特許第6978504号(P6978504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6978504平版印刷版原版、及び、平版印刷版の作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6978504
(24)【登録日】2021年11月15日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】平版印刷版原版、及び、平版印刷版の作製方法
(51)【国際特許分類】
   B41N 1/14 20060101AFI20211125BHJP
   B41C 1/10 20060101ALI20211125BHJP
   G03F 7/11 20060101ALI20211125BHJP
   G03F 7/00 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   B41N1/14
   B41C1/10
   G03F7/11 501
   G03F7/00 503
【請求項の数】8
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2019-539327(P2019-539327)
(86)(22)【出願日】2018年8月13日
(86)【国際出願番号】JP2018030245
(87)【国際公開番号】WO2019044483
(87)【国際公開日】20190307
【審査請求日】2020年2月18日
(31)【優先権主張番号】特願2017-167433(P2017-167433)
(32)【優先日】2017年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】舩津 景勝
(72)【発明者】
【氏名】村上 平
【審査官】 中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−032086(JP,A)
【文献】 特開平03−294382(JP,A)
【文献】 特開平01−257949(JP,A)
【文献】 特開平03−289661(JP,A)
【文献】 特開2000−235255(JP,A)
【文献】 特開2007−272143(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0114158(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/14
B41C 1/10
G03F 7/11
G03F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に画像記録層を設けた機上現像型平版印刷版原版であって、
前記画像記録層が設けられた側の最外層の表面に非連続状に形成された凸部を有し、
前記凸部の融点が、0℃〜150℃であり、
前記凸部が、融点が80℃〜150℃である樹脂を、前記凸部の全質量に対し、50質量%以上含む
機上現像型平版印刷版原版。
【請求項2】
前記最外層の面方向における前記凸部の平均寸法が、0.1μm以上45μm以下である請求項1に記載の機上現像型平版印刷版原版。
【請求項3】
前記最外層の面方向における前記凸部の平均寸法が、0.7μmを超え30μm以下である請求項1又は請求項2に記載の機上現像型平版印刷版原版。
【請求項4】
前記最外層表面における前記凸部の占有面積率が、20面積%以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の機上現像型平版印刷版原版。
【請求項5】
前記最外層表面における前記凸部の占有面積率が、0.5面積%以上20面積%以下である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の機上現像型平版印刷版原版。
【請求項6】
前記凸部が、ポリエチレン及び変性ポリエチレンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂を含む請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の機上現像型平版印刷版原版。
【請求項7】
前記凸部が、ポリエチレン及び変性ポリエチレンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂を80質量%以上含む請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の機上現像型平版印刷版原版。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の機上現像型平版印刷版原版を画像様に露光し、露光部と未露光部とを形成する工程、並びに、印刷インキ及び湿し水の少なくとも一方を供給して非画像部を除去する工程を含む平版印刷版の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、平版印刷版原版、及び、平版印刷版の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に平版印刷版は、印刷過程でインキを受容する親油性の画像部と湿し水を受容する親水性の非画像部とからなる。
平版印刷は、水と油性インキとが互いに反発する性質を利用して、平版印刷版の親油性の画像部をインキ受容部、親水性の非画像部を湿し水受容部(インキ非受容部)として、平版印刷版の表面にインキの付着性の差異を生じさせ、画像部のみにインキを着肉させた後、紙等の被印刷体にインキを転写して印刷する方法である。
【0003】
現在、平版印刷版原版から平版印刷版を作製する製版工程においては、CTP(コンピュータトゥプレート)技術による画像露光が行われている。即ち、画像露光は、レーザーやレーザーダイオードを用いて、リスフィルムを介することなく、直接平版印刷版原版に走査露光などにより行われる。
【0004】
また、地球環境への関心の高まりから、平版印刷版原版の製版に関して、現像処理などの湿式処理に伴う廃液に関する環境問題がクローズアップされ、これに伴い、現像処理の簡易化又は無処理化が指向されている。簡易な現像処理の一つとして、「機上現像」と呼ばれる方法が提案されている。機上現像は、平版印刷版原版を画像露光後、従来の湿式現像処理は行わず、そのまま印刷機に取り付け、画像記録層の非画像部の除去を通常の印刷工程の初期段階で行う方法である。
【0005】
従来の平版印刷版原版としては、米国特許第7524614号明細書、国際公開第2016/052443号、又は、特表2015−519610号公報に記載されているものが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
画像化後、平版印刷版原版は、画像形成性層の非画像化領域を除去するために現像(処理)される。通常、平版印刷版原版は、水溶性トップコート又は水溶性酸素不透過性障壁層が画像記録層上に配置されるよう設計される。このトップコートは、より高い画像記録層の感度を確保することによって画像化中の高い重合率を改善するために使用される。
このような平版印刷版原版は、一般的に、数十又は数百の個々の原版のスタックで製造後に輸送される。画像化表面の引っ掻きを防止するために、一般的に個々の原版の間に間紙が挿入される。しかしながら、間紙の存在にもかかわらず、水溶性トップコート表面はまだ輸送操作中(例えば、自動化版ローダで間紙を除去する際)に引っ掻かれて、引っ掻かれた領域の感度の喪失がもたらされる恐れがある。
また、特表2015−519610号公報に記載された平版印刷版原版は、最外層に水溶性のオーバーコート層を設けているため、外層耐引っ掻き性には優れるが、得られる平版印刷版の着肉性が十分ではないことを見出した。
【0007】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、外層耐引っ掻き性に優れ、得られる平版印刷版の着肉性に優れる平版印刷版原版を提供することである。
本発明の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記平版印刷版原版を用いた平版印刷版の作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 支持体上に画像記録層を設けた平版印刷版原版であって、上記画像記録層が設けられた側の最外層の表面に非連続状に形成された凸部を有し、上記凸部の融点が、70℃〜150℃である平版印刷版原版。
<2> 上記最外層の面方向における上記凸部の平均寸法が、0.1μm以上45μm以下である上記<1>に記載の平版印刷版原版。
<3> 上記最外層の面方向における上記凸部の平均寸法が、0.7μmを超え30μm以下である上記<1>又は<2>に記載の平版印刷版原版。
<4> 上記最外層表面における上記凸部の占有面積率が、20面積%以下である上記<1>〜<3>のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
<5> 上記最外層表面における上記凸部の占有面積率が、0.5面積%以上20面積%以下である上記<1>〜<4>のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
<6> 上記凸部が、ポリエチレン及び変性ポリエチレンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂を含む上記<1>〜<5>のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
<7> 上記凸部が、ポリエチレン及び変性ポリエチレンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂を80質量%以上含む上記<1>〜<6>のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
<8> 機上現像型平版印刷版原版である上記<1>〜<7>のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
<9> 上記<1>〜<8>のいずれか1つに記載の平版印刷版原版を画像様に露光し、露光部と未露光部とを形成する工程、並びに、印刷インキ及び湿し水の少なくとも一方を供給して非画像部を除去する工程を含む平版印刷版の作製方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、外層耐引っ掻き性に優れ、得られる平版印刷版の着肉性に優れる平版印刷版原版を提供することができる。
また、本発明の他の実施形態によれば、上記平版印刷版原版を用いた平版印刷版の作製方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、数値範囲を示す「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念で用いられる語であり、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びメタクリロイルの両方を包含する概念として用いられる語である。
また、本明細書中の「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。 また、本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
更に、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
また、本開示における重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、特に断りのない限り、TSKgel GMHxL、TSKgel G4000HxL、TSKgel G2000HxL(何れも東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析装置により、溶媒THF(テトラヒドロフラン)、示差屈折計により検出し、標準物質としてポリスチレンを用いて換算した分子量である。
本明細書において、「平版印刷版原版」の用語は、平版印刷版原版だけでなく、捨て版原版を包含する。また、「平版印刷版」の用語は、平版印刷版原版を、必要により、露光、現像などの操作を経て作製された平版印刷版だけでなく、捨て版を包含する。捨て版原版の場合には、必ずしも、露光、現像の操作は必要ない。なお、捨て版とは、例えばカラーの新聞印刷において一部の紙面を単色又は2色で印刷を行う場合に、使用しない版胴に取り付けるための平版印刷版原版である。
以下、本開示を詳細に説明する。
【0011】
(平版印刷版原版)
本開示に係る平版印刷版原版は、支持体上に画像記録層を設けた平版印刷版原版であって、上記画像記録層が設けられた側の最外層の表面に非連続状に形成された凸部を有し、上記凸部の融点が、70℃〜150℃である。
また、本開示に係る平版印刷版原版は、機上現像型平版印刷版原版であることが好ましい。
【0012】
本発明者らが鋭意検討した結果、上記構成をとることにより、外層耐引っ掻き性に優れ、得られる平版印刷版の着肉性に優れる平版印刷版原版を提供できることを見出した。
これによる優れた効果の作用機構は明確ではないが、以下のように推定している。
