特許第6981763号(P6981763)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6981763-水質改善材 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981763
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】水質改善材
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/00 20060101AFI20211206BHJP
   C02F 11/02 20060101ALN20211206BHJP
【FI】
   C02F3/00 DZAB
   !C02F11/02
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-62501(P2017-62501)
(22)【出願日】2017年3月28日
(65)【公開番号】特開2018-164871(P2018-164871A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2020年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】藤野 健一
(72)【発明者】
【氏名】足立 恭子
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−242075(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102958833(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0007524(US,A1)
【文献】 特開2013−081901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00−78、3/00−34、11/00−20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塊状の無機材料からなる核材と、
前記核材の表面の少なくとも一部分を被覆するように前記核材に固定化された複数の鉄粒子と、
前記鉄粒子を前記核材に固定化している炭素質物と、
を備えている焼成物であり、
前記複数の鉄粒子が、表面の少なくとも一部が前記炭素質物から露出している鉄粒子を含んでおり、
不活性雰囲気中での熱重量分析において100℃〜500℃までの温度における重量減少率が1%以下である水質改善材。
【請求項2】
前記無機材料が、黒鉛、易黒鉛化炭素及び難黒鉛化炭素から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の水質改善材。
【請求項3】
前記炭素質物が、タール、ピッチ、天然高分子及び有機高分子より選ばれる1種以上の有機バインダー由来である請求項1又は2に記載の水質改善材。
【請求項4】
濃度3重量%の塩水への7日間の浸漬を3回繰り返した時の、前記核材に付着した前記鉄粒子1g当たりにおける1日当たりの平均鉄溶出量が0.7mg以上である請求項1からのいずれか1項に記載の水質改善材。
【請求項5】
底質環境改善材料である請求項1からのいずれか1項に記載の水質改善材。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載の水質改善材の製造方法であって、
核材である無機材料の表面に、有機バインダー及び鉄粒子を付着させて鉄付着無機材料を得る工程、
前記鉄付着無機材料を500℃以上の還元雰囲気で焼成して前記水質改善材を得る工程、
を含む水質改善材の製造方法。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項に記載の水質改善材の製造方法であって、
核材である無機材料を100℃〜300℃の範囲内の温度に加熱する工程、
加熱された前記無機材料の表面に、有機バインダー及び鉄粒子を付着させて鉄付着無機材料を得る工程、
前記鉄付着無機材料を500℃以上の還元雰囲気で焼成して前記水質改善材を得る工程、
を含む水質改善材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水中で長期に渡って安定的に高濃度の2価鉄イオンを溶出することによって、水域に生息する微生物をはじめとする生物活性を高め、例えば湾奥部などの閉鎖性水域の水質や底質環境を改善するための水質改善材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
都市圏に面した湾奥部のような閉鎖性水域の底質は、流入する生活排水および工業排水によって富栄養化が進行して堆積した有機物がヘドロ化している。そのため、特に夏季においては、富栄養化した底質が貧酸素状態となることにより発生する硫化水素等の悪臭や、風による撹拌で上下層の逆転に伴う青潮が度々発生し、生活環境の悪化や漁業被害が大きな問題となっている。
【0003】
