【実施例】
【0016】
図23、
図24において、符号1は、抽出容器であり、該抽出容器1内には、カキ肉から抽出物を抽出するための抽出用溶液2が貯留される。そして、該抽出用溶液2が貯留されている抽出容器1内に生ガキ肉3を収納し、カキ肉の各種有効成分を含有する抽出物を抽出する工程が行われる。
【0017】
ところで、従来では、カキ肉抽出物抽出時に、抽出容器1内のカキ肉3が収納された抽出用溶液2を攪拌し、抽出をより効率化することが従来行われていたことがあったが、カキ肉3自体を痛めることにもなり、この抽出工程時点での攪拌作業は行わない方が好ましい。
【0018】
前述のようにしてカキ肉抽出物が抽出された抽出用溶液2を次は濃縮工程によって濃縮されるものとなる。
【0019】
次に、この濃縮液6に、エタノール溶液4を加え、70%程度のエタノール濃度の溶液とする。その後、攪拌すると共に、沈殿物7と上澄み液8とに分離する。
【0020】
そして、
図23から理解されるように、沈殿物7は乾燥させ、打錠し、最終的に健康食品などに供される。
【0021】
ところで、従来では前記上澄み液8は、何らカキ肉抽出物の有効成分が入っていない、あるいは入っていてもきわめて微量であるとして廃棄していたことがある。しかし、その後、実験や研究の結果、この上澄み液8内にもカキ肉抽出物に関する多くの有効成分が存在していることが判明し、現在ではこの上澄み液8も廃棄することなく利用している。
【0022】
近年では、この上澄み液8を再度濃縮するとともに、その濃縮液を最終的に乾燥させる。そして、その乾燥物は、完全な固形物状にはならないが、ペースト状には形成することができ、もってペースト状の健康食品とするなどして製造している。そして、このペースト状の健康食品は、需要者側において白湯などで溶いて飲料用健康食品に供されるのである。
【0023】
まず、本実施例では、前記の上澄み液8を使用して後述する3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)入りのカキ肉抽出物を回収するものである。
【0024】
すなわち、前記のごとく沈殿物7と上澄み液8に分離した後、該上澄み液8につき、まず、エバポレータなどで前記上澄み液8のエタノール分を除去し、約半分の量になるまで濃縮する。
【0025】
たとえば40mL分の上澄み液8を濃縮して20mLの上澄み液8の濃縮液9を確保するがごときである。
【0026】
次いで、その20mLの濃縮液を約5倍になるよう希釈して希釈液10を生成する。たとえば100mLの希釈液10の量にするがごときである。このような工程を経るのはなるべく不純物を除去するためである。
【0027】
その後、たとえばこの100mLの希釈液10の溶液に、たとえば酢酸エチル5を200mL程度投入する。そして、その後攪拌するなどして、あるいは分離器を使用して水層10aと酢酸エチル層11とに分離させる。すると、時間の経過と共に、この混合溶液は、水層10a、そして酢酸エチル層11とに分離して形成されるものとなる。
【0028】
すると、この酢酸エチル層11内に後述する3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)が存在していることが確認できた。
【0029】
ここで、その確認できた3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)の量であるが、具体的には、約2L分収集した酢酸エチル層11から約3mgの3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)があることが確認できた。
【0030】
次に、前記3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)がどの様な工程でカキ肉抽出物から分離精製でき、もってカキ肉抽出物内での存在が確認できたのか、また3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)はどのような構造から構成されているのか、さらには3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)の抗酸化作用がどの様に確認できたのかなどを以下に説明する。
【0031】
まず、
図25に示すフローチャートに従って説明する。
【0032】
たとえば、エタノール溶液4を含んだ抽出用溶液2内にカキ肉3を投入してカキ肉有効成分抽出物の抽出を行なう(ステップ100、ステップ102)。
【0033】
抽出後はその抽出液を濃縮する(ステップ104)。そして、該濃縮液6にたとえば、エタノール溶液4を加え、70%程度のエタノール濃度の溶液とする(ステップ106)。その後、攪拌し、沈殿物7と上澄み液8とに分離する(ステップ108)。
【0034】
そして、前記上澄み液8を用い、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)抽出のための酢酸エチルを用いた抽出作業を行う。
【0035】
図25から理解されるように、前記エタノール分をなくし(ステップ110)、かつ約5倍に希釈した上澄み液8におのおのヘキサンからクロロホルム、酢酸エチル、そしてブタノールを投入し、おのおのの分画を生成する。
【0036】
例えば、ロータリーエバポレーターなどで100mLまで濃縮し、該濃縮液20mLに例えば蒸留水80mLを加えて分液ロートに移し、ヘキサン抽出を行う。
