特許第6977993号(P6977993)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6977993
(24)【登録日】2021年11月15日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】有機性排水の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20211125BHJP
   C02F 11/02 20060101ALI20211125BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20211125BHJP
   C02F 11/143 20190101ALI20211125BHJP
   C02F 11/06 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   C02F3/12 S
   C02F3/12 VZAB
   C02F11/02
   C02F11/00 B
   C02F11/143
   C02F11/06 A
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-199074(P2017-199074)
(22)【出願日】2017年10月13日
(65)【公開番号】特開2018-69229(P2018-69229A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2020年6月29日
(31)【優先権主張番号】特願2016-209795(P2016-209795)
(32)【優先日】2016年10月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角田 直行
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 渉
(72)【発明者】
【氏名】橋本 くるみ
(72)【発明者】
【氏名】中井 智司
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−179285(JP,A)
【文献】 特開2003−062590(JP,A)
【文献】 特開2002−059190(JP,A)
【文献】 特開平09−122678(JP,A)
【文献】 特開2003−275784(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0152812(US,A1)
【文献】 特開2008−018378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/12
C02F 11/00− 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
し尿を含有する有機性排水の処理方法であって、
(a)し尿を含有する有機性排水を好気性処理する工程、
(b)工程(a)で得られた好気性処理物の少なくとも一部を固液分離する工程、
(c1)工程(b)で得られた汚泥の少なくとも一部を静置又は撹拌処理する工程、
(d)工程(c1)で得られた静置又は撹拌処理物の少なくとも一部をオゾン処理する工程、及び
(e)工程(d)で得られたオゾン処理物を工程(a)に供給する工程
を含み、
前記静置又は撹拌処理が10〜35℃で行われ、
前記有機性排水がトイレ排水を含有し、且つ
前記トイレ排水の含有量が、前記有機性排水100体積%に対して15体積%以上である
処理方法。
【請求項2】
さらに、(c2)工程(b)で得られた汚泥の少なくとも一部を工程(a)に供給する工程を含む、請求項に記載の処理方法。
【請求項3】
前記オゾン処理がオゾンバブル処理である、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記オゾン処理がオゾンナノバブル処理である、請求項1〜のいずれかに記載の処理方法。
【請求項5】
前記好気性処理が活性汚泥処理である、請求項1〜のいずれかに記載の処理方法。
【請求項6】
前記工程(c1)における静置又は撹拌処理対象物が余剰汚泥である、請求項1〜のいずれかに記載の処理方法。
【請求項7】
前記工程(c2)における工程(a)への供給物が返送汚泥である、請求項に記載の処理方法。
【請求項8】
し尿を含有する有機性排水の処理装置であって、
(A)し尿を含有する有機性排水を好気性処理する好気性処理槽、
(B)前記好気性処理槽(A)で得られた処理物の少なくとも一部を固液分離する固液分離手段、
(C1)前記固液分離手段(B)で得られた汚泥の少なくとも一部を静置又は撹拌処理する静置又は撹拌処理槽、
(D)前記静置又は撹拌処理槽(C1)で得られた処理物の少なくとも一部をオゾン処理するオゾン処理槽、及び
(E)前記オゾン処理槽(D)で得られた処理物を前記好気性処理槽(A)へ返送する返送手段
を含み、
前記静置又は撹拌処理が10〜35℃で行われ、
