特許第6978058号(P6978058)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6978058
(24)【登録日】2021年11月15日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】褥瘡発生予測マーカー及びその使用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20211125BHJP
   C12Q 1/6883 20180101ALI20211125BHJP
【FI】
   G01N33/53 D
   C12Q1/6883 Z
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-561183(P2017-561183)
(86)(22)【出願日】2017年1月13日
(86)【国際出願番号】JP2017001020
(87)【国際公開番号】WO2017122780
(87)【国際公開日】20170720
【審査請求日】2019年12月27日
(31)【優先権主張番号】62/278,454
(32)【優先日】2016年1月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】真田 弘美
(72)【発明者】
【氏名】仲上 豪二朗
(72)【発明者】
【氏名】峰松 健夫
【審査官】 西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】 KANEKO, M. et al.,Compression-induced HIF-1 enhances thrombosis and PAI-1 expression in mouse skin,Wound Repair and Regeneration,米国,The Wound Healing Society,2015年09月,Vol.23/No.5,pp.657-663
【文献】 SISCO, M. et al.,Reduced up-regulation of cytoprotective genes in rat cutaneous tissue during the second cycle of isc,Wound Repair and Regeneration,米国,The Wound Healing Society,2007年03月,Vol.15/No.2,pp203-212
【文献】 堀紀子 他,スキンブロッティング法を用いた体圧分散マットレスの褥瘡予防効果の評価,日本褥瘡学会誌,日本,日本褥瘡学会,2014年08月,16巻/3号,pp.361
【文献】 KONYA, C. et al.,Change of cytokine in pressure ulcer with undermining,金沢大学つるま保健学会誌,日本,2004年12月,Vol.28/No.1,pp.25-30
【文献】 黒瀬智之 他,ラット褥瘡実験モデルによる発現遺伝子の解析,解剖学雑誌,日本,日本解剖学会,2008年03月,第113回総会・全国学術集会抄録号,pp.224,P2-101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Interleukin(IL)−1αタンパク質、Vascular endothelial growth factor(VEGF)−Cタンパク質及びPlasminogen activator inhibitor(PAI)−1タンパク質からなる群より選択され、患者の対象領域の皮膚組織切片の免疫染色で検出した発現量が、対照と比較して増加したことが、前記対象領域に褥瘡が発生することを示す、褥瘡発生予測マーカー。
【請求項2】
IL−1αタンパク質又はVEGF−Cタンパク質からなり、患者の対象領域のスキンブロッティング試料の免疫染色で検出した発現量が、対照と比較して増加したことが、前記対象領域に褥瘡が発生することを示す、褥瘡発生予測用マーカー。
【請求項3】
L−1αタンパク質、VEGF−Cタンパク質又はPAI−1タンパク質に対する特異的結合物質を備え、患者の対象領域の皮膚組織切片の免疫染色により、IL−1αタンパク質、VEGF−Cタンパク質又はPAI−1タンパク質の発現を検出するように用いられ、検出された前記タンパク質の発現量が、対照と比較して増加したことが、前記対象領域に褥瘡が発生することを示す、褥瘡発生予測キット。
【請求項4】
IL−1αタンパク質又はVEGF−Cタンパク質に対する特異的結合物質を備え、患者の対象領域のスキンブロッティング試料の免疫染色により、IL−1αタンパク質又はVEGF−Cタンパク質の発現を検出するように用いられ、検出された前記タンパク質の発現量が、対照と比較して増加したことが、前記対象領域に褥瘡が発生することを示す、褥瘡発生予測用キット。
【請求項5】
患者の対象領域の皮膚組織切片の免疫染色により、IL−1αタンパク質、VEGF−Cタンパク質又はPAI−1タンパク質の発現量を測定する工程を備え、検出された前記タンパク質の発現量が、対照と比較して増加したことが、前記対象領域に褥瘡が発生することを示す、褥瘡発生予測方法。
【請求項6】
患者の対象領域のスキンブロッティング試料の免疫染色により、IL−1αタンパク質又はVEGF−Cタンパク質の発現量を測定する工程を備え、検出された前記タンパク質の発現量が、対照と比較して増加したことが、前記対象領域に褥瘡が発生することを示す、褥瘡発生予測方法。
