(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記遷移金属含有水酸化物は、BJH法によって求めた、細孔径に対する対数微分細孔比表面積の分布において、細孔径が10nm以上の対数微分細孔比表面積を合計した値が、300m2/g以上である、請求項1に記載の遷移金属含有水酸化物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「BJH法」は、吸着等温線から細孔径分布を求める方法の一つである、Barrett,JoynerおよびHalendaによるメソ細孔径分布の決定法である。吸着等温線の測定では、吸着ガスとして窒素ガスを用いる。また、遷移金属含有水酸化物の吸着等温線の測定では、実施例に記載の条件にて乾燥した水酸化物を用いる。
「対数微分細孔比表面積」は、測定ポイント間(細孔径区間)の細孔表面積Aの増加分である差分細孔表面積dAを、該区間における細孔径Dの上値と下値との常用対数の差分値dlog(D)で割った値dA/dlog(D)である。
「細孔径に対する対数微分細孔比表面積の分布」は、各測定ポイント間(細孔径区間)の対数微分細孔比表面積dA/dlog(D)を、各区間における細孔径Dの平均値に対してプロットした分布である。
「BJH法によって求めた、細孔径に対する対数微分細孔比表面積の分布」は、市販の比表面積/細孔分布測定装置を用いて吸着等温線を測定し、該吸着等温線から装置に付属の解析ソフトウェアを用いて算出する。
「BET比表面積」は、BET(Brunauer,Emmet,Teller)法によって吸着等温線から求めた比表面積である。吸着等温線の測定では、吸着ガスとして窒素ガスを用いる。また、遷移金属含有水酸化物の吸着等温線の測定では、実施例に記載の条件にて乾燥した水酸化物を用いる。
「D
50」は、体積基準で求めた粒度分布の全体積を100%とした累積体積分布曲線において50%となる点の粒子径、すなわち体積基準累積50%径である。
「粒度分布」は、レーザー散乱粒度分布測定装置(たとえば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置等)で測定した頻度分布および累積体積分布曲線から求められる。測定は、粉末を水媒体中に超音波処理等で充分に分散させて行われる。
「結晶子径」は、X線回折パターンにおける特定の(abc)面のピークについて、該ピークの回折角2θ(deg)および半値幅B(rad)から下記シェラーの式によって求める。
D
abc=(0.9λ)/(Bcosθ)
ただし、D
abcは、(abc)面の結晶子径であり、λは、X線の波長である。
「結晶子径分布」は、X線回折パターンにおける特定のピークについて、リガク社製の結晶子サイズ分布解析ソフトウェアCSDAを用いて解析して得られたものである。解析原理の説明は、リガク社製の結晶子サイズ分布解析ソフトウェアCSDAのユーザーズマニュアルに記載され、詳細については、該マニュアルに記載の下記参考文献に記載されている。
(1)井田 隆,2006年度名古屋工業大学セラミックス基盤工学研究センター年報,Vol.6,p.1(2006).
(2)T.Ida,S.Shimazaki,H.Hibino and H.Toraya,J.Appl.Cryst.,36,1107(2003).
(3)T.Ida and K.Kimura,J.Appl.Cryst.,32,982(1999).
(4)T.Ida and K.Kimura,J.Appl.Cryst.,32,634(1999).
(5)T.Ida,Rev.Sci.Instrum.,69,2268(1998).
(6)International Tables for Crystallography Volume C Second Edition,Edited by A.J.C.Wilson and E.Prince,Kluwer Academic
Publishers,Netherlands(1999).
(7)X−Rays in Theory Experiment Second Edition,A.H.Compton and S.K.Allison,D.Van.Norstrand Company,New York(1936).
「結晶子径分布の対数標準偏差」は、前記結晶子径分布(個数分布)からリガク社製の結晶子サイズ分布解析ソフトウェアCSDAによって求めた値である。
「水酸化物」は、水酸化物、および水酸化物が一部酸化しているオキシ水酸化物を含む。すなわち、Me(OH)
2と記載している化合物(ただし、MeはLi以外の金属元素である)は、Me(OH)
2、MeOOHおよびこれらの混合物を含む。
「Li」との表記は、特に言及しない限り当該金属単体ではなく、Li元素であることを示す。Ni、Co、Mn等の他の元素の表記も同様である。
遷移金属含有水酸化物およびリチウム含有複合酸化物の組成分析は、誘導結合プラズマ分析法(以下、ICPと記す。)によって行う。また、リチウム含有複合酸化物の元素の比率は、初回充電(活性化処理ともいう。)前のリチウム含有複合酸化物における値である。
【0012】
<遷移金属含有水酸化物>
本発明の遷移金属含有水酸化物(以下、本水酸化物とも記す。)は、リチウム含有複合酸化物の前駆体として好適に使用される。本水酸化物は、リチウムイオン二次電池の放電電圧および放電容量がさらに優れる点から、NiおよびMnを必須元素として含むことが好ましい。本水酸化物は、リチウムイオン二次電池のレート特性がさらに優れる点から、Coをさらに含んでもよい。本水酸化物は、必要に応じてLi、Ni、CoおよびMn以外の金属元素を含んでもよい。
【0013】
本水酸化物は、たとえば
図2に示すような、BJH法によって求めた、細孔径Dに対する対数微分細孔比表面積dA/dlog(D)の分布において、分布全体の対数微分細孔比表面積を合計した値(以下、{dA/dlog(D)}
totalとも記す。)100%のうちの、細孔径が10nm以上の対数微分細孔比表面積を合計した値(以下、{dA/dlog(D)}
D≧10nmとも記す。)の割合(以下、{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalとも記す。)が、23%以上である。前記割合は、24%以上が好ましく、25%以上がより好ましい。
【0014】
