【文献】
島田駿弥,CO2およびH2Oを媒質とした超音速排気ジェットのふく射2色温度測定,第58回宇宙科学技術連合講演会講演集,2014年11月12日,pp.1-5(2J05)
【文献】
山下巌 ほか,水素−酸素燃焼により生成される高温水蒸気流の応用と分光学的温度計測法に関する研究,東京電機大学 総合研究所年報,東京電機大学総合研究所,1997年05月31日,Vol.16,pp.87-94
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1波長帯域における光強度と、第2波長帯域における光強度とは、いずれも、通過帯域における帯域ごとの光強度を取得するバンドパスフィルタを用いて取得されている
請求項1〜9のいずれか1項に記載の温度測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記問題を解決するため、本発明者らが種々研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
・燃焼や反応生成ガスに含まれる水蒸気は、他の主要な化学種と比較して、近赤外域において強い発光強度を持つ。すなわち、水蒸気からの発光は、他の主要な化学種の発光に対して、波長帯域におけるオーバーラップがほとんど無い。
・したがって、水蒸気の温度と、水蒸気から放射される近赤外光の強度との関係を用いて、水蒸気温度を精度よく測定することができる。
【0008】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものであり、本発明の主な目的は、気体の温度、特に水蒸気を含む気体の温度を非接触で精度よく測定することが可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決する手段は、以下の項目のように記載できる。
【0010】
(項目1)
分光部と、温度算出部とを備えており、前記分光部は、測定対象である気体に含まれる水蒸気からの放射光から、少なくとも第1波長帯域における光強度と、第2波長帯域における光強度とを取得する構成となっており、前記第1波長帯域と前記第2波長帯域とは、いずれも近赤外領域の帯域とされており、かつ、前記第1波長帯域の中心波長と前記第2波長帯域の中心波長とは、互いに異なった値とされており、前記温度算出部は、前記第1波長帯域での光強度と、前記第2波長帯域での光強度との比を用いて、前記水蒸気の温度を算出する構成となっていることを特徴とする温度測定装置。
【0011】
(項目2)
前記近赤外領域の帯域とは、約700nm〜2500nmの波長の帯域である項目1に記載の温度測定装置。
【0012】
(項目3)
前記第1波長帯域の中心波長は、約810〜890nmの範囲内であり、前記第2波長帯域の中心波長は、約900〜950nmの範囲内である項目1又は2に記載の温度測定装置。
【0013】
(項目4)
前記第1波長帯域と前記第2波長帯域とは、互いに重ならない帯域に設定されている項目1〜3のいずれか1項に記載の温度測定装置。
【0014】
(項目5)
前記分光部は、前記第1波長帯域における光強度と前記第2波長帯域における光強度とを、前記水蒸気からの放射光の二次元画像として取得する光強度取得部を備えている項目1〜4のいずれか1項に記載の温度測定装置。
【0015】
(項目6)
前記分光部は、光学系を備えており、前記光学系は、前記測定対象中の一点における前記放射光を前記分光部に伝送する構成となっている項目1〜4のいずれか1項に記載の温度測定装置。
【0016】
(項目7)
前記分光部は、前記第1波長帯域での光強度と、前記第2波長帯域での光強度とを取得するための光強度取得部をさらに備えている項目6に記載の温度測定装置。
【0017】
(項目8)
前記光強度取得部は、前記第1波長帯域での光強度を取得するための第1検出部と、前記第2波長帯域での光強度を取得するための第2検出部とを備えている項目7に記載の温度測定装置。
【0018】
(項目9)
前記温度算出部は、前記第1波長帯域での光強度と前記第2波長帯域での光強度との比と、水蒸気温度との関係を示す較正曲線を用いて、前記水蒸気の温度を算出する構成となっている項目1〜8のいずれか1項に記載の温度測定装置。
【0019】
(項目10)
