特許第6981750号(P6981750)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6981750シリコン単結晶の製造方法およびシリコン単結晶
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981750
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法およびシリコン単結晶
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20211206BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   C30B29/06 502Z
   C30B15/20
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-247522(P2016-247522)
(22)【出願日】2016年12月21日
(65)【公開番号】特開2018-100201(P2018-100201A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2018年12月26日
【審判番号】不服2020-5438(P2020-5438/J1)
【審判請求日】2020年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】川添 真一
(72)【発明者】
【氏名】飯田 哲広
【合議体】
【審判長】 宮澤 尚之
【審判官】 原 賢一
【審判官】 後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第01/34882(WO,A1)
【文献】 特開2011−11939(JP,A)
【文献】 特開2001−213692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B29/06,15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2.89×1013atoms/cm以上5.38×1014atoms/cm以下の窒素が含有されたシリコン単結晶をチョクラルスキー法により製造するシリコン単結晶の製造方法であって、
前記シリコン単結晶の外周研削後の直胴部におけるリング状のOSF領域の内径と当該直胴部から切り出されたシリコンウェーハの直径との比を内径比とし、
前記直胴部における固化率が9.6%以上93%以下の領域において、前記内径比が78%以上95%以下の範囲内となるように、予め設定された引き上げ速度で前記シリコン単結晶を引き上げる
ことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記内径比が前記範囲内となるように予め設定された引き上げ速度で第1のシリコン単結晶を引き上げる第1の引き上げ工程と、
前記第1のシリコン単結晶の外周研削後の直胴部における前記内径比を求める内径測定工程と、
前記内径測定工程で求められた前記内径比に基づいて、前記第1の引き上げ工程以降に引き上げられる第2のシリコン単結晶の外周研削後の直胴部における前記内径比が前記範囲内となるように、引き上げ速度を設定する速度設定工程と、
前記速度設定工程で設定された引き上げ速度で前記第2のシリコン単結晶を引き上げる第2の引き上げ工程と
を備えていることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記第1の引き上げ工程および前記第2の引き上げ工程は、前記設定された引き上げ速度に基づき引き上げ駆動部を駆動して前記シリコン単結晶を引き上げるときに、実際の引き上げ速度が前記設定された引き上げ速度に対して±4.1%の範囲内となるように、前記引き上げ駆動部を制御する
ことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
2.89×1013atoms/cm以上5.38×1014atoms/cm以下の窒素が含有されたシリコン単結晶であって、
外周研削後の直胴部における固化率が9.6%以上93%以下の領域でのリング状のOSF領域の内径が当該直胴部から切り出されたシリコンウェーハの直径の78%以上95%以下の範囲内であり、
外縁から5mmの範囲のBMD密度が1×10個/cm以上である
ことを特徴とするシリコン単結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の製造方法およびシリコン単結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの基板として用いられるシリコンウェーハ(以下、「ウェーハ」と言う場合がある)は、一般にチョクラルスキー法(以下、「CZ法」と言う場合がある)により育成されたシリコン単結晶から切り出され、研磨、熱処理等の工程を経て製造される。
図1は、引き上げられたシリコン単結晶の縦断面図であり、欠陥分布とV/Gの関係の一例を模式的に示す。Vはシリコン単結晶の引き上げ速度であり、Gは引き上げ直後におけるシリコン単結晶の成長方向の温度勾配である。温度勾配Gは、CZ炉のホットゾーン構造の熱的特性により、シリコン単結晶の引き上げの進行中において、概ね一定とみなされる。このため、引き上げ速度Vを調整することにより、V/Gを制御することができる。
