特許第6982597号(P6982597)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982597
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】スパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20211206BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   C23C14/35 C
   C23C14/34 C
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-118165(P2019-118165)
(22)【出願日】2019年6月26日
(65)【公開番号】特開2021-4390(P2021-4390A)
(43)【公開日】2021年1月14日
【審査請求日】2020年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】大久保 裕夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 大士
(72)【発明者】
【氏名】小野 貴裕
【審査官】 山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−248360(JP,A)
【文献】 特開2000−273628(JP,A)
【文献】 特開2006−022372(JP,A)
【文献】 特開平11−092927(JP,A)
【文献】 特開平07−331433(JP,A)
【文献】 特開平09−111448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、
前記真空槽の内部に配置されたターゲットと、
前記ターゲットの裏面側に配置されスパッタ電源に接続されるカソード電極と、
前記カソード電極の裏面側に配置された複数の磁石装置と、
基板が配置される基板配置部と、
接地電位に接続され前記基板の外周上を覆うリング形形状のアノード電極と、
を有し、
各前記磁石装置には細長のリング形形状の外周磁石とその内側に配置された内側磁石とが設けられ、
前記ターゲットの表面には前記外周磁石とその内側の前記内側磁石との間で形成される磁束が漏洩され、前記ターゲットがスパッタリングされて前記基板表面に薄膜が形成されるスパッタリング装置であって、
前記外周磁石とその内側の前記内側磁石とは離間され、前記外周磁石とその内側の前記内側磁石との間の領域であるプラズマ領域は細長のリング形形状にされ、
前記プラズマ領域の前記細長のリン形形状の短辺の両端と前記基板の表面が位置する平面との間には、接地電位に接続された電極板が配置され、
前記アノード電極の表面と前記ターゲットの表面との間のTA距離よりも、前記電極板の表面と前記ターゲットの表面との間のTB距離の方が短くされ、
前記ターゲットの前記プラズマ領域の前記短辺側の両端に沿って位置する二辺上にのみ、前記電極板が配置され、
前記真空槽は、内部に前記ターゲットが配置されたターゲット側真空槽と、内部に前記アノード電極が配置された基板側真空槽とに分離できるようにされ、
前記ターゲット側真空槽と前記基板側真空槽とが密着して接続された状態では、前記ターゲットと前記アノード電極とは鉛直に配置され、前記電極板の重量は、前記ターゲット側真空槽によって支持されており、
前記ターゲット側真空槽と前記基板側真空槽とを分離させる際には、前記ターゲット側真空槽が静止した状態で、前記基板側真空槽が移動するようにされたスパッタリング装置。
【請求項2】
前記TB距離は、前記ターゲットの表面と前記基板配置部に配置された前記基板の表面との間のTS距離の10%より大きく、90%より小さくされた請求項1記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記ターゲットは平板状の金属モリブデン板であり、前記薄膜は金属モリブデン薄膜である請求項1乃至請求項2のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング技術にかかり、特に、金属薄膜の面内の特性分布を均一にするスパッタリング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング方法による薄膜形成は広く用いられている技術であり、近年では大型基板に薄膜を形成するために、大面積基板に特性分布が均一な薄膜を形成する技術が求められている。
