特許第6982682号(P6982682)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6982682固体電解質組成物、全固体二次電池用シート、及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用シート若しくは全固体二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982682
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】固体電解質組成物、全固体二次電池用シート、及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用シート若しくは全固体二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20211206BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20211206BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20211206BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20211206BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20211206BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M10/052
   H01M10/0585
   H01M4/13
   H01M4/62 Z
   H01B1/06 A
【請求項の数】15
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2020-514453(P2020-514453)
(86)(22)【出願日】2019年4月18日
(86)【国際出願番号】JP2019016723
(87)【国際公開番号】WO2019203334
(87)【国際公開日】20191024
【審査請求日】2020年10月5日
(31)【優先権主張番号】特願2018-81672(P2018-81672)
(32)【優先日】2018年4月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(74)【代理人】
【識別番号】100202898
【弁理士】
【氏名又は名称】植松 拓己
(72)【発明者】
【氏名】串田 陽
(72)【発明者】
【氏名】望月 宏顕
(72)【発明者】
【氏名】三村 智則
(72)【発明者】
【氏名】安田 浩司
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/030154(WO,A1)
【文献】 特開2016−181448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 10/0585
H01M 4/13
H01M 4/62
H01B 1/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有する無機固体電解質と、バインダと、分散媒とを含み、前記バインダを構成する重合体が、下記一般式(1)で表される構成成分と、数平均分子量2,000以上のマクロモノマー由来の構成成分とを含有する、固体電解質組成物。
【化1】
式中、αは下記一般式(I)〜(III)のいずれかで表される環を示す。Lは−O−、−NR−又は−S−を示す。R〜Rは、水素原子又は1価の置換基を示す。*は構成成分の結合部を示す。
【化2】
式中、Y及びZは、−CR−、−O−、−NR−又は−S−を示す。Lはアルキレン基を示す。Lは2価の連結基を示す。R及びRは、水素原子又は1価の置換基を示す。波線は、Lとの結合部を示す。
【請求項2】
前記一般式(1)で表される構成成分の含有量が、前記バインダ(B)を構成する重合体の構成成分中、0.01〜50質量%である、請求項1に記載の固体電解質組成物。
【請求項3】
前記Lが−O−又は−NR−を示す、請求項1又は2に記載の固体電解質組成物。
【請求項4】
前記一般式(I)においてYが−CR−を示し、前記一般式(II)において、Zが−CR−を示す、請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項5】
前記環αが前記一般式(III)で表される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項6】
前記マクロモノマー由来の構成成分の含有量が、前記バインダを構成する重合体の構成成分中、10〜50質量%である、請求項1〜のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項7】
前記分散媒の溶解度パラメータが21MPa1/2以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項8】
リチウム塩を含有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項9】
活物質を含有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項10】
導電助剤を含有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項11】
前記無機固体電解質が硫化物系無機固体電解質である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の固体電解質組成物で構成した層を有する全固体二次電池用シート。
【請求項13】
正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で具備する全固体二次電池であって、
前記正極活物質層、前記固体電解質層及び前記負極活物質層の少なくとも1つの層が、請求項1〜11のいずれか1項に記載の固体電解質組成物で構成した層である全固体二次電池。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の固体電解質組成物を製膜する全固体二次電池用シートの製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の製造方法を用いる全固体二次電池を製造する全固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質組成物、全固体二次電池用シート、及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用シート若しくは全固体二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、負極と、正極と、負極及び正極の間に挟まれた電解質とを有し、両極間にリチウムイオンを往復移動させることにより充電、放電を可能とした蓄電池である。リチウムイオン二次電池には、従来、電解質として有機電解液が用いられてきた。しかし、有機電解液は液漏れを生じやすく、また、過充電、過放電により電池内部で短絡が生じ発火するおそれもあり、信頼性と安全性のさらなる向上が求められている。
このような状況の下、有機電解液に代えて、無機固体電解質を用いた全固体二次電池が注目されている。全固体二次電池は負極、電解質、正極の全てが固体からなり、有機電解液を用いた電池の課題とされる安全性及び信頼性を大きく改善することができ、また長寿命化も可能になるとされる。更に、全固体二次電池は、電極と電解質を直接並べて直列に配した構造とすることができる。そのため、有機電解液を用いた二次電池に比べて高エネルギー密度化が可能となり、電気自動車又は大型蓄電池等への応用が期待されている。
【0003】
このような全固体二次電池において、無機固体電解質等の固体粒子間の結着性を高めることにより電池性能を向上させることが行われている。固体粒子間の結着性を高めるため、負極活物質層、固体電解質層、及び正極活物質層のいずれかの電池の構成層を、無機固体電解質とバインダ(結着剤)とを含有する材料で形成することが、提案されている。このような材料として、例えば、特許文献1には、特定の官能基を有する非球状ポリマー粒子と分散媒と無機固体電解質とを含有する固体電解質組成物が記載されている。特許文献2には、無機固体電解質と、コア部とシェル部を有するコアシェル型粒子で構成された、特定の構成成分を有するバインダ、及び分散媒を含む固体電解質組成物が記載されている。特許文献1及び2においては、これらの固体電解質組成物を、構成層を構成する材料として用いることにより、得られる全固体二次電池において、加圧によらずにイオン伝導度の低下を抑えることができ、良好な結着性を実現できるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−167126号公報
【特許文献2】特許第6101223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
全固体二次電池の実用化に向けて、イオン伝導度等の電池性能の向上とともに、全固体二次電池を量産するための検討も行われている。分散媒を含む固体電解質組成物(スラリー)を用いて全固体二次電池を製造する場合、スラリーを塗布後、加熱、乾燥により分散媒を蒸発又は揮発させることにより構成層を形成する。しかし、固体粒子間の結着性が不十分であると、乾燥により分散媒が気化、放散する際の体積変化等のため、形成された構成層に損傷(例えば、ひび割れ)が生じ、この損傷により電池性能が低下し、電池寿命が短くなるという問題がある。この問題を解決するには、固体粒子間の結着性を一層高め、乾燥後の構成層に損傷が生じにくい特性を付与することが必要である。
【0006】
本発明は、全固体二次電池用シート又は全固体二次電池の構成層を構成する材料として用いることにより、全固体二次電池用シート又は全固体二次電池の製造工程における加熱、乾燥により、固体電解質層及び/又は電極活物質層に損傷が生じにくくすることができる固体電解質組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、全固体二次電池用シート又は全固体二次電池の構成層を構成する材料として用いることにより、得られる全固体二次電池用シート又は全固体二次電池において、優れたイオン伝導度を実現できる固体電解質組成物を提供することを課題とする。さらに、本発明は、この固体電解質組成物を用いた、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池それぞれの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、側鎖に環を有する特定の構成成分と、数平均分子量2,000以上のマクロモノマー由来の構成成分とを含有するバインダ、及び特定の無機固体電解質を、分散媒に分散させた固体電解質組成物を全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の構成層の構成材料として用いることにより、固体粒子を強固に結着させることができ、これにより、固体電解質層及び/又は電極活物質層に損傷が生じにくく、その結果全固体二次電池に優れた電池性能を付与できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき更に検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0008】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>
周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有する無機固体電解質と、バインダと、分散媒とを含み、上記バインダを構成する重合体が、下記一般式(1)で表される構成成分と、数平均分子量2,000以上のマクロモノマー由来の構成成分とを含有する、固体電解質組成物。
【化1】
式中、αは環を示す。Lは−O−、−NR−又は−S−を示す。R〜Rは、水素原子又は1価の置換基を示す。*は構成成分の結合部を示す。
【0009】
<2>
上記環αが単環又は橋かけ環構造を有する、<1>に記載の固体電解質組成物。
<3>
上記環αが下記一般式(I)〜(III)のいずれかで表される、<1>又は<2>に記載の固体電解質組成物。
【化2】
式中、Y及びZは、−CR−、−O−、−NR−又は−S−を示す。L及びLは2価の連結基を示す。R及びRは、水素原子又は1価の置換基を示す。波線は、Lとの結合部を示す。
【0010】
<4>
上記一般式(1)で表される構成成分の含有量が、上記バインダ(B)を構成する重合体の構成成分中、0.01〜50質量%である、<1>〜<3>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<5>
上記Lが−O−又は−NR−を示す、<1>〜<4>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<6>
上記一般式(I)においてYが−CR−を示し、上記一般式(II)において、Zが−CR−を示す、<3>に記載の固体電解質組成物。
<7>
上記環αが上記一般式(III)で表される、<3>に記載の固体電解質組成物。
<8>
上記マクロモノマー由来の構成成分の含有量が、上記バインダを構成する重合体の構成成分中、10〜50質量%である、<1>〜<7>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<9>
上記分散媒の溶解度パラメータが21MPa1/2以下である、<1>〜<8>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<10>
リチウム塩を含有する、<1>〜<9>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<11>
活物質を含有する、<1>〜<10>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<12>
導電助剤を含有する、<1>〜<11>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<13>
上記無機固体電解質が硫化物系無機固体電解質である、<1>〜<12>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
