(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981513
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】マスク保持装置、露光装置、マスク保持方法、及び露光方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20211202BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
G03F7/20 501
G03F7/20 521
H01L21/68 P
【請求項の数】38
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-170451(P2020-170451)
(22)【出願日】2020年10月8日
(62)【分割の表示】特願2017-538030(P2017-538030)の分割
【原出願日】2016年8月30日
(65)【公開番号】特開2021-6931(P2021-6931A)
(43)【公開日】2021年1月21日
【審査請求日】2020年10月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-172349(P2015-172349)
(32)【優先日】2015年9月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】八田 澄夫
(72)【発明者】
【氏名】白澤 正裕
(72)【発明者】
【氏名】木南 貴之
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 淑人
【審査官】
田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−085671(JP,A)
【文献】
特開平10−097985(JP,A)
【文献】
特開2013−205764(JP,A)
【文献】
特開2004−247718(JP,A)
【文献】
特開2010−008888(JP,A)
【文献】
特開2012−043992(JP,A)
【文献】
特開2010−245222(JP,A)
【文献】
特開平07−326566(JP,A)
【文献】
特開2001−023886(JP,A)
【文献】
特開2009−267016(JP,A)
【文献】
特開平07−086139(JP,A)
【文献】
特開2008−216554(JP,A)
【文献】
特開平10−142804(JP,A)
【文献】
特開平09−129548(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0016338(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0135059(US,A1)
【文献】
韓国公開特許第10−2014−0007555(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
H01L 21/027
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクに形成されたパターンを基板上に露光する露光装置で用いられる、前記マスクを保持するマスク保持装置であって、
前記マスク上の所定方向に離れて前記マスクの支持面を支持する複数の支持部と、
前記支持面とは異なる前記マスクの保持面を保持する保持部と、を含み、
前記複数の支持部は、前記マスクの自重により重力方向に撓み、撓んだ前記マスクを支持し、
前記保持部は、前記複数の支持部の支持によって撓んだ前記マスクを保持する、
マスク保持装置。
【請求項2】
前記保持部は、前記所定方向と重力方向とに交差する方向から前記マスクを保持する、
請求項1に記載のマスク保持装置。
【請求項3】
前記保持部は、前記保持面を押圧して保持する、
請求項1又は請求項2に記載のマスク保持装置。
【請求項4】
前記保持部は、
前記保持面である第1面と接触する第1部材と、
前記第1面とは異なる前記保持面である第2面と接触して前記マスクを保持する第2部材と、
を備える、
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載のマスク保持装置。
【請求項5】
前記第1部材と前記第2部材は、前記所定方向と重力方向とに交差する方向に関して互いに離れて配置される、
請求項4に記載のマスク保持装置。
【請求項6】
前記保持部は、前記第1面に前記第1部材を押圧させ、前記第2面に前記第2部材を接触させて前記マスクを保持する、
請求項4又は請求項5に記載のマスク保持装置。
【請求項7】
前記保持部は、前記第2面に対して前記第2部材を押圧して前記マスクを保持する、
請求項6に記載のマスク保持装置。
【請求項8】
前記保持部は、前記第1部材によって前記第1面を引っ張り、前記第2部材によって前記第2面を引っ張って前記マスクを保持する、
請求項4又は請求項5に記載のマスク保持装置。
【請求項9】
前記所定方向と重力方向とに交差する方向は、露光中の前記基板が移動する走査方向である、
請求項1から請求項8のうちいずれか一項に記載のマスク保持装置。
【請求項10】
前記保持部は、
前記保持面を保持する吸着部と、
前記吸着部を駆動させる駆動部と、
を含み、
前記駆動部は、前記吸着部を駆動させることにより前記吸着部を前記保持面に吸着させて、前記マスクを保持する、
請求項1に記載のマスク保持装置。
【請求項11】
前記保持部は、前記マスクの上面を保持する、
請求項10に記載のマスク保持装置。
【請求項12】
前記保持部は、前記マスクの側面を保持する、
請求項10に記載のマスク保持装置。
【請求項13】
前記支持部は、前記支持部を前記所定方向と、前記所定方向と重力方向とに交差する方向とがなす面に対して傾斜させて前記マスクを支持する、
請求項1から請求項12のうちいずれか一項に記載のマスク保持装置。
【請求項14】
前記支持部は、前記支持面に前記支持部を点接触させて前記マスクを支持する、
請求項1から請求項12のうちいずれか一項に記載のマスク保持装置。
【請求項15】
前記支持部は、前記支持面に前記支持部を線接触させて前記マスクを支持する、
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載のマスク保持装置。
