【文献】
エンドトキシン便り「第4話エンドトキシン(LPS)の不活化と除去」,2015年,https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/siyaku-blog/010980.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の製造方法は、下記(i)の特定化合物及び増粘性多糖類を含有する無菌の第1の液体と、下記(ii)の連結物質及び前記増粘性多糖類を含有する無菌の第2の液体とを混合して、無菌の液状の培地組成物を製造する方法である。
(i)2価金属カチオンを介して結びつくことにより細胞又は組織を浮遊させることができる構造体を形成することができる、アニオン性の官能基を有する高分子化合物である特定化合物、
(ii)2価金属カチオンである連結物質。
【0016】
本発明の製造方法は、無菌の第1の液体及び無菌の第2の液体を、それぞれ濾過滅菌により調製することを特徴とする。濾過滅菌の使用により、オートクレーブ滅菌が不要となり、オートクレーブ滅菌に伴う、細菌の死骸や、菌体の破壊によって遊離されるエンドトキシンが培地内に残存するリスクを回避することができる。
【0017】
また、本発明の製造方法は、第1の液体及び第2の液体の双方が増粘性多糖類を含有することを特徴とする。第1の液体及び第2の液体の双方に増粘性多糖類を溶解することにより、一方の溶液に増粘性多糖類が偏在して粘性が過度に上昇することが回避され、双方の溶液を濾過滅菌し得る。
【0018】
先ず、前記(i)の特定化合物及び増粘性多糖類を含有する第1の液体、前記(ii)の連結物質及び増粘性多糖類を含有する第2の液体、および、これらの液体の混合によって形成される液状の培地組成物(特定化合物が連結物質を介して結びついてなる構造体及び増粘性多糖類を均一に分散した状態で含有する液体)を、詳細に説明する。
【0019】
〔第1の液体〕
第1の液体は、特定化合物として、2価金属カチオンを介して結びつくことにより細胞又は組織を浮遊させることができる構造体を形成することができる、アニオン性の官能基を有する高分子化合物を含有する。
アニオン性の官能基としては、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基及びそれらの塩が挙げられ、カルボキシ基またはその塩が好ましい。本発明に用いられる高分子化合物には、前記アニオン性の官能基の群より選択される1種又は2種以上が含まれていてもよい。
【0020】
本発明に用いられる高分子化合物の好ましい具体例としては、特に制限されるものではないが、単糖類(例えば、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース等)が10個以上重合した多糖類が挙げられ、より好ましくは、アニオン性の官能基を有する酸性多糖類が挙げられる。ここにいう酸性多糖類とは、その構造中にアニオン性の官能基を有すれば特に制限されないが、例えば、ウロン酸(例えば、グルクロン酸、イズロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸)を有する多糖類、構造中の一部に硫酸基又はリン酸基を有する多糖類、或いはその両方の構造を持つ多糖類であって、天然から得られる多糖類のみならず、微生物により産生された多糖類、遺伝子工学的に産生された多糖類、或いは酵素を用いて人工的に合成された多糖類も含まれる。より具体的には、ヒアルロン酸、ジェランガム、脱アシル化ジェランガム(以下、DAGという場合もある)、ラムザンガム、ダイユータンガム、キサンタンガム、アルギン酸、カラギーナン、ザンタンガム、ローカストビーンガム、ヘキスロン酸、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ヘパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ラムナン硫酸及びそれらの塩からなる群より1種又は2種以上から構成される多糖類が例示される。多糖類は、好ましくは、ヒアルロン酸、DAG、ダイユータンガム、キサンタンガム、カラギーナン又はそれらの塩であり、より好ましくは、DAG又はその塩である。DAGはリン酸化したものを使用することもできる。当該リン酸化は公知の手法で行うことができる。
ここでいう塩とは、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムといったアルカリ金属の塩、カルシウム、バリウム、マグネシウムといったアルカリ土類金属の塩又はアルミニウム、亜鉛、銅、鉄、アンモニウム、有機塩基及びアミノ酸等の塩が挙げられる。
【0021】
これらの高分子化合物(多糖類等)の重量平均分子量は、好ましくは10,000乃至50,000,000であり、より好ましくは100,000乃至20,000,000、更に好ましくは1,000,000乃至10,000,000である。例えば、当該分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるプルラン換算で測定できる。
【0022】
本発明においては、上記アニオン性の官能基を有する多糖類を単独で使用してもよいし、複数種(好ましくは2種)組み合わせて使用することができる。多糖類の組み合わせの種類は、2価金属カチオンを介して結びつくことにより上述の構造体を液体培地中に形成することができれば特に限定されないが、好ましくは、当該組合せは少なくともDAG又はその塩を含む。即ち、好適な多糖類の組合せには、DAG又はその塩、及びDAG又はその塩以外のアニオン性の官能基を有する多糖類(例、キサンタンガム、アルギン酸、カラギーナン、ダイユータンガム、ローカストビーンガム又はそれらの塩)が含まれる。具体的な多糖類の組み合わせとしては、DAGとラムザンガム、DAGとダイユータンガム、DAGとキサンタンガム、DAGとカラギーナン、DAGとザンタンガム、DAGとローカストビーンガム、DAGとκ−カラギーナン、DAGとアルギン酸ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
脱アシル化ジェランガムとは、1−3結合したグルコース、1−4結合したグルクロン酸、1−4結合したグルコース及び1−4結合したラムノースの4分子の糖を構成単位とする直鎖状の高分子多糖類であり、以下の一般式(I)において、R
1、R
2が共に水素原子であり、nは2以上の整数で表わされる多糖類である。ただし、R
1がグリセリル基を、R
2がアセチル基を含んでいてもよいが、アセチル基及びグリセリル基の含有量は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは1%以下である。
【0025】
特定化合物は、化学合成法で得られたものであってもよいが、当該特定化合物が天然物である場合は、当該化合物を含有している各種植物、各種動物、各種微生物から慣用技術を用いて抽出及び分離精製することにより得られたものであってもよい。例えば、ジェランガムは、発酵培地で生産微生物を培養し、菌体外に生産された粘膜物を通常の精製方法にて回収し、乾燥、粉砕等の工程後、粉末状にすることにより製造することができる。また、脱アシル化ジェランガムの場合は、粘膜物を回収する際にアルカリ処理を施し、1−3結合したグルコース残基に結合したグリセリル基とアセチル基を脱アシル化した後に回収すればよい。ジェランガムの生産微生物の例としては、これに限定されるものではないが、スフィンゴモナス・エロディア(Sphingomonas elodea)及び当該微生物の遺伝子を改変した微生物が挙げられる。