底質環境を改善し、悪臭や青潮の発生を抑えるため、浚渫やばっ気処理などが対策として行われている。しかし、汚泥は水を多く含むうえ、重金属類を含む可能性もあることから最終処分が困難であり、浚渫作業によってさらに環境を悪化させてしまうという問題がある。強制的なばっ気処理は、継続的に動力を投入し続ける必要があることからコストが高いという問題がある。
【0004】
また、底質を覆砂するなどの手法も行われており、水酸化マグネシウムや石灰、高炉スラグなどを散布することによって物理化学的作用で底質環境の改善を図る方法(例えば、特許文献1)がこれまでに実施されてきている。また、近年においては、2価鉄イオンを溶出するような材料を散布することによって、リンやイオウのトラップ、底床および水域の微生物活性を高めることによる改善手法(例えば、特許文献2〜4)も提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1のような高炉スラグの散布は、スラグの水硬性を利用した物理的な封じ込めが主であって、スラグからの鉄の溶出量もあまり多くないと考えられるため、即効性が期待できない。
また、特許文献2および3のような材料については、鉄と炭素の局部電池作用を利用するために鉄の溶出量は多いものの、バインダーとして、澱粉や焼酎滓などの水溶性有機物を使用しているため、実際に一旦塊状物が崩壊してしまうと鉄と炭素の接触が不充分になりやすく、長期的な底質改善には疑問がある。また、バインダーとして使用した水溶性有機物が、逆に底質環境の生物学的酸素必要量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)を上げてしまうという問題もある。
さらに、特許文献4については、鉄を焼結するために有機系産業廃棄物を主とする有機物を使用しているため、鉄の溶出効率の低下や廃棄物に含まれる有害な重金属等による新たな汚染の可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4403095号公報
【特許文献2】特許4710036号公報
【特許文献3】特許5258171号公報
【特許文献4】特開2012−161779号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、海水中で新たな環境負荷を発生させることなく、2価鉄イオンを高濃度、かつ長期に渡って安定的に環境中に溶出させ続けることが可能な水質改善材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、鉄粒子を核材となる塊状の無機材料の表面に固着させることによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の水質改善材は、塊状の無機材料からなる核材と、
前記核材の表面の少なくとも一部分を被覆するように前記核材に固定化された鉄粒子と、
を備えている。
【0010】
本発明の水質改善材は、前記無機材料が、黒鉛、易黒鉛化炭素及び難黒鉛化炭素から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0011】
本発明の水質改善材は、前記鉄粒子が、タール、ピッチ、天然高分子及び有機高分子より選ばれる1種以上の有機バインダー由来の炭素質物によって固定化されていてもよい。
【0012】
本発明の水質改善材は、前記鉄粒子の表面の少なくとも一部が、前記炭素質物から露出していてもよい。
【0013】
本発明の水質改善材は、濃度3重量%の塩水への7日間の浸漬を3回繰り返した時の、前記核材に付着した前記鉄粒子1g当たりにおける1日当たりの平均鉄溶出量が0.7mg以上であってもよい。
【0014】
本発明の水質改善材は、底質環境改善材料であってもよい。
【0015】
本発明の水質改善材の製造方法は、
核材である無機材料の表面に、有機バインダー及び鉄粒子を付着させて鉄付着無機材料を得る工程、
前記鉄付着無機材料を500℃以上の還元雰囲気で焼成して前記水質改善材を得る工程、
を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の水質改善材の製造方法は、
核材である無機材料を100℃〜300℃の範囲内の温度に加熱する工程、
加熱された前記無機材料の表面に、有機バインダー及び鉄粒子を付着させて鉄付着無機材料を得る工程、
前記鉄付着無機材料を500℃以上の還元雰囲気で焼成して前記水質改善材を得る工程、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水質改善材は、鉄粒子が強固に核材に固着されており、高濃度の2価鉄イオンを長期間、底質環境中に溶出し続けることが可能である。
また、本発明の水質改善材は、製造が容易で低コストな材料であるため、大量の散布が可能である。しかも、使用によって重金属類による汚染やBOD、CODを増加させるなどの懸念がない安全な材料でもあるため、使用に際して新たな環境負荷が生じることもない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施の形態に係る水質改善材の模式的断面図である。
