(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1工程を実施する前に、前記リチウム金属複合酸化物粉末を水洗する水洗工程を有することを特徴とする請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
前記タングステン混合物に含まれるタングステン量が、混合するリチウム金属複合酸化物粉末に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対して、3.0原子%以下とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
前記タングステン化合物を溶解させたアルカリ溶液とリチウム金属複合酸化物粉末との混合が、前記タングステン化合物を溶解したアルカリ溶液が液体で、かつ50℃以下の温度で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成され、層状構造の結晶構造を有し、一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を有するリチウム金属複合酸化物粉末からなり、一般式:LizNi1−x−yCoxMyWaO2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、0<a≦0.03、0≦α≦0.15、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物の表面に存在する余剰リチウム量が、前記正極活物質全量に対して0.035質量%以下であり、
前記タングステンおよびリチウムを含む化合物が、粒子径1〜200nmの微粒子として前記リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に存在し、
前記リチウム金属複合酸化物の二次粒子の断面を、走査型電子顕微鏡を用いた定倍率による観察において、任意の少なくとも2以上の異なる観察視野における任意に抽出した50個以上の前記二次粒子を観察した際に、前記二次粒子内部の一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を有する二次粒子の数が、観察した二次粒子数の90%以上であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。
一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成され、層状構造の結晶構造を有し、一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を有するリチウム金属複合酸化物粉末からなり、一般式:LizNi1−x−yCoxMyWaO2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、0<a≦0.03、0≦α≦0.15、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物の表面に存在する余剰リチウム量が、前記正極活物質全量に対して0.035質量%以下であり、
前記タングステンおよびリチウムを含む化合物が、膜厚1〜150nmの被膜として前記リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に存在し、
前記リチウム金属複合酸化物の二次粒子の断面を、走査型電子顕微鏡を用いた定倍率による観察において、任意の少なくとも2以上の異なる観察視野における任意に抽出した50個以上の前記二次粒子を観察した際に、前記二次粒子内部の一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を有する二次粒子の数が、観察した二次粒子数の90%以上であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。
一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成され、層状構造の結晶構造を有し、一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を有するリチウム金属複合酸化物粉末からなり、一般式:LizNi1−x−yCoxMyWaO2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、0<a≦0.03、0≦α≦0.15、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物の表面に存在する余剰リチウム量が、前記正極活物質全量に対して0.035質量%以下であり、
前記タングステンおよびリチウムを含む化合物が、粒子径1〜200nmの微粒子及び膜厚1〜150nmの被膜の両形態として前記リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に存在し、
前記リチウム金属複合酸化物の二次粒子の断面を、走査型電子顕微鏡を用いた定倍率による観察において、任意の少なくとも2以上の異なる観察視野における任意に抽出した50個以上の前記二次粒子を観察した際に、前記二次粒子内部の一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を有する二次粒子の数が、観察した二次粒子数の90%以上であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。
前記タングステンおよびリチウムを含む化合物に含有されるタングステン量が、リチウム金属複合酸化物粒子に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対してタングステンの原子数が0.05〜2.0原子%であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。このリチウムイオン二次電池は、負極および正極と電解液等で構成され、負極および正極の活物質は、リチウムを脱離および挿入することの可能な材料が用いられている。
【0003】
このようなリチウムイオン二次電池は、現在研究、開発が盛んに行われているところであるが、その中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0004】
これまで主に提案されている材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO
2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO
2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn
2O
4)などを挙げることができる。
【0005】
このうちリチウムニッケル複合酸化物およびリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、サイクル特性が良く、低抵抗で高出力が得られる材料として注目されており、近年では高出力化に必要な低抵抗化が重要視されている。
上記低抵抗化を実現する方法として異元素の添加が用いられており、とりわけW、Mo、Nb、Ta、Reなどの高価数をとることができる遷移金属が有用とされている。
【0006】