上述したように、従来の平版印刷版原版では、外層耐引っ掻き性、及び、得られる平版印刷版の着肉性の少なくともいずれかが十分でなく問題があることを、本発明者らは見出した。
本発明者らが鋭意検討した結果、平版印刷版原版の最外層の表面に非連続状に形成された凸部を有し、上記凸部の融点が70℃〜150℃であることにより、例えば、平版印刷版原版を積層した場合であっても上記凸部により接触面積を小さくし、また、引っ掻きによる摩擦で溶解するため、引っ掻き部がスリップすることで、引っ掻き傷の低減に大きく寄与するため、外層耐引っ掻き性に優れることを見出した。また、上記凸部は非連続状であるため、画像記録層が十分露出しており、得られる平版印刷版のインキ着肉性にも優れることを、ホ発明者らは見出した。
【0013】
<最外層の表面>
本開示に係る平版印刷版原版は、上記画像記録層が設けられた側の最外層の表面に非連続状に形成された凸部を有する。
上記画像記録層が設けられている側の最外層の表面は、画像記録層が最外層の場合は、画像記録層の表面であり、保護層が最外層の場合は、保護層の表面である。
【0014】
<非連続状に形成された凸部>
本開示に係る平版印刷版原版は、最外層の表面に非連続状に形成された凸部を有する。
本開示における非連続状とは、凸部が最外層表面の全面を覆わないことを意味する。
凸部とは、特定の形状に限定されず、あらゆる凸形状のものを含む。
凸部の形状としては、半球状、球状、半楕円体状、楕円体状のものが好ましい。
【0015】
−凸部の平均寸法−
上記最外層の面方向における上記凸部の平均寸法は、外層耐引っ掻き性、及び、着肉性の観点から、0.1μm以上45μm以下が好ましく、0.5μmを超え35μm以下がより好ましく、0.7μm以上30μm以下が更に好ましく、0.7μmを超え30μm以下が特に好ましい。
本開示における上記凸部の平均寸法は、以下の方法により測定するものとする。
サンプルに導電処理としてカーボン又はPt−Pd膜を3nm付与後、(株)日立ハイテクノロジーズ製SU8010型FE−SEMを用い、加速電圧5kV〜10kVで反射電子像観察を行う。観察倍率は1,000倍でN=3にて撮影した画像を、画像処理ソフト(ImageJ等)により、凸部と周囲のコントラスト差を利用して2値化処理を行い、凸部の面積を算出した。面積から真円を仮定した直径を算出/平均したものを上記最外層の面方向における平均寸法とする。ただし、画像端部に存在する凸部は除外する。
【0016】
−凸部の占有面積率−
上記最外層の表面における上記凸部の占有面積率は、外層耐引っ掻き性、及び、着肉性の観点から、20面積%以下であることが好ましく、0.5面積%以上20面積%以下であることがより好ましく、1.0面積%以上15面積%以下であることが更に好ましい。
本開示における上記凸部の占有面積率は、以下の方法により測定するものとする。
サンプルに導電処理としてカーボン又はPt−Pd膜を3nm付与後、(株)日立ハイテクノロジーズ製SU8010型FE−SEMを用い、加速電圧5kV〜10kVで反射電子像観察を行う。観察倍率は1,000倍でN=3にて撮影した画像を、画像処理ソフト (ImageJ等)により、凸部と周囲のコントラスト差を利用して2値化処理を行い、凸部の占有面積率を算出する。
【0017】
−凸部の平均高さ−
上記最外層の面方向における上記凸部の平均高さは、外層耐引っ掻き性、及び、着肉性の観点から、0.1μm以上45μm以下が好ましく、0.7μmを超え30μm以下がより好ましく、1.0μm以上25μm以下が更に好ましい。
本開示における上記凸部の平均高さは、以下の方法により測定するものとする。
表面凸部と画像記録層とを識別しやすくするため、Os染色(24時間)したサンプルを用いる。その後、サンプルに導電処理としてカーボン又はPt−Pd膜を数nm付与後、日本FEI(株)製Nova200型FIB−SEM複合機を用い、観察倍率2,000倍で表面反射電子像観察を行う。その表面反射電子像の範囲内で表面凸部の寸法が大きい方から順に10以上選択し、FIB−SEM複合機にて加工用保護層を付与後、その表面凸部中心の断面加工、及び、断面反射電子像観察を行う。得られた断面反射電子像観察に対し、表面凸部頂点から垂直に下ろした線と画像記録層との交点までの距離を表面凸部高さと定義し、上記で選択したN=10以上の凸部に対して表面凸部高さを算出し、その平均値を表面凸部平均高さとする。
【0018】
−凸部の組成−
上記凸部は、外層耐引っ掻き性、及び、着肉性の観点から、融点が70℃〜150℃である樹脂を含むことが好ましく、融点が70℃〜150℃である樹脂を、上記凸部の全質量に対し、50質量%以上含むことがより好ましく、融点が70℃〜150℃である樹脂を、上記凸部の全質量に対し、80質量%以上含むことが更に好ましく、融点が70℃〜150℃である樹脂を、上記凸部の全質量に対し、90質量%以上含むことが特に好ましい。
また、上記凸部は、外層耐引っ掻き性、及び、着肉性の観点から、ポリエチレン及び変性ポリエチレンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましく、ポリエチレン及び変性ポリエチレンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂を、上記凸部の全質量に対し、50質量%以上含むことがより好ましく、ポリエチレン及び変性ポリエチレンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂を、上記凸部の全質量に対し、80質量%以上含むことが更に好ましく、ポリエチレン及び変性ポリエチレンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂を、上記凸部の全質量に対し、90質量%以上含むことが特に好ましい。
更に、上記樹脂としては、フッ化及び非フッ化ポリオレフィン、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン又はこれらの混合物を含むフッ化又は非フッ化炭化水素を含むことが好ましい。
また、上記凸部は、外層耐引っ掻き性、及び、着肉性の観点から、融点が70℃〜150℃である有機粒子よりなる凸部であることが好ましく、融点が70℃〜150℃である有機ワックス粒子よりなる凸部であることがより好ましく、融点が70℃〜150℃である高密度又は低密度ポリエチレン粒子よりなる凸部であることが更に好ましい。
上記有機ワックス粒子としては、BYK社より商業的に購入することができるAQUAMAT263、AQUAMAT272、AQUACER537等を好適に用いることができる。
【0019】
上記凸部の形成に用いられる粒子の体積平均粒径は、0.1μm以上90μm以下が好ましく、0.7μmを超え60μm以下がより好ましく、1.0μm以上50μm以下が更に好ましい。
本開示において、粒子の体積平均粒径はレーザー光散乱法により算出される。
【0020】
−凸部の融点−
上記凸部の融点は、70℃〜150℃であり、外層耐引っ掻き性、及び、着肉性の観点から、80℃〜145℃であることが好ましく、90℃〜140℃であることがより好ましい。上記凸部の融点が70℃〜150℃であると、引っ掻き時の摩擦で発生した熱により凸部が溶解し、溶解により引っ掻き部がスリップすることでせん断応力が分散することで、外層耐引っ掻き性が優れ、また、融点が70℃〜150℃と軟質の凸部であることから、着肉性への影響が少ない。
本開示における凸部の融点の測定方法は、以下の方法により測定するものとする。
凸部を採取し、TAインスツルメント社製示差走査熱量測定(DSC)装置(Q2000)において、Al製パンを用いて、測定範囲温度−30℃〜170℃の範囲、昇温速度10mm/minで測定を行う。
【0021】
<支持体>
本開示に係る平版印刷版原版は、支持体を有する。
本開示に係る平版印刷版原版に用いられる支持体としては、公知の支持体が用いられる。
また、本開示に係る平版印刷版原版に用いられる支持体としては、アルミニウム支持体が好ましく、親水化されたアルミニウム支持体がより好ましい。
中でも、陽極酸化処理されたアルミニウム板が更に好ましく、粗面化処理され、陽極酸化処理されたアルミニウム板が特に好ましい。
上記粗面化処理及び陽極酸化処理は、公知の方法により行うことができる。
アルミニウム板には、必要に応じて、特開2001−253181号公報や特開2001−322365号公報に記載されている陽極酸化皮膜のマイクロポアの拡大処理や封孔処理、及び米国特許第2,714,066号、同第3,181,461号、同第3,280,734号及び同第3,902,734号の各明細書に記載されているようなアルカリ金属シリケートあるいは米国特許第3,276,868号、同第4,153,461号及び同第4,689,272号の各明細書に記載されているようなポリビニルホスホン酸などによる表面親水化処理を適宜選択して行うことができる。
支持体は、中心線平均粗さRaが0.10μm〜1.2μmであることが好ましい。
【0022】
支持体には必要に応じて、裏面に、特開平5−45885号公報に記載されている有機高分子化合物、特開平6−35174号公報に記載されているケイ素のアルコキシ化合物を含むバックコート層を設けることができる。
【0023】
<画像記録層>
本開示に係る平版印刷版原版は、支持体上に、画像記録層を有する。
本開示における画像記録層は、ポジ型の画像記録層であっても、ネガ型の画像記録層であってもよいが、ネガ型の画像記録層であることが好ましい。
また、本開示における画像記録層は、下記第一の態様〜第五の態様のいずれかの態様であることが好ましい。
第一の態様:赤外線吸収剤、重合性化合物及び重合開始剤を含有する。
第二の態様:赤外線吸収剤及び熱可塑性ポリマー粒子を含有する。
第三の態様:第一の態様において、ポリマー粒子又はミクロゲルを更に含有する。
第四の態様:第一の態様において、熱可塑性ポリマー粒子を更に含有する。
第五の態様:第四の態様において、ミクロゲルを更に含有する。
上記第一の態様又は第二の態様によれば、得られる平版印刷版の耐刷性に優れた平版印刷版原版が得られる。
上記第三の態様によれば、機上現像性に優れた平版印刷版原版が得られる。
上記第四の態様によれば、更に耐刷性に優れた平版印刷版原版が得られる。
上記第五の態様によれば、更に耐刷性に優れた平版印刷版原版が得られる。
また、ポジ型の画像記録層としては、公知の画像記録層を用いることができる。
【0024】
また、本開示に係る平版印刷版原版における好ましい1つの態様によれば、画像記録層は、赤外線吸収剤、重合開始剤、重合性化合物及びバインダーポリマーを含有する画像記録層(以下、「画像記録層A」ともいう。)である。
本開示に係る平版印刷版原版における好ましいもう1つの態様によれば、画像記録層は、赤外線吸収剤、重合開始剤、重合性化合物及び粒子形状の高分子化合物を含有する画像記録層(以下、「画像記録層B」ともいう。)である。
本開示に係る平版印刷版原版における好ましい更にもう1つの態様によれば、画像記録層は、赤外線吸収剤及び熱可塑性ポリマー粒子を含有する画像記録層(以下、「画像記録層C」ともいう。)である。
【0025】
−画像記録層A−
画像記録層Aは、赤外線吸収剤、重合開始剤、重合性化合物及びバインダーポリマーを含有する。以下、画像記録層Aの構成成分について説明する。
【0026】
<<赤外線吸収剤>>
赤外線吸収剤は、吸収した赤外線を熱に変換する機能と赤外線により励起して、例えば、後述の重合開始剤に電子移動、エネルギー移動、又は、その両方を行う機能を有する。本開示において使用される赤外線吸収剤は、波長760nm〜1,200nmに吸収極大を有する染料又は顔料が好ましく、染料がより好ましい。
染料としては、特開2014−104631号公報の段落0082〜0088に記載のものを使用できる。
顔料の平均粒径は、0.01μm〜1μmが好ましく、0.01μm〜0.5μmがより好ましい。顔料を分散するには、インク製造やトナー製造等に用いられる公知の分散技術が使用できる。詳細は、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)などに記載されている。
赤外線吸収剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
赤外線吸収剤の含有量は、画像記録層の全質量に対し、0.05質量%〜30質量%が好ましく、0.1質量%〜20質量%がより好ましく、0.2質量%〜10質量%が特に好ましい。
【0027】
<<重合開始剤>>
重合開始剤は、重合性化合物の重合を開始、促進する化合物である。重合開始剤としては、公知の熱重合開始剤、結合解離エネルギーの小さな結合を有する化合物、光重合開始剤などを使用することができる。具体的には、特開2014−104631号公報の段落0092〜0106に記載のラジカル重合開始剤を使用できる。
重合開始剤の中で、好ましい化合物として、オニウム塩が挙げられる。中でもヨードニウム塩及びスルホニウム塩が特に好ましく挙げられる。それぞれの塩の中で好ましい具体的化合物は、特開2014−104631号公報の段落0104〜0106に記載の化合物と同じである。
【0028】
重合開始剤の含有量は、画像記録層の全質量に対して、0.1質量%〜50質量%が好ましく、0.5質量%〜30質量%がより好ましく、0.8質量%〜20質量%が特に好ましい。この範囲でより良好な感度と印刷時の非画像部のより良好な汚れ難さが得られる。
【0029】
<<重合性化合物>>