【0011】
<14>
<1>〜<13>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物で構成した層を有する全固体二次電池用シート。
<15>
正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で具備する全固体二次電池であって、
上記正極活物質層、上記固体電解質層及び上記負極活物質層の少なくとも1つの層が、<1>〜<13>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物で構成した層である全固体二次電池。
<16>
<1>〜<13>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物を製膜する全固体二次電池用シートの製造方法。
<17>
<16>に記載の製造方法を用いる全固体二次電池を製造する全固体二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の固体電解質組成物は、全固体二次電池用シート又は全固体二次電池の構成層を構成する材料として用いることにより、得られる全固体二次電池用シート又は全固体二次電池の製造工程における加熱、乾燥処理時においても、固体電解質層及び/又は電極活物質層に損傷が生じにくくすることができる。また、本発明の固体電解質組成物は、全固体二次電池用シート又は全固体二次電池の構成層を構成する材料として用いることにより、得られる全固体二次電池用シート又は全固体二次電池において、優れたイオン伝導度を実現できる。本発明の全固体二次電池用シートは、製造工程における加熱、乾燥においても、固体電解質層及び/又は電極活物質層に損傷が生じにくく、優れたイオン伝導度を示す。本発明の全固体二次電池は上記優れたイオン伝導度を示す全固体二次電池用シートを具備する。また、本発明の全固体二次電池用シート及び全固体二次電池それぞれの製造方法は、上記優れた特性を示す本発明の全固体二次電池用シート及び全固体二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池を模式化して示す縦断面図である。
図2】実施例で作製した全固体二次電池(コイン電池)を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において化合物の表示(例えば、化合物と末尾に付して呼ぶとき)については、この化合物そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、所望の効果を奏する範囲で、置換基を導入するなど一部を変化させた誘導体を含む意味である。
本明細書において置換又は無置換を明記していない置換基(連結基についても同様)については、その基に適宜の置換基を有していてもよい意味である。これは置換又は無置換を明記していない化合物についても同義である。好ましい置換基としては、下記置換基Zが挙げられる。
また、本明細書において、単に、YYY基と記載されている場合、YYY基は更に置換基を有していてもよい。
本明細書において、特定の符号で示された置換基や連結基等(以下、置換基等という)が複数あるとき、あるいは複数の置換基等を同時若しくは択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよいことを意味する。また、特に断らない場合であっても、複数の置換基等が隣接するときにはそれらが互いに連結したり縮環したりして環を形成していてもよい意味である。
【0015】
[固体電解質組成物]
本発明の固体電解質組成物は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有する無機固体電解質と、バインダと、分散媒とを含む。上記バインダを構成する重合体は、後記一般式(1)で示される構成成分と、数平均分子量2,000以上のマクロモノマー由来の構成成分とを含有する。
【0016】
本発明の固体電解質組成物において、無機固体電解質とバインダと分散媒とを含有する態様(混合態様)は、特に制限されないが、分散媒中に無機固体電解質とバインダとが分散したスラリーであることが好ましい。
本発明の固体電解質組成物は、スラリーとしたときにも、無機固体電解質、所望により併用される活物質及び導電助剤等の固体粒子をよく分散させることができる。
【0017】
本発明の固体電解質組成物が上述の効果を奏する理由はまだ定かではないが以下のように推定される。
本発明に用いられるバインダを構成する重合体は、数平均分子量2,000以上のマクロモノマー由来の構成成分を含有し、さらに、側鎖に環を有する、一般式(1)で表される構成成分を有することにより、固体電解質組成物中バインダの凝集が高度に抑制され、本発明の固体電解質組成物は、高い分散性を維持すると考えられる。さらに、バインダを構成する重合体がこのような構造を有することにより、無機固体電解質等の固形成分同士を結着した後の、バインダの流動性が抑えられ、高い界面密着性を示すと考えられる。これらの作用が相俟って、本発明の固体電解質組成物を全固体二次電池用シート又は全固体二次電池の構成層を構成する材料として用いることにより、固体粒子間の結着が高められ、上述の効果を奏すると考えられる。
【0018】
本発明の固体電解質組成物は、特に制限されないが、含水率(水分含有量ともいう。)が、500ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましく、50ppm以下であることが特に好ましい。固体電解質組成物の含水率が少ないと、無機固体電解質の劣化を抑制することができる。含水量は、固体電解質組成物中に含有している水の量(固体電解質組成物に対する質量割合)を示し、具体的には、0.02μmのメンブレンフィルターでろ過し、カールフィッシャー滴定を用いて測定された値とする。
【0019】
以下、本発明の固体電解質組成物が含有する成分及び含有しうる成分について説明する。
【0020】
<無機固体電解質>
本発明の固体電解質組成物は、無機固体電解質を含有する。
本発明において、無機固体電解質とは、無機の固体電解質のことであり、固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。主たるイオン伝導性材料として有機物を含むものではないことから、有機固体電解質(ポリエチレンオキシド(PEO)などに代表される高分子電解質、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などに代表される有機電解質塩)とは明確に区別される。また、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオン及びアニオンに解離又は遊離していない。この点で、電解液、又は、ポリマー中でカチオン及びアニオンが解離若しくは遊離している無機電解質塩(LiPF、LiBF、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、LiClなど)とも明確に区別される。無機固体電解質は周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有するものであれば、特に限定されず、電子伝導性を有さないものが一般的である。本発明の全固体二次電池がリチウムイオン電池の場合、無機固体電解質は、リチウムイオンのイオン伝導性を有することが好ましい。
上記無機固体電解質は、全固体二次電池に通常使用される固体電解質材料を適宜選定して用いることができる。無機固体電解質は(i)硫化物系無機固体電解質と(ii)酸化物系無機固体電解質が代表例として挙げられる。本発明において、活物質と無機固体電解質との間により良好な界面を形成することができる観点から、硫化物系無機固体電解質が好ましく用いられる。
【0021】
(i)硫化物系無機固体電解質
硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子(S)を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、S及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的又は場合に応じて、Li、S及びP以外の他の元素を含んでもよい。
【0022】
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、下記式(1)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質が挙げられる。

a1b1c1d1e1 (1)

式中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1〜e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1〜12:0〜5:1:2〜12:0〜10を満たす。a1は1〜9が好ましく、1.5〜7.5がより好ましい。b1は0〜3が好ましく、0〜1がより好ましい。d1は2.5〜10が好ましく、3.0〜8.5がより好ましい。e1は0〜5が好ましく、0〜3がより好ましい。
【0023】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0024】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、P及びSを含有するLi−P−S系ガラス、又はLi、P及びSを含有するLi−P−S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(LiS)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mで表される元素の硫化物(例えばSiS、SnS、GeS)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0025】
Li−P−S系ガラス及びLi−P−S系ガラスセラミックスにおける、LiSとPとの比率は、LiS:Pのモル比で、好ましくは60:40〜90:10、より好ましくは68:32〜78:22である。LiSとPとの比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10−4S/cm以上、より好ましくは1×10−3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、1×10−1S/cm以下であることが実際的である。
【0026】
具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。例えば、LiS−P、LiS−P−LiCl、LiS−P−HS、LiS−P−HS−LiCl、LiS−LiI−P、LiS−LiI−LiO−P、LiS−LiBr−P、LiS−LiO−P、LiS−LiPO−P、LiS−P−P、LiS−P−SiS、LiS−P−SiS−LiCl、LiS−P−SnS、LiS−P−Al、LiS−GeS、LiS−GeS−ZnS、LiS−Ga、LiS−GeS−Ga、LiS−GeS−P、LiS−GeS−Sb、LiS−GeS−Al、LiS−SiS、LiS−Al、LiS−SiS−Al、LiS−SiS−P、LiS−SiS−P−LiI、LiS−SiS−LiI、LiS−SiS−LiSiO、LiS−SiS−LiPO、Li10GeP12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法及び溶融急冷法を挙げられる。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0027】
(ii)酸化物系無機固体電解質
酸化物系無機固体電解質は、酸素原子(O)を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。
酸化物系無機固体電解質は、イオン伝導度として、1×10−6S/cm以上であることが好ましく、5×10−6S/cm以上であることがより好ましく、1×10−5S/cm以上であることが特に好ましい。上限は特に制限されないが、1×10−1S/cm以下であることが実際的である。
【0028】
具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO〔xaは0.3≦xa≦0.7を満たし、yaは0.3≦ya≦0.7を満たす。〕(LLT); LixbLaybZrzbbbmbnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。); Lixcyccczcnc(MccはC、S、Al、Si、Ga、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xcは0≦xc≦5を満たし、ycは0≦yc≦1を満たし、zcは0≦zc≦1を満たし、ncは0≦nc≦6を満たす。); Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadmdnd(xdは1≦xd≦3を満たし、ydは0≦yd≦1を満たし、zdは0≦zd≦2を満たし、adは0≦ad≦1を満たし、mdは1≦md≦7を満たし、ndは3≦nd≦13を満たす。); Li(3−2xe)eexeeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。); LixfSiyfzf(xfは1≦xf≦5を満たし、yfは0<yf≦3を満たし、zfは1≦zf≦10を満たす。); Lixgygzg(xgは1≦xg≦3を満たし、ygは0<yg≦2を満たし、zgは1≦zg≦10を満たす。); LiBO; LiBO−LiSO; LiO−B−P; LiO−SiO; LiBaLaTa12; LiPO(4−3/2w)(wはw<1); LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO; ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO; NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12; Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2−xhSiyh3−yh12(xhは0≦xh≦1を満たし、yhは0≦yh≦1を満たす。); ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(LLZ)等が挙げられる。
またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(LiPO); リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON; LiPOD(Dは、好ましくは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt及びAuから選ばれる1種以上の元素である。)等が挙げられる。
更に、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C及びGaから選ばれる1種以上の元素である。)等も好ましく用いることができる。
【0029】
無機固体電解質は粒子であることが好ましい。この場合、無機固体電解質の体積平均粒子径は特に制限されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。無機固体電解質の体積平均粒子径の測定は、以下の手順で行う。無機固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mLサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調製する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJIS Z 8828:2013「粒子径解析−動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0030】
無機固体電解質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
固体電解質層を形成する場合、固体電解質層の単位面積(cm)当たりの無機固体電解質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1〜100mg/cmとすることができる。
ただし、固体電解質組成物が後述する活物質を含有する場合、無機固体電解質の目付量は、活物質と無機固体電解質との合計量が上記範囲であることが好ましい。
【0031】
無機固体電解質の、固体電解質組成物中の含有量は、分散安定性、界面抵抗の低減及び結着性の点で、固形分100質量%において、5質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、同様の観点から、99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましく、99質量%以下であることが特に好ましい。
ただし、固体電解質組成物が後述する活物質を含有する場合、固体電解質組成物中の無機固体電解質の含有量は、活物質と無機固体電解質との合計含有量が上記範囲であることが好ましい。
本明細書において、固形分(固形成分)とは、固体電解質組成物を、1mmHgの気圧下、窒素雰囲気下170℃で6時間乾燥処理したときに、揮発又は蒸発して消失しない成分をいう。典型的には、後述の分散媒以外の成分を指す。
【0032】
<バインダ>
本発明の固体電解質組成物は、バインダを含有し、このバインダを構成する重合体が、下記一般式(1)で表される構成成分と、数平均分子量2,000以上のマクロモノマー由来の構成成分とを含有する。
【0033】
【化3】
【0034】
式中、αは環を示す。Lは−O−、−NR−又は−S−を示す。R〜Rは、水素原子又は1価の置換基を示す。*は結合部を示す。
、R及びRが水素原子を示し、Rが置換基を示すことが好ましい。
【0035】
本発明において、Lはカルボニル基と共鳴可能であることで、主鎖の運動性を低下させ、バインダの凝集を抑制することができる。また、凝集力を抑えるために水素結合形成能が低いことが望ましいため、Lは−O−又は−NR−を示すことが好ましい。
【0036】
上記置換基の具体例として、後述の置換基Tが挙げられる。なかでもアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0037】
環αは、単環、縮合環、橋かけ環、若しくはスピロ環、又はこれらの少なくとも2つが結合してなる環が好ましい。
環αは、脂肪族環及び芳香族環のいずれでもよく、炭化水素環でもよくヘテロ環でもよい。ヘテロ環に含まれるヘテロ原子として、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子が挙げられる。
【0038】
上記単環は、3〜15員環が好ましく、5〜10員環がより好ましく、6員環がさらに好ましい。上記単環の環を構成する炭素数は、3〜20が好ましく、5〜10がより好ましく、6がさらに好ましい。
上記縮合環は、上記単環が縮合した環であることが好ましい。
上記橋かけ環は、2〜5環系が好ましく、2〜4環系がより好ましく、2又は3環系がさらに好ましい。上記橋かけ環の環を構成する炭素数は、4〜20が好ましく、5〜15がより好ましく、6〜12がさらに好ましい。
上記スピロ環を構成する環は、3〜15員環が好ましく、4〜10員環がより好ましく、5〜8員環がさらに好ましい。上記スピロ環の環を構成する炭素数は、6〜30が好ましく、7〜20がより好ましく、8〜15がさらに好ましい。
【0039】
本発明において、全固体二次電池用シート又は全固体二次電池の製造工程における加熱乾燥により、固体電解質層及び/又は電極活物質層に損傷がより生じにくく、イオン伝導度をより向上させることができるため、環αが単環又は橋かけ環であることが好ましく、橋かけ環がより好ましい。
【0040】
本発明において、バインダを構成する重合体の側鎖に剛直な官能基を有することで凝集力を抑制することができるため、環αが下記一般式(I)〜(III)のいずれかで表される環であることが好ましい。また、特に剛直な構造のため、環αが下記一般式(III)で表される環であることがより好ましい。
【0041】
【化4】
【0042】
式中、Y及びZは、−CR−、−O−、−NR−又は−S−を示す。L及びLは2価の連結基を示す。R及びRは、水素原子又は1価の置換基を示す。波線は、Lとの結合部を示す。
【0043】
Yは、−CR−を示すことが好ましく、R及びRは水素原子を示すことが好ましい。Zは、−CR−又は−O−を示すことが好ましく、−CR−を示すことがより好ましい。環αの環構成原子が炭素原子であることで、双極子相互作用を抑制することができ、バインダ同士の凝集を抑制できるからである。
及びRで示される置換基の具体例として、後述の置換基Tが挙げられる。
【0044】
で示される2価の連結基として、例えば、アルキレン基が挙げられる。アルキレン基は、炭素数1〜15が好ましく、炭素数2〜10がより好ましく、炭素数4がさらに好ましい。
【0045】
で示される2価の連結基として、例えば、アルキレン基が挙げられる。アルキレン基は、炭素数1〜10が好ましく、炭素数1〜5がより好ましく、炭素数2がさらに好ましい。
【0046】
なお、本発明において、Lが−NR−を示す場合、環αが一般式(I)で表されることが好ましい。また、LがOを示す場合、環αが一般式(II)又は(III)で表されることが好ましく、一般式(III)で表されることがより好ましい。
【0047】
以下に、一般式(1)で表される構成成分を導入するためのモノマー及びマクロモノマーについて説明する。以下に説明する各モノマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
バインダを構成する重合体の合成には、少なくとも下記一般式(1a)で表されるモノマー及び数平均分子量2,000以上のマクロモノマーが用いられる。
【0048】
(一般式(1a)で表されるモノマー)
【化5】
式中、α、L、及びR〜Rは、一般式(1)におけるα、L、及びR〜Rと同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0049】
以下に、一般式(1a)で表されるモノマーの具体例を記載するが、本発明はこれらに限定されない。
【0050】
【化6】
【0051】
(数平均分子量2,000以上のマクロモノマー)
マクロモノマーの数平均分子量は、2,000以上であればよいが、固体粒子の結着性、更には固体粒子の分散性の点で、4000以上であることが好ましく、6000以上であることがより好ましく、8000以上であることが更に好ましい。上限としては、特に制限されず、500,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることが特に好ましい。
【0052】
マクロモノマーは、分子構造の末端又は側鎖にエチレン性不飽和結合を有する化合物が好ましく、例えば、スチレン化合物、ビニルナフタレン、ビニルカルバゾール、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物、(メタ)アクリルニトリル化合物、アリル化合物、ビニルエーテル化合物、ビニルエステル化合物、及びイタコン酸ジアルキル化合物のうちの少なくとも1種由来の構造を有する化合物のうち数平均分子量が2,000以上のものが挙げられる。マクロモノマーが有するエチレン性不飽和結合(付加重合性不飽和結合)の1分子中の数は、1個若しくは2個以上(好ましくは1〜4個)であり、1個がより好ましい。
【0053】
マクロモノマーは、下記一般式(2)で表されるモノマーが好ましい。
【0054】
【化7】
【0055】
式中、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。アルキル基の炭素数は、1〜3であることが好ましく、1であることがより好ましい。Rは水素原子又はメチルが好ましい。
【0056】
式中、Wは、単結合又は連結基を示し、連結基が好ましい。
Wとして採りうる連結基としては、特に限定されないが、炭素数1〜30のアルキレン基、炭素数3〜12のシクロアルキレン基、炭素数6〜24のアリーレン基、炭素数3〜12のヘテロアリーレン基)、エーテル基(−O−)、スルフィド基(−S−)、ホスフィニデン基(−PR−:Rは水素原子若しくは炭素数1〜6のアルキル基)、シリレン基(−SiRS1S2−:RS1、RS2は水素原子若しくは炭素数1〜6のアルキル基)、カルボニル基、イミノ基(−NR−:Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基若しくは炭素数6〜10のアリール基)、又は、これらを2個以上(好ましくは2〜10個)組み合わせた連結基であることが好ましい。中でも、炭素数1〜30のアルキレン基、炭素数6〜24のアリーレン基、エーテル基、カルボニル基、スルフィド基、又は、これらを2個以上(好ましくは2〜10個)組み合わせた連結基であることがより好ましい。
【0057】
一般式(2)において、Pは高分子鎖を示し、Wとの連結部位は、特に制限されず、高分子鎖の末端でも側鎖でもよい。Pとして採りうる高分子鎖としては、特に制限されず、通常の重合体からなるポリマー鎖を適用することができる。このようなポリマー鎖としては、例えば、(メタ)アクリル重合体、ポリエーテル、ポリシロキサン若しくはポリエステルからなる鎖、又は、これら鎖を2個(好ましくは2個若しくは3個)組み合わせた鎖が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル重合体を含む鎖が好ましく、(メタ)アクリル重合体からなる鎖がより好ましい。上記組み合わせた鎖において、鎖の組み合わせは特に制限されず、適宜に決定される。
【0058】
(メタ)アクリル重合体、ポリエーテル、ポリシロキサン及びポリエステルからなる鎖としては、通常の、(メタ)アクリル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリシロキサン及びポリエステル樹脂からなる鎖であればよく、特に制限されない。
例えば、(メタ)アクリル重合体としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物及び(メタ)アクリロニトリル化合物から選ばれる重合性化合物に由来する構成成分を含む重合体が好ましく、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル化合物及び(メタ)アクリロニトリル化合物から選ばれる重合性化合物に由来する構成成分を含む重合体がより好ましい。特に、(メタ)アクリル酸エステル化合物の中でも(メタ)アクリル酸の長鎖アルキルエステルに由来する構成成分を含む重合体が好ましい。この長鎖アルキル基の炭素数としては、例えば、4以上であることが好ましく、4〜24であることがより好ましく、8〜20であることが更に好ましい。(メタ)アクリル重合体は、スチレン化合物、環状オレフィン化合物等の、上述したエチレン性不飽和結合を有する重合性化合物に由来する構成成分を含んでもよい。
【0059】
ポリエーテルとしては、例えば、ポリアルキレンエーテル、ポリアリーレンエーテル等が挙げられる。ポリアルキレンエーテルのアルキレン基は、炭素数1〜10が好ましく、2〜6がより好ましく、2〜4が特に好ましい。ポリアリーレンエーテルのアリーレン基は炭素数6〜22が好ましく、6〜10がより好ましい。ポリエーテル鎖中のアルキレン基及びアリーレン基は同一でも異なっていてもよい。ポリエーテル鎖中の末端は、水素原子又は置換基であり、この置換基としては、例えばアルキル基(好ましくは炭素数1〜20)が挙げられる。
【0060】
ポリシロキサンとしては、例えば、−O−Si(R)−で表される繰り返し単位を有する鎖が挙げられる。上記繰り返し単位において、Rは水素原子又は置換基を示し、置換基としては、特に制限されず、ヒドロキシ基、アルキル基(炭素数1〜12が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3が特に好ましい。)、アルケニル基(炭素数2〜12が好ましく、2〜6がより好ましく、2又は3が特に好ましい。)、アルコキシ基(炭素数1〜24が好ましく、1〜12がより好ましく、1〜6が更に好ましく、1〜3が特に好ましい。)、アリール基(炭素数6〜22が好ましく、6〜14がより好ましく、6〜10が特に好ましい。)、アリールオキシ基(炭素数6〜22が好ましく、6〜14がより好ましく、6〜10が特に好ましい。)、アラルキル基(炭素数7〜23が好ましく、7〜15がより好ましく、7〜11が特に好ましい。)が挙げられる。中でも、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基又はフェニル基がより好ましく、炭素数1〜3のアルキル基が更に好ましい。ポリシロキサンの末端に位置する基は、特に制限されないが、アルキル基(炭素数1〜20が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3が好ましい。)、アルコキシ基(炭素数1〜20が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3が特に好ましい。)、アリール基(炭素数6〜26が好ましく、6〜10がより好ましい。)、ヘテロ環基(好ましくは、少なくとも1つの酸素原子、硫黄原子、窒素原子を有し、炭素原子数2〜20のヘテロ環基、5員環又は6員環が好ましい。)等が挙げられる。このポリシロキサンは、直鎖状であってもよく分岐鎖状であってもよい。
