【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/次世代パワーエレクトロニクス」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
窒素極性表面を有するGaNシードを準備する第一ステップと;該GaNシードの該窒素極性表面上にパターンマスクを配置するステップであって、該パターンマスクには、線状開口から構成され、交差部を含む周期的開口パターンが設けられ、かつ、該線状開口の少なくとも一部における長手方向が該窒素極性表面とM面との交線の方向から±3°以内となるように該パターンマスクを配置する、第二ステップと;該GaNシードの該窒素極性表面上に該パターンマスクを通してGaN結晶をアモノサーマル的に成長させるステップであって、該GaN結晶と該パターンマスクとの間にはギャップが形成される第三ステップと;を含むGaN結晶成長方法。
前記第二ステップでは、前記線状開口の、総延長の50%以上を占める部分における長手方向が、前記窒素極性表面とM面との交線の方向から±3°以内となるように前記パターンマスクを配置する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の成長方法。
前記第二ステップでは、前記線状開口の全ての部分における長手方向が前記窒素極性表面とM面との交線の方向から±3°以内となるように、前記パターンマスクを配置する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の成長方法。
前記パターンマスクの単位パターンが含む非開口部が全て四角形または六角形であり、かつ、前記パターンマスクが1mm未満のピッチで配置された線状開口を含まない、請求項1〜10のいずれか1項に記載の成長方法。
前記パターンマスクが、2mm以下のピッチで配置された線状開口と、2mmを超えるピッチで配置された線状開口とを含むか、3mm以下のピッチで配置された線状開口と、3mmを超えるピッチで配置された線状開口とを含むか、または、4mm以下のピッチで配置された線状開口と、4mmを超えるピッチで配置された線状開口とを含む、請求項11に記載の成長方法。
前記周期的開口パターンが四角格子パターンであり、前記第二ステップでは、長手方向が互いに異なる第一線状開口および第二線状開口を前記パターンマスクに設ける、請求項1〜14のいずれか1項に記載の成長方法。
前記GaNシードの[1−100]方向、[10−10]方向および[01−10]方向のサイズがいずれも45mm以上である、請求項1〜18のいずれか1項に記載の成長方法。
前記GaN結晶の[1−100]方向、[10−10]方向および[01−10]方向のサイズがいずれも45mm以上である、請求項1〜19のいずれか1項に記載の成長方法。
前記GaN結晶から、[1−100]方向、[10−10]方向および[01−10]方向のサイズがいずれも45mm以上のC面GaN基板を切り出すことができる、請求項1〜20のいずれか1項に記載の成長方法。
請求項1〜21のいずれか1項に記載の成長方法を用いてGaN結晶を成長させるステップと、該成長させたGaN結晶を加工するステップと、を有するC面GaN基板製造方法。
少なくとも一方の主表面に、周期的に配置された複数の転位アレイを有し、かつ、該複数の転位アレイを除き、該一方の主表面に周期的に存在する転位群を有さない基板であること、および、該複数の転位アレイはいずれも当該基板を構成するGaN結晶の成長時に起きたコアレッセンスに由来するものであること、を特徴とするC面GaN基板。
少なくとも一方の主表面に、周期的かつ二次元的に配置された複数の転位アレイを有し、該複数の転位アレイを除き、該一方の主表面に周期的に存在する転位群を有さない、C面GaN基板。
請求項24〜41のいずれか1項に記載のC面GaN基板を準備するステップと、該準備したC面GaN基板上に一種以上の窒化物半導体をエピタキシャル成長させるステップと、を含む窒化物半導体デバイスの製造方法。
請求項24〜41のいずれか1項に記載のC面GaN基板を準備するステップと、該準備したC面GaN基板上に一種以上の窒化物半導体をエピタキシャル成長させるステップと、を含むエピタキシャル基板の製造方法。
請求項24〜41のいずれか1項に記載のC面GaN基板を準備するステップと、該準備したC面GaN基板上に一種以上の窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させるステップと、を含むバルク窒化物半導体結晶の製造方法。
請求項24〜41のいずれか1項に記載のC面GaN基板を準備するステップと、該準備したC面GaN基板を異組成基板に接合させるステップと、を含むGaN層接合基板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主たる目的は、C面GaN基板を含むGaN基板の材料として好適なGaN結晶を成長させるための、新規な方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、窒化物半導体デバイスの製造等に好適に使用し得る、新規なC面GaN基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態には以下が含まれる。
[1]窒素極性表面を有するGaNシードを準備する第一ステップと;該GaNシードの該窒素極性表面上にパターンマスクを配置するステップであって、該パターンマスクには、線状開口から構成され、交差部を含む周期的開口パターンが設けられ、かつ、該線状開口の少なくとも一部における長手方向が該窒素極性表面とM面との交線の方向から±3°以内となるように該パターンマスクを配置する、第二ステップと;該GaNシードの該窒素極性表面上に該パターンマスクを通してGaN結晶をアモノサーマル的に成長させるステップであって、該GaN結晶と該パターンマスクとの間にはギャップが形成される第三ステップと;を含むGaN結晶成長方法。
[2]前記交差部が連続的交差部である、前記[1]に記載の成長方法。
[3]前記第三ステップで使用する鉱化剤が、NH
4Cl、NH
4BrおよびNH
4Iから選ばれる一種以上のハロゲン化アンモニウムと、NH
4Fとを含む、前記[1]または[2]に記載の成長方法。
[4]前記第三ステップで使用する鉱化剤がNH
4IおよびNH
4Fを含む、前記[3]に記載の成長方法。
[5]前記GaN結晶がFおよびIを含有する、前記[4]に記載の成長方法。
[6]前記第二ステップでは、前記線状開口の、総延長の50%以上を占める部分における長手方向が、前記窒素極性表面とM面との交線の方向から±3°以内となるように前記パターンマスクを配置する、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の成長方法。
[7]前記第二ステップでは、前記線状開口の全ての部分における長手方向が前記窒素極性表面とM面との交線の方向から±3°以内となるように、前記パターンマスクを配置する、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の成長方法。
[8]前記周期的開口パターンにおける前記交差部の配置が二次元的である、前記[1]〜[7]のいずれかに記載の成長方法。
[9]前記パターンマスクが前記交差部を1cm
−2以上の数密度で含む、前記[8]に記載の成長方法。
[10]前記パターンマスクが前記交差部を20cm
−2以下の数密度で含む、前記 [9]に記載の成長方法。
[11]前記パターンマスクの単位パターンが含む非開口部が全て四角形または六角形であり、かつ、前記パターンマスクが1mm未満のピッチで配置された線状開口を含まない、前記[1]〜[10]のいずれかに記載の成長方法。
[12]前記パターンマスクが、10mm以下のピッチで配置された線状開口を含む、前記[11]に記載の成長方法。
[13]前記パターンマスクが、2mm以下のピッチで配置された線状開口と、2mmを超えるピッチで配置された線状開口とを含むか、3mm以下のピッチで配置された線状開口と、3mmを超えるピッチで配置された線状開口とを含むか、または、4mm以下のピッチで配置された線状開口と、4mmを超えるピッチで配置された線状開口とを含む、前記[11]に記載の成長方法。
[14]前記パターンマスクが、4mmを超えるピッチで配置された線状開口を含む、前記[13]に記載の成長方法。
[15]前記周期的開口パターンが四角格子パターンであり、前記第二ステップでは、長手方向が互いに異なる第一線状開口および第二線状開口を前記パターンマスクに設ける、前記[1]〜[14]のいずれかに記載の成長方法。
