(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の含フッ素重合体を含むフィルム状の基体と、前記基体の片面または両面に直接接して存在する、前記第1の含フッ素重合体とは異なる第2の含フッ素重合体を含むコーティング層とを有する積層体であって、
前記積層体が、前記コーティング層表面がインクジェット印刷で印刷される用途に用いられる積層体であり、
前記基体の可視光線透過率は0%または0%超であり、0%超の場合は前記積層体の下式(1)で表される可視光線透過率差が40%以下であることを特徴とする積層体。
可視光線透過率差={(前記基体の可視光線透過率−前記積層体の可視光線透過率)/前記基体の可視光線透過率}×100(%) ・・・(1)
前記第1の含フッ素重合体が、ビニルフルオリド重合体、ビニリデンフルオリド重合体、ビニリデンフルオリド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオリド共重合体、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ビニリデンフルオリド−プロピレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)−テトラフルオロエチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体およびプロピレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層体。
前記第2の含フッ素重合体が、水酸基、カルボキシ基、アミド基およびグリシジル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の極性基を有する含フッ素重合体である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層体。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書における以下の用語の意味は、以下の通りである。
重合体における「単位」とは、重合体中に存在して重合体を構成する、単量体1分子に由来する部分を意味する。また、ある単位の構造を重合体形成後に化学的に変換したものも単位という。
なお、場合によっては、個々の単量体に由来する単位をその単量体名に「単位」を付した名称で呼ぶ。
「可視光線透過率」は、分光光度計を用い、JIS R3106:1998(ISO 9050:1990)「板ガラス類の透過率・反射率・放射率・日射熱取得率の試験方法」に準拠して測定された値である。
「UV透過率」は、分光光度計を用い、JIS A5759:2008「建築窓ガラス用フィルム板」に準拠して測定された値である。
本明細書においては、フィルムおよびシートを、その厚さにかかわらず「フィルム」と称する。アクリレートおよびメタクリレートを「(メタ)アクリレート」と総称し、アクリルアミドおよびメタクリルアミドを「(メタ)アクリルアミド」と総称する。
【0015】
〔積層体〕
本発明の積層体は、基体と、該基体の片面または両面に直接接して存在するコーティング層(以下、「層(A)」とも記す。)とを有する積層体である。基体は、フィルム状であり、第1の含フッ素重合体を含む。前記層(A)は、第1の含フッ素重合体とは異なる第2の含フッ素重合体を含む。第1の含フッ素重合体と第2の含フッ素重合体とが異なることで、基体と印刷層の密着性が持続しやすくなる。
【0016】
図1は、本発明の積層体の一例を示す模式断面図である。この例の積層体10は、基体1と、基体1の片面に直接接した層(A)3とを有する。
図2は、本発明の積層体の他の例を示す模式断面図である。この例の積層体20は、基体1と、基体1の両面それぞれに直接接した層(A)3とを有する。
【0017】
ここでは基体表面の一部(
図1では下表面の一部、
図2では上下表面のそれぞれ一部)に層(A)が形成されている例を示したが、基体の片面の全部や両表面のそれぞれ全部に層(A)が形成されていてもよい。
基体の一方の面における基体の面積に対する層(A)の面積の比(以下、「面積率」とも記す。)、つまり基体の面積のうち層(A)で被覆されている面積の割合は、0.1%以上が好ましい。面積率の上限は特に限定されず、100%であってもよい。
また、層(A)は、通常的には、基体の一方の面上においてほぼ全面に、たとえば90%〜100%の面積率で形成されるが、ドットパターンやストライプパターン等で部分的に形成されていても構わない。
【0018】
(可視光線透過率差)
本発明において、基体の可視光線透過率は0%または0%超であり、0%超の場合は本発明の積層体は、下式(1)で表される可視光線透過率差が40%以下である。
可視光線透過率差={(前記基体の可視光線透過率−前記積層体の可視光線透過率)/前記基体の可視光線透過率}×100(%) ・・・(1)
基体および積層体それぞれの好ましい可視光線透過率は後述のとおりである。
なお、積層体の可視光線透過率は、基体に層(A)が存在する箇所の可視光線透過率を意味するものとする。
【0019】
可視光線透過率差は、層(A)の可視光線透過率の指標である。可視光線透過率差が小さいほど、層(A)の可視光線透過率が高い。
層(A)は、プライマー層として機能する層であり、層(A)の可視光線透過率が高いほど、プライマー層として有用である。すなわち、本発明の積層体は、層(A)の上に印刷層が形成されて印刷物とされる。また、層(A)は、通常、基体上の印刷層を形成しない部分にも形成される。積層体の視認側とは反対側に印刷層が形成される場合、つまり積層体を通して印刷層を視認させる場合、層(A)の可視光線透過率が高いほど、印刷層の色調を損ないにくい。一方、積層体の視認側に印刷層が形成される場合、つまり基体の視認側に層(A)が配置されている場合、層(A)の可視光線透過率が高いほど、基体の色調を損ないにくい。
可視光線透過率差は、10%以下が好ましく、5%以下が特に好ましい。
可視光線透過率差の下限は特に限定されず、0%であってもよい。
【0020】
(積層体の可視光線透過率)
積層体を通して印刷層を視認させる場合には、本発明の積層体の可視光線透過率は、60%以上が好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上が特に好ましい。
積層体を通して印刷層を視認させる必要がない場合には、本発明の積層体の可視光線透過率は、特に制限はない。
積層体を通して印刷層を視認させる必要がない場合としては、たとえば、膜構造建築物において、印刷層が屋内側になるように印刷物を配置し、屋内側から印刷層を視認させるようにする場合が挙げられる。たとえば、膜構造建築物の外側から印刷物を見た場合には、白色やシルバー色であるが、膜構造建築物の内部から印刷物を見た場合には、印刷された模様(幾何学模様等)が視認されるようにしてもよい。また、白色等のカラーフィルムを基体とした場合も、内側から印刷された模様(幾何学模様等)が視認できる。
【0021】
(積層体のUV透過率)
本発明の積層体のUV透過率は、特に限定されないが、積層体の太陽光が入射する側とは反対側に印刷層が配置される場合には、80%以下が好ましく、40%以下が特に好ましい。積層体のUV透過率が前記上限値以下であると、積層体によってUVが遮断されるため、UVによって印刷層中の樹脂成分が光分解したり、顔料が光分解したり、染料が昇華したりすることを抑制できる。そのため、印刷層の密着性の持続性がより優れ、さらには印刷層の経時的な色変化を抑制できる。
積層体のUV透過率は、基体にUV遮断剤を含有させたり、層(A)にUV遮断剤を含有させたりして調整できる。
【0022】
(基体)
基体の可視光線透過率は、0%以上である。積層体を通して印刷層を視認するようにする場合には、40%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましく、85%以上が特に好ましい。積層体を通して印刷層を視認する必要がない場合には、基体の可視光線透過率は、特に制限はない。
【0023】
基体のUV透過率は、特に限定されないが、積層体の太陽光が入射する側とは反対側に印刷層が設けられる場合には、80%以下が好ましく、40%以下が特に好ましい。基体のUV透過率が前記上限値以下であると、印刷層の密着性の持続性や、印刷層の経時的な色変化を抑制する効果がより優れる。
【0024】
