特許第6979320号(P6979320)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6979320-ポリビニルアルコール 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979320
(24)【登録日】2021年11月17日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール
(51)【国際特許分類】
   C08F 16/06 20060101AFI20211125BHJP
   D21H 19/20 20060101ALI20211125BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   C08F16/06
   D21H19/20 B
   C08F8/12
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-188283(P2017-188283)
(22)【出願日】2017年9月28日
(65)【公開番号】特開2019-65068(P2019-65068A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】三枝 裕典
(72)【発明者】
【氏名】高山 拓未
(72)【発明者】
【氏名】前川 一彦
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−242341(JP,A)
【文献】 特開2006−282833(JP,A)
【文献】 特開平02−033314(JP,A)
【文献】 特開2012−077185(JP,A)
【文献】 特開2015−000890(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/047616(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/170938(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 16/06
D21H 19/20
C08F 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量(Mn)が44,000〜440,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.60であり、けん化度が80〜99.99mol%であり、全単量体単位に対するカルボキシル基およびラクトンの合計含有量が0.03mol%以下であるポリビニルアルコール。
【請求項2】
全単量体単位に対する炭素−炭素二重結合の含有量(X)が0.1mol%以下であり、かつ下記式(1)を満足する請求項1に記載のポリビニルアルコール。
X・Mn ≦ 1000 (1)
【請求項3】
ASTM D1925にしたがって測定されるイエローインデックス(YI)が50以下である請求項1または請求項2に記載のポリビニルアルコール。
【請求項4】
カルボキシル基およびラクトンの合計含有量が0.005mol%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のポリビニルアルコール。
【請求項5】
1,2−グリコール結合の含有量が0.7〜1.5mol%である請求項1〜4のいずれかに記載のポリビニルアルコール。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリビニルアルコールを含む水溶液からなる塗工液。
【請求項7】
請求項6に記載の塗工液が基材表面に塗工されてなる塗工紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速塗工性、耐水性、機械的強度に優れる特定のポリビニルアルコールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下、PVAと略すことがある)は、工業的には酢酸ビニルをラジカル重合して得られるポリ酢酸ビニルをけん化することによって生産されている。PVAは紙加工、繊維加工、フィルム、接着剤、各種無機材料のバインダー、乳化安定剤などの多くの用途に使用されている。中でも、PVAを含有する塗工液を紙に塗工して、紙の表面特性・印刷特性等を改質する方法は一般的に行われている。
【0003】
上記の分野、特に塗工量が少量である微塗工紙の分野においては、近年、生産性の向上を目的として塗工速度を速くすることが求められている。PVAを含有する塗工液として、典型的にはPVAを水溶液として用い、かかるPVA水溶液には塗工の際に剪断がかかることが知られている。しかし、PVA水溶液に剪断をかける際、剪断速度を上昇させていくとある剪断速度において水溶液中のPVAが配向・結晶化し、粘度が上昇する。そのため粘度上昇がみられる剪断速度以上で塗工すると塗工面に均一に塗布することが困難となる。したがって、水溶液としたときに、高剪断速度においても粘度が上昇しない、高速塗工性に優れるPVAが望まれている。
【0004】
このような問題を解決する方法としては、PVAの重合度やけん化度を低下させることや、特許文献1には側鎖に1,2−グリコールを含有することで高速塗工性に優れたPVAが製造できることが記載されている。
【0005】
また特許文献1には側鎖に1,2−グリコールを含有し、高速塗工性に優れたPVAが製造できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−241433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、PVAの重合度やけん化度を低下させると、得られる塗膜(フィルム)の機械的強度が低く、水溶液を塗工した紙の表面強度の改善効果が小さくなり、耐水性が要求される用途に使用することが困難であった。また、特許文献1に記載のPVAは、側鎖に置換基を導入することで結晶性が低下するため、上記同様、得られる塗膜(フィルム)の機械的強度や耐水性が低下する。以上のように高速塗工性、機械的強度、耐水性を両立可能なPVAは未だ得られていないのが現状である。本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、高速塗工性、耐水性、機械的強度に優れるポリビニルアルコールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定のポリビニルアルコールが高速塗工性、耐水性、機械的強度に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明によれば、上記課題は、
