(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979265
(24)【登録日】2021年11月17日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】長尺基板の巻取方法及び巻取装置、並びに該巻取装置を備えた長尺基板の表面処理装置
(51)【国際特許分類】
B65H 18/28 20060101AFI20211125BHJP
C23C 14/56 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
B65H18/28
C23C14/56 B
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-210653(P2015-210653)
(22)【出願日】2015年10月27日
(65)【公開番号】特開2017-81679(P2017-81679A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年10月11日
【審判番号】不服2020-6711(P2020-6711/J1)
【審判請求日】2020年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】丹波 裕規
【合議体】
【審判長】
藤田 年彦
【審判官】
吉村 尚
【審判官】
畑井 順一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−53353(JP,A)
【文献】
特開09−58935(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/104217(WO,A1)
【文献】
特開2014−58393(JP,A)
【文献】
特開昭62−247073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H18/00-18/28
B65H75/00-75/32
C23C14/00-14/58
B65D85/58
B65D85/62-85/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧雰囲気下において、ロールツーロールで搬送され、黒化層が成膜された厚み5〜100μmで且つ幅20〜80cmの金属膜付長尺樹脂フィルムを外径8〜25cmの円筒状の巻取コアに巻き取る金属膜付長尺樹脂フィルムの巻取方法であって(該金属膜付長尺樹脂フィルムを加熱しながら該巻取コアにロール状に巻き取るものを除く)、該巻取コアに金属膜付長尺樹脂フィルムを巻き取る際に、前記巻取コアの外周面に接して最初に巻き取られる金属膜付長尺樹脂フィルムの先端部では、その幅方向両端部がその幅方向中央部よりも該巻取コアの回転中心軸に対して50〜200μm遠くに位置させることで、金属膜付長尺樹脂フィルムの幅方向両端部が幅方向中央部よりも該巻取コアの回転中心軸に対してより遠くに位置するように、外周面のうち金属膜付長尺樹脂フィルムの幅方向両端部が巻き付けられる箇所で且つ該金属膜付長尺樹脂フィルムの両縁部の間に納まる部分にのみ、それぞれ周方向に連続して延在する段差50〜200μmで且つ幅10mm以下の凸状の段差部が設けられている該巻取コアに巻き取っていくことを特徴とする金属膜付長尺樹脂フィルムの巻取方法。
【請求項2】
減圧雰囲気下において、ロールツーロールで搬送され、黒化層が成膜された厚み5〜100μmで且つ幅20〜80cmの金属膜付長尺樹脂フィルムを外径8〜25cmの円筒状の巻取コアに巻き取る金属膜付長尺樹脂フィルムの巻取装置であって(該金属膜付長尺樹脂フィルムを加熱しながら該巻取コアにロール状に巻き取るものを除く)、該巻取コアの外周面のうち金属膜付長尺樹脂フィルムの幅方向両端部が巻き付けられる箇所で且つ該金属膜付長尺樹脂フィルムの両縁部の間に納まる部分にのみ、それぞれ周方向に連続して延在する段差50〜200μmで且つ幅10mm以下の凸状の段差部が設けられていることを特徴とする金属膜付長尺樹脂フィルムの巻取装置。
【請求項3】
前記巻取コアの外周面は、前記凸状の段差部を除いて略同一の外径を有していることを特徴とする、請求項2に記載の金属膜付長尺樹脂フィルムの巻取装置。
【請求項4】