【0003】
図9(平面図とE−E線、F−F線截断断面図)のプラズマ装置102は、カソード電極112の表面にターゲット113が配置され、裏面に外周磁石125と内側磁石126とがヨーク127に配置された複数の磁石装置1151〜1154が設けられており、ターゲット113がスパッタされると、ターゲット113と対面して基板配置部114上に配置された基板116の表面に薄膜が形成される。
【0004】
基板116の外周上には、アノード電極117が配置されており、ターゲット113表面に形成されるプラズマが均一になるようにされている。
【0005】
しかしながら基板116が一層大型化し、それに連れてターゲット113や磁石装置1151〜1154が大型化してきたところ、基板116の短辺に近い領域と、その間の中央の部分とでは、形成される薄膜の特性の差が大きくなってきた。
【0006】
短辺部分の薄膜の抵抗値と中央部分の薄膜の抵抗値とが大きく異なると、基板表面に形成される発光層の発光分布が異なってしまい、不均一な明るさの画面となる。
【0007】
下記特許文献には、移動可能なマグネトロンプラズマに連動した接地電位電極を配置して膜質や膜厚の均一化を図った大型基板対応のマグネトロンスパッタ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平07−331433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、大型基板表面に形成される薄膜の特性分布を均一にすることにあり、特に、細長のマグネトロン磁石の端部に近い基板の縁付近の領域の薄膜特性と、基板の中央付近の領域の薄膜特性との差を小さくすることにある。
【0010】
また、本発明の目的は、基板側真空槽の重量を軽くし、容易な作業で真空槽の開閉を行うことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明は、真空槽と、前記真空槽の内部に配置されたターゲットと、前記ターゲットの裏面側に配置されスパッタ電源に接続されるカソード電極と、前記カソード電極の裏面側に配置された複数の磁石装置と、基板が配置される基板配置部と、接地電位に接続され前記基板の外周上を覆うリング形形状のアノード電極と、を有し、各前記磁石装置には細長のリング形形状の外周磁石とその内側に配置された内側磁石とが設けられ、前記ターゲットの表面には前記外周磁石とその内側の前記内側磁石との間で形成される磁束が漏洩され、前記ターゲットがスパッタリングされて前記基板表面に薄膜が形成されるスパッタリング装置であって、前記外周磁石とその内側の前記内側磁石とは離間され、前記外周磁石とその内側の前記内側磁石との間の領域であるプラズマ領域は細長のリング形形状にされ、前記プラズマ領域の両端と前記基板の表面が位置する平面との間には、接地電位に接続された電極板が配置され、前記アノード電極の表面と前記ターゲットの表面との間のTA距離よりも、前記電極板の表面と前記ターゲットの表面との間のTB距離の方が短くされ、前記ターゲットの前記プラズマ領域の両端に沿って位置する二辺上には、前記電極板が配置されたスパッタリング装置である。
本発明は、前記真空槽は、内部に前記ターゲットが配置されたターゲット側真空槽と、内部に前記アノード電極が配置された基板側真空槽とに分離できるようにされ、前記ターゲット側真空槽と前記基板側真空槽とが密着して接続された状態では、前記ターゲットと前記アノード電極とは鉛直に配置され、前記電極板の重量は、前記ターゲット側真空槽によって支持されており、前記ターゲット側真空槽と前記基板側真空槽とを分離させる際には、前記ターゲット側真空槽が静止した状態で、前記基板側真空槽が移動するようにされたスパッタリング装置である。
本発明は、前記TB距離は、前記ターゲットの表面と前記基板配置部に配置された前記基板の表面との間のTS距離の10%より大きく、90%より小さくされたスパッタリング装置である。
本発明は、前記ターゲットは平板状の金属モリブデン板であり、前記薄膜は金属モリブデン薄膜であるスパッタリング装置である。
【発明の効果】
【0012】
基板表面のうち、細長のマグネトロン磁石の端部に近い場所と基板の中央の場所との薄膜特性の差が小さくなり、その結果、長方形基板に形成する薄膜の特性について、短辺付近の領域の特性と、その領域で挟まれる中央付近の領域の特性とが均一になる。
【0013】
