特許第6977246号(P6977246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6977246
(24)【登録日】2021年11月15日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】帯電防止薄膜、及び帯電防止用水溶液
(51)【国際特許分類】
   C09D 181/00 20060101AFI20211125BHJP
   C09D 139/06 20060101ALI20211125BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20211125BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20211125BHJP
   C09K 3/16 20060101ALI20211125BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20211125BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   C09D181/00
   C09D139/06
   C09D7/63
   C09D5/24
   C09K3/16 108B
   B32B7/025
   B32B27/18 D
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-194117(P2016-194117)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-105982(P2017-105982A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2019年8月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-237937(P2015-237937)
(32)【優先日】2015年12月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松丸 慶太郎
(72)【発明者】
【氏名】箭野 裕一
【審査官】 藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−532525(JP,A)
【文献】 特開2014−148674(JP,A)
【文献】 特開2012−099265(JP,A)
【文献】 特開2015−157923(JP,A)
【文献】 特表2006−505099(JP,A)
【文献】 特開2013−43352(JP,A)
【文献】 特開2012−172024(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0245723(US,A1)
【文献】 特開2014−173015(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/027145(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00− 10/00
101/00−201/10
C09K 3/16
B32B 1/00− 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)と、ポリビニルピロリドン、及びポリビニルピロリドンの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種の水溶性樹脂(B)と還元性多価アルコール化合物(C)を含む薄膜であって、(B)含有量が(A)1重量部に対して0.1〜10重量部、(C)含有量が(A)1重量部に対して0.1〜15重量部であることを特徴とする薄膜。
【化1】
【化2】
[上記式(1)及び式(2)中、Lは下記一般式(3)又は式(4)を表し、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。]
【化3】
[上記式(3)中、lは6〜12の整数を表す。]
【化4】
[上記式(4)中、mは1〜6の整数を表す。Rは水素原子、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、又はフッ素原子を表す。]
【請求項2】
還元性多価アルコール化合物(C)が、アルデヒド基、−CO−CHOHで表される基、若しくは2重結合を有する多価アルコール化合物、又はこれらの分子内脱水縮合物であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜。
【請求項3】
(A)、(B)、及び(C)に加えて、界面活性剤(D)をさらに含んでいてもよく、(D)含有量が(A)1重量部に対して0.01〜100重量部であることを特徴とする、請求項1に記載の薄膜。
【請求項4】
界面活性剤(D)が、ポリエチレングリコール型界面活性剤、アセチレングリコール型界面活性剤、多価アルコール型界面活性剤、ベタイン型両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項3に記載の薄膜。
【請求項5】
(A)が10S/cm以上の導電率を示すものであることを特徴とする請求項1に記載の薄膜
【請求項6】
下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)と、ポリビニルピロリドン、及びポリビニルピロリドンの共重合体からなる群より選ばれる水溶性樹脂(B)と、還元性多価アルコール化合物(C)を含む水溶液であって、水溶液における(A)の濃度が0.02〜0.2重量%、(B)含有量が(A)1重量部に対して0.1〜10重量部、(C)含有量が(A)1重量部に対して0.1〜15重量部であることを特徴とする水溶液を基板に塗布し、乾燥させることを特徴とする、請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【化5】
【化6】
[上記式(1)及び式(2)中、Lは下記一般式(3)又は式(4)を表し、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。]
【化7】
[上記式(3)中、lは6〜12の整数を表す。]
【化8】
[上記式(4)中、mは1〜6の整数を表す。Rは水素原子、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、又はフッ素原子を表す。]
【請求項7】
