特許第6982423号(P6982423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982423
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/414 20210101AFI20211206BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20211206BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20211206BHJP
   H01M 50/423 20210101ALI20211206BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20211206BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20211206BHJP
【FI】
   H01M50/414
   H01M10/0566
   H01M50/417
   H01M50/423
   H01M50/449
   H01M50/489
【請求項の数】6
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-136429(P2017-136429)
(22)【出願日】2017年7月12日
(65)【公開番号】特開2018-181821(P2018-181821A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年6月4日
(31)【優先権主張番号】特願2017-80832(P2017-80832)
(32)【優先日】2017年4月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127498
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100146329
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】橋脇 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】中本 秀一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 純次
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/146403(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2015−0025825(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40 − 50/497
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂Aと樹脂Bとを含む非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層であって、
樹脂A及び上記樹脂Bは芳香族重合体であり、
樹脂Aと樹脂Bとは、当該絶縁性多孔質層に含まれる樹脂中、合計重量が最大となる2種類の樹脂の組合せであり、
樹脂Aと樹脂Bとのハンセン溶解度パラメータの距離であるHSP距離(Ra)が、10MPa1/2以下である、非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層。
【請求項2】
透気度が1000秒/100cm以下である、請求項1に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層。
【請求項3】
上記樹脂A及び上記樹脂Bの少なくとも一方、又は両方が全芳香族ポリアミド(アラミド樹脂)である、請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層。
【請求項4】
ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質基材と、
上記多孔質基材の少なくとも一方の面に積層された請求項1〜3の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層と、を含む非水電解液二次電池用積層セパレータ。
【請求項5】
正極、請求項1〜3の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層又は請求項4に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータ、及び負極がこの順で配置されている、非水電解液二次電池用部材。
【請求項6】
請求項1〜3の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層又は請求項4に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータを含む、非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、非水電解液二次電池用積層セパレータ、非水電解液二次電池用部材、及び非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いのでパーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末などに用いる電池として広く使用され、また最近では車載用の電池として開発が進められている。
【0003】
非水電解液二次電池用セパレータとして、特許文献1には、ポリオレフィン多孔質フィルム上に、耐熱性樹脂を塗布することにより形成された多孔質層を備える積層セパレータが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ポリオレフィン多孔質フィルム上に、樹脂及びセラミック粉末のフィラーを塗布することにより形成された多孔質層を備える積層セパレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−23602号公報(2001年1月26日公開)
【特許文献2】特開2000−30686号公報(2000年1月28日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来の多孔質層を備える非水電解液二次電池用積層セパレータは、イオン透過性に改善の余地があった。
【0007】
本発明は、イオン透過性に優れた、非水電解液二次電池用の積層セパレータ、及びこれを実現するための絶縁性多孔質層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の[1]〜[10]に示す発明を含む。
[1]樹脂Aと樹脂Bとを含む非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層であって、樹脂Aと樹脂Bとは、当該絶縁性多孔質層に含まれる樹脂中、合計重量が最大となる2種類の樹脂の組合せであり、樹脂Aと樹脂Bとのハンセン溶解度パラメータの距離であるHSP距離(Ra)が、10MPa1/2以下である、非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層。
[2]透気度が1000秒/100cm以下である、[1]に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層。
[3]上記樹脂A及び上記樹脂Bが芳香族重合体である、[1]又は[2]に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層。
[4]ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質基材と、上記多孔質基材の少なくとも一方の面に積層された[1]〜[3]の何れかに記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層と、を含む非水電解液二次電池用積層セパレータ。
[5]正極、[1]〜[3]の何れかに記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層又は[4]に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータ、及び負極がこの順で配置されている、非水電解液二次電池用部材。
[6][1]〜[3]の何れかに記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層又は[4]に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータを含む、非水電解液二次電池。
[7]上記樹脂A及び樹脂Bの少なくともいずれかが耐熱性樹脂である、[1]〜[3]の何れかに記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層。
[8]フィラーをさらに含む、[1]〜[3]の何れかに記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層を備えるセパレータは、イオン透過性に優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に関して、詳細に説明する。尚、本出願において、「A〜B」とは、「A以上、B以下」であることを示している。
【0011】
[実施形態1:非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層]
本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層(以下、本明細書において、単に「多孔質層」と称することがある)は、樹脂Aと樹脂Bとを含む多孔質層であって、樹脂Aと樹脂Bとのハンセン溶解度パラメータの距離であるHSP距離(Ra)が、10MPa1/2以下である、多孔質層である。ここで、樹脂Aと樹脂Bとは、当該多孔質層に含まれる樹脂中、合計重量が最大となる2種類の樹脂の組合せであり、「当該多孔質層に含まれる樹脂中」とは、「当該多孔質層に含まれる樹脂(但し、フィラーを除く)中」との意味である。また、樹脂Aと樹脂Bとは合計重量が最大となる2種類の樹脂の組合せであればよく、いずれの重量分率がより大きいかは問わない。さらに、合計重量が最大となる2種類の樹脂とは、合計重量が最大となる2種類の樹脂の組合せが2とおり以上ある場合、その何れかの組合せであればよい。上記多孔質層は、非水電解液二次電池のセパレータの多孔質基材上に形成され、非水電解液二次電池用積層セパレータを構成する部材となり得る。また、上記多孔質層は、電極上に直接形成することもできる。
