(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに(E)下記一般式(3)で表されるシリル基を1分子中に少なくとも1個有し、25℃での粘度0.01〜30Pa・sを有するオルガノポリシロキサンを(A)成分100質量部に対して0.1〜80質量部で含む、請求項1又は2記載の熱伝導性シリコーン組成物
−SiR4f(OR5)3−f (3)
(式中、R4は互いに独立に、非置換又は置換の1価炭化水素基であり、R5は互いに独立に、アルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基であり、fは0、1又は2である)。
さらに(G)SiH基を1分子中に少なくとも2個有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンを、組成物中のアルケニル基の合計個数に対するSiH基の合計個数の比が0.5〜2となる量で含有する、請求項1〜4のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピューター、通信装置、医療機器等の電子機器に使用されるCPUやメモリーなどのLSIは集積度の向上や動作の高速化に伴い、消費電力が増大すると共にその発熱量も増大している。この熱により電子機器の故障または機能不全が生じることから、熱を効果的に放散させる放熱対策が重要になっている。
【0003】
従来、電子機器等において、電子部品の温度上昇を抑えるために、アルミニウム、銅、黄銅等、熱伝導率の高い金属を用いたヒートシンクに直接伝熱する方法が取られる。ヒートシンクは電子部品から発生する熱を伝導し、その熱を外気との温度差によって表面から放出する。電子部品から発生する熱をヒートシンクに効率よく伝えるために、ヒートシンクと電子部品を空隙なく密着させる必要があり、柔軟性を有する低硬度熱伝導性シートあるいは熱伝導性グリースは電子部品とヒートシンクの間に介装されている。
【0004】
しかし、従来から使用されている熱伝導性シリコーンゴムシートでは電子部品との界面に接触熱抵抗が存在するため、熱伝導性能には限界がある。
【0005】
近年、作業効率の観点から、常温で固体であり熱によって軟化する相変化型放熱シート(フェイズチェンジシート)が提案されている。これは、前もってシートを用意することで、電子部品やヒートシンクへ熱をかけることで自由に装着可能な取扱い性に優れた放熱材料であるとともに、熱により軟化することで電子部品との界面の界面接触熱抵抗が無視できるレベルとなり、従来の熱伝導性シートと比較して、優れた放熱性能を示すものである。
【0006】
これまでに様々なフェイズチェンジシートが提案されている。それらフェイズチェンジシートの先行技術として、例えば、特表2000−509209号公報(特許文献1)には、アクリル系感圧粘着剤とα―オレフィン系熱可塑剤と熱伝導性充填剤からなる熱伝導性材料、あるいはパラフィン系蝋と熱伝導性充填剤からなる熱伝導性材料が記載されている。また、特開2000−336279号公報(特許文献2)には、熱可塑性樹脂、ワックス、熱伝導性充填剤からなる熱伝導性組成物が記載されている。
【0007】
しかし、これらはいずれも有機物をベースにしたもので、難燃性を指向した材料ではなく、自動車等にこれらの部材が組み込まれた場合には、高温による劣化が懸念される。
【0008】
一方、耐熱性、対候性、難燃性に優れる材料として、シリコーンが知られており、シリコーンをベースにした同様の熱軟化性材料も多数提案されている。一例として、特開2000−327917号公報(特許文献3)には、熱可塑性シリコーン樹脂とワックス状変性シリコーン樹脂と熱伝導性充填剤からなる組成物が記載されている。
【0009】
しかし、これらの組成物は、シリコーン以外にワックス等の有機物やシリコーンを変性したワックスを含有しているため、シリコーン単品と比較して難燃性及び耐熱性に劣るという欠点がある。
【0010】
難燃性及び耐熱性を改良した材料として、特開2007−150349号公報(特許文献4)には熱可塑性シリコーン樹脂と熱伝導性充填剤からなる放熱部材が記載されている。該放熱部材はシートとして成形物を提供して、電子部品やヒートシンクへ装着するものであった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の熱伝導性シリコーン組成物をより詳細に説明する。
(A)成分は、本組成物の主成分であり、下記平均組成式(1)で表される。
(R
13SiO
1/2)
a(R
12SiO
2/2)
b(R
1SiO
3/2)
c(SiO
4/2)
d(R
2O
1/2)
e
(1)
該オルガノポリシロキサンは、25℃での動粘度500〜1,000,000mm
2/sを有する。好ましくは、1,000〜10,000mm
2/sを有する。動粘度が上記下限値未満であると、得られる架橋物の室温での十分な硬さが得られなくなるおそれがある。一方、上記上限値超では、取扱い作業性が低下する。なお、本発明において、動粘度は、ウベローデ型オストワルド粘度計を用いて25℃にて測定した値である。
【0018】
式(1)中、R
