特許第6981420号(P6981420)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6981420架橋性ゴム組成物、ゴム架橋物、および導電性部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981420
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】架橋性ゴム組成物、ゴム架橋物、および導電性部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/03 20060101AFI20211202BHJP
   C08K 3/18 20060101ALI20211202BHJP
   C08K 5/36 20060101ALI20211202BHJP
   C08G 65/333 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
   C08L71/03
   C08K3/18
   C08K5/36
   C08G65/333
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-542420(P2018-542420)
(86)(22)【出願日】2017年9月19日
(86)【国際出願番号】JP2017033710
(87)【国際公開番号】WO2018061864
(87)【国際公開日】20180405
【審査請求日】2020年5月22日
(31)【優先権主張番号】特願2016-189626(P2016-189626)
(32)【優先日】2016年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】召田 郁哉
(72)【発明者】
【氏名】榊田 宏
【審査官】 岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/057299(WO,A1)
【文献】 特開2014−118446(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/146973(WO,A1)
【文献】 特開2001−192524(JP,A)
【文献】 特開2003−120824(JP,A)
【文献】 古川 淳二 ほか,有機合成化学協会誌,1965年,第23巻,第6号,p.504-509,特にp.504-507「I.ポリプロピレンオキシドゴム」の項
【文献】 三浦 克人 ほか,日本ゴム協会誌,1992年,第65巻,第8号,p.483-493,特にp.483「1.緒言」の項
【文献】 東 敬一 ほか,日本ゴム協会誌,1968年,第41巻,第2号,p.105-110,特にp.105-110「2.実験」、「3.実験結果と考察」の項
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 71/03
C08K 3/18
C08K 5/36
C08G 65/333
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される単位0.1〜30モル%、および不飽和オキサイド単量体単位1〜15モル%を含有するポリエーテルゴムと、架橋剤と、過酸化亜鉛とを含み、
下記一般式(1)中のAで表されるカチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基が、下記一般式(2)で表される基である架橋性ゴム組成物。
【化6】
(上記一般式(1)中、Aは、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基である。前記カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基は、該カチオン性含窒素芳香族複素環を構成する窒素原子の1つを介して、上記一般式(1)に示す「2」の位置の炭素原子と結合している。Xは任意の対アニオンである。)
【化7】
(上記一般式(2)中に表されているN−は、上記一般式(1)において、上記一般式(1)に示す「2」の位置の炭素原子と結合している。また、上記一般式(2)中に表されているRは、炭素数1の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記ポリエーテルゴムが、さらに、エピハロヒドリン単量体単位を含有する請求項に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項3】
前記ポリエーテルゴムが、さらに、エチレンオキサイド単量体単位を含有する請求項1または2に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項4】
前記架橋剤が、含硫黄化合物である請求項1〜のいずれかに記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項5】
前記過酸化亜鉛の含有量が、前記ポリエーテルゴム100重量部に対し、0.01〜30重量部である請求項1〜のいずれかに記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載の架橋性ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物。
【請求項7】
請求項に記載のゴム架橋物を有している導電性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性ゴム組成物、および該架橋性ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物、ならびに該ゴム架橋物を有している導電性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、電子写真複写機、およびファクシミリ装置などの画像形成装置において、半導電性が必要とされる機構には、導電性ロール、導電性ブレード、導電性ベルトなどの導電性部材が用いられている。
【0003】
このような導電性部材は、その用途に応じて、所望の範囲の導電性(電気抵抗値とそのばらつき、環境依存性、電圧依存性)、非汚染性、低硬度、および寸法安定性などの種々の性能が要求されている。
【0004】
このような導電性部材の一部を構成するゴムとしては、ゴム自体に半導電性を有する、ポリエーテルゴムなどが用いられてきた。しかしながら、近年、画像形成装置においては高速化が要求され、導電性部材、特に、導電性ロールには更なる低電気抵抗化が望まれている。
【0005】
これに対し、たとえば、特許文献1では、ポリエーテルゴムに、1−メチルイミダゾールなどの窒素原子含有芳香族複素環式化合物をオニウム化剤として用いて導入されたオニウムイオンを有する単量体の単位を含有させてなる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−70137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この特許文献1に記載のポリエーテルゴムは、架橋剤を添加し、架橋性のゴム組成物とし、これを架橋することでゴム架橋物とした場合に、得られるゴム架橋物の電気抵抗値を低く抑えられたものとすることができる。しかし、特許文献1の技術では、架橋性のゴム組成物とした場合において、従来から使用されているポリエーテルゴムに比べ、スコーチが起こりやすいものであり、そのため、加工作業性の観点から、スコーチ安定性の改善が望まれていた。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、優れたスコーチ安定性、および、十分な架橋性を備え、かつ、電気抵抗値が低く抑えられたゴム架橋物を与えることのできる架橋性ゴム組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、このような架橋性ゴム組成物を用いて得られるゴム架橋物および導電性部材を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基を有している特定の単位および不飽和オキサイド単量体単位を、特定割合含有するポリエーテルゴムに、架橋剤と、過酸化亜鉛とを配合してなる架橋性ゴム組成物により、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、下記一般式(1)で表される単位0.1〜30モル%、および不飽和オキサイド単量体単位1〜15モル%を含有するポリエーテルゴムと、架橋剤と、過酸化亜鉛とを含む架橋性ゴム組成物が提供される。