例えば、特許文献1には、Mo、W、Nb、Ta及びReから選ばれる1種以上の元素が、Mn、Ni及びCoの合計モル量に対して0.1〜5モル%含有されているリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体が提案され、一次粒子の表面部分のLi並びにMo、W、Nb、Ta及びRe以外の金属元素の合計に対するMo、W、Nb、Ta及びReの合計の原子比が、一次粒子全体の該原子比の5倍以上であることが好ましいとされている。
【0007】
この提案によれば、リチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体の低コスト化及び高安全性化と高負荷特性、粉体取り扱い性向上の両立を図ることができる。
しかし、上記リチウム遷移金属系化合物粉体は、原料を液体媒体中で粉砕し、これらを均一に分散させたスラリーを噴霧乾燥し、得られた噴霧乾燥体を焼成することで得ている。そのため、Mo、W、Nb、Ta及びReなどの異元素の一部が層状に配置されているNiと置換してしまい、電池の容量やサイクル特性などの電池特性が低下してしまう問題がある。
【0008】
また、特許文献2には、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、そのリチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子およびその凝集体である二次粒子の一方または両方からなる粒子の形態で存在し、その粒子の少なくとも表面に、モリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を備える化合物を有する非水電解質二次電池用正極活物質が提案されている。
【0009】
これにより、より一層厳しい使用環境下においても優れた電池特性を有する非水電解質二次電池用正極活物質が得られるとされ、特に、粒子の表面にモリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する化合物を有することにより、熱安定性、負荷特性および出力特性の向上を損なうことなく、初期特性が向上するとしている。
【0010】
しかしながら、モリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加元素による効果は、初期特性、すなわち初期放電容量および初期効率の向上にあるとされ、出力特性に言及したものではない。
また、開示されている製造方法によれば、添加元素をリチウム化合物と同時に熱処理した水酸化物と混合して焼成するため、添加元素の一部が層状に配置されているニッケルと置換してしまい電池特性の低下を招く問題がある。
【0011】
さらに、特許文献3には、正極活物質の周りにTi、Al、Sn、Bi、Cu、Si、Ga、W、Zr、B、Moから選ばれた少なくとも一種を含む金属及びまたはこれら複数個の組み合わせにより得られる金属間化合物、及びまたは酸化物を被覆した正極活物質が提案されている。
このような被覆により、酸素ガスを吸収させ安全性を確保できるとしているが、出力特性に関しては全く開示されていない。また、開示されている製造方法は、遊星ボールミルを用いて被覆するものであり、このような被覆方法では、正極活物質に物理的なダメージを与え、その電池特性を低下させてしまう問題がある。
【0012】
また、特許文献4には、ニッケル酸リチウムを主体とする複合酸化物粒子にタングステン酸化合物を被着させて加熱処理を行ったもので、炭酸イオンの含有量が0.15重量%以下である正極活物質が提案されている。
この提案によれば、正極活物質の表面にタングステン酸化合物またはタングステン酸化合物の分解物が存在し、充電状態における複合酸化物粒子表面の酸化活性を抑制するため、非水電解液等の分解によるガス発生を抑制することができるとしているが、出力特性に関しては全く開示されていない。
【0013】
さらに、開示されている製造方法は、好ましくは被着成分を溶解した溶液の沸点以上に加熱した複合酸化物粒子に、タングステン酸化合物とともに硫酸化合物、硝酸化合物、ホウ酸化合物またはリン酸化合物を被着成分として溶媒に溶解した溶液を被着させるものであり、溶媒を短時間で除去するため、複合酸化物粒子表面にタングステン化合物が十分に分散されず、均一に被着されないという問題点がある。
【0014】
また、リチウムニッケル複合酸化物の高出力化に関する改善も行われている。
例えば、特許文献5には、一次粒子および前記一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物であって、前記リチウム金属複合酸化物の表面に、Li
2WO
4、Li
4WO
5、Li
6W
2O
9のいずれかで表されるタングステン酸リチウムを含む微粒子を有する非水系電解質二次電池用正極活物質が提案され、高容量とともに高出力が得られるとされている。
しかしながら、高容量と高出力に対する要求は高まっており、更なる改善が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明について、まず本発明の正極活物質について説明した後、その製造方法と本発明による正極活物質を用いた非水系電解質二次電池について説明する。
【0033】
(1)正極活物質
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、一次粒子および、一次粒子が凝集して形成された二次粒子(以下、単に二次粒子と称することがある。)からなり、層状構造の結晶構造を有し、一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を有するリチウム金属複合酸化物であって、正極活物質の組成が一般式:Li
zNi
1−x−yCo
xM
yW
aO
2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、0<a≦0.03、0≦α≦0.15、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、そのリチウム金属複合酸化物の二次粒子の断面の走査型電子顕微鏡観察において、任意の50個以上の二次粒子を観察した際に、二次粒子内部の一次粒子表面にタングステン(W)およびリチウム(Li)を含む化合物を有する二次粒子が、観察された粒子数の90%以上であることを特徴とするものである。
【0034】
すなわち母材として、その組成が一般式Li
zNi
1−x−yCo
xM
yO
2(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物を用いることにより、高い充放電容量を得るものである。さらに高い充放電容量を得るためには、上記一般式において、x+y≦0.2、0.95≦z≦1.10とすることが好ましい。
さらに、その母材が一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子で構成されたリチウム金属複合酸化物粉末(以下、二次粒子と単独で存在する一次粒子を合わせて「リチウム金属複合酸化物粒子」ということがある。)の形態を採り、その一次粒子の表面に形成されたタングステン(W)およびリチウム(Li)を含む化合物(以下、「LW化合物」ということがある。)により、充放電容量を維持しながら出力特性を向上させるものである。
一般的に、正極活物質の表面が異種化合物により完全に被覆されてしまうと、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、結果的にリチウムニッケル複合酸化物の持つ高容量という長所が消されてしまう。
【0035】