本水酸化物の{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalが23%以上であれば、これから得られたリチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いることによって、放電容量およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。さらに、{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalが24%以上または25%以上であれば、これから得られたリチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いることによって、放電容量およびサイクル特性がより優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
本水酸化物の{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalの上限は、特に限定されず、理想的には100%である。
【0015】
本水酸化物の{dA/dlog(D)}
D≧10nmは、リチウムイオン二次電池の初回の放電容量がさらに優れる点から、300m
2/g以上が好ましく、305m
2/g以上がより好ましく、315m
2/g以上がさらに好ましい。
本水酸化物の{dA/dlog(D)}
D≧10nmは、リチウムイオン二次電池のサイクル特性がさらに優れる点から、500m
2/g以下が好ましく、450m
2/g以下がより好ましく、400m
2/g以下がさらに好ましい。
【0016】
本水酸化物としては、下記(式1)で表される水酸化物が好ましい。
Ni
αCo
βMn
γM
δ(OH)
2 (式1)
ただし、MはLi、Ni、CoおよびMn以外の金属元素であり、αは0.15〜0.5であり、βは0〜0.2であり、γは0.3〜0.8であり、δは0〜0.1であり、α+β+γ+δ=1である。
【0017】
αは、本水酸化物に含まれるNiのモル比である。αが前記範囲内であれば、リチウムイオン二次電池の放電容量および放電電圧がさらに優れる。αは、0.2〜0.4がより好ましい。
βは、本水酸化物に含まれるCoのモル比である。βが前記範囲内であれば、リチウムイオン二次電池の放電容量および放電電圧がさらに優れる。βは、0〜0.09がより好ましい。
γは、本水酸化物に含まれるMnのモル比である。γを前記範囲内とし、かつ後述するLi/Me比を1.1以上とすることによって、リチウムリッチ系正極活物質が得られる。γは、リチウムイオン二次電池の放電容量と放電電圧にさらに優れる点から、0.45〜0.8がより好ましい。
【0018】
本水酸化物は、必要に応じて他の金属元素Mを含んでいてもよい。他の金属元素Mとしては、リチウムイオン二次電池の放電容量がさらに優れる点から、Na、Mg、Ti、Zr、Al、WおよびMoからなる群から選ばれる1種以上の元素が好ましく、充放電サイクルを繰り返すことによるリチウムイオン二次電池の放電電圧の低下を抑えやすい点から、Ti、ZrおよびAlからなる群から選ばれる1種以上がより好ましい。
δは、本水酸化物に含まれるMのモル比である。δは、0〜0.08がより好ましい。
【0019】
本水酸化物は、D
50が、3.5〜15.5μmであることが好ましい。前記D
50は、3.5〜14μmがより好ましい。水酸化物のD
50が前記範囲内であれば、リチウムイオン二次電池の放電容量がさらに優れる。
【0020】
本水酸化物は、BET比表面積が、10〜200m
2/gであることが好ましい。前記BET比表面積は、20〜100m
2/gがより好ましい。本水酸化物の比表面積が前記範囲の下限値以上であれば、リチウムイオン二次電池の放電容量がさらに優れる。本水酸化物の比表面積が前記範囲の上限値以下であれば、リチウムイオン二次電池のサイクル特性がさらに優れる。
【0021】
以上説明した本水酸化物にあっては、{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalが23%以上であるため、下記の理由から、これから得られたリチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いることによって、放電容量およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができると考えられる。
【0022】
リチウムイオン二次電池の放電容量を高くするためには、リチウム含有複合酸化物のBET比表面積を大きくすればよいことが知られている。
リチウムイオン二次電池のサイクル特性を高くするためには、リチウム含有複合酸化物の結晶構造の均質性を高くすればよい。ここで、リチウム含有複合酸化物の結晶構造の均質性を高くする方法として、本発明者らは、水酸化物とリチウム化合物との混合物を焼成する温度を高くすることを見出している。
しかし、リチウム含有複合酸化物を得る際に、前記混合物を焼成する温度を高くすると、リチウム含有複合酸化物のBET比表面積が小さくなるおそれがある。
【0023】
これに対して、本水酸化物は、{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalが23%以上である、すなわち比較的大きい細孔が比較的多く存在している。そのため、本水酸化物とリチウム化合物との混合物を高温で焼成しても、リチウム含有複合酸化物の二次粒子内により適切な細孔構造が形成されると考えられる。その結果、リチウム含有複合酸化物の結晶構造の均質性を高くしつつ、BET比表面積を大きくできるため、リチウムイオン二次電池の放電容量とサイクル特性を高くできる。
【0024】
<遷移金属含有水酸化物の製造方法>
本水酸化物は、たとえば、下記の方法(I)または方法(II)によって製造できる。本水酸化物の製造方法としては、{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalが高い本水酸化物を製造しやすい点から、方法(II)が好ましい。
【0025】
方法(I):
少なくともニッケル塩、マンガン塩、およびアルカリ金属水酸化物を水溶液状態にて混合し、水酸化物を析出させるアルカリ共沈法において、反応温度、反応時間、混合液のpH、錯化剤の量を調整する方法。
【0026】
方法(II):
少なくともニッケル塩、マンガン塩、およびアルカリ金属水酸化物を水溶液状態にて混合し、水酸化物を析出させるアルカリ共沈法において、反応温度、反応時間、混合液のpH、錯化剤の量を調整し、さらに、水溶性有機物(ただし、糖類を除く。)を水溶液状態にて同時に混合する方法。
【0027】
(方法(I))