【0012】
本発明の一実施形態に係る多孔質層が、樹脂Aと樹脂Bとを含む非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層であって、樹脂Aと樹脂Bとのハンセン溶解度パラメータの距離であるHSP距離(Ra)が、10MPa1/2以下であることにより、かかる多孔質層を備えたセパレータは、イオン透過性に優れる。
【0013】
ハンセン溶解度パラメータ(δ)は、(δD、δP、δH)の3次元のパラメータで定義され、下記式(1)により表される。なお、ハンセン溶解度パラメータに係る詳細は、「PROPERTIES OF POLYMERS」(著者:D.W.VAN KREVELEN、発行所:ELSEVIER SCIENTIFIC PUBLISHING COMPANY、1989年発行、第5版)に記載されている。
δ=(δD)+(δP)+(δH) ・・・(1)
δD:London分散力項
δP:分子分極項(双極子間力項)
δH:水素結合項
δD、δP、及びδHは、ハンセン溶解度パラメータを提案したハンセン博士のグループによって開発されたプログラムであるHSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)を用いて計算することができる。本願ではVer.4.1.07を使用した。
【0014】
ここで、樹脂が2種類以上のモノマーからなる共重合体である場合、必ずしも特定の構造繰り返し単位を定めることができないため、上述のプログラムではハンセン溶解度パラメータを直接算出することはできない。そのため、かかる場合には、それぞれのモノマーからなるホモポリマーのハンセン溶解度パラメータをそれぞれ算出し、得られた複数のホモポリマーのハンセン溶解度パラメータを、共重合体中に含まれるモノマーのモル比で平均した値を共重合体のハンセン溶解度パラメータとする。なおここで、「モル比で平均した値」とは、それぞれのモノマーからなるホモポリマーのハンセン溶解度パラメータ、δD、δP、δHのそれぞれに、そのモノマーのモル分率を乗じた値を、δD、δP、δHのそれぞれについて合計したものをいう。また、ここで、あるモノマーの「モル分率」とは、(当該モノマーのモル量)/(共重合体中のモノマーの総モル量)を意味する。
【0015】
また、ポリエステル、ポリアミドまたはポリウレタン等の合成において、単体でホモポリマーを形成しないジオールモノマー、ジアミンモノマー、ジカルボン酸モノマー及びジイソシアネート等のモノマーを含む場合は、それら二つの交互に重合しうるモノマーが完全に交互に重合したものとしてHSP計算を行えばよい。
【0016】
なお、このHSP計算について、交互に重合しうるモノマーの組み合わせが複数考えられる場合、以下のように計算する。
【0017】
例えば系中にジカルボン酸モノマーA1、A2、・・・An(それぞれのモル量はA1m、A2m、・・・Anm)と、ジオールモノマーB1、B2、・・・Bn(それぞれのモル量はB1m、B2m、・・・Bnm)、及び単独重合しうるモノマーC1、C2、・・・Cn(それぞれのモル量はC1m、C2m、・・・、Cnm)が存在するとき、ジカルボン酸モノマーとジオールモノマー全ての組み合わせからなる交互共重合体についてHSP計算を行う。そして、ジカルボン酸モノマーAiとジオールモノマーBiとからなる交互共重合体の存在比は、{Aim/(A1m+A2m+・・・+Anm)}×{Bim/(B1m+B2m+・・・+Bnm)}×{(A1m+A2m+・・・+Anm)+(B1m+B2m+・・・+Bnm)}/{(A1m+A2m+・・・+Anm)+(B1m+B2m+・・・+Bnm)+(C1m、C2m、・・・、Cnm)}で算出する。ここで、Ai及びBiにおけるiは、1以上n以下の整数を表す。
【0018】
なお、モノマー構造に基づいて、当該モノマーから得られる交互重合体のハンセン溶解度パラメータを算出するときには、副反応によって理想と異なる構造を生じることを考慮しなくてよい。例えば、ポリウレタンの製造に用いられるジイソシアネートモノマーでは、イソシアネート基が加水分解してアミンを生成し、生成したアミンとイソシアネート基とがさらに反応することで単体でもホモポリマーを形成しうるが、上記のHSP計算においては、このような副反応を考慮せずに、ジイソシアネートモノマーは単体でホモポリマーを形成しないモノマーとして取り扱う。
【0019】
また、HSP距離(Ra)は、二つの物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の距離を示す。HSP距離(Ra)は、両物質の親和性を表す指標であって、その値が小さい程、両物質の親和性が高いと言える。
【0020】
二つの物質A及びBのそれぞれのハンセン溶解度パラメータδ及びδを、
δ=(δD、δP、δH
δ=(δD、δP、δH
と仮定すれば、HSP距離(Ra)は、次式(2)により計算することができる。
Ra=[4×(δD−δD+(δP−δP+(δH−δH1/2
・・・(2)
本発明の一実施形態に係る多孔質層では、上述した、樹脂Aと樹脂BとのHSP距離(Ra)が、10MPa1/2以下であればよい。これにより、当該多孔質層を非水電解液二次電池用の多孔質基材上又は電極上に形成したときに、得られた積層体のイオン透過性の改善効果が得られる。
【0021】
その理由としては以下の理由が考えられる。多孔質層の形成工程において多孔化が起こるプロセスは、一般に粘弾性相分離現象として理解されている。粘弾性相分離現象とは、樹脂と溶媒とからなる溶液が固相と液相に相分離する現象である。粘弾性相分離現象の理論によると、溶液中の樹脂が過渡的なゲル状態を経て固相へと相分離する過程において、過渡的なゲル状態が最終的な樹脂のネットワーク構造を支配すると考えられている。
【0022】
ある樹脂に、その樹脂とのHSP距離(Ra)が大きい第2の樹脂を混合して多孔質層を形成した場合、溶液中の樹脂が過渡的なゲル状態を経て固相へと相分離する過程において、両成分が分離するため均一なゲル状態を経ることができないと考えられる。また、溶液に含まれる樹脂が一種のみの場合にも良好なゲル状態を経ることができない。そのため、かかる溶液の層を非水電解液二次電池用セパレータの多孔質基材上又は電極上に形成したときに、好ましい多孔構造を持った多孔質層が形成されないと考えられ、それゆえ、イオン透過性の改善効果を得ることができないと推測される。
【0023】
これに対して、ある樹脂に、その樹脂とのHSP距離(Ra)が小さい第2の樹脂を混合して多孔質層を形成すれば、溶液中の樹脂が過渡的なゲル状態を経て固相へと相分離する過程において、両成分が混和することで適度な樹脂のネットワーク構造を形成したゲル状態を経ることができる。それゆえ、好ましい構造を持つ多孔質層が形成され、イオン透過性の改善効果が得られると考えられる。
【0024】
即ち、上述した、樹脂Aと樹脂BのHSP距離(Ra)が、10MPa1/2以下であれば、溶液中の樹脂が過渡的なゲル状態を経て固相へと相分離する過程において、均一なゲル化が進むと考えられる。それゆえ、好ましい構造を持つ多孔質層が形成され、イオン透過性の改善効果が得られる。なお、化学構造が異なる樹脂であってもハンセン溶解度パラメータが近い値をとることは理論上可能であるが、イオン透過性に優れた多孔質構造をより形成し易くなるという観点から、上述した、樹脂Aと樹脂BとのHSP距離(Ra)は好ましくは1MPa1/2以上であり、2MPa1/2以上であってもよい。
【0025】
上記多孔質層に含まれる樹脂(但しフィラーは除く、以下本明細書において同じ)の総重量に対する、樹脂Aと樹脂Bとの合計重量は、通常50重量%以上、好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上であり、さらに好ましくは95重量%以上である。
【0026】
上記多孔質層の総重量に対する、樹脂Aと樹脂Bとの合計重量は、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上である。
【0027】
また上記多孔質層に含まれる樹脂Aと樹脂Bの比率は、重量比で、好ましくは、樹脂A:樹脂B=10:90〜90:10であり、より好ましくは樹脂A:樹脂B=20:80〜80:20である。この範囲であれば、従来技術に対して、イオン透過性により優れるとの効果を得ることができる。
【0028】
また上記多孔質層には、樹脂A及び樹脂Bに加えて、その他の樹脂が含まれていてもよい。かかる場合、上記多孔質層に含まれる樹脂の総重量に対する、樹脂Aと樹脂Bとの合計重量が80重量%未満である場合は、上記多孔質層に含まれる樹脂中、樹脂A及び樹脂Bに次いで重量分率が大きい第3の樹脂を選択し、樹脂Aと樹脂Bとの間に加えて、樹脂Aと第3の樹脂との間、及び、樹脂Bと第3の樹脂との間においても、HSP距離(Ra)が、10MPa1/2以下であることがより好ましい。また、上記樹脂Aと樹脂Bと第3の樹脂との合計重量が80重量%未満である場合は、上記第3の樹脂に次いで重量分率が大きい第4の樹脂を選択し、樹脂A、樹脂B、第3の樹脂及び第4の樹脂から選ばれるすべての2種類の樹脂の組合せにおいて、HSP距離(Ra)が、10MPa1/2以下であることがより好ましい。このようにして、樹脂Aと樹脂Bとに加えて、上記多孔質層に含まれる樹脂の総重量に対して80重量以上となるまで、次に重量分率が大きい第3、第4、第5、第6等の樹脂を選択し、選択したそれぞれの樹脂との間においても、HSP距離(Ra)が、10MPa1/2以下であることがより好ましい。これにより、3種類目以上の樹脂を比較的多い重量分率で使用する場合にも、イオン透過性の改善効果を得ることができる。
【0029】
<樹脂A、樹脂B>
本発明の一実施形態に係る多孔質層に含まれる樹脂Aと樹脂Bとは、相互に異なる構造単位を有する樹脂であって、樹脂Aと樹脂BとのHSP距離(Ra)が、10MPa1/2以下であればよい。さらに、樹脂A及び樹脂Bは、電池の電解液に不溶であり、また、その電池の使用範囲において電気化学的に安定であることがより好ましい。
【0030】
また、非水電解液二次電池の熱暴走を防ぐため、樹脂A及び樹脂Bの少なくとも一方は耐熱性樹脂であることがより好ましい。
【0031】
例えば、樹脂Aが少なくとも耐熱性樹脂であって、樹脂Bは、樹脂Aが有する構造単位とは異なる構造単位を50mol%以上有する樹脂であって、樹脂AとのHSP距離(Ra)が、10MPa1/2以下である樹脂である場合を挙げることができる。
【0032】
樹脂A及びBは耐熱性樹脂であることは必須ではないが、耐熱性が高い方が、上記多孔質層を用いた非水電解液二次電池の熱に対する安全性が高まる。そのため、樹脂A及びBは、融点が高い樹脂であることがより好ましい。樹脂A及びBとしては、一般に耐熱性を有することから、芳香族化合物をより好適に用いることができる。
【0033】
ここで、本明細書において、「耐熱性樹脂」とは、融点が多孔質基材の主成分であるポリオレフィン系樹脂の融点以上の樹脂を言うが、上記耐熱性樹脂は、融点が150℃以上の樹脂であることが好ましい。また、上記耐熱性樹脂の融点は、高ければ高いほど電池の熱に対する安全性が高まるので好ましい。