基体の厚さは、25〜1,000μmが好ましく、100〜500μmが特に好ましい。基体の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、基体の機械的強度が優れる。基体の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、光透過性に優れ、フィルムの取り扱いが容易である。また、積層体や印刷物の加工性や展張性に優れる。
【0025】
基体は、層(A)との密着性がより優れる点から、層(A)が積層される面に、表面張力を上昇させるための表面処理が施されていることが好ましい。表面処理を施すことによって、極性基(カルボキシル基、水酸基、カルボニル等)が基体の表面に形成され、基体と層(A)との密着性が向上する。特に、層(A)中の第2の含フッ素重合体が極性基を有する場合、基体の表面の極性基と層(A)中の極性基とが化学的結合を形成して、密着性がより向上する。
【0026】
表面処理としては、コロナ放電処理、プラズマ放電処理等の電気的表面処理、金属ナトリウム処理、機械的粗面化処理、エキシマレーザ処理等が挙げられ、処理速度が速く、かつ処理後の洗浄が不要な点から、電気的表面処理、特にコロナ放電処理が好ましい。
【0027】
基体の表面張力は、0.035N/m以上が好ましく、0.04N/m以上が特に好ましい。基体の表面張力が前記範囲の下限値以上であれば、基体と層(A)との密着性がさらに優れる。
【0028】
基体は第1の含フッ素重合体を含む。これにより、基体の耐候性が優れる。また、積層体に印刷層を形成して印刷物としたときに、基体と層(A)との密着性の持続力に優れる。また、層(A)と印刷層との密着性の持続性が優れる。これは光や水によって生ずる基体の分解物が、層(A)を化学的に劣化させることがないためである。
基体中の第1の含フッ素重合体の含有量は、基体の総質量のうち、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。第1の含フッ素重合体の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、基体の耐候性、基体と層(A)の密着性の持続性、および層(A)と印刷層の密着性の持続性がさらに優れる。
基体における第1の含フッ素重合体は、含フッ素重合体の1種のみから構成されていてもよく、含フッ素重合体の2種以上から構成されていてもよい。
【0029】
基体は、単層でもよく多層でもよい。
多層である場合、含フッ素重合体を含む層が複数積層されたものであってもよく、含フッ素重合体を含む層と含フッ素重合体を含まない層とが積層されたものであってもよい。ただし、層(A)と直接接する層は含フッ素重合体を含む。たとえば、層(A)が基体の片面に積層する場合、基体は、含フッ素重合体を含む層と、この層の層(A)が積層する側とは反対側に積層された含フッ素重合体を含まない層とを有するものであってよい。含フッ素重合体を含まない層としては、たとえばアクリル樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂からなる層が挙げられる。
【0030】
<第1の含フッ素重合体>
第1の含フッ素重合体は、フィルムに成形できるものであればよく、特に限定はされない。
第1の含フッ素重合体のフッ素原子含有率は、45質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、55質量%以上が特に好ましい。フッ素原子含有率が前記範囲の下限値以上であれば、基体の耐候性、耐汚染性、耐薬品性、非粘着性がさらに優れ、特に非粘着性および耐汚染性が優れる。
【0031】
第1の含フッ素重合体としては、10%伸びに対する応力が10MPa以上である含フッ素重合体が好ましい。10%伸びに対する応力の値は、JIS K7127:1999(プラスチック−引張特性の試験方法−第3部:フィルム及びシートの試験条件)に定める方法により求められる。試験片としてダンベル5を用い、200mm/分の引張速度で伸ばした際の張力を、元々のフィルムの断面積で除して計算する。10%伸びに対する応力は、フィルムの厚さには依存せず、含フッ素重合体の組成に大きく依存する。10%伸びに対する応力が10MPa以上であれば、耐積雪性、耐風圧性にも優れる。
【0032】
第1の含フッ素重合体としては、ビニルフルオリド重合体(以下、「PVF」とも記す。)、ビニリデンフルオリド重合体(以下、「PVDF」とも記す。)、ビニリデンフルオリド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオリド共重合体(以下、「THV」とも記す。)、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ビニリデンフルオリド−プロピレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(以下、「ETFE」とも記す。)、ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体(以下、「FEP」とも記す。)、エチレン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体(以下、「EFEP」とも記す。)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)−テトラフルオロエチレン共重合体(以下、「PFA」とも記す。)、クロロトリフルオロエチレン重合体(以下、「PCTFE」とも記す。)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(以下、「ECTFE」とも記す)およびプロピレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)は、後述する第2の含フッ素重合体において挙げるものと同様であり、好ましい態様も同様である。
第1の含フッ素重合体としては、耐候性および引き裂き伝播強度が高い点から、ETFEが特に好ましい。
【0033】
<他の成分>
基体は、本発明の効果を損なわない範囲において、他の成分(非フッ素系樹脂、公知の添加剤等)を含んでいてもよい。
非フッ素系樹脂としては、たとえば、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
添加剤としては、たとえば、酸化チタン(白)、アルミコバルト酸化物(青)、酸化鉄(赤)等に代表される有色無機顔料が挙げられる。基体は、その色が膜構造施設等の建築物のイメージを表すことが多いことから、有色無機顔料でカラーリングされたものが使用されることがある。また、有色無機顔料は、吸収や散乱により、UV波長域の透過率を低減させているものが多い。基体の太陽光が入射する側とは反対側に印刷層が配置される場合、基体がそのような有色無機顔料を含むことで、印刷層中の樹脂成分や顔料の光劣化を抑制できる。
基体中の有色無機顔料の含有量は、基体の所望の可視光線透過率に応じて適宜選定される。たとえば、基体の総質量のうち0.01〜0.5質量%が好ましい。
【0034】
他の添加剤として、UV遮断剤が挙げられる。基体がUV遮断剤をさらに含むことで、高い可視光線透過率を維持したまま、UV透過率を低減できる。基体のUV透過率が低ければ、基体の太陽光が入射する側とは反対側に印刷層が配置される場合に、印刷層中の樹脂成分や顔料の光劣化を抑制できる。
UV遮断剤としては、遮断したいUVの波長等を考慮し、公知のUV遮断剤のなかから適宜選定できる。たとえば、金属酸化物粒子、窒化チタン、6ホウ化化合物等の無機系UV遮断剤、ベンゾフェノン系、トリアジン系等の有機系UV遮断剤等が挙げられる。金属酸化物粒子としては、たとえば酸化セリウム粒子、酸化亜鉛粒子、酸化チタン粒子、酸化鉄粒子等が挙げられる。金属酸化物粒子は、被覆層を有していてもよい。被覆層としては、たとえば、酸化ケイ素層が挙げられる。このような被覆層を有する金属酸化物粒子としては、たとえば特許第5454472号等に記載のものが挙げられる。基体に含まれるUV遮断剤は1種でもよく2種以上でもよい。
【0035】
基体がUV遮断剤を含む場合、基体中のUV遮断剤の含有量は、基体のUV透過率が前記の好ましい上限値以下となる量が好ましい。この量は、UV遮断剤の種類に応じて適宜選定される。たとえば、基体の総質量のうち0.1〜3質量%が好ましい。
【0036】
(層(A))
層(A)を有することで、本発明の積層体に印刷層を形成して印刷物としたときに、基体と印刷層との密着性、この密着性の持続性が優れる。
層(A)は、光透過性を有する。層(A)の可視光線透過率は、前記可視光線透過率差が前記上限値以下となる値である。
【0037】