真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺樹脂フィルムに表面処理を施す表面処理手段と、表面処理された長尺樹脂フィルムを巻き取る円筒状のコアからなる巻取手段とを備えた長尺樹脂フィルムの表面処理装置であって、前記巻取手段が請求項2又は3に記載の金属膜付長尺樹脂フィルムの巻取装置であることを特徴とする長尺樹脂フィルムの表面処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載の表面処理手段がスパッタリングカソードであることを特徴とするロールツーロールスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールツーロールで搬送される長尺基板を巻取コアに巻き取る巻取方法及び巻取装置、並びに該巻取装置を備えたロールツーロールスパッタリング装置などの長尺基板の表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルなどのディスプレイパネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、樹脂フィルム上に配線回路を備えたフレキシブル配線基板が用いられている。かかるフレキシブル配線基板は、樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を有する金属膜付樹脂フィルムをパターニング加工することによって作製することができる。近年、上記したフレキシブル配線基板の配線パターンはますます繊細化、高密度化する傾向にあり、これに伴って金属膜付樹脂フィルムには平滑で外観上シワや縞のないものが求められている。
【0003】
上記の金属膜付樹脂フィルムの製造方法として、従来、金属箔を接着剤により樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法)、金属箔に樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法)、樹脂フィルムに真空成膜法単独で、又は真空成膜法と湿式めっき法との併用で金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法)等が知られている。また、メタライジング法に用いる真空成膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等がある。
【0004】
メタライジング法について、例えば特許文献1には、ポリイミド絶縁層上にクロム層をスパッタリング成膜した後、銅層をスパッタリング成膜して導体層を形成する方法が記載されている。かかるスパッタリングによる成膜は、一般に密着力に優れる反面、真空蒸着法に比べて基材としての樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいといわれている。そして、成膜の際に樹脂フィルムに大きな熱負荷がかかると、フィルムにシワが発生し易くなることも知られている。
【0005】
そこで、ポリイミドフィルムなどの樹脂フィルムに対してスパッタリングにより成膜を行って金属膜付樹脂フィルムを作製する工程では、キャンロールを備えたスパッタリングウェブコーターが一般的に使用されている。この装置は、特許文献2に記載されているように、内部に冷媒を循環させたキャンロールにロールツーロールで搬送される長尺の樹脂フィルムを巻き付けながらスパッタリング成膜を行うものであり、樹脂フィルムの表面側の成膜によって該樹脂フィルムに生じる熱をその裏面側から直ぐに除熱することができるため、スパッタリング成膜の際の熱負荷の悪影響を抑えてシワの発生を効果的に防ぐことができる。
【0006】
ところで、ディスプレイパネルのタッチパネルセンサーに用いられる導電性基板では、大型化や応答の高速化の為、従来のITO電極に代えて微細な金属配線を配した透明な樹脂フィルムを用いることが試みられている。かかる導電性基板も上記したフレキシブル配線基板と同様に金属膜付樹脂フィルムから作製することができるが、金属配線に銅を用いた場合、銅は金属光沢を有しているため、反射によりディスプレイの視認性が低下する問題を生じることがある。そこで、金属配線の表面に黒色の黒化層を設けることがある。例えば特許文献3には黒化層を備えたタッチセンサーパネルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−98994号公報