【0034】
本発明の一実施形態に係る多孔質層に含まれる樹脂(樹脂A及び樹脂Bを含む)としては、例えば、ポリオレフィン、ポリ(メタ)クリレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、及びポリアセタール等が挙げられる。
【0035】
上記耐熱性樹脂としては、例えば、上記樹脂の内、融点が150℃以上の樹脂が挙げられる。
【0036】
上記耐熱性樹脂としては、融点が一般的に高いことから芳香族重合体であることが好ましい。かかる芳香族重合体としては、例えば、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、芳芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、及び芳香族ポリスルホンが挙げられる。また、芳香族重合体は主鎖に脂肪族炭素を有さない全芳香族重合体であることがより好ましい。
【0037】
なお、本明細書において、重合体の一般名称は、その重合体が有する主たる結合様式を表す。例えば、本発明における芳香族重合体が芳香族ポリエステルと称される芳香族重合体である場合、当該芳香族重合体における分子中の主鎖結合数の50%以上がエステル結合であることを表している。従って、上記芳香族ポリエステルと称される芳香族重合体において、主鎖を構成する結合に、エステル結合以外のその他の結合(例えば、アミド結合、イミド結合等)が含まれていてもよい。
【0038】
中でも上記芳香族重合体は、耐熱性の観点から、含窒素芳香族重合体であることがより好ましい。含窒素芳香族重合体としては、全芳香族ポリアミド(アラミド樹脂)、及び半芳香族ポリアミドなどの芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、芳香族ポリウレタン、メラミン樹脂などが挙げられる。
【0039】
上記多孔質層には、上述した耐熱性樹脂が1種類含まれていてもよいし、2種類以上含まれていてもよい。
【0040】
上記芳香族ポリアミドとしては、パラアラミド及びメタアラミド等の全芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、6Tナイロン、6Iナイロン、8Tナイロン、10Tナイロン、及び、これらの変性物、又は、これらの共重合体などが挙げられる。中でも、耐熱性の観点から、全芳香族ポリアミドが好ましく、パラアラミドがより好ましい。
【0041】
上記芳香族ポリアミドの調製方法としては、特に限定されないが、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドの縮合重合法が挙げられる。その場合、得られる芳香族ポリアミドは、アミド結合が芳香族環のパラ位又はそれに準じた配向位(例えば、4,4’−ビフェニレン、1,5−ナフタレン、2,6−ナフタレン等のような反対方向に同軸又は平行に延びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的になるものであり、具体的には、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等のパラ配向型又はパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが例示される。
【0042】
また、芳香族ポリアミドとしてポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)(以下、PPTAと略す)の溶液を調製する具体的な方法として、例えば、以下の(1)〜(4)に示す方法が挙げられる。
(1)乾燥したフラスコにN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す)を仕込み、200℃で2時間乾燥した塩化カルシウムを添加して100℃に昇温し、上記塩化カルシウムを完全に溶解させる。
(2)(1)にて得られた溶液の温度を室温に戻し、パラフェニレンジアミン(以下、PPDと略す)を添加した後、上記PPDを完全に溶解させる。
(3)(2)にて得られた溶液の温度を20±2℃に保ったまま、テレフタル酸ジクロライド(以下、TPCと略す)を10分割して約5分間おきに添加する。
(4)(3)にて得られた溶液の温度を20±2℃に保ったまま1時間熟成し、減圧下にて30分間撹拌して気泡を抜くことにより、PPTAの溶液を得る。
【0043】
上記芳香族ポリイミドとしては、芳香族二酸無水物と芳香族ジアミンの縮重合で調製される全芳香族ポリイミドが好ましい。該二酸無水物の具体例としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。該ジアミンの具体例としては、例えば、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン、3,3’−メチレンジアニリン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5’−ナフタレンジアミンなどが挙げられる。より好ましい芳香族ポリイミドは、溶媒に可溶なポリイミドであり、例えば、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとの重縮合物のポリイミドが挙げられる。
【0044】
上記芳香族ポリアミド又は芳香族ポリイミドには、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるもの、芳香族二酸無水物及び芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるものが含まれる。芳香族ジカルボン酸の具体例としてはイソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。また芳香族二酸無水物の具体例としては無水トリメリット酸などが挙げられる。芳香族ジイソシアネートの具体例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、オルソトリランジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0045】
上記芳香族ポリエステルは、耐熱性の観点から、全芳香族ポリエステルであることがより好ましい。上記芳香族ポリエステルとしては、例えば、以下に示すものが挙げられる。
(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、及び芳香族ジオールを重合させて得られる重合体、
(2)同種又は異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させて得られる重合体、
(3)芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールを重合させて得られる重合体、
(4)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、及びフェノール性水酸基を有する芳香族アミンを重合させて得られる重合体、
(5)芳香族ジカルボン酸及びフェノール性水酸基を有する芳香族アミンを重合させて得られる重合体、
(6)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、及び芳香族ジアミンを重合させて得られる重合体。
(7)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジアミン、及び芳香族ジオールを重合させて得られる重合体、
(8)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン、及び芳香族ジオールを重合させて得られる重合体。
【0046】
上述の芳香族ポリエステルのうち、上記(4)〜(7)又は(8)の芳香族ポリエステルが、溶媒への溶解性の観点から好ましい。溶媒への溶解性に優れることで多孔質層の生産性を向上させることができる。
【0047】
なお、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ジアミン及びフェノール性水酸基を有する芳香族アミンの代わりに、それらのエステル形成性誘導体もしくはアミド形成性誘導体を使用してもよい。
【0048】
ここで、カルボン酸のエステル形成性誘導体もしくはアミド形成性誘導体としては、例えば、カルボキシル基が、ポリエステル生成反応もしくはポリアミド生成反応を促進するような酸塩化物、酸無水物などの反応性が高い誘導体となっているもの、カルボキシル基が、エステル交換反応もしくはアミド交換反応によりポリエステルもしくはポリアミドを生成するようなアルコール類やエチレングリコール、アミンなどとエステルもしくはアミドを形成しているものなどが挙げられる。
【0049】
また、フェノール性水酸基のエステル形成性誘導体としては、例えば、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、フェノール性水酸基がカルボン酸類とエステルを形成しているものなどが挙げられる。
【0050】
さらに、アミノ基のアミド形成性誘導体としては、例えば、アミド交換反応によりポリアミドを生成するようなカルボン酸類とアミドを形成しているものなどが挙げられる。
【0051】
また、上記芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール及びフェノール性水酸基を有する芳香族アミン、芳香族ジアミンは、エステル形成性もしくはアミド形成性を阻害しない程度であれば、メチル基、エチル基などのアルキル基、フェニル基などのアリール基などで置換されていてもよい。
【0052】
上記芳香族ポリエステルの繰り返し構造単位としては、下記のものを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し構造単位:
【0054】
【化1】
【0055】
上記の繰り返し構造単位は、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
【0056】
芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位:
【0057】
【化2】
【0058】
上記の繰り返し構造単位は、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
【0059】
芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位:
【0060】
【化3】
【0061】
上記の繰り返し構造単位は、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