図2図1に示す水質改善材の要部を拡大して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
図1は、本実施の形態の一実施の形態に係る水質改善材の模式的断面図である。図2は、図1に示す水質改善材の要部を拡大して示す説明図である。図1に示すように、本実施の形態の水質改善材10は、複数の鉄粒子1が塊状の無機材料からなる核材2の表面に固着された構造を有する。図2に拡大して示すように、鉄粒子1は、有機バインダーに由来する炭素質物3よって核材2に固定化されている。有機バインダーに由来する炭素質物3は、鉄粒子1を核材2に担持させるための結着材として機能するとともに、鉄粒子1との接触によって局部電池を形成している。
【0021】
鉄と炭素の局部電池を形成するためには、図2に符号1aで示す鉄粒子のように、少なくともその表面の一部が有機バインダー由来の炭素質物3から露出していればよい。それに対し、図2において符号1bで示す鉄粒子のように、その全体が炭素質物3に埋包されているものは、鉄と炭素の局部電池が形成されないため、好ましくない。また、核材2と鉄粒子1は、両者が直接接触していてもよいし、あるいは、両者が有機バインダー由来の炭素質物3を介して接触していてもよい。
【0022】
<鉄粒子>
本実施の形態の水質改善材10は、核材2に固定された鉄粒子1が、炭素と接触して局部電池を形成することにより、水中へ2価鉄イオンとして溶出し、夏場、特に貧酸素状態での悪臭(硫化水素など)や赤潮(異常プランクトン発生)を抑制するとともに、磯やけによる藻場の再生に寄与するものである。このため、焼成後の最終製品では鉄粒子1は金属鉄となっていることが望ましい。
鉄粒子1となる鉄原料としては、鉄粉の他、製鉄ダスト、砂鉄などの酸化鉄、鉄鉱石粉などを用いることが可能であるが、鉄を多く含有する鉄粉や酸化鉄が好ましい。より好ましくは鉄(Fe)を主成分として炭素(C)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)の少なくとも一種以上が0.5重量%以上含まれている鉄鋼材料である。なお、このような鉄粒子1として、鋳鉄や炭素鋼、ステンレス鋼等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本実施の形態の水質改善材10を構成する鉄粒子1は、海水中において、接触している炭素との局部電池効果によって2価イオンとして水中に放出されるため、徐々に小さくなる。従って使用する鉄粒子1の粒度としては、例えば、JIS規格で7メッシュ以下であることが好ましく、JIS規格で200〜7メッシュであることがより好ましい。粒度がJIS規格で7メッシュを超えて大きすぎると混合や核材2への付着が難しくなる。なお、JIS規格ではメッシュの数値が小さくなるほど粒度は大きくなるため、「7メッシュ以下」というときは、例えば「6メッシュ」は含まないことを意味する。鉄粒子1の形状は、例えば球形などの粒状であればよく、不定形の塊状であってもよい。
【0024】
<核材>
本実施の形態の水質改善材10において使用される核材2は、比重が水よりも大きく、かつ、水に浸漬したときのpH変動が小さく、500℃以上、好ましくは700℃以上の熱処理が行われても安定な材質であれば特に限定されるものではない。このような材料としては、無機材料が適している。核材2を構成する無機材料としては、例えば、溶岩岩塊などの天然石の砕石や、シリカ、アルミナなどのセラミックス、黒鉛、易黒鉛化炭素、難黒鉛化炭素などの炭素材料が挙げられるが、核材2の表面に固着された鉄粒子1と局部電池を形成することができる炭素材料が核材2としてより好ましい。
【0025】
本実施の形態の水質改善材10で、核材2となる炭素材料には、黒鉛や易黒鉛化炭素であるコークスなどの他、難黒鉛化炭素である木炭や竹炭などの炭や、フェノール樹脂などを炭化したハードカーボンなども好ましく使用することができるが、安価であり、破砕物の形状が凹凸に富む塊状物となるコークスがより好ましい。なお、コークスにおける凹凸形状の目安としては嵩密度が1.2以上であるものが好ましい。
【0026】
ここで、コークスとは、石炭コークスのほか、石油または石炭系重質油からディレードコーキングプロセスにより得られる生コークスと呼称されるディレードコークス、またはディレードコークスを非酸化性雰囲気下で800℃以上の温度でか焼を行ったか焼コークスと呼称されるものが含まれる。本実施の形態では、生コークス、か焼コークスのいずれも核材2として使用することができるが、生コークスを使用する場合は、焼成時に溶融して流動することのない450℃以上の温度履歴を持つものが好ましい。
【0027】
核材2の形状は、特に限定されるものではなく、不定形状であっても構わないが、表面積の大きい形状が好ましい。また、例えば球形、多面体状、板状、ブロック状などの任意の形状のものを核材2として使用することによって、これらの形状をなす水質改善材10が得られる。つまり、核材2を任意の形状に成形しておくことによって、水質改善材10を所望の形状にしてもよい。
【0028】
<有機バインダー>