【請求項7】
患者の対象領域のスキンブロッティング試料の免疫染色により、HSP90αタンパク質の発現量を測定する工程を更に備え、前記IL−1αタンパク質又は前記VEGF−Cタンパク質の発現量が、対照と比較して増加し、前記対象領域に発赤が認められ、且つHSP90αタンパク質の発現量が対照と同等であることが、前記対象領域に褥瘡が発生することを示す、請求項に記載の褥瘡発生予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、褥瘡発生予測マーカー及びその使用に関する。より具体的には、褥瘡発生予測マーカー、褥瘡発生予測キット、褥瘡発生予測方法、褥瘡モデル非ヒト動物の製造方法に関する。本願は、2016年1月14日に、米国に仮出願されたUS62/278,454に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
褥瘡は、高齢の患者の生命を脅かすことが特に懸念される疾患であるが、その発症を完全に防止することはできていない(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
褥瘡は、阻血性障害、再灌流傷害、リンパ系機能障害及び機械的変形の4つの経路により形成されることが知られている。また、褥瘡の重症度は一般的に「深さ(深達度)」によって分類される。代表的な分類法は、米国褥瘡諮問委員会:National Pressure Ulcer Advisory Panel(NPUAP)が提唱するものである。この分類法によれば、褥瘡の重症度は、カテゴリーI(消退しない発赤)、カテゴリーII(部分欠損)、カテゴリーIII(全層皮膚欠損)、カテゴリーIV(骨、腱、筋肉の露出を伴う全層組織欠損)に分類されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Allman, R. M., Pressure ulcers among the elderly, N. Engl. J. Med., 320 (13), 850-853, 1989.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
褥瘡の発生を予測することができれば、適切な処置を行って褥瘡の発生を予防することができると考えられる。褥瘡の発生を予測するためには、圧力の印加に対する組織の応答を分子レベルで直接検出することが必要である。しかしながら、現在、褥瘡の発生を予測することができる有効なマーカーは知られていない。そこで、本発明は、褥瘡の発生を予測する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を含む。
[1]Interleukin(IL)−1α、Vascular endothelial growth factor(VEGF)−C、Plasminogen activator inhibitor(PAI)−1及びHeat shock protein(HSP)90αからなる群より選択される、褥瘡発生予測マーカー。
[2]IL−1α、VEGF−C、PAI−1又はHSP90αのcDNAを増幅するためのプライマーセット、IL−1α、VEGF−C、PAI−1又はHSP90αのmRNAに特異的にハイブリダイズするプローブ、又はIL−1αタンパク質、VEGF−Cタンパク質、PAI−1タンパク質又はHSP90αタンパク質に対する特異的結合物質、を備える、褥瘡発生予測キット。
[3]患者の対象領域に由来する試料中の、IL−1α、VEGF−C、PAI−1又はHSP90αの発現量を測定する工程を備える、褥瘡発生予測方法。
[4]前記試料が、水、生理食塩水又は緩衝液で湿らせた、極性を有するメンブレンを、患者の対象領域の皮膚に貼付し、所定時間放置後に回収したメンブレン試料であり、IL−1α、VEGF−C、PAI−1又はHSP90αの発現量を測定する前記工程が、前記メンブレン試料中の、IL−1αタンパク質、VEGF−Cタンパク質、PAI−1タンパク質又はHSP90αタンパク質の存在量を測定する工程である、[3]に記載の褥瘡発生予測方法。
[5]IL−1α、VEGF−C又はPAI−1の発現量が対照と比較して増加していた場合に、前記対象領域に褥瘡が発生すると予測する工程を更に備える、[3]又は[4]に記載の褥瘡発生予測方法。
[6]前記対象領域に発赤が認められ、且つHSP90αの発現量が対照と同等である場合に、前記対象領域に褥瘡が発生すると予測する工程を更に備える、[3]又は[4]に記載の褥瘡発生予測方法。
[7]患者由来の血液試料中の、PAI−1タンパク質の存在量を測定する工程と、PAI−1タンパク質の存在量が対照と比較して増加していた場合に、前記患者は褥瘡を発生すると予測する工程と、を備える、褥瘡発生予測方法。
[8]非ヒト動物の皮膚をつまみ、133.322kPaの圧力を6時間印加する工程を含む、褥瘡モデル非ヒト動物の製造方法。
[9]前記非ヒト動物がマウスであり、前記皮膚が背部皮膚である、[8]に記載の褥瘡モデル非ヒト動物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、褥瘡の発生を予測する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実験例1において、マウスに圧力を印加している様子を示す写真である。
図2】実験例2において、各群のマウスの皮膚を肉眼で観察した結果を示す代表的な写真である。
