(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979650
(24)【登録日】2021年11月18日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】蛍光X線分析方法、蛍光X線分析装置またはプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/223 20060101AFI20211202BHJP
G01N 23/203 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
G01N23/223
G01N23/203
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-45083(P2018-45083)
(22)【出願日】2018年3月13日
(65)【公開番号】特開2019-158560(P2019-158560A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2020年11月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成29年9月19日、第17回全反射蛍光X線分析および関連方法に関する国際会議(17th International Conference on Total Reflection X−ray Fluorescence Analysis and Related Methods)、チェントロ・パストラーレ・パオロ VI,ブレシア,イタリア(Centro Pastorale Paolo VI,Brescia,Italy) (2)平成29年10月26日、第53回X線分析討論会、徳島大学常三島キャンパス総合科学部2号館
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高原 晃里
(72)【発明者】
【氏名】村井 健介
【審査官】
嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第97/006430(WO,A1)
【文献】
特開2011−075542(JP,A)
【文献】
特開平06−207889(JP,A)
【文献】
特開2013−137273(JP,A)
【文献】
特開平11−145230(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0094058(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−G01N 23/2276
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全反射蛍光X線分析を行う蛍光X線分析方法であって、
測定対象である粒径100μm以下の複数の粒が基板上の少なくとも一部の領域に分散された試料を作製する工程と、
前記試料に対して全反射臨界角度より小さい角度でのみ1次X線を照射し、分析元素から出射される蛍光X線のピーク強度と、前記1次X線が前記試料により散乱された散乱線の強度である散乱線強度と、を測定する工程と、
前記試料の前記ピーク強度と前記散乱線強度との比率を計算する工程と、
前記比率を用いて前記試料に含まれる前記分析元素の濃度を算出する工程と、
を含むことを特徴とする蛍光X線分析方法。
【請求項2】
前記試料を作製する工程は、
前記複数の粒を、液体状の高分子有機化合物と混合し混合液を作製する工程と、
前記混合液を基板に滴下し、スピンコート法により分散し、塗布する工程と、
前記混合液を乾燥させ、前記複数の粒が前記高分子有機化合物の膜に固定された前記試料を作製する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項3】
前記試料は、前記分析元素の濃度が既知である前記複数の粒が基板上の少なくとも一部の領域に分散された標準試料であり、
前記測定する工程は、前記標準試料に対して、全反射臨界角度より小さい角度でのみ前記1次X線を照射し、前記分析元素から出射される前記標準試料の蛍光X線のピーク強度と、前記1次X線が前記標準試料により散乱された散乱線の強度である前記標準試料の散乱線強度と、を測定する工程を含み、
さらに、前記既知の濃度と、前記標準試料の前記ピーク強度と前記標準試料の前記散乱線強度の比率と、の関係を示す検量線を作成する工程を含む、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項4】
前記試料は、前記分析元素の濃度が未知である前記複数の粒が基板上の少なくとも一部の領域に分散された分析試料であり、
前記測定する工程は、前記分析試料に対して、全反射臨界角度より小さい角度でのみ前記1次X線を照射し、前記分析元素から出射される前記分析試料の蛍光X線のピーク強度と、前記1次X線が前記分析試料により散乱された散乱線の強度である前記分析試料の散乱線強度と、を測定する工程を含み、
さらに、前記検量線と、前記分析試料の前記ピーク強度と前記分析試料の前記散乱線強度の比率と、に基づいて、前記未知の濃度を算出する工程を含む、