[1]数平均分子量(Mn)が44,000〜440,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.70であり、けん化度が80〜99.99mol%であり、全単量体単位に対するカルボキシル基およびラクトンの合計含有量が0.03mol%以下であるポリビニルアルコール。
[2]全単量体に対する炭素-炭素二重結合の含有量が0.1mol%以下であり、かつ下記式(1)を満足する[1]のポリビニルアルコール。
X・Mn ≦ 1000 (1)
[3]ASTM D1925にしたがって測定されるイエローインデックス(YI)が50以下である[1]または[2]のポリビニルアルコール。
[4]カルボキシル基およびラクトンの合計含有量が0.005mol%以下である[1]〜[3]のいずれかのポリビニルアルコール。
[5]1,2−グリコール結合の含有量が0.7〜1.5mol%である[1]〜[4]のいずれかのポリビニルアルコール。
[6][1]〜[5]のいずれかのポリビニルアルコールを含む水溶液からなる塗工液。
[7][6]の塗工液が基材表面に塗工されてなる塗工紙。
を提供することによって解決される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリビニルアルコールは、分子量分布が狭く、低分子量成分が少ないため耐水性および機械的強度に優れる。またカルボキシル基およびラクトンの合計含有量が少ないことに由来して、官能基同士の相互作用が低減し、数平均分子量および鹸化度が高い場合でも該ポリビニルアルコールの水溶液は優れた高速塗工性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】比較例1、比較例4、実施例5で得られたポリビニルアルコールの剪断速度に対する粘度の変化を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のポリビニルアルコールは数平均分子量(Mn)が44,000〜440,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.70であり、けん化度が80〜99.99mol%であり、カルボキシル基およびラクトンの合計含有量が0.03mol%以下であることを特徴とする。
【0013】
分子量分布を狭く、カルボキシル基およびラクトンの合計含有量を少なくすることで、水溶液の高速塗工性に優れ、該水溶液から得られる成形品が耐水性および機械的強度に優れるポリビニルアルコールを提供できる。
【0014】
本発明のポリビニルアルコールの好適な製造方法は、ラジカル開始剤及び有機コバルト錯体の存在下に制御ラジカル重合によってビニルエステル単量体を重合させる重合工程;前記重合工程の後に、プロトン供与性重合停止剤を添加することによって前記重合を停止させてポリビニルエステルを得る停止工程;及び前記停止工程で得られたポリビニルエステルをけん化してポリビニルアルコールを得るけん化工程;を有する。以下、その製造方法を詳細に説明する。
【0015】
まず、重合工程について説明する。重合工程では、ラジカル開始剤及び有機コバルト錯体の存在下に制御ラジカル重合によってビニルエステル単量体を重合させる。制御ラジカル重合とは、生長ラジカル末端(活性種)が制御剤と結合した共有結合種(ドーマント種)との平衡状態におかれて反応が進行する重合反応のことである。本発明においては、制御剤として有機コバルト錯体が好適に用いられる。
【0016】
ビニルエステル単量体としては、例えばギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的観点から酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0017】
ビニルエステル単量体の重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法が挙げられる。中でも、無溶媒で重合する塊状重合法あるいは種々の有機溶媒中で重合する溶液重合法が通常採用される。分子量分布の狭い重合体を得るためには、連鎖移動等の副反応を起こすおそれのある溶媒や分散媒を使用しない塊状重合法が好ましい。一方、反応液の粘度調整や、重合速度の制御等の面からは、溶液重合が好ましい場合もある。溶液重合時に溶媒として使用される有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール等の低級アルコール等が挙げられる。これらのうち、連鎖移動を防ぐためには、エステルや芳香族炭化水素が好ましく用いられる。溶媒の使用量は、目的とするポリビニルアルコールの数平均分子量に合わせ、反応溶液の粘度を考慮して決定すればよい。例えば、質量比(溶媒/単量体)が0.01〜10の範囲から選択される。質量比(溶媒/単量体)は好適には0.1以上であり、好適には5以下である。
【0018】
重合工程で使用されるラジカル開始剤としては、従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、ジイソブチリルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。さらには、上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて開始剤とすることができる。また、レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物(酸化剤)とN,N−ジメチルアニリン、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。開始剤の使用量は、重合触媒により異なり一概には決められず、重合速度に応じて任意に選択される。
【0019】
重合工程で制御剤として使用される有機コバルト錯体は、2価のコバルト原子と有機配位子を含むものであればよい。好適な有機コバルト錯体としては、例えばコバルト(II)アセチルアセトナート[Co(acac)]、コバルト(II)ポルフィリン錯体等が挙げられる。中でも、製造コストの観点からコバルト(II)アセチルアセトナートが好適である。
【0020】
本発明で用いられる制御ラジカル重合では、まず、ラジカル開始剤が分解して発生したラジカルが少数のビニルエステルと結合して生じた短鎖の重合体の生長末端のラジカルが有機コバルト(II)錯体と結合して、有機コバルト(III)錯体が重合体末端との共有結合によって結合されたドーマント種が生成する。反応開始後の一定期間は、短鎖の重合体が生成してはドーマント種に変換されるだけで、高重合度化は実質的に進行しない。この期間を誘導期という。有機コバルト(II)錯体が消費された後は、高重合度化が進行する成長期に入り、反応系内のほとんどの分子鎖の分子量が重合時間に比例して同じように増加する。これによって、分子量分布の狭いポリビニルエステルを得ることができる。
【0021】