基板に塗布する水溶液が、(A)、(B)、及び(C)に加えて、さらにアルコールを含む水溶液であることを特徴とする、請求項6に記載の薄膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の薄膜を有してなる帯電防止フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光耐久性と湿度耐久性を兼ね備えた薄膜を提供することを目的としたものであり、高い導電性を有する特定の自己ドープ型導電性高分子と特定の水溶性樹脂、及び特定の還元性多価アルコール化合物を含むことを特徴とする薄膜であり、さらにはそれを得るための製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール等に代表されるπ共役系高分子に、電子受容性化合物をドーパントとしてドープした導電性高分子材料が開発され、例えば、帯電防止剤、コンデンサの固体電解質、導電性塗料、電磁波シールド、エレクトロクロミック素子、電極材料、熱電変換材料、透明導電膜、化学センサ、アクチュエータ等への応用が検討されている。これらの中でも、化学的安定性の面からポリチオフェン系導電性高分子材料が実用上有用である。
【0003】
ポリチオフェン系導電性高分子材料としては、ドーパントとなるポリスチレンスルホン酸(PSS)の水溶液中で、3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を重合させることで得られるPEDOT/PSS水分散体溶液や、水溶性の付与とドーピング作用を兼ね備えた置換基(スルホ基、スルホネート基等)を直接又はスペーサを介してポリマー主鎖中に有する、いわゆる自己ドープ型導電性高分子があり、後者としては例えば、スルホン化ポリアニリン、PEDOT−S等が知られている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0004】
導電性高分子の用途としては、特に帯電防止剤や固体電解コンデンサの固体電解質への利用が多く検討されている。例えば、帯電防止剤は非導電性基材を導電性高分子で被覆して導電性を付与するのに使用される。一般に表面保護用の粘着フィルムやキャリヤテープ等にはポリエステルフィルム等の熱可塑性樹脂が基材として広く用いられているが、これら高分子基材は絶縁性のため、成形、加工、使用の際に静電気によるフィルムへの塵や埃の付着やフィルム同士の密着、フィルムカット時やロール状フィルムの巻出し時の帯電により、電子回路や半導体部品等の電子機器を静電破壊する問題がある。このような問題を回避するための方策の一つとして、導電性高分子が前記高分子基材を帯電防止層に使用する方法がある。導電性高分子系の帯電防止剤は電子伝導性の導電機構のため、界面活性剤型の帯電防止剤のように使用環境の湿度による機能低下が小さい利点がある。このような帯電防止材の用途には、高い導電率を示すPEDOT/PSS水溶液が用いられ、帯電防止コーティング用組成物(特許文献1)、及び導電性コーティング用組成物(特許文献2)などが存在している。また、2種類の高分子からなるPEDOT/PSSに対して、単一成分からなる自己ドープ型の導電性高分子としては、ポリ[3−スルホプロピル−2,5−チエニレン]を用いたもの(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−90318
【特許文献2】特開2014−148674
【特許文献3】特開2002−226721号
【非特許文献】
【0006】
本発明の還元性多価アルコール化合物(C)としては、特に限定するものではないが、耐光性に優れる点で、アルデヒド基、−CO−CHOHで表される基、若しくは2重結合を有する多価アルコール化合物、又はこれらの分子内脱水縮合物であることが好ましく、このような化合物の好ましい例として、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、ラクトースなどの単糖類や二糖類、又はL−アスコルビン酸、エリソルビン酸、グルクロン酸ラクトン、グルカル酸ラクトンなどのラクトン環を有する化合物が挙げられる。これらのうち、耐光性に優れる点で、グルコース、L−アスコルビン酸、又はエリソルビン酸が好ましい。

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したPEDOT/PSSは3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)の2つの化合物からなる高分子材料であり、コーティング膜として塗膜化した場合には、有機性化合物のPEDOTと水溶性化合物のPSSが塗膜内で層分離しやすく、そのために塗膜の性能が劣化するなどの課題が残されていた。また、従来公知のPEDOT/PSS組成物は光耐久性と湿度耐久性について市場要求を満足しておらず、更なる改善が求められていた。
【0008】
また、前述したポリ[3−スルホプロピル−2,5−チエニレン]の導電率は0.1〜1S/cmと低いため、十分な帯電防止能力を発揮できるものではなかった。
【0009】
また、上記背景技術で示された従来の帯電防止コーティング膜や帯電防止フィルムには耐久性と導電性を両立するものがなく、改善が求められていた。
【0010】
すなわち、本発明の目的は、光耐久性、湿度耐久性、及び導電性に優れた帯電防止薄膜を提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明の構成によって、光耐久性、湿度耐久性、及び導電性に優れた薄膜を提供することができることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は以下に示すとおりの帯電防止薄膜、及び帯電防止水溶液に関するものである。
[1]
下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)と少なくとも一種の水溶性樹脂(B)と還元性多価アルコール化合物(C)を含む薄膜であって、(B)含有量が(A)1重量部に対して0.1〜10重量部、(C)含有量が(A)1重量部に対して0.1〜15重量部であることを特徴とする薄膜。
【0013】
【化1】
【0014】
【化2】
【0015】
[上記式(1)及び式(2)中、Lは下記一般式(3)又は式(4)を表し、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。]
【0016】
【化3】
【0017】
[上記式(3)中、lは6〜12の整数を表す。]
【0018】
【化4】
【0019】
[上記式(4)中、mは1〜6の整数を表す。Rは水素原子、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、又はフッ素原子を表す。]
[2]
水溶性樹脂(B)が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンの共重合体、水溶性ポリエステル、及び水溶性ポリウレタンからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする上記[1]に記載の薄膜。
[3]
還元性多価アルコール化合物(C)が、アルデヒド基、−CO−CHOHで表される基、若しくは2重結合を有する多価アルコール化合物、又はこれらの分子内脱水縮合物であることを特徴とする上記[1]に記載の薄膜。
[4]
(A)、(B)、及び(C)に加えて、界面活性剤(D)をさらに含んでいてもよく、(D)含有量が(A)1重量部に対して0.01〜100重量部であることを特徴とする、上記[1]に記載の薄膜。
[5]