図3】(a)〜(f)は、実験例3における各群のマウスの皮膚組織の組織学的な解析結果を示す代表的な写真である。
図4】実験例4において、HIF−1αタンパク質の発現を免疫染色により検出した代表的な結果を示す写真である。
図5】実験例4において、8−OHdGを免疫染色により検出した代表的な結果を示す写真である。
図6】実験例4において、LYVE−1タンパク質を免疫染色により検出した代表的な結果を示す写真である。
図7】実験例4において、組織切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色した代表的な結果を示す写真である。
図8】実験例5において、PAI−1タンパク質の発現を検出した代表的な結果を示す写真である。
図9】実験例5において、IL−1αタンパク質の発現を検出した代表的な結果を示す写真である。
図10】実験例5において、VEGF−Cタンパク質の発現を検出した代表的な結果を示す写真である。
図11】実験例5において、HSP90αタンパク質の発現を検出した代表的な結果を示す写真である。
図12】実験例6において、PAI−1タンパク質の発現を検討した結果を示すグラフである。
図13】実験例6において、IL−1αタンパク質の発現を検討した結果を示すグラフである。
図14】実験例6において、VEGF−Cタンパク質の発現を検討した結果を示すグラフである。
図15】実験例6において、HSP90αタンパク質の発現を検討した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[褥瘡発生予測マーカー]
1実施形態において、本発明は、IL−1α、VEGF−C、PAI−1及びHSP90αからなる群より選択される、褥瘡発生予測マーカーを提供する。
【0010】
実施例において後述するように、発明者らは、IL−1α、VEGF−C、PAI−1の発現量の増加が、褥瘡の発生と関連することを明らかにした。また、発明者らは、HSP90αの発現量が対照と同等であり、皮膚に発赤が認められる場合においても褥瘡の発生を予測することができることを明らかにした。
【0011】
したがって、IL−1α、VEGF−C、PAI−1又はHSP90αは、褥瘡発生予測マーカーであるということができる。本実施形態の褥瘡発生予測マーカーは、タンパク質レベルで検出してもよいし、遺伝子レベルで検出してもよい。
【0012】
本実施形態の褥瘡発生予測マーカーにより、従来予測することが困難であった褥瘡の発生を、正確に予測することが可能になる。
【0013】
実施例において後述するように、特に、スキンブロッティングによりタンパク質レベルでこれらの褥瘡発生予測マーカーを検出することにより、非侵襲的に褥瘡の発生を予測することができる。
【0014】
なお、スキンブロッティングとは、ニトロセルロース膜、PVDF膜等の膜(メンブレン)を皮膚に所定時間貼付後回収し、回収された膜に捕捉されたタンパク質を免疫染色等により解析する方法である。所定時間としては、特に限定されず、例えば、1分間〜24時間が挙げられる。スキンブロッティングによれば、非侵襲的にタンパク質の発現及び分泌を検出することができる。
【0015】
[褥瘡発生予測キット]
1実施形態において、本発明は、IL−1α、VEGF−C、PAI−1又はHSP90αのcDNAを増幅するためのプライマーセット、IL−1α、VEGF−C、PAI−1又はHSP90αのmRNAに特異的にハイブリダイズするプローブ、又はIL−1αタンパク質、VEGF−Cタンパク質、PAI−1タンパク質又はHSP90αタンパク質に対する特異的結合物質、を備える、褥瘡発生予測キットを提供する。
【0016】
本実施形態のキットにより、IL−1α、VEGF−C、PAI−1又はHSP90αの発現をタンパク質レベル又は遺伝子レベルで検出し、褥瘡の発生を予測することができる。
【0017】
(プライマーセット)
プライマーセットとしては、IL−1α、VEGF−C、PAI−1又はHSP90α遺伝子のcDNAを増幅することができるものであれば特に限定されない。ヒトIL−1α遺伝子のRefSeq IDはNM_000575であり、マウスIL−1α遺伝子のRefSeq IDはNM_010554である。また、ヒトVEGF−C遺伝子のRefSeq IDはNM_005429であり、マウスVEGF−C遺伝子のRefSeq IDはNM_009506である。また、ヒトPAI−1遺伝子のRefSeq IDはNM_000602であり、マウスPAI−1遺伝子のRefSeq IDはNM_008871である。また、ヒトHSP90α遺伝子のRefSeq IDはNM_001017963であり、マウスHSP90α遺伝子のRefSeq IDはNM_010480である。
【0018】
(プローブ)
プローブとしては、IL−1α、VEGF−C、PAI−1又はHSP90α遺伝子のmRNAに特異的にハイブリダイズするものであれば特に限定されない。プローブは、担体上に固定されてDNAマイクロアレイ等を構成していてもよい。
【0019】
(特異的結合物質)
特異的結合物質としては、例えば、抗体、抗体断片、アプタマー等が挙げられる。抗体は、例えば、マウス等の動物に対象タンパク質又はその部分ペプチドを抗原として免疫することにより作製してもよい。あるいは、ファージライブラリー等の抗体ライブラリーのスクリーニング等により作製することもできる。また、抗体断片としては、Fv、Fab、scFv等が挙げられる。上記の抗体又は抗体断片は、ポリクローナルであってもよく、モノクローナルであってもよい。