脱アシル化ジェランガムの場合、市販のもの、例えば、三晶株式会社製「KELCOGEL(シーピー・ケルコ社の登録商標)CG−LA」、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製「ケルコゲル(シーピー・ケルコ社の登録商標)」等を使用することができる。また、ネイティブ型ジェランガムとして、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製「ケルコゲル(シーピー・ケルコ社の登録商標)HT」等を使用することができる。
【0026】
第1の液体は、上記特定化合物に加えて、増粘性多糖類を含有する。増粘性多糖類とは、水溶液(例、液体培地)に粘性を付与することができる多糖類をいう。本発明の製造方法により製造される液状の培地組成物は、適当な濃度で増粘性多糖類を含有することにより、適度な粘性を有し、浮遊培養における細胞塊の移動と細胞塊同士の密着が防がれる。ここで適度な粘性とは、培地交換を妨げないで細胞塊同士の接着が起こらない程度の粘度を意味する。増粘性多糖類としては、培地に上記の適度な粘度を付与し得るものであって、当該粘度を付与し得る濃度範囲において、細胞に悪影響を及ぼさない(細胞毒性がない)ものであれば、いかなる増粘性多糖類も使用することができる。例えば、セルロース、アガロースなどの多糖;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ジヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロースなどの多糖のエーテル;ヒアルロン酸、デンプンなどの生体高分子等が挙げられる。これら増粘性多糖類は単独で用いてもよいし、何種類かの増粘性多糖類の混合物として用いることもできる。好ましくは、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはそれらの混合物、より好ましくはメチルセルロースを用いることができる。
【0027】
好ましい態様において、第1の液体は、特定化合物としてDAG又はその塩、及び増粘性多糖類としてメチルセルロースを含有する。
【0028】
第1の液体は、通常、特定化合物及び増粘性多糖類の溶液である。当該溶液のための溶媒は、特定化合物及び増粘性多糖類を溶解可能なものである限り、特に限定されないが、通常、水又は親水性溶媒であり、好ましくは水である。即ち、好ましい態様において第1の液体は、特定化合物及び増粘性多糖類の水溶液である。
【0029】
第1の液体中に含有される特定化合物の濃度は、第2の液体と混合した際に、混合液中で、特定化合物が2価金属カチオンを介して結びつくことにより細胞又は組織を浮遊させることができる構造体を形成し、且つ該構造体が混合液中に均一に分散し、更に、最終的に得られる液状の培地組成物が、当該構造体を含むことにより細胞又は組織を浮遊培養可能である限り、特に限定されない。下に詳述した、細胞又は組織を浮遊培養可能な培地組成物中の特定化合物の濃度と、最終産物で得られる培地組成物の体積に対する、第1の液体の体積の比率から、第1の液体中の特定化合物の濃度を算出することが可能である。例えば、体積V
1の第1の液体と、体積V
2の第2の液体とを混合して、体積V
1+V
2の液状の培地組成物を最終的に得る場合、当該液状の培地組成物中の特定化合物の濃度をC
X%(w/v)とするためには、第1の液体中の特定化合物の濃度を、C
X×(V
1+V
2)/V
1%(w/v)とすればよい。
【0030】
第1の液体中に含有される増粘性多糖類の濃度は、最終的に得られる液状の培地組成物が、培地交換を妨げないで細胞塊同士の接着が起こらない程度の粘度を有する限り、特に限定されない。下に詳述した、最終的に得られる液状の培地組成物中の増粘性多糖類の濃度、該液状の培地組成物の体積に対する、第1の液体の体積の比率、及び第2の液体中の増粘性多糖類の濃度から、第1の液体中の増粘性多糖類の濃度を算出することが可能である。例えば、体積V
1の第1の液体(増粘性多糖類濃度C
Y1)と、体積V
2の第2の液体(増粘性多糖類濃度C
Y2)とを混合して、体積V
1+V
2の液状の培地組成物を最終的に得る場合、当該液状の培地組成物中の増粘性多糖類の濃度をC
Y%(w/v)とするためには、
C
Y1×V
1+C
Y2×V
2=C
Y×(V
1+V
2)
の式を満足するよう、第1の液体中の増粘性多糖類濃度C
Y1を調整すればよい。
【0031】
第1の液体中の増粘性多糖類の濃度は、第1の液体が濾過滅菌に使用する濾過膜を通過し得る濃度に調整される。第1の液体中の増粘性多糖類の濃度の上限値は、増粘性多糖類の種類及び濾過膜の孔径により変動する。例えば、増粘性多糖類としてメチルセルロースを使用する場合、第1の液体中のメチルセルロース濃度は、好ましくは0.422%(w/v)以下である。他の増粘性多糖類を使用する場合であっても、当業者であれば、上記のメチルセルロース濃度(0.422%(w/v)以下)に相当する粘度を第1の液体に与える濃度を適宜設定することが出来る。第1の液体における増粘性多糖類濃度が、0.422%(w/v)以下のメチルセルロース濃度に相当する粘度を第1の液体に与える濃度であれば、0.2μm以上(例、0.2〜0.22μm)の孔径の濾過膜を使用して、第1の液体をスムースに濾過滅菌し得る。
【0032】
第1の液体中の2価金属カチオン濃度は、第1の液体中の特定化合物が、構造体を形成する濃度を下回る必要がある。2価金属カチオンとしては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、鉄イオン、銅イオン等が挙げられる。特に、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンのうちの一方または両方(以下、「カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオン」とも表現する)が、DAG等の特定化合物の構造体形成に寄与する。
【0033】
第1の液体には、特定化合物、増粘性多糖類、及び溶媒以外の因子が含まれていてもよい。該因子としては、生理的に許容可能な緩衝剤、塩、等張剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