【0037】
ヘキサン層(200mL)を除去後に、水層からクロロホルム200mL、酢酸エチル200mL、ブタノール200mLの順で段階的に抽出する。
【0038】
すなわち、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)抽出のための有機溶媒の極性を段階的に高めていってそれらをそれぞれ投入した分画を生成し、おのおのの分画に3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)が抽出されているかを確認する(
図26参照)。
【0039】
次いで、前記それぞれの有機溶媒を投入した分画をたとえばエバポレータで濃縮した後、Thin-Layer-Chromatography(以下、TLCと称する。TLC:薄層クロマトグラフィー)により観察すると共に、いわゆるORAC法(OxygenRadicalAbsorbanceCapacity法)による抗酸化力の検索を行うのである。
【0040】
すると、その結果、TLC像では、ヘキサンからクロロホルム、酢酸エチル、そしてブタノールにかけて極性の低いものから高いものへと溶出されていくことが確認できた。
【0041】
また、ORAC法により酢酸エチル分画においてプラトーの部分が観察されて、当該酢酸エチル分画に高い抗酸化能が認められ、よって、この酢酸エチル分画に3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4- methoxybenzyl alcohol)が存在していると判断されるのである(
図27参照、ステップ112)。
【0042】
次いで、この酢酸エチル分画をエバポレータによりやはり濃縮した後、いわゆるシリカオープンカラムによる抽出を行い(
図28、ステップ1126)、酢酸エチル:クロロホルムが3:2の割合での抽出分画を選択し(
図29参照)、最終的にその分画をHPLC(逆相カラム)によって、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4- methoxybenzyl alcohol)を分離精製することができたのである(ステップ116)。
【0043】
このように、カキ肉抽出物を抽出した上澄み液8から3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を分離精製することができた。
【0044】
なお、以下の操作によっても3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を分離精製することができる。
【0045】
まず、0.075mol/Lリン酸緩衝液2.3、5mL、6.3x10
-7mol/LFluorescein(蛍光プローブ)0.3mL、7%(w/v)methylatedβ-cyclodextrin(Wako)の混合溶液に溶解したトロロックス(Wako)または被験試料0.05mLを37℃で10分間加温する。
【0046】
予め37℃に加温した1.28x10
-1mol/L2、2’-azobis(2-amidinopropane)dihydrochloride(AAPH、Wako)0.3mLを加え、例えばスターラ―で撹拌しながら、分光蛍光光度計(FP-6500、JASCO、東京)で10秒おきに5,000秒まで蛍光強度(励起波長493nm、蛍光波長515nm)を測定する。
【0047】
抗酸化活性は測定開始時点の蛍光測定値(例えば
図27中の縦軸)が維持される時間(同横軸)の長さで示され、その時間が長いほど抗酸化活性が強いことを意味するものである。
【0048】
すると、やはり前記4種類の抽出画分の中では酢酸エチル抽出画分に抗酸化活性が確認された。
【0049】
次いで、抗酸化活性が示された酢酸エチル抽出物について順相のシリカゲル薄層分取クロマトグラフィーを行う。シリカゲル薄層プレート(200×200mm、厚さ0.5mm、Merck、Darmstadt)を用い、移動相として酢酸エチル-クロロホルム(2:1、v/v)を用いた。展開後のプレートに紫外線ランプ(254nm)を照射し、紫外線吸収性の11画分を得た。各画分の試料をゲル担体とともに分離し、例えばメタノールで溶出後に抗酸化活性を測定すると、低極性側から6番目の画分に抗酸化活性が観察された。
【0050】
さらに、前記薄層クロマトグラフィーで抗酸化活性を示した画分を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製する。HPLCシステム(ポンプ:L-2130、UV検出器:L-2420、HITACHI、東京)、逆相カラム(APCELLPACC18、250×4.6mmI.D.、SHISEIDO、東京)、及び移動相5%アセトニトリル水溶液(流速1.0mL/min)を使用して室温で分離した。
【0051】
しかして、この操作によっても原料の160mLエタノール抽出液から最終的に3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4- methoxybenzyl alcohol)3.0mgが得られるものとなった。
【0052】
ところで、前記3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4- methoxybenzyl alcohol)の存在は、紫外線吸収スペトル(V-530、JASCO)、核磁気共鳴スペクトル(NMR:AMX-500、Bruker、Karlsruhe)、マススペクトル(JMS-T100CS、JEOL、東京)を測定して、構造解析を行い(