方法(I)は、水酸化物の{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalを23%以上にするために、アルカリ共沈法における条件(反応温度、反応時間、混合液のpH、錯化剤の量)を調整する方法である。
アルカリ共沈法としては、金属塩水溶液と、アルカリ金属水酸化物を含むpH調整液とを連続的に反応槽に供給して混合し、混合液中のpHを一定に保ちながら、水酸化物を析出させる方法が好ましい。
【0028】
金属塩としては、各遷移金属元素の硝酸塩、酢酸塩、塩化物塩、硫酸塩が挙げられ、材料コストが比較的安価であり、優れた電池特性が得られる点から、硫酸塩が好ましい。
Niの硫酸塩としては、たとえば、硫酸ニッケル(II)・六水和物、硫酸ニッケル(II)・七水和物、硫酸ニッケル(II)アンモニウム・六水和物等が挙げられる。
Coの硫酸塩としては、たとえば、硫酸コバルト(II)・七水和物、硫酸コバルト(II)アンモニウム・六水和物等が挙げられる。
Mnの硫酸塩としては、たとえば、硫酸マンガン(II)・五水和物、硫酸マンガン(II)アンモニウム・六水和物等が挙げられる。
【0029】
金属塩水溶液におけるNi、Co、MnおよびMの比率は、水酸化物に含まれるNi、Co、MnおよびMの比率と同じにする。
金属塩水溶液中のNi、Co、MnおよびMの合計濃度は、0.1〜3mol/kgが好ましく、0.5〜2.5mol/kgがより好ましい。Ni、Co、MnおよびMの合計濃度が前記下限値以上であれば、生産性に優れる。Ni、Co、MnおよびMの合計濃度が前記上限値以下であれば、金属塩を水に充分に溶解できる。
【0030】
pH調整液としては、アルカリ金属水酸化物を含む水溶液が好ましい。
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムが好適に用いられる。
混合液のpHは、10〜12が好ましく、10.5〜11.5がより好ましい。混合液のpHが前記範囲の下限値以上であれば、水酸化物の{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalを23%以上にしやすい。混合液のpHが前記範囲の上限値以下であれば、水酸化物のD
50や比表面積を所望の範囲にできる。
金属塩水溶液とpH調整液との混合中は、共沈反応を適切に進める点から、反応槽内のpHを前記範囲内で設定したpHに保つことが好ましい。
【0031】
混合液には、Ni、Co、MnおよびMの各イオンの溶解度を調整するために、錯化剤を加えてもよい。錯化剤としては、アンモニア水溶液または硫酸アンモニウム水溶液が挙げられる。
Ni、Co、MnおよびMの合計モル量(Me)に対するアンモニアまたはアンモニウムイオンのモル量の比(NH
3/MeまたはNH
4+/Me)は、0.01〜0.3が好ましく、0.01〜0.1がより好ましい。NH
3/MeまたはNH
4+/Meが前記範囲の下限値以上であれば、水酸化物の{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalを23%以上にしやすい。NH
3/MeまたはNH
4+/Meが前記範囲の上限値以下であれば、水酸化物のD
50や比表面積を所望の範囲にできる。
【0032】
金属塩水溶液とpH調整液との混合中の混合液の温度(反応温度)は、20〜80℃が好ましく、25〜60℃がより好ましい。反応温度が前記範囲の下限値以上であれば、反応が充分に促進される。反応温度が前記範囲の上限値以下であれば、水酸化物の{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalを23%以上にしやすい。
【0033】
金属塩水溶液とpH調整液との混合時間(反応時間)は、1〜48時間が好ましく、3〜30時間がより好ましい。反応時間が前記範囲の下限値以上であれば、反応が充分に進行する。反応時間が前記範囲の上限値以下であれば、水酸化物の{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalを23%以上にしやすい。
【0034】
金属塩水溶液とpH調整液とは、
図1に示すように、反応槽10中にて、撹拌装置12に取り付けられた撹拌翼14よって撹拌しながら混合することが好ましい。
撹拌装置としては、スリーワンモータ等が挙げられる。撹拌翼としては、アンカー型、プロペラ型、パドル型等が挙げられる。
【0035】
金属塩水溶液とpH調整液との混合は、水酸化物の酸化を抑制する点から、窒素雰囲気下またはアルゴン雰囲気下等の不活性雰囲気化で行うことが好ましい。製造コストの点から、窒素雰囲気下で行うことが特に好ましい。
【0036】
水酸化物を析出させる方法としては、
図1に示すように、反応槽10内の混合液をろ材16(ろ布等)を用いて抜き出して水酸化物を濃縮しながら析出反応を行う方法(以下、濃縮法と記す。)と、反応槽内の混合液をろ材を用いずに水酸化物とともに抜き出して水酸化物の濃度を低く保ちながら析出反応を行う方法(以下、オーバーフロー法と記す。)の2種類が挙げられる。粒度分布の広がりを狭くできる点から、濃縮法が好ましい。
【0037】
得られた水酸化物は、洗浄して不純物イオンを取り除くことが好ましい。不純物イオンが残ると、焼成して得られた正極活物質の表面および結晶内に不純物が存在し、電池特性に悪影響を与えるおそれがある。
洗浄方法としては、加圧ろ過と蒸留水への分散とを繰り返し行う方法等が挙げられる。洗浄を行う場合、水酸化物を蒸留水へ分散させたときの上澄み液またはろ液の電気伝導度が50mS/m以下になるまで繰り返すことが好ましく、20mS/m以下になるまで繰り返すことがより好ましい。
【0038】
また、水酸化物の洗浄後には、必要に応じて水酸化物を乾燥させることが好ましい。
水酸化物の乾燥温度は、60〜200℃が好ましく、80〜130℃がより好ましい。乾燥温度が前記下限値以上であれば、乾燥時間を短縮できる。乾燥温度が前記上限値以下であれば、水酸化物の酸化の進行を抑えることができる。
乾燥時間は、水酸化物の量により適切に設定すればよく、1〜300時間が好ましく、5〜120時間がより好ましい。
【0039】
(方法(II))
方法(II)は、水酸化物の{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalを23%以上にするために、アルカリ共沈法において少なくともニッケル塩、マンガン塩、アルカリ金属水酸化物、および水溶性有機物(ただし、糖類を除く。)を水溶液状態にて混合する方法である。
アルカリ共沈法は、方法(I)と同様に行えばよく、好ましい条件も方法(I)と同様である。
【0040】
