【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の加圧バッグ(特許文献1、特許文献2)では、輸液バッグに接する加圧バッグの袋接触膜部が、フレームまたは外側膜面により外側へ拡大移動することが抑制されたまま内側へ向かって輸液バッグを潰すため、膜面にシワが生じやすい。輸液バッグにシワが生じると、シワ構造部の反力により圧力を伝達する力が削がれて薬液に伝わる圧力が小さくなる。その結果、吐出流量が低下してしまうという問題があった。これが第1の課題である。
【0005】
また、加圧力だけでは最終的にシワが潰せない場合に、シワにより生じた空隙に残液が残り、薬液を無駄なく吐出することができないという問題があった。これが第2の課題である。
【0006】
さらに、従来の加圧バッグ(特許文献1、特許文献3)では、加圧バッグの袋接触膜部に、膜面張力が強く働く状態がある。その結果、たとえ加圧バッグ内の圧力が一定であっても、輸液バッグ内の薬液の圧力が変化し、吐出流量が変化してしまうという問題があった。これが第3の課題である。
【0007】
輸液バッグ等を加圧する加圧容器では、加圧バッグ内の昇圧された空気の圧力を、輸液バッグ内の薬液に伝えて、薬液を出口へと押し出す。クレンメなどの簡単な構造の流量制御部の調整状態を一定に保ったまま、薬液の流量(流出速度)を一定にするためには、薬液の液圧を一定に保つことが重要になる。本発明は、これら課題を解決する構造を提案するものであるが、まず、それぞれの課題の原因について説明する。
【0008】
第1の課題は、吐出の終盤に輸液バッグに生じるシワのために伝達される圧力が低下して流量が斬減する問題である。膜面のシワの発生は輸液バッグを潰す圧力に抗する力を生じさせる。
図14にシワに生じる力の概略を示す。加圧バッグからの加圧の力が、輸液バッグ膜面の山を押しつぶすように働く場合、輸液バッグ膜面が押されるが、膜の反力も生じる。この反力は、輸液バッグ膜面が変形に抗する応力や、膜面同士の接触部分の摩擦による抗力が伝わることによって生じる。加圧の力に対して膜の反力が働く。その結果、内部の薬液の圧力を上昇させる力が減じられて、輸液の圧力は加圧空気の圧力よりも小さくなる。直感的にも、点滴袋のような厚手の樹脂製バッグのシワ部分を指で潰そうとすれば、内部に圧力がなくても潰す指に抗力が働くことは容易に想像できる。このような抗力が原因で、吐出が完了する前から薬液の圧力が低下する。その結果、吐出の終盤において流量が低下する。このシワによる抗力が第1の課題の原因である。
【0009】
第2の課題は、このようなシワの空隙に薬液が残り、吐出できない残液が生じる問題である。シワが生じてしまった場合、吐出の最終盤においては
図14に示すようなシワ膜面の曲率半径は小さくなるため、膜材料の曲げられまいとする応力は大きくなる。膜面同士が接触する面積も増えて、摩擦による抗力も生じる。空隙が残ったまま、加圧バッグの力とシワの抗力が拮抗してしまう。その結果、加圧バッグの圧力ではシワを伸ばしてしまうことができずに空隙が最後まで残る。これが輸液バッグに薬液が残液として残ってしまう第2の課題の原因である。
【0010】
従来の加圧バッグ(特許文献2)では、
図15に示されるように、輸液バッグに接する袋接触膜部の端部は、外側膜面があるために、袋接触膜部を伸ばす方向に移動することができない。また、従来の加圧バッグ(特許文献1)であっても、
図16に示されるように、吐出の終盤においては袋接触膜部の端部は、剛体ホルダに突き当たるために袋接触膜部を伸ばす方向に移動し続けることができない。
【0011】
加圧バッグの輸液バッグに対する袋接触膜部は、吐出前の膨らんだ輸液バッグに沿っていた曲面形状から、吐出後に潰れた平面形状に近づく。しかし、端部が輸液バッグから離れる方向に移動できないため、袋接触膜部において膜面の長さが余ってしまい、シワが生じる。加圧バッグの接触面にシワが生じることで輸液バッグの膜面にもシワを誘起させてしまう。その結果、第1の課題及び第2の課題を生じさせてしまう問題があった。
【0012】
第3の課題は、膜面張力が強い場合に、主に吐出序盤において伝達圧力が変化し、流量が変化するという課題である。ここで、膜面張力が強い場合に、伝達圧力が変化する原因について説明する。
【0013】
輸液バッグの表面に曲率がなく、平面となっている部分では、加圧バッグの膜面も平面になる。この場合の圧力伝達の仕組みは次のように考えられる。対面する平らな膜面に垂直な方向に加圧バッグの中の空気の圧力による力が働く。輸液バッグ内の薬液は押されるが、閉じ込められているために膜面から伝わる力に釣り合うまで液圧が上昇する。ここでは液体の深さに関係する水圧については考慮する必要のない条件を前提とした。この場合、仮に加圧バッグの膜面に膜面張力が働いたとしても、膜面が平らであるため、膜面に垂直な方向には、膜面張力による力は働かない。