電極板と支持部材がターゲット側真空槽で支持され、基板側真空槽の内部が軽量化されているので、基板側真空槽を移動させて真空槽を開閉する際に、開閉作業が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のスパッタリング装置
図2】本発明のスパッタリング装置の内部構造を説明するための平面図とそのA−A線截断断面図とB−B線截断断面図
図3】本発明に用いられる磁石装置を説明するための平面図とC−C線截断断面図とD−D線截断断面図
図4】(a)〜(c):その磁石装置の動作を説明するための断面図
図5】本発明の他の例を説明するための図
図6】本発明のスパッタリング装置の概略斜視図
図7】基板の温度分布を比較するための棒グラフ
図8】電極板がアノード電極に取り付けられたスパッタリング装置
図9】従来技術のスパッタリング装置を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1の符号2は、本発明のスパッタリング装置であり、真空槽11を有している。図2は、後述するアノード電極17の外周よりも内側の部分の平面図と、そのA−A線截断断面図とB−B線截断断面図である。
【0016】
真空槽11の内部には、長方形形状のターゲット13が配置されており、そのターゲット13の裏面側には、カソード電極12が配置されている。
【0017】
カソード電極12の表面はターゲット13の裏面に接触されている。
【0018】
カソード電極12の裏面側には、磁石ケース51が配置されており、磁石ケース51の内部には複数個(ここでは4個)の磁石装置151〜154が配置されている。磁石装置151〜154はマグネトロン磁石と呼ばれている。
【0019】
カソード電極12の裏面側に配置された磁石装置151〜154は、基本的に同じ形状、同じ大きさであり、図3に、1個の磁石装置151〜154の平面図と、そのC−C線截断断面図とD−D線截断断面図とを示す。
【0020】
磁石装置151〜154はリング形形状の外周磁石25と、外周磁石25の中に配置された直線形形状の内側磁石26とを有しており、外周磁石25と内側磁石26とはそれぞれ細長にされており、各磁石装置151〜154は細長になり、それぞれ長手方向を有している。
【0021】
ここでは、各磁石装置151〜154の外周磁石25とターゲット13の裏面との間の距離は等しくされており、また、各磁石装置151〜154の内側磁石26とターゲット13の裏面との間の距離も等しくされているが、本発明はそれに限定されるものではなく、膜厚の分布や膜質の分布を均一にするために、磁石装置151〜154とターゲット13の裏面との間の距離が異なっていたり、磁石装置151〜154とターゲット13の裏面との間が非平行に配置されていてもよい。
【0022】
また、ここでは、各磁石装置151〜154の外周磁石25とターゲット13の裏面との間の距離と、内側磁石26とターゲット13の裏面との間の距離とも等しくされているが、各磁石装置151〜154の中で、内側磁石26とターゲット13の裏面との間の距離が異なる磁石装置151〜154や、外周磁石25とターゲット13の裏面との間の距離が異なる磁石装置151〜154が含まれていてもよい。
【0023】
外周磁石25の二個の磁極のうち、一方の磁極がカソード電極12に向けて配置され、他方の磁極がカソード電極12とは反対側に向けられて、ヨーク27の表面と接触して配置されており、また、内側磁石26の二個の磁極のうち、一方の磁極がカソード電極12に向けて配置され、他方の磁極がカソード電極12とは反対側に向けられて、ヨーク27の表面と接触して配置されている。
【0024】
外周磁石25のカソード電極12に向けられた磁極と、内側磁石26のカソード電極12に向けられた磁極は一方がN極であり、他方がS極であり、カソード電極12に向けられた磁極間で形成される磁束はターゲット13の表面に漏洩され、アーチ形形状に湾曲されており、ターゲット13表面の電子密度を増加させるようになっている。
【0025】
真空槽11内のターゲット13の表面と対面する位置には台54が配置されており、台54上には基板配置部14が配置されている。
【0026】
基板配置部14は長方形形状であり、基板配置部14の上には成膜対象である長方形の基板16が配置されている。
【0027】
基板16はターゲット13よりも小さくなっており、以下、基板配置部14上の基板16の表面が位置する平面に投影した場合の位置関係で内側と外側を決めるものとすると、基板16の外周はターゲット13の外周よりも内側に配置されている。
【0028】
