特許第6981264号(P6981264)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6981264立体造形用樹脂粉末、及び立体造形物の製造装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981264
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】立体造形用樹脂粉末、及び立体造形物の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/153 20170101AFI20211202BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20211202BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20211202BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20211202BHJP
【FI】
   B29C64/153
   B33Y70/00
   B33Y30/00
   B29C64/165
【請求項の数】13
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-2827(P2018-2827)
(22)【出願日】2018年1月11日
(65)【公開番号】特開2018-154116(P2018-154116A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2020年9月16日
(31)【優先権主張番号】特願2017-52666(P2017-52666)
(32)【優先日】2017年3月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】飯田 崇一朗
(72)【発明者】
【氏名】谷口 重徳
(72)【発明者】
【氏名】岩附 仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康夫
(72)【発明者】
【氏名】田元 望
(72)【発明者】
【氏名】樋口 信三
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 啓
(72)【発明者】
【氏名】山下 康之
(72)【発明者】
【氏名】鴨田 紀一
【審査官】 関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】 特表2018−523718(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/199244(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/196149(WO,A1)
【文献】 特開2016−040121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00−64/40
B33Y 10/00、30/00、70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略柱体樹脂粒子を含む立体造形用樹脂粉末であって、
前記略柱体樹脂粒子が、その周側面に凹部を有する略柱体樹脂粒子を含み、
前記立体造形用樹脂粉末の比重が、0.8以上であることを特徴とする立体造形用樹脂粉末。
【請求項2】
前記立体造形用樹脂粉末の50%累積体積粒径が、5μm以上200μm以下である請求項1に記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項3】
前記立体造形用樹脂粉末の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.80以上である請求項1から2のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項4】
前記立体造形用樹脂粉末の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である請求項1から3のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項5】
前記立体造形用樹脂粉末の体積平均粒径と、前記立体造形用樹脂粉末の数平均粒径との粒径比(体積平均粒径/数平均粒径)が、2.00以下である請求項1から4のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項6】
前記立体造形用樹脂粉末が、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアリールケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリアセタール、ポリイミド、及びフッ素樹脂から選択される少なくとも1種を含む請求項1から5のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項7】
前記ポリアミドが、芳香族ポリアミドを含む、ポリアミド410、ポリアミド4T、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6、ポリアミド610、ポリアミド6T、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド9T、ポリアミド10T、及びアラミドから選択される少なくとも1種である請求項6に記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項8】
前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリ乳酸から選択される少なくとも1種である請求項6から7のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項9】
前記ポリエーテルが、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、及びポリエーテルケトンケトンから選択される少なくとも1種である請求項6から8のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項10】
前記立体造形用樹脂粉末の安息角が、60度以下である請求項1から9のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項11】
下記(1)〜(3)から選択される少なくとも1種を満たす請求項1から10のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
(1)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf1とし、その後、10℃/minにて、−30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf2としたときに、Tmf1>Tmf2となる。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から−15mW下がった時点での温度である。
(2)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd1とし、その後、10℃/minにて、−30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd2としたときに、Cd1>Cd2となる。
(3)X線回折測定により得られる結晶化度をCx1とし、窒素雰囲気下10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温し、その後、10℃/minにて、−30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときのX線回折測定により得られる結晶化度をCx2としたときに、Cx1>Cx2となる。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成手段と、
前記層の選択された領域内の前記立体造形用樹脂粉末同士を接着させる粉末接着手段と、を有することを特徴とする立体造形物の製造装置。
【請求項13】
前記粉末接着手段が、電磁波を照射する手段である請求項12に記載の立体造形物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体造形用樹脂粉末、及び立体造形物の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末積層造形法は、粉末状の材料にレーザーやバインダーを用いて、一層ずつ固めて造形する方法である。