【請求項16】
請求項1から請求項15のうちいずれか一項に記載のマスク保持装置と、
前記マスク保持装置に保持された前記マスクを介してエネルギビームで前記基板を露光する露光動作によって、前記マスクが有するパターンを前記基板に形成するパターン形成装置と、
を備える露光装置。
【請求項17】
前記マスクと前記基板との間に設けられ、前記パターンを前記基板上に結像させる投影光学系をさらに備え、
前記投影光学系は、撓んだ前記マスクの撓み形状に応じて、結像条件が調整可能である、
請求項16に記載の露光装置。
【請求項18】
前記投影光学系は、前記パターン形成装置により、前記基板に設けられた複数の露光領域に前記パターンを形成する場合、前記複数の露光領域毎に結像条件が調整可能である、
請求項17に記載の露光装置。
【請求項19】
前記基板は、フラットパネルディスプレイに用いられる露光基板である、
請求項16から請求項18のうちいずれか一項に記載の露光装置。
【請求項20】
前記露光基板は、少なくとも一辺の長さ又は対角長が500mm以上である、
請求項19に記載の露光装置。
【請求項21】
マスクに形成されたパターンを基板上に露光する露光装置で用いられる、前記マスクを保持するマスク保持方法であって、
前記マスク上の所定方向に離れて前記マスクの支持面を複数の支持部を用いて支持することと、
前記複数の支持部によって支持された前記マスクを、前記マスクの前記支持面とは異なる前記マスクの保持面を保持部によって保持することと、を含み、
前記支持することでは、前記マスクの自重により重力方向に撓み、撓んだ前記マスクを支持し、
前記保持することでは、前記複数の支持部の支持によって撓んだ前記マスクを保持する、
マスク保持方法。
【請求項22】
前記保持することでは、前記所定方向と重力方向とに交差する方向から前記保持部を用いて前記マスクを保持する、
請求項21に記載のマスク保持方法。
【請求項23】
前記保持することでは、前記保持面に対して前記保持部を押圧して保持する、
請求項21又は請求項22に記載のマスク保持方法。
【請求項24】
前記保持することでは、前記保持面である第1面と接触する第1部材と、前記第1面とは異なる前記保持面である第2面と接触して前記マスクを保持する第2部材とを備える保持部を用いて前記マスクを保持する、
請求項21から請求項23のうちいずれか一項に記載のマスク保持方法。
【請求項25】
前記保持することでは、前記第1部材と前記第2部材は、前記所定方向と重力方向とに交差する方向に関して互いに離れて配置され、前記第1部材と前記第2部材とを用いて前記マスクを保持する、
請求項24に記載のマスク保持方法。
【請求項26】
前記保持することでは、前記第1面に前記第1部材を押圧させ、前記第2面に前記第2部材を接触させて前記マスクを保持する、
請求項24又は請求項25に記載のマスク保持方法。
【請求項27】
前記保持することでは、前記第2面に対して前記第2部材を押圧して前記マスクを保持する、
請求項26に記載のマスク保持方法。
【請求項28】
前記保持することでは、前記第1部材によって前記第1面を引っ張り、前記第2部材によって前記第2面を引っ張って前記マスクを保持する、
請求項24又は請求項25に記載のマスク保持方法。
【請求項29】
前記所定方向と重力方向とに交差する方向は、露光中の前記基板が移動する走査方向である、
請求項21から請求項28のうちいずれか一項に記載のマスク保持方法。
【請求項30】
前記保持することでは、前記保持部は、前記マスクの前記保持面を保持する吸着部と、前記吸着部を駆動させる駆動部とを含み、前記駆動部を用いて前記吸着部を駆動させることにより前記吸着部を前記保持面に吸着させて、前記マスクを保持する、
請求項21に記載のマスク保持方法。
【請求項31】
前記保持することでは、前記保持部によって前記マスクの上面を保持する、
請求項30に記載のマスク保持方法。
【請求項32】
前記保持することでは、前記保持部によって前記マスクの側面を保持する、
請求項30に記載のマスク保持方法。
【請求項33】
前記支持することでは、前記支持部を前記所定方向と、前記所定方向と重力方向とに交差する方向とがなす面に対して傾斜させて前記マスクを支持する、
請求項21から請求項32のうちいずれか一項に記載のマスク保持方法。
【請求項34】
請求項21から請求項33のうちいずれか一項に記載のマスク保持方法と、
前記マスク保持方法により保持された前記マスクを介してエネルギビームで前記基板を露光する露光動作によって、前記マスクが有するパターンを前記基板に形成することと、
を含む露光方法。
【請求項35】
前記形成することでは、前記マスクと前記基板との間に設けられた投影光学系を介して前記パターンを前記基板上に結像させ、
前記投影光学系は、撓んだ前記マスクの撓み形状に応じて、結像条件が調整可能である、
請求項34に記載の露光方法。
【請求項36】
前記形成することでは、前記基板に設けられた複数の露光領域に前記パターンを形成し、
前記投影光学系は、前記複数の露光領域毎に結像条件を調整する、
請求項35に記載の露光方法。
【請求項37】
前記基板は、フラットパネルディスプレイに用いられる露光基板である、
請求項34から請求項36のうちいずれか一項に記載の露光方法。
【請求項38】
前記露光基板は、少なくとも一辺の長さ又は対角長が500mm以上である、
請求項37に記載の露光方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
マスク保持装置、露光装置、
マスク保持方法、及び露光方
法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示素子、半導体素子(集積回路等)等の電子デバイス(マイクロデバイス)を製造するリソグラフィ工程では、マスク又はレチクル(以下、「マスク」と総称する)と、ガラスプレート又はウエハ等(以下、「基板」と総称する)とを所定の走査方向に沿って同期移動させつつ、マスクに形成されたパターンをエネルギビームを用いて基板上に転写するステップ・アンド・スキャン方式の露光装置(いわゆるスキャニング・ステッパ(スキャナとも呼ばれる))などが用いられている。
【0003】
