(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981817
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】分光分析装置及び分光分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20211206BHJP
G01N 21/3504 20140101ALI20211206BHJP
【FI】
G01N21/27 F
G01N21/3504
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-166784(P2017-166784)
(22)【出願日】2017年8月31日
(65)【公開番号】特開2019-45240(P2019-45240A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2019年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】西村 克美
(72)【発明者】
【氏名】中谷 茂
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ポペ
【審査官】
赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−522455(JP,A)
【文献】
特開2004−309296(JP,A)
【文献】
特表2017−515117(JP,A)
【文献】
特開2015−227828(JP,A)
【文献】
特開2000−206041(JP,A)
【文献】
特開2000−074828(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/119127(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0050567(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0197794(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第104614337(CN,A)
【文献】
松野 玄,近赤外分光分析法のプロセスモニタリングへの応用(2),Chemical Times,2006年04月01日,No. 2,pp. 10-14,https://kanto.co.jp/dcms_media/other/backmp6_pdf27.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−G01N 21/01
G01N 21/17−G01N 21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に光を照射して得られる分光スペクトルから前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を測定する分光分析装置であって、
検量線を用いて前記分光スペクトルから前記測定対象成分の濃度を算出する濃度算出部と、
前記検量線の作成時の温度と前記測定対象成分の濃度測定時の温度との温度差分に伴う前記測定対象成分の濃度変化を、前記測定対象成分の濃度を求める波長域又は波数域に応じた温度補正式を用いて補正する濃度補正部とを備え、
前記温度補正式は、温度が高くなるに連れて補正前の濃度を小さくして出力する式であり、
前記濃度補正部は、前記測定対象成分の測定レンジに応じて前記温度補正式を変更する、分光分析装置。
【請求項2】
前記濃度算出部は、複数の測定対象成分の濃度を多変量解析を用いて算出するものであり、
前記濃度補正部は、前記複数の測定対象成分毎に設定された前記温度補正式を用いて、各測定対象成分の濃度を補正するものである、請求項1記載の分光分析装置。
【請求項3】
前記試料はガスであり、
前記温度補正式は、前記測定対象成分の温度により生じるエネルギー準位の変化を補正するためのものである、請求項1又は2に記載の分光分析装置。
【請求項4】
濃度既知の標準試料による複数の温度それぞれの分光スペクトルを取得する標準スペクトル取得部と、
前記複数の温度の標準スペクトルから前記温度補正式を生成する補正式生成部とを更に備える、請求項1乃至3の何れか一項に記載の分光分析装置。
【請求項5】
前記補正式生成部は、前記濃度算出部による濃度算出に用いられる波長域又は波数域が変更された場合に、当該変更された波長域又は波数域に対応する温度補正式に更新する、請求項4記載の分光分析装置。
【請求項6】
前記補正式生成部は、前記検量線を作成する際に得られた前記標準スペクトルから前記温度補正式を生成する、請求項4又は5記載の分光分析装置。
