(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸化珪素粒子(A)と複合炭素質粒子(B)との平均粒子径比(R=[酸化珪素粒子(A)の平均粒子径(d50)]/[複合炭素質粒子(B)の平均粒子径(d50)])が0.001以上10以下である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の非水系二次電池用負極材。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本発明において、「〜」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0019】
〔非水系二次電池負極用炭素材〕
本発明の非水系二次電池負極用炭素材(以下において、「本発明の負極材」と称す場合がある。)は、酸化珪素粒子(A)(以下において、「本発明の酸化珪素粒子(A)」と称す場合がある。)と複合炭素粒子(B)(以下において、「本発明の複合炭素粒子(B)」と称す場合がある。)とを含み、酸化珪素粒子(A)がゼロ価の珪素原子を含むものであり、かつ複合炭素粒子(B)が球形化黒鉛粒子の表面の少なくとも一部に炭素層を有し、フロー式粒子像分析より求められる円形度(後掲の方法によって測定される複合炭素粒子(B)の平均円形度)が0.89以上のものである。
【0020】
[メカニズム]
<酸化珪素粒子(A)に基づく作用機構>
本発明の負極材は、高容量かつLiイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化が小さい酸化珪素粒子(A)を含むことによって、複合炭素粒子(B)との接触が損なわれることによる性能低下が小さい、高容量な負極材を得ることが可能となる。
特に、本発明の酸化珪素粒子(A)における珪素原子数(M
Si)に対する酸素原子数(M
O)の比(M
O/M
Si)が0.5〜1.6であることによって、高容量であると同時に、Liイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化量が炭素質粒子の体積変化量と近くなり、炭素質粒子との接触が損なわれることによる性能低下を低減させることが可能となる。
また、酸化珪素粒子(A)がゼロ価の珪素原子を含むことによって、Liイオンを吸蔵・放出する電位の範囲が複合炭素粒子(B)と近くなり、Liイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化が複合炭素粒子(B)と同時に起こるため、複合炭素粒子(B)と酸化珪素粒子(A)の界面における相対位置関係が維持され、複合炭素粒子(B)との接触が損なわれることによる性能低下を低減させることが可能となる。
【0021】
<複合炭素粒子(B)に基づく作用機構>
本発明の複合炭素粒子(B)は表面にLiイオンの挿入脱離をし易い炭素層を有するために低温入出力特性に優れる。また、炭素層を有するため粒子が固く電極圧延時に変形しにくくなり、かつ粒子の円形度が高いため、複合炭素粒子(B)の間隙に酸化珪素粒子(A)が存在しながら電極内に電解液が移動する流路が確保され、Liイオンの拡散パスが良好となり、低温時の入出力特性、充放電レート特性、耐電析性能、サイクル特性が向上すると考えられる。
【0022】
<酸化珪素粒子(A)と複合炭素粒子(B)とのブレンドによる作用機構>
本発明の負極材を用いて負極電極とした際、この負極電極内において炭素層を有し粒子が固いため変形しにくく、かつ粒子の円形度が高い複合炭素粒子(B)が形成する堅固で容積の大きい粒子間の間隙に酸化珪素粒子(A)を存在させることで、充放電時の酸化珪素粒子(A)の体積変化を複合炭素粒子(B)が形成する間隙で吸収することが可能となり、導電パス切れが抑制される。その結果、電極内の酸化珪素粒子(A)及び複合炭素粒子(B)の特定部位にのみ過大な電流が流れることを抑制し、高容量、且つ優れた初期効率を得ることが出来ると考えられる。
【0023】
[酸化珪素粒子(A)]
<構成>
本発明の酸化珪素粒子(A)は、ゼロ価の珪素原子を含む。また、好ましくは、酸化珪素粒子(A)中に珪素の微結晶を含むものである。
【0024】
本発明の酸化珪素粒子(A)における珪素原子数(M
Si)に対する酸素原子数(M
O)の比(M
O/M
Si)は、0.5〜1.6であることが好ましく、また、より好ましくは0.7〜1.3であり、特に好ましくは0.8〜1.2である。M
O/M
Siが上記範囲であると、Liイオン等のアルカリイオンの出入りのしやすい高活性な非晶質の珪素酸化物からなる粒子により、複合炭素粒子(B)に比べて高容量化を得ることができ、かつ非晶質構造により高サイクル維持率を達成することが可能となる。また酸化珪素粒子(A)が、複合炭素粒子(B)によって形成された間隙に複合炭素粒子(B)との接点を確保しながら充填させることによって、充放電によるLiイオン等のアルカリイオンの吸蔵・放出に伴う酸化珪素粒子(A)の体積変化を該間隙により吸収させることが可能となる。このことにより、酸化珪素粒子(A)の体積変化による導電パス切れを抑制することができる。
【0025】
ゼロ価の珪素原子を含む酸化珪素粒子(A)は、固体NMR(
29Si−DDMAS)測定において、通常、酸化珪素において存在する−110ppm付近を中心とし、特にピークの頂点が−100〜−120ppmの範囲にあるブロードなピーク(P1)に加えて、−70ppmを中心とし、特にピークの頂点が−65〜−85ppmの範囲にあるブロードなピーク(P2)が存在することが好ましい。これらのピークの面積比(P2)/(P1)は、0.1≦(P2)/(P1)≦1.0であることが好ましく、0.2≦(P2)/(P1)≦0.8の範囲であることがより好ましい。ゼロ価の珪素原子を含む酸化珪素粒子(A)が上記性状を有することによって、容量が大きく、かつ、サイクル特性の高い負極材を得ることができる。
【0026】
また、ゼロ価の珪素原子を含む酸化珪素粒子(A)は、水酸化アルカリを作用させた時に水素を生成することが好ましい。この時発生する水素量から換算される酸化珪素粒子(A)中のゼロ価の珪素原子の量としては、2〜45重量%が好ましく、5〜36重量%程度であることがより好ましく、10〜30重量%程度であることが更に好ましい。ゼロ価の珪素原子の量が、2重量%未満では、充放電容量が小さくなる場合があり、逆に45重量%を超えるとサイクル特性が劣る場合がある。
【0027】
珪素の微結晶を含む酸化珪素粒子(A)は、下記性状を有していることが好ましい。
【0028】
i.銅を対陰極としたX線回折(Cu−Kα)において、2θ=28.4°付近を中心としたSi(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の広がりをもとに、シェーラーの式によって求めた珪素の結晶の粒子径が好ましくは1〜500nm、より好ましくは2〜200nm、更に好ましくは2〜20nmである。珪素の微粒子の大きさが1nmより小さいと、充放電容量が小さくなる場合があるし、逆に500nmより大きいと充放電時の膨張収縮が大きくなり、サイクル性が低下するおそれがある。なお、珪素の微粒子の大きさは透過電子顕微鏡写真により測定することができる。
【0029】
ii.固体NMR(
29Si−DDMAS)測定において、そのスペクトルが−110ppm付近を中心とするブロードな二酸化珪素のピークとともに−84ppm付近にSiのダイヤモンド結晶の特徴であるピークが存在する。なお、このスペクトルは、通常の酸化珪素(SiOx、x=1.0+α)とは全く異なるもので、構造そのものが明らかに異なっているものである。また、透過電子顕微鏡によって、シリコンの結晶が無定形の二酸化珪素に分散していることが確認される。
【0030】
酸化珪素粒子(A)中の珪素の微結晶の量は、2〜45重量%が好ましく、5〜36重量%程度であることがより好ましく、10〜30重量%程度であることが更に好ましいこの珪素の微結晶量が2重量%未満では、充放電容量が小さくなる場合があり、逆に45重量%を超えるとサイクル性が劣る場合がある。
【0031】
<物性>
(平均粒子径(d50))
本発明の酸化珪素粒子(A)の平均粒子径(体積粒度分布における小粒子側から50%積算部の粒子径)(d50)は、0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。酸化珪素粒子(A)のd50が上記範囲であれば、電極にした場合、複合炭素粒子(B)によって形成された間隙に酸化珪素粒子(A)が存在し、充放電によるLiイオン等のアルカリイオンの吸蔵・放出に伴う酸化珪素粒子(A)の体積変化を間隙が吸収して、体積変化による導電パス切れを抑制し、結果としてサイクル特性を向上させることができる。酸化珪素粒子(A)のd50はより好ましくは0.5〜15μmであり、更に好ましくは1〜10μm、特に好ましくは1.5〜8μmである。