【0062】
フェノール性水酸基を有する芳香族アミンに由来する繰り返し構造単位:
【0063】
【化4】
【0064】
上記の繰り返し構造単位は、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。また、窒素原子に結合する水素原子の一部又は全部がアルキル基やアシル基などで置換されていてもよい。
【0065】
芳香族ジアミンに由来する繰り返し構造単位:
【0066】
【化5】
【0067】
上記の繰り返し構造単位は、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
【0068】
なお、繰り返し構造単位に置換されていてもよいアルキル基としては、例えば炭素数1〜10のアルキル基が通常用いられ、中でもメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基が好ましい。繰り返し構造単位に置換されていてもよいアリール基としては、例えば炭素数6〜20のアリール基が通常用いられ、中でもフェニル基が好ましい。また、窒素原子に結合する水素原子の一部又は全部がアルキル基やアシル基などで置換されていてもよい。繰り返し構造単位に置換されていてもよいハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられる。
【0069】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータの耐熱性をより高めるという観点から、芳香族ポリエステルは、上記(A)、(A)、(B)、(B)又は(B)式で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0070】
ここで上記繰り返し単位を含む構造単位の好ましい組み合わせとしては、例えば、下記(a)〜(d)が挙げられる。
【0071】
(a):
上記繰り返し構造単位(A)、(B)及び(D)の組み合わせ、
上記繰り返し構造単位(A)、(B)及び(D)の組み合わせ、
上記繰り返し構造単位(A)、(B)、(B)及び(D)の組み合わせ、
上記繰り返し構造単位(A)、(B)、(B)及び(D)の組み合わせ、
上記繰り返し構造単位(A)、(B)及び(D)の組み合わせ、又は、
上記繰り返し構造単位(B)、(B)又は(B)及び(D)の組み合わせ。
【0072】
(b):上記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(D)の一部又は全部を(D)に置換した組み合わせ。
【0073】
(c):上記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(A)の一部を(A)に置換した組み合わせ。
【0074】
(d):上記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(D)の一部又は全部を(C)又は(C)に置換した組み合わせ。
(e):上記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(D)の一部又は全部を(E)又は(E)に置換した組み合わせ。
【0075】
さらに好ましい組み合わせとしては、p−ヒドロキシ安息香酸及び2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し構造単位10〜50モル%、4−ヒドロキシアニリン及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し構造単位10〜50モル%、テレフタル酸及びイソフタル酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し構造単位10〜50モル%、ハイドロキノンに由来する繰り返し構造単位10〜19モル%を含むことがより好ましく、更には、4−ヒドロキシアニリンに由来する繰り返し構造単位10〜35モル%、イソフタル酸に由来する繰り返し構造単位20〜45モル%を含むことが特に好ましい。
【0076】
上記芳香族重合体の調製方法としては、当業者にとって既知の方法を使用することができ、特に限定されない。上記芳香族重合体の調製方法の一例として、芳香族ポリエステルの調製方法を以下に例示する。
【0077】
芳香族ポリエステルの調製方法としては、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオール、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン、芳香族ジアミンを過剰量の脂肪酸無水物によりアシル化して(アシル化反応)、アシル化物を得、得られたアシル化物と、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び/又は芳香族ジカルボン酸とをエステル交換・アミド交換することにより重合する方法が挙げられる。
【0078】
アシル化反応においては、脂肪酸無水物の添加量がフェノール性水酸基とアミノ基の総計の1.0〜1.2倍当量であることが好ましい。
【0079】
アシル化反応は、130〜180℃で5分間〜10時間反応させることが好ましく、140〜160℃で10分間〜3時間反応させることがより好ましい。
【0080】
アシル化反応に使用される脂肪酸無水物は、特に限定されないが、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸などが挙げられ、これらは2種類以上を混合して用いてもよい。価格と操作性の観点から、好ましくは、無水酢酸である。
【0081】
エステル交換・アミド交換による重合においては、アシル化物のアシル基がカルボキシル基の0.8〜1.2倍当量であることが好ましい。また重合温度は、400℃以下で行うことが好ましく、さらに好ましくは350℃以下である。
【0082】
なお、アシル化反応、エステル交換・アミド交換による重合は、触媒の存在下に行ってもよい。上記触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができる。
【0083】
エステル交換・アミド交換による重合は、通常、溶融重合により行われるが、溶融重合と固相重合とを併用してもよい。固相重合は、溶融重合工程からポリマーを抜き出し、固化後、粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法により行うことができる。具体的には、例えば、窒素などの不活性雰囲気下、20〜350℃で、1〜30時間固相状態で熱処理する方法などが挙げられる。固相重合後、得られた芳香族ポリエステルは、公知の方法によりペレット化して使用してもよい。
【0084】
なお、本実施形態における多孔質層が耐熱性樹脂を含む場合、樹脂A及び樹脂Bが耐熱性樹脂であってもよいし、樹脂A及び樹脂Bのいずれか一方が耐熱性樹脂であってもよい。或いは、上述した第3、第4等の樹脂が上述した耐熱性樹脂であって、樹脂A及び樹脂Bが共に耐熱性でない樹脂であってもよい。
【0085】
<フィラー>
本発明の一実施形態に係る多孔質層は、さらにフィラーを含んでもよい。当該フィラーは、絶縁性であり、その材質として、有機粉末、無機粉末又はこれらの混合物の何れかから選ばれるものであってもよい。
【0086】
上記有機粉末としては、例えば、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単独あるいは2種類以上の共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリオレフィン;ポリメタクリレート等の有機物からなる粉末が挙げられる。該有機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの有機粉末の中でも、化学的安定性の点で、ポリテトラフルオロエチレン粉末が好ましい。
【0087】
上記の無機粉末としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩等の無機物からなる粉末が挙げられ、具体的に例示すると、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、又は炭酸カルシウム等からなる粉末が挙げられる。該無機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの無機粉末の中でも、化学的安定性の点で、アルミナ粉末が好ましい。ここで、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子であることがより好ましく、さらにより好ましいのは、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子であり、その一部又は全部が略球状のアルミナ粒子である実施形態である。尚、本発明において、略球状のアルミナ粒子は、真球状粒子を含むものである。
【0088】
本発明において、上記多孔質層におけるフィラーの含有量としては、フィラーの材質の比重にもよるが、例えば、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子である場合には、多孔質層の総重量に対する、フィラーの重量は、通常20重量%以上、95重量%以下、好ましくは30重量%以上、90重量%以下である。これらの範囲は、フィラーの材質の比重により、適宜設定できる。
【0089】
本発明におけるフィラーの形状については、略球状、板状、柱状、針状、ウィスカー状、繊維状等が挙げられ、何れの粒子も用いることができるが、均一な孔を形成しやすいことから、略球状粒子であることが好ましい。また、多孔質層の強度特性及び平滑性の観点から、フィラーを構成する粒子の平均粒子径としては、0.01μm以上、1μm以下であることが好ましい。ここで、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡写真から測定される値を用いる。具体的には、該写真に撮影されている粒子から任意に50個抽出し、それぞれの粒子径を測定して、その平均値を用いる。
【0090】
<多孔質層の物性>
多孔質層の物性に関する下記説明においては、多孔質基材の両面に多孔質層が積層される場合には、非水電解液二次電池としたときの、多孔質基材における正極と対向する面に積層された多孔質層の物性を少なくとも指す。
【0091】
製造する非水電解液二次電池用セパレータの厚さを考慮して適宜決定すればよいものの、多孔質基材の片面又は両面に多孔質層を積層する場合においては、多孔質層の膜厚は、片面当たり、0.5μm〜45μm(片面当たり)であることが好ましく、0.5μm〜20μm(片面当たり)であることがより好ましく、0.5μm〜15μm(片面当たり)であることがさらに好ましい。多孔質層の膜厚は、非水電解液二次電池用セパレータ全体の膜厚から多孔質基材の膜厚を引くことにより求められる。