【0003】
図1において、COP(Crystal Originated Particle)は、シリコン単結晶育成時に結晶格子を構成すべき原子が欠けた空孔の凝集体である。
OSF(Oxidation induced Stacking Fault:酸素誘起積層欠陥)領域は、COPが発生する領域(COP領域)に隣接しており、高温(一般的には1000℃から1200℃)で熱酸化処理した場合、OSF核がOSFとして顕在化する。引き上げ速度Vを調整することによって得られた、OSF領域にあるシリコン単結晶をスライスしてウーハとすることにより、ウェーハ面内にリング状にOSF領域が分布(リング状のOSF領域)するウェーハを得ることができる。
また、P領域は、空孔型点欠陥が優勢な無欠陥領域である。P領域は、as−grown状態で酸素析出核を含んでおり、熱処理を施した場合、酸素析出核が成長して内部微小欠陥である酸素析出物(BMD(bulk micro defect))が発生し易い。
領域は、格子間シリコン型点欠陥が優勢な無欠陥領域である。P領域は、as−grown状態でほとんど酸素析出核を含んでおらず、熱処理を施してもBMDが発生し難い。
【0004】
このようなシリコン単結晶における各領域の特性に着目して、ウェーハの特性を向上させる検討がなされている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【0005】
特許文献1には、外周部と保持手段で保持したときにこの保持手段の先端に位置する部分とに、OSF領域が存在しないウェーハが開示されている。このようなウェーハにおけるOSF領域が存在しない部分のBMD密度が1×10個/cm以上の場合、当該ウェーハが保持手段で保持されたときに、スリップ転位の発生が抑制されることが開示されている。
特許文献2,3には、リング状のOSF領域(以下、「R−OSF領域」と言う場合がある)が存在するウェーハに対する熱処理条件を制御して、ウェーハにおける径方向のBMD密度を均一化させることが開示されている。また、特許文献2には、外周部のBMD密度(以下、単に「外周部BMD密度」と言う)が1×10個/cm以上のウェーハが開示されているが、特許文献3には、このようなウェーハの開示がない。
特許文献4には、COP領域の大きさをウェーハの面積の80%以上にして、ウェーハにおける径方向のBMD密度を均一化させることが開示されている。
特許文献5には、R−OSF領域の半径がウェーハの半径の1/2以上になるようにシリコン単結晶を製造して、ウェーハにおけるボイド欠陥の水素ガスによる欠陥消失効果を深層部まで及ぼすことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−249501号公報
【特許文献2】特開2006−93645号公報
【特許文献3】特開2013−74139号公報
【特許文献4】特開2002−187794号公報
【特許文献5】特開2000−154095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1,2には、外周部BMD密度が1×10個/cm以上でありスリップ転位の発生を抑制可能なウェーハを、効率良く得られるシリコン単結晶の製造方法が開示されていない。
特許文献3に開示のウェーハでは、外周部BMD密度が1×10個/cm未満のためスリップ転位の発生を抑制できない。
特許文献4,5には、外周部BMD密度が1×10個/cm以上であることの開示がなく、スリップ転位の発生を抑制できないおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、シリコンウェーハ表層のボイド欠陥を消去する不活性雰囲気アニール処理(以下、AN処理と称す)後に外周部のスリップ転位の発生を抑制可能なシリコンウェーハを効率良く得られるシリコン単結晶の製造方法およびシリコン単結晶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシリコン単結晶の製造方法は、2.89×1013atoms/cm以上5.38×1014atoms/cm以下の窒素が含有されたシリコン単結晶をチョクラルスキー法により製造するシリコン単結晶の製造方法であって、前記シリコン単結晶の外周研削後の直胴部における固化率が9.6%以上の領域でのリング状のOSF領域の内径が当該直胴部から切り出されたシリコンウェーハの直径の78%以上95%以下の範囲内となるように、前記シリコン単結晶を引き上げることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、外周研削後の直胴部における固化率が9.6%以上の領域でのR−OSF領域の内径が、当該直胴部から切り出されたシリコンウェーハの直径の78%以上95%以下のシリコン単結晶を製造することによって、この条件を満たす領域から、AN処理後の外周部BMD密度が1×10個/cm以上のシリコンウェーハを効率良く得ることができる。
また、R−OSF領域とP領域との境界、つまりR−OSF領域の外周縁を判別することは困難であり、この境界と比べて判別が容易なR−OSF領域とCOP領域との境界、つまりR−OSF領域の内周縁を判別することで、外周部BMD密度が1×10個/cm以上であり、AN処理後にスリップ転位の発生を抑制可能なシリコンウェーハを効率良く得ることができる。