界面活性剤(D)が、ポリエチレングリコール型界面活性剤、アセチレングリコール型界面活性剤、多価アルコール型界面活性剤、ベタイン型両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする上記[4]に記載の薄膜。
[6]
(A)が10S/cm以上の導電率を示すものであることを特徴とする上記[1]に記載の薄膜。
[7]
下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)と、水溶性樹脂(B)と、還元性多価アルコール化合物(C)を含む水溶液であって、水溶液における(A)の濃度が0.02〜0.2重量%、(B)含有量が(A)1重量部に対して0.1〜10重量部、(C)含有量が(A)1重量部に対して0.1〜15重量部であることを特徴とする水溶液を基板に塗布し、乾燥させることを特徴とする、上記[1]に記載の薄膜の製造方法。
【0020】
【化5】
【0021】
【化6】
【0022】
[上記式(1)及び式(2)中、Lは下記一般式(3)又は式(4)を表し、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。]
【0023】
【化7】
【0024】
[上記式(3)中、lは6〜12の整数を表す。]
【0025】
【化8】
【0026】
[上記式(4)中、mは1〜6の整数を表す。Rは水素原子、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、又はフッ素原子を表す。]
[8]
基板に塗布する水溶液が、(A)、(B)、及び(C)に加えて、さらにアルコールを含む水溶液であることを特徴とする、上記[7]に記載の薄膜の製造方法。
[9]
上記[1]に記載の薄膜を有してなる帯電防止フィルム。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、光耐久性、湿度耐久性、及び高導電性を兼ね備えた薄膜を提供できる。この薄膜は帯電防止機能を有する為、帯電防止フィルムとしての使用が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0029】
本発明の帯電防止薄膜は、下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)と少なくとも一種の水溶性樹脂(B)と還元性多価アルコール化合物(C)を含む薄膜であって、(B)含有量が(A)1重量部に対して0.1〜10重量部、(C)含有量が(A)1重量部に対して0.1〜15重量部であることを特徴とする薄膜。
【0030】
【化9】
【0031】
【化10】
【0032】
[上記式(1)及び式(2)中、Lは下記一般式(3)又は式(4)を表し、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。]
【0033】
【化11】
【0034】
[上記式(3)中、lは6〜12の整数を表す。]
【0035】
【化12】
【0036】
[上記式(4)中、mは1〜6の整数を表す。Rは水素原子、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、又はフッ素原子を表す。]
前記のアルカリ金属イオンとしては、例えば、Liイオン、Naイオン、Kイオンが好ましい。
【0037】
前記のアミン化合物の共役酸としては、アミン化合物にヒドロン(H)が付加してカチオン種になったものを示す。
【0038】
前記の第4級アンモニウムカチオンとしては、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラノルマルプロピルアンモニウムカチオン、テトラノルマルブチルアンモニウムカチオン、テトラノルマルヘキシルアンモニウムカチオンなどが挙げられる。入手の観点から好ましくは、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオンである。
【0039】
上記式(3)中、lは6〜12の整数を表し、好ましくは6〜8の整数である。
【0040】
上記式(4)中、Rは水素原子、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、又はフッ素原子を表す。
【0041】
炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−へキシル基、2−エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0042】
式(4)のRについては、成膜性の点で、水素原子、メチル基、エチル基、又はフッ素原子であることが好ましい。
【0043】
上記式(4)中、mは1〜6の整数を表し、好ましくは、mは1〜4の整数であり、より好ましくは2である。
【0044】
上記式(2)で表される構造単位は、上記式(1)で表される構造単位のドーピング状態を表す。
【0045】
ドーピングにより絶縁体−金属転移を引き起こすドーパントは、アクセプタとドナーに分けられる。前者は、ドーピングにより導電性ポリマーの高分子鎖の近くに入り主鎖の共役系からπ電子を奪う。結果として、主鎖上に正電荷(正孔、ホール)が注入されるため、p型ドーパントとも呼ばれる。また、後者は、逆に主鎖の共役系に電子を与えることになり、この電子が主鎖の共役系を動くことになるため、n型ドーパントとも呼ばれる。
【0046】
本発明におけるドーパントは、ポリマー分子内に共有結合で結びついたスルホ基又はスルホナート基であり、p型ドーパントである。このように外部からドーパントを添加することなく導電性を発現するポリマーは自己ドープ型高分子と呼ばれている。
【0047】
本発明のポリチオフェン(A)は、下記式(5)で表されるチオフェンモノマーを、水又はアルコール溶媒中、酸化剤の存在下に重合させることで製造することができる。
【0048】
【化13】
【0049】
[上記式(5)中、Lは上記と同じ定義である。Mは、金属イオンを表わす。]
一般式(5)におけるMで表される金属イオンとしては、特に限定するものではないが、Liイオン、Naイオン、及びKイオン等が挙げられる。
【0050】
重合後のポリマーは金属塩であるため、必要に応じて、得られたポリマーを酸処理することでMを水素イオンへ変換可能であり、さらにこれをアミン化合物と反応させることで、Mをアミン化合物の共役酸へ変換可能である
上記式(1)又は式(2)において、Lが上記式(3)で表される、本発明のポリチオフェンを得るためのチオフェンモノマーとしては、具体的には、6−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)ヘキサン−1−スルホン酸、6−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)ヘキサン−1−スルホン酸ナトリウム、6−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)ヘキサン−1−スルホン酸リチウム、6−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)ヘキサン−1−スルホン酸カリウム、8−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)オクタン−1−スルホン酸、8−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)オクタン−1−スルホン酸ナトリウム、及び8−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)オクタン−1−スルホン酸カリウム等が例示される。