【請求項7】
試料に光を照射して得られる分光スペクトルから前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を測定する分光分析装置であって、
検量線を用いて前記分光スペクトルから前記測定対象成分の濃度を算出する濃度算出部と、
前記検量線の作成時の温度と前記測定対象成分の濃度測定時の温度との温度差分に伴う前記測定対象成分の濃度変化を、所定の温度補正式を用いて補正する濃度補正部とを備え、
前記温度補正式は、温度が高くなるに連れて補正前の濃度を小さくして出力する式であり、
前記濃度補正部は、前記測定対象成分の測定レンジに応じて前記温度補正式を変更する、分光分析装置。
【請求項8】
試料に光を照射して得られる分光スペクトルから前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を測定する分光分析方法であって、
検量線を用いて前記分光スペクトルから前記測定対象成分の濃度を算出する濃度算出ステップと、
前記検量線の作成時の温度と前記測定対象成分の濃度測定時の温度との温度差分に伴う前記測定対象成分の濃度変化を、前記測定対象成分の濃度を求める波長域又は波数域に応じた温度補正式を用いて補正する濃度補正ステップとを備え、
前記温度補正式は、温度が高くなるに連れて補正前の濃度を小さくして出力する式であり、
前記濃度補正ステップにおいて、前記測定対象成分の測定レンジに応じて前記温度補正式を変更する、分光分析方法。
【請求項9】
試料に光を照射して得られる分光スペクトルから前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を測定する分光分析装置に用いられる分光分析プログラムであって、
検量線を用いて前記分光スペクトルから前記測定対象成分の濃度を算出する濃度算出部としての機能と、
前記検量線の作成時の温度と前記測定対象成分の濃度測定時の温度との温度差分に伴う前記測定対象成分の濃度変化を、前記測定対象成分の濃度を求める波長域又は波数域に応じた温度補正式を用いて補正する濃度補正部としての機能とをコンピュータに備えさせるものであり、
前記温度補正式は、温度が高くなるに連れて補正前の濃度を小さくして出力する式であり、
前記濃度補正部は、前記測定対象成分の測定レンジに応じて前記温度補正式を変更することを特徴とする分光分析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフーリエ変換赤外分光法等の赤外分光法を用いた分光分析装置及び分光分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば排ガス等の試料に含まれる測定対象成分の濃度を測定するものとして、特許文献1に示すように、例えばFTIR(フーリエ変換赤外分光)法を用いたものがある。
【0003】
このFTIR法を用いた分光分析装置は、試料が導入される測定セルと、当該測定セルに向かって赤外光を照射する光照射部と、前記測定セルを通過した光の強度を検出する光検出器とを備えている。そして、この分光分析装置は、光検出器により得られた光強度信号を用いて排ガスの光吸収スペクトルを算出して、この光吸収スペクトルの吸光度から、測定対象成分の濃度を算出する。ここで、光吸収スペクトルの吸光度から濃度を算出するにあたっては、光吸収スペクトルの吸光度と当該吸光度が示す測定対象成分の濃度との検量線を用いている。
【0004】
上記の分光分析装置は、試料測定時において測定セルの温度は一定に温調されている。この測定セルの温度が検量線作成時の測定セルの温度と異なる場合には、検量線により得られた濃度に誤差が生じてしまう。
【0005】
この温度変化による誤差を減少させるものとしては、特許文献2に示すように、温度毎に検量線を補正するものある。具体的にこの分光分析装置は、予め同じサンプルを用いて基準温度と基準温度とは異なる温度とでスペクトルを測定し、それらの差スペクトルを求め、サンプルの温度変化に応じて係数をかけた差スペクトルを、測定スペクトルに加減することにより基準温度で測定したスペクトルと同等なスペクトルに変換し、サンプルの温度変化による検量線計算結果を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−101257号公報
【特許文献2】特開2005−331386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決すべくなされたものであり、検量線を補正するという発想ではなく、検量線により得られた濃度を温度により補正するという発想の下になされたものである。
【0008】
ここで、気体の状態方程式により測定対象成分の濃度は絶対温度が高くなるに連れて小さくなることから、検量線により得られる濃度の測定誤差は、絶対温度が高くなるに連れて補正後の濃度が大きくなるような補正式を用いて補正することが考えられる。