この種の露光装置は、マスクを保持するとともに、該マスクをスキャン方向に所定の速度、及び精度で移動させるマスクステージ装置を有している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ここで、一般的なマスクステージ装置は、エネルギビームの光路と干渉しないように、マスクMの端部近傍(マスクパターンが形成されていない領域)を保持(あるいは支持)する構造となっているため、マスクには、自重に起因する撓みが生ずる。このようなマスクの撓みは、光学的に補償することよって露光精度を確保することが可能であるが、マスクの撓み形状が安定しない場合には、光学的な補償が困難となる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−85671号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の事情の下でなされたもので、第1の態様によれば、マスクに形成されたパターンを基板上に露光する露光装置で用いられる、前記マスクを保持するマスク保持装置であって、前記マスク上の所定方向に離れて前記マスクの支持面を支持する複数の支持部と、前記支持面とは異なる前記マスクの保持面を保持する保持部と、を含み、前記複数の支持部は、前記マスクの自重により重力方向に撓み、
撓んだ前記マスクを支持し、前記保持部は、前記複数の支持部の支持によって
撓んだ前記マスクを保持する、マスク保持装置が提供される。
【0007】
第2の態様によれば、
マスク保持装置と、前記マスク保持装置に保持された前記マスクを介してエネルギビームで前記基板を露光する露光動作によって、前記マスクが有するパターンを前記基板に形成するパターン形成装置と、を備える露光装置が提供される。
【0010】
第3の態様によれば、マスクに形成されたパターンを基板上に露光する露光装置で用いられる、前記マスクを保持するマスク保持方法であって、前記マスク上の所定方向に離れて前記マスクの支持面を複数の支持部を用いて支持することと、前記複数の支持部によって支持された前記マスクを、前記マスクの前記支持面とは異なる前記マスクの保持面を保持部によって保持することと、を含み、前記支持することでは、前記マスクの自重により重力方向に撓み、
撓んだ前記マスクを支持し、前記保持することでは、前記複数の支持部の支持によって
撓んだ前記マスクを保持する、マスク保持方法が提供される。
【0011】
第
4の態様によれば、
マスク保持方法と、前記マスク保持方法により保持された前記マスクを介してエネルギビームで前記基板を露光する露光動作によって、前記マスクが有するパターンを前記基板に形成することと、を含む露光方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態に係る液晶露光装置の構成を概略的に示す図である。
【
図2】
図1の液晶露光装置が有するマスクステージ装置の平面図である。
【
図4】
図4(a)〜
図4(c)は、マスクステージ装置に対するマスクのローディング動作を説明するための図(その1〜その3)である。
【
図5】
図5(a)は比較例に係るマスクの支持装置を示す図、
図5(b)は、第1の実施形態に係るマスクの支持装置を示す図、
図5(c)は、比較例、及び第1の実施形態におけるマスクの吸着圧力と変位量との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6(a)及び
図6(b)は、第1の実施形態に係るマスクステージ装置の第1の変形例を示す図(それぞれ断面図、及び平面図)である。
【
図7】第1の実施形態に係るマスクステージ装置の第2の変形例を示す図である。
【
図8】第1の実施形態に係るマスクステージ装置の第3の変形例を示す図である。
【
図9】第1の実施形態に係るマスクステージ装置の第4の変形例を示す図である。
【
図10】第1の実施形態に係るマスクステージ装置の第5の変形例を示す図である。
【
図11】
図11(a)及び
図11(b)は、第2の実施形態に係るマスクステージ装置の構成、及び動作を説明するための図(その1及びその2)である。
【
図12】第2の実施形態に係るマスクステージ装置の変形例を示す図である。
【
図13】第3の実施形態に係るマスクステージ装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
《第1の実施形態》
以下、第1の実施形態について、
図1〜
図5(c)を用いて説明する。
【0016】
図1には、第1の実施形態に係る液晶露光装置10の構成が概略的に示されている。液晶露光装置10は、例えば液晶表示装置(フラットパネルディスプレイ)などに用いられる矩形(角型)のガラス基板P(以下、単に基板Pと称する)を露光対象物とするステップ・アンド・スキャン方式の投影露光装置、いわゆるスキャナである。
【0017】
液晶露光装置10は、照明系12、回路パターン等のパターンが形成されたマスクMを保持するマスクステージ装置14、投影光学系16、表面(
図1で+Z側を向いた面)にレジスト(感応剤)が塗布された基板Pを保持する基板ステージ装置20、及びこれらの制御系等を有している。以下、露光時にマスクMと基板Pとが投影光学系16に対してそれぞれ相対走査される方向をX軸方向とし、水平面内でX軸に直交する方向をY軸方向、X軸及びY軸に直交する方向をZ軸方向として説明を行う。また、X軸、Y軸、及びZ軸回りの回転方向をそれぞれθx、θy、及びθz方向として説明を行う。
【0018】
照明系12は、例えば米国特許第5,729,331号明細書などに開示される照明系と同様に構成されている。すなわち、照明系12は、図示しない光源(例えば、水銀ランプ)から射出された光を、それぞれ図示しない反射鏡、ダイクロイックミラー、シャッター、波長選択フィルタ、各種レンズなどを介して、露光用照明光(照明光)ILとしてマスクMに照射する。照明光ILとしては、例えばi線(波長365nm)、g線(波長436nm)、h線(波長405nm)などの光(あるいは、上記i線、g線、h線の合成光)が用いられる。照明系12からマスクMに照射される照明光ILの光軸AXは、Z軸にほぼ平行である。
【0019】
マスクステージ装置14は、光透過型のマスクMを保持するステージ本体30を有している。ステージ本体30は、XY平面にほぼ平行に配置された板状の部材から成り、中央部にマスクMが挿入される開口部32が形成されている。ステージ本体30は、例えばリニアモータを含むマスクステージ駆動系を介して照明系12(照明光IL)に対してX軸方向(スキャン方向)に所定の長ストロークで駆動されるとともに、Y軸方向、及びθz方向に微少駆動される。ステージ本体30の水平面内の位置情報は、例えばレーザ干渉計システム(あるいはエンコーダシステム)を含むマスクステージ位置計測系(不図示)によって求められる。ステージ本体30によるマスクMの保持構造については、後述する。