重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和結合を有する付加重合性化合物であり、好ましくは末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、より好ましくは2個以上有する化合物から選ばれる。これらは、例えばモノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体及びオリゴマー、又はそれらの混合物などの化学的形態を有する。具体的には、特開2014−104631号公報の段落0109〜0113に記載の重合性化合物を使用できる。
【0030】
上記の中でも、機上現像性に関与する親水性と耐刷性に関与する重合能のバランスに優れる点から、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ビス(アクリロイルオキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレートなどのイソシアヌル酸エチレンオキシド変性アクリレート類が特に好ましい。
【0031】
重合性化合物の構造、単独使用か併用か、添加量等の使用方法の詳細は、最終的な平版印刷版原版の性能設計にあわせて任意に設定できる。重合性化合物は、画像記録層の全質量に対して、好ましくは5質量%〜75質量%、より好ましくは10質量%〜70質量%、特に好ましくは15質量%〜60質量%の範囲で使用される。
【0032】
<バインダーポリマー>
バインダーポリマーは、主として画像記録層の膜強度を向上させる目的で用いられる。バインダーポリマーは、従来公知のものを使用でき、皮膜性を有するポリマーが好ましい。中でも、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂などが好ましい。
好適なバインダーポリマーとしては、特開2008−195018号公報に記載のような、画像部の皮膜強度を向上するための架橋性官能基を主鎖又は側鎖、好ましくは側鎖に有しているものが挙げられる。架橋性基によってポリマー分子間に架橋が形成され、硬化が促進する。
【0033】
架橋性官能基としては、(メタ)アクリル基、ビニル基、アリル基、スチリル基(ベンゼン環に結合したビニル基)などのエチレン性不飽和基やエポキシ基等が好ましく、架橋性官能基は高分子反応や共重合によってポリマーに導入することができる。例えば、カルボキシ基を側鎖に有するアクリルポリマーやポリウレタンとグリシジルメタクリレートとの反応、あるいはエポキシ基を有するポリマーとメタクリル酸などのエチレン性不飽和基含有カルボン酸との反応を利用できる。
バインダーポリマー中の架橋性基の含有量は、バインダーポリマー1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、より好ましくは0.25〜7.0mmol、特に好ましくは0.5〜5.5mmolである。
【0034】
また、バインダーポリマーは、親水性基を有することが好ましい。親水性基は画像記録層に機上現像性を付与するのに寄与する。特に、架橋性基と親水性基とを共存させることにより、耐刷性と機上現像性との両立が可能になる。
親水性基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキレンオキシド構造、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、スルホ基、リン酸基等などが挙げられる。中でも、炭素数2又は3のアルキレンオキシド単位を1個〜9個有するアルキレンオキシド構造が好ましい。バインダーポリマーに親水性基を付与するには、例えば、親水性基を有するモノマーを共重合することにより行うことできる。
【0035】
バインダーポリマーには、着肉性を制御するため、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基などの親油性の基を導入することもできる。例えば、メタクリル酸アルキルエステなどの親油性基含有モノマーを共重合することにより行うことできる。
【0036】
バインダーポリマーは、重量平均分子量(Mw)が2,000以上であることが好ましく、5,000以上であることがより好ましく、10,000〜300,000であることが更に好ましい。
【0037】
バインダーポリマーの含有量は、画像記録層の全質量に対して、3質量%〜90質量%が好ましく、5質量%〜80質量%がより好ましく、10質量%〜70質量%が更に好ましい。
【0038】
バインダーポリマーの好ましい例として、ポリオキシアルキレン鎖を側鎖に有する高分子化合物が挙げられる。ポリオキシアルキレン鎖を側鎖に有する高分子化合物(以下、「POA鎖含有高分子化合物」ともいう。)を画像記録層に含有することにより、湿し水の浸透性が促進され、機上現像性が向上する。
【0039】
POA鎖含有高分子化合物の主鎖を構成する樹脂としては、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノボラック型フェノール系樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム、天然ゴム等が挙げられ、アクリル樹脂が特に好ましい。
なお、本開示において、「主鎖」とは樹脂を構成する高分子化合物の分子中で相対的に最も長い結合鎖を表し、「側鎖」とは主鎖から枝分かれしている分子鎖を表す。
【0040】
POA鎖含有高分子化合物は、パーフルオロアルキル基を実質的に含まないものである。「パーフルオロアルキル基を実質的に含まない」とは、高分子化合物中のパーフルオロアルキル基として存在するフッ素原子の質量比が0.5質量%より少ないものであり、含まないものが好ましい。フッ素原子の質量比は元素分析法により測定される。
また、「パーフルオロアルキル基」とは、アルキル基の全ての水素原子がフッ素原子で置換され基である。
【0041】
ポリオキシアルキレン鎖におけるアルキレンオキサイド(オキシアルキレン)としては炭素数(「炭素原子数」ともいう。)が2〜6のアルキレンオキサイドが好ましく、エチレンオキサイド(オキシエチレン)又はプロピレンオキサイド(オキシプロピレン)がより好ましく、エチレンオキサイドが更に好ましい。
ポリオキシアルキレン鎖、すなわち、ポリアルキレンオキサイド部位におけるアルキレンオキサイドの繰返し数は2〜50が好ましく、4〜25がより好ましい。
アルキレンオキサイドの繰り返し数が2以上であれば湿し水の浸透性が十分向上し、また、繰り返し数が50以下であれば摩耗による耐刷性の低下が抑制され、好ましい。
ポリアルキレンオキサイド部位については、特開2014−104631号公報の段落0060〜0062に記載の構造が好ましい。
【0042】
POA鎖含有高分子化合物は、画像部の皮膜強度を向上するために、架橋性を有していてもよい。架橋性を有するPOA鎖含有高分子化合物については、特開2014−104631号公報の段落0063〜0072に記載されている。
【0043】
POA鎖含有高分子化合物を構成する全繰り返し単位に対する、ポリ(アルキレンオキサイド)部位を有する繰り返し単位の比率は、特に限定されないが、好ましくは0.5モル%〜80モル%、より好ましくは0.5モル%〜50モル%である。POA鎖含有高分子化合物の具体例は、特開2014−104631号公報の段落0075〜0076に記載のものが挙げられる。
【0044】
POA鎖含有高分子化合物は必要に応じて、特開2008−195018号公報に記載のポリアクリル酸、ポリビニルアルコールなどの親水性高分子化合物を併用することができる。また、親油的な高分子化合物と親水的な高分子化合物を併用することもできる。
【0045】
POA鎖含有高分子化合物の画像記録層中での形態は、画像記録層成分のつなぎの機能を果たすバインダーとして存在する以外に、粒子の形状で存在してもよい。粒子形状で存在する場合には、平均粒径は10nm〜1,000nmの範囲であることが好ましく、20nm〜300nmの範囲であることがより好ましく、30nm〜120nmの範囲であることが特に好ましい。
【0046】
POA鎖含有高分子化合物の含有量は、画像記録層の全質量に対して、好ましくは3質量%〜90質量%、より好ましくは5質量%〜80質量%である。上記範囲であると、湿し水の浸透性と画像形成性とをより確実に両立させることができる。
【0047】
バインダーポリマーの他の好ましい例として、6官能以上10官能以下の多官能チオールを核として、この核に対しスルフィド結合により結合したポリマー鎖を有し、上記ポリマー鎖が重合性基を有する高分子化合物(以下、星型高分子化合物ともいう。)が挙げられる。星型高分子化合物としては、例えば、特開2012−148555号公報に記載の化合物を好ましく用いることができる。
【0048】
星型高分子化合物は、特開2008−195018号公報に記載のような画像部の皮膜強度を向上するためのエチレン性不飽和結合等の重合性基を、主鎖又は側鎖、好ましくは側鎖に有しているものが挙げられる。重合性基によってポリマー分子間に架橋が形成され、硬化が促進する。
重合性基としては、(メタ)アクリル基、ビニル基、アリル基、スチリル基などのエチレン性不飽和基やエポキシ基等が好ましく、(メタ)アクリル基、ビニル基、又は、スチリル基が重合反応性の観点でより好ましく、(メタ)アクリル基が特に好ましい。これらの基は高分子反応や共重合によってポリマーに導入することができる。例えば、カルボキシ基を側鎖に有するポリマーとグリシジルメタクリレートとの反応、あるいはエポキシ基を有するポリマーとメタクリル酸などのエチレン性不飽和基含有カルボン酸との反応を利用できる。これらの基は併用してもよい。
【0049】
星型高分子化合物中の架橋性基の含有量は、星型高分子化合物1g当たり、好ましくは0.1mmol〜10.0mmol、より好ましくは0.25mmol〜7.0mmol、特に好ましくは0.5mmol〜5.5mmolである。
【0050】
また、星型高分子化合物は、更に親水性基を有することが好ましい。親水性基は画像記録層に機上現像性を付与するのに寄与する。特に、重合性基と親水性基を共存させることにより、耐刷性と現像性の両立が可能になる。
【0051】
親水性基としては、−SO、−OH、−CONR(Mは水素原子、金属イオン、アンモニウムイオン、又は、ホスホニウムイオンを表し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基を表す。RとRは結合して環を形成してもよい。)、−N(R〜Rはそれぞれ独立に、炭素数1〜8のアルキル基を表し、Xはカウンターアニオンを表す。)、−(CHCHO)R、及び、−(CO)Rが挙げられる。
上記式中、n及びmはそれぞれ独立に、1〜100の整数を表し、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表す。
【0052】
ここで、星型高分子化合物が、ポリオキシアルキレン鎖(例えば、−(CHCHO)R、及び、−(CO)R)を側鎖に有している星型高分子化合物である場合、このような星型高分子化合物は、上記ポリオキシアルキレン鎖を側鎖に有する高分子化合物でもある。
【0053】
これら親水性基の中でも、−CONR、−(CHCHO)R、又は、−(CO)Rが好ましく、−CONR、又は、−(CHCHO)Rがより好ましく、−(CHCHO)Rが特に好ましい。更に−(CHCHO)Rの中でも、nは1〜10がより好ましく、1〜4が特に好ましい。また、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、水素原子又はメチル基が特に好ましい。これら親水性基は2種以上を併用してもよい。
【0054】
また、星型高分子化合物は、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基を実質的に持たないことが好ましい。具体的には0.1mmol/gより少ないことが好ましく、0.05mmol/gより少ないことがより好ましく、0.03mmol/g以下であることが特に好ましい。これらの酸基が0.1mmol/gより少ないと現像性がより向上する。
【0055】
また、星型高分子化合物には、着肉性を制御するため、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基などの親油性の基を導入できる。具体的には、メタクリル酸アルキルエステルなどの親油性基含有モノマーを共重合すればよい。
【0056】
星型高分子化合物の具体例としては、特開2014−104631号公報の段落0153〜0157に記載されているものが挙げられる。
【0057】
星型高分子化合物は、上記の多官能チオール化合物の存在下で、ポリマー鎖を構成する上記モノマーをラジカル重合するなど、公知の方法によって合成することができる。
【0058】
星型高分子化合物の重量平均分子量は、5,000〜500,000が好ましく、10,000〜250,000がより好ましく、20,000〜150,000が特に好ましい。この範囲において、機上現像性及び耐刷性がより良好になる。
【0059】
星型高分子化合物は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。また、通常の直鎖型バインダーポリマーと併用してもよい。
星型高分子化合物の含有量は、画像記録層の全質量に対し、5質量%〜95質量%が好ましく、10質量%〜90質量%がより好ましく、15質量%〜85質量%が特に好ましい。
