特許第6979107号(P6979107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979107
(24)【登録日】2021年11月16日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20211125BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20211125BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20211125BHJP
   H02N 13/00 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   H01J37/20 D
   H01J37/20 A
   H01J37/28 B
   H01L21/68 R
   H02N13/00 D
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-125667(P2020-125667)
(22)【出願日】2020年7月22日
(62)【分割の表示】特願2019-500947(P2019-500947)の分割
【原出願日】2017年2月24日
(65)【公開番号】特開2020-198307(P2020-198307A)
(43)【公開日】2020年12月10日
【審査請求日】2020年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田ノ口 亮斗
(72)【発明者】
【氏名】菅野 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】芝山 慧
【審査官】 関口 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−275079(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0047193(US,A1)
【文献】 特開2000−357482(JP,A)
【文献】 特開2012−064567(JP,A)
【文献】 特開2002−015977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J37/00−37/02
37/05
37/09−37/21
37/24−37/244
37/252−37/36
H01L21/67−21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電チャック機構を備えた荷電粒子線装置において、
荷電粒子ビームが照射される試料を前記荷電粒子ビームの照射位置に対して相対的に移動させるステージと、
前記ステージ上に配置され、前記静電チャックの誘電層を構成する絶縁体と、
前記試料周囲を包囲し、所定の電圧が印加されるリング状電極とを備え、
前記リング状電極は、非磁性の導体からなり、前記ステージは、アルミニウムと金属シリコンとの混合材であることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記リング状電極は、アルミニウムであることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記リング状電極は、アルミニウムと金属シリコンとの混合材であることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記リング状電極及び前記ステージの両方、或いは、どちらか一方は、一部又は表面に金属メッキが施されていることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記金属メッキに用いられている金属はニッケルであることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記金属メッキは、無電解ニッケルメッキであることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
静電チャック機構を備えた荷電粒子線装置において、
荷電粒子ビームが照射される試料を前記荷電粒子ビームの照射位置に対して相対的に移動させるステージと、
前記ステージ上に配置され、前記静電チャックの誘電層を構成する絶縁体と、
前記試料周囲を包囲し、所定の電圧が印加されるリング状電極と、を備え、