上記のように、本発明の制御ラジカル重合では、理論上は、添加する有機コバルト錯体一分子から一つのポリビニルエステル鎖が生成する。したがって、反応液に添加される有機コバルト錯体の量は、目的とする数平均分子量と重合率とを考慮して決定される。通常、ビニルエステル単量体100モルに対して、0.001〜1モルの有機コバルト錯体を使用することが好ましい。
【0022】
発生するラジカルのモル数が有機コバルト錯体のモル数よりも多くなければ、重合反応はドーマント種からCo錯体が熱的に解離する機構のみによって進行するため、反応温度によっては重合速度が極めて小さくなってしまう。したがって、ラジカル開始剤が2個のラジカルを発生することを考慮すれば、用いられるラジカル開始剤のモル数は有機コバルト錯体のモル数の1/2倍を超える量である必要がある。一般に開始剤から供給される活性ラジカル量は開始剤効率に依存するので、実際はドーマントの形成に用いられずに失活する開始剤がある。したがって、用いられるラジカル開始剤のモル数は有機コバルト錯体のモル数の1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましい。一方、発生するラジカルのモル数が有機コバルト錯体のモル数よりも多くなりすぎると、制御されないラジカル重合の割合が増えるので分子量分布が広がってしまう。用いられるラジカル開始剤のモル数は有機コバルト錯体のモル数の10倍以下であることが好ましく、6倍以下であることがより好ましい。
【0023】
重合温度については、例えば0℃〜80℃であることが好ましい。重合温度が0℃未満の場合は重合速度が不十分となり、生産性が低下する。この点からは重合温度は10℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることがさらに好ましい。一方、重合温度が80℃を超えると得られるポリビニルエステルの分子量分布が広くなってしまう。この点からは重合温度は65℃以下であることがより好ましく、50℃以下であることがさらに好ましい。
【0024】
前記重合工程において目的とする重合率になったところで、プロトン供与性重合停止剤を添加することによって重合反応を停止させる。こうして得られたポリ酢酸ビニルをけん化することによって得られるポリビニルアルコールの色相は良好である。その理由は必ずしも明らかではないが、ドーマント種が開裂して生成したラジカルに対して、プロトン供与性重合停止剤がプロトンラジカルを供給することによって、副反応を抑制しながら水素化することができるためであると考えられる。そして、その後にポリ酢酸ビニルをけん化する際に共役二重結合の生成が抑制され、イエローインデックス(YI)の小さい、色相の良好なポリビニルアルコールを得ることができる。重合工程に要する時間は、誘導期と成長期を合わせて、通常3〜50時間である。
【0025】
添加されるプロトン供与性重合停止剤のモル数は、添加された有機コバルト錯体のモル数の1〜100倍であることが好ましい。プロトン供与性重合停止剤のモル数が少なすぎると、ポリマー末端のラジカルを十分に捕捉できす、得られるポリビニルアルコールの色調が悪化するおそれがある。そのため、プロトン供与性重合停止剤のモル数は、有機コバルト錯体のモル数の5倍以上であることがより好ましい。一方、プロトン供与性重合停止剤のモル数が多すぎると生産コストが上昇するおそれがある。プロトン供与性重合停止剤のモル数は、有機コバルト錯体のモル数の50倍以下であることがより好ましい。
【0026】
停止工程で用いられるプロトン供与性重合停止剤はポリ酢酸ビニル鎖の末端のラジカルに対してプロトンラジカルを提供できる重合停止剤であって、60℃での酢酸ビニルに対する連鎖移動定数が0.1以上であることが好ましい。好適なプロトン供与性重合停止剤としては、例えば後述する実施例で用いられるソルビン酸等が挙げられる。また、金属−水素結合を有する有機金属化合物等を用いることもできる。
【0027】
停止工程における反応液の温度は、プロトン供与性重合停止剤がポリ酢酸ビニル鎖の末端のラジカルに対してプロトンラジカルを提供できる温度であればよく、0℃〜80℃であることが好ましい。反応液の温度が0℃未満の場合は停止工程に時間がかかり過ぎて生産性が低下する。この点からは温度は10℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることがさらに好ましい。一方、反応液の温度が80℃を超えると、不必要な酢酸ビニルの重合が進行して分子量分布(Mw/Mn)が大きくなるおそれがある。この点からは温度は70℃以下であることがより好ましく、60℃以下であることがさらに好ましい。停止工程に要する時間は、10分〜5時間である。
【0028】
停止工程の後、得られたポリビニルエステル溶液を、水溶性配位子を含む水溶液に接触させて、前記ポリビニルエステル溶液からコバルト錯体を抽出除去する抽出工程を行なうことが好ましい。このように、ポリビニルエステル溶液中に含まるコバルト錯体を予め除去してからけん化工程を行なうことによって、色相の良好な、ゲル化しにくいポリビニルアルコールを得ることができる。具体的には、相互に溶解しない前記水溶液と前記ポリビニルエステル溶液とを、両者の界面の面積が大きくなるように激しく撹拌してから静置し、油層と水層に分離した後で水層を除く操作を行う。この操作は複数回繰り返してもよい。
【0029】
停止工程の後、得られたポリビニルエステル溶液を、水溶性配位子を含む水溶液に接触させて、前記ポリビニルエステル溶液からコバルト錯体を抽出除去する抽出工程を行なうことが好ましい。このように、ポリビニルエステル溶液中に含まるコバルト錯体を予め除去してからけん化工程を行なうことによって、色相の良好な、ゲル化しにくいポリビニルアルコールを得ることができる。具体的には、相互に溶解しない前記水溶液と前記ポリビニルエステル溶液とを、両者の界面の面積が大きくなるように激しく撹拌してから静置し、油層と水層に分離した後で水層を除く操作を行う。この操作は複数回繰り返してもよい。
【0030】
抽出工程に用いられる水溶性配位子は、25℃におけるpKaが0〜12の酸であることが好ましい。pKaが0未満の強酸を用いた場合、コバルト錯体を効率的に抽出することが困難であり、pKaは2以上であることが好ましい。またpKaが12を超える弱酸を用いた場合にもコバルト錯体を効率的に抽出することが困難であり、pKaは7以下であることが好ましい。前記酸が多価の酸である場合には、第一解離定数(pKa1)が上記範囲であることが必要である。pKaが0〜12の酸がカルボン酸であることが好ましく、中でも酢酸(pKa4.76)であることが特に好ましい。
【0031】
水溶性配位子を含む水溶液のpHは、0〜5であることが好ましい。pHはより好適には1以上であり、さらに好適には1.5以上である。pHはより好適には4以下であり、さらに好適には3以下である。
【0032】
けん化工程では、停止工程で得られたポリビニルエステルをけん化してポリビニルアルコールを得る。このとき、停止工程の後に抽出工程を行なってから、けん化工程を行なってもよい。