【特許文献2】特開昭62−247073号公報
【特許文献3】特開2013−225276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のメタライジング法では、真空チャンバー内などの減圧雰囲気下においてロールツーロールで搬送される長尺基板を円筒状の巻取コアに巻き取ると、巻き取られた長尺基板の両端部分に縞状の模様が生じることがある。特に、銅層の表面に黒色の化学的に不定比の金属の酸化物などからなる黒化層を設けた金属膜付樹脂フィルムでは、縞状の模様が生じると外観不良となって製品価値が損なわれてしまう。本発明は上記した従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、巻き取られた長尺基板の両端部分に縞状の模様が発生しにくい巻取方法及び巻取装置を提案することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明が提供する
金属膜付長尺
樹脂フィルムの巻取方法は、減圧雰囲気下において、ロールツーロールで搬送され
、黒化層が成膜された厚み5〜100μmで且つ幅20〜80cmの金属膜付長尺
樹脂フィルムを外径8〜25cmの円筒状の巻取コアに巻き取る
金属膜付長尺
樹脂フィルムの巻取方法であって(該
金属膜付長尺
樹脂フィルムを加熱しながら該巻取コアにロール状に巻き取るものを除く)、該巻取コアに
金属膜付長尺
樹脂フィルムを巻き取る際に、前記巻取コアの外周面に接して最初に巻き取られる
金属膜付長尺
樹脂フィルムの先端部では、その幅方向両端部がその幅方向中央部よりも該巻取コアの回転中心軸に対して50〜200μm遠くに位置させることで、
金属膜付長尺
樹脂フィルムの幅方向両端部が幅方向中央部よりも該巻取コアの回転中心軸に対してより遠くに位置するように
、外周面のうち金属膜付長尺樹脂フィルムの幅方向両端部が巻き付けられる箇所で且つ該金属膜付長尺樹脂フィルムの両縁部の間に納まる部分にのみ、それぞれ周方向に連続して延在する段差50〜200μmで且つ幅10mm以下の凸状の段差部が設けられている該巻取コアに巻き取っていくことを特徴としている。
【0010】
また、本発明が提供する
金属膜付長尺
樹脂フィルムの巻取装置は、減圧雰囲気下において、ロールツーロールで搬送され
、黒化層が成膜された厚み5〜100μmで且つ幅20〜80cmの金属膜付長尺
樹脂フィルムを外径8〜25cmの円筒状の巻取コアに巻き取る
金属膜付長尺
樹脂フィルムの巻取装置であって(該
金属膜付長尺
樹脂フィルムを加熱しながら該巻取コアにロール状に巻き取るものを除く)、該巻取コアの外周面のうち
金属膜付長尺
樹脂フィルムの幅方向両端部が巻き付けられる箇所で且つ該
金属膜付長尺
樹脂フィルムの両縁部の間に納まる部分にのみ、それぞれ周方向に連続して延在する段差50〜200μm
で且つ幅10mm以下の凸状の段差部が設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面処理された長尺基板を巻取コアに巻き取る際に生じやすい幅方向両端部分における縞状模様の生成をほぼ無くすことができるので、長尺基板の表面処理の歩留まりを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る巻取装置が好適に使用される真空成膜装置の一具体例を示す正面図である。
【
図2】長尺基板を巻取コアに巻き取る際に生じる長手方向の張力を模式的に示す斜視図である。
【
図3】本発明に係る巻取装置の一具体例を示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施例の巻取装置を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先ず、
図1を参照しながら、本発明の長尺基板の巻取装置が好適に使用される表面処理装置の具体例として、真空雰囲気下においてロールツーロール方式で搬送される長尺基板に対して熱負荷の掛かる成膜処理を連続的に効率よく施すことが可能な真空成膜装置について説明する。なお、以下の説明では長尺基板の一例として長尺樹脂フィルム基板を用い、熱負荷の掛かる成膜処理の一例としてスパッタリング成膜処理を行う場合を例に挙げて説明する。