図36、
図37)。その結果、前記の分離精製物の構造が、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4- methoxybenzyl alcohol)と推定されるのである(
図37)。
【0053】
条件
UV(EtOH)、λ
max270nm;
1H-NMR(500MHz、Acetone-d
6)δ
H:7.82(2H、br.s、aromatic-OH)、6.40(2H、s、H-2、6)、4.42(2H、s、H-1’)、3.94(1H、br.s、-OH)、3.79(3H、s、-OMe);
13C-NMR(125MHz、Acetone-d
6)δ
C:151.1(C-3、5)、139.4(C-1)、13、5.1(C-4)、106.5(C-2、6)、64.5(C-1’)、60.6(-OMe);ESI-TOFMS、m/z153.05451[M-OH]
+(calc.forC
8H
8O
3、153.05517)、171.06911[M+H]
+(calc.forC
8H
11O
4、171.06573)。
【0054】
ここで、分離精製された3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)の性状を説明すると、その性状は黄淡色の粉末で、脂溶性及び水溶性を示している。
【0055】
また、当該3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)は、
図30に示すようなフェノール性化合物であることが確認された。
【0056】
なお、ここで、食品の抗酸化物質の測定法については、これまでに様々報告されてきているが、どれも一長一短があり、統一または公定法化(分析値の妥当性確認)された方法はなかった。しかしながら、米国では、すでにORAC値を表記したサプルメントや飲料が上市されており、世界標準となりつつある。
【0057】
よって、本実施例では、ORAC法により抗酸化力を測定することとしている。
【0058】
ところで、日本ではすでにORAC法の公定法化の研究を行う研究会(AntioxidantUnit研究会)が出来ている。ORAC法の利点としては水溶性、脂溶性のどちらのサンプルも測定でき、前述したどの有機溶媒分画も測定できることがあげられる。
【0059】
また一回の測定で抗酸化作用の持続時間とその力価を合わせて評価でき、実験操作が容易であるなどから本実施例での測定に有利であったと考える。
【0060】
ここで、ORAC法の測定原理について若干説明する。まず、一定の活性酸素種を発生させ、それによって分解される蛍光強度を測定し、経時的に減少する蛍光強度の曲線を描いた場合、この反応系に抗酸化物質が共存すると蛍光物質の蛍光強度の減少速度が遅延する。よって、この原理により抗酸化物質の存在が確認できるものとなるのである(
図31参照)。
【0061】
しかして、本発明における3、5-ジヒドロキシ-4-メトcキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を前記ORAC法によりその抗酸化能を観察したところ、いわゆる標準物質(Trolox)と同じように延滞期が存在し、強い抗酸化活性が観察できたのである(
図32参照)。
【0062】
本実施例では、前述した上澄み液8から探査すべく、ORAC法を用い、酢酸エチル分画において高い抗酸化力を有する3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4- methoxybenzyl alcohol)を発見できたのである。
【0063】
次に、培養肝細胞の酸化実験と低密度リポタンパク質(LDL)の酸化実験の両者において、当該3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4- methoxybenzyl alcohol)の抗酸化活性を明らかにすることとする。
【0064】
(当該物質の正常ヒトLDLの金属酸化に対する抗酸化活性について)
硫酸銅により正常ヒトLDLを酸化する際に、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4- methoxybenzyl alcohol)を添加し、LDLの酸化度をTBARS法により定量した(
図33参照)。すると、当該物質の180μM添加時にはControl(0μM)と同様に、lag-timeは観察されなかった。Lag-timeとは曲線の立ち上がりが見られない時間を指し、この時間が長くなるほど抗酸化活性があると判断される。しかし、270μM添加時には2時間、360μMでは4時間、450μM及び540μMでは5時間と、用量依存性にlag-timeは延長し、当該3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4- methoxybenzyl alcohol)によるLDLの金属酸化の抑制が確認されたのである。
【0065】
(肝細胞培養系を用いた抗酸化能の観察について)
diphenyl-1-pyrenlphosphine(DPPP)はそれ自体、蛍光を発生しないが、酸化されると蛍光を発生する。ここで、diphenyl-1-pyrenlphosphine(DPPP)の蛍光発色の原理を
