特許第6980523号(P6980523)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6980523
(24)【登録日】2021年11月19日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】凍結ミンチ状魚肉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20211202BHJP
   A23L 17/10 20160101ALI20211202BHJP
【FI】
   A23L17/00 E
   A23L17/00 F
   A23L17/10
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-518587(P2017-518587)
(86)(22)【出願日】2017年3月27日
(86)【国際出願番号】JP2017012423
(87)【国際公開番号】WO2017170420
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2020年1月27日
(31)【優先権主張番号】特願2016-69201(P2016-69201)
(32)【優先日】2016年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】日本水産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】大庭 貴弘
【審査官】 二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−125738(JP,A)
【文献】 国際公開第1997/004671(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/117614(WO,A1)
【文献】 特開平07−250614(JP,A)
【文献】 特開2009−017868(JP,A)
【文献】 特開2005−305404(JP,A)
【文献】 特開平10−327745(JP,A)
【文献】 特開昭58−101641(JP,A)
【文献】 特開2000−295960(JP,A)
【文献】 CO・OPおさかなのパラパラミンチ [オンライン],2016年01月,http://www.coopnet.jp/product/osusume_coop/2016/201601.html,[検索日 2017.06.07]
【文献】 ミートチョッパー [オンライン],2015年05月15日,http://www.endoshoji.co.jp/QA/QA/CMC11.html,[検索日 2017.06.08]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/00
A23L 17/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラ状に凍結されたミンチ状魚肉の製造方法であって、以下の工程を含む;
a)−20℃以下に凍結された魚肉を−10〜−5℃に昇温する、
b)魚肉の温度を−10〜−5℃に維持したまま、フィードスクリュー、プレート及びプレートナイフを有するタイプの肉挽き機を用い、プレートナイフの回転速度を200回転/分以下の速度で、プレートナイフとフィードスクリューの間のクリアランス(間隙)を1mm以下に保持するように調整して魚肉をミンチにする、
c)ミンチ状魚肉を−20℃以下に冷却する、
d)−20℃以下に凍結したミンチ状魚肉をバラ状に粉砕する。
【請求項2】
原料魚肉としてフィッシュブロック、冷凍すり身又は冷凍落とし身を用いることを特徴とする請求項の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜肉のミンチ肉のような粒形状にバラ凍結されたミンチ状魚肉の凍結品の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚肉の消費が畜肉ほど伸びない理由の一つとして、骨や内臓があって、調理に手間がかかり面倒であるという理由が挙げられている。畜肉のミンチ肉のような、少量でも手軽に使用できる形状で魚肉を提供することができたら、という考えは以前から存在する。しかしながら、魚肉と畜肉では組成や物性が異なり、魚肉の物性はもろく、繊維も細かく、油脂の含量は少ないが、酸化安定性が低いなど、さまざまな理由から、実用化には至っていなかった。
【0003】
特許文献1には、「ミンチにすると常温で粘着性を有する物質を、0℃〜−10℃の間の品温を保持してミンチにした後これを−10℃以下の温度を保持しながら撹拌して凍結したことを特徴とするバラ状に凍結したミンチ状食品の製造方法」が開示されており、実施例では、牛肉をミンチにした後、雪状ドライアイスでミンチ肉をバラ状に凍結させたことが開示されている。
特許文献2には、「食品を0℃〜−10℃の間の品温を保持してミンチにした後、これを−10℃以下の温度を保持しながら攪拌してバラ状凍結する方法において、ミンチ状食品をコンベアで搬送し、回転ドラムの入口からその内部に供給する時に、該ミンチ状食品又は該ミンチ状食品と回転ドラム内とにドライアイススノーを供給し、該食品とドライアイススノーの混合物を回転ドラム内で攪拌してバラ状凍結品を得ることを特徴とするミンチ状食品のバラ状凍結方法」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−101641号