[16]前記第一線状開口間のピッチおよび前記第二線状開口間のピッチの一方が他方の1.5倍以上である、前記[15]に記載の成長方法。
[17]前記第三ステップでは、前記GaN結晶と前記パターンマスクとの間にボイドが形成される、前記[1]〜[16]のいずれかに記載の成長方法。
[18]前記第三ステップでは、前記パターンマスクの非開口部の上方に貫通穴が残らないように前記GaN結晶を成長させる、前記[17]に記載の成長方法。
[19]前記GaNシードの[1−100]方向、[10−10]方向および[01−10]方向のサイズがいずれも45mm以上である、前記[1]〜[18]のいずれかに記載の成長方法。
[20]前記GaN結晶の[1−100]方向、[10−10]方向および[01−10]方向のサイズがいずれも45mm以上である、前記[1]〜[19]のいずれかに記載の成長方法。
[21]前記GaN結晶から、[1−100]方向、[10−10]方向および[01−10]方向のサイズがいずれも45mm以上のC面GaN基板を切り出すことができる、前記[1]〜[20]のいずれかに記載の成長方法。
[22]前記[1]〜[21]のいずれかに記載の成長方法を用いてGaN結晶を成長させるステップと、該成長させたGaN結晶を加工するステップと、を有するC面GaN基板製造方法。
[23]前記加工するステップが、前記成長させたGaN結晶をC面と平行または略平行にスライスするサブステップを含む、前記[22]に記載の製造方法。
[24]少なくとも一方の主表面に、周期的に配置された複数の転位アレイを有し、かつ、該複数の転位アレイを除き、該一方の主表面に周期的に存在する転位群を有さない基板であること、および、該複数の転位アレイはいずれも当該基板を構成するGaN結晶の成長時に起きたコアレッセンスに由来するものであること、を特徴とするC面GaN基板。
[25]前記主表面における前記複数の転位アレイの配置が二次元的である、前記[24]に記載のC面GaN基板。
[26]前記主表面における前記複数の転位アレイの配置が2以上の方向に周期性を有する、前記[24]または[25]に記載のC面GaN基板。
[27]少なくとも一方の主表面に、周期的かつ二次元的に配置された複数の転位アレイを有し、該複数の転位アレイを除き、該一方の主表面に周期的に存在する転位群を有さない、C面GaN基板。
[28]前記主表面における前記複数の転位アレイの配置が2以上の方向に周期性を有する、前記[27]に記載のC面GaN基板。
[29]Li、Na、K、MgおよびCaの濃度がそれぞれ1×10
16atoms/cm
3未満である、前記[24]〜[28]のいずれかに記載のC面GaN基板。
[30]Fを含有する、前記[24]〜[29]のいずれかに記載のC面GaN基板。
[31]Fに加え、Cl、BrおよびIから選ばれる一種以上のハロゲンを含有する、前記[30]に記載のC面GaN基板。
[32]FおよびIを含有する、前記[31]に記載のC面GaN基板。
[33]H濃度が5×10
17atoms/cm
3以上1×10
20atoms/cm
3以下である、前記[24]〜[32]のいずれかに記載のC面GaN基板。
[34]ガリウム空孔‐水素複合体に帰属する赤外吸収ピークを3140〜3200cm
-1に有するGaN結晶からなる、前記[24]〜[33]のいずれかに記載のC面GaN基板。
[35]室温において、抵抗率が2×10
-2Ωcm以下である、前記[24]〜[34]のいずれかに記載のC面GaN基板。
[36]室温において、n型キャリア濃度が1×10
18cm
−3以上である、前記[24]〜[35]のいずれかに記載のC面GaN基板。
[37]室温におけるn型キャリア濃度より高いO濃度を有する、前記[24]〜[36]のいずれかに記載のC面GaN基板。
[38]室温におけるn型キャリア濃度が、O濃度の20〜70%である、前記[37]に記載のC面GaN基板。
[39][1−100]方向、[10−10]方向および[01−10]方向のサイズがいずれも45mm以上である、前記[24]〜[38]のいずれかに記載のC面GaN基板。
[40]円盤形で、直径が45mm以上である、前記[24]〜[39]のいずれかに記載のC面GaN基板。
[41]ガリウム極性表面の方位が[0001]から5°以内である、前記[24]〜[40]のいずれかに記載のC面GaN基板。
[42]前記[24]〜[41]のいずれかに記載のC面GaN基板を準備するステップと、該準備したC面GaN基板上に一種以上の窒化物半導体をエピタキシャル成長させるステップと、を含む窒化物半導体デバイスの製造方法。
[43]前記[24]〜[41]のいずれかに記載のC面GaN基板を準備するステップと、該準備したC面GaN基板上に一種以上の窒化物半導体をエピタキシャル成長させるステップと、を含むエピタキシャル基板の製造方法。
[44]前記[24]〜[41]のいずれかに記載のC面GaN基板を準備するステップと、該準備したC面GaN基板上に一種以上の窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させるステップと、を含むバルク窒化物半導体結晶の製造方法。
[45]前記[24]〜[41]のいずれかに記載のC面GaN基板を準備するステップと、該準備したC面GaN基板を異組成基板に接合させるステップと、を含むGaN層接合基板の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
好ましい実施形態によれば、C面GaN基板を含むGaN基板の材料として好適なGaN結晶を成長させるための、新規な方法が提供される。
他の好ましい実施形態によれば、窒化物半導体デバイスの製造等に好適に使用し得る、新規なC面GaN基板が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
GaN結晶では、[0001]および[000−1]に平行な結晶軸がc軸、<10−10>に平行な結晶軸がm軸、<11−20>に平行な結晶軸がa軸と呼ばれる。c軸に直交する結晶面はC面(C-plane)、m軸に直交する結晶面はM面(M-plane)、a軸に直交する結晶面はA面(A-plane)と呼ばれる。
本明細書において、結晶軸、結晶面、結晶方位等に言及する場合には、特に断らない限り、GaN結晶の結晶軸、結晶面、結晶方位等を意味するものとする。
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
1.GaN結晶成長方法
一実施形態に係るGaN結晶成長方法のフローチャートを
図1に示す。このGaN結晶成長方法は、順次実行される下記ステップS1〜S3を含む。
S1:窒素極性表面を有するGaNシードを準備するステップ。
S2:ステップS1で準備したGaNシードの該窒素極性表面上に、パターンマスクを配置するステップ。
S3:ステップS1で準備したGaNシードの該窒素極性表面上に、ステップS2で配置した該パターンマスクを通してGaN結晶をアモノサーマル的に成長させるステップ。
以下に、ステップS1〜S3の詳細を説明する。
【0014】
1.1.ステップS1
ステップS1は、窒素極性表面を有するGaNシードを準備するステップである。
GaNシードの典型例はC面GaN基板である。C面GaN基板では、[0001]側の主表面がガリウム極性表面、[000−1]側の主表面が窒素極性表面である。
好ましいGaNシードは、HVPE法または酸性アモノサーマル法で成長させたバルクGaN結晶を加工して得られるC面GaN基板であり、本1.項で説明する方法で成長させたバルクGaN結晶から作られるものであってもよい。
C面GaN基板の材料としてバルクGaN結晶をHVPE法で成長させる場合、DEEP(epitaxial-growth with inverse-pyramidal pits)[K. Motoki et al., Journal of Crystal Growth 237-239 (2002) 912]、VAS(Void-Assisted Separation)[Y. Oshima et al., Japanese Journal of Applied Physics 42 (2003) L1]、Advanced−DEEP[K. Motoki et al., Journal of Crystal Growth 305 (2007) 377]等の成長技法を適宜使用することができる。Advanced−DEEPを使用する場合、好ましくは、成長させるGaN結晶にドット・コア(極性が反転したドット状ドメイン)が形成されるようにするとともに、そのドット・コアの配置を、後のステップS2でパターンマスクに設ける開口パターンと重ならないように設定する。