前記有機性排水がトイレ排水を含有し、且つ
前記トイレ排水の含有量が、前記有機性排水100体積%に対して15体積%以上である
処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性排水の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性排水の好気性処理、特に活性汚泥処理においては、増殖した微生物等を含む余剰汚泥が発生し、この処分に大きなコストがかかっている。これまで、余剰汚泥の発生を抑制するための技術が各種開発されており、実用レベルではオゾンを用いた汚泥減容化技術が知られている。
【0003】
特許文献1では、好気性処理により生じた汚泥をオゾン処理し、これにより微生物を死滅及び分解して余剰汚泥の発生を抑制する技術が開示されている。また、特許文献2では、汚泥をオゾンマイクロバブル処理することにより、より効率的に余剰汚泥の発生を抑制できることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−350995号公報
【特許文献2】特開2008−018378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
し尿を含有する有機性排水中には、トイレットペーパー等の紙由来の繊維が多量に含まれている。特に、パーキングエリア、サービスエリア、道の駅等の有機性排水はし尿が占める割合が比較的高く、このため繊維を特に多く含有する。本発明者等は、研究を進める中で、処理対象の有機性排水として、このようなし尿を含有する有機性排水に着目した。
【0006】
しかし、繊維は好気性処理及びオゾン処理では殆ど分解しないため、上記従来技術では、し尿を含有する有機性排水の処理において、余剰汚泥の発生を効率的に抑制することができなかった。
【0007】
そこで、本発明は、し尿を含有する有機性排水の処理において、余剰汚泥の発生をより効率的に抑制し、ひいては外部排出される汚泥の発生を効率的に抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
有機性排水の好気性処理により生じる余剰汚泥は、通常、一旦濃縮槽で自然沈降により濃縮(数十日〜1ヶ月程度)してから処分される。本発明者は、この濃縮槽(例えば余剰汚泥濃縮槽、汚泥貯留槽等)内の反応に着目し、繊維を含む汚泥をこの濃縮槽と同様の条件下で静置した結果、繊維が分解していることを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、好気性処理物の固液分離で得られた汚泥をこの濃縮槽と同様に処理(静置又は撹拌)し、これをオゾン処理した後に再度好気性処理に供することにより、余剰汚泥の発生をより効率的に抑制できることを見出し、本発明が完成した。
【0009】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する:
項1. し尿を含有する有機性排水の処理方法であって、
(a)し尿を含有する有機性排水を好気性処理する工程、
(b)工程(a)で得られた好気性処理物の少なくとも一部を固液分離する工程、
(c1)工程(b)で得られた汚泥の少なくとも一部を静置又は撹拌処理する工程、
(d)工程(c1)で得られた静置又は撹拌処理物の少なくとも一部をオゾン処理する工程、及び
(e)工程(d)で得られたオゾン処理物を工程(a)に供給する工程
を含む、処理方法.
項2. 前記静置又は撹拌処理が10〜35℃で行われる、項1に記載の処理方法. 項3. さらに、(c2)工程(b)で得られた汚泥の少なくとも一部を工程(a)に供給する工程を含む、項1又は2に記載の処理方法.
項4. 前記有機性排水がトイレ排水を含有する、項1〜3のいずれかに記載の処理方法.
項5. 前記トイレ排水の含有量が、前記有機性排水100体積%に対して15体積%以上である、項1〜4のいずれかに記載の処理方法.
項6. 前記オゾン処理がオゾンバブル処理である、項1〜5のいずれかに記載の処理方法.
項7. 前記オゾン処理がオゾンナノバブル処理である、項1〜6のいずれかに記載の処理方法.
項8. 前記好気性処理が活性汚泥処理である、項1〜7のいずれかに記載の処理方法.
項9. 前記工程(c1)における静置又は撹拌処理対象物が余剰汚泥である、項1〜8のいずれかに記載の処理方法.
項10. 前記工程(c2)における工程(a)への供給物が返送汚泥である、項3に記載の処理方法.
項11. し尿を含有する有機性排水の処理装置であって、
(A)し尿を含有する有機性排水を好気性処理する好気性処理槽、
(B)前記好気性処理槽(A)で得られた処理物の少なくとも一部を固液分離する固液分離手段、
(C1)前記固液分離手段(B)で得られた汚泥の少なくとも一部を静置又は撹拌処理する静置又は撹拌処理槽、
(D)前記静置又は撹拌処理槽(C1)で得られた処理物の少なくとも一部をオゾン処理するオゾン処理槽、及び
(E)前記オゾン処理槽(D)で得られた処理物を前記好気性処理槽(A)へ返送する返送手段
を含む、処理装置.