【0020】
投影光学系16は、マスクステージ装置14の下方に配置されている。投影光学系16は、例えば米国特許第6,552,775号明細書などに開示される投影光学系と同様な構成の、いわゆるマルチレンズ型の投影光学系であり、例えば正立正像を形成する両側テレセントリックな複数の光学系(投影系モジュール16a)を備えている。
【0021】
液晶露光装置10では、照明系12からの照明光ILによって所定の照明領域内に位置するマスクMが照明されると、マスクMを通過した照明光ILにより、投影光学系16を介してその照明領域内のマスクMのパターンの投影像(部分的なパターンの像)が、基板P上の露光領域に形成される。そして、照明領域(照明光IL)に対してマスクMが走査方向に相対移動するとともに、露光領域(照明光IL)に対して基板Pが走査方向に相対移動することで、基板P上の1つのショット領域の走査露光が行われ、そのショット領域にマスクMに形成されたパターン(マスクMの走査範囲に対応するパターン全体)が転写される。ここで、マスクM上の照明領域と基板P上の露光領域(照明光の照射領域)とは、投影光学系16によって互いに光学的に共役な関係になっている。
【0022】
基板ステージ装置20は、基板Pを投影光学系16(照明光IL)に対して高精度位置決めする部分である。基板ステージ装置20は、基板Pを保持する保持部材(基板ホルダなどとも称される)と、該保持部材(すなわち基板P)を水平面(X軸方向、及びY軸方向)に沿って所定の長ストロークで駆動するとともに、6自由度方向に微少駆動する駆動系とを有している。保持部材(すなわち基板P)の6自由度方向の位置情報は、例えばレーザ干渉計システム(あるいはエンコーダシステム)を含む基板ステージ位置計測系(不図示)によって求められる。
【0023】
次に、マスクステージ装置14が有するステージ本体30によるマスクMの支持及び保持構造について説明する。
【0024】
図2に示されるように、マスクステージ装置14は、複数の(本実施形態では、例えば6つの)支持装置40を有している。例えば、6つの支持装置40それぞれは、マスクMを下方から支持する支持ブロック50を有している。また、例えば6つの支持装置40それぞれは、マスクMを吸着保持する吸着パッド46を有している。すなわち、マスクMは、互いに異なる、例えば6つの部分が支持ブロック50により支持されるとともに、互いに異なる、例えば6つの部分が吸着パッド46により吸着保持される。
【0025】
例えば6つの支持装置40のうち、3つは開口部32を形成(規定)する壁面のうち、+Y側の壁面から開口部32内に突き出して配置され、残りの3つは、−Y側の壁面から開口部32内に突き出して配置されている。上記+Y側の3つの支持装置40、及び−Y側の3つの支持装置40は、それぞれX軸方向に所定間隔で配置されている。
【0026】
ここで、マスクMの下面(パターン面)には、四辺それぞれの端部近傍において、パターンが形成されていない領域(以下、「余白領域」と称する)が形成されている。また、マスクMの下面におけるパターンが形成された領域(余白領域よりもマスクMの内側の領域)には、パターン保護用のペリクル(不図示)が取り付けられている。例えば6つの支持装置40のうち、+Y側の3つは、マスクMの+Y側の端部近傍に形成された余白領域(ペリクルと干渉しない領域)を下方から支持するとともに吸着保持し、−Y側の3つは、マスクMの−Y側の端部近傍に形成された余白領域を下方から支持するとともに吸着保持している。
【0027】
次に支持装置40の構成について説明する。例えば6つの支持装置40の構成は、実質的に同じであるので、そのうちの1つについて説明する。
図3(a)及び
図3(b)に示されるように、支持装置40は、ベース部42、板ばね44、吸着パッド46、支持ブロック50などを有している。
【0028】
ベース部42は、平面視矩形の平板状の部材から成り、一端(
図3(a)及び
図3(b)では、−Y側の端部)がステージ本体30の下面に固定されている。ベース部42の他端(
図3(a)及び
図3(b)では、+Y側の端部)は、ステージ本体30から開口部32内に突き出している。ベース部42は、Y軸方向に関する中間部に段差部が形成されており、他端部側の領域が一端部側の領域に比べて幾分(ベース部42自体の剛性に影響がない程度に)薄く形成されている。
【0029】
ベース部42の他端部近傍における上面には、支持ブロック50が固定されている。支持ブロック50は、X軸方向に延びるYZ断面矩形状の部材から成る。本実施形態において、支持ブロック50は、例えばステンレス鋼などの金属材料により形成されているが、これに限られず、例えば精度変化の少ないセラミックによって形成されても良い。また、支持ブロック50は、マスクMの下面に直接接触することから、マスクMと同じガラスにより形成されても良い。また、本実施形態では、支持ブロック50とベース部42とは、別部材とされているが、これらは一体的に形成されていても良い。
【0030】
板ばね44は、ばね性(弾性)を有する板材(例えば、鋼板)により形成されている。板ばね44は、XY平面にほぼ平行に配置されており、Z軸、及びθx方向に弾性を有する一方で、XY平面に平行な方向(特にX軸方向)に関しては、所定の剛性を有している。板ばね44の一端は、ベース部42の上面における段差部よりも一端側(厚みの厚い側)の領域にシム48aを介してボルト48により固定されている。板ばね44の他端(以下「先端部」と称する)は、ベース部42の上面における段差部よりも先端側(厚みの薄い側)の領域に突き出しており、ベース部42の上面と板ばね44の下面との間に所定の隙間が形成されている。なお、本実施形態の支持装置40は、X軸方向に離間した、例えば2枚の板ばね44を有しているが、板ばね44の数は、特に限定されない。
【0031】
吸着パッド46は、X軸方向に延びる平板状の部材から成り(
図3(a)参照)、板ばね44の先端側の領域、すなわち自由端側の上面上に固定されている。上述した支持ブロック50は、吸着パッド46よりもマスクMの中央部側(