図34に示す。この蛍光色素を用い、肝臓の株化細胞(C3A)の酸化度を観察したものである。
【0066】
そして、本発明における3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を添加した細胞を5日間培養し、その後、DPPPで標識した細胞を2、2’-azobis(2-methylpropionamidine)dihydrochloideにより酸化し、各細胞のDPPPの蛍光強度を測定した。その結果、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4- methoxybenzyl alcohol)を細胞に添加しなかったものと比較し、添加した細胞は濃度依存的に蛍光強度が低く、当該抗酸化物質3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4- methoxybenzyl alcohol)による酸化抑制が観察されたのである(
図35参照)。
【0067】
以上により、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)は、抗酸化性能を有することが明らかとされた。
【0068】
そして、当該3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)は、本発明によって効率よくカキ肉抽出物より抽出できるものであり、もって該カキ肉抽出物により抗酸化剤組成物や抗酸化剤が効率よく多量に回収、製造できることとなる。
【0069】
なお、本発明の発明者らは、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4- methoxybenzyl alcohol)の構造を確認するために、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4- methoxybenzyl alcohol)の化学合成を行い、これに成功した。
【0070】
該合成の全工程を
図38に示す。
【0071】
合成された物質につき核磁気共鳴スペクトル(NMR:AMX-500、Bruker、Karlsruhe)、マススペクトル(LXQ、ThermoScientific、Waltham)を測定して、その構造確認を行うものである。
【0072】
まず、没食子酸メチル(5.00g、27.2mmol)のジメチルホルムアミド(DMF)溶液(45mL)に炭酸カリウム(4.50g、32.6mmol)を加え85℃で1時間撹拌した。その後、氷浴中でヨウ化メチル(4.00g、28.2mmol)3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とする、
を徐々に滴下し30分間撹拌し、さらに室温で24時間撹拌した。反応液をろ過して精製水を加え、酢酸エチルで抽出を行い、分離した酢酸エチル層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥させた。
【0073】
抽出液は、濃縮後にシリカゲル・カラムクロマトグラフィー(溶媒:クロロホルム→クロロホルム-酢酸エチル(3:1、v/v))で精製し、4位メトキシ体を2.79g(収率51.9%)得た。
【0074】
条件
1H-NMR(500MHz、CD
3OD)δ
H:7.01(2H、s、H-2、6)、3.85(3H、s、-OMe)、3.82(3H、s、-OMe);
13C-NMR(125MHz、CD
3OD)δ
C:168.5(-C=O)、151.7(C-3、5)、141.2(C-1)、126.5(C-4)、110.1(C-2、6)、60.7(-OMe)、52.5(-OMe);ESI-ITMS、m/z199[M+H]
+、197[M-H]
-.
【0075】
次いで、氷浴中(0℃)で、水素化リチウムアルミニウム(469mg、12.4mmol)のテトラヒドロフラン(THF)溶液(6mL)に、没食子酸メチルの4位メトキシ体(560mg、2.8mmol)のテトラヒドロフラン溶液(4mL)を注意深く滴下した。 その後、混合液を60〜65℃で6時間撹拌し、酢酸エチルと10%硫酸水溶液を加えて反応を停止した。反応液に精製水を加え、酢酸エチルで抽出を行い、分離した酢酸エチル層を飽和食塩水で洗浄後に硫酸ナトリウムで乾燥させた。抽出液は、濃縮後に、シリカゲル・カラムクロマトグラフィー(溶媒:クロロホルム-メタノール(50:1、v/v)→クロロホルム-メタノール(50:3、v/v))で精製し、還元体、すなわち合成3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4- methoxybenzyl alcohol)を175.9mg(収率36.6%)得たのである。
【0076】
条件
1H-NMR(500MHz、Acetone-d
6)δ
H:7.82(2H、br.s、aromatic-OH)、6.40(2H、s、H-2、6)、4.42(2H、s、H-1’)、3.94(1H、br.s、-OH)、3.79(3H、s、-OMe);
13C-NMR(125MHz、Acetone-d
6)δ
C:151.1(C-3、5)、139.4(C-1)、13、5.1(C-4)、106.5(C-2、6)、64.5(C-1’)、60.6(-OMe);ESI-ITMS、m/z171[M+H]
+、153[M-OH]
+.