【0061】
ポリエステルとしては、多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合体からなるものであれば特に制限されない。多価カルボン酸及び多価アルコールとしては、通常用いられるものが挙げられ、例えば、脂肪族若しくは芳香族の多価カルボン酸、脂肪族若しくは芳香族の多価アルコールが挙げられる。多価カルボン酸及び多価アルコールの価数は、2以上であればよく、通常、2〜4価である。
【0062】
マクロモノマーは、(メタ)アクリル重合体、ポリエーテル、ポリシロキサン、ポリエステル及びこれらの組み合わせからなる群より選択されるポリマー鎖と、このポリマー鎖に結合するエチレン性不飽和結合とを有するモノマーが更に好ましい。このマクロモノマーが有するポリマー鎖は、上記一般式(2)における高分子鎖Pが好ましく採りうるポリマー鎖と同義であり、好ましいものも同じである。また、エチレン性不飽和結合は、例えば、ビニル基及び(メタ)アクリロイル基が挙げられ、(メタ)アクリロイル基が好ましい。ポリマー鎖と、エチレン性不飽和結合とは直接(連結基を介することなく)結合していてもよく、連結基を介して結合していてもよい。この場合の連結基としては、一般式(2)におけるWとして採りうる連結基が挙げられる。
【0063】
マクロモノマーのSP値は、特に制限されず、例えば、21以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。下限値としては、15以上であることが実際的である。
【0064】
マクロモノマーが有するポリマー鎖(上記一般式(2)におけるポリマー鎖Pに対応する)の重合度は、マクロモノマーの数平均分子量が2,000以上となるのであれば、特に制限されないが、5〜5,000であることが好ましく、10〜300であることがより好ましい。
【0065】
本発明において、一般式(1)で表される構成成分の含有量が、バインダを構成する重合体の構成成分中、0.01〜50質量%であることが好ましく、0.1〜40質量%がより好ましく、1〜30質量%がさらに好ましい。一般式(1)で表される構成成分の含有量が上記範囲内にあることにより、全固体二次電池用シート又は全固体二次電池の製造工程における加熱、乾燥処理によっても、固体電解質層及び/又は電極活物質層に損傷がより生じにくく、イオン伝導度をより向上させることができる。
【0066】
本発明において、数平均分子量2,000以上のマクロモノマー由来の構成成分の含有量が、上記バインダを構成する重合体の構成成分中、10〜50質量%であることが好ましく、15〜45質量%がより好ましく、20〜40質量%がさらに好ましい。数平均分子量2,000以上のマクロモノマー由来の構成成分の含有量が上記範囲内にあることにより、全固体二次電池用シート又は全固体二次電池の製造工程における加熱、乾燥により、固体電解質層及び/又は電極活物質層に損傷がより生じにくく、イオン伝導度をより向上させることができる。
【0067】
本発明に用いられるバインダを構成する重合体は、一般式(1)で表される構成成分及び数平均分子量2,000以上のマクロモノマー由来の構成成分以外の構成成分を含んでもよい。このような構成成分は、例えば、下記モノマー(b)由来の構成成分が挙げられ、その含有量は、1〜70質量%であることが好ましく、5〜60質量%がより好ましく、10〜50質量%がさらに好ましい。
【0068】
(モノマー(b))
モノマー(b)としては、重合性不飽和結合を1つ有するモノマーであることが好ましく、例えば各種のビニル系モノマーやアクリル系モノマーを適用することができる。本発明においては、中でも、アクリル系モノマーを用いることが好ましい。さらに好ましくは、(メタ)アクリル酸モノマー、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、及び(メタ)アクリロニトリルから選ばれるモノマーを用いることが好ましい。
【0069】
上記ビニル系モノマーとしては、下記式(b−1)で表されるものが好ましい。
【0070】
【化8】
【0071】
式中、Rは水素原子、アルキル基(炭素数1〜24が好ましく、1〜12がより好ましく、1〜6が特に好ましい)、アルケニル基(炭素数2〜24が好ましく、2〜12がより好ましく、2〜6が特に好ましい)、アルキニル基(炭素数2〜24が好ましく、2〜12がより好ましく、2〜6が特に好ましい)、又はアリール基(炭素数6〜22が好ましく、6〜14がより好ましい)を表す。中でも水素原子又はアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
【0072】
は、水素原子、アルキル基(炭素数1〜24が好ましく、1〜12がより好ましく、1〜6が特に好ましい)、アルケニル基(炭素数2〜12が好ましく、2〜6がより好ましい)、アリール基(炭素数6〜22が好ましく、6〜14がより好ましい)、アラルキル基(炭素数7〜23が好ましく、7〜15がより好ましい)、シアノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、チオール基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、酸素原子を含有する脂肪族複素環基(炭素数2〜12が好ましく、2〜6がより好ましい)、又はアミノ基(NR:Rは上記の定義に従い、好ましくは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基)である。なかでも、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シアノ基、エテニル基、フェニル基、カルボキシ基、スルファニル(チオール基)、スルホン酸基等が好ましい。
はさらに後記置換基Tを有していてもよい。なかでも、カルボキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子等)、ヒドロキシ基、アルキル基などが置換していてもよい。
カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基は例えば炭素数1〜6のアルキル基を伴ってエステル化されていてもよい。
酸素原子を含有する脂肪族複素環基は、エポキシ基含有基、オキセタン基含有基、テトラヒドロフリル基含有基などが好ましい。
【0073】
は、任意の連結基であり、後記連結基Lの例が挙げられる。具体的には、炭素数1〜6(好ましくは1〜3)のアルキレン基、炭素数2〜6(好ましくは2〜3)のアルケニレン基、炭素数6〜24(好ましくは6〜10)のアリーレン基、酸素原子、硫黄原子、イミノ基(NR)、カルボニル基、リン酸連結基(−O−P(OH)(O)−O−)、ホスホン酸連結基(−P(OH)(O)−O−)、又はそれらの組合せに係る基等が挙げられる。上記連結基は任意の置換基を有していてもよい。連結原子数、連結原子の数の好ましい範囲も後記と同様である。任意の置換基としては、置換基Tが挙げられ、例えば、アルキル基又はハロゲン原子などが挙げられる。
【0074】
mは0又は1である。
【0075】
アクリル系モノマーとしては、上記(b−1)のほか、下記式(b−2)又は(b−3)で表されるものが好ましい。
【0076】
【化9】
【0077】
、mは、上記式(b−1)と同義である。
10は、Rと同義である。ただし、その好ましいものとしては、水素原子、アルキル基、アリール基、カルボキシ基、チオール基、リン酸基、ホスホン酸基、酸素原子を含有する脂肪族複素環基、アミノ基(NR)などが挙げられる。
は、任意の連結基であり、Lの例が好ましく、酸素原子、炭素数1〜6(好ましくは1〜3)のアルキレン基、炭素数2〜6(好ましくは2〜3)のアルケニレン基、カルボニル基、イミノ基(NR)、又はそれらの組合せに係る基等がより好ましい。
は連結基であり、Lの例が好ましく、炭素数1〜6(好ましくは1〜3)のアルキレン基がより好ましい。
mは1〜20の整数を表し、1〜15の整数であることが好ましく、1〜10の整数であることがより好ましい。
【0078】
上記式(b−1)〜(b−3)において、アルキル基やアリール基、アルキレン基やアリーレン基など置換基を取ることがある基については、本発明の効果を維持する限りにおいて任意の置換基を有していてもよい。任意の置換基としては、例えば、置換基Tが挙げられ、具体的には、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリーロイル基、アリーロイルオキシ基、アミノ基等の任意の置換基を有していてもよい。
【0079】
以下にモノマー(b)の例を挙げるが、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。下記式中のvは1〜90を表す。
【0080】
【化10】
【0081】
【化11】
【0082】
置換基Tとしては、下記のものが挙げられる。
アルキル基(好ましくは炭素数1〜20のアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、ペンチル、ヘプチル、1−エチルペンチル、ベンジル、2−エトキシエチル、1−カルボキシメチル等)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜20のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、オレイル等)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜20のアルキニル基、例えば、エチニル、ブタジイニル、フェニルエチニル等)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル等)、アリール基(好ましくは炭素数6〜26のアリール基、例えば、フェニル、1−ナフチル、4−メトキシフェニル、2−クロロフェニル、3−メチルフェニル等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素数2〜20のヘテロ環基、好ましくは、少なくとも1つの酸素原子、硫黄原子、窒素原子を有する5又は6員環のヘテロ環基が好ましく、例えば、テトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン、2−ピリジル、4−ピリジル、2−イミダゾリル、2−ベンゾイミダゾリル、2−チアゾリル、2−オキサゾリル等)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜20のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜26のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、1−ナフチルオキシ、3−メチルフェノキシ、4−メトキシフェノキシ等)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基、例えば、エトキシカルボニル、2−エチルヘキシルオキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数6〜26のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル、1−ナフチルオキシカルボニル、3−メチルフェノキシカルボニル、4−メトキシフェノキシカルボニル等)、アミノ基(好ましくは炭素数0〜20のアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基を含み、例えば、アミノ、N,N−ジメチルアミノ、N,N−ジエチルアミノ、N−エチルアミノ、アニリノ等)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜20のスルファモイル基、例えば、N,N−ジメチルスルファモイル、N−フェニルスルファモイル等)、アシル基(アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基、アリールカルボニル基、ヘテロ環カルボニル基を含み、好ましくは炭素数1〜20のアシル基、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、オクタノイル、ヘキサデカノイル、アクリロイル、メタクリロイル、クロトノイル、ベンゾイル、ナフトイル、ニコチノイル等)、アシルオキシ基(アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、アルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、ヘテロ環カルボニルオキシ基を含み、好ましくは炭素数1〜20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、オクタノイルオキシ、ヘキサデカノイルオキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、クロトノイルオキシ、ベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ、ニコチノイルオキシ等)、アリーロイルオキシ基(好ましくは炭素数7〜23のアリーロイルオキシ基、例えば、ベンゾイルオキシ等)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜20のカルバモイル基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイル、N−フェニルカルバモイル等)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数1〜20のアシルアミノ基、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜20のアルキルチオ基、例えば、メチルチオ、エチルチオ、イソプロピルチオ、ベンジルチオ等)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜26のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ、1−ナフチルチオ、3−メチルフェニルチオ、4−メトキシフェニルチオ等)、アルキルスルホニル基(好ましくは炭素数1〜20のアルキルスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル等)、アリールスルホニル基(好ましくは炭素数6〜22のアリールスルホニル基、例えば、ベンゼンスルホニル等)、アルキルシリル基(好ましくは炭素数1〜20のアルキルシリル基、例えば、モノメチルシリル、ジメチルシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル等)、アリールシリル基(好ましくは炭素数6〜42のアリールシリル基、例えば、トリフェニルシリル等)、ホスホリル基(好ましくは炭素数0〜20のリン酸基、例えば、−OP(=O)(R)、ホスホニル基(好ましくは炭素数0〜20のホスホニル基、例えば、−P(=O)(R)、ホスフィニル基(好ましくは炭素数0〜20のホスフィニル基、例えば、−P(R)、スルホ基(スルホン酸基)、ヒドロキシ基、スルファニル基、シアノ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)が挙げられる。