図3(b)では+Y側)に配置されている。吸着パッド46の上面(吸着面)には、X軸方向に延びる溝46aが形成され、該溝46aの底面の中央部に吸引口46bが形成されている。吸引口46bは、吸着パッド46の側面に開口する外部接続用の開口部46c(
図3(a)では不図示。
図3(b)参照)に連通している。吸着パッド46の溝46aには、上記開口部46c、及び吸引口46bを介して外部から真空吸引力が供給される。また、吸着パッド46の上面(吸着面)の高さ位置は、支持ブロック50の上端面よりも高い位置(+Z側)となるように設定されている。なお、
図3(b)では、理解を容易にするため、マスクMが実際よりも撓んだ状態で(傾斜して)示されている。
【0032】
次に、マスクステージ装置14に対するマスクMのローディング時における支持装置40の動作について
図4(a)〜
図4(c)を用いて説明する。
【0033】
図4(a)に示されるように、マスクMが不図示のマスクローダによって下降駆動(
図4(a)の矢印参照)されると、マスクMの下面は、最初に吸着パッド46に接触する。この際、吸着パッド46は、真空吸引を行わない。従って、吸着パッド46は、マスクMを拘束せず、板ばね44は、マスクMの自重によって先端部が下方に撓む。なお、板ばね44は、自由端側に吸着パッド46が固定されていることから、マスクMを支持していない状態でも先端部が垂れ下がるように幾分変形しているが、これに限らない。
【0034】
次いで、
図4(b)に示されるように、マスクMの下面が支持ブロック50に接触する。これにより、Z軸方向に関して、マスクステージ装置14によるマスクMの支持位置(
図4(b)で丸印Sで示す位置)が機械的に決定される。ここで、支持ブロック50は、X軸方向に延在しているので、支持ブロック50とマスクMとは、線接触している。マスクMは、+Y側、及び−Y側の端部近傍が複数の支持ブロック50に下方から支持されることから(
図2参照)、その自重に起因して、Y軸方向に関する中央部が−Z方向に凸状に張り出すように撓みが生じる。
【0035】
また、マスクMが支持ブロック50に支持された後、
図4(c)に示されるように、吸着パッド46がマスクMを吸着保持する。この際、支持装置40では、支持ブロック50がマスクMを予め支持(−Z方向に関して拘束)しているので、マスクMは、吸着パッド46からの吸引力によっては、−Z方向へは移動しない。この際、吸着パッド46は、板ばね44の作用によって吸着面がマスクMの下面に沿って(倣って)変位しており、その吸引力は、マスクMの下面に垂直に作用(
図4(c)の矢印参照)する。また、マスクMをXY平面内で拘束できれば良いことから、吸着パッド46による吸引力は、比較的小さくて良く、マスクMに作用する上記支持位置S周りのモーメントは、無視できる程度に小さい。すなわち、吸着パッド46は、マスクMの自重に起因する撓みに影響を与えないように、マスクMをステージ本体30に対して拘束(固定)する。
【0036】
ここで、上述したように、マスクMは、自重に起因して撓みが生じているが、その撓み量は、Y軸方向の位置によって異なり、マスクMのY軸方向に関する中央部における撓み量は、Y軸方向に関する両端部近傍に比べて大きくなる。従って、マスクMのパターン面と基板P(
図1参照)の上面(露光面)との間隔(マスクMのパターン面から結像面までの距離)に差(ばらつき)が生じる。
【0037】
これに対し、本実施形態の液晶露光装置10では、投影光学系16(それぞれ
図1参照)を用いて上記バラツキを補償する。すなわち、
図1に示されるように、投影光学系16は、いわゆるマルチレンズ光学系であり、千鳥状に配置された複数(
図1では、例えば5本)の投影系モジュール16aを備え、該複数の投影系モジュール16aは、各々が独立してフォーカス位置調整機構、像シフト機構、倍率調整機構等を備えている。従って、上述したように、マスクMに自重に起因する撓みが生じても(マスクMと基板Pとの間の距離にばらつきが生じても)、その撓み量に応じて、各投影系モジュール16aを独立して制御して結像条件を調整することにより、所望の露光精度を確保することができる。なお、投影系モジュール16aの本数等は、一例であり、適宜変更が可能である。
【0038】
次に、本実施形態に係るマスクステージ装置14の作用及び効果を、比較例と比較して説明する。
図5(a)には、比較例に係るマスクステージ装置の支持装置90が示されている。支持装置90のステージ本体30(
図2参照)に対する配置は、本実施形態の支持装置40と同じであるものとする。
【0039】
図5(b)に示される本実施形態の支持装置40では、吸着パッド46が板ばね44により片持ち支持されているのに対し、
図5(a)に示される比較例の支持装置90では、ベース部92の上面に直接吸着パッド94が直接固定されている。すなわち、本実施形態に係る吸着パッド46(
図5(b)参照)は、吸着面がマスクMの下面に応じて変位(Z軸、及びθx方向に移動)可能であったのに対し、比較例に係る吸着パッド94(
図5(a)参照)は、吸着面の位置がXY平面にほぼ平行な状態で固定されている。従って、支持装置90では、マスクMを吸着保持する吸着パッド94が、マスクMを支持位置Sにおいて支持する支持部材としての機能も有している。また、比較例に係る支持装置90は、吸着パッド94からの吸着圧によって、マスクMの下面が水平面に対して平行となるように、該マスクMを平面矯正する(撓みの絶対値を小さくする)ことを目的としている。これに対し、
図5(b)に示される本実施形態の支持装置40は、マスクMの自重に起因する撓みを許容する(マスクMの撓みは、光学的に補償する)構成である。
【0040】
ここで、
図5(c)のグラフに示されるように、比較例に係る支持装置90では、吸着圧(負圧)の変化に対して、マスクMの自由撓み(マスクMに作用する自重のみによる撓み量)からの変位量が大きい(負圧の変化に対して敏感に撓み量が変化する)ことが分かる。すなわち、比較例に係る支持装置90では、吸着パッド94からの吸着圧が変化する場合には、マスクMの撓み量(撓み形状)が安定しない。この場合、マスクMと基板P(
図1参照)との間隔が安定しないので、マルチレンズ光学系を用いてマスクMの撓みを補償することが困難になる。上記吸着圧の変化は、吸着パッド94の吸着面とマスクMの下面との平行度の低下(ミクロン単位の微小な隙間の発生)に起因して容易に生ずるものである。
【0041】
これに対して、