ことを特徴とする請求項3に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項5】
前記試料の前記散乱線強度は、前記分析元素の蛍光X線のエネルギーにおけるバックグラウンド強度であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の蛍光X線分析方法。
【請求項6】
前記試料の前記散乱線強度は、前記1次X線の特性X線のコンプトン散乱または/及びトムソン散乱に起因する散乱線強度であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の蛍光X線分析方法。
【請求項7】
前記高分子有機化合物の膜の厚さは1000nm以下であることを特徴とする請求項2に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項8】
全反射蛍光X線分析を行う蛍光X線分析装置であって、
測定対象である粒径100μm以下の複数の粒が基板上の少なくとも一部の領域に分散された試料に対して、全反射臨界角度より小さい角度でのみ1次X線を照射し、前記分析元素から出射される蛍光X線のピーク強度と、前記1次X線が前記試料により散乱された散乱線の強度である散乱線強度と、を測定する測定部と、
前記試料の前記ピーク強度と前記散乱線強度との比率を計算する計算部と、
前記比率を用いて前記試料に含まれる前記分析元素の濃度を算出する算出部と、
を含むことを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項9】
測定対象である粒径100μm以下の複数の粒が基板上の少なくとも一部の領域に分散された試料に対して、全反射臨界角度より小さい角度でのみ1次X線を照射し、前記分析元素から出射される蛍光X線のピーク強度と、前記1次X線が前記試料により散乱された散乱線の強度である散乱線強度と、を測定する測定部を備え、全反射蛍光X線分析を行う蛍光X線分析装置と接続されるコンピュータを、
前記試料の前記ピーク強度と前記散乱線強度との比率を計算する計算手段、
前記比率を用いて前記試料に含まれる前記分析元素の濃度を算出する算出手段、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析方法、蛍光X線分析装置またはプログラム、に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析法は、試料に1次X線を照射し、出射された蛍光X線のエネルギーに基づいて、試料に含まれる元素を分析する方法である。
【0003】
また、全反射蛍光X線分析法や斜入射蛍光X線分析法、及び当該方法で分析を行う全反射蛍光X線分析装置や斜入射蛍光X線分析装置が知られている。全反射蛍光X線分析法は、X線を全反射臨界角度以下の極めて低い角度(0°乃至0.1°)で、表面が平滑な試料に入射することにより、試料表面を高感度に元素分析する方法である。斜入射蛍光X線分析法は、全反射臨界角付近の低角度(0°乃至2°)で1次X線を試料に照射し、入射角度を走査することにより、試料表面や薄膜の深さ方向の分析を行う方法である。
【0004】
これに対して、一般的な蛍光X線分析法は、高強度を得るために1次X線を数10°以上の高角度で試料に入射し、試料バルクを分析する方法である。そのため全反射蛍光X線分析法や斜入射蛍光X線分析法は、一般的な蛍光X線分析法と区別され、定量分析を行う方法や標準試料の作製方法等が異なる。
【0005】
全反射蛍光X線分析法や斜入射蛍光X線分析法により定量分析を行う方法として、外標準法及び内標準添加法が知られている。外標準法では、まず、標準となる元素の濃度と蛍光X線強度の関係をあらかじめ求めることで、検量線が作成される。分析試料の濃度は、蛍光X線強度と当該検量線とを用いて算出される。このとき、標準となる元素以外の元素の濃度は、あらかじめ決められた標準元素との感度差(相対感度係数)により補正することで算出される。
【0006】
外標準法では、スピンコート法で標準試料を作製することがある。例えば、特許文献1は、シリコンウェハ表面の極微量元素を正確に測定するために、装置定数測定等のために使用する標準試料をスピンコート法で作製する点を開示している。
【0007】
内標準添加法は、分析試料が液体である場合に一般に用いられる方法である。具体的には、まず、液体の分析試料に内標準元素を既知量含む内標準試料を添加する。内標準元素は、分析試料に含まれない元素である。内標準添加法は、内標準元素の濃度と蛍光X線強度の関係及び相対感度係数から、分析試料を定量分析する方法である。
【0008】
一方、一般的な蛍光X線分析法では、試料中で発生した蛍光X線は、試料表面に出てくるまでに周りの共存元素に吸収されると同時に、共存元素の蛍光X線によって2次的に励起される(マトリクス効果と呼ばれる)ことが知られている。マトリクス効果は、分析精度が低下する要因となる。その補正方法のひとつとして散乱線内標準法が知られている。具体的には、測定されたピーク成分と当該ピーク近傍のバックグラウンド成分は波長が近いため、両成分に与えられているマトリクス効果は同じとみなせる。散乱線内標準法は、当該性質を利用して、ピーク強度とバックグラウンド強度の比率に基づいて、マトリクス効果を補正する方法である。