【0003】
前記レーザーを用いる方法は、粉末床溶融(PBF:powder bed fusion)方式と称され、例えば、選択的にレーザーを照射して立体造形物を形成するSLS(selective leser sintering)方式や、マスクを使い平面状にレーザーを当てるSMS(selective mask sintering)方式などが知られている。一方、前記バインダーを用いる方法は、例えば、バインダー樹脂を含むインクをインクジェット等の方法により吐出して立体造形物を形成するバインダージェット(Binder Jetting)方式などが知られている。
【0004】
これらの中でも、前記PBF方式は、レーザー光線を金属やセラミックス又は樹脂の薄層に選択的にレーザーを照射することにより粉末を溶融接着させ、成膜した後、前記成膜した膜の上に別の層を形成して同様の操作を繰り返すことにより順次積層して立体造形物を得ることができる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
現在、PBF方式には、ポリアミド樹脂が多く用いられ、特に、ポリアミド12は、ポリアミドの中でも、比較的低い融点を持ち、熱収縮率が小さい点や吸水性が低い点から好適に用いることができる。
近年では、試作用途の他に、造形物を最終製品として使用する需要が増えてきており、様々な樹脂を使用したいとの要望が増えてきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、流動化剤を添加せずとも、リコート時の粉面の平滑性に優れ、得られる立体造形物の表面性が良好な立体造形用樹脂粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としての本発明の立体造形用樹脂粉末は、略柱体樹脂粒子を含む立体造形用樹脂粉末であって、前記略柱体樹脂粒子が、その周側面に凹部を有する略柱体樹脂粒子を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、流動化剤を添加せずとも、リコート時の粉面の平滑性に優れ、得られる立体造形物の表面性が良好な立体造形用樹脂粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A図1Aは、周側面に凹部を有する略柱体樹脂粒子の一例を示す模式斜視図である。
図1B図1Bは、図1Aの略柱体樹脂粒子の側面図である。
図2A図2Aは、略柱体樹脂粒子の一例を示す概略斜視図である。
図2B図2Bは、図2Aの略柱体樹脂粒子の側面図である。
図2C図2Cは、略柱体樹脂粒子の端部に頂点を持たない形状の一例を示す側面図である。
図3図3は、安息角の測定方法の一例を示す概略図である。
図4図4は、本発明の立体造形物の製造方法に用いられる立体造形物の製造装置の一例を示す概略説明図である。
図5A図5Aは、平滑な表面を有する粉末層を形成する工程の一例を示す概略図である。
図5B図5Bは、平滑な表面を有する粉末層を形成する工程の一例を示す概略図である。
図5C図5Cは、立体造形用液体材料を滴下する工程の一例を示す概略図である。
図5D図5Dは、造形用粉末貯蔵槽に新たに樹脂粉末層が形成される工程の一例を示す概略図である。
図5E図5Eは、造形用粉末貯蔵槽に新たに樹脂粉末層が形成される工程の一例を示す概略図である。
図5F図5Fは、再び立体造形用液体材料を滴下する工程の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(立体造形用樹脂粉末)
本発明の立体造形用樹脂粉末(以下、「樹脂粉末」とも称することがある)は、略柱体樹脂粒子を含む立体造形用樹脂粉末であって、前記略柱体樹脂粒子が、その周側面に凹部を有する略柱体樹脂粒子を含み、更に必要に応じて、その他の成分を含む。
本発明の立体造形用樹脂粉末は、従来の立体造形用樹脂粉末では、流動化剤が添加されていないと、粉末層を形成(リコート)した際の粉面の平滑性が低く、造形された立体造形物の表面性が著しく低下するという問題があるという知見に基づくものである。
本発明の立体造形用樹脂粉末は、無機粒子を実質的に含まないことが好ましい。無機粒子を実質的に含まないとは、無機粒子の含有量が、立体造形用樹脂粉末全量に対して、0.05質量%未満であることを意味し、好ましくは0質量%(検出限界以下)である。
【0011】
<略柱体樹脂粒子>
前記略柱体樹脂粒子は、周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有する。
前記略柱体樹脂粒子としては、底面と上面を持つ柱状あるいは筒状の形状を有する粒子であり、例えば、略円柱体樹脂粒子や多角柱体樹脂粒子など、底面や上面の形状に特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。底面や上面の形状が円や楕円形状であれば略円柱体樹脂粒子であり、四角形あるいは六角形など多角形であれば多角柱体樹脂粒子である。底面と上面の間に柱状あるいは筒状の領域を有するものであれば、底面と上面の形状は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、底面や上面と柱の部分(側面)とが直交した直柱体樹脂粒子であってもよいし、直交していない斜柱体樹脂粒子であってもよい。
【0012】
前記立体造形用樹脂粉末が、周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有する略柱体樹脂粒子を含むことにより、安息角が小さく、リコート時の粉面平滑性が高い粉体を得ることができる。その結果、得られる立体造形物の表面性を高めることができる。
【0013】
前記略柱体樹脂粒子としては、生産性と造形の安定性から、底面と上面は略平行で直柱体樹脂粒子に近い方が好ましい。なお、前記略柱体樹脂粒子の形状は、例えば、走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(装置名:FPIA−3000、シスメックス社製)などを用いて観察することにより判別することができる。
【0014】
前記周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有する略柱体樹脂粒子における周側面の略中央部に周方向に形成された凹部とは、図1A及び図1Bに示すような底面と上面よりも直径が小さな部位を意味する。図1Aは、周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有する略柱体樹脂粒子の一例を示す模式斜視図である。図1Bは、図1Aの略柱体樹脂粒子の側面図である。前記凹部100は、略柱体樹脂粒子の周側面の略中央部に周方向の少なくとも一部に形成されていればよく、周側面全体に形成されていることがより好ましい。前記略中央部は、略柱体樹脂粒子の上面と底面との間であればよく、上面又は、底面と凹部100が接していてもよい。
また、前記凹部100としては、略柱体樹脂粒子の上面と底面となだらかに連なったくびれ形状であってもよい。前記略柱体樹脂粒子の表面に周側面の略中央部に周方向に形成された凹部100を有することにより他の粒子との接触面積が減り、粒子抵抗が減少することで流動性を向上できる。また、このとき粒子の端部が角を持たない方が、より粒子抵抗が減少し、流動性の向上が見込まれるため好ましい。
【0015】
前記立体造形用樹脂粉末としては、略柱体樹脂粒子を含み、前記略柱体樹脂粒子のみで形成されていることが好ましいが、その他の粒子、その他の成分を含んでもよい。
【0016】
−略円柱体樹脂粒子−
前記略円柱体樹脂粒子の一例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真円柱体樹脂粒子、楕円柱体樹脂粒子などが挙げられる。これらの中でも、真円柱体樹脂粒子に近い方がより好ましい。なお、前記略円柱体樹脂粒子の略円とは、長径と短径との比(長径/短径)が、1〜10であるものを意味し、円部分の一部が欠けたものも含まれる。
前記略円柱体樹脂粒子は、略円の向かい合う面を有することが好ましい。前記向かい合う面の円の大きさがずれていてもよいが、大きい面と小さい面との円の直径の比(大きい面/小さい面)としては、密度を高める上で有効であることから、1.5倍以下が好ましく、1.1倍以下がより好ましい。
【0017】
前記略円柱体樹脂粒子の底面の長辺は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上200μm以下が好ましい。なお、前記略円柱体樹脂粒子における底面の長辺とは、底面の直径を表す。略円柱体樹脂粒子の円形部分が楕円形である場合は、長径を意味する。また、前記略円柱体の高さ(底面と上面との距離)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上200μm以下が好ましい。前記底面の長辺が、範囲内であることにより、粉末層の形成時に樹脂粉末の巻き上げを低減でき、粉末層の表面が平滑になり、また樹脂粉末の間にできる空隙を低減することができ、立体造形物の表面性や寸法精度をより高める効果が得られる。