図5(b)に示される本実施形態に係る支持装置40では、マスクMを支持する機能を有する支持ブロック50と、マスクMを吸着保持する機能を有する吸着パッド46とが分離されている。吸着パッド46は、支持ブロック50によって予め支持されたマスクMを吸着保持し、且つ吸着パッド46の吸着面は、マスクMの下面に沿って(倣って)変位可能となっている。これにより、
図5(c)のグラフから分かるように、本実施形態に係る支持装置40では、吸着圧が変化しても、マスクMの自由撓みからの変位量の変動が少ないことが分かる。従って、仮に吸着パッド46によるマスクMの吸着圧が変動しても、マスクMの撓み量の変化が小さく、マスクMと基板P(
図1参照)との間隔が安定する。これにより、上述したように、マルチレンズ光学系を用いて容易にマスクMの撓みを補償することができ、露光精度が向上する。
【0042】
なお、比較例に係る支持装置90において、マスクMの自由撓み量を考慮して予めベース部92を傾斜させて配置することも考えられるが、吸着パッド94によるマスクMの支持位置Sの位置が、マスクMの自由撓み量によって変化するので、マスクMの撓み量を安定化することは困難である。
【0043】
以上説明した第1の実施形態のマスクステージ装置14によれば、マスクMをマスクステージ装置14上にリロード(異なる露光装置間でリロードする場合も含む)する場合であっても、マスクMの撓み量(撓み形状)の再現性が向上する。従って、マルチレンズ型の投影光学系16を用いて確実にマスクMの撓みを補償して、露光精度を向上させることができる。
【0044】
なお、以上説明した第1の実施形態に係るマスクMの支持装置40の構成は、一例であり、適宜変形が可能である。例えばベース部42の先端部に取り付けられ、マスクMの下面を支持する支持部材は、上第1の記実施形態のような断面矩形の部材(支持ブロック50)に限られず、例えば、
図6(a)及び
図6(b)に示される第1の変形例に係るマスクMの支持装置40Aが有する支持棒52のように、断面円形状の部材から成っても良い。また、支持部材(支持ブロック50を含む)の長さは、
図6(b)に示される支持棒52のように、マスクMのX軸方向の長さよりも長くても良く、例えば3つのベース部42上に支持棒52が架設されていても良い。なお、支持棒52は、上記第1の実施形態と同様に、各支持装置40Aそれぞれのベース部42に対して個別に設けられていても良い。本変形例に係る支持装置40Aでは、マスクMと支持棒52とが線接触する接触部分の真直度を、加工によって上記支持ブロック50よりも容易に向上できる。なお、マスクMと支持棒52とを線接触させることができれば、支持棒52の断面は、特に限定されず、例えば半円形状であっても良い。
【0045】
また、
図7に示される第2の変形例に係る支持装置40Bのように、板ばね44の下面とベース部42の上面との間に圧縮コイルバネ54を挿入し、吸着パッド46に重力方向上向きの力(吸着パッド46をマスクMに押し付ける力)を作用させても良い。この場合、吸着パッド46の吸着面とマスクMの下面とを確実に接触させること(吸着パッド46とマスクMとの間に隙間が形成されることを抑制すること)が可能となる。また、吸着パッド46の振動を抑制することもできる。なお、圧縮コイルバネ54が吸着パッド46に付与する重力方向上向きの力は、マスクMの自重による撓み量に影響を与えない程度の大きさ(強さ)であることが好ましい。また、圧縮コイルバネ54に換えて、例えば、板ばねのような他のばね部材、あるいはゴム系、合成樹脂系の材料により形成された弾性体を板ばね44とベース部42との間に挿入しても良い。
【0046】
また、
図8に示される第3の変形例に係る支持装置40Cのように、板ばね44Cの長手方向中間部分に屈曲部が形成されていても良い。この場合も上記第2の変形例(
図7参照)と同様に、吸着パッド46をマスクMに対して押し付けることができる。
【0047】
また、
図9に示される第4の変形例に係る支持装置40Dのように、互いに厚さ(ばね定数)が異なる2種類の板ばね44D
1、板ばね44D
2を介して、吸着パッド46をベース部42に取り付け、上記第2の変形例(
図7参照)と同様に、吸着パッド46をマスクMに対して押し付けても良い。
【0048】
また、
図10に示される第5の変形例に係る支持装置40Eのように、上記第1の実施形態の支持装置40の板ばね44(それぞれ
図3(b)参照)に換えて、吸着パッド46とベース部42との間に筒状板ばね56を配置し、該筒状板ばね56のみによって吸着パッド46を支持して良い。該筒状板ばね56は、Z軸方向への弾性に加え、θx方向、及びθy方向への弾性も有しており、吸着パッド46を揺動(首振り動作)自在に支持している。この場合も上記第2の変形例(
図7参照)と同様に、吸着パッド46をマスクMに対して押し付けることができる。
【0049】
《第2の実施形態》
次に、第2の実施形態に係るマスクステージ装置114について、
図11(a)及び
図11(b)を用いて説明する。第2の実施形態に係るマスクステージ装置114の構成は、マスクMの支持装置60の構成が異なる点を除き、上記第1の実施形態と同じであるので、以下、相違点についてのみ説明し、上記第1の実施形態と同じ構成及び機能を有する要素については、上記第1の実施形態と同じ符号を付してその説明を省略する。
【0050】
上記第1の実施形態(
図3(b)など参照)において、吸着パッド46は、マスクMの下面を吸着保持したのに対し、本第2の実施形態に係るマスクステージ装置114の支持装置60では、
図11(b)に示されるように、吸着パッド62がマスクMの上面を吸着保持する点が異なる。以下、支持装置60の構成、及び動作について説明する。なお、マスクステージ装置114では、複数(例えば、6つ)の支持装置60が、上記第1の実施形態と同様の配置(
図2など参照)でステージ本体130に取り付けられているが、
図11(a)及び
図11(b)には、そのうちのひとつが示されている。
【0051】
支持装置60が有するベース部142の先端部には、支持パッド68がボール68aを介してボルト68bにより取り付けられている。支持パッド68の支持面は、マスクMの下面に対向可能なように+Z方向(上向き)を向いており、且つボール68aによって水平面に対して傾斜可能(ベース部142に対してθx及びθy方向に揺動可能)となっている。したがって、支持パッド68は、マスクMの自重による変形(自然撓み)を阻害しない。なお、支持パッド68は、マスクMの余白領域(ペリクルPLの外側の領域)に接触することによって、該マスクMのZ軸方向の位置を設定(規定)するが、吸着保持などは行わない。