また、これらの置換基Tで挙げた各基は、上記の置換基Tがさらに置換していてもよい。
【0083】
化合物、置換基及び連結基等がアルキル基、アルキレン基、アルケニル基、アルケニレン基、アルキニル基及び/又はアルキニレン基等を含むとき、これらは環状でも鎖状でもよく、また直鎖でも分岐していてもよく、上記のように置換されていても無置換でもよい。
【0084】
本発明に用いられるバインダを構成する重合体は、例えば、特許第6253155号及び国際公開第2017/099248号を参照して合成することができる。
【0085】
本発明に用いられるバインダは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
固体電解質組成物中の、バインダの含有量は、その固形分中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0087】
バインダを構成する重合体の形状は特に限定されず、粒子状であっても不定形状であってもよい。
また、バインダを構成する重合体は、硫化物系無機固体電解質及び活物質間でのイオン伝導性の低下抑制のため、平均粒子径10nm〜50μmであることが好ましく、10〜1,000nmのナノ粒子であることがより好ましい。
【0088】
バインダを構成する重合体粒子の平均粒子径は、特に断らない限り、以下に記載の測定条件及び定義に基づくものとする。
バインダを構成する重合体粒子を任意の溶媒(例えば、オクタン)を用いて20mlサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調製する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、得られた体積平均粒子径を平均粒子径とする。その他の詳細な条件等は必要によりJISZ8828:2013「粒子径解析−動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製して測定し、その平均値を採用する。
なお、作製された全固体二次電池からの測定は、例えば、電池を分解し電極を剥がした後、その電極材料について上記バインダを構成する重合体粒子の平均粒子径の測定方法に準じてその測定を行い、あらかじめ測定していたバインダを構成する重合体粒子以外の粒子の平均粒子径の測定値を排除することにより行うことができる。
【0089】
バインダを形成する重合体の数量平均分子量は、特に制限されない。例えば、3000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上が更に好ましい。上限としては、100,000以下が実質的である。
【0090】
−分子量の測定−
本発明において重合体又はマクロモノマーの分子量については、特に断らない限り、数量平均分子量をいい、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算の数平均分子量を計測する。測定法としては、基本として下記条件1又は条件2(優先)の方法により測定した値とする。ただし、重合体種によっては適宜適切な溶離液を選定して用いればよい。
(条件1)
カラム:TOSOH TSKgel Super AWM−Hを2本つなげる
キャリア:10mMLiBr/N−メチルピロリドン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0mL/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
(条件2)優先
カラム:TOSOH TSKgel Super HZM−H、TOSOH TSKgel Super HZ4000、TOSOH TSKgel Super HZ2000をつないだカラムを用いる
キャリア:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0mL/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
【0091】
<分散媒>
本発明の固体電解質組成物は、分散媒(分散媒体)を含有する。
分散媒は、上記の各成分を分散させるものであればよく、例えば、各種の有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、アルコール化合物、エーテル化合物、アミド化合物、アミン化合物、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、ニトリル化合物、エステル化合物等の各溶媒が挙げられ、その分散媒の具体例としては下記のものが挙げられる。
【0092】
アルコール化合物としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、1−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール、2−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ソルビトール、キシリトール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールが挙げられる。
【0093】
エーテル化合物としては、アルキレングリコールアルキルエーテル(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等)、ジアルキルエーテル(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等)、環状エーテル(テトラヒドロフラン、ジオキサン(1,2−、1,3−及び1,4−の各異性体を含む)等)が挙げられる。
【0094】
アミド化合物としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−ピロリジノン、ε−カプロラクタム、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどが挙げられる。
【0095】
アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミンなどが挙げられる。
ケトン化合物としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。
芳香族化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
脂肪族化合物としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどが挙げられる。
ニトリル化合物としては、例えば、アセトニトリル、プロピロニトリル、イソブチロニトリルなどが挙げられる。
エステル化合物としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸ブチル、ペンタン酸ブチルなどが挙げられる。
非水系分散媒としては、上記芳香族化合物、脂肪族化合物等が挙げられる。
【0096】
本発明においては、中でも、溶解度パラメータ(SP値)21MPa1/2以下の分散媒を用いることが好ましく、18〜20.5MPa1/2がより好ましく、19〜20MPa1/2がさらに好ましい。SP値が上記範囲にある分散媒を用いることで環αと分散媒が高い親和性を示すことでバインダの凝集を抑制する。
SP値21MPa1/2以下の分散媒の具体例として、トルエン、ジエチルエーテル、シクロオクタン、酪酸ブチル、シクロヘキサン、ジイソブチルケトン及びヘプタンが挙げられる。
本明細書において分散媒のSP値は、Hoy法によって求められる値である。
【0097】
分散媒は常圧(1気圧)での沸点が50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。上限は250℃以下であることが好ましく、220℃以下であることが更に好ましい。
上記分散媒は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
本発明において、固体電解質組成物中の、分散媒の含有量は、特に制限されず適宜に設定することができる。例えば、固体電解質組成物中、20〜99質量%が好ましく、25〜70質量%がより好ましく、30〜60質量%が特に好ましい。
【0099】
<リチウム塩>
本発明の固体電解質組成物は、リチウム塩(支持電解質)を含有することも好ましい。
本発明に用いることができるリチウム塩等としては、通常この種の製品に用いられるリチウム塩が好ましく、特に制限はないが、例えば、以下に述べるものが好ましい。
【0100】
(L−1)無機リチウム塩:LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF等の無機フッ化物塩;LiClO、LiBrO、LiIO等の過ハロゲン酸塩;LiAlCl等の無機塩化物塩等。
【0101】
(L−2)含フッ素有機リチウム塩:LiCFSO等のパーフルオロアルカンスルホン酸塩;LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(FSO、LiN(CFSO)(CSO)等のパーフルオロアルカンスルホニルイミド塩;LiC(CFSO等のパーフルオロアルカンスルホニルメチド塩;Li[PF(CFCFCF)]、Li[PF(CFCFCF]、Li[PF(CFCFCF]、Li[PF(CFCFCFCF)]、Li[PF(CFCFCFCF]、Li[PF(CFCFCFCF]等のフルオロアルキルフッ化リン酸塩等。
【0102】
(L−3)オキサラトボレート塩:リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート等。
これらのなかで、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiClO、Li(RfSO)、LiN(RfSO、LiN(FSO、及びLiN(RfSO)(RfSO)が好ましく、LiPF、LiBF、LiN(RfSO、LiN(FSO、及びLiN(RfSO)(RfSO)などのリチウムイミド塩がさらに好ましい。ここで、Rf、Rfはそれぞれパーフルオロアルキル基を示す。
なお、リチウム塩は、1種を単独で使用しても、2種以上を任意に組み合わせてもよい。
【0103】
本発明の固体電解質組成物がリチウム塩を含む場合、リチウム塩の含有量は、固体電解質100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。上限としては、50質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【0104】
<活物質>
本発明の固体電解質組成物には、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質を含有してもよい。活物質としては、以下に説明するが、正極活物質及び負極活物質が挙げられ、正極活物質である遷移金属酸化物(好ましくは遷移金属酸化物)、又は、負極活物質である金属酸化物若しくはSn、Si、Al及びIn等のリチウムと合金形成可能な金属が好ましい。
本発明において、活物質(正極活物質又は負極活物質)を含有する固体電解質組成物を、電極用組成物(正極用組成物又は負極用組成物)ということがある。
【0105】
(正極活物質)
本発明の固体電解質組成物が含有してもよい正極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び/又は放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、遷移金属酸化物、又は、硫黄などのLiと複合化できる元素などでもよい。
中でも、正極活物質としては、遷移金属酸化物を用いることが好ましく、遷移金属元素M(Co、Ni、Fe、Mn、Cu及びVから選択される1種以上の元素)を有する遷移金属酸化物がより好ましい。また、この遷移金属酸化物に元素M(リチウム以外の金属周期律表の第1(Ia)族の元素、第2(IIa)族の元素、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P及びBなどの元素)を混合してもよい。混合量としては、遷移金属元素Mの量(100mol%)に対して0〜30mol%が好ましい。Li/Mのモル比が0.3〜2.2になるように混合して合成されたものが、より好ましい。
遷移金属酸化物の具体例としては、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物、(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物及び(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物等が挙げられる。
【0106】