前記リング状電極は、非磁性の導体からなり、前記ステージは、一部又は表面に金属メッキが施されているセラミックであることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記金属メッキに用いられている金属はニッケルであることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記金属メッキは、無電解ニッケルメッキであることを特徴とする荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、荷電粒子線装置に係り、特に静電チャック機構を備えた荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハの測定や検査を行うための走査電子顕微鏡には、電子ビームの照射対象である半導体ウエハを支持するための支持機構として、静電チャック機構を採用しているものがある。静電チャックは、内部に設けた金属電極に電圧を印加し、半導体ウエハ等の被吸着物と静電チャック表面に正、負の電荷を発生させ、この間に働くクーロン力等によって被吸着物を固定する。特許文献1には、静電チャックへの電圧の印加によって、被吸着物の周辺部近傍に発生する電界の電子ビームへの影響を抑制するために、試料外周部を包囲するリング状の補正電極を設けた静電チャック機構が開示されている。静電チャック機構と試料上の直上にある対物レンズとの間には、試料表面に平行な等電位線で表すことができる電界が形成されるが、試料の端部では上記電界が変化し、ビームを偏向する偏向電界となる。上記補正電極に適正な電圧を印加することで、上記ビーム偏向を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−176683号公報 (対応米国特許USP9,401,297)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
静電チャックの試料吸着面は、誘電層として例えば絶縁性のセラミックによって形成される。一方、補正電極は導電性のアルミニウム等によって形成される。ビームの照射位置によらず、均一にビームの偏向作用を抑制するためには、静電チャックの試料吸着面と補正電極が高精度に位置合わせされている必要があり、そのために特許文献1に説明されているように、誘電層を形成する部材と、補正電極は直接的に結合されている。しかしながら、発明者らの検討によって、このような構成では誘電層に対して温度が異なる試料が吸着面に搭載されると、誘電層と誘電層を形成する部材に取り付けられている補正電極へ熱が伝達し、バイメタルのように反りが発生する可能性があることがわかった。試料を支持する吸着面に反りが発生すると、試料も吸着面に沿って変形する。試料が反ってしまうと試料の高さが変化することになり、ビームのフォーカスが合わない場合がある。特許文献1では、このような吸着面の反りの抑制については何ら論じられていない。
【0005】
以下に、静電チャック機構の吸着面に温度の異なる試料が載ることに起因する試料変形の抑制を目的とする荷電粒子線装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための一態様として、静電チャック機構を備えた荷電粒子線装置であって、荷電粒子ビームが照射される試料を当該荷電粒子ビームの照射位置に対して相対的に移動させるステージと、当該ステージ上に配置され、前記静電チャックの誘電層を構成する絶縁体と、当該絶縁体を前記ステージ上で支持する第1の支持部材と、前記試料周囲を包囲すると共に前記絶縁体に非接触に設置され、所定の電圧が印加されるリング状電極と、当該リング状電極を支持する第2の支持部材を備えた荷電粒子線装置を提案する。
【発明の効果】
【0007】
上記構成によれば、静電チャック上に配置される試料と静電チャックの吸着面との間に温度差がある場合であっても、試料変形を効果的に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】荷電粒子線装置(測長SEM)の概略を示す図。
図2】保持機構(静電チャック機構)の概要を示す図。
図3】荷電粒子線装置の光学系の概要を示す図。
図4】補正電極への電圧印加によって、試料端部の電界を補正する例を示す図。
図5】誘電層を構成するセラミックに補正電極を取り付けた静電チャック機構を示す図。
図6】高温試料が静電チャック上に配置されたときに生ずる試料変形の原理を説明する図。
図7】静電チャックの支持部材(第1の支持部材)とは異なる補正電極支持部材(第2の支持部材)を有する静電チャック機構の一例を示す図。
図8】複数の補正電極支持部材によって補正電極を支持する静電チャック機構の一例を示す図。
図9】補正電極を平坦に保つ平面度補正材を有する静電チャック機構の一例を示す図。
図10】アルミと金属シリコンの混合材からなる補正電極を備えた静電チャック機構の一例を示す図。
図11】Niメッキされたアルミと金属シリコンの混合材からなる補正電極を備えた静電チャック機構の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に説明する実施例は、静電チャック機構、及び半導体検査・計測装置に係り、特に装置と観察対象との温度差がある場合でも、観察対象へのフォーカス時間が増大してスループットが低減することを抑制できる、静電チャック機構とその周辺機構が機構に関する。
【0010】
デバイス製造ラインでは、微細パターンの寸法計測やデバイス上の欠陥を検査するために、走査型電子顕微鏡を応用した装置が使われている。たとえば、半導体デバイスのゲートやコンタクトホールの寸法測定(以後、測長と記載)には測長SEM(Critical−Dimension Scanning Electron Microscope:CD−SEM)が、欠陥検査には欠陥検査SEM等が用いられる。また、電位コントラストを利用し、配線用深穴の導通検査にも走査型電子顕微鏡が用いられるようになっている。