【0020】
アプタマーとは、標識物質に対する特異的結合能を有する物質である。アプタマーとしては、核酸アプタマー、ペプチドアプタマー等が挙げられる。対象タンパク質に特異的結合能を有する核酸アプタマーは、例えば、systematic evolution of ligand by exponential enrichment(SELEX)法等により選別することができる。また、対象タンパク質に対する特異的結合能を有するペプチドアプタマーは、例えば酵母を用いたTwo−hybrid法等により選別することができる。
【0021】
特異的結合物質は、対象タンパク質に特異的に結合することができれば特に制限されず、市販のものであってもよい。また、特異的結合物質は、担体上に固定されてプロテインチップ等を構成していてもよい。
【0022】
[褥瘡発生予測方法]
1実施形態において、本発明は、患者の対象領域に由来する試料中の、IL−1α、VEGF−C、PAI−1又はHSP90αの発現量を測定する工程を備える、褥瘡発生予測方法を提供する。
【0023】
本実施形態の褥瘡発生予測方法において、患者としては、褥瘡の発症が疑われる患者が挙げられる。また、対象領域としては、褥瘡の発症が疑われる皮膚の領域が挙げられる。また、試料としては、生検組織、血液、スキンブロッティングにより回収した試料等が挙げられる。
【0024】
IL−1α、VEGF−C、PAI−1又はHSP90αの発現量の測定は、mRNAレベルで行ってもよく、タンパク質レベルで行ってもよい。
【0025】
IL−1α、VEGF−C、PAI−1又はHSP90αの発現量をmRNAレベルで検出する場合、例えば、生検試料、血液等の生体試料から抽出した全RNA又はmRNAをサンプルとしたRT−PCR等を行うことにより、上記のマーカー遺伝子の発現を検出することができる。遺伝子の発現の検出は、例えば定性的なPCRにより行ってもよいし、例えばリアルタイム定量PCR等の定量性のある遺伝子増幅法により行ってもよいし、LAMP法等の定温で反応が進行する遺伝子増幅法等により行ってもよい。あるいは、例えばDNAマイクロアレイ等を用いてマーカー遺伝子の発現を検出してもよい。
【0026】
タンパク質レベルでマーカー遺伝子の発現を検出する場合には、例えば、生検組織、血液、スキンブロッティングにより回収した試料等をサンプルとした、免疫染色、イムノブロッティング、ELISA等により、マーカータンパク質の存在を検出すればよい。
【0027】
本実施形態の褥瘡発生予測方法において、試料が、水、生理食塩水又は緩衝液で湿らせた、極性を有するメンブレンを、患者の対象領域の皮膚に貼付し、所定時間放置後に回収したメンブレン試料であり、IL−1α、VEGF−C、PAI−1又はHSP90αの発現量を測定する工程が、メンブレン試料中の、IL−1αタンパク質、VEGF−Cタンパク質、PAI−1タンパク質又はHSP90αタンパク質の存在量を測定する工程であってもよい。
【0028】
すなわち、本実施形態の褥瘡発生予測方法はスキンブロッティングにより好適に行うことができる。これにより、非侵襲的に褥瘡発生を予測することができる。
【0029】
ここで、極性を有するメンブレンとしては、例えば、ニトロセルロース膜、PVDF膜等が挙げられる。また、所定時間としては、特に限定されず、例えば、1分間〜24時間が挙げられる。
【0030】
本実施形態の褥瘡発生予測方法においては、IL−1α、VEGF−C又はPAI−1の発現量が対照と比較して増加していた場合に、前記対象領域に褥瘡が発生すると予測してもよい。ここで、対照としては、同一患者由来の、褥瘡が発生しないことが明らかな領域から採取した試料、褥瘡を有しない健常人由来の試料等を用いることができる。
【0031】
あるいは、本実施形態の褥瘡発生予測方法において、患者の対象領域に発赤が認められ、且つHSP90αの発現量が対照と同等である場合に、対象領域に褥瘡が発生すると予測してもよい。ここで、対照としては、同一患者由来の、褥瘡が発生しないことが明らかな領域から採取した試料、褥瘡を有しない健常人由来の試料等を用いることができる。
【0032】
あるいは、本実施形態の褥瘡発生予測方法は、患者由来の血液試料中の、PAI−1タンパク質の存在量を測定する工程と、PAI−1タンパク質の存在量が対照と比較して増加していた場合に、前記患者は褥瘡を発生すると予測する工程と、を備えるものであってもよい。ここで、対照としては、褥瘡発生前の同一患者由来の血液試料、褥瘡を有しない健常人由来の血液試料等を用いることができる。
【0033】
組織から分泌されたPAI−1タンパク質は血液中に流入しやすいため、血液中のPAI−1タンパク質を測定することにより、褥瘡の発生を予測することができる。
【0034】
[褥瘡モデル非ヒト動物の製造方法]
1実施形態において、本発明は、非ヒト動物の皮膚をつまみ、133.322kPaの圧力を6時間印加する工程を含む、褥瘡モデル非ヒト動物の製造方法を提供する。非ヒト動物としては、特に限定されず、例えば、ネコ、イヌ、ウマ、サル、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウサギ、ハムスター、モルモット、ラット、マウス等が挙げられる。
【0035】
本実施形態の製造方法において、例えば、非ヒト動物がマウスであり、圧力を印加する皮膚が背部皮膚であってもよい。
【0036】