第1の液体は、特定化合物及び増粘性多糖類を上記溶媒(例、水)に溶解することにより調製することができる。ここで、脱アシル化ジェランガム等のアニオン性の官能基を有する酸性多糖類は、一般的に、熱水に溶けやすく、冷水に溶けにくい。これに対して、メチルセルロース等の多糖のエーテルは、熱水中では非溶解状態のまま分散し、冷水中で溶解しやすいが、該エーテルの粉末を冷水中に直接添加すると、「ダマ」が形成されてしまい、添加した量の多くが溶解せずに残ってしまう。このような溶質の溶解特性の違いを考慮して、溶媒の温度や、特定化合物及び増粘性多糖類を溶媒に添加する順序を適切に工夫する必要がある。例えば、特定化合物(例、脱アシル化ジェランガム)を上記溶媒(例、水)に添加し、当該特定化合物が溶解可能な温度(例えば、60℃以上、80℃以上、90℃以上)にて撹拌し、透明な状態になるまで溶解する。次に、この高温(例えば、60℃以上、80℃以上、90℃以上)を維持した状態で、水溶液に増粘性多糖類(例、メチルセルロース)の粉末を添加し、撹拌することにより分散させる。その後、得られた懸濁液を低温(例、4℃以下且つ凝固点超)で、撹拌するか静置することにより、増粘性多糖類(例、メチルセルロース)を透明な状態になるまで溶解する。特定化合物の溶解は、オートクレーブ(例、121℃、20分)にて行うこともできるが、オートクレーブにより破壊された菌体から遊離されるエンドトキシンの残存するリスクを回避する観点から、100℃以下の温度で溶解させてもよい。脱2価金属カチオン処理をした特定化合物(DAG等)を用いると、加熱を要することなく水に溶解するので、溶解操作が容易である。必要であれば、得られた特定化合物の溶液を、脱2価金属カチオン処理に付し、溶液中の2価金属カチオン濃度が構造体形成濃度を下回るようにする。必要に応じて、溶媒中に予め特定化合物及び増粘性多糖類以外の因子を加えておいてもよいし、得られた特定化合物及び増粘性多糖類の溶液に特定化合物及び増粘性多糖類以外の因子を加えてもよい。本発明の製造方法は、上述の様な第1の液体の調製工程を含んでいてもよい。
【0035】
〔第2の液体〕
第2の液体は、連結物質として2価金属カチオンを含有する。2価金属カチオンとしては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、鉄イオン、銅イオン等が挙げられる。2価金属カチオンの種類は、第1の液体中に含まれる特定化合物が、当該2価金属カチオンを介して結びつくことにより細胞又は組織を浮遊させることができる構造体を形成することが可能であれば特に限定されないが、好ましくはカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンのうちの一方または両方であり、より好ましくはカルシウムイオンである。
【0036】
第2の液体は、上記連結物質に加えて、増粘性多糖類を含有する。増粘性多糖類としては、上述のものを挙げることができる。増粘性多糖類は、好ましくは、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはそれらの混合物であり、より好ましくはメチルセルロースである。好ましい態様において、第1の液体に含まれる増粘性多糖類の種類は、第2の液体に含まれる増粘性多糖類と同一である。好ましい態様において、第1の液体及び第2の液体は、増粘性多糖類としてメチルセルロースを含有する。
【0037】
好ましい態様において、第2の液体は、連結物質としてカルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオン、並びに増粘性多糖類としてメチルセルロースを含有する。
【0038】
第2の液体は、通常、連結物質(即ち、2価金属カチオン)及び増粘性多糖類(例、メチルセルロース)の溶液である。当該溶液のための溶媒は、連結物質及び増粘性多糖類を溶解可能なものである限り、特に限定されないが、通常、水又は親水性溶媒であり、好ましくは水である。即ち、好ましい態様において第2の液体は、連結物質(即ち、2価金属カチオン)及び増粘性多糖類(例、メチルセルロース)の水溶液である。
【0039】
第2の液体には、第1の液体と第2の液体とを混合し、最終的に得られる液状の培地組成物中の2価金属カチオン濃度が、第1の液体中の特定化合物が構造体を形成するのに十分となる量の2価金属カチオンが含まれる。
第2の液体中の2価金属カチオン濃度は、最終的に得られる液状の培地組成物中の2価金属カチオン濃度と、第1の液体と第2の液体との混合比から算出することができる。
【0040】
第2の液体には、連結物質(即ち、2価金属カチオン)、増粘性多糖類、及び溶媒以外の因子が含まれていてもよい。該因子としては、意図した細胞(例えば、哺乳動物の多能性幹細胞)を培養するのに適した培地構成成分が挙げられる。当該培地構成成分としては、緩衝剤(炭酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、HEPES等)、無機塩(NaCl等)、各種アミノ酸、各種ビタミン(コリン、葉酸等)、糖類(グルコース等)、抗酸化剤(モノチオグリセロール等)、ピルビン酸、脂肪酸、血清、抗生物質、インシュリン、トランスフェリン、ラクトフェリン、コレステロール、各種サイトカイン(例えば、哺乳動物の多能性幹細胞を培養する場合には、bFGF、LIF等の未分化維持因子)、各種ホルモン、各種増殖因子、各種細胞外マトリックス等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0041】
好ましい態様において、第2の液体は、構造体形成濃度の2価金属カチオン(好ましくは、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオン)及び増粘性多糖類(例、メチルセルロース)を含有する液体培地であるか、または、液体培地の濃縮液である。
【0042】
本発明によれば、たとえ第1の液体の特定化合物濃度が高くても(即ち、第1の液体に含まれる溶媒(水)の量が少なくても)、第1の液体と第2の液体とを好ましく混合することが可能である。よって、第1の液体の特定化合物濃度が高く、第1の液体が少量である場合には、第1の液体による第2の液体(液体培地)の希釈を無視することができるから、第2の液体は、濃縮液ではなく、薄めずそのまま使用できる液体培地であってよい。
【0043】
一方、第1の液体の特定化合物濃度が比較的低い方が(即ち、第1の液体に含まれる溶媒(水)の量が比較的多い方が)、第1の液体と第2の液体とは容易に好ましく混ざり合う傾向にあり、構造体は好ましく分散し得る。よって、第1の液体の特定化合物濃度が低い場合(溶媒(水)の量が第2の液体にとって無視できない場合)には、第2の液体(液体培地)は、第1の液体によって希釈されることを考慮して、混合後に好ましい液体培地となるような濃縮液であることが好ましい。
【0044】
第2の液体は、2価金属カチオン(好ましくは、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオン)、増粘性多糖類(例、メチルセルロース)及び水に加えて、意図した細胞を培養するのに適した培地構成成分を含有する。一般的に使用される細胞培養用液体培地中のカルシウムイオン濃度の範囲は0.1〜2.0mM程度、マグネシウムイオン濃度は0.1〜1.0mM程度であるので、DAG等の特定化合物による構造体形成に十分である。第2の液体における、2価金属カチオン(好ましくは、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオン)の濃度は、第1の液体との混合比を考慮し、最終的に得られる液状の培地組成物中の2価金属カチオン濃度が、構造体形成濃度となるように調整される。他の連結物質についても同様である。また、第2の液体における、意図した細胞を培養するのに適した培地構成成分の濃度は、第1の液体との混合比を考慮し、最終的に得られる液状の培地組成物中の培地構成成分の濃度が、意図した細胞を培養するのに適した濃度範囲内となるように調整される。例えば、体積V
1の第1の液体と、体積V
2の第2の液体とを混合して、体積V
1+V
