(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1添加物の少なくとも一部及び前記第2添加物の少なくとも一部の少なくとも一方が、前記ガラス合紙の表面に突出している請求項8、10又は12に記載のガラス合紙。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について、以下、必要に応じて図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されない。
【0015】
前述のように、ガラス合紙から異物がガラス板に転写して、ガラス板の表面の汚染、ガラス板の表面に形成された配線の断線等の不良を抑制するために、従来、ガラス合紙中の異物の含有量を低減することが行われている。
一方、近年では、FPDは空間分解能等が高くなっており、その結果、ガラス板に形成される配線や電極等も微細になっている。例えば、配線であれば、幅3〜5μm程度の配線を、50〜200μm程度の間隔(ピッチ)で形成することが要求される。
【0016】
しかしながら、本発明者の検討によれば、このような微細な配線等を形成する際には、ガラス板の表面に僅かな異物が存在しても、配線となる金属薄膜(金属化合物薄膜)の成膜や、エッチングによるパターンニング等の阻害要因となり、極めて厳密な高清浄性が求められる。
さらに、FPD用のガラス板などの場合には、昨今のディスプレイの大型化に伴い、ガラス合紙にも大型化が求められ、かつ先述の高清浄性が求められる。
【0017】
本発明者の検討によれば、ガラス合紙を大型化するためには、ガラス合紙の強度、密度、平滑度などの種々のガラス合紙の物性を最適化するために、製紙用薬剤などの添加物の添加が有効な場合がある。しかし、使用する添加物の種類によっては、ガラス合紙の高清浄化が困難になる場合があった。
【0018】
また、大型のガラス合紙の場合、大きい面積内で異物を許容値に収めなければならないため、小型のガラス合紙と比べて、良品率が低下する傾向がある。そのため、ガラス合紙の製造に用いる部材などにも、注意を払わなければならない。これは製造工程内の部材表面から脱離した物質等が、意図しない添加物として加えられるのを防ぐためである。例えば、パルプやパルプスラリー、ガラス合紙に接触する部材の材質に適切なものを選定することや、製造装置や部材の洗浄を行うこと等が挙げられる。
【0019】
すなわち、ガラス合紙の大型化に伴う、添加物の使用や製造に用いる部材からの影響によって、洗浄によっても前記ガラス板上の存在位置が変化しない不動異物が、ガラス板表面に存在する場合があった。
【0020】
そこで本発明者はさらに検討した結果、ガラス合紙に使用する添加物の種類や製造に用いる部材を規定することで、ガラス合紙に接触したガラス板表面上に存在する不動異物の個数が低減され、ひいては配線の断線等の不良を抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
なお、本実施形態に係る発明は、大型のガラス合紙を前提としたものではなく、大型のガラス合紙の場合に好適に用いられるということである。本明細書において「大型のガラス合紙」とは、特に限定されないが、例えば短辺が730mm以上である。本実施形態に係る発明は、好ましくは短辺が1000mm以上、より好ましくは短辺が1200mm以上、さらに好ましくは1500mm以上、よりさらに好ましくは1800mm以上、ことさらに好ましくは2000mm以上、より一層好ましくは2200mm以上、特に好ましくは2500mm以上のガラス合紙に対して、好適に用いられる。
【0022】
また、本明細書において「添加物」とは、製紙用薬剤などの添加剤だけでなく、製造工程内の部材表面から脱離して添加されるものも含めた概念とする。
【0023】
本実施形態に係るガラス合紙は、複数枚のガラス板を積層する際に、ガラス板間に介在させるガラス合紙であって、ガラス合紙をガラス板の表面に圧着させた際に、ガラス板の表面に発生する(転写される)長径10μm以上の不動異物の密度が50個/m
2以下である。これにより、ガラス合紙から転写される異物に起因する汚染、及び配線等の不良の発生を充分に抑制できる。
また、本実施形態に係るガラス板積層体は、複数枚のガラス板の間にガラス合紙が介在されたものである。
【0024】
ガラス合紙は、厚さ0.1mm以下であることが好ましい。これにより、一つのガラス合紙ロールで、より多くの長さのガラス合紙が得られるため、物流の観点から好ましい。またより多くのガラス板とガラス合紙を交互に積層させてガラス板梱包体を形成する際にも、パレットにより多くのガラス板を積層できるため、好ましい。ガラス合紙の厚みはより好ましくは0.09mm以下、さらに好ましくは0.08mm以下、さらに好ましくは0.07mm以下である。