なお、AN処理の具体的な熱処理条件は、Arガス雰囲気下で温度が1150℃以上1250℃以下、時間が30分以上120分以下である。
【0011】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記直胴部における固化率が93%以下の領域での前記内径が前記範囲内となるように、前記シリコン単結晶を引き上げることが好ましい。
【0012】
本発明によれば、R−OSF領域の内径制御を行った領域から、AN処理後に外周部のスリップ転位の発生を抑制可能なシリコンウェーハを効率良く得ることができる。
なお、固化率は、直胴部上端を0%、下端を100%としたときの値である。
【0013】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記内径が前記範囲内となるように予め設定された引き上げ速度で第1のシリコン単結晶を引き上げる第1の引き上げ工程と、前記第1のシリコン単結晶の外周研削後の直胴部における前記OSF領域の内径を測定する内径測定工程と、前記内径測定工程で測定された前記内径に基づいて、前記第1の引き上げ工程以降に引き上げられる第2のシリコン単結晶の外周研削後の直胴部における前記内径が前記範囲内となるように、引き上げ速度を設定する速度設定工程と、前記速度設定工程で設定された引き上げ速度で前記第2のシリコン単結晶を引き上げる第2の引き上げ工程とを備えていることが好ましい。
【0014】
本発明によれば、第1のシリコン単結晶において外周研削後の直胴部におけるR−OSF領域の内径が、当該直胴部から切り出されたシリコンウェーハの直径の78%以上95%以下でなかった領域を、第2のシリコン単結晶において上記範囲内にすることができる。
【0015】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記第1の引き上げ工程および前記第2の引き上げ工程は、前記設定された引き上げ速度に基づき引き上げ駆動部を駆動して前記シリコン単結晶を引き上げるときに、実際の引き上げ速度が前記設定された引き上げ速度に対して±4.1%の範囲内となるように、前記引き上げ駆動部を制御することが好ましい。
【0016】
本発明によれば、実際の引き上げ速度が設定された引き上げ速度に対して±4.1%の範囲内となるように、引き上げ駆動部を制御することにより、R−OSF領域の内径がシリコンウェーハの直径の78%以上95%以下のシリコン単結晶を安定して製造できる。
【0017】
本発明のシリコン単結晶は、2.89×1013atoms/cm以上5.38×1014atoms/cm以下の窒素が含有されたシリコン単結晶であって、外周研削後の直胴部における固化率が9.6%以上の領域でのリング状のOSF領域の内径が当該直胴部から切り出されたシリコンウェーハの直径の78%以上95%以下の範囲内であることを特徴とする。
本発明のシリコンウェーハは、2.89×1013atoms/cm以上5.38×1014atoms/cm以下の窒素が含有されたシリコンウェーハであって、
リング状のOSF領域の内径が当該シリコンウェーハの直径の78%以上95%以下の範囲内であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】シリコン単結晶における欠陥分布とV/Gとの関係の一例を示す模式図。
図2】本発明を導くために行った実験1における固化率と引き上げ速度比率との関係を示すグラフ。
図3】前記実験1におけるR−OSF領域内径比と引き上げ速度比率との関係を示すグラフ。
図4】前記実験1におけるR−OSF領域内径比とAN処理後の外周部BMD密度との関係を示すグラフ。
図5】本発明を導くために行った実験2における昇温レートが10℃/分の場合の外周部BMD密度とスリップ長との関係を示すグラフ。
図6】前記実験2における昇温レートが4℃/分の場合の外周部BMD密度とスリップ長との関係を示すグラフ。
図7】本発明を導くために行った実験3における固化率と引き上げ速度比率およびR−OSF領域内径比との関係を示すグラフ。
図8】本発明を導くために行った実験4におけるR−OSF領域内径比と引き上げ速度比率との関係を示すグラフ。
図9】本発明の一実施形態に係る単結晶引き上げ装置の概略構成を示す模式図。
図10】前記一実施形態における固化率と設定引き上げ速度比率および許容速度閾値との関係を示すグラフ。
図11】前記単結晶引き上げ装置を用いたシリコン単結晶の製造方法の説明図。
図12】前記一実施形態における速度補正用情報であって、R−OSF領域内径比と引き上げ速度比率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[本発明を導くに至った経緯]
〔実験1:R−OSF領域内径比とシリコン単結晶の引き上げ速度およびAN処理後の外周部BMD密度との関係調査〕
窒素濃度が2.89×1013atoms/cm以上5.38×1014atoms/cm以下のシリコン単結晶の製造に際し、図2に実線で示すように、固化率に応じて引き上げ速度を変化させながら、実験例1のシリコン単結晶の直胴部を形成した。ドーパントをボロンにして、電気抵抗率を5Ω・cm以上20Ω・cm以下にした。
