特許第6981431号(P6981431)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6981431水素化共役ジエン系重合体ラテックスの製造方法
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  • 特許6981431-水素化共役ジエン系重合体ラテックスの製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981431
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】水素化共役ジエン系重合体ラテックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08C 19/02 20060101AFI20211202BHJP
   C08F 36/06 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
   C08C19/02
   C08F36/06
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-562436(P2018-562436)
(86)(22)【出願日】2018年1月18日
(86)【国際出願番号】JP2018001448
(87)【国際公開番号】WO2018135596
(87)【国際公開日】20180726
【審査請求日】2020年10月23日
(31)【優先権主張番号】特願2017-8227(P2017-8227)
(32)【優先日】2017年1月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】片野 主税
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 恭彰
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−002768(JP,A)
【文献】 特開2004−043600(JP,A)
【文献】 特開2013−231145(JP,A)
【文献】 特開2011−005365(JP,A)
【文献】 特開2002−069122(JP,A)
【文献】 特表平09−510498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/00−19/44
C08F 6/00−246/00、301/00
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン系重合体のラテックス中に、白金族元素を含有する水素化触媒を溶解または分散させて共役ジエン系重合体の炭素−炭素不飽和結合を水素化する水素化工程と、
前記白金族元素を錯化剤により錯化して不溶性錯体を形成する不溶性錯体形成工程と、
前記不溶性錯体形成工程を経たラテックスを、遠心分離装置に連続的に供給して遠心分離操作を連続的に行うことにより、ラテックスから、前記不溶性錯体を連続的に除去するとともに、前記不溶性錯体を前記遠心分離装置の外部に連続的に排出する不溶性錯体除去工程と、を備え、
前記不溶性錯体除去工程における、前記遠心分離装置へのラテックスの供給速度を0.5〜15m/hr、前記遠心分離操作における遠心力を200〜10,000Gとする、水素化共役ジエン系重合体ラテックスの製造方法。
【請求項2】
前記遠心分離装置が、デカンタ型遠心分離装置である請求項1に記載の水素化共役ジエン系重合体ラテックスの製造方法。
【請求項3】
前記不溶性錯体形成工程において、ラテックスに対し、ラテックス中に存在する還元状態の水素化触媒を酸化させるための酸化処理を行う請求項1または2に記載の水素化共役ジエン系重合体ラテックスの製造方法。
【請求項4】
前記錯化剤が、ジオキシム化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の水素化共役ジエン系重合体ラテックスの製造方法。
【請求項5】
前記共役ジエン系重合体が、共役ジエン単量体単位およびα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を含有する共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の水素化共役ジエン系重合体ラテックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化共役ジエン系重合体ラテックスの製造方法に係り、さらに詳しくは、水素化触媒を、優れた操業性および高い除去・回収効率にて除去・回収可能な水素化共役ジエン系重合体ラテックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医農薬、石油化学製品、ポリマーなどを製造する化学工業において、各種化合物に含まれる炭素−炭素不飽和結合や炭素−窒素不飽和結合を水素化して、対応する飽和結合に変換する水素化反応が広く行われている。
【0003】
たとえば、ポリマー製造分野では、共役ジエン系重合体の有用な改質手段として、共役ジエン系重合体の炭素−炭素二重結合を選択的にあるいは部分的に水素化する方法が公知であり、水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体などの水素化共役ジエン系重合体が工業的規模で生産されている。
【0004】
このような水素化共役ジエン系重合体を製造するための代表的なプロセスとして、(1)共役ジエンを含む単量体を乳化重合し、得られるラテックスを凝固・乾燥して原料重合体を調製する工程、(2)原料重合体を有機溶媒に溶解し、該有機溶媒に不溶な担体に水素化触媒を担持させた担持型(不均一系)触媒を用いて水素化する工程、(3)水素化反応混合物から担持型触媒を分離した後、目的とする水素化重合体を有機溶媒から回収する工程、からなるプロセスが知られている。
【0005】
しかしその一方で、上記プロセスは、共役ジエン系重合体のラテックスから一旦回収した原料重合体を再び有機溶媒に溶解し、水素化反応に使用した有機溶媒を反応後に留去するという操作を要するものである。そのため、生産性の向上の観点より、共役ジエン系重合体をラテックス状態で水素化するプロセスの開発が強く要請されており、種々の検討がなされている(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
このような共役ジエン系重合体をラテックス状態で水素化する方法においては、水系媒体に溶解または分散する非担持型触媒を用いることにより、ラテックス中の重合体と水素化触媒の接触効率が上がり水添活性が向上するものの、反応終了後の触媒の分離が極めて困難であり、触媒を回収して再使用できないために触媒コストが著しく上昇するという問題があった。
【0007】
これに対し、特許文献2では、白金族元素を含有する水素化触媒に、錯化剤を作用させることで不溶性錯体を形成させ、不溶性錯体の状態で、水素化触媒を除去する方法が提案されている。この特許文献2の技術によれば、水素化触媒を不溶性錯体の形態とすることで、水素化触媒を一定程度除去・回収することが可能となるものの、除去・回収効率が必ずしも十分なものではなく、除去・回収効率の改善が望まれていた。また、水素化触媒を不溶性錯体の形態で除去する方法においては、除去に用いるろ過フィルタなどの目詰まりが発生しやすく、そのため、比較的高い頻度でのメンテナンスが必要であったことから、このようなメンテナンスの頻度を下げて、操業性を向上させることも望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−178305号公報