水溶性有機物としては、水酸化物の比表面積が大きくなり、細孔を形成しやすい点から、直鎖の化合物が好ましい。水溶性有機物としては、結晶成長を阻害しない点から、ノニオン性の化合物が好ましい。ノニオン性の水溶性有機物としては、アルコール、エーテル等が挙げられる。
【0041】
アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、グリセリン等が挙げられる。
水溶性有機物としては、揮発性が低い点から、ポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0042】
水酸化物の質量に対する水溶性有機物の質量の比(水溶性有機物/水酸化物)は、0.001〜0.08が好ましく、0.001〜0.05がより好ましい。水溶性有機物/Meが前記範囲の下限値以上であれば、水酸化物の{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalを充分に高くできる。水溶性有機物/Meが前記範囲の上限値以下であれば、均一な生成物を得ることができる。
【0043】
水溶性有機物は、金属塩水溶液およびpH調整液のいずれか一方または両方にあらかじめ溶解させてもよく;金属塩水溶液およびpH調整液とは別に水溶性有機物の水溶液を用意し、これを反応槽に供給してもよい。
【0044】
以上説明した方法(II)にあっては、少なくともニッケル塩、マンガン塩、アルカリ金属水酸化物、および水溶性有機物(ただし、糖類を除く。)を水溶液状態にて混合し、遷移金属含有水酸化物を析出させているため、一次粒子の間に水溶性有機物が存在することから、得られる水酸化物には、比較的大きい細孔が比較的多く存在するようになる。そのため、{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalが23%以上である本水酸化物、すなわち、これから得られたリチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いることによって、放電容量およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる本水酸化物を製造できる。
【0045】
<リチウム含有複合酸化物の製造方法>
本発明のリチウム含有複合酸化物の製造方法(以下、本製造方法と記す。)は、本水酸化物と、リチウム化合物とを混合し、混合物を900℃以上で焼成する工程を含む。
【0046】
リチウム化合物としては、炭酸リチウム、水酸化リチウムおよび硝酸リチウムからなる群から選ばれる1種が好ましい。製造工程での取扱いの容易性の点から、炭酸リチウムがより好ましい。
本水酸化物に含まれるNi、Co、MnおよびMの合計モル量(Me)に対するリチウム化合物に含まれるLiのモル量の比(Li/Me)は、1.1〜1.7が好ましく、1.2〜1.7がより好ましく、1.3〜1.7がさらに好ましい。Li/Me比は、リチウム含有複合酸化物の組成を決定する要素である。すなわち、目的とするリチウム含有複合酸化物の組成に応じて、Li/Me比は上記した範囲の中で適宜設定される。
【0047】
本水酸化物とリチウム化合物とを混合する方法としては、たとえば、ロッキングミキサ、ナウタミキサ、スパイラルミキサ、カッターミル、Vミキサ等を使用する方法等が挙げられる。
【0048】
混合物を焼成する温度(焼成温度)は、900℃以上であり、950℃以上が好ましく、980℃以上がより好ましい。焼成温度は、1100℃以下が好ましく、1050℃以下がより好ましい。焼成温度が前記範囲の下限値以上であれば、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができるリチウム含有複合酸化物を製造できる。焼成温度が前記範囲の上限値以下であれば、焼成過程においてLiの揮発を抑制でき、混合時のLi/Me比に近いリチウム含有複合酸化物が得られる。
焼成装置としては、電気炉、連続焼成炉、ロータリーキルン等が挙げられる。
【0049】
焼成時には、水酸化物を酸化する必要があることから、大気下で焼成を行うことが好ましく、空気を供給しながら行うことが特に好ましい。
空気の供給速度は、焼成装置の炉内容積1Lあたり、10〜200mL/分が好ましく、40〜150mL/分がより好ましい。焼成時に空気を供給することによって、水酸化物に含まれる金属元素が充分に酸化される。
焼成時間は、4〜40時間が好ましく、4〜20時間がより好ましい。
【0050】
焼成は、1段焼成であってもよく、900℃以上の本焼成を行う前に仮焼成を行う2段焼成であってもよい。Liがリチウム含有複合酸化物中に均一に拡散しやすい点から、2段焼成が好ましい。2段焼成を行う場合、本焼成の温度を上記した焼成温度の範囲で行う。そして、仮焼成の温度は、400〜700℃が好ましく、500〜650℃がより好ましい。
【0051】
以上説明した本製造方法にあっては、{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalが23%以上である本水酸化物と、リチウム化合物とを混合し、900以上で焼成しているため、放電容量およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができるリチウム含有複合酸化物を製造できる。
【0052】
<リチウム含有複合酸化物>
本製造方法で得られるリチウム含有複合酸化物(以下、本複合酸化物とも記す。)としては、空間群C2/mの層状岩塩型結晶構造を有するLi(Li
1/3Mn
2/3)O
2(リチウム過剰相)と空間群R−3mの層状岩塩型結晶構造を有するLiM'O
2(ただし、M'は、NiおよびMnを必須元素として含み、Coまたは他の金属元素Mを任意に含むものである。)との固溶体が好ましい。本複合酸化物がこれらの結晶構造を有することは、X線回折測定により確認できる。
典型的には、X線回折測定において、空間群C2/mの(020)面のピークが、2θ=20〜22degに見られる。また、X線回折測定において、空間群R−3mの(003)面のピークが、2θ=18〜20degに見られ、空間群R−3mの(110)面のピークが、2θ=64〜66degに見られる。
【0053】
本複合酸化物としては、下記(式2)で表される複合酸化物がより好ましい。
Li
xNi
αCo
βMn
γM
δO
y (式2)
ただし、MはLi、Ni、CoおよびMn以外の金属元素であり、xは1.1〜1.7であり、αは0.15〜0.5であり、βは0〜0.2であり、γは0.3〜0.8であり、δは0〜0.1であり、α+β+γ+δ=1であり、yはLi、Ni、Co、MnおよびMの原子価を満足するのに必要な酸素(O)のモル数である。