【0014】
この
図1に示す長尺樹脂フィルム基板F(以下、単に長尺基板Fとも称する)の真空成膜装置10はスパッタリングウェブコーターとも称され、巻出室11内に設けられた巻出手段としての巻出コア14から巻き出した長尺基板Fを成膜室12内に設けられたキャンロール20の外周面に巻きつけて冷却しながら熱負荷のかかる表面処理手段としてのスパッタリング機構により成膜処理を施した後、巻取室13内に設けられた巻取手段としての巻取コア26で巻き取るようになっている。
【0015】
具体的に説明すると、巻出コア14から巻取コア26までの長尺基板Fのロールツーロール搬送経路のうち、巻出コア14からキャンロール20までの間に、長尺基板Fを案内するフリーロール16、17と、長尺基板Fの張力の測定を行う張力センサーロール15、18と、キャンロール20のすぐ上流側に設けられたモータ駆動の前フィードロール19とがこれらの符号順に配置されている。
【0016】
前フィードロール19は、張力センサーロール18から送り出されてキャンロール20に向かう長尺基板Fの速度を、キャンロール20の周速度に対して調整する役割を担っており、これにより、内部に水などの冷媒が循環しているキャンロール20の外周面に、連続的に搬送される長尺基板Fを確実に密着させて効率よく冷却することが可能になる。
【0017】
キャンロール20から巻取コア26までの搬送経路も、上記した巻出コア14からキャンロール20までの搬送経路と同様に、キャンロール20の周速度に対する調整を行うモータ駆動の後フィードロール21、長尺基板Fの張力の測定を行う張力センサーロール22、25、及び長尺基板Fを案内するフリーロール23、24がこれらの符号順に配置されている。
【0018】
上記巻出コア14及び巻取コア26では、各々パウダークラッチ等によるトルク制御によって長尺基板Fの張力バランスが保たれている。また、キャンロール20の回転とこれに連動して回転するモータ駆動の前フィードロール19及び後フィードロール21により、巻出コア14から長尺基板Fが巻き出されて巻取コア26に巻き取られるようになっている。
【0019】
キャンロール20の周りには、キャンロール20の外周面上に画定される搬送経路に沿って板状の4つのマグネトロンスパッタリングカソード30、31、32及び33が、当該外周面に巻き付けられる長尺基板Fに対向するように設けられている。なお、金属膜のスパッタリング成膜の場合は、板状のターゲットを使用することができるが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。これが問題になる場合は、ノジュールが発生しにくく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用することが好ましい。
【0020】
上記した真空成膜装置10には、更に長尺基板Fの搬送方向を変えるためのフリーロール(図示せず)や、真空チャンバー内を減圧してその状態を維持するためのドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の真空排気設備(図示せず)が設けられている。この真空排気設備により、真空成膜装置10の成膜室12は、到達圧力10
−4Pa程度までの減圧と、その後のスパッタリングガスの導入による0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われ、この圧力条件の下でスパッタリング成膜が行われる。スパッタリングガスにはアルゴンなど公知のガスが使用され、目的に応じてさらに酸素などのガスが添加される。なお、真空チャンバーの形状や材質は、上記の減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。
【0021】
上記したような真空成膜装置10を用いたメタライジング法により、例えば長尺樹脂フィルムの表面にNi系合金等の膜とCu膜とをスパッタリングで連続的に積層することができ、その際、スパッタリングカソードに大電力を投入して長尺樹脂フィルムに高い熱負荷をかけてもキャンロール20で直ぐに除熱することができるので高速成膜が可能になる。従って、シワのない高品質の金属膜付樹脂フィルムを高い生産性で製造することができ、コストダウンが可能になる。
【0022】
