料寿命の評価装置,材料寿命の評価プログラムによれば、クロム鋼の母材部から採取された試料が用いられて母材部のクリープ特性が評価されて当該評価結果に基づいて当該のクロム鋼の溶接部のクリープ寿命(別言すると、クリープ破断特性)が評価されるので、材料・部材各々に固有のクリープ破断特性(別言すると、ヒート間差)を当該の材料・部材の溶接部の寿命評価において考慮することにより、各材料・部材の溶接部が有する固有のクリープ破断特性を反映させた寿命評価を行うことができる。このため、材料・部材毎の実質に即した寿命評価を行って寿命評価の推定精度の向上を図ることが可能になり、延いては寿命評価の信頼性の向上を図ることが可能になる。特に、従来の余寿命評価では全ての配管に対して一律に99%信頼下限特性が用いられているために保守的な結果を与える傾向があるのに対し、本発明では各材料・部材の実際の強度に即した材料特性が用いられるために一層合理的な評価結果を与えることが可能になる。
【0156】
なお、上述の実施形態は本発明を実施する際の好適な形態の一例ではあるものの本発明の実施の形態が上述のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において本発明は種々変形実施可能である。
【0157】
例えば、上述の実施形態では本発明に係る材料寿命の評価方法,材料寿命の評価装置,材料寿命の評価プログラムが改良9Cr−1Mo鋼配管の溶接部/溶接継手のクリープ寿命の評価に適用されるようにしているが、本発明の適用対象は改良9Cr−1Mo鋼配管の溶接継手に限定されるものではない。本発明は、例えば9〜12 mol% 程度のクロム(Cr)を含み且つ母材部と溶接部とを有するクロム鋼材料・部材一般を対象として広く適用され得る。
【0158】
また、上述の実施形態ではS6の処理において析出物反映係数の値Kuと長期挙動反映係数の値Luとのうち小さい方が母材部特性係数の値Xuとして用いられるようにしているが、析出物反映係数の値Kuと長期挙動反映係数の値Luとに基づく母材部特性係数の値Xuの決定方法は上述の実施形態におけるものに限られるものではなく、例えば析出物反映係数の値Kuと長期挙動反映係数の値Luとの平均値が母材部特性係数の値Xuとして用いられるようにしても良く、さらに言えば、母材部特性係数の値Xuは析出物反映係数の値Kuと長期挙動反映係数の値Luとの間の範囲であればどのように決定されても良い。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明に係る材料寿命の評価方法,材料寿命の評価装置,材料寿命の評価プログラムは、材料寿命の評価を精度良く行うことができるので、例えば、材料工学、構造工学、構造物の設計実務や維持・管理実務等の分野で利用価値が高い。
【符号の説明】
【0160】
10 コンピュータ/材料寿命の評価装置
11 制御部
11a 析出物反映部
11b 長期挙動反映部
11c 特性評価部
11d 寿命算定部
12 記憶部
13 入力部
14 表示部
15 メモリ
17 評価プログラム
20 データサーバ
21 微視組織のデータベース
22 クリープ試験のデータベース
23 クリープ破断特性のデータベース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7