特許第6981933号(P6981933)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6981933硬化性組成物、該組成物の硬化物、及び該硬化物を用いた半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981933
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】硬化性組成物、該組成物の硬化物、及び該硬化物を用いた半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20211206BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20211206BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20211206BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/05
   H01L23/30 F
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-152932(P2018-152932)
(22)【出願日】2018年8月15日
(65)【公開番号】特開2020-26502(P2020-26502A)
(43)【公開日】2020年2月20日
【審査請求日】2020年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】平野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 中
【審査官】 吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−133073(JP,A)
【文献】 特開2008−069210(JP,A)
【文献】 特開2012−046604(JP,A)
【文献】 特開2000−143676(JP,A)
【文献】 特開2009−215377(JP,A)
【文献】 米国特許第05239035(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08K 3/00 − 13/08
C08L 1/00 − 101/14
H01L 23/28 − 23/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)、(B)及び(C)を含む硬化性組成物。
(A)下記式(1)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(2)で表される有機ケイ素化合物との付加反応物であって、1分子中にSiH基を3個以上有する付加反応物、
【化1】
(式中、Rフェニレン基である。)
【化2】
(式中、Rフェニル基であり、Rは単結合である。)
(B)アルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノシロキサン化合物、
(C)ヒドロシリル化反応触媒:組成物全体の質量に対して白金族金属原子として1〜500ppm
【請求項2】
前記(B)が下記式(3)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の硬化性組成物。
【化3】
(式中、Rは独立に非置換または置換の1価炭化水素基であり、Rは独立にメチル基又はフェニル基であり、aは0〜50の整数であり、bは0〜100の整数である。ただし、aが0のときRはフェニル基であり、かつ、bは1〜100である。括弧が付されたシロキサン単位の配列順は任意である。)
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の硬化性組成物を硬化してなることを特徴とする硬化物。
【請求項4】
厚さ2mmにおける波長400nmの光透過率(25℃)が80%以上であることを特徴とする請求項に記載の硬化物。
【請求項5】
請求項または請求項に記載の硬化物により半導体素子が被覆されたものであることを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、その硬化物、及び前記硬化物を用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学デバイスまたは光学部品用材料、特に発光ダイオード(LED)素子の封止材料としては、一般的にエポキシ樹脂が用いられている。また、シリコーン樹脂に関しても、LED素子のモールド部材等として用いること(特許文献1、2)、またカラーフィルター材料として用いること(特許文献3)が試みられているが、実際上の使用例は少ない。
【0003】