【0051】
上記式(1)又は式(2)において、Lが上記式(4)で表される、本発明のポリチオフェンを得るためのチオフェンモノマーとしては、具体的には、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−プロパンスルホン酸カリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−エチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−プロピル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−ブチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−ペンチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−ヘキシル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−イソプロピル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−イソブチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−イソペンチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−フルオロ−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸カリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸アンモニウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸トリエチルアンモニウム、4−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−ブタンスルホン酸ナトリウム、4−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−ブタンスルホン酸カリウム、4−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−ブタンスルホン酸ナトリウム、4−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−ブタンスルホン酸カリウム、4−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−フルオロ−1−ブタンスルホン酸ナトリウム、及び4−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−フルオロ−1−ブタンスルホン酸カリウム等が例示される。
【0052】
本発明のアミン化合物の共役酸としては、スルホン酸基と反応して共役酸を形成するアミン化合物であればよく、sp3混成軌道を有するN(Rで表されるアミン化合物[共役酸としては[NH(Rで表される。]、又はsp2混成軌道を有するピリジン類化合物、イミダゾール類化合物等である。
【0053】
置換基Rは、各々独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は置換基を有する炭素数1〜6のアルキル基を表す。
【0054】
炭素数1〜6のアルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−へキシル基、2−エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0055】
置換基を有する炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、アミノ基、又はヒドロキシ基を有する炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、具体的には、トリフルオロメチル基、2−ヒドロキシエチル基等が例示される。
【0056】
これらのうち、置換基Rとしては、独立して、水素原子、メチル基、エチル基、2−ヒドロキシエチル基が好ましい。
【0057】
アミン化合物の共役酸を形成するN(Rで表されるアミン化合物としては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、ノルマル−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ノルマルブチルアミン、ターシャリーブチルアミン、ヘキシルアミン、エタノールアミン化合物(例えば、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、メチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン)、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、3−メチルアミノ−1,2−プロパンジオール、3−ジメチルアミノ−1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジアミン等があり、N(Rで表されるアミン化合物以外の化合物としては、イミダゾール化合物(例えば、イミダゾール、N−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール)、ピリジンピコリン、ルチジン等が例示される。これらのうち、好ましくは、エタノールアミン化合物、イミダゾール化合物である。
【0058】
本発明の水溶性樹脂(B)としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性ポリエステル、又は水溶性ポリウレタンが好ましい。ポリビニルピロリドンの共重合体としては、特に限定するものではないが、親水性部と疎水性部をポリマー鎖中に併せ持つものが好ましく、例えば、ポリビニルピロリドンをポリビニルアルコールにグラフトしたコポリマーや、[ビニルピロリドン−酢酸ビニル]ブロック共重合体、[ビニルピロリドン−メチルメタクリレート]共重合体、[ビニルピロリドン−ノルマルブチルメタクリレート]共重合体、[ビニルピロリドン−アクリルアミド]共重合体などが例示できる。ポリアクリルアミド、ポリ(N−ビニルアセトアミド)なども用いることができる。なおこれらの水溶性樹脂については、金属量低減の観点から、顆粒状、膜状の陽イオン交換樹脂、ゼータ電位を利用した金属除去フィルター処理を行ったものを用いることが好ましい。