分光部と、温度算出部とを備えており、前記分光部は、測定対象である気体からの放射光から、少なくとも第1波長帯域における光強度と、第2波長帯域における光強度とを取得する構成となっており、前記気体は、少なくとも近赤外領域において、環境中に通常存在する物質に比較して、加熱に伴う強い発光スペクトルを持っており、前記第1波長帯域と前記第2波長帯域とは、いずれも近赤外領域の帯域とされており、かつ、前記第1波長帯域の中心波長と前記第2波長帯域の中心波長とは、互いに異なった値とされており、前記温度算出部は、前記第1波長帯域での光強度と、前記第2波長帯域での光強度との比を用いて、前記気体の温度を算出する構成となっていることを特徴とする気体温度測定装置。
【0020】
(項目11)
測定対象である気体に含まれる水蒸気からの放射光を用いて、第1波長帯域における光強度と、第2波長帯域における光強度との比を求めるステップと、前記比を用いて、前記水蒸気の温度を算出するステップとを備えており、ここで、前記第1波長帯域と前記第2波長帯域とは、いずれも近赤外領域の帯域とされており、かつ、前記第1波長帯域の中心波長と前記第2波長帯域の中心波長とは、互いに異なった値とされている温度測定方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、気体温度を非接触で精度よく測定することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の第1実施形態に係る温度測定装置(以下単に「測定装置」と略称することがある)を、添付の図面を参照しながら説明する。
【0024】
(第1実施形態の構成)
本実施形態の測定装置は、分光部10と、温度算出部20とを備えている(
図1参照)。さらに、この測定装置は、光学系30を追加的要素として備えている。この測定装置は、水蒸気発生部40で発生する水蒸気の温度を測定するためのものである。
【0025】
(分光部)
分光部10は、測定対象である水蒸気からの放射光から、少なくとも第1波長帯域における光強度と、第2波長帯域における光強度とを取得する構成となっている。
【0026】
本実施形態の分光部10は、いわゆる分光器によって構成されている。本実施形態の分光部10は、取得した光の強度を必要な帯域ごとに取得して、帯域ごとの光強度データを温度算出部20に送ることができるようになっている。
【0027】
ここで、本実施形態において用いる第1波長帯域と第2波長帯域とは、いずれも近赤外領域の帯域とされている。第1波長帯域の中心波長と第2波長帯域の中心波長とは、互いに異なった値とされている。
【0028】
また、本実施形態において、近赤外領域の帯域とは、約700nm〜2500nmの波長の帯域であり、より好ましくは、約700nm〜1100nmの波長の帯域である。
【0029】
本実施形態における第1波長帯域の中心波長は、約810〜890nmの範囲内であり、第2波長帯域の中心波長は、約900〜950nmの範囲内となっている。
【0030】
また、本実施形態において、第1波長帯域と第2波長帯域とは、互いに重ならない帯域となっている。
【0031】
分光部10の詳しい動作については後述する。
【0032】
(光学系)
光学系30は、測定対象中の一点における放射光を分光部10に伝送する構成となっている。より具体的には、本実施形態の光学系30は、一組のレンズ31と、光ファイバ32とを備えている。
【0033】
レンズ31は、水蒸気発生部40で発生する炎50の一点からの光を光ファイバ32の受光部321に送るように構成されている。また、レンズ31の被写界深度は、比較的に狭い値に設定されており、これによって、炎50の奥行き方向における特定の位置の温度を測定できるようになっている。
【0034】
光ファイバ32は、レンズ31から送られた光束を、分光部10に伝送する構成となっている。ここで、本実施形態の光ファイバ32としては、第1波長帯域及び第2波長帯域において優れた伝送特性を有するものを用いることが好ましい。
【0035】
(温度算出部)
温度算出部20は、第1波長帯域での光強度と、第2波長帯域での光強度との比を用いて、水蒸気の温度を算出する構成となっている。温度算出部20は、これらの光強度データを、分光部10から取得することができる。本例の温度算出部20は、例えば、パーソナルコンピュータと必要なコンピュータプログラムとの組み合わせによって構成することができる。
【0036】
より具体的には、温度算出部20は、第1波長帯域での光強度と第2波長帯域での光強度との比と、水蒸気温度との関係を示す較正曲線を用いて、水蒸気の温度を算出する構成となっている。