なお、前記粒子の底面の長辺及び高さが、5μm未満、又は200μm超のものが含まれていてもよいが、少ない方が好ましい。具体的には、底面の長辺及び高さが5μm以上200μm以下である粒子が、すべての粒子に対して50%以上が好ましく、75%以上がより好ましい。
【0018】
前記略円柱体樹脂粒子の底面における長辺と高さは、近い方が好ましい。例えば、底面における長辺に対する高さの比は、0.5倍以上2倍以下が好ましく、0.7倍以上1.5倍以下がより好ましい。前記底面における長辺に対する高さの比が、上記範囲内であることにより、立体造形時に立体造形用樹脂粉末の層を形成する際、空隙が少なく、立体造形用樹脂粉末がより密に充填されやすくなり、得られる立体造形物の強度や寸法精度を高める上で有効である。
【0019】
前記略柱体樹脂粒子は、底面と上面を有する柱体形状を有するが、粒子の端部が頂点を持たない形状であることが好ましい。前記頂点とは、柱体の中に存在する角の部分をいう。例えば、図2Aは、略柱体樹脂粒子の一例を示す概略斜視図である。図2Aに示す略柱体樹脂粒子の側面図は図2Bで表される。この場合、長方形の形状を有しており、角の部分、即ち頂点が4箇所存在する。この頂点を持たない形状の一例を図2Cに示す。実際に頂点の有無を確認するためには、前記略柱体樹脂粒子の側面に対する投影像から判別することができる。例えば、略柱体樹脂粒子の側面に対して、走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)などを用いて観察し、二次元像として取得する。この場合、投影像は4辺形となり、各々隣り合う2辺によって構成される部位を端部とすると、隣り合う2つの直線のみで構成される場合は、角が形成され頂点を持つことになり、図2Cのように端部が円弧によって構成される場合は頂点を持たないことになる。
このように、略柱体樹脂粒子において頂点を持たないような形状にすることにより、前記安息角をより小さくすることが可能になり、流動性が向上し、リコート時の粉面平滑性をより一層高めることができ、立体造形物の表面性を高める上で非常に有効である。
【0020】
前記立体造形用樹脂粉末としては、周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有する略柱体樹脂粒子の割合が高い方がより好ましい。具体的には、すべての略柱体樹脂粒子に対する周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有する略柱体樹脂粒子の含有比率は、50%以上が好ましく、75%以上がより好ましく、90%以上が特に好ましい。前記含有比率が、50%以上であると、立体造形用樹脂粉末の流動性が高まり、流動化剤を添加せずとも、リコート時の粉面の平滑性に優れ、得られる立体造形物の表面性を向上することができる。
【0021】
前記略柱体樹脂粒子が周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有するかどうかを判別する方法としては、例えば、前述のように走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)等を用いて立体造形用樹脂粉末を観察し、得られた二次元像からすべての略柱体樹脂粒子に対する周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有する粒子の割合を求めることによって判別することができる。例えば、上記の方法により10視野の二次元像を撮影し、全略柱体樹脂粒子に対する周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有する略柱体樹脂粒子の割合を求め、平均することにより求めることができる。
なお、前記周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有する略柱体樹脂粒子においては、整った略円柱体樹脂粒子又は多角柱体樹脂粒子である必要はなく、端部が引き伸ばされた形状、又は押しつぶされたり、曲がったりした形状のものを含んでいてもよい。
このように、前記立体造形用樹脂粉末中の略柱体樹脂粒子について周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有する略柱体樹脂粒子の形状にする方法としては、略柱体樹脂粒子に物理的な力を与えることが可能な方法であれば、いずれの方法でも使用可能であり、例えば、高速回転式の機械粉砕や高速衝撃式の機械粉砕、ボールミルなど、従来公知の処理装置を使用することができる。
【0022】
−安息角−
前記立体造形用樹脂粉末の安息角としては、60度以下が好ましく、55度以下がより好ましい。前記安息角が、60度以下であると、前記立体造形用樹脂粉末の流動性を確保でき、リコート時の粉面の平滑性を向上することができる。
前記安息角とは、図3に示すように、篩10にかけた立体造形用樹脂粉末12を漏斗11から自由落下させた際に、台座14上に、立体造形用樹脂粉末12’が形成する山の床面と斜面とが形成する角度13を意味する。前記安息角は、立体造形用樹脂粉末の流動性を示す指標であり、その角度が小さいものほど流動性に優れる。立体造形用装置内で粉末は回転ローラにより均され積層されるが、このとき流動性に優れる粉体は平滑な面を形成することができるが、流動性に優れない立体造形用樹脂粉末は、積層面に凹凸が見られ、これは最終的な造形物の表面性状にも影響を及ぼし、表面性を低下させる。
【0023】
前記安息角は、図3に示すように、篩10(JIS規格 Z8801−1−2000 目開き125μm)を、かさ比重測定器(Z−2504、蔵持科学株式会社製)から構成される測定装置を用いて測定することができる。かさ比重径は、漏斗11の穴径直径2.5mmのものを用い、その下に直径30mmの円柱形状の台座14を配置する。立体造形用樹脂粉末12を篩10の上から投入し漏斗11を通過し、台座14上に山型を形成して立体造形用樹脂粉末12’を配置する。このときの投入量は、少なくとも立体造形用樹脂粉末12が台座14上からこぼれ落ちる量以上を投入し、かつ側面から確認して円錐が形成される量以上とする。安息角の測定はカメラによる像取得によって行う。カメラの配置は台座14とレンズとの距離を60mm、レンズの高さを台座14の上面と同じ高さとし、山の側面像を撮影する。この山の底面と斜面から構成される角度が安息角であり、得られた像から三角法を用いてその角度を算出した。計測は各2回行い、平均値を安息角とすることができる。
【0024】
−平均円形度−
前記立体造形用樹脂粉末の平均円形度としては、前記立体造形用樹脂粉末の粒径が0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.80以上が好ましく、0.83以上がより好ましく、0.85以上が更に好ましい。前記平均円形度の上限としては、1.0以下が好ましく、0.98以下がより好ましい。前記平均円形度とは、円らしさを表す指標であり、1が最も円に近いことを意味する。前記平均円形度は、面積(画素数)をSとし、周囲長をLとしたときに、下式(1)により円形度を測定し、それらを算術平均した値を用いることができる。
円形度=4πS/L ・・・式(1)
【0025】
前記平均円形度を簡易的に求める方法としては、例えば、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(装置名:FPIA−3000、シスメックス社製)を用いて測定することにより、数値化することができる。前記湿式フロー式粒子径・形状分析装置は、ガラスセル中を流れる懸濁液中の粒子画像をCCDで高速撮像し、個々の粒子画像をリアルタイムに解析することができ、このような粒子を撮影し、画像解析を行う装置が、前記平均円形度を求める上で有効である。測定カウント数としては、特に制限はないが、1,000以上が好ましく、3,000以上がより好ましい。
【0026】
−50%累積体積粒径−
粉末積層方式の立体造形装置における粉末層の厚みは、目的によって異なるものの、概ね5μm以上500μm以下が好ましく、50μm以上200μm以下がより好ましい。そのため、前記立体造形用樹脂粉末の50%累積体積粒径としては、寸法安定性の点から、5μm以上200μm以下が好ましく、20μm以上150μm以下がより好ましい。前記50%累積体積粒径が、上記範囲内であると、粉末層の形成時に樹脂粉末の巻き上げを低減でき、粉末層の表面が平滑になり、また、樹脂粉末の間にできる空隙を低減することができ、立体造形物の表面性をより高める効果が得られる。