1はフェニル基、炭素数1〜6の、アルキル基又はシクロアルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、または水素原子である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基が例示される。シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、及びシクロへキシル基が例示される。アルケニル基としてはビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、及びヘキセニル基が例示される。
【0019】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、(A)成分が特定量のフェニル基及びSiH基を有することを特徴とする。即ち、上記式中、フェニル基の含有量はR
1の合計個数のうち50〜80%であり、好ましくは50〜70%である。フェニル基量が上記下限値未満であると、室温で十分な硬さを得られなくなる。上記上限値を超えると、得られる硬化物の機械的強度が低下するため好ましくない。さらに上記式中、R
1の合計個数のうち水素原子の個数割合は10〜20%であり、好ましくは10〜15%である。SiH基の量が上記下限値未満であると、得られる硬化物は室温で十分な硬さを得られなくなる。また、上記上限値を超えると、得られる硬化物は高温での軟化が不十分となる。上記(A)成分はアルケニル基を有していてもよいが、該アルケニル基の含有量はR
1の合計個数のうち0〜20%であり、好ましくは0〜15%である。アルケニル基の含有量が上記上限を超えると、得られる架橋物の高温での軟化が不十分となるため好ましくない。
【0020】
式(1)中、R
2は水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基が挙げられる。好ましくは、メチル基、及びエチル基である。
【0021】
式(1)中、aは、一般式:R
13SiO
1/2で表されるシロキサン単位の割合を示す数であり、a+b+c+d=1に対して、0≦a≦0.2、好ましくは0≦a≦0.1を満たす数である。aが上記上限を超えると、得られる硬化物が室温での十分な硬さを得られなくなる。bは、一般式:R
12SiO
2/2で表されるシロキサン単位の割合を示す数であり、a+b+c+d=1に対して、0.2≦b≦0.7、好ましくは0.4≦b≦0.7を満たす数である。bが上記下限未満であると、得られる硬化物は高温での軟化が不十分となる。また、上記上限を超えると、得られる硬化物は室温での十分な硬さが得られなくなる。cは、一般式:R
1SiO
3/2で表されるシロキサン単位の割合を示す数であり、a+b+c+d=1に対して、0.2≦c≦0.6、好ましくは0.2≦c≦0.5を満たす数である。cが上記下限未満であると、得られる硬化物は室温での十分な硬さが得られなくなる。また、上記上限を超えると、得られる硬化物の高温での軟化が不十分となる。式中、dは、一般式:SiO
4/2で表されるシロキサン単位の割合を示す数であり、a+b+c+d=1に対して0≦d≦0.2、好ましくは、0≦d≦0.1を満たす数である。dが上記上限超では得られる架橋物の高温での軟化が不十分となる。また、式中、eは、一般式:R
2O
1/2で表される単位の割合を示す数であり、0≦e≦0.1を満たす数である。eが上記上限超では、得られる架橋物の室温での十分な硬さが得られなくなるからである。なお、式中、a、b、c、及びdの合計は1である。
【0022】
(B)成分は、炭素原子数2〜6のアルケニル基を一分子中に少なくとも2個有する直鎖状オルガノポリシロキサンである。該シロキサンのケイ素原子に結合する有機基の合計個数のうち40〜70%がフェニル基であることを特徴とする。(B)成分中のアルケニル基が(A)成分中のSiH基とヒドロシリル化することにより組成物は硬化する。
【0023】
(B)成分は、好ましくは下記一般式(2)で表される。
R
33SiO(R
3SiO)
mSiR
33 (2)
【0024】
式(2)中、R
3は互いに独立に、フェニル基、炭素原子数1〜6の、アルキル基又はシクロアルキル基、または炭素原子数2〜6のアルケニル基である。該アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基が挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、及びシクロへキシル基が挙げられる。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、及びヘキセニル基が挙げられる。なお、R
3の合計個数のうちフェニル基の含有量は40〜70%であり、好ましくは50〜70%である。(B)成分中のフェニル基の割合が上記上限値を超えると、得られる硬化物の機械的強度が低下する。また、式(2)においてR
3の少なくとも2個はアルケニル基である。アルケニル基の個数が1個未満であると、(B)成分が架橋反応に取り込まれず硬化物が形成できないことや、硬化物が室温で十分な硬さを得られなくなるおそれがある。
【0025】
式(2)中、mは1〜100の整数であり、好ましくは1〜50の整数であり、更に好ましくは1〜20である。mが上記上限超では、得られる硬化物が室温で十分な硬さを得られなくなるおそれがある。
【0026】