【0054】
xは、本複合酸化物に含まれるLiのモル比である。xが前記範囲内であれば、リチウムイオン二次電池の放電容量がさらに優れる。xは、1.2〜1.7がより好ましい。
α、β、γおよびδの範囲は、式1における範囲と同じであり、好ましい範囲も同様である。
Mは、式1におけるMと同じであり、好ましい形態も同様である。
【0055】
本複合酸化物は、X線回折パターンにおける空間群R−3mの結晶構造に帰属する(003)面のピークから求めた結晶子径分布の対数標準偏差が0.198以下であることが好ましく、0.185以下がより好ましく、0.180以下がさらに好ましい。結晶子径分布の対数標準偏差の下限値は、0.040が好ましい。
固溶体系の本複合酸化物において、空間群R−3mの結晶構造に帰属する(003)面のピークの結晶子径分布の対数標準偏差が前記上限値以下であることは、結晶子径分布が狭いことを意味する。結晶子径分布が狭い本複合酸化物を正極活物質として用いると、リチウムイオン二次電池の充放電の反応において、不均一な反応が減少し、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上する。
【0056】
本複合酸化物のX線回折パターンにおける、空間群R−3mの結晶構造に帰属する(003)面のピークの積分強度(I
003)に対する、空間群C2/mの結晶構造に帰属する(020)面のピークの積分強度(I
020)の比(I
020/I
003)は、0.02〜0.3が好ましく、0.02〜0.28がより好ましく、0.02〜0.25がさらに好ましい。I
020/I
003が前記範囲内であれば、本複合酸化物が前記2つの結晶構造をバランスよく有するため、リチウムイオン二次電池の放電容量を高くしやすい。
【0057】
空間群R−3mの層状岩塩型結晶構造を有する結晶子においては、充放電時に各々のLiは同一層内でa−b軸方向に拡散し、結晶子の端でLiの出入りが起こる。結晶子のc軸方向は積層方向であり、c軸方向が長い形状は、同一体積の他の結晶子に対して、Liが出入りできる端の数が増える。a−b軸方向の結晶子径は、本複合酸化物のX線回折パターンにおける、空間群R−3mの結晶構造に帰属する(110)面のピークからシェラーの式によって求めた結晶子径(D
110)である。c軸方向の結晶子径は、本複合酸化物のX線回折パターンにおける、空間群R−3mの(003)面のピークからシェラーの式によって求めた結晶子径(D
003)である。
【0058】
本複合酸化物におけるD
003は、60〜140nmが好ましく、70〜120nmがより好ましく、80〜115nmがさらに好ましい。D
003が前記範囲の下限値以上であれば、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を良好にしやすい。D
003が前記範囲の上限値以下であれば、リチウムイオン二次電池の放電容量を高くしやすい。
【0059】
本複合酸化物におけるD
110は、30〜80nmが好ましく、35〜75nmがより好ましく、40〜70nmがさらに好ましい。D
110が前記範囲の下限値以上であれば、結晶構造の安定性が向上する。D
003が前記範囲の上限値以下であれば、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を良好にしやすい。
【0060】
<正極活物質>
本発明における正極活物質(以下、本正極活物質と記す。)は、本複合酸化物そのものであってもよく、本複合酸化物に表面処理を施したものであってもよい。
【0061】
表面処理は、本複合酸化物を構成する物質とは異なる組成の物質(表面付着物質)を、本複合酸化物の表面に付着させる処理である。表面付着物質としては、たとえば、酸化物(酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等)、硫酸塩(硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等)、炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等)等が挙げられる。
【0062】
表面付着物質の質量は、本複合酸化物の質量に対して0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が特に好ましい。表面付着物質の質量は、本複合酸化物の質量に対して10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が特に好ましい。本複合酸化物の表面に表面付着物質が存在することで、本複合酸化物の表面での非水電解液の酸化反応を抑制でき電池寿命を向上できる。
【0063】
本複合酸化物を表面処理する場合、表面処理は、たとえば、所定量の表面付着物質を含む液(コート液)を本複合酸化物に噴霧し、コート液の溶媒を焼成により除去する、または、コート液中に本複合酸化物を浸漬し、ろ過による固液分離、焼成による溶媒除去を行う、ことによって実施できる。
【0064】
本正極活物質は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であることが好ましい。
本正極活物質の二次粒子のD
50は、3〜15μmが好ましく、3〜12μmがより好ましく、3.5〜10μmがさらに好ましい。本正極活物質のD
50が前記範囲内であれば、リチウムイオン電池の放電容量を高くしやすい。
【0065】
本正極活物質のBET比表面積は、0.5〜5m
2/gが好ましく、1〜5m
2/gがより好ましく、2〜4m
2/gがさらに好ましい。本正極活物質のBET比表面積が前記範囲の下限値以上であれば、リチウムイオン二次電池の放電容量を高くしやすい。本正極活物質の比表面積が前記範囲の上限値以下であれば、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を良好にしやすい。
【0066】
<リチウムイオン二次電池用正極>
本発明におけるリチウムイオン二次電池用正極(以下、本正極と記す。)は、本正極活物質を含むものである。具体的には、本正極活物質、導電材およびバインダを含む正極活物質層が、正極集電体上に形成されたものである。
【0067】
導電材としては、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)、黒鉛、気相成長カーボン繊維、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