近年、白色LEDが注目される中で、これまで問題とされなかったエポキシ封止材の紫外線等による黄変や、小型化に伴う発熱量の増加によるクラックの発生等が問題となっており対応が急務となっている。これらの対応策としては、分子中に多量のフェニル基を持つシリコーンレジン硬化物を用いることが検討されている。しかしながら、現状のLEDに使用されている基板は銀基板が使用されている事が多く、銀は空気中に存在する硫黄化合物により腐食され、これによりLEDの発光効率が落ちる場合がある。この現象はフェニル基を持つシリコーンレジン硬化物でもある程度は抑えられるが、エポキシ封止材には劣る。この対策として多環式炭化水素基を有する硬化組成物を用いることで、銀の腐食と耐熱性を両立した材料が提案されている(特許文献4)。しかしながら、この組成物は樹脂としての変化点が室温付近にあるため、高温・低温の温度変化により、クラックが発生しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−228249号公報
【特許文献2】特開平10−242513号公報
【特許文献3】特開2000−123981号公報
【特許文献4】特開2005−133073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、硬度、機械的強度、および耐クラック性が高く、短波長領域の光透過性、ガスバリア性に優れた硬化物を与える硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明では、下記(A)、(B)及び(C)を含む硬化性組成物を提供する。
(A)下記式(1)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(2)で表される有機ケイ素化合物との付加反応物であって、1分子中にSiH基を3個以上有する付加反応物、
【化1】
(式中、Rは独立に置換または非置換の炭素数1〜12の2価炭化水素基である。)
【化2】
(式中、Rは独立に置換または非置換の炭素数1〜12の1価炭化水素基であり、Rは単結合または非置換の炭素数1〜4の2価炭化水素基である。)
(B)アルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノシロキサン化合物、
(C)ヒドロシリル化反応触媒:組成物全体の質量に対して白金族金属原子として1〜500ppm
【0007】
本発明の硬化性組成物であれば、硬度、機械的強度、および耐クラック性が高く、短波長領域の光透過性、ガスバリア性に優れた硬化物を与える硬化性組成物を提供できる。
【0008】
本発明の硬化性組成物は、上記Rがフェニレン基、上記Rがメチル基又はフェニル基であることができる。
【0009】
本発明の硬化性組成物は、さらに前記(B)が下記式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【化3】
(式中、Rは独立に非置換または置換の1価炭化水素基であり、Rは独立にメチル基又はフェニル基であり、aは0〜50の整数であり、bは0〜100の整数である。ただし、aが0のときR5はフェニル基であり、かつ、bは1〜100である。括弧が付されたシロキサン単位の配列順は任意である。)
【0010】
また本発明は、前記硬化性組成物を硬化してなる硬化物を提供する。
【0011】
本発明の硬化物であれば、硬度、機械的強度、および耐クラック性が高く、短波長領域の光透過性、ガスバリア性に優れる。
【0012】
本発明の硬化物は、厚さ2mmにおける波長400nmの光透過率(25℃)が80%以上であることが好ましい。
【0013】
このような光透過率を有する硬化物であれば、発光ダイオード素子の保護、封止もしくは接着、波長変更もしくは調整またはレンズ等の用途に好適に使用できる。
【0014】
さらに本発明は、前記硬化物により半導体素子が被覆されたものである半導体装置を提供する。
【0015】
本発明の半導体装置であれば、使用する硬化物の硬度、機械的強度、および耐クラック性が高く、そのガスバリア性が優れているため、高い耐久性を有する半導体装置となる。さらに、短波長領域の光透過性にも優れるため、発光ダイオード素子などの光透過性を要する半導体装置としても有用である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の硬化性組成物であれば、硬度、機械的強度、および耐クラック性が高く、短波長領域の光透過性、ガスバリア性に優れた硬化物を与えることができる。このため、発光ダイオード素子の保護、封止もしくは接着、波長変更もしくは調整またはレンズ等の用途に好適に使用できる。また、レンズ材料、光学デバイスもしくは光学部品用封止材、ディスプレイ材料等の各種の光学部品用材料、電子デバイスもしくは電子部品用絶縁材料、更にはコーティング材料としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の硬化性組成物の硬化物を用いた光半導体装置の一例を示す概略断面図である。
図2】合成例1で得られた付加反応物(A−1)のH−NMRスペクトルである。
図3】合成例1で得られた付加反応物(A−1)のGPCチャートである。
図4】合成例2で得られた付加反応物(A−2)のH−NMRスペクトルである。
図5】合成例2で得られた付加反応物(A−2)のGPCチャートである。
図6】合成例3で得られた付加反応物(A−3)のH−NMRスペクトルである。
図7】合成例3で得られた付加反応物(A−3)のGPCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上述のように、硬度、機械的強度、および耐クラック性が高く、短波長領域の光透過性、ガスバリア性に優れた硬化物を与える硬化性組成物の開発が求められていた。
