特許第6980191号(P6980191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6980191
(24)【登録日】2021年11月19日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】磁気抵抗素子および検波器
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/82 20060101AFI20211202BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20211202BHJP
   H03D 1/10 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
   H01L29/82 Z
   H01L43/08 Z
   H03D1/10 Z
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-204582(P2017-204582)
(22)【出願日】2017年10月23日
(65)【公開番号】特開2019-79876(P2019-79876A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水沼 広太朗
(72)【発明者】
【氏名】河野 欣
(72)【発明者】
【氏名】久保田 均
(72)【発明者】
【氏名】今村 裕志
(72)【発明者】
【氏名】福島 章雄
(72)【発明者】
【氏名】常木 澄人
(72)【発明者】
【氏名】田丸 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】水上 成美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和也
【審査官】 小山 満
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/100711(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/108357(WO,A1)
【文献】 特開2006−286093(JP,A)
【文献】 特開2012−044649(JP,A)
【文献】 特開2006−295908(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0362624(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0221507(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0038430(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0150643(US,A1)
【文献】 国際公開第2006/101040(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第01860769(EP,A1)
【文献】 特開2013−045840(JP,A)
【文献】 特開2016−092746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/82
H01L 43/08
H03D 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁性層(10、12、13、16)と、複数の前記磁性層のうちの2つに挟まれた中間層(11)と、を備え、入力された交流信号を直流信号に変換する磁気抵抗素子であって、
複数の前記磁性層には、磁化方向が可変とされ、交流信号によって共鳴する磁化共鳴層(12、13、16)が複数含まれており、
複数の前記磁化共鳴層は、互いに共鳴周波数が異なり、
交流信号によって1つの前記磁化共鳴層が共鳴したときに出力される直流信号の大きさは、他の1つの前記磁化共鳴層が共鳴したときに出力される直流信号の大きさと異なる磁気抵抗素子。
【請求項2】
前記磁化共鳴層の数をNとし、
nをN以下の自然数とし、
n番目の前記磁化共鳴層の共鳴周波数、共鳴線幅をそれぞれf、Δfとし、
mをN以下のnとは異なる自然数とし、
m番目の前記磁化共鳴層の共鳴周波数、共鳴線幅をそれぞれf、Δfとして、
|f−f|>(Δf+Δf)/2とされている請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記磁化共鳴層が前記中間層の両側に配置されている請求項1または2に記載の磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記中間層の一方側に配置された前記磁化共鳴層のうち少なくとも1つは、磁化容易軸が前記磁性層および前記中間層の積層方向に垂直とされており、