なお、ガラス合紙の厚みの下限は特に限定されるものではないが、例えば、0.01mm以上である。
【0025】
ガラス合紙が矩形状である場合、短辺が730mm以上であることが好ましい。これにより、近年求められている、より大きいサイズのガラス板間に挿入することができる。より好ましくは100mm以上、さらに好ましくは1500mm以上、よりさらに好ましくは2000mm以上である。また、ガラス合紙の短辺の上限は特に限定されるものではないが、例えば4000mm以下である。
【0026】
なお、ガラス合紙が厚さ0.1mm以下及び/又は短辺が730mm以上となると、ガラス板とガラス合紙との積層工程などにおいて、より高いガラス合紙の強度や密度、平滑性、耐水性、耐湿性等が必要となる。そのため、より多くの、あるいは従来は使用していなかった新規の添加物を添加する場合があり、本発明の一実施形態が好適に用いられる。
【0027】
本実施形態に使用されるガラス合紙としては、クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ;セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ;砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)、リファイナーグランドウッドパルプ(RGP)等の機械パルプ;楮、三椏、麻、ケナフ等を原料とする非木材繊維パルプ;合成パルプ;等、各種の原料を含むガラス合紙を利用することができる。さらに、本発明のガラス合紙は、これらの混合物を原料とするものでもよく、セルロース等を含有するものを原料としてもよい。
【0028】
また、これらの原料は、古紙であっても、バージンパルプ(Virgin pulp)であっても、古紙とバージンパルプとの混合物であってもよい。中でも、バージンパルプが好ましい。
【0029】
本実施形態のガラス合紙においては、何れのパルプであっても、ガラス板に転写した際に配線や電極の不良等の大きな原因となる、シリコーン系の消泡剤(シリコーンを含有する消泡剤)を使用しないで製造したパルプを原料として用いるのが好ましい。
【0030】
特に、ポリジメチルシロキサンを含有する消泡剤を使用しないで製造したパルプが、本実施形態のガラス合紙の原料として、特に好適に用いられる。
【0031】
次に、本発明の一実施形態に係るガラス合紙を介して積層されたガラス板表面の、不動異物について説明する。なお、不動異物は、人工合成樹脂からなる場合が多く、常温で固体の場合が多い。
【0032】
まず、1枚の評価用ガラス板(厚さ0.5mm、470mm×370mm)を用意する(工程A)。評価用ガラス板としては、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ等のFPD用ガラス板を例示するが、これに限定されるものではなく、建築用ガラス板、車両用ガラス板等を含む、平板状のガラス板を挙げることもできる。また、曲がった形状のガラス板であってもよい。
【0033】
次に、評価用ガラス板を異物検査機(東レ株式会社製 HS730)を用いて検査し、全異物の第1画像を取得する(工程B)。この第1画像で認識できた第1異物は、評価用ガラス板がガラス合紙由来ではなく、元々備える、微細な傷などの異物である。そのため、第1異物は、後述する不動異物を定義する際に除外する。また、上記検査は、1μmモードと呼ばれる、標準粒子で1μm以上の異物を検出するモードを用いて行う。
【0034】
次に、評価用ガラス板の上にガラス合紙を積層し、さらにその上から50kgの重りを負荷し、積層体を構成する(工程C)。これにより、ガラス合紙が評価用ガラス板に当接され、押圧される。なお、50kgの負荷は、ガラス板(厚さ0.5mm、2500mm×2500mm)の、200枚分の重さに相当する。この重さは、
図1のようなガラス積層体を構成した実際の搬送時を模擬している。すなわち、
図1のように、ガラス積層体の最も下に位置するガラス板を評価用ガラス板12とし、ガラス合紙11を介してガラス板13を積層した積層体を想定する。
【0035】
なお、50kgの負荷は、
図1のような平積みの状態を模擬するため、評価用ガラス板12と同様の大きさの平板などを用いて、負荷が評価用ガラス板12に均等にかかるように行うのが望ましい。
【0036】
次に、その積層体を温度60℃、湿度80%の環境下で2日間放置し(工程D)、評価用ガラス板12を積層体から取り出し(工程E)、洗浄する(工程F)。
【0037】
洗浄の工程(工程F)では、洗浄装置を用いてガラス合紙11が押圧された評価用ガラス板12の表面を洗浄し、ガラス合紙11から評価用ガラス板12の表面に付着(転写)した異物を除去する。
【0038】
