特許第6979954号(P6979954)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979954
(24)【登録日】2021年11月18日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】食品の不快臭を抑制する組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/20 20160101AFI20211202BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20211202BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20211202BHJP
   A23D 9/007 20060101ALI20211202BHJP
   A23C 9/152 20060101ALN20211202BHJP
   A21D 13/44 20170101ALN20211202BHJP
   A23L 15/00 20160101ALN20211202BHJP
   A21D 2/14 20060101ALN20211202BHJP
【FI】
   A23L5/20
   A23D9/00 504
   A23D9/00 518
   A23L29/00
   A23D9/007
   !A23C9/152
   !A21D13/44
   !A23L15/00 Z
   !A21D2/14
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-535596(P2018-535596)
(86)(22)【出願日】2017年8月10日
(86)【国際出願番号】JP2017029024
(87)【国際公開番号】WO2018037927
(87)【国際公開日】20180301
【審査請求日】2020年6月16日
(31)【優先権主張番号】特願2016-161598(P2016-161598)
(32)【優先日】2016年8月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J−オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】辻 美咲
(72)【発明者】
【氏名】徳地 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅博
【審査官】 村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/160851(WO,A1)
【文献】 特開2015−053880(JP,A)
【文献】 特開昭62−198352(JP,A)
【文献】 特開昭62−259542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A23D、A23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化物価が10〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を有効成分とする、食品の不快臭を抑制する組成物であって、前記不快臭が含硫アミノ酸を含む動物性タンパク質に由来するものである該組成物
【請求項2】
過酸化物価が10〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を有効成分とする、食品の不快臭を抑制する組成物であって、前記不快臭が卵及び/または乳に由来するものである該組成物。
【請求項3】
前記組成物が前記酸化油脂を0.001〜50質量%含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
食品の不快臭を抑制する組成物の製造方法であって、
10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む原料油脂に、酸素を供給しながら加熱し、過酸化物価が10〜180である酸化油脂を得る工程
を含む、前記製造方法であって、前記不快臭が含硫アミノ酸を含む動物性タンパク質に由来するものである該製造方法
【請求項5】
食品の不快臭を抑制する組成物の製造方法であって、
10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む原料油脂に、酸素を供給しながら加熱し、過酸化物価が10〜180である酸化油脂を得る工程
を含む、前記製造方法であって、前記不快臭が卵及び/または乳に由来するものである該製造方法。
【請求項6】
前記原料油脂が乳脂を60質量%以上100質量%以下含む、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記加熱を65℃以上150℃以下、1時間以上72時間以下でおこなう、請求項4乃至6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記酸素の供給を、前記原料油脂1kgあたり0.001〜2L/分とする、請求項4乃至のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記乳脂が無水乳脂である、請求項4乃至のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
食用油脂に前記酸化油脂を添加する工程を含む、請求項4乃至のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記組成物が前記酸化油脂を0.001〜50質量%含むようにする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