前記50%累積体積粒径は、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(装置名:FPIA−3000、シスメックス社製)や粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、microtrac MT3300EXII)を用いて測定することができる。
【0027】
前記略柱体樹脂粒子の含有量としては、立体造形用樹脂粉末全量に対して、50%以上が好ましく、75%以上がより好ましく、90%以上が特に好ましい。前記含有量が、50%以上であると、充填密度を高める効果が顕著に現れ、得られる立体造形物の寸法精度や強度を高める上で非常に有効である。なお、略柱体樹脂粒子の含有量は、例えば、立体造形用樹脂粉末を採取してSEM観察を行い、得られたSEM像のすべての粒子の数に対する、底面の長辺及び高さが5μm以上200μm以下である略柱体樹脂粒子の数から求めることができる。
【0028】
<流動化剤>
前記流動化剤とは、前記立体造形用樹脂粉末の表面の一部又はすべてを被覆することにより、立体造形用樹脂粉末の流動性を高める効果を有するものを意味する。前記流動化剤は、立体造形用樹脂粉末の表面に被覆されることによって効果が得られるが、その一部が立体造形用樹脂粉末中に含まれるものもある。
【0029】
前記流動化剤としては、例えば、無機粒子などが挙げられる。
前記無機粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、酸化亜鉛、及びヒドロキシアパタイトなどが挙げられる。
【0030】
前記無機粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10μm未満が好ましい。前記体積平均粒径は、例えば、粒度分布測定装置(装置名:FPIA−3000、シスメックス社製)を用いて測定することができる。
【0031】
前記流動化剤としての無機粒子の含有量としては、前記立体造形用樹脂粉末全量に対して、0.05質量%未満が好ましく、0.03質量%未満がより好ましく、0質量%(検出限界以下)であることが特に好ましい。前記含有量が、0.05質量%未満であると、流動化剤は造形時に分解されず立体造形物内部に不純物として残留することを防止し、強度の低下、及び立体造形物の純度の低下を防止することができる。
【0032】
前記立体造形用樹脂粉末の略柱体樹脂粒子としては、高さが均一で粉体の形や大きさに偏りがなく、同一な集合体として形成された単分散に近いものが好ましい。これにより、立体造形物の寸法精度や強度をより一層高めることができる。
具体的には、前記立体造形用樹脂粉末の体積平均粒径(Mv)と、前記立体造形用樹脂粉末の数平均粒径(Mn)との粒径比(体積平均粒径(Mv)/数平均粒径(Mn))としては、2.00以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.2以下が特に好ましい。
前記立体造形用樹脂粉末の体積平均粒径(Mv)としては、5μm以上200μm以下が好ましく、20μm以上100μm以下がより好ましい。
前記立体造形用樹脂粉末の数平均粒径(Mn)としては、2.5μm以上200μm以下が好ましく、10μm以上100μm以下がより好ましい。
前記体積平均粒径(Mv)、及び前記数平均粒径(Mn)は、例えば、粒度分布測定装置(装置名:microtrac MT3300EXII、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0033】
−比重−
前記立体造形用樹脂粉末の比重としては、0.8以上が好ましい。前記比重が、0.8以上であると、リコート時の粒子の2次凝集を抑止できる。一方、上限としては、金属代替の軽量化ニーズから、3.0以下が好ましい。前記比重は、例えば、真比重を測定することにより行うことができる。前記真比重の測定は、気相置換法を用いた乾式自動密度計(株式会社島津製作所製、アキュピック1330)を用いて一定温度で気体(Heガス)の体積と圧力を変化させて、サンプルの体積を求め、このサンプルの体積から質量を計測し、サンプルの密度を測定することにより行うことができる。
【0034】
前記略柱体樹脂粒子に用いられる樹脂としては、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。前記熱可塑性樹脂とは、熱をかけると可塑化し、溶融するものを意味する。前記熱可塑性樹脂の中でも、結晶性樹脂が好ましい。なお、前記結晶性樹脂とは、ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)の測定した場合に、融解ピークを有するものを意味する。
【0035】
前記立体造形用樹脂粉末は、ISO 3146に準拠して測定したときの融点が100℃以上の樹脂であることが好ましい。ISO 3146に準拠して測定したときの前記融点が100℃以上であると、製品の外装等に使用されうる耐熱温度の範囲であるため好ましい。なお、前記融点は、ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)に準拠して、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定することができ、複数の融点が存在する場合は、高温側の融点を使用する。
【0036】
前記結晶性樹脂としては、結晶制御された結晶性熱可塑性樹脂が好ましい。前記結晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、熱処理、延伸、結晶核材、超音波処理等、従来公知の外部刺激の方法により、得ることができる。このように、結晶サイズや結晶配向が制御されている結晶性熱可塑性樹脂は、高温下のリコート時に発生するエラーを低減できることからより好ましい。
【0037】
前記結晶性熱可塑性樹脂の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、立体造形用樹脂粉末に対して各樹脂のガラス転移温度以上の温度で加熱し、結晶性を高めるアニーリング処理や、より結晶性を高めるために結晶核剤を添加し、その後、アニーリング処理する方法を用いることができる。また、超音波処理や溶媒に溶解しゆっくりと揮発させることにより結晶性を高める方法や、外部電場印加処理により結晶性成長させる方法、さらに延伸することにより高配向、高結晶化したものを粉砕、裁断等の加工を施す方法などが挙げられる。
【0038】
前記アニーリング処理としては、例えば、樹脂をガラス転移温度から50℃高い温度にて3日間加熱し、その後、室温までゆっくりと冷却することにより行うことができる。
【0039】
前記延伸としては、例えば、押し出し加工機を用いて、融点より30℃以上高い温度にて撹拌しながら、繊維状に樹脂溶融物を引き伸ばす方法である。具体的には、溶融物を1倍以上10倍以下程度に延伸し繊維にする。この時、押出し加工機のノズル口の形状により繊維断面の形状を決めることができる。本発明において、前記略柱体樹脂粒子が略円柱体樹脂粒子である場合には、ノズル口も円形形状のものが用いられ、前記略柱体樹脂粒子が多角柱体である場合には、ノズル口は多角形形状のものが用いられる。ノズル口の数は多ければ多いほど生産性を高めることが期待できる。前記延伸については、樹脂ごと溶融粘度ごとに最大の延伸倍率を変えることができる。
【0040】
前記超音波処理にとしては、例えば、樹脂に、グリセリン(東京化成工業株式会社製、試薬グレード)溶媒を樹脂に対して5倍ほど加えた後、融点より20℃高い温度まで加熱し、超音波発生装置(装置名:ultrasonicator UP200S、ヒールシャー社製)にて24kHz、振幅60%での超音波を2時間与えることにより行うことができる。その後、室温にてイソプロパノールの溶媒で洗浄後、真空乾燥することが好ましい。
【0041】
前記外部電場印加処理としては、例えば、立体造形用樹脂粉末をガラス転移温度以上にて加熱した後に600V/cmの交流電場(500ヘルツ)を1時間印加し、ゆっくりと冷却することにより行うことができる。
【0042】
前記粉末積層方式の中でもPBF方式では、結晶層変化についての温度幅(温度窓)が大きな方が、反り返りを抑制でき、造形安定性が高まることから、非常に有効である。そのためには、融解開始温度と冷却時の再結晶温度との間の差がより大きな立体造形用樹脂粉末を用いることが好ましく、前記結晶性熱可塑性樹脂は特に好ましく用いられる。
【0043】
前記結晶性熱可塑性樹脂は、例えば、下記(1)〜(3)から選択される少なくとも1種を満たすことにより判別できる。
(1)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf1とし、その後、10℃/minにて、−30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf2としたときに、Tmf1>Tmf2となる。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から−15mW下がった時点での温度である。