実施例において後述するように、本実施形態の製造方法により得られた褥瘡モデル非ヒト動物は、肉眼による皮膚の観察、組織学的解析、免疫組織化学的解析の結果、カテゴリーIの褥瘡動物モデルとして妥当であることが確認されている。この褥瘡モデル非ヒト動物は容易に作製することができるため、褥瘡の発生機序の解析、褥瘡の予防法又は治療法の開発に好適に用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実験例1]
(褥瘡動物モデルの作製)
9週齢のICRマウス(SLCジャパン)を用いて、カテゴリーIの褥瘡動物モデルを作製した。実験は東京大学動物実験委員会によって承認されたプロトコールにしたがって行った。
【0039】
まず、マウスを1週間飼育して馴化させた。続いて、麻酔下で除毛クリームを使用して背部の毛を除去した。これにより、毛包が皮下まで伸びている領域の毛の成長期を誘導させた。毛の成長期には、より深い皮膚の層から分泌されたタンパク質が、経毛包経路を通じて表皮に移動するため、スキンブロッティングで捕捉することができる。
【0040】
続いて、毛の除去によって生じ得る炎症の影響を排除するために、実験開始まで1週間飼育して回復させた。続いて、麻酔下で背部の皮膚を剃り、圧力印加装置を使用して133.322kPa(1000mmHg)の圧力を印加した。図1は、圧力を印加している様子を示す写真である。
【0041】
6時間圧力を印加したマウスの群、1時間圧力を印加したマウスの群を作製した。また、圧力を印加しなかったマウスを対照群とした。
【0042】
[実験例2]
(褥瘡動物モデルの肉眼による評価)
各群のマウスについて、マウスへの圧力の印加の前、圧力の印加が終了した直後、30分、60分、90分、120分、24時間及び48時間後に、発赤又は紫斑の肉眼による評価を行った。
【0043】
図2は、各群のマウスの皮膚を肉眼で観察した結果を示す代表的な写真である。マウスへの圧力の印加の前、圧力の印加が終了した直後、30分、60分、90分、120分、24時間及び48時間後の結果を示す。スケールバーは5mmを示す。6時間圧力を印加したマウスの群はn=6であり、それ以外の群はn=5であった。
【0044】
その結果、1時間圧力を印加したマウスの群では、圧力の印加が終了した直後から60分後までの間、発赤が観察された。一方、6時間圧力を印加したマウスの群では、圧力の印加が終了した直後から少なくとも120分後までの間、発赤が観察された。更に、圧力の印加が終了してから48時間後に、褥瘡様の紫斑が認められた。
【0045】
以上の結果は、1時間圧力を印加したマウスが消退可能な発赤動物モデルとして妥当であることを示す。また、6時間圧力を印加したマウスがカテゴリーIの褥瘡動物モデルとして妥当であることを示す。
【0046】
[実験例3]
(褥瘡動物モデルの組織学的な解析)
マウスへの圧力の印加が終了した60分後及び48時間後に皮膚組織を採取し、組織の損傷を評価するための組織学的な解析を行った。
【0047】
まず、採取した皮膚組織を4℃で一晩4%パラホルムアルデヒド溶液中で固定した。続いて、エタノール及びキシレンを用いて脱水し、パラフィン包埋した。続いて、厚さ3.5μmの組織切片を作製し、ヘマトキシリン及びエオシン染色した。
【0048】
図3(a)〜(f)は各群のマウスの皮膚組織の組織学的な解析結果を示す代表的な写真である。図3(a)及び(b)は対照群のマウスの結果である。図3(a)は対照群以外の群のマウスへの圧力の印加が終了してから60分後に採取した皮膚組織の結果を示す。図3(b)は対照群以外の群のマウスへの圧力の印加が終了してから48時間後に採取した皮膚組織の結果を示す。図3(a)及び(b)中、(1)の領域の拡大写真を(1’)に示し、(2)の領域の拡大写真を(2’)に示す。スケールバーは200μmを示す。
【0049】
図3(c)及び(d)は1時間圧力を印加したマウスの群の結果である。図3(c)はマウスへの圧力の印加が終了してから60分後に採取した皮膚組織の結果を示す。図3(d)はマウスへの圧力の印加が終了してから48時間後に採取した皮膚組織の結果を示す。図3(c)及び(d)中、(1)の領域の拡大写真を(1’)に示し、(2)の領域の拡大写真を(2’)に示す。スケールバーは200μmを示す。黒矢印は血栓様の赤血球の凝集を示す。
【0050】
図3(e)及び(f)は6時間圧力を印加したマウスの群の結果である。図3(e)はマウスへの圧力の印加が終了してから60分後に採取した皮膚組織の結果を示す。図3(f)はマウスへの圧力の印加が終了してから48時間後に採取した皮膚組織の結果を示す。図3(e)及び(f)中、(1)の領域の拡大写真を(1’)に示し、(2)の領域の拡大写真を(2’)に示す。スケールバーは200μmを示す。黒矢印は血栓様の赤血球の凝集を示す。白矢印は炎症により壊死した細胞の破片に浸潤した炎症細胞を示す。灰色の矢印は出血を示す。
【0051】
その結果、図3(a)及び(b)に示すように、対照群のマウスの組織切片は正常な組織構造を示していた。また、図3(e)及び(f)に示すように、6時間圧力を印加したマウスの群の組織切片は、1時間圧力を印加したマウスの群の組織切片で認められた症状に加えて、炎症細胞の高頻度の浸潤が認められた。更に、マウスへの圧力の印加が終了してから48時間後には、炎症により壊死した細胞の破片及び出血が認められた。
【0052】
以上の結果は、1時間圧力を印加したマウスが消退可能な発赤の動物モデルとして妥当であり、6時間圧力を印加したマウスがカテゴリーIの褥瘡の動物モデルとして妥当であることを更に支持するものである。
【0053】
[実験例4]