ターゲット13と基板16とは、ターゲット13の長辺と基板16の長辺とは平行になるように配置されており、ターゲット13の表面と基板16の表面とも平行になるように配置されている。
【0029】
磁石装置151〜154の長手方向の長さは、ターゲット13の長手方向の長さとほぼ同じ長さであり、基板16の長辺はターゲット13の長手方向の長さよりも短くされ、また、基板16の長辺は磁石装置151〜154の長手方向の長さよりも短くされている。
【0030】
各磁石装置151〜154は、ヨーク27の裏面側が移動板52に接触した状態で移動板52上に配置されている。
【0031】
各磁石装置151〜154は、長手方向が互いに平行にされて、ターゲット13と基板16の長辺と平行にされて、短辺が伸びる方向に一列に並べられている。
【0032】
真空槽11の外部には移動装置53が配置されており、移動装置53が動作すると移動板52はターゲット13の裏面側でターゲット13の表面に沿って移動し、各磁石装置151〜154は移動板52と一緒に移動する。
【0033】
ターゲット13の表面に漏洩した磁束は、磁石装置151〜154の移動と共に移動する。
【0034】
移動の際に各磁石装置151〜154は、外周磁石25とターゲット13の裏面との間の距離に変化はなく一定距離が維持される。また、内側磁石26とターゲット13の裏面との間の距離に変化はなく一定距離が維持される。
【0035】
従って、各磁石装置151〜154は移動板52の移動と共に、一緒にターゲット13の裏面と平行な平面内を移動する。図4(a)は、各磁石装置151〜154のそれぞれが移動する範囲の中央に各磁石装置151〜154が位置する状態を示し、同図(b)は、図面右端に位置する状態、同図(c)は図面左端に位置する状態を示しており、同図(b)の状態と同図(c)の状態の間を繰り返し移動する。
【0036】
次に、基板16とターゲット13との間には、接地電位に接続されたアノード電極17が配置されている。
【0037】
アノード電極17は四角リング形形状であり、中央に開口19が形成されている。アノード電極17の外周と内周とは長方形形状であり、アノード電極17の外周は基板配置部14に配置された基板16の外周よりも外側に位置するようにされている。
【0038】
この例では、アノード電極17の内周は基板16の外周よりも内側に位置するようにされており、アノード電極17の四角リング形形状の二本の長辺部分は基板16の長辺上に配置され、二本の短辺部分は基板16の短辺上に配置され、基板配置部14上の基板16の外周はアノード電極17によって覆われて開口19の底面には、基板16の外周よりも内側の部分が露出されている。
【0039】
真空槽11には真空排気装置21とガス導入装置23とが接続されており、真空槽11は真空排気装置21によって真空排気され、真空槽11の内部には真空雰囲気が形成されている。
【0040】
真空槽11の外部にはカソード電極12に電気的に接続されたスパッタ電源22が設けられており、真空雰囲気が形成された真空槽11の内部にガス導入装置23からスパッタリングガスを導入し、内部が所定圧力で安定したところでスパッタ電源22からカソード電極12にスパッタリング電圧を印加する。
【0041】
ターゲット13は金属が板状に成形された平板状ターゲットであり、磁石装置151〜154を移動させながらターゲット13の表面近傍にスパッタリングガスのプラズマを形成する。
【0042】
プラズマ中のスパッタリングガスの正イオンは加速され、スパッタリングガスの粒子がターゲット13に入射し、ターゲット13はスパッタリングされ、ターゲット13を構成する物質の粒子がスパッタリング粒子としてターゲット13の表面から放出され、基板16に向けて飛行し、基板16の表面に到着して薄膜を成長させる。
【0043】
基板16の表面に所定膜厚の薄膜が形成されると基板配置部14と基板16とは真空槽11の外部に搬出され、未成膜の基板16が配置された基板配置部14が真空槽11の内部に搬入される。
【0044】
このように本発明によって基板16の表面に薄膜が形成されるが、大型の基板16表面に形成された金属薄膜の抵抗値は、基板16の位置によって異なることになる。
【0045】
抵抗値の分布はプラズマの強度分布と密接な関連があり、本スパッタリング装置2のプラズマを説明すると、先ず、各磁石装置151〜154の外周磁石25と内側磁石26との間に位置するターゲット13の表面に大きな強度のプラズマが形成される点にマグネトロンスパッタリングの特徴がある。
【0046】