【0044】
(2)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd1とし、その後、10℃/minにて、−30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd2としたときに、Cd1>Cd2となる。
【0045】
(3)X線回折測定により得られる結晶化度をCx1とし、窒素雰囲気下10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温し、その後、10℃/minにて、−30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときのX線回折測定により得られる結晶化度をCx2としたときに、Cx1>Cx2となる。
【0046】
前記(1)〜(3)は、同一の前記立体造形用樹脂粉末について、異なる視点から特性を規定したものであり、前記(1)〜(3)は互いに関連しており、前記(1)〜(3)のうち、いずれか1種を満たすことができれば有効である。前記(1)〜(3)は、例えば、下記の方法によって測定することができる。
【0047】
[条件(1)の示差走査熱量測定による溶解開始温度の測定方法]
前記条件(1)の示差走査熱量測定(DSC)による溶解開始温度の測定方法としては、ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)の測定方法に準じて、示差走査熱量測定装置(株式会社島津製作所製、DSC−60A)を使用し、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度(Tmf1)を測定する。その後、10℃/minにて、−30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度(Tmf2)を測定する。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から−15mW下がった時点での温度である。
【0048】
[条件(2)の示差走査熱量測定による結晶化度の測定方法]
前記条件(2)の示差走査熱量測定(DSC)による結晶化度の測定方法としては、ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JISK7121)に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量(融解熱量)を測定し、完全結晶熱量に対する融解熱量から結晶化度(Cd1)を求めることができる。その後、10℃/minにて、−30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量を測定し、完全結晶熱量に対する融解熱量から結晶化度(Cd2)を求めることができる。
【0049】
[条件(3)のX線解析装置による結晶化度の測定方法]
前記条件(3)のX線解析装置による結晶化度の測定方法としては、二次元検出器を有するX線解析装置(Bruker社、Discover8)を使用し、室温にて2θ範囲を10〜40に設定し、得られた粉末をガラスプレート上に置き、結晶化度を測定(Cx1)することができる。次に、DSC内において、窒素雰囲気化にて10℃/minで加熱し、融点より30℃高い温度まで昇温し、10分保温した後、10℃/min、−30℃まで冷却後のサンプルを室温に戻し、Cx1と同様にして、結晶化度(Cx2)を測定することができる。
【0050】
前記立体造形用樹脂粉末として用いられる前記熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアリールケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー(LCP)、ポリアセタール(POM)、ポリイミド、フッ素樹脂等のポリマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
前記ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
前記ポリアミドとしては、芳香族ポリアミドを含み、例えば、ポリアミド410(PA410)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド12(PA12);半芳香族性のポリアミド4T(PA4T)、ポリアミドMXD6(PAMXD6)、ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミド9T(PA9T)、ポリアミド10T(PA10T)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、PA9Tは、ポリノナメチレンテレフタルアミドとも呼ばれ、炭素が9つのジアミンにテレフタル酸モノマーから構成され、一般的にカルボン酸側が芳香族であるため半芳香族と呼ばれる。さらには、ジアミン側も芳香族である全芳香族としてp−フェニレンジアミンとテレフタル酸モノマーとからできるアラミドと呼ばれるものも本発明のポリアミドに含まれる。
【0053】
前記ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブタジエンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸(PLA)などが挙げられる。耐熱性を付与するため、一部テレフタル酸やイソフタル酸を含む芳香族を含むポリエステルも好適に用いることができる。
【0054】
前記ポリエーテルとしては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)などが挙げられる。
前記ポリエーテル以外にも、結晶性ポリマーであればよく、例えば、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルスルフォンなどが挙げられる。前記PA9Tのように融点ピークが2つあるものを用いてもよい(完全に溶融させるには2つ目の融点ピーク以上に樹脂温度を上げる必要がある)。
【0055】
前記立体造形用樹脂粉末としては、前記熱可塑性樹脂以外に、非結晶性樹脂からなる樹脂粉末や、難燃化剤、可塑剤、安定化剤、結晶核剤等の添加剤等を含んでいてもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらは、前記熱可塑性樹脂と混合し、立体造形用樹脂粉末に内在させてもよいし、前記立体造形用樹脂粉末の表面に付着させてもよい。
【0056】
前記立体造形用樹脂粉末としては、例えば、強化剤などを含有していてもよい。強化剤とは、主に強度を高めるために添加され、フィラーあるいは充填材として含有される。例えば、ガラスフィラーやガラスビーズ、カーボンファイバー、アルミボール、国際公開第2008/057844号パンフレットに記載のものなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいし、樹脂中に含まれていてもよい。前記立体造形用樹脂粉末としては、適度の乾燥しているのが好ましく、真空乾燥機やシリカゲルを入れることにより使用前に乾燥させてもよい。
【0057】
また、前記立体造形用樹脂粉末としては、SLS法やSMS法について使用できるが、適切な粒度、粒度分布、熱移動特性、溶融粘度、嵩密度、流動性、溶融温度、及び再結晶温度のようなパラメーターについて適切なバランスを示す特性を呈している。
【0058】
前記立体造形用樹脂粉末の嵩密度としては、PBF方式でのレーザー焼結度を促進する点から、樹脂自身の持っている密度に差異があるが嵩密度は大きい方が好ましく、タップ密度として0.35g/mL以上がより好ましく、0.40g/mL以上がさらに好ましく、0.5g/mL以上が特に好ましい。
【0059】
前記立体造形用樹脂粉末を用いて、レーザー焼結により形成される立体造形物は、表面性及び機械強度に優れる。
【0060】
さらに、前記立体造形用樹脂粉末を使用し、レーザー焼結により形成される立体造形物としては、焼結中から焼結後の冷却時の間に、発生する相変化による反りや歪み、発煙したりするような不適切なプロセス特性を示さないことが好ましい。
【0061】
−周側面に凹部を有する略柱体樹脂粒子の製造方法−
前記略柱体樹脂粒子としては、樹脂を繊維化し、その後裁断して直接的に略円柱体樹脂粒子や多角柱体樹脂粒子を得る方法や、フィルム形状から同様の略柱体樹脂粒子を得る方法や、得られた多角柱体樹脂粒子を作製後に後加工により略円柱体樹脂粒子を作製する方法など、前記略柱体樹脂粒子を作製できれば、如何なる方法を用いてもよい。
【0062】