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、し尿を含有する有機性排水の処理において、余剰汚泥の発生をより効率的に抑制し、ひいては外部排出される汚泥の発生を効率的に抑制することができる。また、好気性処理物の固液分離で得られた汚泥の静置又は撹拌処理は、従来の余剰汚泥濃縮槽、汚泥貯留槽等で行うことが可能であり、この場合は既存設備を利用して本発明の排水処理を行うことができるので経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態の概略図である。
図2】繊維の分解試験(実施例1)の結果を示す図である。縦軸は平均繊維長(μm)を示し、横軸は各サンプル汚泥の静置後の経過日数を示す。「濃縮+TP」は、濃縮汚泥の一部とトイレットペーパー(TP)との混合物を示す。
図3】本発明の一実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0013】
1.有機性排水の処理方法
本発明は、その一態様として、工程(a)、(b)、(c1)、(d)、及び(e)を含む、し尿を含有する有機性排水の処理方法に関する(本明細書において、「本発明の処理方法」と示すこともある)。以下、これについて説明する。
【0014】
工程(a)は、し尿を含有する有機性排水を好気性処理する工程である。
【0015】
し尿は、大便及び小便を含む混合物であり、この限りにおいて特に制限されない。し尿には、通常、トイレットペーパー等の紙由来の繊維(特に、セルロース繊維)が含まれている。し尿としては、例えば水洗式トイレの便器からの排水(水洗式トイレ排水)、汲み取り式トイレ(簡易水洗式トイレも含む)のし尿槽の貯留物等のトイレ排水が挙げられ、好ましくは水洗式トイレ排水が挙げられる。
【0016】
有機性排水は、し尿を含有する排水である限りにおいて特に制限されない。有機性排水は、し尿のみからなるものであってもよいが、通常、し尿以外の他の排水を含有する。他の排水としては、例えば厨房排水; 洗面台等からの雑排水; 給油取扱所、自動車修理所等からの事業所排水等が挙げられる。
【0017】
有機性排水がトイレ排水(特に水洗式トイレ排水)を含有する場合、トイレ排水の含有量は、好気性処理対象の有機性排水100体積%に対して、例えば5〜80体積%、好ましくは10〜70積%、より好ましくは15〜60体積%、さらに好ましくは20〜55体積%である。
【0018】
「し尿を含有する有機性排水」の具体例としては、サービスエリア、パーキングエリア、道の駅等の道路に併設された休憩施設からの排水; 生活排水; 郊外に設置された遊園地、動物園、公園、ショッピングセンター、空港、鉄道施設等の郊外型施設等が挙げられる。
【0019】
「し尿を含有する有機性排水」は、異物が含む場合があり、特にこのような場合は、前処理してから好気性処理に供することが好ましい。前処理としては、例えば沈砂処理、異物除去処理、破砕処理等が挙げられる。前処理は、有機性排水において採用される公知の方法に従って又は準じて行うことができる。沈砂処理は、通常、沈砂槽内で行われる。異物除去処理は、例えばスクリーン等の分別処理手段により行うことができる。破砕処理は、例えば破砕機等により行うことができる。これらの前処理により、比較的重い異物の除去や低減、比較的大きな異物の除去や低減が可能となる。
【0020】
「し尿を含有する有機性排水」は、必要に応じて、流量調整槽を経てから、好気性処理に供されてもよい。これにより、好気性処理への投入量を適切に調製することができる。流量調整槽は、沈殿物の発生や腐敗化を防ぐために、撹拌装置を備えることが望ましい。
【0021】
好気性処理は、有機性排水中の有機物を好気性微生物により代謝できる限り特に制限されず、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。好気性処理としては、例えば活性汚泥処理、生物膜処理等が挙げられ、好ましくは活性汚泥処理が挙げられる。
【0022】
好気性処理(特に活性汚泥処理)は、通常、有機性排水に空気などの酸素含有気体を供給する手段(例えば散気装置)を備えた好気性処理槽(ばっ気槽)内で行うことができる。
【0023】
好気性処理における溶存酸素濃度は、例えば1mg/L以上、1〜4mg/Lである。好気性処理は、非加熱下(室温又は大気温下)又は加熱下で行うことができる。好気性処理として活性汚泥処理を行う場合、MLSS(Mixed Liquor Suspended Solids)は、3000〜6000mg/Lの範囲内とすることが好ましい。好気性処理の処理時間は、有機性排水の流入量、活性汚泥の増殖量等に応じて、適宜設定することができる。
