特許第6981888号(P6981888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 日立金属株式会社の特許一覧 ▶ 大同化学工業株式会社の特許一覧 ▶ ウメトク株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6981888-温熱間鍛造用潤滑離型剤 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981888
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】温熱間鍛造用潤滑離型剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 173/00 20060101AFI20211206BHJP
   C10M 129/26 20060101ALN20211206BHJP
   C10M 125/22 20060101ALN20211206BHJP
   C10M 145/12 20060101ALN20211206BHJP
   C10M 145/16 20060101ALN20211206BHJP
   C10M 145/40 20060101ALN20211206BHJP
   C10M 129/34 20060101ALN20211206BHJP
   C10M 129/50 20060101ALN20211206BHJP
   C10M 133/38 20060101ALN20211206BHJP
   C10M 133/08 20060101ALN20211206BHJP
   C10M 133/06 20060101ALN20211206BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20211206BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20211206BHJP
   C10N 10/06 20060101ALN20211206BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20211206BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20211206BHJP
   C10N 40/36 20060101ALN20211206BHJP
   B21J 3/00 20060101ALN20211206BHJP
【FI】
   C10M173/00
   !C10M129/26
   !C10M125/22
   !C10M145/12
   !C10M145/16
   !C10M145/40
   !C10M129/34
   !C10M129/50
   !C10M133/38
   !C10M133/08
   !C10M133/06
   C10N10:02
   C10N10:04
   C10N10:06
   C10N30:00 Z
   C10N30:12
   C10N40:36
   B21J3/00
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-11549(P2018-11549)
(22)【出願日】2018年1月26日
(65)【公開番号】特開2019-127561(P2019-127561A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2020年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000207399
【氏名又は名称】大同化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500018826
【氏名又は名称】ウメトク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 禎和
(72)【発明者】
【氏名】宮本 俊文
(72)【発明者】
【氏名】大友 貫
(72)【発明者】
【氏名】小関 秀峰
(72)【発明者】
【氏名】井上 謙一
(72)【発明者】
【氏名】小畑 克洋
(72)【発明者】
【氏名】村上 聡志
(72)【発明者】
【氏名】池田 修啓
(72)【発明者】
【氏名】宇田 紘助
(72)【発明者】
【氏名】荻巣 高志
【審査官】 厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−263087(JP,A)
【文献】 特開平10−036876(JP,A)
【文献】 特開2015−189952(JP,A)
【文献】 特開2008−248229(JP,A)