洗浄装置では、評価用ガラス板12をラインスピード300cm/minで搬送しながら、ノズル58からアルカリ性洗剤を含有した洗浄水を30L/minの流量で供給するとともに、上側第1ロールブラシ60、下側第1ロールブラシ64を300rpmの回転数(評価用ガラス板12の搬送方向と同方向)で、評価用ガラス板12の表面に接触させながら回転して洗浄する。
【0039】
本実施例では、上側第1ロールブラシ60、下側第1ロールブラシ64は、全て同じロールブラシである。ロールブラシは、60mmのロール径(内径)と、80mmのロール径(外径)と、0.06mmの毛径を有する密巻のロールブラシである。ロールブラシの毛はナイロン612で構成される。密巻とは、植毛したチャンネルブラシを隙間なくロールに巻きつけることを意味する。
【0040】
また、
図2(A)に示すように、上側第1ロールブラシ60と下側第1ロールブラシ64との間に隙間はなく、評価用ガラス板12が通過する前は、上側第1ロールブラシ60と下側第1ロールブラシ64とは、それぞれの毛が接触する位置に、つまり上下0mmの位置に配置されている。したがって、
図2(B)に示すように、評価用ガラス板12が、上側第1ロールブラシ60と下側第1ロールブラシ64との間を通過する際、上側第1ロールブラシ60、下側第1ロールブラシ64は、評価用ガラス板12の板厚相当分の圧力で、評価用ガラス板28に押し当てられることとなる。
【0041】
その後、洗浄された評価用ガラス板12を異物検査機(東レ株式会社製 HS730)を用いて検査する(工程G)。異物検査機は、洗浄された評価用ガラス板12の表面の異物を検査する。異物検査装置は、評価用ガラス板12の表面に存在する異物を検査し、全異物の画像(第2画像)を取得する。
【0042】
次に、評価用ガラス板12の洗浄(工程F)及び異物検査(工程G)を複数回行い、前記第1画像が得られず、かつ複数の前記第2画像間で存在位置に変化がない異物を、前記不動異物と認定し、長径10μm以上である前記不動異物の単位面積当たりの個数を計測する(工程H)。
【0043】
すなわち、不動異物とは、複数回の洗浄工程を経ても除去しきれないほど、ガラス表面に粘着あるいは固着した異物を指す。不動異物のガラス板表面での引張せん断接着強さは、0.05N/mm
2以上の場合が多く、0.07N/mm
2以上の場合がより多く、さらに0.1N/mm
2以上の場合が多い。
なお、不動点異物のガラス板表面での引張せん断接着強さの上限は、特に限定されるものではないが、例えば0.4N/mm
2以下である。
引張せん断強さはJIS K 6850:1999に準じて、添加物である各ポリマーを粘着層としてガラス基板同士を接着させた状態で測定される。
【0044】
なお、評価用ガラス板12の洗浄及び異物検査は少なくとも2回行えばよく、明細書中の「最後の洗浄前後」とは、繰り返された洗浄(工程F)のうち、最後に行った洗浄前後を指す。
【0045】
不動異物は、例えば2回洗浄した場合、1回目の洗浄後に得られる第2画像と、2回目の洗浄後に得られる第2画像とを比較して、得られる画像のガラス板上の存在位置に変化がない場合が多い。ここで、「存在位置に変化がない」とは、厳密な意味で完全に同一であることに限定されず、本願の趣旨を没却しない程度の幅は許容する概念である。例えば、複数の第2画像間において、ガラス板上の異物のX座標とY座標とが、それぞれ±1mmの範囲内であれば、存在位置に変化がないとみなせる。
【0046】
また、不動異物は、例えば2回洗浄した場合、1回目の洗浄後に得られる第2画像と、2回目の洗浄後に得られる第2画像とを比較して、得られた画像における異物の輪郭線の一致率が30%以上の場合が多く、50%以上の場合がより多く、さらに70%以上の場合が多い。不動異物は、一部が洗浄によって脱落しても、なお付着し続ける部分を有する。
【0047】
不動異物の密度は前記工程A〜工程Hによって求めることができる。長径10μm以上の不動異物の密度が50個/m
2以下であれば、配線等の不良の発生を充分に抑制できる。また、不動移転異物の原因になり得るような特性を持つ添加物も、ある程度使用できるため、特に大型のガラス合紙に求められる物性及び品質を最適化することが可能となる。また、長径10μm以上の不動異物の密度は、好ましくは40個/m
2以下、より好ましくは30個/m
2以下、さらに好ましくは20個/m
2以下である。これにより、さらに配線等の不良の発生を抑制できる。
なお、本発明の実施形態において、長径10μm以上の不動異物の密度は、少ない程望ましく下限は特に限定されない。しかしながら、完全に取り除くのは困難であり、また、長径10μm以上の不動異物の密度が極端に少ないガラス合紙は、製造に手間やコストがかかる。この点を考慮すると、長径10μm以上の不動異物の密度は3個/m
