特許第6982710号(P6982710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6982710銅板材およびその製造方法、ならびに銅板材付き絶縁基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6982710
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】銅板材およびその製造方法、ならびに銅板材付き絶縁基板
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/08 20060101AFI20211206BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20211206BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20211206BHJP
【FI】
   C22F1/08 B
   C22C9/00
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 691Z
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 694Z
   !C22F1/00 604
   !C22F1/00 691A
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2021-517051(P2021-517051)
(86)(22)【出願日】2020年12月21日
(86)【国際出願番号】JP2020047590
【審査請求日】2021年3月25日
(31)【優先権主張番号】特願2020-4457(P2020-4457)
(32)【優先日】2020年1月15日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】川田 紳悟
(72)【発明者】
【氏名】檀上 翔一
(72)【発明者】
【氏名】樋口 優
(72)【発明者】
【氏名】高澤 司
【審査官】 橋本 憲一郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2020/162445(WO,A1)
【文献】 特開2018−204108(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/187767(WO,A1)
【文献】 国際公開第2018/181593(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00−9/10
C22F 1/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
99.96質量%以上のCuおよび不可避不純物からなる組成を有し、
SEM−EBSD法の結晶方位解析データから得られるGAM値が、0.5°未満である結晶粒の面積割合は5%以下であり、かつ0.5°以上1.0°未満である結晶粒の面積割合は50%以上であることを特徴とする銅板材。
【請求項2】
前記SEM−EBSD法で得られる結晶方位解析データから得られるGAM値が1.0°以上である結晶粒の面積割合は40%以下である請求項1に記載の銅板材。
【請求項3】
Cuの含有量は99.99質量%以上である請求項1または2に記載の銅板材。
【請求項4】
前記銅板材は、800℃で10分の条件で加熱した後の結晶粒の、平均結晶粒径(r)が10μm以上300μm以下、最大結晶粒径(R)が1000μm未満であり、かつ、前記平均結晶粒径(r)に対する前記最大結晶粒径(R)の比(R/r)が5.0以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の銅板材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の銅板材の製造方法であって、
銅素材から銅鋳塊を得る鋳造工程(工程1)と、
前記鋳造工程(工程1)後に、前記銅鋳塊に対して均質化熱処理を行う均質化熱処理工程(工程2)と、
前記均質化熱処理工程(工程2)後に、熱間圧延を行う熱間圧延工程(工程3)と、
前記熱間圧延工程(工程3)後に、冷却を行う冷却工程(工程4)と、
前記冷却工程(工程4)後に、冷却された圧延材の表面を面削する面削工程(工程5)と、
前記面削工程(工程5)後に、総加工率が75%以上の冷間圧延を行う第1冷間圧延工程(工程6)と、