【文献】 特表2007−517963(JP,A)
【文献】 特開2006−022126(JP,A)
【文献】 特開2008−200689(JP,A)
【文献】 特開2000−129283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00 − 177/00
C10N 10/00 − 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型に塗布し、700℃以上1300℃以下の被加工剤を鍛造する温熱間鍛造用の潤滑離型剤であって、
潤滑離型剤全量に対し、
含有割合が0.01質量%以上0.98質量%以下の水溶性硫酸塩と、
含有割合が1質量%以上30質量%以下の水溶性高分子と、
含有割合が1質量%以上30質量%以下のカルボン酸化合物と、
含有割合が0.05質量%以上3質量%以下の防食添加剤と、
含有割合が0.1質量%以上3質量%以下のキレート剤と、
水と、を含有する、温熱間鍛造用潤滑離型剤。
【請求項2】
前記水溶性硫酸塩が、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ルビジウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、及び硫酸亜鉛よりなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の温熱間鍛造用潤滑離型剤。
【請求項3】
前記水溶性高分子が、ポリアクリル酸、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体、カルボキシメチルセルロース、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、及び、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体よりなる群から選択される1種以上である、請求項1又は2に記載の温熱間鍛造用潤滑離型剤。
【請求項4】
前記カルボン酸化合物が、アジピン酸、フタル酸、テレフタル酸、イタコン酸、トリメリット酸、安息香酸、及び、アゼライン酸、並びにこれらのアルカリ金属塩よりなる群から選択される1種以上である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の温熱間鍛造用潤滑離型剤。
【請求項5】
前記防食添加剤が、ベンゾトリアゾール系化合物、及び、アルカノールアミン系化合物よりなる群から選択される1種以上である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の温熱間鍛造用潤滑離型剤。
【請求項6】
前記キレート剤が、エチレンジアミン・テトラアセティックアシッド(EDTA)、ニトロ・トリアセティックアシッド(NTA)、ジエチレントリアミン・ペンタアセティックアシッド(DTPA)、ヒドロキシエチル・エチレンジアミン・トリアセティックアシッド(HEDTA)、及び、トリエチレンテトラミン・ヘキサアセティックアシッド(TTHA)よりなる群から選択される1種以上である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の温熱間鍛造用潤滑離型剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温熱間鍛造用潤滑離型剤に関する。
【背景技術】
【0002】
温熱間鍛造における金型寿命の向上は、コスト低減や環境負荷低減などに関わる大きな課題である。
当該金型寿命の向上に関し、金型の材質や、金型の表面処理の研究が広く行われ、近年その技術はますます進歩している。金型の材質としては、耐熱性だけでなく、強度と靭性を兼ね備えたマトリックスハイス系の材質などが開発されており、また金属表面処理として、公知の窒化処理に加え、浸硫窒化処理やその他表面処理を行う各メーカー独自の処理法が開発されている。
【0003】
例えば特許文献1では、熱間加工用の合金工具鋼鋼材として用いられているSKD−8やSKH−51に比べ、高温強度及び靭性を改善し、ヒートクラック、割れ、摩擦を生じにくい温間および熱間加工用工具鋼が開示されている。
【0004】
特許文献2では、マトリックスハイスにおいて、粗大炭化物の低減により、熱処理後の特性のバラツキが小さく、高い靭性が安定して得られる、低合金高速度工具鋼が開示されている。
【0005】
特許文献3では、耐摩耗性、耐かじり性に優れた硬化層を形成する方法として、特定の塩浴を用いる鉄鋼製品表面窒化方法が開示されている。
【0006】
また特許文献4では、耐焼付き性、耐かじり性に優れた温熱間加工用工具の処理方法として、特定の浸硫窒化ガス雰囲気下、処理を行うガス浸硫窒化処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−8347号公報