2以上であることが好ましい。
また、不動異物の大きさの上限は、特に限定されるものではないが、例えば、長径が1000μm以下である。
【0048】
また、ガラス合紙は、第1添加物を有し、第1添加物は、JIS Z 0237:2009で規定される180°引き剥がし粘着力(以下、単に「180°引き剥がし粘着力」ともいう)が、10N/25mm以下であることが好ましい。これにより、評価用ガラス板12に添加物の成分が圧着されたとしても、洗浄工程(工程F)によって、除去しやすいため、不動異物になる可能性を低減できる。第1添加物を使用することでガラス合紙に求められる物性及び品質を最適化できる。第1添加物の180°引き剥がし粘着力は、より好ましくは8N/25mm以下、さらに好ましくは5N/25mm以下である。
なお、本発明の実施形態において、第1添加物の180°引き剥がし粘着力は、小さい程望ましく下限は特に限定されない。しかしながら、ガラス合紙に求められる物性及び品質を最適化するためには、180°引き剥がし粘着力がある程度あるものを使わなければならない場合もある。この点を考慮すると、第1添加物の180°引き剥がし粘着力は、0.02N/25mm以上であることが好ましい。
添加物である各ポリマーを粘着層として、ガラス基板とテープ状とした母材(ガラス合紙)とを接着させ、テープ状の母材(ガラス合紙)ごと粘着層を引き剥がした際に、ガラス合紙と接着層の界面で剥がれる場合は、接着層がガラスに対してそれ以上の力で貼り付いているということなので、180°引き剥がし粘着力として、ガラス合紙と接着層の界面で剥がれたときの値を採用した。
【0049】
また、ガラス合紙は、JIS Z 0237:2009で規定される180°引き剥がし粘着力が、10N/25mmより大きい第2添加物を有してもよい。この場合で、かつ後述する水に対するハンセン溶解度パラメータの相互作用距離が17より大きい場合には、第2添加物は、ガラス合紙の重量比で10ppm以下であることが好ましく、より好ましくは8ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下である。微量の第2添加物を用いることで、ガラス合紙に求められる物性及び品質を最適化しつつ、ガラス合紙が接触したガラス板表面上の不動異物の密度を、許容範囲内に抑制できる。
なお、本発明の実施形態において、第2添加物の含有量は、少ないほど好ましく下限は特に限定されない。しかしながら、第2添加物の含有量が極端に少ないガラス合紙は、製造に手間やコストがかかる。この点を考慮すると、第2添加物の含有量は0.05ppm以上であることが好ましい。
【0050】
また、第1添加物は、25℃における、水に対するハンセン溶解度パラメータ(HSPともいう)の相互作用距離が、17以下であることが好ましい。
【0051】
ここで、ハンセン溶解度パラメータとは、ある溶質のある溶媒への溶解しやすさを示す指標である。また、第1添加物の水に対するハンセン溶解度パラメータの値から求められる、相互作用距離Ra
1(HSPベクトル距離Ra
1ともいう)とは、以下の式(1)によって表される。
Ra
1=(4×(δ
D1−18.1)
2+(δ
P1−17.1)
2+(δ
H1−16.9)
2)
0.5・・・(1)
Ra
1:水に対するハンセン溶解度パラメータの相互作用距離
δ
D1:添加物のハンセン溶解度パラメータのうち、分散力項
δ
P1:添加物のハンセン溶解度パラメータのうち、双極子間力項
δ
H1:添加物のハンセン溶解度パラメータのうち、水素結合力項
ハンセン溶解度パラメータは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメータを、ハンセン(Hansen)が分散項δ
D、極性項δ
P、水素結合項δ
Hの3成分に分割し、3次元空間に示したものである。分散項δ
Dは、分散力による効果を示し、極性項δ
Pは、双極子間力による効果を示し、水素結合項δ
Hは、水素結合力の効果を示す。3次元空間における特定の物質Xの座標とある溶媒の座標とが近いほど、物質Xは該溶媒に溶解しやすい。ハンセン溶解度パラメータの定義及び計算方法の詳細は、下記の文献に記載されている;Charles M.Hansen著、「Hansen Solubility Parameters:A Users Handbook」、CRCプレス、2007年。
【0052】
また、コンピュータソフトウエア(Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP))を用いることによって、その化学構造から簡便にハンセン溶解度パラメータを推算できる。
【0053】
本発明においては、HSPiPバージョン4.1.07を用い、データベースに登録されている物質についてはその値を、登録されていない物質については推算値を用いる。