本組成物において(B)成分の量は、(A)成分中及び(B)成分中のアルケニル基の合計個数に対する(A)成分中のSiH基の個数の比が0.5〜2となる量であり、好ましくは0.5〜1.5となる量である。(B)成分の量が上記下限未満であると、得られる硬化物は高温での軟化が不十分となるおそれがある。また、上記上限値超では、得られる硬化物の室温での十分な硬さが得られなくなるおそれがある。
【0027】
(C)成分は熱伝導性充填剤であり、組成物に熱伝導性を付与する。該熱伝導性充填剤としては、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属炭化物、及び炭素の同素体からなる群より選ばれる少なくとも1種の材料からなるものが好ましい。例えば、アルミニウム、銀、銅、金属ケイ素、アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、ダイヤモンド、グラファイト、カーボンナノチューブ、及びグラフェンなどが挙げられる。熱伝導性充填剤の形状は、球状、不定形状、及び針状等いずれであってもよく、特に限定されるものではない。
【0028】
該熱伝導性充填剤は、大粒径成分と小粒径成分を組み合わせたものが好ましい。大粒径成分とは、平均粒径10〜120μm、好ましくは15〜75μm、大粒径成分の平均粒径が上記下限未満であると、得られる組成物の粘度が高くなりすぎるおそれがある。上記上限超では、得られる組成物が不均一となるおそれがある。小粒径成分とは、平均粒径0.01〜10μm、好ましくは0.1〜4μmを有する充填剤であるのがよい。小粒径成分の平均粒径が上記下限未満であると、得られる組成物の粘度が高くなりすぎるおそれがある。上記上限超では、得られる組成物が不均一となるおそれがある。なお、本発明における平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値(又はメジアン径)として求めることができる。
【0029】
(C)成分の配合量は(A)成分100質量部に対し、100〜3500質量部であり、好ましくは500〜3000質量部である。(C)成分の量が上記下限未満では、熱伝導性に乏しいものとなる。また上記上限超では、伸展性の乏しいものになる。
【0030】
(D)成分はヒドロシリル化触媒であり、(A)成分中のSiH基と(A)成分および(B)成分中のアルケニル基とのヒドロシリル化反応を促進する。該ヒドロシリル化触媒は従来公知のものであってよく、例えば白金系、パラジウム系、ロジウム系の触媒が挙げられる。中でも比較的入手しやすい白金または白金化合物が好ましい。より詳細には、例えば、白金の単体、白金黒、塩化白金酸、白金−オレフィン錯体、白金−アルコール錯体、白金配位化合物等が挙げられる。白金系触媒は1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
(D)成分の含有量は触媒量であればよく、特に制限されない。触媒量とは上記ヒドロシリル化反応を促進するために十分な量である。好ましくは、本組成物の全質量に対して、触媒が有する金属原子量に換算して、質量単位で0.1〜500ppm、より好ましくは1.0〜100ppmとなる量が好ましい。(D)成分の量が上記下限未満では、触媒としての効果が得られない恐れがある。また、上記上限値超では、触媒効果が増大することはなく不経済であるため好ましくない。
【0032】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、更に(E)下記一般式(3)で表されるシリル基を1分子中に少なくとも1個有し、25℃での粘度0.01〜30Pa・sを有するオルガノポリシロキサンを含有することができる。該(E)成分はウェッターとして機能する。(E)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
−SiR
4f(OR
5)
3-f (3)
(式(3)中、R
4は互いに独立に、非置換又は置換の1価炭化水素基であり、R
5は互いに独立に、アルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基であり、fは0、1又は2である)。
【0033】
(E)成分は、25℃における粘度0.01〜30Pa・sを有し、好ましくは0.01〜10Pa・sを有する。粘度が上記下限未満であると、シリコーン組成物からオイルブリードが発生し易くなってしまい、また垂れ易くなってしまうおそれがあるため好ましくない。一方、上記上限超では、得られるシリコーン組成物の流動性が著しく乏しくなり、塗布作業性が悪化してしまうおそれがある。なお、本発明において粘度は、回転粘度計による測定値である。
【0034】
(E)成分としては、例えば下記一般式で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【化1】
(式中、R
4は互いに独立に非置換又は置換の1価炭化水素基であり、R
5は独立にアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基であり、nは2〜100の整数であり、fは0、1又は2である。)
【0035】
上記式中、R