【化1】
(上記一般式(1)中、Aは、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基である。前記カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基は、該カチオン性含窒素芳香族複素環を構成する窒素原子の1つを介して、上記一般式(1)に示す「2」の位置の炭素原子と結合している。Xは任意の対アニオンである。)
【0011】
好ましくは、上記一般式(1)中のAで表されるカチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基が、下記一般式(2)で表される基である。
【化2】
(上記一般式(2)中に表されているN−は、上記一般式(1)において、上記一般式(1)に示す「2」の位置の炭素原子と結合している。また、上記一般式(2)中に表されているRは、水素原子、または炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
【0012】
好ましくは、前記ポリエーテルゴムが、さらに、エピハロヒドリン単量体単位を含有する。
好ましくは、前記ポリエーテルゴムが、さらに、エチレンオキサイド単量体単位を含有する。
好ましくは、前記架橋剤が、含硫黄化合物である。
好ましくは、前記過酸化亜鉛の含有量が、前記ポリエーテルゴム100重量部に対し、0.01〜30重量部である。
【0013】
また、本発明によれば、上記架橋性ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物が提供される。
さらに、本発明によれば、上記ゴム架橋物を有している導電性部材が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れたスコーチ安定性、および、十分な架橋性を備え、かつ、電気抵抗値が低く抑えられたゴム架橋物を与えることのできる架橋性ゴム組成物、ならびに、該架橋性ゴム組成物を用いて得られるゴム架橋物および導電性部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の架橋性ゴム組成物は、後述する一般式(1)で表される単位0.1〜30モル%、および不飽和オキサイド単量体単位1〜15モル%を含有するポリエーテルゴムと、架橋剤と、過酸化亜鉛とを含むものである。
【0016】
<ポリエーテルゴム>
本発明で用いるポリエーテルゴムは、下記一般式(1)で表される単位0.1〜30モル%、および不飽和オキサイド単量体単位1〜15モル%を少なくとも含有する。
【化3】
(上記一般式(1)中、Aは、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基である。前記カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基は、該カチオン性含窒素芳香族複素環を構成する窒素原子の1つを介して、上記一般式(1)に示す「2」の位置の炭素原子と結合している。Xは任意の対アニオンである。)
【0017】
上記一般式(1)で表される単位中、Aは、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基である。このカチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基は、該カチオン性含窒素芳香族複素環を構成する窒素原子の1つを介して、上記一般式(1)に示す「2」の位置の炭素原子と結合している。カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基中のカチオン性含窒素芳香族複素環における含窒素芳香族複素環は、環中に窒素原子を有し、芳香族性を有するものならば、特に限定されない。たとえば、複素環中に、上記一般式(1)に示す「2」の位置の炭素原子と結合する窒素原子以外に、別の窒素原子を有していてもよいし、酸素原子、硫黄原子など、窒素原子以外のヘテロ原子を有していてもよいし、また、複素環を構成する原子のうち一部は置換基により置換されていてもよい。また、二環以上が縮合した多環構造をとっていてもよい。このような含窒素芳香族複素環の構造としては、たとえば、イミダゾール環、ピロール環、チアゾール環、オキサゾール環、ピラゾール環、イソオキサゾール環などの五員複素環;ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環などの六員複素環;キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環、プリン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾイソオキサゾール環などの縮合複素環;などが挙げられる。これらのなかでも、五員複素環および六員複素環が好ましく、イミダゾール環がより好ましい。ポリエーテルゴムにおいて、上記一般式(1)で表される単位中のAは、それぞれ独立しており、ポリエーテルゴム中に、2種以上の、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基が存在していてもよい。
【0018】
上記含窒素芳香族複素環の置換基としては、特に限定されないが、たとえば、アルキル基;シクロアルキル基;アルケニル基;アリール基;アリールアルキル基;アルキルアリール基;アルコキシル基;アルコキシアルキル基;アリールオキシ基;アルカノール基;水酸基;カルボニル基;アルコキシカルボニル基;アミノ基;イミノ基;ニトリル基;アルキルシリル基;ハロゲン原子;などが挙げられる。
【0019】
本発明において、上記一般式(1)中のAで表されるカチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基としては、下記一般式(2)で表される基であることが好ましい。
【化4】
(上記一般式(2)中に表されているN−は、上記一般式(1)において、上記一般式(1)に示す「2」の位置の炭素原子と結合している。また、上記一般式(2)中に表されているRは、水素原子、または炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
【0020】
上記一般式(2)中に表されているRは、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0021】
本発明で用いるポリエーテルゴム中における、上記一般式(1)で表される単位の含有割合は、全単量体単位中、0.1〜30モル%であり、0.5〜25モル%であることが好ましく、0.7〜12モル%であることがより好ましい。上記一般式(1)で表される単位の含有割合が前記範囲内にあると、圧縮永久歪率が小さく、電気抵抗値が低いゴム架橋物を与えることができるポリエーテルゴムが得られる。一方、上記一般式(1)で表される単位の含有割合が少なすぎると、得られるゴム架橋物の体積固有抵抗値が高くなる場合がある。また、上記一般式(1)で表される単位の含有割合が多すぎると、ポリエーテルゴムが硬くなり、ゴム弾性体としての特質が失われる場合がある。
【0022】
上記一般式(1)で表される単位は、通常、エピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴム中の、エピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部を、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基に置換することで得られる。
【0023】
