特許第6981455号(P6981455)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6981455リチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981455
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20211202BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20211202BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20211202BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20211202BHJP
【FI】
   H01M4/38 Z
   H01M4/36 B
   H01M4/36 E
   H01M4/48
   H01M4/58
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-172184(P2019-172184)
(22)【出願日】2019年9月20日
(65)【公開番号】特開2021-51834(P2021-51834A)
(43)【公開日】2021年4月1日
【審査請求日】2020年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小西 宏明
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−502026(JP,A)
【文献】 特開2004−071542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00−4/62
H01G11/00−11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si相と、SiO相と、を含み、かつ、X線回折測定において、2θ=21.8°付近および26.6°付近にピークが存在し、前記26.6°付近のピークの半値幅が0.35°以上であるリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法であり、
SiOと、LiClと、を混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を不活性雰囲気下800℃〜1000℃で加熱する加熱工程と、
を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項2】
請求項において、
前記混合工程で混合する前記SiOに対し前記LiClを質量比0.2倍以上としたリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン二次電池は、多くの電子機器の動力源として利用されている。近年、自動車への展開も拡大しており、更なる高容量化が求められている。電池を高容量化するための一つの手段として高容量を有する活物質を採用することが挙げられる。現行のリチウムイオン二次電池の負極では、黒鉛を理論容量に近い領域で使用しているため、これ以上の高容量化は望めない。そこで、黒鉛を超える理論容量を有する負極活物質として、一酸化珪素(SiO)(以下、「SiO負極」と呼称することがある)が注目されている。しかしながら、SiO負極には初回クーロン効率(初回クーロン効率(%)={放電容量(Ah)/充電容量(Ah)}×100)が低いという欠点がある。初回クーロン効率が高いほど、充電した容量の多くを放電できるので好ましい。
【0003】
現在、様々な研究機関で初回クーロン効率の改善が検討されている。その中で、例えば、特許文献1には、CuKα線を用いて測定されたXRDスペクトルにおける2θ=28.4°付近に発現するシリコンの回折ピークのピーク幅が1.0°以上であるナノシリコンからなる負極活物質を用いる旨記載されている(ピーク幅:該回折ピークの両側の変曲点に接線を引き、それらがベースラインと交わった2点間の距離)。特許文献1によれば、前記構成とすることで、初期効率などの電池特性が高く品質が安定した蓄電装置とすることができる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−090738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SiO負極は、Liを挿入する充電過程では、Si−Li化合物(例えば、SiLi4.4)およびLi−Si−O化合物(例えば、LiSiO)が形成される。これらの化合物の形成においては、下記式に示すように、初回充電時において多量のLiが消費されることによって生じている。
〔充電〕 4SiO+17.2Li+17.2e→3SiLi4.4+LiSiO
【0006】
一方、Liを脱離する放電過程では、下記式に示すように、前記したLi−Si化合物からはLiが脱離するものの、前記したLi−Si−O化合物から、Liはほとんど脱離しない。そのため、放電時は下記式で表すことができる。
〔放電〕 3SiLi4.4→3Si+13.2Li+13.2e
【0007】
