(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6978295
(24)【登録日】2021年11月15日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】酸性水中油型乳化調味料の耐熱性付与方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/60 20160101AFI20211125BHJP
【FI】
A23L27/60 A
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-231058(P2017-231058)
(22)【出願日】2017年11月30日
(65)【公開番号】特開2019-97465(P2019-97465A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹内 秀和
【審査官】
田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−205601(JP,A)
【文献】
特開2004−337112(JP,A)
【文献】
特開2004−337113(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第1638647(CN,A)
【文献】
米国特許第05314706(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00−27/40
A23L 27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない食用油脂含有量が5質量%以上85質量%以下である酸性水中油型乳化調味料の耐熱性付与方法であって、
前記ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料に対して、
食用油脂含有量が5質量%以上85質量%以下であるホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料を混合後の混合酸性水中油型乳化調味料における油含有量に対して、ホスフォリパーゼA処理卵黄含有量(生換算)を0.2質量%以上(リゾ化率50%換算として)となるように混合し、
該混合酸性水中油型乳化調味料の食用油脂含有量が5質量%以上85質量%以下である、
ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料の耐熱性付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性がない酸性水中油型乳化調味料に耐熱性を付与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マヨネーズ等の酸性水中油型乳化調味料は、サラダにかける、または野菜と和えるだけでなく、調理パン、ピザ、鮭のマヨネーズ焼き等のオーブンで加熱する料理にも用いられる。
【0003】
一般に、加熱する料理にマヨネーズ等の酸性水中油型乳化調味料を用いる場合、加熱時に前記酸性水中油型乳化調味料の乳化状態が悪くなり油分離が生じるため、例えば、乳清蛋白質と卵白を含有させることで酸性水中油型乳化食品に耐熱性を付与することがこれまで研究されてきた(特許文献1)。
【0004】
一方で、加熱する料理は、酸性水中油型乳化調味料の油分離が完全に抑制されるよりも、適度な油分離があったほうが料理に照りやツヤがみられ、料理として好ましい外観となる場合がある。
【0005】
このため、酸性水中油型乳化調味料の販売メーカーはお客様の用途に合わせた油分離程度、すなわち、お客様の用途に合わせた耐熱性が付与された酸性水中油型乳化調味料を、前記酸性水中油型乳化調味料の配合を都度調整することで販売してきた。
【0006】
しかしながら、都度配合を調整することで、あらゆるお客様の要望に合った耐熱性が付与された酸性水中油型乳化調味料を製造、販売することは現実的でなく、より簡便に耐熱性を付与できる方法が求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−318354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、耐熱性がない酸性水中油型乳化調味料に耐熱性を付与する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料の耐熱性付与方法であって、前記ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料に対して、ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料を混合することにより、意外にも、耐熱性がない酸性水中油型乳化調味料に耐熱性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料の耐熱性付与方法であって、
前記ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料に対して、
ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料を混合する、
ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料の耐熱性付与方法、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐熱性がない酸性水中油型乳化調味料に耐熱性を付与する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、格別に断らない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
<本発明の特徴>
本発明の耐熱性付与方法は、ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料の耐熱性付与方法であって、前記ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料に対して、ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料を混合することにより、意外にも、耐熱性がない酸性水中油型乳化調味料に耐熱性を付与することができることを特徴とする。
【0013】
<酸性水中油型乳化調味料>
本発明の酸性水中油型乳化調味料とは、pHを4.6以下に調整された調味料であり、食用油脂が油滴として水相中に略均一に分散し水中油型に乳化された調味料であり、前記食用油脂の含有量は5%以上85%以下である。本発明の酸性水中油型乳化調味料としては、例えば、マヨネーズやマヨネーズ類、乳化ドレッシング、乳化ダレ等の酸性水中油型乳化調味料が挙げられるが、本発明は、これらの乳化調味料に限定するものではない。
【0014】
<ホスフォリパーゼA処理卵黄>
本発明のホスフォリパーゼA処理卵黄とは、卵黄の主成分である卵黄リポ蛋白質(卵黄リン脂質、卵黄油およびコレステロール等の卵黄脂質と卵黄蛋白の複合体)の構成リン脂質にリン脂質分解酵素であるホスフォリパーゼA1あるいはホスフォリパーゼA2を作用させてリン脂質の1位あるいは2位の脂肪酸残基を加水分解してリゾリン脂質とした卵黄をいう。前記ホスフォリパーゼA処理卵黄のリゾ化率は、TLC−FID法(イアトロスキャン)で分析した値が10%以上80%以下であると好ましく、20%以上70%以下であるとより好ましい。なお、本発明におけるリゾ化率とは、リン脂質のリゾリン脂質への変換率のことであり、すなわち全リン脂質に対するリゾリン脂質の質量百分率のことである。
【0015】
また、本発明で用いるホスフォリパーゼA処理卵黄としては、上記酵素処理に加えその他の処理を組み合わせたものを用いても良い。このような処理としては、例えば、ショ糖等の糖類あるいは食塩等の塩類の添加混合処理、脱糖処理、超臨界二酸化炭素あるいは亜臨界二酸化炭素処理によるトリグリセリドおよびコレステロールの除去処理、噴霧乾燥、凍結乾燥等による乾燥処理、酵素失活処理等の処理が挙げられる。
【0016】
<ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料>