【0019】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、特定の成分を含む硬化性組成物であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
即ち、本発明は、下記(A)、(B)及び(C)を含む硬化性組成物である。
(A)下記式(1)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(2)で表される有機ケイ素化合物との付加反応物であって、1分子中にSiH基を3個以上有する付加反応物、
【化4】
(式中、Rは独立に置換または非置換の炭素数1〜12の2価炭化水素基である。)
【化5】
(式中、Rは独立に置換または非置換の炭素数1〜12の1価炭化水素基であり、Rは単結合または非置換の炭素数1〜4の2価炭化水素基である。)
(B)アルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノシロキサン化合物、
(C)ヒドロシリル化反応触媒:組成物全体の質量に対して白金族金属原子として1〜500ppm
【0021】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
[硬化性組成物]
本発明の硬化性組成物は下記(A)〜(C)成分を含有してなる。本発明の硬化性組成物(付加硬化型シリコーン組成物)は、下記(A)〜(C)成分及び、必要に応じてその他の成分を、従来公知の方法で混合して調製することができる。
以下、各成分について詳細に説明する。
【0023】
[(A)成分]
本発明の硬化性組成物における(A)成分は、後述の(B)成分とヒドロシリル化反応を起こすことにより、架橋剤として機能する。
【0024】
(A)成分は、下記式(1)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(2)で表される有機ケイ素化合物との付加反応物であって、1分子中にSiH基を3個以上有する付加反応物である。
【0025】
【化6】
(式中、Rは独立に置換または非置換の炭素数1〜12の2価炭化水素基である。)
【化7】
(式中、Rは独立に置換または非置換の炭素数1〜12の1価炭化水素基であり、Rは単結合または非置換の炭素数1〜4の2価炭化水素基である。)、
【0026】
で表される炭素数1〜12の2価炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基、n−ペンチレン基、n−ヘキシレン基、シクロヘキシレン基、n−オクチレン基等のアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基等のアリーレン基等や、これらの基の水素原子の一部又は全部がフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子等で置換されたものが挙げられ、Rとしては、フェニレン基が特に好ましい。
【0027】
で表される炭素数1〜12の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基等や、これらの基の水素原子の一部又は全部がフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子等で置換されたものが挙げられ、Rとしてはメチル又はフェニル基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。
【0028】
で表される非置換の炭素数1〜4の2価炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基等のアルキレン基が挙げられる。Rが単結合である場合は、ケイ素原子にビニル基が直接結合している有機ケイ素化合物を表す。Rとしては単結合又はエチレン基が特に好ましい。
【0029】
上記式(1)で表される有機ケイ素化合物の好適な具体例を下記に示すが、これらに限定されるものではない。また、上記式(1)で表される有機ケイ素化合物は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【化8】
【0030】
上記式(2)で表される化合物の好適な具体例を下記に示すが、これらに限定されるものではない。また、上記式(2)で表される化合物は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【化9】
【0031】
上記式(1)で表される有機ケイ素化合物と、上記式(2)で表される有機ケイ素化合物との付加反応物である(A)成分の好ましい例としては下記単位式で表される化合物が挙げられる。
【化10】
(式中、nは1〜10の整数である。)
【0032】
前記単位式で表される化合物の具体例としては、下記式で表される化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【0033】
また、(A)成分は上記単位式で表される化合物の1種単独でも2種以上の組み合わせでも使用することができる。
【0034】
[(A)成分の調製]