【0009】
例えば、特許文献2は、試料中の各元素から発生する蛍光X線の測定強度と、測定した1次X線の連続X線の散乱線の測定強度との比率に基づいて、試料における元素の濃度を算出する点を開示している。
【0010】
また、非特許文献1は、分析元素の蛍光X線の強度と1次X線の特性X線のコンプトン散乱線強度との比率に基づいて、試料における元素の濃度を算出するコンプトン散乱レシオ法を開示している。
【0011】
これに対し、全反射蛍光X線分析法及び斜入射蛍光X線分析法は、試料表面を分析する手法であるため、マトリクス効果の影響はないと考えられてきた。また、全反射蛍光X線分析法及び斜入射蛍光X線分析法は、低い入射角度でX線を入射することよって基板からの散乱線をできるかぎり低減し、バックグランド強度を下げ、基板表面に存在する微量の試料や薄膜を高感度で分析する手法である。そのため、散乱線やバックグラウンド強度は、分析を妨害する不要のものであり、できる限り低減されるべきものと考えられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−344424号公報
【特許文献2】特開2011−75542号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】本間寿、「FP法によるコンプトン散乱線レシオ法の拡張と鉱石中金属元素の分析」、リガクジャーナル、株式会社リガク、平成29年4月1日、第48巻、第1号、p.26―32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
微量元素分析の手法として、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS法)等の化学分析法が用いられる。化学分析法では、液体試料が測定される。廃水等の高濃度液体試料を分析する場合には、当該試料を希釈や酸溶解する必要がある。また粉末等の固体試料を分析する場合にも、試料を酸で溶解し液体にする必要がある。しかし、分析試料が難溶性である場合、例えば、分析試料に含まれる分析元素が、非酸化物系セラミックである窒化けい素である場合がある。この場合、加圧酸分解またはマイクロ派加熱酸分解等の試料調製を行う必要がある。当該作業には、ふっ酸等の危険な試薬が必要であり,高い技術レベルの操作を要する。また、当該作業は、半日から数日の時間を要する。
【0015】
微量元素分析を行う方法として、全反射蛍光X線分析法が用いられることがある。全反射蛍光X線分析法は、少量の液体試料を石英ガラス等に滴下、乾燥し測定を行う方法である。分析試料が高濃度試料の場合でも、希釈や酸分解は必須ではないため、試料調製が簡便である。また、分析試料が粉末試料の場合でも、酸分解は必ずしも必要がないことが知られている。例えば、粉末試料を分散させた分散液を、少量石英ガラス等に滴下、乾燥し測定を行う方法が知られている。分析試料が液体試料または粉末試料のいずれの場合であっても、試料調製時に液体または分散液に内標準試料を添加する内標準添加法により定量分析が行われている。
【0016】
上記のような全反射蛍光X線分析法による微量元素分析は、化学分析に比べて分析精度が劣るとみなされてきた。発明者らは、この原因の一つが、マトリクス補正や試料の形状(粒径や分散)補正が行われていないことではないかと考えた。発明者らは、特に、高濃度液体試料や粉末試料では、その影響が大きいと考えた。
【0017】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、全反射蛍光X線分析法や斜入射蛍光X線分析法を用いて試料に含まれる元素を定量分析する場合に、マトリクス補正や形状補正を考慮した高精度な定量分析を簡便に行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記のように、全反射蛍光X線分析法や斜入射蛍光X線分析法は、これまでマトリクス効果を受けないと考えられてきた。そのため、全反射蛍光X線分析法や斜入射蛍光X線分析法では、散乱線内標準法による補正を行うことは想定すらされていなかった。しかし、発明者らは、全反射蛍光X線分析や斜入射蛍光X線分析においても、測定強度が受けるマトリクス効果や形状効果を、散乱線内標準法によって有効に補正できることを研究により発見、実証した。具体的な手段は、以下の通りである。
【0019】
請求項1に記載の蛍光X線分析方法は、全反射蛍光X線分析または斜入射蛍光X線分析を行う蛍光X線分析方法であって、測定対象である粒径100μm以下の複数の粒が基板上の少なくとも一部の領域に分散された試料を作製する工程と、前記試料に対して所定の入射角度より小さい角度で1次X線を照射し、分析元素から出射される蛍光X線のピーク強度と、前記1次X線が前記試料により散乱された散乱線の強度である散乱線強度と、を測定する工程と、前記試料の前記ピーク強度と前記散乱線強度との比率を計算する工程と、前記比率を用いて前記試料に含まれる前記分析元素の濃度を算出する工程と、を含むことを特徴とする。
【0020】