過酸化物価が10〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を食品に添加することを特徴とする、食品の不快臭を抑制する方法であって、前記不快臭が含硫アミノ酸を含む動物性タンパク質に由来するものである該方法
【請求項13】
過酸化物価が10〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を食品に添加することを特徴とする、食品の不快臭を抑制する方法であって、前記不快臭が卵及び/または乳に由来するものである該方法
【請求項14】
前記食品が前記酸化油脂を0.005〜10000ppm含むように該酸化油脂を添加する、請求項12又は13に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の不快臭を抑制する組成物および食品の不快臭を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚類等の水産動物には、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)等の高度不飽和脂肪酸が含まれている。これらの高度不飽和脂肪酸は、さまざまな生理活性を有することで注目されている。一方、魚類等の水産物は、これら高度不飽和脂肪酸や低級アミン等に由来すると考えられている特有の不快臭(魚臭)を有している。そのため、魚類等の水産物を含む食品では魚臭が問題となっている。
【0003】
例えば、上記課題を解決するために、特許文献1(特開2001−131575)では、ショウガオイルやショウガ調香料を水産動物油脂に添加することで臭気をマスキングすることが提案されている。
【0004】
また、特許文献2(特開2016−119918)の段落0002には、「・・・不快臭の原因は硫黄を含む物質、すなわち含硫化合物であると言われているが、不快臭の消臭は非常に困難であり、加工食品分野において不快臭を消臭する技術開発が求められている。野菜や玉子なども同様に加熱調理した際に不快臭が発生することがある。」と不快臭の一例が記載されている。その課題を解決するために、アルコール濃度25v/v%換算で、1.0mg/L以上の2−フルアルデヒド、0.3mg/L以上の5−メチル−2−フルアルデヒド、及び0.1mg/L以上の5−ヒドロキシメチル−2−フルアルデヒドを含有し、原料の少なくとも一部にタマネギを用いたものである焼酎を、含硫アミノ酸を含有する調味料に添加し、前記調味料の加熱時に発生する不快臭を消臭することを特徴とする不快臭の消臭方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−131575号公報
【特許文献2】特開2016−119918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、食品の不快臭を抑制する組成物、および食品の不快臭を抑制する方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記組成物を含む、不快臭の抑制された食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、所定量の乳脂を含む酸化油脂には、食品の不快臭を抑制する効果があることを発見し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
本発明の組成物を含む食品は、食品の不快臭が抑制される。したがって、本発明の組成物を食品の製造、加工、調理時等に用いれば、食品の風味を維持しつつ、不快臭の抑制された食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、過酸化物価が10〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を有効成分とする、食品の不快臭を抑制する組成物である。ここで、本発明では、不快臭は特に限定されないが、卵及び/または乳に由来するもの、より具体的には、卵由来タンパク質及び/または乳タンパク質に起因する不快臭に、特に効果を有する。
【0010】
さらに、前記組成物が前記酸化油脂を0.001〜50質量%含むことが好ましい。
【0011】
また、本発明は、食品の不快臭を抑制する組成物の製造方法であって、
10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む原料油脂に、酸素を供給しながら加熱し、過酸化物価が10〜180である酸化油脂を得る工程
を含む、前記製造方法である。
【0012】
さらに、前記原料油脂が乳脂を60質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。
【0013】
さらに、前記加熱を65℃以上150℃以下、1時間以上72時間以下でおこなうことが好ましい。
【0014】
さらに、前記酸素の供給を、前記原料油脂1kgあたり0.001〜2L/分となるようにおこなうことが好ましい。
【0015】
さらに、前記乳脂が無水乳脂であることが好ましい。
【0016】
さらに、食用油脂に前記酸化油脂を添加する工程を含むことが好ましい。
【0017】
さらに、前記組成物が酸化油脂を0.001〜50質量%含むようにすることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、前記組成物を含む食品である。
【0019】
さらに、前記食品が前記酸化油脂を0.005〜10000ppm含むことが好ましい。
【0020】
さらに、前記食品が含硫アミノ酸を含む動物性タンパク質を含むことが好ましく、より具体的には、前記動物性タンパク質が、卵由来タンパク質及び乳タンパク質から選ばれる一種または二種以上であることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、過酸化物価が10〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を食品に添加することを特徴とする、食品の不快臭を抑制する方法である。