前記中間層の他方側に配置された前記磁化共鳴層のうち少なくとも1つは、磁化容易軸が前記磁性層および前記中間層の積層方向に平行とされている請求項3に記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記中間層に接する前記磁性層は、コバルト、鉄、ホウ素のうち少なくとも1つを含む材料で構成されている請求項1ないしのいずれか1つに記載の磁気抵抗素子。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれか1つに記載の磁気抵抗素子を備える検波器。
【請求項7】
受信した電磁波を交流信号に変換して前記磁気抵抗素子に入力するアンテナ(2)を備え、
前記磁気抵抗素子と前記アンテナとのインピーダンス整合がとられている請求項に記載の検波器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗素子および検波器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信分野ではマルチバンド化が進んでおり、800MHz、1.7GHz、2GHz等の周波数帯が使用されている。さらに、5G世代では60GHz程度の高周波数帯域が使用されることが予測されている。また、自動車の分野でも、現在24GHz、76GHzの周波数帯が使用されており、将来は79GHz、140GHz、300GHzの周波数帯の使用が予測されている。このようにマルチバンド化が進む中で、複数の周波数帯の信号を検出する方法が様々に検討されている。
【0003】
例えば特許文献1では、スピントルクダイオード効果によって交流信号を直流信号に変換する磁気抵抗素子を用いた検波器が提案されている。磁気抵抗素子は、通常、磁化方向が固定された固定層と、非磁性体で構成された中間層と、磁化方向が可変とされた自由層とが順に積層された構成を有しており、磁気抵抗素子を用いた検波器では、自由層のバンドに応じた周波数の交流信号を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−92746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、自由層の共鳴線幅は共鳴周波数の1/10程度と狭く、例えば共鳴周波数が1GHzであれば共鳴線幅は0.1GHz程度となるため、1つの自由層でマルチバンドに対応することは困難である。
【0006】
特許文献1に記載の検波器では、磁気抵抗素子に外部磁界を印加して自由層の共鳴周波数を変化させているが、この方法による共鳴周波数の変化幅は10GHz程度であり、マルチバンドに対応するには不十分である。
【0007】
したがって、特許文献1に記載の検波器でマルチバンドに対応するためには、例えば検波器を複数配置する必要があり、回路の規模が大きくなる。
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、回路規模の拡大を抑制しつつマルチバンドに対応することが可能な磁気抵抗素子および検波器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、複数の磁性層(10、12、13、16)と、複数の磁性層のうちの2つに挟まれた中間層(11)と、を備え、入力された交流信号を直流信号に変換する磁気抵抗素子であって、複数の磁性層には、磁化方向が可変とされ、交流信号によって共鳴する磁化共鳴層(12、13、16)が複数含まれており、複数の磁化共鳴層は、互いに共鳴周波数が異なり、交流信号によって1つの磁化共鳴層が共鳴したときに出力される直流信号の大きさは、他の1つの磁化共鳴層が共鳴したときに出力される直流信号の大きさと異なる。
【0010】
これによれば、複数の磁化共鳴層の共鳴周波数が互いに異なっているので、1つの磁気抵抗素子で複数の周波数帯の交流信号を検出することができる。したがって、回路規模の拡大を抑制しつつマルチバンドに対応することが可能となる。
【0011】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態にかかる検波器の構成を示す図である。
図2】第1実施形態にかかる磁気抵抗素子の断面図である。
図3】第1実施形態にかかる磁気抵抗素子の出力の周波数特性を示す図である。
図4】第2実施形態にかかる磁気抵抗素子の断面図である。
図5】第2実施形態にかかる磁気抵抗素子の出力の周波数特性を示す図である。
図6】第3実施形態にかかる磁気抵抗素子の出力の周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。本実施形態の検波器は、複数の周波数帯の電磁波を検出するものであり、図1に示すように、磁気抵抗素子1と、アンテナ2と、バイアスティ回路3と、電圧計4とを備えている。
【0015】
磁気抵抗素子1は、入力された交流信号をスピントルクダイオード効果により直流信号に変換して出力するものである。アンテナ2は、受信した電磁波を交流信号に変換して磁気抵抗素子1に入力するものであり、磁気抵抗素子1とアンテナ2はバイアスティ回路3を介して接続されている。