請求項2に記載の蛍光X線分析方法は、請求項1に記載の蛍光X線分析方法において、前記試料を作製する工程は、前記複数の粒を、液体状の高分子有機化合物と混合し混合液を作製する工程と、前記混合液を基板に滴下し、スピンコート法により分散し、塗布する工程と、前記混合液を乾燥させ、前記複数の粒が前記高分子有機化合物の膜に固定された前記試料を作製する工程と、を含むことを特徴とする。
【0021】
請求項3に記載の蛍光X線分析方法は、請求項1または2に記載の蛍光X線分析方法において、前記試料は、前記分析元素の濃度が既知である前記複数の粒が基板上の少なくとも一部の領域に分散された標準試料であり、前記測定する工程は、前記標準試料に対して、所定の入射角度より小さい角度で前記1次X線を照射し、前記分析元素から出射される前記標準試料の蛍光X線のピーク強度と、前記1次X線が前記標準試料により散乱された散乱線の強度である前記標準試料の散乱線強度と、を測定する工程を含み、さらに、前記既知の濃度と、前記標準試料の前記ピーク強度と前記標準試料の前記散乱線強度の比率と、の関係を示す検量線を作成する工程を含む、ことを特徴とする。
【0022】
請求項4に記載の蛍光X線分析方法は、請求項3に記載の蛍光X線分析方法において、前記試料は、前記分析元素の濃度が未知である前記複数の粒が基板上の少なくとも一部の領域に分散された分析試料であり、前記測定する工程は、前記分析試料に対して、所定の入射角度より小さい角度で前記1次X線を照射し、前記分析元素から出射される前記分析試料の蛍光X線のピーク強度と、前記1次X線が前記分析試料により散乱された散乱線の強度である前記分析試料の散乱線強度と、を測定する工程を含み、さらに、前記検量線と、前記分析試料の前記ピーク強度と前記分析試料の前記散乱線強度の比率と、に基づいて、前記未知の濃度を算出する工程を含む、ことを特徴とする。
【0023】
請求項5に記載の蛍光X線分析方法は、請求項1乃至4のいずれかに記載の蛍光X線分析方法において、前記試料の前記散乱線強度は、前記分析元素の蛍光X線のエネルギーにおけるバックグラウンド強度であることを特徴とする。
【0024】
請求項6に記載の蛍光X線分析方法は、請求項1乃至4のいずれかに記載の蛍光X線分析方法において、前記試料の前記散乱線強度は、前記1次X線の特性X線のコンプトン散乱または/及びトムソン散乱に起因する散乱線強度であることを特徴とする。
【0025】
請求項7に記載の蛍光X線分析方法は、請求項1乃至6のいずれかに記載の蛍光X線分析方法において、前記高分子有機化合物の膜の厚さは1000nm以下であることを特徴とする。
【0026】
請求項8に記載の蛍光X線分析装置は、全反射蛍光X線分析または斜入射蛍光X線分析を行う蛍光X線分析装置であって、測定対象である粒径100μm以下の複数の粒が基板上の少なくとも一部の領域に分散された試料に対して、所定の入射角度より小さい角度で1次X線を照射し、前記分析元素から出射される蛍光X線のピーク強度と、前記1次X線が前記試料により散乱された散乱線の強度である散乱線強度と、を測定する測定部と、前記試料の前記ピーク強度と前記散乱線強度との比率を計算する計算部と、前記比率を用いて前記試料に含まれる前記分析元素の濃度を算出する算出部と、を含むことを特徴とする。
【0027】
請求項9に記載のプログラムは、測定対象である粒径100μm以下の複数の粒が基板上の少なくとも一部の領域に分散された試料に対して、所定の入射角度より小さい角度で1次X線を照射し、前記分析元素から出射される蛍光X線のピーク強度と、前記1次X線が前記試料により散乱された散乱線の強度である散乱線強度と、を測定する測定部を備え、全反射蛍光X線分析または斜入射蛍光X線分析を行う蛍光X線分析装置と接続されるコンピュータを、前記試料の前記ピーク強度と前記散乱線強度との比率を計算する計算手段、前記比率を用いて前記試料に含まれる前記分析元素の濃度を算出する算出手段、としてを機能させるプログラムである。
【発明の効果】
【0028】
請求項1及び3乃至9に記載の発明によれば、マトリクス補正や試料の形状補正を考慮した高精度な定量分析を行うことができる。
【0029】
請求項2に記載の発明によれば、試料が難溶性であっても、マトリクス補正や試料の形状補正を考慮した高精度な定量分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態に係る蛍光X線分析装置を概略的に示す図である。
【
図3】スピンコート法により標準試料混合液を分散、塗布する方法を示す図である。
【
図5】乾燥後の標準試料の表面を走査型電子顕微鏡で観察した図である。
【
図6】標準試料に1次X線を照射した状態を示す図である。
【
図7A】蛍光X線のピーク強度及び散乱線強度の測定結果を示す図である。
【
図7B】蛍光X線のピーク強度及び散乱線強度の測定結果を示す図である。
【
図7C】蛍光X線のピーク強度及び散乱線強度の測定結果を示す図である。
【
図8】分析元素と内標準元素(Ga)との強度比により、内標準添加法を評価した結果を示す図である。
【
図9】分析元素のネット強度とバックウラウンド強度比により、散乱線内標準法を評価した結果を示す図である。
【