図2は、光強度比と温度との関係を示す較正曲線の一例である。図示例の較正曲線は、例えば下記の一次関数で表すことができる。
【0038】
ここで、
y:温度(K)
x:光強度比
A,B:係数
である。
【0039】
図示例では、
A=2154
B=1143
である。
【0040】
なお、較正曲線を一次式で表すことは単なる一例であり、これに制約されるわけではない。温度算出部20の詳しい動作についても後述する。
【0041】
(水蒸気発生部)
水蒸気発生部40は、バーナ41を備えている。バーナ41は、このバーナ41に送り込まれたH
2ガス42、N
2ガス43及び空気44の混合ガスを燃焼させることにより、炎50を発生させるものである。本例で用いる原料ガスには水素が含まれているので、炎50は、一般に、加熱された水蒸気を含んでいる。なお、N
2ガスは、ここでは、燃焼温度の制御のために用いられている。また、水蒸気発生部40は、ガス流路を開閉するためのバルブ45、ガスの逆流を防ぐための逆止弁46、流量を測定するためのフローメータ47、ガス流量を調整するための調整弁48を備えている。
【0042】
(水蒸気温度の測定方法)
前記した第1実施形態の測定装置を用いて水蒸気の温度(すなわち気体の温度)を求める手順を、
図3をさらに参照しながら説明する。
【0043】
(
図1のSA−1)
まず、水蒸気発生部40を動作させて、炎50を発生させる。
【0044】
一方、光学系30のレンズ31の焦点を炎50の一点(例えばその表面上の一点)に合わせる。これにより、炎50の一箇所からの発光を、レンズ31を介して、光ファイバ32に送ることができる。ここで、本例の炎50は、水蒸気を含むので、炎50からの発光は、水蒸気からの発光(放射光)を含んでいる。
【0045】
光ファイバ32は、炎50からの発光を、分光部10に送る。分光部10では、第1波長帯域における光強度と、第2波長帯域における光強度とを、分光によって取得する。この工程は、通常の分光器と同様に実施できるので、詳細についての説明は省略する。得られたそれぞれの光強度のデータは、温度算出部20に送られる。
【0046】
ここで、すでに説明したように、第1波長帯域と前記第2波長帯域とは、いずれも近赤外領域の帯域とされており、かつ、第1波長帯域の中心波長と第2波長帯域の中心波長とは、互いに異なった値とされている。
【0047】
(
図3のステップSA−2)
ついで、温度算出部20は、第1波長帯域における光強度と、第2波長帯域における光強度との比を求める。なお、ここで、第1波長帯域の光の透過率と、第2波長帯域の光の透過率とに相違がある場合には、その相違を補償する補正係数を導入することもできる。比をR、第1波長帯域における光強度(輝度値)をI
1、第2波長帯域における光強度をI
2とすると、例えば下記式により比を求めることができる。
【0048】
R=K・I
1/I
2
ここでKは補正係数である。
【0049】
(
図3のステップSA−3)
ついで、温度算出部20は、前記した比を用いて、水蒸気の温度を算出する。ここで、温度算出部20は、前記した通り、
図2に示す較正曲線を用いる。
【0050】
これにより、本実施形態において、水蒸気の温度を非接触で測定することができる。接触型センサである熱電対を用いた場合には、熱電対の接触により系が乱れるという問題があった。これに対して、本実施形態では、非接触型なので、系を乱すことがなく、この点で測定精度を向上させることができるという利点がある。
【0051】
また,熱電対で高温水蒸気を測定する場合は、接触型であるために熱電対が系を乱すことに加え、気体温度自体ではなく熱電対の温度が測定されるという問題もある。しかも、熱電対自体の耐熱温度などの条件が制約となって、測定温度に上限があった。これに対して、本実施形態では、非接触で取得した放射光に基づいて温度を測定するので、原理的には、水蒸気と熱平衡にある気体温度自体を測定可能であり、しかも、温度上限の制約はないという利点がある。
【0052】
さらに、紫外光や赤外光を用いて温度測定を行う場合には、紫外光や赤外光を透過させ、かつ検出するための特別な装置が必要となり、装置コスト及び運用コストが大きくなるという問題がある。これに対して、本実施形態では、近赤外光を用いて温度測定が可能である。このため、用いる光学系や分光器や光検出器としては、可視光用のもの、あるいはそれに近い性能のものを用いることができ、装置コストや運用コストを低く抑えることが可能である。つまり、本実施形態によれば、安価なシステムを用いて精度のよい温度測定を行うことができる。