エピハロヒドリン単量体単位を構成するエピハロヒドリン単量体としては、特に限定されないが、たとえば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン、エピフルオロヒドリンなどが挙げられる。これらのなかでも、エピクロロヒドリンが好ましい。エピハロヒドリン単量体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、エピハロヒドリン単量体単位は、ハロゲン原子の少なくとも一部が、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基に置換されることにより、上記一般式(1)で表される単位を構成することとなるが、その一部については、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基に置換されずに、残存していてもよい。
【0024】
ポリエーテルゴム中のエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部を、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基に置換するために用いられる化合物(以下、「オニウム化剤」と記す。)は、窒素原子含有芳香族複素環式化合物であれば、特に限定されず、たとえば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、ピロール、1−メチルピロール、チアゾール、オキサゾール、ピラゾール、イソオキサゾールなどの五員複素環式化合物;ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、2,6−ルチジンなどの六員複素環式化合物;キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プリン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾールなどの縮合複素環式化合物;などを挙げることができる。これらのなかでも、五員複素環式化合物および六員複素環式化合物が好ましく、反応後の物質安定性の観点から、1−メチルイミダゾールがより好ましい。
【0025】
ポリエーテルゴム中のエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部を、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基(以下、「オニウムイオン含有基」と記す場合がある。)に置換する方法は、公知のオニウム化反応を応用したものであるが、公知のオニウム化反応については、特開昭50−33271号公報、特開昭51−69434号公報、および特開昭52−42481号公報などに開示されている。
【0026】
ポリエーテルゴム中のエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部を、オニウムイオン含有基に置換する方法としては、上述したオニウム化剤と、エピハロヒドリン単量体単位を含有しているポリエーテルゴムとを混合し反応させることで、置換する方法などが挙げられる。オニウム化剤と、ポリエーテルゴムとの混合方法は、特に限定されず、たとえば、溶媒を用いて、溶媒を介してこれらを混合する方法や、実質的に溶媒を介さずに混合する方法などが挙げられる。これらの方法のうち、オニウム化反応が進行し易く、反応時間を短縮することができという点より、実質的に溶媒を介さずに混合する方法が好ましい。
【0027】
このような実質的に溶媒を介さずに混合する方法としては、たとえば、エピハロヒドリン単量体単位を含有しているポリエーテルゴムと、オニウム化剤とを、実質的に溶媒を介さずに混練し、かつ、これらを反応させる方法が挙げられる。なお、本明細書において、「オニウム化反応を実質的に溶媒を介さずに行なう」とは、溶媒を一切使用しないでオニウム化反応を行なうという限定的意味ではなく、エピハロヒドリン単量体単位を含有しているポリエーテルゴムと、オニウム化剤とを混練できる程度に、溶媒が使用されていてもよいことを含んだ意味である。
【0028】
また、エピハロヒドリン単量体単位を含有しているポリエーテルゴムと、オニウム化剤との混練方法は、特に限定されないが、ニーダー、バンバリー、オープンロール、カレンダーロール、二軸混練機などの任意の乾式混練機を一つまたは複数組合せて、均一に混合することが好ましい。
【0029】
さらに、エピハロヒドリン単量体単位を含有しているポリエーテルゴムと、オニウム化剤とのオニウム化反応は、混練と同時に行なってもよいし、混練後に別途行なってもよい。別途反応させる場合は、上述した任意の乾式混練機をそのまま継続して用いてもよいし、オーブン、プレス成形機などの加熱機を用いて反応させてもよい。
【0030】
反応時の温度は、40〜200℃であり、好ましくは60〜190℃、より好ましくは80〜180℃である。反応温度が低すぎると、置換反応が進まないおそれがあり、一方、反応温度が高すぎると、ポリエーテルゴムの分解やオニウム化剤の揮発が起こるおそれがある。また、反応時間は、特に限定されず、通常、1分〜10日、好ましくは5分〜1日である。反応時間が短すぎると、置換反応が不完全となるおそれがあり、一方、反応時間が長すぎると、ポリエーテルゴムの分解が起こるおそれがある。
【0031】
一方、溶媒を用いて混合を行う方法において、エピハロヒドリン単量体単位を含有しているポリエーテルゴムと、オニウム化剤とを混合する方法としては、特に限定されず、例えば、ポリエーテルゴムを溶媒に溶解してなる溶液にオニウム化剤を添加し混合する方法、オニウム化剤を溶媒に溶解してなる溶液にポリエーテルゴムを添加し混合する方法、オニウム化剤とポリエーテルゴムとの両方を溶媒に溶解して溶液として調製しておき、両溶液を混合する方法などが挙げられる。なお、ポリエーテルゴムやオニウム化剤は、溶媒中に分散していてもよく、ポリエーテルゴムやオニウム化剤が溶媒に溶解しているか、分散しているかは問わない。
【0032】
溶媒としては、不活性の溶媒が好適に用いられ、非極性であっても極性であってもよい。非極性溶媒としては、たとえば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−へキサンなどの鎖状飽和炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式飽和炭化水素;などが挙げられる。極性溶媒としては、テトラヒドロフラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル;酢酸エチル、安息香酸エチルなどのエステル;アセトン、2−ブタノン、アセトフェノンなどのケトン;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒;エタノール、メタノール、水などのプロトン性極性溶媒;などが挙げられる。溶媒としては、これらの混合溶媒も好適に用いられる。溶媒の使用量は、特に限定されないが、エピハロヒドリン単量体単位を含有しているポリエーテルゴムの濃度が1〜50重量%となるように用いることが好ましく、3〜40重量%になるように用いることがより好ましい。
【0033】
溶媒を用いた場合の反応時の温度は、好ましくは20〜170℃であり、反応時間は、好ましくは1分〜500時間である。
【0034】
オニウム化剤の使用量は、特に限定されないが、用いるオニウム化剤やポリエーテルゴムの構造、目的とするポリエーテルゴム中のオニウムイオン含有基の置換率などに応じて決定すればよい。具体的には、オニウム化剤の使用量は、用いるエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子1モルに対し、通常、0.01〜100モル、好ましくは0.02〜50モル、より好ましくは0.03〜10モル、さらに好ましくは0.05〜2モルの範囲である。オニウム化剤の量が少なすぎると、置換反応が遅く、所望の組成のオニウムイオン含有基を有するポリエーテルゴム(以下、「カチオン化ポリエーテルゴム」とも記す。)が得られなくなるおそれがあり、一方、オニウム化剤の量が多すぎると、得られたカチオン化ポリエーテルゴムから未反応のオニウム化剤を除去することが困難になるおそれがある。
【0035】