本発明の硬化性組成物における(A)成分は、上記式(2)で表される化合物1モルに対して、上記式(1)で表される化合物を、過剰量、好ましくは3モルを越え30モル以下、より好ましくは4.5モルを越え15モル以下混合して両者の存在下でヒドロシリル化反応を行う事により得ることができる。
【0035】
前記ヒドロシリル化反応に用いる触媒としては、公知のものを使用することができる。例えば、白金金属を担持したカーボン粉末、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応生成物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒;パラジウム系触媒、ロジウム系触媒等の白金族金属系触媒が挙げられる。また、付加反応条件、精製条件、溶媒の使用等については特に限定されず、公知の方法を用いればよい。
【0036】
本発明の硬化性組成物における(A)成分は、1種の化合物からなるものでも、2種以上の化合物の組み合わせ(混合物)からなるものでもよい。
【0037】
(A)成分を構成する化合物1分子中にSiH基を3個以上有することは適切な測定手段を選択することにより確認できる。(A)成分を構成する化合物が2種以上である場合には、適切な測定手段の組み合わせ(例えば、H−NMRとGPCなど)を選択することにより化合物ごとに1分子中にSiH基を3個以上有することを確認できる。
【0038】
[(B)成分]
本発明の硬化性組成物における(B)成分は、アルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノシロキサン化合物である。
【0039】
(B)成分の具体例としては、特に限定されないが、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体等が挙げられ、(B)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0040】
(B)成分としては、下記式(3)で表される直鎖状のオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【化16】
(式中、Rは独立に非置換または置換の1価炭化水素基であり、Rは独立にメチル基又はフェニル基であり、aは0〜50の整数であり、bは0~100の整数である。ただし、aが0のときRはフェニル基であり、かつ、bは1〜100である。括弧が付されたシロキサン単位の配列順は任意である。)
【0041】
で表される非置換または置換の1価炭化水素基としては、前記脂肪族不飽和基、及び前記脂肪族不飽和基以外の1価炭化水素基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等の炭素原子数1〜6のアルキル基;クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等の炭素原子数1〜4のハロアルキル基;フェニル基、トリル基等の炭素原子数6〜10のアリール基が挙げられる。中でも、炭素原子数1〜6のアルキル基、フェニル基、ビニル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。
【0042】
上記式(3)において、aは0〜50の整数であり、1〜10であることが好ましく、1〜7であることがより好ましく、2〜4であることが更に好ましい。bは0〜100の整数であり、0〜50であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、2〜4であることが更に好ましい。
【0043】
式(3)で表されるオルガノポリシロキサンは、例えば、ジクロロジフェニルシランやジアルコキシジフェニルシラン等の二官能性シランを加水分解・縮合させた後、または加水分解・縮合と同時に、脂肪族不飽和基を含有するシロキサン単位で末端を封鎖することにより得られる。
【0044】
(B)成分の配合量は、組成物中の脂肪族不飽和基に対するSiH基のモル比(SiH基/脂肪族不飽和基)が0.5以上5以下であるようにすることができ、好ましくは0.8以上2以下となる量である。前記モル比(SiH基/脂肪族不飽和基)が0.5以上5以下であれば、本発明の組成物を十分に硬化させることができる。
【0045】
[(C)成分]
本発明の(C)成分であるヒドロシリル化反応触媒は、上記(A)成分の調製に用いられるものと同様のものが使用できる。
【0046】
本発明の硬化性組成物への(C)成分の配合量は、組成物全体の質量に対して、白金族金属原子として1〜500ppm、好ましくは1〜100ppm程度、さらに好ましくは2〜12ppmとなる量である。(C)成分の配合量を、組成物全体の質量に対して白金族金属原子として1ppm未満としたり、500ppmを超えるものとすると、硬化反応に要する時間が長くなりすぎたり、短すぎたりするうえ、硬化物が着色する等の問題を生じることがある。
【0047】
[その他の成分]
本発明の硬化性組成物には、上記(A)〜(C)成分に加え、必要に応じて酸化防止剤、無機充填剤等の成分を配合してもよい。
【0048】
[酸化防止剤]
本発明の硬化性組成物の硬化物中には、上記(B)成分中の付加反応性炭素−炭素二重結合が未反応のまま残存している場合があり、それが大気中の酸素により酸化されることで硬化物が着色する原因となり得る。そこで、必要に応じ、本発明の硬化性組成物に酸化防止剤を配合することにより、このような着色を未然に防止することができる。