【0053】
また、近赤外光の帯域では、水蒸気以外の物質による放射が少ない。このため、近赤外光を用いることにより、検出される光強度のS/N比を向上させることができ、この点でも、水蒸気温度の測定精度を向上させることができる。
【0054】
さらに、黒体輻射を用いた二色法による高温測定の場合は、粒子のような固形物が必要であった。これに対して本実施形態では、固形物を必要としないので、利用環境への制約が少ないという利点もある。
【0055】
また、波長が1100nm以下の近赤外領域では、一般的な可視光用センサを用いて光強度を取得できるという利点もある。
【0056】
(第2実施形態)
つぎに、本発明の第2実施形態に係る温度測定装置を、
図4を参照しながら説明する。なお、第2実施形態の説明においては、前記した第1実施形態と基本的に共通する要素においては、同一符号を用いることにより、説明の煩雑を避ける。
【0057】
第2実施形態では、第1実施形態の分光部10に代えて、分光部210を用いている。この分光部210は、フィルタ部211と、光強度取得部212とを備えている。
【0058】
フィルタ部211は、第1フィルタ2111と、第2フィルタ2112とを備えている。第1フィルタ2111は、炎50からの放射光のうち、第1波長帯域における光を取り出すことができるようになっており、より具体的には、バンドパスフィルタにより構成されている。同様に、第2フィルタ2112は、炎50からの放射光のうち、第2波長帯域における光を取り出すことができるようになっており、より具体的には、バンドパスフィルタにより構成されている。
【0059】
第1フィルタ2111及び第2フィルタ2112と炎50との間には、それぞれ、レンズ31が配置されている。ただし、このような配置は単なる一例であり、必要な帯域での光強度を取得できる構成であれば、種々のものを採用できる。
【0060】
第2実施形態の光強度取得部212は、第1検出部2121と、第2検出部2122とを備えている。第1検出部2121は、第1フィルタ2111を通過した、第1波長帯域における光の強度を検出するようになっている。同様に、第2検出部2122は、第2フィルタ2112を通過した、第2波長帯域における光の強度を検出するようになっている。これらの検出部としては、例えばフォトダイオードを用いることができる。ただし、必要な光強度を検出することができれば、他の構成を用いることもできる。光強度取得部212で取得された光強度の情報は、第1実施形態の場合と同様に、帯域ごとに温度算出部20に送られる。
【0061】
また、
図4の例では、光ファイバ32に代えて、イメージダブラー33を介して、光を光強度取得部212に送っている。
【0062】
第2実施形態における他の構成及び利点は、第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0063】
(第3実施形態)
つぎに、本発明の第3実施形態に係る温度測定装置を、
図5を参照しながら説明する。なお、第3実施形態の説明においては、前記した第1実施形態と基本的に共通する要素においては、同一符号を用いることにより、説明の煩雑を避ける。
【0064】
第3実施形態では、第1実施形態の分光部10に代えて、分光部310を用いている。この分光部310は、フィルタ部311と、光強度取得部312とを備えている。
【0065】
フィルタ部311は、第1フィルタ3111と、第2フィルタ3112とを備えている。第1フィルタ3111は、炎50からの放射光のうち、第1波長帯域における光を取り出すことができるようになっており、より具体的には、バンドパスフィルタにより構成されている。同様に、第2フィルタ3112は、炎50からの放射光のうち、第2波長帯域における光を取り出すことができるようになっており、より具体的には、バンドパスフィルタにより構成されている。
【0066】
ただし、第3実施形態では、第1フィルタ3111及び第2フィルタ3112と炎50との間には、レンズは配置されていない。
【0067】
第3実施形態の光強度取得部312は、第1波長帯域における光強度と第2波長帯域における光強度とを、水蒸気からの放射光の二次元画像として取得する構成となっている。光強度取得部312は、各画素における輝度情報を、光強度情報として、温度算出部20に送るようになっている。光強度取得部312としては、例えば近赤外領域の光で撮像可能なカメラを用いることができる。