4は、互いに独立に、非置換又は置換の、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜3の1価炭化水素基である。例えば、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、及びハロゲン化アルキル基が挙げられる。直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基、及びデシル基等が挙げられる。分岐鎖状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、及び2−エチルヘキシル基等が挙げられる。環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、及びアリル基等が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、及びトリル基等が挙げられる。アラルキル基としては、例えば、2−フェニルエチル基、2−メチル−2−フェニルエチル基等が挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、例えば、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−(ノナフルオロブチル)エチル基、及び2−(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基等が挙げられる。中でも、R
4として、メチル基及びフェニル基が好ましい。
【0036】
上記式中、R
5は互いに独立に、アルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基である。炭素数は1〜8であるのが好ましい。アルキル基としては、例えば、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、及び環状アルキル基が挙げられ、詳細にはR
4において例示した基が挙げられる。アルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシエチル基、及びメトキシプロピル基等が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、R
4において例示した基が挙げられる。アシル基としては、例えば、アセチル基、及びオクタノイル基等が挙げられる。中でも、R
5はアルキル基が好ましく、特にはメチル基、及びエチル基が好ましい。nは2〜100であり、好ましくは5〜50である。fは0、1又は2であり、好ましくは0である。
【0037】
(E)オルガノポリシロキサンとしては、例えば、下記のものが挙げられる。
【化2】
(上記各式中、Meはメチル基である)
【0038】
(E)成分の含有量は(A)成分100質量部に対して0.1〜80質量部であることが好ましく、より好ましくは10〜80質量部である。上記上限超では、硬化物の室温での十分な硬さが得られなくなるおそれがある。
【0039】
本発明のシリコーン組成物はさらに(F)ケイ素原子結合有機基中のフェニル基が40モル%未満であるオルガノポリシロキサンを含有してよい。該オルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有し、及び、25℃における動粘度10〜10,000mm
2/sを有する。該(F)成分は、シリコーン組成物中にあるケイ素原子結合水素原子とヒドロシリル化することにより、架橋構造を形成する。
【0040】
(F)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。(F)成分は直鎖状でも分岐状でもよく、異なる粘度を有する2種以上のオルガノポリシロキサンを併用してもよい。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基、及び1−ヘキセニル基が例示されるが、合成のし易さ、コストの面からビニル基が好ましい。ケイ素原子に結合するアルケニル基は、オルガノポリシロキサンの分子鎖の末端、途中の何れに存在してもよいが、少なくとも末端に存在することが好ましい。
【0041】
ケイ素原子に結合するアルケニル基以外の有機基としては、置換又は非置換の一価炭化水素基が挙げられる。該一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、及びドデシル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、2−フェニルエチル基、及び2−フェニルプロピル基等のアラルキル基が挙げられる。また、前記炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子がハロゲン原子で置換された1価炭化水素基(例えば、クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等)も挙げられる。これらのうち、合成のし易さ、コストの面から、メチル基及びフェニル基が好ましい。(F)成分は、25℃における動粘度10〜100,000mm
2/sを有ることが好ましく、より好ましくは100〜50,000mm
2/sを有する。これは、上記下限値未満であると、シリコーン組成物の保存安定性が悪くなるおそれがある。また、上記上限超では、得られるシリコーン組成物の伸展性が悪くなるおそれがある。
【0042】