(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiCoO(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi(ニッケル酸リチウム)、LiNi0.85Co0.10Al0.05(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、LiNi1/3Co1/3Mn1/3(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])、LiNi0.5Mn0.5(マンガンニッケル酸リチウム)が挙げられる。
(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiMn(LMO)、LiCoMnO4、LiFeMn、LiCuMn、LiCrMn及びLiNiMnが挙げられる。
(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO及びLiFe(PO等のオリビン型リン酸鉄塩、LiFeP等のピロリン酸鉄類、LiCoPO等のリン酸コバルト類並びにLi(PO(リン酸バナジウムリチウム)等の単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩が挙げられる。
(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、LiFePOF等のフッ化リン酸鉄塩、LiMnPOF等のフッ化リン酸マンガン塩及びLiCoPOF等のフッ化リン酸コバルト類が挙げられる。
(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、LiFeSiO、LiMnSiO、LiCoSiO等が挙げられる。
本発明では、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物が好ましく、NCA又はNMCがより好ましい。
【0107】
正極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。正極活物質の体積平均粒子径(球換算平均粒子径)は特に制限されない。例えば、0.1〜50μmとすることができる。正極活物質を所定の粒子径にするには、通常の粉砕機又は分級機を用いればよい。焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、有機溶剤にて洗浄した後使用してもよい。正極活物質粒子の体積平均粒子径(球換算平均粒子径)は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(商品名、HORIBA社製)を用いて測定することができる。
【0108】
上記正極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極活物質層を形成する場合、正極活物質層の単位面積(cm)当たりの正極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1〜100mg/cmとすることができる。
【0109】
正極活物質の、固体電解質組成物中における含有量は特に制限されず、固形分100質量%において、10〜97質量%が好ましく、30〜95質量%がより好ましく、40〜93質量が更に好ましく、50〜90質量%が特に好ましい。
【0110】
(負極活物質)
本発明の固体電解質組成物が含有してもよい負極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び/又は放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、酸化錫等の金属酸化物、酸化ケイ素、金属複合酸化物、リチウム単体又はリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、並びに、Sn、Si、Al、In等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。中でも、炭素質材料又はリチウム複合酸化物が信頼性の点から好ましく用いられる。また、金属複合酸化物としては、リチウムを吸蔵、放出可能であることが好ましい。その材料は、特には制限されないが、構成成分としてチタン及び/又はリチウムを含有していることが、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。
【0111】
負極活物質として用いられる炭素質材料とは、実質的に炭素からなる材料である。例えば、石油ピッチ、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、黒鉛(天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛等)、及びPAN(ポリアクリロニトリル)系の樹脂若しくはフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料を挙げることができる。更に、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA(ポリビニルアルコール)系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維、活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカー、平板状の黒鉛等を挙げることもできる。
【0112】
これらの炭素質材料は、黒鉛化の程度により難黒鉛化炭素質材料と黒鉛系炭素質材料に分けることもできる。また炭素質材料は、特開昭62−22066号公報、特開平2−6856号公報、同3−45473号公報に記載される面間隔又は密度、結晶子の大きさを有することが好ましい。炭素質材料は、単一の材料である必要はなく、特開平5−90844号公報記載の天然黒鉛と人造黒鉛の混合物、特開平6−4516号公報記載の被覆層を有する黒鉛等を用いることもできる。
【0113】
負極活物質として適用される金属酸化物及び金属複合酸化物としては、特に非晶質酸化物が好ましく、更に金属元素と周期律表第16族の元素との反応生成物であるカルコゲナイトも好ましく用いられる。ここでいう非晶質とは、CuKα線を用いたX線回折法で、2θ値で20°〜40°の領域に頂点を有するブロードな散乱帯を有するものを意味し、結晶性の回折線を有してもよい。2θ値で40°以上70°以下に見られる結晶性の回折線の内最も強い強度が、2θ値で20°以上40°以下に見られるブロードな散乱帯の頂点の回折線強度の100倍以下であるのが好ましく、5倍以下であるのがより好ましく、結晶性の回折線を有さないことが特に好ましい。
【0114】
上記非晶質酸化物及びカルコゲナイドからなる化合物群の中でも、半金属元素の非晶質酸化物、及びカルコゲナイドがより好ましく、周期律表第13(IIIB)族〜15(VB)族の元素、Al、Ga、Si、Sn、Ge、Pb、Sb及びBiの一種単独あるいはそれらの2種以上の組み合わせからなる酸化物、並びにカルコゲナイドが特に好ましい。好ましい非晶質酸化物及びカルコゲナイドの具体例としては、例えば、Ga、SiO、GeO、SnO、SnO、PbO、PbO、Pb、Pb、Pb、Sb、Sb、SbBi、SbSi、Bi、SnSiO、GeS、SnS、SnS、PbS、PbS、Sb、Sb及びSnSiSが好ましく挙げられる。また、これらは、酸化リチウムとの複合酸化物、例えば、LiSnOであってもよい。
【0115】
負極活物質はチタン原子を含有することも好ましい。より具体的にはLiTi12(チタン酸リチウム[LTO])がリチウムイオンの吸蔵放出時の体積変動が小さいことから急速充放電特性に優れ、電極の劣化が抑制されリチウムイオン二次電池の寿命向上が可能となる点で好ましい。
【0116】
本発明においては、ハードカーボン又は黒鉛が好ましく用いられ、黒鉛がより好ましく用いられる。本発明において、上記炭素質材料は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0117】
本発明においては、Si系の負極を適用することもまた好ましい。一般的にSi負極は、炭素負極(黒鉛及びアセチレンブラックなど)に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵できる。すなわち、単位重量あたりのLiイオンの吸蔵量が増加する。そのため、電池容量を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点がある。
【0118】
上記焼成法により得られた化合物の化学式は、測定方法として誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、簡便法として、焼成前後の粉体の質量差から算出できる。
【0119】
Sn、Si、Geを中心とする非晶質酸化物負極活物質に併せて用いることができる負極活物質としては、リチウムイオン又はリチウム金属を吸蔵及び/又は放出できる炭素材料、リチウム、リチウム合金、リチウムと合金可能な金属が好適に挙げられる。
【0120】
負極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。負極活物質の平均粒子径は、0.1〜60μmが好ましい。所定の粒子径にするには、通常の粉砕機又は分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、旋回気流型ジェットミル又は篩などが好適に用いられる。粉砕時には水、あるいはメタノール等の有機溶媒を共存させた湿式粉砕も必要に応じて行うことができる。所望の粒子径とするためには分級を行うことが好ましい。分級方法としては、特に制限はなく、篩、風力分級機などを必要に応じて用いることができる。分級は乾式、湿式ともに用いることができる。負極活物質粒子の平均粒子径は、前述の正極活物質の体積平均粒子径の測定方法と同様の方法により測定することができる。
【0121】
上記負極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
負極活物質層を形成する場合、負極活物質層の単位面積(cm)当たりの負極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1〜100mg/cmとすることができる。
【0122】
負極活物質の、固体電解質組成物中における含有量は特に制限されず、固形分100質量%において、10〜90質量%であることが好ましく、20〜85質量%がより好ましく、30〜80質量%であることがより好ましく、40〜75質量%であることが更に好ましい。
【0123】
(活物質の被覆)
正極活物質及び負極活物質の表面は別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。表面被覆剤としてはTi、Nb、Ta、W、Zr、Al、Si又はLiを含有する金属酸化物等が挙げられる。具体的には、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物、ニオブ酸リチウム系化合物等が挙げられ、具体的には、LiTi12、LiTi、LiTaO、LiNbO、LiAlO、LiZrO、LiWO、LiTiO、Li、LiPO、LiMoO、LiBO、LiBO、LiCO、LiSiO、SiO、TiO、ZrO、Al、B等が挙げられる。
また、正極活物質又は負極活物質を含む電極表面は硫黄又はリンで表面処理されていてもよい。
更に、正極活物質又は負極活物質の粒子表面は、上記表面被覆の前後において活性光線又は活性気体(プラズマ等)により表面処理を施されていてもよい。
【0124】
<導電助剤>
本発明の固体電解質組成物は、活物質の電子導電性を向上させる等のために用いられる導電助剤を適宜必要に応じて含有してもよい。導電助剤としては、一般的な導電助剤を用いることができる。例えば、電子伝導性材料である、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック類、ニードルコークスなどの無定形炭素、気相成長炭素繊維若しくはカーボンナノチューブなどの炭素繊維類、グラフェン若しくはフラーレンなどの炭素質材料であってもよいし、銅、ニッケルなどの金属粉、金属繊維でも良く、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン誘導体などの導電性高分子を用いてもよい。またこれらの内1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
本発明の固体電解質組成物が導電助剤を含む場合、固体電解質組成物中の導電助剤の含有量は、0〜10質量%が好ましい。
【0125】
(固体電解質組成物の調製)
本発明の固体電解質組成物は、無機固体電解質、バインダ及び分散媒、必要により他の成分を、例えば、各種の混合機を用いて、混合することにより、好ましくはスラリーとして、調製することができる。
混合方法は特に制限されず、一括して混合してもよく、順次混合してもよい。
混合機としては特に制限されないが、例えば、ボールミル、ビーズミル、プラネタリミキサー、ブレードミキサー、ロールミル、ニーダー及びディスクミルが挙げられる。混合条件は特に制限されず、例えば、混合温度は10〜60℃、混合時間は5分〜5時間、回転数は10〜700rpm(rotation per minute)に設定される。混合機としてボールミルを用いる場合、上記混合温度において、回転数は150〜700rpm、混合時間は5分〜24時間に設定することが好ましい。なお、各成分の配合量は、上記含有量となるように設定されることが好ましい。
混合する環境は特に制限されないが、乾燥空気下又は不活性ガス下等が挙げられる。
【0126】
本発明の活物質層形成用組成物は、固体粒子の再凝集を抑えて固体粒子を高度に分散させることができ、組成物の分散状態を維持できる(高い分散安定性を示す。)。そのため、後述するように、全固体二次電池の活物質層、又は、全固体二次電池用電極シートを形成する材料として好ましく用いられる。
【0127】
[全固体二次電池用シート]
本発明の全固体二次電池用シートは、全固体二次電池の構成層を形成しうるシート状成形体であって、その用途に応じて種々の態様を含む。例えば、固体電解質層に好ましく用いられるシート(全固体二次電池用固体電解質シートともいう。)、電極、又は電極と固体電解質層との積層体に好ましく用いられるシート(全固体二次電池用電極シート)等が挙げられる。本発明において、これら各種のシートをまとめて全固体二次電池用シートということがある。