【0015】
GaNシードの窒素極性表面の方位は、法線ベクトルの方向で表すと、好ましくは[000−1]から2°以内である。これは、窒素極性表面の法線ベクトルが[000−1]となす角度が、2°以内ということである。GaNシードの窒素極性表面の方位は、より好ましくは[000−1]から1°以内である。
GaNシードの窒素極性表面の面積は、15cm
2以上50cm
2未満、50cm
2以上100cm
2未満、100cm
2以上200cm
2未満、200cm
2以上350cm
2未満、350cm
2以上500cm
2未満、500cm
2以上750cm
2未満などであり得る。
GaNシードの窒素極性表面が円形であるとき、その直径は通常45mm以上、305mm以下である。該直径は、典型的には、45〜55mm(約2インチ)、95〜105mm(約4インチ)、145〜155mm(約6インチ)、195〜205mm(約8インチ)、295〜305mm(約12インチ)等である。
例えばGaNシードが直径50mmのC面GaN基板である場合、その厚さは、好ましくは300μm以上であり、直径がこれより大きければ、その厚さの好ましい下限値もより大きくなる。GaNシードの厚さに上限は特に無いが、通常は20mm以下である。
【0016】
GaNシードのサイズは、後のステップS3で成長させるべきGaN結晶のサイズを考慮して決定する。
例えば、成長させるGaN結晶から、[1−100]方向、[10−10]方向および[01−10]方向のサイズがいずれも45mmのC面GaN基板を切り出そうとする場合、該GaN結晶を、[1−100]方向、[10−10]方向および[01−10]方向のサイズがいずれも45mm以上となるように成長させることが必要である。[1−100]方向、[10−10]方向および[01−10]方向のサイズがいずれも45mmであるGaN結晶を成長させるには、GaNシードとして、[1−100]方向、[10−10]方向および[01−10]方向のサイズがいずれも45mm以上であるものを用いることが好ましい。
GaNシードの窒素極性表面は、通常、研磨または研削により平坦化される。好ましくは、CMP(Chemical Mechanical Polishing)および/またはエッチングによって、平坦化加工により導入されたダメージ層が該窒素極性表面から除去される。
【0017】
1.2.ステップS2
ステップS2では、ステップS1で準備したGaNシードが有する窒素極性表面上に、パターンマスクを配置する。
パターンマスクの表面を形成する材料は、好ましくは白金族金属、すなわちRu(ルテニウム)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)およびPt(白金)から選ばれる金属であり、特に好ましくはPtである。パターンマスクは、白金族金属またはその合金からなる単層膜であってもよいが、好ましくは、白金族金属よりもGaN結晶との密着性の良い金属からなる下地層の上に表層として白金族金属層を積層してなる多層膜である。該下地層の材料として、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)およびこれらから選ばれる1種以上を含む合金が例示されるが、限定するものではない。
【0018】
パターンマスクには、線状開口から構成される周期的開口パターン、とりわけ、交差部を含む周期的開口パターンが設けられる。
一例を、
図2および
図3を参照して説明する。
図2(a)は、GaNシードの一例を示す斜視図である。GaNシード10は円盤形のC面GaN基板であり、窒素極性表面11、ガリウム極性表面12、および側面13を有している。
図2(b)は、窒素極性表面11上にパターンマスク20を配置した後のGaNシード10を示す斜視図である。パターンマスク20には、線状開口21から構成される四角格子パターンが設けられている。
【0019】
図3は、パターンマスク20を配置した後の、GaNシード10の窒素極性表面11側の一部を示す平面図である。
図3を参照すると、パターンマスク20には線状開口21が設けられ、GaNシードの窒素極性表面11が該線状開口21の内側に露出している。
パターンマスク20に設けられた線状開口21は2種類、すなわち、長手方向が互いに異なる第一線状開口211および第二線状開口212である。複数の該第一線状開口211と複数の該第二線状開口212とによって四角格子パターンが構成されている。
第一線状開口211間のピッチP
1および第二線状開口212間のピッチP
2は、それぞれ一定である。ピッチは、パターンマスクの非開口部を挟んで隣り合う、互いに平行な線状開口間の中心線間距離を意味する。
ピッチP
1およびピッチP
2は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。本発明者等が経験的に見出しているところでは、ピッチP
1とピッチP
2が異なっている方が、後のステップS3でGaN結晶を成長させたときに、パターンマスクの非開口部上に生じる貫通穴が閉塞し易い傾向がある。従って、該ピッチP
1およびP
2は、一方が他方の1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましい。
【0020】
第一線状開口211と第二線状開口212の方位は、GaNシードの窒素極性表面11とM面との交線の方向のひとつを第一基準方向、他のひとつを第二基準方向として表すと便利である。例えば、第一基準方向が窒素極性表面11と(1−100)面との交線の方向であるとき、第二基準方向は、窒素極性表面11と、(10−10)面または(01−10)面との交線の方向である。
第一線状開口21の長手方向が第一基準方向と成す角度θ
1、および、第二線状開口22の長手方向が該二基準方向と成す角度θ
2は、少なくともいずれかが±3°以内である。
第一線状開口211の総延長が第二線状開口212の総延長と同等以上であるときは、少なくとも角度θ
1が±3°以内であることが好ましい。換言すれば、線状開口21の総延長の50%以上の部分における長手方向が、GaNシードの窒素極性表面とM面との交線の方向から±3°以内であることが好ましい。
より好ましい例では、角度θ
1および角度θ
2の両方が±3°以内、すなわち、線状開口21の全ての部分における長手方向が、GaNシードの窒素極性表面とM面との交線の方向から±3°以内である。
いずれの場合も、角度θ
1およびθ
2は、±2°以内であることがより好ましく、±1°以内であることが更に好ましい。
【0021】
パターンマスク20に設けられた四角格子パターンは、第一線状開口211と第二線状開口212との間で形成された交差部Kを含んでいる。後述するように、開口パターンに交差部を設けることは、後のステップS3でGaN結晶を成長させたときに、パターンマスクの非開口部の上方に生じる貫通穴の閉塞を促すうえで有利である。かかる観点から、パターンマスクが含む交差部の数密度は、好ましくは1cm
−2以上である。
一方で、交差部の数密度を上げるためには線状開口の密度を高くする必要があること、そして、線状開口の密度を高くするにつれて、後のステップS3で成長するGaN結晶がGaNシードから引き継ぐ転位欠陥が増加することを考慮すると、該数密度は好ましくは20cm
−2以下、より好ましくは15cm
−2以下、より好ましくは10cm
−2以下である。
【0022】
後のステップS3で成長するGaN結晶がGaNシード10から引き継ぐ転位欠陥を減らすためには、第一線状開口211の線幅W
1および第二線状開口212の線幅W
2が狭い方が有利である。従って、該線幅W
1およびW
2は、それぞれ、0.5mm以下であることが好ましく、0.2mm以下であることがより好ましく、0.1mm以下であることがより好ましい。
製造効率の観点からは、第一線状開口211の線幅W
1および第二線状開口212の線幅W
2が適度に広いことが好ましい。その方が、後のステップS3でGaN結晶が成長する際に、初期段階での成長レートが高くなるからである。従って、該線幅W
1およびW
2は、それぞれ、5μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることがより好ましい。
【0023】
後のステップS3で成長させるGaN結晶がGaNシード10から引き継ぐ転位欠陥を減らすためには、第一線状開口211間のピッチP
1および第二線状開口212間のピッチP