このように、一般的な構成のSiO負極の場合、17.2個のLiのうち4個のLiがSiO中の酸素と結合して、放電時にLiを脱離しないLi−Si−O化合物を生成する。つまり、SiO負極の充放電反応の一部は不可逆であり、それによって正極と負極の間を移動できるLiが減少するため、SiO負極の初回クーロン効率が低くなる。
【0008】
特許文献1には前記したように、所定のナノシリコンとすること(Siのサイズを小さくすること)で反応性が改善し、それにより、負極活物質の特性が向上する旨記載されている。
【0009】
前記したように、特許文献1に記載の発明でも初回クーロン効率の大幅な向上は見込まれるものの、放電過程においてLi−Si−O化合物からはほとんどLiが脱離しない。そのため、Li−Si−O化合物の形成のために消費されたLi量からするとその向上効果は十分なものとは言えない可能性があり、改善の余地がある。
【0010】
本発明は前記状況に鑑みてなされたものであり、初回クーロン効率に優れたリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意研究した結果、放電過程においてLiを脱離しないLi−Si−O化合物の形成にはSiO中の酸素が寄与していることを突き止めた。そして、本発明者は、SiO中の酸素含有ドメインをSiO化することによってLiに対して不活性なものとし、Li−Si−O化合物の形成を抑制できることを見出すとともに、Siの結晶成長を大きく進行させないことにより、初回クーロン効率を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
前記課題を解決した本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法は、Si相と、SiO相と、を含み、かつ、X線回折測定において、2θ=21.8°付近および26.6°付近にピークが存在し、前記26.6°付近のピークの半値幅が0.35°以上であるリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法であり、SiOと、LiClと、を混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を不活性雰囲気下800℃〜1000℃で加熱する加熱工程と、を含む
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、初回クーロン効率に優れたリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法を提供できる。
前記した以外の課題、構成および効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の主要な構成要素(電気化学反応に寄与する部分)を図示した概略説明図である。
図2】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法の内容を説明するフローチャートである。
図3】X線回折測定によって得られた実施例1に係る負極活物質の回折チャートと、比較例1に係る負極活物質の回折チャートとを示すX線回折チャート図である。横軸は回折角(2θ(°))を示し、縦軸は強度(Intensity(a.u.))を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面を参照して本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極活物質(以下、単に「負極活物質」と呼称することがある)、リチウムイオン二次電池およびリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法の一実施形態について詳細に説明する。
なお、本明細書に記載される「〜」は、その前後に記載される数値を下限値および上限値として有する意味で使用する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された下限値または上限値は、他の段階的に記載されている下限値または上限値に置き換えてもよい。本明細書に記載される数値範囲の下限値または上限値は、実施例中に示されている値に置き換えてもよい。
【0016】
本明細書で説明している各部材は、各部材を構成する材料群の中から選択された材料を単独でまたは複数組み合わせて使用してもよい。また、本明細書で説明している各部材や材料は、本明細書で記載した材料のみで構成されていてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で本明細書に記載していない他の材料を有していてもよい。
【0017】
<リチウムイオン二次電池1の構成>