【0009】
ところで、本願発明者は、測定セルの温度を100℃から190℃まで変化させたときのCO
2、CO、NO、C
3H
8の濃度を測定した。なお、このとき用いた検量線は、180℃の測定セルによって作成したものである。
【0010】
そのときの各ガス成分の濃度変化を
図3に示している。
図3に示すように、CO
2濃度は、絶対温度に比例して変化するという気体の状態方程式を用いた補正式では補正できないことが分かった。また、NO濃度やC
3H
8濃度についても温度範囲によっては同様の挙動を示すことが分かった。
【0011】
これらの挙動は、試料が高濃度の場合には、光吸収スペクトルが飽和(ピークアウト)してしまうので、光吸収スペクトルにおいて吸収帯の裾野の吸光度の小さな波長域又は波数域の吸光度を用いていることが原因であると考えられる。具体的には、シミュレーションの結果において、光吸収スペクトルのうち、吸収帯の中央領域では、従来の理屈通りに温度が上がるに連れて強度が下がっているが、中央領域から離れた裾野の領域では、温度が上がるに連れて強度が上がる結果となっている。この現象については、
図4に示すように、いくつか存在するエネルギー準位の異なる回転状態の存在確率が、温度によって変化するためのであると考えられる。
【0012】
このように本発明では、気体の状態方程式を用いた補正に頼ることなく、補正検量線作成時の温度と試料測定時の温度との変化に対する濃度変化に柔軟に対応して補正することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明に係る分光分析装置は、試料に光を照射して得られる分光スペクトルから前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を測定する分光分析装置であって、検量線を用いて前記分光スペクトルから前記測定対象成分の濃度を算出する濃度算出部と、前記検量線の作成時の温度と前記濃度測定時の温度との温度差分に伴う前記測定対象成分の濃度変化を、前記測定対象成分の濃度を求める波長域又は波数域に応じた温度補正式を用いて補正する濃度補正部とを備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る分光分析方法は、試料に光を照射して得られる分光スペクトルから前記試料に含まれる測定対象成分の濃度を測定する分光分析方法であって、検量線を用いて前記分光スペクトルから前記測定対象成分の濃度を算出する濃度算出ステップと、前記検量線の作成時の温度と前記濃度測定時の温度との温度差分に伴う前記測定対象成分の濃度変化を、前記測定対象成分の濃度を求める波長域又は波数域に応じた温度補正式を用いて補正する濃度補正ステップとを備えることを特徴とする。
【0015】
このような本発明によれば、検量線の作成時の温度に対する濃度測定時の温度の変化分を補正するための温度補正式を用いて、測定対象成分の濃度を補正しているので、検量線を補正することなく、測定対象成分の濃度を補正することができる。また、温度補正式を測定対象成分毎に生成しておくことによって、絶対温度の増減に伴う測定対象成分の濃度の増減の挙動に合わせた補正を行うことができる。さらに、これによって、測定対象成分の濃度の補正をリアルタイムに行うことができる。
【0016】
分光スペクトルは、複数の成分に起因する吸光度信号が重畳する波長域又は波数域が存在したり、ピーク強度が飽和する波長域又は波数域が存在したりする。これらの影響を低減して精度良く濃度を測定するために、前記濃度算出部は、前記分光スペクトルにおける所定の波長域又は波数域を用いて前記測定対象成分の濃度を算出するものとされる。このとき、精度良く温度補正を行うためには、前記濃度補正部は、前記測定対象成分の濃度を求める波長域又は波数域に応じた温度補正式を用いることが望ましい。
【0017】
測定対象成分の種類や測定対象成分の測定レンジによっても濃度算出部が測定対象成分の濃度を算出する際に用いる波長域又は波数域が異なることになる。そのため、精度良く温度補正を行うためには、前記濃度補正部は、前記測定対象成分の種類又は前記測定対象成分の測定レンジに応じて前記温度補正式を変更することが望ましい。
【0018】
前記濃度算出部は、複数の測定対象成分の濃度を多変量解析を用いて算出するものであり、前記濃度補正部は、前記複数の測定対象成分毎に設定された前記温度補正式を用いて、各測定対象成分の濃度を補正するものであることが望ましい。
【0019】
気体の状態方程式を用いた補正では補正できない挙動を示す測定対象成分の濃度を好適に補正するためには、前記温度補正式は、温度が高くなるに連れて小さい値となることが望ましい。このとき、前記温度補正式は、前記測定対象成分の温度により生じるエネルギー準位の変化を補正するためのものとなる。