なお、図2では、固化率0%のときの引き上げ速度を1.0とした場合の各固化率における引き上げ速度の比率(引き上げ速度比率)を示す。ここで、引き上げ速度とは、移動平均速度である。また、他図においても、「引き上げ速度比率」とは、図2と同様の内容を表す。さらに、図2の破線は、直胴部形成時の一般的な引き上げ速度比率であり、引き上げ速度比率は直胴部全域で一定である。
【0020】
そして、この実験例1のシリコン単結晶の外周を3mm〜7mm程度研削して、その直径を200mmにした。この後、このシリコン単結晶の直胴部から複数のシリコンウェーハを得て、各シリコンウェーハにおけるR−OSF領域の内径を以下の方法で調べた。なお、固化率が9.6%以上93%以下の領域から、シリコンウェーハを得た。
【0021】
R−OSF領域の内径を調べる際に、まず、シリコンウェーハに対して、1100℃のウェット酸素雰囲気で2時間の熱処理を実施した。次に、2μmのライトエッチングを実施してR−OSF領域を顕在化させ、その内径を調べた。
R−OSF領域内径比(外周研削後の直胴部におけるR−OSF領域の内径/外周研削後の直胴部から切り出されたシリコンウェーハの直径)と引き上げ速度比率との関係を図3に示す。以下において、「外周研削後の直胴部におけるR−OSF領域の内径」を、単に「R−OSF領域の内径」と言い、「外周研削後の直胴部から切り出されたシリコンウェーハの直径」を、単に「シリコンウェーハの直径」と言う。
図3示すように、R−OSF領域内径比と引き上げ速度比率とには相関があり、引き上げ速度比率が大きく(引き上げ速度が速く)なるほどR−OSF領域内径比が大きくなり、引き上げ速度比率が小さく(引き上げ速度が遅く)なるほどR−OSF領域内径比が小さくなることがわかった。
【0022】
また、上記R−OSF領域の内径調査に用いたシリコンウェーハに隣接する位置からシリコンウェーハを得て、各シリコンウェーハにおけるAN処理後のBMDを以下の方法で調べた。
まず、AN処理後のシリコンウェーハに対して、780℃のドライ酸素雰囲気で3時間の第1熱処理を実施した後、1000℃のドライ酸素雰囲気で16時間の第2熱処理をさらに実施した。次に、2μmのライトエッチングを実施してBMDを顕在化させ、シリコンウェーハの外縁から5mmの範囲のBMD密度を外周部BMD密度として調べた。
【0023】
R−OSF領域内径比と外周部BMD密度との関係を図4に示す。なお、OSF調査とBMD調査とで同じシリコンウェーハを用いることができないため、隣接する2枚のシリコンウェーハのうち一方のOSF調査結果と他方のBMD調査結果とを対応させて、図4を作成した。
図4に示すように、R−OSF領域内径比とAN処理後の外周部BMD密度とには相関があり、R−OSF領域内径比が78%未満の場合と95%を超える場合、つまりR−OSF領域の内径がシリコンウェーハの直径の78%未満の場合と95%を超える場合、外周部BMD密度が1×10個/cm未満になる場合があることがわかった。ここで、酸素濃度は、11.0×1017atoms/cm以上13.5×1017atoms/cm以下(ASTM F−121(1979))であった。
【0024】
R−OSF領域の内径がシリコンウェーハの直径の78%未満の場合、外周部BMD密度が1×10個/cm未満になる理由は、BMDが発生し難いP領域が直胴部の外周部に位置するためと考えられる。また、P領域が外周部に位置する場合でも、このP領域がP領域に近く、BMDが発生し難いためと考えられる。
一方、R−OSF領域の内径がシリコンウェーハの直径の95%を超える場合、外周部BMD密度が1×10個/cm未満になる理由は、外周部にP領域が存在しないか、あるいは存在しても狭い範囲のためと考えられる。
【0025】
〔実験2:AN処理後の外周部BMD密度とスリップ耐性との関係調査〕
実験1で説明した実験例1のシリコン単結晶を製造した。また、図2に破線で示すように、直胴部全体で引き上げ速度比率を一定にしたこと以外は、実験例1と同様の条件で、実験例2のシリコン単結晶を製造した。
そして、実験1と同様に外周研削を行い実験例1,2のシリコン単結晶の直径を200mmにした後、以下の表1に示す位置から、シリコンウェーハを取得し、AN処理を行った後、実験1と同様の方法で外周部BMD密度を評価した。その結果を表1に示す。
【0026】
また、外周部BMD密度を評価したシリコンウェーハに隣接するシリコンウェーハに対して、AN処理を行った後スリップ耐性試験を行った。互いに隣接するシリコンウェーハを用いて外周部BMD密度評価とスリップ耐性試験とを行った理由は、上記実験1と同様に、同じシリコンウェーハで上記評価と試験とを行うことができないからである。
スリップ耐性試験では、シリコンウェーハの外周部領域をサポートするボート形状を有する横型炉を用いて、熱応力負荷熱処理を行った。熱応力負荷熱処理条件は、投入温度900℃、昇温レート10℃/分、1100℃で30分間の保持、降温レート2.5℃/分とし、取り出し温度900℃とした。そして熱処理後のシリコンウェーハをX線トポグラフィーで観察し、スリップ転位の長さ(以下、単に「スリップ長」と言う)を評価した。また、昇温レートを4℃/分としたこと以外は、上述の条件で熱応力負荷熱処理を行い、スリップ長を評価した。当該試験条件は、強制的にスリップを発生させる条件であり、製品の品質保証検査の条件ではない。