層(A)の単位面積当たりの質量(ただし、層(A)が基体の両面に設けられている場合は片面当たりの値である。)は、0.5〜20g/m
2が好ましく、2〜10g/m
2が特に好ましい。層(A)の単位面積当たりの質量が前記範囲の下限値以上であれば、層(A)と印刷層との密着性がより優れる。層(A)の単位面積当たりの質量が前記範囲の上限値以下であれば、層(A)が基体の変形(伸縮や曲げ)に層(A)が追随しやすく、基体から剥離しにくい。
【0038】
層(A)の表面(印刷層が形成される面)には、表面張力を上昇させるための表面処理が施されていてもよい。層(A)は、印刷層との密着性に優れるが、表面処理を施すことによって、この密着性をより優れたものにできる。
表面処理としては、基体における表面処理と同様の処理が挙げられる。
【0039】
層(A)の表面張力は、0.04N/m以上が好ましく、0.05N/m以上が特に好ましい。層(A)の表面張力が前記範囲の下限値以上であれば、層(A)と印刷層との密着性がさらに優れる。
【0040】
<コーティング層>
層(A)は、第1の含フッ素重合体とは異なる第2の含フッ素重合体を含む。コーティング層は、本発明の効果を損なわない範囲において、含フッ素重合体以外の成分(非フッ素系樹脂、公知の添加剤等)を含んでいてもよい。
【0041】
<第2の含フッ素重合体>
第2の含フッ素重合体のガラス転移温度は、20〜70℃が好ましく、20〜45℃が特に好ましい。本発明の積層体を印刷物としたときに、層(A)が最外層となる場合がある。第2の含フッ素重合体のガラス転移温度が前記範囲の下限値以上であれば、層(A)が室温において粘着性を有さず、好ましい。第2の含フッ素重合体のガラス転移温度が前記範囲の上限値以下であれば、基体と印刷層の密着性がより持続しやすくなる。
含フッ素重合体のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した中間点ガラス転移温度を意味する。
【0042】
第2の含フッ素重合体は、典型的には、含フッ素単量体単位を含む。
含フッ素単量体としては、フルオロオレフィン、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ペルフルオロ不飽和環状エーテル等が挙げられる。
【0043】
フルオロオレフィンとしては、ビニルフルオリド、ビニリデンフルオリド、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロブテン−1、ペルフルオロヘキセン−1、ペルフルオロノネン−1、(ペルフルオロアルキル)エチレン等が挙げられる。
(ペルフルオロアルキル)エチレンとは、CH
2=CH−R
f(ただし、R
fはペルフルオロアルキル基を表す。)で表されるフルオロオレフィンである。(ペルフルオロアルキル)エチレンとしては、(ペルフルオロメチル)エチレン、(ペルフルオロブチル)エチレン等が挙げられる。
フルオロオレフィンの炭素数は10以下が好ましい。(ペルフルオロアルキル)エチレン以外のフルオロオレフィンの炭素数は、2または3が特に好ましい。(ペルフルオロアルキル)エチレンの炭素数は、3〜8が特に好ましい。
【0044】
ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)、ペルフルオロ(ヘプチルビニルエーテル)等が挙げられる。ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)の炭素数は10以下が好ましく、6以下が特に好ましい。炭素数の下限は3である。
ペルフルオロ不飽和環状エーテルとしては、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソール等が挙げられる。
【0045】
第2の含フッ素重合体に含まれる含フッ素単量体単位は、1種でもよく2種以上でもよい。
第2の含フッ素重合体は、耐候性に優れる点から、フルオロオレフィン単位を含むことが好ましい。第2の含フッ素重合体は、さらに、フルオロオレフィン単位以外の含フッ素単量体単位を含んでもよく、フッ素原子を有しない単量体単位を含んでもよい。
【0046】
第2の含フッ素重合体は、インクジェット印刷で用いられるインキ(たとえば後述する硬化性組成物)から形成される印刷層および基体の両方との密着性に優れる点から、極性基を有することが好ましい。
極性基としては、水酸基、カルボキシ基、アミド基およびグリシジル基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、水酸基が特に好ましい。
【0047】
極性基は、第2の含フッ素重合体の主鎖末端に含まれていてもよく、側基に含まれていてもよく、それらの両方に含まれていてもよい。
第2の含フッ素重合体は、極性基を有する単量体単位を含むことが好ましい。第2の含フッ素重合体に含まれる極性基を有する単量体単位は、1種でもよく2種以上でもよい。
極性基を有する単量体は、典型的には、フッ素原子を有しない単量体である。
極性基を有する単量体としては、水酸基を有する単量体、カルボキシ基を有する単量体、アミド基を有する単量体、グリシジル基を有する単量体等が挙げられる。
【0048】
水酸基を有する単量体としては、アリルアルコール、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルアリルエーテル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキルカルボン酸ビニルエステル、ヒドロキシアルキルアリルエステル等が挙げられる。
【0049】
ヒドロキシアルキルビニルエーテルとしては、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、4−ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。
ヒドロキシアルキルアリルエーテルとしては、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、3−ヒドロキシプロピルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル、4−ヒドロキシシクロヘキシルアリルエーテル等が挙げられる。
【0050】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ヒドロキシアルキルカルボン酸ビニルエステルとしては、ヒドロキシ酢酸ビニル、ヒドロキシイソ酪酸ビニル、ヒドロキシプロピオン酸ビニル、ヒドロキシ酪酸ビニル、ヒドロキシ吉草酸ビニル、ヒドロキシシクロヘキシルカルボン酸ビニル等が挙げられる。
ヒドロキシアルキルアリルエステルとしては、ヒドロキシエチルアリルエステル、ヒドロキシプロピルアリルエステル、ヒドロキシブチルアリルエステル、ヒドロキシイソブチルアリルエステル、ヒドロキシシクロヘキシルアリルエステル等が挙げられる。
【0051】
カルボキシ基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシアルキルアリルエステル等が挙げられる。
アミド基を有する単量体としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
グリシジル基を有する単量体としては、グリシジルアリルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0052】
極性基を有する単量体単位は、極性基を有する単量体単位に特定の化合物を反応させて他の極性基を有する単位に変換したものであってもよい。たとえば、水酸基を有する単量体単位は、無水コハク酸等の二価カルボン酸無水物と反応させることによって、カルボキシ基を有する単位に変換できる。
【0053】
第2の含フッ素重合体は、含フッ素単量体単位および極性基を有する単量体単位以外の単量体単位を有してもよい。第2の含フッ素重合体に含まれる他の単量体単位は、1種でもよく2種以上でもよい。
他の単量体は、フッ素原子も極性基も有しない単量体である。
他の単量体としては、ビニルエーテル、アリルエーテル、カルボン酸ビニルエステル、カルボン酸アリルエステル、オレフィン、不飽和カルボン酸エステル等が挙げられる。
【0054】
ビニルエーテルとしては、シクロアルキルビニルエーテル(シクロヘキシルビニルエーテル等)、アルキルビニルエーテル(ノニルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル等)が挙げられる。