【特許文献2】特開2004−285444号公報
【特許文献3】特開平6−73524号公報
【特許文献4】特開2001−316795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のような手法により、金型の材質や表面処理により、金型寿命の向上が図られている。しかしながら高温の被加工材を高圧で塑性加工する温熱間鍛造では、金型に大きな負荷がかかるため、上述のような金型を選択し、更に被加工材と金型表面との界面に潤滑離型剤を存在させた場合であっても、金型表面が損傷することがあった。金型表面の一部が損傷すると、その部分を基点として金型の摩耗が急激に進行して、金型寿命が低下することがあった。
【0009】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、温熱間鍛造用の金型の寿命を向上し、鍛造施設の腐食を抑制することが可能な、温熱間鍛造用潤滑離型剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る温熱間鍛造用潤滑離型剤は、水溶性硫酸塩と、水溶性高分子と、カルボン酸化合物と、防食添加剤と、キレート剤と、水と、を含有する。
【0011】
本発明の温熱間鍛造用潤滑離型剤の一実施形態は、前記潤滑離型剤全量に対し、
前記水溶性硫酸塩の含有割合が0.01質量%以上0.98質量%以下、
前記水溶性高分子の含有割合が1質量%以上30質量%以下、
前記カルボン酸化合物の含有割合が1質量%以上30質量%以下、
前記防食添加剤の含有割合が0.05質量%以上3質量%以下、
前記キレート剤の含有割合が0.1質量%以上3質量%以下、である。
【0012】
本発明の温熱間鍛造用潤滑離型剤の一実施形態は、前記水溶性硫酸塩が、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ルビジウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、及び硫酸亜鉛よりなる群から選択される1種以上である。
【0013】
本発明の温熱間鍛造用潤滑離型剤の一実施形態は、前記水溶性高分子が、ポリアクリル酸、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体、カルボキシメチルセルロース、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、及び、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体よりなる群から選択される1種以上である。
【0014】
本発明の温熱間鍛造用潤滑離型剤の一実施形態は、前記カルボン酸化合物が、アジピン酸、フタル酸、テレフタル酸、イタコン酸、トリメリット酸、安息香酸、及び、アゼライン酸、並びにこれらのアルカリ金属塩よりなる群から選択される1種以上である。
【0015】
本発明の温熱間鍛造用潤滑離型剤の一実施形態は、前記防食添加剤が、ベンゾトリアゾール系化合物、及び、アルカノールアミン系化合物よりなる群から選択される1種以上である。
【0016】
本発明の温熱間鍛造用潤滑離型剤の一実施形態は、前記キレート剤が、エチレンジアミン・テトラアセティックアシッド(EDTA)、ニトロ・トリアセティックアシッド(NTA)、ジエチレントリアミン・ペンタアセティックアシッド(DTPA)、ヒドロキシエチル・エチレンジアミン・トリアセティックアシッド(HEDTA)、及び、トリエチレンテトラミン・ヘキサアセティックアシッド(TTHA)よりなる群から選択される1種以上である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、温熱間鍛造用の金型の寿命を向上し、鍛造施設の腐食を抑制することが可能な、温熱間鍛造用潤滑離型剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、鍛造設備の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の温熱間鍛造用潤滑離型剤(以下、「潤滑離型剤」ということがある)は、金型に塗布して使用する水をベースとした潤滑離型剤であり、(A)水溶性硫酸塩と、(B)水溶性高分子と、(C)カルボン酸化合物と、(D)防食添加剤と、(E)キレート剤と、(F)水とを含有し、本発明の効果を損なわない範囲で更に他の成分を含有してもよいものである。
上記本発明の温熱間鍛造用潤滑離型剤によれば、温熱間鍛造用の金型の寿命を向上し、鍛造施設の腐食を抑制することができる。
【0020】
前述の通り、温熱間鍛造に用いられる金型には大きな負荷がかかり、当該金型表面が損傷することがあった。