【0049】
酸化防止剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,5−ジ−t−アミルヒドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、4,4‘−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2‘−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。これらは、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0050】
なお、この酸化防止剤を使用する場合、その配合量は特に制限されないが、上記(A)成分と(B)成分との合計質量に対して、通常、1〜10,000ppm、特に 10〜1,000ppm 程度配合することが好ましい。前記範囲内の配合量とすることによって、酸化防止能力が十分発揮され、着色、白濁、酸化劣化等の発生がなく光学的特性に優れた硬化物が得られる。
【0051】
[無機充填剤]
本発明の硬化性組成物の粘度や、本発明の硬化性組成物から得られる硬化物の硬度等を調整したり、強度を向上させたり、蛍光体の分散を良くするために、ナノシリカや、溶融シリカ、結晶性シリカ、酸化チタン、ナノアルミナ、アルミナ等の無機充填剤を添加しても良い。
【0052】
[接着性向上剤]
本発明の硬化性組成物には、接着性向上剤を配合してもよい。接着性向上剤としては、シランカップリング剤やそのオリゴマー、シランカップリング剤と同様の反応性基を有するポリシロキサン等が例示される。
【0053】
接着性向上剤は、下記式(4)で表される化合物が好ましい。
【化17】
(式中、sは1〜3の整数であり、tは0〜3の整数であり、uは0〜3の整数であり、但しs+t+uは4〜5の整数である。括弧が付されたシロキサン単位の配列順は任意である。)
【0054】
接着性向上剤は、本発明の硬化性組成物及びその硬化物の基材に対する接着性を向上させるために組成物に配合される任意成分である。ここで、基材とは、金、銀、銅、ニッケルなどの金属材料、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタンなどのセラミック材料、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの高分子材料を指す。接着性向上剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0055】
接着性向上剤を使用する場合の配合量は、上記(A)成分と(B)の合計100質量部に対し、好ましくは1〜30質量部であり、より好ましくは、1〜10質量部である。このような配合量であると、本発明の熱硬化性シリコーン組成物及びその硬化物は、基材に対する接着性が効果的に向上し、また、着色が起こりにくい。
【0056】
接着性向上剤の好適な具体例としては、下記式で表されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【化18】
【0057】
[その他]
また、ポットライフを確保するために、1−エチニルシクロヘキサノール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等の付加反応制御剤を配合することができる。
【0058】
更に、太陽光線、蛍光灯等の光エネルギーによる光劣化に抵抗性を付与するため光安定剤を用いることも可能である。この光安定剤としては、光酸化劣化で生成するラジカルを補足するヒンダードアミン系安定剤が適しており、酸化防止剤と併用することで、酸化防止効果はより向上する。光安定剤の具体例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、4−ベンゾイル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が挙げられる。
【0059】
[硬化物]
本発明の硬化性組成物を硬化して本発明の硬化物とする。前記硬化物は、硬度、機械的強度、および耐クラック性が高く、短波長領域の光透過性、ガスバリア性に優れる。なお、本発明の硬化性組成物の硬化条件については、特に制限されないが、60〜180℃、5〜180分の条件とすることが好ましい。
【0060】
本発明の硬化性組成物から得られる硬化物において、波長589nmの光の屈折率(25℃)が1.5以上である事が好ましい。
【0061】
また、本発明の硬化性組成物から得られる硬化物は、厚さ2mmにおける波長400nmの光透過率(25℃)が80%以上である事が好ましい。
【0062】
このような光学特性を有する本発明の硬化物であれば、発光ダイオード素子の保護、封止もしくは接着、波長変更もしくは調整またはレンズ等の用途に好適に使用できるほか、レンズ材料、光学デバイスもしくは光学部品用封止材、ディスプレイ材料等の各種の光学部品用材料、電子デバイスもしくは電子部品用絶縁材料、更にはコーティング材料としても有用な材料となる。
【0063】
[半導体装置]
本発明では更に、上記の硬化性組成物から得られる硬化物により半導体素子が被覆された半導体装置を提供する。