【0024】
工程(a)後、好気性処理物の少なくとも一部が以下の工程(b)に供される。
【0025】
工程(b)は、工程(a)で得られた好気性処理物の少なくとも一部を固液分離する工程である。
【0026】
固液分離は、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。固液分離の方法としては、例えば沈殿分離、膜分離、遠心分離等が挙げられ、好ましくは沈殿分離が挙げられる。固液分離により、好気性処理物が、好気性処理により清浄化された液体分と、汚泥とに分けられる。
【0027】
固液分離により分離された液体分は、消毒処理等に供された後、外部に排出することができる。消毒処理は、大腸菌等の細菌を殺菌可能な処理である限り特に制限されず、例えば塩素消毒処理等が挙げられる。
【0028】
固液分離により分離された汚泥のMLSSは、例えば4000〜10000mg/L、好ましくは6000〜10000mg/L、7000〜10000mg/Lである。この汚泥の少なくとも一部(「返送汚泥」と称されることもある)は、工程(a)に供給すること(工程(c2))が好ましい。これにより、好気性処理における微生物量を一定に保つことが可能となる。また、この汚泥の少なくとも一部(「余剰汚泥」と称されることもある)は、以下の工程(c1)に供される。
【0029】
工程(c1)は、工程(b)で得られた汚泥の少なくとも一部を静置又は撹拌処理する工程である。
【0030】
静置又は撹拌処理は、汚泥を静置又は撹拌(好ましくは静置)することによって行われる。これにより、汚泥中の繊維を分解して、前述の好気性処理や後述のオゾン処理により分解され易い形態へと変換し、或いは液体中に溶解させることができる。
【0031】
撹拌は、汚泥濃縮用の撹拌である限り特に制限されない。例えば、余剰汚泥濃縮槽、汚泥貯留槽等で汚泥の濃縮を促進するために行われる撹拌が挙げられ、より具体的には撹拌棒、撹拌軸等による撹拌が挙げられる。
【0032】
静置又は撹拌処理は、加熱下で行ってもよいが、通常、室温下又は大気温下(例えば10〜35℃)で行われる。静置又は撹拌処理の時間は、特に制限されないが、例えば1日間〜3カ月間、2週間〜2ヶ月間程度が挙げられる。
【0033】
限定的な解釈を望むものではないが、静置又は撹拌処理においては、汚泥内で嫌気的条件が作られ、これにより嫌気性微生物の代謝が活性化されて繊維が分解されていると考えられる。このため、静置又は撹拌処理においては、空気などの酸素含有気体の供給を行わないことが望ましい。
【0034】
なお、有機性排水の好気性処理により生じる余剰汚泥は、通常、一旦濃縮槽(例えば余剰汚泥濃縮槽、汚泥貯留槽等)で静置して自然沈降により濃縮(数十日〜1ヶ月程度)してから、或いは撹拌棒、撹拌軸等による濃縮促進条件下で濃縮してから処分されるところ、工程(c1)の静置又は撹拌処理はこれと同様の条件下で実行することができる。このため、工程(c1)は、従来技術の既存設備(例えば余剰汚泥濃縮槽、汚泥貯留槽等)をそのまま利用することが可能である。
【0035】
工程(c1)後、自然沈降した汚泥と、上清の液体分の両方を以下の工程(d)に供することもできるし、自然沈降した汚泥のみを以下の工程(d)に供することもできる。
【0036】
工程(d)に供されない上清の液体分は、消毒処理等に供された後、外部に排出してもよいし、或いは工程(a)に供給されてもよい。
【0037】
工程(d)に供されない汚泥は、そのまま、或いは更なる濃縮後、外部に排出することができる。
【0038】
工程(d)は、工程(c1)で得られた静置又は撹拌処理物の少なくとも一部をオゾン処理する工程である。これにより、静置又は撹拌処理物に含まれる微生物の分解や、工程(c1)による繊維分解物のさらなる分解を行うことができる。
【0039】
オゾン処理は、静置又は撹拌処理物とオゾンとを接触させて酸化分解できる方法である限り特に制限されず、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。オゾン処理は、例えば気体としてオゾンを含む気泡(オゾンバブル)又は該気泡を含む液体を静置又は撹拌処理物と混合すること(オゾンバブル処理)により行うことができる。
【0040】