アリルエーテルとしては、アルキルアリルエーテル(エチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等)が挙げられる。
シクロアルキルビニルエーテルにおけるシクロアルキル基の炭素数は3〜20が好ましい。アルキルビニルエーテル、アルキルアリルエーテルにおけるアルキル基の炭素数は1〜20が好ましい。
【0055】
カルボン酸ビニルエステルとしては、たとえば炭素数2〜15のカルボン酸(酢酸、酪酸、ピバリン酸、安息香酸、プロピオン酸等)のビニルエステルが挙げられる。分枝鎖状のアルキル基を有するカルボン酸のビニルエステルとして、シェル化学社製のベオバ9(登録商標)、ベオバ10(登録商標)等を用いてもよい。
カルボン酸アリルエステルとしては、たとえば炭素数2〜15のカルボン酸(酢酸、酪酸、ピバリン酸、安息香酸、プロピオン酸等)のアリルエステルが挙げられる。
【0056】
オレフィンとしては、炭素数2〜4のオレフィンが好ましく、エチレン、プロピレン、イソブチレン等が挙げられる。
不飽和カルボン酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、イソヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0057】
第2の含フッ素重合体が極性基を有しない場合、第2の含フッ素重合体の具体例としては、PVF、PVDF、THV、ETFE、FEP、EFEP、PFA、PCTFE、ECTFE、テトラフルオロエチレン−2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソール共重合体、フルオロオレフィン単位と極性基を有する単量体単位とを含む共重合体等が挙げられる。
【0058】
第2の含フッ素重合体としては、長期暴露においても光学特性が変わりにくい点、インクジェット印刷で用いられるインキから形成される印刷層および基体の両方との密着性に優れる点から、以下の共重合体(A1)および共重合体(A2)からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
共重合体(A1):テトラフルオロエチレン単位とヘキサフルオロプロピレン単位とビニリデンフルオリド単位とを含む共重合体。
共重合体(A2):フルオロオレフィン単位と、水酸基を有する単量体単位とを含む共重合体(ただし、共重合体(A1)を除く。)。
【0059】
共重合体(A1)はTHVである。共重合体(A1)としては、極性基を有しない通常のTHVであってもよく、極性基を有するTHVであってもよい。印刷層の密着性に優れる点では、極性基を有するTHVが好ましく、極性基を有する単量体単位を含むTHVが特に好ましい。
極性基を有する単量体単位を含むTHVとしては、テトラフルオロエチレン単位とヘキサフルオロプロピレン単位とビニリデンフルオリド単位と水酸基を有する単量体単位とを含む共重合体、テトラフルオロエチレン単位とヘキサフルオロプロピレン単位とビニリデンフルオリド単位とカルボキシ基を有する単量体単位とを含む共重合体等が挙げられる。
共重合体(A1)は、上述の他の単量体単位をさらに有していてもよい。
【0060】
共重合体(A1)中のテトラフルオロエチレン単位とヘキサフルオロプロピレン単位とビニリデンフルオリド単位との合計のうち、テトラフルオロエチレン単位の含有量が30〜75モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位の含有量が15〜55モル%、ビニリデンフルオリド単位の含有量が5〜50モル%であることが好ましい。
【0061】
共重合体(A1)中の極性基を有する単量体単位の含有量は、THVの全単位のうち、0.5〜25モル%が好ましく、2〜10モル%が特に好ましい。極性基を有する単量体単位の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、層(A)と基体または印刷層との密着性がさらに優れる。極性基を有する単量体単位の含有量が前記範囲の上限値以下であれば、層(A)の柔軟性が優れる。
【0062】
共重合体(A1)の市販品としては、たとえば、THV(商品名)シリーズ(THV200、THV220、THV221、THV415、THV500等)(3M社製)等が挙げられる。
【0063】
共重合体(A2)は、他の特性(溶媒可溶性、光透過性、光沢、硬度、柔軟性、顔料分散性等)をさらに付与できる点から、上述の他の単量体単位をさらに有することが好ましい。
共重合体(A2)を構成する単量体の組合せとしては、層(A)の光学特性が長期にわたって低下しにくい点、層(A)と基体または印刷層との密着性に優れる点、および層(A)の柔軟性が優れる点から、下記の組合せ(1)が好ましく、組合せ(2)または(3)が特に好ましい。
【0064】
組合せ(1)
フルオロオレフィン:テトラフルオロエチレンまたはクロロトリフルオロエチレン、
水酸基を有する単量体:ヒドロキシアルキルビニルエーテル、
他の単量体:シクロアルキルビニルエーテル、アルキルビニルエーテルおよびカルボン酸ビニルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種。
【0065】
組合せ(2)
フルオロオレフィン:テトラフルオロエチレン、
水酸基を有する単量体:ヒドロキシアルキルビニルエーテル、
他の単量体:tert−ブチルビニルエーテルおよびカルボン酸ビニルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種。
【0066】
組合せ(3)
フルオロオレフィン:クロロトリフルオロエチレン、
水酸基を有する単量体:ヒドロキシアルキルビニルエーテル、
他の単量体:tert−ブチルビニルエーテルおよびカルボン酸ビニルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種。
【0067】
共重合体(A2)中のフルオロオレフィン単位の含有量は、共重合体(A2)の全単位のうち、30〜70モル%が好ましく、40〜60モル%が特に好ましい。フルオロオレフィン単位の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、層(A)の光学特性が長期にわたってさらに低下しにくい。フルオロオレフィン単位の含有量が前記範囲の上限値以下であれば、層(A)と基体または印刷層との密着性がさらに優れる。
【0068】
共重合体(A2)中の水酸基を有する単量体単位の含有量は、共重合体(A2)の全単位のうち、0.5〜20モル%が好ましく、1〜15モル%が特に好ましい。水酸基を有する単量体単位の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、層(A)と基体または印刷層との密着性がさらに優れる。水酸基を有する単量体単位の含有量が前記範囲の上限値以下であれば、層(A)の柔軟性が優れる。
【0069】
共重合体(A2)中の他の単量体単位の含有量は、共重合体(A2)の全単位のうち、20〜60モル%が好ましく、30〜50モル%が特に好ましい。他の単量体単位の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、層(A)の柔軟性が優れる。他の単量体単位の含有量が前記範囲の上限値以下であれば、層(A)と基体または印刷層との密着性がさらに優れる。
【0070】
共重合体(A2)の市販品としては、たとえば、ルミフロン(登録商標)シリーズ(LF200、LF100、LF710,LF600等)(旭硝子社製)、ゼッフル(登録商標)GKシリーズ(GK−500、GK−510、GK−550、GK−570、GK−580等)(ダイキン工業社製)、フルオネート(登録商標)シリーズ(K−700、K−702、K−703、K−704、K−705、K−707等)(DIC社製)、ETERFLONシリーズ(4101、41011、4102、41021、4261A、4262A、42631、4102A、41041、41111、4261A等)(Eternal Chemical社製)等が挙げられる。
【0071】
<他の成分>
第2の含フッ素重合体が極性基を有する含フッ素重合体である場合、前記のように、印刷層および基体の両方との密着性に優れる点から、層(A)中の含フッ素重合体は極性基を有している状態であることが好ましい。このため、層(A)形成時に極性基が消失しないように、コーティング液には極性基と反応し得る成分を含まないことが好ましい。また、層(A)形成後においても、層(A)中に極性基と反応し得る成分を含まないことが好ましい。