【特許文献2】特開2004−43600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、水素化触媒を、優れた操業性および高い除去・回収効率にて除去・回収可能な水素化共役ジエン系重合体ラテックスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、共役ジエン系重合体のラテックス中に、白金族元素を含有する水素化触媒を溶解または分散させて重合体の炭素−炭素不飽和結合を水素化する製造方法において、白金族元素を錯化剤により錯化して不溶性錯体を形成させ、このような不溶性錯体を含有するラテックスを、遠心分離装置に所定の供給速度で連続的に供給し、所定の条件にて遠心分離操作を連続的に行うことで、不溶性錯体を連続的に除去するとともに、この際に、分離・除去された不溶性錯体を遠心分離装置の外部に連続的に排出することで、水素化触媒を、優れた操業性および高い除去・回収効率にて除去・回収可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、共役ジエン系重合体のラテックス中に、白金族元素を含有する水素化触媒を溶解または分散させて共役ジエン系重合体の炭素−炭素不飽和結合を水素化する水素化工程と、
前記白金族元素を錯化剤により錯化して不溶性錯体を形成する不溶性錯体形成工程と、
前記不溶性錯体形成工程を経たラテックスを、遠心分離装置に連続的に供給して遠心分離操作を連続的に行うことにより、ラテックスから、前記不溶性錯体を連続的に除去するとともに、前記不溶性錯体を前記遠心分離装置の外部に連続的に排出する不溶性錯体除去工程と、を備え、
前記不溶性錯体除去工程における、前記遠心分離装置へのラテックスの供給速度を0.5〜15m/hr、前記遠心分離操作における遠心力を200〜10,000Gとする、水素化共役ジエン系重合体ラテックスの製造方法が提供される。
【0012】
本発明の製造方法において、前記遠心分離装置が、デカンタ型遠心分離装置であることが好ましい。
本発明の製造方法における前記不溶性錯体形成工程において、ラテックスに対し、ラテックス中に存在する還元状態の水素化触媒を酸化させるための酸化処理を行うことが好ましい。
本発明の製造方法において、前記錯化剤が、ジオキシム化合物であることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記共役ジエン系重合体が、共役ジエン単量体単位およびα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を含有する共重合体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水素化触媒を、優れた操業性および高い除去・回収効率にて除去・回収可能な水素化共役ジエン系重合体ラテックスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の水素化共役ジエン系重合体ラテックスの製造方法において用いられる、遠心分離装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の水素化共役ジエン系重合体ラテックスの製造方法は、
共役ジエン系重合体のラテックス中に、白金族元素を含有する水素化触媒を溶解または分散させて重合体の炭素−炭素不飽和結合を水素化する水素化工程と、
前記白金族元素を錯化剤により錯化して不溶性錯体を形成する不溶性錯体形成工程と、
前記不溶性錯体形成工程を経たラテックスを、遠心分離装置に連続的に供給して遠心分離操作を連続的に行うことにより、ラテックスから、前記不溶性錯体を連続的に除去するとともに、前記不溶性錯体を前記遠心分離装置の外部に連続的に排出する不溶性錯体除去工程と、を備え、
前記不溶性錯体除去工程における、前記遠心分離装置へのラテックスの供給速度を0.5〜15m/hr、前記遠心分離操作における遠心力を200〜10,000Gとするものである。
【0016】
共役ジエン系重合体のラテックス
本発明の製造方法で用いる共役ジエン系重合体のラテックスは、一般的には、共役ジエン単量体、および必要に応じて用いられる共役ジエン単量体と共重合可能な単量体を、乳化重合することにより得ることができる。共役ジエン系重合体のラテックスとしては、溶液重合に次ぐ転相法によって得られるものを用いてもよい。
【0017】
共役ジエン単量体としては、共役ジエン構造を有する重合性単量体であれば、特に限定されず、たとえば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどが挙げられる。これらの中でも1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエンが好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。
【0018】
共役ジエン単量体と共重合可能な単量体としては、たとえば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、クロトンニトリルなどのα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸およびこれらの無水物;アクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸メチル、クロトン酸メチルなどのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル;マレイン酸モノn−ブチル、イタコン酸モノn−ブチル、フマル酸モノn−ブチルおよびフマル酸モノシクロへキシルなどのα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体;(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体;α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体;アクリルアミド、メタアクリルアミドなどのα,β−エチレン不飽和カルボン酸アミド;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどのビニル芳香族化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;フルオロエチルビニルエーテルなどのビニルエーテル化合物;などが挙げられる。
【0019】
本発明の製造方法で用いる共役ジエン系重合体のラテックスを構成する共役ジエン系重合体の具体例としては、ブタジエン重合体、イソプレン重合体、ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−イソプレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−イソプレン共重合体、メタアクリロニトリル−ブタジエン共重合体、メタアクリロニトリル−イソプレン共重合体、メタアクリロニトリル−ブタジエン−イソプレン共重合体、アクリロニトリル−メタアクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸n−ブチル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸n−ブチル−イタコン酸モノn−ブチル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−マレイン酸モノn−ブチル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸n−ブチルーマレイン酸モノn−ブチル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸2−メトキシエチル−マレイン酸モノn−ブチル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸2−メトキシエチル、アクリロニトリル−ブタジエン−イタコン酸モノn−ブチル、アクリロニトリル−ブタジエン−フマル酸モノn−ブチル、アクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸2−メトキシエチル−イタコン酸モノn−ブチル共重合体などが挙げられる。また、共役ジエン系重合体は、共役ジエン単量体単位およびα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を含有する共重合体であってよい。
【0020】