【0032】
本発明の酸化珪素粒子(A)の体積粒度分布における小粒子側から10%積算部の粒子径(d10)は0.001μm以上6μm以下であることが好ましい。酸化珪素粒子(A)のd10が上記範囲で、適切な微粉が存在することにより、複合炭素粒子(B)同士の間隙に存在する酸化珪素粒子(A)により、良好な導電パスを取ることができ、サイクル特性が良好となるとともに、比表面積の増大を抑制して不可逆容量を低減することができる。酸化珪素粒子(A)のd10はより好ましくは0.01〜4μmであり、更に好ましくは0.1〜3μmである。
【0033】
本発明の酸化珪素粒子(A)の体積粒度分布における小粒子側から90%積算部の粒子径(d90)は1μm以上40μm以下であることが好ましい。d90が上記範囲であると酸化珪素粒子(A)が複合炭素粒子(B)同士の間隙に存在しやすくなり、良好な導電パスを取ることができ、サイクル特性が良好となるである。酸化珪素粒子(A)のd90はより好ましくは1.5〜30μmであり、更に好ましくは2〜20μm、特に好ましくは3〜10μmである。
【0034】
<平均粒子径比>
本発明の酸化珪素粒子(A)の平均粒子径(体積粒度分布における小粒子側から50%積算部の粒子径)d50と本発明の複合炭素粒子(B)の平均粒子径(体積粒度分布における小粒子側から50%積算部の粒子径)d50との比(R=[酸化珪素粒子(A)の平均粒子径(d50)]/[複合炭素質粒子(B)の平均粒子径(d50)])は、0.001以上10以下であることが好ましい。
この平均粒子径比Rが0.001以上であることにより比表面積の増大を抑制して不可逆容量を低減することができ、10以下であると複合炭素粒子(B)同士の間隙に酸化珪素粒子(A)が存在させることができ、充放電によるLiイオン等のアルカリイオンの吸蔵・放出に伴う酸化珪素粒子(A)の体積変化を、複合炭素粒子(B)により形成された間隙で吸収することが可能となるため、酸化珪素粒子(A)の体積変化に伴う導電パス切れを抑制し、結果としてサイクル特性が向上する。上記平均粒子径比Rはより好ましくはより好ましくは0.01〜3であり、更に好ましくは0.1〜1、特に好ましくは0.15〜0.8であり、最も好ましくは0.2〜0.6である。
【0035】
なお、本発明の酸化珪素粒子(A)のd50、d10、d90、及び後述の本発明の複合炭素粒子(B)のd50、d90、d10、並びに後述の本発明の負極材のd50は、後掲の実施例の項に記載される方法で、体積基準の粒度分布に基づいて測定された値である。
【0036】
(比表面積)
本発明の酸化珪素粒子(A)のBET法による比表面積は80m
2/g以下であることが好ましく、60m
2/g以下であることがより好ましい。また、0.5m
2/g以上であることが好ましく、1m
2/g以上であることがより好ましく、1.5m
2/g以上であることが更に好ましい。酸化珪素粒子(A)のBET法による比表面積が前記範囲内であると、リチウムイオン等のアルカリイオンの入出力の効率を良好に維持でき、酸化珪素粒子(A)が好適な大きさとなるため、複合炭素粒子(B)によって形成された間隙に存在させることができ、複合炭素粒子(B)との導電パスを確保することができる。また、酸化珪素粒子(A)が好適な大きさとなるため不可逆容量の増大を抑制し、高容量を確保することができる。
BET法による比表面積は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0037】
<酸化珪素粒子(A)の製造方法>
酸化珪素粒子は、通常、二酸化珪素(SiO
2)を原料とし、金属珪素(Si)及び/又は炭素を用いてSiO
2を熱還元させることにより得られる、SiOxのxの値が0<x<2で表される珪素酸化物からなる粒子の総称である(ただし、後述するように、珪素及び炭素以外の他の元素をドープすることも可能であり、この場合はSiOxとは異なる組成式となるが、このようなものも本発明に用いる酸化珪素粒子(A)に含まれる。)。珪素(Si)は、黒鉛と比較して理論容量が大きく、更に非晶質珪素酸化物は、リチウムイオン等のアルカリイオンの出入りがしやすく、高容量を得ることが可能となる。
【0038】
本発明の酸化珪素粒子(A)は、前述の通りゼロ価の珪素原子を含むものであり、このような酸化珪素粒子(A)は、例えば、以下のようにして製造された酸化珪素粒子(A1)又は酸化珪素粒子(A2)に対して、後述の不均化処理を施すことにより製造することができる。
【0039】
本発明で用いる酸化珪素粒子(A)を製造する際に不均化処理に供する酸化珪素粒子は、酸化珪素粒子を核として、この表面の少なくとも一部に非晶質炭素からなる炭素層を備えた複合型の酸化珪素粒子であってもよい。酸化珪素粒子としては、非晶質炭素からなる炭素層を備えていない酸化珪素粒子(A1)及び複合型の酸化珪素粒子(A2)からなる群より選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ここで、「表面の少なくとも一部に非晶質炭素からなる炭素層を備えた」とは、炭素層が酸化珪素粒子の表面の一部又は全部を層状に覆う形態のみならず、炭素層が表面の一部又は全部に付着・添着する形態をも包含する。炭素層は、表面の全部を被覆するように備えていてもよく、一部を被覆あるいは付着・添着してもよい。
【0040】
<酸化珪素粒子(A1)の製造方法>
酸化珪素粒子(A1)の製法は問わないが、例えば特許第3952118号公報に記載されたような方法によって製造された酸化珪素粒子を使用することができる。具体的には、二酸化珪素粉末と、金属珪素粉末あるいは炭素粉末とを特定の割合で混合し、この混合物を反応器に充填した後、常圧あるいは特定の圧力に減圧し、1000℃以上に昇温し、保持してSiOxガスを発生させ、冷却析出させて、一般式SiOx(xは0.5≦x≦1.6)で示される酸化珪素粒子を得ることができる。析出物は、力学的エネルギー処理を与えることで、粒子とすることができる。
【0041】
力学的エネルギー処理は、例えば、ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、転動ボールミル等の装置を用いて、反応器に充填した原料と、この原料と反応しない運動体を入れて、これに振動、回転又はこれらが組み合わされた動きを与える方法によって、前記物性を満たす酸化珪素粒子(A)を形成することができる。
【0042】
<複合型の酸化珪素粒子(A2)の製造方法>
酸化珪素粒子の表面の少なくとも一部に非晶質炭素からなる炭素層を備えた複合型の酸化珪素粒子(A2)を製造する方法としては特に制限はないが、酸化珪素粒子(A1)に石油系や石炭系のタールやピッチ、ポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリル、フェノール樹脂、セルロース等の樹脂を必要により溶媒等を用いて混合した後、非酸化性雰囲気で500℃〜3000℃、好ましくは700℃〜2000℃、より好ましくは800〜1500℃で焼成することで、酸化珪素粒子の表面の少なくとも一部に非晶質炭素からなる炭素層を備えた複合型の酸化珪素粒子(A2)を製造することができる。
【0043】
<不均化処理>
本発明の酸化珪素粒子(A)は、上記のようにして製造された酸化珪素粒子(A1)や複合型の酸化珪素粒子(A2)を更に熱処理を施して不均化処理することにより製造することができ、不均化処理を施すことで、アモルファスSiOx中にゼロ価の珪素原子がSi微細結晶として偏在する構造が形成され、このようなアモルファスSiOx中のSi微細結晶により、本発明の負極材のメカニズムの項に記載した通り、Liイオンを吸蔵・放出する電位の範囲が複合炭素粒子(B)と近くなり、Liイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化が複合炭素粒子(B)と同時に起こるため、複合炭素粒子(B)と酸化珪素粒子(A)の界面における相対位置関係が維持され、複合炭素粒子(B)との接触が損なわれることによる性能低下を低減させることが可能となる。
【0044】
この不均化処理は、前述の酸化珪素粒子(A1)又は複合型の酸化珪素粒子(A2)を、900〜1400℃の温度域において、不活性ガス雰囲気下で加熱することにより行うことができる。
【0045】
不均化処理の熱処理温度が900℃より低いと、不均化が全く進行しないかシリコンの微細なセル(珪素の微結晶)の形成に極めて長時間を要し、効率的でなく、逆に1400℃より高いと、二酸化珪素部の構造化が進み、Liイオンの往来が阻害されるので、リチウムイオン二次電池としての機能が低下するおそれがある。不均化処理の熱処理温度は好ましくは1000〜1300℃、より好ましくは1100〜1250℃である。なお、処理時間(不均化時間)は不均化処理温度に応じて10分〜20時間、特に30分〜12時間程度の範囲で適宜制御することができるが、例えば1100℃の処理温度においては5時間程度が好適である。