【特許文献2】特開平7−250614号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、畜肉のミンチ肉のような粒形状にバラ凍結されたミンチ状魚肉の凍結品を品質よく、簡易な方法で製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ミンチ状魚肉の凍結品を簡易な方法で安価に提供するため、さまざまな方法を試みた。その中で、原料を厳選し、畜肉に用いられるミートチョッパー(肉挽き機)の使い方を工夫することにより、品質の良いミンチ状魚肉の凍結品を得ることができることを見出した。
本発明は、以下の(1)及び(2)の製造方法を要旨とする。
(1)バラ状に凍結されたミンチ状魚肉の製造方法であって、以下の工程を含む;
a)−20℃以下に凍結された魚肉を−10〜−5℃に昇温する、
b)魚肉の温度を−10〜−5℃に維持したまま、フィードスクリュー、プレート及びプレートナイフを有するタイプの肉挽き機を用い、プレートナイフの回転速度を200回転/分以下の速度で、プレートナイフとフィードスクリューの間のクリアランス(間隙)を1mm以下に保持するように調整して魚肉をミンチにする、
c)ミンチ状魚肉を−20℃以下に冷却する、
d)−20℃以下に凍結したミンチ状魚肉をバラ状に粉砕する。
(2)原料魚肉としてフィッシュブロック、冷凍すり身又は冷凍落とし身を用いることを特徴とする()の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法により、本来の円柱形状ではなく、半円柱形状、フレーク状、あるいは、切りくずなど不完全形状である小さい肉片の含有率の少ない品質のよい凍結バラ状魚肉を製造することができる。本発明の凍結バラ状魚肉は、−30〜−15℃程度のコールドチェーンで流通することができ、6〜12ヵ月程度品質を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】肉挽き機の構造を説明するための模式図である。
図2】実施例において、プレートナイフ及びフィードスクリューの回転数を121回転/分にしたときの製品の写真である。
図3】実施例において、プレートナイフ及びフィードスクリューの回転数を162回転/分にしたときの製品の写真である。
図4】実施例において、プレートナイフ及びフィードスクリューの回転数を203回転/分にしたときの製品の写真である。
図5】実施例において、プレートナイフ及びフィードスクリューの回転数を243回転/分にしたときの製品の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明はミンチ(挽肉)状にカットされたミンチ状魚肉に関する。
用いる魚肉はどんな魚肉でもよいが、筋肉がしっかりした魚種が好ましい。具体的には、ナマズ目(アメリカナマズ・パンガシウス等)、サケ目(ギンザケ・ベニザケ等)、タラ目(スケトウダラ・ホキ・メルルーサ等)、ニシン目(カタクチイワシ・マイワシ等)、ダツ目(サンマ・トビウオ等)、キンメダイ目、タウナギ目(マゴチ・ギンダラ等)、スズキ目(マグロ・ブリ・ヒメジ・ナイルティラピア・スギ・アジ・タチウオ・ゴマサバ・カツオ・マダイ・イヨヨリダイ・グチ等)、カレイ目(ヒラメ・オヒョウ・カラスガレイ等)などが例示される。皮、内臓、骨などを除去した魚肉を用いる。生の魚肉をそのまま凍結したもの、生の魚肉をブロック凍結したフィッシュブロック、生の魚肉をすり身にしてから凍結した冷凍すり身などを原料とすることができる。魚肉のまま用いると魚肉の味・風味が生かされたミンチを製造することができ、冷凍すり身を原料とすると、保存性の点ですぐれ、色や臭いが少ない汎用性の高いミンチ状魚肉を製造することができる。白身魚及び鮭鱒類は赤身魚と比べて、色や臭いの点で冷凍保存に適している。
【0010】
白身魚の冷凍すり身は、タラ目タラ科に属するスケトウダラ(Theragra chalcogram)、ミナミダラ(Micromesistius australis)、タラ目マクルロヌス科に属するホキ(Macruronus magellanicus)などのタラ類やヒメ目エソ科に属するエソ(Saurida sp.)などのエソ類の魚肉を採肉後、水晒しし、脱水後、凍結されたものであり、多くは、塩類、糖類などの冷凍変性防止剤を添加したうえで、凍結流通されている。
生の魚の凍結ブロックは、通常、頭、内臓、皮、骨などを除去した魚肉を凍結パンなどに詰めて、ブロック状に凍結したものである。
【0011】
本発明の凍結ミンチ状魚肉の製造は以下のとおり行う。
冷凍すり身又は魚肉の凍結ブロックを冷蔵庫内にて−10〜−5℃に昇温する。−10℃以下では固すぎ、−5℃以上では肉挽き機から出てくる段階で温度が上がりすぎ、挽き肉にした魚肉同士が付着してしまうため好ましくない。肉挽き機にかけるのに適当な大きさにバンドソー、サイレントカッターなどで細断する。肉挽き機の種類や大きさによって、3〜5cm角程度のサイコロ状、あるいは、断面が3〜5cm角程度の棒状などにカットする。サイレントカッターの場合、それらに準じる程度の大きさになるまで撹拌する。この細断の間も魚肉の温度が上昇しないよう−10〜−5℃に維持する。
【0012】
細断した魚肉を肉挽き機に投入し、ミンチ状魚肉とする。肉挽き機は畜肉で用いられているものなら何でもよい。一定の直径の孔から押し出す仕組みの装置である。一般的には、図1の模式図に例示されるような、肉を押し込むためのフィードスクリュー、一定の直径の孔を有するプレート、及びプレートの手前で回転し肉の繊維をカットするプレートナイフを備えた構造を有する。さらにフィードスクリューに魚肉を供給するためのチャージングスクリューを有するタイプがある。
【0013】
肉挽き機に凍結魚肉をかける場合に重要なのが、フィードスクリューとチャージングスクリューの送りのバランスである。凍結した塊状であるため、塊と塊の間に隙間ができやすく、隙間があるとプレートの孔の全面を満たした形ではなく、半分のかけらのようなもの、円柱ではなくフレーク状のものなどの混入比率が高くなる。特に、大きな孔のプレートを用いて、粗挽きミンチというような大粒のミンチ肉を製造する場合に問題となる。フィードスクリューの送り量よりもチャージングスクリューの送り量が大きくなるように調整する必要がある。