【0033】
けん化工程では、前述の方法で製造されたポリビニルエステルをアルコールまたは含水アルコールに溶解した状態でけん化してポリビニルアルコールを得る。けん化反応に使用されるアルコールとしては、メタノール、エタノール等の低級アルコールが挙げられ、メタノールが特に好適に使用される。けん化反応に使用されるアルコールは、アセトン、酢酸メチルや酢酸エチル等のエステル、トルエン等の溶剤を含有していてもよい。けん化反応に用いられる触媒としては、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、ナトリウムメチラート等のアルカリ触媒、あるいは鉱酸等の酸触媒が挙げられる。けん化反応の温度については、例えば20〜60℃の範囲が適当である。けん化反応の進行に伴って、ゲル状生成物が析出してくる場合には、その時点で生成物を粉砕し、洗浄後、乾燥することにより、ポリビニルアルコールが得られる。
【0034】
本発明のポリビニルアルコールのけん化度は80〜99.99mol%である。けん化度が80mol%未満の場合、ポリビニルアルコールの結晶性が著しく低下し、成形体の機械的強度等の物性が低下する。けん化度は、好適には85mol%以上であり、より好適には90mol%以上である。一方、けん化度が99.99mol%を超えると、ポリビニルアルコールの製造が困難となり、成形性も劣る傾向となる。水溶液の高速塗工性に優れる観点から、けん化度は、好適には99.95mol%以下であり、より好適には95.0mol%以下、さらに好適には92.0mol%以下である。
【0035】
本発明のポリビニルアルコールの数平均分子量(Mn)は44,000〜440,000である。制御剤として有機コバルト錯体を使用することによって、分子量分布が狭く、数平均分子量(Mn)の高いポリビニルアルコールを得ることができる。数平均分子量(Mn)は耐水性や機械的強度に優れる成形品を得る観点から好適には11,000以上であり、より好適には22,000以上である。一方、数平均分子量(Mn)が高すぎると、溶液の粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難になる場合や、溶解速度が低下する場合があるため、数平均分子量(Mn)は220,000以下であることが好ましく、190,000以下であることがより好ましい。本発明における数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準物質にポリメチルメタクリレートを用い、HFIP系カラムで測定した値である。測定方法は実施例に記載した通りである。
【0036】
本発明のポリビニルアルコールの分子量分布(Mw/Mn)は、1.05〜1.70である。制御ラジカル重合によって重合することで分子量分布の狭いポリビニルアルコールを得ることができる。分子量分布は好適には1.60以下であり、より好適には1.55以下である。分子量分布が上記範囲であると、得られるポリビニルアルコールの低分子量成分の量が低下し、その成形品は耐水性に優れる。また、分子量分布が上記範囲であり、かつ数平均分子量が上記範囲であることで、機械的強度に優れる成形品を得ることができる。
【0037】
本発明のポリビニルアルコールの全単量体単位に対するカルボキシル基およびラクトンの合計含有量は0.03mol%以下である。カルボキシル基およびラクトンの合計含有量は好適には0.005以下である。カルボキシル基およびラクトンの合計含有量が上記範囲であると官能基同士の相互作用が低減し、数平均分子量および鹸化度が高い場合でも該ポリビニルアルコールの水溶液は優れた高速塗工性を有する。
【0038】
本発明のポリビニルアルコールの全単量体単位に対する炭素−炭素二重結合の含有量(X)は0.1mol%以下であることが好ましい。炭素−炭素二重結合の含有量(X)は、より好適には0.03mol%以下であり、さらに好適には0.01mol%以下であり、特に好適には0.001mol%以下である。
【0039】
さらに、本発明のポリビニルアルコールは、下記式(1)を満足することが好ましい。式(1)の左辺(X・Mn)は、ポリビニルアルコールの全単量体単位に対する炭素−炭素二重結合の含有量(X)(mol%)に数平均分子量(Mn)を掛けたものである。ここで、数平均分子量(Mn)は単位重量当たりのポリマー末端の数に反比例する値であるから、X・Mnが一定値以下であるということは、ポリマー分子の末端の数に対する炭素−炭素二重結合の含有量(X)の割合が一定以下であるということである。末端構造に由来して着色する場合には、数平均分子量(Mn)が高いほど末端の割合が小さいので白色度の高い重合体が得られ易く、数平均分子量(Mn)が低いほど末端の割合が大きいので白色度の高い重合体を得ることが困難である。式(1)では、同程度の分子量のポリビニルアルコール同士で比較した場合に、従来よりも白色度の高いポリビニルアルコールが得られることを示している。X・Mnは、700以下であることがより好ましく、400以下であることがさらに好ましい。
X・Mn ≦ 1000 (1)
【0040】
本発明のポリビニルアルコールはASTM D1925にしたがって測定されるイエローインデックス(YI)が50以下であることが好ましい。
【0041】
上記炭素−炭素二重結合の含有量(X)の少ないポリビニルアルコールとすることでYIの小さい色相に優れたポリビニルアルコールを得ることができる。YIは、より好適には40以下であり、さらに好適には30以下であり、特に好適には20以下である。ここで、YIは、ポリビニルアルコール樹脂の粉体を分光測色計(D65光源、CM−A120白色校正板、正反射測定SCE)を用いて、粉体を押さえつけないようにしてシャーレに敷き詰めた試料を測定して求められる。具体的には、実施例に記載した方法に従って測定した値である。
【0042】
本発明のポリビニルアルコールの1,2−グリコール結合の含有量は0.7〜1.5mol%であることが好ましい。1,2−グリコール結合の含有量が1.5mol%以下であることによって、ポリビニルアルコールが高い結晶性を有することができる。分子量分布(Mw/Mn)が低いことと合わせて、より高い結晶性を有し、該ポリビニルアルコールの水溶液から得られる成形品は機械的強度に優れる。1,2−グリコール結合の含有量は、1.4mol%以下であることがより好ましく、1.3mol%以下であることがさらに好ましい。一方、1,2−グリコール結合の含有量が1mol%未満の場合には、水溶性が悪化する等、取扱い性が低下する。1,2−グリコール結合の含有量は、0.9mol%以上であることがより好ましく、1.1mol%以上であることがさらに好ましい。
【0043】
本発明のポリビニルアルコールの成形方法としては、例えば水またはジメチルスルホキシド等の溶液の形態から成形する方法、加熱によりポリビニルアルコールを可塑化して成形する方法、例えば押出成形法、射出成形法、インフレ成形法、プレス成形法、ブロー成形法等が挙げられる。これらの方法により、フィルム、シート、チューブ、ボトル等の任意形状の成形品が得られる。