対して、本発明においては、リチウム金属複合酸化物粒子の表面及び内部の一次粒子の表面にLW化合物を形成させているが、このLW化合物は、リチウムイオン伝導性が高く、リチウムイオンの移動を促す効果がある。このため、リチウム金属複合酸化物粒子の表面及び内部の一次粒子の表面に上記LW化合物を形成させることで、電解液との界面でLiの伝導パスを形成することから、正極活物質の反応抵抗(以下、「正極抵抗」ということがある。)を低減して非水系電解質二次電池の出力特性を向上させるものである。
すなわち、正極抵抗が低減されることで、非水系電解質二次電池(以下、単に「電池」ということがある。)内で損失される電圧が減少し、実際に負荷側に印加される電圧が相対的に高くなるため、高出力が得られる。また、負荷側への印加電圧が高くなることで、正極でのリチウムの挿抜が十分に行われるため、充放電容量(以下、「電池容量」ということがある。)も向上するものである。
【0036】
電池の正極活物質として用いられた際の電解液との接触は、一次粒子表面で起こるため、一次粒子表面にタングステン酸リチウムが形成されていることが重要である。ここで、本発明における一次粒子表面とは、二次粒子の外面で露出している一次粒子の表面と二次粒子外部と通じて電解液が浸透可能な二次粒子の表面近傍および内部の空隙に露出している一次粒子の表面、さらに単独で存在する一次粒子の表面を含むものである。さらに、一次粒子間の粒界であっても一次粒子の結合が不完全で電解液が浸透可能な状態となっていれば含まれるものである。
この電解液との接触は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子の外面のみでなく、上記二次粒子の表面近傍および内部の一次粒子間の空隙、さらには上記不完全な粒界でも生じるため、上記一次粒子表面にもLW化合物を形成させ、リチウムイオンの移動を促すことが必要である。したがって、電解液との接触が可能な一次粒子表面の多くにLW化合物を形成させることで、リチウム金属複合酸化物粒子の反応抵抗をより一層低減させることが可能となる。
【0037】
さらに、LW化合物の一次粒子表面上における形態は、一次粒子表面を層状物で被覆した場合には、電解液との接触面積が小さくなってしまう、また、層状物を形成すると、化合物の形成が特定の一次粒子表面に集中するという結果になり易い。したがって、被覆物としての層状物が高いリチウムイオン伝導性を持っていることにより、充放電容量の向上、反応抵抗の低減という効果が得られるものの、十分ではなく改善の余地がある。
したがって、より高い効果を得るため、LW化合物は、粒子径1〜200nmの微粒子としてリチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に存在することが好ましい。
【0038】
このような形態を採ることにより、電解液との接触面積を十分なものとして、リチウムイオン伝導を効果的に向上できるため、電池容量を向上させるとともに正極抵抗をより効果的に低減させることができる。その粒子径が1nm未満では、微細な粒子が十分なリチウムイオン伝導性を有しない場合がある。また、粒子径が200nmを超えると、微粒子の表面における形成が不均一になり、正極抵抗低減のより高い効果が得られない場合がある。
ここで、微粒子は完全に一次粒子表面の全てにおいて形成されている必要はなく、点在している状態でもよい。点在している状態でも、リチウム金属複合酸化物粒子の外面および内部の空隙に露出している一次粒子表面に微粒子が形成されていれば、正極抵抗の低減効果が得られる。また、微粒子は、全てが粒子径1〜200nmの微粒子として存在する必要がなく、好ましくは一次粒子表面に形成された微粒子の個数で50%以上が、1〜200nmの粒子径範囲で形成されていれば高い効果が得られる。
【0039】
一方、一次粒子表面を薄膜で被覆すると、比表面積の低下を抑制しながら、電解液との界面でLiの伝導パスを形成させることができ、より高い電池容量の向上、正極抵抗の低減という効果が得られる。このような薄膜状のLW化合物により一次粒子表面を被覆する場合には、膜厚1〜150nmの被膜としてリチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に存在することが好ましい。
その膜厚が1nm未満では、被膜が十分なリチウムイオン伝導性を有しない場合がある。また、膜厚が150nmを超えると、リチウムイオン伝導性低下し、正極抵抗低減のより高い効果が得られない場合がある。
しかし、この被膜は、一次粒子表面上で部分的に形成されていてもよく、全ての被膜の膜厚範囲が1〜150nmでなくてもよい。一次粒子表面に少なくとも部分的に膜厚が1〜150nmの被膜が形成されていれば、高い効果が得られる。
【0040】
さらに、微粒子形態と薄膜の被膜形態が混在して一次粒子表面に化合物が形成されている場合にも、電池特性に対する高い効果が得られる。
また、LW化合物が一次粒子表面に形成されることで、リチウム金属複合酸化物表面への余剰リチウムの生成を抑え、正極材表面からのガス発生を抑制する効果も得られる。余剰リチウム量は、正極活物質全量に対して0.05質量%以下であることが好ましく、0.035質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
一方、リチウム金属複合酸化物粒子間で不均一にLW化合物が形成された場合は、リチウム金属複合酸化物粒子間でのリチウムイオンの移動が不均一となるため、特定のリチウム金属複合酸化物粒子に負荷がかかり、サイクル特性の悪化や反応抵抗の上昇を招きやすい。特に、二次粒子内部の一次粒子表面にLW化合物が形成されていない二次粒子は、二次粒子表面に微粒子が形成されていても、内部の一次粒子表面にまでLW化合物が形成されている二次粒子と比べて負荷がかかりやすく、劣化しやすい。
したがって、二次粒子内部の一次粒子表面にLW化合物が形成されていない二次粒子を少なくすることで、正極抵抗を低減して出力特性や電池容量を向上させることができ、サイクル特性も良好なものとすることができる。
【0042】
具体的には、リチウム金属複合酸化物粒子の断面の走査型電子顕微鏡観察において、任意の50個以上の二次粒子を観察した際に、二次粒子内部の一次粒子表面にLW化合物を有する二次粒子が、観察された粒子数の90%以上、好ましくは95%以上とすることで、上記のような電池特性の向上が可能である。
この走査型電子顕微鏡観察は、例えば、リチウム金属複合酸化物粒子、すなわち正極活物質の粉末を樹脂に埋め込んで粒子の断面が観察可能なように加工した後、少なくとも2視野以上の異なる観察視野における合計50個以上の二次粒子の断面を、電界放射型走査電子顕微鏡を用いた5000倍の一定倍率で観察することにより行うものであり、50個以上の二次粒子を観察することで、観察上の誤差を排除して二次粒子内部にLW化合物を形成させたことによる効果を有する正極活物質を精度よく判定できる。
【0043】
本発明におけるLW化合物は、WおよびLiを含むものであればよいが、タングステン酸リチウムの形態となっていることが好ましい。
このタングステン酸リチウムが形成されることで、リチウムイオン伝導性がさらに高まり、反応抵抗の低減効果がより大きなものとなる。さらに、タングステン酸リチウムとしては、リチウムイオン伝導率の観点から、Li
2WO
4、Li
4WO
5、Li
6W
2O
9、Li
6WO
6、7(Li
2WO
4)・4H
2Oからなる群から選択される1種類以上の化合物を含むことが好ましく、Li
2WO
4またはLi
4WO
5もしくはこれらの混合物であることが好ましい.