特に、湿し水の浸透性が促進され、機上現像性が向上することから、特開2012−148555号公報に記載の星型高分子化合物が好ましい。
【0060】
<<その他の成分>>
画像記録層Aには、必要に応じて、以下に記載するその他の成分を含有させることができる。
【0061】
(1)低分子親水性化合物
画像記録層は、耐刷性を低下させることなく機上現像性を向上させるために、低分子親水性化合物を含有してもよい。
低分子親水性化合物としては、例えば、水溶性有機化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類及びそのエーテル又はエステル誘導体類、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等のポリオール類、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等の有機アミン類及びその塩、アルキルスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸類及びその塩、アルキルスルファミン酸等の有機スルファミン酸類及びその塩、アルキル硫酸、アルキルエーテル硫酸等の有機硫酸類及びその塩、フェニルホスホン酸等の有機ホスホン酸類及びその塩、酒石酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、アミノ酸類等の有機カルボン酸類及びその塩、ベタイン類、等が挙げられる。
これらの中でも、ポリオール類、有機硫酸塩類、有機スルホン酸塩類、及び、ベタイン類よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有させることが好ましい。
【0062】
有機スルホン酸塩の具体的な化合物としては、特開2007−276454号公報の段落0026〜0031、特開2009−154525号公報の段落0020〜0047に記載の化合物などが挙げられる。塩は、カリウム塩、リチウム塩でもよい。
有機硫酸塩としては、特開2007−276454号公報の段落0034〜0038に記載の化合物が挙げられる。
ベタイン類としては、窒素原子への炭化水素置換基の炭素原子数が1〜5である化合物が好ましく、具体例としては、トリメチルアンモニウムアセタート、ジメチルプロピルアンモニウムアセタート、3−ヒドロキシ−4−トリメチルアンモニオブチラート、4−(1−ピリジニオ)ブチラート、1−ヒドロキシエチル−1−イミダゾリオアセタート、トリメチルアンモニウムメタンスルホナート、ジメチルプロピルアンモニウムメタンスルホナート、3−トリメチルアンモニオ−1−プロパンスルホナート、3−(1−ピリジニオ)−1−プロパンスルホナートなどが挙げられる。
【0063】
低分子親水性化合物は、疎水性部分の構造が小さいため、湿し水が画像記録層露光部(画像部)へ浸透して画像部の疎水性や皮膜強度を低下させることがなく、画像記録層のインキ受容性や耐刷性を良好に維持できる。
【0064】
低分子親水性化合物の添加量は、画像記録層の全質量に対し、0.5質量%〜20質量%が好ましく、1質量%〜15質量%がより好ましく、2質量%〜10質量%が更に好ましい。この範囲で良好な機上現像性及び耐刷性が得られる。
低分子親水性化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
(2)感脂化剤
画像記録層には、着肉性を向上させるために、ホスホニウム化合物、含窒素低分子化合物、アンモニウム基含有ポリマーなどの感脂化剤を用いることができる。特に、保護層に無機質層状化合物を含有させる場合には、これらの化合物は、無機質層状化合物の表面被覆剤として機能し、無機質層状化合物による印刷途中の着肉性低下を防止する作用を有する。
ホスホニウム化合物、含窒素低分子化合物、アンモニウム基含有ポリマーは、特開2014−104631号公報の段落0184〜0190に具体的に記載されている。
感脂化剤の含有量は、画像記録層の全質量に対し、0.01質量%〜30.0質量%が好ましく、0.1質量%〜15.0質量%がより好ましく、1質量%〜10質量%が更に好ましい。
【0066】
(3)その他
画像記録層は、その他の成分として、更に、界面活性剤、着色剤、焼き出し剤、重合禁止剤、高級脂肪酸誘導体、可塑剤、無機粒子、無機質層状化合物、共増感剤、連鎖移動剤などを含有することができる。具体的には、特開2008−284817号公報の段落0114〜0159、特開2006−091479号公報の段落0023〜0027、米国特許公開第2008/0311520号明細書の段落0060に記載の化合物及び添加量を好ましく用いることができる。
【0067】
<<画像記録層Aの形成>>
画像記録層Aは、例えば、特開2008−195018号公報の段落0142〜0143に記載のように、必要な上記各成分を公知の溶剤に分散又は溶解して塗布液を調製し、この塗布液を支持体上に直接又は下塗り層を介して、バーコーター塗布など公知の方法で塗布し、乾燥することで形成される。塗布、乾燥後に得られる支持体上の画像記録層塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、0.3g/m〜3.0g/mが好ましい。この範囲で、良好な感度と画像記録層の良好な皮膜特性が得られる。
【0068】
−画像記録層B−
画像記録層Bは、赤外線吸収剤、重合開始剤、重合性化合物及び粒子形状の高分子化合物を含有する。以下、画像記録層Bの構成成分について説明する。
【0069】
画像記録層Bにおける赤外線吸収剤、重合開始剤及び重合性化合物に関しては、画像記録層Aにおいて記載した赤外線吸収剤、重合開始剤及び重合性化合物を同様に用いることができる。
【0070】
<<粒子形状の高分子化合物>>
粒子形状の高分子化合物は、熱可塑性ポリマー粒子、熱反応性ポリマー粒子、重合性基を有するポリマー粒子、疎水性化合物を内包しているマイクロカプセル、及び、ミクロゲル(架橋ポリマー粒子)よりなる群から選ばれることが好ましい。中でも、重合性基を有するポリマー粒子及びミクロゲルが好ましい。特に好ましい実施形態では、粒子形状の高分子化合物は少なくとも1つのエチレン性不飽和重合性基を含む。このような粒子形状の高分子化合物の存在により、露光部の耐刷性及び未露光部の機上現像性を高める効果が得られる。
また、粒子形状の高分子化合物は、熱可塑性ポリマー粒子であることが好ましい。
【0071】
熱可塑性ポリマー粒子としては、1992年1月のResearch Disclosure No.33303、特開平9−123387号公報、同9−131850号公報、同9−171249号公報、同9−171250号公報及び欧州特許第931647号明細書などに記載の熱可塑性ポリマー粒子が好ましい。
熱可塑性ポリマー粒子を構成するポリマーの具体例としては、エチレン、スチレン、塩化ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、ビニルカルバゾール、ポリアルキレン構造を有するアクリレート又はメタクリレートなどのモノマーのホモポリマー若しくはコポリマー又はそれらの混合物を挙げることができる。好ましくは、ポリスチレン、スチレン及びアクリロニトリルを少なくとも共重合した共重合体、又は、ポリメタクリル酸メチルを挙げることができる。熱可塑性ポリマー粒子の平均粒径は、0.01μm〜3.0μmが好ましい。
【0072】
熱反応性ポリマー粒子としては、熱反応性基を有するポリマー粒子が挙げられる。熱反応性ポリマー粒子は熱反応による架橋及びその際の官能基変化により疎水化領域を形成する。
【0073】
熱反応性基を有するポリマー粒子における熱反応性基としては、化学結合が形成されるならば、どのような反応を行う官能基でもよいが、重合性基であることが好ましく、その例として、ラジカル重合反応を行うエチレン性不飽和基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基など)、カチオン重合性基(例えば、ビニル基、ビニルオキシ基、エポキシ基、オキセタニル基など)、付加反応を行うイソシアナート基又はそのブロック体、エポキシ基、ビニルオキシ基及びこれらの反応相手である活性水素原子を有する官能基(例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基など)、縮合反応を行うカルボキシ基及び反応相手であるヒドロキシ基又はアミノ基、開環付加反応を行う酸無水物及び反応相手であるアミノ基又はヒドロキシ基などが好ましく挙げられる。
【0074】
マイクロカプセルとしては、例えば、特開2001−277740号公報、特開2001−277742号公報に記載のごとく、画像記録層の構成成分の少なくとも一部をマイクロカプセルに内包させたものである。画像記録層の構成成分は、マイクロカプセル外にも含有させることもできる。マイクロカプセルを含有する画像記録層は、疎水性の構成成分をマイクロカプセルに内包し、親水性の構成成分をマイクロカプセル外に含有する構成が好ましい態様である。
【0075】
ミクロゲル(架橋ポリマー粒子)は、その表面又は内部の少なくとも一方に、画像記録層の構成成分の一部を含有することができる。特に、ラジカル重合性基をその表面に有する反応性ミクロゲルは、画像形成感度や耐刷性の観点から好ましい。
【0076】
画像記録層の構成成分をマイクロカプセル化又はミクロゲル化するには、公知の方法が適用できる。
【0077】
また、粒子形状の高分子化合物としては、耐刷性、耐汚れ性及び保存安定性の観点から、分子中に2個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノール化合物とイソホロンジイソシアネートとの付加物である多価イソシアネート化合物、及び、活性水素を有する化合物の反応により得られるものが好ましい。
上記多価フェノール化合物としては、フェノール性ヒドロキシ基を有するベンゼン環を複数有している化合物が好ましい。
上記活性水素を有する化合物を有する化合物としては、ポリオール化合物、又は、ポリアミン化合物が好ましく、ポリオール化合物がより好ましく、プロピレングリコール、グリセリン及びトリメチロールプロパンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物が更に好ましい。
分子中に2個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノール化合物とイソホロンジイソシアネートとの付加物である多価イソシアネート化合物、及び、活性水素を有する化合物の反応により得られる樹脂の粒子としては、特開2012−206495号公報の段落0032〜0095に記載のポリマー粒子が好ましく挙げられる。
【0078】
更に、粒子形状の高分子化合物としては、耐刷性及び耐溶剤性の観点から、疎水性主鎖を有し、i)上記疎水性主鎖に直接的に結合されたペンダントシアノ基を有する構成ユニット、及び、ii)親水性ポリアルキレンオキシドセグメントを含むペンダント基を有する構成ユニットの両方を含むことが好ましい。
上記疎水性主鎖としては、アクリル樹脂鎖が好ましく挙げられる。
上記ペンダントシアノ基の例としては、−[CHCH(C≡N)−]又は−[CHC(CH)(C≡N)−]が好ましく挙げられる。
また、上記ペンダントシアノ基を有する構成ユニットは、エチレン系不飽和型モノマー、例えば、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルから、又は、これらの組み合わせから容易に誘導することができる。
また、上記親水性ポリアルキレンオキシドセグメントにおけるアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドが好ましく、エチレンオキシドがより好ましい。
上記親水性ポリアルキレンオキシドセグメントにおけるアルキレンオキシド構造の繰り返し数は、10〜100であることが好ましく、25〜75であることがより好ましく、40〜50であることが更に好ましい。
疎水性主鎖を有し、i)上記疎水性主鎖に直接的に結合されたペンダントシアノ基を有する構成ユニット、及び、ii)親水性ポリアルキレンオキシドセグメントを含むペンダント基を有する構成ユニットの両方を含む樹脂の粒子としては、特表2008−503365号公報の段落0039〜0068に記載のものが好ましく挙げられる。
【0079】
粒子形状の高分子化合物の平均粒径は、0.01μm〜3.0μmが好ましく、0.03μm〜2.0μmがより好ましく、0.10μm〜1.0μmが更に好ましい。この範囲で良好な解像度と経時安定性が得られる。
粒子形状の高分子化合物の含有量は、画像記録層の全質量に対し、5質量%〜90質量%が好ましい。
【0080】
<<その他の成分>>
画像記録層Bには、必要に応じて、上記画像記録層Aにおいて記載したその他の成分を含有させることができる。
【0081】
<画像記録層Bの形成>
画像記録層Bの形成に関しては、上記画像記録層Aの形成の記載を適用することができる。
【0082】
−画像記録層C−
画像記録層Cは、赤外線吸収剤及び熱可塑性ポリマー粒子を含有する。以下、画像記録層Cの構成成分について説明する。
【0083】
<<赤外線吸収剤>>
画像記録層Cに含まれる赤外線吸収剤は、好ましくは波長760nm〜1,200nmの範囲に吸収極大を有する染料又は顔料である。染料がより好ましい。