【0059】
水溶性樹脂の分子量は、水溶性が良好であれば特に制限されないが、好ましくはMw=1千〜200万、より好ましくは1万〜150万の範囲である。
【0060】
本発明の還元性多価アルコール化合物(C)としては、特に限定するものではないが、耐光性に優れる点で、アルデヒド基、−CO−CHOHで表される基、若しくは2重結合を有する多価アルコール化合物、又はこれらの分子内脱水縮合物であることが好ましく、このような化合物の好ましい例として、グルコース、スクロース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、ラクトースなどの単糖類や二糖類、又はL−アスコルビン酸、エリソルビン酸、グルクロン酸ラクトン、グルカル酸ラクトンなどのラクトン環を有する化合物が挙げられる。これらのうち、耐光性に優れる点で、グルコース、スクロース、L−アスコルビン酸、又はエリソルビン酸が好ましい。
【0061】
本発明において、(A)、(B)、及び(C)に、更に界面活性剤(D)を含んでいてもよい。当該界面活性剤(D)の含有量は、(A)1重量部に対して、好ましくは0.01〜100重量部であり、より好ましくは0.05〜80重量部であり、更に好ましくは0.1〜50重量部の範囲である。
【0062】
前記界面活性剤(D)としては、特に限定するものではないが、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、又はシリコーン系界面活性剤等が好ましく使用できる。これらのうち、より好ましくは非イオン界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
【0063】
前記の非イオン界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリエチレングリコール型界面活性剤、アセチレングリコール型界面活性剤、多価アルコール型界面活性剤等が挙げられる。
【0064】
前記のポリエチレングリコール型界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、又はポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0065】
前記のアセチレングリコール型界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、サーフィノール(エアプロダクツ社製)、オルフィン(日信化学工業社製)等が挙げられる。
【0066】
前記の多価アルコール型界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、グリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、高アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等が挙げられる。
【0067】
前記の両性界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ベタイン型両性界面活性剤が挙げられる。ベタイン型両性界面活性剤としては特に限定するものではないが、例えば、アルキルジメチルベタイン、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等が挙げられる。
【0068】
前記のフッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキル基を有するものであれば特に限定されないが、パーフルオロアルカン、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸、又はパーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0069】
前記のシリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルエステル変性ポリジメチルシロキサン、ヒドロキシル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル基含有ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、又はシリコーン変性アクリル化合物などが挙げられる。
【0070】
フッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤はレベリング剤として塗膜の平坦性を改善する目的においても有効である。
【0071】
本発明においてポリチオフェン(A)の導電率は、特に限定するものではないが、フィルム状態での導電率(電気伝導度)として、10S/cm以上であることが好ましい。
【0072】
本発明の薄膜については、(A)、(B)、(C)、及び(D)に、更に後述するアミン化合物(E)を含んでいてもよい。
【0073】
本発明の薄膜を製造するための水溶液を調製する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、本発明のポリチオフェン(A)の水溶液又は固体と、水溶性樹脂(B)と、還元性多価アルコール化合物(C)と、必要に応じて界面活性剤(D)と、必要に応じて水とを使用する。これらを任意の順で混合することにより本発明の薄膜を製造するための水溶液を調製することができる。
【0074】
ここで、混合する際の温度は、特に限定するものではないが、例えば、室温〜加温下で行うことができる。好ましくは0℃以上100℃以下が好ましい。
【0075】
混合する際の雰囲気は、特に限定するものではないが、大気中でも、不活性ガス中でも良い。
【0076】
この水溶液のpHは10以下であることが好ましく、9以下であることがより好ましい。さらに、この水溶液のpHは、1.5以上9.5以下の範囲が好ましく、1.5以上9以下の範囲内がより好ましい。ここで、pHを調整する手順としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリチオフェン(A)と水溶性樹脂(B)とを混合した後、アミン化合物(E)を添加することにより調整することができる。また、ポリチオフェン(A)、水溶性樹脂(B)及び還元性多価アルコール化合物(C)を混合した後、アミン化合物(E)を添加することにより調整することができる。さらには、ポリチオフェン(A)の水溶液を予めアミン化合物(E)で中和した後に、水溶性樹脂(B)、必要に応じて還元性多価アルコール化合物(C)を添加してもよい。
【0077】