【0011】
図1は、荷電粒子線装置の一態様である電子顕微鏡を示す図である。以下の説明では、電子顕微鏡が上記測長SEMであるものとして説明する。測長SEM100は、観察対象202を保持する保持機構201を備え装置内を多軸方向に駆動する機能をもつステージ200、観察対象202に対して電子を放出する電子光学系300、真空チャンバー101を備えている。図中の点線は、内部を可視化するため、真空チャンバー101を切り欠いた、切り欠き線である。測長SEM100は、装置外の試料ストッカー104から観察対象202を観察対象の移動経路105に沿って取り込み、観察対象202を、ステージ200が備える静電チャック201を用いて保持し、電子光学系300に対して位置決めした後に、電子光学系300を観察対象202の所望の部位にフォーカスして測長を行う。
【0012】
次に観察対象の保持機構の説明を行う。図2に保持機構の概要を示す。測長SEMでは、観察対象である半導体ウエハ(以後、ウエハと記載)等の保持機構として、静電チャック203が用いられることがある。静電チャック203は主に誘電層を構成するセラミッ
クスで形成された円盤状の形状で、内部に設けた金属電極に電圧を印加することで、ウエハと静電チャック203の表面に正・負の電荷を発生させ、この間に働くクーロン力によってウエハを固定するものである。
【0013】
ウエハはきわめて高い平面度に成型されているが、ウエハに変形を生じないよう、静電チャック203の吸着面もまた、きわめて高い平面度(±数μm)に成型されている。静電チャック203の吸着面は、概略ウエハと同じ大きさである。静電チャック203はチャック支持部402を介してステージ200に固定される。また、静電チャック203の周りには、補正電極204が備えられている。補正電極204は静電チャック203に固定されている。補正電極204についての詳細は後述する。
【0014】
電子光学系300の概略を図3に示す。引き出し電極302の電圧により電子銃301から出た一次電子線322(破線で示す)は、コンデンサレンズ303、走査偏向器305、絞り306、対物レンズ309等を通過して収束・偏向されて、観察対象であるウエハ205の検査位置に照射される。なお、コンデンサレンズ303、走査偏向器305、絞り306、対物レンズ309およびシールド電極316は、光軸318を中心軸とする軸対称形状に形成されている。
【0015】
このウエハ205には、一次電子線322の減速用にリターディング電源326より減速電圧(以下、リターディング電圧と記す)が印加されている。ウエハ205からは一次電子線322の照射により二次電子線324(破線で示す)が発生し、ウエハ205に印加されたリターディング電圧により加速され上方に移動する。加速された二次電子線324は、このEクロスB偏向器308により偏向され、二次電子検出器314に入射する。この二次電子検出器314では入射した二次電子324が電気信号に変換され、プリアンプ(図示しない)によって増幅されて検査画像の信号用の輝度変調入力となり、検査領域の画像データであるSEM像が得られる。
【0016】
ところで、測長SEMはウエハ205の端部以外、例えば中央部などを検査する場合には、ウエハ205近傍の等電位面はウエハ205の表面に沿って平行に、平らに形成されるため、光軸318を中心軸とする軸対称分布となる。しかし、ウエハ205の端部を検査する場合には、ウエハ205の表面が端部を境に無くなり、端部より外側では等電位面がウエハ205の表面に沿って形成できなくなるため、ウエハ205近傍の等電位面の軸対称性が乱れてしまう場合がある。等電位面の軸対称性が乱れてしまうと一次電子線322が曲げられ、ウエハ205上の本来検査すべき位置である、光軸318とウエハ205の表面とが交わる位置から離れた位置に一次電子線322が当たってしまい、結果として観察したい部位がずれる。
【0017】
この照射位置ずれを抑制するために、ステージ200のウエハ205の周囲には補正電極204が設置されており、当該補正電極204には電圧可変式の直流電源348が接続されている。分析部327は、光学系300とウエハ205の表面との距離である、光学系との距離1000と一次電子線322の照射条件とに応じた直流電源348の設定電圧を算出し、制御部329(制御装置)は直流電源348をその設定電圧に制御する。
【0018】
図4は、補正電極204への電圧印加に基づいて、試料縁部の電界を補正した例を示す図である。補正電極204への電圧印加によって、ウエハ205の端部より外側の空間349まで、あたかもウエハ表面が存在するように、ウエハ表面に平行な平らな等電位面ができるように電界を形成することができる。このように電子ビーム光軸にとって非軸対象となる電界を補正することによって、観察したい部位に適切にビームを照射することがで
きる。
【0019】