図10】未知の分析試料を分析する工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態(以下、実施形態という)を説明する。
図1は、全反射蛍光X線分析装置または斜入射蛍光X線分析装置の概略を示す図である。なお、以降において、特段の記載がない限り、全反射蛍光X線分析装置及び斜入射蛍光X線分析装置を単に蛍光X線分析装置100とする。
【0032】
図1に示すように、蛍光X線分析装置100は、試料台102と、X線源104と、検出器106と、計数器108と、分析部110と、制御部112と、を有する。試料台102は、分析対象となる試料が配置される。試料は、後述する標準試料114及び分析試料400を含む。X線源104は、1次X線116を、試料の表面に照射する(説明上、実際の照射角度より大きい角度で図示している)。1次X線116が照射された試料から、蛍光X線600,602及び散乱線604,606が出射される(
図6参照)。
【0033】
検出器106は、例えば、リチウムドリフト型シリコン検出器等の半導体検出器の検出器106である。検出器106は、蛍光X線600,602及び散乱線604,606の強度を測定し、測定した蛍光X線600,602及び散乱線604,606のエネルギーに応じた波高値を有するパルス信号を出力する。
【0034】
計数器108は、検出器106の測定強度として出力されるパルス信号を、波高値に応じて計数する。具体的には、例えば、計数器108は、マルチチャンネルアナライザであって、検出器106の出力パルス信号を、蛍光X線600,602及び散乱線604,606のエネルギーに対応した各チャンネル毎に計数し、蛍光X線600,602及び散乱線604,606の強度として出力する。
【0035】
分析部110は、計数器108の計数結果から、試料に含まれる元素を定量分析する。具体的には、例えば、分析部110は、計算部と算出部とを含んで構成され、計数器108の計数結果を用いて検量線の作成及び検量線法による定量分析を行う。計算部は、ピーク強度と散乱線強度との比率を計算する。算出部は、当該比率を用いて試料に含まれる分析元素406(
図4参照)の濃度を算出する。
【0036】
制御部112は、試料台102、X線源104、検出器106、計数器108及び分析部110の動作を制御する。具体的には、制御部112及び分析部110は、蛍光X線分析装置100に含まれるコンピュータであって、プログラムが記憶された記憶部(図示なし)を有する。制御部112及び分析部110は、蛍光X線分析装置100の外部に設けられ、蛍光X線分析装置100と接続される同一のコンピュータであってもよい。
【0037】
なお、プログラムは、上記コンピュータを、試料のピーク強度と散乱線強度との比率を計算する計算手段、及び、比率を用いて試料に含まれる分析元素の濃度を算出する算出手段、としてを機能させるプログラムである。
【0038】
続いて、全反射蛍光X線分析及び斜入射蛍光X線分析を行う蛍光X線分析方法について説明する。
図2は、本発明に係る全反射蛍光X線分析法及び斜入射蛍光X線分析法を行うにあたって、前提となる検量線を作成するフローを示す図である。検量線の作成は、分析対象となる元素ごとに行われる。検量線は、一度作成されれば、記憶部等に記録される。検量線を作成する工程は、2回目以降の測定では省略される。
【0039】
まず、濃度が既知である分析元素406を含む複数の粒402が基板302上の少なくとも一部の領域に分散された標準試料114を準備する。具体的には、例えば、標準試料114は、窒化ケイ素(Si
3N
4)を主成分404とし、カルシウム(Ca)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)及び鉄(Fe)等の分析元素406が含まれた粒状の試料である。標準試料114に含まれる粒402の大きさは均一であり、各粒402は、分析元素406(Ca、Cr、Mn及びFe)を均等に含むことが望ましい。なお、主成分404はSi
3N
4でなくてもよい。
【0040】
以降では、標準試料114が試料A乃至Cである場合について説明する。試料A乃至Cは、いずれも、Si
3N
4を主成分404とした粒状の試料であって、当該粒402に分析元素406(Ca、Cr、Mn及びFe)が均等に含まれた試料である。分析元素406(Ca、Cr、Mn及びFe)の濃度は、試料Aが最も小さく、試料Cが最も大きい。また、試料A乃至Cにおける分析元素406(Ca、Cr、Mn及びFe)の濃度は、いずれも既知である。
【0041】
なお、後述の分析精度について説明するため、以下の説明では、標準試料114は、内標準試料を含むものとして説明する。具体的には、標準試料114は、上記粒状の試料に対して、内標準元素(例えばガリウム(Ga))410が混合されているとして説明する。また、内標準試料には、内標準元素410として例えばGaが含まれているものとする。さらに、標準試料114には、高分子有機化合物溶液と混合された状態で濃度が100ppmとなる質量の内標準試料が混合されているものとする。実際の検量線を作成する工程では、粒402に含まれる分析元素の濃度が既知であれば十分であるため、標準試料114に内標準試料は含まれなくてもよい。
【0042】