極性基と反応し得る成分としては、極性基と反応し得る反応性基を有する化合物が挙げられる。極性基を有する含フッ素重合体は、硬化性塗料の成分として硬化剤と併用されることが知られている。たとえば、水酸基含有含フッ素重合体は、イソシアナート基やブロックイソシアナート基を有する、水酸基と反応し得る化合物(硬化剤等)と併用して硬化塗膜を形成するための塗料成分として知られている。このように、硬化剤などの極性基を消失させる成分を用いて形成された層(A)や極性基を消失させる成分を含む層(A)は、印刷層や基体に対する極性基の存在に基づく密着性が低下するおそれが大きい。
一方、層(A)は、上記極性基と反応し得る成分以外の成分を含有していてもよい。他の成分としては、非フッ素系樹脂、公知の添加剤等が挙げられる。
非フッ素系樹脂としては、たとえば、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
添加剤としては、たとえば、着色剤、酸化防止剤、タレ防止剤、UV遮断剤、光安定剤、表面調整剤、スリップ剤等が挙げられる。
【0072】
着色剤としては、顔料、染料等が挙げられる。耐候性に優れる点から、顔料が好ましい。
顔料としては、通常グラビアインキ等で使用される顔料を使用でき、たとえば、有機顔料、無機顔料等の着色顔料、アルミペースト、マイカ、パール等の光輝顔料等が挙げられる。
【0073】
UV遮断剤としては、無機UV遮断剤、有機UV遮断剤等が挙げられる。
無機UV遮断剤としては、たとえば酸化セリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、チタン酸バリウム等の無機酸化物が挙げられる。有機UV遮断剤としては、トリアジン系UV遮断剤、ベンゾフェノン系UV遮断剤等が挙げられる。これらの中でも、UVに対する耐性が良い点で、トリアジン系UV遮断剤が好ましい。
トリアジン系UV遮断剤としては、UV遮断剤として公知のトリアジン誘導体を用いることができ、市販品から入手可能である。
【0074】
好ましいトリアジン系UV遮断剤として、以下のヒドロキシフェニルトリアジン系UV遮断剤が挙げられる。
2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン(市販品では、チバ・ジャパン社(2010年3月1日よりBASFジャパン社、以下同様。)製の商品名:TINUVIN 479)。
2,4−ビス[2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル]−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン(市販品では、チバ・ジャパン社製の商品名:TINUVIN 460)。
2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−(2’−エチル)ヘキシルオキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(市販品では、チバ・ジャパン社製の商品名:TINUVIN 405)。
チバ・ジャパン社製の商品名:TINUVIN 477。この製品は、チバ・ジャパン社の「塗料用添加剤カタログ」(Pub.No.CJ−005、2008年3月発行)の第10頁に記載されているもので、構造非公開のヒドロキシフェニルトリアジン系UV遮断剤の約80%と、構造非公開の1−メチキシ−2プロピルアセテートの約20%との混合物であることが知られている。
チバ・ジャパン社製の商品名:TINUVIN 400。この製品は、前記「塗料用添加剤カタログ」の第7頁に記載されているもので、2−(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヒドロキシフェニルと、[(炭素数10〜16、主として炭素数12〜13のアルキルオキシ)メチル]オキシランとの反応生成物であることが知られている。
【0075】
ヒドロキシフェニルトリアジン系UV遮断剤以外の、好ましいトリアジン系UV遮断剤として、以下の化合物が挙げられる。
2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチルオキシ)フェノール(市販品では、サンケミカル社製の商品名:CYASORB UV−1164)。
2−[2,6−ジ(2,4−キシリル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−オフチルオキシフェノール(市販品では、ケミプロ化成社製の商品名:KEMISORB
102)。
【0076】
<コーティング層における各成分の含有量>
層(A)中の含フッ素重合体の含有量は、層(A)の総質量に対して50%質量%以上が好ましく、60〜100質量%が特に好ましい。第2の含フッ素重合体の含有量が前記下限値以上であれば、層(A)と基体または印刷層との密着性の持続性がさらに優れる。
また、層(A)が他の成分を含む場合、その含有量は、密着性の持続性が優れる点から、層(A)の総質量に対して50質量%未満が好ましい。
【0077】
層(A)が他の成分としてUV遮断剤を含む場合、その含有量は、積層体のUV透過率が前記の好ましい上限値以下となる量が好ましい。また、UV遮断剤の含有量が多すぎると、基体との密着力に悪影響を与えるおそれがあるため、かかる不都合が生じない範囲でUV遮断剤の含有量を設定することが好ましい。
これらの観点から、UV遮断剤の含有量は、層(A)の厚さによっても異なるが、第2の含フッ素重合体の100質量部に対して、10〜50質量部が好ましい。
【0078】
層(A)が、他の成分として、着色剤およびUV遮断剤以外の成分を含む場合、該成分の含有量は、第2の含フッ素重合体の100質量部に対して0.01〜40質量部が好ましい。
【0079】
(積層体の製造方法)
本発明の積層体は、たとえば、基体の片面または両面に層(A)を形成することによって製造できる。
【0080】
基体としては、市販のフィルムを用いてもよく、公知の製造方法により製造したフィルムを用いてもよい。フィルムの製造方法としては、たとえば、押出成形法、カレンダ成形法、溶液流延法等が挙げられる。
基体の層(A)を形成する面には、上述した表面処理を施すことが好ましい。
【0081】
層(A)の形成方法としては、たとえば、基体上にコーティング液を塗布し、乾燥させることによって層(A)を形成する方法が挙げられる。ここで、コーティング液は第2の含フッ素重合体等の前記層(A)形成成分と溶媒とを含む。
溶媒は、第2の含フッ素重合体を溶解または分散し得るものであればよく、たとえばトルエン、キシレン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等が挙げられる。
【0082】
コーティング液の塗布方法としては、特に限定されず、各種の湿式塗布法を用いることができる。湿式塗布法としては、たとえば、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、オフセット印刷等の印刷法、スプレーコート法、ダイコート法、スピンコート等のコート法等が挙げられる。
塗布後の乾燥条件としては、溶媒を揮発させるとともに、塗膜と基体との密着性を向上させるために、40〜150℃で2〜20秒間程度の条件が好ましい。
【0083】
本発明の積層体の好ましい一態様として、第1の含フッ素重合体がETFEで、第2の含フッ素重合体が前述の共重合体(A1)および共重合体(A2)からなる群から選ばれる少なくとも1種である態様が挙げられる。
【0084】
本発明の積層体にあっては、基体の片面または両面に、層(A)が直接接しているため、インクジェット印刷により層(A)上に印刷層を形成したときに、印刷層の密着性に優れた印刷物が得られる。また、層(A)は、前記可視光線透過率差が40%以下となる可視光線透過率を有しているため、印刷物としたときに基体や印刷層の本来の色調等を損ないにくい。
したがって、本発明の積層体は、層(A)表面がインクジェット印刷で印刷される用途に用いられる積層体として有用である。
【0085】
本発明の積層体は、屋外で使用される用途、特に膜構造建築物の膜材として使用される用途に用いられる積層体として有用である。
屋外で使用される膜材、たとえば膜構造建築物の膜材に文字(たとえば膜構造建築物の所有者やそのロゴ)、抽象的なデザイン画、写真等の模様を印刷することで、メッセージ性や意匠性を付与できる。グラビア印刷やスクリーン印刷では、費用の面から、このような印刷に対応できないが、インクジェット印刷であれば対応できる。