(F)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜50質量部であることが好ましく、より好ましくは10〜50質量部である。(F)成分の量が上記上限を超えると、硬化物は高温での軟化が不十分となるおそれがある。
【0043】
本発明のシリコーン組成物は、(G)ケイ素原子結合水素原子を1分子中に少なくとも2個有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンをさらに含有することができる。該オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、組成物中にあるアルケニル基をヒドロシリル化反応して架橋し、網状構造を形成する。
【0044】
(G)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子に結合する有機基としては、置換又は非置換の一価炭化水素基が挙げられる。該一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、及びドデシル基などのアルキル基、フェニル基等のアリール基、2−フェニルエチル基、及び、2−フェニルプロピル基等のアラルキル基、並びに、前記炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子がハロゲン原子又はグリシドキシ基で置換された1価炭化水素基(例えば、クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−グリシドキシエチル基、3−グリシドキシプロピル基、及び4−グリシドキシブチル基など)が挙げられる。
【0045】
(G)成分の量は、シリコーン組成物中のアルケニル基の合計個数に対するSiH基の合計個数の比が0.5〜2となる量であり、好ましくは0.5〜1.5となる量である。これは(G)成分の含有量が上記範囲の下限未満であると得られる硬化物は室温での十分な硬さが得られなくなるおそれがある。一方、上記上限を超えると、硬化物は高温での軟化が不十分となるおそれがあるため好ましくない。
【0046】
本発明は、上記(A)〜(D)成分及び任意の(E)〜(G)成分を含むシリコーン組成物である。該(A)〜(G)成分以外にも任意成分として、(H)反応制御剤及び(I)接着促進剤を含有していてもよい。
【0047】
(H)反応制御剤は、室温でのヒドロシリル化反応の進行を抑え、シェルフライフ、ポットライフを延長させる。反応制御剤としては公知のものを使用することができ、例えば、エチニルヘキサノール、2−メチル−3−ブチン−2−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2−フェニル−3−ブチン−2−オール等のアルキンアルコール;3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン等のエンイン化合物;1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。該反応制御剤は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。反応制御剤の量は本発明の効果を損ねない限りにおいて制限されないが、例えば、シリコーン組成物の全質量に対して1〜5000ppmであることが好ましい。
【0048】
(I)接着促進剤は、硬化途上で接触している基材への接着性を更に向上させる。接着促進剤としては、例えば、トリアルコキシシロキサン基(例えば、トリメトキシシロキシ基、トリエトキシシロキシ基)もしくはトリアルコキシシリルアルキル基(例えば、トリメトキシシリルエチル基、トリエトキシシリルエチル基)と、ヒドロシリル基もしくはアルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基)を有するオルガノシラン、またはケイ素原子数4〜20程度の直鎖状構造、分岐状構造又は環状構造のオルガノシロキサンオリゴマー;トリアルコキシシロキサン基もしくはトリアルコキシシリルアルキル基とメタクリロキシアルキル基(例えば、3−メタクリロキシプロピル基)を有するオルガノシラン、またはケイ素原子数4〜20程度の直鎖状構造、分岐状構造又は環状構造のオルガノシロキサンオリゴマー;トリアルコキシシロキシ基もしくはトリアルコキシシリルアルキル基とエポキシ基結合アルキル基(例えば、3−グリシドキシプロピル基、4−グリシドキシブチル基、2−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチル基、3−(3,4−エポキシシクロへキシル)プロピル基)を有するオルガノシラン、またはケイ素原子数4〜20程度の直鎖状構造、分岐状構造又は環状構造のオルガノシロキサンオリゴマー;アミノアルキルトリアルコキシシランとエポキシ基結合アルキルトリアルコキシシランの反応物、エポキシ基含有エチルポリシリケートが挙げられる。より詳細には、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ハイドロジェントリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランと3−アミノプロピルトリエトキシシランの反応物、シラノール基封鎖メチルビニルシロキサンオリゴマーと3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの縮合反応物、シラノール基封鎖メチルビニルシロキサンオリゴマーと3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの縮合反応物、シラノール基封鎖メチルビニルシロキサンオリゴマーと3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランの縮合反応物、及びトリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートが挙げられる。