次に、標準試料114と高分子有機化合物溶液とを混合した標準試料混合液300を作製する(S202)。高分子有機化合物溶液は、高分子有機化合物を溶媒に溶解した溶液である。具体的には、例えば、高分子有機化合物は、高分子有機化合物樹脂類やセルロース類であり、高分子化合物樹脂類としてはポリエステル類、ポリスチレン類、ポリビニルアルコール類、アクリロニトリル系等の樹脂類である。高分子化合物有機化合物を溶解する溶媒はアセトン、クロロホルム、トルエン、シクロヘキサノン、エーテル類、アルコール類等の有機溶媒である。溶液の濃度は0.01〜10%、好ましくは0.1〜1%である。具体的には、例えば、高分子有機化合物溶液は、トルエンにポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA:Polymethyl methacrylate)を0.1%の濃度で溶解した溶液である。当該高分子有機化合物溶液1mLに、10mgの標準試料114が混合される。なお、標準試料114は、高分子有機化合物溶液に溶解されない試料である。そのため、混合された後、標準試料混合液300は、均質な溶液となるように撹拌されることが望ましい。
【0043】
次に、標準試料混合液300を基板302に滴下し(S204)、スピンコート法により塗布する(S206)。滴下する溶液の量は30μL以上であればよく、好ましくは50〜300μLである。スピンコータ304の回転速度は100〜5000回転であり、好ましくは500〜2500回転である。具体的には、例えば
図3に示すように、スピンコータ304に設置した30mmの径を有する石英基板に、100μLの標準試料混合液300を滴下する。そして、スピンコータ304を1000rpmで回転させることにより、標準試料114が、均一に塗布される。なお、標準試料114が均一に塗布されるのであれば、塗布する方法は、スピンコート法でなくてもよい。
【0044】
次に、標準試料混合液300を乾燥させる(S208)。例えば、基板302を常温常圧下で数十分保管することで、標準試料混合液300に含まれるトルエンを蒸発させる。基板302を加熱することで標準試料混合液300を短時間で乾燥させてもよい。
【0045】
図4は、乾燥後の標準試料114の断面を示す図である。
図4に示すように、標準試料混合液300を乾燥することで、標準試料114に含まれる粒402は、高分子有機化合物408(PMMA)の膜に固定される(説明上、基板上のPMMAを厚く図示し、粒の表面に残るPMMAは図示していない)。また、各粒402は、主成分404であるSi
3N
4に、分析元素406(Ca、Cr、Mn及びFe)が含まれた構成となっている。上述の内標準元素410であるGaは、高分子有機化合物408の膜に含まれる。
【0046】
ここで、全反射蛍光X線分析法及び斜入射蛍光X線分析法では、1次X線116は、試料に対して低入射角で照射される。一般に全反射臨界角で試料に入射した1次X線116は、理論的に試料の深さ方向に対して数nm〜数十nm侵入する。試料表面の表面粗さが大きい場合、1次X線116の散乱が大きくなるため、粒径は小さい方が望ましい。また高分子有機化合物の膜厚は、薄い方が望ましい。
【0047】
具体的には、試料の粒径は、100μm以下、特に数μm以下であることが望ましい。また、高分子有機化合物408の膜厚は、1000nm以下,望ましくは100nm以下であることが望ましい。高分子有機膜の膜厚の面内ばらつきは、±100nm以下、特に±10nm以下であることが望ましい。
【0048】
図5(a)乃至(c)は、乾燥後の標準試料114の表面を走査型電子顕微鏡観察した図である。
図5(a)乃至(c)は、それぞれ試料A、B及びCを走査型電子顕微鏡観察した像である。
図5(a)乃至(c)に示すように、各試料における粒径は、いずれも5μm以下である。また、表面分析装置を用いて測定した標準試料114の膜厚は30nm±5nmであった。
【0049】
次に、標準試料114に対して、所定の入射角度より小さい角度(全反射蛍光X線分析法では0°乃至0.1°、斜入射蛍光X線分析法では0°乃至2°)で1次X線116を照射し、分析元素406から出射される標準試料114の蛍光X線600,602のピーク強度と、1次X線が標準試料114により散乱された散乱線604,606の強度である標準試料114の散乱線強度と、を測定する。さらに、既知の濃度と、標準試料114のピーク強度と標準試料114の散乱線強度の比率と、の関係を示す検量線を作成する(S210)。
【0050】
なお、蛍光X線600は、分析元素406から出射される蛍光X線である。蛍光X線602は、内標準元素410から出射される蛍光X線である。散乱線604は、1次X線116が基板表面の高分子有機化合物膜等で散乱された散乱線である。散乱線606は、粒402に起因する散乱線である。具体的には、蛍光X線分析装置100の試料台102に乾燥後の標準試料114を設置する。
図6に示すように、蛍光X線分析装置100は、標準試料114に1次X線116を照射する。蛍光X線分析装置100は、出射された蛍光X線600,602のピーク強度及び散乱線604,606の散乱線強度を測定する。そして、既知の濃度と、ピーク強度と散乱線強度の比率と、の関係を示す検量線を作成する。