【0046】
なお、上記不均化処理は、不活性ガス雰囲気において、加熱機構を有する反応装置を用いればよく、特に限定されず、連続法、回分法での処理が可能で、具体的には流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。この場合、(処理)ガスとしては、Ar、He、H
2、N
2等の上記処理温度にて不活性なガス単独もしくはそれらの混合ガスを用いることができる。
【0047】
<炭素コーティング/珪素微結晶分散酸化珪素粒子の製造>
本発明の酸化珪素粒子(A)は、以下の通り、珪素の微結晶を含む酸化珪素粒子の表面を炭素でコーティングした複合型の酸化珪素粒子として、炭素コーティングと不均化処理とを同時に行って製造することもできる。
【0048】
このような複合型の酸化珪素粒子の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば下記I〜IIIの方法を好適に採用することができる。
I:一般式SiOx(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素粉末を原料として、少なくとも有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下900〜1400℃、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1050〜1300℃、更に好ましくは1100〜1200℃の温度域で熱処理することにより、原料の酸化珪素粉末を珪素と二酸化珪素の複合体に不均化すると共に、その表面を化学蒸着する方法
II:一般式SiOx(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素粉末をあらかじめ不活性ガス雰囲気下900〜1400℃、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1100〜1300℃で熱処理を施して不均化してなる珪素複合物、シリコン微粒子をゾルゲル法により二酸化珪素でコーティングした複合物、シリコン微粉末を煙霧状シリカ、沈降シリカのような微粉状シリカと水を介して凝固させたものを焼結して得られる複合物、又は珪素及びこの部分酸化物もしくは窒化物等の好ましくは0.1〜50μmの粒度まで粉砕したものをあらかじめ不活性ガス気流下で800〜1400℃で加熱したものを原料に、少なくとも有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下、800〜1400℃、好ましくは900〜1300℃、より好ましくは1000〜1200℃の温度域で熱処理して表面を化学蒸着する方法
III:一般式SiOx(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素粉末をあらかじめ500〜1200℃、好ましくは500〜1000℃、より好ましくは500〜900℃の温度域で有機物ガス及び/又は蒸気で化学蒸着処理したものを原料として、不活性ガス雰囲気下900〜1400℃、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1100〜1300℃の温度域で熱処理を施して不均化する方法
【0049】
上記I又はIIの方法における800〜1400℃(好ましくは900〜1400℃、特に1000〜1400℃)の温度域での化学蒸着処理(即ち、熱CVD処理)において、熱処理温度が800℃より低いと、導電性炭素皮膜と珪素複合物との融合、炭素原子の整列(結晶化)が不十分であり、逆に1400℃より高いと、二酸化珪素部の構造化が進み、リチウムイオンの往来が阻害されるので、リチウムイオン二次電池としての機能が低下するおそれがある。
【0050】
一方、上記I又はIIIの方法における酸化珪素の不均化において、熱処理温度が900℃より低いと、不均化が全く進行しないかシリコンの微細なセル(珪素の微結晶)の形成に極めて長時間を要し、効率的でなく、逆に1400℃より高いと、二酸化珪素部の構造化が進み、リチウムイオンの往来が阻害されるので、リチウムイオン二次電池としての機能が低下するおそれがある。
【0051】
なお、上記IIIの方法においては、CVD処理した後に酸化珪素の不均化を900〜1400℃、特に1000〜1400℃で行うために、化学蒸着(CVD)の処理温度としては800℃より低い温度域での処理でも最終的には炭素原子が整列(結晶化)した導電性炭素皮膜と珪素複合物とが表面で融合したものが得られるものである。
【0052】
このように、好ましくは熱CVD(800℃以上での化学蒸着処理)を施すことにより炭素膜を作製するが、熱CVDの時間は、炭素量との関係で、適宜設定される。この処理において粒子が凝集する場合があるが、この凝集物をボールミル等で解砕する。また、場合によっては、再度同様に熱CVDを繰り返し行う。
【0053】
なお、上記Iの方法において、原料として一般式SiOx(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素を用いた場合には、化学蒸着処理と同時に不均化反応を行わせ、二酸化珪素中に結晶構造を有するシリコンを微細に分散させることが重要であり、この場合、化学蒸着及び不均化を進行させるための処理温度、処理時間、有機物ガスを発生する原料の種類及び有機物ガス濃度を適宜選定する必要がある。熱処理時間((CVD/不均化)時間)は、通常0.5〜12時間、好ましくは1〜8時間、特に2〜6時間の範囲から選ばれるが、この熱処理時間は熱処理温度((CVD/不均化)温度)とも関係し、例えば、処理温度を1000℃にて行う場合には少なくとも5時間以上の処理を行うことが好ましい。
【0054】
また、上記IIの方法において、有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下に熱処理する場合の熱処理時間(CVD処理時間)は、通常0.5〜12時間、特に1〜6時間の範囲とすることができる。なお、SiOxの酸化珪素をあらかじめ不均化する場合の熱処理時間(不均化時間)は、通常0.5〜6時間、特に0.5〜3時間とすることができる。
【0055】
更に、上記IIIの方法において、SiOxをあらかじめ化学蒸着処理する場合の処理時間(CVD処理時間)は、通常0.5〜12時間、特に1〜6時間とすることができ、不活性ガス雰囲気下での熱処理時間(不均化時間)は、通常0.5〜6時間、特に0.5〜3時間とすることができる。
【0056】
有機物ガスを発生する原料として用いられる有機物としては、特に非酸化性雰囲気下において、上記熱処理温度で熱分解して炭素(黒鉛)を生成し得るものが選択され、例えばメタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素の単独もしくは混合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環乃至3環の芳香族炭化水素もしくはこれらの混合物が挙げられる。また、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油も単独もしくは混合物として用いることができる。
【0057】
なお、上記熱CVD(熱化学蒸着処理)及び/又は不均化処理は、非酸化性雰囲気において、加熱機構を有する反応装置を用いればよく、特に限定されず、連続法、回分法での処理が可能で、具体的には流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。この場合、(処理)ガスとしては、上記有機物ガス単独あるいは有機物ガスとAr、He、H
2、N
2等の非酸化性ガスの混合ガスを用いることができる。
【0058】
この場合、回転炉、ロータリーキルン等の炉芯管が水平方向に配設され、炉芯管が回転する構造の反応装置が好ましく、これにより酸化珪素粒子を転動させながら化学蒸着処理を施すことで、酸化珪素粒子同士に凝集を生じさせることなく、安定した製造が可能となる。炉芯管の回転速度は0.5〜30rpm、特に1〜10rpmとすることが好ましい。なお、この反応装置は、雰囲気を保持できる炉芯管と、炉芯管を回転させる回転機溝と、昇温・保持できる加熱機構を有しているものであれば特に限定せず、目的によって原料供給機構(例えばフィーダー)、製品回収機構(例えばホッパー)を設けることや、原料の滞留時間を制御するために、炉芯管を傾斜したり、炉芯管内に邪魔板を設けることもできる。また、炉芯管の材質についても特に限定はされず、炭化珪素、アルミナ、ムライト、窒化珪素等のセラミックスや、モリブデン、タングステンといった高融点金属、SUS、石英等を処理条件、処理目的によって適宜選定して使用することができる。