【0016】
バイアスティ回路3は、磁気抵抗素子1に入力される交流信号と磁気抵抗素子1から出力される直流信号とを分離するものであり、キャパシタ5とインダクタ6とを備えている。キャパシタ5は磁気抵抗素子1とアンテナ2との間に接続されており、インダクタ6は磁気抵抗素子1と電圧計4との間に接続されている。
【0017】
磁気抵抗素子1の詳細な構成について説明する。磁気抵抗素子1は、図示しない基板上に複数の層が積層されて構成されており、複数の層には、複数の磁性層と、複数の磁性層のうちの2つに挟まれた非磁性層とが含まれている。また、複数の磁性層には、磁化方向が可変とされ、交流信号によって共鳴する磁化共鳴層が複数含まれている。
【0018】
本実施形態では、磁気抵抗素子1は2つの磁化共鳴層を備えており、磁化共鳴層とは異なる磁性層と、非磁性層と、一方の磁化共鳴層と、他方の磁化共鳴層とが順に積層されている。
【0019】
具体的には、図2に示すように、磁気抵抗素子1は、下部電極7と、下地層8と、反強磁性層9と、参照層10と、中間層11と、磁化共鳴層12と、磁化共鳴層13と、キャップ層14と、上部電極15とを備えている。
【0020】
下部電極7は、Ru(ルテニウム)、Cu(銅)、CuN、Au(金)等の導電性材料で構成されており、図示しない基板上に薄膜状に形成されている。下地層8は、Ta(タンタル)、Ru等で構成されており、下部電極7上に薄膜状に形成されている。下地層8は、結晶性、配向性を向上させて反強磁性層9を成膜するための下地となるものである。
【0021】
反強磁性層9は、IrMn、PtMn等で構成されており、下地層8上に薄膜状に形成されている。反強磁性層9は、交換結合により、参照層10の磁化方向を固定するためのものである。
【0022】
参照層10は、Co(コバルト)、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)等の強磁性材料で、または強磁性材料とB(ホウ素)とで構成されており、反強磁性層9上に薄膜状に形成されている。参照層10は、反強磁性層9との交換結合により、磁化方向が厚さ方向に垂直な方向に固定されている。参照層10は、磁性層に相当する。
【0023】
中間層11は、MgO(酸化マグネシウム)、Al−O(酸化アルミニウム)、Cu、Ag(銀)等の非磁性体で構成され、参照層10上に薄膜状に形成されている。
【0024】
磁化共鳴層12は、例えばCo、Fe、CoFe、CoFeB等の強磁性材料で構成されており、中間層11上に薄膜状に形成されている。磁化共鳴層12は、磁化方向が可変とされており、交流信号によって磁化が歳差運動する。
【0025】
磁化共鳴層13は、例えばCoPtの多層膜で構成されており、磁化共鳴層12上に薄膜状に形成されている。磁化共鳴層13は、磁化方向が可変とされており、交流信号によって磁化が歳差運動する。
【0026】
磁気抵抗素子1のうち参照層10〜磁化共鳴層13で構成される部分は、参照層10の磁化方向と磁化共鳴層12、磁化共鳴層13の磁化方向との間の角度によって抵抗値が変化する。また、この部分は、交流信号が入力されると、スピントルクダイオード効果によって交流信号を直流信号に変換して出力する。そして、交流信号の周波数によっては、磁化共鳴層12または磁化共鳴層13が共鳴し、出力信号が大きくなる。
【0027】
本実施形態では、磁化共鳴層12と磁化共鳴層13は互いに共鳴周波数が異なっている。共鳴周波数は材料パラメータに比例するので、磁化共鳴層12と磁化共鳴層13を異なる材料で構成することにより、磁化共鳴層12と磁化共鳴層13の共鳴周波数が異なる値となる。
【0028】
例えば、磁化共鳴層12をCo、Fe、CoFe、CoFeB等で構成した場合、磁化共鳴層12の共鳴周波数は9GHz等になり、磁化共鳴層13をCoPtの多層膜で構成した場合、磁化共鳴層13の共鳴周波数は20GHz、40GHz等になる。
【0029】
中間層11に接する磁性層を、Co、Fe、Bのうち少なくとも1つを含む材料で構成することにより、磁気抵抗素子1の磁気抵抗比が高くなり、磁気抵抗素子1の感度を向上させることができる。本実施形態のように中間層11が参照層10、磁化共鳴層12と接する場合には、参照層10、磁化共鳴層12のいずれか一方または両方を、Co、Fe、Bのうち少なくとも1つを含む材料で構成することにより、磁気抵抗素子1の感度を向上させることができる。
【0030】
また、本実施形態では、複数の磁化共鳴層のバンドが重ならないように周波数特性が設計されている。共鳴周波数がバンドの中心にある場合には、次のように材料を選択することで、複数の磁化共鳴層のバンドが重ならないようにすることができる。すなわち、磁気抵抗素子1が備える磁化共鳴層の数をNとし、nをN以下の自然数とし、n番目の磁化共鳴層の共鳴周波数、共鳴線幅をそれぞれf、Δfとする。また、mをN以下のnとは異なる自然数とし、m番目の磁化共鳴層の共鳴周波数、共鳴線幅をそれぞれf、Δfとする。そして、|f−f|>(Δf+Δf)/2となるように各磁化共鳴層の材料を選択する。