図1は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池1の主要な構成要素(電気化学反応に寄与する部分)を図示した概略説明図である。ここで、リチウムイオン二次電池とは、電極へのLiの吸蔵・脱離(放出)により、電気エネルギを貯蔵または利用可能とする電気化学デバイスをいう。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオン電池、非水電解質二次電池などの別の名称で呼ばれるが、いずれの電池も本発明の対象である。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池1は、電気化学反応に直接的に寄与する正極2と負極3とが対向配置されている。そして、正極2と負極3との間にセパレータ4が設けられている。さらに、リチウムイオン二次電池1は、正極2と負極3との間においてLiの移動を可能にするための電解質を備えている。電解質としては、例えば、リチウム塩が溶解した有機溶媒を用いることができる。本実施形態では、正極2、負極3、セパレータ4に電解質を含浸させている。本実施形態に係る負極活物質は、負極3の負極層7に含まれている(なお、負極活物質については図示せず)。負極活物質については後述する。リチウムイオン二次電池1は、本実施形態に係る負極活物質を含んでいるので、後述するように初回クーロン効率が高い。
【0019】
<正極2、正極層5>
正極2は、正極層5と正極集電体6とから構成されている。正極層5は、正極活物質と導電剤とバインダとから構成されている。
【0020】
<正極活物質>
正極活物質は、充電過程においてリチウムイオンが脱離し、放電過程において負極層7中の負極活物質から脱離したリチウムイオンが挿入される物質である。正極活物質としては、遷移金属を有するリチウム複合酸化物が望ましい。正極活物質としては、例えば、組成式:LiMO、Li1+a1−a、LiM、LiMn2−b、LiMSiO、LiMPO、LiMVO、LiMBO、などで表される化合物を使用することができる。なお、これらの化合物において、MはCo、Ni、Mn、Fe、Cr、Zn、Ta、Al、Mg、Cu、Cd、Mo、Nb、W、Ruなどから選択される少なくとも一種類の元素である。aは0.33以下の任意の数を取り得る。bは0.5以下の任意の数を取り得る。cは化合物に含まれる酸素濃度であり、0以上の任意の整数を取り得る。また、正極活物質として、例えば、硫黄、TiS、MoS、Mo、TiSeなどのカルコゲナイドや、Vなどのバナジウム系酸化物、FeFなどのハライド、ポリアニオンを構成するFe(MoO、Fe(SO、LiFe(POなどの酸化物や、キノン系有機結晶なども用いることができる。元素比は前記定比組成からずれていてもよい。なお、本実施形態においては、正極活物質について制限はなく、前記した材料以外のものを使用することができる。
【0021】
<導電剤>
導電剤は、正極層5の導電性を向上させる。導電剤としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、黒鉛などを使用することができるが、これらに限定されない。
【0022】
<バインダ>
バインダは、正極2中の正極活物質や導電剤などを結着させる。バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシル・メチルセルロース、酢酸セルロース、エチルセルロース、フッ素ゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリアクリル酸、ポリイミド、ポリアミドなどを使用することができるが、これらに限定されない。
【0023】
<正極集電体6>
正極集電体6は、正極層5の集電を行う。正極集電体6としては、例えば、アルミニウム箔、ステンレス鋼箔、チタン箔などを使用することができるが、これらに限定されない。
【0024】
<正極層5の作製>
正極層5を作製するために、正極活物質、導電剤、バインダを混合した後、溶媒を加え、正極スラリを調製することが好ましい。正極スラリを調製するために用いる溶媒は、バインダを溶解できるものであればよく、例えば、1−メチル−2−ピロリドンや水などを使用することができるが、これらに限定されない。正極活物質、導電剤およびバインダの溶媒への分散処理には、公知の混練機、分散機を使用することができる。
正極活物質、導電剤、バインダの混合比は、正極活物質:導電剤:バインダの質量比でこれらの合計を100とした場合、例えば、80〜99:0.5〜10:0.5〜10などとすることができる。また、粉末の混合物に対し、溶媒は質量比で0.1〜2倍などとすることができる。
【0025】
正極層5は、調製した正極スラリを、例えば、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法などによって正極集電体6へ付着させた後、溶媒を乾燥し、ロールプレスによって加圧成形することにより、作製することができる。
【0026】
<負極3、負極層7>
負極3は、負極層7と負極集電体8とから構成されている。負極層7は、負極活物質と導電剤とバインダとから構成されている。
【0027】
<負極活物質>
負極活物質は、放電過程においてリチウムイオンが脱離し、充電過程において正極層5中の正極活物質から脱離したリチウムイオンが挿入される物質である。
本実施形態に係る負極活物質は、Si相と、SiO相と、を含んでいる。
【0028】
本負極活物質においてSiO相はX線回折測定(XRD測定)において、ピークが観察できるほど結晶化していることが好ましい。また、Si相のドメインは小さいほどよい。具体的には、X線回折測定において、2θ(回折角)=21.8°付近および26.6°付近にピークが存在し、前記26.6°付近のピークの半値幅が0.35°以上であることとしている。