【0014】
図16に輸液バッグと加圧バッグの膜面に生じている力の関係の概略も示している。薬液が満たされている状態では輸液バッグの袋形状は凸型の曲面を持つことになる。これを外側から密着して圧迫する加圧バッグの膜面は、加圧バッグから見て凹型の曲面となる。曲率を持つ膜面に張力が働いている場合、曲率半径に応じ、張力の合力が膜面の曲面を平らにしようとする方向に働く。このため、輸液バッグ内の薬液の圧力は、加圧バッグ内の空気の圧力による力と、膜面張力の合力による力とを、足し合わせた力に対して、釣り合う力が発生するまで液圧が上昇することになる。その結果、薬液の圧力は、加圧している空気の圧力よりも高い圧力になる。これは、表面張力が働いているために、気泡の内部の圧力が、周囲の液体の圧力よりも高くなる現象と似ていると言える。
【0015】
図17は気泡の内部の圧力が表面張力によって高くなることを説明する際に使用される概念図である。液中に半径Rの気泡が存在し、気泡内の圧力をP
IN、液体の圧力P
OUTとすると、表面張力Tが図のように働いているために、力の平衡状態が保たれて静止状態となるためには、気泡内の圧力P
INが大きくならなければならない。力の平衡を式で表すと式1となる。これを変形すると式2になり、この式はヤング・ラプラスの式と呼ばれている。球面でない場合にこの関係を一般化すると主曲率半径R
1とR
2から求まる平均曲率半径R
Mを表す式3を用いて、式4と表現できる。この現象では、同じ表面張力の大きさであれば、曲率半径が小さくなる小さな気泡になる程、気泡内部気圧が周囲液圧より大きくなる。また、曲率半径が同じであれば、表面張力が大きくなる気液界面の組み合わせになる程、この圧力差は大きくなる。
【0016】
図16の吐出前の状態に示すように、加圧バッグの袋接触膜部につながる面が空間に膨張できる部分があるような状態では、加圧バッグの袋接触膜部は強い張力が張った状態で、輸液バッグの膨らんだ面に沿うように接する。輸液バッグの袋形状は、輸液バッグ内の薬液が吐出されると潰されてくる。膨らんだ状態では輸液バッグ膜面の曲率半径は比較的に小さい。これが吐出されてくると、膜面の大部分は曲率半径が大きい平面に近づいてくる。したがって、加圧バッグの膜面に膜面張力が強く働いている場合、輸液の初期では加圧空気の圧力よりも、薬液の圧力が高くなる。そして、吐出が進むにつれて、だんだんと加圧空気の圧力に近づく現象が生じる。その結果、たとえ加圧空気の圧力を一定に保てたとしても、輸液の初期に比べて中期では、薬液圧力が下がり、流量が低下する現象が生じる。
【0017】
つまり、輸液バッグの加圧容器において膜面張力が強く働く場合には、輸液バッグに曲面部が存在すると、薬液の圧力が加圧空気の圧力よりも余分に高くなる。膜面が平面に近づくにつれて余分な圧力増加がなくなるために輸液の圧力が変化する。このことが、流量が一定にならない第3の課題の原因である。
【0018】
従来の輸液バッグ加圧容器(特許文献1、特許文献3)では、加圧バッグを空気により膨らませながら薬液入りの輸液バッグを圧迫する方式が取られているが、吐出の初期には、加圧バッグの圧迫面は膜面張力が強く張った状態になる構造であって、第3の課題に対する技術的対処が行われていない。周辺大気の空間へ膨張することができる膜部の曲率半径が大きい場合に膜面張力は大きくなる。大気圧と加圧バッグの圧力差を膜面の伸びに伴う膜面張力で釣り合わせる必要があるが、曲率半径が大きい場合には合力を形成する角度が浅いため、より強い膜面張力でなければ合力が大気圧と加圧バッグとの圧力差の力まで到達しないためである。一方で、膜面張力が強く、シワが生じにくい。そのため、シワ空間に残る残液量は少ないため第1の課題と第2の課題は生じにくい。
【0019】
この第3の課題の対応のためには構造的に輸液バッグに接する膜の膜面張力を小さくすることが考えられる。従来の輸液バッグ加圧容器(特許文献2)では、外側の膜面同士が直接つながっており、強い膜面張力は外側膜面で発生し、輸液バッグに接触する内側の膜面は膜面張力がほとんど生じない構造になっている。さらに上述の通り、内側の膜面の幅が広がることなく潰れるために輸液バッグにシワが生じやすい。そのため第3の課題は解決するが、第1の課題と第2の課題の問題が生じる。このように従来の技術では課題解決の両立が困難であった。
【0020】
図13は、従来の方法を模した加圧バッグによる吐出流量の変化を、初期の流量を1として表した。細い実線は、加圧バッグを用いない古典的な吊り下げ式の場合の吐出流量を示している。加圧容器の場合においては、空気圧力はレギュレータにより一定の圧力に制御されている。従来技術による方法のうち、膜面張力が強く生じる加圧バッグA(強い膜面張力:点線)では、吐出序盤において、吊り下げ式よりも流量低下が大きく、第3の課題(序盤の流量変化)が解決できていないことが示されている。一方で膜面張力がほとんど生じない加圧バッグB(弱い膜面張力:破線)では、吐出終盤において、吊り下げ式よりも早く流量低下が生じ、緩慢に流量低下しており、第1の課題(終盤の流量低下)が解決できていないことが示されている。