本実施の形態の水質改善材10は、核材2の表面への鉄粒子1を固着させるため、高温で炭素化する有機バインダーを使用する。有機バインダーとしては、タール、ピッチ、天然高分子及び有機高分子より選ばれる1種以上であることが好ましい。有機バインダーを用いることによって、焼成によって生成する炭素質物3が、核材2と鉄粒子1をより強固に固着させるだけでなく、水質改善材10の強度などの物性を改善できる。さらには、鉄粒子1と炭素質物3の間でも局部電池を形成することによって、より安定的、かつ高濃度な鉄イオンの溶出を促進することができる。そのような観点から、有機バインダーとしては、固定炭素分を20重量%以上有しており、芳香環を多く含有したピッチやフェノール樹脂、リグニン、またはフェノール成分を主成分とするリグニンスルホン酸塩などが好ましく、これらの中でも、固定炭素分が豊富で、結着力に優れたコールタールピッチが最も好ましい。
【0029】
コールタールピッチは、不活性または還元雰囲気における500℃以上の焼成により、固定炭素以外の水素、酸素、窒素、硫黄分等が分解、揮発して、焼成物の実質95重量%以上が炭素となる。また、コールタールピッチは、焼成時に、水素、酸素、窒素、硫黄などが放出されて空隙が形成されることから、水と鉄との接触面積が多くなり、局部電池による効率的な鉄イオン発生に寄与する。さらに、コールタールピッチは、導電性を有する強固な炭化物になるため、鉄粒子1を核材2に固定化するよいバインダーとなる。
なお、コールタールピッチの中でも固定炭素分が50重量%以上あるものが焼成時の形状維持の面からも好ましく、このようなコールタールピッチとしては、例えば、株式会社シーケム製のBPやIP(いずれも製品名)が例示される。
【0030】
有機バインダーは、鉄粒子1となる鉄原料100重量部に対して、例えば3〜40重量部の範囲内で配合することが好ましく、10〜30重量部の範囲内がより好ましい。有機バインダーが3重量部未満では、バインダーとしての効果がなく、鉄粒子1が脱落してしまうので好ましくない。また、40重量部を越えると焼成時に有機バインダーが溶融して鉄粒子1が埋没してしまったりすることにより、鉄イオンを溶出させる能力が低下する場合がある。
【0031】
コールタールピッチに代表される有機バインダーは、液状でも使用可能であるが、鉄粒子1となる鉄原料に対して均一に混合させるために、粉粒体がよい。この粉粒体の粒度としては、例えばJIS規格で200〜32メッシュがよい。有機バインダーの粒度が小さすぎると混合、混練性が悪化し、大きすぎると混合、加熱溶融が不均一になる可能性がある。
また、コールタールピッチは、例えば30〜150℃の範囲内に軟化点があるものが好ましい。このような軟化点を持つコールタールピッチの使用は、加熱しながら混合物を成型(造粒)するブリケットマシンや、溶融造粒に代表される乾式造粒などの分子間力による造粒方法には非常に都合がよい。これらの方法により、核材2に鉄粒子1を付着させた後、そのまま焼成すれば良いので、効率良く水質改善材10を製造することが可能である。
【0032】
また、有機バインダーには、コールタールピッチやフェノール樹脂などに加えて、製造時に核材2への鉄粒子1の付着を促進させるために有機溶剤や結着助剤を添加してもよい。有機溶剤は、有機バインダーを溶解させることができるものであれば特に限定されず、例えば、トルエンなどの芳香族化合物、ピリジン、キノリンなどの複素環式芳香族化合物や、ケロシンなどの脂肪族系化合物など一般的な有機溶剤が使用できるが、その後の溶剤回収や作業環境への影響を考慮すると、有機溶剤の代わりに結着助剤を使用することがより好ましい。
結着助剤は、焼成時に分解もしくは炭化するものであればよく、例えば、ゼラチンやデンプン糊、廃糖蜜、リグニンスルホン酸塩、コンニャク飛粉、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、デキストリン、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などが好適である。結着助剤を使用する場合、有機バインダーと結着助剤の重量配合比(有機バインダー:結着助剤)は、例えば99:1〜30:70とすることが好ましい。このような範囲内となるように結着助剤の配合比を調整することによって、鉄粒子1の付着性や鉄イオンの溶出等に悪影響を及ぼすことなく、本実施の形態の水質改善材10を容易に製造することができる。
【0033】
<組成>
本実施の形態の水質改善材10における鉄粒子1の付着量は、水中での2価鉄イオン溶出の持続性に応じて調整され得るが、例えば、核材2の100重量部に対して鉄粒子1が1〜100重量部の範囲内であり、好ましくは5〜80重量部の範囲内、より好ましくは20〜50重量部の範囲内である。鉄粒子1の付着量が1重量部未満であると、核材2や有機バインダー由来の炭素質物3に直接接触する割合が極端に少なくなるので局部電池を形成しにくくなり、また、表面に露出する鉄が少なすぎる結果、2価鉄イオンの供給能力が低いとともに持続性が悪くなる。一方、鉄粒子1の付着量が100重量部を超えると、局部電池が形成され十分な鉄イオン供給能力は備わるが、鉄イオンが急激にかつ大量に発生する為に、材料表面が鉄の水酸化物で厚く覆われてしまい、流れの弱い底層では海水との接触が遮断されて、かえって鉄イオン発生量が低減することがあり、好ましくない。