染料としては、市販の染料及び文献(例えば「染料便覧」有機合成化学協会編集、昭和45年刊、「化学工業」1986年5月号P.45〜51の「近赤外吸収色素」、「90年代機能性色素の開発と市場動向」第2章2.3項(CMC出版、1990年刊)又は特許に記載されている公知の染料が利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、ポリメチン染料、シアニン染料などの赤外線吸収染料が好ましい。
これらの中で、画像記録層Cに添加するのに特に好ましい染料は、水溶性基を有する赤外線吸収染料である。
以下に赤外線吸収染料の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0084】
【化1】
【0085】
【化2】
【0086】
顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。
【0087】
顔料の粒径は、0.01μm〜1μmが好ましく、0.01μm〜0.5μmがより好ましい。顔料を分散する方法としては、インク製造やトナー製造等に用いられる公知の分散技術が使用できる。詳細は、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0088】
赤外線吸収剤の含有量は、画像記録層の全質量に対し、0.1質量%〜30質量%が好ましく、0.25質量%〜25質量%がより好ましく、0.5質量%〜20質量%が特に好ましい。上記範囲であると、画像記録層の膜強度を損なうことなく、良好な感度が得られる。
【0089】
<<熱可塑性ポリマー粒子>>
熱可塑性ポリマー粒子は、そのガラス転移温度(Tg)が60℃〜250℃であることが好ましい。熱可塑性ポリマー粒子のTgは、70℃〜140℃がより好ましく、80℃〜120℃が更に好ましい。
Tgが60℃以上の熱可塑性ポリマー粒子としては、例えば、1992年1月のReseach Disclosure No.33303、特開平9−123387号公報、同9−131850号公報、同9−171249号公報、同9−171250号公報及び欧州特許出願公開第931647号公報などに記載の熱可塑性ポリマー粒子を好適なものとして挙げることができる。
具体的には、エチレン、スチレン、塩化ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、ビニルカルバゾールなどのモノマーから構成されるホモポリマー若しくはコポリマー又はそれらの混合物などを例示することができる。好ましいものとして、ポリスチレン、スチレン及びアクリロニトリルを含む共重合体、又は、ポリメタクリル酸メチルなどが挙げられる。
【0090】
熱可塑性ポリマー粒子の平均粒径は、解像度及び経時安定性の観点から、0.005μm〜2.0μmであることが好ましい。この値は熱可塑性ポリマー粒子を2種以上混ぜた場合の平均粒径としても適用される。平均粒径は、より好ましくは0.01μm〜1.5μm、特に好ましくは0.05μm〜1.0μmである。熱可塑性ポリマー粒子を2種以上混ぜた場合の多分散性は、0.2以上であることが好ましい。
本開示において、平均粒径及び多分散性はレーザー光散乱法により算出される。
【0091】
熱可塑性ポリマー粒子は2種類以上を混合して用いてもよい。具体的には、粒子サイズの異なる少なくとも2種類の使用又はTgの異なる少なくとも2種類の使用が挙げられる。2種類以上を混合使用により、画像部の皮膜硬化性が更に向上し、平版印刷版とした場合に耐刷性が一層向上する。
例えば、熱可塑性ポリマー粒子として粒子サイズが同じものを用いた場合には、熱可塑性ポリマー粒子間にある程度の空隙が存在することになり、画像露光により熱可塑性ポリマー粒子を溶融固化させても皮膜の硬化性が所望のものにならないことがある。これに対して、熱可塑性ポリマー粒子として粒子サイズが異なるものを用いた場合、熱可塑性ポリマー粒子間にある空隙率を低くすることができ、その結果、画像露光後の画像部の皮膜硬化性を向上させることができる。
【0092】
また、熱可塑性ポリマー粒子としてTgが同じものを用いた場合には、画像露光による画像記録層の温度上昇が不十分なとき、熱可塑性ポリマー粒子が十分に溶融固化せず皮膜の硬化性が所望のものにならないことがある。これに対して、熱可塑性ポリマー粒子としてTgが異なるものを用いた場合、画像露光による画像記録層の温度上昇が不十分なときでも画像部の皮膜硬化性を向上させることができる。
【0093】
Tgが異なる熱可塑性ポリマー粒子を2種以上混ぜて用いる場合、熱可塑性ポリマー粒子の少なくとも1種類のTgは60℃以上であることが好ましい。この際、Tgの差が10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましい。また、Tgが60℃以上の熱可塑性ポリマー粒子を、全熱可塑性ポリマー粒子に対して、70質量%以上含有することが好ましい。
【0094】
熱可塑性ポリマー粒子は架橋性基を有していてもよい。架橋性基を有する熱可塑性ポリマー粒子を用いることにより、画像露光部に発生する熱によって架橋性基が熱反応してポリマー間に架橋が形成され、画像部の皮膜強度が向上し、耐刷性がより優れたものになる。架橋性基としては化学結合が形成されるならばどのような反応を行う官能基でもよく、例えば、重合反応を行うエチレン性不飽和基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基など)、付加反応を行うイソシアナート基あるいはそのブロック体及びその反応相手である活性水素原子を有する基(例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基など)、同じく付加反応を行うエポキシ基及びその反応相手であるアミノ基、カルボキシル基あるいはヒドロキシ基、縮合反応を行うカルボキシル基とヒドロキシ基あるいはアミノ基、開環付加反応を行う酸無水物とアミノ基あるいはヒドロキシ基などを挙げることができる。
【0095】
架橋性基を有する熱可塑性ポリマー粒子としては、具体的には、アクリロイル基、メタクリルロイル基、ビニル基、アリル基、エポキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、イソシアネート基、酸無水物及びそれらを保護した基などの架橋性基を有するものを挙げることができる。これら架橋性基のポリマーへの導入は、ポリマー粒子の重合時に行ってもよいし、ポリマー粒子の重合後に高分子反応を利用して行ってもよい。
【0096】
ポリマー粒子の重合時に架橋性基を導入する場合は、架橋性基を有するモノマーを乳化重合あるいは懸濁重合することが好ましい。架橋性基を有するモノマーの具体例として、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、ビニルメタクリレート、ビニルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、2−イソシアネートエチルメタクリレートあるいはそのアルコールなどによるブロックイソシアナート、2−イソシアネートエチルアクリレートあるいはそのアルコールなどによるブロックイソシアナート、2−アミノエチルメタクリレート、2−アミノエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、2官能アクリレート、2官能メタクリレートなどを挙げることができる。
架橋性基の導入をポリマー粒子の重合後に行う場合に用いる高分子反応としては、例えば、国際公開第96/34316号に記載されている高分子反応を挙げることができる。
熱可塑性ポリマー粒子は、架橋性基を介してポリマー粒子同士が反応してもよいし、画像記録層に添加された高分子化合物あるいは低分子化合物と反応してもよい。
【0097】
熱可塑性ポリマー粒子の含有量は、画像記録層の全質量に対し、50質量%〜95質量%が好ましく、60質量%〜90質量%がより好ましく、70質量%〜85質量%が特に好ましい。
【0098】
<<その他の成分>>
画像記録層Cは、必要に応じて、更にその他の成分を含有してもよい。
【0099】
その他の成分としては、ポリオキシアルキレン基又はヒドロキシ基を有する界面活性剤が好ましく挙げられる。
ポリオキシアルキレン基(以下、「POA基」とも記載する。)又はヒドロキシ基を有する界面活性剤としては、POA基又はヒドロキシ基を有する界面活性剤を適宜用いることができるが、アニオン界面活性剤又はノニオン界面活性剤が好ましい。POA基又はヒドロキシ基を有するアニオン界面活性剤又はノニオン界面活性剤の中で、POA基を有するアニオン界面活性剤又はノニオン界面活性剤が好ましい。
【0100】
POA基としては、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基等が好ましく、ポリオキシエチレン基が特に好ましい。
オキシアルキレン基の平均重合度は、2〜50が好ましく、2〜20がより好ましい。
ヒドロキシ基の数は、1〜10が好ましく、2〜8がより好ましい。ただし、オキシアルキレン基における末端ヒドロキシ基は、ヒドロキシ基の数には含めない。
【0101】
POA基を有するアニオン界面活性剤としては、特に限定されず、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩類、ポリオキシアルキレンアルキルスルホコハク酸塩類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、アルキルフェノキシポリオキシアルキレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシアルキレンアルキルスルホフェニルエーテル類、ポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシアルキレンルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシアルキレンパーフルオロアルキルエーテル燐酸エステル塩類等が挙げられる。
ヒドロキシ基を有するアニオン界面活性剤としては、特に限定されず、ヒドロキシカルボン酸塩類、ヒドロキシアルキルエーテルカルボン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリドリン酸エステル塩類等が挙げられる。
【0102】
POA基又はヒドロキシ基を有する界面活性剤の含有量は、画像記録層の全質量に対し、0.05質量%〜15質量%が好ましく、0.1質量%〜10質量%がより好ましい。
【0103】
以下に、POA基又はヒドロキシ基を有する界面活性剤の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。下記界面活性剤A−12は、ゾニールFSPの商品名でデュポン社から入手できる。また、下記界面活性剤N−11は、ゾニールFSO 100の商品名でデュポン社から入手できる。なお、A−12におけるm及びnはそれぞれ独立に、1以上の整数を表す。
【0104】
【化3】
【0105】
【化4】
【0106】
画像記録層は、画像記録層の塗布の均一性を確保する目的で、ポリオキシアルキレン基及びヒドロキシ基を有さないアニオン界面活性剤を含有してもよい。
上記アニオン界面活性剤は、上記目的を達成する限り、特に制限されない。中でも、アルキルベンゼンスルホン酸又はその塩、アルキルナフタレンスルホン酸又はその塩、(ジ)アルキルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸又はその塩、アルキル硫酸エステル塩が好ましい。
【0107】
ポリオキシアルキレン基及びヒドロキシ基を有さないアニオン界面活性剤の添加量は、ポリオキシアルキレン基又はヒドロキシ基を有する界面活性剤の全質量に対して、1質量%〜50質量%が好ましく、1質量%〜30質量%がより好ましい。
【0108】
以下に、ポリオキシアルキレン基及びヒドロキシ基を有さないアニオン界面活性剤の具体例を挙げるが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0109】
【化5】
【0110】
また、画像記録層の塗布の均一性を確保する目的で、ポリオキシアルキレン基及びヒドロキシ基を有さないノニオン界面活性剤、あるいはフッ素系界面活性剤を用いてもよい。例えば、特開昭62−170950号公報に記載のフッ素系界面活性剤が好ましく用いられる。
【0111】
画像記録層は、親水性樹脂を含有することができる。親水性樹脂としては、例えばヒドロキシ基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、アミノ基、アミノエチル基、アミノプロピル基、カルボキシ基、カルボキシラート基、スルホ基、スルホナト基、リン酸基などの親水基を有する樹脂が好ましい。
【0112】