【0044】
このLW化合物に含まれるタングステン量は、リチウム金属複合酸化物に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対して、3.0原子%以下であり、0.05〜3.0原子%とすることが好ましく、0.05〜2.0原子%とすることがより好ましく、0.08〜1.0原子%とすることがさらに好ましい。3.0原子%以下のタングステンを添加することで、出力特性の改善効果が得られる。さらに、0.05〜2.0原子%とすることにより、LWOの形成量を正極抵抗を低減させるために十分な量とするとともに、電解液との接触が可能な一次粒子表面を十分に確保できる量とすることができ、より高い電池容量と出力特性を両立することができる。
タングステン量が0.05原子%未満では、出力特性の改善効果が十分に得られない場合があり、タングステン量が3.0原子%を超えると、形成される上記LW化合物が多くなり過ぎてリチウム金属複合酸化物粒子と電解液の間のリチウム伝導が阻害され、電池容量が低下することがある。
【0045】
このLW化合物に含まれるリチウム量は、特に限定されるものではなく、LW化合物に含まれればリチウムイオン伝導性の向上効果が得られる。通常、リチウム金属複合酸化物粒子の表面には余剰リチウムが存在し、アルカリ溶液との混合時に、その余剰リチウムによりLW化合物に供給されるリチウム量でよいが、タングステン酸リチウムを形成させるのに十分な量とすることが好ましい。
【0046】
また、正極活物質全体のリチウム量が、正極活物質中のNi、CoおよびMoの原子数の和(Me)とLiの原子数との比「Li/Me」が、0.95〜1.30であり、0.97〜1.25であることが好ましく、0.97〜1.20であることがより好ましい。これにより、芯材としてのリチウム金属複合酸化物粒子のLi/Meを0.95〜1.25、より好ましくは0.95〜1.20として高い電池容量を得るとともに、LW化合物の形成に十分な量のリチウムを確保することができる。より高い電池容量を得るためには、正極活物質全体のLi/Meを0.95〜1.15、リチウム金属複合酸化物粒子のLi/Meを0.95〜1.10とすることがさらに好ましい。ここで、芯材とはLW化合物を含まないリチウム金属複合酸化物粒子であり、リチウム金属複合酸化物粒子の一次粒子表面にLW化合物が形成されることで正極活物質となる。
そのLi/Meが0.95未満であると、得られた正極活物質を用いた非水系電解質二次電池における正極の反応抵抗が大きくなるため、電池の出力が低くなってしまう。また、Li/Meが1.30を超えると、正極活物質の初期放電容量が低下するとともに、正極の反応抵抗も増加してしまう。
【0047】
本発明の正極活物質は、リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面にLW化合物を形成させて出力特性を改善したものであり、正極活物質としての粒径、タップ密度などの粉体特性は、通常に用いられる正極活物質の範囲内であればよい。
【0048】
リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に、LW化合物を付着させることによる効果は、たとえば、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物などの粉末、さらに本発明で掲げた正極活物質だけでなく一般的に使用されるリチウム二次電池用正極活物質にも適用できる。
【0049】
(2)正極活物質の製造方法
以下、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法を工程ごとに詳細に説明する。
【0050】
[第1工程]
第1工程は、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成されたリチウム金属複合酸化物粉末を、タングステン化合物を溶解したアルカリ溶液(以下、タングステン化合物を溶解したアルカリ溶液をアルカリ溶液(W)という。)に浸漬後、固液分離してタングステン混合物を得る工程である。
この工程により、二次粒子内部の一次粒子表面にまでWを均一に分散させることができる。
【0051】
ここで、リチウム金属複合酸化物粉末を、アルカリ溶液(W)と、アルカリ溶液(W)中の水分量に対するリチウム金属複合酸化物粉末の固液比を200〜2500g/Lの範囲、好ましくは500〜2000g/Lの範囲で混合、浸漬させることが必要である。さらに、アルカリ溶液(W)のW濃度を0.1〜2mol/L、好ましくは0.1〜1.5mol/Lとする。
【0052】
この第1工程では、アルカリ溶液(W)にリチウム金属複合酸化物粉末を浸漬することで、二次粒子内の一次粒子表面まで適度な濃度のアルカリ溶液(W)を浸透させ、一次粒子表面に上述のようなLW化合物が形成される量のWを分散させることができる。また、タングステン混合物に含まれるW量は、固液分離した後にリチウム金属複合酸化物粉末に残留するアルカリ溶液(W)中のW量によって決定される。
【0053】
すなわち、第1工程では、アルカリ溶液(W)への浸漬後に固液分離を行うため、固液分離後のタングステン混合物に残留するアルカリ溶液(W)中に含まれるW分が、リチウム金属複合酸化物の二次粒子表面や一次粒子表面に分散、付着するため、化合物を形成させるために必要な量を固液分離後の水分率から求めることができる。
【0054】
したがって、アルカリ溶液(W)のW濃度と固液分離の程度によりタングステン混合物に含まれるW量を制御することが可能である。通常に実施される固液分離方法では、固液分離後に残留する液量は、固液分離によって得られたケーキに対して5〜15質量%であり、固液分離の条件によって安定したものとなるので、予備試験等により残留する液量(水分率)を求めておけば容易に制御することができる。
【0055】
タングステン混合物に含まれるW量は、得られる正極活物質中の前記化合物中に含有されるタングステン量と等しくなる。したがって、タングステン混合物に含まれるW量は、混合するリチウム金属複合酸化物粉末に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対して、3.0原子%以下とすることが好ましく、0.05〜3.0原子%とすることがより好ましく、0.05〜2.0原子%とすることがさらに好ましく、0.08〜1.0原子%とすることが特に好ましい。
【0056】
後工程の熱処理後にリチウム金属複合酸化物粉末を解砕する場合は、二次粒子表面上に形成されたWおよびLiを含む化合物が剥離して、得られる正極活物質のタングステン含有量が減少することがある。このような場合は、減少分、すなわち、添加するタングステン量に対して5〜20原子%を見越してアルカリ溶液に溶解させるタングステン量を決めればよい。