前記第1冷間圧延工程(工程6)後に、200℃以上500℃以下の加熱条件で熱処理を施す焼鈍工程(工程7)と、
前記焼鈍工程(工程7)後に、圧下率が5%以上25%以下の冷間圧延を、1パスかつ1方向に行う第2冷間圧延工程(工程8)と、
前記第2冷間圧延工程(工程8)後に、テンションレベラによって、前記第2冷間圧延工程(工程8)の圧延方向とは逆方向に、0.1%以上1.0%以下の範囲内の伸び率で矯正を施す矯正工程(工程9)と
を含むことを特徴とする銅板材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅板材およびその製造方法、ならびに銅板材付き絶縁基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、インバータやコンバータのような電力変換器などに用いられる半導体素子であるパワーデバイスでは、高電圧・大電流を使用するため、多くの熱が発生し、それに伴う材料の劣化が課題である。この課題に対して、近年、絶縁性および放熱性に優れたセラミックス基板などの絶縁基板を銅板材に接合した銅板材付き絶縁基板を用いることによって、パワーデバイスの絶縁・放熱対策が行われている。
【0003】
銅板材付き絶縁基板は、例えば製品出荷前の欠陥検査として、銅基板と絶縁基板との界面に存在する数十μm程度のボイドの有無を超音波探傷検査で調べる。超音波の特性として、超音波の減衰係数は、結晶粒径の3乗に比例する。銅板材付き絶縁基板の銅板材中に粗大な結晶粒(以下、粗大粒ともいう)が存在する場合、粗大粒の周囲と比較して、粗大粒に対する超音波の減衰係数が大きくなる。その結果、超音波探傷検査では、ボイドに加えて粗大粒についても欠陥として認識されてしまうことがあり、銅板材中の粗大粒は銅板材付き絶縁基板の品質管理における外乱因子となる。超音波探傷検査では、サブmmオーダーの領域をスキャンしてボイドの有無を調べるため、スキャン領域に粗大粒が存在すると、外乱要因となり、超音波探傷検査の精度に影響を及ぼすことがある。
【0004】
ここで、絶縁基板と銅板材との接合方法としては、銀系ろう材などのろう材を介して接合する方法や、ろう材を介さずに銅の共晶反応を利用して接合する方法などがある。しかしながら、これらの接合方法では、700℃以上の高温での熱処理が必要である。この熱処理温度は、銅の結晶粒成長を著しく進行させる温度域である。その結果、銅板材付き絶縁基板の銅板材中に粗大粒が形成されることがあり、超音波探傷検査の精度が低下する。
【0005】
そのため、従来から、高温での熱処理後の結晶粒成長を抑制するために、銅板材の結晶方位をマクロ的に制御する手法が試みられている。例えば、特許文献1には、圧延面において特定の結晶面および特定の回折ピーク強度比があり、特定条件で熱処理を行った後の平均結晶粒径が0.4mm以下である無酸素銅板、およびこの無酸素銅板を備えるセラミックス配線基板が記載されている。しかしながら、特許文献1のようなサブmmオーダーのマクロ的な制御手法では、銅板材の局所的な結晶粒の粗大化を抑制することが困難であり、超音波探傷検査の精度が低下することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018−204108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、熱処理を施して絶縁基板と接合しても超音波探傷検査の精度に優れた銅板材およびその製造方法、ならびに銅板材付き絶縁基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1] 99.96質量%以上のCuおよび不可避不純物からなる組成を有し、SEM−EBSD法の結晶方位解析データから得られるGAM値が、0.5°未満である結晶粒の面積割合は5%以下であり、かつ0.5°以上1.0°未満である結晶粒の面積割合は50%以上であることを特徴とする銅板材。
[2] 前記SEM−EBSD法で得られる結晶方位解析データから得られるGAM値が1.0°以上である結晶粒の面積割合は40%以下である上記[1]に記載の銅板材。
[3] Cuの含有量は99.99質量%以上である上記[1]または[2]に記載の銅板材。
[4] 前記銅板材は、800℃で10分の条件で加熱した後の結晶粒の、平均結晶粒径(r)が10μm以上300μm以下、最大結晶粒径(R)が1000μm未満であり、かつ、前記平均結晶粒径(r)に対する前記最大結晶粒径(R)の比(R/r)が5.0以下である上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の銅板材。