【0049】
さらに、本発明のシリコーン組成物には、本発明の目的を損なわない限り、その他任意成分として、前記(A)〜(I)成分以外のポリオルガノシロキサン;シリカ、ガラス、アルミナ、酸化亜鉛等の無機質充填剤;ポリメタクリレート樹脂等の有機樹脂微粉末;耐熱剤、染料、顔料、蛍光体、難燃性付与剤、及び溶剤等を含有してもよい。
【0050】
本発明のシリコーン組成物は好ましくはグリース状である。グリース状であることにより、小さな電子部品又はヒートシンクへ容易に適用することができる。該シリコーン組成物の25℃における粘度は特に限定されないが、10〜500Pa・sの範囲内であることが好ましく、特に10〜300Pa・sの範囲内であることが好ましい。粘度が上記下限値未満であると、組成物の取扱い性が悪くなる。また、上記上限値を超えると、組成物がディスペンス塗布されたときなどに、泡噛みしやすくなるため好ましくない。本発明において、シリコーン組成物の粘度は、例えばスパイラル粘度計にて測定できる。
【0051】
本シリコーン組成物は、少なくとも1.0W/mK以上の熱伝導率を有することが好ましく、特には、2.0W/mK以上であることが好ましい。熱伝導率が上記下限値未満では、所望する放熱性能が得られなくなるため好ましくない。
【0052】
本シリコーン組成物の製造方法は、従来のシリコーン組成物の製造方法に従えばよく、特に制限されるものではない。例えば、上記(A)成分〜(I)成分、及び必要その他成分をトリミックス、ツウィンミックス、プラネタリミキサー(いずれも井上製作所(株)製混合機の商標登録)、ウルトラミキサー(みずほ工業(株)製混合機の登録商標)、ハイビスディスパーミックス(特殊機化工業(株)製混合機の登録商標)等の混合機にて混合する方法により製造することができる。
【0053】
上記シリコーン組成物をヒドロシリル化反応により架橋することにより硬化物を得ることができる。組成物の硬化条件は特に制限されるものでなく、従来の付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化条件に従えばよい。該硬化物は、室温、例えば25℃では固体状、より詳細には、軟質ゴム状であり、高温、例えば、100℃では軟化、あるいは液状化するという特徴がある。該硬化物は、25℃でのアスカーC硬さが5以上であることが好ましい。また、該硬化物は100℃で流動性を有するか、100℃でモジュラスが2.0MPa以下である軟質ゴム状であることが好ましい。100℃で流動性を有するとは、その粘度は特に限定されないが、少なくとも100Pa・s以上であることが好ましく、好ましくは100Pa・s〜300Pa・s、さらに好ましくは100〜200Pa・sであるのがよい。このような特徴を有する硬化物は、加熱により軟化する熱伝導性放熱部材として好適に利用できる。尚、本発明におけるモジュラスとはJIS K7244−4に記載の動的粘弾性測定(DMA)により測定される、貯蔵弾性率(E’)の値を意味する。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0055】
実施例及び比較例に用いた各成分は以下の通りである。また、式中のMe、Ph、Viはそれぞれメチル基、フェニル基、ビニル基を表している。下記において、Ph基量とは、ケイ素原子に結合する水素原子及び置換基の合計個数に対するフェニル基の個数割合である。また、SiH基量とは、ケイ素原子に結合する水素原子及び置換基の合計個数に対するSiH基の個数割合である。動粘度は、ウベローデ型オストワルド粘度計を用いて25℃にて測定した値である。
(A)成分:下記平均単位式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
A−1:平均単位式
(Me
3SiO
1/2)
0.10(MeHSiO
2/2)
0.25(Ph
2SiO
2/2)
0.30(PhMeSiO
2/2)
0.10(PhSiO
3/2)
0.25(MeO
1/2)
0.05、動粘度:2,840mm
2/s、Ph基量:51%、SiH基量:13.5%
A−2:平均単位式
(Me
3SiO
1/2)
0.10(MeViSiO
2/2)
0.05(MeHSiO
2/2)
0.20(Ph
2SiO
2/2)
0.30(PhMeSiO
2/2)
0.10(PhSiO
3/2)
0.25(MeO
1/2)
0.05、動粘度:2,132mm
2/s、Ph基量:51%、SiH基量:10.8%
A−3:平均単位式
(Me
3SiO
1/2)
0.15(MeHSiO
2/2)
0.25(Ph
2SiO
2/2)
0.30(PhMeSiO
2/2)
0.15(PhSiO
3/2)
0.15(MeO
1/2)
0.05、動粘度:1,120mm
2/s、Ph基量:45%、SiH基量:12.5%