バインダとしては、フッ素系樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、不飽和結合を有する重合体または共重合体(スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等)、アクリル酸系重合体または共重合体(アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体等)等が挙げられる。
正極集電体としては、アルミニウム箔、ステンレススチール箔等が挙げられる。
【0068】
本正極は、たとえば、下記の方法によって製造できる。
本正極活物質、導電材およびバインダを、媒体に溶解または分散させてスラリーを得る。得られたスラリーを正極集電体に塗工し、乾燥等により、媒体を除去することによって、正極活物質層を形成する。必要に応じて、正極活物質層を形成した後に、ロールプレス等で圧延してもよい。これにより、本正極を得る。
または本正極活物質、導電材およびバインダを、媒体と混練することによって、混練物を得る。得られた混練物を正極集電体に圧延することにより本正極を得る。
【0069】
<リチウムイオン二次電池>
本発明におけるリチウムイオン二次電池(以下、本電池と記す。)は、本正極を有するものである。具体的には、本正極、負極、および非水電解質を含むものである。
【0070】
(負極)
負極は、負極活物質を含むものである。具体的には、負極活物質、必要に応じて導電材およびバインダを含む負極活物質層が、負極集電体上に形成されたものである。
【0071】
負極活物質は、比較的低い電位でリチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料であればよい。負極活物質としては、リチウム金属、リチウム合金、リチウム化合物、炭素材料、周期表14族の金属を主体とする酸化物、周期表15族の金属を主体とする酸化物、炭素化合物、炭化ケイ素化合物、酸化ケイ素化合物、硫化チタン、炭化ホウ素化合物等が挙げられる。
【0072】
負極活物質の炭素材料としては、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、熱分解炭素類、コークス類(ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス等)、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体(フェノール樹脂、フラン樹脂等を適当な温度で焼成し炭素化したもの)、炭素繊維、活性炭、カーボンブラック類等が挙げられる。
【0073】
負極活物質に使用する周期表14族の金属としては、Si、Snが挙げられ、Siが好ましい。他の負極活物質としては、酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化チタン、酸化スズ等の酸化物、その他の窒化物等が挙げられる。
【0074】
負極の導電材、バインダとしては、正極と同様のものを用いることができる。負極集電体としては、ニッケル箔、銅箔等の金属箔が挙げられる。
【0075】
負極は、たとえば、下記の方法によって製造できる。
負極活物質、導電材およびバインダを、媒体に溶解または分散させてスラリーを得る。得られたスラリーを負極集電体に塗布、乾燥、プレスすること等によって媒体を除去し、負極を得る。
【0076】
(非水電解質)
非水電解質としては、有機溶媒に電解質塩を溶解させた非水電解液;無機固体電解質;電解質塩を混合または溶解させた固体状またはゲル状の高分子電解質等が挙げられる。
【0077】
有機溶媒としては、非水電解液用の有機溶媒として公知のものが挙げられる。具体的には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、酢酸エステル、酪酸エステル、プロピオン酸エステル等が挙げられる。電圧安定性の点からは、環状カーボネート類(プロピレンカーボネート等)、鎖状カーボネート類(ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等)が好ましい。有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0078】
無機固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有する材料であればよい。
無機固体電解質としては、窒化リチウム、ヨウ化リチウム等が挙げられる。
【0079】
固体状高分子電解質に用いられる高分子としては、エーテル系高分子化合物(ポリエチレンオキサイド、その架橋体等)、ポリメタクリレートエステル系高分子化合物、アクリレート系高分子化合物等が挙げられる。該高分子化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0080】
ゲル状高分子電解質に用いられる高分子としては、フッ素系高分子化合物(ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等)、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル共重合体、エーテル系高分子化合物(ポリエチレンオキサイド、その架橋体等)等が挙げられる。共重合体に共重合させるモノマとしては、ポリプロピレンオキサイド、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等が挙げられる。
該高分子化合物としては、酸化還元反応に対する安定性の点から、フッ素系高分子化合物が好ましい。
【0081】
電解質塩は、リチウムイオン二次電池に用いられるものであればよい。電解質塩としては、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、CH
3SO
3Li等が挙げられる。
【0082】
正極と負極の間には、短絡を防止するためにセパレータを介在させてもよい。セパレータとしては、多孔膜が挙げられる。非水電解液は該多孔膜に含浸させて用いる。また、多孔膜に非水電解液を含浸させてゲル化させたものをゲル状電解質として用いてもよい。
【0083】
電池外装体の材料としては、ニッケルメッキを施した鉄、ステンレス、アルミニウムまたはその合金、ニッケル、チタン、樹脂材料、フィルム材料等が挙げられる。
【0084】
リチウムイオン二次電池の形状としては、コイン型、シート状(フィルム状)、折り畳み状、巻回型有底円筒型、ボタン型等が挙げられ、用途に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