それらの結果を表1に示す。また、昇温レートが10℃/分の場合の外周部BMD密度とスリップ長との関係を図5に、昇温レートが4℃/分の場合の上記関係を図6に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1、図5,6に示すように、外周部BMD密度は、実験例1では1×10個/cm以上であり、実験例2では1×10個/cm未満であった。
スリップ長は、昇温レートが10℃/分の場合、実験例1では9.7mm以下であり、実験例2では13.5mm以上であった。昇温レートが4℃/分の場合、実験例1では8.7mm以下であり、実験例2では9.2mm以上であった。
外周部BMD密度が1×10個/cm以上となるようにシリコン単結晶を製造することで、スリップ耐性が高いシリコンウェーハを得られることがわかった。
【0029】
実験1,2の結果から、R−OSF領域の内径がシリコンウェーハの直径の78%以上95%以下のシリコン単結晶を製造することで、この条件を満たす領域から、AN処理後の外周部BMD密度が1×10個/cm以上であって、スリップ転位の発生を抑制可能なシリコンウェーハを効率良く得ることができることがわかった。
【0030】
〔実験3:直胴部の固化率と引き上げ速度比率およびR−OSF領域内径比との関係調査〕
図3に示すような、実験1で得られたR−OSF領域内径比と引き上げ速度比率との関係に基づいて、直胴部の長さ方向全域においてR−OSF領域の内径がシリコンウェーハの直径の78%以上95%以下となるような引き上げ速度比率を、図7に実線で示すように設定した。以下、この実線で示す引き上げ速度比率を設定引き上げ速度比率と言う。
そして、この設定引き上げ速度比率で実験例3のシリコン単結晶を製造した。なお、窒素濃度、ドーパント、電気抵抗率は実験1と同様の条件にした。
また、実際の引き上げ速度比率を図7に破線で示す。
図7に破線で示すように、実際の引き上げ速度比率は、若干のばらつきはあるものの、設定引き上げ速度比率とほぼ同じにすることができた。
【0031】
次に、設定引き上げ速度比率に基づく制御で得られた実験例3のシリコン単結晶に対し、実験1と同様に外周研削を行い、その直径を200mmにした後、複数の固化率に対応する位置から、シリコンウェーハを取得した。そして、実験1と同様の方法で、このシリコンウェーハのR−OSF領域の内径と外径とを評価した。
固化率に対応するR−OSF領域の範囲を、図7に設定引き上げ速度比率よりも太い縦の実線で示す。なお、R−OSF領域の範囲を示す実線の下端がR−OSF領域内径比を表し、上端がR−OSF領域外径比(外周研削後の直胴部におけるR−OSF領域の外径/シリコンウェーハの直径)を表す。
【0032】
図7に示すように、固化率が9.6%未満の領域では、引き上げ速度比率が安定せず、固化率が93%を超える領域では、R−OSF領域内径比が95%を超える領域が多くなることがわかった。
直胴部の固化率が9.6%未満の領域で上記現象が発生する理由は、肩部から直胴部への移行期からの経過時間が短いため、引き上げ速度が安定しないためと考えられる。
また、直胴部の固化率が93%を超える領域で上記現象が発生する理由は、偏析現象で窒素が高濃度化してR−OSF領域の幅が広がるためと考えられる。
以上のことから、固化率が9.6%未満の領域や93%を超える領域では、R−OSF領域内径比を78%以上95%以下に制御することが困難であることがわかった。
【0033】
〔実験4:引き上げ速度の許容速度閾値調査〕
実験1で説明した実験例1のシリコン単結晶を製造した。次に、シリコン単結晶の外周研削を行い、その直径を200mmにした後、固化率が9.6%以上93%以下の領域からシリコンウェーハを取得した。そして、実験1と同様の方法で、これらのシリコンウェーハのR−OSF領域の内径を評価した。
R−OSF領域内径比と引き上げ速度比率との関係を図8に示す。
【0034】
次に、R−OSF領域内径比と引き上げ速度比率との近似式を求め、この近似式からR−OSF領域内径比が78%となる引き上げ速度比率の下限値V1と、95%となる引き上げ速度比率の下限値V2とを求めた。V1は0.70、V2は0.76であった。そして、V1とV2との平均値VAを求め、VAに対するVAとV1(またはV2)との差分を、引き上げ速度比率の許容速度閾値VBとして求めた。差分は0.03であり、許容速度閾値VBは4.1%であった。
【0035】
上述のように許容速度閾値VBを求め、実際の引き上げ速度(比率)が設定された引き上げ速度(比率)に対して±4.1%の範囲内となるように、引き上げ駆動部を制御することにより、R−OSF領域の内径がシリコンウェーハの直径の78%以上95%以下のシリコン単結晶を安定して製造できると考えられる。
【0036】
[実施形態]
次に、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
〔単結晶引き上げ装置の構成〕
図9に示すように、単結晶引き上げ装置1は、CZ法(チョクラルスキー法)に用いられる装置であって、引き上げ装置本体2と、メモリ3と、制御部4とを備えている。
引き上げ装置本体2は、チャンバ21と、このチャンバ21内の中心部に配置された坩堝22と、この坩堝22を加熱する加熱部23と、断熱筒24と、引き上げ部25と、熱遮蔽体26とを備えている。
【0037】
チャンバ21の上部には、Arガスなどの不活性ガスをチャンバ21内に導入するガス導入口21Aが設けられている。チャンバ21の下部には、図示しない真空ポンプの駆動により、チャンバ21内の気体を排出するガス排気口21Bが設けられている。