オゾンバブルの最頻粒子径は、例えば50nm〜50μm、好ましくは50nm〜10μm、より好ましくは50nm〜1μm、さらに好ましくは50nm〜500nm、よりさらに好ましくは50nm〜300nm、よりさらに好ましくは50〜150nmである。静置又は撹拌処理物に含まれるフロックは、通常数10〜数100μmの大きさであり、オゾンバブルが比較的大きいとフロックの内部までオゾンが到達できない。したがって、オゾンバブルの最頻粒子径をより小さくすることにより、オゾン処理による分解効率をより高めることができる。この観点から、オゾン処理は、ナノサイズのオゾンバブル(オゾンナノバブル)を用いたオゾンナノバブル処理であることが好ましい。
【0041】
オゾンバブルは、微小気泡の公知の製造方法に従って又は準じて調製することができる。例えば気液混合せん断方式、スタティックミキサー式、ベンチュリ式、キャビテーション式、蒸気凝縮式、超音波方式、旋回流方式、加圧溶解方式、微細孔方式等の方式によって製造することができる。
【0042】
工程(d)で得られたオゾン処理物の少なくとも一部は、以下の工程(e)に供される。
【0043】
工程(e)は、工程(d)で得られたオゾン処理物を工程(a)に供給する工程である。これにより、工程(c1)による繊維分解物や、これがオゾン処理によりさらに分解された分解物のさらなる分解を行うことができる。
【0044】
供給は、オゾン処理物が最終的に好気性処理に供される限りにおいて特に制限されず、好気性処理槽に直接供給してもよいし、その前段階(例えば流量調整槽)に供給してもよい。
【0045】
斯かる本発明の処理方法によれば、繊維を効率的に分解することができ、余剰汚泥の発生をより効率的に抑制し、ひいては外部排出される汚泥の発生を効率的に抑制することができる。
【0046】
2.有機性排水の処理装置
本発明は、その一態様として、(A)、(B)、(C1)、(D)、及び(E)を含む、し尿を含有する有機性排水の処理装置に関する(本明細書において、「本発明の処理装置」と示すこともある)。以下、これについて説明する。なお、本発明の処理装置の一実施形態の概略図を図1及び図3に示す。
【0047】
以下の説明において、各種供給手段、及び各種排出手段は、従来公知のもの(例えばポンプ、配管等)を用いることができる。各槽や各手段間の供給及び排出は、直接行われてもよいし、流量調整槽、移流ピット、汚泥ピット等の緩衝槽を介して行われてもよい。
【0048】
本発明の装置における各槽及び各手段は、必要に応じて温度調節手段を備えるものであってもよい。
【0049】
(A)は、し尿を含有する有機性排水を好気性処理する好気性処理槽である。
【0050】
好気性処理槽(A)は、工程(a)を実施できるように、空気などの酸素含有気体を供給する手段(例えば散気装置)を備えるものである。また、必要に応じて、好気性処理槽は、槽内を撹拌するための撹拌手段を有していてもよい。
【0051】
本発明の処理装置は、必要に応じて、好気性処理槽(A)よりも上流に、有機性排水の前処理手段(例えば、沈砂槽; スクリーン等の分別処理手段; 破砕機等)を備えていてもよい。
【0052】
好気性処理槽(A)は、槽内に、し尿を含有する有機性排水、返送汚泥、オゾン処理物等を効率的に供給できるように、有機性排水供給手段、返送汚泥供給手段、オゾン処理物供給手段等を備えていることが好ましい。
【0053】
好気性処理槽(A)と固液分離手段(B)が別々の槽である場合、好気性処理槽(A)は、好気性処理物を以下の固液分離手段(B)へ効率的に排出できるように、好気性処理物排出手段を有することが好ましい。
【0054】
好気性処理槽(A)の形状、大きさ等は、特に制限されず、有機性排水の流入量、活性汚泥の増殖量等に応じて、適宜設定することができる。
【0055】
(B)は、前記好気性処理槽(A)で得られた処理物の少なくとも一部を固液分離する固液分離手段である。
【0056】
固液分離は、好気性処理槽(A)とは別の槽で行われるものであってもよいし、同じ槽で行われるものであってもよい。好ましくは、固液分離は、好気性処理槽(A)とは別の槽で行われる。前者の場合、固液分離手段(B)は、固液分離槽(例えば、沈殿槽、遠心分離槽、膜分離槽)として存在し、後者の場合、固液分離手段(B)は、沈殿槽等として機能させるための好気性処理槽(A)そのものであってもよいし、好気性処理槽(A)内に設けられた膜分離装置であってもよい。なお、前者の場合、固液分離手段(B)は、槽内に、好気性処理物をを効率的に供給できるように、好気性処理物供給手段を備えていることが好ましい。
【0057】
固液分離手段又は固液分離手段が配置された槽は、固液分離により得られた汚泥を以下の静置又は撹拌処理槽(C1)へ効率的に排出するための余剰汚泥排出手段、該汚泥を好気性処理槽(A)へ効率的に排出するための返送汚泥排出手段、固液分離により得られた液体分を消毒処理に供して外部排出するための液体分排出手段等を備えていることが好ましい。