[5] 絶縁基板と、前記絶縁基板上に積層形成され、99.96質量%以上のCuおよび不可避不純物からなる組成を有し、平均結晶粒径(r)が10μm以上300μm以下、最大結晶粒径(R)が1000μm未満であり、かつ、前記平均結晶粒径(r)に対する前記最大結晶粒径(R)の比(R/r)が5.0以下である銅板材とを備える銅板材付き絶縁基板。
[6] 上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の銅板材の製造方法であって、銅素材から銅鋳塊を得る鋳造工程(工程1)と、前記鋳造工程(工程1)後に、前記銅鋳塊に対して均質化熱処理を行う均質化熱処理工程(工程2)と、前記均質化熱処理工程(工程2)後に、熱間圧延を行う熱間圧延工程(工程3)と、前記熱間圧延工程(工程3)後に、冷却を行う冷却工程(工程4)と、前記冷却工程(工程4)後に、冷却された圧延材の表面を面削する面削工程(工程5)と、前記面削工程(工程5)後に、総加工率が75%以上の冷間圧延を行う第1冷間圧延工程(工程6)と、前記第1冷間圧延工程(工程6)後に、200℃以上500℃以下の加熱条件で熱処理を施す焼鈍工程(工程7)と、前記焼鈍工程(工程7)後に、圧下率が5%以上25%以下の冷間圧延を、1パスかつ1方向に行う第2冷間圧延工程(工程8)と、前記第2冷間圧延工程(工程8)後に、テンションレベラによって、前記第2冷間圧延工程(工程8)の圧延方向とは逆方向に、0.1%以上1.0%以下の範囲内の伸び率で矯正を施す矯正工程(工程9)と含むことを特徴とする銅板材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱処理を施して絶縁基板と接合しても超音波探傷検査の精度に優れた銅板材およびその製造方法、ならびに銅板材付き絶縁基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、品質検査性の評価において、非破壊検査と破壊検査の結果が一致し、良好な検査性を有する一例である。
図2図2は、品質検査性の評価において、非破壊検査と破壊検査の結果に差異が生じ、検査性が不十分な一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、銅板材の熱処理時における結晶粒成長の駆動力となる結晶粒内方位差(GAM値)を高精度に制御することによって、熱処理後の銅板材における結晶粒の平均結晶粒径と最大結晶粒径とを同時に制御することができ、その結果、超音波探傷検査の精度を向上できることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0013】
実施形態の銅板材について説明する。実施形態の銅板材は、99.96質量%以上のCuおよび不可避不純物からなる組成を有し、SEM−EBSD法の結晶方位解析データから得られるGAM値が、0.5°未満である結晶粒の面積割合は5%以下であり、かつ0.5°以上1.0°未満である結晶粒の面積割合は50%以上である。
【0014】
まず、銅板材の組成について説明する。銅板材の組成は、99.96質量%以上のCu(銅)および不可避不純物からなり、好ましくは99.99質量%以上のCuおよび不可避不純物からなる。Cuの含有量が99.96質量%以上であると、銅板材の熱伝導率が向上し、所望する放熱性が得られる。このような観点から、Cuの含有量が多いほど好ましい。銅板材は、例えば無酸素銅である。
【0015】
また、銅板材について、Cu以外の残部は、不可避不純物である。不可避不純物は、製造工程上、不可避的に含まれうることもあり、含有量によっては銅板材の導電率を低下させて放熱性を損ねる要因にもなりうるため、不可避不純物の含有量は少ないことが好ましい。不可避不純物としては、例えば、Al(アルミニウム)、Be(ベリリウム)、Cd(カドミウム)、Mg(マグネシウム)、Pb(鉛)、Ni(ニッケル)、P(リン)、Sn(スズ)、Cr(クロム)、Zn(亜鉛)、Bi(ビスマス)、Hg(水銀)、Se(セレン)、Te(テルル)などの元素が挙げられる。なお、上記不可避不純物の含有量の上限は、上記元素の合計で、好ましくは10ppm以下、より好ましくは2.0ppm以下である。また、不可避不純物としてS(硫黄)が含まれることもあり、この場合のSの含有量の上限は20ppm以下である。また、不可避不純物としてO(酸素)が含まれることもあり、この場合のOの含有量の上限は10ppm以下である。
【0016】