【0064】
以下、図1を参照して、本発明の硬化性組成物の硬化物を用いた半導体装置(以下、「本発明の半導体装置」ともいう)について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
図1は、本発明の半導体装置の一例を示す概略断面図である。本発明の半導体装置1は、銀メッキ基板2が形成されたパッケージ3上に、半導体チップ4がダイボンドされており、この半導体チップ4は、ボンディングワイヤ5によりワイヤボンディングされている。そして、上述した本発明の硬化性組成物の硬化物6により、半導体チップ4が被覆されている。半導体チップ4の被覆は、上述した本発明の硬化性組成物(付加硬化型シリコーン組成物)を塗布し、加熱により硬化性組成物を硬化させることにより行われる。なお、その他公知の硬化条件下で公知の硬化方法により硬化させても良い。
【0066】
この場合、外部応力の影響を受け難くし、又ゴミ等の付着を極力抑えるという観点から、上記硬化性組成物は、硬化により、JISに規定の硬さがShoreDで30以上の硬化物を形成するものであることが好ましい。
【0067】
本発明の硬化性組成物は、硬度および耐クラック性が高く、短波長領域の光透過性、ガスバリア性に優れた硬化物を形成するため、この硬化性組成物を用いた本発明の半導体装置は、信頼性に優れたものとなる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
また、実施例において、H−NMR測定はブルカー・バイオスピン社製AVANCE IIIを使用した。GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定は、東ソー(株)製HLC−8320GPCを用い、移動相としてテトラヒドロフラン(THF)を使用し、ポリスチレン換算で行った。
【0070】
[合成例1](A−1)成分の調製
攪拌装置、冷却管、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、1,4−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン(信越化学工業株式会社製)350.0g(1.8モル)、5%Ptカーボン粉末(エヌ・イーケムキャット株式会社製)0.18gを加え、オイルバスを用いて85℃に加熱した。これにトリビニルフェニルシラン(信越化学工業株式会社製)を74.5g(0.4モル)滴下した。滴下終了後、90〜100℃の間で5時間撹拌した。撹拌後終了後25℃に戻し、活性炭を4.2g加え1時間撹拌した。撹拌後ろ過、減圧濃縮し、(A−1)成分250.7g(無色透明、収率81%、25℃における粘度:400Pa・s)を得た。
【0071】
反応生成物をH−NMR(図2)、GPC(図3)等により分析した結果、得られた反応生成物は、下記式(a)〜(e)で表される構造を有する化合物の混合物であり、各化合物の割合は(a):(b):(c):(d):(e)=30:20:15:10:25(mol%)であった。また、前記化合物はそれぞれ1分子中にSiH基を3個以上有する化合物であり、混合物全体のSiH基の含有割合は、0.0030mol/gであった。
【0072】
【化19】
【0073】
【化20】
【0074】
【化21】
【0075】
【化22】
【0076】
【化23】
【0077】
[合成例2](A−2)成分の調製
攪拌装置、冷却管、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、1,4−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン(信越化学工業株式会社製)194.4g(1.0モル)、5%Ptカーボン粉末(エヌ・イーケムキャット株式会社製)0.097gを加え、オイルバスを用いて85℃に加熱した。これにトリビニルフェニルシラン(信越化学工業株式会社製)を37.3g(0.2モル)滴下した。滴下終了後、90〜100℃の間で5時間撹拌した。撹拌後終了後25℃に戻し、活性炭を4.2g加え1時間撹拌した。撹拌後ろ過、減圧濃縮し、(A−2)成分131.0g(無色透明、収率85%、25℃における粘度:150Pa・s)を得た。
【0078】
反応生成物を、H−NMR(図4)、GPC(図5)等により分析した結果、得られた反応生成物は、上記式(a)〜(e)で表される構造を有する化合物の混合物であり、各化合物の割合は(a):(b):(c):(d):(e)=36:24:15:10:15(mol%)であった。また、前記化合物はそれぞれ1分子中にSiH基を3個以上有する化合物であり、混合物全体のSiH基の含有割合は、0.0032mol/gであった。
【0079】
[合成例3](A−3)成分の調製
攪拌装置、冷却管、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、1,4−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン(信越化学工業株式会社製)262.8g(1.35モル)、5%Ptカーボン粉末(エヌ・イーケムキャット株式会社製)0.12gを加え、オイルバスを用いて85℃に加熱した。これにトリビニルフェニルシラン(信越化学工業株式会社製)を28.0g(0.15モル)滴下した。滴下終了後、90〜100℃の間で5時間撹拌した。撹拌後終了後25℃に戻し、活性炭を2.9g加え1時間撹拌した。撹拌後ろ過、減圧濃縮し、(A−3)成分99.7g(無色透明、収率87%、25℃における粘度:30Pa・s)を得た。