【0022】
なお、上記に説明した各構成の任意の組み合わせや、その構成を含む組成物や方法などもまた本発明の態様として有効であり得る。例えば、本発明によれば、「過酸化物価が10〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む、食品の不快臭抑制剤」や「過酸化物価が10〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む、食品の不快臭抑制用組成物」が提供される。
【0023】
本発明における乳脂とは、生乳、牛乳、特別牛乳等から得られる油脂含量が95質量%以上100質量%以下のものをいう。例えば、無水乳脂、澄ましバター等が挙げられる。無水乳脂は、牛乳等から乳脂肪以外のほとんどすべての成分を除去したものをいい、AMF(Anhydrous Milk Fat、バターオイル)等と表記される場合もある。澄ましバターはバターの脂肪分を分取したものである。本発明で使用する乳脂は、好ましくは無水乳脂または澄ましバターであり、より好ましくは無水乳脂である。また、乳脂の油脂含量は、好ましくは98質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下である。
【0024】
本発明の酸化油脂の乳脂含量は、10質量%以上100質量%以下であり、20質量%以上100質量%以下であることが好ましく、60質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、65質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがさらにより好ましく、95質量%以上100質量%以下であることが特に好ましく、100質量%(すなわち、乳脂単独)であることが最も好ましい。
【0025】
また、前記酸化油脂は、乳脂以外の食用油脂を含んでいてもよい。乳脂以外の食用油脂としては、特に限定されないが、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油、菜種油、コーン油、パーム油及びパーム分別油のいずれか一種または二種以上が好ましく、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油及び菜種油のいずれか一種または二種以上がより好ましく、中鎖脂肪酸トリグリセリド及び/または大豆油がさらに好ましい。前記酸化油脂は、本発明の効果を阻害しない限り、通常油脂に添加できる助剤等を含んでいてもよい。
【0026】
また、本発明では、前記酸化油脂の過酸化物価(以下、「POV」ともいう)は10〜180であり、10〜150であることが好ましく、20〜125であることがより好ましく、30〜125であることがさらに好ましく、40〜120であることが特に好ましい。POVは、例えば、「基準油脂分析試験法 2.5.2 過酸化物価」(日本油化学協会)に準じて、測定することができる。前記酸化油脂は酸化をすることで、所定範囲のPOVとすることができるが、酸化の方法は特に限定されない。酸化をする際、加熱することが好ましく、加熱する温度は65℃以上150℃以下が好ましく、70℃以上140℃以下がより好ましく、75℃以上140℃以下がさらに好ましい。また、酸化をする時間は、特に限定されないが、好ましくは1時間以上72時間以下であり、より好ましくは3時間以上72時間以下であり、さらに好ましくは5時間以上72時間以下である。
【0027】
また、酸化をする際には、原料油脂に酸素を供給し、酸化をすることが好ましい。酸素の供給源としては、酸素単独でもかまわないし、空気等の酸素を含むものでもよく、好ましくは空気である。酸素の供給量が、原料油脂1kgあたり0.001〜2L/分となるようにすることが好ましく、0.005〜2L/分となるようにすることがより好ましく、0.02〜2L/分となるようにすることがさらに好ましい。例えば、空気の場合は、原料油脂1kgあたり0.005〜10L/分であることが好ましく、0.025〜10L/分であることがより好ましく、0.1〜10L/分であることがさらに好ましく、0.3〜5L/分であることがさらにより好ましい。また、酸化をする場合には、原料油脂を撹拌することが好ましい。
【0028】
前記原料油脂の乳脂含量は、10質量%以上100質量%以下であり、20質量%以上100質量%以下であることが好ましく、60質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、65質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがさらにより好ましく、95質量%以上100質量%以下であることが特に好ましく、100質量%(すなわち、乳脂単独)であることが最も好ましい。
【0029】
また、前記原料油脂は、乳脂以外の食用油脂を含んでいてもよく、また、本発明の効果を阻害しない範囲で、乳化剤等の通常油脂に添加されるものを含んでいてもよい。前記食用油脂は、特に限定されないが、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油、菜種油、コーン油、パーム油及びパーム分別油のいずれか一種または二種以上が好ましく、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油及び菜種油のいずれか一種または二種以上がより好ましく、大豆油及び/または中鎖脂肪酸トリグリセリドがさらに好ましい。また、前記原料油脂の水の含有量は、例えば、1質量%未満である。
【0030】