アミン化合物(E)としては、特に限定するものではないが、例えば、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、ノルマル−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ノルマルブチルアミン、ターシャリーブチルアミン、ヘキシルアミン、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、メチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、3−メチルアミノ−1,2−プロパンジオール、3−ジメチルアミノ−1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジアミン、イミダゾール、N−メチルイミダゾール、1、2−ジメチルイミダゾール、ピリジン、ピコリン、ルチジン等が挙げられる。添加する際には、ニートでも水溶液でも良い。
【0078】
本発明の薄膜を製造するための水溶液を混合する際には、スターラーチップ、攪拌羽根等による一般的な混合溶解操作に加えて、超音波照射、ホモジナイズ処理(例えば、メカニカルホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等の使用)を行ってもよい。ホモジナイズ処理する場合には、ポリマーの熱劣化を防ぐため、冷温しながら行うことが好ましい。
【0079】
本発明の薄膜を製造するための水溶液の濃度調整は、配合比で調整しても良いし、配合後に濃縮により調整しても良い。濃縮の方法は、減圧下に溶媒を留去する方法であっても、限外ろ過膜を利用する方法であっても良い。
【0080】
本発明の薄膜を製造するための水溶液の中のポリチオフェン(A)の濃度は0.01重量%以上であれば特に限定するものではないが、好ましくは0.02重量%〜0.2重量%の範囲である。
【0081】
本発明の薄膜を製造するための水溶液の固形分の粒径は、特に限定するものではないが、小さいほど水溶性が良好であり、導電性や成膜時の均一な膜形成の観点からも望ましい。例えば、室温又は加温下で調製した導電性高分子水溶液の固形分濃度が10重量%以下の場合、固形分の粒子径(D50)が0.02μm以下であれば、水溶性がより良好となる。
【0082】
本発明の薄膜を製造するための水溶液の粘度(20℃)は、200mPa・s以下であれば特に限定されないが、好ましくは100mPa・s以下、さらに好ましくは50mPa・s以下である。
【0083】
本発明の薄膜を形成する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリチオフェン(A)の水溶液又は固体と、水溶性樹脂(B)と、還元性多価アルコール化合物(C)とを含む水溶液を、支持体に塗布し乾燥することで支持体上に薄膜が簡便に得られる(以下、その支持体と薄膜を合わせて「被覆物品」と称する。)
支持体としては、水溶液が塗布可能なものであれば特に限定するものではないが、例えば、高分子基材又は無機基材が挙げられる。高分子基材としては、例えば、熱可塑性樹脂、不織布、紙、レジスト膜基板等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート等が挙げられる。不織布としては、例えば、天然繊維、合成繊維、又はガラス繊維製のいずれでもよい。紙としては一般的なセルロースを主成分とするものでよい。無機基材としては、ガラス、セラミックス、酸化アルミニウム、酸化タンタル等が挙げられる。
【0084】
支持体への塗布方法としては、例えば、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ディスペンサ法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法、スピンコート法、インクジェット法等が挙げられる。好ましくはスピンコート法、及びバーコート法である。
【0085】
薄膜の乾燥温度は、均一な薄膜が得られる温度及び基材の耐熱温度以下であれば特に限定するものではないが、室温〜300℃の範囲であり、好ましくは室温〜250℃の範囲であり、さらに好ましくは室温〜200℃の範囲である。
【0086】
乾燥雰囲気は大気中、不活性ガス中、真空中、又は減圧下のいずれであってもよい。高分子膜の劣化抑制の観点からは、窒素、アルゴン等の不活性ガス中が好ましい。
【0087】
得られる薄膜の膜厚としては特に限定するものではないが、10−3〜10μmの範囲が好ましい。より好ましくは10−3〜10−1μmである。この薄膜の導電率としては特に限定するものではないが高い方が好ましい。
【0088】
また、得られる薄膜の表面抵抗値としては特に限定するものではないが、1.0E+11Ω/□以下が好ましく、より好ましくは1.0E+10Ω/□以下である。表面抵抗値を測定する際の印加電圧は特に限定されないが、10V又は500Vで測定する。
【0089】
本発明の被覆物品は、特に帯電防止フィルムとして使用される。
【0090】
本発明の薄膜を製造するための水溶液は、さらにアルコールを含んでもよい。
【0091】
アルコールとしては、特に限定するものではないが、例えば、エタノール、2価のアルコール、3価のアルコールからなる群より選択される少なくとも一種のアルコールが挙げられる。
【0092】
2価アルコールとしては特に限定するものではないが、入手の観点から、エチレングリコールが好ましい。3価アルコールとしては、特に限定するものではないが、例えば、グリセロールが好ましい。
【実施例】
【0093】
以下に本発明に関する実施例を示す。
【0094】
なお、本実施例で用いた分析機器及び測定方法を以下に列記する。
【0095】
[表面抵抗率測定]
装置:三菱化学社製ロレスタGP MCP−T600。
【0096】
装置:三菱化学社製ハイレスタUX MCP−HT8000。
【0097】
[膜厚測定]
装置:BRUKER社製 DEKTAK XT。
[自己ドープ型導電性高分子の導電率測定]
自己ドープ型導電性ポリマーを含む水溶液0.5mlを25mm角の無アルカリガラス板に塗布し、室温で一晩乾燥した後、ホットプレート上で120℃にて20分、さらに160℃にて10分加熱して導電性高分子膜を得た。膜厚及び表面抵抗値から、以下の式に基づき算出した。
【0098】
導電率[S/cm]=1.0E+4/(表面抵抗率[Ω/□]×膜厚[μm])。
【0099】
[塗布性&帯電防止評価]
(1)高分子基材(熱可塑性樹脂)への塗布性評価
導電性水溶液を7cm×14cmにカットしたPETフィルム(東レ社製ルミラーT60/38μm)にバーコーター(オーエスジーシステムプロダクト社製セレクトローラーOSP−22)を用いて一定速度で塗布した後、乾燥器で90℃3分乾燥して積層フィルムを得た。得られた薄膜の表面抵抗値が安定していれば塗布性良好とし、表面抵抗値が1.0E+9Ω/□以下であれば帯電防止能が良好と判断した。
【0100】
・光耐久性評価
装置:TAIYO社製定温熱風乾燥器
Hi−TALL DRY OVEN M−14
UV殺菌ランプ装置(主波長:253.7nm)
条件:25℃、50%RH、8時間
評価:試験前に対する試験後の表面抵抗率の上昇率が300倍未満である場合を良好とした。300倍以上を不良とした。
【0101】
・湿度耐久性評価
装置:ESPEC社製 SH−241
条件:60℃、95%RH、300時間
評価:試験前に対する試験後の表面抵抗率の上昇率が10倍未満である場合を良好とした。10倍以上を不良とした。
【0102】
合成例1.