本発明のホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料とは、酸性水中油型乳化調味料の製造時に、前述したホスフォリパーゼA処理卵黄を配合した酸性水中油型乳化調味料である。前記ホスフォリパーゼA処理卵黄の含有量は、リゾ化率が50%換算のとき、風味の観点から上限値が生換算で15%以下、また乳化安定性の観点から下限値が生換算で0.5%以上にすると良い。なお、前記ホスフォリパーゼA処理卵黄の含有量は、後述するように、ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料に対して、ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料を混合することで調製された酸性水中油型乳化調味料(以下、「混合酸性水中油型乳化調味料」という)における油含有量に合わせて調整してもよい。
【0017】
<酸性酢中油型乳化調味料に含まれるその他の成分>
本発明のホスフォリパーゼA処理卵黄を含有するあるいは含有しないいずれの酸性水中油型乳化調味料は一般的にマヨネーズ等の酸性水中油型乳化調味料に配合される原料であれば特に限定されることなく用いることができる。例えば、水、食酢(醸造酢)、食塩、アミノ酸等の調味料、卵黄、卵白、乳化剤、増粘剤、澱粉、加工澱粉、はちみつ、香辛料抽出物、着色料および着香料、レモン汁、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸エステル、トコフェロール類、ポリフェノール、カテキン、ローズマリー抽出物、EDTAを含むことができ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
<酸性水中油型乳化調味料の製造方法>
本発明のホスフォリパーゼA処理卵黄を含有するあるいは含有しないいずれの酸性水中油型乳化調味料の製造方法も、常法に則り製造すればよく、例えば、均一にした水相原料と油相原料をミキサー等で粗乳化し、次にホモミキサーやコロイドミル等で仕上げ乳化をした後、容器等に充填密封することができる。
【0019】
<ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料の混合量>
本発明のホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料に対する、ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料の混合量は、混合酸性水中油型乳化調味料における油含有量に対して、前記混合酸性水中油型乳化調味料におけるリゾ化率50%換算のホスフォリパーゼA処理卵黄含有量(生換算)が、好ましくは0.2%以上、より好ましくは0.32%以上となるようにすればよい。前記混合酸性水中油型乳化調味料における油含有量に対するホスフォリパーゼA処理卵黄の含有量(生換算)が、前記範囲であることにより、本発明の効果を奏し易い。
【0020】
<ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料の混合方法>
本発明のホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料に対する、ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料の混合方法は、特に限定されることはなく、例えば、ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料を前述の混合量に従って適量採取し、ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料とゴムベラ等で20回〜30回程度撹拌すればよい。
【実施例】
【0021】
<ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料の調製>
配合1のホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料を調製した。清水に生卵黄5kg、食酢(酸度10%)9kg、砂糖2.2kg、食塩1.8kg、グルタミン酸ナトリウム等の調味料0.3kg、芥子粉0.2kgを加えミキサーで均一にし、水相を調製した後、食用油脂76kgを注加して粗乳化した。得られた粗乳化物をコロイドミルで仕上げ乳化を行った後、1Lの袋に充填密封した。
【0022】
<配合1>
生卵黄 5 %
食酢(酸度10%) 9 %
砂糖 2.2 %
食塩 1.8 %
グルタミン酸ナトリウム 0.3 %
芥子粉 0.2 %
食用油脂 76 %
清水 残余
【0023】
<ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料の調製>
配合1における生卵黄5%を、リゾ化率50%であるホスフォリパーゼA処理卵黄(生換算)5%に置き換えた以外は配合1と同様にして、ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料を調製した。
【0024】
[実施例1]
混合酸性水中油型乳化調味料における前記ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料が5%となるように、前記ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料に添加し、ゴムベラで20回撹拌することで、実施例1の混合酸性水中油型乳化調味料を調製した。
【0025】
[試験例1乃至3]
実施例1の混合酸性水中油型乳化調味料におけるホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料の割合を表1のように変化させて、混合酸性水中油型乳化調味料を調製し、試験例1乃至3とした。
【0026】
[実施例2]
配合1のホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料の食用油脂含有量を76%から80%に変更した以外は配合1と同様にして、実施例2のホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料を調製した。その後、実施例1で使用したホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料が混合酸性水中油型乳化調味料において10%となるように、前記ホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料に添加し、ゴムベラで20回撹拌することで、実施例2の混合酸性水中油型乳化調味料を調製した。
【0027】
[試験例4及び5]
実施例2の混合酸性水中油型乳化調味料におけるホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料の割合が表2のように変化させて、混合酸性水中油型乳化調味料を調製し、試験例4及び5とした。
【0028】
<評価方法>
実施例1、2及び試験例1乃至5で調製した混合酸性水中油型乳化調味料200gをボイル用パウチに充填密封し、70℃で維持された湯に1時間浸漬した後の混合酸性水中油型乳化調味料を以下の評価基準に従って評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0029】
<評価基準>
○:油分離がなく加熱前と比較して変化がない状態。
△:一部油分離は見られるが、全体的には乳化を保持している状態。
×:完全に油分離している状態。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
表1及び表2より、耐熱性がない酸性水中油型乳化調味料、すなわちホスフォリパーゼA処理卵黄を含有しない酸性水中油型乳化調味料に対して、耐熱性がある酸性水中油型乳化調味料、すなわちホスフォリパーゼA処理卵黄を含有する酸性水中油型乳化調味料を混合することで、前記耐熱性がない酸性水中油型乳化調味料に耐熱性が付与された。特に、混合酸性水中油型乳化調味料における油含有量に対して、前記混合酸性水中油型乳化調味料におけるホスフォリパーゼA処理卵黄(リゾ化率50%換算のとき)の含有量(生換算)が好ましくは0.2%以上、より好ましくは0.32%以上であるとき、顕著な効果が確認できた。