【0052】
支持装置60において、マスクMのXY平面内の位置の拘束(保持)は、吸着パッド62が行う。吸着パッド62は、上記第1の実施形態と同様に板ばね64の一端に取り付けられている。吸着パッド62の他端は、アクチュエータ66に接続されており、吸着パッド62と板ばね64とが一体的にアクチュエータ66によってθx方向に回転駆動される。アクチュエータ66は、不図示の取り付け部材を介してステージ本体130に固定されている。吸着パッド62は、マスクMのローディング時などには、ステージ本体130の上面に形成された凹部(切り欠き)130A内に収容され、マスクMが支持パッド68上に載置されると、アクチュエータ66により、例えば180°程度回転駆動される(
図11(b)の矢印参照)。これによって、マスクMの余白領域が、上述した支持パッド68と吸着パッド62とによって上下(Z軸)方向に挟まれる。吸着パッド62が外部から供給される真空吸引力によってマスクMを吸着保持する点については、上記第1の実施形態と同じであるので説明を省略する。この場合も、上記第1の実施形態と同様に、吸着パッド62は、マスクMの自重による変形(自然撓み)を阻害しないような吸着圧で該マスクMを吸着保持することが好ましい。本第2の実施形態に係るマスクステージ装置114でも、上記第1の実施形態と同様の効果を得ること、すなわち、マスクMの自重による変形(自然撓み)に影響を与えることなく、マスクMを保持することができる。
【0053】
なお、以上説明した第2の実施形態の構成は、適宜変形が可能である。例えば
図12に示される第2の実施形態の変形例に係るマスクステージ装置114Aの支持装置60Aように、ベース部142Aにアクチュエータ66を介して取り付けられた吸着パッド62Aが、マスクMの側面を吸着保持しても良い。この場合も、吸着パッド62Aは、マスクMの自重による変形(自然撓み)を阻害しないような吸着圧で該マスクMを吸着保持することが好ましい。本変形例では、吸着パッド62Aの回転角度が上記第2の実施形態(
図11(b)参照)よりも小さいので、より迅速にマスクMの保持を行うことができる。また、ステージ本体30に吸着パッド62Aを収容するための凹部を形成しなくても良い。
【0054】
《第3の実施形態》
次に、第3の実施形態に係るマスクステージ装置214について、
図13を用いて説明する。第3の実施形態に係るマスクステージ装置214の構成は、マスクMの保持装置80の構成が異なる点を除き、上記第1の実施形態と同じであるので、以下、相違点についてのみ説明し、上記第1の実施形態と同じ構成及び機能を有する要素については、上記第1の実施形態と同じ符号を付してその説明を省略する。
【0055】
上記第1及び第2の実施形態では、吸着パッド46(
図3(b)参照)、62(
図11(b)参照)がマスクMに吸引力を作用させ、該吸引力による吸着パッド46、62とマスクMとの間の摩擦力によって、該マスクMのXY平面内の位置を拘束したのに対し、本第3の実施形態では、マスクステージ装置214が有するステージ本体230の開口部232を形成する壁面の一部に対して、保持装置80がマスクMを押圧することによってマスクMのXY平面内の位置を拘束する点が異なる。以下、マスクステージ装置214が有する保持装置80の構成、及び動作について説明する。
【0056】
図13に示されるように、マスクステージ装置214のステージ本体230の中央部には、開口部232が形成されており、該開口部232内にマスクMが挿入されている。従って、マスクMの4辺それぞれの側面と、開口部232を形成する壁面とは、所定の隙間を介して対向している。
【0057】
保持装置80は、押圧部材82、アクチュエータ84、及び一対の基準部材88を含む。一対の基準部材88は、マスクMの−X側の側面と、該−X側の側面に対向する壁面(+X方向を向いた壁面)との間に、Y軸方向に離間して配置されている。一対の基準部材88は、ステージ本体230に固定されており、マスクMのステージ本体230に対する位置決めの基準として機能する。押圧部材82は、マスクMの+X側の側面と、該+X側の側面に対向する壁面(−X方向を向いた壁面)との間に配置されている。押圧部材82は、ステージ本体230に形成された凹部230a内に収納されたアクチュエータ84に接続されており、該アクチュエータ84によってX軸方向に所定のストロークで移動可能となっている。
【0058】
保持装置80は、マスクMが複数の支持ブロック50に支持された後、押圧部材82を介してアクチュエータ84がマスクMのY軸方向に関する中央部を−X方向に押圧することによって、マスクMを一対の基準部材88に対して押し付ける。すなわち、上記第1及び第2の実施形態(それぞれ
図3(b)、
図11(b)参照)では、マスクMは摩擦力によってステージ本体30、130に保持されたのに対し、本第3の実施形態では、マスクMは、押圧力により、直接的にステージ本体230に把持される。本第3の実施形態では、マスクMの余白領域が狭い(吸着パッドによる真空吸着保持が困難である)場合であっても、確実にマスクMを保持できる。また、保持装置80は、マスクMに対してスキャン方向(
図13の矢印参照)に押圧力を作用させるので、マスクMの自重による撓みを阻害しない(押圧力によってマスクMの自由撓み量に影響がない)。従って、投影光学系16(
図1参照)を用いて光学的に露光精度への影響を抑制できる。
【0059】
なお、以上説明した第1〜第3の各実施形態(その変形例も含む。以下同じ)の構成は、一例であって、適宜変更が可能である。すなわち、マスクステージ装置としては、マスクMが支持部材(例えば、上記第1の実施形態の支持ブロック50)によって下方から支持された状態で生じた撓みに影響を与えないように(
図5(c)のグラフのような特性が再現されるように)該マスクMを保持できれば良く、その構成は、特に限定されない。例えば上記各実施形態において、マスクMは、
図3(b)に示される支持ブロック50(断面矩形の棒状の部材)、あるいは
図6(a)に示される支持棒52(断面円形の棒状の部材)により支持されるため、マスクMと支持ブロック50(あるいは支持棒52)とが線接触する構成であったが、これに限られず、マスクステージ装置は、例えばX軸方向に所定間隔で配置された複数の球体によりマスクMを複数点で支持する(マスクMと各球体とが点接触する)構成であっても良い。