【0020】
前記試料はガスである場合には、測定対象成分の温度により生じるエネルギー準位の変化が生じ易く、本発明を適用した場合の効果が一層顕著となる。
【0021】
温度補正式を自動的に算出するための具体的な実施の態様としては、濃度既知の標準試料による複数の温度それぞれの分光スペクトルを取得する標準スペクトル取得部と、前記複数の温度の標準スペクトルから前記温度補正式を算出する補正式生成部とを更に備えることが望ましい。
【0022】
濃度算出部により用いられる波長域又は波数域は、干渉成分の有無、測定対象成分の種類又は測定レンジ等によって変更される。この変更に対応して精度良く補正するためには、前記補正式生成部は、前記濃度算出部による濃度算出に用いられる波長域又は波数域が変更された場合に、当該変更された波長域又は波数域に対応する温度補正式に更新することが望ましい。
【0023】
分光分析装置は定期的に検量線を更新する処理が行われる。この検量線の更新処理に合わせて補正式を更新してそれらの処理を共通化させるためには、前記補正式生成部は、前記検量線作成時に得られた前記標準スペクトルから前記温度補正式を算出することが望ましい。
【発明の効果】
【0024】
このように構成した本発明によれば、気体の状態方程式を用いた演算だけでは補正が困難な成分においても、成分毎に異なる温度影響を、検量線を補正することなく、検量線作成時の温度と試料測定時の温度との変化に対する濃度変化に柔軟に対応して補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本実施形態の赤外分光分析装置の構成を示す模式図である。
【
図2】同実施形態の情報処理装置の機能構成図である。
【
図3】各ガス成分の絶対温度と濃度との関係を示すグラフである。
【
図4】温度変化に伴うエネルギー準位の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明に係る赤外分光分析装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0027】
本実施形態の赤外分光分析装置100は、例えば自動車などの内燃機関から排出される試料である排ガスに含まれる複数の成分の濃度を時系列データとして測定する排ガス分析装置である。
【0028】
具体的にこの赤外分光分析装置100は、
図1に示すように、例えば自動車のテールパイプから出る排ガスの一部又は全部を試料採取部2により採取して、当該試料採取部2により採取された排ガスを希釈することなく測定セル3に導入して、FTIR法により排ガス中の例えば一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO
2)、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO
2)、窒素酸化物(NO
X)、水(H
2O)等の複数の成分について各濃度を測定するものである。この測定セル3の周囲には、測定セル3及び測定セル3内のガスの温度を温調するためのヒータ等の温調機構Hが設けられている。また、測定セル3の温度は温度センサT1により検出される。この温調機構Hは、温度センサT1の検出温度に基づいて演算装置COMにより所定の温度となるように制御される。
【0029】
また、赤外分光分析装置100において、測定セル3が設けられた排ガスラインL1には、測定セル3の下流側に、排ガスを測定セル3に導入するための吸引ポンプ4が設けられている。その他、排ガスラインL1には、排ガスの流量を調整するバルブ5、オリフィス51、排ガスの流量を測定する流量計6、排ガス中の塵埃を除去するフィルタ7等が設けられている。また、排ガスラインL1又は測定セル3には、光検出器9の校正を行うためのゼロガス、スパンガスを測定セル3に供給する基準ガス供給ラインL2、及び、排ガスラインL1又は測定セル3を清浄するためのパージガスラインL3が接続されている。
【0030】
さらに、赤外分光分析装置100は、測定セル3に向かって干渉させた赤外光を照射する光照射部8と、測定セル3を通過して射出された光の強度を検出する光検出器9とを備えている。そして、赤外分光分析装置100の演算装置COMは、光検出器9により得られた光強度信号を用いて排ガスの分光スペクトルのうち光吸収スペクトルを算出して、この光吸収スペクトルにおける所定の波長域又は波数域の吸光度から、複数の測定対象成分の濃度を算出する。
【0031】
そして、赤外分光分析装置100の演算装置COMは、
図2に示すように、測定対象成分の吸光度と測定対象成分の濃度との関係を示す検量線データを格納する検量線格納部10と、光吸収スペクトルと検量線データが示す検量線とから、測定対象成分の濃度を算出する濃度算出部11と、温度補正式を用いて測定対象成分の濃度を補正する濃度補正部12とを備えている。