インクジェット印刷により印刷層を形成した膜材を屋外で使用するにあたり、最大の問題は、印刷層の密着性である。この密着性は、セロハンテープを用いた剥離試験により判断されるが、耐候性試験後にも充分な密着性が確保されなければならない。また、膜構造建築物等において膜材は風、雨、雪、膜構造建築物内部の圧力変化、空気膜の内圧等により伸縮や繰り返し折り曲げを強いられるため、印刷層には、このような膜材の変形に追従する密着性が必要である。
本発明の積層体の層(A)に形成される印刷層は密着性に優れる。また、密着性の持続性にも優れ、耐候性試験後においても充分に優れた密着性が維持される。また、層(A)は第2の含フッ素重合体を含むため、基体の変形に対して優れた追従性を有する。したがって、風、膜構造建築物内部の圧力変化等によって基体に変形が繰り返し生じても、基体から層(A)が剥離し難い。硬化型の組成物からなる層は、その収縮応力により、基体の変形に追従し難く、用途によっては界面剥離が生じ易い。
特に、基体を構成するフィルムがUV遮断剤を含む場合や層(A)がUV遮断剤を含む場合には、積層体がUVカット機能を有する。この場合、屋外において、印刷層よりも太陽光の入射側に本発明の積層体が配置されていれば、印刷層へのUVの入射、それによる印刷層の経時的な劣化(色変化等)を抑制できる。
【0086】
膜構造建築物としては、屋外展示場、スポーツ施設(たとえばプール、体育館、テニスコート、サッカー場、陸上競技場等)、農業ハウス等が挙げられる。膜構造建築物の膜材の具体例としては、屋外展示場のテント膜、アリーナ天井部の採光機能を有する構造部材等が挙げられる。膜構造建築物の膜材以外に、屋外で使用される膜材としては、たとえば農業資材等が挙げられる。ただし、本発明の積層体の用途はこれらに限定されるものではない。
【0087】
〔印刷物〕
本発明の印刷物は、上述の本発明の積層体と、この積層体の層(A)表面に直接形成された印刷層とを有する。
本発明の積層体が、基体の片面に層(A)を有するものである場合、印刷層は、積層体の片面(層(A)の表面)のみに形成される。本発明の積層体が、基体の両面に層(A)を有するものである場合、印刷層は、積層体の片面のみに形成されてもよく、両面に形成されてもよい。
【0088】
印刷層が積層体の片面のみに形成される場合、本発明の印刷物は、積層体の視認側とは反対側の面に印刷層が形成された、いわゆるバックプリント方式の印刷物であってもよく、積層体の視認側の面に印刷層が形成された、いわゆるトッププリント方式の印刷物であってもよい。バックプリント方式の場合、印刷層は、積層体を通して視認される。トッププリント方式の場合、印刷層は、積層体を通さずに直接視認される。本発明の有用性の点では、バックプリント方式が好ましい。
【0089】
図3は、本発明の印刷物の一例を示す模式断面図である。この例の印刷物30は、バックプリント方式の印刷物であり、図中の上側が視認側である。印刷物30は、
図1に示した積層体10と、印刷層31とを備える。積層体10の層(A)3は、基体1の視認側とは反対側に存在しており、この層(A)3の上に印刷層31が直接形成されている。また、層(A)3上の一部に印刷層31が形成されている。
【0090】
(印刷層)
印刷層の厚さは、6μm以上であり、10〜50μmが好ましい。厚さが前記下限値以上であれば、視認性に優れる。厚さが前記上限値以下であれば、印刷層の形成に要する時間を短くできる。
厚さ6μm以上の印刷層は、典型的には、インクジェット印刷層(インクジェット印刷方式により形成された印刷層)である。インクジェット印刷方式以外の印刷方式の場合、厚さ6μm以上の印刷層を形成することは難しい。
印刷層は、典型的には、硬化性組成物をインクジェット印刷方式により塗布し硬化させて形成された、硬化性組成物の硬化物からなる層である。硬化性組成物については後で詳しく説明する。
【0091】
印刷層は、所定の模様で形成されている。
模様としては、単一模様以外の模様が好ましい。単一模様以外の模様としては、たとえば、文字(たとえば印刷物が用いられる膜構造建築物の所有者名やそのロゴ)、デザイン画、写真等が挙げられる。
積層体の一方の面における積層体の面積に対する印刷層の面積の比は、目的等に応じて適宜選択すればよく、たとえば、0.1〜100%であってよい。
【0092】
(他の層)
本発明の印刷物は、印刷層の上に、耐水性や耐殺傷性を向上させるための透明コーティング層や、水蒸気の結露による視認性の低下を防ぐための、防曇材や流滴材を含むコーティング層等をさらに有していてもよい。
【0093】
(印刷物の製造方法)
本発明の印刷物の製造方法としては、たとえば、本発明の積層体の層(A)表面に、硬化性組成物をインクジェット印刷方式により塗布し硬化させて印刷層を形成する方法が挙げられる。
硬化性組成物の塗布および硬化は、市販のインクジェットプリンタを用いて実施できる。硬化方法としては、UV等の活性エネルギー線を照射する方法、加熱する方法等が挙げられ、硬化性組成物に応じて適宜選定できる。
【0094】
<硬化性組成物>
硬化性組成物としては、特に限定されず、インクジェット印刷用インキとして公知のものを用いることができる。
硬化性組成物は、UV等の活性エネルギー線硬化可能なものであってもよく、熱硬化可能なものであってもよく、活性エネルギー線硬化および熱硬化の両方が可能なものであってもよい。
インクジェットプリンタとしては、水性インキ用、溶剤インキ用、UV硬化型用のものがあるが、乾燥時間が不要なUV硬化可能な硬化性組成物を印刷するプリンタが好ましい。
【0095】
UV硬化可能な硬化性組成物としては、たとえば、重合性化合物および光重合開始剤、並びに必要に応じてこれら以外の成分を含む組成物が挙げられる。各成分はいずれも種々のものを使用することができる。
重合性化合物としては、あまり高粘度ではノズルからの吐出性に支障がでるおそれがあることから、低粘度のものを用いることが好ましい。
重合性化合物には、その硬化反応機構によりラジカル重合型とカチオン重合型とがある。硬化乾燥速度が速い点では、重合性化合物は、(メタ)アクリレート等のエチレン性二重結合を有する化合物等のラジカル重合型が好ましい。
【0096】
前記エチレン性二重結合を有する化合物としては、具体的には、エチレン性二重結合を1個有する1官能モノマー、エチレン性二重結合を2個以上有する多官能モノマー、(メタ)アクリレートリゴマー等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0097】
硬化性組成物は、通常、着色剤をさらに含む。
着色剤としては、顔料、染料等が挙げられる。これらはそれぞれ、通常インクジェット記録に使用されるものを使用できる。染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料等が挙げられる。顔料としては、硫酸バリウム、硫酸鉛、酸化チタン、黄色鉛、ベンガラ、酸化クロム、カーボンブラック等の無機顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン系顔料、ジスアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、イソインドリン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
着色剤としては、耐候性に優れる点から、顔料が好ましい。
なお、汎用のカラー印刷においては、シアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料および黒色顔料をそれぞれ使用したシアンインキ、マゼンタインキ、イエローインキおよびブラックインキが使用される。
硬化性組成物中の着色剤の含有量は、たとえば硬化性組成物の総質量のうち、0.5〜10質量%であってよい。
【0098】
硬化性組成物は、顔料の分散安定性を高める目的で、分散剤をさらに含んでもよい。
硬化性組成物は、はじきや、へこみなどのインキ塗膜欠陥を抑制させる目的で、表面張力調整剤をさらに含んでもよい。
【0099】
硬化性組成物は、市販のものを用いてもよく、常法により調製したものを用いてもよい。たとえば、顔料および重合性化合物を含み、必要に応じ分散剤等を添加した混合物を、ビーズミル等のシェアのかかりにくい攪拌・分散装置を用いて攪拌し、顔料を分散した後、光重合開始剤を加え、さらに必要に応じ表面張力調整剤等の添加剤を加えて攪拌することで硬化性組成物を調製できる。予め、高濃度の顔料分散液(ミルベース)を作製後、適宜希釈し、添加剤を添加して調製することもできる。
【0100】