チャンバ21内には、制御部4の制御により、チャンバ21上部のガス導入口21Aから、不活性ガスが所定のガス流量で導入される。そして、導入されたガスが、チャンバ21下部のガス排気口21Bから排出されることで、不活性ガスがチャンバ21内の上方から下方に向かって流れる構成となっている。
【0038】
坩堝22は、シリコンウェーハの原料である多結晶のシリコンを融解し、シリコン融液Mとするものである。坩堝22は、所定の速度で回転および昇降が可能な支持軸27に支持されている。坩堝22は、有底円筒形状の石英坩堝221と、この石英坩堝221を収納する炭素素材製の支持坩堝222とを備えている。
【0039】
加熱部23は、坩堝22の周囲に配置されており、坩堝22内のシリコンを融解する。
断熱筒24は、坩堝22および加熱部23を取り囲むように配置されている。
引き上げ部25は、一端に種結晶SCが取り付けられる引き上げケーブル251と、この引き上げケーブル251を昇降および回転させる引き上げ駆動部252とを備えている。引き上げ部25は、引き上げケーブル251に取り付けられた種結晶SCを坩堝22内のドーパント添加融液MDに着液した後、引き上げ駆動部252により所定方向に回転させつつ引き上げることにより、シリコン単結晶SMを引き上げる。
熱遮蔽体26は、加熱部23から上方に向かって放射される輻射熱を遮断する。
【0040】
メモリ3には、チャンバ21内のガス流量や炉内圧、加熱部23による坩堝22の加熱温度、坩堝22やシリコン単結晶SMの回転数など、シリコン単結晶SMの製造に必要な各種情報を記憶している。
また、メモリ3には、シリコン単結晶SMの引き上げ速度情報が記憶されている。引き上げ速度情報は、図10に示すような直胴部の固化率と設定引き上げ速度比率との関係を表す。
設定引き上げ速度比率は、固化率が9.6%以上93%以下の領域において、R−OSF領域内径比が78%以上95%以下となる部分がなるべく多くなるように設定されている。
【0041】
制御部4は、メモリ3に記憶された情報や作業者の設定入力などに基づいて、シリコン単結晶SMを製造する。
【0042】
〔シリコン単結晶の製造方法〕
次に、シリコン単結晶SMの製造方法について説明する。
本実施形態では、直胴部全体の窒素濃度が2.89×1013atoms/cm以上5.38×1014atoms/cm以下、ドーパントがボロン、電気抵抗率が5Ω・cm以上20Ω・cm以下、外周研削後の直胴部SM3の直径が200mmとなるようなシリコン単結晶SMを製造する場合を例示する。
【0043】
なお、直胴部SM3の外周研削後の直径は、300mm、450mmなど他の大きさであってもよい。
また、メモリ3には、直胴部から切り出されるシリコンウェーハの直径や長さなどに対応して、それぞれ異なるプロファイルの引き上げ速度情報が記憶されていることが好ましい。
【0044】
まず、単結晶引き上げ装置1の制御部4は、シリコン単結晶SMの製造条件、例えば加熱温度、Ar流量、炉内圧、坩堝22やシリコン単結晶SMの回転数などを設定する。
次に、制御部4は、図11に示すように、引き上げ工程S1を行う。この引き上げ工程S1は、引き上げ準備工程TP1と、引き上げ実施工程TP2とを備えている。
引き上げ準備工程TP1は、坩堝22を加熱することで、当該坩堝22内のポリシリコン素材(シリコン原料)およびドーパントを融解させるとともに窒素をドープし、ドーパント添加融液MDを生成する。その後、制御部4は、ガス導入口21Aからチャンバ21内にArガスを所定の流量で導入するとともに、チャンバ21内の圧力を減圧して、チャンバ21内を減圧下の不活性雰囲気に維持する。
【0045】
次に、制御部4は、引き上げ実施工程TP2を行う。この引き上げ実施工程TP2は、種結晶SCをドーパント添加融液MDに着液する着液工程と、ネック部SM1を形成するネック部形成工程と、肩部SM2を形成する肩部形成工程と、直胴部SM3を形成する直胴部形成工程と、図示しないテール部を形成するテール部形成工程と、シリコン単結晶SMを冷却する冷却工程と、シリコン単結晶SMをチャンバ21から取り出す取り出し工程とを備えている。
【0046】
引き上げ準備工程TP1の期間は、後述するように設定引き上げ速度比率を補正しても、シリコン単結晶SMの品質に影響を及ぼさない補正可能期間である。
引き上げ実施工程TP2の期間は、設定引き上げ速度比率を補正した場合、シリコン単結晶SMの品質に影響を及ぼす補正不可能期間である。
【0047】
制御部4は、1本目のシリコン単結晶SMの製造時における直胴部形成工程では、図10に示す各固化率の設定引き上げ速度比率に基づいて、引き上げ駆動部252を駆動してシリコン単結晶SMを引き上げるとともに、実際の引き上げ速度比率が図10の設定引き上げ速度比率となるように、引き上げ駆動部252を制御する。この引き上げの際、実際の引き上げ速度比率が、図10に一点鎖線で示す許容速度閾値の範囲を超えないように引き上げ駆動部252を制御してもよい。許容速度閾値は、各固化率の設定引き上げ速度比率に対して±4.1%の値に設定されていることが好ましい。なお、実際の引き上げ速度比率が許容速度閾値の範囲を超えないようにする制御は、作業者による手動制御であってもよいし、制御部4による自動制御であってもよい。