【0080】
反応生成物を、H−NMR(図6)、GPC(図7)等により分析した結果、このものは、下記式(a)〜(c)、(f)で表される構造を有する化合物の混合物であり、各化合物の割合は(a):(b):(c):(f)=55:25:10:10(mol%)であった。また、前記化合物はそれぞれ1分子中にSiH基を3個以上有する化合物であり、前記混合物全体としてSiH基の含有割合は、0.0035モル/gであった。
【0081】
【化24】
【0082】
【化25】
【0083】
【化26】
【0084】
【化27】
【0085】
[実施例1〜4、比較例1〜3]
表1、2に示す組成比(数値は質量部を表す)で下記の各成分を混合し、シリコーン組成物を調製した。下記の例において、オルガノポリシロキサンの組成を表す記号は以下のとおりである。
Vi:(CH=CH)(CHSiO1/2
ΦVi:(CH=CH)(CH)(C)SiO1/2
:H(CHSiO1/2
2Φ:(CSiO2/2
Φ:(C)SiO3/2
Q:SiO4/2
【0086】
(A)成分
(A−1)上記合成例1で得られた化合物
(A−2)上記合成例2で得られた化合物
(A−3)上記合成例3で得られた化合物
比較成分
(A−4)MΦで表される分岐型オルガノポリシロキサン
【0087】
(B)成分
(B−1)平均単位式MΦVi2Φで表される、100gあたりビニル基を0.23モル有する粘度2,000mPa・sのオルガノポリシロキサン
(B−2)平均単位式MVi2Φで表される、100gあたりビニル基を0.50モル有する粘度10mPa・sのオルガノポリシロキサン
(B−3)平均単位式MΦVi202Φ37.542.5で表される、100gあたりビニル基を0.16モル有する25℃において固体のオルガノポリシロキサン
【0088】
(C)成分
白金1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のポリシロキサン希釈品(白金含有量:1重量%)
【0089】
(D)成分
下記構造式(5)で表される接着性向上剤
【化28】
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
<性能評価手法>
上記実施例および比較例で得られた硬化性組成物について、下記手法に従い、その硬化物の性能を評価した。
【0093】
(1)硬度
ガラス板で組んだ型の中に硬化性組成物を6mm厚になるように流し込み、150℃で4時間ポストキュアーを行い、硬化物を得た。ASTM D 2240に準じて、各硬化物の硬度(Shore DまたはType A)を23℃で測定した結果を表3に示す。なお、Shore D硬度は値の前にDを、Type A硬度は値の前にAをそれぞれ付記した。
【0094】
(2)光透過率
上記硬度測定と同様に調製した2mm厚の硬化物について、各硬化物の400nm光透過率を分光光度計を用いて測定した。測定結果を表3に示す。
【0095】
(3)伸び、引張強度
上記硬度測定と同様に調製した2mm厚の硬化物について、各硬化物の伸び、及び引張強度をJIS−K−6249に準じて23℃で測定した。測定結果を表3に示す。
【0096】
(4)耐クラック性
図1に示した半導体装置(LEDデバイス)に硬化性組成物を流し込み、100℃で1時間保持した後、150℃で4時間の条件で硬化を行った。得られたLEDデバイスを260℃に3分間曝し、硬化物のクラックの有無を確認した。その後、各LEDデバイスを−40℃15分、125℃15分を1サイクルとする熱衝撃試験機に入れ、500サイクル後の各LEDデバイスにおける硬化性組成物の硬化物部分のクラックの有無を確認した。その結果を表3に示す。
【0097】
(5)酸素ガス透過性
ガラス板で組んだ型の中に硬化性組成物を1mm厚になるように流し込み、150℃で4時間ポストキュアーを行って得られた硬化物について、酸素ガス透過装置(イリノイインスツルメンツ社製モデル8000)を用いて測定を行った。その結果を表3に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
表3より、本発明の硬化性組成物の硬化物が、透明性、伸び、引っ張り強度、耐クラック性、ガスバリア性に優れることを示している。よって、本発明の透明熱硬化性シリコーン組成物の硬化物は、光学素子封止材料、特に白色LED用の封止材料として有用である。
【0100】
比較例1〜3に示したように、シロキサン結合を有する架橋剤である(A−4)を用いた場合は、本発明の硬化性組成物と比較して伸び及び酸素ガス透過率において劣る結果となった。
【0101】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0102】
1…半導体装置、 2…銀メッキ基板、 3…パッケージ、 4…半導体チップ、
5…ボンディングワイヤ、 6…硬化性組成物の硬化物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7