2が大きい方が有利である。従って、該ピッチP
1およびP
2は、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上、より好ましくは4mm以上である。
該ピッチP
1およびP
2が大きい程、後のステップS3でGaN結晶を成長させたときに、パターンマスクの非開口部の上方に生じる貫通穴が閉じるまでに要する時間が長くなる。従って、製造効率の観点からは、ピッチP
1およびピッチP
2の少なくとも一方を10mm以下とすることが好ましい。一例では、ピッチP
1およびP
2の一方または両方を4mm以下、更には3mm以下、更には2mm以下とすることができる。
好適例では、引き継がれる転位欠陥の低減と製造効率改善の両方を考慮して、ピッチP
1およびP
2のいずれか一方だけを4mm以下、3mm以下あるいは2mm以下とすることができる。
【0024】
ステップS2でGaNシード上に配置するパターンマスクに設け得る周期的開口パターンは、四角格子パターンに限定されない。
図4〜6に含まれる各図面は、窒素極性表面上にパターンマスクが配置された後のGaNシードを示す平面図であり、パターンマスクに設け得る各種の周期的開口パターンを例示しているが、採用し得る開口パターンはこれらに限定されない。
図4(a)では、線状開口21が、ジグザグストライプパターンを形成している。
図4(b)では、線状開口21が、一種の格子パターンを形成している。
図4(c)では、線状開口21が、傾斜したレンガ格子パターンを形成している。
図4(d)では、線状開口21が、傾斜した四角格子パターンを形成している。
図5(e)では、線状開口21が、ヘリンボーン格子パターンを形成している。
【0025】
図5(f)では、線状開口21が、傾斜したレンガ格子と傾斜した四角格子を折衷した格子パターンを形成している。
図5(g)では、線状開口21が、三角格子パターンを形成している。
図5(h)では、線状開口21が、扁平ハニカム格子パターンを形成している。
図6(i)では、線状開口21が、毘沙門亀甲格子パターンを形成している。
図6(j)および(k)の各々では、線状開口21が、立方体パターンを形成している。
図6(l)では、線状開口21が、Y字形パターンを形成している。
【0026】
図4〜6に示すいずれの例においても、パターンマスク20に設けられた周期的開口パターンは交差部を含んでいる。交差部のいくつかの類型を
図7および
図8に示す。
図7(a)〜(f)に示すものを含め、長手方向が互いに異なる2以上の線状開口間が接続されている交差部を、本明細書では連続的交差部と呼ぶ。
本明細書にいう交差部は、特に断らない限り、連続的交差部のみならず、
図8(a)〜(f)に例示する不連続的交差部を包含する。不連続的交差部は、連続的交差部に対し、線状開口間の接続を切り離す変更を加えてなる交差部と見做すことができる。
不連続的交差部における、非開口部で隔てられた2つの線状開口間の距離は、300μm以下であり、好ましくは200μm以下である。
【0027】
図4〜6では、
図4(b)を除く全ての例で、周期的開口パターンにおける交差部の配置が二次元的である。
周期的開口パターンに交差部が含まれると、後のステップS3でGaN結晶を成長させたときに、パターンマスクの非開口部の上方に生じる貫通穴が閉塞し易くなる。この効果は、周期的開口パターンにおける交差部の配置が二次元的であるとき顕著であり、更に、交差部の数密度を高くすることによってより顕著となる。
このことから、周期的開口パターンにおける交差部の配置は二次元的であることが好ましく、そのときにパターンマスクが含む交差部の数密度は、好ましくは1cm
−2以上である。ただし、交差部の数密度を上げるためには線状開口の密度を高くする必要があること、そして、線状開口の密度を高くするにつれて、後のステップS3で成長するGaN結晶がGaNシードから引き継ぐ転位欠陥が増加することを考慮すると、交差部の数密度は好ましくは20cm
−2以下、より好ましくは15cm
−2以下、より好ましくは10cm
−2以下である。
【0028】
図4〜6に示す種々の周期的開口パターンをパターンマスクに設けるときの、線状開口の方位、線幅およびピッチに関する好ましい設計は、次の通りである。
線状開口の少なくとも一部は、その長手方向が、GaNシードの窒素極性表面とM面との交線の方向から±3°以内である。より好ましいのは、該線状開口の総延長の50%以上を占める部分において、更には、該線状開口の全ての部分において、長手方向が、GaNシードの窒素極性表面とM面との交線の方向から±3°以内であることである。
線状開口の線幅は、0.5mm以下であることが好ましく、0.2mm以下であることがより好ましく、0.1mm以下であることがより好ましく、また、5μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることがより好ましい。線状開口の全ての部分で線幅が同じである必要はない。
【0029】
パターンマスクの単位パターンが含む非開口部が全て四角形または六角形であるとき、線状開口間のピッチに関して次のことがいえる。
GaNシード上に成長させるGaN結晶が該GaNシードから引き継ぐ転位欠陥の低減という観点からは、パターンマスクが1mm未満のピッチで配置された線状開口を含まないことが好ましく、2mm未満のピッチで配置された線状開口を含まないことがより好ましく、3mm未満のピッチで配置された線状開口を含まないことがより好ましく、4mm未満のピッチで配置された線状開口を含まないことがより好ましい。
一方、製造効率の改善という観点からは、パターンマスクが10mm以下のピッチで配置された線状開口を含むことが好ましく、更には、4mm以下、3mm以下または2mm以下のピッチで配置された線状開口を含んでもよい。
上記観点の両方を考慮して、パターンマスクには1mm以上4mm以下のピッチで配置された線状開口と、4mmを超えるピッチで配置された線状開口とを設けたり、1mm以上3mm以下のピッチで配置された線状開口と、3mmを超えるピッチで配置された線状開口とを設けたり、あるいは、1mm以上2mm以下のピッチで配置された線状開口と、2mmを超えるピッチで配置された線状開口とを設けたりしてもよい。これらのいずれの場合にも、パターンマスクには、4mmを超えるピッチで配置された線状開口を設け得る。
図4〜6に示す各例のうち、パターンマスクの単位パターンが含む非開口部が全て四角形であるのは、
図4(c)および(d)、
図5(e)および(f)、
図6(j)および(k)である。周期的開口パターンが扁平ハニカムパターンである
図5(h)の例では、パターンマスクの単位パターンが含む非開口部が全て六角形である。
【0030】
1.3.ステップS3
ステップS3では、ステップS1で準備したGaNシード上の窒素極性表面上に、ステップS2で配置したパターンマスクを通してGaN結晶をアモノサーマル的に成長させる。
ステップS3におけるGaN結晶の成長過程を、
図9を参照して説明する。
図9(a)は、結晶成長が始まる前の状態を示す断面図である。GaNシード10の窒素極性表面11上には、線状開口21を有するパターンマスク20が設けられている。
図9(b)は、パターンマスク20に設けられた線状開口21の内側に露出した窒素極性表面11上で、GaN結晶30が成長し始めたところを示す。
パターンマスク20を通り抜けた後、GaN結晶30は
図9(c)に示すように、[000−1]方向だけではなくラテラル方向(窒素極性表面11に平行な方向)にも成長するが、GaN結晶30とパターンマスク20との間にはギャップGが形成される。その結果、パターンマスク20との接触により起こり得るGaN結晶30の配向の乱れが軽減される。
【0031】
図9(c)に示す成長段階では、GaN結晶30は、パターンマスク20の非開口部の上方に貫通穴Tを有している。
GaN結晶30が更に成長することにより、ギャップGは徐々に埋まるが、完全に埋まることはなく、
図9(d)に示すように、ボイドVを残した状態で貫通穴Tが閉じる。
貫通穴Tが塞がった後、
図9(e)に示すように、GaN結晶30を[000−1]方向に更に成長させる。GaNシード10とGaN結晶30との間に発生する応力が、ボイドVによって緩和され、ひいては、GaN結晶30の歪が低減されると考えられる。
貫通穴Tが塞がった後の、GaN結晶30の[000−1]方向の成長量は、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上であり、特に上限は無い。
注記すると、ステップS3において、GaN結晶はGaNシード10のガリウム極性表面12上でも成長するが、