共役ジエン系重合体を構成する単量体単位の組成比は特に限定されないが、共役ジエン単量体単位5〜100重量%、これと共重合可能な単量体の単位95〜0重量%であることが好ましく、共役ジエン単量体単位10〜90重量%、これと共重合可能な単量体の単位90〜10重量%であることがより好ましい。また、共役ジエン系重合体の重量平均分子量(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法、標準ポリスチレン換算)も特に限定されないが、通常5,000〜2,000,000である。
【0021】
共役ジエン系重合体の好適な調製方法としての乳化重合法は、一般的にラジカル重合開始剤を用いて水系媒体中で重合を行うものであり、乳化重合法において、重合開始剤や分子量調整剤は公知のものを使用すればよい。重合反応は回分式、半回分式、連続式のいずれでもよく、重合温度や圧力も特に制限されない。使用する乳化剤も特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などを使用できるが、アニオン性界面活性剤が好ましい。これらの乳化剤は、それぞれ単独で使用しても2種以上を併用してもよい。その使用量は特に限定されない。
【0022】
乳化重合により得られる共役ジエン系重合体のラテックスの固形分濃度は特に限定されないが、通常2〜50重量%、好ましくは5〜45重量%である。その固形分濃度はブレンド法、希釈法、濃縮法など公知の方法により適宜調節することができる。
【0023】
水素化工程
本発明の製造方法の水素化工程は、上述した共役ジエン系重合体のラテックス中に、白金族元素を含有する水素化触媒を溶解または分散させて重合体の炭素−炭素不飽和結合を水素化する工程である。
【0024】
水素化工程で使用する白金族元素を含有する水素化触媒は、水溶性または水分散性の白金族元素化合物であればよく、具体的には、ルテニウム化合物、ロジウム化合物、パラジウム化合物、オスミウム化合物、イリジウム化合物、または、白金化合物などが挙げられる。本発明の製造方法においては、このような水素化触媒を担体に担持することなく、上述した共役ジエン系重合体のラテックス中に溶解または分散させることで水素化反応に供するものである。水素化触媒としては、パラジウム化合物またはロジウム化合物が好ましく、パラジウム化合物が特に好ましい。また、2種以上の白金族元素化合物を併用してもよいが、その場合もパラジウム化合物を主たる触媒成分とすることが好ましい。
【0025】
パラジウム化合物としては、水溶性または水分散性であり、水素化触媒活性を示すものであればよく特に限定されないが、水溶性のものが好ましい。また、パラジウム化合物としては、通常、II価またはIV価のパラジウム化合物が用いられ、その形態としては塩や錯塩が挙げられる。
【0026】
パラジウム化合物としては、たとえば、酢酸パラジウム、蟻酸パラジウム、プロピオン酸パラジウムなどの有機酸塩;硝酸パラジウム、硫酸パラジウムなどの無機酸塩;フッ化パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウムなどのハロゲン化物;酸化パラジウム、水酸化パラジウムなどの無機パラジウム化合物;ジクロロ(シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロ(ノルボルナジエン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどの有機パラジウム化合物;テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、ヘキサクロロパラジウム酸アンモニウムなどのハロゲン化塩;テトラシアノパラジウム酸カリウムなどの錯塩;などが挙げられる。これらのパラジウム化合物の中でも、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウムなどの有機酸塩または無機酸塩;塩化パラジウム;テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、ヘキサクロロパラジウム酸アンモニウムなどのハロゲン化塩;が好ましく、酢酸パラジウム、硝酸パラジウムおよび塩化パラジウムがより好ましい。
【0027】
また、ロジウム化合物としては、塩化ロジウム、臭化ロジウム、ヨウ化ロジウムなどのハロゲン化物;硝酸ロジウム、硫酸ロジウムなどの無機酸塩;酢酸ロジウム、蟻酸ロジウム、プロピオン酸ロジウム、酪酸ロジウム、吉草酸ロジウム、ナフテン酸ロジウム、アセチルアセトン酸ロジウムなどの有機酸塩;酸化ロジウム;三水酸化ロジウム;などが挙げられる。
【0028】
白金族元素化合物としては、市販のものを用いてもよいし、あるいは公知の方法により製造したものを用いることもできる。また、白金族元素化合物を、共役ジエン系重合体のラテックス中に溶解または分散させる方法としては特に限定されず、白金族元素化合物を直接ラテックスに添加する方法、白金族元素化合物を水に溶解または分散した状態で、ラテックスに加える方法などが挙げられる。水に溶解または分散させる場合には、たとえば、硝酸、硫酸、塩酸、臭素酸、過塩素酸、燐酸などの無機酸;それら無機酸のナトリウム塩、カリウム塩;酢酸などの有機酸;などを共存させると、水への溶解度が向上し、好ましい場合がある。
【0029】
本発明の製造方法においては、上記した白金族元素化合物を共役ジエン系重合体のラテックス中に溶解または分散させて用いることにより、ラテックス状態にて、水素化反応を効率よく進行させることができるものである。なお、水素化反応に際しては、pH測定器で測定される水素化反応液(共役ジエン系重合体のラテックス)のpHが12以下であれば特に限定されず、好ましくは2.0〜11.0、より好ましくは3.0〜10.5、さらに好ましくは4.0〜10.0の範囲である。
【0030】
水素化反応液(共役ジエン系重合体のラテックス)のpHは、塩基性化合物または酸性化合物等を用いて調整することができる。塩基性化合物としては特に限定されないが、たとえば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アンモニア、アンモニウム塩化合物、有機アミン化合物などが挙げられ、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物が好ましく、酸性化合物としては特に限定されないが、たとえば、硫酸、硝酸などが挙げられる。
【0031】
アルカリ金属化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの炭酸塩化合物;炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの炭酸水素塩化合物;が好ましく用いられ、これらのなかでも、水酸化物がより好ましい。
アルカリ土類金属化合物としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩化合物および炭酸水素塩化合物が好ましく用いられ、これらのなかでも、水酸化物がより好ましい。
アンモニウム塩化合物としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなどが挙げられる。
有機アミン化合物としては、トリエチルアミン、エタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピリジン、ヘキサメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、キシリレンジアミンなどが挙げられる。
【0032】
これらの塩基性化合物や酸性化合物はそのまま用いても、水またはアルコールなどの有機溶媒で希釈したり、溶解したりして使用することもできる。塩基性化合物や酸性化合物は、単独で使用しても2種以上を併用してもよく、その使用量は水素化反応液が所定のpHを呈するように適宜選択すればよい。また、塩基性化合物や酸性化合物を水素化反応液に添加する方法や時機も特に制限されず、たとえば、水素化触媒を水素化反応液へ加える前に、予めラテックス中に塩基性化合物や酸性化合物を添加しておく方法、水素化反応開始後に塩基性化合物や酸性化合物を添加する方法などが挙げられる。
【0033】