【0059】
また、流動ガス線速u(m/sec)は、流動化開始速度u
mfとの比u/u
mfが1.5≦u/u
mf≦5となる範囲とすることで、より効率的に導電性皮膜を形成することができる。u/u
mfが1.5より小さいと流動化が不十分となり、導電性皮膜にバラツキを生じる場合があり、逆にu/u
mfが5を超えると、粒子同士の二次凝集が発生し、均一な導電性皮膜を形成することができない場合がある。なお、ここで流動化開始速度は、粒子の大きさ、処理温度、処理雰囲気等により異なり、流動化ガス(線速)を徐々に増加させ、その時の粉体圧損がW(粉体重量)/A(流動層断面積)となった時の流動化ガス線速の値と定義することができる。なお、u
mfは、通常0.1〜30cm/sec、好ましくは0.5〜10cm/sec程度の範囲で行うことができ、このu
mfを与える粒子径としては一般的に0.5〜100μm、好ましくは5〜50μmとすることができる。粒子径が0.5μmより小さいと二次凝集が起こり、個々の粒子の表面を有効に処理することができない場合がある。
【0060】
<酸化珪素粒子(A)への他元素のドープ>
酸化珪素粒子(A)は、珪素、酸素以外の元素がドープされていてもよい。珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子(A)は、粒子内部の化学構造が安定化することにより初期充放電効率、サイクル特性の向上が見込まれる。さらに、このような酸化珪素粒子(A)は、リチウムイオン受け入れ性が向上して複合炭素粒子(B)のリチウムイオン受け入れ性に近づくので、複合炭素粒子(B)と酸化珪素粒子(A)を共に含む負極材を用いることで、急速充電時にも負極電極内でリチウムイオンが極端に濃縮されることがなく、金属リチウムが析出しにくい電池を作製することができる。
【0061】
ドープされる元素は通常、周期表第18族以外の元素であれば任意の元素から選ぶことができるが、珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子(A)がより安定であるためには周期表第4周期までの元素が好ましい。具体的には、周期表第4周期までのアルカリ金属、アルカリ土類金属、Al、Ga、Ge、N、P、As、Se等の元素から選ぶことができる。珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子(A)のリチウムイオン受け入れ性を向上させるためには、ドープされる元素は周期表第4周期までのアルカリ金属、アルカリ土類金属であることが好ましく、Mg、Ca、Liがより好ましく、Liが更に好ましい。これらは1種のみでも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0062】
珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子(A)における珪素原子数(M
Si)に対するドープされた元素の原子数(M
D)の比、(M
D/M
Si)としては、0.01〜5が好ましく、0.05〜4がより好ましく、0.1〜3が更に好ましい。M
D/M
Siがこの範囲を下回ると珪素、酸素以外の元素をドープした効果が得られず、この範囲を上回るとドープ反応で消費されなかった珪素、酸素以外の元素が酸化珪素粒子の表面に残存し、酸化珪素粒子の容量を低下させる原因となることがある。
【0063】
珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子(A)を製造する方法としては、例えば、酸化珪素粒子とドープされる元素の単体、もしくは、化合物の粉体を混合し、不活性ガス雰囲気下において、50〜1200℃の温度で加熱する方法が挙げられる。また、例えば、二酸化珪素粉末と、金属珪素粉末あるいは炭素粉末とを特定の割合で混合し、これにドープされる元素の単体、もしくは、化合物の粉体を加え、この混合物を反応器に充填した後、常圧あるいは特定の圧力に減圧し、1000℃以上に昇温し、保持して発生するガスを冷却析出させて、珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子を得る方法も挙げられる。
【0064】
[複合炭素粒子(B)]
<構成>
本発明の複合炭素粒子(B)は、球状化黒鉛粒子の表面の少なくとも一部に炭素層を備えた複合型の炭素質粒子である。ここで、「表面の少なくとも一部に炭素層を備えた」は、炭素層が黒鉛粒子の表面の一部又は全部を層状に覆う形態のみならず、炭素層が表面の一部又は全部に付着・添着する形態をも包含する。炭素層は、表面の全部を被覆するように備えていてもよく、一部を被覆あるいは付着・添着していてもよいが、好ましくは、表面の全部を被覆している。このような複合炭素粒子(B)としては、例えば球状化黒鉛粒子の表面の少なくとも一部に非晶質炭素からなる炭素層を備えた複合型の黒鉛(「非晶質炭素被覆黒鉛」ともいう)や、球状化黒鉛粒子の表面の少なくとも一部に黒鉛からなる炭素層を備えた複合型の黒鉛(「黒鉛被覆黒鉛」ともいう)を使用することができる。本発明の複合炭素粒子(B)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、炭素層が黒鉛粒子の表面の少なくとも一部に炭素層を備えていることを、確認するためには、例えば、TEM写真等でも確認する事ができる。
【0065】
炭素層を備える球状化黒鉛粒子としては、例えば、鱗片状、塊状又は板状の天然に産出される黒鉛、並びに石油コークス、石炭ピッチコークス、石炭ニードルコークス及びメソフェーズピッチ等を2500℃以上に加熱して製造した人造黒鉛に、力学的エネルギー処理を与えることで粒子状に形成された黒鉛粒子を用いることができる。非水系二次電池用負極材において、複合炭素粒子(B)の炭素層は、黒鉛質物及び/又は非晶質炭素でもよく、非晶質炭素であることが好ましい。
【0066】
本発明の複合炭素粒子(B)の炭素層の被覆率は、球状化黒鉛粒子の表面に存在する炭素層の量であり、複合炭素粒子(B)100重量%に対して、0.1〜10重量%であることが好ましい。この範囲であれば、リチウムイオン等のアルカリイオンの入出力特性の向上に寄与できる。被覆率は、より好ましくは、0.2〜8重量%であり、更に好ましくは、0.4〜5重量%である。被覆率は、球状化黒鉛粒子の表面に存在する炭素層の重量%で表し、被覆率は、実施例で後述する方法により測定することができる。
【0067】
炭素層が非晶質炭素である場合、被覆率は、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.2〜8重量%、さらに好ましくは0.4〜5重量%である。非晶質炭素からなる炭素層の被覆率を0.1重量%以上とすることで、非晶質炭素の有するリチウムイオン等のアルカリイオンの高い受け入れ性を充分利用することができる。被覆率を10重量%以下とすることで、非晶質炭素が持つ不可逆容量の大きさの影響による容量の低下を防ぐことができ、非晶質炭素からなる炭素層による接触抵抗の増大を抑制し、レート特性を改善することができる。
【0068】
<物性>
(円形度)
本発明の複合炭素粒子(B)は、後述の実施例の項に記載の方法で測定されるフロー式粒子像分析より求められる円形度が0.89以上である。このように円形度が高い複合炭素粒子(B)を用いることで、初期効率を高めることができる。初期効率の観点から、複合炭素粒子(B)の円形度は好ましくは0.89以上であり、より好ましくは0.90以上であり、更に好ましくは0.91以上であり、特に好ましいのは0.93以上である。複合炭素粒子(B)の円形度の上限は特に制限されないが、通常、理論上の上限が1であるため、上限は1未満となる。
【0069】
複合炭素粒子(B)の円形度を向上させる方法は、特に限定されないが、球形化処理を施して球形にしたものが、電極体にしたときの粒子間空隙の形状が整うので好ましい。球形化処理法の例としては、せん断力や圧縮力を与えることによって機械的に球形に近づける方法、複数の微粒子をバインダーもしくは粒子自身の有する付着力によって造粒する機械的・物理的処理方法等が挙げられる。
【0070】
(平均粒子径(d50))
本発明の複合炭素粒子(B)の平均粒子径(体積粒度分布における小粒子側から50%積算部の粒子径)(d50)は、好ましくは5μm以上30μm以下である。複合炭素粒子(B)の平均粒子径がこの範囲であれば、小粒径化による比表面積の増大に起因する負可逆容量の増加や接触界面の抵抗を抑制し、また、大粒径化により電解液と負極材の粒子との接触面積が減ることによる急速充放電性の低下を防ぐことができる。複合炭素粒子(B)のd50は、より好ましくは8〜27μmであり、更に好ましくは10〜25μm、特に好ましくは12〜23μmである。
【0071】