【0077】
(3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)とその合成品の物性パラメータの比較)
3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)とその合成品との間では、上記の
1H-NMR、
13C-NMR、ESI-MSの各種スペクトルデータが一致し、HPLCの保持時間及び薄層クロマトグラフィーの移動度が一致したことにより、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)であることが確認できる。
【0078】
前述のごとく、カキより得られた抗酸化物質、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4- methoxybenzyl alcohol)、は、高度に水酸化された芳香族化合物といいうる。
【0079】
これまでにも、水酸化された芳香族、即ちフェノール化合物においては、コーヒー酸に代表されるようなクロロゲン酸、ニグニン類やフラボノイドなど、多くの物質が抗酸化活性を有することが報告されている。
【0080】
これらの物質は、ペルオキシド、特にペルオキシラジカル(ROO・)の捕捉剤として働くことにより抗酸化活性を発揮することが知られている。しかして、本発明で同定された抗酸化物質は、ラジカル消去能を観察するORACやAAPHを用いる細胞実験で高い抗酸化活性を示している。
【0081】
このことは、当該物質がラジカル捕捉剤として抗酸化能を発揮する可能性を強く示唆したものともいいうる。
【0082】
本発明によって精製された当該物質は、両親媒性であるが、数少ない水溶性抗酸化剤の一つとして広く用いられるL(+)-アスコルビン酸と比較してORAC値が3倍大きかったことは、当該物質の抗酸化剤としての効果を強く期待させるものである。当該物質が用量依存的にLDLの酸化を抑制したことは、同物質がLDLの酸化防止を通じて抗動脈硬化作用を発揮する効果を示唆している。
【0083】
一方、生細胞の酸化をリアルタイムに観察する目的で、cis-parinaricacid(PnA)、fluoresceinatedphosphoethanolamine、undecylamine-fluoresceinなどのプローブが開発されてきた。中でもPnAが生細胞の酸化を観察するプローブとしてよく使われているが、PnAはしばしば細胞毒性があり、細胞の生理学的活性に影響を及ぼすことが報告されている。
【0084】
本発明で使用したDPPPは、細胞増殖や細胞毒性などに少なくとも3日間は影響を与えず、DPPP及び酸化されたDPPPは生細胞の細胞膜に局在し、少なくても2日間は安定であることが報告されている。このDPPP自体は蛍光を発しないが、酸化されたDPPPは蛍光を発する。このDPPPを用い、従来、生細胞の過酸化脂質を観察する方法が確立し、ヒト単球系の浮遊細胞(U937)を用いて、ビタミンEの抗酸化力を確認している。
【0085】
本発明において、当該抗酸化物質が肝臓由来の株化細胞であるC3A細胞の酸化を有意に抑制したことは、本発明による当該物質が少なくとも肝細胞内においても抗酸化活性を発揮できることを示唆するのである。この結果は、上述のLDL酸化抑制と併せて、本発明物質の抗酸化剤としての効果を大きく期待させる。
【0086】
酸化ストレスが関連する疾患として、従来は動脈硬化性疾患に大きな関心が向けられてきたが、近年では非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などの異所性脂肪蓄積症にも注目が集まりつつある。NASHでは、活性酸素が肝細胞壊死や炎症性サイトカイン生産、肝線維化に関係することが知られている。またNASHでは血中の酸化LDL濃度が高いことが報告されている。さらに、NASHの炎症性サイトカイン産生亢進やコラーゲン産生亢進に関与する肝星細胞は、酸化LDLにより活性化されることが報告されている。
【0087】
本発明で見出されたカキの新規抗酸化物質がNASHの予防に貢献できるものと大きく期待できる。
【0088】
このように、本発明では、カキより新規抗酸化物質を見出し、その化学構造を3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジ ルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)と決定した。さらには、その化学合成法をも確定した。
【0089】
さらに、本発明による当該物質のORAC値は、その精製物が1.24±0.3、5μmolTE/μmol、その合成物が1.47±0.40μmolTE/μmolであり、水溶性抗酸化物質のクロロゲン酸とL(+)-アスコルビン酸の中間の抗酸化能の強さであった。
【0090】
また、ヒトLDLの金属酸化に対して、本発明による当該物質3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4- methoxybenzyl alcohol)は用量依存的に抗酸化能を示し、C3A細胞を用いた抗酸化能実験においても、当該物質は用量依存的に抗酸化能を示したことを付言する。