また、オニウム化剤として、ピロールのような環状第2級アミン類(本発明において、環状第2級アミン類とは、窒素原子含有芳香族複素環式化合物であって、環中の窒素原子に水素原子が1つ結合しているものを言う。以下、同様。)を使用する場合、オニウム化剤の使用量は、用いるエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子1モルに対し、通常、0.01〜2モル、好ましくは0.02〜1.5モル、より好ましくは0.03〜1モルの範囲である。環状第2級アミン類の量が少なすぎると、置換反応が遅く、所望の組成のカチオン化ポリエーテルゴムが得られなくなるおそれがあり、一方、環状第2級アミン類の量が多すぎると、ハロゲン原子に対して過剰量となっている未反応の環状第2級アミン類の影響により、カチオン化ポリエーテルゴム中のオニウムイオン含有基の置換率の制御が困難になるおそれがある。
【0036】
続いて、必要に応じて、上記一般式(1)に示す「2」の位置の炭素原子と結合している環中の窒素原子と結合している水素原子を、所望の基に置換することもできる。ポリエーテルゴムと環状第2級アミン類との反応後、次に、塩基を混合し、窒素原子と結合しているプロトンを脱離させ、さらに、たとえば、ハロゲン化アルキルを混合し付加させることにより、下記式(3)のように、所望の置換基を導入することができる。
【化5】
(上記一般式(3)中、R’は炭素数1〜10のアルキル基を示し、X’はハロゲン原子を表す。)
【0037】
上記一般式(1)のXで表される任意の対アニオンとは、イオン結合にて、Aと結合している負の電荷を有する化合物または原子であり、負の電荷を持つこと以外は特に限定されない。対アニオンは、電離性のイオン結合であるため、公知のイオン交換反応により、少なくとも一部を、任意の対アニオンにアニオン交換することができる。上記オニウム化剤と、エピハロヒドリン単量体単位を含有しているポリエーテルゴムとを混合し反応が終了した段階においては、上記一般式(1)のXはハロゲン原子であるが、Aの対アニオンであるハロゲン化物イオンに対し、公知のアニオン交換反応を行ってもよい。アニオン交換反応は、オニウムイオン含有基を有するポリエーテルゴムに対し、電離性を有するイオン性化合物を混合することで行うことができる。アニオン交換反応を行う条件は、特に限定されないが、用いるイオン性化合物やポリエーテルゴムの構造、目的とするAの対アニオンの置換率などに応じて決定すればよい。反応には、イオン性化合物と、オニウムイオン含有基を有するポリエーテルゴムとのみで行っても構わないし、有機溶媒などのその他の化合物を含んでいても構わない。イオン性化合物の使用量は、特に限定されないが、用いるエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子1モルに対し、通常、0.01〜100モル、好ましくは0.02〜50モル、より好ましくは0.03〜10モルの範囲である。イオン性化合物の量が少なすぎると、置換反応が進行しにくくなるおそれがあり、一方、多すぎると、イオン性化合物の除去が困難になるおそれがある。
【0038】
アニオン交換反応時の圧力は、通常、0.1〜50MPaであり、好ましくは0.1〜10MPaであり、より好ましくは0.1〜5MPaである。反応時の温度は、通常、−30〜200℃、好ましくは−15〜180℃、より好ましくは0〜150℃である。反応時間は、通常、1分〜1000時間であり、好ましくは3分〜100時間であり、より好ましくは5分〜10時間であり、さらに好ましくは5分〜3時間である。
【0039】
対アニオンのアニオン種は、特に限定されないが、たとえば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン;硫酸イオン;亜硫酸イオン;水酸化物イオン;炭酸イオン;炭酸水素イオン;硝酸イオン;酢酸イオン;過塩素酸イオン;リン酸イオン;アルキルオキシイオン;トリフルオロメタンスルホン酸イオン;ビストリフルオロメタンスルホンイミドイオン;ヘキサフルオロリン酸イオン;テトラフルオロホウ酸イオン;などが挙げられる。
【0040】
上記一般式(1)で表される単位の、本発明で用いるポリエーテルゴム中の含有割合(以下、「オニウムイオン単位含有率」とも記す。)を調べる方法としては、公知の方法を用いればよい。オニウムイオン単位含有率を簡便かつ定量的に求めるためには、本発明で用いるポリエーテルゴムについてH−NMR測定を行うことにより、オニウムイオン含有基の含有量を定量することができる。具体的には、まず、カチオン化ポリエーテルゴムの主鎖であるポリエーテル鎖に由来するプロトンの積分値から、ポリマー中の全単量体単位(オニウムイオン単位を含む)のモル数B1を算出する。次に、オニウムイオン含有基に由来するプロトンの積分値から、導入されているオニウムイオン単位(上記一般式(1)で表される単位)のモル数B2を算出する。導入されているオニウムイオン単位(上記一般式(1)で表される単位)のモル数B2を、ポリマー中の全単量体単位(オニウムイオン単位を含む)のモル数B1で除することにより、オニウムイオン単位含有率を、下記式により算出することができる。
オニウムイオン単位含有率(モル%)=100×B2/B1
【0041】
また、用いるオニウム化剤が、上述した反応条件において、オニウムイオン含有基の置換反応以外の反応で消費されない場合には、オニウム化剤の消費モル量は、ハロゲン原子のオニウムイオン含有基の置換モル量と等しくなる。そのため、オニウム化剤の消費モル量を、反応開始前の添加モル量A1から反応終了後の残留モル量A2を減じることにより算出し、これをオニウム化剤と反応させる前のポリエーテルゴム(以下、「ベースポリエーテルゴム」とも記す。)の全単量体単位のモル量Pにて除することにより、オニウムイオン単位含有率を、下記式により算出することもできる。
オニウムイオン単位含有率(モル%)=100×(A1−A2)/P
消費モル量の測定に関しては、公知の測定方法を用いて構わないが、たとえば、その反応率をキャピラリーカラムと水素炎イオン化型検出器(FID)とを装備したガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定することができる。
【0042】
また、本発明で用いるポリエーテルゴムは、上記一般式(1)で表される単位に加えて、不飽和オキサイド単量体単位を含有する。不飽和オキサイド単量体単位は、主として架橋性の単量体単位として作用する。
【0043】
不飽和オキサイド単量体単位を形成する不飽和オキサイド単量体としては、分子内に少なくとも一つの炭素−炭素不飽和結合(芳香環の炭素−炭素不飽和結合は除く)と、少なくとも一つのエポキシ基とを含有する化合物であれば、特に限定されないが、たとえば、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテルなどのアルケニルグリシジルエーテル類;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセンなどのアルケニルエポキシド類;などが挙げられる。これらのなかでも、アルケニルグリシジルエーテル類が好ましく、アリルグリシジルエーテルがより好ましい。不飽和オキサイド単量体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。ポリエーテルゴム中における、不飽和オキサイド単量体単位の含有割合は、1〜15モル%であり、好ましくは1〜12モル%、より好ましくは2〜10モル%である。不飽和オキサイド単量体単位の含有割合が少なすぎると、架橋が不十分になり、得られるゴム架橋物の機械的特性が低下してしまう場合がある。また、不飽和オキサイド単量体単位の含有割合が多すぎると、重合反応中に、ポリマー分子中あるいはポリマー分子間のゲル化反応(3次元架橋反応)などを起こし易くなって、成形加工性が低下するおそれがある。
【0044】