【0092】
多孔質層の膜厚が0.5μm以上(片面当たり)であることが、当該多孔質層を備える非水電解液二次電池用積層セパレータにおいて、電池の破損等による内部短絡を充分に防止することができ、また、多孔質層における電解液の保持量を維持できるという面において好ましい。一方、多孔質層の膜厚が両面の合計で45μm以下であることが、当該多孔質層を備える非水電解液二次電池用積層セパレータ全域におけるリチウムイオン等のイオンの透過抵抗の増加を抑制し、充放電サイクルを繰り返した場合の正極の劣化、レート特性やサイクル特性の低下を防ぐことができる面、並びに、正極及び負極間の距離の増加を抑えることにより非水電解液二次電池の大型化を防ぐことができる面において好ましい。
【0093】
<多孔質層の製造方法>
上記多孔質層の製造方法としては、例えば、上記樹脂を溶媒に溶解させると共に、任意で、上記フィラーを分散させることにより、多孔質層を形成するための塗工液を調製し、該塗工液を基材に塗布し、乾燥させることにより、上記多孔質層を析出させる方法が挙げられる。なお、基材には、後述する多孔質基材、又は、電極等を使用することができる。
【0094】
上記溶媒(分散媒)は、基材に悪影響を及ぼさず、上記樹脂を均一かつ安定に溶解し、上記フィラーを均一かつ安定に分散させることができればよく、特に限定されるものではない。上記溶媒(分散媒)としては、具体的には、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。上記溶媒(分散媒)は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
塗工液は、所望の多孔質層を得るのに必要な樹脂固形分(樹脂濃度)及びフィラーの量等の条件を満足することができれば、どのような方法で形成されてもよい。具体的には、例えば、樹脂Aと樹脂Bとを溶媒(分散媒)に溶解させ、必要に応じてフィラーを添加して混合する方法がある。フィラーを添加する場合、例えば、スリーワンモーター、ホモジナイザー、メディア型分散機、圧力式分散機等の従来公知の分散機を使用してフィラーを溶媒(分散媒)に分散させることができる。
【0096】
塗工液を基材に塗工する方法としては、ナイフ、ブレード、バー、グラビア、ダイ等の公知の塗工方法を用いることができる。
【0097】
溶媒(分散媒)の除去方法は、乾燥による方法が一般的である。乾燥方法としては、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられるが、溶媒(分散媒)を充分に除去することができるのであれば如何なる方法でもよい。また、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)を他の溶媒に置換してから乾燥を行ってもよい。溶媒(分散媒)を他の溶媒に置換してから除去する方法としては、具体的には水やアルコール、アセトンなどの低沸点の貧溶媒で置換、析出させ、乾燥を行う方法がある。
【0098】
[実施形態2:非水電解液二次電池用積層セパレータ]
本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池用積層セパレータは、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質基材と、上記多孔質基材の少なくとも一方の面に積層された本発明の実施形態1に係る多孔質層とを含む。
【0099】
<多孔質基材>
上記多孔質基材は、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質基材であり、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルムであり得る。また、上記多孔質フィルムは、微多孔膜であることが好ましい。即ち、上記多孔質フィルムは、その内部に連結した細孔を有する構造を有し、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能であるポリオレフィン系樹脂を主成分とすることが好ましい。上記多孔質フィルムは、1つの層から形成されるものであってもよいし、複数の層から形成されるものであってもよい。
【0100】
ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルム(多孔質基材)とは、多孔質フィルムにおけるポリオレフィン系樹脂成分の割合が、多孔質フィルム全体の、通常、50体積%以上であり、好ましくは90体積%以上、より好ましくは95体積%以上であることを意味する。多孔質フィルムのポリオレフィン系樹脂には、重量平均分子量が5×10〜15×10の範囲の高分子量成分が含まれていることが好ましい。多孔質フィルムのポリオレフィン系樹脂として特に重量平均分子量100万以上のポリオレフィン系樹脂が含まれることにより、多孔質フィルム、即ち、非水電解液二次電池用セパレータ全体及び当該多孔質フィルムと多孔質層を備える非水電解液二次電池用積層セパレータ全体の強度が高くなるためより好ましい。
【0101】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン等を重合してなる高分子量の単独重合体(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン)又は共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体)が挙げられる。多孔質フィルムは、これらのポリオレフィン系樹脂を1種類含む層、及び/又は、これらのポリオレフィン系樹脂の2種類以上を含む層、である。特に、過大電流が流れることをより低温で阻止(シャットダウン)することができるという面において、エチレンを主体とする高分子量のポリエチレン系樹脂が好ましい。なお、多孔質フィルムは、当該層の機能を損なわない範囲で、ポリオレフィン系樹脂以外の成分を含むことを妨げない。
【0102】
上記多孔質フィルムの透気度は、通常、ガーレ値で30秒/100cm〜500秒/100cmの範囲であり、好ましくは、50秒/100cm〜300秒/100cmの範囲である。多孔質フィルムが、上記範囲の透気度を有すると、多孔質フィルムが非水電解液二次電池用セパレータとして、或いは後述する多孔質層を備える非水電解液二次電池用積層セパレータの部材として使用される場合に、当該セパレータ、当該積層セパレータは充分なイオン透過性を得ることができる。
【0103】
多孔質フィルムの膜厚は、薄いほど電池のエネルギー密度を高められるため、20μm以下が好ましく、16μm以下がより好ましく、11μm以下がさらに好ましい。また、フィルム強度の観点から4μm以上が好ましい。すなわち、多孔質フィルムの膜厚は、4μm以上20μm以下が好ましい。
【0104】
多孔質フィルムの製造方法は、公知の手法を用いることができ、特に限定されない。例えば、特許第5476844号公報に記載されたように、熱可塑性樹脂にフィラーを加えてフィルム成形した後、該フィラーを除去する方法が挙げられる。
【0105】
具体的には、例えば、多孔質フィルムが、超高分子量ポリエチレン及び重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂から形成されてなる場合には、製造コストの観点から、以下に示す工程(1)〜(4)を含む方法により製造することが好ましい。
(1)超高分子量ポリエチレン100重量部と、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィン5重量部〜200重量部と、炭酸カルシウム等の無機充填剤100重量部〜400重量部とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程、
(2)ポリオレフィン樹脂組成物を用いてシートを成形する工程、
(3)工程(2)で得られたシート中から無機充填剤を除去する工程、
(4)工程(3)で得られたシートを延伸する工程。
その他、上述した各特許文献に記載の方法を利用してもよい。
【0106】
また、本発明における多孔質フィルムとして、上述の特徴を有する市販品を使用してもよい。
【0107】
<非水電解液二次電池用積層セパレータの製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータの製造方法としては、前述した本発明の一実施形態に係る多孔質層の製造方法において、基材として、上記ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムを使用する方法が挙げられる。
【0108】
<非水電解液二次電池用積層セパレータの物性>
上記非水電解液二次電池用積層セパレータの膜厚は、薄ければ薄いほど、電池のエネルギー密度を高めることができるため好ましいが、膜厚が薄いと強度が低下するため、製造する上での限界がある。以上の事項を考慮すると、上記非水電解液二次電池用積層セパレータの膜厚は、50μm以下が好ましく、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。また上記膜厚は、5μm以上であることが好ましい。
【0109】
上記非水電解液二次電池用積層セパレータの透気度は、ガーレ値で30〜1000秒/100cmであることが好ましく、50〜800秒/100cmであることがより好ましい。積層体が上記透気度を有することにより、積層体を非水電解液二次電池用セパレータとして用いたときに、充分なイオン透過性を得ることができる。透気度が上記範囲を超える場合には、非水電解液二次電池用セパレータとして用いたときに、充分なイオン透過性を得ることができず、非水電解液二次電池の電池特性を低下させることがある。一方、透気度が上記範囲未満の場合には、積層体の空隙率が高いために積層構造が粗になっていることを意味し、結果として積層体の強度が低下して、特に高温での形状安定性が不充分になるおそれがある。
【0110】
なお、上記非水電解液二次電池用積層セパレータは、上記多孔質フィルム及び多孔質層の他に、必要に応じて、接着層、保護層等の公知の多孔膜を、本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよい。
【0111】
[実施形態3:非水電解液二次電池用部材、実施形態4:非水電解液二次電池]
本発明の実施形態3に係る非水電解液二次電池用部材は、正極、本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、又は、本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池用積層セパレータ、及び負極がこの順で配置されてなる。
【0112】