さらに、ラテックス中での白金族元素化合物の安定性を維持する目的で、触媒安定剤を使用することも可能である。触媒安定剤の具体例としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ゼラチン、アルブミン、プロタルビン酸、リサルビン酸などが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウムが好適である。
【0034】
水素化反応の温度は、通常0〜200℃、好ましくは5〜150℃、より好ましくは10〜100℃である。水素の圧力は、通常、0.1〜20MPaであり、好ましくは0.1〜15MPa、より好ましくは0.1〜10MPaである。反応時間は特に限定されないが、通常30分〜50時間である。
【0035】
本発明の製造方法の水素化工程によれば、ラテックス状態での反応にもかかわらず、水素化反応を速やかに反応させることができる。得られる水素化共役ジエン系重合体の水素化率(反応前の重合体中に存在した炭素−炭素二重結合の総計に対する水素化された炭素−炭素二重結合の割合)は、上記した各種の反応条件を適宜変更することにより、1〜100%の範囲で任意に制御することができる。ヨウ素価で表される水素化率は、好ましくは120以下である。
【0036】
不溶性錯体形成工程
本発明の製造方法の不溶性錯体形成工程は、水素化反応終了後の共役ジエン系重合体のラテックスの、水系媒体中または重合体粒子中に存在する白金族元素化合物中の白金族元素を、錯化剤により錯化させることにより、不溶性錯体を形成する工程である。不溶性錯体は、ラテックス中において析出物として生成する。
【0037】
錯化剤の添加方法は特に限定されないが、粉体、溶液および分散液などの状態で、水素化反応終了後の共役ジエン系重合体のラテックスに添加することが好ましく、次いで、攪拌、混合等により、錯化剤と白金族元素化合物とを接触させて錯体を形成させることが好ましい。そして、これにより形成された不溶性錯体を、後述の不溶性錯体除去工程において、ラテックス中から除去・回収する際に、適切に除去・回収するという観点より、ラテックス中に含まれる重合体粒子よりも大きな粒子径まで成長させる、あるいは、凝集させることが好ましい。具体的には、上記攪拌を、加温状態において行い、続いて加温状態を保ったまま静置し、次いで、冷却することが好ましい。
【0038】
錯化剤は、白金族元素に対して錯化作用を示し、白金族元素とともに水に対して不溶性の錯体を形成するものであればよく、特に限定されないが、凝集性の強い不溶性錯体を形成するものが好ましい。錯化剤としては、たとえば、オキシム化合物が挙げられ、錯体形成力の強さからジオキシム化合物が好ましく、ジメチルグリオキシム、シクロヘキサンジオンジオキシムなどのα,β−アルカンジオンジオキシムがより好ましい。これらのなかでも、ジメチルグリオキシムが特に好ましい。錯化剤の使用量は、通常、使用した水素化触媒としての白金族元素化合物中に含まれる白金族元素に対し、通常0.5倍〜50倍モル、好ましくは1.0〜30倍モルである。
【0039】
また、本発明の製造方法においては、錯化剤を添加する前、あるいは、錯化剤を添加して混合する際に、水素化反応終了後のラテックスに対し、ラテックス中に存在する還元状態の触媒を酸化させるための酸化処理を行うことが好ましい。酸化処理は、通常、酸化剤を用いて、ラテックス中に存在する還元状態の触媒と酸化剤とを接触させることで行うことができる。酸化処理を行うことにより、不溶性錯体形成工程において、不溶性錯体をより生成し易くすることができる。
【0040】
酸化剤は触媒酸化能を有するものであれば、特に限定されず、たとえば、空気(酸素);過酸化水素、過酢酸、過安息香酸などの過酸化物;などが挙げられ、空気、過酸化水素が好ましく、過酸化水素が特に好ましい。
【0041】
酸化剤の使用量は特に限定されず、使用した水素化触媒としての白金族元素化合物中に含まれる白金族元素に対し、通常1〜100倍モル、好ましくは3〜80倍モルである。還元状態の触媒と酸化剤とを接触させる際における接触温度は、通常0〜100℃、好ましくは10〜95℃、より好ましくは20〜90℃であり、また、接触時間は、通常10分〜50時間、好ましくは30分〜40時間である。
【0042】
触媒と酸化剤とを接触させる方法は、酸化剤の種類により一様ではないが、酸化剤として空気を用いる場合、開放状態にあるラテックス中へ空気を連続的に吹き込む方法;開放または密閉状態にある容器の気相部の雰囲気を空気にして、ラテックスを攪拌する方法;などが挙げられる。過酸化水素を使用する場合は、過酸化水素をラテックスへ添加して攪拌すればよい。
【0043】
不溶性錯体除去工程
本発明の製造方法の不溶性錯体除去工程は、上記不溶性錯体形成工程において得られた不溶性錯体を含有するラテックスを、遠心分離装置に連続的に供給して遠心分離操作を連続的に行うことにより、ラテックスから、不溶性錯体を連続的に除去する工程である。また、不溶性錯体除去工程においては、不溶性錯体を連続的に除去するとともに、不溶性錯体を遠心分離装置の外部に連続的に排出するものである。
【0044】
本発明の製造方法においては、不溶性錯体を含有するラテックスから不溶性錯体を除去する際に、遠心分離装置を用いるとともに、ラテックスを遠心分離装置に連続的に供給して遠心分離操作を連続的に行い、かつ、ラテックスから除去された不溶性錯体を遠心分離装置の外部に連続的に排出することにより、遠心分離装置の詰まり等に起因するメンテナンスの頻度を大幅に低減することができ、これにより、不溶性錯体の除去を長期間に渡り連続して行うことができるものである。
【0045】
特に、本発明の製造方法においては、遠心分離操作を行う際には、遠心分離装置へのラテックスの供給速度を0.5〜15m/hrとし、かつ、遠心分離操作における遠心力を200〜10,000Gとするものであり、これにより、除去・回収効率を高いものとしながら、このような除去・回収操作を長期間に渡り連続して行うことできるものである。具体的には、水素化反応に使用した水素化触媒中に含まれる白金族元素換算での回収率を、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上と高いものとしながら、このような除去・回収操作を長期間に渡り連続して行うことできるものである。加えて、本発明の製造方法によれば、除去・回収された不溶性錯体中における含水率を、好ましくは50重量%以下、より好ましくは45重量%以下、最も好ましくは40重量%以下と低くすることができ、これにより、除去・回収された水分を含む不溶性錯体の単位重量当たりの、白金族元素の回収率を高めることができ、結果として、白金族元素の回収における生産性を高めることができるものである。なお、不溶性錯体中における含水率が高過ぎると、不溶性錯体から、白金族元素を回収する際における、水の除去のために必要となるエネルギーが大きくなり、結果として、回収効率が低下してしまうこととなる。
【0046】
不溶性錯体除去工程における、遠心分離装置へのラテックスの供給速度は、0.5〜15m/hrであり、好ましくは0.8〜13.0m/hr、より好ましくは1.0〜11.0m/hrである。遠心分離装置へのラテックスの供給速度が遅すぎると、生産性が著しく低下してしまい、一方、供給速度が速すぎると、遠心分離処理が不十分となってしまい、水素化触媒中に含まれる白金族元素の回収率が低くなるとともに、除去・回収された不溶性錯体中における含水率が高くなってしまう。
【0047】
また、遠心分離操作における遠心力は、200〜10,000Gであり、好ましくは250〜9,000G、より好ましくは300〜8,000Gである。遠心分離操作における遠心力が低すぎると、遠心分離処理が不十分となってしまい、水素化触媒中に含まれる白金族元素の回収率が低くなるとともに、除去・回収された不溶性錯体中における含水率が高くなってしまう。一方、遠心分離操作における遠心力が高すぎると、遠心分離装置内において、不溶性錯体の凝集等による詰まりが発生し易くなり、長期間に渡る連続的な操業が困難となり、操業性および生産性に劣るものなってしまう。
【0048】