各磁石装置151〜154の外周磁石25はスパッタリングされるターゲットの面積を大きくするために細長のリング形形状にされており、内側磁石26は直線形形状であるから、外周磁石25と内側磁石26との間の隙間は、細長のリング形形状になる。プラズマは隙間と同じ形状になるから、形成される強度が大きいプラズマも、磁石装置151〜154毎にリング形形状に形成される。
【0047】
細長のリング形形状のプラズマは直線部分よりも端部の方がプラズマ強度が大きくなることが知られており、特に、各磁石装置151〜154の端部が一直線に配置されており、複数の細長のリング形形状のプラズマの端部が一直線に配置された状態で互いに平行に並べられると、リング形形状のプラズマの端部が並べられた部分のプラズマ強度の方が、リング形形状のプラズマの長辺の部分のプラズマ強度よりも大きくなる。
【0048】
並べられた端部のプラズマは基板16の短辺の近くに薄膜を成長させ、プラズマの長辺部分は基板16の長辺の近くに薄膜を成長させる場合は、基板16表面の中央と短辺部分と長辺部分とで薄膜の特性が異なってしまう。
【0049】
各磁石装置151〜154の端部が並べられた領域と平行に、アノード電極17の短辺がそれぞれ配置されており、アノード電極17の二個の短辺部分上の、基板16の縁よりも外側には、電極板28a、28bがそれぞれ配置されている。
【0050】
スパッタ前の未使用のターゲット13は、カソード電極12と、電極板28a、28bと、アノード電極17とは互いに平行にされている。
【0051】
二個の電極板28a、28bは、互いに平行でターゲット13の短辺よりも長く、ターゲット13の短辺33a、33bと、アノード電極17の短辺と、カソード電極12の短辺と平行な二本の縁31a、31b、32a、32bをそれぞれ有している。
【0052】
ターゲット13の短辺33a、33bと平行な各電極板28a、28bの二本の縁31a、31b、32a、32bのうち、一方の縁31a、31bは、ターゲット13の短辺よりも外側に位置し、他方の縁32a、32bは、短辺よりもターゲット13の中心に近い場所に位置している。
【0053】
従って、ターゲット13の短辺33a、33b付近は、電極板28a、28bによって短辺33a、33bから内側に一定距離Cだけ覆われている。
【0054】
カソード電極12は真空槽11の壁面に、絶縁板24を介して固定され絶縁板24によってカソード電極12と真空槽11は絶縁されている。真空槽11の壁面にはリング形形状の防着リング36が設けられており、ターゲット13は防着リング36の内側に配置されている。ターゲット13の外周面は、防着リング36の内周面とは所定距離を開けて配置されている。
【0055】
防着リング36のうち、側面が、ターゲット13の短辺33a、33bが位置する側面と対面する部分の表面上に支持体29a、29bが取り付けられており、電極板28a、28bは、支持体29a、29bに取り付けられている。
【0056】
電極板28a、28bと、防着リング36と、支持体29a、29bとは導電性を有しており、電極板28a、28bは支持体29a、29bを介して防着リング36に電気的に接続されている。
【0057】
真空槽11は接地電位に接続されており、防着リング36は真空槽11に接触し、接地電位に接続されており、従って、電極板28a、28bは接地電位に接続されている。アノード電極17も接地電位に接続されている。
【0058】
各磁石装置151〜154の外周磁石25とその内側に位置する内側磁石26との間の領域を、それぞれ磁石装置151〜154のプラズマ領域10とすると、各磁石装置151〜154の外周磁石25の両端は半円形に湾曲されており、それに伴ってプラズマ領域10の両端も半円形にされ、その結果、外周磁石25とプラズマ領域10とはそれぞれトラック形形状になっている。
【0059】
各磁石装置15〜15のプラズマ領域10の長手方向の長さは等しくされており、各プラズマ領域10はアノード電極17が位置する平面との間の距離が等しくされ、各プラズマ領域10の両端の湾曲した部分のうちの一方の端部の湾曲した部分は横一列に並び、反対側の端部の湾曲した部分も横一列に並ぶようにされている。
【0060】
各プラズマ領域10の両端の湾曲した部分のうち、一方の端部であって横一列に並んだ湾曲した部分と基板16の表面が位置する平面との間に一枚の電極板28aが配置されており、反対側の端部であって横一列に並んだ湾曲した部分と基板16の表面が位置する平面との間には、他の一枚の電極板28bが配置されている。
【0061】