親水性樹脂の具体例として、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、澱粉誘導体、カルボキシメチルセルロース及びそのナトリウム塩、セルロースアセテート、アルギン酸ナトリウム、酢酸ビニル−マレイン酸コポリマー類、スチレン−マレイン酸コポリマー類、ポリアクリル酸類及びそれらの塩、ポリメタクリル酸類及びそれらの塩、ヒドロキシエチルメタクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシエチルアクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシプロピルメタクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシプロピルアクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシブチルメタクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシブチルアクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ポリエチレングリコール類、ヒドロキシプロピレンポリマー類、ポリビニルアルコール類、加水分解度が好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%の加水分解ポリビニルアセテート、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドのホモポリマー及びコポリマー、メタクリルアミドのホモポリマー及びコポリマー、N−メチロールアクリルアミドのホモポリマー及びコポリマー等を挙げることができる。
【0113】
親水性樹脂の重量平均分子量は、十分な皮膜強度や耐刷性が得られる観点から、2,000以上が好ましい。
親水性樹脂の含有量は、画像記録層の全質量に対し、0.5質量%〜50質量%が好ましく、1質量%〜30質量%がより好ましい。
【0114】
画像記録層は、上記凹凸形成用とは別に、無機粒子を含有してもよい。無機粒子としては、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、アルギン酸カルシウム又はこれらの混合物などが好適な例として挙げられる。無機粒子は、皮膜の強化などの目的で用いることができる。
【0115】
無機粒子の平均粒径は、5nm〜10μmが好ましく、10nm〜1μmがより好ましい。この範囲で、熱可塑性ポリマー粒子とも安定に分散され、画像記録層の膜強度を充分に保持し、印刷汚れを生じにくい親水性に優れた非画像部を形成できる。
【0116】
無機粒子は、コロイダルシリカ分散物などの市販品として容易に入手できる。
無機粒子の含有量は、画像記録層の全質量に対し、1.0質量%〜70質量%が好ましく、5.0質量%〜50質量%がより好ましい。
【0117】
画像記録層には、塗膜の柔軟性等を付与するために可塑剤を含有させることができる。可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、オレイン酸テトラヒドロフルフリル等が挙げられる。
可塑剤の含有量は、画像記録層の全質量に対し、0.1質量%〜50質量%が好ましく、1質量%〜30質量%がより好ましい。
【0118】
画像記録層において、熱反応性官能基(架橋性基)を有するポリマー粒子を用いる場合は、必要に応じて、熱反応性官能基(架橋性基)の反応を開始又は促進する化合物を添加することができる。熱反応性官能基の反応を開始または促進する化合物としては、熱によりラジカルまたはカチオンを発生するような化合物を挙げることができる。例えば、ロフィンダイマー、トリハロメチル化合物、過酸化物、アゾ化合物、ジアゾニウム塩、ジフェニルヨードニウム塩などを含むオニウム塩、アシルホスフィン、イミドスルホナートなどが挙げられる。このような化合物の添加量は、画像記録層の全質量に対し、1質量%〜20質量%が好ましく、1質量%〜10質量%がより好ましい。この範囲で、機上現像性を損なわず、良好な反応開始又は促進効果が得られる。
【0119】
<<画像記録層Cの形成>>
画像記録層Cは、必要な上記各成分を適当な溶剤に溶解又は分散して塗布液を調製し、この塗布液を支持体上に直接又は下塗り層を介して塗布して形成される。溶剤としては、水又は水と有機溶剤との混合溶剤が用いられるが、水と有機溶剤の混合使用が、塗布後の面状を良好にする点で好ましい。有機溶剤の量は、有機溶剤の種類によって異なるので、一概に特定できないが、混合溶剤中5容量%〜50容量%が好ましい。ただし、有機溶剤は熱可塑性ポリマー粒子が凝集しない範囲の量で使用する必要がある。画像記録層用塗布液の固形分濃度は、好ましくは1質量%〜50質量%である。
【0120】
塗布液の溶剤として用いられる有機溶剤は、水に可溶な有機溶剤が好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−メトキシ−2−プロパノールなどのアルコール溶剤、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン溶剤、エチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル溶剤、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。特に、沸点が120℃以下であって、水に対する溶解度(水100gに対する溶解量)が10g以上の有機溶剤が好ましく、20g以上の有機溶剤がより好ましい。
【0121】
画像記録層用塗布液の塗布方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げられる。塗布、乾燥後に得られる支持体上の画像記録層の塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、0.5g/m〜5.0g/mが好ましく、0.5g/m〜2.0g/mがより好ましい。
【0122】
以下に、平版印刷版原版の他の構成要素について記載する。
【0123】
<下塗り層>
本開示に係る平版印刷版原版は、画像記録層と支持体との間に、必要に応じ、下塗り層を設けることができる。下塗り層は、露光部においては支持体と画像記録層との密着を強化し、未露光部においては画像記録層の支持体からのはく離を生じやすくさせるため、耐刷性を損なわず機上現像性を向上させるのに寄与する。また、赤外線(IR)レーザー露光の場合は、下塗り層が断熱層として機能することにより、露光により発生した熱が支持体に拡散して感度が低下するのを防ぐ作用を有する。
【0124】
下塗り層に用いる化合物としては、具体的には、特開平10−282679号公報に記載されている付加重合可能なエチレン性二重結合反応基を有しているシランカップリング剤、特開平2−304441号公報記載のエチレン性二重結合反応基を有しているリン化合物が挙げられる。好ましいものとして、特開2005−125749号公報及び特開2006−188038号公報に記載のごとき、支持体表面に吸着可能な吸着性基、親水性基、及び架橋性基を有する高分子化合物が挙げられる。このような高分子化合物としては、吸着性基を有するモノマー、親水性基を有するモノマー、及び架橋性基を有するモノマーの共重合体であることが好ましい。より具体的には、フェノール性ヒドロキシ基、カルボキシ基、−PO、−OPO、−CONHSO−、−SONHSO−、−COCHCOCHなどの吸着性基を有するモノマーと、スルホ基などの親水性基を有するモノマーと、更にメタクリル基、アリル基などの重合性の架橋性基を有するモノマーとの共重合体が挙げられる。高分子化合物は、高分子化合物の極性置換基と、対荷電を有する置換基及びエチレン性不飽和結合を有する化合物との塩形成で導入された架橋性基を有してもよい。また、上記以外のモノマー、好ましくは親水性モノマーが更に共重合されていてもよい。
【0125】
下塗り層用高分子化合物中のエチレン性不飽和結合の含有量は、高分子化合物1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、より好ましくは2.0〜5.5mmolである。
下塗り層用高分子化合物は、重量平均分子量が5,000以上であることが好ましく、10,000〜300,000であることがより好ましい。
【0126】
下塗り層は、上記下塗り層用化合物の他に、経時における汚れ防止のため、キレート剤、第2級又は第3級アミン、重合禁止剤、アミノ基又は重合禁止能を有する官能基とアルミニウム支持体表面と相互作用する基とを有する化合物など(例えば、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、2,3,5,6−テトラヒドロキシ−p−キノン、クロラニル、スルホフタル酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸など)を含有することができる。
【0127】
下塗り層は、公知の方法で塗布される。下塗り層の塗布量は、乾燥後の塗布量で、0.1mg/m〜100mg/mが好ましく、1mg/m〜30mg/mがより好ましい。
【0128】
<保護層>
本開示に係る平版印刷版原版は、画像記録層の上に、必要により、保護層を設けることができる。保護層は酸素遮断によって画像形成阻害反応を抑制する機能の他、画像記録層における傷の発生防止、及び高照度レーザー露光時のアブレーション防止の機能を有する。
【0129】
このような機能を有する保護層については、特開2014−104631号公報の段落0202〜0204に記載のものを使用できる。
【0130】
保護層は、公知の方法で塗布される。保護層の塗布量は、乾燥後の塗布量で、0.01g/m〜10g/mが好ましく、0.02g/m〜3g/mがより好ましく、0.02g/m〜1g/mが特に好ましい。
【0131】
平版印刷版原版は、各構成層の塗布液を通常の方法に従って塗布、乾燥して各構成層を形成することにより製造することができる。塗布には、ダイコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法など用いられる。
【0132】
(平版印刷版及びその作製方法、並びに、平版印刷方法)
本開示に係る平版印刷版は、本開示に係る平版印刷版原版を製版してなる平版印刷版である。
本開示に係る平版印刷版の作製方法は、本開示に係る平版印刷版原版を用いて平版印刷版を作製する方法であれば、特に制限はないが、本開示に係る平版印刷版原版を用いて平版印刷版を製版し、作製する方法であり、本開示に係る平版印刷版原版を画像様に露光し、露光部と未露光部とを形成する工程(「画像露光工程」ともいう。)、並びに、印刷インキ及び湿し水の少なくとも一方を供給して非画像部を除去する工程(「現像処理工程」ともいう。)を含むことが好ましい。
本開示に係る平版印刷方法は、本開示に係る平版印刷版原版を用いて平版印刷版を作製し、印刷する方法であり、本開示に係る平版印刷版原版を用いて平版印刷版を製版し、作製する方法であり、本開示に係る平版印刷版原版を画像様に露光し、露光部と未露光部とを形成する工程(「画像露光工程」ともいう。)、印刷インキ及び湿し水の少なくとも一方を供給して非画像部を除去する工程(「現像処理工程」ともいう。)、並びに、得られた平版印刷版により印刷する工程(「印刷工程」ともいう。)を含むことが好ましい。
なお、本開示に係る平版印刷版原版のうち、捨て版原版は、画像露光工程を経ずに現像処理工程が行われる。
【0133】
<画像露光工程>
平版印刷版原版の画像露光は、通常の平版印刷版原版の画像露光操作に準じて行うことができる。
画像露光は、線画像、網点画像等を有する透明原画を通してレーザー露光するかデジタルデータによるレーザー光走査等で行われる。光源の波長は700nm〜1,400nmが好ましく用いられる。700nm〜1,400nmの光源としては、赤外線を放射する固体レーザー及び半導体レーザーが好適である。赤外線レーザーに関しては、出力は100mW以上であることが好ましく、1画素当たりの露光時間は20μ秒以内であることが好ましく、照射エネルギー量は10mJ/cm〜300mJ/cmであることが好ましい。露光時間を短縮するためマルチビームレーザーデバイスを用いることが好ましい。露光機構は、内面ドラム方式、外面ドラム方式、フラットベッド方式等の何れでもよい。画像露光は、プレートセッターなどを用いて常法により行うことができる。
【0134】
<現像処理工程>
現像処理は、通常の方法により行うことができる。機上現像の場合、画像露光された平版印刷版原版に、印刷機上で、湿し水及び印刷インキの少なくともいずれかを供給すると、画像記録層の画像部においては、画像記録層が、親油性表面を有する印刷インキ受容部を形成する。一方、非画像部においては、供給された湿し水及び印刷インキの少なくともいずれかによって、未硬化の画像記録層が溶解又は分散して除去され、その部分に親水性の表面が露出する。その結果、湿し水は露出した親水性の表面に付着し、印刷インキは画像部の画像記録層に着肉して印刷が開始される。ここで、最初に平版印刷版原版の表面に供給されるのは、湿し水でもよく印刷インキでもよいが、湿し水を浸透させ機上現像性を促進するために、最初に湿し水を供給することが好ましい。
【0135】
<印刷工程>
得られた平版印刷版による印刷は、通常の方法により行うことができる。平版印刷版に所望の印刷インキ、及び、必要に応じて、湿し水を供給し、印刷を行うことができる。
印刷インキ及び湿し水の供給量は、特に制限はなく、所望の印刷に応じ、適宜設定すればよい。
印刷インキ及び湿し水の平版印刷版への供給方法は、特に制限はなく、公知の方法により行うことができる。
【0136】