【0029】
なお、2θ=21.8°付近のピークはSiO相に基づくものである。SiO相は、Liに対して不活性とし、Li−Si−O化合物の形成を抑制するのに必要である。
また、2θ=26.6°付近のピークはSi相に基づくものである。Si相は、Liの挿入・脱離を行うのに必要である。
26.6°付近のピークの半値幅は、Si相のドメインの大きさに関係している。26.6°付近のピークの半値幅が大きいほどSi相のドメインは小さくなる。26.6°付近のピークの半値幅が0.35°以上であればSi相のドメインは十分小さいのでLiの動く距離が短くなり、反応時間も短くなる。また、抵抗も小さくなる。つまり、二次電池としての性能が向上する。そのため、26.6°付近のピークの半値幅は大きいほど好ましく、例えば、0.40°以上、0.42°以上、0.43°以上、0.47°以上などとすることができる。26.6°付近のピークの半値幅の上限について特に規定はない。なお、26.6°付近のピークの半値幅が0.35°未満であるとSi相のドメインが大きくなり、Liの挿入・脱離が行われ難くなるため、初回クーロン効率が向上しない。
【0030】
Si相およびSiO相を含む化合物は、後述するように、原料となるSiOとLiClとを混合し、所定の条件で加熱することで得られる。
【0031】
<初回クーロン効率が向上する理由>
本実施形態では、原料として用いたSiO中の酸素含有ドメインを結晶化したSiO相にすることで初回クーロン効率を向上させている。ここで、酸素含有ドメインを結晶化したSiO相とすることで、初回クーロン効率が向上する理由について説明する。
【0032】
前述したように、放電過程においてLiを脱離しないLi−Si−O化合物(例えば、LiSiO)の生成には、原料として用いるSiO中の酸素が寄与している。つまり、負極活物質が本実施形態の構成を採用していない従来の構成のSiO負極の場合、前述したように充電時および放電時のSiOに関する反応機構は次のようになる。
〔充電〕 4SiO+17.2Li+17.2e→3SiLi4.4+LiSiO
〔放電〕 3SiLi4.4→3Si+13.2Li+13.2e
【0033】
このように、従来の構成のSiO負極の場合、17.2個のLiのうち4個のLiがSiO中の酸素と結合してLi−Si−O化合物を生成する。当該化合物は放電時にLiを脱離しないため、正極2と負極3の間を移動できるLiが減り、初回クーロン効率が低下する原因となっている。このため、初回充電時にLi−Si−O化合物が形成されないようにすれば、正極2と負極3の間を移動できるLiが減ることがなくなることから、初回クーロン効率が向上することとなる。
【0034】
前記初回充電時および放電時のSiOに関する反応機構を見て分かるように、Li−Si−O化合物の生成にはSiO中のOが関与している。そのため、充電前の負極活物質中においてOが反応に関与しなければ、クーロン効率低下の原因となるLi−Si−O化合物が形成されない。Si−O化合物において、高結晶のSiOはLiに対し不活性である(Liとの反応性が低い)ことが知られている。そこで、SiOに対し、あらかじめ酸素ドメインを結晶性のSiOとすることで、充電時におけるLi−Si−O化合物の生成を抑制でき、初回クーロン効率が向上すると考えられる。
【0035】
<炭素被膜>
本実施形態に係る負極活物質は、炭素被膜を有していることが好ましい。このようにすると導電性が向上するため、放電容量が増加する。その結果、初回クーロン効率が向上し得る。炭素被膜は、例えば、製造した負極活物質に対して熱分解CVD(Chemical Vapor Deposition)を行うことで形成できる。
【0036】
<導電剤、バインダ、負極集電体8>
負極3に用いる導電剤およびバインダは、正極2と同様のものをそれぞれ使用することができる。
負極集電体8は、例えば、銅箔、ステンレス鋼箔などを使用することができるが、これらに限定されない。
【0037】
<負極層7の作製>
負極層7を作製するために、負極活物質、導電剤、バインダを混合した後、溶媒を加え、負極スラリを調製することが好ましい。負極スラリを調製するために用いる溶媒は、バインダを溶解できるものであればよく、例えば、1−メチル−2−ピロリドンや水などを使用することができるが、これらに限定されない。負極活物質、導電剤およびバインダの溶媒への分散処理には、公知の混練機、分散機などを使用することができる。
負極活物質、導電剤、バインダの混合比は、負極活物質:導電剤:バインダの質量比でこれらの合計を100とした場合、例えば、60〜98:0.5〜20:0.5〜20などとすることができる。また、粉末の混合物に対し、溶媒は質量比で0.1〜2倍などとすることができる。
【0038】
負極層7は、調製した負極スラリを、例えば、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法などによって負極集電体8へ付着させた後、溶媒を乾燥し、ロールプレスによって加圧成形することにより、作製することができる。
【0039】
<セパレータ4>