(褥瘡動物モデルの免疫組織化学的な解析)
作製したカテゴリーIの褥瘡動物モデルが、褥瘡の形成に関連する、阻血性障害、再灌流傷害、リンパ系機能障害及び機械的変形の4つの経路による組織の損傷を有しているか否かを検討するために、免疫組織化学的解析を行った。試料としては、実験例3と同様にして作製した各群のマウスの組織切片を用いた。
【0054】
具体的には、阻血性障害が生じたか否かを検討するために、hypoxia inducible factor(HIF)−1αタンパク質を検出した。また、再灌流傷害が生じたか否かを検討するために、8−hydroxy−2’−deoxyguanosine(8−OHdG)を検出した。また、リンパ系機能障害が生じたか否かを検討するために、lymphatic vessel endothelial hyaluronan receptor(LYVE)−1タンパク質を検出した。また、線維芽細胞の形態の変化を観察することにより、細胞の機械的変形を評価した。
【0055】
圧力が印加された組織で阻血性障害が生じた場合、低酸素状態が誘導され、HIF−1αの発現上昇及びそれに続く活性化されたHIF−1αタンパク質の核への移動が生じる。そこで、HIF−1αを阻血性障害のマーカーに用いた。
【0056】
また、発明者らの以前の検討において、虚血状態を形成したマウスと比較して、虚血及び再灌流傷害を形成したマウスでは、8−OHdGの上昇が認められた。そこで、本実験例においても再灌流障害が生じた指標として8−OHdGを使用した。
【0057】
また、発明者らの以前の検討において、圧力を印加したマウスの皮膚ではLYVE−1陽性のリンパ管の減少及びリンパ排液の障害が認められた。そこで、本実験例においてもリンパ系機能障害の指標としてLYVE−1タンパク質を使用した。
【0058】
8−OHdG以外の免疫染色においては、組織切片を0.3%過酸化水素水/20%メタノール溶液中で30分間静置することにより、組織切片中の内在性のペルオキシダーゼ活性を消失させた。
【0059】
また、HIF−1α染色においては、各組織切片を10mMクエン酸ナトリウム溶液中、100℃で20分間煮沸することにより抗原を賦活化した。
【0060】
LYVE−1染色においては、0.05%Tween20(pH6.0)を添加した10mMクエン酸ナトリウム溶液中で、100℃で20分間煮沸することが必要であった。
【0061】
また、8−OHdG染色においては、10mMクエン酸ナトリウム溶液(pH6.0)中で121℃、15分間オートクレーブすることが必要であった。
【0062】
免疫染色に用いた1次抗体は次の通りであった。抗HIF−1α抗体(1:100希釈、Novus Biologicals社)、抗8−OHdG抗体(1:100希釈、JaICA社)、抗LYVE−1抗体(1:100希釈、ReliaTech社)。
【0063】
また、HIF−1α及び8−OHdG染色における2次抗体には、ビオチン標識抗ウサギIgG抗体(1:1000希釈、Jackson Immuno Research社)を使用した。
【0064】
また、LYVE−1染色における2次抗体には、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG抗体(1:1000希釈、Jackson Immuno Research社)を使用した。
【0065】
《HIF−1αタンパク質の発現の検討》
まず、阻血性障害を評価するためにHIF−1αタンパク質の発現を検討した。図4はHIF−1αタンパク質の発現を免疫染色により検出した代表的な結果を示す写真である。図4中、黒矢印は、HIF−1α陽性の細胞を示す。また、白矢印はHIF−1αタンパク質の核への移行を示す。
【0066】
その結果、対照群のマウスの組織では、HIF−1α陽性の細胞はほとんど観察されなかった。これに対し、1時間圧力を印加したマウスの群及び6時間圧力を印加したマウスの群の組織では、マウスへの圧力の印加が終了してから60分後に、皮下脂肪及び筋組織の細胞質中にHIF−1αタンパク質が検出された。また、6時間圧力を印加したマウスの群の組織では、マウスへの圧力の印加が終了してから48時間後に、HIF−1αタンパク質の核への移行が観察された。
【0067】
《8−OHdGの存在の検討》
続いて、再灌流障害を評価するために8−OHdGの存在を検出した。図5は8−OHdGを免疫染色により検出した代表的な結果を示す写真である。図5中、黒矢印は、8−OHdG陽性の細胞を示す。
【0068】
その結果、対照群のマウスの組織では、8−OHdG陽性の細胞はほとんど観察されなかった。これに対し、1時間圧力を印加したマウスの群及び6時間圧力を印加したマウスの群の組織では、マウスへの圧力の印加が終了してから60分後に、8−OHdGが豊富に存在する線維芽細胞が観察された。
【0069】
更に、6時間圧力を印加したマウスの群の組織では、マウスへの圧力の印加が終了してから48時間後においても、表皮組織及び脂肪組織において8−OHdG陽性の細胞が観察された。
【0070】
《LYVE−1タンパク質の発現の検討》
続いて、リンパ系機能障害を評価するためにLYVE−1タンパク質を染色した。図6はLYVE−1タンパク質を免疫染色により検出した代表的な結果を示す写真である。図6中、黒矢印は、LYVE−1タンパク質の存在を示す。
【0071】