【0054】
添加物の水に対する相互作用距離が17以下であれば、第1添加物が水に溶解しやすいため、洗浄工程(工程F)によって除去しやすく、不動異物になる可能性を低減できる。第1添加物の水に対するハンセン溶解度パラメータの相互作用距離Ra
1は、より好ましくは15以下、さらに好ましくは12以下であることが望ましい。より水に溶解しやすくなるため、不動異物になる可能性を低減できる。
【0055】
また、ガラス合紙は、JIS Z 0237:2009で規定される180°引き剥がし粘着力が、10N/25mmより大きい第2添加物であっても、以下の条件を満たせば、ガラス合紙に対する重量比が10ppmより大きい範囲であっても、第2添加物を有してよい。条件とは、すなわち、第2添加物において、25℃における、水に対するハンセン溶解度パラメータの相互作用距離Ra
2が17以下ということである。相互作用距離Ra
2は、以下の式(2)によって表される。
Ra
2=(4×(δ
D2−18.1)
2+(δ
P2−17.1)
2+(δ
H2−16.9)
2)
0.5・・・(2)
Ra
2:第2添加物の、水に対するハンセン溶解度パラメータの相互作用距離
δ
D2:添加物のハンセン溶解度パラメータのうち、分散力項
δ
P2:添加物のハンセン溶解度パラメータのうち、双極子間力項
δ
H2:添加物のハンセン溶解度パラメータのうち、水素結合力項
また、第2添加物の水に対するハンセン溶解度パラメータの相互作用距離Ra
2は、より好ましくは15以下、さらに好ましくは12以下である。ガラス合紙に求められる物性及び品質を最適化しつつ、ガラス合紙が接触したガラス板表面上の不動異物の密度を、許容範囲内に抑制できる。
【0056】
また、第2添加物の、JIS Z 0237:2009で規定される180°引き剥がし粘着力が10N/25mmより大きく、かつ水に対する相互作用距離Ra
2が17より大きい場合には、先述の通り、ガラス合紙に対する重量比が10ppm以下、好ましくは8ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下であることが好ましい。ガラス合紙に求められる物性及び品質を最適化しつつ、ガラス合紙が接触したガラス板表面上の不動異物の密度を、許容範囲内に抑制できる。
なお、本発明の実施形態において、第2添加物の含有量は、少ないほど好ましく下限は特に限定されない。しかしながら、第2添加物の含有量が極端に少ないガラス合紙は、製造に手間やコストがかかる。この点を考慮すると、第2添加物の含有量は0.05ppm以上であることが好ましい。
【0057】
また、以下にガラス合紙に添加される添加物の種類、主目的、主成分のうち不動異物の原因になり得る代表例について述べる。
【0058】
なお、第1添加物及び第2添加物を特に区別しない場合には、単に「添加物」と述べる。
【0059】
内添紙力増強剤は、紙の強度を向上を主目的として用いられる。主成分の代表例は、ポリアクリルアミド(PAM)である。
【0060】
ピッチコントロール剤は、ピッチ(樹脂や薬剤由来の粘着物)を分散又は系外に排出させることを主目的として用いられる。主成分の代表例は、カチオン性(C−)PAM、ポリエチレンイミン(PEI)、C−アクリルなどのカチオン系高分子、界面活性剤、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール(PVA)、PAMである。
【0061】
凝結剤は、繊維粒子を小さな高密度の集合体にすることを主目的として用いられる。パルプスラリーと繊維粒子はアニオン性のため、カチオン性の凝結剤によって、中和され凝結される。また、アニオン性の粘着性異物をパルプに定着させ、ロール汚れを防ぐ効果も得られる。主成分の代表例は、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDADMAC)、PEI、カチオン化デンプン(CS)である。
【0062】
乾燥紙力増強剤は、紙の強度を向上させることを主目的として用いられ、特に乾燥状態での強度を向上する。主成分の代表例は、ポリアクリル酸エステル(AE)、CS、PAM、PVAである。
【0063】
湿潤紙力増強剤は、紙の強度を向上させることを主目的として用いられ、特に水分を帯びた状態での強度を向上する。主成分の代表例は、AE、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン(PAE)、PVA、ポリビニルアミン(PVAm)、メラミン(ホルムアルデヒド)樹脂(MF)、尿素(ホルムアルデヒド)樹脂(UF)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)である。
【0064】