【0044】
本発明のポリビニルアルコールは、その特性を利用して各種用途に使用することができる。例えば、塗工液、紙用コーティング剤、界面活性剤、紙用内添剤、顔料バインダー、接着剤、不織布バインダー、塗料、繊維加工剤、繊維糊剤、塗工紙、フィルム、シート、ボトル、繊維、増粘剤、凝集剤、土壌改質剤等に使用できる。
【0045】
本発明のポリビニルアルコールを塗工液として使用する場合は、ポリビニルアルコールを水溶液として用いることが好ましい。
【0046】
本発明のポリビニルアルコールを塗工紙に使用する場合は、前記塗工液が基材の表面に塗工されてなることが好ましい。基材としては、例えば紙基材及びフィルム基材が用いられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例等により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。各実施例及び比較例で得たポリビニルアルコールの測定及び評価の方法は以下のとおりである。
【0048】
[誘導期及び成長期]
本発明における「誘導期」とは、反応液の加温を開始してから酢酸ビニルの消費が開始されるまでの期間を意味し、「成長期」とは、酢酸ビニルの消費が開始されてから目標の転化率に到達するまでの期間を意味する。これらの期間は、例えば、酢酸ビニルの消費が開始されてから任意の時間でサンプリングを行い、その固形分濃度から酢酸ビニルの消費率を算出して時間−酢酸ビニル消費率の相関をプロットし、少なくとも3点で近似直線を引いた場合の酢酸ビニル消費率が0%となる時間を「誘導期」と「成長期」の境界とすることによって算出できる。
【0049】
[数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)の測定]
東ソー株式会社製サイズ排除高速液体クロマトグラフィー装置「HLC−8320GPC」を用い、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定した。測定条件は以下の通りである。
カラム:東ソー株式会社製HFIP系カラム「GMHHR−H(S)」2本直列接続
標準試料:ポリメチルメタクリレート
溶媒及び移動相:トリフルオロ酢酸ナトリウム−HFIP溶液(濃度20mM)
流量:0.2mL/min
温度:40℃
試料溶液濃度:0.1wt%(開口径0.45μmフィルターでろ過)
注入量:10μL
検出器:RI
【0050】
[カルボキシル基およびラクトンの合計含有量の測定]
日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「LAMDA 500」を用い、80℃でポリビニルアルコールのH−NMR測定を行った。溶媒として重水を使用した。なお、ポリビニルアルコールの全量体単位に対するカルボキシル基およびラクトンの合計含有量(mol%)は以下のように算出した。公知のポリビニルアルコールのメチンプロトン(−CHCH(OH)−または−CHCH(OCOCH)−)に由来するピークの全積分値(4.15−4.06ppm)を100とした場合の、2.33−2.21ppmの範囲に検出されるカルボキシル基に隣接するメチンプロトン(−CH−COONa)のピークの積分値および2.76−2.71ppmの範囲に検出されるラクトンのメチンプロトン(−CHCHCHCOOCH−)ピークの積分地の当該数値の総和を1/2にすることで算出した。
【0051】
[炭素−炭素二重結合の含有量(X)(mol%)の測定]
日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「LAMBDA 500」を用い、40℃及び95℃でポリビニルアルコールのH−NMR測定を行なった。溶媒としてDMSO−dを使用した。なお、ポリビニルアルコールの全単量体単位に対する炭素−炭素二重結合の含有量(X)(mol%)は以下のように算出した。公知のポリビニルアルコールのメチンプロトン(−CHH(OH)−または−CHH(OCOCH)−)に由来するピークの全積分値(3.3ppm、3.4ppm、3.5ppm、3.6ppm、3.9ppm及び4.8ppm;これらのうち、3.3〜3.6ppmの4つのピークについては40℃/95℃の測定値の比較から各積分値を算出した)を100とした場合の、5.5〜7.5ppmの範囲に検出される全ピークの積分値を算出し、当該数値の1/2をX(mol%)とした。なお、5.5〜7.5ppmの積分値を算出する際、ベースラインに傾斜が見られる場合には、その傾斜を考慮して各ピークの面積値を算出した。
【0052】
[1,2−グリコール結合量(mol%)の測定]
90℃減圧乾燥を2日間行ったポリビニルアルコールを、DMSO−dに溶解し、トリフルオロ酢酸を数滴加えた試料を調製し測定に供した。日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「LAMBDA 500」を用い、80℃でH−NMR測定を行なった。このとき、けん化度が99.9モル%未満の試料の場合には、99.9mol%以上までけん化した後に測定に供した。ビニルアルコール単位のメチン由来のピークは3.2〜4.0ppm(積分値A)、1,2−グリコール結合の1つのメチン由来のピークは3.25ppm(積分値B)に帰属され、次式で1,2−グリコール結合含有量を算出できる。
1,2−グリコール結合量(モル%)=(B/A)×100
【0053】
[色相(YI)の評価]
得られたポリビニルアルコールの粉体のYI(ASTM D1925)をコニカミノルタ株式会社製分光測色計「CM−8500d」を用いて測定した(光源:D65、CM−A120白色校正板、CM−A126シャーレセット使用、正反射測定SCE、測定径φ30mm)。シャーレに試料5gを添加し、粉体を押さえつけないようにして軽く側面をたたいて振とうし、まんべんなく均一に粉体を敷き詰めた。この状態で合計10回の測定を行い(各回でシャーレを一度振とうしてから再測定)、その平均値を樹脂のYIとして求めた。
【0054】
[高速塗工性の評価]
得られたポリビニルアルコールを用いて濃度10質量%の水溶液を調製した。この水溶液を島津製作所製高化式フローテスタ「301型」を用いて、ダイ径0.2mm、ダイ長:5mm、温度:30℃、予熱時間:5分、剪断速度:1×10〜5×10/sの範囲内で溶液粘度を測定した。高速塗工性の評価を以下の基準により判断した。
○:剪断粘度が極大となる剪断速度が7.32×10/s以上
△:剪断粘度が極大となる剪断速度が2.20×10/s以上7.32×10/s未満
×:剪断粘度が極大となる剪断速度が2.20×10/s未満
【0055】
[耐水性評価]
濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液を調製し、PET製の型枠に流延し、23℃、53%RHに調整された部屋で一週間静置乾燥した。
得られたフィルムを型枠から外し、中心部の膜厚を厚み計で測定し、膜厚100〜200μmのフィルムを評価対象とした。得られたフィルムを20℃で20時間水に浸漬させ、浸漬前後の重量変化から溶出率[質量%]を算出した。耐水性の評価を以下の基準により判断した。
○:溶出率10%未満
△:溶出率10%以上40%未満
×:溶出率40%以上
【0056】
[機械的強度の評価]
濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液を調製し、PET製の型枠に流延し、23℃、90%RHに調整された部屋で一週間静置乾燥したフィルムを10mm×800mmに切り出し、島津製作所製オートグラフ「AG−IS」を用いて、チャック間距離50mm、引張り速度500mm/分の条件で強伸度測定を行い、23℃、90%RHの条件下で、最大応力[kgf/mm]を求めた。なお、測定は各サンプル5回測定し、その平均値を算出した。機械的強度の評価を以下の基準により判断した。
○:最大応力6.7kgf/mm以上
△:最大応力3.5kgf/mm以上、6.7kgf/mm未満
×:最大応力3.5kgf/mm未満
【0057】
[塗工液の高速塗工性の評価]
得られたポリビニルアルコールを用いて濃度8質量%の水溶液(塗工液)を調製した。この塗工液をブレードコーターで塗工温度30℃、塗工速度1200m/分、紙とブレード間の隙間0.004mmとして上質紙(坪量65g/m)に塗工した。このときの塗工液にかかる剪断速度は5×10/sとなる。塗工後、80℃のドラム乾燥機で5分間乾燥した。得られた塗工紙に塗工液が均一に塗られているかの評価は、塗工紙の塗工面に着色トルエンを刷毛で塗り、裏面に抜けてくる着色トルエンを観察して以下の基準で評価した。
○:着色トルエンが裏抜けしておらず、塗工面に着色ムラもない
×:着色トルエンが激しく裏抜けしており、塗工面の着色ムラもある
【0058】
[実施例1]
攪拌機、還流冷却管、開始剤の添加口を備えた反応器に、コバルト(II)アセチルアセトナートを0.037質量部添加し、反応器内を真空にした後窒素を導入する不活性ガス置換を3回行った。その後単蒸留精製した酢酸ビニル100質量部を添加し、還元剤としてN,N−ジメチルアニリン(以下、DMAと略称する)を0.09質量部添加した後、反応器を水浴に浸漬し、内温が30℃になるように加熱し撹拌した。その後酸化剤としてジイソプロピルパーオキシジカーボネート(以下、IPPと略称する)のトルエン溶液(濃度1質量%)を添加開始1.5時間までは単位時間あたり1.6質量部、その後単位時間あたり0.3質量部で添加した(IPPの総添加量0.033質量部)。適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認し、酢酸ビニルの転化率が20%に到達したところで水浴を氷水に置換し、内温を10℃以下まで急冷した。ここに重合禁止剤としてソルビン酸のメタノール溶液2.3質量部(濃度10質量%、ソルビン酸として0.23質量部)を添加した。なお、ソルビン酸の60℃での酢酸ビニル単量体に対する連鎖移動定数は0.1を超える。重合反応における誘導期は2時間であり、成長期は2.5時間であった。
【0059】
重合禁止剤を添加してから、真空ラインに接続し、残留する酢酸ビニルを15℃で減圧留去した。反応器内を目視で確認しながら、粘度が上昇したところで適宜メタノールを添加しながら留去を続けた。その後30℃まで加熱し、酢酸エチルを添加しながらメタノールを35℃で減圧留去し、ポリ酢酸ビニルの酢酸エチル溶液を得た。ここに濃度25質量%の酢酸水溶液(pH2.0)94質量部を添加し、5分攪拌した後、30分静置し二層に分離した。水層をシリンジで抜き取った後、再び真空ラインに接続し、残留する酢酸エチルを30℃で減圧留去した。酢酸エチルを留去したところでメタノールを添加してポリ酢酸ビニルを溶解し、当該溶液を脱イオン水に滴下してポリ酢酸ビニルを析出させた。ろ過操作でポリ酢酸ビニルを回収し、40℃の真空乾燥機で24時間乾燥し、ポリ酢酸ビニルを得た。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0060】
次に、上記と同様の反応器に、得られたポリ酢酸ビニル100質量部とメタノール233質量部を添加し溶解した(濃度30質量%)後、水浴を加熱して内温が40℃になるまで加熱撹拌した。ここに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%)33.2質量部を添加して、40℃でけん化を行った(水酸化ナトリウムとして4.6質量部)。生成したゲル化物を粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で放置して1時間けん化を進行させた。得られたけん化物にさらに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%)33.2質量部を添加し、65℃の加熱還流下でさらに1時間けん化反応を追い込んだ。その後、酢酸メチル200質量部を加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別することによって固体を得て、これにメタノール500質量部を加えて1時間加熱還流した。その後、遠心脱水して得られた固体を真空乾燥機にて40℃で24時間乾燥させ、ポリビニルアルコールを得た。以上のけん化工程の詳細を表2に示す。
【0061】
得られたポリビニルアルコールの各種物性を測定し、性能を評価した。けん化度は99.9mol%であり、数平均分子量(Mn)は74,800であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.30であった。また、ラクトン環とカルボキシル基の含有量は測定限界の0.005mol%未満であった。炭素−炭素二重結合の含有量(X)は0.0018mol%であった。1,2−グリコール結合の含有量は1.3mol%であった。色相(YI)は15.0であり、高速塗工性の評価は7.33×10/sであり、耐水性の評価は○であり、機械的強度の評価は○であった。以上の結果を表3にまとめて示す。なお、得られたポリビニルアルコールの水溶液からなる塗工液の高速塗工性の評価は○であった。
【0062】
[実施例2]