【0091】
次に、本件発明者らは、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を高濃度含有するマガキの抽出物をNASHモデルマウスに投与し、肝臓の保護作用を有するか否かの実験を行った。
【0092】
しかして、
図1乃至
図22に本発明を説明する実験データなどを示す。
【0093】
図1から理解されるように、マウスのNC群には普通食(MF)の餌料を与え、マウスのHF+群には高脂肪食(HFD-60)と3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコールを高濃度含有するマガキの抽出物が5%含有された餌料を与え、マウスのHF-群には高脂肪食(HFD-60)のみの餌料を与えた。
なお、餌料はマウスが自由に食べる分だけ与えるものとした。
【0094】
生後4週目のマウスを実験開始時とし、実験開始20週目から2日おきに尾静脈に0.2mgの酸化LDLの注射を計8回注射する。最終の酸化LDLの注射後、12時間後に屠殺する。屠殺の16時間前に餌止めを行い、ジエチルエーテルにより麻酔し、脱血後、サンプルを採取する。
【0095】
次に、
図2に分析項目を示す。
【0096】
分析項目として、餌料は摂餌量(g)を、外観はマウスの体重(g)、肝重量(g)及び体重当たりの肝重量(%)を、肝臓の組織学的観察は脂肪蓄積度、バルーニング度、炎症度及び線維化度を、肝臓は中性脂肪(mg/dl)、総コレステロール(mg/dl)、遊離脂肪酸(mEq/L)及びTBARS(μM)を、血漿はAST(U/L)、ALT(U/L)、グルコース(mg/dL)、インスリン(μg/L)、インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)、中性脂肪(mg/dL)、総コレステロール(mg/dL)及び遊離脂肪酸(mEq/L)を挙げて分析する。
【0097】
図3に各マウスのHF+群とHF-群の摂餌量(g)を示す。
【0098】
摂餌量は、最初に与えた餌量と3、4日後の餌量を計測して、最初に与えた餌量から3、4日後の餌量を引いた量が摂餌量となる。
【0099】
図3の(a)は実験開始1〜23週間の摂餌量を表し、
図3の(b)は各マウスのHF+群とHF-群における生涯の摂餌量を表している。ここで、
図3の(a)は実験開始1〜10週目ごろまではHF-群、HF+群の各マウスにおいて、標準時偏差が大きく出ているが、これはマウスがエサを容器の外に出し、まき散らすためである。しかしながら、
図3の(b)より各マウスのHF+群とHF-群における生涯の摂餌量は統計的に有意ではなく、生涯の摂餌量は同じと考えられる。
【0100】
図4にマウスの外観と肝臓の色調を分析した結果を示す。
【0101】
マウスのNC群とマウスのHF+群又はマウスのHF-群の外観と肝臓の色調を比較してみると、HF+群とHF-群の生涯の摂餌量は同じであるにもかかわらず、HF+群の外観と肝臓の色調はNC群に近いことが確認された。すなわち、マウスのHF+群に抗肥満作用が確認できた。
【0102】
図5に実験開始1〜23週間のNC群、HF-群及びHF+群の各マウスにおける体重の変化を分析した結果を示す。
【0103】
摂餌後6週目よりHF-群のマウスの体重とHF+群のマウスの体重では、HF+群のマウスの体重の方が軽くなっていることが確認された。すなわち、摂餌後6週目よりマウスのHF+群に抗肥満作用が確認できた。
【0104】
NC群、HF-群及びHF+群の各マウスにおける、
図6の(a)はマウスの体重、
図6の(b)は肝重量、
図6の(c)は体重当たりの肝重量を分析した結果を示す。
【0105】
図6の(c)よりHF+群の体重当たりの肝重量がHF-群の体重当たりの肝重量より減少していることが確認された。すなわち、マウスのHF+群に抗肥満作用が確認できたのである。
【0106】
図7は病理学的観察におけるスコアの基準について、
図8は各判定の正常細胞及び病的細胞の写真を示す。
【0107】
図7の表中のスコア0は
図8に示す正常細胞に該当し、スコア2−3は
図8に示す病的細胞に該当する。スコアの判断基準は「脂肪蓄積度」、「バルーニング度」、「炎症度」及び「線維化度」で判定する。
【0108】
「脂肪蓄積度」においては脂肪染色で赤く染まる占有率を画像解析ソフトによって求め、それぞれの占有率で判定する。
【0109】
「バルーニング度」はHE染色で膨れている細胞が1視野中にどのくらいの頻度か(点在か、汎細葉性か)を数え判定する。
【0110】
「炎症度」はHE染色で炎症があると青色に染まるリンパ球やマクロファージの浸潤が肝臓にみられるので、1視野中にどのくらいの病巣があるかを数え判定する。
【0111】
「線維化度」は線維を青く染めるマッソントリクローム染色で細胞周辺と静脈だけなのか、又はそれらが繋がっているかの病態で判定する。
【0112】
図9にNC群、HF-群及びHF+群の各マウスの肝臓の病理学的観察の結果を示す。
【0113】
各判定結果より、HF+群の肝臓において脂肪蓄積度、バルーニング度、炎症度及び線維化度の減少が確認できた。
【0114】
図10にNC群、HF-群及びHF+群の各マウスの肝臓の各脂質の濃度を分析した結果を示す。