なお、鉄粒子1には、鉄以外にその他微量の元素(Ni、Mnなど)も含まれていてもよいが、上記付着量は、単純に鉄粒子1の付着量を指す。
【0034】
<鉄/炭素比>
本実施の形態の水質改善材10における鉄と炭素の比率については、核材2に炭素材料を使用するか、非炭素材料を使用するかによって異なる範囲となる。前者(核材2に炭素材料を使用する場合)においては、核材2と有機バインダー、結着助剤等に由来する炭素の合計100重量部に対して、鉄を1〜100重量部の範囲内が適している。後者(核材2に非炭素材料を使用する場合)においては、有機バインダー、結着助剤等に由来する炭素の合計100重量部に対して、鉄を50〜500重量部の範囲内が適する。鉄と炭素の比率が上記範囲内となるように最適化することによって、鉄と炭素による局部電池がより効果的に発現され、鉄イオンの溶出が高濃度で継続的に起こるとともに、核材2に対する鉄粒子1の強固な固着性を確保できる。
【0035】
<見かけ比重>
本実施の形態の水質改善材10は、その見かけ比重が、1.2以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましい。見かけ比重が1.2未満であると、鉄粒子1の付着量が少ないうえに、潮の干満などの水流による搖動で散布した位置から水質改善材10が流出してしまいやすくなる。また、核材2の見かけ比重と水質改善材10の見かけ比重の差が、1.2〜2.0倍の範囲内にあることが好ましい。
【0036】
<鉄粒子の結着性>
本実施の形態の水質改善材10は、その表面の鉄粒子1が核材2に直接、または有機バインダーによって間接的に固着されているため、輸送や散布時において鉄粒子1の脱落がなく、かつ散布後の持続的な鉄イオンの溶出を可能とする。
鉄粒子1の結着性は、所定量の水質改善材10を、ミキサーなどを用いて一定時間機械的に撹拌することによって評価することが可能である。鉄粒子1の結着性は、撹拌前の水質改善材10の重量aに対する撹拌後の水質改善材10の重量bの比率[(b/a)×100%]として表すことができる。結着性は、95%以上あることが好ましく、97%以上であることがより好ましい。鉄粒子1の結着性が95%未満であると鉄粒子1の脱落が多くなり、水質改善効果が得られにくくなる。
【0037】
<炭素質物による鉄粒子の被覆率>
本実施の形態の水質改善材10は、その表面に固着された鉄粒子1の表面の少なくとも一部が有機バインダー由来の炭素質物3から露出した状態となっていることが必須である。走査型電子顕微鏡(SEM)による観察からは、鉄粒子1の炭素質物3による被覆率は10〜90%の範囲内が適しており、好ましくは10〜70%の範囲内である。被覆率が10%未満であると鉄と炭素の接触が少ないために鉄イオンの溶出量が低下するだけでなく、鉄粒子1が脱落しやすい状態であるので好ましくない。また、被覆率が90%を超えると、鉄粒子1の露出面積が小さすぎるために鉄イオンの溶出量が少なくなるので好ましくない。なお、被覆率は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、水質改善材10に付着している鉄粒子1を任意に50個選び、各鉄粒子1について、その全表面積に対する、炭素質物3で覆われている部分の面積の比率を算出し、平均したものである。
【0038】
<鉄溶出量>
また、本実施の形態の水質改善材10は、3重量%濃度の塩水に7日間の浸漬を3回繰り返したときの水質改善材10の鉄付着量1gあたりにおける1日あたりの鉄溶出量が0.7mg以上であることが好ましく、1.2mg以上がより好ましく、さらに、1.5mg以上であることが望ましい。このように底質環境中に高濃度の2価鉄イオンを供給することによって、硫化水素やリンをトラップして短期間で水質改善効果を得ることができるほか、微生物をはじめとする生物群の活性を高めてより高い水質改善効果を上げることが可能となる。
【0039】
<熱重量減少率>
さらに、本実施の形態の水質改善材10は、不活性雰囲気中での熱重量分析における100℃〜500℃までの温度における重量減少率が1%以下であることが好ましい。100℃から500℃までの重量減少率が1%以下であるということは、核材2や有機バインダーなどに含まれる有機物が完全に炭素化していることを示している。そのため、水中に散布したときに鉄粒子1が脱離しにくく、かつ環境に有害な有機化合物が水質改善材10から溶出することが無いため、本材料による新たな環境負荷を生じることもない。
【0040】
本実施の形態の水質改善材10は、局部電池効果による2価鉄イオンの溶出を妨げない範囲において、鉄と炭素以外に、例えば、珪素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、リン、ナトリウム、カリウム等の元素を含有する鉱物系の無機物等をさらに含んでいても構わない。
なお、前記の鉱物系の無機物には、鉛や銅、クロム、カドミウムなどの環境上有害な重金属は含まれない。