実施例1と同様の反応器にコバルト(II)アセチルアセトナートを0.037質量部添加し、反応器内を真空にした後窒素を導入する不活性ガス置換を3回行った。その後単蒸留精製した酢酸ビニル100質量部を添加し、単蒸留した酢酸メチルを100質量部添加し、還元剤としてDMAを0.09質量部添加した後、反応器を水浴に浸漬し、内温が30℃になるように加熱し撹拌した。その後酸化剤としてIPPのトルエン溶液(濃度1質量%)を添加開始1.5時間までは単位時間あたり1.6質量部、その後単位時間あたり0.3質量部で添加した(IPPの総添加量0.044質量部)。酢酸ビニルの転化率が30%に到達したところで水浴を氷水に置換し、内温を10℃以下まで急冷した。以降の操作は実施例1に記載の方法と同様の操作を行い、ポリ酢酸ビニルを得た。重合反応における誘導期は2時間であり、成長期は6時間であった。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0063】
次に、上記と同様の反応器に、得られたポリ酢酸ビニル100質量部とメタノール400質量部を添加し溶解した(濃度20質量%)こと、および水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%)45.7質量部を添加した(水酸化ナトリウムとして6.4質量部)以外は実施例1に記載の方法と同様にして2段階でけん化反応を行い、ポリビニルアルコールを得た。以上のけん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたポリビニルアルコールの測定及び評価の結果を表3にまとめて示す。
【0064】
[実施例3]
コバルト(II)アセチルアセトナートを0.019質量部添加し還元剤としてDMAを0.04質量部添加し、酸化剤としてIPPのトルエン溶液(濃度1質量%)を添加開始1.5時間までは単位時間あたり0.8質量部、その後単位時間あたり0.15質量部で添加した(IPPの総添加量0.017質量部)以外は実施例1と同様の条件で酢酸ビニルの重合反応を行った。酢酸ビニルの転化率が25%に到達したところで水浴を氷水に置換し、内温を10℃以下まで急冷した。ここに重合禁止剤としてソルビン酸(60℃での酢酸ビニル単量体に対する連鎖移動定数が0.1を超える)のメタノール溶液1.2質量部(濃度10質量%、ソルビン酸として0.12質量部)を添加した。以降の操作は実施例1に記載する方法と同様の操作を行い、ポリ酢酸ビニルを得た。重合反応における誘導期は2時間であり、成長期は3.1時間であった。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0065】
次に、上記と同様の反応器に、得られたポリ酢酸ビニル100質量部とメタノール900質量部を添加し溶解した(濃度10質量%)後、水浴を加熱して内温が40℃になるまで加熱撹拌した。ここに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度10質量%)77質量部を添加して、40℃でけん化を行った(水酸化ナトリウムとして7.7質量部)。生成したゲル化物を粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で放置して1時間けん化させた後、酢酸メチル200質量部を加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別することによって固体を得て、これにメタノール500質量部を加えて1時間加熱還流した。その後、遠心脱水して得られた固体を真空乾燥機にて、40℃で24時間乾燥させ、ポリビニルアルコールを得た。けん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたポリビニルアルコールの測定及び評価の結果を表3にまとめて示す。以上のけん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたポリビニルアルコールの測定及び評価の結果を表3にまとめて示す。
【0066】
[実施例4]
実施例1と同様の条件でポリ酢酸ビニルを得た。重合反応における誘導期は2時間であり、成長期は2.5時間であった。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0067】
次に、上記と同様の反応器に、得られたポリ酢酸ビニル100質量部とメタノール233質量部を添加し溶解した(濃度30質量%)後、水浴を加熱して内温が40℃になるまで加熱撹拌した。ここに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%)5.0質量部を添加して、40℃でけん化を行った(水酸化ナトリウムとして0.70質量部)以外は実施例3に記載の方法と同様にして1段階でけん化反応を行い、ポリビニルアルコールを得た。けん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたポリビニルアルコールの測定及び評価の結果を表3にまとめて示す。
【0068】
[実施例5]
攪拌機、還流冷却管、開始剤の添加口を備えた反応器に、コバルト(II)アセチルアセトナートを0.037質量部、開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(以下、V−70と略称する)を0.13質量部添加し、反応器内を真空にした後窒素を導入する不活性ガス置換を3回行った。その後単蒸留精製した酢酸ビニル100質量部を添加してから、反応器を水浴に浸漬し、内温が30℃になるように加熱し撹拌した。適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認し、酢酸ビニルの転化率が20%に到達したところで水浴を氷水に置換し、内温を10℃以下まで急冷した。ここに重合禁止剤としてソルビン酸のメタノール溶液2.3質量部(濃度10質量%、ソルビン酸として0.23質量部)を添加した。重合反応における誘導期は6時間であり、成長期は2.5時間であった。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0069】
重合禁止剤を添加してから、真空ラインに接続し、残留する酢酸ビニルを15℃で減圧留去した。反応器内を目視で確認しながら、粘度が上昇したところで適宜メタノールを添加しながら留去を続け、さらに内温を50℃に昇温して1時間加熱撹拌した。その後30℃まで冷却した。以降の操作は実施例1に記載の方法と同様の操作を行い、ポリ酢酸ビニルを得た。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0070】
また、けん化工程においては水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%)36.4質量部(水酸化ナトリウムとしては5.1質量部)を添加した以外は実施例1に記載の方法と同様にして2段階でけん化反応を行い、ポリビニルアルコールを得た。けん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたポリビニルアルコールの測定および評価の結果を表3に、機械的強度の評価結果を図1に示す。
【0071】
[実施例6]