なお、本発明の酸化珪素粒子(A)の平均粒子径d50と本発明の複合炭素粒子(B)の平均粒子径d50との比Rについては、前述の好適範囲とすることが好ましい。
【0072】
本発明の複合炭素粒子(B)の体積粒度分布における小粒子側から10%積算部の粒子径(d10)は1μm以上20μm以下であることが好ましい。d10が1μm以上であると、スラリー粘度上昇などの工程不都合の発生、電極強度の低下や初期充放電効率の低下を防止することができ、20μm以下であると、電池の高電流密度充放電特性の低下及び低温入出力特性の低下を防止することができる。複合炭素粒子(B)のd10はより好ましくは3〜17μmであり、更に好ましくは5〜15μm、特に好ましくは6〜13μmである。
【0073】
本発明の複合炭素粒子(B)の体積粒度分布における小粒子側から90%積算部の粒子径(d90)は、10μm以上100μm以下であることが好ましい。d90が10μm以上であると、負極強度の低下や初期充放電効率の低下を防止することができ、100μm以下であると、筋引きなどの工程不都合の発生、電池の高電流密度充放電特性の低下および低温入出力特性の低下を防止することができる。複合炭素粒子(B)のd90はより好ましくは15〜60μmであり、更に好ましくは17〜40μm、特に好ましくは20〜30μmである。
【0074】
(アスペクト比)
本発明の複合炭素粒子(B)の短径に対する長径の長さの比であるアスペクト比は、好ましくは2.09以下、より好ましくは1.9以下、更に好ましくは1.8以下、特に好ましくは1.7以下である。アスペクト比がこの範囲であると、粒子形状が楕円形、球形に近い状態になり、電極とした場合に粒子間の空隙の連続性が確保されリチウムイオンの移動性が高まり、急速充放電特性に優れた傾向を示す。なお、アスペクト比が大きすぎると、粒子形状が球状や楕円形ではなく、円盤状、板状になっていき、鱗片状黒鉛に近いものになり、粒子間の空隙が屈曲した形状となりリチウムイオン等のアルカリイオンの移動性が悪く、急速充放電特性が劣る傾向を示す。なお、アスペクト比は、粒子の短径に対する長径の長さの比であり、最小値は1となるので、アスペクト比の下限は通常1である。複合炭素粒子(B)のアスペクト比は後述する実施例の方法を用いて測定することができる。
【0075】
(タップ密度)
本発明の複合炭素粒子(B)のタップ密度は、好ましくは0.8g/cm
3以上、より好ましくは0.9g/cm
3以上、さらに好ましくは1.00g/cm
3以上、特に好ましくは1.05g/cm
3以上、最も好ましくは1.08g/cm
3以上である。タップ密度が0.8g/cm
3以上であるということは、複合炭素粒子(B)がほぼ球状であることや複合炭素粒子(B)の内部構造が緻密で粒子内の空隙が少ないことを示す。複合炭素粒子(B)のタップ密度が0.8g/cm
3以上であると、電極とした場合に、電解液及び複合炭素粒子(B)を存在させることの可能な好適な間隙を形成することができる。また、極板内のリチウムイオン等のアルカリイオンの拡散パスの経路が形成され、充放電時における酸化珪素粒子(A)及び複合炭素粒子(B)への十分なリチウムイオン等のアルカリイオンの出入りを確保することができ、高容量化、高レート化を実現することができる。タップ密度は後述する実施例の方法により測定する。
【0076】
(比表面積)
本発明の複合炭素粒子(B)のBET法による比表面積は、通常0.5m
2/g以上、好ましくは1m
2/g以上、より好ましくは2m
2/g以上、さらに好ましくは3m
2/g以上、特に好ましくは4m
2/g以上である。また通常30m
2/g以下、好ましくは20m
2/g以下、より好ましくは10m
2/g以下、更に好ましくは7m
2/g以下、特に好ましくは6.5m
2/g以下である。比表面積がこの範囲を下回ると、Liが出入りする部位が少なく、リチウムイオン二次電池の高速充放電特性出力特性や低温入出力特性が劣り、一方、比表面積がこの範囲を上回ると活物質の電解液に対する活性が過剰になり、電解液との副反応の増大により電池の初期充放電効率の低下やガス発生量の増大を招き、電池容量が低下する傾向がある。
BET法による比表面積は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0077】
(002面の面間隔(d002)及び結晶子サイズ(Lc))
本発明の複合炭素粒子(B)は、その学振法によるX線広角回折で求めた格子面(002面)の面間隔d値(層間距離(d002))が、好ましくは0.338nm以下、より好ましくは0.337以下である。d002値が大きすぎるということは複合炭素粒子(B)の結晶性が低いことを示し、リチウムイオン二次電池の初期不可逆容量が増加する場合がある。一方、複合炭素粒子(B)の002面の面間隔の理論値は0.335nmであるため、通常0.335nm以上である。
【0078】
また、学振法によるX線広角回折で求めた本発明の複合炭素粒子(B)の結晶子サイズ(Lc)は、通常1.5nm以上、好ましくは3.0nm以上の範囲である。この範囲を下回ると、結晶性が低い粒子となり、リチウムイオン二次電池の可逆容量が減少してしまう可能性がある。また、前記下限は黒鉛の理論値である。
(d002)及び(Lc)の測定方法は、以下の通りである。
【0079】
<d002面間隔、Lc>
試料粉末に総量の約15重量%のX線標準高純度シリコン粉末を加えて混合したものを材料とし、グラファイトモノクロメーターで単色化したCuKα線を線源とし、反射式ディフラクトメーター法で広角X線回折曲線を測定する。学振法を用いて面間隔(d002)及び結晶子の大きさ(Lc)を求める。
【0080】
(ラマンR値)
ラマンR値は、ラマン分光法で求めたラマンスペクトルにおける1580cm
−1付近のピークPAの強度IAと、1360cm
−1付近のピークPBの強度IBとを測定したときの、その強度比R(R=IB/IA)として定義する。なお、「1580cm
−1付近」とは1580〜1620cm
−1の範囲を、「1360cm
−1付近」とは1350〜1370cm
−1の範囲を指す。
【0081】
本発明の複合炭素粒子(B)のラマンR値は、通常0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上、更に好ましくは、0.20以上である。また、通常1.00以下、好ましくは0.70以下、より好ましくは0.40以下、更に好ましくは0.37以下、特に好ましくは0.36以下である。
【0082】
ラマンR値が小さすぎると、本発明の複合炭素粒子(B)の製造工程における黒鉛質粒子等の力学的エネルギー処理において、粒子表面に充分なダメージが与えられていないということであり、このため複合炭素粒子(B)においては、ダメージによる黒鉛質粒子等の表面の微細なクラックや欠損、構造欠陥などのLiイオンの受け入れまたは放出の場所の量が少ないため、リチウムイオン二次電池において、Liイオンの急速充放電性が悪くなる場合がある。
【0083】
また、ラマンR値が大きいということは、例えば、黒鉛質粒子等を被覆している非晶質炭素の量が多い、及び/又は過剰な力学的エネルギー処理による黒鉛質粒子等の表面の微細なクラックや欠損、構造欠陥の量が多すぎることを表しており、ラマンR値が大きすぎると非晶質炭素の持つ不可逆容量の影響の増大、電解液との副反応の増大により、リチウムイオン二次電池の初期充放電効率の低下やガス発生量の増大を招き、電池容量が低下する傾向がある。
【0084】
ラマンスペクトルはラマン分光器で測定できる。具体的には、測定対象粒子を測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定を行う。
アルゴンイオンレーザー光の波長 :514.5nm
試料上のレーザーパワー :25mW
分解能 :4cm
−1
測定範囲 :1100cm
−1〜1730cm
−1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、スムージング処理(単純平均によるコンボリューション5ポイント)
【0085】
(細孔容量)
本発明の複合炭素粒子(B)の水銀圧入法による10nm〜100000nmの範囲の細孔容量は、0.01ml/g以上であることが好ましく、0.05ml/g以上であることがより好ましく、0.1ml/g以上であることが更に好ましい。細孔容量を0.01ml/g以上とすることによりリチウムイオン等のアルカリイオンの出入りの面積が大きくなる。
【0086】
(炭素層を備える前の球状化黒鉛粒子の002面の面間隔(d002))