前記繊維化の方法としては、例えば、押し出し加工機を用いて、融点より30℃以上高い温度にて撹拌しながら、繊維状に樹脂溶融物を引き伸ばす方法などが挙げられる。この際、樹脂溶融物は、1倍以上10倍以下程度に延伸して繊維化することが好ましい。この場合、略柱体樹脂粒子の底面の形状は、押出し加工機のノズル口の形状により決定される。例えば、柱体の底面の形状、即ち繊維の断面が円形形状である場合は、ノズル口も円形形状のものを用い、多角形形状である場合は、ノズル口もそれに合わせて選定される。立体造形物の寸法精度は高ければ高いほどよく、面の部分の円形形状が半径において少なくとも10%以内が好ましい。また、ノズルの口の数は可能な範囲で多くした方が、生産性を高める上で好ましい。
【0063】
前記繊維を裁断する方法としては、例えば、ギロチン方式の上刃と下刃が共に刃物になっている切断装置や、押し切り方式と呼ばれる下側は刃物ではなく板にて、上刃で裁断していく装置などがあり、これらの従来公知の装置を用いることができる。従来公知の前記装置は、例えば、0.005mm以上0.2mm以下に直接カットする装置や、COレーザー等を用いて裁断できる方法もあり、好ましく用いられる。
【0064】
前記裁断された繊維を、動力によりローターが高速回転する様な機械式攪拌装置や、ビーズ等を粉体に繰り返し衝突させるビーズミル等の、公知の装置でエネルギーを一定時間粉体に付与することにより、粒子表面の端部が処理され、変形することで周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有する略柱体樹脂粒子を製造することができる。
【0065】
(立体造形物の製造方法及び立体造形物の製造装置)
前記立体造形物の製造方法は、本発明の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成工程と、前記層の選択された領域内の前記立体造形用樹脂粉末同士を接着させる粉末接着工程と、を繰り返し、更に必要に応じてその他の工程を含む。
本発明の立体造形物の製造装置は、本発明の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成手段と、前記層の選択された領域内の前記立体造形用樹脂粉末同士を接着させる粉末接着手段と、を有し、更に必要に応じてその他の手段を含む。
前記立体造形物の製造方法は、前記立体造形物の製造装置を用いることにより好適に実施することができる。前記立体造形用樹脂粉末としては、本発明の立体造形用樹脂粉末と同様のものを用いることができる。
【0066】
前記立体造形用樹脂粉末は、粉末積層方式の立体造形物製造装置すべてに使用することができ、有効である。粉末積層方式の立体造形物製造装置は、粉末の層を形成した後、選択された領域の樹脂粉末同士を接着させる手段(粉末接着手段)が異なり、一般にSLS方式やSMS方式に代表される電磁波照射手段(電磁波を照射する手段)、バインダージェット方式に代表される液体吐出手段などが挙げられる。本発明の立体造形用樹脂粉末は、これらのいずれに適用することができ、粉末を積層する手段を含む立体造形装置すべてに有効である。
【0067】
前述の電磁波照射を用いるSLS方式やSMS方式等の立体造形装置において、電磁波照射に用いられる電磁波照射源としては、例えば、紫外線、可視光線、赤外線等を照射するレーザーのほか、マイクロ波、放電、電子ビーム、放射加熱器、LEDランプ等、又はこれらの組合せなどが挙げられる。
また、前記立体造形用樹脂粉末を選択的に接着させる方法として電磁照射を用いる場合、効率的に吸収させたり、あるいは吸収を妨げたりする方法もあり、例えば、吸収剤や抑制剤を前記立体造形用樹脂粉末に含有させる方法も可能である。
【0068】
これらの立体造形物の製造装置の一例について、図4を用いて説明する。図4は、立体造形物の製造装置の一例を示す概略図である。図4に示すように、粉末の供給槽5に粉末を貯蔵し、使用量に応じて、ローラ4を用いてレーザー走査スペース6に供給する。供給槽5は、ヒーター3により温度を調節されていることが好ましい。電磁照射源1から出力したレーザーを反射鏡2を用いて、レーザー走査スペース6に照射する。前記レーザーによる熱により、粉末を焼結して立体造形物を得ることができる。
【0069】
前記供給槽5の温度としては、粉末の融点より10℃以上低いことが好ましい。
前記レーザー走査スペースにおける部品床温度としては、粉末の融点より5℃以上低温であることが好ましい。
レーザー出力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10ワット以上150ワット以下が好ましい。
【0070】
別の実施態様においては、選択的マスク焼結(selective mask sintering:SMS)技術を使用して、本発明における立体造形物を製造することができる。前記SMSプロセスについては、例えば、米国特許第6,531,086号明細書に記載されているものを好適に用いることができる。
【0071】
前記SMSプロセスとしては、遮蔽マスクを使用して選択的に赤外放射を遮断し、粉末層の一部に選択的に照射する。本発明の立体造形用樹脂粉末から立体造形物を製造するためにSMSプロセスを使用する場合、前記立体造形用樹脂粉末の赤外吸収特性を増強させる材料を含有させることが可能であり、有効である。例えば、前記立体造形用樹脂粉末に1種以上の熱吸収剤及び/又は暗色物質(カーボンファイバー、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、もしくはカーボンファイバー、セルロースナノファイバー等)を含有することができる。
【0072】
さらに別の実施態様においては、本発明の立体造形用樹脂粉末を用い、前述のバインダージェット方式の立体造形装置を使用して、立体造形物を製造することができる。この方法は、本発明の立体造形用樹脂粉末からなる層を形成する層形成工程と、形成された層の選択された領域に液体を吐出し乾燥させて、樹脂粉末同士を接着させる粉末接着工程と、を繰り返し、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0073】
前記立体造形物の製造装置は、本発明の立体造形用樹脂粉末からなる層を形成する層形成手段と、前記形成された層の選択された領域に液体を吐出する手段と、を有し、更に必要に応じてその他の手段を含む。前記液体を吐出する手段としては、得られる立体造形物の寸法精度や造形速度の観点から、インクジェットの方法を用いることが好ましい。
【0074】
図5に、バインダージェット方式のプロセス概略図の一例を示す。図5に示される立体造形物製造装置は、造形用粉末貯蔵槽11と供給用粉末貯蔵槽12とを有し、これらの粉末貯蔵槽は、それぞれ上下に移動可能なステージ13を有し、該ステージ13上に本発明の樹脂粉末を載置し、前記立体造形用樹脂粉末からなる層を形成する。造形用粉末貯蔵槽11の上には、前記粉末貯蔵槽内の前記立体造形用樹脂粉末に向けて立体造形用液体材料16を吐出する造形液供給手段15を有し、更に、供給用粉末貯蔵槽12から造形用粉末貯蔵槽11に立体造形用粉末材料を供給すると共に、造形用粉末貯蔵槽11の樹脂粉末(層)表面を均すことが可能な樹脂粉末層形成手段14(以下、均し機構、リコーターとも称する)を有する。
【0075】
図5A及びBは、供給用粉末貯蔵槽12から造形用粉末貯蔵槽11に樹脂粉末を供給するとともに、平滑な表面を有する樹脂粉末層を形成する工程を示す。造形用粉末貯蔵槽11及び供給用粉末貯蔵槽12の各ステージ13を制御し、所望の層厚になるようにギャップを調整し、前記樹脂粉末層形成手段4を供給用粉末貯蔵槽12から造形用粉末貯蔵槽11に移動させることにより、造形用粉末貯蔵槽11に樹脂粉末層が形成される。
【0076】
図5Cは、造形用粉末貯蔵槽11の樹脂粉末層上に前記立体造形用液体材料供給手段15を用いて、立体造形用液体材料16を滴下する工程を示す。この時、樹脂粉末層上に立体造形用液体材料16を滴下する位置は、立体造形物を幾層もの平面にスライスした二次元画像データ(スライスデータ)により決定される。
【0077】
図5D及びEは、供給用粉末貯蔵槽12のステージ13を上昇させ、造形用粉末貯蔵槽11のステージ13を降下させ、所望の層厚になるようにギャップを制御し、再び前記樹脂粉末層形成手段14を供給用粉末貯蔵槽12から造形用粉末貯蔵槽11に移動させることにより、造形用粉末貯蔵槽11に新たに樹脂粉末層が形成される。
【0078】
図5Fは、再び造形用粉末貯蔵槽11の樹脂粉末層上に前記造形液供給手段15を用いて、立体造形用液体材料16を滴下する工程である。これらの一連の工程を繰り返し、必要に応じて乾燥させ、立体造形用液体材料が付着していない樹脂粉末(余剰粉)を除去することによって、立体造形物を得ることができる。
【0079】
樹脂粉末同士を接着させるためには、接着剤を含むことが好ましい。前記接着剤は、吐出する液体に溶解した状態で含有させても良いし、前記樹脂粉末に接着剤粒子として混在させてもよい。前記接着剤は、吐出する液体に溶解することが好ましく、例えば、吐出する液体が水を主成分とするものであれば、前記接着剤は水溶性であることが好ましい。