ターゲット13の表面は、アノード電極17の長辺部分上ではアノード電極17の長辺部分と向き合っており、アノード電極17の短辺部分上では電極板28a、28bの表面と向き合っている。
【0062】
ターゲット13表面と基板16表面との間の距離をTS距離、ターゲット13表面とアノード電極17の長辺部分の表面との間の距離をTA距離、ターゲット13の表面と電極板28a、28bの表面との間の距離をTB距離とすると、次の三式がなりたつ。
TA<TS,TB<TS,TB<TA
【0063】
基板16の長辺の真横位置ではターゲット13に最も近い接地電位の部材はアノード電極17のターゲット13に対面する表面であり、基板16の長辺の真横位置ではターゲット13とターゲット13に最も近い接地電位の部材の表面との間はTA距離だけ離間されている。
【0064】
基板16の短辺の真横位置ではターゲット13に最も近い接地電位の部材は電極板28a、28bのターゲット13に対面する表面であり、基板16の短辺の真横位置ではターゲット13とターゲット13に最も近い接地電位の部材の表面との間はTB距離だけ離間されている。
【0065】
従って、ターゲット13とターゲット13に最も近い接地電位の部材の表面との間の距離は、基板16の長辺の真横位置よりも短辺の真横位置の方が短くされている。
【0066】
特に、電極板28a、28bにより、基板16の縁よりも外側では、ターゲット13と接地電位との間の距離が短くなり、電極板28a、28bが基板16の縁よりも内側のプラズマを引きつけるので、基板16の縁よりも外側では、電極板28a、28bが位置する基板16の短辺の外側のプラズマ強度が強まり、その結果、基板16の短辺に近い基板16上のプラズマ強度は小さくなる。要するに電極板28a、28bが無い場合は基板16上のプラズマ領域10の長手方向の両端に近い部分のプラズマは基板16上の他の部分のプラズマよりも強度が大きくなるが、電極板28a、28bが設けられたことにより、基板16上のプラズマ領域10の長手方向の両端に近い部分のプラズマ強度が小さくなり、その結果、基板16上のプラズマ強度が均一化され、形成される薄膜の特性分布が均一化される。
【0067】
TB距離は、ターゲット13の表面と基板配置部14に配置された基板16の表面との間のTS距離の10%より大きくしないと却って特性分布が悪化し、90%より小さくしないと効果が薄くなることが確認されている。
【0068】
プラズマ領域10の両端である湾曲した部分の上に電極板28a、28bが設けられ、ターゲット13表面に対面すると接地電位の部材との間の距離は、電極板28a、28bとターゲット13との間が最も短くなっている。上述したように電極板28a、28b上のプラズマ強度が増大する。
【0069】
電極板28a、28bは基板16よりも外側に配置されており、基板16の外側のプラズマ強度が増大した結果、基板16上のうち、電極板28a、28bが近接する基板16の縁付近ではプラズマ強度が減少するため、基板16上のプラズマ強度が均一化され、基板16の表面内の抵抗値分布が均一になっている。
【0070】
次に、本発明の真空槽11を説明すると、本発明の真空槽11は、ターゲット側真空槽11aと基板側真空槽11bとで構成されている。
【0071】
本発明では、カソード電極12と、ターゲット13と、防着リング36と、アノード電極17とは鉛直にされており、カソード電極12は、ターゲット側真空槽11aの鉛直にされた壁面に、鉛直な絶縁板24を介して取り付けられている。防着リング36は同じ壁面に取り付けられている。
【0072】
ターゲット13はカソード電極12の絶縁板24に接触する面とは反対側の面に設けられて防着リング36の内周に位置している。
【0073】
電極板28a、28bも、支持体29a、29bと防着リング36を介して、カソード電極12と、ターゲット13と、防着リング36とが固定された壁面に取り付けられている。従って、電極板28a、28bの重量は、ターゲット側真空槽11aによって支持されている。
【0074】
スパッタリングの際には、ターゲット側真空槽11aと基板側真空槽11bとは気密に接続され、基板側真空槽11bの内部には、鉛直にされたアノード電極17が設けられおり、基板配置部14と、基板配置部14に配置された基板16とが、鉛直にされた状態で真空槽11の外部から内部に搬入され、アノード電極17と基板側真空槽11bの鉛直にされた壁面との間に配置される。
【0075】
メンテナンスの際に、真空槽11の内部が常圧にされ、図6の概略斜視図のように、ターゲット側真空槽11aと基板側真空槽11bとが分離される。