図9では図示を省略している。
【0032】
図9(d)の段階で貫通穴Tが閉じるときに、コアレス面で転位が発生するか、あるいは、コアレス面で転位が一斉に[000−1]方向に曲げられるかの、いずれかまたは両方の理由により、
図9(e)の段階で形成されるGaN結晶から切り出されるC面GaN基板の主表面には、転位アレイが現れる。該転位アレイの形状は、大雑把にいえば、該コアレス面を[000−1]方向に延長した延長面と、該C面GaN基板の主表面とが形成する交線の形状である。該交線は、真直ぐな部分、湾曲した部分、屈曲および分岐を含み得る。該転位アレイは、該C面基板を構成するGaN結晶の成長過程でコアレッセンス(coalescence)が起こった場所を示す痕跡ということができる。
上記のコアレス面はパターンマスクの非開口部の上方に形成されるので、パターンマスクが複数の閉じた非開口部を有するときには、上述のC面GaN基板の主表面に、複数の転位アレイが離散的に現れる。
パターンマスクにおける複数の閉じた非開口部の配置に周期性がある場合には、上述のC面GaN基板の主表面における該複数の転位アレイの配置も周期的となる。パターンマスクにおける複数の閉じた非開口部の配置が二次元的である場合には、上述のC面GaN基板の主表面における該複数の転位アレイの配置も二次元的となる。
閉じた非開口部とは、周囲が線状開口で囲まれた非開口部である。自らの輪郭線が環をなす非開口部といってもよい。
図4〜6に示す各種の例のうちパターンマスクが閉じた非開口部を有するのは、
図4(c)および(d)、
図5(e)〜(h)、
図6(i)〜(k)である。これらの例において、パターンマスクにおける閉じた非開口部の配置は周期的かつ二次元的である。
【0033】
本発明者等は、パターンマスクに設ける周期的開口パターンが、交差部を含む四角格子パターンのときと、交差部を全く含まないストライプパターンのときとを比較すると、四角格子パターンのときの方が、GaN結晶の成長が
図9(c)の段階から
図9(d)の段階に進み易い、すなわち、GaN結晶に生じる貫通穴が閉じ易いことを見出している。
その理由について、本発明者等は、以下に説明する凹入角効果が関係していると考えている。
図10(a)は、線状開口が交差部を形成するパターンマスクが配置された、GaNシードの窒素極性表面側の一部を示す平面図である。パターンマスク20には、長手方向の異なる第一線状開口211および第二線状開口212が設けられており、該2種類の線状開口の間で連続的交差部が形成されている。
図10(b)は、
図10(a)に示すGaNシード上に、
図9(c)の成長段階にあるGaN結晶30が形成された状態を示している。GaN結晶30は、線状開口21に沿って成長している。破線で表示されているのは、GaN結晶30の下方に隠れた開口21の輪郭である。
図10(b)中の4つの矢印は、それぞれ、線状開口211および212が形成する交差部の上に成長するGaN結晶30の側部に形成された凹入部を指している。矢印の方向は、凹入部の凹入方向を表している。
かかる凹入部の形成によって凹入角効果(re-entrant angle effect)が発生し、GaN結晶30は矢印と反対の方向に向かって成長するように促される。すなわち、パターンマスクの非開口部の上方に生じる貫通穴が閉じるようにGaN結晶を成長させる駆動力が、凹入角効果によって生じる。
【0034】
同じメカニズムは、線状開口が連続的交差部ではなく、不連続的交差部を形成する場合においても発生し得る。このことを、
図11を参照して説明する。
図11(a)は、線状開口が不連続的交差部を形成するパターンマスクが配置された、GaNシードの窒素極性表面側の一部を示す平面図である。第一線状開口211と、2つに分断された第二線状開口212とによって、不連続的交差部が形成されている。
このGaNシード上にGaN結晶を成長させたとき、不連続的交差部における第一線状開口211と第二線状開口212の間の距離が小さいため、
図9(c)に示す成長段階におけるGaN結晶の形状は、連続的交差部上に成長したときと同様である。すなわち、
図11(b)に示すように、不連続的交差部上に成長するGaN結晶30の側部には矢印で示す凹入部が形成される。その結果発生する凹入角効果によって、GaN結晶30は矢印と反対の方向に向かって成長するよう促される。
以上に説明した凹入角効果は、
図7および
図8に例示する各種の交差部上でGaN結晶が成長するときに発生し得ることを、当業者は理解できるであろう。
【0035】
パターンマスクにおける線状開口の方位が、該パターンマスクを通して成長するGaN結晶の品質に影響を与え得ることを、本発明者等は見出している。このことを、
図12および13を参照して説明する。
図12および13は、それぞれ、GaNシードの窒素極性表面上に、パターンマスクを通して、アモノサーマル的に成長させたGaN結晶の断面蛍光顕微鏡像である。
図12のGaN結晶を成長させる際に用いたパターンマスクでは、線状開口の長手方向が、GaNシードの窒素極性表面とM面との交線の方向から約12°傾斜していた。
図13のGaN結晶を成長させる際に用いたパターンマスクでは、線状開口の長手方向は、該交線の方向から6°傾斜していた
。
【0036】
図12を参照すると、最も暗く見える部分はGaNシードの断面である。このGaNシードは、HVPE法で成長された、点欠陥密度の低いGaN結晶からなるので、蛍光顕微鏡像では暗く見える。
GaNシードの表面に見られる断面逆台形の窪みは、GaN結晶のアモノサーマル成長が始まる前に、パターンマスクの開口部でGaNシードが部分的にエッチバックされることにより形成されたものと考えられる。この窪みの幅は、パターンマスクに設けられた線状開口の線幅より広く、パターンマスクの下方でエッチングがラテラル方向にも進んだことが分かる。
GaNシード上にアモノサーマル的に成長させたGaN結晶(以下「成長結晶(grown crystal)」とも呼ぶ)は、点欠陥密度が比較的高いことから、GaNシードよりも明るく見える。GaNシード表面に形成された上述の断面逆台形の窪みの内部は、成長結晶で埋め込まれている。
【0037】
成長結晶の断面には、コントラストの異なるN面(N-face)成長領域R1とラテラル成長領域R2とが観察される。
N面成長領域R1は、N面すなわち(000−1)表面を成長表面として成長したGaN結晶からなる領域であり、その内部における貫通転位の伝搬方向は[000−1]方向である。
ラテラル成長領域R2は、(000−1)表面に対し傾斜した結晶表面を成長表面として成長したGaN結晶からなる領域であり、その内部における貫通転位の伝搬方向は、[000−1]方向に対し傾斜している。
N面成長領域R1とラテラル成長領域R2の間のコントラストの違いは、成長表面の違い、すなわち、各領域が形成された時に露出していた結晶表面の違いに起因する、不純物および/または欠陥の濃度の違いを反映している。
【0038】
図12を見て気付くことは、GaNシード表面の断面逆台形の窪みの内部が埋め込まれた直後に、N面成長領域R1の形成が始まり、そのN面成長領域R1が[000−1]方向に途切れることなく続いていることである。従って、GaNシードから成長結晶に引き継がれた貫通転位は、伝搬方向を変えることなく、成長結晶の上部まで到達していると考えられる。
図13では、成長結晶中にN面成長領域R1とラテラル成長領域R2が観察されることは
図12と同様である。ただし、点線の円で囲んだ部分に注目すると、GaN結晶が[000−1]方向に約100μm成長したところで、パターンマスクの開口部付近から始まるN面成長領域R1がくびれている。このことから、GaNシードから成長結晶に引き継がれた貫通転位の一部は、このN面成長領域R1がくびれた部分で曲げられて、伝搬方向を変えた可能性がある。しかし、その数は多くはないと推定される。
【0039】
一方、
線状開口の長手方向が、GaNシードの窒素極性表面とM面との交線と平行であるパターンマスクを用いて成長させたGaN結晶では、GaN結晶が[000−1]方向に約140μm成長したところで、パターンマスクの開口部付近から始まるN面成長領域R1が完全に途切れている。その上方にN面成長領域R1が再び現れるまで、約190μmにわたってラテラル成長領域R2が続いている。従って、成長結晶がGaNシードから受け継いだ貫通転位のうち、伝搬方向が変えられることによって成長結晶の上部まで到達しなかったものの割合は、
図13の結晶より多いと推定される。