【0032】
検量線格納部10は、所定の温度(例えば基準温度)下で作成された検量線データを格納している。この検量線は、各成分の濃度(複数の代表値であり、例えばCOの場合には、濃度2%、4%、6%、8%等である。)とそれぞれの吸光度の関係を定めたものである。この検量線データは、後述する検量線生成部16により作成することができる。なお、検量線データは演算式であってもよいし、表形式であってもよい。
【0033】
濃度算出部11は、光検出器9から光強度信号を取得するとともに、検量線格納部10から検量線データを取得して、光強度信号から光吸収スペクトルを算出し、当該光吸収スペクトルにおける所定の波長域又は波数域の吸光度と検量線データが示す検量線とから各測定対象成分の濃度を多変量解析により算出する。
【0034】
濃度補正部12は、温度センサT1の検出温度に基づいて、濃度算出部11により得られた各測定対象成分の濃度を、当該各測定対象成分に設定された温度補正式を用いて温度補正する。この温度補正式を示し補正式データは、補正式格納部17に格納されている。
【0035】
ここで、温度補正式は、検量線作成時における測定セル3の温度と濃度測定時における測定セル3の温度との温度差分に伴う測定対象成分の濃度変化を補正するためのものであり、測定対象成分の濃度を求める波長域又は波数域に応じて求められている。本実施形態の温度補正式は、多項式である温度−濃度関係式(例えば後述する数2の式)から求めることができる。
【0036】
具体的に温度−濃度関係式は、測定対象成分の種類に応じて、(1)絶対温度が高くなるに連れて濃度が大きくなる式、(2)絶対温度が高くなるに連れて濃度が小さくなる式、(3)絶対温度が高くなるに連れて所定の範囲では濃度が大きくなり、その範囲を超えた範囲では濃度が小さくなる式等が考えられる。
【0037】
例えば、CO
2の温度−濃度関係式は、温度が高くなるに連れて濃度が単調増加する式である。また、COの温度−濃度関係式は、温度が高くなるに連れて濃度が単調減少する式である。さらに、NOの温度−濃度関係式は、温度が高くなるに連れて濃度が単調増加から単調減少に切り替わる式である。なお、CO
2の温度変化に伴う濃度変化は、温度変化により生じるエネルギー準位の変化に起因するものと考えられるので、CO
2の温度補正式は、その温度変化により生じるエネルギー準位の変化を補正するための式ということができる。
【0038】
この温度補正式を生成するために、赤外分光分析装置100の演算装置COMは、濃度既知の標準試料による複数の温度それぞれの光吸収スペクトルを取得する標準スペクトル取得部13と、複数の温度の標準スペクトルから温度補正式を生成する補正式生成部14とを更に備えている。
【0039】
標準スペクトル取得部13は、検量線作成時等において標準試料の複数の温度それぞれの標準スペクトルを示す複数のスペクトルデータを取得して、当該標準スペクトル格納部15に格納する。ここで、標準スペクトルデータは、標準スペクトル取得部13が光検出器9からの光強度信号を取得して算出するものであってもよいし、濃度算出部11等の別の機能部が検量線作成時に光検出器9からの光強度信号を取得して算出したものを標準スペクトル取得部13が受信するものであってもよい。
【0040】
補正式生成部14は、濃度算出部11による複数の測定対象成分の濃度の算出に用いられる波長域又は波数域それぞれに対応する温度補正式を示す補正式データを生成するものである。また、補正式生成部14は、濃度算出部11による各測定対象成分の算出に用いられる波長域又は波数域が変更された場合に、当該変更された波長域又は波数域に対応する温度補正式を示す補正式データを生成して更新する。
【0041】
次に赤外分光分析装置100の検量線作成に伴って行われる温度補正式の算出処理について説明する。
【0042】
所定の基準温度(例えば100℃)に温調した測定セル3に濃度既知の標準試料(標準ガス)を導入する。そして、この状態で測定セル3に光照射部8から赤外光を測定セル3に照射し、測定セル3を透過した光を光検出器9により検出する。この光検出器9からの光強度信号から標準スペクトル取得部13等が標準スペクトルを算出して標準スペクトル格納部15に格納する。ここで、標準ガスが導入された測定セル3を前記基準温度から例えば10℃ごとに上昇させて各温度での標準スペクトルデータも取得する。
【0043】
そして、分光分析装置100の検量線生成部16は、基準温度で得られた標準スペクトルデータから各測定対象成分の濃度算出に用いる波長域又は波数域を決定して、当該波長域及び波数域における吸光度を用いて検量線を示す検量線データを生成する。
【0044】
また、濃度算出部11は、当該波長域及び波数域において、その他の温度で得られた標準スペクトルデータと前記検量線データとから各温度の測定対象成分の濃度を求める。そして、補正式生成部14は、その標準スペクトルデータから得られた各温度の測定対象成分の濃度と、標準ガスの測定対象成分の既知濃度とから温度補正式を示す補正式データを生成する。