また、本発明で用いるポリエーテルゴムにおいては、上述したように、通常、エピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴム中の、エピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部を、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基に置換することで、上記一般式(1)で表される単位を導入するものであるが、この場合において、エピハロヒドリン単量体単位のうち一部は、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基に置換されずに、残存していてもよい。そして、この場合における、エピハロヒドリン単量体単位の含有割合は、全単量体単位中、0〜98.9モル%であることが好ましく、10〜78.5モル%であることがより好ましく、15〜57.3モル%であることが特に好ましい。エピハロヒドリン単量体単位の含有割合が上記範囲内にあると、体積固有抵抗値をより適切に低減することができる。
【0045】
また、本発明で用いるポリエーテルゴムは、上記した各単量体単位に加えて、低電気抵抗性の観点から、エチレンオキサイド単量体単位を含有していることが好ましい。エキレンオキサイド単量体単位は、エチレンオキサイド単量体により形成される単位である。本発明で用いるポリエーテルゴム中における、エチレンオキサイド単量体単位の含有割合は、0〜90モル%であることが好ましく、20〜80モル%であることがより好ましく、40〜75モル%であることが特に好ましい。ポリエーテルゴム中における、エチレンオキサイド単量体単位の含有割合を上記範囲内とすることにより、ポリエーテルゴムを低電気抵抗性に優れたものとすることができる。
【0046】
また、本発明で用いるポリエーテルゴムは、必要に応じて、上記した各単量体単位を形成する単量体と共重合可能なその他の単量体の単位を含有する共重合体であってもよい。その他の単量体の単位のなかでも、エチレンオキサイドを除いたアルキレンオキサイド単量体単位が好ましい。エチレンオキサイドを除いたアルキレンオキサイド単量体単位を形成するアルキレンオキサイド単量体としては、特に限定されないが、たとえば、プロピレンオキサイド、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシ−4−クロロペンタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシオクタデカン、1,2−エポキシエイコサン、1,2−エポキシイソブタン、2,3−エポキシイソブタンなどの直鎖状または分岐鎖状アルキレンオキサイド;1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロドデカンなどの環状アルキレンオキサイド;ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテルなどのアルキル直鎖または分岐鎖を有するグリシジルエーテル;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルなどのオキシエチレン側鎖を有するグリシジルエーテル;などが挙げられる。これらのなかでも、直鎖状アルキレンオキサイドが好ましく、プロピレンオキサイドがより好ましい。これらアルキレンオキサイド単量体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。ポリエーテルゴム中における、エチレンオキサイドを除いたアルキレンオキサイド単量体単位の含有割合は、全単量体単位中、30モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましい。ポリエーテルゴム中における、エチレンオキサイドを除いたアルキレンオキサイド単量体単位の含有割合が多すぎると、得られるゴム架橋物の体積固有抵抗値が上昇するおそれがある。
【0047】
また、アルキレンオキサイド単量体を除く、その他の共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、たとえば、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテルなどのアリールエポキシド類;などが挙げられる。本発明で用いるポリエーテルゴム中における、アルキレンオキサイド単量体を除く、その他の共重合可能な単量体単位の含有割合は、全単量体単位中、20モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましく、5モル%以下がさらに好ましい。
【0048】
ベースポリエーテルゴムは、溶液重合法または溶媒スラリー重合法などにより、前記各単量体を開環重合することにより得ることができる。
【0049】
重合触媒としては、一般のポリエーテルゴム重合用触媒であれば、特に限定されない。重合触媒としては、たとえば、有機アルミニウムに水とアセチルアセトンを反応させた触媒(特公昭35−15797号公報);トリイソブチルアルミニウムにリン酸とトリエチルアミンを反応させた触媒(特公昭46−27534号公報);トリイソブチルアルミニウムにジアザビシクロウンデセンの有機酸塩とリン酸とを反応させた触媒(特公昭56−51171号公報);アルミニウムアルコキサイドの部分加水分解物と有機亜鉛化合物とからなる触媒(特公昭43−2945号公報);有機亜鉛化合物と多価アルコールとからなる触媒(特公昭45−7751号公報);ジアルキル亜鉛と水とからなる触媒(特公昭36−3394号公報);トリブチル錫クロライドとトリブチルホスフェートとからなる触媒(特許第3223978号公報);などが挙げられる。
【0050】
重合溶媒としては、不活性溶媒であれば、特に限定されないが、たとえば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−へキサンなどの直鎖状飽和炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状飽和炭化水素類;などが用いられる。これらのなかでも、溶液重合法により開環重合する場合は、ベースポリエーテルゴムの溶解性の観点から、芳香族炭化水素を用いることが好ましく、トルエンがより好ましい。
【0051】
重合反応温度は、20〜150℃が好ましく、50〜130℃がより好ましい。重合様式は、回分式、半回分式、連続式などの任意の方法で行うことができる。
【0052】
ベースポリエーテルゴムは、ブロック共重合、ランダム共重合のいずれの共重合タイプでも構わないが、特に、単量体にエチレンオキサイドを用いる場合、ランダム共重合体の方がよりポリエチレンオキサイドの結晶性を低下させ、ゴム弾性を損ないにくいために好ましい。
【0053】
ベースポリエーテルゴムを溶媒から回収する方法は、特に限定されないが、例えば、凝固・ろ別・脱水・乾燥方法を適宜組合せることにより行う。ベースポリエーテルゴムが溶解している溶液から、ベースポリエーテルゴムを凝固させる方法としては、例えば、常法であるスチームストリッピングや貧溶媒を用いた析出方法などを用いることができる。また、ベースポリエーテルゴムを含むスラリーから、ベースポリエーテルゴムをろ別する方法としては、必要に応じて、例えば、回転式スクリーン、振動スクリーンなどの篩を用いる方法などを挙げることができる。更に、ベースポリエーテルゴムの脱水方法としては、例えば、遠心分離機;ロール、バンバリー式脱水機、スクリュー押出機式脱水機などの圧縮水絞機;などを用いて脱水する方法を挙げることができる。更に、ベースポリエーテルゴムの乾燥方法としては、ニーダー型乾燥機、エキスパンダー乾燥機、熱風乾燥機、減圧乾燥機などの乾燥機を用いる方法;などを挙げることができる。これら上述した方法および用いる機器などは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0054】
本発明で用いるポリエーテルゴムの重量平均分子量は、20万〜200万であることが好ましく、40万〜150万であることがより好ましい。重量平均分子量が高すぎると、ムーニー粘度が高くなり、成形加工が難しくなるおそれがある。一方、重量平均分子量が低すぎると、得られるゴム架橋物の圧縮永久歪が悪化するおそれがある。
【0055】
本発明で用いるポリエーテルゴムのムーニー粘度(ポリマームーニー粘度・ML1+4,100℃)は、10〜120であることが好ましい。ムーニー粘度が高すぎると、成形加工性に劣り、導電性部材用途への成形がし難くなる。さらに、スウェル(押し出し成形時にダイの径より押出物の径が大きくなること)が発生し、寸法安定性が低下するおそれがある。一方、ムーニー粘度が低すぎると、得られるゴム架橋物の機械的強度が低下するおそれがある。