以上の観察結果から、パターンマスクに設ける線状開口の長手方向と、GaNシードにおける窒素極性表面とM面との交線との平行度が高い程、GaNシードから成長結晶に引き継がれた貫通転位は成長結晶の上部まで到達し難くなると考えられる。
【0040】
以下では、ステップS3で好ましく使用し得る結晶成長装置および結晶成長条件について説明する。
ステップS3における、アモノサーマル法によるGaN結晶の成長には、図
14に示すタイプの結晶成長装置を好ましく用いることができる。
図
14を参照すると、結晶成長装置100は、オートクレーブ101と、その中に設置
されるPt製のカプセル102を備えている。
カプセル102は、Pt製のバッフル103で相互に区画された原料溶解ゾーン102aおよび結晶成長ゾーン102bを内部に有する。原料溶解ゾーン102aにはフィードストックFSが置かれる。結晶成長ゾーン102bには、Ptワイヤー104で吊されたシードSが設置される。
真空ポンプ105、アンモニアボンベ106および窒素ボンベ107が接続されたガスラインが、バルブ108を介してオートクレーブ101およびカプセル102と接続される。カプセル102にNH
3(アンモニア)を入れる際には、アンモニアボンベ106から供給されるNH
3の量をマスフローメーター109で確認することが可能となっている。
【0041】
フィードストックには、加熱下で単体Ga(金属ガリウム)にHCl(塩化水素)ガスを接触させて得られる気体GaClと、NH
3ガスとを反応させる方法で製造した多結晶GaNを、好ましく用いることができる。
フィードストックの溶解を促進するための鉱化剤には、NH
4Cl(塩化アンモニウム)、NH
4Br(臭化アンモニウム)およびNH
4I(ヨウ化アンモニウム)から選ばれる一種以上のハロゲン化アンモニウムと、NH
4Fとを組合せて用いることが好ましい。特に好ましくは、NH
4FとNH
4Iを併用する。
650℃以下の成長温度を使用する場合に、鉱化剤としてNH
4F以外のハロゲン化アンモニウムのみを用いることは推奨されない。なぜなら、GaN結晶の成長方向が実質的に[000−1]方向のみとなり、ラテラル方向成長が起こらないからである。
一方、NH
4Fを単独で鉱化剤に用いた場合はラテラル方向成長が強く促進される。ラテラル方向の成長を促進し過ぎると、
図9に示す形態でGaN結晶を成長させること、すなわち、パターンマスクとの間にギャップが形成されるようにGaN結晶を成長させることが難しい。
【0042】
シードS上にGaN結晶を成長させる際には、オートクレーブ101とカプセル102の間の空間にもNH
3を入れたうえで、オートクレーブ101の外側からヒーター(図示せず)で加熱して、カプセル102内を超臨界状態または亜臨界状態とする。
フィードストックFSが十分に溶解して溶媒が飽和状態に達するまでの間は、シードSの表面でもエッチングが生じる。必要な場合には、成長開始前に、シードSのエッチバックを促進させる目的のために、原料溶解ゾーン102aと結晶成長ゾーン102bの間の温度勾配を結晶成長時とは逆にする反転期間を設けることもできる。
成長温度は、好ましくは550℃以上である。1000℃以上の成長温度を使用することは妨げられないが、700℃以下であっても十分に品質の高いGaN結晶を成長させることが可能である。
成長圧力は、例えば、100〜250MPaの範囲内で設定することができるが、限定するものではない。
【0043】
一例では、鉱化剤としてNH
4FとNH
4Iを、NH
3に対するモル比がそれぞれ0.5%および4.0%となるように使用し、圧力が約220MPa、原料溶解ゾーンの温度Tsと結晶成長ゾーンの温度Tgの平均値が約600℃、これら2つのゾーン間の温度差Ts−Tgが約5℃(Ts>Tg)という条件で、GaNを成長させることができる。
他の一例では、鉱化剤としてNH
4FおよびNH
4Iを、NH
3に対するモル比がそれぞれ1.0%となるように使用し、圧力が約220MPa、原料溶解ゾーンの温度Tsと結晶成長ゾーンの温度Tgの平均値が約605〜610℃、これら2つのゾーン間の温度差Ts−Tgが約5〜10℃(Ts>Tg)という条件で、GaNを成長させることができる。
原料溶解ゾーンと結晶成長ゾーンの温度差を大きくすることによって、GaN結晶の成長レートを高くすることが可能であるが、成長レートが高過ぎる場合には、GaN結晶の成長が
図9(c)の段階から
図9(d)の段階に進み難くなる、すなわち、GaN結晶の貫通穴が閉じ難くなるという問題が生じ得る。
ステップS3では、フィードストックが使い尽くされる度にカプセルを交換し、GaN結晶の再成長を繰り返すことができる。
【0044】
成長させるGaN結晶に導電性を付与するには、O(酸素)、Si(ケイ素)、Ge(ゲルマニウム)、S(硫黄)等でドープすればよい。
本発明者等が見出しているところによれば、ステップS3で成長させるGaN結晶をOドープした場合、該GaN結晶のn型キャリア濃度はO濃度の20〜70%であり、30%を下回ることもしばしばである。従って、n型キャリア濃度が例えば1×10
18cm
−3以上のGaN結晶を得るには、少なくとも2×10
18atoms/cm
3、好ましくは4×10
18atoms/cm
3以上の濃度でOを添加する。
OでドープしたGaN結晶をアモノサーマル法で成長させるためには、成長容器(図
14の例ではカプセル102)内に水分の形態でOを導入するか、または、フィードストックに用いる多結晶GaNをOでドープすればよく、両方の手段を併用することも可能である。
成長させるGaN結晶を半絶縁性とするには、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)等でドープすればよい。
【0045】
ステップS3で成長させたGaN結晶を加工することによって、様々な面方位を有するGaN基板を製造することができる。該加工は、GaN結晶をシングルワイヤソーまたはマルチワイヤソーのようなスライサーを用いてスライスすることを含んでもよい。スライス厚は目的に応じて適宜定めることができるが、通常は100μm以上であり、かつ、20mm以下である。
GaN結晶の切断面の平坦化は、グラインディングとラッピングのいずれかまたは両方によって行うことができる。切断面からのダメージ層除去は、CMPとエッチングのいずれかまたは両方によって行うことができる。
ステップS3で成長させたGaN結晶30をC面に平行または略平行にスライスしてC面GaN基板を作る場合、図
15(a)に破線で示す位置でスライスすると、貫通穴を有
さないC面GaN基板が得られる。かかる基板は、半導体デバイス用の基板として好適に使用可能である他、GaN層接合基板の製造に使用したり、シードとして各種の結晶成長技法によるバルクGaN結晶の成長に使用したりすることができる。
一方、GaN結晶30を図
15(b)に破線で示す位置でスライスして得られるC面GaN基板は、主表面に貫通穴を有するため、半導体デバイス用の基板としての使用には適さないが、Fを含有する酸性鉱化剤を用いてバルクGaN結晶をアモノサーマル的に成長させるときのシードとして使用可能である。酸性鉱化剤がFを含有すると、シードに貫通穴があっても、それを塞ぐようにGaN結晶が成長するからである。
【0046】
一例においては、ステップS3で、GaN結晶30の成長が完全に
図9(d)の段階まで進まない状態、すなわち、貫通穴Tの全部または一部が閉じないまま残った状態で、GaN結晶30の成長を終了させることもできる。そうした場合、成長させたGaN結晶30をどの位置でスライスしたとしても、貫通穴のあるC面GaN基板しか得られないが、このC面GaN基板は、Fを含有する酸性鉱化剤を用いてバルクGaN結晶をアモノサーマル的に成長させるときのシードとして使用することが可能である。
【0047】
2.C面GaN基板
本発明の一実施形態は、C面GaN基板に関する。実施形態に係るC面GaN基板は、前記1.項で説明したGaN結晶成長方法を用いて成長させたGaN結晶を加工することにより製造され得る。
2.1.形状およびサイズ
実施形態のC面GaN基板は、一方側の主表面とその反対側の主表面とを備え、その厚さ方向はc軸に平行または略平行である。該2つの主表面の一方は窒素極性表面であり、他方はガリウム極性表面である。主表面の形状に特に限定はない。
図
16は、実施形態のC面GaN基板の形状を例示しており、図
16(a)は斜視図、図
16(b)は側面図である。
図
16を参照すると、C面GaN基板40は円盤形をしており、[000−1]側の主表面である窒素極性表面41と、[0001]側の主表面であるガリウム極性表面42の形状は円形である。窒素極性表面41とガリウム極性表面42とは、側面43を介してつながっている。