【0014】
さらに重要なのは、プレートナイフの回転速度である。プレートナイフは通常フィードスクリューと連結されているので、フィードスクリューと同じスピードで回転する。フィードスクリューの速度を高くすれば、製造効率を高めることができるが、これが、不完全形状品の発生率を高めてしまうことを見出した。具体的には、プレートナイフの回転速度を200回転/分以下、好ましくは165回転以下、さらに好ましくは130回転以下で行うことにより、不完全形状品の発生を抑制することができる。実施例に示すようにプレートナイフの速度を制限することにより、不完全形状品を10重量%以下に低減することができる。
また、プレートナイフとフィードスクリューは、固定してしまわず、バネにより一定のクリアランスがとられていることが多いが、このクリアランスが大きくなると不完全形状品の発生率が高くなるため、1mm以下、さらには0.5mm以下に調節することが好ましい。できるだけ0mmに近づけ、実質的に0mmにするのが特に好ましい。
【0015】
上記のような方法で製造した凍結ミンチ状魚肉は肉粒が略円柱形状ではなく、半円柱形状やフレーク状、あるいは糸状の不完全な形状のものの比率が10重量%以下、好ましくは7重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下であり、プレートの孔の直径、具体的には3〜7mmの直径の略円柱形状の肉粒を90重量%以上含み、不完全形状品がめだたない良好な品質のものとなる。本発明において略円柱形状とは、完全な円柱形状または、それがゆがんだりしたものを含み、短径が2mm以下にゆがんだものや、もともと円柱ではなく、短径が2mm以下の不完全な形状で押し出されたものなどを除いたものである。
【0016】
本発明の製品は凍結前未加熱品であり、摂取する際には加熱して食する食品であるが、生の魚肉であり、表面積が広いことから、細菌汚染等についても配慮する必要がある。原料の凍結魚肉の段階で、一般細菌数が10以下、好ましくは、10以下の原料を用いることが必要である。製造工程は、低温下で行われるので、細菌が増殖することはない。
また、原料として、冷凍すり身又は落とし身を使用する場合、水分量が76重量%以下のものを用いるのが好ましい。しっかり脱水され、水分量を低く抑えてあるすり身、落とし身は、タンパク質含量も高く、細菌汚染の可能性も少ない。また、水分量が低いことにより、ミンチ状魚肉の固さもしっかりしたものとなり、形状が保持される。
酸化防止剤、保存剤などを添加してもよい。添加するのは、すり身の段階、ミンチ製造前に魚肉をカットする段階、あるいは、ミンチ製造後に混合、噴霧などの方法で添加することができる。ミンチ製造後、再凍結後であれば、他の冷凍食材と混合することもできる。
【0017】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
スケトウダラのすり身ブロック(Unisea, Inc.、A grade、水分含量73.9g/100g、砂糖、ソルビトール合計8重量%含有)を凍結バンドソーにて4cm角程度の大きさにカットし、−10〜−8℃に保存し、肉挽き機(株式会社日本キャリア工業製 ミートグラインダー #42 GM-P4、プレート(プレート径3.2mm)、一段挽き、プレートナイフとフィードスクリューの間のクリアランス(間隙)は0mmに調整して用いた)を用いてミンチ状に押し出した。押出し時の温度は−3〜−2℃であった。そのまま、−25℃以下のフリーザーにて中心温度が−18℃以下になるまで、再凍結した。再凍結時にバラ状ミンチ同士が一部付着することがあるので、再凍結したミンチ状魚肉を粉砕機(岩田屋フード株式会社製、パラパラミンチ製造機)にてバラ状に戻し、袋詰めした。
肉挽き機のプレートカッター及びフィードスクリューの運転条件を、121、162、203、243回転/分に代えて、凍結ミンチ状魚肉を製造した。
【0019】
結果を表1及び図2−5に示す。表1のとおり、回転速度が高くなるほど、不完全形状品の発生率が高くなった。それぞれの写真をそれぞれ図2〜5に示す。
原料の一般細菌数は10以下(2.3×10)でり、上記の工程を経て製造したミンチ魚肉も10以下(4.0×10)であった。
このミンチ状魚肉をフライパンに油を引き、炒めたところ、通常の畜肉ミンチ肉のように、粒状に加熱され、各種料理の素材として用いることができるものであった。
【0020】
【表1】
【実施例2】
【0021】
スケトウダラのフィッシュブロック、及びサケフィッシュブロックを原料として凍結ミンチ状魚肉を製造した。方法は実施例1と同じである。押出し時の温度は−5℃以下に維持されていた。肉挽き機のプレートカッター及びフィードスクリューの運転条件は162回転/分(40Hz)とした。
実施例1と同様に、完全な形状の比率率をカウントしたところ、スケソウフィッシュブロック原料を用いた、98.6%、サケフィッシュブロック原料を用いた場合、95.8%であり、いずれの原料を用いた場合にも良好な結果を得られた。
【実施例3】
【0022】
実施例1及び2で製造した凍結ミンチ状魚肉の成分分析の結果を表2に示す。
【0023】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の凍結ミンチ状魚肉は、畜肉のミンチ肉のように必要に応じて適量、簡便に使用することができるので、魚肉の調理には手間がかかるという問題点を解消し、利用しやすい汎用性の高い魚肉食材を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5