その結果、対照群のマウスの組織では、真皮上層にLYVE−1陽性の管が観察された。これに対し、1時間圧力を印加したマウスの群の組織では、マウスへの圧力の印加が終了してから60分後に、リンパ管の拡張が頻繁に観察された。しかしながら、マウスへの圧力の印加が終了してから48時間後には、リンパ管の拡張は対照群のマウスにおけるものと同程度となった。
【0072】
一方、6時間圧力を印加したマウスの群の組織では、マウスへの圧力の印加が終了してから60分後にはLYVE−1陽性の管がほとんど観察されなかった。しかしながら、マウスへの圧力の印加が終了してから48時間後には、リンパ管の拡張が明確に観察された。
【0073】
続いて、線維芽細胞の形態の変化を観察することにより、細胞の機械的変形を評価した。図7は、組織切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色した代表的な結果を示す写真である。図7中、灰色の矢印は膨張した線維芽細胞を示す。
【0074】
その結果、対照群のマウスの組織では、ほとんど全ての線維芽細胞が典型的な紡錘状の形状をしていた。これに対し、1時間圧力を印加したマウスの群の組織では線維芽細胞の膨張が認められ、6時間圧力を印加したマウスの群の組織では線維芽細胞の膨張が更に高頻度に観察された。
【0075】
以上の結果は、1時間圧力を印加したマウスが消退可能な発赤の動物モデルとして妥当であり、6時間圧力を印加したマウスがカテゴリーIの褥瘡の動物モデルとして妥当であることを更に支持するものである。
【0076】
[実験例5]
(褥瘡動物モデルにおける褥瘡発生予測マーカーの発現の免疫組織化学的な解析)
続いて、発明者らは、実験例3と同様にして作製した各群のマウスの組織切片を用いて、褥瘡発生予測マーカーの発現を免疫染色により検討した。褥瘡発生予測マーカーとして、PAI−1、IL−1α、VEGF−C及びHSP90αタンパク質の発現を検討した。
【0077】
まず、各組織切片を0.3%過酸化水素水/20%メタノール溶液中で30分間静置することにより、組織切片中の内在性のペルオキシダーゼ活性を消失させた。
【0078】
PAI−1及びIL−1α染色においては、各組織切片を10mMクエン酸ナトリウム溶液中、100℃で20分間煮沸することにより抗原を賦活化した。
【0079】
また、VEGF−C及びHSP90α染色においては、10mMクエン酸ナトリウム溶液(pH6.0)中で121℃、15分間オートクレーブすることが必要であった。
【0080】
免疫染色に用いた1次抗体は次の通りであった。抗PAI−1抗体(1:100希釈、Novus Biologicals社)、抗IL−1α抗体(1:200希釈、ProteinTech Group社)、抗VEGF−C抗体(1:100希釈、サンタクルーズ社)及び抗HSP90α抗体(1:200希釈、Lab Vision社)。
【0081】
また、VEGF−C染色における2次抗体には、ビオチン標識抗ウサギIgG抗体(1:1000希釈、Jackson Immuno Research社)を使用した。
【0082】
また、PAI−1、IL−1α及びHSP90α染色における2次抗体には、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG抗体(1:1000希釈、Jackson Immuno Research社)を使用した。
【0083】
《PAI−1タンパク質の発現の検討》
図8はPAI−1タンパク質の発現を検出した代表的な結果を示す写真である。図8中、黒矢印は、PAI−1陽性の細胞を示す。
【0084】
その結果、6時間圧力を印加したマウスの群の組織において、マウスへの圧力の印加が終了してから48時間後に、炎症により壊死した細胞の破片に浸潤した炎症細胞中にPAI−1タンパク質の強い発現が認められた。
【0085】
PAI−1タンパク質の発現は、1時間圧力を印加したマウスの群及び6時間圧力を印加したマウスの群の組織切片において、炎症細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞等の様々な種類の細胞に認められた。
【0086】
《IL−1αタンパク質の発現の検討》
図9はIL−1αタンパク質の発現を検出した代表的な結果を示す写真である。図9中、黒矢印は、IL−1α陽性の細胞を示す。
【0087】
その結果、6時間圧力を印加したマウスの群の組織において、マウスへの圧力の印加が終了してから48時間後に、炎症により壊死した細胞の破片に浸潤した炎症細胞中にIL−1αタンパク質の強い発現が認められた。
【0088】
IL−1αの発現は、1時間圧力を印加したマウスの群及び6時間圧力を印加したマウスの群の、マウスへの圧力の印加が終了してから60分後の組織切片において、表皮細胞及び血管内皮細胞に認められた。
【0089】
《VEGF−Cタンパク質の発現の検討》
図10はVEGF−Cタンパク質の発現を検出した代表的な結果を示す写真である。図10中、黒矢印は、VEGF−C陽性の細胞を示す。
【0090】
その結果、6時間圧力を印加したマウスの群の組織において、炎症により壊死した細胞の破片に浸潤した炎症細胞中、表皮中及び毛包中にVEGF−Cタンパク質の強い発現が認められた。1時間圧力を印加したマウスの群の組織においては、毛包中のみにVEGF−Cタンパク質の発現が認められた。
【0091】
《HSP90αタンパク質の発現の検討》
図11はHSP90αタンパク質の発現を検出した代表的な結果を示す写真である。その結果、いずれのマウスの群の組織においても、HSP90αタンパク質の発現は認められなかった。
【0092】