2の液状の培地組成物を最終的に得る場合、当該液状の培地組成物中の2価金属カチオンの濃度をCiとするためには、第2の液体中の2価金属カチオンの濃度を、Ci×(V
1+V
2)/V
2とすればよい。他の連結物質についても同様である。同様に、体積V
1の第1の液体と、体積V
2の第2の液体とを混合して、体積V
1+V
2の液状の培地組成物を最終的に得る場合、当該液状の培地組成物中の培地構成成分の濃度をCmとするためには、第2の液体中の培地構成成分の濃度を、Cm×(V
1+V
2)/V
2とすればよい。
【0045】
第2の液体中に含有される増粘性多糖類の濃度は、最終的に得られる液状の培地組成物が、培地交換を妨げないで細胞塊同士の接着が起こらない程度の粘度を有する限り、特に限定されない。下に詳述した、最終的に得られる液状の培地組成物中の増粘性多糖類の濃度、該液状の培地組成物の体積に対する、第2の液体の体積の比率、及び第1の液体中の増粘性多糖類の濃度から、第2の液体中の増粘性多糖類の濃度を算出することが可能である。例えば、体積V
1の第1の液体(増粘性多糖類濃度C
Y1)と、体積V
2の第2の液体(増粘性多糖類濃度C
Y2)とを混合して、体積V
1+V
2の液状の培地組成物を最終的に得る場合、当該液状の培地組成物中の増粘性多糖類の濃度をC
Y%(w/v)とするためには、
C
Y1×V
1+C
Y2×V
2=C
Y×(V
1+V
2)
の式を満足するよう、第2の液体中の増粘性多糖類濃度C
Y2を調整すればよい。
【0046】
第2の液体中の増粘性多糖類の濃度は、第2の液体が濾過滅菌に使用する濾過膜を通過し得る濃度に調整される。第2の液体中の増粘性多糖類の濃度の上限値は、増粘性多糖類の種類及び濾過膜の孔径により変動する。例えば、増粘性多糖類としてメチルセルロースを使用する場合、第2の液体中のメチルセルロース濃度は、好ましくは0.422%(w/v)以下である。他の増粘性多糖類を使用する場合であっても、当業者であれば、上記のメチルセルロース濃度(0.422%(w/v)以下)に相当する粘度を第1の液体に与える濃度を適宜設定することが出来る。第2の液体における増粘性多糖類濃度が、0.422%(w/v)以下のメチルセルロース濃度に相当する粘度を第2の液体に与える濃度であれば、0.2μm以上(例、0.2〜0.22μm)の孔径の濾過膜を使用して、第2の液体をスムースに濾過滅菌し得る。
【0047】
本態様においては、本発明の製造方法により、第1の液体と第2の液体を混合することにより、第1の液体に含まれていた特定化合物が第2の液体に含まれていた連結物質を介して結びついてなる構造体及び増粘性多糖類を均一に分散した状態で含む、目的とする液状の培地組成物を得ることができる。
【0048】
好適な態様において、本発明の製造方法により製造される液状の培地組成物中に含有される特定化合物の90モル%以上(好ましくは、95モル%以上、より好ましくは99モル%以上、最も好ましくは100モル%)は、第1の液体に由来し、該培地組成物中に含有される2価金属カチオンの90モル%以上(好ましくは、95モル%以上、より好ましくは99モル%以上、最も好ましくは100モル%)は、第2の液体に由来する。
【0049】
第2の液体は、連結物質及び増粘性多糖類を上記溶媒(例、水)に溶解することにより調製することができる。一態様において、第2の液体は、連結物質を含有する意図した細胞を培養するのに適した培地構成成分及び増粘性多糖類を上記溶媒(例、水)に溶解することにより調製する。第2の液体の調製に際して、連結物質(連結物質を含有する培地構成成分)及び増粘性多糖類を溶媒に添加する手順は特に限定されない。例えば、連結物質を含有する培地構成成分を水に溶解して、液体培地又はその濃縮物(濃縮液体培地)を得て、ここに増粘性多糖類の粉末を添加して溶解してもよい。しかしながら、メチルセルロース等の多糖のエーテルは、熱水中では非溶解状態のまま分散し、冷水中で溶解しやすいが、該エーテルの粉末を冷水中に直接添加すると、「ダマ」が形成されてしまい、添加した量の多くが溶解せずに残ってしまう。そのため、メチルセルロース等の多糖のエーテルを水に溶解する場合、一般的には、該多糖のエーテルの粉末を熱水中に添加し、撹拌し、分散させて、熱い多糖のエーテルの懸濁液を得て、この懸濁液を撹拌しながら冷却して、メチルセルロースを溶解する。しかしながら、細胞培養用の培地は、多くの場合、熱不安定な成分を含むため、これを加熱することは推奨されない。25〜37℃程度に温めた液体培地やその濃縮物に、メチルセルロース等の多糖のエーテルの粉末を添加し撹拌すると、該粉末の一部が「ダマ」を形成してしまうため、懸濁液を、引き続き撹拌しながら冷却したとしても、該多糖のエーテルが完全に溶解するまでに長い期間を要してしまう。また、無菌が保証されない条件下で液体培地やその濃縮物を25〜37℃程度に一度温めた上で、これを長期間放置するのは、混入した細菌の繁殖を助長する虞もある。そこで、連結物質(連結物質を含有する培地構成成分)を含有する液体(例、液体培地又はその濃縮物)と、増粘性多糖類を含有する液体(例、増粘性多糖類の水溶液)とを混合することにより、第2の液体を調製するのが好ましい。この方法によれば、無菌が保証されない条件下で液体培地又はその濃縮物を温める必要がなく、冷却条件(例、0〜4℃)を維持したまま、迅速に第2の液体を調製することができるので、混入した細菌の繁殖のリスクを最小限に抑制することができる。一態様において、冷却した(例、0〜4℃)連結物質(連結物質を含有する培地構成成分)を含有する液体(例、液体培地又はその濃縮物)と、冷却した(例、0〜4℃)増粘性多糖類を含有する液体(例、増粘性多糖類の水溶液)とを、冷却条件(例、0〜4℃)にて混合する。2液が良好に混合して、均一な溶液となるよう、撹拌しながら2液を混合することが好ましい。液体同士の混合なので、短期間で均一な第2の溶液を得ることができる。混合時間は、例えば24時間以内、好ましくは12時間以内である。連結物質(連結物質を含有する培地構成成分)を含有する液体(例、液体培地又はその濃縮物)は、冷却した溶媒(例、水)に、連結物質(連結物質を含有する培地構成成分)を溶解することにより調製することができる。増粘性多糖類を含有する液体(例、増粘性多糖類の水溶液)は、熱した溶媒(例、水)に、増粘性多糖類を添加し、分散させた上で、得られた懸濁液を撹拌しながら冷却し、増粘性多糖類を溶媒(例、水)に溶解させることにより得ることが出来る。好ましい態様において、増粘性多糖類を含有する液体には、当該増粘性多糖類以外に、細菌の繁殖を助長する栄養素が含まれない。本発明の製造方法は、上述の様な第2の液体の調製工程を含んでいてもよい。
【0050】
〔液状の培地組成物〕
本発明の製造方法により得ることができる液状の培地組成物は、第1の液体に含まれていた特定化合物が第2の液体に含まれていた連結物質(即ち、2価金属カチオン)を介して結びついてなる構造体を含有し、且つ該培地組成物中に該構造体が均一に分散されているので、当該培地組成物を用いると、浮遊状態を維持したまま、細胞や組織を培養することが可能である。
【0051】
培養の対象となる細胞や組織が由来する生物の種類は、特に限定されず、動物(昆虫、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、汎甲殻類、六脚類、哺乳類等)のみならず、植物も含まれる。
【0052】