【0021】
また、薬液が吐出される針先を秤量ビーカーの上で解放している場合に、充填された液量に対する吐出量の比率を調べた。吊り下げ式は100%吐出できるのに対し、加圧バッグAは98.7%を吐出して遜色がなく、第2の課題(残液)が生じないことを示しているのに対し、加圧バッグBは、95.3%しか吐出できずに残液が生じており、シワの発生による第2の課題が存在していることを示している。
【0022】
そこで本発明は、袋接触膜部の外側に周辺大気の空間に対して膨張可能な膨張膜部を備え、輸液バッグの吐出に伴う変形に応じて、この膨張膜部が袋接触膜部にシワが生じない方向に移動することができるように構成することで、輸液バッグの膜にシワを生じさせないで、第1の課題と第2の課題を解決する加圧容器を提供する。さらに、この膨張膜部の面積を小さく制限し、膨張部の曲率半径を小さくすることにより膜面張力を弱くして、第3の課題を解決する輸液バッグ加圧容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記の目的を達成するために、本発明では以下の技術的手段を講じた。
【0024】
請求項1に係る発明は、流動体が充填された充填袋の内容物を吐出するための加圧容器であって、充填袋を収納する収納部と、充填袋を圧迫するための圧力伝達流体が注入されて膨張する加圧バッグと、充填袋や加圧バッグを支持する外板と、を備えている。この加圧バッグと外板のいずれか、または、両方で充填袋を収納する収納部を構成している。加圧バッグを構成する袋体は一つであっても、二つであってもよい。収納部は、外板と加圧バッグの間であっても、二つの加圧バッグの間であってもよい。
【0025】
加圧バッグは、圧力伝達流体を昇圧調整する手段との接続部を有し、昇圧された圧力伝達流体により充填袋を圧迫するように構成されている。
【0026】
加圧バッグの膜面は、充填袋に接触して圧力を伝達する袋接触膜部と、外板に接触して形状が保持される外板接触膜部と、外板により膨張方向が制限され、周辺空間に対して膨張可能な膨張膜部と、を有している。外板は、加圧バッグの外板接触膜部の膨張を制限するものであればよく、容易に変形しない剛体外板であっても、容易に膨張伸長しない布のような柔軟な材料と骨組みの組み合わせであってもよい。
【0027】
さらに、膨張膜部が、流動体の量の変化に伴う充填袋の変形に応じて、袋接触膜部にシワが生じない方向へと移動可能な膨張空間部が設けられている。膨張膜部は、袋接触膜部のシワを伸ばすように移動できるもので、充填袋の膜面が湾曲形状から、吐出に伴い平面形状に近づくような場合に、輸液バッグの両端幅が広がる状況に応じて充填袋から遠ざかる方向に移動する。
【0028】
また、加圧バッグが一つで、輸液バッグが湾曲状の外板に押し付けられるような場合にあっては、充填袋の膜面が平面から湾曲状の外板に押し付けられるように吐出する際に輸液バッグの両端幅が再び狭まる状況では、膨張膜部は、袋接触膜部のシワを伸ばした状態のまま充填袋に近づく方向に移動することがあってもよい。
【0029】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の加圧容器において、膨張空間部には、膨張膜部の移動方向に対する垂直面の空間断面積が狭くなるように制限された狭小部が設けられていることを特徴とする。
【0030】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の加圧容器において、膨張空間部には、膨張膜部の移動方向に対する垂直面の空間断面積が、収納部に近い内側で狭くなるように制限された内側狭小部と、収納部から遠い外側で広くなるように拡大された外側拡大部と、が設けられていることを特徴とする。
【0031】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の加圧容器において、膨張空間部は、内側狭小部から外側拡大部に向かって空間断面積が徐々に拡大していくように構成されていることを特徴とする。
【0032】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の加圧容器において、加圧バッグが二つの袋体により構成され、膨張膜部と袋接触膜部との間に二つの袋体同士を接続する袋体接続部が設けられていることにより、充填袋を収納する収納部が構成されていることを特徴とする。
【0033】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の加圧容器において、加圧バッグには、袋体接続部に沿って骨棒が設けられていることを特徴とする。