本発明の印刷物にあっては、本発明の積層体の層(A)に印刷層が直接形成されているため、前述のとおり、印刷層の密着性が優れる。印刷層の形成直後はもちろん、耐候性試験後においても充分に優れた密着性が維持される。また、層(A)が基体の変形に対して優れた追従性を有しており、基体の変形時に基体から剥離し難いため、層(A)に形成された印刷層も基体から剥離し難い。
したがって、本発明の印刷物は、屋外で使用される用途、特に膜構造建築物用として有用である。これらの用途の具体例としては、前記と同様のものが挙げられる。ただし、本発明の印刷物の用途はこれらに限定されるものではない。
【0101】
屋外で使用される膜材は、1枚のフィルムから構成されるものでもよく、複数のフィルムから構成されるものでもよい。複数のフィルムから構成される膜材の一例として、枠体内に複数のフィルムを重ねて取り付け、各フィルムの間に空気等の気体を充填したものが挙げられる。
膜材が1枚のフィルムから構成される場合、該フィルムとして本発明の印刷物が用いられる。膜材が複数のフィルムから構成される場合、複数のフィルムの少なくとも一部に本発明の印刷物が用いられる。
【0102】
本発明の印刷物が屋外で使用される膜材に用いられる場合、本発明の印刷物は、印刷層が積層体の片面のみに設けられたものであり、印刷物の印刷層側を太陽光が入射する側とは反対側(膜構造建築物であれば屋内側)に向けて配置されることが好ましい。印刷層が太陽光が入射する側とは反対側にあることで、印刷層が雨等の影響を受けにくく、より優れた耐候性が得られる。また、印刷層が層(A)を介して基体上に設けられているため、基体と印刷層との間の密着力を持続できる。
層(A)を有しない場合、つまり基体と印刷層とが直接接する場合、基体と印刷層との界面での密着力は主に酸素や水素の化学結合によるものである。しかし、その結合はUVの照射により低下する。基体の太陽光が入射する側に印刷層がある場合、インクジェット印刷に使用されるインキ(以下、「インクジェットインキ」とも記す。)にUV遮断性能を持たせることで、印刷層の耐候性(密着性の持続性等)を高めることができる。しかし、基体の太陽光が入射する側とは反対側に印刷層がある場合、インクジェットインキ自体が持つUV遮断性能は界面の密着力を保護する力にはならない。これに対し、本発明の印刷物にあっては、基体側から印刷層にUVが入射しても、基体と印刷層との間の密着力が低下しにくい。したがって、基体の太陽光が入射する側とは反対側に印刷層がある場合に、本発明の有用性が高い。
【0103】
印刷層側を太陽光が入射する側とは反対側に向けて配置された印刷物の具体例を
図4に示す。
図4は、本発明の印刷物を用いた膜材の一例である。この例の膜材40は、枠体41と、枠体41内に取り付けられた3枚のフィルム(最外層フィルム42,最内層フィルム43,中間層フィルム44)とを備える。膜材40は、屋外(たとえば膜構造建築物の屋根、外壁等)において、太陽光Lが最外層フィルム42側から入射する(最内層フィルム43側から出射する)ように配置されている。
3枚のフィルムのうち最外層フィルム42は、
図3に示した印刷物30である(ただし、積層体10の基体1と層(A)3は個別には図示していない。)。印刷物30は、印刷層31側を太陽光Lが入射する側とは反対側に向けて(積層体10側を太陽光Lが入射する側に向けて)配置されている。
最外層フィルム42以外のフィルム(最内層フィルム43,中間層フィルム44)は、含フッ素重合体を含むフィルムそのものである。なお、これら他のフィルムとして本発明の印刷物を用いてもよい。他のフィルムが本発明の印刷物である場合は、印刷層は、積層体の片面のみに設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。また、印刷物が、印刷層側を太陽光が入射する側に向けて配置されていてもよい。
【0104】
印刷物の積層体側が太陽光の入射する側である場合、積層体の基体および層(A)のどちらか一方または両方がUVカット機能を持っていることが好ましい。すなわち、基体を構成するフィルムがUV遮断剤を含む、または層(A)がUV遮断剤を含むことが好ましい。
基体と層(A)の少なくとも一方にUVカット機能を持たせることで、印刷層とフィルムとの間の密着力をより良好に確保できる。
また、含フッ素重合体を含むフィルム自体が持つ耐候性と同程度の耐候性(10年以上の耐候性)を有する印刷物を得るためには、印刷層とフィルムとの間の密着力を確保する以外に、印刷層の色変化(退色、変色)を抑制することが重要である。退色は、UVによる顔料の分解あるいは、染料の昇華による色の消失である。また、顔料のUVによる分解は、それら自身がUVにより分解する反応と、樹脂のUVによる分解によって酸濃度が上昇し、この酸によって顔料が化学的に分解する反応の2つが生じていると考えられる。
基体と層(A)のどちらかにUVカット機能を持たせることで、上記の反応を抑制し、印刷層の色変化を抑えることができる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。「%」は、特に規定のない場合、「質量%」を示す。
後述する例1〜16のうち、例1、3〜5、8、12〜13、15〜16は実施例であり、他の例は比較例である。
各例で使用したインクジェット印刷条件、評価方法および材料を以下に示す。
【0106】
〔インクジェット印刷条件〕
本実施例では、3種類のインクジェット印刷装置を使用し、3種類のUV硬化インキ(硬化性組成物)をインクジェット印刷した。以下に、インクジェット印刷装置とUV硬化インキの組み合わせを示す。これら3種類のインクジェット印刷装置および3種類のUV硬化インキは、市販のUVインクジェットプリンタとそのプリンタに標準的に用いられるUV硬化アクリルインキである。3種類のUV硬化インキはそれぞれ、シアン(水色)、マゼンタ(ピンク色)、イエロー(黄色)、ブラック(黒色)の4色を使用した。
【0107】
組み合わせ(a)
インクジェット印刷装置:ミマキエンジニアリング社製、UJF−7151plus。
UV硬化インキ:ミマキエンジニアリング製、LUS−120シリーズ。
【0108】
組み合わせ(b)
インクジェット印刷装置:swissQprint社製、Nyala2 3200。
UV硬化インキ:シアンは品番SQS CYANであり、マゼンタは品番SQS MAGENTAであり、イエローは品番SQS YELLOWであり、黒は品番SQS BLACKである(いずれもswissQprint社製)。
【0109】
組み合わせ(c)
インクジェット印刷装置:ローランドディー・ジー社製、LEC−330。
UV硬化インキ:ローランド製ディー・ジー社製、ECO−UV4インキシリーズ。シアンは品番EUV4−CYであり、マゼンダは品番EUV4−MGであり、イエローは品番EUV4−YEであり、ブラックは品番EUV4−BKである。
【0110】
〔評価方法〕
(可視光線透過率)
可視光線透過率は、分光光度計(島津製作所社製、UV−3100PC)を用い、JIS R3106:1998「板ガラス類の透過率・反射率・放射率・日射熱取得率の試験方法」に準拠して測定した。
【0111】
(UV透過率)
UV透過率は、分光光度計を用い、JIS A5759:2008「建築窓ガラス用フィルム板」に準拠して測定した。
【0112】
(乾燥塗布質量)
コーティング液の塗布および乾燥後の基体とコーティング層との合計質量と、コーティング層をアセトンに湿らしたキムワイプ紙で取り除いた後の基体の質量とを測定し、その差から、コーティング液の乾燥塗布質量(g/m
2)、つまりコーティング層の単位面積当たりの質量を算出した。
なお、グラビア印刷の場合、グラビア版の深さを変更することにより、コーティング液の乾燥塗布質量を0.5g〜20g/m
2程度の範囲内で任意に変更することが可能である。
【0113】
(初期の密着性)
印刷層にセロハンテープ(ニチバン製「CT18」、幅18mm)を貼り、ゆっくり剥がすことを5回繰り返す剥離試験を実施した。その後、印刷層の状態を目視で確認し、下記基準で印刷層の密着性を評価した。
◎(良好):印刷層の欠損が全くない。
○(可):印刷層の欠損が0%超20%未満である。
×(付加):印刷層の欠損が20%超である。
【0114】
(耐候性試験)
印刷物に対し、JIS K7350−4:2008に準拠したカーボンアークランプを備えたサンシャインウェザメーター(スガ試験機社製、300サンシャインウェザメーター)を用い、5,000時間の促進耐候性試験を行った。暴露形態は、印刷層に水や光が直接当たらないバック暴露形式とした。すなわち、印刷物の基体側(印刷層側とは反対側)から光を入射させ、基体側に水を噴霧した。なお、5,000時間の暴露は、日本膜構造協会においては、日本の10年間の屋外暴露に相当すると言われている。