【0115】
各判定結果より、HF+群の肝臓において中性脂肪、総コレステロール、遊離脂肪酸及び脂質の過酸化度(TBARS)の減少が確認できた。
【0116】
図11にNC群、HF-群及びHF+群の各マウス血漿中のAST活性、ALT活性について分析した結果を示す。
【0117】
AST活性、ALT活性の判定結果より、HF+群の血漿においてAST活性、ALT活性の減少が確認できた。
【0118】
図12にNC群、HF-群及びHF+群の各マウス血漿中のグルコース、インスリン濃度及びインスリン抵抗性指数について分析した結果を示す。
【0119】
ここで、インスリン抵抗性指数は、
インスリン抵抗性指数=空腹時インスリン値(mU/ml)×空腹時血糖値(mmol/L)/22.5
の数式が使用される。
【0120】
各判定結果より、HF+群の血漿においてグルコース、インスリン濃度及びインスリン抵抗性指数の減少が確認できた。
【0121】
図13にNC群、HF-群及びHF+群の各マウスの血漿の各脂質の濃度を分析した結果を示す。
【0122】
各判定結果より、HF+群の血漿において中性脂肪、総コレステロール及び遊離脂肪酸の減少が確認できた。
【0123】
図14、
図15に肝臓における炎症反応に関する遺伝子について示す。
【0124】
図15を参照して説明すると、NASHモデルマウスの肝臓において、活性酸素種(ROS)により肝細胞が炎症を受けると、そこにマクロファージやリンパ球が集合してくるので、マクロファージの遊走を促進するサイトカインのIL-6やTNF-αの遺伝子が上昇するのである。またマクロファージやリンパ球を特異的に認識するマーカーであるF4/80やCD3の遺伝子が上昇する。
【0125】
図14はNC群、HF-群及びHF+群の各マウスの炎症反応に関する肝臓の遺伝子を、
図14(a)はTNF-αの遺伝子について、
図14(b)はIL-6の遺伝子について、
図14(c)はマクロファージのマーカーであるF4/80の遺伝子について、
図14(d)はリンパ球のマーカーであるCD3の遺伝子について分析した結果である。
【0126】
各判定結果より、HF+群はHF-群と比べて、これらの遺伝子の発現が低下していた。すなわち、HF+群の肝臓において炎症反応に関連する遺伝子の減少が確認できた。
【0127】
図16、
図17に肝臓におけるアポトーシスに関する遺伝子について示す。
【0128】
図17を参照して説明すると、NASHモデルマウスの肝臓において、活性酸素種(ROS)により肝細胞が炎症を受けると、アポトーシスによる細胞死が観察される。これに伴い、肝臓において、アポトーシスを促進する遺伝子であるBaxの上昇し、アポトーシスを抑制する遺伝子であるBcl2, Bcl-xl, p53 の減少が観察される。
【0129】
図16はNC群、HF-群及びHF+群の各マウスのアポトーシスに関する肝臓の遺伝子を、
図16(a)はBax遺伝子について、
図16(b)はBcl-xl遺伝子について、
図16(c)はBcl2遺伝子について、
図16(d)はp53遺伝子について分析した結果である。
【0130】
各判定結果より、HF+群はHF-群と比べて、Baxの低下やBcl2, Bcl-xl, p53の上昇がみられた。すなわち、HF+群の肝臓においてアポトーシスに関連する遺伝子の減少及び抗アポトーシスに関連する遺伝子の増加が確認できた。
【0131】
図18、
図19に肝臓におけるアポトーシスに関する遺伝子について示す。
【0132】
図19を参照して説明すると、NASHモデルマウスの肝臓において、活性酸素種(ROS)により肝細胞が炎症を受けると、線維化が観察される。これに伴い、肝臓において、線維化を促進する遺伝子であるCOL1a2,COL3,COL4,TGFβ1,TGFβ2,TIMP1,αSMAの上昇が観察される。
【0133】
図18はNC群、HF-群及びHF+群の各マウスの線維化に関する肝臓の遺伝子を、
図18(a)はCOL1a2の遺伝子について、
図18(b)はCOL3の遺伝子について、
図18(c)はCOL4の遺伝子について、
図18(d)はTGFβ1の遺伝子について、
図18(e)はTGFβ2の遺伝子について、
図18(f)はTIMP1の遺伝子について、
図18(g)はαSMAの遺伝子について分析した結果である。
【0134】
各判定結果より、HF+群はHF-群と比べて、COL1a2,COL3,COL4,TGFβ1,TGFβ2,TIMP1,αSMAの低下がみられた。すなわち、HF+群の肝臓において線維化に関連する遺伝子の減少が確認できた。
【0135】
図20に分析項目の結果のまとめを示す。
【0136】
図21、
図22に示すように、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコールを高濃度含有するマガキからの抽出物は、NASHモデルマウスにおいて、抗肥満、抗脂肪肝、抗炎症、抗線維化、抗アポトーシス、抗酸化、血糖値低下、血漿脂質低下などの優れた効果が確認できたのである。
【0137】
さらに、実験データの説明図(
図39乃至
図50)を示して説明する。
【0138】
肝臓の炎症反応の特徴であるリンパ球とマクロファージの浸潤を抗-CD3抗体(リンパ球に特異的な抗体)と抗-F4/80 (マクロファージに特異的な抗体)を用いて免疫組織化学的観察を行った。