A−4:平均単位式
(Me
3SiO
1/2)
0.10(MeHSiO
2/2)
0.10(Ph
2SiO
2/2)
0.35(PhMeSiO
2/2)
0.2(PhSiO
3/2)
0.25(MeO
1/2)
0.05、動粘度:2,340mm
2/s、Ph基量:62%、SiH基量:5.4%
【0056】
(B)成分:下記式で表されるオルガノポリシロキサン
B−1:下記式で表されるオルガノトリシロキサン
【化3】
Ph基量:67%
【0057】
(C)成分
C−1:平均粒径1.0μmの球状酸化アルミニウム
C−2:平均粒径10μmの球状酸化アルミニウム
C−3:平均粒径45μmの球状酸化アルミニウム
C−4:平均粒径70μmの球状酸化アルミニウム
(D)成分
D−1:白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のF−1溶液(白金原子として1質量%含有)(F−1は、下記(F)成分のオルガノポリシロキサンである)
【0058】
(E)成分
E−1:下記式で表されるオルガノポリシロキサン(25℃での粘度0.03Pa・s)
【化4】
【0059】
(F)成分
F−1:下記式で表されるオルガノポリシロキサン(25℃での動粘度700mm
2/s)
【化5】
(Ph基量:30%)
【0060】
(G)成分
G−1:下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化6】
G−2:下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【0061】
【化7】
(H)成分
H−1:1−エチニル−1−シクロヘキサノール
(I)成分
I−1:下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【0062】
【化8】
【0063】
[実施例1〜7、比較例1〜4]
上記各成分を表1又は2に示す配合量で、下記の方法に従い混合してシリコーン組成物を得た。即ち、5リットルゲートミキサー(井上製作所(株)製、商品名:5リットルプラネタリミキサー)に、(A)、(B)、(C)、(E)、及び(F)成分を表1又は2に示す配合量で取り、150℃で1時間脱気加熱混合した。その後、常温(25℃)になるまで冷却し、(H)成分を加え、均一になるように室温(25℃)にて混合し、続けて(D)成分を加え、均一になるように室温(25℃)にて混合した。さらに(G)及び(I)成分を加え、均一になるように室温にて脱気混合した。
上記にて得られた各シリコーン組成物について下記の方法に従い硬化して熱伝導性成形物を形成した。各シリコーン組成物の粘度、及び、硬化物の硬化後硬度、熱伝導率、及びモジュラスを下記に示す方法により評価した。結果を表1及び2に記載する。
【0064】
[シリコーン組成物の25℃粘度測定]
シリコーン組成物の25℃における初期粘度を測定した。粘度の測定はスパイラル粘度計:マルコム粘度計(タイプPC−10AA、回転数10rpm)を用いた。
[熱伝導率]
硬化前のシリコーン組成物の25℃における熱伝導率を、京都電子工業(株)製ホットディスク法熱物性測定装置TPS 2500 Sを用いて測定した(ISO 22007−2準拠のホットディスク法)。
[硬化後硬度評価]
シリコーン組成物を6mm硬化厚みとなるような成形型に流し込み、125℃で1時間硬化させた。次に6mm厚みの硬化物を2枚重ねてアスカーC硬度計で硬度を測定した。
[硬化物の100℃粘度測定]
また該硬化物を100℃に加熱した後に、上述した方法に従い粘度を測定した。
なお、実施例1〜5のシリコーン組成物から得られた硬化物は100℃にて軟質ゴム状を有するため粘度の測定ができなかった。
[硬化後モジュラス評価]
シリコーン組成物を2mm硬化厚みとなるような成形型に流し込み、125℃で1時間硬化させた。次に2mm厚みの硬化物を1.0cm×3.0cmの短冊状になるように型抜いた。型抜いた硬化物について、JIS K7244−4に記載の動的粘弾性測定(DMA)に準拠し、(株)日立ハイテクサイエンス製粘弾性測定装置DMA 7100を用いて25℃から100℃までのモジュラス変化を測定した。25℃でのモジュラス(MPa)及び100℃でのモジュラス(MPa)の値を表1及び2に示す。
尚、実施例6及び7の組成物から得られた硬化物は、100℃にて流動性を有する(液状化した)ため、モジュラスの測定ができなかった。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
上記表2に示す通り、フェニル基量が少ないオルガノポリシロキサン(A−3)を含む比較例1及び2の組成物を硬化して成る硬化物は、硬化物が室温(25℃)で十分な硬さを得られない。また、SiH量が下限値未満であるオルガノポリシロキサン(A−4)を含む比較例3及び4の組成物を硬化して成る硬化物も室温(25℃)での十分な硬さを得られない。更には、得られた硬化物は100℃にて粘度が高く流動性を有さない。これに対して、上記表1に示す通り、実施例1〜7のシリコーン組成物から成る硬化物は、室温(25℃)でアスカーC硬度5以上を有する固体(軟質ゴム)である。また、25℃でのモジュラスの値と100℃でのモジュラスの値からわかる通り、実施例1〜5の硬化物は高温(100℃)で軟化した。また、実施例6及び7の硬化物は高温(100℃)で液状化した。