【0080】
前記水溶性の接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸樹脂、セルロース樹脂、ゼラチンなどが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコールが立体造形物の強度や寸法精度を高める上で、より好ましく用いられる。
【0081】
前記立体造形用樹脂粉末は、流動性が高く、その結果得られる立体造形物の表面性を向上することができ、これらの効果は電磁照射を用いる方法に限定されるものではなく、バインダージェット方式を始めとする粉末積層方式を採用したすべての立体造形装置において、有効である。
【0082】
(立体造形物)
前記立体造形物は、本発明の立体造形用樹脂粉末を用い、前記立体造形物の製造方法により好適に製造することができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0084】
得られた立体造形用樹脂粉末について、「安息角」、「50%累積体積粒径」、「平均円形度」、及び「比重」は、以下のようにして測定した。結果を下記表1及び表2に示す。
【0085】
[安息角]
前記安息角は、図3に示すようにして測定した。
図3に示すように、測定装置は、篩10(JIS規格 Z8801−1−2000 目開き125μm)を、かさ比重測定器(Z−2504、蔵持科学株式会社製)から構成される。かさ比重径は、漏斗11の穴径直径2.5mmのものを用い、その下に直径30mmの円柱形状の台座14を配置した。立体造形用樹脂粉末12を篩の上から投入し漏斗を通過し、台座14上に山型を形成して立体造形用樹脂粉末12’を配置した。このときの投入量は、少なくとも立体造形用樹脂粉末12が台座14上からこぼれ落ちる量以上を投入し、かつ側面から確認して円錐が形成される量以上とした。安息角の測定はカメラによる像取得によって行った。カメラの配置は台座14とレンズとの距離を60mm、レンズの高さを台座14の上面と同じ高さとし、山の側面像を撮影する。この山の底面と斜面から構成される角度が安息角であり、得られた像から三角法を用いてその角度を算出した。計測は各2回行い、平均値を安息角とした。
【0086】
[50%累積体積粒径]
前記50%累積体積粒径としては、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、microtrac MT3300EXII)を用いて、立体造形用樹脂粉末ごとの粒子屈折率を使用し、溶媒は使用せず乾式(大気)法にて体積粒径を測定し、50%累積体積粒径を算出した。粒子屈折率は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂:1.57と設定した。
【0087】
[平均円形度]
前記平均円形度は、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(装置名:FPIA−3000、シスメックス株式会社製)を用いて、粉体粒子カウント数が1,000個以上をカウントする状態にて、粒子形状画像を取得し、粒径が0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、柱体樹脂粒子の円形度の平均値を求めた。各円形度は2回ずつ測定し、その平均値を平均円形度とした。
【0088】
[比重]
前記比重は、気相置換法を用いた乾式自動密度計(装置名:アキュピック1330、株式会社島津製作所製)を用いて一定温度で気体(Heガス)の体積と圧力を変化させて、サンプルの体積を求め、このサンプルの体積から質量を計測し、サンプルの密度を測定することにより行った。
【0089】
(実施例1)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(商品名:ノバデュラン5020、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製、融点:218℃、ガラス転移温度:43℃)のペレットを押し出し加工機(株式会社日本製鋼所製)を用いて、融点より30℃高い温度にて撹拌後、ノズル口が円形形状のものを用いて繊維化した。ノズルから出る糸の本数は100本とした。4倍程度延伸し、繊維径が60μm、精度が±4μmの樹脂繊維を得た。
得られた樹脂繊維を押し切り方式の裁断装置(株式会社荻野精機製作所製、NJシリーズ1200型)を用いて繊維長60μmに裁断し、略円柱体樹脂粒子を含む樹脂粉末を得た。この粉末を機械式撹拌装置(三井鉱山株式会社製、MP型ミキサーMP5A/1)を用いて撹拌速度9,600rpmにて5分間処理を行った。
得られた立体造形用樹脂粉末を走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて確認したところ、殆どの粒子は周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有する略柱体樹脂粒子であり、凹部の深さは約1μmであった。また、略円柱体樹脂粒子の高さを測定したところ、60μm±10μmとなっていた。前記走査型電子顕微鏡を用いて10視野の二次元像を得て、それぞれにおいてすべての粒子に対する略円柱体形状の粒子の割合を求めたところ、その平均は88%であった。
【0090】
(実施例2)
実施例1において機械式撹拌装置の撹拌時間5分間を20分間に変更した以外は、実施例1と同様にして、立体造形用樹脂粉末を得た。得られた立体造形用樹脂粉末を実施例1と同様にして確認したところ、殆どの粒子は周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有する略柱体樹脂粒子であり、凹部の深さは約5μmであった。また、略円柱体の高さを測定したところ、60μm±10μmとなっていた。それぞれにおいてすべての粒子に対する略円柱体形状の粒子の割合を求めたところ、その平均は98%であった。
【0091】
(比較例1)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(商品名:ノバデュラン5020、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製、融点:218℃、ガラス転移温度:43℃)を低温粉砕システム(装置名:リンレックスミルLX1、ホソカワミクロン株式会社製)を用いて、−200℃の条件化にて、粒子径が5μm以上200μm以下になるように凍結粉砕を行い、立体造形用樹脂粉末を作製した。
得られた立体造形用樹脂粉末を走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて観察したところ、楕円状、棒状、板状など様々な形状を有する粒子が混在していたが、略柱体樹脂粒子、及び周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有する略柱体樹脂粒子は認められなかった。
【0092】
(比較例2)
実施例1において、機械式撹拌装置を用いて撹拌処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、立体造形用樹脂粉末を得た。得られた立体造形用樹脂粉末を実施例1と同様にして確認したところ、周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有する略柱体樹脂粒子は存在しなかった。
【0093】
(比較例3)
比較例1において、得られた立体造形用樹脂粉末に、さらに流動化剤としてシリカ(商品名:AEROSIL RX200、日本アエロジル株式会社製、表面処理剤HMDS、平均一次粒子径12nm)0.1質量%を混合し、撹拌装置(装置名:Turbula system T2F型、Willy a bachofen社製)を用いて、流動化剤の混合を行い、流動化剤を含む立体造形用樹脂粉末を作製した。なお、前記撹拌装置における撹拌速度は100rpm、処理時間は5分間とした。
これを、前述の走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて確認したところ、楕円状、棒状、板状など様々な形状を有する粒子が混在しており、比較例1の粉末粒子形状と違いは無かった。
【0094】
(参考例1)
比較例2において、得られた立体造形用樹脂粉末に、さらに流動化剤としてシリカ(商品名:AEROSIL RX200、日本アエロジル株式会社製、表面処理剤HMDS、平均一次粒子径12nm)0.1質量%を混合し、比較例3と同様にして、流動化剤の混合を行い、流動化剤を含む立体造形用樹脂粉末を得た。
これを、前述の走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて確認したところ、粉末は略円柱形状の粒子にて構成されており、比較例2の粉末粒子形状と違いは無かった。
【0095】