セパレータ4は、正極2と負極3とを絶縁する(短絡を防止する)とともに、正極2と負極3との間にリチウムイオンを伝達させる。セパレータ4としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、セルロース、セルロースの変成体などの微孔性フィルムや不織布などを使用することができるが、これらに限定されない。セパレータ4はこれらの材料で形成された積層体であってもよい。セパレータ4の厚みは、電池の高出力化の観点から、40μm以下とすることが好ましい。このような厚みのセパレータ4を用いることで、電池の体積あたりの容量を大きくすることができる。
【0040】
以上に説明した正極2(正極層5および正極集電体6)、負極3(負極層7および負極集電体8)およびセパレータ4の各厚さや形状などは任意に設定することができる。
また、正極2、負極3およびセパレータ4を1つの群として、複数の群を併用することができる。この場合、2つの群の間に、短絡を防止するための図示しないセパレータを設けることが好ましい。このセパレータとして、前記したセパレータ4を使用することができる。
【0041】
<電解質>
電解質としては、リチウム塩が溶解した有機溶媒を使用することができる。
電解質の有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、亜リン酸トリス、メチルホスホン酸ジメチルなどを使用することができるが、これらに限定されない。電解質の有機溶媒は前記したものの中から選択されたいずれか一種を用いることができ、二種以上を併用することもできる。電解質には、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、エチレンサルファイトなどの添加剤を加えてもよい。
電解質のリチウム塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCF、LiN(SOCFCFなどを使用することができるが、これらに限定されない。
電解質として具体的には、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを体積比1:1:1で混合した後、ビニレンカーボネートを質量比で1%加えたものを有機溶媒として用い、これに1.0mol/LのLiPFをリチウム塩として溶解させた液を好適に用いることができる。
なお、前記した電解質の代わりに、固体電解質を使用することも可能である。固体電解質の例としては、LiBO−LiSO、LiLaZr12、Li10GeP12などを使用することができるが、これらに限定されない。
【0042】
<リチウムイオン二次電池1のその他の構成>
前記したように、図1は、リチウムイオン二次電池1の主要な構成要素(電気化学反応に寄与する部分)を図示したものであり、電気化学反応に寄与する部分以外のその他の構成については図示していない。
リチウムイオン二次電池1における前記その他の構成としては、例えば、前述したリチウムイオン二次電池1を収容する外装体(図示せず)が挙げられる。外装体は、電解質に対して耐食性のある材料で任意の形状に形成することができる。外装体は、例えば、有底円筒形または有底角筒形の本体と、本体の開口部を封じる蓋体と、で形成することができる。この場合、外装体は、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などの金属材料で好適に形成することができる。またこの場合、必要に応じて本体と蓋体との間に樹脂製のシーリング材を介在させてもよい。このようにすると、本体と蓋体との隙間から電解質などが漏出するのを防ぐことができる。さらに、外装体は、例えば、任意のラミネート材を用いて密封させたものを用いることができる。
【0043】
また、前記その他の構成としては、例えば、正極タブおよび負極タブ(いずれも図示せず)が挙げられる。正極タブは、正極集電体6と接続され、外装体の外部に延出し、外部電源などと接続される。負極タブは、負極集電体8と接続され、外装体の外部に延出し、外部電源などと接続される。
【0044】
また、リチウムイオン二次電池1が乾電池やボタン電池として用いられる場合、正極集電体6は正極リード片(図示せず)で蓋体と接続することができ、負極集電体8は負極リード片(図示せず)で本体の底部と接続することができる。
【0045】
正極タブ、負極タブ、正極リード片および負極リード片は、アルミニウム箔、銅箔、ステンレス鋼箔、チタン箔などから任意に選択して使用することができるが、これらに限定されない。
【0046】
<リチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法>
次に、図2を参照して、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法(以下、単に「本製造方法」と呼称することがある)について説明する。なお、本製造方法の説明にあたって、既に説明している構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明は省略することがある。
【0047】
図2は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法の内容を説明するフローチャートである。