上記Ni合金等からなる膜はシード層と呼ばれ、金属膜付樹脂フィルムの電気絶縁性や耐マイグレーション性等の所望の特性によりその組成が選択される。このシード層には、Ni−Cr合金、インコネル、コンスタンタン、モネル等の各種公知の合金を用いることができ、その膜厚は一般に3〜100nmである。また、上記シード層の上に積層したCu膜などの金属膜を更に50nm〜12μm程度厚くしたい場合は、上記の真空成膜処理の後処理として、一般的な湿式めっき処理を行ってもよい。この後処理としての湿式めっき処理は、電気めっき処理だけで金属膜を厚くする場合と、めっき条件の異なる複数の湿式めっき法の組み合わせで厚くする場合とがある。後者の場合としては、例えば一次めっきとして無電解めっき処理を行い、二次めっきとして電解めっき処理を行う方法を挙げることができる。
【0023】
なお、上記長尺樹脂フィルム基板には、Ni−Cr合金やCu等の金属膜に代えて、あるいは、該金属膜に加えて酸化物膜や窒化物膜などを成膜することもある。これら酸化物膜や窒化物膜の種類や膜厚は目的に応じて適宜定められ、化学的に不定比の膜も含まれる。これら酸化物膜(化学的に不定比の場合も含む)や窒化物膜(化学的に不定比の場合も含む)の膜厚は一般に3〜100nmの範囲内が好ましい。
【0024】
上記の方法で作製された金属膜付樹脂フィルムは、次にサブトラクティブ法やセミアディティブ法によって金属膜に対してパターニング加工を行うことで配線回路が形成される。ここで、サブトラクティブ法とは、金属膜付樹脂フィルムの表面をレジストで覆い、金属膜(例えば、上記Cu膜)のうち配線として残存させたい部分以外のレジストを除去して開口部を設け、この開口部から露出する金属膜をエッチング処理して配線基板を作製する方法である。
【0025】
一方、セミアディティブ法とは、金属膜付樹脂フィルムの表面をレジストで覆い、金属膜のうち配線として膜厚化したい部分のレジストを除去して開口部を設け、この開口部から露出する金属膜の上に電気めっきで膜厚の配線を形成し、レジストを除去した後に全体をエッチングして不要部分の金属膜を除去し、配線基板を作製する方法である。従って、上記したフレキシブル配線基板の製造方法により金属膜付樹脂フィルムの金属膜の膜厚は異なる。一般的にはサブトラクティブ法を採用する場合の金属膜の膜厚は5〜12μmであり、セミアディティブ法を採用する場合の金属膜の膜厚は5μm以下である。
【0026】
上記金属膜付樹脂フィルムに用いる樹脂フィルムとしては、例えば、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム又は液晶ポリマー系フィルムなどの樹脂フィルムを挙げることができる。これら材料は、金属膜付樹脂フィルムに要求されるフレキシブル基板としての柔軟性、実用上必要な強度、配線材料としての好適な電気絶縁性等を有しているので好ましい。また、樹脂フィルムは厚みが5〜100μm、幅が20〜80cm程度であれば取り扱い易く、良好にスパッタリング成膜処理できるので望ましい。
【0027】
ところで、タッチパネルセンサー用部材として用いられる導電性基板では、上記したCu膜などの金属膜の反射を目立たなくするために、金属膜の表面に化学的に不定比の金属酸化物などからなる黒色の黒化層を設けることがある。黒化層は、銅、ニッケル、タングステンなどの不定比の酸化物などからなり、目視では黒色に見える。これらの化学的に不定比の膜は、上記したスパッタリング成膜の際のスパッタリングガスに酸素ガスや窒素ガスを適宜添加することで作製することができる。
【0028】
しかし、金属膜の表面に黒化層を成膜してから巻取コアで巻き取ると、巻き取った金属膜付樹脂フィルムの幅方向両端部に目視で確認できる縞が生じることがある。特に、黒化層を設けた金属膜(例えばCu膜)の膜厚が5μm以下の場合に黒化層に目視で顕著に確認できる縞が生じることがある。この縞は、長尺基板が巻取コアに巻き取られる際、幅方向の両端部と中央部とで金属膜が不均一に巻き締められることで発生する変質によるものと推定される。もちろん、金属膜(例えばCu膜)の表面に黒化層を設けない場合であっても、目視で縞は確認できないものの、上記したように不均一に巻き締められることによる金属膜の変質は発生していると考えられる。
【0029】