本発明の複合炭素粒子(B)の核として用いる、球状化黒鉛粒子のX線回析法による002面の面間隔(d002)は、3.37Å以下、Lcが900Å以上であることが好ましい。X線広角回折法による002面の面間隔(d002)が3.37Å以下、Lcが900Å以上であることは、この非晶質炭素からなる炭素層が存在する複合炭素粒子(B)の表面を除くほとんどの部分の結晶性が高いということであり、非晶質炭素材料に見られるような不可逆容量が大きいことによる低容量化を生じない高容量電極となる炭素材料であることを示す。なお、複合炭素粒子(B)の炭素層が黒鉛物質により形成されている場合は、炭素層を構成する黒鉛物質も、X線回折法による002面の面間隔(d002)と、Lcは、核として用いる黒鉛粒子と同一の値を示すことが好ましい。
【0087】
(炭素層を備える前の球状化黒鉛粒子のタップ密度)
本発明の複合炭素粒子(B)の核として用いる、黒鉛粒子のタップ密度は、0.8g/cm
3以上であることが好ましい。炭素層を具備前の黒鉛粒子のタップ密度を0.8g/cm
3以上とすることにより、高容量で、急速放電特性を併せ持った炭素材料を得ることができる。
【0088】
(非晶質炭素の002面の面間隔(d002))
本発明の複合炭素粒子(B)の炭素層を形成する、非晶質炭素のX線広角回折法による002面の面間隔(d002)は3.40Å以上、Lcが500Å以下であることが好ましい。002面の面間隔(d002)を3.40Å以上、Lcを500Å以下とすることにより、リチウムイオンの受け入れ性を向上することができる。
【0089】
(真密度)
本発明の複合炭素粒子(B)の真密度は2.1g/cm
3以上であることが好ましく、2.15g/cm
3以上であることがより好ましく、2.2g/cm
3以上であることが更に好ましい。真密度は2.1g/cm
3以上であるということは、複合炭素粒子(B)の核となる球形化黒鉛の結晶性が高いことを示し、不可逆容量が少なく、高容量化をすることができる。真密度は後述する実施例の方法により測定する。
【0090】
<複合炭素粒子(B)の製造方法>
本発明の複合炭素粒子(B)は、前記性状を具備していれば、どのような製法で作製しても問題ないが、例えば、特許第3534391号公報に記載の電極用炭素材料を用いることができる。具体的には、炭素層を具備前の黒鉛粒子としては、例えば、鱗片状、塊状又は板状の天然黒鉛、並びに石油コークス、石炭ピッチコークス、石炭ニードルコークス及びメソフェーズピッチ等を2500℃以上に加熱して製造することができる。なお、加熱して得られた黒鉛に力学的エネルギー処理を与えることが好ましい。
【0091】
力学的エネルギー処理は、例えば、ケーシング内部に多数のブレードを設置したローターを有する装置を用い、そのローターを高速回転することにより、その内部に導入した前記天然黒鉛または人造黒鉛に対し、衝撃圧縮、摩擦及びせん断力等の機械的作用を繰り返し与えることで製造できる。
【0092】
複合炭素粒子(B)は、黒鉛粒子に石油系や石炭系のタールやピッチ、ポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリル、フェノール樹脂、セルロース等の樹脂を必要により溶媒等を用いて混合し、非酸化性雰囲気で500℃〜3000℃、好ましくは700℃〜2000℃、より好ましくは800〜1500℃で焼成することで、非晶質炭素からなる炭素層を備えた複合型の炭素質粒子(例えば非晶質炭素被覆黒鉛)や、黒鉛粒子の表面の少なくとも一部に黒鉛からなる炭素層を備えた複合型の炭素質粒子(例えば黒鉛被覆黒鉛)を得ることができる。黒鉛粒子に対する焼成後必要により粉砕分級を行うこともできる。
【0093】
[負極材]
<酸化珪素粒子(A)と複合炭素粒子(B)の含有割合>
本発明の負極材は、前述の本発明に好適な粒度分布及び物性を備える酸化珪素粒子(A)と複合炭素粒子(B)とを[複合炭素粒子(B)の重量]:[酸化珪素粒子(A)の重量]=30:70〜99:1、特に40:60〜98:3、とりわけ50:50〜95:5の割合で含むことが好ましく、このような割合で酸化珪素粒子(A)と複合炭素粒子(B)とを混合して用いることにより、複合炭素粒子(B)同士によって形成された間隙に、高容量かつLiイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化が小さい酸化珪素粒子(A)が存在することで、複合炭素粒子(B)との接触が損なわれることによる性能低下が小さい、高容量な負極材を得ることが可能となる。
【0094】
<物性>
<平均粒子径(d50)>
本発明の負極材は平均粒子径(体積粒度分布における小粒子側から50%積算部の粒子径)(d50)は3μm以上30μm以下であることが好ましい。本発明の負極材の平均粒子径(d50)が3μm以上であると、比表面積が大きくなることによる不可逆容量の増加を防ぐことができる。一方、d50が30μm以下であると、電解液と負極材の粒子との接触面積が減ることによる急速充放電性の低下を防ぐことができる。負極材のd50は好ましくは8〜27μm、更に好ましくは10〜25μm、特に好ましくは12〜23μmである。
【0095】
(タップ密度)
本発明の負極材のタップ密度は、好ましくは0.8〜1.8g/cm
3、より好ましくは0.9〜1.7g/cm
3、更に好ましくは1.0〜1.6g・cm
3である。タップ密度が上記範囲内であると、負極とした場合に、複合炭素粒子(B)によって形成される間隙に電解液及び酸化珪素粒子(A)を存在させることができ、高容量化、高レート特性化を実現することができる。
タップ密度は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0096】
(比表面積)
本発明の負極材のBET法による比表面積は、通常0.5m
2/g以上、好ましくは2m
2/g以上、より好ましくは3m
2/g以上、さらに好ましくは4m
2/g以上、特に好ましくは5m
2/g以上である。また通常30m
2/g以下、好ましくは20m
2/g以下、より好ましくは10m
2/g以下、更に好ましくは8m
2/g以下、特に好ましくは6.5m
2/g以下である。比表面積がこの範囲を下回ると、Liが出入りする部位が少なく、リチウムイオン二次電池の高速充放電特性出力特性や低温入出力特性が劣り、一方、比表面積がこの範囲を上回ると活物質の電解液に対する活性が過剰になり、電解液との副反応の増大により電池の初期充放電効率の低下やガス発生量の増大を招き、電池容量が低下する傾向がある。
BET法による比表面積は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0097】
〔非水系二次電池用負極〕
本発明の非水系二次電池用負極(以下、「本発明の負極」と称す場合がある。)は、集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備え、該活物質層が本発明の負極材を含有するものである。
【0098】
本発明の負極材を用いて負極を作製するには、負極材に結着樹脂を配合したものを水性又は有機系媒体でスラリーとし、必要によりこれに増粘材を加えて集電体に塗布し、乾燥すればよい。
【0099】
結着樹脂としては、非水電解液に対して安定で、かつ非水溶性のものを用いるのが好ましい。例えば、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム及びエチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアクリル酸、及び芳香族ポリアミド等の合成樹脂;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体やその水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン、スチレン共重合体、スチレン・イソプレン及びスチレンブロック共重合体並びにその水素化物等の熱可塑性エラストマー;シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、及びエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニデンフルオライド、ポリペンタフルオロプロピレン及びポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素化高分子等を用いることができる。有機系媒体としては、例えば、N−メチルピロリドン及びジメチルホルムアミドを用いることができる。
【0100】
結着樹脂は、負極材100重量部に対して通常は0.1重量部以上、好ましくは0.2重量部以上用いるのが好ましい。結着樹脂の使用量を負極材100重量部に対して0.1重量部以上とすることで、負極材料相互間や負極材料と集電体との結着力が十分となり、負極から負極材料が剥離することによる電池容量の減少及びリサイクル特性の悪化を防ぐことができる。
【0101】
また、結着樹脂の使用量は負極材100重量部に対して10重量部以下とするのが好ましく、7重量部以下とするのがより好ましい。結着樹脂の使用量を負極材100重量部に対して10重量部以下とすることにより、負極の容量の減少を防ぎ、かつリチウムイオン等のアルカリイオンの負極材料への出入が妨げられる等の問題を防ぐことができる。