【0048】
実施形態に係るC面GaN基板が有する主表面の面積は、15cm
2以上50cm
2未満、50cm
2以上100cm
2未満、100cm
2以上200cm
2未満、200cm
2以上350cm
2未満、350cm
2以上500cm
2未満、500cm
2以上750cm
2未満などであり得る。
実施形態のC面GaN基板において、ガリウム極性表面の方位は[0001]から10°以内である。
実施形態のC面GaN基板において、ガリウム極性表面の方位は[0001]から好ましくは5°以内、より好ましくは2°以内、より好ましくは1°以内である。
実施形態のC面GaN基板において、窒素極性表面の方位は[000−1]から10°以内であり、好ましくは5°以内、より好ましくは2°以内、より好ましくは1°以内である。
限定するものではないが、ガリウム極性表面と窒素極性表面とは互いに平行であることが好ましい。
【0049】
実施形態のC面GaN基板が円盤形であるとき、その直径は通常45mm以上、305mm以下である。該直径は、典型的には、45〜55mm(約2インチ)、95〜105mm(約4インチ)、145〜155mm(約6インチ)、195〜205mm(約8インチ)、295〜305mm(約12インチ)等である。
実施形態に係るC面GaN基板の厚さは、通常100μm以上であり、150μm以上250μm未満、250μm以上300μm未満、300μm以上400μm未満、400μm以上500μm未満、500μm以上750μm未満、750μm以上1mm未満、1mm以上2mm未満、2mm以上5mm未満等であり得る。該厚さに特に上限はないが、通常20mm以下である。
実施形態のC面GaN基板において、ガリウム極性表面と側面との境界は面取りされていてもよい。窒素極性表面と側面との境界についても同じである。
実施形態に係るC面GaN基板には、結晶の方位を表示するオリエンテーション・フラットまたはノッチ、ガリウム極性表面と窒素極性表面の識別を容易にするためのインデックス・フラット等、必要に応じて様々なマーキングを設けることができる。
【0050】
2.2.転位アレイ
実施形態のC面GaN基板は、線状に並んだ転位の群れ、すなわち転位アレイを主表面に有することがある。ここでいう転位は、貫通転位(刃状転位、螺旋転位および混合転位)の端点のことである。
実施形態のC面GaN基板の主表面には、複数の転位アレイが、周期的に配置されていてもよい。該複数の転位アレイの配置は、二次元的であってもよく、更に、2以上の方向に周期性を有していてもよい。
好適例に係るC面GaN基板の主表面には、該複数の転位アレイの他には、配置に周期性を有する転位群が存在しない。
C面GaN基板の主表面における転位アレイの存否、形状、配置等は、該主表面を適切な条件でエッチングして、貫通転位の端点にエッチピットを形成することにより、光学顕微鏡で確認することが可能である。確認は、ガリウム極性表面と窒素極性表面の少なくとも一方で行えばよい。
ガリウム極性表面の場合、270℃に加熱した89%硫酸をエッチャントに用いて1時間以上のエッチングを行うことにより、当該表面に存在する全ての種類の貫通転位に対応したエッチピットを形成することができる。
【0051】
例えば、前記1.項で説明したGaN結晶成長方法を用いてGaN結晶を成長させ、そのGaN結晶からC面GaN基板を製造したとき、該C面GaN基板の主表面には、上記ステップS3においてパターンマスクの非開口部上方で起こるコアレッセンスに由来する転位アレイが存在する。
特に、ステップS2において、閉じた非開口部を有するパターンマスクをGaNシード上に形成したときには、得られるC面GaN基板の主表面上に、該非開口部に対応する転位アレイが現れる。
ステップS2で形成するパターンマスクが有する閉じた非開口部の数が複数であるとき、得られるC面GaN基板の主表面には複数の転位アレイが現れ、その複数の転位アレイの配置は、該パターンマスクにおける該閉じた非開口部の配置を反映する。
従って、前記1.項で説明したGaN結晶成長方法を用いて成長させたGaN結晶から製造されるC面基板は、その主表面に、周期的に配置された複数の転位アレイを有するものであり得る。該複数の転位アレイの配置は二次元的であってもよく、更に、2以上の方向に周期性を有していてもよい。
【0052】
前記1.2.項で述べたように、ステップS2では、GaNシードの窒素極性表面とM面との交線に平行な線状開口のみを、パターンマスクに設けることができる。そうしたとき、ステップS3で成長させたGaN結晶から得られるC面GaN基板が主表面に有する転位アレイは、ステップS3においてパターンマスクの非開口部上方で起こるコアレッセンスに由来する転位アレイのみとなり得る。換言すれば、ステップS3で成長させるGaN結晶がGaNシードから引き継いだ貫通転位で構成された転位群を、主表面に有さないC面GaN基板を製造することができる。
その理由は
、GaNシードの窒素極性表面とM面との交線に平行な線状開口の上方では、GaN結晶の成長表面から(000−1)面に平行な領域が一時的に消失し、そのときにGaNシードから該GaN結晶に引き継がれた貫通転位の伝搬方向がラテラル方向に曲げられるからである。そのせいで、たとえGaNシードから該GaN結晶に、群れを成す
貫通転位が引き継がれたとしても、該貫通転位が群れを成したまま、成長するGaN結晶の上部まで伝搬できないのである。
【0053】
例えば、前記1.項で説明したGaN結晶成長方法において、ステップS1で準備するGaNシードが10
6〜10
7cm
−2の転位密度を有していたとしても、ステップS2でGaNシード上に設けるパターンマスクの周期的開口パターンが、GaNシードの窒素極性表面とM面との交線に対して平行な線状開口のみから構成されるときには、ステップS3で成長させたGaN結晶から製造されるC面GaN基板の表面に、該GaNシードから引き継がれた転位から構成される周期的パターンは観察されない。
それに対し、同じGaNシード上に設けるパターンマスクの周期的開口パターンを、本発明実施形態のようにせずに、GaNシードの窒素極性表面とM面との交線から約12°傾斜した線状開口のみで構成したときは、結果として得られるC面GaN基板の表面に、該GaNシードから引き継がれた転位で構成される周期的パターンが観察される。この周期的パターンは、上記パターンマスクの周期的開口パターンと実質的に同じパターンである。
【0054】
2.3.電気特性
実施形態のC面GaN基板は、n型導電性、p型導電性および半絶縁性のいずれでもあり得る。
実施形態のC面GaN基板がn型導電性である場合について説明すると、次の通りである。
実施形態のn型C面GaN基板の室温における抵抗率は、好ましくは2.0×10
-2Ωcm以下である。電気特性の観点からは該抵抗率に下限は無いが、ドーパントの添加が基板を構成するGaN結晶の品質に与える影響を特に考慮する必要がある場合は、該抵抗率を好ましくは2×10
-3Ωcm以上、より好ましくは5×10
-3Ωcm以上に設定する。
実施形態のn型C面GaN基板の、van der Pauw法によるホール効果測定に基づき求められる室温でのn型キャリア濃度は、好ましくは1×10
18cm
−3以上であり、より好ましくは2×10
18cm
−3以上、より好ましくは3×10
18cm
−3以上である。該n型キャリア濃度は、5×10
18cm
−3以上であってもよい。電気特性の観点からすると該キャリア濃度に上限は無い。ドーパントの添加が基板を構成するGaN結晶の品質に与える影響を特に考慮する必要がある場合は、該キャリア濃度を好ましくは1×10
20cm
−3以下、より好ましくは5×10
19cm
−3以下、より好ましくは2×10
19cm
−3以下に設定する。
van der Pauw法によるホール効果測定は、C面GaN基板をカットすることにより作製される、主表面が1×1cm
2の正方形である板状の試験片の4隅に、インジウム半田等を用いてリード線を接着して行うことができる。
上述の抵抗率およびキャリア濃度は、ホール移動度(Hall mobility)が120cm
2/V・s以上、より好ましくは150cm
2/V・s以上となるように設定され得る。
【0055】
2.4.不純物
GaN結晶が含有する各種の不純物の濃度は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)で測定するのが一般的である。以下で言及する不純物濃度は、SIMSで測定される、基板表面からの深さが1μm以上の部分における値である。