上記の縞の発生は減圧雰囲気下で長尺基板を巻き取るときに特に顕著になる。その理由は、大気圧下で長尺基板を巻取コアに巻き取ると、巻き取られた長尺基板の間に大気が巻き込まれるため、巻き込まれた大気が巻取時に長尺基板に働くその長手方向(搬送方向)の張力を緩和するように作用するからである。一方、減圧雰囲気下で長尺基板を巻取コアに巻き取ると、巻き取られた長尺基板の間には気体がほとんど巻き込まれないので、上記した巻取時の長手方向の張力により長尺基板は巻き締められる。その際、
図2において黒矢印で示すように、上記した張力の長尺基板Fの幅方向の分布は、幅方向中央部が最も強く、幅方向両端部が最も弱くなる。
【0030】
そこで、本発明の一具体例においては、
図3に示すように、巻取コア26の外周面のうち長尺基板Fの幅方向両端部が巻き付けられる箇所に、それぞれ周方向に連続して延在する凸状の段差部26aを設けている。これにより、長尺基板Fの幅方向の両端部における長手方向の張力を高めに調整することができ、巻取コア26での巻取りの際の幅方向中央部の張力と幅方向両端部の張力とをほぼ同等にすることができる。その結果、長尺基板Fの変質を抑えることができるので、幅方向両端部における縞状模様の生成をほぼ無くすことができる。
【0031】
すなわち、上記の凸状段差部26aを設けることにより、巻取コア26の外周面のうち長尺基板Fの幅方向両端部に接する部分は長尺基板Fの幅方向中央部が接する部分より外径が大きくなり、つまり外周が長くなるので、長尺基板Fの幅方向両端部が幅方向中央部よりも巻取コア26の回転中心軸Oに対してより遠くに位置するように巻き取られていく。その結果、長尺基板Fが巻取コア26の回転に追従して巻き取られる際に長尺基板Fの幅方向の両端部は、凸状段差部26aにより長手方向に伸ばされる力が働くので、その分長手方向に張力がかかることになる。これにより、長尺基板Fの幅方向の両端部で不足する長手方向の張力を補えるので、部分的な巻締り(巻締りの偏り)を防止することができ、結果的に金属膜付樹脂フィルムの幅方向両端部の縞の発生を防ぐことができる。
【0032】
本発明の一具体例の巻取コア26は、外径が8〜25cm程度であるのが好ましく、長さは巻き取る長尺基板Fの幅より長ければ特に制約はない。この巻取コア26の外周面のうち長尺基板Fの幅方向両端部にそれぞれ接触する箇所に設ける1対の周方向に連続する凸状段差部26aは、段差が50〜200μmであるのが好ましい。この段差が200μmを超えると、巻取コア26に巻き取られた長尺基板Fの隣接する層同士の擦れにより帯電しやすくなり、帯電により生じた電位差により放電が発生して製品の外観を損なう放電跡が生じるおそれがある。一方、段差が50μm未満では、上記した巻き取りの際の縞の発生を防止することが難しくなる。
【0033】
長尺基板Fがその幅方向において各凸状段差部26aと重なる長さは10mm以下が望ましい。例えば、長尺基板Fの両縁部の間に1対の凸状段差部26aが納まる場合は、各凸状段差部26aは10mm以下の幅を有しているのが好ましい。なお、各凸状段差部26aは、長尺基板Fと重なる部分にのみ配してもよいし、長尺基板Fと重なる位置から巻取コア26の縁部にまで至っていてもよい。また、各凸状段差部26aは、巻取コア26の平坦な外周面に段差を生じるように帯状の樹脂フィルムや金属箔を貼りつけてもよいし、凸状の段差部が形成されるように円筒部材から削り出してもよい。
【0034】
なお、上記したように巻取コア26に凸状段差部26aを設けなくても、長尺基板Fの搬送経路上で、巻取コアに最も隣接するガイドロールの外周面に上記したような凸状の段差部を設けても、同様の効果が得られるとも考えられる。すなわち、外周面に凸状段差部を有するガイドロールを用いても上記の巻取コア26の場合と同様に長尺基板Fの幅方向の両端部において長手方向の張力を高めることが可能になるが、その後、巻取コアの外周面に巻き付けた際に長尺基板Fの幅方向の両端部において長手方向に収縮する力が働くため、長尺基板Fの幅方向の両端部が擦れて帯電しやすくなり、結果的に放電が発生する問題が生ずることが確認された。
【0035】
以上、本発明の一具体例の巻取コア及びこれを有する巻取装置を説明したが、本発明はかかる一具体例に限定されるものではなく、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で様々な態様で実施することができる。例えば、