上記本発明の温熱間鍛造用潤滑離型剤は、一般の温熱間鍛造用潤滑離型剤のように高温の被加工材と、金型表面との界面で潤滑離型の働きをするだけでなく、含有する水溶性硫酸塩から供給される硫黄成分が、金型表面の鉄と反応して硫化鉄を生成する。当該硫化鉄が温熱間鍛造加工の際に発生した金型表面の損傷を修復するものと推定される。これらの結果、金型表面の損傷が拡大することなく、金型が長寿命化する。
【0021】
一方、後述する潤滑離型剤の使用方法において説明するように、潤滑離型剤は、プレス型に吹き付けて使用することがある。吹き付け時に余剰となった潤滑離型剤は、例えばプレス機等の隙間を通じて回収され再利用されることがある。このとき、潤滑離型剤は鍛造設備の様々な場所に接触している。水溶性硫酸塩を含む潤滑離型剤が鍛造設備に接触すると、鍛造設備内の金属が腐食するという課題が生じた。
本発明者らは、鋭意検討の結果、水溶性硫酸塩を含む温熱間鍛造用潤滑離型剤に、更に、防食添加剤、及びキレート剤を組み合わせて用いることにより、鍛造設備の腐食を防止することができるとの知見を得て本発明を完成させた。防食添加剤は、鍛造設備内の常温域の金属表面に吸着し防食皮膜を形成することにより、鍛造設備内の腐食を防止することができる。また、キレート剤は、上記の防食添加剤によって抑えきれなかった微細な腐食によって発生する硫酸イオンを封鎖して腐食の進行を抑えることができる。
以上のことから、本発明の温熱間鍛造用潤滑離型剤によれば、温熱間鍛造用の金型の寿命を向上し、鍛造施設の腐食を抑制することが可能となる。
【0022】
以下このような温熱間鍛造用潤滑離型剤の各成分について説明する。なお、本発明において、温熱間鍛造とは、被加工材の温度を、例えば、700℃以上にして鍛造する加工方法である。また、被加工材の温度を、例えば、1300℃以下にして鍛造する加工方法である。そして、この場合、温間鍛造とは、被加工材の温度を、例えば、700℃以上1000℃以下にして鍛造する加工方法をいい、熱間鍛造とは、被加工材の温度を、例えば、1000℃以上1300℃以下にして鍛造する加工方法をいう。
【0023】
(A)水溶性硫酸塩は、温熱間鍛造の際に金型表面と反応して、硫化鉄を生成し、金型表面の損傷を修復する。
【0024】
(A)水溶性硫酸塩は、水中で解離し得る公知の硫酸塩の中から適宜選択することができる。本発明において(A)水溶性硫酸塩は、中でも、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ルビジウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、又は、硫酸亜鉛であることが好ましい。本発明において(A)水溶性硫酸塩は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明の潤滑離型剤中の(A)水溶性硫酸塩の含有割合は、潤滑離型剤全量を100質量%としたときに、0.01質量%以上0.98質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上0.3質量%以下がより好ましい。
(A)水溶性硫酸塩の含有割合が0.01質量%以上であれば、金型表面の修復効果にすぐれ、金型の寿命を向上することができる。一方、(A)水溶性硫酸塩の含有割合を0.98質量%以下とすることにより、鍛造設備の腐食が抑制され、また温熱間鍛造時における硫黄の燃焼による臭気の発生が抑制され、作業環境が向上する。
【0026】
(B)水溶性高分子は、潤滑離型材中の成分を金型表面に付着させ強固な潤滑皮膜を形成するために用いられる。
【0027】
本発明において(B)水溶性高分子は、水溶性の置換基を有する高分子化合物であればよく、公知のものの中から適宜選択することができる。水溶性の置換基としては、カルボキシル基、スルホ基などの酸性基、アミノ基などの塩基性基や、ヒドロキシル基等が挙げられ、前記(A)水溶性硫酸塩と塩形成しにくい点から酸性基であることが好ましく、中でも、カルボキシル基であることがより好ましい。
カルボキシル基を有する(B)水溶性高分子としては、ポリアクリル酸、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体、カルボキシメチルセルロース、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。