なお、不溶性錯体除去工程においては、遠心分離装置として、ラテックスを連続的に供給可能であり、かつ、連続的に遠心分離操作ができることに加えて、ラテックスから除去された不溶性錯体を遠心分離装置の外部に連続的に排出できるような構成を有するものを使用すればよく、ラテックスから除去された不溶性錯体を遠心分離装置の外部に連続的に排出できることにより、遠心分離装置から不溶性錯体を除去するために遠心分離操作を停止するという操作を不要とすることができ、これにより、長期間に渡る連続的な操業を適切に実現することができる。なお、本発明において、ラテックスから除去された不溶性錯体を遠心分離装置の外部に連続的に排出できるような構成とは、比較的まとまった量の不溶性錯体をまとめて排出するような態様とは異なり、一定の速度にて排出し続けるような構成を意味するものである。具体的には、単位時間当たりにおける排出速度(たとえば、単位時間当たりの排出速度や、遠心分離装置に供給されたラテックスの単位体積当たりの排出速度)を考えた場合に、ある所定の時間における排出速度が一定であるような構成であればよく、必ずしも、常に途切れることなく、等速度で不溶性錯体が排出され続けるような態様である必要はない。たとえば、遠心分離装置に供給されたラテックスの単位体積当たりの、不溶性錯体の排出速度、すなわち、遠心分離装置に供給されたラテックス1m当たりの、不溶性錯体の排出量(単位は、kg、水素化触媒としての白金族化合物の重量換算)が、好ましくは0.05kg/m以上、より好ましくは0.08kg/m以上となるような態様とすることが望ましい。
【0049】
不溶性錯体除去工程において用いる遠心分離装置としては、上記構成を有するものであればよいが、不溶性錯体の除去・回収を良好に行うことができるという観点より、デカンタ型遠心分離装置が好ましい。図1に、遠心分離装置の一例として、外側回転筒と、外側回転筒内に相対回転自在に設けられた、スクリューコンベアを有するデカンタ型遠心分離装置を示す。
【0050】
図1に示すデカンタ型遠心分離装置は、図1中における矢印の方向に回転可能な外側回転筒1と、外側回転筒1と同軸上で、かつわずかな回転差を有して回転可能なスクリューコンベア2と、ラテックスを供給するためのフィードチューブ3と、固形物排出口4と、液面を調整するダムプレート5と、を備える。図中、符号6は、駆動モーター、符号7は、ギアボックスであり、駆動モーター6、ギアボックス7の作用により、外側回転筒1およびスクリューコンベア2は、図1における矢印の方向に任意の速度で回転可能となっている。また、スクリューコンベア2は、らせん状に形成されたスクリュー羽根8を備えている。
【0051】
そして、図1に示すデカンタ型遠心分離装置を用いた場合における遠心分離操作について説明すると、まず、不溶性錯体を含有するラテックスが、スクリューコンベア2内に設けられたフィードチューブ3を通って供給口9から、高速回転する外側回転筒1内に連続的に供給され、外側回転筒1の回転により、ラテックスに高遠心力が与えられることにより、外側回転筒1内壁にラテックス中の不溶性錯体が、沈降分離される。そして、沈降分離された不溶性錯体は、外側回転筒1と同軸上で、かつわずかな回転差を有して回転するスクリューコンベア2のスクリュー羽根8によって掻き寄せられて順次、固形物排出口4の方向に進み、固形物排出口4から、デカンタ型遠心分離装置の外部に連続的に排出される。一方、不溶性錯体が除去されたラテックスは、固形物排出口4とは反対側に設けられた、液面を調整するためのダムプレート5からオーバーフローして排出される。そして、排出された不溶性錯体が除去されたラテックスに対して、必要に応じて濾過操作などを行うことで、不溶性錯体が除去された、水素化共役ジエン系重合体ラテックスを得ることができる。このように、本発明の製造方法は、不溶性錯体が除去された、水素化共役ジエン系重合体ラテックスを回収する回収工程を備えるものであってよい。
【0052】
なお、図1に示すデカンタ型遠心分離装置においては、遠心分離操作における遠心力は、外側回転筒1の回転によって発生するため、外側回転筒1の回転数に応じて、遠心力を調整することができる。そのため、図1に示すデカンタ型遠心分離装置を使用する場合には、外側回転筒1の回転数を調整することで、遠心分離操作における遠心力を上記範囲とすればよい。なお、外側回転筒1の回転数と、遠心力との間には、下記式(1)が成り立つ。
RCF=R×N/874 (1)
(上記式(1)中、RCFは遠心力(単位:G)、Rは外側回転筒1の回転半径(単位:m)、Nは1分間当たりの回転数(単位:rpm)である。)
【0053】
また、図1に示すデカンタ型遠心分離装置を使用する場合における、デカンタ型遠心分離装置へのラテックスの供給速度は、たとえば、フィードチューブ3にラテックスを送るためのポンプの送液圧力を制御することで、上記範囲に調整すればよい。
【0054】
外側回転筒1とスクリューコンベア2の回転数の差は、適宜設定すればよいが、好ましくは、1分間当たり15回転以下であり、より好ましくは12回転以下である。外側回転筒1とスクリューコンベア2の回転数の差をこのような範囲とすることにより、不溶性錯体の除去・回収効率をより適切に高めることができる。
【0055】
以上、本発明の製造方法によれば、水素化反応に使用した水素化触媒中に含まれる白金族元素の除去・回収を高い除去・回収率にて行うことができ、しかも、このような除去・回収操作を長期間に渡り連続して行うことできるものである。さらに加えて、本発明の製造方法によれば、除去・回収された不溶性錯体中における含水率を低減することも可能とするものである。そのため、本発明の製造方法によれば、水素化共役ジエン系重合体ラテックスを製造する際に、高い生産性にて、水素化触媒の除去・回収を高効率に行うことができるものであり、得られる水素化共役ジエン系重合体ラテックスの品質の観点、および、水素化触媒の再生の観点より、極めて有益なものである。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限られるものではない。以下において、特記しない限り、「部」は重量基準である。物性および特性の試験または評価方法は以下のとおりである。
【0057】
実施例1
水素化工程
オートクレーブに、オレイン酸カリウム2部、イオン交換水180部、アクリロニトリル34部、メタクリル酸4部、t−ドデシルメルカプタン0.5部を順次仕込んだ。反応器内部を窒素で置換した後、1,3−ブタジエン62部を封入した。反応器を10℃に冷却して、クメンハイドロパーオキサイド0.01部、硫酸第一鉄0.01部を添加した。次に反応器を10℃に保ったまま16時間攪拌し、内容物をよく混合した。その後、反応器内へ10%のハイドロキノン水溶液を添加して重合停止させた。重合転化率は90%であった。その重合反応液から未反応単量体を除去し、水素化反応に供するアクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体ラテックスを得た。
【0058】
塩化パラジウム(塩化パラジウム中のPd金属/ラテックス中のアクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体の重量比で2700重量ppm)に対して、塩化パラジウム中のPd金属の2倍モル当量の塩化ナトリウムを含有する水溶液を添加してパラジウム水溶液を得た。そして、得られたパラジウム水溶液300部に、重量平均分子量5,000のポリビニルピロリドンを、塩化パラジウム中のPd金属に対して重量比で5倍となる量を添加し、さらに水酸化カリウム水溶液を添加することで、pH12.0の触媒水溶液を調製した。
【0059】
次いで、上記にて得られたアクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体ラテックスを全固形分濃度を25重量%に調整し、全固形分濃度を調整したアクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体ラテックス400部(固形分換算で100部)と、上記にて調製した触媒水溶液300部とを、攪拌機付オートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流してラテックス中の溶存酸素を除去した。系内を2回水素ガスで置換後、3MPaの水素を加圧した。内容物を50℃に加温して6時間反応させ、ラテックス状態の水素化アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体反応混合物を得た。