また、銅板材の厚さは、例えば0.1mm以上1.5mm以下である。銅板材の厚さが上記範囲内であると、銅板材を絶縁基板に容易に接合でき良好な放熱性を示すことができる。
【0017】
次に、GAM値について説明する。GAM(grain average misorientation)値は、SEM−EBSD法の結晶方位解析データから得られる値であり、15°以上の方位差を有する大角度粒界で区別される結晶粒内において、測定点間の距離(以下、ステップサイズともいう)を1μmで測定して隣り合った測定点ごとの方位差を計算し、計算された方位差を同一結晶粒内で平均値として算出した値である。
【0018】
GAM値が小さいとは、結晶粒内の平均方位差が小さい、ひずみの非常に少ない均一な結晶粒である、連続的な方位勾配を有する、などを意味し、1つの結晶粒内の局所的なひずみが小さいことを示す。一方、GAM値が大きいとは、結晶粒内の平均方位差が大きいことを意味し、1つの結晶粒内の局所的なひずみが大きいことを示す。
【0019】
銅板材をSEM−EBSD法で観察して得られる結晶方位解析データにおいて、GAM値が0.5°未満である結晶粒の面積割合は、5%以下である。当該面積割合が5%以下であると、後述する絶縁基板との積層形成時の熱処理において、銅板材における不均一な結晶粒成長を避けられるため、熱処理を施した銅板材であっても、結晶粒の最大結晶粒径(R)が1000μm以上の異常粒成長を抑制できる。その結果、熱処理を施して銅板材と絶縁基板とを接合させた銅板材付き絶縁基板について、良好な超音波探傷検査を行うことができる。当該面積割合が5%より大きいと、熱処理後の銅板材における結晶粒の最大結晶粒径(R)が1000μm以上になることがあり、銅板材付き絶縁基板の超音波探傷検査の精度が低下する。
【0020】
また、銅板材をSEM−EBSD法で観察して得られる結晶方位解析データにおいて、GAM値が0.5°以上1.0°未満である結晶粒の面積割合は、50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。当該面積割合が50%以上であると、微小なひずみを有する結晶粒が銅板材全体の結晶粒のうちの半分以上を占め、後述する絶縁基板との積層形成時の熱処理において、銅板材における均一的な正常粒成長をもたらすため、熱処理を施した銅板材であっても、結晶粒の平均結晶粒径(r)を10μm以上300μm以内の範囲内に制御することができる。その結果、粗大粒が熱処理後の銅板材に形成されることを抑制できるため、銅板材付き絶縁基板に対して良好な超音波探傷検査を行うことができる。当該面積割合が50%未満であると、熱処理後の銅板材における平均結晶粒径(r)が300μmよりも大きくなることがあり、銅板材付き絶縁基板の超音波探傷検査の精度が低下する。
【0021】
また、銅板材について、SEM−EBSD法で得られる結晶方位解析データから得られるGAM値が1.0°以上である結晶粒の面積割合は、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下である。当該面積割合が40%以下であると、銅板材の高ひずみ状態を緩和、つまり結晶粒成長の駆動力の大きい結晶粒が占める面積割合を低減することができるため、熱処理後の銅板材における結晶粒の平均結晶粒径(r)、最大結晶粒径(R)、および平均結晶粒径(r)に対する最大結晶粒径(R)の比(R/r)を所定範囲内に制御することが容易になる。その結果、銅板材付き絶縁基板に対する超音波探傷検査の精度がさらに向上する。
【0022】
このように、加熱後の銅板材における結晶状態(平均結晶粒径(r)、最大結晶粒径(R)、および比(R/r))は、加熱前の銅板材の結晶組織に依存する。特に、熱処理前の結晶粒内の局所的なひずみは、熱処理後に粗大な結晶粒を生み出す駆動力となり得る。そのため、本実施形態では、熱処理前の銅板材について、所定のGAM値を有する結晶粒の面積割合を所定範囲内に調整することにより、結晶組織を制御する。
【0023】