その後、制御部4は、取り出し工程が終わってから所定時間経過後に、次のシリコン単結晶SMの製造を開始する。
なお、連続して製造される2本のシリコン単結晶SMのうち、前のシリコン単結晶SMが第1のシリコン単結晶に相当し、後のシリコン単結晶SMが第2のシリコン単結晶に相当する。また、第1のシリコン単結晶の引き上げ工程S1が第1の引き上げ工程に相当し、第2のシリコン単結晶の引き上げ工程S1が、第2の引き上げ工程に相当する。
【0048】
ここで、実際の引き上げ速度比率が、設定引き上げ速度比率となるように、あるいは設定引き上げ速度比率に対する±4.1%の範囲内となるように、引き上げ駆動部252を制御したにもかかわらず、R−OSF領域内径比が78%以上95%以下にならない場合がある。例えば、チャンバ21のホットゾーンや坩堝22の劣化があった場合である。
そこで、以下のOSF評価工程S2を行い、2本目のシリコン単結晶の設定引き上げ速度比率を必要に応じて補正する。
【0049】
OSF評価工程S2では、まず、シリコン単結晶SMから直胴部SM3を切り出し、この直胴部SM3の直径が所望の大きさ(本実施形態では200mm)となるように外周研削を行う。
次に、直胴部SM3から複数の円柱ブロックを取得する。この際、固化率が9.6%未満の領域と、93%を超える領域とが含まれていない円柱ブロックを取得する。円柱ブロックの長さに特に制限はないが、後述するスライス工程で使用するワイヤソーのスライス能力などに応じて選択することが好ましい。例えば、円柱ブロックの長さとしては、100mm以上400mm以下が例示できる。
【0050】
次に、円柱ブロックの両端から評価用ウェーハを切り出し、各評価用ウェーハに対し、実験1においてR−OSF領域の内径を調べる際に行った熱処理とライトエッチングとを行い、R−OSF領域内径比を求める(内径測定工程)。
この後、各評価用ウェーハのR−OSF領域内径比が78%以上95%以下(以下、本実施形態において「合格範囲」と言う)か否かを判定し、両方とも合格範囲内の場合、この評価用ウェーハを取得した円柱ブロックを次の製品化工程S3に送る。なお、以下において、R−OSF領域内径比が合格範囲内の評価用ウェーハを「合格ウェーハ」、合格範囲外の評価用ウェーハを「不合格ウェーハ」と言う。
一方、少なくとも一方の評価用ウェーハが不合格ウェーハの場合、円柱ブロックにおける不合格ウェーハ取得位置よりも内側から、次の評価用ウェーハを取得して、この評価用ウェーハが合格ウェーハか否かを判定する(以下、「追い込み処理」と言う)。そして、不合格ウェーハの場合、追い込み処理を再度行い、合格ウェーハの場合、残った円柱ブロックを次の製品化工程S3に送る。
【0051】
次に、R−OSF領域内径比の評価結果に基づいて、設定引き上げ速度比率を必要に応じて補正する(速度設定工程)。
R−OSF領域内径比が78%未満の場合、不合格ウェーハに対応する固化率の設定引き上げ速度比率を大きく(引き上げ速度を速く)し、95%を超えている場合、不合格ウェーハに対応する固化率の設定引き上げ速度比率を小さく(引き上げ速度を遅く)する。一方、合格ウェーハに対応する固化率の設定引き上げ速度比率を補正しない。
【0052】
具体的には、R−OSF領域内径比が78%未満の場合、速度補正用情報である以下の式(1)に基づいて、R−OSF領域内径比から実際の引き上げ速度比率を求める。この式(1)は、図3に示すR−OSF領域内径比と引き上げ速度比率との関係を近似式で表したものであり、図12に示す近似直線を表す。
A=0.004×B+0.393 … (1)
A:引き上げ速度比率
B:R−OSF領域内径比(%)
【0053】
R−OSF領域内径比を合格範囲内に入れるためには、R−OSF領域内径比の狙い値を合格範囲の中央にすることが好ましい。
そこで、次に、R−OSF領域内径比が86.5%(合格範囲の上限値(95%)と下限値(78%)との中央の値)となる引き上げ速度比率を式(1)に基づき求め、この求めた引き上げ速度比率から実際の引き上げ速度比率を減じて得られる差を補正量として求める。そして、2本目のシリコン単結晶SM製造時における不合格ウェーハに対応する固化率の設定引き上げ速度比率に補正量を加える。
例えば、不合格ウェーハのR−OSF領域内径比が70%の場合、実際の引き上げ速度比率は、式(1)から0.673となる。式(1)のR−OSF領域内径比に86.5%を代入すると0.739が得られることから、補正量は0.066(=0.739−0.673)となる。この不合格ウェーハの固化率の設定引き上げ速度比率が0.75の場合、当該固化率における設定引き上げ速度比率を0.75から0.816に補正する。
なお、R−OSF領域内径比を合格範囲内に入れるために、R−OSF領域内径比の狙い値を合格範囲の中央にしたが、合格範囲内の中央以外の値にしてもよい。
【0054】
一方、R−OSF領域内径比が95%を超える場合、式(1)を用いずに、不合格ウェーハの固化率における設定引き上げ速度比率を所定量小さくする。この際、補正量が小さすぎると、2本目のシリコン単結晶SMにおける評価用ウェーハのR−OSF領域内径比が95%を超えたままとなり、補正量が大きすぎると、78%未満となる可能性があることから、補正量は、0.05以上0.15以下とすることが好ましい。
【0055】
また、上記補正に際し、不合格ウェーハと合格ウェーハまたは不合格ウェーハとに対応する固化率の設定引き上げ速度比率を、直線的や曲線的あるいは段階的に結ぶように、設定引き上げ速度比率全体を補正することが好ましい。