【0060】
不溶性錯体形成工程
次いで、上記にて得られたラテックス状態の水素化アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体反応混合物に塩基性化合物を添加し、水素化反応に使用した塩化パラジウム中に含まれるPd金属の5倍モル当量に相当するジメチルグリオキシムおよびジメチルグリオキシムの2倍モル当量に相当する水酸化カリウムの混合水溶液を添加し、さらに、Pd金属の30倍モル当量に相当する過酸化水素水を添加した。そして80℃に加温し5時間攪拌したところ、ラテックス中に不溶性錯体が析出した。
【0061】
不溶性錯体除去工程
そして、上記にて調製した不溶性錯体を含有するラテックスについて、図1に示すデカンタ型遠心分離装置(製品名「PTM300型 スクリューデカンタ」、巴工業社製)を用いて、遠心分離操作による不溶性錯体の除去を行った。具体的には、不溶性錯体を含有するラテックスを、図1に示すデカンタ型遠心分離装置中に、フィードチューブ3を介して供給口9から連続的に供給し、外側回転筒1およびスクリューコンベア2の回転により連続的に遠心分離させることで、不溶性錯体を分離し、不溶性錯体が除去されたラテックスをダムプレート5からオーバーフローさせることで、デカンタ型遠心分離装置外へと排出させた。また、遠心分離操作においては、分離された不溶性錯体を固形物排出口4からデカンタ型遠心分離装置外に連続的に排出させながら行った。そして、デカンタ型遠心分離装置外に排出された、不溶性錯体が除去されたラテックスに対して、300メッシュのろ過装置によるろ過を行うことで、水素化共役ジエン系重合体ラテックスを連続的に製造した。
【0062】
なお、デカンタ型遠心分離装置を用いた遠心分離操作は、以下の条件にて行った。
デカンタ型遠心分離装置へのラテックスの供給速度:6.0m/hr
遠心力:1,000G
外側回転筒1とスクリューコンベア2との回転速度差:4rpm
【0063】
そして、上記したデカンタ型遠心分離装置を用いた遠心分離操作を、不溶性錯体を含有するラテックス10mに対して、連続的に行った。その結果、ラテックス10mの遠心分離操作中、デカンタ型遠心分離装置内における不溶性錯体の詰まりや、各ろ過装置における不溶性錯体の詰まりは発生せず、1度も操業を停止することなく、遠心分離操作を行うことができた。また、遠心分離処理中における、デカンタ型遠心分離装置外への不溶性錯体の排出速度は、デカンタ型遠心分離装置に供給されたラテックス1m当たりの、不溶性錯体の排出量(塩化パラジウム換算での排出量)で、0.62kg/mであった。なお、不溶性錯体の排出速度は、たとえば、「ラテックス1m当たりの不溶性錯体の量(kg/m)×触媒回収率(%)/100」にしたがって求めることもできる。
【0064】
遠心分離操作の結果、デカンタ型遠心分離装置外へ排出された不溶性錯体の含水率は32.9重量%であり、不溶性錯体として回収されたパラジウム金属の回収率(パラジウム金属の回収率(%)=回収されたパラジウム金属量/水素化に使用した塩化パラジウム中のパラジウム金属量×100)は90.5%であった。
【0065】
実施例2
水素化工程、不溶性錯体形成工程
塩化パラジウムの使用量を、塩化パラジウム中のPd金属/ラテックス中のアクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体の重量比で700重量ppmとなる量とした以外は、実施例1と同様にして、水素化反応を行い、ラテックス状態の水素化アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体反応混合物を得て、実施例1と同様にして、ラテックス中に不溶性錯体を析出させた。
【0066】
不溶性錯体除去工程
上記にて調製した不溶性錯体を含有するラテックスについて、デカンタ型遠心分離装置へのラテックスの供給速度を8.0m/hrに、遠心力を2,100Gに変更した以外は、実施例1と同様にして、連続的に遠心分離操作を行い、実施例1と同様にして、水素化共役ジエン系重合体ラテックスを連続的に製造した。
【0067】
実施例2においても、上記したデカンタ型遠心分離装置を用いた遠心分離操作を、不溶性錯体を含有するラテックス10mに対して、連続的に行った。その結果、ラテックス10mの遠心分離操作中、デカンタ型遠心分離装置内における不溶性錯体の詰まりや、各ろ過装置における不溶性錯体の詰まりは発生せず、1度も操業を停止することなく、遠心分離操作を行うことができた。また、遠心分離処理中における、デカンタ型遠心分離装置外への不溶性錯体の排出速度は、デカンタ型遠心分離装置に供給されたラテックス1m当たりの、不溶性錯体の排出量(塩化パラジウム換算での排出量)で、0.12kg/mであった。
【0068】
遠心分離操作の結果、デカンタ型遠心分離装置外へ排出された不溶性錯体の含水率は36.8重量%であり、不溶性錯体として回収されたパラジウム金属の回収率は93.2%であった。
【0069】
実施例3
水素化工程、不溶性錯体形成工程
塩化パラジウムの使用量を、塩化パラジウム中のPd金属/ラテックス中のアクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体の重量比で1300重量ppmとなる量とした以外は、実施例1と同様にして、水素化反応を行い、ラテックス状態の水素化アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体反応混合物を得て、実施例1と同様にして、ラテックス中に不溶性錯体を析出させた。
【0070】
不溶性錯体除去工程
上記にて調製した不溶性錯体を含有するラテックスについて、デカンタ型遠心分離装置へのラテックスの供給速度を10.0m/hrに、遠心力を6,000Gに変更した以外は、実施例1と同様にして、連続的に遠心分離操作を行い、実施例1と同様にして、水素化共役ジエン系重合体ラテックスを連続的に製造した。
【0071】
実施例3においても、上記したデカンタ型遠心分離装置を用いた遠心分離操作を、不溶性錯体を含有するラテックス10mに対して、連続的に行った。その結果、ラテックス10mの遠心分離操作中、デカンタ型遠心分離装置内における不溶性錯体の詰まりや、各ろ過装置における不溶性錯体の詰まりは発生せず、1度も操業を停止することなく、遠心分離操作を行うことができた。また、遠心分離処理中における、デカンタ型遠心分離装置外への不溶性錯体の排出速度は、デカンタ型遠心分離装置に供給されたラテックス1m当たりの、不溶性錯体の排出量(塩化パラジウム換算での排出量)で、0.31kg/mであった。
【0072】
遠心分離操作の結果、デカンタ型遠心分離装置外へ排出された不溶性錯体の含水率は35.2重量%であり、不溶性錯体として回収されたパラジウム金属の回収率は94.1%であった。
【0073】
実施例4
水素化工程、不溶性錯体形成工程
塩化パラジウムの使用量を、塩化パラジウム中のPd金属/ラテックス中のアクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体の重量比で2400重量ppmとなる量とした以外は、実施例1と同様にして、水素化反応を行い、ラテックス状態の水素化アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体反応混合物を得て、実施例1と同様にして、ラテックス中に不溶性錯体を析出させた。
【0074】
不溶性錯体除去工程
上記にて調製した不溶性錯体を含有するラテックスについて、デカンタ型遠心分離装置へのラテックスの供給速度を4.5m/hrに、遠心力を600Gに変更した以外は、実施例1と同様にして、連続的に遠心分離操作を行い、実施例1と同様にして、水素化共役ジエン系重合体ラテックスを連続的に製造した。
【0075】
実施例4においても、上記したデカンタ型遠心分離装置を用いた遠心分離操作を、不溶性錯体を含有するラテックス10mに対して、連続的に行った。その結果、ラテックス10mの遠心分離操作中、デカンタ型遠心分離装置内における不溶性錯体の詰まりや、各ろ過装置における不溶性錯体の詰まりは発生せず、1度も操業を停止することなく、遠心分離操作を行うことができた。また、遠心分離処理中における、デカンタ型遠心分離装置外への不溶性錯体の排出速度は、デカンタ型遠心分離装置に供給されたラテックス1m当たりの、不溶性錯体の排出量(塩化パラジウム換算での排出量)で、0.58kg/mであった。