【0057】
第1工程では、前記固液比を200〜2500g/Lの範囲で制御するが、固液比が200g/L未満では、リチウム金属複合酸化物から溶出するLi量が多くなり過ぎて得られる正極活物質を用いて得られる電池の特性が低下する。前記固液比が2500g/Lを超えると、アルカリ溶液(W)がタングステン混合物と均一に混合できなくなり、粒子内部の一次粒子表面にまでアルカリ溶液(W)が浸透されていない二次粒子が増加する。
【0058】
また、アルカリ溶液(W)のW濃度を0.1〜2mol/Lとするが、アルカリ溶液(W)のW濃度が0.1mol/L未満になると、タングステン混合物に含まれるW量が少なくなり、得られる正極活物質を用いた電池の特性が改善されない。さらに、固液分離後に残留する液量を増加させてタングステン混合物に含まれるW量を増加させても、タングステン混合物中に残留するアルカリ溶液(W)が遍在するため、リチウム金属複合酸化物粒子間で含有されるW量の変動が大きくなり、粒子内部の一次粒子表面にLW化合物が形成されない二次粒子が増加する。アルカリ溶液(W)のW濃度が2mol/Lを超えると、タングステン混合物に含まれるW量が多くなり過ぎて、得られる正極活物質を用いた電池の特性が低下する。
【0059】
第1工程では、まず、タングステン化合物をアルカリ溶液に溶解するが、その溶解方法は、通常の粉末の溶解方法でよく、例えば、撹拌装置付の反応槽を用いて溶液を撹拌しながらタングステン化合物を添加して溶解すればよい。タングステン化合物は、アルカリ溶液に完全に溶解させることが、分散の均一性から好ましい。
このタングステン化合物は、アルカリ溶液に溶解可能なものであればよく、酸化タングステン、タングステン酸リチウム、タングステン酸アンモニウムなど、アルカリに対して易溶性のタングステン化合物を用いることが好ましい。
【0060】
アルカリ溶液(W)に用いるアルカリとしては、高い充放電容量を得るため、正極活物質にとって有害な不純物を含まない一般的なアルカリ溶液を用いる。不純物混入の虞がないアンモニア、水酸化リチウムを用いることができるが、Liのインターカレーションを阻害しない観点から水酸化リチウムを用いることが好ましい。
水酸化リチウムを用いる場合には、混合後の上記正極活物質に含有されるリチウム量が、上記一般式のLi/Meの範囲内とする必要があるが、水酸化リチウム量をWに対して原子比で3.5〜10.0とすることが好ましく、3.5以上、4.5未満とすることがより好ましい。Liはリチウム金属複合酸化物から溶出して供給されるが、この範囲の水酸化リチウムを用いることで、LW化合物を形成させるのに十分な量のLiを供給することができる。
【0061】
また、アルカリ溶液(W)は水溶液であることが好ましい。
Wを一次粒子表面全体に分散させるためには、二次粒子内部の空隙および不完全な粒界にも浸透させる必要があり、二次粒子内にも十分に浸透可能な溶媒であればよいが、揮発性が高いアルコールなどの溶媒を用いると、揮発によるロスも多く、コスト的に望ましくない。また、二次粒子や一次粒子表面に存在する不純物は水溶性のものが多く、不純物を除去して正極活物質の特性を向上させる観点からも、水溶液を用いることが好ましい。
【0062】
アルカリ溶液のpHは、タングステン化合物が溶解するpHであればよいが、9〜12であることが好ましい。pHが9未満の場合には、リチウム金属複合酸化物からのリチウム溶出量が多くなり過ぎて電池特性が劣化する虞がある。また、pHが12を超えると、リチウム金属複合酸化物に残留する過剰なアルカリが多くなり過ぎて電池特性が劣化する虞がある。
【0063】
本発明の製造方法においては、得られる正極活物質の芯材となるリチウム金属複合酸化物粒子は、母材とするリチウム金属複合酸化物、すなわちアルカリ溶液(W)と混合するリチウム金属複合酸化物粉末からアルカリ溶液(W)中にリチウム分が溶出するため、母材のリチウム金属複合酸化物は、高容量と低反応抵抗の観点より、公知であるその組成が一般式Li
zNi
1−x−yCo
xM
yO
2(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム金属複合酸化物が用いられる。
すなわち、母材のLi/Meであるzを0.95≦z≦1.30、好ましくは0.97≦z≦1.25、より好ましくは0.97≦z≦1.20、さらに好ましくはより好ましくは0.97≦z≦1.15とすることで、洗浄後においても芯材となるリチウム金属複合酸化物粒子中のリチウム量を適正な量に制御して高い電池容量と低反応抵抗を可能とすることができる。
また、電解液との接触面積を多くすることが、出力特性の向上に有利であることから、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成され、二次粒子に電解液の浸透可能な空隙および粒界を有するリチウム金属複合酸化物粉末を用いることが好ましい。
【0064】
次に、調製したアルカリ溶液(W)を撹拌しながらリチウム金属複合酸化物粉末を添加して混合、浸漬する。タングステン化合物が易溶性であれば、リチウム金属複合酸化物粉末を水などの溶媒と混合してスラリー化した後、タングステン化合物を添加して溶解し浸漬してもよい。さらにアルカリ溶液(W)を循環させてリチウム金属複合酸化物粉末に供給して浸漬することもできる。
【0065】
すなわち、リチウム金属複合酸化物粒子間にアルカリ溶液(W)を流通させて二次粒子内部まで浸透させることができればよい。
その混合は、50℃以下の温度で行うことが好ましい。50℃以下の温度で混合することで、リチウム金属複合酸化物粒子からの過剰なLiの溶出を抑制することができる。
【0066】
リチウム金属複合酸化物粉末とアルカリ溶液(W)の混合は、二次粒子内までアルカリ溶液(W)を浸透させればよく、スラリー状の場合は撹拌反応槽などを用いることができる。
また、固液比が高く撹拌反応槽では混合が十分でない場合は、例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどの混合機を用いてリチウム金属複合酸化物粉末の形骸が破壊されない程度でアルカリ溶液(W)と十分に混合してやればよい。これにより、アルカリ溶液(W)中のWを、リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に均一に分布させることができる。
【0067】