本発明の組成物は、食品に含有せしめて、前記酸化油脂の作用効果によって、その食品の不快臭を抑制するためのものである。本発明が適用される食品としては、不快臭を発生するものであれば、特に問わないが、食品の不快臭の一因は、硫黄を含む物質、すなわち含硫化合物であると言われているため、例えば、含硫アミノ酸を含むタンパク質や硫黄を含む食品、具体的には、卵、牛乳等を含む食品が挙げられる。よって、本発明が適用される食品は、含硫アミノ酸を含む動物性タンパク質を含むことが好ましく、卵由来タンパク質及び乳タンパク質から選ばれる一種または二種以上を含むことがより好ましく、卵、牛乳及び加工乳から選ばれる一種または二種以上を含むことがさらにより好ましい。
【0031】
卵由来タンパク質を含む食品の例としては、プリン、カスタードクリーム、ホットケーキ、スポンジケーキ、パンケーキ等の製菓類;オムレツ、卵焼き、卵豆腐、茶碗蒸し、伊達巻、錦糸卵、目玉焼き、ボイルエッグ、スクランブルエッグ、親子丼、カツ丼、ピータン等の惣菜類;カルボナーラソース等のソース類等が挙げられ、主に卵(全卵、卵白を含む)を含む食品であり、また、生卵のように加熱調理していないものでもよい。
【0032】
乳タンパク質を含む食品の例としては、無脂肪乳、無脂肪牛乳、低脂肪乳、低脂肪牛乳、特濃乳、乳飲料(コーヒー牛乳、フルーツ牛乳、カフェオレ等)等の牛乳及び加工乳、並びにそれらを含む食品;脱脂粉乳等の乳由来のタンパク質及びそれらを含む食品等であり、例えば、ホワイトソース、牛乳プリン、コーヒークリーム等が挙げられる。
【0033】
また、本発明が適用される食品に含まれる前記組成物の含有量は、その効果に応じて調整すればよいが、例えば、食品が前記酸化油脂を0.005〜10000ppm含むようにすることが好ましく、0.01〜7000ppm含むようにすることがより好ましく、0.05〜5000ppm含むようにすることがさらに好ましく、0.08〜3000ppm含むようにすることがさらにより好ましい。
【0034】
本発明の組成物において、その組成物中における前記酸化油脂の含有量としては、使用の形態や所望する効果に応じて調整すればよく、特に制限はないが、例えば、前記酸化油脂の含有量が0.001〜50質量%であることが好ましく、0.001〜30質量%であることがより好ましく、0.01〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明の組成物には、前記酸化油脂を希釈するための食用油脂を使用してもよい。食用油脂は特に限定されず、例えば、パーム核油、パーム油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂等の植物油脂、ラード等の動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。また、これらの分別油(パーム油の中融点部、パーム油の分別軟質油、パーム油の分別硬質油等)、エステル交換油、水素添加油等の加工した油脂を使用できる。また、これらの食用油脂は、1種又は2種以上を使用することができる。また、前記組成物には、本発明の効果を阻害しない限り、通常油脂に添加できる助剤等を使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0037】
実施に際しては、以下のものを使用した(いずれも水の含有量は1質量%未満であった)。
【0038】
無水乳脂(製品名:バターオイルCML、丸和油脂株式会社製、油脂含量:99.8質量%)
大豆油(株式会社J−オイルミルズ社製)
菜種油(株式会社J−オイルミルズ社製)
中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)(製品名:MCT アクターM−107FR、理研ビタミン株式会社製)
高オレイン酸低リノレン酸菜種油(HOLL)(株式会社J−オイルミルズ社製)
【0039】
以下のように、酸化油脂を調製した。
【0040】
(調製例1)
無水乳脂を酸化処理せずにそのまま使用した。
【0041】
(調製例2〜6)
無水乳脂200gをステンレスビーカーに入れ、100℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。4.5、5、5.5、5.8、6.5時間後にサンプリングし、酸化油脂を得た。
【0042】
得られた調製例1〜6の油脂の過酸化物価(POV)を「基準油脂分析試験法 2.5.2 過酸化物価」(日本油化学協会)に準じて、測定した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
(調製例7〜12)
調製例1の無水乳脂もしくは調製例2〜6のいずれかの酸化油脂1質量部と、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)99質量部とを混合した(調製例7〜12)。
【0045】
(低脂肪乳の評価1)
市販の低脂肪乳(イオントップバリュ株式会社製)100gに、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)(対照)、調製例7〜12のいずれかの油脂組成物を0.1g添加した後、ディスパーザーで10000rpm、5分間撹拌した。得られた低脂肪乳を食し、不快臭の抑制効果を以下のように評価した。結果を表2に示す。
【0046】
<不快臭の抑制効果>
◎:対照に比べて非常に強い
○:対照に比べて強い
△:対照に比べてやや強い
×:対照と同等もしくは弱い
【0047】
【表2】
【0048】
酸化油脂のPOVが11以上の実施例2−1〜5では、低脂肪乳由来の不快臭の抑制効果があることがわかった。特にPOVが34以上でその効果が顕著であった。
一方、酸化処理していない無水乳脂である比較例2−1では、不快臭の抑制効果がないことが確認できた。
【0049】
(調製例13〜15)
調製例4の酸化油脂の0.1質量部、1質量部、又は10質量部と、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)の99.9質量部、99質量部、又は90質量部とを、それぞれ混合した(調製例13〜15)。
【0050】
(低脂肪乳の評価2)