【0031】
共鳴周波数がバンドの中心から離れている場合もあるが、この場合にも、上記の式を目安として用いて各磁化共鳴層の材料を選択することにより、複数の磁化共鳴層のバンドが重なることを抑制することができる。
【0032】
磁化共鳴層が2つ配置された本実施形態では、f−f>(Δf+Δf)/2となるように各磁化共鳴層の材料が選択されている。なお、f、fはそれぞれ磁化共鳴層12、磁化共鳴層13の共鳴周波数である。また、共鳴線幅は図3に示すように設定されている。すなわち、アンテナ2が受信した電磁波、および、磁気抵抗素子1に入力される交流信号の周波数をfとし、磁気抵抗素子1が出力する直流電圧をVとする。そして、f=fのときの電圧をVとし、f付近でV≧V/2となる周波数fの範囲の幅をΔfとする。同様に、f=fのときの電圧をVとし、f付近でV≧V/2となる周波数fの範囲の幅をΔfとする。
【0033】
キャップ層14は、磁化共鳴層13を保護するためのものであり、Ta、Ru等で構成され、磁化共鳴層13上に薄膜状に形成されている。上部電極15は、Au、Cu、CuN、Ru等の導電性材料で構成されており、キャップ層14上に薄膜状に形成されている。
【0034】
このように、磁気抵抗素子1は、複数の層を挟むように配置された下部電極7および上部電極15を備えている。そして、上部電極15にはバイアスティ回路3のキャパシタ5を介してアンテナ2の出力端子が接続されており、下部電極7は接地されている。また、下部電極7および上部電極15にはバイアスティ回路3のインダクタ6を介して電圧計4が接続されている。
【0035】
なお、このように磁気抵抗素子1とアンテナ2とを接続する場合には、磁気抵抗素子1とアンテナ2とのインピーダンス整合をとることが望ましい。例えば、アンテナ2のインピーダンスが一般的な高周波の通信機器と同様に50Ωとされている場合には、磁気抵抗素子1のインピーダンスを50Ωとすることが望ましい。
【0036】
前述したように、磁気抵抗素子1の抵抗値は参照層10の磁化方向と磁化共鳴層12、13の磁化方向との間の角度によって変化するが、磁気抵抗素子1の平均の抵抗値をRとして、Rが50Ωとなるように磁気抵抗素子1を設計すればよい。
【0037】
磁気抵抗素子1の磁気抵抗比をMRとし、参照層10と磁化共鳴層12、13の磁化方向が平行であるときの磁気抵抗素子1の抵抗値をRとする。また、共鳴前の平衡状態において参照層10と磁化共鳴層12、13の磁化方向のなす角をθとすると、R=2(1+MR)R/(2+MR+MRcosθ)となる。なお、参照層10と磁化共鳴層12、13の磁化が反平行のときの磁気抵抗素子1の抵抗をRAPとして、MR=(RAP−R)/Rとなる。
【0038】
また、磁気抵抗素子1の上面の面積をAとし、面積抵抗比をRAとすると、RA=R×Aとなる。したがって、RA、MR、θがわかれば、Aを調整することにより、磁気抵抗素子1のインピーダンスを50Ωとすることができる。
【0039】
例えば、中間層11をMgOで構成し、参照層10および磁化共鳴層12をCoFeBで構成した場合、中間層11の膜厚をtとすると、RA=0.0111×10−12exp(7.9×10・t)となる(参考文献:Ikhtiar et al., APL 108, 242416 (2016))。したがって、中間層11の膜厚tが0.80nmのとき、RAは6.17Ωμmとなる。そして、MRを100%とし、高感度化のためにθを90°とすると、磁気抵抗素子1の上面を直径0.46μmの円形状とし、上面の面積Aを0.16μmとすることで、Rが約50Ωとなる。
【0040】
このように、中間層11の材料および膜厚と、参照層10および磁化共鳴層12の材料とによって面積抵抗比RAが変化する。そして、RA、MR、θを考慮して磁気抵抗素子1の上面の面積Aを調整することにより、磁気抵抗素子1のインピーダンスを50Ωとすることができる。
【0041】
本実施形態の検波器の作動について説明する。図1に示すように接続された状態でアンテナ2が電磁波を受信すると、アンテナ2は受信した電磁波と周波数が等しい交流信号を出力する。アンテナ2の出力信号はキャパシタ5を介して磁気抵抗素子1に入力され、磁気抵抗素子1でスピントルクダイオード効果によって直流信号が生成される。そして、このときの下部電極7と上部電極15の間の電圧を電圧計4によって読み取ることで、電磁波を検出することができる。
【0042】
本実施形態では、周波数fがf付近のときに磁化共鳴層12が共鳴して電圧Vが大きくなり、周波数fがf付近のときに磁化共鳴層13が共鳴して電圧Vが大きくなるので、f付近の周波数の電磁波およびf付近の周波数の電磁波を検出することができる。
【0043】
このように、共鳴周波数の異なる複数の磁化共鳴層を積層することにより、複数の周波数帯の交流信号を1つの磁気抵抗素子1で検出することができる。したがって、1つの磁気抵抗素子1を備える検波器で複数の周波数帯の電磁波を検出することが可能となり、回路規模の拡大を抑制しつつマルチバンドに対応することができる。