【0058】
固液分離手段の形状、大きさ等は、特に制限されず、有機性排水の流入量、活性汚泥の増殖量等に応じて、適宜設定することができる。
【0059】
(C1)は、前記固液分離手段(B)で得られた汚泥の少なくとも一部を静置又は撹拌処理する静置又は撹拌処理槽である。
【0060】
静置又は撹拌処理槽(C1)は汚泥を静置又は撹拌可能な槽である限り特に制限されず、特に何らかの処理を加える手段を備えていなくともよい。撹拌する場合は、汚泥濃縮用の手段(例えば撹拌棒、撹拌軸等)を備えていることが好ましい。槽(C1)としては、従来の余剰汚泥濃縮槽、汚泥貯留槽等を採用することができる。
【0061】
静置又は撹拌処理槽(C1)は、槽内に、前記固液分離手段(B)で得られた汚泥を効率的に供給できるように、余剰汚泥供給手段等を備えていることが好ましい。
【0062】
静置又は撹拌処理槽(C1)は、静置又は撹拌処理物を以下のオゾン処理槽(D)へ効率的に排出するための静置又は撹拌処理物排出手段、静置又は撹拌処理後の上清である液体分を消毒処理に供して外部排出するための液体分排出手段、該液体分を好気性処理槽(A)へ排出するための液体分排出手段等を備えていることが好ましい。
【0063】
静置又は撹拌処理槽の形状、大きさ等は、特に制限されず、有機性排水の流入量、活性汚泥の増殖量等に応じて、適宜設定することができる。
【0064】
(D)は、前記静置又は撹拌処理槽(C1)で得られた処理物の少なくとも一部をオゾン処理するオゾン処理槽である。
【0065】
オゾン処理槽(D)は、工程(d)を実施できるように、オゾン供給手段(好ましくはオゾンバブル又はこれを含む液体の供給手段)を備えるものである。
【0066】
オゾン処理槽(D)は、槽内に、静置又は撹拌処理物を効率的に供給できるように、静置又は撹拌処理物供給手段等を備えていることが好ましい。
【0067】
オゾン処理槽(D)は、オゾン処理物を好気性処理槽(A)へ効率的に排出するためのオゾン処理物排出手段を備えていることが好ましい。
【0068】
オゾン処理槽(D)の形状、大きさ等は、特に制限されず、有機性排水の流入量、活性汚泥の増殖量等に応じて、適宜設定することができる。
【0069】
(E)は、前記オゾン処理槽(D)で得られた処理物を前記好気性処理槽(A)へ返送する返送手段である。
【0070】
返送手段(E)は、有機性排水処理において従来公知のもの(例えばポンプ、配管等)を用いることができる。槽間の供給及び排出は、直接行われてもよいし、流量調整槽等の緩衝槽を介して行われてもよい。
【0071】
返送手段(E)は、オゾン処理槽(D)が備えるオゾン処理物排出手段と、好気性処理槽(A)が備えるオゾン処理物供給手段とが一体となったものであることが好ましい。
【0072】
斯かる本発明の処理装置によれば、本発明の処理方法を効率的に実施することができ、これにより余剰汚泥の発生をより効率的に抑制し、ひいては外部排出される汚泥の発生を効率的に抑制することができる。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0074】
実施例1.繊維の分解試験
奥屋パーキングエリアに設置されている浄化槽の曝気槽から汚泥を採取し、これを沈降濃縮して濃縮汚泥を得た。濃縮汚泥のMLSS(Mixed Liquor Suspended Solids)を下水試験法により測定したところ、8300mg/Lであった。濃縮汚泥の一部とトイレットペーパー(TP)を、濃縮汚泥1Lに対してTP10gの割合で混合し、濃縮汚泥−TP混合物を得た。
【0075】
上記で得られた濃縮汚泥及び濃縮汚泥−TP混合物それぞれ1Lを、1L容量のポリプロピレン製容器に密閉することにより余剰汚泥濃縮槽、汚泥貯留槽等の濃縮槽(非曝気型)と同様の条件下に置いて、室温(約25℃)にて静置した。静置開始から1日、7日、14日、21日、及び28日経過後に、汚泥の一部を採取し、汚泥に含まれる繊維の長さを測定して、測定値に基づいて平均繊維長を算出した。なお、繊維長は、顕微鏡下で汚泥の写真を撮り、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて、曲がっている繊維については画像上でまっすぐに伸ばして測定した。結果を図2に示す。
【0076】
図2に示されるように、濃縮汚泥、濃縮汚泥−TP混合物共に、余剰汚泥濃縮槽、汚泥貯留槽等の濃縮槽(非曝気型)と同様の条件下での静置により、平均繊維長が減少した。減少分は、繊維を構成するモノマーやオリゴマー等の、好気性処理やオゾン処理により分解され易い物質へと変換され、或いは液体中に溶解したものと考えられる。
図1
図2
図3