図1の真空成膜装置10は、熱負荷の掛かる処理としてスパッタリング成膜処理を施すものであるため、マグネトロンスパッタリングカソードが図示されているが、熱負荷の掛かる処理がCVD(化学蒸着)や蒸着処理などの他の表面処理である場合は、板状ターゲットに代えて他の真空成膜手段が設けられる。
【0036】
また、減圧雰囲気下での長尺樹脂フィルムの成膜装置を例にあげて説明してきたが、減圧雰囲気下に限定されるものではなく、例えば、大気圧中の加熱ヒーターによる乾燥装置においても本発明に係る巻取コアや巻取装置を好適に用いることができる。この場合に使用される長尺基板には、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような樹脂フィルムやポリイミドフィルムのような樹脂フィルムのほか、金属箔や金属ストリップを使用することができる。
【実施例】
【0037】
[実施例1]
図1に示す成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用い、反応性ガスに酸素ガスを用いて金属膜付樹脂フィルムを作製した。具体的には、キャンロール20には、外径600mm、幅750mmのステンレス製のロール本体表面にハードクロムめっきを施したものを用い、その内部に冷媒を循環させて約0℃に温度制御した。マグネトロンスパッタリングカソード30、31には金属層用のCuターゲットを、マグネトロンスパッタリングカソード32、33には黒化層用のCu−Niターゲットを取り付けた。
【0038】
巻取コア26には
図4に示すような外径180mm、長さ700mmの円筒部材を用い、その両端部に各々厚さ75μm、幅8mmの帯状の樹脂フィルムを全周に亘って貼りつけて、段差75μmの1対の凸状段差部26aを設けた。長尺基板Fには、厚さ50μm、幅600mmで長さ1200mのPETフィルムを用いた。これにより、各凸状段差部26aとPETフィルムの幅方向の重なりは8mmとなった。
【0039】
真空チャンバー10を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、更に、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10
−3Paまで排気した。そして、搬送速度2m/分でPETフィルムを搬送しながら、カソード30と31については、膜厚80nmのCu膜が得られるように電力制御で成膜を行い、カソード32と33については、アルゴンガス500sccmと酸素ガス50sccmとの混合ガスを導入し、黒化層として膜厚30nmの化学的に不定比のNi−Cu酸化膜が得られるように電力制御で成膜を行った。この状態でPETフィルムを1200m成膜した。成膜後に巻取コア26に巻き取られた金属膜付樹脂フィルムを目視で確認したところ、その両端部には縞が生じていなかった。
【0040】
[実施例2]
凸状段差部26aの段差を180μmとした以外は実施例1と同様にして金属薄膜付樹脂フィルムを作製した。PETフィルムを1200m成膜した後に巻取コア26に巻き取られた金属膜付樹脂フィルムを目視で確認したところ、その両端部には縞が生じていなかった。
【0041】
[比較例1]
凸状段差部26aのない平坦な巻取コアを用いた以外は実施例1と同等にして金属薄膜付樹脂フィルムを作製した。PETフィルムを1200m成膜した後に巻取コアに巻き取られた金属膜付樹脂フィルムを目視で確認したところ、両端部に縞が生じていた。
【0042】
[参考例]
巻取コア26の直ぐ上流側にガイドロールを設け、その外周面の両端部にもPETフィルムと各々8mm重なるように段差75μmの凸状段差部を設けた以外は実施例1と同様にして金属薄膜付樹脂フィルムを作製した。PETフィルムを1200m成膜した後に巻取コア26に巻き取られた金属膜付樹脂フィルムを目視で確認したところ、両端部に縞状模様はほとんど生じていなかったが、巻取コア26の両端部の帯電によると思われる放電痕が生じていた。
【符号の説明】
【0043】
F 長尺基板
O 回転中心軸
10 真空成膜装置
11 巻出室
12 成膜室
13 巻取室
14 巻出コア
16、17、23、24 フリーロール
15、18、22、25 張力センサーロール
19 前フィードロール
20 キャンロール
21 後フィードロール
26 巻取コア
26a 凸状の段差部
30、31、32、33 マグネトロンスパッタリングカソード