アルカリ溶液(W)を浸漬させた後、固液分離してタングステン混合物を得る。固液分離は、通常用いられる装置でよく、吸引濾過機、遠心機、フィルタープレスなどが用いられる。
【0068】
本発明の製造方法においては、正極活物質の電池容量および安全性を向上させるために、第1工程の前に、さらに母材であるリチウム金属複合酸化物粉末を水洗することができる。
この水洗は、公知の方法および条件でよく、リチウム金属複合酸化物粉末から過度にリチウムが溶出して電池特性が劣化しない範囲で行えばよい。水洗した場合には、乾燥してからアルカリ溶液(W)と混合しても、固液分離のみで乾燥せずにアルカリ溶液(W)と混合しても、いずれの方法でもよい。
【0069】
固液分離のみの場合は、アルカリ溶液(W)への浸漬後のタングステン濃度は、リチウム金属複合酸化物粉末に含まれる水分により薄められるため、予め固液分離後に残留する水分量を加味して浸漬させるアルカリ溶液(W)の濃度を計算すればよい。また、アルカリ溶液(W)を用いてリチウム金属複合酸化物粉末を水洗し、水洗とアルカリ溶液(W)への浸漬を同時に実施し、その後に固液分離することも可能である。
【0070】
[第2工程]
第2工程は、タングステン混合物を熱処理する工程である。これにより、アルカリ溶液(W)より供給されたWとアルカリ溶液(W)、もしくはリチウム金属複合酸化物からのリチウムの溶出により供給されたLiから、LW化合物を形成し、リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に、LW化合物を有する非水系電解質二次電池用正極活物質が得られる。
【0071】
その熱処理方法は特に限定されないが、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いたときの電池特性の劣化を防止するため、酸素雰囲気あるいは真空雰囲気中で100〜600℃の温度で熱処理することが好ましい。
熱処理温度が100℃未満では、水分の蒸発が十分ではなく、LW化合物が十分に形成されない場合がある。一方、熱処理温度が600℃を超えると、リチウム金属複合酸化物粒子が焼結を起こすとともに一部のWがリチウム金属複合酸化物の層状構造に固溶してしまうために、電池の充放電容量が低下することがある。
【0072】
熱処理時の雰囲気は、雰囲気中の水分や炭酸との反応を避けるため、酸素雰囲気などのような酸化性雰囲気あるいは真空雰囲気とすることが好ましい。
熱処理時間は、特に限定されないが、アルカリ溶液(W)の水分を十分に蒸発させて微粒子を形成するために5〜15時間とすることが好ましい。
【0073】
(3)非水系電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、正極、負極および非水系電解液などからなり、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。
なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本発明の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0074】
(a)正極
先に述べた非水系電解質二次電池用正極活物質を用いて、例えば、以下のようにして、非水系電解質二次電池の正極を作製する。
まず、粉末状の正極活物質、導電材、結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。
【0075】
その正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水系電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60〜95質量部とし、導電材の含有量を1〜20質量部とし、結着剤の含有量を1〜20質量部とすることが望ましい。
【0076】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレス等により加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等をして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0077】
正極の作製にあたって、導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0078】
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
なお、必要に応じ、正極活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
【0079】
(b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金等、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0080】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDF等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0081】
(c)セパレータ
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0082】
(d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0083】
支持塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiN(CF
3SO
2)
2等、およびそれらの複合塩を用いることができる。
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。
【0084】
(e)電池の形状、構成
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0085】
(f)特性
本発明の正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、高容量で高出力となる。
特により好ましい形態で得られた本発明による正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、例えば、2032型コイン電池の正極に用いた場合、165mAh/g以上の高い初期放電容量と低い正極抵抗が得られ、さらに高容量で高出力である。また、熱安定性が高く、安全性においても優れているといえる。
【0086】