【0056】
<架橋剤>
本発明で用いる架橋剤としては、上述したポリエーテルゴムを架橋可能なものであれば、特に限定されない。
このような架橋剤としては、たとえば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄;一塩化硫黄、二塩化硫黄、硫黄含有モルホリン系化合物(たとえば、4,4’−ジチオジモルホリン、4,4’−テトラチオジモルホリン、モルホリノジチオ蟻酸4−モルホリニル)、チオウレア系化合物(たとえば、トリメチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、ジラウリルチオ尿素、ジフェニルチオ尿素、エチレンチオ尿素、チオカルバニリド)、1,1’−ジチオビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼピン−2−オン)、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物、トリアジン系化合物(たとえば、s−トリアジン−2,4,6−トリチオール)などの含硫黄化合物;ジクミルペルオキシド、ジターシャリブチルペルオキシドなどの有機過酸化物;p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシムなどのキノンジオキシム;トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、4,4’−メチレンビス−o−クロロアニリンなどの有機多価アミン化合物;メチロール基を持つアルキルフェノール樹脂;などが挙げられる。これらのなかでも、硫黄、含硫黄化合物が好ましく、スコーチ安定性をより高めることができるという点より、含硫黄化合物がより好ましく、一塩化硫黄、二塩化硫黄、硫黄含有モルホリン系化合物、チオウレア系化合物、1,1’−ジチオビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼピン−2−オン)、含リンポリスルフィドおよび高分子多硫化物がさらに好ましく、硫黄含有モルホリン系化合物およびチオウレア系化合物がなおさらに好ましく、チオウレア系化合物が特に好ましい。これらの架橋剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0057】
本発明の架橋性ゴム組成物中における、架橋剤の含有量は、本発明で用いるポリエーテルゴム100重量部に対し、好ましくは0.1〜10重量部であり、より好ましくは0.2〜7重量部、さらに好ましくは0.3〜5重量部である。架橋剤の含有量を上記範囲とすることにより、ゴム架橋物を得る際における架橋速度を十分なものとしながら、得られるゴム架橋物の硬度を適切なものとすることができる。
【0058】
<過酸化亜鉛>
また、本発明の架橋性ゴム組成物は、上述したポリエーテルゴムおよび架橋剤に加えて、過酸化亜鉛を含有する。本発明の架橋性ゴム組成物において、過酸化亜鉛(ZnO)は、架橋促進剤あるいは架橋促進助剤として作用するものであり、本発明においては、過酸化亜鉛を使用することで、架橋性ゴム組成物を、十分な架橋性を備えながら、優れたスコーチ安定性を有するものとすることができ、しかも、得られるゴム架橋物を電気抵抗値が低く抑えられたものとすることができるものである。
【0059】
本発明の架橋性ゴム組成物中における、過酸化亜鉛の含有量は、本発明で用いるポリエーテルゴム100重量部に対し、好ましくは0.01〜30重量部であり、より好ましくは0.1〜15重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部であり、特に好ましくは0.5〜5重量部である。過酸化亜鉛の含有量を上記範囲とすることにより、架橋性ゴム組成物の架橋性を十分なものとしながら、スコーチ安定性をより適切に高めることができる。
【0060】
なお、本発明においては、過酸化亜鉛を架橋剤とともに、上述したポリエーテルゴムに配合し、本発明の架橋性ゴム組成物を得るに際して、過酸化亜鉛の添加方法としては特に限定されず、過酸化亜鉛を直接添加してもよいし、あるいは、過酸化亜鉛とゴムとの混合物の形態にて添加してもよいし、さらには、過酸化亜鉛と樹脂との混合物の形態にて添加してもよい。
【0061】
また、本発明の架橋性ゴム組成物は、過酸化亜鉛以外の架橋促進剤または架橋促進助剤として作用する化合物を含有していてもよく、化学構造中に硫黄原子を含有する含硫黄架橋促進剤、酸化亜鉛、ステアリン酸などが挙げられる。ただし、酸化亜鉛(ZnO)の含有量が多すぎると、スコーチ安定性が低下してしまうため、本発明においては、本発明の架橋性ゴム組成物中における、酸化亜鉛の含有量は、本発明で用いるポリエーテルゴム100重量部に対し、0.01〜15重量部の範囲に制限することが好ましく、0.1〜10重量部の範囲に制限することがより好ましく、0.5〜5重量部の範囲に制限することが特に好ましい。また、酸化亜鉛の含有量は、過酸化亜鉛の含有量に対して2倍量以下が好ましく、1.5倍量以下がより好ましく、1倍量以下が特に好ましい。
【0062】
また、化学構造中に硫黄原子を含有する含硫黄架橋促進剤としては、チウラム系架橋促進剤、チアゾール系架橋促進剤、スルフェンアミド系架橋促進剤、ジチオカルバミン酸塩系架橋促進剤などが挙げられる。
【0063】
チウラム系架橋促進剤の具体例としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどが挙げられる。
また、チアゾール系架橋促進剤の具体例としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、(ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、(N,N−ジエチルジチオカルバモイル)ベンゾチアゾールなどが挙げられる。
スルフェンアミド系架橋促進剤の具体例としては、N−エチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N−ジイソプロピル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミドなどが挙げられる。
ジチオカルバミン酸塩系架橋促進剤の具体例としては、ジメチルジチオカルバミン酸鉛、ジアミルジチオカルバミン酸鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジアミルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、ジエチルジチオカルバミン酸セレン、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジエチルジチオカルバミン酸カドミウム、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸鉄、ジメチルジチオカルバミン酸ビスマス、ジメチルジチオカルバミン酸ジメチルアンモニウム、ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン、メチルペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペコリンなどが挙げられる。
【0064】
本発明の架橋性ゴム組成物中における、過酸化亜鉛および酸化亜鉛以外の架橋促進剤または架橋促進助剤として作用する化合物の含有量は、本発明で用いるポリエーテルゴム100重量部に対し、好ましくは0.01〜15重量部であり、より好ましくは0.1〜5重量部、さらに好ましくは0.5〜3重量部である。過酸化亜鉛および酸化亜鉛以外の架橋促進剤または架橋促進助剤として作用する化合物の含有量を上記範囲とすることにより、スコーチ安定性の向上効果を十分なものとしながら、架橋性ゴム組成物の架橋性をより高めることができる。
【0065】
<その他の配合剤>