【0045】
以下に、濃度補正部12により用いられる温度補正式について説明する。濃度補正部12により用いられる温度補正式は、以下により示すことができる。
【0046】
【数1】
ここで、C
compは、測定対象成分の補正後の濃度であり、C
unkは、測定対象成分の補正前の濃度である。また、係数a
0〜a
3は、フィッティングパラメータである。
【0047】
この式(数1)は以下により求めることができる。
【0048】
濃度既知の標準ガスを用いて得られた各温度に対する測定対象成分の濃度のグラフ(
図3に示すグラフであり、横軸が温度、縦軸が濃度である。)を用いてフィッティングすると、以下の関係式(温度−濃度関係式)となる。なお、以下では3次式としているが、4次式以上としてもよいし、1次式又は2次式としてもよい。
【0049】
【数2】
ここで、C
bottleは、標準ガスの測定対象成分の既知濃度である。また、C
bottle_measは、各温度に対する標準ガスの測定対象成分の測定値である。係数a
0〜a
3は、フィッティングパラメータである。
【0050】
この関係式は、濃度未知の測定対象成分を測定した場合にも成立するので、補正後の濃度C
compと、補正前の濃度C
unkとの関係は次のようになる。
【0051】
【数3】
この関係式(温度−濃度関係式)を変形することによって上記式(数1)を得ることができる。
【0052】
補正式生成部14は、排ガスに含まれる複数の測定対象成分毎にそれぞれ係数a
0〜a
3を算出して補正式データを生成する。この補正式生成部14により得られた係数a
0〜a
3を示す係数データは補正式格納部17に格納される。
【0053】
このように構成した本実施形態の赤外分光分析装置100によれば、検量線の作成時の温度に対する濃度測定時の温度の変化分を補正するための温度補正式を用いて、測定対象成分の濃度を補正しているので、検量線を補正することなく、測定対象成分の濃度を補正することができる。また、温度補正式を測定対象成分毎に生成しておくことによって、絶対温度の増減に伴う測定対象成分の濃度の増減の挙動に合わせた補正を行うことができる。さらに、これによって、測定対象成分の濃度の補正をリアルタイムに行うことができる。
【0054】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0055】
例えば、温度補正式は、検量線作成時に得られた標準スペクトルデータから求める構成の他に、検量線作成とは別に得られた標準スペクトルデータから求めるようにしてもよい。この場合、標準スペクトルデータを取得する際の測定セル3の温度は検量線作成時の温度と同一にする必要がある。
【0056】
また、前記実施形態では、濃度補正部12は、測定対象成分の濃度を求める波長域又は波数域に応じて、温度補正を行うか否かを判断してもよい。例えば、前記波長域又は波数域が吸収帯の中央領域ではなく、裾野の立ち上がり領域の場合にのみ、温度補正式を用いて濃度を補正するようにしてもよい。
【0057】
さらに、濃度補正部12は、測定対象成分の濃度が所定値以上の場合にのみ、温度補正式を用いて濃度を補正するようにしてもよい。
【0058】
前記実施形態では、濃度補正部12は、測定対象成分の測定レンジに応じて温度補正式を変更するものであってもよい。
【0059】
さらに、前記実施形態では濃度算出部11により得られた測定値を一回の補正により補正後の濃度を算出するように構成しているが、気体の状態方程式を用いた補正式で補正した濃度に対して前記実施形態と同様の補正を追加で行うように構成してもよい。
【0060】
前記実施形態では、FTIR法を用いた分析装置について説明したが、NDIR法を用いた分析装置であっても良い。
【0061】
前記実施形態では、測定セル3の温度T1を用いて温度補正を行う一例について説明をしたが、測定セル3内のガスの温度を用いて温度補正を行ってもよい。
【0062】
また、本発明の分光分析装置は、赤外光を用いたものに限られず、紫外光又は可視光を用いたものであっても良い。
【0063】
また、前記実施形態では、内燃機関から排出される排ガスを分析する排ガス分析装置に適用した場合について説明したが、工場や発電施設から排出される排ガスを分析するものであっても良いし、その他の試料ガスを分析するものであっても良い。さらに、試料がガスに限られず、薬液等の液体であってもよい。
【0064】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0065】
100・・・赤外分光分析装置
11 ・・・濃度算出部
12 ・・・濃度補正部
13 ・・・標準スペクトル取得部
14 ・・・補正式生成部