【0068】
図5の例では、光ファイバ32に代えて、イメージダブラー33を介して、二つの波長帯域の光を隣接させて、一枚の画像として光強度取得部312に送っている。ただし、光学系としては、二つの波長帯域の光に対応するそれぞれの画像を生成できればよく、それ以上に特段の制約はない。
【0069】
第3実施形態では、二つの帯域に対応する二つの二次元画像(この例では、一枚の画像における異なる画像上位置での画像)における、実空間中での同一位置での輝度を、前記した輝度値I
1及びI
2として用いることができる。このため、本実施形態では、平面内の任意位置における温度測定を行うことができるという利点がある。あるいは、本実施形態では、二次元平面内での温度分布を求めることもできる。
【0070】
第3実施形態における他の構成及び利点は、第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0071】
(実施例1)
第1フィルタ及び第2フィルタとして、下記の構成のものを用いて、較正曲線を作成した。
【0072】
第1フィルタ
中心波長:850nm、半値幅:50nm
第2フィルタ
中心波長:925nm、半値幅:25nm
【0073】
火炎はH
2と空気の予混合ガスにより発生させた。火炎条件は以下の通りである。
H
2ガス:29stdL/min
空気:46stdL/min
当量比:1.6
燃焼温度:1962K(バーナの15mm下流での値)
【0074】
なお、較正曲線作成時の温度測定は、火炎中に配置されたSiCフィラメントの黒体輻射を用いた。
【0075】
第3実施形態の構成を用いて、温度測定を行った。結果は、すでに他の方法で実証されている温度分布にほぼ一致した。
【0076】
(実施例2)
実施例1に対して、火炎条件は以下の通りに変更した。
H
2ガス:5.0stdL/min
空気:34stdL/min
当量比:0.4
燃焼温度:1797K(バーナの15mm下流での値)
【0077】
他の条件は実施例1と同様にした。実施例2においても、測定結果は、すでに他の方法で実証されている温度分布にほぼ一致した。
【0078】
(第4実施形態)
つぎに、本発明の第4実施形態に係る温度測定装置を、
図6及び
図7を参照しながら説明する。なお、第4実施形態の説明においては、前記した第1実施形態及び第3実施形態と基本的に共通する要素においては、同一符号を用いることにより、説明の煩雑を避ける。
【0079】
第4実施形態では、第3実施形態のイメージダブラー33に代えて、イメージダブラー433を用いている(
図6参照)。イメージダブラー433は、炎50からの放射光を案内するためのミラー4331〜4338を備えている(
図7参照)。これらのミラーのうち、ミラー4331〜4334が、一方の(第1波長帯域の光のための)光路51を構成し、ミラー4335〜4338が、他方の(第2波長帯域の光のための)光路52を構成するようになっている。ここで、本実施形態では、両方の帯域に対応する光路の長さが実質的に等しくされている。ここで実質的にとは、実際に支障のない程度の差異あるいは誤差を許容する意味である。また、ミラーの構成はあくまで一例であり、要するに、測定に適する光路を構成できればよい。
【0080】
また、第4実施形態では、第3実施形態のフィルタ部311に代えて、フィルタ部(分光部の一例に対応)411が用いられている(
図7参照)。フィルタ部411は、第1フィルタ4111と第2フィルタ4112とを備えている。これらのフィルタは、イメージダブラー433の内部に配置されている。また、第1フィルタ4111は、第1波長帯域の光のための光路上に配置されており、第2フィルタ4112は、第2波長帯域の光のための光路上に配置されている。これらのフィルタの位置は、イメージダブラー433の内部である必要はなく、その前後の位置であってもよい。要するに、各フィルタは、対応する光路上に配置されていればよい。なお、この例では、第2フィルタ4112に隣接して、各フィルタの透過特性を整合させるためのNDフィルタ4113が配置されているが、このNDフィルタの設置を省略すること、あるいはその設置位置を変更することは可能である。
【0081】