【0102】
スラリーに添加する増粘材としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース類、ポリビニルアルコール並びにポリエチレングリコール等が挙げられる。中でも好ましいのはカルボキシメチルセルロースである。増粘材は負極材料100重量部に対して、通常0.1〜10重量部、特に0.2〜7重量部となるように用いるのが好ましい。
【0103】
負極集電体としては、従来からこの用途に用い得ることが知られている、例えば、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタン及び炭素等を用いればよい。集電体の形状は通常はシート状であり、その表面に凹凸をつけたもの、ネット及びパンチングメタル等を用いることも好ましい。
【0104】
集電体に負極材と結着樹脂のスラリーを塗布・乾燥した後は、加圧して集電体上に形成された活物質層の密度を大きくして負極活物質層の単位体積当たりの電池容量を大きくするのが好ましい。活物質層の密度は1.2〜1.8g/cm
3の範囲にあることが好ましく、1.3〜1.6g/cm
3であることがより好ましい。
【0105】
活物質層の密度を1.2g/cm
3以上とすることで、電極の厚みの増大に伴う電池の容量の低下を防ぐことができる。また、活物質層の密度を1.8g/cm
3以下とすることで、電極内の粒子間空隙が減少に伴い空隙に保持される電解液量が減り、リチウムイオン等のアルカリイオンの移動性が小さくなり急速充放電性が小さくなるのを防ぐことができる。
【0106】
負極活物質層は、複合炭素粒子(B)によって形成された間隙に酸化珪素粒子(A)が存在して構成されていることが好ましい。複合炭素粒子(B)によって形成された間隙に酸化珪素粒子(A)が存在することで、高容量化し、レート特性を向上させることができる。
【0107】
本発明の負極材を用いて形成した負極活物質層の水銀圧入法による10nm〜100000nmの範囲の細孔容量は、0.05ml/gであることが好ましく、0.1ml/g以上であることがより好ましい。細孔容量を0.05ml/g以上とすることによりリチウムイオン等のアルカリイオンの出入りの面積が大きくなる。
【0108】
〔非水系二次電池〕
本発明の非水系二次電池は、正極及び負極、並びに電解質を備える非水系二次電池であって、負極として、本発明の負極を用いたものである。
【0109】
本発明の非水系二次電池は、上記の本発明の負極を用いる以外は、常法に従って作成することができる。
【0110】
[正極]
本発明の非水系二次電池の正極の活物質となる正極材料としては、例えば、基本組成がLiCoO
2で表されるリチウムコバルト複合酸化物、LiNiO
2で表されるリチウムニッケル複合酸化物、LiMnO
2及びLiMn
2O
4で表されるリチウムマンガン複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物、二酸化マンガン等の遷移金属酸化物、並びにこれらの複合酸化物混合物等を用いればよい。更にはTiS
2、FeS
2、Nb
3S
4、Mo
3S
4、CoS
2、V
2O
5、CrO
3、V
3O
3、FeO
2、GeO
2及びLiNi
0.33Mn
0.33Co
0.33O
2、LiFePO
4等を用いればよい。
【0111】
前記正極材料に結着樹脂を配合したものを適当な溶媒でスラリー化して集電体に塗布・乾燥することにより正極を作製できる。なおスラリー中にはアセチレンブラック及びケッチェンブラック等の導電材を含有させるのが好ましい。また所望により増粘材を含有させてもよい。
【0112】
増粘材及び結着樹脂としてはこの用途に周知のもの、例えば負極の作成に用いるものとして例示したものを用いればよい。正極材料100重量部に対する配合比率は、導電材は0.5〜20重量部が好ましく、特に1〜15重量部が好ましい。増粘材は0.2〜10重量部が好ましく、特に0.5〜7重量部が好ましい。
【0113】
正極材料100重量部に対する結着樹脂の配合比率は、結着樹脂を水でスラリー化するときは0.2〜10重量部が好ましく、特に0.5〜7重量部が好ましい。結着樹脂をN−メチルピロリドン等の結着樹脂を溶解する有機溶媒でスラリー化する場合は0.5〜20重量部、特に1〜15重量部が好ましい。
【0114】
正極集電体としては、例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ及びタンタル等並びにこれらの合金が挙げられる。なかでもアルミニウム、チタン及びタンタル並びにその合金が好ましく、アルミニウム及びその合金が最も好ましい。
【0115】
[電解質]
本発明の非水系二次電池に用いる電解質は、全固体電解質であっても、電解質が非水溶媒中に含まれる電解液であってもよいが、好ましくは電解質が非水溶媒中に含まれる電解液である。
【0116】
電解液は、従来周知の非水溶媒に種々のリチウム塩を溶解させたものを用いることができる。非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート及びビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトン等の環状エステル、クラウンエーテル、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメチルテトラヒドロフラン及び1,3−ジオキソラン等の環状エーテル、1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテル等を用いればよい。通常はこれらの2種以上を混合して用いる。なかでも環状カーボネートと鎖状カーボネート、又はこれに更に他の溶媒を混合して用いるのが好ましい。
【0117】
電解液には、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、無水コハク酸、無水マレイン酸、プロパンスルトン及びジエチルスルホン等の化合物やジフルオロリン酸リチウムのようなジフルオロリン酸塩等が添加されていてもよい。更に、ジフェニルエーテル及びシクロヘキシルベンゼン等の過充電防止剤が添加されていてもよい。
【0118】
非水溶媒に溶解させる電解質としては、例えば、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(CF
3CF
2SO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2)及びLiC(CF
3SO
2)
3等が挙げられる。電解液中の電解質の濃度は通常0.5〜2mol/L、好ましくは0.6〜1.5mol/Lである。
【0119】
[セパレータ]
正極と負極との間に介在させるセパレータとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンの多孔性シートや不織布を用いるのが好ましい。
【0120】
[負極/正極容量比]
本発明の非水系二次電池は、負極/正極の容量比を1.01〜1.5に設計することが好ましく、1.2〜1.4に設計することがより好ましい。
本発明の非水系二次電池は、Liイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解質を備えるリチウムイオン二次電池であることが好ましい。
【実施例】
【0121】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0122】
〔物性ないし特性の測定・評価方法〕
[酸化珪素粒子(A)、複合炭素粒子(B)、負極材の物性の測定]
<粒度分布>
体積基準の粒度分布は、界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2重量%水溶液(約10mL)に試料を分散させて、レーザー回折・散乱式粒度分布計LA−700(堀場製作所社製)を用いて測定した。
【0123】
<タップ密度>
粉体密度測定器タップデンサーKYT−3000((株)セイシン企業社製)を用いて測定した。20ccのタップセルに試料を落下させ、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行って、そのときの密度をタップ密度とした。
【0124】
<比表面積(BET法)>
マイクロメリティックス社製 トライスターII3000を用いて測定した。150℃で1時間の減圧乾燥を実施した後、窒素ガス吸着によるBET多点法(相対圧0.05〜0.30の範囲において5点)により測定した。
【0125】
<円形度>