本発明において(B)水溶性高分子は市販品を用いてもよい。例えば、ポリアクリル酸の市販品としては、アロン(登録商標)(東亞合成株式会社)、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体の市販品としては、アクアリック(登録商標)(株式会社日本触媒)、カルボキシメチルセルロースの市販品としては、セロゲン(登録商標)(第一工業製薬株式会社)、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体の市販品としては、イソバン(登録商標)(クラレ株式会社)、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体の市販品としては、ガントレッツ(登録商標)(アイエスピー・ジャパン株式会社)などが挙げられる。
本発明において(B)水溶性高分子は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
(B)水溶性高分子は、酸性基をアルカリ金属塩、またはアミン塩としてもよい。当該アルカリ金属としては、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。また、アミン塩を形成するアミンは特に限定されないが、水溶性の点から、エタノールアミン等のアルカノールアミンが好ましい。アルカリ金属塩、又はアミン塩は、酸性基と、所望のアルカリ金属の水酸化物、または、所望のアミン等を反応させて得ることができる。
【0029】
本発明の潤滑離型剤中の(B)水溶性高分子の含有割合は、潤滑離型剤全量を100質量%としたときに、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。
(B)水溶性高分子の含有割合が1質量%以上であれば、金型への付着効果に優れている。また、(B)水溶性高分子の含有割合が30質量%以下であれば、潤滑離型剤の流動性に優れ、均一な潤滑皮膜が形成される。
【0030】
(C)カルボン酸化合物は、形成した潤滑皮膜の潤滑性向上に優れた効果を示し、被加工材と金型との間の摩擦を低減して、良好な成形性を発揮する。
【0031】
(C)カルボン酸化合物は、分子内に1個以上のカルボキシル基を有する化合物であり、分子量が2000未満の化合物を用いることが好ましい。カルボン酸の具体例としては、アジピン酸、フタル酸、テレフタル酸、イタコン酸、トリメリット酸、安息香酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0032】
(C)カルボン酸化合物は、潤滑性の点から、カルボキシル基が塩形成したカルボン酸塩であることが好ましく、中でもアルカリ金属塩であることが好ましい。当該アルカリ金属としては、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。カルボン酸塩を用いる場合、原料として所望のカルボン酸を用いてもよく、また、前記カルボン酸を原料とし、潤滑剤を製造する段階で、アルカリ金属の水酸化物と反応させてカルボン酸塩を形成してもよい。
(C)カルボン酸化合物は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
本発明の潤滑離型剤中の(C)カルボン酸化合物の含有割合は、潤滑離型剤全量を100質量%としたときに、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。
(C)カルボン酸化合物の含有割合が1質量%以上であれば、形成された皮膜の潤滑性に優れている。また、(C)カルボン酸化合物の含有割合が30質量%以下であれば、皮膜の金型への密着性に優れている。
【0034】
(D)防食添加剤は、(A)水溶性硫酸塩による鍛造設備内の腐食を抑制するものである。(D)防食添加剤は、金属表面に吸着し防食皮膜を形成することにより、鍛造設備内の腐食を防止することができる。
【0035】
本発明において(D)防食添加剤は、有機物であることが好ましい。有機系の(D)防食添加剤は、常温では鍛造設備内の金属表面を保護する吸着皮膜を形成する一方、温熱間鍛造金型の表面では被加工材等の熱により分解するため、(A)水溶性硫酸塩からの硫黄と金型損傷部分との反応を妨げない。
【0036】
(D)防食添加剤は、中でも、防食性の点から、ベンゾトリアゾール系化合物、又は、アルカノールアミン系化合物であることが好ましい。ベンゾトリアゾール系化合物の具体例としては、1,2,3−ベンゾトリアゾールや、カルボキシベンゾトリアゾールなどが挙げられる。また、アルカノールアミンの具体例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられる。
(D)防食添加剤は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
本発明の潤滑離型剤中の(D)防食添加剤の含有割合は、潤滑離型剤全量を100質量%としたときに、0.05質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上2質量%以下がより好ましい。