内添サイズ剤は、水の浸透性を抑え、滲みの抑制及び耐水性を強化することを主目的として用いられる。主成分の代表例は、AE、ロジン、PVA、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水コハク酸(ASA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)である。
【0065】
表面サイズ剤は、水の浸透性を抑え、滲みの抑制及び耐水性を強化することを主目的として用いられる。主成分の代表例は、酸化デンプン(OS)、スチレン−アクリル共重合体(AS)である。
【0066】
粘剤は、粘性を高め、パルプ繊維を水中に均一分散させ、沈殿を防止することを主目的として用いられる。主成分の代表例は、AE、PAM、ポリエチレンオキサイド(PEO)、CMC、アルギン酸(AA)である。
【0067】
耐水架橋剤は、架橋により耐水性と強度を向上させることを主目的とする。主成分の代表例は、エポキシ樹脂(ER)である。
【0068】
接着剤は、ヤンキードライヤーなどで紙同士を接着することを主目的とする。主成分は、AE、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、デンプンである。
【0069】
以上述べた添加物は、原則として、それぞれの主目的のためには、適切な量で使用されることが望ましい。したがって、不動異物は上記の物質、及び上記の物質から誘導される誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一つを有していることが望ましい。なお、添加物が第2添加物に該当する場合には、水に対する相互作用距離が17以下、又はガラス合紙に対する重量比が10ppm以下であることが好ましい。
【0070】
また特に、添加物及び不動異物は、各製紙用薬剤の各目的に対して効果が高い物質を含むことが望ましい。すなわち、アルギン酸、ポリアクリル酸エステル、アルキルケテンダイマー、スチレン−アクリル共重合体、アルケニル無水コハク酸、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ロジン、ポリエチレンテレフタラートからなる群から選ばれる物質及びその誘導体のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0071】
また、これらの物質を使用しても、ガラス板表面に存在する長径10μm以上の不動異物の密度が、50個/m
2以下となるように、使用量を制限することや代替物質と合わせて使用することが好ましい。
【0072】
これにより、ガラス合紙に求められる物性及び品質を最適化しつつ、ガラス合紙が接触したガラス板表面上の不動異物の密度を、許容範囲内に抑制できる。
【0073】
また、添加物の少なくとも一部は、ガラス合紙表面に突出していることが好ましい。すなわち、第1添加物の少なくとも一部、及び第2添加物の少なくとも一部、の少なくともいずれか一方が、ガラス合紙の表面に突出していることが好ましい。添加物がガラス合紙表面に突出していることで、後述するガラス合紙の洗浄工程を経た場合に、添加物がガラス合紙から脱離しやすい。
【0074】
なお、添加物は、ガラス合紙中に分散されており、20℃において固化していることが好ましい。ガラス合紙をロール巻きした際にガラス合紙同士の接着等を防止するためである。
【0075】
ガラス板の組成としては、異物が付着しにくく不動異物の密度が低くなり易いため、以下が好ましい。なお、例えば、「B
2O
3を0〜7%含む」とは、B
2O
3は必須ではないが7%まで含んでもよい、の意である。
(i)質量%で表示した組成で、SiO
2を57〜67%、Al
2O
3を15〜25%、B
2O
3を0〜7%、MgOを0〜5%、CaOを2〜7%、SrOを0〜5%、及びBaOを5〜12%を含むガラス。
(ii)質量%で表示した組成で、SiO
2を57〜67%、Al
2O
3を15〜25%、B
2O
3を0〜15%、MgOを0〜7%、CaOを2〜10%、SrOを4〜10%、及びBaOを0〜3%を含むガラス。
【0076】
また、以下では本実施形態に係るガラス合紙の製造方法について記す。
図3は、ガラス合紙を製紙する抄紙機100の概略構成図である。
【0077】
図3に示すように、ガラス合紙用原料液(パルプを水で希釈した液体。パルプスラリーともいう)は、ヘッドボックス112から、ワイヤパート114に設置された下ワイヤ116の上に、シート状に供給される。下ワイヤ116に供給された紙原料液は、次いで、下ワイヤ116と上ワイヤ118とによって挟み込まれることにより、均一の厚さに広げられ、かつ脱水されて、湿紙(紙)となる。
【0078】