【0041】
[製造方法]
本実施の形態の水質改善材10は、核材2の表面に鉄粒子1が、有機バインダー等に由来する炭素質物3で結着され、鉄粒子1の一部が表面に露出していれば、製造方法としては特に限定されるものはない。
【0042】
水質改善材10の好ましい製造方法として、以下の製法1〜3を挙げることができる。
【0043】
<製法1>
製法1は、以下の工程A〜工程Dを含むことができる。
工程A:
鉄粒子1となる鉄原料及び有機バインダー(さらに、必要に応じて有機溶剤や結着助剤を含んでもよい。以下、「有機バインダー等」と記すことがある)を混合し、それらの複合物を製造する工程。
工程B:
核材2を100℃〜300℃の範囲内の温度で加熱する工程。
工程C:
加熱された核材2の表面に、工程Aで得た複合物を付着させて鉄付着無機材料を作製する工程。
工程D:
鉄付着無機材料を不活性または還元雰囲気において500℃以上の温度で焼成して水質改善材10を得る工程。
【0044】
<製法2>
製法2は、製法1の工程B、工程Cに替えて、以下の工程B1、工程C1を含むことができる。なお、工程A、工程Dは、製法1と同様である。
工程B1:
核材2を、有機溶媒に浸漬するか、又は核材2に有機溶媒をスプレーして、表面および内部を有機溶媒で濡らして含浸させる工程。
工程C1:
有機溶媒を含浸させた核材2と、工程Aで得た複合物を混合した後、有機溶媒により有機バインダーを溶解しながら鉄原料を核材2に付着させて鉄付着無機材料を作製する工程。
なお、工程C1は、常温で、または加温しながら行うことができる。
【0045】
<製法3>
製法3は、製法1の工程B、工程Cに替えて、以下の工程B2、工程C2を含むことができる。なお、工程A、工程Dは、製法1と同様である。
工程B2:
核材2をアクリル、エポキシなどの有機系又はでんぷんのりなどの水系の結着助剤に浸漬するか、または核材2に結着助剤をスプレーして、表面を濡らしておく工程:
工程C2:
結着助剤で濡れた核材2と、工程Aで得た複合物を混合し、鉄原料を核材2に付着させて鉄付着無機材料を作成する工程。
【0046】
なお、製法1〜3の工程Aにおいて、鉄原料や有機バインダー等の原料の配合順序は、特に限定されず、鉄原料と結着助剤などとの混合物をまず作成してから有機バインダーを配合してもよいし、すべての原料を一度に配合してもよい。他の添加物を配合する場合もまた同様である。
【0047】
配合方法については、各種ブレンダーやミキサーなど一般的な混合機を使用することができる。
【0048】
また、工程Bで核材2の表面を加熱する装置は、連続式、バッチ式を問わず、一般的な(熱風)高温炉、キルンなどでよい。また、核材2としてコークスや炭などを用いる場合には、燃焼の危険性があることから不活性雰囲気が好ましい。また、工程B1で核材2を有機溶媒で濡らす場合には、一般的なスプレー塗布でもよく浸漬でもよい。浸漬の場合には、減圧にして核材2の内部までしみ込ませると接着性の面でさらによい。また、工程B2で核材2を結着助剤で濡らす場合も同様な方法でよい。
【0049】
工程Cで、核材2の表面に工程Aで得た複合物を付着させる方法としては、たとえば、ミキサー(コンクリートミキサーなどの回転式が簡便である)がよく、核材2を流動させながら複合物を噴きかけてもよい。
ただし、核材2の表面を加熱して有機バインダーを熱で溶融して結着させる場合には、核材2の表面温度を有機バインダーの軟化点または融点以上の温度を確保しておく必要がある。具体的には、前段階の工程Bで核材2を、100℃〜300℃の範囲内の温度、好ましくは有機バインダーの軟化点または融点よりも30〜150℃の範囲内で高い温度に加熱しておくとよい。たとえば、軟化点が90℃のバインダーピッチの場合には、核材2の表面を200℃くらいに加熱しておくと接着性が高くなる。加熱温度が低すぎると、有機バインダーが軟化または溶融せず、接着性が低く、鉄粒子1が欠落しやすい。加熱温度が高すぎると、有機バインダーがダマになり、核材2の表面に均一に付着しない。
【0050】
工程C、工程C1又は工程C2で作成された鉄付着無機材料は、造粒時に水や有機溶剤を使用した場合は60℃以上で乾燥した後、工程Dで不活性又は還元雰囲気下において焼成される。焼成には、例えば、リードハンマー炉、トップチャージ炉、シャトル炉、トンネル炉、ロータリーキルン、ローラーハースキルンあるいはマイクロウェーブ等の設備を用いることができるが、特にこれらに限定されるものではなく、連続式又はバッチ式のどちらであってもよい。焼成温度は有機バインダーが炭化する温度であれば特に制限はないが、少なくとも500℃以上であることが好ましい。特に有機バインダーとしてバインダーピッチを使用する場合は、ベンゾピレンなどが芳香族化合物が残留することが無いようにするため、焼成温度は700℃以上であることがより好ましく、900℃以上が更に好ましく、1000℃以上であることが最も好ましい。500℃以上の不活性または還元雰囲気下で焼成を行うことにより、有機バインダーを確実に炭化させるとともに、鉄原料中に含まれる酸化鉄の還元も行うことができる。焼成により得られた本実施の形態の水質改善材10は、BODの増加や有害な化学物質および重金属の溶出などの環境負荷がなく、局部電池効果によって2価鉄イオンを速やかに、かつ多量に溶出することができる。