立体造形物の製造及び得られた立体造形物について、以下のようにして、「リコート性(平滑性)」、及び「表面性」について評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0096】
(リコート性(平滑性))
立体造形中の積層面を目視にて観察し、下記評価基準に基づいて、「リコート性」を評価した。なお、積層時の温度は、対象材料の造形物を製造することができる実際の条件とした。
[評価基準]
○:目視確認にてリコート面が非常に滑らかで、凹凸が認められない
△:目視確認にてリコート面に若干の凹凸が認められる
×:目視確認にてリコート面に明らかな凹凸や粗面が認められる
【0097】
[立体造形物の製造]
得られた立体造形用樹脂粉末について、SLS方式造形装置(株式会社リコー製、AM S5500P)を使用し、立体造形物の製造を行った。設定条件は、0.1mmの層平均厚み、10ワット以上150ワット以下のレーザー出力を設定し、0.1mmのレーザー走査スペース、融点より−3℃の温度にて部品床温度を使用した。1辺5cm、平均厚み0.5cmの直方体の立体造形物(寸法用サンプル)(mm)のCAD等のデータに基づいて、前述したサンプルを製造した。
【0098】
(表面性)
得られた立体造形物の表面を目視にて観察し、さらに光学顕微鏡観察、及び官能試験を行った。官能試験はサンプルを手で触り、その触感から表面性、特に滑らかさについて評価を行った。これらの結果を総合し、下記評価基準に基づいて、「表面性」の評価を行った。
[評価基準]
◎:表面が非常に滑らかで、気になる凹凸や粗面が殆ど認められない
○:表面の滑らかさに問題はなく、表面の凹凸や粗面は許容できる
△:表面に滑らかさはなく、凹凸や粗面が目視で認識できる
×:表面が引っかかり、表面の凹凸やゆがみ等の欠陥が多数認められる
【0099】
【表1】
【0100】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 略柱体樹脂粒子を含む立体造形用樹脂粉末であって、
前記略柱体樹脂粒子が、その周側面に凹部を有する略柱体樹脂粒子を含むことを特徴とする立体造形用樹脂粉末である。
<2> 前記立体造形用樹脂粉末の50%累積体積粒径が、5μm以上200μm以下である前記<1>に記載の立体造形用樹脂粉末である。
<3> 前記立体造形用樹脂粉末の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.80以上である前記<1>から<2>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<4> 前記立体造形用樹脂粉末の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である前記<1>から<3>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<5> 前記立体造形用樹脂粉末の体積平均粒径と、前記立体造形用樹脂粉末の数平均粒径との粒径比(体積平均粒径/数平均粒径)が、2.00以下である前記<1>から<4>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<6> 前記立体造形用樹脂粉末の比重が、0.8以上である前記<1>から<5>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<7> 前記立体造形用樹脂粉末が、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアリールケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリアセタール、ポリイミド、及びフッ素樹脂から選択される少なくとも1種を含む前記<1>から<6>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<8> 前記ポリアミドが、芳香族ポリアミドを含む、ポリアミド410、ポリアミド4T、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6、ポリアミド610、ポリアミド6T、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド9T、ポリアミド10T、及びアラミドから選択される少なくとも1種である前記<7>に記載の立体造形用樹脂粉末である。
<9> 前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリ乳酸から選択される少なくとも1種である前記<7>から<8>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<10> 前記ポリエーテルが、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、及びポリエーテルケトンケトンから選択される少なくとも1種である前記<7>から<9>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<11> 前記立体造形用樹脂粉末の安息角が、60度以下である前記<1>から<10>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<12> 下記(1)〜(3)から選択される少なくとも1種を満たす前記<1>から<11>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
(1)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf1とし、その後、10℃/minにて、−30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf2としたときに、Tmf1>Tmf2となる。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から−15mW下がった時点での温度である。
(2)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd1とし、その後、10℃/minにて、−30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd2としたときに、Cd1>Cd2となる。
(3)X線回折測定により得られる結晶化度をCx1とし、窒素雰囲気下10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温し、その後、10℃/minにて、−30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときのX線回折測定により得られる結晶化度をCx2としたときに、Cx1>Cx2となる。
<13> 前記<1>から<12>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成手段と、
前記層の選択された領域内の前記立体造形用樹脂粉末同士を接着させる粉末接着手段と、を有することを特徴とする立体造形物の製造装置である。
<14> 前記粉末接着手段が、電磁波を照射する手段である前記<13>に記載の立体造形物の製造装置である。
<15> 前記<1>から<12>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成工程と、
前記層の選択された領域内の前記立体造形用樹脂粉末同士を接着させる粉末接着工程と、を繰り返すことを特徴とする立体造形物の製造方法である。
<16> 前記粉末接着工程が、電磁波を照射する工程である前記<15>に記載の立体造形物の製造方法である。
<17> 前記電磁波照射に用いられる電磁波照射源が、紫外線である前記<16>に記載の立体造形物の製造方法である。
<18> 前記<15>から<17>のいずれかに記載の立体造形物の製造方法により製造されることを特徴とする立体造形物である。
【0101】
前記<1>から<12>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末、前記<13>から<14>のいずれかに記載の立体造形物の製造装置、及び前記<15>から<17>のいずれかに記載の立体造形物の製造方法、及び前記<18>に記載の立体造形物は、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0102】
【特許文献1】特表2014−522331号公報
【特許文献2】特表2013−529599号公報
【特許文献3】特表2015−515434号公報
【符号の説明】
【0103】
12、12’ 立体造形用樹脂粉末
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F