(D)防食添加剤の含有割合が0.05質量%以上であれば、十分な防食効果を得ることができる。また、(D)防食添加剤の含有割合が3質量%以下であれば、潤滑離型剤の潤滑性などの点で優れている。
【0038】
(E)キレート剤は、(A)水溶性硫酸塩による鍛造設備内への腐食の進行を抑制する。(E)キレート剤によれば、鍛造設備内の金属表面の微細な腐食によって発生する硫酸イオンを封鎖し、腐食の進行を抑えることができる。鍛造設備内において硫酸イオンは腐食を進行させる因子であり、発生する硫酸イオンを封鎖除去しなければ、微細な腐食が著しく進行して大きな腐食となる恐れがある。
本発明において(E)キレート剤は、有機系の物質であることが好ましい。有機系の(E)キレート剤は、常温では硫酸イオンを封鎖する一方、温熱間鍛造金型の表面では被加工材等の熱により分解するため、(A)水溶性硫酸塩からの硫黄と金型損傷部分との反応を妨げない。
【0039】
(E)キレート剤の具体例としては、エチレンジアミン・テトラアセティックアシッド(EDTA)、ニトロ・トリアセティックアシッド(NTA)、ジエチレントリアミン・ペンタアセティックアシッド(DTPA)、ヒドロキシエチル・エチレンジアミン・トリアセティックアシッド(HEDTA)、トリエチレンテトラミン・ヘキサアセティックアシッド(TTHA)などが挙げられる。
(E)キレート剤は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
本発明の潤滑離型剤中の(E)キレート剤の含有割合は、潤滑離型剤全量を100質量%としたときに、0.1質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上2質量%以下がより好ましい。
(E)キレート剤の含有割合が0.1質量%以上であれば、硫酸イオンの十分な封鎖効果を得ることができる。また、(E)キレート剤の含有割合が3質量%以下であれば、潤滑離型剤の潤滑性などの点で優れている。
【0041】
また、本発明において(F)水は、特に限定されず、工業用水、水道水、蒸留水、イオン交換水、純水などから適宜選択して用いることができる。
【0042】
本発明の潤滑離型剤中の(F)水の含有割合は、前記各成分の含有割合に応じて適宜調製すればよい。潤滑離型剤全量を100質量%としたときに、40質量%以上95質量%以下であることが好ましく、50質量%以上80質量%以下がより好ましい。
【0043】
本発明の潤滑離型剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に他の成分を含有してもよい。このような他の成分としては、例えば防腐剤などが挙げられる。
【0044】
本発明の温熱間鍛造用潤滑離型剤の製造方法は特に限定されないが、一例として以下の方法を示す。まず(F)水に、アルカリ金属の水酸化物を添加し、撹拌機などで撹拌して完全溶解させる。そこに(B)水溶性高分子を添加し、撹拌して完全溶解させる。次いで、(C)カルボン酸化合物を添加し、撹拌することにより完全溶解させる。この時、中和反応による発熱があるので、液の突沸を防ぐため、80℃以下に冷却しながら溶解させることが好ましい。次いで、(A)水溶性硫酸塩、(D)防食添加剤、(E)キレート剤を撹拌しながら添加して均一に溶解させる。更に必要に応じて、防腐剤等のその他の成分を添加してもよい。このようにして温熱間鍛造用潤滑離型剤を製造することができる。
【0045】
本発明の温熱間鍛造用潤滑離型剤の使用方法の一例について、図1を参照して説明する。図1は、鍛造設備の一例を示す模式断面図である。なお図1中のパンチ型1’及び1はそれぞれプレス前とプレス時の状態を表しており、同一のパンチ型である。図1の例では、パンチ型1とダイス型4と、潤滑離型剤5用の吹出口2を備えている。パンチ型1とダイス型4との組合せによりキャビティ3が形成される。
図1の例では、ダイス型4内に被加工材6を配置し、潤滑離型剤5は吹出口2からプレス前のパンチ型1’に向けて吹きつけ、パンチ型1をプレス機の動作により図1中矢印方向にプレス7させて、後方押出し加工により被加工材を鍛造成形する。なお、鍛造設備は、通常、鍛造プレス機を備え(図示せず)、その他の構成については特に限定されず、公知のあらゆる構成とすることができる。
本発明の潤滑離型剤は、原液または原液を水で希釈して使用することができる。原液を希釈することで、使用環境に適した潤滑離型剤の濃度や粘度に調整することができる。また、原液のままとすることで、使用前の運搬時には容量を圧縮して、潤滑離型剤の運搬性を向上することができる。なお、原液を希釈する場合であっても、水を除く各成分の含有比率は変化しない。
原液または原液を水で希釈した潤滑離型剤は、例えばエアミックススプレーなどによって金型に直接塗布する。高温(100〜400℃)の金型に塗布された潤滑離型剤は、水が蒸発し金型表面に固形成分による潤滑皮膜を形成する。当該潤滑皮膜は被加工材と金型との間の摩擦を軽減し、金型から金属部品を容易に離型することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