GAM値は、高分解能走査型分析電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−7001FA)に付属するEBSD検出器を用いて連続して測定した結晶方位データから解析ソフト(TSL社製、OIM Analysis)を用いて算出した結晶方位解析データから得られることができる。「EBSD」とは、Electron BackScatter Diffractionの略で、走査型電子顕微鏡(SEM)内で試料である銅板材に電子線を照射したときに生じる反射電子菊池線回折を利用した結晶方位解析技術のことである。「OIM Analysis」とは、EBSDにより測定されたデータの解析ソフトである。測定は、約400μm×800μm視野においてステップサイズ1μmで行う。測定領域は、銅板材の表面について、電解研磨で鏡面仕上げされた表面である。所定範囲内のGAM値の結晶粒の面積割合は、0°以上0.25°未満のGAM値を第1区分とし、0.25°刻みで15区分、0°以上3.75°未満までのGAM値を測定対象とし、SEM−EBSD法で得られるSEM画像全体に占める各区分の結晶粒の面積割合の合計から算出することができる。
【0024】
上記のように所定GAM値の結晶粒の面積割合を所定範囲内になるように調整した銅板材は、後述する熱処理を行うことによって、絶縁基板に積層形成される。一般的に行われている熱処理条件として、加熱雰囲気はアルゴン雰囲気、加熱温度は800℃、加熱時間は10分、昇温温度は10℃/分である。熱処理後の銅板材の結晶状態について、結晶粒の平均結晶粒径(r)は、10μm以上300μm以下、好ましくは10μm以上200μm以下、結晶粒の最大結晶粒径(R)は1000μm未満、平均結晶粒径(r)に対する最大結晶粒径(R)の比(R/r)は5.0以下である。
【0025】
このように、実施形態の銅板材は、所定GAM値の結晶粒の面積割合を所定範囲内になるように調整している。その結果、上記の条件で銅板材を加熱しても、加熱後の銅板材に形成される粗大粒が抑制され、800℃10分の熱履歴後の結晶粒が上記所定範囲内の結晶状態とすることができるため、加熱後の銅板材に対して良好な超音波探傷検査を行うことができる。
【0026】
一方、所定GAM値の結晶粒の面積割合を所定範囲内になるように調整していない従来の銅板材に対して上記の条件で加熱を施すと、加熱後の銅板材には粗大粒が多数存在するため、加熱後の銅板材に対する超音波探傷検査の精度は低下する。
【0027】
次に、実施形態の銅板材の製造方法について説明する。実施形態の銅板材の製造方法は、銅素材から銅鋳塊を得る鋳造工程(工程1)と、鋳造工程(工程1)後に、銅鋳塊に対して均質化熱処理を行う均質化熱処理工程(工程2)と、均質化熱処理工程(工程2)後に、熱間圧延を行う熱間圧延工程(工程3)と、熱間圧延工程(工程3)後に、冷却を行う冷却工程(工程4)と、冷却工程(工程4)後に、冷却された圧延材の表面を面削する面削工程(工程5)と、面削工程(工程5)後に、総加工率が75%以上の冷間圧延を行う第1冷間圧延工程(工程6)と、第1冷間圧延工程(工程6)後に、200℃以上500℃以下の加熱条件で熱処理を施す焼鈍工程(工程7)と、焼鈍工程(工程7)後に、圧下率が5%以上25%以下の冷間圧延を、1パスかつ1方向に行う第2冷間圧延工程(工程8)と、第2冷間圧延工程(工程8)後に、テンションレベラによって、第2冷間圧延工程(工程8)の圧延方向とは逆方向に、0.1%以上1.0%以下の範囲内の伸び率で矯正を施す矯正工程(工程9)とを含む。
【0028】
鋳造工程(工程1)では、銅素材を溶解し、鋳造することによって所定形状の銅鋳塊を得る。例えば、溶解は高周波溶解炉を用いて大気下で行う。得られる銅鋳塊が99.96質量%以上のCuおよび不可避不純物からなる組成を有するように、銅素材の種類、鋳造条件などは適宜設定される。
【0029】
均質化熱処理工程(工程2)では、鋳造工程(工程1)で得られた銅鋳塊に対して、700℃以上1000℃以下、10分間以上10時間以下の加熱条件で均質化熱処理を施す。均質化熱処理工程(工程2)は、例えば不活性ガス雰囲気下で行う。
【0030】
熱間圧延工程(工程3)では、総加工率が10%以上98%以下、好ましくは90%以上98%以下となるように熱間圧延加工を施す。
【0031】
冷却工程(工程4)では、10℃/秒以上の冷却速度で冷却する。
【0032】
面削工程(工程5)では、冷却された圧延材の表面から、例えば1mm以上2mm程度の所定厚さの面削を行う。面削工程(工程5)を行うことで、冷却された圧延材の表面から酸化被膜を除去する。
【0033】
第1冷間圧延工程(工程6)では、総加工率が75%以上となるように冷間圧延を施す。
【0034】
焼鈍工程(工程7)では、200℃以上500℃以下の加熱条件で熱処理を施す。例えば、昇温速度は1℃/秒以上100℃/秒以下、上記熱処理温度の保持時間は10秒以上5時間以内、冷却速度は1℃/秒以上50℃/秒以下である。焼鈍工程(工程7)を行うことで、均一な再結晶粒が得られる。
【0035】