【0051】
具体的には、
図7A乃至
図9を用いて説明する。
図7Aは、試料A乃至C及び比較試料から出射された蛍光X線600,602のピーク強度及び散乱線604,606の散乱線強度の測定結果を示す図である。縦軸はX線の強度であり、横軸はエネルギーの大きさである。
図7Bは、
図7Aを拡大した図である。比較試料は、高分子有機化合物溶液と内標準試料の混合液を石英基板に滴下し、スピンコート法により分散、塗布した後で自然乾燥した試料である。すなわち、比較試料は、標準試料114から粒402が除かれた試料であって、高分子有機化合物408の薄膜である。なお、比較試料における分析元素406(Ca、Cr、Mn及びFe)の小さいピークは、高分子有機化合物408に含まれる不純物による。
【0052】
図7A及び
図7Bに示すように、試料A乃至C及び比較試料の測定結果には、各試料に含まれるGaに固有の蛍光X線のエネルギー位置にピーク702が観測されている。また、試料A乃至Cの測定結果には、試料A乃至Cに含まれる分析元素406(Ca、Cr、Mn及びFe)に固有の蛍光X線エネルギー位置にピーク704が観測されている。さらに、試料A、試料B及び試料Cの順に分析元素406(Ca、Cr、Mn及びFe)に対応する各ピーク強度が大きくなっている。
【0053】
図8(a)及び
図8(b)は、
図7A及び
図7Bに示す実験結果から、それぞれMn及びFeの検量線を、従来法である内標準添加法により評価した結果である。試料A、B及びCに2種の試料を追加し、各2試料づつ作製し、試料作製による誤差を低減した。図中の点線は、測定結果に対する近似直線である。具体的には、分析元素406(Mn及びFe)の濃度は、内標準元素410であるGaに対応するピーク702の強度と、分析元素406(Mn及びFe)に対応するピーク強度704と、の比率に基づいて算出される。
【0054】
図8(a)及び
図8(b)の横軸は、各標準試料114に含まれる既知の濃度である。
図8(a)及び
図8(b)の縦軸は、実験結果から算出した分析元素406(Mn及びFe)と内標準元素410(Ga)の強度比である。従って、各試料の算出結果が近似直線上に並んでいることが理想である。
【0055】
しかしながら、内標準添加法による結果は、理想的な結果となっていない。具体的には、
図8(a)及び
図8(b)の図中に示す式は、それぞれ近似直線を表す式であって、Rの2乗は、当該近似直線のいわゆる決定係数である。決定係数は、各試料の算出結果と近似式の一致度の高さを表す指標であり、一致度は、決定係数が1.0に近いほどが高い。分析元素406(Mn)の測定結果に対する決定係数は、0.956であり、分析元素406(Fe)の測定結果に対する決定係数は0.976である。
【0056】
一方、
図9(a)及び
図9(b)は、
図7A及び
図7Bに示す実験結果から、それぞれ分析元素406(Mn及びFe)の検量線を散乱線内標準法により評価した結果である。図中の点線は、測定結果に対する近似直線である。当該近似直線は、後述するように、未知の試料を分析する際の検量線として用いられる。具体的には、分析元素406(Mn及びFe)の濃度は、蛍光X線600のピーク強度と、散乱線強度と、の比率に基づいて算出される。
【0057】
1次X線116の散乱線強度は、例えば、分析元素406の蛍光X線600のエネルギー位置におけるバックグラウンド強度である。具体的には、
図7Bを更に拡大した
図7Cに示す試料Cの分析元素406(Mn)に対応するピーク強度は、当該ピーク704のグロス強度から当該ピークのエネルギー位置におけるバックグラウンド強度を差し引いたネット強度である。例えば、一般にエネルギー分散型蛍光X線分析装置で用いられているスペクトル解析アルゴリズム等を用い、各ピーク及びバックグラウンドを波形分離して、それぞれの強度を算出する。分析元素406(Mn及びFe)に起因する蛍光X線600のピーク強度と散乱線強度との比率は、当該ネット強度とバックグラウンド強度との比率である。
【0058】
なお、散乱線強度は、1次X線の特性X線が分析試料によりコンプトン散乱またはトムソン散乱された散乱線強度であってもよい。具体的には、例えば、1次X線116には、X線管104のターゲット材(Mo)による特性X線が含まれる。
図7Aの16乃至18keV付近に、当該特性X線が分析試料400によりコンプトン散乱及びトムソン散乱されたピークが観測される。蛍光X線600のピーク強度と散乱線強度との比率は、蛍光X線600のピークのネット強度とコンプトン散乱またはトムソン散乱を波形分離して得られるピーク強度との比率であってもよい。また、散乱線強度は、コンプトン散乱及びトムソン散乱のピークを合わせたグロス強度であってもよい。
【0059】
図9(a)及び
図9(b)の横軸は、各標準試料114に含まれる既知の濃度である。
図9(a)及び
図9(b)の縦軸は、実験結果からピーク強度と散乱線強度との比率を算出した値である。各試料の算出結果は、近似直線上に並ぶことが理想である。
図9(a)及び
図9(b)に示す分析元素406(Mn)の測定結果に対する決定係数は、0.996であり、分析元素406(Fe)の測定結果に対する決定係数は0.998である。
【0060】