ワイヤパート114の下ワイヤ116及び上ワイヤ118は、無端帯状に形成された透過膜である。具体的には、プラスチック又は金属材料で作られた網、もしくは、天然繊維又は合成繊維からなるフェルト製の無端帯である。
【0079】
下ワイヤ116及び上ワイヤ118は、複数のローラに掛け渡されて、図示を省略するモータの駆動力を、複数のローラの中の駆動ローラに伝達することにより、所定の速度で周回移動されている。
【0080】
ワイヤパート114で形成された湿紙は、プレスローラ、無端帯状のフェルト、及びプレスローラ対等を有するプレスパート120に搬送され、ここで、さらなる脱水とプレスとが、同時に行われる。
【0081】
プレスパート120を通過した湿紙は、複数本のローラで構成されるドライヤパート124に搬送され、ドライヤパート124を通過中に、例えば約120℃の雰囲気で乾燥される。
【0082】
ドライヤパート124で乾燥された紙は、カレンダーパート126に搬送され、カレンダーロールによる挟持搬送等によってカレンダー処理を施されて、表裏面が平滑化される。なお、必要に応じて、ドライヤパート124とカレンダーパート126との間にコータパートを設け、平滑化された紙の表面に塗料等を塗布してもよい。
【0083】
カレンダーパート126においてカレンダー処理を施された紙は、ガラス合紙としてリール128に巻き取られ、ロール状(以下、ジャンボロール130とする)にされる。
【0084】
ガラス合紙は、ジャンボロール130から送り出され、カッタ134によって所定幅に切断(長手方向に切断)され、ワインダ136によって巻き取られる。ジャンボロール130から送り出したガラス合紙が、所定の長さになった時点で、カッタ134によって所定長さに切断(幅方向に切断)されて、所定の幅で、長尺なガラス合紙を巻回してなる合紙ロール42とされる。
【0085】
合紙ロール42に巻回された長尺なガラス合紙は、積層するガラス板に応じたサイズのカットシート状(矩形状)に切断され、積層されるガラス板の間に介在される。
【0086】
本実施形態において、ヘッドボックス112に供給する紙原料液を調製する際に原料となるパルプを準備する準備工程、パルプからパルプスラリーを製造するパルプスラリー工程、パルプスラリーからガラス合紙を抄紙する抄紙工程と、を備える。そして、準備工程、パルプスラリー工程及び抄紙工程からなる群より選ばれる少なくとも1の工程は、以下の物質によって表面が覆われた部材を用いて行われることが好ましい。すなわち、耐熱性かつ耐溶剤性を有する金属、炭素繊維、及びJIS Z 0237:2009で規定される180°引き剥がし粘着力が0.02N/25mm以下の樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種によって、表面が覆われた部材を用いて、上記工程が行われることが好ましい。これにより、ガラス合紙の製造工程で、不動異物の原因となるような添加物が添加されることを防止することができる。
【0087】
ここで、「部材」とは例えば、準備工程で用いるトレー、パルプスラリー工程で用いる容器や撹拌翼、抄紙工程で用いるワイヤ、フェルト、ローラなどである。また、耐熱性を有する金属とは軟化点が100℃以上であることを指す。
【0088】
また、部材が180°引き剥がし粘着力が0.02N/25mm以下の樹脂で覆われていれば、ガラス合紙製造工程で仮に前記部材由来の異物が混入したとしても、工程C〜Eを経てもガラス表面に残りにくい。また仮に付着しても、洗浄工程(工程F)において除去しやすく、ガラス板表面に接着した不動異物となりにくい。
【0089】
また、異なる種類の紙を製造する場合、ジョブチェンジの際に製造装置や部材の洗浄が不十分であると、以前生産した紙に添加した添加物が部材表面などに残存し、それらがガラス合紙に添加される場合がある。特に、不動異物の原因になり易いものとしては、例えば、アルギン酸、ポリアクリル酸エステル、アルキルケテンダイマー、スチレン−アクリル共重合体、アルケニル無水コハク酸、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ロジンなどである。
【0090】
紙の製造装置や部材を厳密に洗浄するのは、非常に困難であるため、これらの樹脂成分は、不動異物の密度が許容範囲内に抑制できる程度ならば、ガラス合紙内に含有されていてもよい。すなわち、ガラス合紙の重量比で10ppm以下、より好ましくは8ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下であれば、ガラス合紙に添加されてよい。製造装置や部材の洗浄を厳密の行わずともよいため、作業者の負荷が軽減される。
【0091】