本発明の実施形態4に係る非水電解液二次電池は、本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、又は、本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池用積層セパレータを含む。
【0113】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、例えば、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、正極と、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層と、負極とがこの順で積層されてなる非水電解液二次電池部材を備え得る。また、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、例えば、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、正極と、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層と、多孔質基材と、負極とがこの順で積層されてなる非水電解液二次電池部材、すなわち、正極と、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータと、負極とがこの順で積層されてなる非水電解液二次電池部材を備えるリチウムイオン二次電池であり得る。なお、非水電解液二次電池用セパレータ以外の非水電解液二次電池の構成要素は、下記説明の構成要素に限定されるものではない。
【0114】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、通常、負極と正極とが、本発明の一実施形態に係る多孔質層又は本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータを介して対向した構造体に電解液が含浸された電池要素が、外装材内に封入された構造を有する。非水電解液二次電池は、非水電解質二次電池、特にはリチウムイオン二次電池であることが好ましい。なお、ドープとは、吸蔵、担持、吸着、又は挿入を意味し、正極等の電極の活物質にリチウムイオンが入る現象を意味する。
【0115】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池部材は、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層又は本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータを備えていることから、イオン伝導性が高く電池特性に優れた特性を持つ非水電解液二次電池を実現することができるとの効果を奏する。本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層又は本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータを備えていることから、イオン伝導性が高く電池特性に優れるとの効果を奏する。
【0116】
<正極>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池部材及び非水電解液二次電池における正極としては、一般に非水電解液二次電池の正極として使用されるものであれば、特に限定されないが、例えば、正極活物質及びバインダー樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造を備える正極シートを使用することができる。なお、上記活物質層は、更に導電剤を含んでもよい。
【0117】
上記正極活物質としては、例えば、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、V、Mn、Fe、Co及びNi等の遷移金属を少なくとも1種類含んでいるリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0118】
上記導電材としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維及び有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料等が挙げられる。上記導電材は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0119】
上記結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、アクリル樹脂、並びに、スチレンブタジエンゴムが挙げられる。なお、結着剤は、増粘剤としての機能も有している。
【0120】
上記正極集電体としては、例えば、Al、Ni及びステンレス等の導電体が挙げられる。中でも、薄膜に加工し易く、安価であることから、Alがより好ましい。
【0121】
シート状の正極の製造方法としては、例えば、正極活物質、導電材及び結着剤を正極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電材及び結着剤をペースト状にした後、当該ペーストを正極集電体に塗工し、乾燥した後に加圧して正極集電体に固着する方法;等が挙げられる。
【0122】
<負極>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池部材及び非水電解液二次電池における負極としては、一般に非水電解液二次電池の負極として使用されるものであれば、特に限定されないが、例えば、負極活物質及びバインダー樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造を備える負極シートを使用することができる。なお、上記活物質層は、更に導電助剤を含んでもよい。
【0123】
上記負極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料、リチウム金属又はリチウム合金等が挙げられる。当該材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料;酸化物、硫化物などの、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ及び脱ドープを行うカルコゲン化合物;アルミニウム(Al)、鉛(Pb)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、シリコン(Si)などの、アルカリ金属と合金化する金属、金属間化合物(AlSb、MgSi、NiSi)、リチウム窒素化合物(Li3-xN(M:遷移金属))などの、アルカリ金属を格子間に挿入可能な立方晶系の化合物を用いることができる。上記負極活物質のうち、電位平坦性が高く、また平均放電電位が低いために正極と組み合わせた場合に大きなエネルギー密度が得られることから、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を主成分とする炭素質材料がより好ましく、黒鉛とシリコンの混合物がさらに好ましい。該混合物中、Cに対するSiの比率が5重量%以上の負極活物質がより好ましく、10%重量以上である負極活物質がさらに好ましい。
【0124】
上記負極集電体としては、例えば、Cu、Ni及びステンレス等が挙げられ、特にリチウムイオン二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工し易いことから、Cuがより好ましい。
【0125】
シート状の負極の製造方法としては、例えば、負極活物質を負極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にした後、当該ペーストを負極集電体に塗工し、乾燥した後に加圧して負極集電体に固着する方法;等が挙げられる。上記ペーストには、好ましくは上記導電助剤、及び、上記結着剤が含まれる。
【0126】
<非水電解液>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池における非水電解液は、一般に非水電解液二次電池に使用される非水電解液であれば特に限定されず、例えば、リチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、Li10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩及びLiAlCl等が挙げられる。上記リチウム塩は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0127】
非水電解液を構成する有機溶媒としては、例えば、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、アミド類、カーバメート類及び含硫黄化合物、並びにこれらの有機溶媒にフッ素基が導入されてなる含フッ素有機溶媒等が挙げられる。上記有機溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0128】
<非水電解液二次電池用部材及び非水電解液二次電池の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用部材の製造方法としては、例えば、上記正極、本発明の一実施形態に係る多孔質層又は本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータ、及び負極をこの順で配置する方法が挙げられる。
【0129】
また、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池の製造方法としては、例えば、上記方法にて非水電解液二次電池用部材を形成した後、非水電解液二次電池の筐体となる容器に当該非水電解液二次電池用部材を入れ、次いで、当該容器内を非水電解液で満たした後、減圧しつつ密閉することにより、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池を製造することができる。
【実施例】
【0130】
以下、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0131】
[物性等の測定方法]
実施例及び比較例における積層セパレータ、セパレータ基材(多孔質基材)及び塗工フィルム(多孔質層)、並びに、ポリマー溶液の物性等を、以下の方法を用いて測定した。
【0132】
(1)膜厚(単位:μm)
積層セパレータの膜厚、及びセパレータ基材(多孔質基材)の膜厚は、JIS規格(K 7130−1992)に従い、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測長機を用いて測定した。
【0133】
(2)ガーレ法による透気度(秒/100cm