潤滑離型剤を、表1に示す各成分の組成に基づき、以下のように製造した。水に水酸化ナトリウムを添加し撹拌した。そこへイソブチレン−無水マレイン酸共重合体、アジピン酸を順に添加し撹拌して完全に溶解させた。次に硫酸ナトリウム、1,2,3−ベンゾトリアゾール、エチレンジアミン・テトラアセティックアシッドを添加し、防腐剤を添加して、実施例1の潤滑離型剤を得た。
【0048】
[実施例2〜6]
実施例1において、各成分の組成を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2〜6の潤滑離型剤を得た。
【0049】
[比較例1]
実施例1において、硫酸ナトリウム、1,2,3−ベンゾトリアゾール、エチレンジアミン・テトラアセティックアシッドを添加せず、その他の成分の組成を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の潤滑離型剤を得た。
【0050】
[比較例2]
実施例1において、1,2,3−ベンゾトリアゾール、エチレンジアミン・テトラアセティックアシッドを添加せず、その他の成分の組成を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の潤滑離型剤を得た。
【0051】
[比較例3]
実施例1において、エチレンジアミン・テトラアセティックアシッドを添加せず、その他の成分の組成を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例3の潤滑離型剤を得た。
【0052】
<腐食試験>
上記実施例および比較例で得られた潤滑離型剤をそれぞれ用い、以下の試験条件で銅板腐食試験、及び、鋼板腐食試験を行った。
【0053】
(銅板腐食試験)
銅板腐食試験は、幅長さ12mm、縦長さ80mm、厚さ2mmの銅板を使用した。この銅板の表面を#100番の研磨紙で研磨した後、エチルエーテルで溶剤洗浄を行い試験片とした。この試験片を、水道水で希釈倍率4倍にした実施例及び比較例の潤滑離型剤それぞれに半浸漬させ、温度40℃で2週間静置し腐食の状態を観察した。結果を表1に示す。
評価基準
○:腐食が認められなかった。
△:表面に変色が認められた。
×:腐食が認められた。
【0054】
(鋼板腐食試験)
鋼板腐食試験は、幅長さ20mm、縦長さ80mm、厚さ1mmのSPCC−SD鋼板を使用した。この鋼板の表面を#100番の研磨紙で研磨した後、エチルエーテルで溶剤洗浄を行い試験片とした。この試験片を、水道水で希釈倍率4倍にした実施例及び比較例の潤滑離型剤それぞれに半浸漬させ、温度40℃で2週間静置し腐食の状態を観察した。結果を表1に示す。
評価基準
○:腐食が認められなかった。
△:表面に変色が認められた。
×:腐食が認められた。
【0055】
【表1】
【0056】
上記腐食試験の結果から、1,2,3−ベンゾトリアゾール、及び、エチレンジアミン・テトラアセティックアシッドを含有する実施例1〜6の潤滑離型剤は、腐食防止性能の優れていることが示された。
【0057】
<金型寿命評価>
実施例1、実施例2、実施例4、及び比較例1の潤滑離型剤を使用し、以下の方法により、実機での温間鍛造による金型寿命の評価を行った。なお、このとき、潤滑離型剤は、これを原液として、水で4倍希釈して使用した。
金型寿命評価は、図1に示す鍛造設備を用いて以下のように行った。ダイス型4内に被加工材を配置し、上記実施例及び比較例の潤滑離型剤を吹出口2からパンチ型1に向けて吹きつけ、パンチ型1をプレス機の動作により図中矢印方向に移動させて、後方押出し加工により被加工材を鍛造成形した。
金型の摩耗が進行すると、当該摩耗部に優先的に被加工材が入り込むため、製品全体としてのボリューム不足となる。結果として、後方押出しされた被加工材の端部が欠肉し、加工品全長Lが所定の寸法を満足しなくなる。これをもって金型寿命と判断した。ワークの加熱温度は700℃〜1000℃に加熱して行った。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
上記金型寿命試験の結果、表2に示されるように、実施例1、実施例2および実施例4の潤滑離型剤を用いることにより、比較例1を用いた場合に対して、金型命数が2.7倍となることが明らかとなった。このように本発明の潤滑離型剤によれば、温熱間鍛造用の金型の寿命を向上し、鍛造施設の腐食を抑制することができる。
【符号の説明】
【0060】
1’ パンチ型(プレス前)
1 パンチ型(プレス時)
2 吹出口
3 キャビティ
4 ダイス型
5 温熱間鍛造用潤滑離型剤
6 被加工材(ワーク)
7 プレス
図1