また、本発明の架橋性ゴム組成物は、上記各成分に加えて、充填剤をさらに含有していてもよい。充填剤としては、特に限定されないが、たとえば、カーボンブラック、シリカ、カーボンナノチューブ、およびグラフェンなどが挙げられる。これらの充填剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。充填剤の配合割合は、特に限定されないが、本発明で用いるポリエーテルゴム100重量部に対して、0.01〜150重量部が好ましく、0.1〜100重量部がより好ましく、1〜60重量部が特に好ましい。これら充填剤のなかでも、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェンなどの導電性充填剤を使用する場合には、その配合割合は、本発明で用いるポリエーテルゴム100重量部に対して、0.01〜60重量部が好ましく、0.1〜40重量部がより好ましく、1〜30重量部が特に好ましい。
【0066】
また、本発明の架橋性ゴム組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム、およびこれらゴムの部分水素添加物(たとえば、水素化ニトリルゴム)などのジエン系ゴム;エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、ポリエーテル系ゴム(上述したポリエーテルゴムを除く)、フッ素ゴム、シリコーンゴムなどのジエン系ゴム以外のゴム;オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマー;ポリ塩化ビニル、クマロン樹脂、フェノール樹脂などの樹脂;を含有していてもよい。これらのゴム、熱可塑性エラストマー、および樹脂は、単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができ、これらの合計含有量は、本発明で用いるポリエーテルゴム100重量部に対して、100重量部以下が好ましく、70重量部以下がより好ましく、50重量部以下が特に好ましい。これらのゴム、熱可塑性エラストマー、および樹脂の中でも、架橋性ゴム組成物を調製する際における加工性、特に、ロール混練時の加工性を高めることができるという観点より、アクリロニトリルブタジエンゴムを含有させることが好ましい。
【0067】
さらに、本発明の架橋性ゴム組成物には、上述した添加剤以外に、公知のゴムに通常配合されるその他の添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、特に限定されないが、たとえば、受酸剤;補強剤;老化防止剤;紫外線吸収剤;耐光安定剤;粘着付与剤;界面活性剤;導電性付与剤;電解質物質;着色剤(染料・顔料);難燃剤;帯電防止剤;などが挙げられる。
【0068】
本発明の架橋性ゴム組成物は、上述したポリエーテルゴムに、架橋剤、および過酸化亜鉛、ならびに、必要に応じて用いられる各添加剤を、所望の方法により調合、混練することにより調製することができる。たとえば、架橋剤や過酸化亜鉛、必要に応じて添加される過酸化亜鉛以外の架橋促進剤または架橋促進助剤として作用する化合物を除く添加剤と、ポリエーテルゴムとを混練後、その混合物に、架橋剤、過酸化亜鉛、必要に応じて添加される過酸化亜鉛以外の架橋促進剤または架橋促進助剤として作用する化合物を混合して、本発明の架橋性ゴム組成物を得ることができる。調合、混練に際しては、たとえば、ニーダー、バンバリー、オープンロール、カレンダーロール、押出機など任意の混練成形機を一つあるいは複数組み合わせて用いて混練成形してもよい。架橋剤、過酸化亜鉛、必要に応じて添加される過酸化亜鉛以外の架橋促進剤または架橋促進助剤として作用する化合物を除く添加剤と、ポリエーテルゴムとの混練温度は、20〜200℃が好ましく、20〜150℃がより好ましく、その混練時間は、30秒〜30分が好ましく、混練物と、架橋剤、過酸化亜鉛、必要に応じて添加される過酸化亜鉛以外の架橋促進剤または架橋促進助剤として作用する化合物との混合温度は、100℃以下が好ましく、0〜80℃がより好ましい。
【0069】
<ゴム架橋物>
本発明のゴム架橋物は、上述した本発明の架橋性ゴム組成物を架橋してなるものである。
【0070】
本発明の架橋性ゴム組成物を架橋する方法は、特に限定されないが、成形と架橋を同時に行っても、成形後に架橋してもよい。成形時の温度は、20〜200℃が好ましく、40〜180℃がより好ましい。架橋時の加熱温度は、130〜200℃が好ましく、140〜200℃がより好ましい。架橋時の温度が低すぎると、架橋時間が長時間必要となったり、得られるゴム架橋物の架橋密度が低くなったりするおそれがある。一方、架橋時の温度が高すぎると、成形不良となるおそれがある。架橋時間は、架橋方法、架橋温度、形状などにより異なるが、1分以上、5時間以下の範囲が架橋密度と生産効率の面から好ましい。加熱方法としては、プレス加熱、オーブン加熱、蒸気加熱、熱風加熱、およびマイクロ波加熱などの方法を適宜選択すればよい。
【0071】
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。二次架橋を行う際における、加熱温度は、100〜220℃が好ましく、130〜210℃がより好ましい。加熱時間は、30分〜5時間が好ましい。
【0072】
本発明のゴム架橋物の体積固有抵抗値は、温度23℃、湿度50%とした測定環境にて、印加電圧を100Vおよび250Vの2条件とし、電圧印加開始から30秒後の値において、通常、1×105.0〜1×109.5Ω・cmであり、好ましくは1×105.2〜1×108.0Ω・cmであり、より好ましくは1×105.5〜1×107.5Ω・cmである。ゴム架橋物の体積固有抵抗値が前記範囲内にあると、低電気抵抗性に優れた導電性部材が得られる。一方、ゴム架橋物の体積固有抵抗値が高すぎると、同じ電流を流すためにより高い電圧を印加しなければならず、消費電力量が多くなることから導電性部材には不向きである。また、ゴム架橋物の体積固有抵抗値が低すぎると、電圧印加方向以外の意図しない方向に電流が流れてしまい、導電性部材としての機能を損ねるおそれがある。
【0073】
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、上述した本発明の架橋性ゴム組成物を用いて得られるものであるため、電気抵抗値が低く、各種導電用途に好適に用いることのできるものである。
【0074】
<導電性部材>
本発明の導電性部材は、本発明のゴム架橋物を有しているものである。
【0075】
本発明のゴム架橋物は、その特性を活かして、各種工業ゴム製品用材料として有用であり、たとえば、複写機や印刷機などに使用される、導電性ロール、導電性ブレード、導電性ベルトなどの導電性部材;靴底やホース用材料;コンベアーベルトやエスカレータのハンドレールなどのベルト用材料;シール、パッキン用材料;などとして用いることができる。特に、本発明のゴム架橋物は、電気抵抗値が低いという特性を有するため、複写機や印刷機などに使用される導電性部材、特に、導電性ロールに好適に用いることができる。
【実施例】
【0076】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の「部」は、特に断りのない限り、重量基準である。
各種の物性については、以下の方法に従って評価した。
【0077】
[オニウムイオン単位含有率]
実施例におけるオニウムイオン単位含有率の測定は、核磁気共鳴装置(H−NMR)を用いて、以下のように行った。オニウム化反応後、凝固乾燥して得られたカチオン化ポリエーテルゴム30mgを、1.0mlのジメチルスルホキシドに加え、1時間振とうすることにより均一に溶解させた。この溶液を、H−NMR測定することによりオニウムイオン単位含有率を算出した。まず、カチオン化ポリエーテルゴムの主鎖であるポリエーテル鎖に由来するプロトンの積分値から、ポリマー中の全単量体単位(オニウムイオン単位を含む)のモル数B1を算出した。次に、オニウムイオン含有基に由来するプロトンの積分値から、導入されているオニウムイオン単位(上記一般式(1)で表される単位)のモル数B2を算出した。そして、導入されているオニウムイオン単位(上記一般式(1)で表される単位)のモル数B2を、ポリマー中の全単量体単位(オニウムイオン単位を含む)のモル数B1で除することにより、オニウムイオン単位含有率を、下記式により算出した。
オニウムイオン単位含有率(モル%)=100×B2/B1
【0078】
[ムーニースコーチ時間(t、t35)]