ポリチオフェン(A)[下記式(6)又は下記式(7)で表される構造単位を含む重合体]の合成.
500mlセパラブルフラスコに、従来公知の製造方法に準じて合成した3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム 10g(30mmol)と水150gを加えた。溶解後、室温下、無水塩化鉄(III) 2.94g(18.1mmol)を加えて20分攪拌した。次いで、反応液温度30℃以下を保持しながら、過硫酸ナトリウム 14.5g(60.4mmol)と水 100gからなる混合溶液を滴下した。滴下完了後、室温で3時間攪拌したのち、反応液を800gのアセトンに滴下させ、黒色のNa型のポリマーを析出させた。ポリマーを濾過・真空乾燥することで、18.0gの3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウムの粗ポリマーを得た。
【0103】
次に、この粗ポリマー14.5gに水を加え2重量%溶液に調製した水溶液 700gを、陽イオン交換樹脂Lewatit MonoPlus S100(H型) 200mlを充填したカラムに通液(空間速度=1.1)することによりH型のポリマー水溶液を 738g得た。更に、本ポリマー水溶液をクロスフロー式限外ろ過(ろ過器=ビバフロー200、分画分子量=5,000、透過倍率=5)により精製することにより下記式(6)又は式(7)で表される構造単位を含む重合体の濃群青色水溶液を 698g合成した。本ポリマー(ポリチオフェン(A))水溶液に含まれるポリマー量は 0.74重量%であった。又、本ポリマー水溶液は、鉄イオン及びナトリウムイオンを、各々44ppm及び12ppm(対ポリマー)含んでいた。
【0104】
【化14】
【0105】
【化15】
【0106】
合成例2.
ポリチオフェン(A)[下記式(8)又は下記式(9)で表される構造単位を含む重合体]の合成.
合成例1に準じて得られたポリチオフェン(A)[前記式(6)又は前記式(7)で表される構造単位を含む重合体]の水溶液を攪拌下、50%N,N―ジメチルエタノールアミノ水溶液で中和した後(pH7.8)、固形分が2重量%になるように濃度調整した。
【0107】
【化16】
【0108】
【化17】
【0109】
実施例1.
合成例2に準じて得たポリチオフェン(A)[前記式(8)又は、前記式(9)で表される構造単位を含む重合体][導電率119S/cm]を2重量%含む水溶液 0.123gに、水溶性樹脂(B)としてポリビニルピロリドンK90(BASF社製 SokalanK90 分子量140万)を2.5重量%含む水溶液を 0.167g、還元性多価アルコール化合物(C)としてグルコースを10重量%含む水溶液を 0.025g、エタノールを 0.385g、水を 4.42g加えてよく撹拌混合した。本配合液の組成は、(A)含有量が0.048重量%であり、(B)含有量が(A)1重量部に対して1.67重量部、(C)含有量が(A)1重量部に対して1.04重量部である。
【0110】
このようにして得られた導電性高分子水溶液 0.3gを、7cm×14cmにカットしたPETフィルム(東レ社製ルミラーT60/38μm)にバーコーター(オーエスジーシステムプロダクト社製セレクトローラー OSP−22)を用いて一定速度で塗布した後、乾燥機で90℃3分乾燥して積層フィルムを得た。得られた膜は斑の無い均一状態を示し、且つ当該膜の表面抵抗値は、測定箇所によらず安定的に1.0E+9Ω/□を示したため、良好な帯電防止能を有していることが分かった。本実施例で作製した積層フィルムの耐光性試験、及び耐湿性試験を実施した。
【0111】
実施例2.
(B)含有量が(A)1重量部に対して1.70重量部、(C)含有量が(A)1重量部に対して2.09重量部である水溶液以外は実施例1と同様にして積層フィルムを得、耐光性試験、及び耐湿性試験を実施した。
【0112】
実施例3.
(B)含有量が(A)1重量部に対して1.70重量部、(C)含有量が(A)1重量部に対して5.10重量部である水溶液以外は実施例1と同様にして積層フィルムを得、耐光性試験、及び耐湿性試験を実施した。
【0113】
実施例4.