以上のように、散乱線内標準法により算出した各決定係数は、いずれも内標準添加法によって算出した決定係数よりも1に近い。当該事実は、散乱線内標準法は、内標準添加法よりも分析精度が高いことを表している。
【0061】
図6に示すように、分析元素406は、例えば、周囲を窒化ケイ素(Si
3N
4)及び他の分析元素406に囲まれた環境下で存在している。そのため、分析元素406から出射した蛍光X線600は、窒化ケイ素(Si
3N
4)の粒402による散乱線606と同じマトリクス効果を受ける。一方、内標準元素410(Ga)は、高分子有機化合物408に囲まれた環境下で存在している。従って、内標準元素410から出射した蛍光X線602と分析試料400から出射した蛍光X線600に含まれるマトリクス効果の影響が異なる。これらのことから、発明者らは、内標準添加法よりも散乱線内標準法が、マトリクス効果の影響を良く補正し、高い分析精度が得られたと考えた。また、発明者らは、散乱線内標準法は、マトリクス効果の影響だけでなく、図に示したような試料の形状(粒径や分散)に関する影響も補正できると考えた。
【0062】
以上のように、発明者らは、全反射蛍光X線分析や斜入射蛍光X線分析において、散乱線内標準法が有効な補正方法であることを発見、実証した。
【0063】
続いて、
図2に示す方法で作成した検量線を用いて、未知の試料(分析試料400)を全反射蛍光X線分析方法または斜入射蛍光X線分析方法により分析する方法について説明する。
図10は、分析試料400を、分析する工程を示すフロー図である。
【0064】
濃度が未知である分析元素406を含む複数の粒402が基板302上の少なくとも一部の領域に分散された分析試料400を作製する(S1002乃至S1010)。具体的には、まず、分析対象となる試料を粉砕する(S1002)。
【0065】
次に、分析元素406が含まれる複数の粒402を、液体状の高分子有機化合物408と混合し分析試料混合液を作製する。具体的には、粉砕した分析試料400を、S202工程と同様の高分子有機化合物溶液と混合する(S1004)。次に、S204及びS206工程と同様に、分析試料混合液を基板302に滴下し、スピンコート法により分散、塗布する。さらに、S208工程と同様に分析試料混合液を乾燥し、複数の粒402が高分子有機化合物408の膜に固定された分析試料400を作製する。
【0066】
次に、乾燥した分析試料400に1次X線116を照射し、分析元素406を分析する(S1012)。具体的には、蛍光X線分析装置100は、分析試料400に対して所定の入射角度より小さい角度で1次X線116を照射する。蛍光X線分析装置100は、分析元素406から出射される分析試料400の蛍光X線600のピーク強度と、1次X線が分析試料400により散乱された散乱線の強度である分析試料400の散乱線強度と、を測定する。分析部110は、検量線と、分析試料400のピーク強度と分析試料400の散乱線強度の比率と、に基づいて、未知の濃度を算出する。具体的には、分析部110は、
図9(a)または(b)に示す検量線に基づいて、計算した比率と対応する濃度を求める。
【0067】
以上のように、発明者らは、全反射蛍光X線分析法または斜入射蛍光X線分析法において、内標準添加法を用いたマトリクス効果による影響の補正は適しておらず、散乱線内標準法が適していることを発見し、実験により検証した。
【0068】
本発明により、分析試料400を酸により溶解することなく、簡単な作業で、10分程度の時間で分析試料400を分析することができる。また、分析に要する分析試料400の必要な質量は10mg程度と少ない。さらに、本発明による分析の定量下限は、サブppm乃至〜数ppmであって、非常に高精度である。
【0069】
本発明は、上記の実施例または変形例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上記構成や方法は一例であって、これに限定されるものではない。上記の実施例で示した構成と実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成する構成で置き換えてもよい。
【0070】
例えば、上記例においては、標準試料114及び未知の試料はいずれも固体状の試料である場合について説明した。標準試料114及び未知の試料は、いずれも液体状であっても構わない。この場合、分析試料400は、単に標準試料114または未知の試料を基板上に塗布し、乾燥することにより作製される。これにより、粒が基板上に分散された試料となる。
【符号の説明】
【0071】
100 蛍光X線分析装置、102 試料台、104 X線源、106 検出器、108 計数器、110 分析部、112 制御部、114 標準試料、116 1次X線、300 標準試料混合液、302 基板、304 スピンコータ、400 分析試料、402 粒、404 主成分、406 分析元素、408 高分子有機化合物、410 内標準元素、600 分析元素から出射した蛍光X線、602 内標準元素から出射した蛍光X線、604 基板表面の高分子有機化合物膜等に起因する散乱線、606 粒に起因する散乱線、702 内標準元素に対応するピーク、704 分析元素に対応するピーク。