実施例1と同様の条件で酢酸ビニルの重合反応を行った。酢酸ビニルの転化率が18%に到達したところで水浴を氷水に置換し、内温を10℃以下まで急冷した。以降の操作は実施例1に記載の方法と同様の操作を行い、ポリ酢酸ビニルを得た。重合反応における誘導期は2時間であり、成長期は2.3時間であった。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0072】
次に、上記と同様の反応器に、得られたポリ酢酸ビニル100質量部とメタノール233質量部を添加し溶解した(濃度30質量%)後、水浴を加熱して内温が40℃になるまで加熱撹拌した。ここに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%)182.9質量部を添加して、40℃でけん化を行った(水酸化ナトリウムとして25.6質量部)以外は実施例3に記載の方法と同様にして1段階でけん化反応を行い、ポリビニルアルコールを得た。けん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたポリビニルアルコールの測定及び評価の結果を表3にまとめて示す。
【0073】
[比較例1]
攪拌機、還流冷却管、アルゴン導入管、開始剤の添加口を備えた反応器に、酢酸ビニル100質量部、メタノール40質量部を仕込み、窒素バブリングをしながら30分間反応器内を不活性ガス置換した。水浴を加熱して反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.025質量部添加し重合を開始した。適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認し、酢酸ビニルの転化率が30%に到達したところで30℃まで冷却して重合を停止した。真空ラインに接続し、残留する酢酸ビニルをメタノールとともに30℃で減圧留去した。反応器内を目視で確認しながら、粘度が上昇したところで適宜メタノールを添加しながら留去を続け、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を得た。重合反応における誘導期は0.2時間であり、成長期は2.7時間であった。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0074】
得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(ポリ酢酸ビニルとして150質量部)にメタノールを追加し、ポリ酢酸ビニルの濃度を30質量%にした以外は実施例4に記載の方法と同様にしてけん化反応を行い、ポリビニルアルコールを得た。けん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたポリビニルアルコールの測定及び評価の結果を表3に、機械的強度の評価結果を図1に示す。なお、得られたポリビニルアルコールの水溶液からなる塗工液の高速塗工性の評価は×であった。
【0075】
[比較例2]
比較例1と同様の条件で酢酸ビニルの重合を行った。重合反応における誘導期は0.2時間であり、成長期は2.7時間であった。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0076】
得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(ポリ酢酸ビニルとして150質量部)にメタノールを追加し、ポリ酢酸ビニルの濃度を30質量%にしたこと、および水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%)65.7質量部(水酸化ナトリウムとしては9.2質量部)を添加したこと以外は実施例3に記載の方法と同様にして1段階でけん化反応を行い、ポリビニルアルコールを得た。けん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたポリビニルアルコールの測定及び評価の結果を表3にまとめて示す。
【0077】
[比較例3]
コバルト(II)アセチルアセトナートを0.15質量部添加し還元剤としてDMAを0.70質量部添加し、酸化剤としてIPPのトルエン溶液(濃度5質量%)を添加開始1.7時間までは単位時間あたり3.8質量部、その後単位時間あたり0.96質量部で添加した(IPPの総添加量0.52質量部)以外は実施例1と同様の条件で酢酸ビニルの重合反応を行った。酢酸ビニルの転化率が16%に到達したところで水浴を氷水に置換し、内温を10℃以下まで急冷した。ここに重合禁止剤としてソルビン酸のメタノール溶液9.4質量部(濃度10質量%、ソルビン酸として0.94質量部)を添加した。重合反応における誘導期は2.5時間であり、成長期は3.2時間であった。以降の操作は実施例1に記載する方法と同様の操作を行い、ポリ酢酸ビニルを得た。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0078】
次に、上記と同様の反応器に、得られたポリ酢酸ビニル100質量部とメタノール150質量部を添加し溶解した(濃度40質量%)こと、および水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%)21.8質量部(水酸化ナトリウムとして3.05質量部)を添加した以外は実施例1に記載の方法と同様にして2段階でけん化反応を行い、ポリビニルアルコールを得た。以上のけん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたポリビニルアルコールの測定及び評価の結果を表3にまとめて示す。
【0079】
[比較例4]
メタノールを4.8質量部、開始剤としてAIBNを0.003質量部添加した以外は比較例1と同様の条件で酢酸ビニルの重合を行った。重合反応における誘導期は0.2時間であり、成長期は2.7時間であった。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0080】
得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(ポリ酢酸ビニルとして150質量部)にメタノールを追加し、ポリ酢酸ビニルの濃度を10質量%にしたこと、および水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%)42.1質量部(水酸化ナトリウムとしては5.9質量部)を添加したこと以外は実施例1に記載の方法と同様にして2段階でけん化反応を行い、ポリビニルアルコールを得た。けん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたポリビニルアルコールの測定及び評価の結果を表3に、機械的強度の評価結果を図1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
図1