【0076】
遠心分離操作の結果、デカンタ型遠心分離装置外へ排出された不溶性錯体の含水率は31.5重量%であり、不溶性錯体として回収されたパラジウム金属の回収率は91.8%であった。
【0077】
実施例5
水素化工程
オートクレーブに、オレイン酸カリウム2部、イオン交換水180部、アクリロニトリル25部、アクリル酸2−メトキシエチル30部、マレイン酸モノn−ブチル5部、t−ドデシルメルカプタン0.5部を順次仕込んだ。反応器内部を窒素で置換した後、1,3−ブタジエン40部を封入した。反応器を10℃に冷却して、クメンハイドロパーオキサイド0.01部、硫酸第一鉄0.01部を添加した。次に反応器を10℃に保ったまま16時間攪拌し、内容物をよく混合した。その後、反応器内へ10%のハイドロキノン水溶液を添加して重合停止させた。重合転化率は90%であった。その重合反応液から未反応単量体を除去し、水素化反応に供するアクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸2−メトキシエチル−マレイン酸モノn−ブチル共重合体ラテックスを得た。
【0078】
塩化パラジウム(塩化パラジウム中のPd金属/ラテックス中のアクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸2−メトキシエチル−マレイン酸モノn−ブチル共重合体の重量比で2000重量ppm)に対して、塩化パラジウム中のPd金属の2倍モル当量の塩化ナトリウムを含有する水溶液を添加してパラジウム水溶液を得た。そして、得られたパラジウム水溶液300部に、重量平均分子量5,000のポリビニルピロリドンを、塩化パラジウム中のPd金属に対して重量比で5倍となる量を添加し、さらに水酸化カリウム水溶液を添加することで、pH12.0の触媒水溶液を調製した。
【0079】
次いで、上記にて得られたアクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸2−メトキシエチル−マレイン酸モノn−ブチル共重合体ラテックスを全固形分濃度を25重量%に調整し、全固形分濃度を調整したアクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸2−メトキシエチル−マレイン酸モノn−ブチル共重合体ラテックス400部(固形分換算で100部)と、上記にて調製した触媒水溶液300部とを、攪拌機付オートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流してラテックス中の溶存酸素を除去した。系内を2回水素ガスで置換後、3MPaの水素を加圧した。内容物を50℃に加温して6時間反応させ、ラテックス状態の水素化アクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸2−メトキシエチル−マレイン酸モノn−ブチル共重合体反応混合物を得た。
【0080】
不溶性錯体形成工程
次いで、上記にて得られたラテックス状態の水素化アクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸2−メトキシエチル−マレイン酸モノn−ブチル共重合体反応混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ラテックス中に不溶性錯体を析出させた。
【0081】
不溶性錯体除去工程
上記にて調製した不溶性錯体を含有するラテックスについて、デカンタ型遠心分離装置へのラテックスの供給速度を6.5m/hrに、遠心力を1,300Gに変更した以外は、実施例1と同様にして、連続的に遠心分離操作を行い、実施例1と同様にして、水素化共役ジエン系重合体ラテックスを連続的に製造した。
【0082】
実施例5においても、上記したデカンタ型遠心分離装置を用いた遠心分離操作を、不溶性錯体を含有するラテックス10mに対して、連続的に行った。その結果、ラテックス10mの遠心分離操作中、デカンタ型遠心分離装置内における不溶性錯体の詰まりや、各ろ過装置における不溶性錯体の詰まりは発生せず、1度も操業を停止することなく、遠心分離操作を行うことができた。また、遠心分離処理中における、デカンタ型遠心分離装置外への不溶性錯体の排出速度は、デカンタ型遠心分離装置に供給されたラテックス1m当たりの、不溶性錯体の排出量(塩化パラジウム換算での排出量)で、0.46kg/mであった。
【0083】
遠心分離操作の結果、デカンタ型遠心分離装置外へ排出された不溶性錯体の含水率は35.5重量%であり、不溶性錯体として回収されたパラジウム金属の回収率は95.1%であった。
【0084】
比較例1
水素化工程、不溶性錯体形成工程
塩化パラジウムの使用量を、塩化パラジウム中のPd金属/ラテックス中のアクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体の重量比で2600重量ppmとなる量とした以外は、実施例1と同様にして、水素化反応を行い、ラテックス状態の水素化アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体反応混合物を得て、実施例1と同様にして、ラテックス中に不溶性錯体を析出させた。
【0085】
不溶性錯体除去工程
上記にて調製した不溶性錯体を含有するラテックスについて、デカンタ型遠心分離装置へのラテックスの供給速度を1.5m/hrに、遠心力を120Gに変更した以外は、実施例1と同様にして、連続的に遠心分離操作を行い、実施例1と同様にして、水素化共役ジエン系重合体ラテックスを連続的に製造した。
【0086】
比較例1においても、上記したデカンタ型遠心分離装置を用いた遠心分離操作を、不溶性錯体を含有するラテックス10mに対して、連続的に行った。その結果、ラテックス10mの遠心分離操作中、デカンタ型遠心分離装置内における不溶性錯体の詰まりが頻繁に発生し、メンテナンスを行うための、デカンタ型遠心分離装置の運転の停止を3回行う必要があった。また、遠心分離処理中における、デカンタ型遠心分離装置外への不溶性錯体の排出速度は、デカンタ型遠心分離装置に供給されたラテックス1m当たりの、不溶性錯体の排出量(塩化パラジウム換算での排出量)で、0.52kg/mであった。
【0087】
遠心分離操作の結果、デカンタ型遠心分離装置外へ排出された不溶性錯体の含水率は58.2重量%であり、不溶性錯体として回収されたパラジウム金属の回収率は78.0%であった。
【0088】
比較例2
水素化工程、不溶性錯体形成工程
塩化パラジウムの使用量を、塩化パラジウム中のPd金属/ラテックス中のアクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体の重量比で3000重量ppmとなる量とした以外は、実施例1と同様にして、水素化反応を行い、ラテックス状態の水素化アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体反応混合物を得て、実施例1と同様にして、ラテックス中に不溶性錯体を析出させた。
【0089】
不溶性錯体除去工程
上記にて調製した不溶性錯体を含有するラテックスについて、デカンタ型遠心分離装置へのラテックスの供給速度を8.0m/hrに、遠心力を12000Gに変更した以外は、実施例1と同様にして、連続的に遠心分離操作を行い、実施例1と同様にして、水素化共役ジエン系重合体ラテックスを連続的に製造した。
【0090】
比較例2においても、上記したデカンタ型遠心分離装置を用いた遠心分離操作を、不溶性錯体を含有するラテックス10mに対して、連続的に行った。その結果、ラテックス10mの遠心分離操作中、デカンタ型遠心分離装置内における不溶性錯体の詰まりが頻繁に発生し、メンテナンスを行うための、デカンタ型遠心分離装置の運転の停止を12回行う必要があった。また、遠心分離処理中における、デカンタ型遠心分離装置外への不溶性錯体の排出速度は、デカンタ型遠心分離装置に供給されたラテックス1m当たりの、不溶性錯体の排出量(塩化パラジウム換算での排出量)で、0.62kg/mであった。