【0060】
また、例えば上記第2の実施形態において、マスクステージ装置114は、支持パッド68によって下方から支持された(自然撓みが生じた)マスクMを吸着パッド62によって保持したが、これに限られず、例えば吸着パッド62を省略し、支持パッド68がマスクMの下面を吸着保持しても良い。この場合、露光動作時におけるステージ本体130のスキャン方法への移動によってマスクMがステージ本体130に対して移動しないように、支持パッド68の傾斜可能方向をθx方向に制限(あるいは、マスクMの保持後に傾斜動作自体を制限)すると良い。
【0061】
また、例えば上記第3の実施形態において、マスクステージ装置214は、マスクMにX軸に平行な押圧力を作用させて該マスクMを保持したが、マスクMに作用させる押圧力によって、該マスクMの撓み形状に影響を与えなければ、これに限られず、例えばY軸方向に押圧力を作用させても良い。また、マスクステージ装置214は、マスクMに押圧力を作用させて該マスクMを保持したが、これに限られず、例えばマスクMに引張力を作用させて該マスクMを保持しても良い。
【0062】
また、上記各実施形態において、マスクステージ装置14等は、マスクMのY軸方向に関する両端部近傍に形成された余白領域を支持ブロック50等を用いて下方から支持したが、例えばマスクMのY軸方向に関する中央部近傍に余白領域(非パターン領域)が形成されている場合には、該中央部近傍の余白領域を支持する支持部材を更に有していても良い。この場合であっても、両端部近傍、及び中央部近傍が支持された状態のマスクMを吸着パッド46等を用いて保持した際に、保持前後で撓み形状(撓み量)が実質的に変化しなければ良い。
【0063】
また、上記各実施形態において、マスクMは吸着パッド46による真空吸着により保持されていたが、これに限定されず、静電吸着やクランプなどの機械的に方法により保持されていても良い。
【0064】
また、上記第1及び第2の実施形態において、吸着パッド46、及び支持ブロック50(あるいは支持棒52)それぞれは、共通のベース部42に取り付けられたが、これに限られず、吸着パッド46が取り付けられるベース部材と、支持ブロック50が取り付けられるベース部材とが、別部材であっても良い。また、上記第1の実施形態において、支持ブロック50は、吸着パッド46よりもマスクMのY軸方向に関する中央部側を突き出して配置されたが、これに限られず、支持ブロック50と吸着パッド46のY軸方向の位置が重複していても良い。
【0065】
また、液晶露光装置10において、露光対象物である基板Pを上記各実施形態に係る物体の支持装置(例えば、上記第1の実施形態に係る複数の支持装置40)によって保持しても良い。
【0066】
また、照明系12で用いられる光源、及び該光源から照射される照明光ILの波長は、特に限定されず、例えばArFエキシマレーザ光(波長193nm)、KrFエキシマレーザ光(波長248nm)などの紫外光や、F2レーザ光(波長157nm)などの真空紫外光であっても良い。
【0067】
また、上記各実施形態では、投影光学系16として、等倍系が用いられたが、これに限られず、縮小系、あるいは拡大系を用いても良い。
【0068】
また、上記各実施形態では、液晶露光装置がスキャニング・ステッパ型である場合について説明したが、これに限らず、ステッパなどの静止型露光装置に上記各実施形態のマスクステージ装置14等を用いても良い。
【0069】
また、露光装置の用途としては、角型のガラスプレートに液晶表示素子パターンを転写する液晶用の露光装置に限定されることなく、例えば有機EL(Electro-Luminescence)パネル製造用の露光装置、半導体製造用の露光装置、薄膜磁気ヘッド、マイクロマシン及びDNAチップなどを製造するための露光装置にも広く適用できる。また、半導体素子などのマイクロデバイスだけでなく、光露光装置、EUV露光装置、X線露光装置、及び電子線露光装置などで使用されるマスク又はレチクルを製造するために、ガラス基板又はシリコンウエハなどに回路パターンを転写する露光装置にも適用できる。
【0070】
また、露光対象となる物体はガラスプレートに限られず、例えばウエハ、セラミック基板、フィルム部材、あるいはマスクブランクスなど、他の物体でも良い。また、露光対象物がフラットパネルディスプレイ用の基板である場合、その基板の厚さは特に限定されず、例えばフィルム状(可撓性を有するシート状の部材)のものも含まれる。なお、本実施形態の露光装置は、一辺の長さ、又は対角長が500mm以上の基板が露光対象物である場合に特に有効である。また、露光対象の基板が可撓性を有するシート状である場合には、該シートがロール状に形成されていても良い。
【0071】
液晶表示素子(あるいは半導体素子)などの電子デバイスは、デバイスの機能・性能設計を行うステップ、この設計ステップに基づいたマスク(あるいはレチクル)を製作するステップ、ガラス基板(あるいはウエハ)を製作するステップ、上述した各実施形態の露光装置、及びその露光方法によりマスク(レチクル)のパターンをガラス基板に転写するリソグラフィステップ、露光されたガラス基板を現像する現像ステップ、レジストが残存している部分以外の部分の露出部材をエッチングにより取り去るエッチングステップ、エッチングが済んで不要となったレジストを取り除くレジスト除去ステップ、デバイス組み立てステップ、検査ステップ等を経て製造される。この場合、リソグラフィステップで、上記実施形態の露光装置を用いて前述の露光方法が実行され、ガラス基板上にデバイスパターンが形成されるので、高集積度のデバイスを生産性良く製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明の物体保持装置及び方法は、物体を保持するのに適している。また、本発明の露光装置及び方法は、露光対象物に所定のパターンを形成するのに適している。また、本発明のフラットパネルディスプレイの製造方法は、フラットパネルディスプレイの生産に適している。また、本発明のデバイス製造方法は、マイクロデバイスの生産に適している。
【符号の説明】
【0073】
10…液晶露光装置、14…マスクステージ装置、30…ステージ本体、40…支持装置、42…ベース部、44…板ばね、46…吸着パッド、50…支持ブロック、M…マスク。