なお、本発明における正極抵抗の測定方法を例示すれば、次のようになる。電気化学的評価手法として一般的な交流インピーダンス法にて電池反応の周波数依存性について測定を行うと、溶液抵抗、負極抵抗と負極容量、および正極抵抗と正極容量に基づくナイキスト線図が
図1のように得られる。
【0087】
電極における電池反応は、電荷移動に伴う抵抗成分と電気二重層による容量成分とからなり、これらを電気回路で表すと抵抗と容量の並列回路となり、電池全体としては溶液抵抗と負極、正極の並列回路を直列に接続した等価回路で表される。
この等価回路を用いて測定したナイキスト線図に対してフィッティング計算を行い、各抵抗成分、容量成分を見積もることができる。正極抵抗は、得られるナイキスト線図の低周波数側の半円の直径と等しい。
【0088】
以上のことから、作製される正極について、交流インピーダンス測定を行い、得られたナイキスト線図に対し等価回路でフィッティング計算することで、正極抵抗を見積もることができる。
【実施例】
【0089】
本発明により得られた正極活物質を用いた正極を有する二次電池について、その性能(初期放電容量、正極抵抗)を測定した。
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0090】
(電池の製造および評価)
正極活物質の評価には、
図3に示す2032型コイン電池1(以下、コイン型電池と称す)を使用した。
図3に示すように、コイン型電池1は、ケース2と、このケース2内に収容された電極3とから構成されている。
【0091】
ケース2は、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成されている。
電極3は、正極3a、セパレータ3cおよび負極3bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bが負極缶2bの内面に接触するようにケース2に収容されている。
【0092】
なお、ケース2はガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bとの間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封してケース2内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0093】
この
図3に示すコイン型電池1は、以下のようにして製作した。
まず、非水系電解質二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極3aを作製した。作製した正極3aを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
この正極3aと、負極3b、セパレータ3cおよび電解液とを用いて、上述したコイン型電池1を、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0094】
なお、負極3bには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。
セパレータ3cには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClO
4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0095】
製造したコイン型電池1の性能を示す初期放電容量、正極抵抗は、以下のように評価した。
電池容量は初期放電容量により評価した。初期放電容量の測定は、コイン型電池1を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0096】
また、正極抵抗は、コイン型電池1を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定すると、
図1に示すナイキストプロットが得られる。
このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極抵抗の値を算出した。
【0097】
なお、本実施例では、複合酸化物製造、正極活物質および二次電池の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
【実施例1】
【0098】
Niを主成分とする酸化物粉末と水酸化リチウムを混合して焼成する公知技術で得られたLi
1.030Ni
0.82Co
0.15Al
0.03O
2で表されるリチウム金属複合酸化物粉末を母材とした。
このリチウム金属複合酸化物粉末の平均粒径は12.4μmであり、比表面積は0.3m
2/gであった。なお、平均粒径はレーザー回折散乱法における体積積算平均値を用い、比表面積は窒素ガス吸着によるBET法を用いて評価した。
【0099】
100mlの純水に5.6gの水酸化リチウム(LiOH)を溶解した水溶液中に、15.6gの酸化タングステン(WO
3)を添加して撹拌することにより、タングステンを含有したアルカリ溶液(W)を得た。
【0100】
次に、母材のリチウム金属複合酸化物粉末75gを、作製したアルカリ溶液(W)に浸漬し、さらに攪拌することで十分に混合すると同時にリチウム金属複合酸化物粉末の水洗も実施した。その後、ヌッチェを用いたろ過により固液分離し、アルカリ溶液(W)とリチウム金属複合酸化物粉末から形成されたタングステン混合物を得た。
【0101】
その得られた混合物を、SUS製焼成容器に入れ、真空雰囲気中において、昇温速度2.8℃/分で210℃まで昇温して13時間熱処理し、その後室温まで炉冷した。
最後に目開き38μmの篩にかけ解砕することにより、一次粒子表面にWおよびLiを含む化合物を有する正極活物質を作製した。
【0102】
得られた正極活物質のタングステン含有量およびLi/MをICP法により分析したところ、タングステン含有量はNi、CoおよびMの原子数の合計に対して0.5原子%の組成であることが確認され、そのLi/Meは0.994であった。
【0103】
[LW化合物の形態分析]
得られた正極活物質を、樹脂に埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工を行ったものについて、倍率を5000倍とした電界放射型走査電子顕微鏡(SEM)による断面観察を行ったところ、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成され、一次粒子表面にLW化合物の微粒子が形成されていることを確認し、その観察した微粒子の粒子径は20〜180nmであった。