【0128】
本発明の全固体二次電池用固体電解質シートは、固体電解質層を有するシートであればよく、固体電解質層が基材上に形成されているシートでも、基材を有さず、固体電解質層から形成されているシートであってもよい。全固体二次電池用固体電解質シートは、固体電解質層を有していれば、他の層を有してもよい。他の層としては、例えば、保護層(剥離シート)、集電体、コート層等が挙げられる。
本発明の全固体二次電池用固体電解質シートとして、例えば、基材上に、固体電解質層と、必要により保護層とをこの順で有するシートが挙げられる。
基材としては、固体電解質層を支持できるものであれば特に限定されず、後述する集電体で説明する材料、有機材料、無機材料等のシート体(板状体)等が挙げられる。有機材料としては、各種ポリマー等が挙げられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース等が挙げられる。無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック等が挙げられる。
【0129】
全固体二次電池用シートの固体電解質層の構成、層厚は、本発明の全固体二次電池において説明した固体電解質層の構成、層厚と同じである。
【0130】
本発明の全固体二次電池用電極シート(単に「本発明の電極シート」ともいう。)は、活物質層を有する電極シートであればよく、活物質層が基材(集電体)上に形成されているシートでも、基材を有さず、活物質層から形成されているシートであってもよい。この電極シートは、通常、集電体及び活物質層を有するシートであるが、集電体、活物質層及び固体電解質層をこの順に有する態様、並びに、集電体、活物質層、固体電解質層及び活物質層をこの順に有する態様も含まれる。本発明の電極シートは、活物質層を有していれば、上述の他の層を有してもよい。本発明の電極シートを構成する各層の層厚は、後述する全固体二次電池において説明した各層の層厚と同じである。
【0131】
[全固体二次電池用シートの製造]
本発明の全固体二次電池用シートの製造方法は、特に制限されず、本発明の固体電解質組成物を用いて、上記の各層を形成することにより、製造できる。例えば、必要により基材若しくは集電体上(他の層を介していてもよい。)に、製膜(塗布乾燥)して固体電解質組成物からなる層(塗布乾燥層)を形成する方法が挙げられる。これにより、必要により基材若しくは集電体と、塗布乾燥層とを有する全固体二次電池用シートを作製することができる。ここで、塗布乾燥層とは、本発明の固体電解質組成物を塗布し、分散媒を乾燥させることにより形成される層(すなわち、本発明の固体電解質組成物を用いてなり、本発明の固体電解質組成物から分散媒を除去した組成からなる層)をいう。
本発明の全固体二次電池用シートの製造方法において、塗布、乾燥等の各工程については、下記全固体二次電池の製造方法において説明する。
【0132】
本発明の全固体二次電池用シートの製造方法においては、上記のようにして得られた塗布乾燥層を加圧することもできる。加圧条件等については、後述する、全固体二次電池の製造方法において説明する。
また、本発明の全固体二次電池用シートの製造方法においては、基材、保護層(特に剥離シート)等を剥離することもできる。
【0133】
本発明の全固体二次電池用シートは、固体電解質層及び活物質層の少なくとも1層が本発明の固体電解質組成物で形成され、固体粒子間の界面抵抗の上昇を効果的に抑え、しかも固体粒子同士が強固に結着している。したがって、全固体二次電池の構成層を形成しうるシートとして好適に用いられる。特に、全固体二次電池用シートを長尺状でライン製造して(搬送中に巻き取っても)、また、捲回型電池として用いる場合において、固体電解質層及び活物質層に曲げ応力が作用しても、固体電解質層及び活物質層における固体粒子の結着状態を維持できる。このような製造法で製造した全固体二次電池用シートを用いて全固体二次電池を製造すると、優れた電池性能を維持しつつも、高い生産性及び歩留まり(再現性)を実現できる。
【0134】
[全固体二次電池]
本発明の全固体二次電池は、正極活物質層と、この正極活物質層に対向する負極活物質層と、正極活物質層及び負極活物質層の間に配置された固体電解質層とを有する。正極活物質層は、必要により正極集電体上に形成され、正極を構成する。負極活物質層は、必要により負極集電体上に形成され、負極を構成する。
負極活物質層、正極活物質層及び固体電解質層の少なくとも1つの層は、本発明の固体電解質組成物で形成されることが好ましく、中でも、全ての層が本発明の固体電解質組成物で形成されることがより好ましい。本発明の固体電解質組成物で形成された活物質層又は固体電解質層は、好ましくは、含有する成分種及びその含有量比について、本発明の固体電解質組成物の固形分におけるものと同じである。なお、活物質層又は固体電解質層が本発明の固体電解質組成物で形成されない場合、公知の材料を用いることができる。
負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層の厚さは、それぞれ、特に制限されない。各層の厚さは、一般的な全固体二次電池の寸法を考慮すると、それぞれ、10〜1,000μmが好ましく、20μm以上500μm未満がより好ましい。本発明の全固体二次電池においては、正極活物質層及び負極活物質層の少なくとも1層の厚さが、50μm以上500μm未満であることが更に好ましい。
正極活物質層及び負極活物質層は、それぞれ、固体電解質層とは反対側に集電体を備えていてもよい。
【0135】
〔筐体〕
本発明の全固体二次電池は、用途によっては、上記構造のまま全固体二次電池として使用してもよいが、乾電池の形態とするためには更に適当な筐体に封入して用いることが好ましい。筐体は、金属性のものであっても、樹脂(プラスチック)製のものであってもよい。金属性のものを用いる場合には、例えば、アルミニウム合金又は、ステンレス鋼製のものを挙げることができる。金属性の筐体は、正極側の筐体と負極側の筐体に分けて、それぞれ正極集電体及び負極集電体と電気的に接続させることが好ましい。正極側の筐体と負極側の筐体とは、短絡防止用のガスケットを介して接合され、一体化されることが好ましい。
【0136】
以下に、図1を参照して、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0137】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池(リチウムイオン二次電池)を模式化して示す断面図である。本実施形態の全固体二次電池10は、負極側からみて、負極集電体1、負極活物質層2、固体電解質層3、正極活物質層4、正極集電体5を、この順に有する。各層はそれぞれ接触しており、隣接した構造をとっている。このような構造を採用することで、充電時には、負極側に電子(e)が供給され、そこにリチウムイオン(Li)が蓄積される。一方、放電時には、負極に蓄積されたリチウムイオン(Li)が正極側に戻され、作動部位6に電子が供給される。図示した例では、作動部位6に電球をモデル的に採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。
【0138】
図1に示す層構成を有する全固体二次電池を2032型コインケースに入れる場合、この全固体二次電池を全固体二次電池用電極シートと称し、この全固体二次電池用電極シートを2032型コインケースに入れて作製した電池を全固体二次電池と称して呼び分けることもある。
【0139】
(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層)
全固体二次電池10においては、正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層のいずれも本発明の固体電解質組成物で形成されている。この全固体二次電池10は電気抵抗が小さく、優れた電池性能を示す。正極活物質層4、固体電解質層3及び負極活物質層2が含有する無機固体電解質及びバインダは、それぞれ、互いに同種であっても異種であってもよい。
本発明において、正極活物質層及び負極活物質層のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、活物質層又は電極活物質層と称することがある。また、正極活物質及び負極活物質のいずれか、又は両方を合わせて、単に、活物質又は電極活物質と称することがある。
【0140】
本発明において、上記バインダを無機固体電解質又は活物質等の固体粒子と組み合わせて用いると、上述のように、固体粒子間の界面抵抗の上昇、固体粒子と集電体の界面抵抗の上昇を抑えることができる。更には、固体粒子同士の接触不良、集電体からの固体粒子の剥がれ(剥離)を抑えることができる。そのため、本発明の全固体二次電池は優れた電池特性を示す。特に固体粒子等を強度に結着させることができる上記バインダを用いた本発明の全固体二次電池は、上述のように、全固体二次電池用シート又は全固体二次電池を例えば製造工程において曲げ応力が作用しても優れた電池特性を維持できる。
【0141】
全固体二次電池10においては、負極活物質層をリチウム金属層とすることができる。リチウム金属層としては、リチウム金属の粉末を堆積又は成形してなる層、リチウム箔及びリチウム蒸着膜等が挙げられる。リチウム金属層の厚さは、上記負極活物質層の上記厚さにかかわらず、例えば、1〜500μmとすることができる。
【0142】
正極集電体5及び負極集電体1は、電子伝導体が好ましい。
本発明において、正極集電体及び負極集電体のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、集電体と称することがある。
正極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたもの(薄膜を形成したもの)が好ましく、その中でも、アルミニウム及びアルミニウム合金がより好ましい。
負極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム、銅、銅合金又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたものが好ましく、アルミニウム、銅、銅合金及びステンレス鋼がより好ましい。
【0143】
集電体の形状は、通常フィルムシート状のものが使用されるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体なども用いることができる。
集電体の厚みは、特に制限されないが、1〜500μmが好ましい。また、集電体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
【0144】
本発明において、負極集電体、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層及び正極集電体の各層の間又はその外側には、機能性の層や部材等を適宜介在ないし配設してもよい。また、各層は単層で構成されていても、複層で構成されていてもよい。
【0145】
[全固体二次電池の製造]
全固体二次電池は、常法によって、製造できる。具体的には、全固体二次電池は、本発明の固体電解質組成物等を用いて、上記の各層を形成することにより、製造できる。これにより、電気抵抗が小さく、優れた電池性能を示す全固体二次電池を製造できる。以下、詳述する。
【0146】
本発明の全固体二次電池は、本発明の固体電解質組成物を、基材(例えば、集電体となる金属箔)上に塗布し、塗膜を形成する(製膜する)工程を含む(介する)方法(本発明の全固体二次電池用シートの製造方法)を介して、製造できる。
例えば、正極集電体である金属箔上に、正極用材料(正極用組成物)として、正極活物質を含有する固体電解質組成物を塗布して正極活物質層を形成し、全固体二次電池用正極シートを作製する。次いで、この正極活物質層の上に、固体電解質層を形成するための固体電解質組成物を塗布して、固体電解質層を形成する。更に、固体電解質層の上に、負極用材料(負極用組成物)として、負極活物質を含有する固体電解質組成物を塗布して、負極活物質層を形成する。負極活物質層の上に、負極集電体(金属箔)を重ねることにより、正極活物質層と負極活物質層の間に固体電解質層が挟まれた構造の全固体二次電池を得ることができる。必要によりこれを筐体に封入して所望の全固体二次電池とすることができる。
また、各層の形成方法を逆にして、負極集電体上に、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層を形成し、正極集電体を重ねて、全固体二次電池を製造することもできる。
【0147】
別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シートを作製する。また、負極集電体である金属箔上に、負極用材料(負極用組成物)として、負極活物質を含有する固体電解質組成物を塗布して負極活物質層を形成し、全固体二次電池用負極シートを作製する。次いで、これらシートのいずれか一方の活物質層の上に、上記のようにして、固体電解質層を形成する。更に、固体電解質層の上に、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートの他方を、固体電解質層と活物質層とが接するように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
また別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートを作製する。また、これとは別に、固体電解質組成物を基材上に塗布して、固体電解質層からなる全固体二次電池用固体電解質シートを作製する。更に、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートで、基材から剥がした固体電解質層を挟むように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
【0148】
上記の形成法の組み合わせによっても全固体二次電池を製造することができる。例えば、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート、全固体二次電池用負極シート及び全固体二次電池用固体電解質シートをそれぞれ作製する。次いで、全固体二次電池用負極シート上に、基材から剥がした固体電解質層を積層した後に、上記全固体二次電池用正極シートと張り合わせることで全固体二次電池を製造することができる。この方法において、固体電解質層を全固体二次電池用正極シートに積層し、全固体二次電池用負極シートと張り合わせることもできる。