第4実施形態の装置によれば、水蒸気(発光源)から光強度取得部312までの光路長を、第1波長帯域の光と第2波長帯域の光との間で等しくすることができる。光路長が両者で異なる場合は、外乱の影響や光の減衰量が、帯域間で異なる可能性があり、精度劣化の可能性がある。これに対して、第4実施形態では、光路の長さを等しくしたため、温度測定精度の向上を図ることができるという利点がある。
【0082】
第4実施形態における他の構成及び利点は、第3実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0083】
(第5実施形態)
つぎに、本発明の第5実施形態に係る温度測定装置を、
図8を参照しながら説明する。なお、第5実施形態の説明においては、前記した第1実施形態及び第3実施形態と基本的に共通する要素においては、同一符号を用いることにより、説明の煩雑を避ける。
【0084】
第5実施形態では、第3実施形態のイメージダブラー33を省略した。さらに、一つの光強度取得部312に代えて、二つの光強度取得部312a及び321bを用いた。この例では、第1フィルタ3111を通過する光路51は、光強度取得部312aに入射し、第2フィルタ3112を通過する光路52は、光強度取得部312bに入射するようになっている。すなわち、この実施形態では、各帯域に対応する画像をそれぞれ生成し、それぞれの画像から、前記した輝度値I
1及びI
2を取得して、温度測定を行うことができる。ここで、各画像における画像上座標と、実空間上の座標との対応関係は、キャリブレーションなどの適宜な方法により取得されており、画像上の任意の位置における温度を算出することにより、その画像に表れた実空間上の任意の位置における温度を測定することができる。
【0085】
第5実施形態の装置においても、水蒸気から光強度取得部312a及び312bまでの光路長を、第1波長帯域の光と第2波長帯域の光との間で等しくすることができるという利点がある。
【0086】
第5実施形態における他の構成及び利点は、第3実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0087】
なお、本発明の内容は、前記各実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、具体的な構成に対して種々の変更を加えうるものである。
【0088】
例えば、温度測定に用いる近赤外光の波長帯域としては、前記に限らず、他の帯域も利用可能である。
【0089】
また、前記では、燃焼系を前提として説明したが、燃焼に限らず、他の反応系に存在する水蒸気温度の測定も可能である。
【0090】
さらに、分光部としては、例えばプリズムのように、前記以外の他の適宜な分光手段を用いることができる。
【0091】
また、分光部における光強度の取得手段としては、一つのカメラで二つの帯域での光強度を取得する方法、それぞれのカメラで各帯域での光強度を取得する方法など、種々の構成を使用可能である。
【0092】
また、前記分光部は、光強度増幅部、例えばイメージ・インテンシファイアや、光電子増倍管を備えることができる。このようにすると、水蒸気からの放射光が微弱な場合、水蒸気濃度が低い場合、水蒸気が低温の場合、あるいは高速度での計測の場合でも、放射光を増幅して、必要な帯域での光強度を、高いS/N比で取得することができる。
【0093】
さらに、前記した各実施形態では、水蒸気の温度測定を対象として説明したが、水蒸気に代えて、近赤外領域における強い発光スペクトルを持つ気体を用いることができる。通常の環境中では、近赤外領域で強い発光スペクトルを有する物質は水蒸気のみなので、このような気体を用いることにより、水蒸気が希薄な環境下での温度測定が可能になる。
【0094】
また、前記した各構成要素、例えば温度算出部は、機能ブロックとして存在していればよく、独立したハードウエアとして存在しなくても良い。また、実装方法としては、ハードウエアを用いてもコンピュータソフトウエアを用いても良い。さらに、本発明における一つの機能要素が複数の機能要素の集合によって実現されても良く、本発明における複数の機能要素が一つの機能要素により実現されても良い。
【0095】
さらに、機能要素は、物理的に離間した位置に配置されていてもよい。この場合、機能要素どうしがネットワークにより接続されていても良い。グリッドコンピューティング又はクラウドコンピューティングにより機能を実現し、あるいは機能要素を構成することも可能である。