図2に示すように、本製造方法は、前述したリチウムイオン二次電池用負極活物質を製造する方法であり、混合工程S1と、加熱工程S2と、を含む。本製造方法は、これらの工程についてはこの順に行うものである。
【0048】
<混合工程S1>
混合工程S1は、SiOに、後の加熱工程S2においてSiO中の酸素含有ドメインを結晶性のSiO化させる効果のある化合物を添加し、混合して混合物を得る工程である。このような効果のある化合物としては、LiClが挙げられる。なお、混合工程S1は、公知の混練機を用いて行うことができる。SiOは、組成式がSiO(0.1≦x≦2、好ましくは0.5≦x≦1.5)で示されるものを用いることができる。
【0049】
SiOとLiClとの混合比は任意に設定可能であるが、例えば、SiOに対しLiClを質量比0.2倍以上とすることが好ましく、0.2倍〜1倍とすることがより好ましく、0.5倍〜1倍とすることがさらに好ましい。
【0050】
<加熱工程S2>
加熱工程S2は、混合工程S1で混合して得られた混合物を不活性雰囲気下で加熱する工程である。不活性雰囲気は、加熱を行うチャンバ内の空気を不活性ガスに置換することで成すことができる。不活性ガスとしては、例えば、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガスなどを挙げることができるが、含有される酸素濃度の低い気体であればこれらに限定されずに使用可能である。不活性雰囲気としない場合、Si相が酸化され、SiO相のみで構成される化合物が形成される可能性があるため、活物質として利用できない。
【0051】
そして、加熱工程S2では、不活性雰囲気下、前記混合物を800℃〜1000℃の温度で加熱することで、Si相と、SiO相と、を含み、かつ、X線回折測定において、2θ=21.8°付近および26.6°付近にピークが存在し、前記26.6°付近のピークの半値幅が0.35°以上である負極活物質が得られる。
【0052】
なお、加熱温度が800℃未満であると、温度が低過ぎるため、SiOの結晶化が進行しない。この場合、2θ=21.8°付近のピークを得ることができない。また、加熱温度が1000℃を超えると、粒子の粗大化が進行するため電池性能が低下する。この場合、2θ=26.6°付近のピークの半値幅が0.35°未満となる。よって、加熱工程S2における加熱温度は前記したように800℃〜1000℃とする。なお、加熱温度は、850℃〜950℃とすることが好ましく、900℃とすることがより好ましい。このようにすると、より初回クーロン効率に優れた負極活物質をより確実に得ることができる。
加熱工程S2における加熱時間は、例えば、1時間〜20時間などとすることができるが、Si相と、SiO相と、を含み、X線回折測定で得られるピークが前記したものとなる負極活物質が得られればよく、これに限定されない。加熱時間は、例えば、10時間とすることができる。
【0053】
以上に説明したように、本実施形態に係る負極活物質は、Si相と、SiO相と、を含んでいる。SiO相は、原料として用いたSiO中の酸素含有ドメインをLiに対して不活性化したものあるため、Li−Si−O化合物の形成を抑制できる。また、Si相のドメインが小さい。そのため、本実施形態に係る負極活物質は初回クーロン効率が高い。
また、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池1は、本実施形態に係る負極活物質を含んでいるため、初回クーロン効率が高い。
そして、本実施形態に係る負極活物質の製造方法は、初回クーロン効率が高い本実施形態に係る負極活物質を製造できる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
<実施例1>
以下のようにして実施例1に係る負極活物質を製造し、さらにこれを用いて電気化学セルを作製した。
【0056】
<負極活物質の製造>
SiOとLiClとを、SiO:LiCl=1:1(質量比)となるように混合し、得られた混合物をアルゴン雰囲気下で900℃、10時間加熱して、実施例1に係る負極活物質を製造した。
【0057】
<電気化学セルの作製>
製造した負極活物質とケッチェンブラックとポリアクリル酸とを質量比で70:15:15となるように混合した。その後、混合して得られた粉末の混合物に対し、質量比で1:1となるように1−メチル−2−ピロリドンを加え、負極スラリを調製した。調製した負極スラリを負極集電体8である銅箔の上にドクターブレード法で付着させた後、乾燥させ、ロールプレスによって加圧成形することにより、負極層7を作製した。
【0058】
ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層から構成される厚さ30μmのセパレータ4を用意した。そして、このセパレータ4の一方の面に正極が接触するようにして配置し、このセパレータ4の他方の面に負極層7が接触するようにして負極層7および負極集電体8を配置した。なお、本実施例では、製造した負極活物質の影響を検討することを目的としたため、前記正極については、性能の安定しているリチウム金属を対極として用いた。
【0059】