なお、工程Dの焼成は複数回行ってもよく、一度焼成した水質改善材10を鉄やマンガンなどの化合物の水溶液に浸漬したのち、再度焼成を行うこともできる。
【0051】
以上のように、焼成工程を経た水質改善材10は、その後、不活性または還元雰囲気下のまま徐冷、もしくは徐冷の後、大気雰囲気下で取り扱いが可能な温度まで放冷されたのち、使用に供される。このようにして製造される水質改善材10は、河川や湖沼、湾内などの水中に散布するだけで、底質環境をはじめとする水質の改善効果が奏される。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0053】
[見かけ比重測定]
電子比重計(EW−300SG、アズワン)を用いてアルキメデス法により測定した。
【0054】
[鉄粒子の付着強度]
30回転/分のボールミル用ポットに水質改善材を入れて、30rpmで3分間回転したのち重量を測定し、処理前後の重量比から以下の基準により判定した
○(良好):処理前後の重量比が95%以上
×(不良):処理前後の重量比が95%未満
【0055】
[熱重量減少率測定]
造粒物を乳鉢で粉砕し、窒素雰囲気下で熱重量分析(TGA)を行い、熱重量減少率を測定した。測定には、株式会社リガク製 急速加熱示差熱天秤 R−TG−DTA/H8120を用い、昇温スピードは15℃/分で、100℃から500℃まで昇温させたときの重量減少率を測定した。
【0056】
[鉄化合物付着量]
材料を乳鉢で粉砕し、湿式分解−誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法にて測定した。
【0057】
[被覆率]
走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、水質改善材表面の鉄粒子を任意で50個選び、各鉄粒子について、画像解析ソフト(WinRooF:三谷商事株式会社製)を用いてその全表面積に対する、炭素質物で覆われている部分の面積の比率を算出し、平均したものである。
【0058】
[塩水浸漬テストによる鉄溶出量の測定]
3重量%濃度の塩化ナトリウム水溶液を作製し、超音波で10分処理した後、25℃、真空下(0.88MPa)で60分間、脱気処理したものを塩水浸漬テストに用いた。また、塩水浸漬は窒素雰囲気のデシケータ内で行った。
テストに用いた水質改善材の重量に対して、20倍量の塩化ナトリウム水溶液をガラス製サンプル瓶にいれる(たとえば、水質改善材が5gの場合には100gの塩化ナトリウム水溶液に浸漬する)。これを真空デシケータ内で、真空下(0.88MPa)で60分間、脱気処理して、窒素ガスを大気圧になるまで封入する。
7日間静置後、サンプル瓶を5秒間で10回、手で振とうしたのち、材料をピンセットでとりだして、新しい塩化ナトリウム水溶液を加えて、上記の要領で塩水浸漬テストを合計3回繰り返した。3回目終了後の浸漬テスト後の水溶液を回収し、10%の硝酸を塩化ナトリウム水溶液の1/30の容量加え、加熱攪拌して、発生した鉄イオンを全量溶解した。得られた溶解液について、パックテスト−Fe、デジタルパックテストマルチSP(登録商標;株式会社共立理化学研究所)によって全鉄濃度を測定し、下記の式(1)により、核材に付着した鉄粒子1g当たりにおける1日当たりの鉄溶出量(mg/鉄1g/日)を算出した。
鉄溶出量(mg/鉄1g/日)=[(C×V)÷W]÷D …(1)
[式(1)において、
C:浸漬テスト3回目の全鉄濃度(ppm)、
V:テスト後の回収液量(ml)、
W:試験に用いた水質改善材の鉄付着量(g)、
D:浸漬テスト3回目の浸漬期間:7日間、 を意味する]
【0059】
[使用原料]
・鉄粒子
鋳鉄粉(竹内工業株式会社製、28メッシュアンダー品 炭素:2〜4重量%、Si:4重量%以下、Mn:0.5〜1.5重量%、P:0.03重量%以下、S:0.03重量%以下)
・核材
ピッチコークス塊(新日鉄住金化学株式会社製、嵩密度:1.32、重量:1.0〜2.0g/個)
・有機バインダー
コールタールピッチ粉(新日鉄住金化学株式会社製、軟化点:85℃、固定炭素分:58重量%、50メッシュアンダー)
・結着助剤
(1)アクリル樹脂(スリーエム ジャパン株式会社製、3M99 アクリル樹脂系スプレー)
(2)可溶性でんぷん(和光純薬製、固定炭素分:9.3重量%)
(3)エポキシ樹脂(スリーエム ジャパン株式会社製、スリーボンドエポキシ系接着剤TB2082C)
【0060】
[実施例1]
ピッチコークス塊1.1gをガラス製サンプル瓶に入れた10gのトルエンに大気下で1時間浸漬し、ピッチコークス中のオープンポアにトルエン(和光純薬工業製 試薬1級)を染み込ませた。重量比で鋳鉄粉:コールタールピッチ粉(以下、「BP」と記す)=8.5:1.5を混合した混合粉20gをサンプル瓶に準備した。サンプル瓶の混合粉中にトルエンを染み込ませたピッチコークス塊を入れて、卓上型ボールミル回転架台で120rpmで1分攪拌して、ピッチコークス塊表面に鋳鉄粉とBPを付着させた。それを24℃で1昼静置させ、染み込んだトルエンを徐々に放散させながら、BPを溶解させて鋳鉄粉をピッチコークス塊に付着させた。