一態様において、培養の対象となる細胞は、足場依存性の細胞である。本発明の製造方法により得ることができる液状の培地組成物を用いると、足場依存性の細胞を、足場となる担体を用いることなく、浮遊状態を維持したまま、培養することが可能である。一態様において、培養の対象となる細胞は、哺乳動物の多能性幹細胞である。好ましい態様において、哺乳動物の多能性幹細胞の細胞塊(スフェア)が培養対象である。
【0053】
本発明において、細胞及び/又は組織の浮遊とは、培養容器に対して細胞及び/又は組織が底面に対し接触はし得るが付着しない状態(非接着)であることをいう。更に、本発明において、細胞及び/又は組織を増殖、分化或いは維持させる際、液体の培地組成物に対する外部からの圧力や振動或いは当該組成物中での振とう、回転操作等を伴わずに細胞及び/又は組織が当該液状の培地組成物中で均一に分散しなおかつ浮遊状態にある状態を「浮遊静置」といい、当該状態で細胞及び/又は組織を培養することを「浮遊静置培養」という。また、「浮遊静置」において浮遊させることのできる期間としては、5分以上、1時間以上、24時間以上、48時間以上、7日以上等が含まれるが、浮遊状態を保つ限りこれらの期間に限定されない。
【0054】
本発明の製造方法により得ることができる液状の培地組成物は、細胞や組織の維持や培養が可能な温度範囲(例えば、0〜40℃)の少なくとも1点において、細胞及び/又は組織の浮遊静置が可能である。本発明により得ることができる液状の培地組成物は、好ましくは25〜37℃の温度範囲の少なくとも1点において、最も好ましくは37℃において、細胞及び/又は組織の浮遊静置が可能である。
【0055】
浮遊静置が可能か否かは、例えば、培養対象の細胞を、2×10
4cells/mLの濃度で、評価対象の培地組成物中に均一に分散させ、15mLコニカルチューブ中に10mL注入し、少なくとも5分以上(例、1時間以上、24時間以上、48時間以上、7日以上)、4℃〜10℃程度の温度下で静置し、当該細胞の浮遊状態が維持されるか否かを観察することにより、評価することができる。全細胞のうちの70%以上が浮遊状態の場合、浮遊状態が維持されたと結論できる。細胞に代えて、ポリスチレンビーズ(Size 500−600μm、Polysciences Inc.製)に代替して評価してもよい。
【0056】
本発明の製造方法により得ることができる液状の培地組成物中の特定化合物の濃度は、特定化合物の種類に依存し、特定化合物が上述の構造体を液状の培地組成物中に形成し、細胞及び/又は組織を均一に浮遊させる(好ましくは浮遊静置させる)ことのできる範囲で、適宜設定することができる。例えば、DAGの場合、0.001%乃至1.0%(w/v)、好ましくは0.003%乃至0.5%(w/v)、より好ましくは0.005%乃至0.3%(w/v)、更に好ましくは0.01%乃至0.05%(w/v)、最も好ましくは、0.01%乃至0.03%(w/v)である。キサンタンガムの場合、0.001%乃至5.0%(w/v)、好ましくは0.01%乃至1.0%(w/v)、より好ましくは0.05%乃至0.5%(w/v)、最も好ましくは、0.1%乃至0.2%(w/v)である。κ−カラギーナンおよびローカストビーンガム混合系の場合、両化合物の総和として、0.001%乃至5.0%(w/v)、好ましくは0.005%乃至1.0%(w/v)、より好ましくは0.01%乃至0.1%(w/v)、最も好ましくは、0.03%乃至0.05%(w/v)である。ネイティブ型ジェランガムの場合、0.05%乃至1.0%(w/v)、好ましくは、0.05%乃至0.1%(w/v)である。
【0057】
特定化合物として上記多糖類を複数種(好ましくは2種)組み合わせて使用する場合、当該多糖類の濃度は、当該多糖類の組み合わせが上述の構造体を液状の培地組成物中に形成し、細胞及び/又は組織を均一に浮遊させる(好ましくは浮遊静置させる)ことのできる範囲で、適宜設定することができる。例えば、DAG又はその塩と、DAG又はその塩以外の多糖類との組合せを用いる場合、DAG又はその塩の濃度としては0.005〜0.02%(w/v)、好ましくは0.01〜0.02%(w/v)が例示され、DAG又はその塩以外の多糖類の濃度としては、0.0001〜0.4%(w/v)、好ましくは0.005〜0.4%(w/v)、より好ましくは0.1〜0.4%(w/v)が例示される。具体的な濃度範囲の組合せとしては、以下が例示される。
DAG又はその塩:0.005〜0.02%(好ましくは0.01〜0.02%)(w/v)
DAG以外の多糖類
キサンタンガム:0.1〜0.4%(w/v)
アルギン酸ナトリウム:0.0001〜0.4%(w/v)(好ましくは、0.1〜0.4%(w/v))
ネイティブジェランガム:0.0001〜0.4%(w/v)
ローカストビーンガム:0.1〜0.4%(w/v)
カラギーナン:0.05〜0.1%(w/v)
ダイユータンガム:0.05〜0.1%(w/v)
【0058】
一態様において、脱アシル化ジェランガム又はその塩と、二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類又はその塩を、組み合わせて、特定化合物として用いる。該酸性多糖類は、好ましくは、アルギン酸、ペクチン及びペクチン酸からなる群から選択されるいずれかであり、より好ましくはアルギン酸である。塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムといったアルカリ金属の塩;カルシウム、バリウム、マグネシウムといったアルカリ土類金属の塩;アルミニウム、亜鉛、銅、鉄等の塩;アンモニウム塩等が挙げられるが、好ましくはナトリウム塩である。該酸性多糖類又はその塩としては、アルギン酸ナトリウムが好適に用いられる。本態様において、本発明の製造方法により得ることができる液状の培地組成物中の脱アシル化ジェランガム又はその塩の濃度は、例えば0.002〜0.01(w/v)%、好ましくは0.002〜0.009(w/v)%、より好ましくは0.003〜0.009(w/v)%であり、前記酸性多糖類又はその塩(例、アルギン酸ナトリウム)の濃度は、例えば、0.004〜0.1(w/v)%、好ましくは0.004〜0.02(w/v)%、より好ましくは0.004〜0.015(w/v)%であり、更に好ましくは0.005〜0.015(w/v)%である。
【0059】
なお該濃度は、以下の式で算出できる。
濃度[%(w/v)]=特定化合物の重量(g)/培地組成物の体積(mL)×100
【0060】
また、本発明の製造方法により得ることができる液状の培地組成物は、増粘性多糖類を含有する。増粘性多糖類としては、上述のものを挙げることができる。増粘性多糖類は、好ましくは、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはそれらの混合物であり、より好ましくはメチルセルロースである。
【0061】
本発明の製造方法により製造される液状の培地組成物は、適当な濃度で増粘性多糖類を含有することにより、適度な粘性を有し、浮遊培養における細胞塊の移動と細胞塊同士の密着が防がれる。ここで適度な粘性とは、培地交換を妨げないで細胞塊同士の接着が起こらない程度の粘度を意味する。例えば、増粘性多糖類としてメチルセルロースを使用する場合、本発明の製造方法により製造される液状の培地組成物中のメチルセルロース濃度は、通常0.422%(w/v)以下であり、例えば0.2〜0.422%(w/v)、好ましくは0.211〜0.422%(w/v)、より好ましくは0.26〜0.35%(w/v)、更に好ましくは0.28〜0.32%(w/v)(例、0.3%(w/v))である。他の増粘性多糖類を使用する場合も、当業者であれば、上記の適度な培地組成物粘度を得るために、上記のメチルセルロース濃度に相当する粘度を液状の培地組成物に与える増粘性多糖類濃度を適宜設定することができる。