本開示に係る平版印刷方法は、上記工程以外に、公知の他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、各工程の前に平版印刷版原版の位置や向き等を確認する検版工程や、現像処理工程の後に、印刷画像を確認する確認工程等が挙げられる。
【実施例】
【0137】
以下、実施例により本開示を詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。なお、本実施例において、「%」、「部」とは、特に断りのない限り、それぞれ「質量%」、「質量部」を意味する。なお、高分子化合物において、特別に規定したもの以外は、分子量は重量平均分子量(Mw)であり、構成単位の比率はモル百分率である。また、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算値として測定した値である。
また、実施例比較例における凸部の融点、平均寸法及び平均高さ、並びに、最外層表面における凸部の占有面積率は、上述した方法によりそれぞれ測定した。
【0138】
<支持体1の作製方法>
粗面化処理として、下記(a)〜(e)の処理を施した。なお、全ての処理工程の間には水洗処理を施した。
【0139】
(a)アルカリエッチング処理
厚み0.3mmのアルミニウム板(材質JIS 1052)に、カセイソーダ濃度25質量%、アルミニウムイオン濃度100g/L、温度60℃の水溶液をスプレー管から吹き付けて、エッチング処理を行った。アルミニウム板の後に電気化学的粗面化処理を施す面のエッチング量は、3g/mであった。
【0140】
(b)デスマット処理
次いで、温度35℃の硫酸水溶液(濃度300g/L)をスプレー管から5秒間吹き付けて、デスマット処理を行った。
【0141】
(c)電解粗面化処理
その後、1質量%塩酸水溶液に塩化アルミニウムを溶解させてアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lとした電解液(液温35℃)を用い、60Hzの交流電源を用いて、フラットセル型の電解槽を用いて連続的に電気化学的粗面化処理を行った。交流電源の波形は、正弦波を用いた。電気化学的粗面化処理において、交流のピーク時におけるアルミニウム板のアノード反応時の電流密度は、30A/dmであった。アルミニウム板のアノード反応時の電気量総和とカソード反応時の電気量総和との比は0.95であった。電気量はアルミニウム板のアノード時の電気量総和で480C/dmとした。電解液はポンプを用いて液を循環させることで、電解槽内の撹拌を行った。
【0142】
(d)アルカリエッチング処理
アルミニウム板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度5g/L、温度35℃の水溶液をスプレー管から吹き付けて、エッチング処理を行った。アルミニウム板の電解粗面化処理を施した面のエッチング量は、0.05g/mであった。
【0143】
(e)デスマット処理
硫酸濃度300g/L、アルミニウムイオン濃度5g/L、液温35℃の水溶液をスプレー管から5秒間吹き付けて、デスマット処理を行った。
【0144】
上記粗面化処理を行ったアルミニウム板に対し、22質量%リン酸水溶液を電解液として、処理温度38℃、電流密度15A/dmにて陽極酸化処理を実施した。
その後、スプレーによる水洗を行った。最終的な酸化皮膜量は1.5g/mであった。この基板の表面を、電子顕微鏡を用い15万倍撮影して、n=90の平均ポア径を実測すると30nmであった。
【0145】
<支持体2の作製>
厚さ0.3mmの表1に示す組成のアルミニウム合金板に対し、下記(a)〜(m)の処理を施し、支持体2を作製した。なお、全ての処理工程の間には水洗処理を施し、水洗処理の後にはニップローラで液切りを行った。
また、支持体2は、得られた支持体を陽極酸化処理から10日経過した後に使用した支持体である。
【0146】
【表1】
【0147】
(a)機械的粗面化処理(ブラシグレイン法)
パミスの懸濁液(比重1.1g/cm)を研磨スラリー液としてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転する束植ブラシにより機械的粗面化処理を行った。
【0148】
機械的粗面化処理は、研磨材パミスのメジアン径を30μm、束植ブラシの数を4、束植ブラシの回転数を250rpmとして行った。束植ブラシの材質は6・10ナイロンで、ブラシ毛の直径0.3mm、毛長50mmであった。束植ブラシはφ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛したものである。束植ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は300mmであった。束植ブラシはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、束植ブラシをアルミニウム板に押さえつける前の負荷に対して10kWプラスになるまで押さえつけた。束植ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。
【0149】
(b)アルカリエッチング処理
アルミニウム板に、カセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度70℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、10g/mであった。
【0150】
(c)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硝酸水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット処理に用いた硝酸水溶液は、次工程の電気化学的粗面化に用いた硝酸電解液を用いた。液温は35℃であった。デスマット液をスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0151】
(d)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。電解液は、温度35℃、硝酸10.4g/Lの水溶液に硝酸アルミニウムを添加してアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lに調整した電解液を用いた。交流電源波形は電流値がゼロからピークに達するまでの時間tpが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電流密度は電流のピーク値で30A/dm、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で185C/dmであった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0152】
(e)アルカリエッチング処理
アルミニウム板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度50℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、0.5g/mであった。
【0153】
(f)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硫酸水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット処理には、硫酸濃度170g/L、アルミニウムイオン濃度5g/Lの硫酸水溶液を用いた。液温は60℃であった。デスマット液をスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0154】
(g)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。電解液は、液温35℃、塩酸6.2g/Lの水溶液に塩化アルミニウムを添加してアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lに調整した電解液を用いた。交流電源波形は電流値がゼロからピークに達するまでの時間tpが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電流密度は電流のピーク値で25A/dmであり、塩酸電解における電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で63C/dmであった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0155】
(h)アルカリエッチング処理
アルミニウム板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度50℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、0.1g/mであった。
【0156】
(i)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硫酸水溶液中でデスマット処理を行った。陽極酸化処理工程で使用する硫酸水溶液(硫酸170g/L水溶液中にアルミニウムイオン5g/Lを含有)を用い、液温35℃で4秒間デスマット処理を行った。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0157】
(j)第1陽極酸化処理
直流電解による陽極酸化装置を用いて第1段階の陽極酸化処理を行った。表2に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。電解液には、表2に示す成分を含む水溶液を用いた。表2〜表4において、「成分濃度」は、「液成分」欄に記載の各成分の含有濃度(g/L)を表す。
【0158】
【表2】
【0159】
(k)第2陽極酸化処理
直流電解による陽極酸化装置を用いて第2段階の陽極酸化処理を行った。表3に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。電解液には、表3に示す成分を含む水溶液を用いた。
【0160】
【表3】
【0161】
(l)第3陽極酸化処理
直流電解による陽極酸化装置を用いて第3段階の陽極酸化処理を行った。表4に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。電解液には、表4に示す成分を含む水溶液を用いた。
【0162】
【表4】
【0163】
(m)親水化処理
非画像部の親水性を確保するため、2.5質量%3号ケイ酸ソーダ水溶液を用いて50℃で7秒間ディップしてシリケート処理を施した。Siの付着量は8.5mg/mであった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0164】
上記で得られたマイクロポアを有する陽極酸化皮膜中の大径孔部の陽極酸化皮膜表面における平均径(表層平均径)、大径孔部の連通位置における平均径(底部平均径)、小径孔部の連通位置における平均径(小径孔部径)、大径孔部及び小径孔部の平均深さ、小径孔部の底部からアルミニウム板表面までの陽極酸化皮膜の厚み(バリア層厚)、小径孔部の密度など表5及び表6に示す。上記小径孔部は、深さが異なる第1の小径孔部及び第2の小径孔部を含み、深い方を第1の小径孔部と称する。
【0165】
【表5】
【0166】
【表6】
【0167】
表6において、バリア層厚として、平均値と最小値とを示す。平均値は、第1の小径孔部の底部からアルミニウム板表面までの陽極酸化皮膜の厚みを50箇所測定し、それらを算術平均したものである。
【0168】
マイクロポアの平均径(大径孔部及び小径孔部の平均径)は、大径孔部表面及び小径孔部表面を倍率15万倍の電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)でN=4枚観察し、得られた4枚の画像において、400×600nmの範囲に存在するマイクロポア(大径孔部及び小径孔部)の径を測定し、平均した値である。なお、大径孔部の深さが深く、小径孔部の径が測定しづらい場合は、陽極酸化皮膜上部を切削し、その後各種径を求めた。
大径孔部の平均深さは、支持体(陽極酸化皮膜)の断面を倍率50万倍のFE−TEMで観察し、得られた画像において、任意のマイクロポアの表面から連通位置までの距離を60個(N=60)測定し、それらを平均した値である。また、小径孔部の平均深さは、支持体(陽極酸化皮膜)の断面をFE−SEMで観察し(5万倍)、得られた画像において、任意のマイクロポア25個の深さを測定し、平均した値である。
【0169】
「連通部密度」は、連通位置における陽極酸化皮膜断面の小径孔部の密度を意味する。「表面積増加倍率」は、下記式(A)に基づいて計算した値を意味する。
式(A)
表面積増加倍率=1+ポア密度×((π×(表層平均径/2+底部平均径/2)×((底部平均径/2−表層平均径/2)+深さA1/2+π×(底部平均径/2)−π×(表層平均径/2)))
小径孔部の「平均深さ(nm)」欄において、第2の小径孔部の平均深さを左側に、第1の小径孔部の平均深さを右側に示す。表6中の小径孔部の「連通部密度」欄において、小径孔部の連通部密度と共に、第1の小径孔部の密度をカッコ書き中に示す。
また、第2の小径孔部の底部から第1の小径孔部の底部までに位置する第1の小径孔部の平均径は、12nm程度であった。
【0170】
<支持体3の作製>