【0044】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して磁化共鳴層の数を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0045】
図4に示すように、本実施形態では、下地層8と中間層11の間に、反強磁性層9および参照層10の代わりに磁化共鳴層16が配置されている。
【0046】
磁化共鳴層16は例えばCoPtの多層膜で構成されており、共鳴周波数が磁化共鳴層13よりも高くされている。磁化共鳴層16の共鳴周波数をfとすると、磁気抵抗素子1の周波数特性は、図5に示すようになる。
【0047】
図5に示すように、本実施形態では、f=f、f=f、f=fでの電圧Vのピーク値は、互いにほぼ等しくされている。また、f>fであり、f=fのときの電圧をVとし、f付近でV≧V/2となる周波数fの範囲の幅をΔfとして、f−f>(Δf+Δf)/2とされている。
【0048】
磁化共鳴層12、磁化共鳴層13に加えて磁化共鳴層16を備える本実施形態では、f付近の周波数の電磁波、f付近の周波数の電磁波に加えて、f付近の周波数の電磁波を検出することができる。このように、磁化共鳴層を中間層11の両側に配置してもよく、磁化共鳴層の数を増やすことで、検出可能な周波数帯の数を増やすことができる。
【0049】
なお、磁化共鳴層を中間層11の両側に配置する場合には、磁化共鳴層の磁化容易軸の方向を次のようにすることで、磁気抵抗素子1の感度を向上させることができる。すなわち、中間層11の一方側に配置された磁化共鳴層のうち少なくとも1つの磁化容易軸を、中間層11、磁化共鳴層12等の積層方向に垂直とする。そして、中間層11の他方側に配置された磁化共鳴層のうち少なくとも1つの磁化容易軸を、中間層11、磁化共鳴層12等の積層方向に平行とする。
【0050】
例えば本実施形態では、磁化共鳴層12、磁化共鳴層13の一方または両方の磁化容易軸を各層の積層方向に垂直とし、磁化共鳴層16の磁化容易軸を各層の積層方向に平行とすることで、磁気抵抗素子1の感度を向上させることができる。また、磁化共鳴層12、磁化共鳴層13の一方または両方の磁化容易軸を各層の積層方向に平行とし、磁化共鳴層16の磁化容易軸を各層の積層方向に垂直とすることで、磁気抵抗素子1の感度を向上させることができる。
【0051】
また、本実施形態では、中間層11に接する磁性層である磁化共鳴層12および磁化共鳴層16のいずれか一方または両方を、Co、Fe、Bのうち少なくとも1つを含む材料で構成することにより、磁気抵抗素子1の感度を向上させることができる。
【0052】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第2実施形態に対して磁気抵抗素子1の出力の周波数特性を変更したものであり、その他については第2実施形態と同様であるため、第2実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0053】
本実施形態では、周波数fが1つの磁化共鳴層の共鳴周波数に等しいときの電圧Vの大きさは、周波数fが他の1つの磁化共鳴層の共鳴周波数に等しいときの電圧Vの大きさと異なっている。
【0054】
具体的には、図6に示すように、f=fでの電圧Vのピーク値が100Vよりも大きくされており、f=fでの電圧Vのピーク値が100Vとされており、f=fでの電圧Vのピーク値が50Vとされている。
【0055】
受信する電磁波の周波数が図6に示された範囲内にあることがわかっている場合、電圧Vが100V以上であればf≒fであることがわかり、電圧Vが50〜100Vであればf≒fであることがわかる。また、電圧Vが所定の閾値以上50V以下であれば、f≒fであることがわかる。
【0056】
このように、共鳴周波数ごとに電圧Vのピーク値が異なる周波数特性を持つように磁気抵抗素子1を設計することで、受信した電磁波の周波数を検出することができる。
【0057】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0058】
例えば、上記第1実施形態において、f=f、f=fとで電圧Vのピーク値が異なっていてもよい。
【0059】
また、中間層11に対して下部電極7と同じ側に複数の磁化共鳴層が配置されていてもよい。また、中間層11の両側に磁化共鳴層を配置する場合には、中間層11に対して上部電極15と同じ側に磁化共鳴層を1つのみ配置してもよい。
【0060】
また、磁気抵抗素子1を図示しない基板上に上部電極15から順に積層してもよい。
【0061】
また、上記第1、第2実施形態では、複数の磁化共鳴層のバンドが重ならないように各磁化共鳴層の材料を選択したが、複数の磁化共鳴層のバンドが重なっていてもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 参照層
11 中間層
12 磁化共鳴層
13 磁化共鳴層
16 磁化共鳴層
図1
図2
図3
図4
図5
図6