そして、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを体積比1:1:1で混合した後、ビニレンカーボネートを質量比で1%加えて電解質の有機溶媒を調製した。調製した有機溶媒に1.0mol/LのLiPFをリチウム塩として溶解させて電解質を調製した。また、電解質の揮発を抑制するため電気化学セルはガラス容器に密封した。
【0060】
<充放電評価>
以上のようにして作製した電気化学セルについて、充放電評価を行った。
充放電評価における充放電試験は下記の条件で行った。すなわち、電気化学セルを初回充電において0.25CAで定電流充電し、0Vに電圧が達した後に定電圧充電の電流値が0.0125CAになるまで充電し、0.25CAで1.5Vまで定電流放電した。
そして、得られた放電容量(Ah)と、充電容量(Ah)とを用いて、{放電容量(Ah)/充電容量(Ah)}×100の式から初回クーロン効率(%)を算出した。なお、作製した電極を1時間で放電することができる電流を1CAと定義する。
【0061】
<結晶構造の評価>
XRDを用いて、実施例1に係る負極活物質の結晶構造を評価した。
【0062】
<実施例2>
実施例2では、加熱温度を850℃とした以外は、実施例1と同様の条件で負極活物質を製造した。そして、実施例1と同様にして充放電評価と結晶構造の評価とを行った。
【0063】
<実施例3>
実施例3では、加熱温度を950℃とした以外は、実施例1と同様の条件で負極活物質を製造した。そして、実施例1と同様にして充放電評価と結晶構造の評価とを行った。
【0064】
<実施例4>
実施例4では、SiO:LiCl=1:0.5とした以外は、実施例1と同様の条件で負極活物質を製造した。そして、実施例1と同様にして充放電評価と結晶構造の評価とを行った。
【0065】
<実施例5>
実施例5では、SiO:LiCl=1:0.2とした以外は、実施例1と同様の条件で負極活物質を製造した。そして、実施例1と同様にして充放電評価と結晶構造の評価とを行った。
【0066】
<比較例1>
比較例1では、負極活物質としてSiO(LiClなし、加熱なし)を用い、実施例1と同様にして充放電評価と結晶構造の評価とを行った。
【0067】
<比較例2>
比較例2では、加熱温度を750℃とした以外は、実施例1と同様の条件で負極活物質を製造した。そして、実施例1と同様にして充放電評価と結晶構造の評価とを行った。
【0068】
<比較例3>
比較例3では、加熱温度を1050℃とした以外は、実施例1と同様の条件で負極活物質を製造した。そして、実施例1と同様にして充放電評価と結晶構造の評価とを行った。
【0069】
実施例1〜5および比較例1〜3の材料合成、物性評価、電池評価を表1にまとめて示す。表1中、「−」は原料を用いていないこと、加熱していないこと、評価できないことを示している。
【0070】
【表1】
【0071】
また、実施例1に係る負極活物質の回折チャートを図3に示す。また、これとの比較対象として、LiClを用いず、加熱しなかった比較例1に係る負極活物質の回折チャートも図3に併せて示す。
【0072】
<結果>
表1に示すように、実施例1〜5に係る負極活物質は、初回クーロン効率が70%以上となっており、優れた結果となった。また、実施例1〜5に係る負極活物質は、X線回折測定においてSi相とSiO相とが検出された。これは、図3に示す実施例1に係る負極活物質の回折チャートからも確認することができる。なお、図3には実施例2〜5の回折チャートは図示していないが、同様のピークが確認されている。
【0073】
これらの結果から、実施例1〜5に係る負極活物質の初回クーロン効率が優れていた理由として、原料として用いたSiOとLiClとを所定の条件で加熱することでSiO中の酸素含有ドメインをLiに対し不活性なSiO化することができたためであると考えられる。さらに、Siの結晶成長は大きく進行しないため、Li脱離の反応を阻害することもない。
【0074】
これに対し、比較例1〜3に係る負極活物質は、初回クーロン効率が70%未満であり、劣る結果となった。また、比較例1〜2に係る負極活物質は、XRD測定においてSiO相は確認できなかった。そのため、比較例1〜2に係る負極活物質は、初回クーロン効率が低くなったと考えられる。一方、比較例3に係る負極活物質は、XRD測定においてSiO相のピークは確認できたものの、Si相のピークの半値幅が0.35°よりも小さい。これはSiの結晶化が進んでしまった(Si相のドメインが大きくなった)ことを意味し、Siの結晶化に伴い、Li脱離能が低下したため、初回クーロン効率が低くなったと考えられる。
【0075】
以上の結果から、原料であるSiOの酸素含有ドメインをSiO化することで、SiO負極の初回クーロン効率を向上できることが分かった。
【0076】
以上、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極活物質、リチウムイオン二次電池およびリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法について実施形態および実施例により詳細に説明したが、本発明の主旨はこれに限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 リチウムイオン二次電池
2 正極
3 負極
4 セパレータ
5 正極層
6 正極集電体
7 負極層
8 負極集電体
S1 混合工程
S2 加熱工程
図1
図2
図3