促進耐候性試験前後の反射光の色変化(△E*)を、カラーメーター(スガ試験機製、SMカラーメーター SM−T)を用いて測定した。また、促進耐候性試験後の印刷物に対し、初期密着性の評価と同様にして、剥離試験を実施し、印刷層の密着性を評価した。
色変化については、3以下であれば、色が変化していないと判断できる。色彩管理で一般的に許容される色変化は6以下である。20を超えると、退色によって色が識別不可能とされている。
【0115】
〔材料〕
(基体)
ETFE(1):厚さ250μmのETFEフィルム(旭硝子社製、製品名;アフレックス250NJ)の片面に放電密度200W・min/m
2でコロナ放電処理を行った。放電処理された面の表面張力は0.045N/mであった。
ETFE(2):厚さ200μmのUVカットETFEフィルム(旭硝子社製、製品名;アフレックス200UVC)の片面に放電密度180W・min/m
2で、コロナ放電処理を行った。放電処理された面の表面張力は0.045N/mであった。このフィルムは、UV遮断剤として酸化セリウムをフィルム中に0.3質量%配合したフィルムである。
ETFE(3):厚さ250μmの半透明白色ETFEフィルム(旭硝子社製、製品名;アフレックス250WT)の片面に放電密度200W・min/m
2でコロナ放電処理を行った。放電処理された面の表面張力は0.045N/mであった。このフィルムは、白色顔料として酸化チタンをフィルム中に0.4質量%配合したフィルムである。
PET(1):厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム社製、製品名;テイジンテトロンフィルム タイプG2)の片面に放電密度200W・min/m
2でコロナ放電処理を行った。放電処理された面の表面張力は0.054N/mであった。
ECTFE(1):厚さ50μmのECTFEフィルム(デンカ社製、製品名;TEFKA)の片面に放電密度100W・min/m
2でコロナ放電処理を行った。放電処理された面の表面張力は0.050N/mであった。
【0116】
(コーティング液)
コーティング液(1):LF200(ルミフロン200、旭硝子社製、含フッ素重合体の固形分60%のキシレン溶液。含フッ素重合体のガラス転移温度37℃。)にトルエンを添加し、固形分35%のコーティング液(1)を調製した。LF200の製品としての水酸基値は31mg(KOH)/gである。トルエンの添加量は、グラビア版にてグラビア印刷を行うため、3番のザーンカップ粘度が25秒となる量とした。
コーティング液(2):LF600(ルミフロン600、旭硝子製、含フッ素重合体の固形分50%のキシレン溶液。含フッ素重合体のガラス転移温度は25℃。)に、トルエンと、UV遮断剤(TINUVIN 479、BASFジャパン社製、ヒドロキシフェニルトリアジン系UV遮断剤)とを添加し、固形分35%のコーティング液(2)を調製した。LF600の製品としての水酸基値は20mg(KOH)/gである。UV遮断剤の添加量は、含フッ素重合体の100質量部に対して17.6質量部とした。トルエンの添加量は、グラビア版にてグラビア印刷を行うため、3番のザーンカップ粘度が25秒となる量とした。
コーティング液(3):セイコーアドバンス社の透明な2液ウレタン系インキ(主剤:SG740メジューム、硬化剤:SG740専用硬化剤、混合質量比10:1)をメチルエチルケトンで希釈して固形分30%のコーティング液(3)を調製した。メチルエチルケトンの添加量は、グラビア版にてグラビア印刷を行うため、3番のザーンカップ粘度が25秒となる量とした。
【0117】
〔例1〕
基体としてETFE(1)を用いた。この基体の放電処理された面にコーティング液(1)を、グラビア版を用いグラビア印刷により、表1に示す乾燥塗布質量で塗布し、120℃で20秒間乾燥してコーティング層を形成し、積層体を得た。
次に、インクジェット印刷装置を用い、UV硬化インキを前記積層体のコーティング層上に塗布し、UV硬化させて印刷層を形成し、印刷物を得た。インクジェット印刷装置およびUV硬化インキの組み合わせは、前記組み合わせ(a)とした。UV硬化インキは、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色をそれぞれ単独で使用し、各色の印刷層を形成した。各色の印刷層の厚さは、シアンが19μm、マゼンタが17μm、イエローが12μm、ブラックが20μmであった(インクジェット印刷条件が同じ例2〜9も同様)。
【0118】
〔例2〕
コーティング層を形成せず、基体の放電処理された面に直接印刷層を形成した以外は例1と同様にして印刷物を得た。
【0119】
〔例3〜5、7〜9〕
基体またはコーティング液を表1に示すものに変更した以外は例1と同様にして積層体および印刷物を得た。
【0120】
〔例6〕
コーティング層を形成せず、基体の放電処理された面に直接印刷層を形成した以外は例5と同様にして印刷物を得た。
【0121】
〔例10〕
インクジェット印刷装置およびUV硬化インキの組み合わせを、前記組み合わせ(b)に変更した以外は例2と同様にして印刷物を得た。各色の印刷層の厚さは、シアンが11μm、マゼンタが14μm、イエローが10μm、ブラックが20μmであった(インクジェット印刷条件が同じ例11〜13も同様)。
【0122】
〔例11〕
基体をETFE(2)に変更した以外は例10と同様にして印刷物を得た。
【0123】
〔例12〕
インクジェット印刷装置およびUV硬化インキの組み合わせを、前記組み合わせ(b)に変更した以外は例3と同様にして積層体および印刷物を得た。
【0124】
〔例13〕
インクジェット印刷装置およびUV硬化インキの組み合わせを、前記組み合わせ(b)に変更した以外は例4と同様にして積層体および印刷物を得た。
【0125】
〔例14〕
インクジェット印刷装置およびUV硬化インキの組み合わせを、前記組み合わせ(c)に変更した以外は例2と同様にして印刷物を得た。各色の印刷層の厚さは、シアンが13μm、マゼンタが19μm、イエローが20μm、ブラックが34μmであった(インクジェット印刷条件が同じ例15、16も同様)。
【0126】
〔例15〕
インクジェット印刷装置およびUV硬化インキの組み合わせを、前記組み合わせ(c)に変更した以外は例1と同様にして積層体および印刷物を得た。
【0127】
〔例16〕
インクジェット印刷装置およびUV硬化インキの組み合わせを、前記組み合わせ(c)に変更した以外は例3と同様にして積層体および印刷物を得た。
【0128】
各例における基体の種類、厚さ、可視光線透過率およびUV透過率、コーティング液の種類、乾燥塗布質量、積層体の可視光線透過率およびUV透過率、ならびに印刷物の評価結果を表1〜2に示した。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
例1、3〜5、8、12〜13、15〜16の印刷物の印刷層は、初期、耐候性試験後ともに良好な密着性を示した。特に、基体または層(A)がUVカット機能を持つ例3〜5、12〜13、16では、耐候性試験前後での密着性の低下がより抑制されており、さらに印刷層の色変化も抑制されていた。また、耐候性試験後の印刷層にひびわれは見られなかった。
一方、例2、6、10〜11、14の印刷物の印刷層は、層(A)を設けなかったため、初期においては良好な密着性を示したが、耐候性試験によって密着性が大きく低下した。また、耐候性試験後の印刷層にひびわれが観察された。この結果から、耐候性試験において基体と印刷層との間の密着性を確保するためには、それらの界面の化学結合に対するUVのアタックを抑制するよりも、層(A)によってインクジェットインキの硬化収縮応力を緩和する方が、効果が高いことがわかる。
例7の印刷物の印刷層は、基体が含フッ素重合体を含まないため、初期においては良好な密着性を示したが、耐候性試験によって密着性が大きく低下した。また、シアンとマゼンタで、反射光の色変化(△E*)が20を超えていた。これは、基体であるPETフィルム自体に耐候性がないため、フィルムの加水分解および黄変が生じ、その影響が表れたと考えられた。
例9の印刷物の印刷層は、コーティング液から形成された層が層(A)でないため、初期においては良好な密着性を示したが、耐候性試験によって密着性が大きく低下した。また、シアンとマゼンタとブラックで、反射光の色変化(△E*)が20を超えていた。これは、ウレタン系であるプライマー層が黄変し、その影響が表れたと考えられた。