例2、3、5〜7は実施例であり、例1、4は比較例である。
例2は参考例とする。
【0086】
(水酸化物および正極活物質のD
50)
水酸化物または正極活物質を水中に超音波処理によって充分に分散させ、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(日機装社製、MT−3300EX)により測定を行い、頻度分布および累積体積分布曲線を得ることで体積基準の粒度分布を得た。得られた累積体積分布曲線からD
50を求めた。
【0087】
(水酸化物の吸着等温線)
測定装置としては、比表面積/細孔分布測定装置(島津製作所社製、ASAP2020)を用いた。
水酸化物の0.5gを測定用のサンプルセルに入れ、測定装置の脱ガスポートを用いて10℃/分、1mmHg/分(133.3Pa/分)で90℃、500μHg(66.7Pa)まで昇温、真空引きを行い、60分間保持した。3℃/分で105℃まで昇温し、8時間保持した後、窒素ガスによってパージした。
測定装置の分析ポートにサンプルセルを取り付け、液体窒素温度(77K)で窒素ガスを用いて、相対圧力(P/P
0。P
0=約100kPa)が0.01から0.995の範囲内で吸着側の吸着等温線を測定した。
【0088】
(水酸化物のBET比表面積)
比表面積/細孔分布測定装置(島津製作所社製、ASAP2020)に付属の解析ソフトウェアを用い、吸着等温線における相対圧力P/P
0が0.06から0.3の間の10点からBET法によってBET比表面積を算出した。
【0089】
(水酸化物の対数微分細孔比表面積)
比表面積/細孔分布測定装置(島津製作所社製、ASAP2020)に付属の解析ソフトウェアを用い、吸着等温線における相対圧力P/P
0が0.14〜0.995の26点からBJH法によって対数微分細孔比表面積dA/dlog(D)を算出し、細孔径Dに対する対数微分細孔比表面積dA/dlog(D)の分布を求めた。該分布から、分布全体の対数微分細孔比表面積dA/dlog(D)を合計した値{dA/dlog(D)}
totalおよび細孔径が10nm以上の対数微分細孔比表面積dA/dlog(D)を合計した値{dA/dlog(D)}
D≧10nmを算出した。
【0090】
(正極活物質のBET比表面積)
正極活物質のBET比表面積は、比表面積測定装置(マウンテック社製、HM model−1208)を用い、窒素吸着BET法によって算出した。脱気は、200℃、20分の条件で行った。
【0091】
(組成分析)
水酸化物およびリチウム含有複合酸化物の組成分析は、プラズマ発光分析装置(SIIナノテクノロジー社製、SPS3100H)によって行った。組成分析から求めたLi、Ni、Co、Mnのモル量の比から、式1および式2におけるα、β、γ、xを算出した。
【0092】
(X線回折)
リチウム含有複合酸化物のX線回折は、X線回折装置(リガク社製、装置名:SmartLab)を用いて測定した。測定条件を表1に示す。測定は25℃で行った。測定前にリチウム含有複合酸化物の1gとX線回折用標準試料640dの30mgとをメノウ乳鉢で混合し、これを測定試料とした。
得られたX線回折パターンについてリガク社製の統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL2を用いてピーク検索を行った。各ピークから、D
003、D
110およびI
020/I
003を求めた。
【0093】
【表1】
【0094】
また、リチウム含有複合酸化物のX線回折パターンのうち、
図1に示すような空間群R−3mの結晶構造に帰属する(003)面のピークのプロファイル(2θ=17.002〜20.2deg)について、リガク社製の結晶子サイズ分布解析ソフトウェアCSDA(Ver.1.3)を用い、下記設定にて解析して結晶子径分布を得た。
〔Instrument Parameters〕
Goniometer Radius:300、
Axial Divergence:5、
Equatorial Divergence:0.3333333。
〔Sample Parameters〕
Sample Width:20、
Sample Thickness:0.5、
Linear Abs.Coef.:20。
結晶子径分布(個数分布)からリガク社製の結晶子サイズ分布解析ソフトウェアCSDA(Ver.1.3)によって結晶子径分布の対数標準偏差を求めた。リチウム含有複合酸化物の結晶子径分布の対数標準偏差は、リチウム二次電池のサイクル特性の目安となる。リチウム含有複合酸化物の結晶子径分布の対数標準偏差が0.198以下であれば、リチウム二次電池のサイクル特性が良好となる。
【0095】
(正極体シートの製造)
各例で得られた正極活物質、導電材である導電性カーボンブラック、およびバインダであるポリフッ化ビニリデンを、質量比で88:6:6となるように秤量し、これらをN−メチルピロリドンに加えて、スラリーを調製した。
該スラリーを、正極集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にドクターブレードにより塗工した。ドクターブレードのギャップは圧延後のシート厚さが20μmとなるように調整した。これを120℃で乾燥した後、ロールプレス圧延を2回行い、正極材シートを作製した。
【0096】
(リチウム二次電池の製造)
正極材シートを18mmφの円形に打ち抜いたものを正極とした。
負極材にはリチウム箔を用い、リチウム箔を19mmφの円形に打ち抜いたものを負極とした。
セパレータとしては、厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンを用いた。
電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの容積比3:7の混合溶液に、濃度が1mol/dm
3となるようにLiPF
6を溶解させた液を用いた。
正極、負極、セパレータおよび電解液を用い、フランジ型のリチウム二次電池をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で組み立てた。
【0097】
(活性化処理)
各例の正極活物質を用いたリチウム二次電池について、正極活物質1gにつき26mAの負荷電流で4.8Vまで定電流充電した後、正極活物質1gにつき26mAの負荷電流で2Vまで定電流放電し、活性化処理とした。この際の放電容量を初回放電容量とした。
【0098】
(1C放電容量)