【0062】
好ましい態様において、特定化合物は脱アシル化ジェランガム又はその塩であり、連結物質はカルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオン(好ましくは、カルシウムイオン)であり、増粘性多糖類はメチルセルロースである。本発明の製造方法により製造される液状の培地組成物における脱アシル化ジェランガム又はその塩の濃度は、例えば、0.001%乃至1.0%(w/v)、好ましくは0.003%乃至0.5%(w/v)、より好ましくは0.005%乃至0.3%(w/v)、更に好ましくは0.01%乃至0.05%(w/v)、最も好ましくは、0.01%乃至0.03%(w/v)である。本発明の製造方法により製造される液状の培地組成物におけるカルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンの濃度は、脱アシル化ジェランガムが2価金属カチオンを介して結びつくことにより細胞又は組織を浮遊させることができる構造体を形成する濃度である。一般的に使用される細胞培養用液体培地中のカルシウムイオン濃度の範囲は0.1〜2.0mM程度、マグネシウムイオン濃度は0.1〜1.0mM程度であるので、DAG等の特定化合物による構造体形成に十分である。本発明の製造方法により製造される液状の培地組成物中のメチルセルロース濃度は、通常0.422%(w/v)以下であり、例えば0.2〜0.422%(w/v)、好ましくは0.211〜0.422%(w/v)、より好ましくは0.26〜0.35%(w/v)、更に好ましくは0.28〜0.32%(w/v)(例、0.3%(w/v))である。
【0063】
本発明の製造方法により得られる液状の培地組成物を用いると、細胞や組織の障害や機能喪失を引き起こすリスクのある振とうや回転等の操作を伴わずに細胞及び/又は組織を浮遊状態にて培養することができる。更に、当該培地組成物を用いると、培養の際、容易に培地を交換することができる上に、培養した細胞及び/又は組織を容易に回収することもできる。当該培地組成物を用いると、従来プレート上で単層で、細胞容器に接着した状態での培養を要していた細胞を、浮遊状態にて培養することができるので、接着性の細胞をその機能を損なうことなく効率的に大量に調製することができる。
【0064】
第1の液体と第2の液体との混合液は、それ自体が、製造目的の培地組成物であってもよいが、該混合液に添加物をさらに加えることで製造目的の培地組成物となるものであってもよい。
【0065】
次に、本発明の製造方法を詳細に説明する。
本発明の製造方法は、上述の第1の液体及び第2の液体を濾過滅菌に付し、無菌の第1の液体及び無菌の第2の液体を得ることを含む。濾過滅菌の使用により、オートクレーブ滅菌が不要となり、オートクレーブ滅菌に伴う、細菌の死骸や、菌体の破壊によって遊離されるエンドトキシンが培地内に残存するリスクを回避することができる。濾過滅菌に使用する濾過膜としては、液体培地の濾過滅菌用に市販されているものを使用することができる。濾過膜の孔径は、通常0.1〜0.8μm、好ましくは0.2〜0.8μm、より好ましくは0.2〜0.45μm、更に好ましくは0.2〜0.22μmである。
【0066】
また、本発明の製造方法は、第1の液体及び第2の液体の双方が増粘性多糖類を含有することを特徴とする。第1の液体及び第2の液体の双方に増粘性多糖類を溶解することにより、一方の溶液に増粘性多糖類が偏在して粘性が過度に上昇することが回避され、双方の溶液を濾過滅菌し得る。第1の液体及び第2の液体における増粘性多糖類の濃度は、それぞれの液体が濾過滅菌に使用する濾過膜を通過し得る濃度に調整される。第1の液体及び第2の液体における増粘性多糖類の濃度の上限値は、増粘性多糖類の種類及び濾過膜の孔径により変動する。例えば、増粘性多糖類としてメチルセルロースを使用する場合、第1の液体及び第2の液体におけるメチルセルロース濃度は、それぞれ、好ましくは0.422%(w/v)以下である。他の増粘性多糖類を使用する場合であっても、当業者であれば、上記のメチルセルロース濃度(0.422%(w/v)以下)に相当する粘度を各液体に与える濃度を適宜設定することが出来る。第1の液体及び第2の液体における増粘性多糖類濃度が、0.422%(w/v)以下のメチルセルロース濃度に相当する粘度を各液体に与える濃度であれば、各溶液は0.2μm以上(例、0.2〜0.8μm、好ましくは、0.2〜0.45μm、より好ましくは0.2〜0.22μm)の孔径の濾過膜をスムースに通過し、滅菌され得る。
【0067】
第1の液体と第2の液体の増粘性多糖類濃度の差は特に限定されないが、該濃度差が小さいほど、2液がよりスムースに混合し、均一な液状の培地組成物となるので好ましい。第1の液体と第2の液体の増粘性多糖類濃度の差は、一方の濃度を100%としたとき、例えば、±30%以下、好ましくは±20%以下、より好ましくは±10%以下、更に好ましくは±5%以下である。
【0068】
第1の液体と第2の液体の体積混合比率は、第1の液体の体積100に対して、第2の液体の体積が通常50〜200、好ましくは60〜166、より好ましくは70〜142、更に好ましくは80〜125、より更に好ましくは90〜111(例えば、100)である。
【0069】
更に、濾過滅菌により得られた無菌の第1の液体と、濾過滅菌により得られた無菌の第2の液体とを混合し、前記特定化合物が前記連結物質を介して結びついてなる構造体及び前記増粘性多糖類を均一に分散した状態で含有する無菌の液状の培地組成物を得る。第1の液体と第2の液体とを混合する手順は、特に限定されず、第1の液体に対して第2の液体を添加してもよく、第2の液体に対して第1の液体を添加してもよいが、第2の液体に対して第1の液体を添加することにより、混合時に偏在した前記構造体による固形ゲルの形成を効果的に抑制することができる。例えば、第1の液体と第2の液体のうちのいずれか一方の液体(好ましくは、第2の液体)を滅菌用濾過膜を通して先に無菌の容器に入れておき、次に他方の液体(好ましくは、第1の液体)を滅菌用濾過膜を通して当該容器内に注入することにより、両者を混合する。
【0070】
第1の液体と第2の液体が速やかに混合し、特定化合物同士が2価金属カチオン等の連結物質を介して連結することにより形成された構造体が局所に偏在して形成されず、該構造体が増粘性多糖類が液状の培地組成物中に均一に分散し得るように、適切な方法で撹拌しながら、第1の液体と第2の液体を混合するのが好ましい。撹拌の方法としては、ピペッティング、ボルテックス、転倒混和等の手動での撹拌、マグネチックスターラー、メカニカルスターラー、ホモミキサー、ホモジナイザー等の機器を用いた撹拌等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0071】
一態様において、以下の要領で、本発明の方法により、第1の液体と、第2の液体とを混合して、液状の培地組成物を得る。
第1の液体: 体積 V
1
増粘性多糖類濃度 C
Y1
第2の液体: 体積 V
2
増粘性多糖類濃度 C
Y2
液状の培地組成物:体積 V