【0139】
図39には両抗体を用いたNC、HF+、HF-群の代表的な染色像を示す。HF+においては、両抗体により点在している染色像が見られた。HF-群ではNC群と比較し、リンパ球とマクロファージの肝臓への浸潤が観察された。一方、HF+群ではHF-群と比較し、両血球とも浸潤はほとんど認められなかった。
【0140】
図40では
図39で行った両免疫染色像の占有率をImageJを用いて定量化したグラフを示す。HF-群ではNC群と比較し、統計学的に優位に染色像の増加が観察されたが、HF+群ではHF-群と比較し、統計学的に優位な減少が観察された。これらの結果より、前述のマガキの抽出物によるNASHモデルマウスの抗炎症作用が観察された。
【0141】
肝臓のアポトーシスの特徴であるDNAの断片化をTUNEL assayを用いて観察を行った。
図41ではTUNEL assayにおける代表的な染色像と染色数のグラフを示す。HF-群においては、細胞の核が染色している像が見られた。染色細胞数のグラフから、HF-群ではNC群と比較し、統計学的に優位にDNAの断片化を起こしている細胞数の増加が観察されたが、HF+群ではHF-群と比較し、統計学的に優位な減少が観察された。これらの結果より、前述のマガキの抽出物によりNASHモデルマウスの抗アポトーシス作用が観察された。
【0142】
肝臓の線維化の特徴であるコラーゲンの蓄積を抗-コラーゲン抗体を用いて観察を行った。
図42では抗-コラーゲン抗体を用いたNC、HF+、HF+群の代表的な免疫組織化学染色像、及びImageJを用いて定量化したグラフを示す。HF-群においては、細静脈周囲に顕著なコラーゲンの染色像が見られた。HF-群ではNC群と比較し、統計学的に優位にコラーゲンの蓄積を起こしている領域の増加が観察されたが、HF+群ではHF-群と比較し、統計学的に優位な減少が観察された。これらの結果より、マガキの抽出物によりNASHモデルマウスの抗線維化作用が観察された。
【0143】
肝臓における酸化の状態をDNAの酸化マーカーである8OHdGの抗体を用いて、タンパク質マーカーでるdityrosineの抗体を用いて観察を行った。
図43には両抗体を用いたNC、HF+、HF+群の代表的な免疫組織化学染色像を示す。抗-8OHdG抗体を用いた染色像では細胞の核に、抗-dityrosine抗体を用いた染色像では細胞質に染色像が見られた。HF-群ではNC群と比較し、両抗体とも染色領域の増加が観察された。一方、HF+群ではHF-群と比較し、両抗体とも染色領域の減少が観察された。
【0144】
図44では
図43で行った抗-8OHdG抗体と抗-dityrosine抗体での免疫染色像の占有率をImageJを用いて定量したグラフ、並びに脂質の酸化状態であるTBARS量のグラフを示す。両抗体での免疫染色像の占有率、及びTBARS量とも、HF-群ではNC群と比較し、統計学的に優位な増加が観察された。一方、HF+群ではHF-群と比較し、統計学的に優位な減少が観察された。
【0145】
図45のイラストに示すように、前記マガキの抽出物によりNASHモデルマウスの肝臓におけるDNA、脂質、及びタンパク質における抗酸化性が観察された。
【0146】
図46のイラストに示すように、脂肪肝やインスリン抵抗性に関わる転写因子PPARγ・と受容体CD36を示す。先行研究により、以下の報告がある。
1.ヒトの脂肪肝におけるPPARγの主な転写産物はCD36であった。
2.NAFLD患者において、インスリン抵抗性や高インスリン血症にCD36が深く関与していた。
【0147】
これらのことから、PPARγ、CD36の発現量を観察することは脂肪肝やインスリン抵抗性を観察するうえでも大変重要である。
【0148】
肝臓での転写因子PPARγを抗- PPARγ・抗体、受容体CD36を抗- CD36抗体を用いて観察を行った。
図47には両抗体を用いたNC、HF+、HF+群の代表的な免疫組織化学染色像を示す。抗- PPARγ抗体を用いた染色像では細胞の核に、抗-CD36抗体を用いた染色像では細胞質に染色像が見られた。HF-群の肝臓ではNC群と比較し、両抗体とも染色領域の増加が観察された。一方、HF+群ではHF-群と比較し、両抗体とも染色領域の減少が観察された。
【0149】
図48では
図47で行った免疫染色像の占有率をImageJを用いて定量化したグラフを示す。HF-群ではNC群と比較し、占有率の増加が観察されたが、HF+群ではHF-群と比較し、統計学的に優位な占有率の減少が観察された。これらの結果より、前記したマガキの抽出物によりNASHモデルマウスの肝臓において、統計学的に優位な両タンパク質発現量の減少が観察された。
【0150】
図49では肝臓での転写因子PPARγ、受容体CD36の遺伝子発現量を示す。HF-群ではNC群と比較し、両遺伝子発現量の増加が観察されたが、HF+群ではHF-群と比較し、統計学的に優位な両遺伝子発現量の減少が観察された。
図47-49の結果より、マガキの抽出物によりNASHモデルマウスの肝臓において、統計学的に優位なPPARγ、CD36の発現量の減少が観察された。
【0151】
図50に
図39乃至
図49における分析項目の結果のまとめを示す。