【0061】
表面に鋳鉄粉を付着させたピッチコークス塊は、燃料としてコークス粉が詰められた還元雰囲気焼成炉に入れ、100℃/時間で昇温し、900℃で2時間焼成した。焼成後は、自然放冷して、50℃以下になった時点で実施例1となる水質改善材である焼成物を取り出した。
【0062】
[実施例2]
ピッチコークス塊1.3gを250℃の高温炉に3時間入れて加熱した。重量比で鋳鉄粉:BP=8.5:1.5を混合した混合粉20gをサンプル瓶に準備する。サンプル瓶の混合粉中に加熱したピッチコークス塊を入れて、卓上型ボールミル回転架台で120rpmで1分攪拌して、ピッチコークス塊表面に鋳鉄粉とBPを付着させた。
その後は実施例1と同様にして焼成・冷却を行い、実施例2となる水質改善材を得た。
【0063】
[実施例3]
ピッチコークス塊1.3gを可溶性でんぷん5重量%水溶液に1時間浸漬した。重量比で鋳鉄粉:BP=8.5:1.5を混合した混合粉20gをサンプル瓶に準備する。サンプル瓶の混合粉中に可溶性でんぷんを付着したピッチコークス塊を入れて、卓上型ボールミル回転架台で120rpmで1分攪拌して、ピッチコークス塊表面に鋳鉄粉とBPを付着させた。その後、60℃で1昼夜乾燥して、ピッチコークス塊表面に鋳鉄粉とBPを付着させた。
その後は実施例1と同様にして焼成・冷却を行い、実施例3となる水質改善材を得た。
【0064】
[実施例4]
ピッチコークス塊1.2gに粘着性のアクリル樹脂をスプレー塗布した。重量比で鋳鉄粉:BP=8.5:1.5を混合した混合粉20gをサンプル瓶に準備する。サンプル瓶の混合粉中にアクリル樹脂が付着したピッチコークス塊を入れて、卓上型ボールミル回転架台で120rpmで1分攪拌して、ピッチコークス塊表面に鋳鉄粉とBPを付着させた。その後、60℃で1昼夜乾燥して、ピッチコークス塊表面に鋳鉄粉とBPを付着させた。
その後は実施例1と同様にして焼成を行い、実施例4となる水質改善材である焼成物を取り出した。
【0065】
[実施例5]
ピッチコークス塊1.3gを250℃の高温炉に3時間入れて加熱した。乳鉢に鋳鉄粉20gとBP2.5を混合し、さらにトルエン3gを添加して混合し、60℃で乾燥した。乾燥後、BPで被覆された鋳鉄粉を再度乳鉢で破砕した。次に、BPが付着した鋳鉄粉:BP=8.5:1.5を混合した混合粉20gをサンプル瓶に準備した。サンプル瓶の混合粉中に加熱したピッチコークス塊を入れて、卓上型ボールミル回転架台で120rpmで1分攪拌して、ピッチコークス塊表面に鋳鉄粉とBPを付着させた。
その後は実施例1と同様にして焼成・冷却を行い、実施例5となる水質改善材である焼成物を得た。
【0066】
[比較例1]
未処理の鋳鉄粉を単独で使用した。
【0067】
[比較例2]
重量比で鋳鉄粉:BP:エポキシ樹脂(液状)=25:65:10を乳鉢で混合し、10MPaで20φの円盤1.9gをプレス成型した。50℃で1昼夜硬化させた。
【0068】
[比較例3]
焼成を行わなかったこと以外は実施例4と同様にアクリル樹脂を結着助剤とし鋳鉄粉とBPを付着させたピッチコークス塊を作製した。
【0069】
[比較例4]
焼成を行わなかったこと以外は実施例3と同様に可溶性でんぷんを結着助剤とし鋳鉄粉とBPを付着させたピッチコークス塊を作製した。
【0070】
[比較例5]
焼成を行わなかったこと以外は実施例2と同様にして、鋳鉄粉とBPを付着させたピッチコークス塊を作製した
【0071】
以上の結果を表1及び表2に示した。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
実施例1〜5の水質改善材は、炭化された有機バインダーにより核材の表面に鉄が露出しつつも強固に結着しているため、ピッチコークス塊に鋳鉄粉、BP、樹脂、可溶性デンプンなどを加えて成形しただけの比較例1〜5とは異なり、局部電池効果によって速やかでかつ大量の2価鉄イオンの溶出が可能である。
また、実施例は900℃以上で焼成をおこなっているために、炭化の進行と炭素質物3の導電性の向上により、焼成を行わず、BPを加熱溶融させただけの比較例5よりも2価鉄イオン溶出量が多く、環境に有害な有機化合物などが溶出するおそれもない。
【0075】
このように、水質改善材10は、鉄粒子1が少なくともその表面の一部が露出した状態で有機バインダーに由来する炭素質物3によって強固に核材2に固着されており、鉄と炭素の良好な接触が持続的に続くため、局部電池効果によって高濃度の2価鉄イオンを長期間、底質環境中に溶出し続けることが可能である。従って、水質改善材10を河川や湖沼、湾内などに散布することで環境中に鉄イオンを、安全かつ速やかに、大量に供給することで水質の改善を図ることが可能であり、特に閉鎖性海域の底質環境改善材料として非常に有用である。
【0076】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0077】
1,1a,1b…鉄粒子、2…核材、3…炭素質物、10…水質改善材
図1
図2