例えば、図10に二点鎖線で示すように、R−OSF領域内径比が78%未満であった不合格ウェーハW2に対応する固化率の補正後の設定引き上げ速度比率と、合格ウェーハW1に対応する固化率の未補正の設定引き上げ速度比率とを結ぶように、設定引き上げ速度比率全体を補正する。
【0056】
このようなOSF評価工程S2は、2本目のシリコン単結晶SMの補正可能期間(引き上げ準備工程TP1)内に終了する。このため、OSF評価工程S2の処理結果に基づいて、2本目のシリコン単結晶SMの引き上げ工程S1における設定引き上げ速度比率を補正しても、品質に悪影響を及ぼすことなく、2本目のシリコン単結晶SMにおけるR−OSF領域内径比が78%以上95%以下の領域を増やすことができる。
また、このような設定引き上げ速度比率の補正を繰り返すことによって、直胴部における固化率が9.6%以上93%以下の領域全体において、R−OSF領域内径比を78%以上95%以下の範囲内とすることができる。
なお、2本目以降のシリコン単結晶SMの製造において、直胴部形成工程は、OSF評価工程S2の結果に基づいて直前のシリコン単結晶SM製造時と異なる条件で行う場合があるが、直胴部形成工程以外の工程は、1本目と同じ条件で行う。
【0057】
OSF評価工程S2を行った後、製品化工程S3を行う。
製品化工程S3では、製品化対象の円柱ブロックをワイヤソーでスライスして、鏡面研磨などを行って、製品用のシリコンウェーハを製造する。
この製品化工程S3で製造されたシリコンウェーハは、2.89×1013atoms/cm以上5.38×1014atoms/cm以下の窒素が含有され、R−OSF領域内径比が78%以上95%以下となる。このようなシリコンウェーハは、外周部BMD密度が1×10個/cm以上となり、AN処理後にスリップ転位が発生し難いという特性を有する。
【0058】
製品化工程S3の後、BMD評価工程S4を行う。
BMD評価工程S4は、製品用のシリコンウェーハに対する抜き取り評価であって、実験1においてBMDを調べる際に行った熱処理とライトエッチングとを行い、外周部BMD密度を求める。
仮に、BMD評価工程S4において外周部BMD密度が1×10個/cm未満という結果が出て、設定引き上げ速度比率を補正する場合、BMD評価工程S4が、2本目のシリコン単結晶SMの引き上げ工程S1終了後、かつ、3本目のシリコン単結晶SMの補正可能期間経過後に終了するため、4本目のシリコン単結晶SMの引き上げ工程S1における設定引き上げ速度比率を補正することになる。このため、2本目、3本目のシリコン単結晶SMにおいて、AN処理後の外周部BMD密度が1×10個/cm未満となる領域が多くなってしまい、シリコンウェーハの生産率が低下してしまうおそれがある。
本実施形態では、1本目のシリコン単結晶SMに対するOSF評価工程S2の結果に基づいて、2本目のシリコン単結晶SMにおける設定引き上げ速度比率を補正するため、BMD評価工程S4後に設定引き上げ速度比率を補正する場合と比べて、シリコンウェーハの生産率を向上できる。
【0059】
〔実施形態の作用効果〕
上記実施形態によれば、R−OSF領域内径比が78%以上95%以下のシリコン単結晶を製造するため、この条件を満たす領域から、AN処理後の外周部BMD密度が1×10個/cm以上のシリコンウェーハを効率良く得ることができる。特に、R−OSF領域の外周縁と比べて判別が容易なR−OSF領域の内周縁を判別することで、AN処理後の外周部BMD密度が1×10個/cm以上であり、スリップ転位の発生を抑制可能なシリコンウェーハを効率良く得ることができる。
【0060】
また、固化率が9.6%以上93%以下の領域でのR−OSF領域内径比が78%以上95%以下となるように、設定引き上げ速度比率を設定しているため、R−OSF領域の内径制御が容易な領域から、AN処理後の外周部のスリップ転位を抑制可能なシリコンウェーハを効率良く得ることができる。
【0061】
また、実際の引き上げ速度比率が設定引き上げ速度比率に対して±4.1%の範囲内となるように、引き上げ駆動部252を制御することにより、R−OSF領域内径比がシリコンウェーハの直径の78%以上95%以下のシリコン単結晶を安定して製造できる。
【0062】
[変形例]
なお、本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しな
い範囲内において種々の改良ならびに設計の変更などが可能である。
例えば、OSF評価工程S2が2本目のシリコン単結晶SMの補正可能期間内に終了しない場合には、3本目のシリコン単結晶SMの補正可能期間に設定引き上げ速度比率を補正してもよい。このような場合でも、BMD評価工程S4後に設定引き上げ速度比率を補正する場合と比べて、生産率の低下を抑制できる。
また、許容速度閾値VBは4.1%未満でもよいし、許容速度閾値VBを設定せずに設定引き上げ速度比率となるように引き上げ駆動部252を制御してもよい。
【符号の説明】
【0063】
252…引き上げ駆動部、SM…シリコン単結晶、SM3…直胴部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
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図12