また、正極活物質を樹脂に埋め込んで断面加工した後、電界放射型走査電子顕微鏡を用いて任意の50個以上の二次粒子の断面を5000倍で観察したところ、二次粒子内部の一次粒子の表面にLW化合物を有する二次粒子の観察した二次粒子数に対する割合(化合物存在率)は、97%であった。
さらに、得られた正極活物質の一次粒子の表面付近を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、一次粒子の表面に膜厚2〜105nmのタングステン酸リチウムの被覆が形成され、化合物はタングステン酸リチウムであることを確認した。
【0104】
[電池評価]
得られた正極活物質を使用して作製された正極を有する
図3に示すコイン型電池1の電池特性を評価した。なお、正極抵抗は実施例1を100とした相対値を評価値とした。初期放電容量は204.6mAh/gであった。
以下、実施例2〜3および比較例1〜2については、上記実施例1と変更した物質、条件のみを示す。また、実施例1〜3および比較例1〜2の初期放電容量および正極抵抗の評価値を表1に示す。
【0105】
[余剰リチウム分析]
得られた正極活物質中の余剰リチウムの存在状態について、正極活物質から溶出してくるLiを滴定することにより評価した。
得られた正極活物質に純水を加えて一定時間攪拌後、ろ過したろ液のpHを測定しながら塩酸を加えていくことにより出現する中和点から溶出するリチウムの化合物状態を評価したところ、余剰リチウム量は、正極活物質の全量に対して0.018質量%であった。
【実施例2】
【0106】
用いたLiOHを3.8g、WO
3を10.5gとした以外は、実施例1と同様の条件にて、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行い、その結果を表1に示す。
【実施例3】
【0107】
用いたLiOHを7.0g、WO
3を19.3gとした以外は、実施例1と同様の条件にて、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行い、その結果を表1に示す。
【0108】
(比較例1)
純水5mlに0.6gのLiOHを溶解した水溶液中に、1.4gのWO
3を添加して攪拌することにより、タングステンを含有したアルカリ溶液(W)を得た。
母材とするリチウム金属複合酸化物粉末75gを純水100mlに浸漬して攪拌することで水洗を実施し、ヌッチェを用いてろ過する固液分離処理をした後に、作製したアルカリ溶液(W)を添加、混合した以外は、実施例1と同様の条件にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行い、その結果を表1に示す。
純水100mlに浸漬した後に固液分離した状態で水分率は8.5質量%であり、アルカリ溶液(W)と混合した際の固液比は6590g/Lとなった。
【0109】
(比較例2)
比較例1と同様に純水で水洗を実施したが、アルカリ溶液(W)に浸漬しなかった以外は実施例1と同様にしてその評価を行った。
その結果を表1に示す。
【0110】
(従来例)
特許文献4に開示される実施例と同様の方法を用いて、硫酸ニッケルと硫酸コバルトとアルミン酸ナトリウムとを水中に溶解し、さらに十分に攪拌させながら水酸化ナトリウム溶液を加えて、NiとCoとAlとのモル比がNi:Co:Al=77:20:3となるようにして生成したニッケル−コバルト−アルミニウム複合共沈水酸化物の共沈物を水洗、乾燥させた後、水酸化リチウム一水和塩を加え、モル比がLi:(Ni+Co+Al)=105:100となるように調整して前駆体を作製した。
次に、それらの前駆体を酸素気流中、700℃で10時間焼成し、室温まで冷却した後に粉砕して組成式Li
1.03Ni
0.77Co
0.20Al
0.03O
2で表されるニッケル酸リチウムを主体とした複合酸化物粒子を作製した。
【0111】
この複合酸化物粒子100重量部に、パラタングステン酸アンモニウム((NH
4)
10W
12O
41・5H
2O)を1.632重量部を加え、乳鉢で十分混合した混合物を、酸素気流中、700℃で4時間焼成して室温まで冷却した後、取り出して粉砕し、従来例の正極活物質を作製した。
得られた正極活物質を使用して実施例1と同様にして評価した。その結果を表1に示す。なお従来例では、LW化合物の形態分析を行わなかった。
【0112】
【表1】
【0113】
[評価]
表1から明らかなように、実施例1〜3の複合酸化物粒子および正極活物質は、本発明に従って製造されたため、従来例に比べて初期放電容量が高く、正極抵抗も低いものとなっており、優れた特性を有する電池が得られるものである。特に、添加したタングステン量、アルカリ溶液のタングステン濃度を好ましい条件で実施した実施例1は、初期放電容量と正極抵抗がさら良好であり、非水系電解質二次電池用正極活物質として一層好適なものとなっている。
【0114】
また、
図2に示す本発明の実施例で得られた正極活物質の断面SEM観察結果の一例からは、得られた正極活物質が一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなり、その一次粒子表面にLW化合物(黒矢印)を形成していることが確認される。
なお、添加したタングステン量が少ない実施例2では、形成されたLW化合物が過少となっている。このことから、その正極抵抗は実施例1より増加し、余剰Liも増加している。
さらに、添加したタングステン量が多い実施例3では、形成されたLW化合物が過多となっているため、その正極抵抗は実施例1より増加しているが、余剰Liは減少している。
【0115】
一方、比較例1はリチウム金属複合酸化物粉末に含まれるNi、CoおよびMの原子数に対するタングステンの量が、実施例1と同程度ではあるが、液を添加して混合する方法では均一に分散されず、タングステンおよびリチウムを含む化合物の形成に偏りが生じることで、その正極抵抗が実施例1より増加し、余剰Liについても増加している。
また比較例2では、一次粒子表面に本発明に係るLW化合物が形成されていないため、その正極抵抗が大幅に高くなり、高出力化の要求に対応することは困難である。
【0116】
従来例は、固体のタングステン化合物と混合したため、タングステンの分散が十分でないことと化合物中へのリチウムの供給がないため、その正極抵抗が大幅に高い結果となっていた。
以上の結果より、本発明の正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、初期放電容量が高く、正極抵抗も低いものとなり、優れた特性を有した電池となることが確認できる。