低脂肪乳の評価1において、調製例7の油脂組成物に代えて、調製例13〜15のいずれかの油脂組成物を用いて、同様の操作で低脂肪乳を得た。得られた低脂肪乳を食し、不快臭の抑制効果を同様に評価した。結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
実施例3−1に示したように、組成物中の酸化油脂が0.1質量%(低脂肪乳中に1ppm)であっても、不快臭の抑制効果を得ることができた。また、酸化油脂の添加量が増えるにつれて、不快臭の抑制効果が高くなった。
【0053】
(牛乳の評価)
実施例3−2において低脂肪乳に代えて、牛乳(イオントップバリュ株式会社製)を用いて、同様の操作で牛乳を得た。得られた牛乳を食し、不快臭の抑制効果を同様に評価した。結果を表4に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
実施例4−1に示したように、牛乳においても不快臭の抑制効果があることが確認できた。
【0056】
(オムレツの評価)
卵200g、牛乳40g、食塩0.8gを混合し、卵液を得た。得られた卵液100gに対し、菜種油(対照)もしくは調製例15の油脂組成物を0.1g添加し、攪拌した。加熱したフライパンに、菜種油5gとバター(製品名:雪印北海道バター 10gに切れてる、雪印メグミルク株式会社製)2gを添加し、フライパンになじませた。上記卵液を攪拌しながら弱火で焼成した。得られたオムレツを食し、卵由来の不快臭の抑制効果を以下のように評価した。結果を表5に示す。
【0057】
<不快臭の抑制効果>
◎:対照に比べて非常に強い
○:対照に比べて強い
△:対照に比べてやや強い
×:対照と同等もしくは弱い
【0058】
【表5】
【0059】
実施例5−1で示したように、オムレツの卵由来の不快臭を抑制できることがわかった。また、調理前の原材料にPOV51の酸化油脂を含む調製例15の油脂組成物を添加しても不快臭の抑制効果が得られることがわかった。
【0060】
(調製例16)
パーム核極硬油35質量部、調製例4の酸化油脂を10質量部、コーンシロップ(水分25質量%)63.33質量部、pH調整剤(リン酸水素2カリウム、クエン酸3ナトリウム)2.1質量部及び乳化剤ミックス(酸カゼイン、水酸化ナトリウム、ソルビタン脂肪酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルの混合物)5.4質量部を配合し、混合をした。さらに水84.17質量部添加し、常法に従い、乳化・噴霧し、粉末油脂(調製例4の酸化油脂を10質量%含有)を得た。
【0061】
(ホットケーキの評価)
市販のホットケーキミックス(製品名:みなさまのお墨付きホットケーキミックス、合同会社西友社製)100g、牛乳70mL、卵30gを混ぜ合わせた後、調製例16の油脂組成物(調製例4の酸化油脂を10質量%含有する粉末油脂)を2g添加した後、混合した。炊飯器で焼成後、得られたホットケーキを食し、卵由来の不快臭の抑制効果を、調製例16を添加していないホットケーキを対照にして、評価した。その結果、調製例4の酸化油脂を10質量%含有する粉末油脂である調製例16を添加したホットケーキでは、対照と比べて、不快臭が非常に抑制されており、卵を含むホットケーキにおいて、卵由来の不快臭を抑制できることが分かった。また、粉末油脂の形態であっても、液状油の形態と同様に不快臭の抑制効果を得られることがわかった。
【0062】
(調製例17、乳脂および乳脂以外の食用油脂を含む酸化油脂)
無水乳脂140gに中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)を60g混合し、乳脂を70質量%含む油脂を調製した。調製した油脂200gをステンレスビーカーに入れ、120℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。13時間反応し、POV58.7の酸化油脂を得た。
【0063】
(調製例18、乳脂および乳脂以外の食用油脂を含む酸化油脂)
調製例17において中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)に代えて、大豆油を用いたこと以外、同様に処理し、POV44.6の酸化油脂を得た。
【0064】
(調製例19、乳脂および乳脂以外の食用油脂を含む酸化油脂)
無水乳脂50質量部にHOLLを50質量部混合し、乳脂を50質量%含む油脂を調製した。調製した油脂200gをステンレスビーカーに入れ、100℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。36時間反応し、POV100の酸化油脂を得た。
【0065】
(調製例20、乳脂および乳脂以外の食用油脂を含む酸化油脂)
無水乳脂20質量部にHOLLを80質量部混合し、乳脂を20質量%含む油脂を調製した。調製した油脂200gをステンレスビーカーに入れ、100℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。30時間反応し、POV105の酸化油脂を得た。
【0066】
(調製例21〜24)
調製例17〜20のいずれかの酸化油脂の1質量部と中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)を99質量部とを混合した(調製例21〜24)。
【0067】
(低脂肪乳の評価3)
低脂肪乳の評価1において、調製例7の油脂組成物に代えて、調製例10又は調製例21〜24のいずれかの油脂組成物を用いて、同様の操作で低脂肪乳を得た。得られた低脂肪乳を食し、不快臭の抑制効果を同様に評価した。結果を表6に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
乳脂を20質量%以上含有する酸化油脂はいずれも低脂肪乳の不快臭を抑制する効果があることがわかった。また、酸化油脂中の乳脂の含有量が増えるに従って、その効果が高くなることがわかった。