(B)含有量が(A)1重量部に対して1.70重量部、(C)含有量が(A)1重量部に対して10.20重量部である水溶液以外は実施例1と同様にして積層フィルムを得、耐光性試験、及び耐湿性試験を実施した。
【0114】
実施例5.
水溶性樹脂(C)としてグルコースを10重量%含む水溶液の代わりにL−アスコルビン酸10重量%含む水溶液を用い、(B)含有量が(A)1重量部に対して1.7重量部、(C)含有量が(A)1重量部に対して2.09重量部である水溶液以外は実施例1と同様にして積層フィルムを得、耐光性試験、及び耐湿性試験を実施した。
【0115】
実施例6.
(C)含有量が(A)1重量部に対して5.10重量部である水溶液以外は実施例5と同様にして積層フィルムを得、耐光性試験、及び耐湿性試験を実施した。
【0116】
実施例7.
(C)含有量が(A)1重量部に対して10.20重量部である水溶液以外は実施例5と同様にして積層フィルムを得、耐光性試験、及び耐湿性試験を実施した。
【0117】
比較例1.
(B)含有量が(A)1重量部に対して1.70重量部、(C)含有量が(A)1重量部に対して20.15重量部である水溶液以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作製したが、塗工不良となりフィルムを得ることが出来なかった。
【0118】
比較例2.
(C)含有量が(A)1重量部に対して20.11重量部である水溶液以外は実施例5と同様にして積層フィルムを作製したが、塗工不良となりフィルムを得ることが出来なかった。
【0119】
参考例1.
(B)含有量が(A)1重量部に対して1.69重量部であり、(C)を含まない水溶液を用い、それ以外は実施例1と同様にして積層フィルムを得、耐光性試験、及び耐湿性試験を実施した。
【0120】
実施例1−8、比較例1、2、および参考例1で得た積層フィルムの耐光性試験、及び耐湿性試験の結果を下表に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
実施例8.
合成例2に準じて得たポリチオフェン(A)[前記式(8)又は、前記式(9)で表される構造単位を含む重合体][導電率119S/cm]を2重量%含む水溶液 0.120gに、水溶性樹脂(B)としてポリビニルピロリドンK90(BASF社製 SokalanK90 分子量140万)を2.5重量%含む水溶液を 0.164g、還元性多価アルコール化合物(C)としてグルコースを10重量%含む水溶液を 0.245g、界面活性剤(D)としてアセチレングリコール型界面活性剤のオルフィン(登録商標)EXP4200を0.5重量%含む水溶液0.242g、エタノールを 0.379g、及び水を3.898g加えてよく撹拌混合した。本配合液の組成は、(A)含有量が0.048重量%であり、(B)含有量が(A)1重量部に対して1.71重量部、(C)含有量が(A)1重量部に対して10.21重量部、(D)含有量が(A)1重量部に対して0.5重量部、である。
【0123】
このようにして得られた導電性高分子水溶液 0.3gを、7cm×14cmにカットしたPETフィルム(東レ社製ルミラーT60/38μm)にバーコーター(オーエスジーシステムプロダクト社製セレクトローラー OSP−22)を用いて一定速度で塗布した後、乾燥機で90℃3分乾燥して積層フィルムを得た。得られた膜は斑の無い均一状態を示し、且つ当該膜の表面抵抗値は、測定箇所によらず安定的に9.0E+9Ω/□を示したため、良好な帯電防止能を有していることが分かった。本実施例で作製した積層フィルムの耐光性試験、及び耐湿性試験を実施した。
【0124】
実施例9.
界面活性剤(D)としてオルフィン(登録商標)EXP4200を0.5重量%含む水溶液の代わりにフッ素系界面活性剤プラスコートRY−2(互応化学工業社製)を0.5重量%含む水溶液を用いた以外は実施例8と同様にして積層フィルムを得、耐光性試験、及び耐湿性試験を実施した。
【0125】
実施例8及び9で得た積層フィルムの耐光性試験、及び耐湿性試験の結果を下表に示す。また、界面活性剤の添加により、UVオゾン処理やコロナ処理など表面活性化処理をしていないPETフィルムにも薄膜成膜が可能であった。
【0126】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の帯電防止薄膜は、光耐久性、湿度耐久性、及び高導電性を兼ね備えた薄膜を提供することから、導電性コーティング剤(帯電防止剤)、固体電解コンデンサの固体電解質(陰極材料)に使用できる。またこの薄膜で被覆された高分子基材からなる被覆物品は、帯電防止フィルム、固体電解コンデンサの固体電解質、巻回型アルミ電解コンデンサ用のセパレータへの利用が可能である。その他、エレクトロクロミック素子、透明電極、透明導電膜、熱電変換材料、化学センサ、アクチュエータ、電磁波シールド材等への応用も期待できる。