積層セパレータの透気度は、JIS P 8117に基づいて、株式会社安田精機製作所製のデジタルタイマー式ガーレ式デンソメータで測定した。
【0134】
(3)粘度(dl/g又はcp)
実施例、比較例にて調製したパラアラミドの固有粘度を次の方法にて測定した。96〜98%硫酸100mlにパラアラミド0.5gを溶解した溶液及び96〜98%硫酸について、求められた流動時間の比から次式により固有粘度を求めた。
固有粘度[単位:dl/g]=ln(T/T)/C
ここでT及びTはそれぞれパラアラミド硫酸溶液及び硫酸の流動時間であり、Cはパラアラミド硫酸溶液中のパラアラミド濃度(g/dl)を示す。
【0135】
また、実施例、比較例にて調製した芳香族ポリエステル溶液の溶液粘度を、23℃において、東機産業(株)製のB型粘度計「TVL−20型」を用いて測定した。
【0136】
(4)加熱形状維持率(%)
多孔質基材に形成された多孔質層について、100℃加熱収縮試験を行って、加熱形状維持率を算出した。具体的には、積層セパレータから、8cm角の試料を切出して、切り出した試料の多孔質層の表面に、8cm角の外縁の内側に6cm角の線を引いた。この試料を紙に挟んで100℃で1時間加熱した後、引いた線の長さを測定し、以下の計算式から加熱形状維持率を算出した。
【0137】
加熱形状維持率(%)=(加熱後の線の長さ/加熱前の線の長さ)×100
[実施例1]
<パラアラミドの合成>
撹拌翼、温度計、窒素流入管及び粉体添加口を有する5リットルのセパラブルフラスコを使用してPPTAの合成を行った。
【0138】
セパラブルフラスコを充分乾燥し、NMP4200gを仕込み、200℃にて2時間乾燥させた塩化カルシウム272.65gを添加して100℃に昇温した。塩化カルシウムが完全に溶解した後、当該フラスコ内の温度を室温に戻して、PPD132.91gを添加し、当該PPDを完全に溶解させ、溶液を得た。この溶液の温度を20±2℃に保ったまま、当該溶液に対して、TPC243.32gを10分割して約5分間おきに添加した。その後、得られた溶液の温度を20±2℃に保ったまま、当該溶液を1時間熟成させ、気泡を抜くため減圧下にて30分間撹拌し、PPTA溶液(重合体溶液)を得た。上記重合体溶液の一部をサンプリングして水を用いて再沈してポリマーとして取り出し、得られたPPTAの固有粘度を測定したところ1.97dl/gであった。こうして得られたPPTA溶液をA1液とし、得られたPPTAをポリマーA1と称する。なおA1のHSPを計算すると、δD=23.0、δP=15.5、δH=9.9であった。
【0139】
<芳香族ポリエステルの合成>
攪拌装置、トルクメータ、窒素流入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸941g(5.0モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド377.9g(2.5モル)、イソフタル酸415.3g(2.5モル)及び無水酢酸867.8g(8.5モル)を仕込んだ。そして、反応器内を充分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分間かけて反応器内部の温度を150℃まで昇温し、その温度(150℃)を保持して3時間還流させた。
【0140】
その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、170分間かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。この内容物を室温まで冷却し、粉砕機で粉砕した後、比較的低分子量の全芳香族ポリエステル粉末を得た。
【0141】
得られた比較的低分子量の全芳香族ポリエステル粉末の流動開始温度を、(株)島津製作所製のフローテスター「CFT−500型」を用いて測定したところ、197℃であった。
【0142】
さらに、この全芳香族ポリエステル粉末を窒素雰囲気において180℃で5時間、次いで250℃で5時間にわたって加熱処理することにより、固相重合を行った。固相重合後の比較的高分子量の全芳香族ポリエステルの流動開始温度を上記方法と同様の方法にて測定した結果は、302℃であった。
【0143】
こうして得られた比較的高分子量の全芳香族ポリエステル40gを、NMP460gに加え、100℃で2時間加熱して液状組成物を得た。そして、東機産業(株)製のB型粘度計「TVL−20型」(ローターNo.21、回転速度:5rpm)を用いて、この液状組成物の溶液粘度を測定温度23℃で測定したところ、800cPであった。こうして得られた全芳香族ポリエステル溶液をB1液とし、得られた全芳香族ポリエステルをポリマーB1と称する。B1のHSPを計算すると、δD=20.9、δP=8.3、δH=4.7であり、A1とのHSP距離(Ra)は9.79MPa1/2であった。
【0144】
<塗工液の調製>
ポリマーA1:ポリマーB1=100重量部:100重量部となるようにA1液とB1液とを混合し、得られた混合物を固形分濃度が6%となるようにNMPを用いて希釈した。その後、ホモジナイザーを用いて撹拌し、さらに圧力式分散機にて50MPa×2回処理することにより、塗工液1を得た。
【0145】
<積層セパレータの製造>
ガラス板にポリエチレンセパレータ基材(透気度120秒/100cm、膜厚15μm、以下「PEセパレータ基材」と略す)を貼り付け、テスター産業株式会社製バーコーターを使用して、塗工液1を当該PEセパレータ基材の表面(片面)に塗布した。この塗布物を60℃相対湿度80%の加湿オーブンに1分間入れ、その後イオン交換水で洗浄してから80℃のオーブンで乾燥させ、積層セパレータを得た。当該積層セパレータの透気度は964秒/100cmであった。
【0146】
[実施例2]
<芳香族ポリイミドの合成>
攪拌装置、トルクメータ、窒素流入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、トリメリット酸無水物(TMA)192gとジフェニルメタンジイソシアネート250g(MDI)、フッ化カリウム1.2gを固形分濃度が15%となるようにNMPとともに仕込み、130℃で5時間撹拌した後室温まで冷却した。得られたポリイミド樹脂溶液をA2液とし、得られた全芳香族ポリイミドをポリマーA2と称する。A2のHSPを計算すると、δH=22.2、δP=9.9、δH=5.7であった。
【0147】
<芳香族ポリエステルの合成>
攪拌装置、トルクメータ、窒素流入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、4−ヒドロキシ安息香酸248.6g(1.8モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド468.6g(3.1モル)、イソフタル酸681.1g(4.1モル)、ハイドロキノン110.1g(1.0モル)及び無水酢酸806.5g(7.90モル)を仕込んだ。そして、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、その温度(150℃)を保持して3時間還流させた。
【0148】
その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、300分かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。この内容物を室温まで冷却し、粉砕機で粉砕した後、比較的低分子量の芳香族ポリエステル粉末を得た。そして、(株)島津製作所製のフローテスター「CFT−500型」を用いて、この芳香族ポリエステル粉末の流動開始温度を測定したところ、253.2℃であった。さらに、この芳香族ポリエステル粉末を窒素雰囲気において290℃で3時間加熱処理することにより、固相重合を行った。
【0149】
こうして得られた液晶ポリエステル100gを、NMP400gに加え、100℃で2時間加熱して液状組成物を得た。そして、東機産業(株)製のB型粘度計「TVL−20型」(ローターNo.22、回転速度:20rpm)を用いて、この液状組成物の溶液粘度を測定温度23℃で測定したところ、3000cPであった。こうして得られた全芳香族ポリエステル溶液をB2液とし、得られた全芳香族ポリエステルをポリマーB2と称する。B2のHSPを計算すると、δD=20.4、δP=10.6、δH=5.1であり、A2とのHSP距離(Ra)は3.74MPa1/2であった。
【0150】
<塗工液の調製>
ポリマーA2:ポリマーB2=100重量部:100重量部となるようにA2液とB2液とを混合し、得られた混合液を固形分濃度が6%となるようにNMPを用いて希釈した。その後、ホモジナイザーを用いて撹拌し、さらに圧力式分散機にて50MPa×2回処理することにより、塗工液2を得た。
【0151】
<積層セパレータの製造>
ガラス板にPEセパレータ基材(透気度120秒/100cm、膜厚15μm)を貼り付け、テスター産業株式会社製バーコーターを使用して、塗工液2を当該PEセパレータ基材の表面(片面)に塗布した。この塗布物を60℃相対湿度80%の加湿オーブンに1分間入れ、その後イオン交換水で洗浄してから80℃のオーブンで乾燥させ、積層セパレータを得た。当該積層セパレータの透気度は405秒/100cmであった。
【0152】
[比較例1]
塗工液1の代わりにA1液を用いた以外は実施例1と同様の方法で積層セパレータを得た。当該積層セパレータの透気度は5521秒/100cmであった。
【0153】
[比較例2]
塗工液1の代わりにA2液を用いた以外は実施例1と同様の方法で積層セパレータを得た。当該積層セパレータの透気度は>9999秒/100cmであり、測定することができなかった。
【0154】
[比較例3]
塗工液1の代わりにB1液を用いた以外は実施例1と同様の方法で積層セパレータを得た。当該積層セパレータの透気度は>9999秒/100cmであり、測定することができなかった。
【0155】
[実施例3]
<塗工液の調製>
ポリマーA1:ポリマーB1=100重量部:100重量部となるようにA1液とB1液とを混合し、さらにポリマーA1 100重量部に対し、平均粒径0.02μmのアルミナ粉末と、平均粒径0.3μmのアルミナ粉末とをそれぞれ100重量部ずつ添加した。続いて固形分濃度が5.3%となるようにNMPを用いて希釈した後、ホモジナイザーを用いて撹拌し、さらに圧力式分散機にて50MPa×2回処理することにより、塗工液3を得た。
【0156】
<積層セパレータの製造>
塗工液1の代わりに塗工液3を用いた以外は実施例1と同様の方法で積層セパレータを得た。当該積層セパレータの透気度は198秒/100cmであった。
【0157】
[実施例4]
<塗工液の調製>
実施例1にて得られたA1液と実施例2にて得られたB2液とを混合し、アルミナ粉末を添加して塗工液を作製した。上述したA1のHSPとB2のHSPより求められた、A1とB2とのHSP距離(Ra)は8.60MPa1/2であった。
【0158】