【0091】
また、デカンタ型遠心分離装置外へ排出された不溶性錯体の含水率は38.0重量%であり、不溶性錯体として回収されたパラジウム金属の回収率は83.0%であった。
【0092】
比較例3
水素化工程、不溶性錯体形成工程
塩化パラジウムの使用量を、塩化パラジウム中のPd金属/ラテックス中のアクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体の重量比で900重量ppmとなる量とした以外は、実施例1と同様にして、水素化反応を行い、ラテックス状態の水素化アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体反応混合物を得て、実施例1と同様にして、ラテックス中に不溶性錯体を析出させた。
【0093】
不溶性錯体除去工程
上記にて調製した不溶性錯体を含有するラテックスについて、デカンタ型遠心分離装置へのラテックスの供給速度を18.0m/hrに、遠心力を3000Gに変更した以外は、実施例1と同様にして、連続的に遠心分離操作を行い、実施例1と同様にして、水素化共役ジエン系重合体ラテックスを連続的に製造した。
【0094】
比較例3においても、上記したデカンタ型遠心分離装置を用いた遠心分離操作を、不溶性錯体を含有するラテックス10mに対して、連続的に行った。その結果、ラテックス10mの遠心分離操作中、デカンタ型遠心分離装置内における不溶性錯体の詰まりや、各ろ過装置における不溶性錯体の詰まりは発生せず、1度も操業を停止することなく、遠心分離操作を行うことができた。また、遠心分離処理中における、デカンタ型遠心分離装置外への不溶性錯体の排出速度は、デカンタ型遠心分離装置に供給されたラテックス1m当たりの、不溶性錯体の排出量(塩化パラジウム換算での排出量)で、0.22kg/mであった。
【0095】
遠心分離操作の結果、デカンタ型遠心分離装置外へ排出された不溶性錯体の含水率は55.3重量%であり、不溶性錯体として回収されたパラジウム金属の回収率は72.0%であった。
【0096】
比較例4
水素化工程、不溶性錯体形成工程
塩化パラジウムの使用量を、塩化パラジウム中のPd金属/ラテックス中のアクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体の重量比1800重量ppmとなる量とした以外は、実施例1と同様にして、水素化反応を行い、ラテックス状態の水素化アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体反応混合物を得て、実施例1と同様にして、ラテックス中に不溶性錯体を析出させた。
【0097】
不溶性錯体除去工程
遠心分離装置として、図1に示すデカンタ型遠心分離装置に代えて、ディスクセパレーター型遠心分離装置(製品名「ディスクセパレーター SJ180F」、三菱化工機社製)を使用して、遠心分離操作を行った。なお、比較例4で用いたディスクセパレーター型遠心分離装置は、ディスクの回転により連続的に遠心分離を行う装置であり、また、その機構上、遠心分離により分離した固形分(すなわち、不溶性錯体)については、連続的に排出可能となっておらず、装置内に滞留させておく構成となっている。そのため、比較例4においては、不溶性錯体を含有するラテックスを、ディスクセパレーター型遠心分離装置に連続的に行い、連続的に遠心分離操作を行う一方で、分離された不溶性錯体については、ディスクセパレーター型遠心分離装置内に貯めておくという方法とした。また、ディスクセパレーター型遠心分離装置へのラテックスの供給速度は9.0m/hrとし、遠心力は18,000Gとした。
【0098】
そして、比較例4においても、上記したディスクセパレーター型遠心分離装置を用いた遠心分離操作を、不溶性錯体を含有するラテックス10mに対して、連続的に行った。その結果、ラテックス10mの遠心分離操作中、分離された不溶性錯体を除去するために、ディスクセパレーター型遠心分離装置の運転の停止を5回行う必要があった。
【0099】
また、ディスクセパレーター型遠心分離装置外へ排出された不溶性錯体の含水率は62.0重量%であり、不溶性錯体として回収されたパラジウム金属の回収率は93.0%であった。
【0100】
比較例5
水素化工程、不溶性錯体形成工程
塩化パラジウムの使用量を、塩化パラジウム中のPd金属/ラテックス中のアクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体の重量比1200重量ppmとなる量とした以外は、実施例1と同様にして、水素化反応を行い、ラテックス状態の水素化アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体反応混合物を得て、実施例1と同様にして、ラテックス中に不溶性錯体を析出させた。
【0101】
不溶性錯体除去工程
遠心分離装置として、図1に示すデカンタ型遠心分離装置に代えて、バスケット型遠心分離装置(製品名「ACE−300」、タナベウィルテック社製)を使用して、遠心分離操作を行った。なお、比較例5で用いたバスケット型遠心分離装置は、バッチ式の遠心分離装置であり、また、その機構上、遠心分離により分離した固形分(すなわち、不溶性錯体)については、連続的に排出可能となっていない。そのため、比較例5においては、不溶性錯体を含有するラテックスを、バスケット型遠心分離装置に逐次供給し、遠心力800Gにて遠心分離操作を行い、遠心分離後のラテックスおよび分離された不溶性錯体を逐次排出させるという操作が必要であった。
【0102】
そして、比較例5においては、上記したバスケット型遠心分離装置を用いた遠心分離操作を、不溶性錯体を含有するラテックス10mに対して行うために、ラテックスの供給、遠心分離、および排出という動作を合計で20回行う必要があった。
【0103】
また、バスケット型遠心分離装置外へ排出された不溶性錯体の含水率は64.0重量%であり、不溶性錯体として回収されたパラジウム金属の回収率は84.4%であった。
【0104】
【表1】
【0105】
表1に、実施例1〜5、比較例1〜5の結果をまとめて示す。
表1に示すように、不溶性錯体を含むラテックスについて、0.5〜15m/hrの供給速度にて遠心分離装置に連続的に供給して、200〜10,000Gの遠心力により遠心分離操作を連続的に行うとともに、分離された不溶性錯体を遠心分離装置の外部に連続的に排出した実施例1〜5においては、遠心分離装置内における不溶性錯体の詰まりや、各ろ過装置における不溶性錯体の詰まりは発生せず、1度も操業を停止することなく、遠心分離操作を行うことができ、操業性に優れるものであった。また、パラジウム金属の回収率についても80%以上と高く、また、分離・排出された不溶性錯体の含水率も50重量%以下と低く抑えられており、パラジウム金属の回収効率に優れたものであった。
【0106】
一方、遠心分離操作における遠心力が低すぎる比較例1や、不溶性錯体を含むラテックスの遠心分離装置への供給速度が速すぎる比較例3においては、パラジウム金属の回収率が80%未満と低く、また、分離・排出された不溶性錯体の含水率も50重量%超と高くなる結果となった。さらには、比較例1においては、遠心分離装置内における不溶性錯体の詰まりが頻繁に発生してしまい、メンテナンスを頻繁に行う必要があり、操業性にも劣るものであった。
また、遠心分離操作における遠心力が高すぎる比較例2は、遠心分離装置内における不溶性錯体の詰まりが頻繁に発生してしまい、メンテナンスを頻繁に行う必要があり、操業性に劣るものであった。
さらに、連続式の遠心分離装置であっても、分離・排出された不溶性錯体の排出を連続的に行うことができない比較例4や、バッチ式の遠心分離装置を用いた比較例5においては、遠心分離操作を頻繁に停止する必要があり、操業性に劣るものであった。また、比較例4,5においては、分離・排出された不溶性錯体の含水率が高く、そのため、パラジウム金属の回収効率にも劣るものであった。
【符号の説明】
【0107】
1… 外側回転筒
2… スクリューコンベア
3… フィードチューブ
4… 固形物排出口
5… ダムプレート
6… 駆動モーター
7… ギアボックス
8… スクリュー羽根
9… 供給口
図1