上記の製造方法においては、正極用組成物、固体電解質組成物及び負極用組成物のいずれか1つに本発明の固体電解質組成物を用いればよく、いずれも、本発明の固体電解質組成物を用いることが好ましい。
【0149】
<各層の形成(成膜)>
固体電解質組成物の塗布方法は特に制限されず、適宜に選択できる。例えば、塗布(好ましくは湿式塗布)、スプレー塗布、スピンコート塗布、ディップコート、スリット塗布、ストライプ塗布、バーコート塗布が挙げられる。
このとき、固体電解質組成物は、それぞれ塗布した後に乾燥処理を施してもよいし、重層塗布した後に乾燥処理をしてもよい。乾燥温度は特に制限されない。下限は30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。上限は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下が更に好ましい。このような温度範囲で加熱することで、分散媒を除去し、固体状態(塗布乾燥層)にすることができる。また、温度を高くしすぎず、全固体二次電池の各部材を損傷せずに済むため好ましい。これにより、全固体二次電池において、優れた総合性能を示し、かつ良好な結着性と、非加圧でも良好なイオン伝導度を得ることができる。
【0150】
上記のようにして、本発明の固体電解質組成物を塗布乾燥すると、固体粒子間の界面抵抗が小さく、固体粒子が強固に結着した塗布乾燥層を形成することができる。
【0151】
塗布した固体電解質組成物、又は、全固体二次電池を作製した後に、各層又は全固体二次電池を加圧することが好ましい。また、各層を積層した状態で加圧することも好ましい。加圧方法としては油圧シリンダープレス機等が挙げられる。加圧力としては特に制限されず、一般的には50〜1500MPaの範囲であることが好ましい。
また、塗布した固体電解質組成物は、加圧と同時に加熱してもよい。加熱温度としては特に制限されず、一般的には30〜300℃の範囲である。無機固体電解質のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。一方、無機固体電解質とバインダが共存する場合、バインダを形成する上記重合体のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。ただし、一般的には上記重合体の融点を越えない温度である。
加圧は塗布溶媒又は分散媒を予め乾燥させた状態で行ってもよいし、溶媒又は分散媒が残存している状態で行ってもよい。
なお、各組成物は同時に塗布してもよいし、塗布乾燥プレスを同時及び/又は逐次行ってもよい。別々の基材に塗布した後に、転写により積層してもよい。
【0152】
加圧中の雰囲気としては特に制限されず、大気下、乾燥空気下(露点−20℃以下)、不活性ガス中(例えばアルゴンガス中、ヘリウムガス中、窒素ガス中)などいずれでもよい。
プレス時間は短時間(例えば数時間以内)で高い圧力をかけてもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけてもよい。全固体二次電池用シート以外、例えば全固体二次電池の場合には、中程度の圧力をかけ続けるために、全固体二次電池の拘束具(ネジ締め圧等)を用いることもできる。
プレス圧はシート面等の被圧部に対して均一であっても異なる圧であってもよい。
プレス圧は被圧部の面積又は膜厚に応じて変化させることができる。また同一部位を段階的に異なる圧力で変えることもできる。
プレス面は平滑であっても粗面化されていてもよい。
【0153】
<初期化>
上記のようにして製造した全固体二次電池は、製造後又は使用前に初期化を行うことが好ましい。初期化は特に制限されず、例えば、プレス圧を高めた状態で初充放電を行い、その後、全固体二次電池の一般使用圧力になるまで圧力を開放することにより、行うことができる。
【0154】
[全固体二次電池の用途]
本発明の全固体二次電池は種々の用途に適用することができる。適用態様には特に制限はないが、例えば、電子機器に搭載する場合、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、メモリーカードなどが挙げられる。その他民生用として、自動車、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
【実施例】
【0155】
以下に、実施例に基づき本発明について更に詳細に説明する。なお、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。
【0156】
(マクロモノマーの合成)
300mL3つ口フラスコにトルエン53.7gを入れ、攪拌しながら80℃に昇温した(溶液A1)。別途、100mLメスシリンダーにメタクリル酸エチル17.1g、ドデシルメタクリレート38.2g、3−メルカプトプロピオン酸0.54g、V−601(商品名、和光純薬社製)0.55gを加えて攪拌し、均一に溶解させた(溶液B1)。溶液A1に溶液B1を80℃で2時間かけて滴下し、その後さらに80℃で2時間、95℃で2時間攪拌後、室温まで冷却した。この重合溶液をメタノールに流し入れて重合体を析出させ、溶媒を除く工程を2回繰り返した。その後、析出物にヘプタン107gを加えてヘプタン溶液を調製した。このヘプタン溶液をマクロモノマー溶液とした。溶液の固形分濃度は41質量%であり、マクロモノマー溶液中の重合体の質量平均分子量(Mw)は12,000、数平均分子量(Mn)は6,000であった。マクロモノマーは下記構造を有する。このマクロモノマー由来の構成成分が下記表1に記載のC−1である。
【0157】
【化12】
【0158】
(バインダを構成する重合体の合成)
以下のようにして、バインダ(S−1)を構成する重合体を合成した。
200mL3つ口フラスコに、マクロモノマー溶液を11.5gとジイソブチルケトン16.4gを入れ、攪拌しながら80℃に昇温した(溶液A2)。別途、50mLメスシリンダーに1−アダマンチルメタクリレートを1.67g、こはく酸モノ(2−アクリロイルオキシエチル)を10.0g、ジイソブチルケトンを14.8g、V−601(商品名、和光純薬社製)0.53gを加えて攪拌し、均一に溶解させた(溶液B2)。溶液A2に溶液B2を80℃で2時間かけて滴下し、その後さらに80℃で2時間、90℃で2時間攪拌して重合した後、室温まで冷却した。こうして、バインダの一部がジイソブチルケトン中に分散してなる分散液を得た。この分散液をバインダ(S−1)とした。重合反応物のMwは75,000、Mnは16,000であった。また、バインダ(S−1)の分散質を構成する粒子状バインダの体積平均粒子径は200nmであった。
【0159】
構成成分が下記表1に記載の組成となるようにモノマー及びマクロモノマーを使用したこと以外はバインダ(S−1)を構成する重合体の合成と同様にして、バインダ(S−2)〜(S−14)及び(T−1)〜(T−3)を構成する重合体を合成した。それぞれのMn及び体積平均粒子径(粒径)は下記表の通りである。
【0160】
【表1】
【0161】
<表の注>
【化13】
【0162】
(硫化物系無機固体電解質(Li−P−S系ガラス)の合成)
硫化物系無機固体電解質は、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.Hama,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231−235及びA.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872−873の非特許文献を参考にして合成した。
【0163】
具体的には、アルゴン雰囲気下(露点−70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(LiS、Aldrich社製、純度>99.98%)2.42g、五硫化二リン(P、Aldrich社製、純度>99%)3.90gをそれぞれ秤量し、メノウ製乳鉢に投入し、メノウ製乳鉢を用いて、5分間混合した。なお、LiS及びPはモル比でLiS:P=75:25とした。
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66個投入し、上記硫化リチウムと五硫化二リンの混合物全量を投入し、アルゴン雰囲気下で容器を密閉した。フリッチュ社製遊星ボールミルP−7(商品名)に容器をセットし、温度25℃、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行い、黄色粉体の硫化物系無機固体電解質(Li−P−S系ガラス、以下、「LPS」とも称する。)6.20gを得た。
【0164】
<固体電解質組成物の調製>
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、後表2に示す無機固体電解質と、上記で調製したバインダの分散液と、分散媒を投入した後に、フリッチュ社製遊星ボールミルP−7(商品名)に容器をセットし、室温下、回転数300rpmで2時間混合して固体電解質組成物を調製した。なお、後記表2に記載のバインダの含有量は、固形分の含有量である。
固体電解質組成物が導電助剤又はリチウム塩を含有する場合は、上記無機固体電解質と、上記で調製したバインダの分散液と、導電助剤又はリチウム塩と、分散媒とを合わせてボールミルP−7により混合し、固体電解質組成物を調製した。
なお、固体電解質組成物が活物質を含有する場合は、活物質を投入してさらに室温下、回転数150rpmで5分間混合し、固体電解質組成物を調製した。
【0165】
<固体電解質含有シートの調製>
上記で調製した各固体電解質組成物を、集電体である厚み20μm、幅30mmのステンレス鋼(SUS)箔上にバーコーダーにより塗工した。SUS箔を下面としてホットプレート上に設置し、150℃で10分間加熱して分散媒を揮発させて除去し、全固体二次電池用シート(縦50mm、横70mm、厚さ1mm)を作製した。
【0166】
[試験例1 イオン伝導度測定]
上記各全固体二次電池用シートについて、目視にて欠陥部分の無い範囲を直径14.5mmの円板状に2枚切り出した。切り出した2枚のシートの固体電解質層(活物質を含む場合には電極層)を貼り合わせてイオン伝導度測定用シート12とし、スペーサーとワッシャー(図2に示していない。)を組み込んで、ステンレス製の2032型コインケース11に入れた。2032型コインケース11をかしめることで、8ニュートン(N)の力で締め付けられた、図2に示す構成のイオン伝導度測定用試験体13を作製した。
上記で得たイオン伝導度測定用試験体13を用いて、イオン伝導度を測定した。具体的には、30℃の恒温槽中、1255B FREQUENCY RESPONSE ANALYZER(商品名、SOLARTRON社製)を用いて、電圧振幅5mV、周波数1MHz〜1Hzまで交流インピーダンス測定した。これにより、貼り合わせた全固体二次電池用シート(イオン伝導度測定用シート)の膜厚方向の抵抗を求め、下記式(1)により計算して、イオン伝導度を求めた。得られたイオン伝導度を下記評価基準に当てはめ、評価した。「C」以上が本試験の合格である。
【0167】
イオン伝導度σ(mS/cm)=1,000×試料膜厚(cm)/(抵抗(Ω)×試料面積(cm))・・・式(1)
[試料膜厚は固体電解質層又は電極層の厚さの合計を意味する。]
【0168】
<イオン伝導度評価基準>
A:0.60≦σ<0.65
B:0.50≦σ<0.60
C:0.40≦σ<0.50
D:0.30≦σ<0.40
E:0.20≦σ<0.30
F:σ<0.20
【0169】
[試験例2 乾燥時のひび割れ観察]
調製例2と同様の工程により分散媒を除去し、全固体二次電池用シート中の分散媒の残留量が100ppm以下であることを確認した。上記の全固体二次電池用シートについて、塗工範囲のうち30mm×50mmの範囲におけるひび割れの有無を目視にて確認し、以下の評価基準にあてはめ評価した。「D」以上が本試験の合格である。
【0170】
−評価基準−
A:ひび割れが生じなかった。
B:1〜3本のひび割れが生じた。全てのひび割れの幅が5mm未満であった。
C:4〜6本のひび割れが生じた。全てのひび割れの幅が5mm未満であった。
D:7本以上のひび割れが生じた。全てのひび割れの幅が5mm未満であった。
E:1〜3本のひび割れが生じた。少なくとも1本のひび割れの幅が5mm以上であった。
F:4〜6本のひび割れが生じた。少なくとも1本のひび割れの幅が5mm以上であった。
G:7本以上のひび割れが生じた。少なくとも1本のひび割れの幅が5mm以上であった。
【0171】
【表2】
【0172】
【表3】
【0173】
<表の注>
DIBK:ジイソブチルケトン
DME:1,2−ジメトキシエタン
LLT:Li0.33La0.55TiO(平均粒径3.25μm豊島製作所製)
NMC:LiNi1/3Co1/3Mn1/3(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム)
NCA:LiNi0.85Co0.10Al0.05(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム)
AB:アセチレンブラック
VGCF:商品名、昭和電工社製カーボンナノファイバー
【0174】
表2から明らかなように、本発明の規定を満たさないバインダを用いたc11〜c16の全固体二次電池用シートは、イオン伝導度が低く、乾燥時のひび割れ試験も不合格であった。バインダ(T−1)を用いたc11及びc14の結果から明らかなように、側鎖に環状構造を有する構成成分と、数平均分子量2,000以上のマクロモノマー由来の構成成分とを含有するバインダを用いても、側鎖に環状構造を有する構成成分が本発明の一般式(1)を満たさないことで、所望の性能が得られないことが分かる。
これに対して、本発明例はいずれもイオン伝導度が高く、乾燥時のひび割れ試験も合格レベルにあることがわかる。
【0175】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0176】
本願は、2018年4月20日に日本国で特許出願された特願2018−081672に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0177】
1 負極集電体
2 負極活物質層
3 固体電解質層
4 正極活物質層
5 正極集電体
6 作動部位
10 全固体二次電池
11 コインケース
12 イオン伝導度測定用シート
13 イオン伝導度測定用試験体(コイン電池)
図1
図2