また、製造装置や部材の表面の材質がポリエチレンテレフタレート(PET)であった場合、脱離してガラス合紙に添加される場合があり、これも不動異物の原因になり得る。この場合、PETの添加量は、ガラス合紙の重量比で10ppm以下、さらに好ましくは8ppm以下、より好ましくは5ppm以下となるように制御することが好ましい。例えば、部材の表面に保護層などを形成することや、経年劣化した部材を早期に交換することなどが考えられる。これにより、汎用的で加工のしやすい材料であるPETを、製造装置や部材の材料として用いることができる。
【0092】
また、本実施例において、ガラス合紙の製造方法において、パルプ又はガラス合紙が有する添加物を除去する工程をさらに有することが好ましく、前記除去は溶解により行うことが好ましい。前記除去する工程は、以下の(i)〜(iii)からなる群より選ばれる少なくとも一の工程を含むことが好ましい。
【0093】
(i)前記パルプ及び/又は乾燥前の前記ガラス合紙及び/又は乾燥後の前記ガラス合紙を、有機溶剤、アルカリ性洗剤を含有した洗浄水又は酸性洗剤を含有した洗浄水により撹拌洗浄する工程。
(ii)前記パルプ及び/又は乾燥前の前記ガラス合紙及び/又は乾燥後の前記ガラス合紙を、有機溶剤、アルカリ性洗剤を含有した洗浄水又は酸性洗剤を含有した洗浄水でシャワー洗浄する工程。
(iii)乾燥前の前記ガラス合紙及び/又は乾燥後の前記ガラス合紙を、有機溶剤、アルカリ性洗剤を含有した洗浄水又は酸性洗剤を含有した洗浄水を充填した水槽により通紙洗浄する工程。
これにより、ガラス合紙の製造工程で、不動異物の原因となるような物質が混入したとしても、工程C〜Eを経た後に、不動異物が発生することを抑制できる。
【実施例】
【0094】
以下、本願発明に係る一実施例について示し、本願発明の効果について説明する。
【0095】
まず、NBKP100質量%のパルプを叩解して濾水度CSF:450mlとした複数のパルプスラリーに、下表1で挙げた添加剤を各々添加し、0.5質量%濃度のパルプスラリーを各々調製した。フェルト材質としてナイロンを使用した手漉き装置を用いて、発明者の手で抄紙した。その結果、大きさ490mm×390mmで、厚さ約0.08mmのガラス合紙を得た。
【0096】
次に、評価用ガラス板(厚さ0.5mm、470mm×370mm)を異物検査機(東レ株式会社製 HS730)を用いて検査し、全異物の第1画像を取得した。
【0097】
次に、評価用ガラス板とガラス合紙を積層し、ガラス板200枚分の重量(50kg)を載せて温度60℃、湿度80%の環境下で2日間放置した。
【0098】
その後、評価用ガラス板を取り出し、洗浄して異物を除去した。洗浄は、工程Fで示した洗浄装置を用いて洗浄した。
【0099】
その後、異物検査機で再び検査し、評価用ガラス板表面に存在する全異物の第2画像を得た。その後、洗浄と異物検査を再度行い、合計2枚の第2画像を得た。これらに基づき、第1画像が得られず、かつ2枚の第2画像間で存在位置に変化がない異物を不動異物と認定した。
【0100】
表1にその結果を示す。表1中、「×」は長径10μm以上の不動異物の密度が50個/m
2より多く確認できたもの、「○」は長径10μm以上の不動異物の密度が50個/m
2以下だったものを示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1より、添加物がポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコールの場合、長径10μm以上の不動異物の密度が50個/m
2以下にすることができた。
【0103】
また、
図4は、各添加物(ポリマー)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)ベクトルの長さ及び水に対するハンセン溶解度パラメータの相互作用距離Raを示す。ハンセン溶解度パラメータベクトルの長さとは、(δ
D2+δ
P2+δ
H2)
0.5を示すものである。
【0104】
図4より、ポリビニルアルコールは、水に対する相互作用距離Raが小さいため、洗浄工程で容易に溶解し、長径10μm以上の不動異物の密度が50個/m
2以下になったと考えられる。また、ポリテトラフルオロエチレンは、180°引き剥がし粘着力が小さいため、ガラスに付着しにくく、また付着したとしても洗浄工程でガラス板から容易に脱落し、長径10μm以上の不動異物の密度が50個/m
2以下になったと考えられる。
【0105】
また
図5(A)及び(B)は、得られた不動異物の画像を示した図である。
図5(A)は1回目の洗浄工程(工程F)後に得られた異物の第2画像、
図5(B)は2回目の洗浄工程(工程F)後に得られた異物の第2画像を示す。なお、
図5(A)及び(B)は共に、得られた第2画像を二値化処理して、輪郭線を明確に示した画像である。
図5(A)及び(B)より、不動異物の輪郭線の一致率は80%であった。