活性化処理されたリチウム二次電池について、正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で4.5Vまで定電流・定電圧充電を合計で1.5時間行った後、正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で2Vまで定電流放電することで1Cの放電容量を測定した。
【0099】
(例1)
硫酸ニッケル(II)六水和物および硫酸マンガン(II)五水和物を、NiおよびMnのモル量の比が表2に示す比になるように、かつ硫酸塩の合計量が1.5mol/kgとなるように蒸留水に溶解して、硫酸塩水溶液を得た。
pH調整液として、水酸化ナトリウムを、濃度が1.5mol/kgとなるように蒸留水に溶解した水酸化ナトリウム水溶液を得た。
錯化剤として、硫酸アンモニウムを、濃度が1.5mol/kgとなるように蒸留水に溶解して硫酸アンモニウム水溶液を得た。
【0100】
2Lのバッフル付きガラス製反応槽に蒸留水を入れてマントルヒータで50℃に加熱した。反応槽内の液をパドル型の撹拌翼で撹拌しながら、硫酸塩水溶液を5.0g/分、硫酸アンモニウム水溶液を0.5g/分の速度で12時間添加し、かつ混合液のpHを10.5に保つようにpH調整液を添加して、NiおよびMnを含む水酸化物を析出させた。原料溶液を添加している間、反応槽内に窒素ガスを流量1.0L/分で流した。また、反応槽内の液量が2Lを超えないようにろ布を用いて連続的に水酸化物を含まない液の抜き出しを行った。得られた水酸化物から不純物イオンを取り除くため、加圧ろ過と蒸留水への分散を繰り返し、洗浄を行った。ろ液の電気伝導度が20mS/m以下となった時点で洗浄を終了し、水酸化物を120℃で15時間乾燥させた。
【0101】
水酸化物と炭酸リチウムとを、Liのモル量とNiおよびMnの合計モル量(Me)との比(Li/Me)が表3に示す比となるように混合し、混合物を得た。
電気炉内にて、空気を供給しながら、空気中、600℃で混合物を3時間かけて仮焼成して、仮焼成物を得た。
電気炉内にて、空気を供給しながら、空気中、990℃で仮焼成物を16時間かけて本焼成して、リチウム含有複合酸化物を得た。該リチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いた。各種測定および評価の結果を表3および表4に示す。
【0102】
(例2、3)
表2および表3に示す条件とした以外は、例1と同様にして例2、3のリチウム含有複合酸化物を得た。該リチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いた。各種測定および評価の結果を表3および表4に示す。
【0103】
(例4)
水溶性有機物(糖類)としてスクロース(関東化学社製、試薬)を用意した。
硫酸塩水溶液にスクロースを、得られる水酸化物の質量に対するスクロースの質量の比(スクロース/水酸化物)が0.076となるように添加し、表2および表3に示す条件とした以外は、例1と同様にして例4のリチウム含有複合酸化物を得た。該リチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いた。各種測定および評価の結果を表3および表4に示す。
【0104】
(例5)
スクロースの代わりに、水溶性有機物(糖類を除く。)としてポリエチレングリコール(関東化学社製、PEG#6000)を得られる水酸化物の質量に対するポリエチレングリコールの質量の比(ポリエチレングリコール/水酸化物)が0.05となるように添加した以外は、例4と同様にして例5のリチウム含有複合酸化物を得た。該リチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いた。各種測定および評価の結果を表3および表4に示す。
【0105】
(例6)
スクロースの代わりに、水溶性有機物(糖類を除く。)としてポリエチレングリコール(関東化学社製、PEG#20000)を得られる水酸化物の質量に対するポリエチレングリコールの質量の比(ポリエチレングリコール/水酸化物)が0.05となるように添加した以外は、例4と同様にして例6のリチウム含有複合酸化物を得た。該リチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いた。各種測定および評価の結果を表3および表4に示す。
【0106】
(例7)
スクロースの代わりに、水溶性有機物(糖類を除く。)としてポリエチレングリコール(関東化学社製、PEG#200)を得られる水酸化物の質量に対するポリエチレングリコールの質量の比(ポリエチレングリコール/水酸化物)が0.05となるように添加した以外は、例4と同様にして例7のリチウム含有複合酸化物を得た。該リチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いた。各種測定および評価の結果を表3および表4に示す。
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
【表4】
【0110】
例1〜7では、いずれも本焼成の温度が990℃であり、高温で焼成を行った。そのため、各例で得られたリチウム含有複合酸化物はいずれもR−3mの結晶構造に帰属する(003)面のピークから求めた結晶子径分布の対数標準偏差が小さかった。これは各例のリチウム含有複合酸化物の結晶構造の均質性が高いことを示していると考えられる。
【0111】
水酸化物の{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalとリチウム二次電池の初回放電容量との関係を
図3に示す。
水酸化物の{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalとリチウム二次電池の1C放電容量との関係を
図4に示す。
水酸化物のBET比表面積とリチウム二次電池の初回放電容量との関係を
図5に示す。
図3および
図4に示すように、{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalが23%以上である実施例(例2、3、5〜7)の水酸化物を用いて最終的に得られたリチウム二次電池は、{dA/dlog(D)}
D≧10nm/{dA/dlog(D)}
totalが23%未満である比較例(例1、4)の水酸化物を用いて最終的に得られたリチウム二次電池に比べ、初回放電容量および1Cの放電容量が高かった。
一方、
図5に示すように、水酸化物のBET比表面積が高くても、リチウム二次電池の初回放電容量および1Cの放電容量は充分に高くならなかった。