以上の結果から、PAI−1、IL−1α又はVEGF−Cタンパク質の発現を検出することにより、褥瘡発生を予測できることが明らかとなった。
【0093】
[実験例6]
(褥瘡動物モデルにおける褥瘡発生予測マーカーの発現のスキンブロッティングによる解析)
スキンブロッティングにより、非侵襲的に褥瘡発生予測マーカーを検出できるか否かを検討した。褥瘡発生予測マーカーとして、PAI−1、IL−1α、VEGF−C及びHSP90αタンパク質の発現を検討した。
【0094】
まず、ニトロセルロース膜(1×1cm、バイオラッド社)を50μLの生理食塩水に浸し、マウスの皮膚の圧力を印加した領域に10分間付着させた。この結果、表皮組織、真皮組織及び皮下組織から漏出した可溶性タンパク質が経皮的、経毛包的な経路を通じてニトロセルロース膜に捕捉された。回収したニトロセルロース膜は解析するまで4℃で保存した。
【0095】
続いて、ニトロセルロース膜を免疫染色した。まず、ニトロセルロース膜を0.3%過酸化水素水/20%メタノール溶液中でインキュベートして内在性のペルオキシダーゼ活性を消失させた。続いて、ブロッキング溶液(型式「Bloching One」、ナカライテスク)でブロッキングした。
【0096】
続いて、各ニトロセルロース膜を4つに切断し、各断片を抗PAI−1抗体(1:200希釈、Novus Biologicals社)、抗IL−1α抗体(1:200希釈、ProteinTech Group社)、抗VEGF−C抗体(1:200希釈、サンタクルーズ社)及び抗HSP90α抗体(1:200希釈、Lab Vision社)でそれぞれ染色した。
【0097】
2次抗体には、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG抗体(1:1000希釈、Jackson Immuno Research社)を使用した。
【0098】
検出には化学発光基質(型式「Luminata Forte」、メルクミリポア社)を使用し、化学発光検出装置(型式「LumiCube」、Liponics社)を使用した。
【0099】
スキンブロッティングの解析は、ニトロセルロース膜の周縁を除く膜全体の化学発光のシグナル強度の平均値を算出して行った。また、化学発光のシグナル強度の相対値(以下、「相対的なシグナル強度の平均値」という場合がある。)は、試験結果を対照マウスの結果で除算することにより求めた。統計学的な解析はTurkey’s testを用いて行った。0.05未満のp値を統計学的に有意であると判断した。
【0100】
《PAI−1タンパク質の発現の検討》
図12はPAI−1タンパク質の発現を検討した結果を示すグラフである。その結果、PAI−1タンパク質の発現は、いずれの時間においても有意な差を示さなかった。
【0101】
《IL−1αタンパク質の発現の検討》
図13はIL−1αタンパク質の発現を検討した結果を示すグラフである。図13中、「†」は対照群対6時間圧力を印加したマウスの群でp値が0.05未満であることを示し、「‡」は1時間圧力を印加したマウスの群対6時間圧力を印加したマウスの群でp値が0.05未満であることを示す。
【0102】
その結果、IL−1αタンパク質の発現は、6時間圧力を印加したマウスの群の、マウスへの圧力の印加が終了してから90分後、120分後及び24時間後の試料において、対照群と比較して有意に高いことが明らかとなった。p値は、それぞれ0.046、0.049及び0.011であった。
【0103】
更に、IL−1αタンパク質の発現は、6時間圧力を印加したマウスの群の、マウスへの圧力の印加が終了してから120分後及び24時間後の試料において、時間圧力を印加したマウスの群と比較して有意に高いことが明らかとなった。p値は、それぞれ0.016及び0.018であった。
【0104】
《VEGF−Cタンパク質の発現の検討》
図14はVEGF−Cタンパク質の発現を検討した結果を示すグラフである。図14中、「†」は対照群対6時間圧力を印加したマウスの群でp値が0.05未満であることを示し、「‡」は1時間圧力を印加したマウスの群対6時間圧力を印加したマウスの群でp値が0.05未満であることを示す。
【0105】
その結果、VEGF−Cタンパク質の発現は、6時間圧力を印加したマウスの群の、マウスへの圧力の印加が終了してから30分後の試料において、対照群及び1時間圧力を印加したマウスの群と比較して有意に高いことが明らかとなった。p値は、それぞれ0.008及び0.013であった。
【0106】
《HSP90αタンパク質の発現の検討》
図15はHSP90αタンパク質の発現を検討した結果を示すグラフである。図15中、「‡」は1時間圧力を印加したマウスの群対6時間圧力を印加したマウスの群でp値が0.05未満であることを示す。
【0107】
その結果、HSP90αタンパク質の発現は、1時間圧力を印加したマウスの群の、マウスへの圧力の印加が終了してから60分後及び120分後の試料において、6時間圧力を印加したマウスの群と比較して有意に高いことが明らかとなった。p値は、それぞれ0.047及び0.041であった。
【0108】
以上の結果から、IL−1α、VEGF−C又はHSP90αタンパク質の発現をスキンブロッティングで検出することにより、非侵襲的に褥瘡発生を予測できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によれば、褥瘡の発生を予測する技術を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15