1+V
2
特定化合物濃度 C
X
増粘性多糖類濃度 C
Y
連結物質濃度 C
Z
【0072】
この場合、第1の液体における特定化合物濃度は、C
X×(V
1+V
2)/V
1と算出することができる。また、第2の液体における連結物質濃度は、C
Z×(V
1+V
2)/V
2と算出することができる。
【0073】
第1の液体及び第2の液体中の増粘性多糖類濃度は、それぞれ、
C
Y1×V
1+C
Y2×V
2=C
Y×(V
1+V
2)
の式を満足するよう、調整される。ここで、第1の液体及び第2の液体が、濾過滅菌に使用する濾過膜を通過し得るよう、C
Y1及びC
Y2は、0.422%(w/v)以下のメチルセルロース濃度に相当する粘度を液体に与える増粘性多糖類濃度とすることが好ましい。従って、C
Yも0.422%(w/v)以下のメチルセルロース濃度に相当する粘度を液体に与える増粘性多糖類濃度とすることが好ましい。
【0074】
C
Y1とC
Y2の差は、例えば、±30%以下(即ち、C
Y1=0.7×C
Y2〜1.3×C
Y2)、好ましくは±20%以下、より好ましくは±10%以下、更に好ましくは±5%以下である。
【0075】
好ましい態様において、C
Y1、C
Y2、及びC
Yが実質的に同一である。「実質的に同一」とは、差異が±5%以下であることをいう。
【0076】
V
1を100としたとき、V
2は通常50〜200、好ましくは60〜166、より好ましくは70〜142、更に好ましくは80〜125、より更に好ましくは90〜111(例えば、100)である。
【0077】
好ましい態様において、特定化合物としてDAG又はその塩を用い、連結物質としてカルシウムイオンを用い、増粘性多糖類としてメチルセルロースを用いる。第1の液体は、DAG又はその塩、及びメチルセルロースの水溶液である。第2の液体は、カルシウムイオン及びメチルセルロースを含有する液体培地の濃縮液である。第2の液体は、好ましくは、カルシウムイオンを含有する液体培地の濃縮液と、メチルセルロースの水溶液とを混合することにより得られたものである。該混合は、好ましくは冷却条件下(例、0〜4℃)にて行われる。第1の液体及び第2の液体は、0.2〜0.8μm、好ましくは、0.2〜0.45μm、より好ましくは0.2〜0.22μmの孔径の濾過膜を通過させることにより滅菌され、無菌の第1の液体と、無菌の第2の液体とを混合することにより、DAGがカルシウムイオンを介して結びついてなる構造体及びメチルセルロースを均一に分散した状態で含有する無菌の液状の培地組成物を得る。第1の液体と第2の液体の体積混合比は、上記したとおり、第1の液体の体積(V
1)100に対して、第2の液体の体積(V
2)が50〜200、好ましくは60〜166、より好ましくは70〜142、更に好ましくは80〜125、より更に好ましくは90〜111(例えば、100)である。混合の結果として得られる液状の培地組成物中のDAG濃度は、好ましくは0.01%〜0.05%(w/v)、最も好ましくは、0.01%〜0.03%(w/v)である。混合の結果として得られる液状の培地組成物中のカルシウムイオン濃度は、DAGが構造体を形成する濃度であり、通常、0.1〜2.0mM程度である。混合の結果として得られる液状の培地組成物中の培地構成成分の濃度は、意図した細胞(例、哺乳動物細胞)を培養するのに適した濃度範囲内である。混合の結果として得られる液状の培地組成物中のメチルセルロース濃度は、通常0.422%(w/v)以下であり、例えば0.2〜0.422%(w/v)、好ましくは0.211〜0.422%(w/v)、より好ましくは0.26〜0.35%(w/v)、更に好ましくは0.28〜0.32%(w/v)(例、0.3%(w/v))である。
第1の液体中のDAG濃度は、上述の混合の結果として得られる液状の培地組成物中のDAG濃度に、(V
1+V
2)/V
1(即ち、150/100〜300/100、好ましくは、160/100〜266/100、より好ましくは170/100〜242/100、更に好ましくは180/100〜225/100、より更に好ましくは190/100〜211/100(例えば、200/100))を乗じて得られる濃度である。
第2の液体中のカルシウムイオン濃度は、上述の混合の結果として得られる液状の培地組成物中のカルシウムイオン濃度に、(V
1+V
2)/V
2(即ち、150/50〜300/200、好ましくは、160/60〜266/166、より好ましくは170/70〜242/142、更に好ましくは180/80〜225/125、より更に好ましくは190/90〜211/111(例えば、200/100))を乗じて得られる濃度である。
第2の液体中の培地構成成分の濃度は、上述の混合の結果として得られる液状の培地組成物中の培地構成成分の濃度に、(V
1+V
2)/V
2(即ち、150/50〜300/200、好ましくは、160/60〜266/166、より好ましくは170/70〜242/142、更に好ましくは180/80〜225/125、より更に好ましくは190/90〜211/111(例えば、200/100))を乗じて得られる濃度である。
第1の液体及び第2の液体中のメチルセルロース濃度は、それぞれ、
C
Y1×V
1+C
Y2×V
2=C
Y×(V
1+V
2)
の式を満足するよう、調整される。ここで、C
Y1及びC
Y2は、0.422%(w/v)以下とすることが好ましい。C
Y1とC
Y2の差は、例えば、±30%以下(即ち、C
Y1=0.7×C
Y2〜1.3×C
Y2)、好ましくは±20%以下、より好ましくは±10%以下、更に好ましくは±5%以下である。
好ましい態様において、C
Y1、C
Y2、及びC
Yが実質的に同一である。
該液状の培地組成物には、DAGがカルシウムイオンを介して結びついてなる構造体及びメチルセルロースが均一に分散して含まれることにより、細胞及び/又は組織を均一に浮遊させる(好ましくは浮遊静置させる)ことができる。
【0078】
上記の混合操作の結果、均一に分散した、特定化合物が連結物質を介して結びついてなる構造体及び増粘性多糖類を均一に分散した状態で含む、無菌の液状の培地組成物を、オートクレーブ滅菌を要することなく、調製することができる。オートクレーブ滅菌は、細菌の死骸や、菌体の破壊によって遊離されるエンドトキシンが培地内に残存するリスクがあるが、本発明の方法により製造された液状の培地組成物においては、このリスクが低減されている。
【0079】
ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0080】
以下に本発明の製造方法及び本発明の評価方法の実施例を具体的に述べることで、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例】
【0081】
(試験例1:メチルセルロース(MC)を含有する培地組成物のフィルター濾過)
滅菌精製水(ニプロファーマ社製)に、通常の使用濃度の2.11倍に相当するDMEM/F12粉末(12400−024、Life Technologies社製)と重炭酸水素ナトリウム(S5761−500G,Sigma社製)を溶解することにより、濃縮培地(2.11xDMEM/F12培地)を調製した。3%(w/v)のメチルセルロースを含有する培地組成物(HSC001、3% Methylcellulose in IMDM, R&D社製)を、上記2.11xDMEM/F12培地を用いて希釈し、含有するメチルセルロースの濃度が、それぞれ0.633%(w/v)、0.422%(w/v)、0.211%(w/v)となるように、調整した。