架橋性ゴム組成物のムーニースコーチ時間(t、t35)は、JIS K6300に従って、L形ロータを用いて125℃で測定した。なお、ムーニースコーチ時間(t)は、ムーニー粘度が最小値から5ポイント増加するまでの時間であり、ムーニースコーチ時間(t35)は、ムーニー粘度が最小値から35ポイント増加するまでの時間である。ムーニースコーチ時間(t、t35)の値が大きいほど、スコーチ安定性に優れる。
【0079】
[架橋性試験]
架橋性ゴム組成物について、ゴム加硫試験機(ムービングダイレオメータMDR、アルファテクノロジーズ社製)を用い、170℃、20分の条件で架橋性試験を行った。そして、架橋性試験の結果から、最小トルク「ML」(単位は、dN・m)、最大トルク「MH」(単位は、dN・m)、T10(単位は、min.)およびT90(単位は、min.)を測定した。なお、T10およびT90は、「最大トルクMH−最小トルクML」を100%としたときに、トルクが最小トルクMLから、それぞれ、10%上昇するのに要する時間、および90%上昇するのに要する時間を意味し、T90の値が小さいほど架橋速度が速いと判断できる。
【0080】
[体積固有抵抗値(23℃、50%RH)]
架橋性ゴム組成物を温度170℃、20分間のプレスによって成形、架橋し、縦15cm、横10cm、厚さ2mmのシート状のゴム架橋物(シート状試験片)を得た。そして、得られたシート状のゴム架橋物を用いて、体積固有抵抗値を測定した。なお、体積固有抵抗値の測定は、K6271の2重リング電極法に準拠して行い、測定条件は、温度23℃、湿度50%とし、印加電圧は100Vおよび250Vの2条件とし、電圧の印加を開始してから30秒後の値を測定した。体積固有抵抗値は、数値が小さいほど、導電性に優れている。
【0081】
(製造例1、重合触媒の製造)
密閉した耐圧ガラス容器を窒素置換して、トルエン200部およびトリイソブチルアルミニウム60部を供給した。このガラス容器を氷水に浸漬して冷却後、ジエチルエーテル230部を添加し、攪拌した。次に、氷水で冷却しながら、リン酸13.6部を添加し、さらに攪拌した。この時、トリイソブチルアルミニウムとリン酸との反応により、容器内圧が上昇するので適時脱圧を実施した。次いで、得られた反応混合物を60℃の温水浴内で1時間熟成反応させて触媒溶液を得た。
【0082】
(製造例2、ポリエーテルゴムの製造)
オートクレーブにエピクロロヒドリン223.5部、アリルグリシジルエーテル27.5部、エチレンオキサイド19.7部、トルエン2585部を入れ、窒素雰囲気下で攪拌しながら内溶液を50℃に昇温し、上記で得た触媒溶液11.6部を添加して反応を開始した。次に、反応開始からエチレンオキサイド129.3部をトルエン302部に溶解した溶液を5時間かけて等速度で連続添加した。また、反応開始後30分毎に触媒溶液6.2部ずつを5時間にわたり添加した。次いで、水15部を添加して攪拌し、反応を終了させた。ここにさらに、老化防止剤として4,4’−チオビス−(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)の5%トルエン溶液45部を添加し、攪拌した。スチームストリッピングを実施してトルエンを除去し、上澄み水を除去後、60℃にて真空乾燥し、ポリエーテルゴム400部を得た。このポリエーテルゴムの単量体組成比は、H−NMRにより測定した結果、エピクロロヒドリン単量体単位40モル%、エチレンオキサイド単量体単位56モル%、アリルグリシジルエーテル単量体単位4モル%であった。また、得られたポリエーテルゴムのムーニー粘度は60[ML1+4,100℃]であった。
【0083】
(製造例3、カチオン化ポリエーテルゴムの製造)
25℃のオープンロールに、製造例2で得られたポリエーテルゴム100部と、1−メチルイミダゾール1.5部とを投入し、5分間混練した後、その混合物を、100℃に加熱した加圧成型機にセットし、24時間反応させた。その後、オーブンから、反応により得られたカチオン化ポリエーテルゴムを、収量101.5部にて回収した。得られたカチオン化ポリエーテルゴムを、上述した方法に従って、H−NMR測定することにより、オニウムイオン単位含有率を算出した。得られたカチオン化ポリエーテルゴムのオニウムイオン単位含有率は1.2モル%であった。すなわち、得られたカチオン化ポリエーテルゴムの単量体組成比は、エピクロロヒドリン単量体単位38.8モル%、エチレンオキサイド単量体単位56モル%、オニウムイオン単位(一般式(1)で表される単位)1.2モル%、アリルグリシジルエーテル単量体単位4モル%であった。また、得られたカチオン化ポリエーテルゴムのムーニー粘度は54[ML1+4,100℃]であった。
【0084】
〔実施例1〕
40℃のオープンロールに、製造例3で得られたカチオン化ポリエーテルゴム100部、4,4'−ジチオジモルホリン(商品名「バルノックR」、大内新興化学工業社製、硫黄含有モルホリン系化合物)1部、トリメチルチオ尿素(商品名「ノクセラーTMU」、大内新興化学工業社製、チオウレア系架橋剤)1部、過酸化亜鉛(ハクスイテック社製)1部、カーボンブラック(商品名「サーマックスN990」、東海カーボン社製、MTカーボンブラック、充填剤)20部、およびステアリン酸(架橋促進助剤)1部を投入し、10分間混練し混合することにより、架橋性ゴム組成物を調製した。そして、得られた架橋性ゴム組成物を用いて、上記した方法にしたがって、ムーニースコーチ時間(t、t35)、架橋性試験、体積固有抵抗値の各測定・評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
〔実施例2〕
4,4'−ジチオジモルホリンを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
〔比較例1〕
過酸化亜鉛1部に代えて、酸化亜鉛(亜鉛華2種、正同化学社製)5部を使用した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
〔比較例2〕
4,4'−ジチオジモルホリン1部およびトリメチルチオ尿素1部に代えて、硫黄(商品名「サルファックスPMC、鶴見化学工業社製」0.5部およびテトラエチルチウラムジスルフィド(商品名「ノクセラーTET」、大内新興化学工業社製、チウラム系架橋促進剤)1部を使用した以外は、比較例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
〔比較例3〕
酸化亜鉛の配合量を5部から2.5部に変更した以外は、比較例2と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示すように、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基を有している特定の単位および不飽和オキサイド単量体単位を、特定割合含有するポリエーテルゴムに、架橋剤と、過酸化亜鉛とを配合してなる架橋性ゴム組成物は、ムーニースコーチ時間(t)、およびムーニースコーチ時間(t35)のいずれも長く、スコーチ安定性に優れ、さらには十分な架橋性を示すものであり、また、得られるゴム架橋物は、電気抵抗値が低く抑えられたものであった(実施例1,2)。
【0091】
一方、過酸化亜鉛の代わりに、酸化亜鉛を使用した場合には、ムーニースコーチ時間(t)、およびムーニースコーチ時間(t35)のいずれも短く、スコーチ安定性に劣るものであった(比較例1)。
【0092】
以上の結果より、十分な架橋性を示しながら、ムーニースコーチ時間(t)、およびムーニースコーチ時間(t35)のいずれをも長くすることができ、しかも得られるゴム架橋物を電気抵抗値が低く抑えられたものとすることができるという効果は、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基を有している特定の単位および不飽和オキサイド単量体単位を、特定割合含有するポリエーテルゴムに、過酸化亜鉛を配合することにより初めて達成できる効果であることが確認できる。そして、本発明の架橋性ゴム組成物によれば、ムーニースコーチ時間(t)を長くすることができることにより、型成形や押し出し成形などにおける成形不良を防ぐことができるという有利な効果を、ムーニースコーチ時間(t35)を長くすることができることにより、架橋後の成形品の架橋ムラが少なくなるという有利な効果を、それぞれ奏することができる。