実施形態のC面GaN基板において、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の濃度は、好ましくは1×10
16atoms/cm
3未満、より好ましくは1×10
15atoms/cm
3未満である。ハロゲン化アンモニウムを鉱化剤に用いて、Pt(白金)製のカプセル内でアモノサーマル的に成長させたGaN結晶においては、意図的に添加しない限り、Li(リチウム)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Mg(マグネシウム)およびCa(カルシウム)の各濃度が通常1×10
16atoms/cm
3未満である。
実施形態のC面GaN基板は、結晶成長時に使用された鉱化剤に由来するハロゲンを含有し得る。例えば、NH
4Fを鉱化剤に用いて成長させたGaN結晶は5×10
14atoms/cm
3以上1×10
16atoms/cm
3未満、1×10
16atoms/cm
3以上1×10
17atoms/cm
3未満等の濃度でF(フッ素)を含有することがある。本発明者等が実験で確認しているところでは、鉱化剤にNH
4FとNH
4Iを用いてアモノサーマル的に成長させたGaN結晶中のI(ヨウ素)濃度は、通常、1×10
16atoms/cm
3未満である。
【0056】
実施形態のC面GaN基板におけるH濃度は、5×10
17atoms/cm
3以上であり得る。該H濃度は通常10
21atoms/cm
3台以下であり、5×10
20atoms/cm
3以下、1×10
20atoms/cm
3以下、あるいは5×10
19atoms/cm
3以下であり得る。
実施形態のC面GaN基板が含有してもよいn型不純物は、例えば、O(酸素)、Si(ケイ素)、Ge(ゲルマニウム)、S(硫黄)等であるが、これらに限定されるものではない。
実施形態のC面GaN基板は、室温におけるn型キャリア濃度よりも高いO濃度を有するn型導電性基板であり得る。その場合、該キャリア濃度は通常、O濃度の20〜70%である。
実施形態のC面GaN基板を構成するGaN結晶においては、ガリウム空孔‐水素複合体(gallium vacancy‐hydrogen complex)に帰属する赤外吸収ピークが3140〜3200cm
-1に観測され得る。
【0057】
2.5.用途
(1)窒化物半導体デバイス
実施形態のC面GaN基板は、窒化物半導体デバイスの製造に好ましく使用することができる。
通常は、実施形態のC面GaN基板上に一種以上の窒化物半導体をエピタキシャル成長させて、半導体デバイス構造を備えたエピタキシャル基板を形成する。エピタキシャル成長法としては、薄膜の形成に適したMOCVD法、MBE法、パルス蒸着法などの気相法を好ましく用いることができるが、限定はされない。
半導体デバイス構造は、ガリウム極性表面および窒素極性表面のいずれの上にも形成することができる。
エッチング加工および電極や保護膜などの構造物の付与を含む半導体プロセスが実行された後、エピタキシャル基板は分断されて窒化物半導体デバイスチップとなる。
【0058】
実施形態のC面GaN基板を用いて製造し得る窒化物半導体デバイスの具体例としては、発光ダイオード、レーザダイオードなどの発光デバイス、整流器、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ、HEMT(High Electron Mobility Transistor)などの電子デバイス、温度センサ、圧力センサ、放射線センサ、可視−紫外光検出器などの半導体センサ、太陽電池等が挙げられる。
その他、実施形態のC面GaN基板は、SAW(Surface Acoustic Wave)デバイス、振動子、共振子、発振器、MEMS(Micro Electro Mechanical System)部品、電圧アクチュエータ、人工光合成デバイス用電極等の用途にも適用可能である。
【0059】
(2)GaN層接合基板
一例では、実施形態のC面GaN基板を用いて、GaN層接合基板を製造することができる。
GaN層接合基板とは、GaNとは異なる化学組成を有する異組成基板にGaN層が接合した構造を有する複合基板であり、発光デバイスその他の半導体デバイスの製造に使用することができる。異組成基板としては、サファイア基板、AlN基板、SiC基板、ZnSe基板、Si基板、ZnO基板、ZnS基板、石英基板、スピネル基板、カーボン基板、ダイヤモンド基板、Ga
2O
3基板、ZrB
2基板、Mo基板、W基板、セラミックス基板などが例示される。
GaN層接合基板の構造、製造方法、用途等の詳細については、特開2006−210660号公報、特開2011−44665号公報等を参照することができる。
【0060】
GaN層接合基板は、典型的には、GaN基板の主表面近傍にイオンを注入する工程と、該GaN基板の該主表面側を異組成基板に接合させる工程と、イオン注入された領域を境として該GaN基板を2つの部分に切り離すことによって、異組成基板に接合したGaN層を形成する工程とを、この順に実行することによって製造される。
イオン注入を伴う方法の他に、GaN基板を異組成基板に接合させた後、該GaN基板を機械的に切断して、異組成基板に接合したGaN層を形成する、GaN層接合基板の製造方法も開発されている。
いずれの方法で製造するにせよ、実施形態のC面GaN基板を材料に用いた場合には、該C面GaN基板から分離されたGaN層が異組成基板に接合された構造のGaN層接合基板が得られる。
【0061】
(3)シード
実施形態に係るC面GaN基板は、様々な方法を用いてバルクGaN結晶を成長させる際に、シードとして使用することができる。
バルクGaNの成長方法としては、HVPE(ハイドライド気相成長法)法、昇華法、アモノサーマル法およびNaフラックス法に加え、THVPE(Tri-Halide Vapor Phase Epitaxy)法、OVPE(Oxide Vapor Phase Epitaxy)法なども好ましく使用することができる。
THVPE法は、GaCl
3とNH
3を原料に用いるGaN結晶の気相成長方法で、その詳細については、例えば、国際公開WO2015/037232号公報を参照することができる。
OVPE法は、Ga
2OとNH
3を原料に用いるGaNの気相成長方法で、その詳細については、例えば、M. Imade, et al., Journal of Crystal Growth, 312 (2010) 676-679を参照することができる。
【0062】
実施形態に係るC面GaN基板をシードに用いて、酸性アモノサーマル法でGaN結晶を成長させる場合、成長装置には図
14に示すタイプのものを好ましく用いることができる。
フィードストックには、加熱下で単体GaにHClガスを接触させて得られる気体GaClと、NH
3ガスとを反応させる方法で製造した多結晶GaNを、好ましく用いることができる。
鉱化剤には、NH
4Fを好ましく用いることができる。NH
4Fと、NH
4Cl、NH
4BrおよびNH
4Iから選ばれる一種以上のハロゲン化アンモニウムとを併用してもよく、例えば、NH
4FとNH
4Iを併用してよい。
NH
4Fの濃度は、NH
3に対するモル比で0.1〜1%とすることができる。NH
4F以外のハロゲン化アンモニウムの濃度は、NH
3に対するモル比で1〜5%とすることができる。
圧力および温度については、例えば、100〜250MPaの範囲内および550〜650℃の範囲内でそれぞれ設定することができるが、限定するものではない。
【0063】
実施形態に係るC面GaN基板をシードに用いて成長させたバルクGaN結晶を任意の方向にスライスして、様々な面方位を有するGaN基板を製造することができる。
実施形態に係るC面GaN基板を第一世代基板とし、該第一世代基板をシードに用いて成長させたバルクGaN結晶から製造されるC面GaN基板を第二世代基板としたとき、該第二世代基板は、該第一世代基板が主表面に有する転位アレイと同様の転位アレイを、その主表面に有し得る。本発明の実施形態は、該第二世代基板を含み得る。
該第二世代基板をシードに用いて成長させたバルクGaN結晶から製造される第三世代のC面GaN基板や、その第三世代のC面GaN基板をシードに用いて成長させたバルクGaN結晶から製造される第四世代のC面GaN基板も、該第二世代基板と同じく、該第一世代基板が主表面に有する転位アレイと同様の転位アレイを、その主表面に有し得る。本発明の実施形態は、該第三世代のC面GaN基板および該第四世代のC面GaN基板を含み得る。
【0064】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。