得られた各培地組成物50mLを、250mLスケールのフィルター濾過システム(0.2μm PES、Thermo Fisher社製)に添加して、フィルター濾過が可能か否か調べた。
【0082】
その結果、含有するメチルセルロース(MC)の濃度が0.422%(w/v)以下の培地組成物ならば、0.2μmの孔径のフィルターを通過可能であった。各濃度でのフィルター通過能の検証結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
(試験例2:メチルセルロース(MC)粉末を用いて調製したメチルセルロース含有培地組成物のフィルター濾過)
(1)メチルセルロース水溶液の調製
メチルセルロース粉末(Methyl Cellulose 〜1500cps、0215549590、MP Biomedicals社製)と滅菌精製水(ニプロファーマ社製)を、500mL広口ガラス瓶に撹拌子とともに加え、121℃で20分オートクレーブ滅菌を実施した。オートクレーブ完了後、水溶液の温度が室温まで冷めるまで撹拌子により撹拌を行い、その後、冷蔵下(4℃)で1昼夜保存した。各メチルセルロース水溶液が透明になっていることを確認した後、さらに滅菌精製水を加え、メチルセルロース濃度を0.3%(w/v)および0.6(w/v)%に調整し、再度121℃で20分オートクレーブ滅菌を実施した。メチルセルロース水溶液を室温まで冷まし、再度冷蔵下(4℃)で一昼夜保存し、透明な水溶液を得た。
【0085】
(2)メチルセルロース/脱アシル化ジェランガム水溶液の調製
メチルセルロース粉末(Methyl Cellulose 〜1500cps、0215549590、MP Biomedicals社製)、脱アシル化ジェランガム(KELCOGEL CG−LA、三晶株式会社製)及び滅菌精製水(ニプロファーマ社製)を、500mL広口ガラス瓶に撹拌子とともに加え、121℃で20分オートクレーブ滅菌を実施した。オートクレーブ完了後、水溶液の温度が室温まで冷めるまで撹拌子により撹拌を行い、その後、冷蔵下(4℃)で1昼夜保存させた。各メチルセルロース/脱アシル化ジェランガム水溶液が透明になっていることを確認した後、さらに滅菌精製水を加え、メチルセルロース濃度を0.3%又は0.6%に、脱アシル化ジェランガム濃度を0.075%に、それぞれ調整し、再度121℃で20分オートクレーブ滅菌を実施した。メチルセルロース/脱アシル化ジェランガム水溶液を室温まで冷まし、再度冷蔵下(4℃)で一昼夜保存し、透明な水溶液を得た。
【0086】
100mLの各メチルセルロース水溶液および各メチルセルロース/脱アシル化ジェランガム水溶液を、それぞれ、150mLスケールのフィルター濾過システム(0.2μmPES、Thermo Fisher社製)に添加して、フィルター濾過が可能か調べた。
【0087】
その結果、メチルセルロース濃度が0.3%(w/v)の場合、脱アシル化ジェランガムの有無に関係なく、水溶液は0.2μmのフィルターを通過可能であった。一方、メチルセルロース濃度が0.6%(w/v)の場合、高い粘性のため、水溶液は0.2μmのフィルターを通過できなかった。各条件でのフィルター通過能を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
(試験例3:0.325%(w/v)メチルセルロース(MC)含有TeSR−E8培地の非加熱条件での調製法)
各種メチルセルロース粉末(1.ナカライテスク社製(メチルセルロース#1500、22223−65)、2.純正化学社製(メチルセルロース1500、74208−9001)、3.東京化成社製(メチルセルロース、M0294))を、TeSR−E8 basal medium(ST−05940,Stem Cell Technologies社製)に加え、メチルセルロース粉末によるダマがほとんどなくなるまで撹拌子で撹拌したのち、冷蔵下で一昼夜保存することにより、透明な、各メチルセルロース含有TeSR−E8培地(メチルセルロース濃度:0.325%(w/v))を得た。
【0090】
各メチルセルロース含有TeSR−E8培地100mLを、150mLスケールのフィルター濾過システム(0.2μm PES、Thermo Fisher社製)に添加して、フィルター濾過が可能か判断した。また各メチルセルロース含有TeSR−E8培地およびTeSR−E8培地をそれぞれ1mL用いて、pH測定計(pH METER F−72,HORIBA社製)にてpH測定を実施した。
【0091】
各条件で調製した培地組成物のフィルター通過能を表3に、pH測定結果を表4に、それぞれ示す。どのメーカーのメチルセルロース粉末を用いても、0.2μmのフィルターを通過可能な、0.325%(w/v)メチルセルロース含有培地を調製することができた。培地のpHの変動もほとんど認められなかった。以上より、加熱しない条件(即ち、室温下での撹拌と冷蔵保存とを組み合わせた条件)で、0.3%(w/v)以上のメチルセルロースを含有しかつ0.2μmのフィルターを通過可能な培地の調製法を確立した。
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
(試験例4:メチルセルロース及び脱アシル化ジェランガム含有培地組成物500mLの製造)
純水250mLに、通常の使用濃度の2.11倍量に相当するDMEM/F12粉末(12400−024、Life Technologies社製)と重炭酸水素ナトリウム(純正化学社製)を加えて溶解させることで、濃縮培地(2.11xDMEM/F12培地)を調製し、4℃で保管した。次に、70℃に加熱した純水25mLへ、メチルセルロース(純正化学社製、メチルセルロース1500、74208−9001)0.79gを加え、均一に懸濁させた後に、得られた懸濁液を撹拌しながら、氷水で冷却した。メチルセルロースが溶解して、上記懸濁液が透明になったら、先に調製して4℃で保管した濃縮培地を、メチルセルロース水溶液へ添加し、撹拌することにより均一にし、得られた混合液を再度、4℃で保管した。
【0095】
他方、純水225mLに脱アシル化ジェランガム(ケルコゲル(登録商標)、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)0.105gを加えてオートクレーブ(121℃、20分)で加熱溶解した。熱いうちにオートクレーブから水溶液を取り出して、メチルセルロース(純正化学社製、メチルセルロース1500、74208−9001)0.79gを加え、均一に懸濁させた後に、得られた懸濁液を撹拌しながら、氷水で冷却した。
【0096】
4℃で保管したメチルセルロース含有濃縮培地を、1Lスケールのフィルター濾過システム(0.22μm、コーニング社製)で濾過し、その後、速やかに、上記で氷冷したメチルセルロース含有脱アシルジェランガム水溶液を同一のフィルター濾過システムへ添加した。添加時には、フィルター下部のボトル内部の液体が撹拌されるように、該ボトルを手動で振とうしながらメチルセルロース含有濃縮培地とメチルセルロース含有脱アシル化ジェランガム水溶液とを混合した。フィルター濾過が完了したら、フィルターを取り外して、下部ボトルの蓋を閉めて手動で約1分間撹拌を行い混合することで、メチルセルロース及び脱アシル化ジェランガム含有培地組成物の調製を完了した。