【0076】
図6の符号55は台座であり、ターゲット側真空槽11aは台座55に設けられ、床面に対して固定されている。それに対して基板側真空槽11bは台座55には設けられておらず、ターゲット側真空槽11aに気密に取り付けられている。図6では、支持体29a、29bは省略されている。
【0077】
この図6は、ターゲット側真空槽11aは移動させずに基板側真空槽11bを移動させてターゲット側真空槽11aと基板側真空槽11bとを分離させた状態であり、支持体29a、29bと電極板28a、28bとは重量がターゲット側真空槽11aを介して台座55に支持されている。
【0078】
図8は、本発明の電極板28a、28bと支持体29a、29bを真空槽11の壁面から除去し、支持体39a、39bによって電極板18a、18bをアノード電極17上に設けた場合のスパッタリング装置132である。
【0079】
本発明のスパッタリング装置2と、この図8のスパッタリング装置132との基板面内の複数の同じ場所で温度を測定した。測定結果を図7のグラフに示す。温度分布はほぼ同じと言える。
【0080】
また、本発明のスパッタリング装置2でモリブデン薄膜を形成したときのシート抵抗値Rsは、0.0760Ω/□±18.7%であり、膜厚分布は3915オングストローム±14.6%であった。
【0081】
図8のスパッタリング装置132では0.0804Ω/□±18.2%と同程度であり、膜厚分布は3805オングストローム±14.1%であり、同等の特性である。
膜厚分布を下記表に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
しかし、図8のスパッタリング装置132の場合は、電極板18a、18bと支持体39a、39bとは、アノード電極17を介して基板側真空槽に支持されることになるから、ターゲット側真空槽から分離された基板側真空槽の内部の重量は大きくなり、ターゲット側真空槽と基板側真空槽との間の分離が困難な作業になる。
【0085】
なお、二個の支持体29a、29bは、それぞれ一枚の板であったが、図5に示すスパッタリング装置3のように、一枚の電極板28a、28bをそれぞれ3個の支持体29c、29dで支持するようにしてもよい。
【0086】
また、プラズマ領域10は、無端状、リング形形状であればよく、外周磁石25の両端が方形である場合や楕円形である場合も本発明に含まれる。
【0087】
また、各磁石装置151〜154の端部を同一直線上に配置しない場合や、各磁石装置151〜154の端部とカソード電極12との距離を一定にしない場合も本発明に含まれる。
【0088】
なお、上記電極板28a、28bは、アノード電極17の辺上に位置し、平行な二辺のうちの一辺が基板16の辺よりも外側であって、他の一辺がターゲット13の辺よりも内側に位置している。
【0089】
二個の電極板28a、28bはそれぞれ平行な二辺を有する形状であり、電極板28a、28bは、例えば長方形形状である。
【0090】
プラズマ領域10の両端のうち、プラズマ領域10の一方の端部の一列に並んだ湾曲した部分と基板16の表面が位置する平面との間に一枚の電極板28aが配置され、プラズマ領域10の反対側の端部の一列に並んだ湾曲した部分と基板16の表面が位置する平面との間に他の一枚の電極板28bが配置されている。
【0091】
また、電極板28a、28bの二辺のうち、ターゲット13の中心から遠い方の辺は、プラズマ領域10の湾曲した部分の外側にはみ出し、ターゲット13の中心から近い方の辺は、プラズマ領域10の湾曲した部分の内側にはみ出していてもよい。更にまた、両方からはみ出していてもよい。
【0092】
なお、上記ターゲット13は金属モリブデンであったが、本発明は金属モリブデンに限定されるものではなく、本発明のスパッタリング装置2は、金属チタン、モリブデン合金、アルミニウム、アルミニウム合金、金属タングステン、純銅、銅合金、タンタル等の金属から成るターゲット13に対して本発明の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0093】
2……スパッタリング装置
10……プラズマ領域
11……真空槽
11a……ターゲット側真空槽
11b……基板側真空槽
13……ターゲット
14……基板配置部
151〜154……磁石装置
16……基板
17……アノード電極
28a、28b……電極板
22……スパッタ電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9