図5は補正電極をセラミック製の静電チャックに直接取り付けた例を示す図である(図2のA-A断面)。図5において、アルミ製補正電極400は静電チャック203にネジ401で直接固定することで、これらの相対距離が設計値から変動することを抑制している。等電位面は、ウエハとアルミ製補正電極400との距離により影響をうけるので、これらの相対距離が設計値からずれないことが望ましい。しかし、アルミ製補正電極400は、ウエハと接触しないため直接の位置決めができないので、図5の例では、ウエハと接触固定する静電チャック203と直接固定することで、ウエハとアルミ製補正電極400との相対距離が設計値からずれないようにしている。なお、アルミ製補正電極400を用いる理由は、磁性材を用いることにより電子光学系から発せられた電子に悪影響しないようにするためである。同様の理由からステージにもアルミが使われる。
【0020】
アルミ製補正電極400や静電チャック203は、ウエハと相対的な温度差があるときに、温度変化しないように恒温装置403を備えるようにしても良い。しかし、発明者らの検討により、恒温装置403を備えたとしても完全に温度変化を抑制することは難しく、ウエハの接触に伴う熱の伝導でアルミ製補正電極400と静電チャック203は、温度変化し、すり鉢、あるいはドーム状に反った形に変形することが判明した。
【0021】
図6に相対温度が高いウエハ205が取り込まれた場合の、アルミ製補正電極400と静電チャック203の断面図を示す。変形のメカニズムは、線膨張係数に差があるセラミック静電チャック203とアルミ製補正電極400が、温度変化して伸び量の違いからバイメタル的に変形するものである。なお、線膨張係数はセラミックが7×10−6[/K]、アルミが2×10−5[/K]程度である。静電チャック203に吸着されて固定されるウエハ205は、静電チャック203とアルミ製補正電極400と比較して薄く変形しやすいので、静電チャック203に倣った形に変形する。一般的に、熱の伝播は、伝導、対流、輻射があるが、ウエハ周辺は真空であるため対流はなく、輻射についても一般的な測長SEMの使用環境である20℃程度ではほとんど影響が無いので、ウエハ205、アルミ製補正電極400、静電チャック203間の熱の伝播では伝導が主である。ウエハ205には、図示しない複数の矩形のチップがほぼ全領域に亘って形成されている。複数の測長ポイントがある場合、測長SEMはステージ200を移動してウエハ205の新たな測長ポイントを電子光学系に対して位置決めした後、電子光学系のフォーカスを行い、測長を繰り返す。そのため、図6に示すように現測長ポイントと新たな測長ポイントの光学系との距離1000が増減するとフォーカスに要する時間が増大し、結果として測長SEMのスループットが低下する。
そこで、本実施例では、ウエハとチャック機構の温度差に起因する試料変形を抑制し得る静電チャック機構を備えた荷電粒子線装置について説明する。試料変形が抑制できれば、スループットの低減を抑制することができる。
【0022】
本実施例では、ウエハを保持する静電チャックとアルミ製の補正電極を備える多軸方向(少なくとも2方向)に駆動できるステージにおいて、セラミック製の静電チャックとアルミ製の補正電極を非接触とすると共に、それぞれを独立に固定する固定部材(支持部材)を備えた。静電チャックとアルミ製の補正電極の直接固定をしないと、両者間の相対位置のずれが生じる可能性があるが、そのずれに伴うウエハ端部付近の等電位面の変動は、アルミ製の補正電極に印加する電圧可変式の直流電源のコントロールにより抑制すると良い。
【0023】
上記構成によれば、ウエハ外周部の検査性がよく、かつ、温度差があるウエハの測長を行う場合でもスループットの低減を抑制することが可能となる。
【実施例1】
【0024】
図7は、静電チャック機構の一例を示す図であり、セラミック製の静電チャックと、アルミ製補正電極(リング状電極)がそれぞれ異なる支持部材によって支持することによって、セラミックとアルミを非接触にした例を示す図である。図7の例では、セラミック製の静電チャック203についてはチャック支持部402を介してステージ200に固定し、アルミ製補正電極400については、補正電極支持部405 と絶縁体406を介してステージ200に固定する。絶縁体406は、電圧可変式の直流電源348の電圧がアルミ製のステージ200へ伝導することを防いでいる。この構成は、ステージ200からの組みつけ誤差が、静電チャック203とアルミ製補正電極400に各々生じることになるので、静電チャック203とアルミ製補正電極400の相対距離が、これらを直接固定した場合と比較して、設計値からずれやすくなり、その結果、静電チャック203に固定されるウエハ205に対して、アルミ製補正電極400の電位の補正が適正にならない可能性が生じる。しかし、本実施例では、電圧可変式の直流電源348の電圧調整で相対距離の変動に起因する電位の変動を補完するため、問題とならない。この場合、ウエハ端部の異なる位置の複数の点において、ずれに応じた補正量を予めテーブルとして所定の記憶媒体に登録しておき、測定の際の動作プログラムであるレシピに記憶されたアドレス情報に応じて、印加電圧を読みだして、電圧印加するようにすると良い。
【0025】
