【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0032】
A.
実施例1
1.
組織検体の調製
事前にインフォームド・コンセントを得たヒト患者より大腸がんの組織検体を手術時に採取した。なお、悪性腫瘍領域から5cm超離間した領域から、健常組織として組織検体を同時に採取した。また、直腸がんについても同様に組織検体を一組用意した。
【0033】
2.
Total RNAの調製
TRIzol(インビトロジェン社)を用い、製品プロトコールに沿って各組織検体からTotal RNAを抽出した。
【0034】
続いて、目的のmiRNAと相補的な配列を有するオリゴDNAを表面に有するビーズを用いて、得られたTotal RNAの中から目的のmiRNAを捕捉した。このオリゴDNAは、5’末端がC6リンカーを介してアミンで修飾されている。RNAとオリゴDNAを混合後、95℃まで加熱した後、ゆっくりと30℃まで冷却した。得られたRNA−DNA複合体を、Dynabeads(登録商標)M−270 Amine(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)とともに4℃にて1時間インキュベートした。
【0035】
インキュベート後、熱で複合体を抽出し、磁性分離を経て捕捉されたmiRNAを含む上清を得た。これを凍結乾燥後、以後の操作に用いた。
【0036】
目的のmiRNAを捕捉する工程のイメージを
図1(上段部分)に示した。
【0037】
3.
MALDI−TOF−MS解析
Zip Tip C18(ミリポア社)を用い、製品プロトコールに沿って、捕捉されたmiRNAを精製した。これを、3−ヒドロキシピコリン酸(3−HPA;ブルカーダルトニクス社)と、容積比1:1で混合し、MTP AnchorChip 384 target plate(ブルカーダルトニクス社)上にアプライし、室温で風乾させた。
【0038】
ultrafleXtreme MALDI−TOF/TOF マススペクトロメーター(ブルカーダルトニクス社)を用い、ネガティブイオン・モード、レフレクション・モードにてMALDI−TOF−MS解析を行った。ソフトウエアFlexControl(ヴァージョン3.4.135.0)(ブルカーダルトニクス社)を用い、マニュアルでスペクトルデータを収集した。メチル化シトシンに関しては、ハイドラジン処理されたRNAを用いてさらなる分析を行い、ピークがm5Cを含むことを確認した。メチル化アデニンに関しては、硫酸ジメチル処理されたRNAを用いたシークエンシャルMS解析により、m6Aであることを確認した。
【0039】
MALDI−TOF−MS解析のイメージを
図1(下段部分)に示した。
【0040】
一例として、miR−200cについての測定結果を
図2に示す。このように、単離されたmiRNAについてMALDI−TOF−MS/MS解析を行うと、メチル化された塩基は、メチル化されていない場合と比べ、マススペクトル上のピークが+14kDaシフトすることが判った。同様の現象が、他のmiRNAについても確認されている。このことを利用してメチル化の程度を測定することできることが判った。具体的には、標的塩基について、メチル化されていない塩基由来のピークに対する、メチル化されている塩基由来のピーク(これらは互いにマススペクトル上14kDa離間している)の比率(以下「メチル化率」ということがある。)を算出することにより、単離されたmiRNA全体における、メチル化されているmiRNAの割合を算出することができることが判った。
【0041】
網羅的に解析した結果、メチル化率が、正常部位に比べ、がん部位において有意に高くなっているmiRNAとして、miR−200c(配列番号1)、miR−21(配列番号2)、Let−7a(配列番号3)及びmiR−17(配列番号4)が見出された。
【0042】
これら四種のmiRNAについて、正常部位及びがん部位それぞれにおけるメチル化率(%)と、miRNA発現量(log 10)とを測定した結果を
図3に示す(
*P<0.05)。miRNA発現量は、qRT−PCR法により求めた。
【0043】
qRT−PCR法は以下のようにして行った。TaqMan microRNA reverse transcription kit及びTaqMan microRNA assays(ともにApplied Biosystems社)を用い、製品プロトコールに沿って操作を行った。PCRマスターミックスとしてはTHUNDERBIRD(登録商標)SYBR(登録商標) qPCR Mix(東洋紡社)を用いた。
【0044】
使用プライマーを以下に示す。
【0045】
GAPDH:
Forward 5′-agccacatcgctcagacac-3′(配列番号5)
Reverse 5′-gcccaatacgaccaaatcc-3′(配列番号6)
METTL3:
Forward 5′- cgtactacaggatgatggctttc -3′(配列番号7)
Reverse 5′- tttcatctacccgttcataccc -3′(配列番号8)
DNMT1:
Forward 5′- caaacccctttccaaacctc -3′(配列番号9)
Reverse 5′- taatcctggggctaggtgaa -3′(配列番号10)
DNMT2:
Forward 5′- gacattgttcagcccacttgta -3′(配列番号11)
Reverse 5′- taacacagaccctgtcccttct -3′(配列番号12)
DNMT3A:
Forward 5′- accagcattttcctgtcttcat -3′(配列番号13)
Reverse 5′- actgggaaaccaaatacccttt -3′(配列番号14)
DNMT3B:
Forward 5′- gataaactcgagctgcaggact -3′(配列番号15)
Reverse 5′- tcatgacaacagggaaaagttg -3′(配列番号16)
NSUN2:
Forward 5′- aagaaaaggcagctctacatgg -3′(配列番号17)
Reverse 5′- caccgctgttatttctacacca -3′(配列番号18)
MYC:
Forward 5′- gctgcttagacgctggattt -3′(配列番号19)
Reverse 5′- taacgttgaggggcatcg -3′(配列番号20)
【0046】
また、がん進行期と、メチル化率との間に正の相関があることも判った。一例として、直腸がんにおいて、ステージIとIVにおけるメチル化率を、上記4種のmiRNAにおいて測定した結果を
図4に示す。ステージIVにおけるメチル化率のほうが、ステージIにおけるよりも高くなっている傾向があることが判った。
【0047】
B.
実施例2
実施例1と同様に、胃がんの組織検体におけるmiRNAメチル化を定量化した。コントロールとして、同一患者から採取した健常組織を用いた。
【0048】
結果を
図5に示す。正常部位に比べ、がん部位においてmiR−200c、miR−21、Let−7a及びmiR−17のメチル化の程度がいずれも有意に高くなっていることが判った。
【0049】
C.
実施例3
膵がん患者から採取した血清検体を用いて、実施例1と同様の方法によりmiRNAメチル化を定量化した。コントロールとして、健常者の血清検体を用いた。
【0050】
miR−17について定量化した結果を
図6に示す。miR−17のメチル化は、膵がんの全ての血清検体において検出されたが、健常検体においては検出されないか、メチル化の程度が低かった。
【0051】
また、既存の膵がんマーカーであるCA19−9及びCEAによる判定結果(
図6)と比較して、miR−17のメチル化の程度は、膵がんの検出という意味ではより正確な指標となりうることが判った(
図7)。なお、
図7は、横軸に偽陽性率(1−特異度)、縦軸に真陽性率(感度)をプロットした、いわゆるROC(Receiver operating characteristics)曲線である。