フロー式粒子像分析装置(東亜医療電子社製FPIA−2000)を使用し、円相当径による粒径分布の測定および平均円形度の算出を行った。分散媒としてイオン交換水を使用し、界面活性剤としてポリオキシエチレン(20)モノラウレートを使用した。円相当径とは、撮影した粒子像と同じ投影面積を持つ円(相当円)の直径であり、円形度とは、相当円の周囲長を分子とし、撮影された粒子投影像の周囲長を分母とした比率である。測定した相当径が10〜40μmの範囲の粒子の円形度を平均し、円形度とした。
【0126】
<ラマンR値>
ラマンスペクトルはラマン分光器で測定した。具体的には、測定対象粒子を測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定を行った。
アルゴンイオンレーザー光の波長 :514.5nm
試料上のレーザーパワー :25mW
分解能 :4cm
−1
測定範囲 :1100cm
−1〜1730cm
−1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、スムージング処理(単純平均によるコンボリューション5ポイント)
【0127】
本測定にて得られたラマンスペクトルにおいて、1580cm
−1付近のピークPAの強度I
Aと、1360cm
−1付近のピークP
Bの強度I
Bとを測定したときの、その強度比R(R=I
B/I
A)として定義した。なお、「1580cm
−1付近」とは1580〜1620cm
−1の範囲を、「1360cm
−1付近」とは1350〜1370cm
−1の範囲を指す。
【0128】
[電池の評価]
<性能評価用負極の作製>
後述する複合炭素粒子(B)と酸化珪素粒子(A)との混合物92.5重量%と、アセチレンブラック5重量%と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(CMC)1重量%及びスチレン・ブタジエンゴム(SBR)48重量%水性ディスパージョン3.1重量%(SBR:1.5重量%)とを、ハイブリダイズミキサーにて混練し、スラリーとした。このスラリーを厚さ20μmの銅箔上にブレード法で、目付け4〜5mg/cm
2となるように塗布し、乾燥させた。
【0129】
その後、負極活物質層の密度1.2〜1.4g/cm
3となるようにロールプレスして負極シートとし、この負極シートを直径12.5mmの円形状に打ち抜き、90℃で8時間、真空乾燥し、評価用の負極とした。
【0130】
<非水系二次電池(コイン型電池)の作製>
上記方法で作製した評価用負極と、対極としてリチウム金属箔を直径15mmの円板状に打ち抜いたものを用いた。両極の間には、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとフルオロエチレンカーボネートの混合溶媒(容積比=3:6:1)に、LiPF
6を1mol/Lになるように溶解させた電解液を含浸させたセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム製)を置き、コイン型の性能評価用電池を作製した。
【0131】
<充電容量、放電容量、効率>
前述の方法で作製した非水系二次電池(コイン型電池)を用いて、下記の測定方法で電池充放電時の充電容量(mAh/g)と放電容量(mAh/g)を測定した。
0.05Cの電流密度でリチウム対極に対して5mVまで充電し、さらに5mVの一定電圧で電流密度が0.005Cになるまで充電し、負極中にリチウムをドープした後、0.1Cの電流密度でリチウム対極に対して1.5Vまで放電を行った。
充電容量、放電容量は以下のようにして求めた。負極重量から負極と同面積に打ち抜いた銅箔の重量を差し引き、負極活物質とバインダーの組成比から求められる係数を乗ずることで負極活物質の重量を求め、この負極活物質の重量で1サイクル目の充電容量、放電容量を除して、重量当りの充電容量、放電容量を求めた。
このときの充電容量(mAh/g)を本負極材の1st充電容量(mAh/g)とし、放電容量(mAh/g)を1st放電容量(mAh/g)とした。
また、ここで得られた1サイクル目の放電容量(mAh/g)を充電容量(mAh/g)で除し、100倍した値を1st効率(%)とした。
【0132】
〔複合炭素粒子(B)〕
<複合炭素粒子(B1)>
d50が100μmの鱗片状天然黒鉛を、奈良機械製作所製ハイブリダイゼーションシステムNHS−1型にて、ローター周速度80m/秒で10分間の機械的作用による球形化処理を行った。このサンプルを分級により処理し、d50が16.3μmの球形化黒鉛粒子を得た。得られた球形化黒鉛粒子と炭素質物前駆体としてナフサ熱分解時に得られる石油系重質油を混合し、不活性ガス中で1300℃熱処理を施した後、焼成物を粉砕・分級処理することにより、黒鉛質粒子の表面に非晶質炭素が添着された複合炭素粒子(B1)を得た。
【0133】
焼成収率から、得られた複合炭素粒子(B1)において、球形化黒鉛粒子と非晶質炭素との重量比率([球形化黒鉛粒子の重量]:[非晶質炭素の重量])は1:0.04であることが確認された。前記測定法でd50、d90、d10、タップ密度、比表面積、円形度、ラマンR値を測定した。結果を表−1に示す。
【0134】
<複合炭素粒子(B2)>
d50が100μmの鱗片状天然黒鉛を、奈良機械製作所製ハイブリダイゼーションシステムNHS−1型にて、ローター周速度80m/秒で10分間の機械的作用による球形化処理を行った。このサンプルを分級により処理し、d50が10.6μmの球形化黒鉛粒子を得た。得られた球形化黒鉛粒子と炭素質物前駆体としてナフサ熱分解時に得られる石油系重質油を混合し、不活性ガス中で1300℃熱処理を施した後、焼成物を粉砕・分級処理することにより、黒鉛質粒子の表面に非晶質炭素が添着された複合炭素粒子(B2)を得た。
【0135】
焼成収率から、得られた複合炭素粒子(B2)において、球形化黒鉛粒子と非晶質炭素との重量比率([球形化黒鉛粒子の重量]:[非晶質炭素の重量])は1:0.07であることが確認された。前記測定法でd50、d90、d10、タップ密度、比表面積、円形度、ラマンR値を測定した。結果を表−1に示す。
【0136】
<複合炭素粒子(b1)>
d50が100μmの鱗片状天然黒鉛を、奈良機械製作所製ハイブリダイゼーションシステムNHS−1型にて、ローター周速度80m/秒で10分間の機械的作用による球形化処理を行った。このサンプルを分級により処理し、d50が9.8μmの球形化黒鉛粒子を得た。得られた球形化黒鉛粒子と炭素質物前駆体としてナフサ熱分解時に得られる石油系重質油を混合し、不活性ガス中で1300℃熱処理を施した後、焼成物を粉砕・分級処理することにより、黒鉛質粒子の表面に非晶質炭素が添着された複合炭素粒子(b1)を得た。
【0137】
焼成収率から、得られた複合炭素粒子(b1)において、球形化黒鉛粒子と非晶質炭素との重量比率([球形化黒鉛粒子の重量]:[非晶質炭素の重量])は1:0.08であることが確認された。前記測定法でd50、d90、d10、タップ密度、比表面積、円形度、ラマンR値を測定した。結果を表−1に示す。
【0138】
<酸化珪素粒子(A1)>
市販の酸化珪素粒子(SiOx、x=1)(大阪チタニウムテクノロジーズ社製)を不活性雰囲気下において、1000℃で6時間加熱処理して酸化珪素粒子(A1)を得た。酸化珪素粒子(A1)は、d50が5.4μm、BET法比表面積が2.1m
2/gであった。酸化珪素粒子(A1)のX線回折パターンからは、2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線を確認することが可能であり、酸化珪素粒子(A1)はゼロ価の珪素原子を微結晶として含むことを確認された。なお、上記の回折線の広がりをもとに、シェーラーの式によって求めた珪素の結晶の粒子径は3.2nmであった。
【0139】
酸化珪素粒子(A1)の物性を表−2に示す。
【0140】
[実施例1]
複合炭素質粒子(B1)90重量部に対して、酸化珪素粒子(A1)10重量部を乾式混合し、混合物とした。前記測定法で各評価を行った。
【0141】
[実施例2]
複合炭素質粒子(B2)90重量部に対して、酸化珪素粒子(A1)10重量部を乾式混合し、混合物とした。実施例1と同様の評価行った。
【0142】
[比較例1]
黒鉛粒子(b1)90重量部に対して、酸化珪素粒子(A1)10重量部を乾式混合し、混合物とした。実施例1と同様の評価行った。
【0143】
実施例1、2及び比較例1で得られた混合物のd50、d90、d10、比表面積を表−3にまとめて示す。
【0144】
また、実施例1、2及び比較例1で得られた混合物よりなる負極材を用いて作製した電池の評価結果を表−4にまとめて示す。
表−4より、本発明の負極材を用いた非水系二次電池は、高容量で初期効率に優れることが分かる。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
【表4】