なお、図6のアルミ製補正電極400がリング状である場合(換言すると、静電チャック203の全周にわたり図6と同様の断面形状である場合)、静電チャック203とステージ200とアルミ製補正電極400に囲まれた空間407は、概略、封止された状態となる。この場合、真空チャンバーの排気を行う際に、空気が囲まれた空間407に溜まった状態となり、真空排気が妨げられることが考えられるが、図8に示すように補正電極支持部を、柱状の補正電極支持部408とすることによって、静電チャックの下部空間と、当該下部空間以外の真空チャンバー内空間との間の気体の流通を確保でき、速やかな真空排気を行うことが可能となる。
【0026】
以上、説明したように、ウエハの温度が静電チャックの温度と異なる場合であっても、試料変形を抑制することができ、結果として測定装置のスループットの低減を抑制することが可能となる。
【実施例2】
【0027】
次に第2の実施例を説明する。第1の実施例では、アルミ製補正電極400を複数の支持部材で支持する構成について説明したが、第2の実施例では、アルミ製補正電極400を、セラミック製のリング状の板状体で支持した上で、当該板状体を複数の支持部材によって支持する例について説明する。図9に示すようにアルミ製補正電極400を平らに保つためのセラミック製の平面度補正材409によって、支持している点が第1の実施例と異なる。以下、実施例2の効果について説明する。アルミ系の材料は材料自体に残留している応力の影響で、切削加工等の成型を行っても単独では所望の高い平面度(±数十μm)が得られない場合がある。平面度が悪く波打ったアルミ製補正電極400を用いると、ウエハ端部付近において、ウエハ表面に沿って平らに形成されるべき等電位面が波打つことになり、電圧可変式の直流電源348の電圧の増減で対応ができなくなってしまう。しかし、高い平面度に加工しやすいセラミックで成型されたセラミック製の平面度補正材409に固定されるアルミ製補正電極400は波打ち形状になることを抑制できる。以上、説明したように、高精度に平面を形成することができるセラミック製のリング状板状体を、補正電極と支持部材との間に介在させることによって、高い精度で等電位面を平坦化することが可能となる。
【実施例3】
【0028】
次に第3の実施例を説明する。図10に第3の実施例の概要を示す。実施例3では、線膨張係数が静電チャックと近い、アルミと金属シリコンの混合材(線膨張係数8×10−6[/K])で成型した。アルミと金属シリコンの混合材製補正電極500は、セラミックと線膨張係数の差が小さいため、ウエハ温度とチャック温度の差に起因する試料変形の発生を抑制することができる。また、アルミと金属シリコンの混合材は非磁性の導体であるため、電子線へ影響を与えることがない。
【実施例4】
【0029】
次に第4の実施例を説明する。図11に第4の実施例の概要を示す、補正電極と静電チャックの断面図をしめす。第3の実施例では、アルミと金属シリコンの混合材製補正電極500を用いたが、実施例4では、アルミと金属シリコンの混合材製補正電極500の表面がNiの無電解メッキで覆われている。Niメッキされたアルミと金属シリコンの混合材製補正電極501を用いることによって、以下のような効果を得ることができる。以下、実施例4の効果について説明する。アルミと金属シリコンの混合材は多孔質材料で細孔が非常に沢山ある。このため、ガスが放出される場合があり、真空度を低下させる可能性がある。実施例4では、表面をNiの無電解メッキで覆うことで、ガスが放出されることを抑制することができる。また、Niの無電解メッキは非磁性であるため、電子線に影響を及ぼすことがない。
【0030】
また、補正電極をアルミナのセラミック材とし、表面をNiの無電解メッキで覆うことも有効である。この場合、セラミックは導電性を持たないため、Niの無電解メッキが補正電極の導電性を担うことになる。また、Niメッキされたセラミックの製補正電極は、非磁性となるため、電子線に影響を及ぼすことがない。
【符号の説明】
【0031】
100…測長SEM
101…真空チャンバー
104…試料ストッカー
105…観察対象の移動経路
200…ステージ
201…保持機構
202…観察対象
203…静電チャック
204…補正電極
205…ウエハ
300…電子光学系
301…電子銃
302…引き出し電極
303…コンデンサレンズ
305…走査偏向器
306…絞り
308…EクロスB偏向器
309…対物レンズ
314…二次電子検出器
316…シールド電極
318…光軸
322…一次電子線
324…加速された二次電子線
326…リターディング電源
327…分析部
329…制御部
332…二次電子線
348…電圧可変式の直流電源
349…外側の空間
350…等電位面
400…アルミ製補正電極
401…ネジ
402…チャック支持部
403…恒温装置
405…補正電極支持部
406…絶縁体
407…囲まれた空間
408…柱状の補正電極支持部
409…セラミック製の平面度補正材
500…アルミと金属シリコンの混合材製補正電極
501…表面がNiの無電解メッキで覆われているアルミと金属シリコンの混合材製補正電極
1000…光学系との距離
図1
図2
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図11