具体的には、ポリマーA1:ポリマーB2=100重量部:100重量部となるようにA1液とB2液とを混合し、さらにポリマーA1 100重量部に対し、平均粒径0.02μmのアルミナ粉末と、平均粒径0.3μmのアルミナ粉末とをそれぞれ200重量部ずつ添加した。続いて固形分濃度が6.0%となるようにNMPを用いて希釈した後、ホモジナイザーを用いて撹拌し、さらに圧力式分散機で50MPa×2回処理することで塗工液4を得た。
【0159】
<積層セパレータの製造>
塗工液1の代わりに塗工液4を用いた以外は実施例1と同様の方法で積層セパレータを得た。当該積層セパレータの透気度は236秒/100cmであった。
【0160】
[比較例4]
<塗工液の調製>
ポリマーA1 100重量部に対し、平均粒径0.02μmのアルミナ粉末と、平均粒径0.3μmのアルミナ粉末とをそれぞれ100重量部ずつ添加した。続いて固形分濃度が6.0%となるようにNMPを用いて希釈した後、ホモジナイザーを用いて撹拌し、さらに圧力式分散機で50MPa×2回処理することで塗工液5を得た。
【0161】
<積層セパレータの製造>
塗工液1の代わりに塗工液5を用いた以外は実施例1と同様の方法で積層セパレータを得た。当該積層セパレータの透気度は270秒/100cmであった。
【0162】
[実施例5]
<塗工液の調製>
実施例1にて得られたA1液と実施例2にて得られたA2液とを混合し、アルミナ粉末を添加して塗工液を作製した。上述したA1のHSPとA2のHSPより求められた、A1とA2とのHSP距離(Ra)は7.18MPa1/2であった。
【0163】
具体的には、A1液とA2液を、ポリマーA1:ポリマーA2=100重量部:100重量部となるように混合し、さらにポリマーA1 100重量部に対し、平均粒径0.02μmのアルミナ粉末と、平均粒径0.3μmのアルミナ粉末とをそれぞれ200重量部ずつ添加した。続いて固形分濃度が6.0%となるようにNMPを用いて希釈した後、ホモジナイザーを用いて撹拌し、さらに圧力式分散機で50MPa×2回処理することで塗工液6を得た。
【0164】
<積層セパレータの製造>
塗工液1の代わりに塗工液6を用いた以外は実施例1と同様の方法で積層セパレータを得た。当該積層セパレータの透気度は213秒/100cmであった。
【0165】
[実施例6]
<メタアラミド溶液の調製>
撹拌翼、温度計、窒素流入管及び粉体添加口を有する5リットル(l)のセパラブルフラスコに、メタフェニレンジアミン222gとNMP3300gとを仕込み、撹拌して溶解させた。続いて70℃に加熱して溶解させたイソフタル酸クロライド419gをNMP1000gに溶解させてから滴下し、23℃で60分間反応させた。こうして得られたメタアラミド樹脂溶液をB3液とし、得られたメタアラミドをポリマーB3と称する。B3のHSPを計算すると、δD=22.6、δP=14.1、δH=7.7であり、A1とのHSP距離(Ra)は2.73MPa1/2であった。
【0166】
<塗工液の調製>
ポリマーA1:ポリマーB3=100重量部:100重量部となるようにA1液とB3液とを混合し、さらにポリマーA1 100重量部に対し、平均粒径0.02μmのアルミナ粉末と、平均粒径0.3μmのアルミナ粉末とをそれぞれ200重量部ずつ添加した。続いて固形分濃度が6.0%となるようにNMPを用いて希釈した後、ホモジナイザーを用いて撹拌し、さらに圧力式分散機で50MPa×2回処理することにより、塗工液7を得た。
【0167】
<積層セパレータの製造>
塗工液1の代わりに塗工液7を用いた以外は実施例1と同様の方法で積層セパレータを得た。当該積層セパレータの透気度は235秒/100cmであった。
【0168】
[比較例5]
<芳香族ポリエステルの合成>
攪拌装置、トルクメータ、窒素流入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1976g(10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド1474g(9.75モル)、イソフタル酸1620g(9.75モル)及び無水酢酸2374g(23.25モル)を仕込んだ。そして、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、その温度(150℃)を保持して3時間還流させた。
【0169】
その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、170分かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。この内容物を室温まで冷却し、粉砕機で粉砕した後、比較的低分子量の液晶ポリエステル粉末を得た。そして、(株)島津製作所製のフローテスター「CFT−500型」を用いて、この液晶ポリエステル粉末の流動開始温度を測定したところ、235℃であった。さらに、この液晶ポリエステル粉末を窒素雰囲気において223℃で3時間にわたって加熱処理することにより、固相重合を行った。固相重合後の液晶ポリエステルの流動開始温度は270℃であった。
【0170】
こうして得られた液晶ポリエステル100gを、NMP400gに加え、100℃で2時間加熱して液状組成物を得た。そして、東機産業(株)製のB型粘度計「TVL−20型」(ローターNo.22、回転速度:20rpm)を用いて、この液状組成物の溶液粘度を測定温度23℃で測定したところ、3200cPであった。こうして得られた全芳香族ポリエステル溶液をB4液とし、得られた全芳香族ポリエステルをポリマーB4と称する。B4のHSPを計算すると、δD=18.7、δP=9.3、δH=4.9であり、A1とのHSP距離(Ra)は11.78MPa1/2であった。
【0171】
<塗工液の調製>
実施例1で得られたA1液と、B4液とを、ポリマーA1:ポリマーB4=100重量部:100重量部となるように混合し、固形分濃度が6.0%となるようにNMPを用いて希釈した。その後、ホモジナイザーを用いて撹拌し、さらに圧力式分散機で50MPa×2回処理することにより、塗工液8を得た。
【0172】
<積層セパレータの製造>
塗工液1の代わりに塗工液8を用いた以外は実施例1と同様の方法で積層セパレータを得た。当該積層セパレータの透気度は>9999秒/100cmであり、測定することができなかった。
【0173】
[比較例6]
<塗工液の調製>
実施例1で得られたA1液と比較例5で得られたB4液とを、ポリマーA1:ポリマーB4=100重量部:100重量部となるように混合し、さらにポリマーA1 100重量部に対し、平均粒径0.02μmのアルミナ粉末と、平均粒径0.3μmのアルミナ粉末とをそれぞれ200重量部ずつ添加した。続いて固形分濃度が6.0%となるようにNMPを用いて希釈した後、ホモジナイザーを用いて撹拌し、さらに圧力式分散機にて50MPa×2回処理することにより、塗工液9を得た。
【0174】
<積層セパレータの製造>
塗工液1の代わりに塗工液9を用いた以外は実施例1と同様の方法で積層セパレータを作製したが、塗工層が形状を維持できないため、製膜できなかった。
【0175】
[比較例7]
<塗工液の調製>
市販のポリビニルアルコール(以下、PVAと略す。鹸化度100%)をNMPに溶解し、PVA溶液を得た。このPVA溶液をB5液とし、PVAをポリマーB5と称する。B5のHSPを計算すると、δD=15.9、δP=8.1、δH=18.8であり、A1とのHSP距離(Ra)は18.32MPa1/2であった。
【0176】
実施例1で得られたA1液と、B5液とを、ポリマーA1:ポリマーB5=100重量部:100重量部となるように混合し、固形分濃度が6.0%となるようにNMPを用いて希釈した。その後、ホモジナイザーで撹拌し、塗工液10を得た。塗工液10は相分離したため、塗工することは出来なかった。
【0177】
[結論]
実施例1〜6及び比較例1〜7にて製造された積層セパレータにおける、多孔質層の構成、多孔質層に含まれる樹脂Aと樹脂BのHSP距離(Ra)、多孔質層の成膜性、及び、積層セパレータの透気度を以下の表1にまとめた。
【0178】
【表1】
【0179】
実施例1〜2と、比較例1〜3、5、7は、フィラーを含まない多孔質層の例である。表1に示されるように、樹脂Aと樹脂Bとを含み、樹脂Aと樹脂BとのHSP距離(Ra)が、10MPa1/2以下である実施例1〜2にて製造された積層セパレータでは、多孔質層の成膜性が良好であり、積層セパレータは透気性に優れていた。これに対して、樹脂を一種類しか含まない比較例1〜3にて製造された積層セパレータは透気性に劣っていた。また、樹脂Aと樹脂Bとを含むが、そのHSP距離(Ra)が、10MPa1/2以上である比較例5では、製造された積層セパレータは、実施例1〜2にて製造された積層セパレータと比較して透気性に劣っていた。また、樹脂Aと樹脂Bとを含むが、そのHSP距離(Ra)が、10MPa1/2以上である比較例7では、塗工層が形状を維持できないため、製膜できなかった。
【0180】
実施例3〜6と、比較例4、6は、フィラーを含む多孔質層の例である。表1に示されるように、樹脂Aと樹脂Bとを含み、樹脂Aと樹脂BとのHSP距離(Ra)が、10MPa1/2以下である実施例3〜6にて製造された積層セパレータでは、多孔質層の成膜性が良好であり、積層セパレータは透気性に優れていた。これに対して、樹脂を一種類しか含まない比較例4にて製造された積層セパレータは、実施例3〜6にて製造された積層セパレータと比較して透気性に劣っていた。また、樹脂Aと樹脂Bとを含むが、そのHSP距離(Ra)が、10MPa1/2以上である比較例6では、塗工層が形状を維持できないため、製膜できなかった。
【0181】
[積層セパレータのその他の評価]
<積層セパレータの膜厚>
実施例1〜6及び比較例1〜7にて製造された積層セパレータの膜厚を測定すると、いずれもおよそ20μmであった。
【0182】
<積層セパレータの耐熱性>
また、実施例1〜6にて得られた積層セパレータの100℃加熱収縮試験を行った結果、全ての実施例で得られた積層セパレータにおいて、加熱形状維持率は99%以上であった。すなわち、すべての実施例において得られた積層セパレータは耐熱性に優れていた。かかる結果より、実施例1〜6にて得られた積層セパレータは、従来一種の耐熱性樹脂からなる多孔質層の耐熱性を維持しつつ、且つ、イオン透過性にも優れることがわかった。
【0183】
<積層セパレータを備えた非水電解液二次電池の性能>
また、これらの積層セパレータを用いてラミレート型電池を作製したところ、抵抗が低くサイクル特性に優れた特性を持つことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明の一実施形態に係る多孔質層を含む積層セパレータは、耐熱性及びイオン透過性に優れているので、本発明の一実施形態に係る多孔質層、非水電解液二次電池用積層セパレータ、及び、非水電解液二次電池用部材は、非水電解液二次電池の製造分野において広範に利用することができる。