厚さ0.19mmのアルミニウム板を40g/Lの水酸化ナトリウム水溶液中に60℃で8秒間浸漬することにより脱脂し、脱塩水により2秒間洗浄した。次に、アルミニウム板を、15秒間交流を用いて12g/Lの塩酸及び38g/Lの硫酸アルミニウム(18水和物)を含有する水溶液中で、33℃の温度及び130A/dmの電流密度で電気化学的粗面化処理を行った。脱塩水により2秒間洗浄した後、アルミニウム板を155g/Lの硫酸水溶液により70℃で4秒間エッチングすることによりデスマット処理し、脱塩水により25℃で2秒間洗浄した。アルミニウム板を13秒間155g/Lの硫酸水溶液中で、45℃の温度及び22A/dmの電流密度で陽極酸化処理し、脱塩水で2秒間洗浄した。更に、4g/Lのポリビニルホスホン酸水溶液を用いて40℃で10秒間処理し、脱塩水により20℃で2秒間洗浄し、乾燥して支持体を作製した。得られた支持体は、表面粗さRaが0.21μmで、陽極酸化皮膜量は4g/mであった。
【0171】
<下塗り層の形成>
支持体の一方の表面に、下記組成の下塗り層塗布液(1)を乾燥塗布量が20mg/mになるよう塗布して、下塗り層を形成した。
【0172】
(下塗り層塗布液(1))
・下塗り層用化合物(A−1)(下記構造):0.18部
・ヒドロキシエチルイミノ二酢酸:0.05部
・界面活性剤(エマレックス710、日本エマルジョン(株)製):0.03部
・水:28.0部
【0173】
【化6】
【0174】
<画像記録層1の形成>
下塗り層を形成していない支持体上に、下記組成の画像記録層塗布液(1)をバー塗布した後、70℃で60秒オーブン乾燥し、乾燥塗布量0.6g/mの画像記録層を形成した。
【0175】
<画像形成層塗布液(1)>
・重合性化合物1*1:0.325部
・グラフトコポリマー1*2:0.060部
・グラフトコポリマー2*3:0.198部
・メルカプト−3−トリアゾール*4:0.180部
・Irgacure 250*5:0.032部
・赤外線吸収剤1(下記構造):0.007部
・テトラフェニルホウ酸ナトリウム(下記構造):0.04部
・Klucel 99M*6:0.007部
・Byk 336*7:0.015部
・n−プロパノール:7.470部
・水:1.868部
*1:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(新中村化学工業(株)製)
*2:グラフトコポリマー1は、ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル),α−(2−メチル−1−オキソ−2−プロペニル)−ω−メトキシ−,エテニルベンゼンでグラフトされたポリマーであり、これを、80%n−プロパノール/20%水の溶剤中25%の分散体である。
*3:グラフトコポリマー2は、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート/スチレン/アクリロニトリル=10:9:81のグラフトコポリマーのポリマー粒子であり、これを、n−プロパノール/水の質量比が80/20である溶媒中に、24質量%含有している分散体である。また、その体積平均粒径は193nmである。
*4:メルカプト−3−トリアゾールは、PCAS社(フランス国)から入手可能なメルカプト−3−トリアゾール−1H,2,4,を意味する。
*5:Irgacure 250は、75%プロピレンカーボネート溶液として、Ciba specialty Chemicals社から入手可能なヨードニウム塩であり、そしてヨードニウム,(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル],−ヘキサフルオロホスフェートを有する。
*6:Klucel 99Mは、Hercules(ベルギー国Heverlee)から入手可能な、1%水溶液として使用されるヒドロキシプロピルセルロース増粘剤である。
*7:Byk 336は、25%キシレン/メトキシプロピルアセテート溶液中の,Byk Chemie社から入手可能な改質ジメチルポリシロキサンコポリマーである。
【0176】
<画像記録層2の形成>
上記下塗り層を形成した支持体における下塗り層上に、下記組成の画像記録層塗布液(1)をバー塗布した後、100℃で60秒オーブン乾燥し、乾燥塗布量1.0g/mの画像記録層を形成した。
画像記録層塗布液(1)は、下記感光液(1)及びミクロゲル液(1)を塗布直前に混合し撹拌することにより得た。
【0177】
<画像形成層塗布液(2)>
・バインダーポリマー(1)〔下記構造〕:0.240部
・赤外線吸収剤(2)〔下記構造〕:0.030部
・重合開始剤(1)〔下記構造〕:0.162部
・重合性化合物(トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、NKエステルA−9300、新中村化学工業(株)製):0.192部
・トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート:0.062部
・ベンジルジメチルオクチルアンモニウム・PF塩:0.018部
・アンモニウム基含有ポリマー〔下記構造〕:0.010部
・フッ素系界面活性剤(1)〔下記構造〕:0.008部
・メチルエチルケトン:1.091部
・1−メトキシ−2−プロパノール:8.609部
・ポリマー粒子(疎水化前駆体)水分散液:5.065部
【0178】
【化7】
【0179】
【化8】
【0180】
【化9】
【0181】
【化10】
【0182】
<画像記録層3の形成>
下記に示す熱可塑性樹脂粒子、赤外線吸収剤などの成分を含有する画像記録層用水系塗布液を調製し、pHを3.6に調整した後、上記支持体上に塗布し、50℃で1分間乾燥して画像記録層3を形成した。
【0183】
上記画像記録層用塗布液に用いた熱可塑性粒子ポリマーSAN、赤外線吸収剤IR−01、他の成分PAA、及び、界面活性剤は、以下に示す通りである。
【0184】
熱可塑性樹脂粒子SAN:スチレン/アクリロニトリル共重合体(モル比50/50)、平均粒径:61nm、塗布量0.6927(g/m
他の成分PAA:ポリアクリル酸、重量平均分子量:250,000、塗布量0.09(g/m
界面活性剤:Zonyl FSO100(Du Pont社製)、塗布量0.0075(g/m
赤外線吸収剤IR−01:下記構造の赤外線吸収剤(Etはエチル基を表す。)、塗布量1.03×10−4(mol/m
【0185】
【化11】
【0186】
<凸部(1)の形成>
画像記録層上に、下記組成の凸部用塗布液(1)をバー塗布した後、120℃で60秒オーブン乾燥し、乾燥塗布量0.025g/mの非連続な凸部を形成した。
【0187】
−凸部用塗布液(1)−
・AQUAMAT263(酸化架橋高密度ポリエチレン(融点130℃)分散液、BYK社製):0.08部
・イオン交換水:7.42部
【0188】
−凸部用塗布液(2)〜(49)−
凸部用塗布液(1)のAQUAMAT263(BYK社製)に代えて、表7に記載の素材、及び、塗布量となるように変更した以外は、凸部用塗布液(1)と同様の方法にて、凸部用塗布液(2)〜(49)をそれぞれ作製した。
【0189】
(実施例1〜39、及び、比較例1〜8)
<平版印刷版原版の作製>
表7に記載の支持体に、上記画像記録層2を設ける場合は上記下塗り層を形成し、表7に記載の画像形成層を形成し、表7に記載の凸部を形成し、平版印刷版原版を得た。
なお、比較例2においては、SD1000、LUBA−print VP499/Aワックス分散液を使用し、均一な塗布膜(連続膜)を最外層に形成した。
【0190】
<外層耐引っ掻き性>
新東科学(株)製引っかき強度試験機を使用し、0.1mm径サファイア針に5gから始めて、5gきざみに100gまで加重をかけて、平版印刷版原版の各々の試料表面を走査して引っ掻き試験を行い、引っ掻き時の荷重を測定し、また、引っ掻き傷による画像部の欠損の有無、並びに、非画像部の現像不良及びインキ汚れの発生を目視により観察した。原版をKodak(登録商標)Trendsetter 800II Quantumプレートセッター(露光波長830nm)に置き、引っ掻き部がベタ画像及び20μmドットFMスクリーンの50%網点チャートを含む露光画像及び非画像部をまたがるように波長830nmのIRレーザーを使用して露光した。得られた露光済み原版を現像処理することなく、(株)小森コーポレーション製印刷機LITHRONE26の版胴に取り付けた。Ecolity−2(富士フイルム(株)製)/水道水=2/98(容量比)の湿し水とスペースカラーフュージョンG墨インキ(DICグラフィックス(株)製)とを用い、LITHRONE26の標準自動印刷スタート方法で湿し水とインキとを供給して機上現像した後、毎時10,000枚の印刷速度で、特菱アート(三菱製紙(株)製、連量:76.5kg)紙に印刷を500枚行った。
得られた500枚目の印刷物上において、引っ掻き傷による画像部の欠損、又は、非画像部の現像不良若しくはインキ汚れが発生していない最大荷重を外層耐引っ掻き性(g)として評価した。
【0191】
<着肉性>
上記外層耐引っ掻き性評価において得られた露光済み原版を、(株)小森コーポレーション製印刷機LITHRONE26の版胴に取り付けた。Ecolity−2(富士フイルム(株)製)/水道水=2/98(容量比)の湿し水とValues−G(N)墨インキ(大日本インキ化学工業(株)製)とを用い、LITHRONE26の標準自動印刷スタート方法で湿し水とインキとを供給して機上現像した後、印刷を開始し、毎時10,000枚の印刷速度で、特菱アート(三菱製紙(株)製、連量:76.5kg)紙に印刷を100枚行った。
画像記録層の露光部領域の印刷用紙上インキ濃度が規定の標準濃度に達するまでに要した印刷用紙の枚数を印刷初期インキ着肉性として計測した。
【0192】
<機上現像性>
得られた平版印刷版原版を、赤外線半導体レーザー搭載の富士フイルム(株)製Luxel PLATESETTER T−6000IIIにて、外面ドラム回転数1,000rpm(回転/分)、レーザー出力70%、解像度2,400dpi(dot per inch)の条件で露光した。露光画像にはベタ画像及び20μmドットFMスクリーンの50%網点チャートを含むようにした。
得られた露光済み原版を現像処理することなく、(株)小森コーポレーション製印刷機LITHRONE26の版胴に取り付けた。Ecolity−2(富士フイルム(株)製)/水道水=2/98(容量比)の湿し水とスペースカラーフュージョンG墨インキ(DICグラフィックス(株)製)とを用い、LITHRONE26の標準自動印刷スタート方法で湿し水とインキとを供給して機上現像した後、毎時10,000枚の印刷速度で、特菱アート(76.5kg)紙に印刷を500枚行った。
画像記録層の未露光部の印刷機上での機上現像が完了し、非画像部にインキが転写しない状態になるまでに要した印刷用紙の枚数を機上現像性として計測した。
【0193】
<耐刷性>
上記機上現像性評価において、500枚印刷を行った後、毎時10,000枚の印刷速度で、更に印刷を行った。印刷枚数の増加に伴い、徐々に画像記録層が磨耗しインキ受容性が低下するため、印刷用紙におけるインキ濃度が低下した。同一露光量で露光した印刷版において、インキ濃度(反射濃度)が印刷開始時よりも0.1低下したときの印刷枚数により、耐刷性を評価した。耐刷性評価は、比較例1を基準(100)として、以下のように定義した相対耐刷性で表した。相対耐刷性の数字が大きい程、耐刷性が高いことを表す。
相対耐刷性=(対象平版印刷版原版の耐刷性)/(基準平版印刷版原版の耐刷性)
【0194】
【表7】
【0195】
表7に記載の凸部用塗布液に用いる各素材の詳細を、以下に示す。
・AQUAMAT272(変性ポリエチレン(融点125℃)分散液、BYK社製)
・AQUACER531(変性ポリエチレン(融点130℃)分散液、BYK社製)
・AQUACER531(変性ポリエチレン(融点130℃)分散液、BYK社製)
・CERAFLOUR927(変性高密度ポリエチレン(融点125℃)分散液、BYK社製)
・AQUACER539(変性パラフィンワックス(融点90℃)分散液、BYK社製)
・SD1000、LUBA−print VP499/Aワックス分散液:1.90gのSD1000(カルボン酸修飾ポリ(ビニルアルコール)、(株)クラレ製)、0.08gのLutensol(登録商標)TO10(エトキシ化された炭素数13のアルコール)、0.26gのLUBA−print VP499/Aワックス分散液(Munzing Liquid Technologies GmbH製ワックス粒子(ポリエチレンで構成されている。平均粒径150nm)の分散液)及び50gの水を含む分散液
・AQUACER497(パラフィンワックス(融点60℃)分散液、BYK社製)
・AQUACER593(変性ポリプロピレンワックスエマルション(融点160℃)分散液、BYK社製)
・オプトビーズ6500M(メラミン樹脂−シリカ複合粒子(分解開始温度350℃)、日産化学工業(株)製)
・アートパールC−800(ウレタンビーズ(分解開始温度320℃)、根上工業(株)製)
【0196】
2017年8月31日に出願された日本国特許出願第2017−167433号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び、技術規格は、個々の文献、特許出願、及び、技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。