第2冷間圧延工程(工程8)では、5%以上25%以下の圧下率の冷間圧延加工を、1パスかつ1方向のみに施す。第2冷間圧延工程(工程8)を行うことで、圧延材中にひずみが均一に導入される。圧下率が5%未満であると、製造される銅板材について、GAM値が0.5°未満である結晶粒の面積割合が5%より大きくなる。また、圧下率が25%より大きいと、GAM値が1.0°以上である結晶粒の面積割合が増える。また、複数パスで冷間圧延加工を行うと、銅板材中のひずみが分散されて、ひずみの不均一性が生じるため、GAM値が0.5°未満である結晶粒の面積割合およびGAM値が1.0°以上である結晶粒の面積割合がそれぞれ増加する。
【0036】
矯正工程(工程9)では、テンションレベラによって、第2冷間圧延工程(工程8)の圧延方向とは逆方向に沿って、0.1%以上1.0%以下の範囲内の伸び率となるように、矯正を施す。第2冷間圧延工程(工程8)のみ、すなわち矯正工程(工程9)を行わない場合、所定GAM値の結晶粒の面積割合について、所定範囲内になる割合は小さい。そのため、矯正工程(工程9)を行うことによって、ひずみを調整し、所定GAM値の結晶粒の面積割合が所定範囲内になる割合を増加できる。第2冷間圧延工程(工程8)の圧延方向と順方向に矯正すると、結晶粒内の方位差が加算され、銅板材におけるGAM値1.0°以上である結晶粒の面積割合が増加する。また、伸び率が0.1%未満であると、銅板材のGAM値の調整がされず、GAM値が0.5°未満である結晶粒の面積割合を5%以下に制御することが困難となる。また、伸び率が1.0%より大きいと、GAM値が1.0°以上である結晶粒の面積割合が増加する。
【0037】
次に、実施形態の銅板材付き絶縁基板について説明する。実施形態の銅板材付き絶縁基板は、絶縁基板と、絶縁基板上に積層形成され、99.96質量%以上のCuおよび不可避不純物からなる組成を有し、平均結晶粒径(r)が10μm以上300μm以下、最大結晶粒径(R)が1000μm未満であり、かつ、前記平均結晶粒径(r)に対する前記最大結晶粒径(R)の比(R/r)が5.0以下である銅板材とを備える。
【0038】
銅板材を支持する絶縁基板は、セラミックス基板などの電気絶縁性を有する基板である。セラミックス基板としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミナ、およびジルコニアからなる群より選択される少なくとも1種のセラミックスを主成分とする基板であることが好ましい。セラミックス基板の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは0.05mm以上2.00mm以下、より好ましくは0.20mm以上1.00mm以下である。
【0039】
絶縁基板の表面には、銅板材が設けられる。銅板材は、ろう材やはんだなどの接合材を介して絶縁基板と接合してもよいし、接合材を介さずに銅板材の共晶反応を利用して絶縁基板と直接的に接合してもよい。また、絶縁基板の裏面にも銅板材が積層形成されてもよい。
【0040】
絶縁基板の表面に銅板材を積層形成する方法としては、接合材を用いる場合には接合材を介して絶縁基板の表面に銅板材を設置し、または接合材を用いない場合には絶縁基板の表面に銅板材を直接設置し、その後、所定条件の熱処理を行う。一般的な熱処理条件としては、アルゴン雰囲気の管状炉で、800℃以上850℃以下の温度、10分以上60分以内の時間、2〜20℃/分の昇温速度の条件で加熱を行うことで、銅板材が絶縁基板の表面上に接合される。絶縁基板上に接合された銅板材は、上記のように、99.96質量%以上のCuおよび不可避不純物からなる組成を有する。さらに、銅板材は、平均結晶粒径(r)が10μm以上300μm以下であり、最大結晶粒径(R)が1000μm未満であり、平均結晶粒径(r)に対する最大結晶粒径(R)の比(R/r)が5.0以下である。平均結晶粒径(r)、最大結晶粒径(R)および比(R/r)が上記範囲内に制御された銅板材付き絶縁基板の銅板材中では、粗大粒の形成が抑制されるため、銅板材付き絶縁基板に対して良好な超音波探傷検査を行うことができる。さらには、銅板材付き絶縁基板の銅板材の結晶粒は微細で均一であり、銅板材中の結晶粒界密度が均一であるため、銅板材付き絶縁基板における銅板材と絶縁基板との良好な接合性を示す。この銅板材付き絶縁基板は、超音波探傷検査の精度が求められているパワーデバイス用の半導体素子に好適に用いられる。
【0041】
以上説明した実施形態によれば、所定GAM値の結晶粒の面積割合を所定範囲内になるように制御された銅板材を製造することができる。銅板材に対して上記所定条件で熱処理を施しても、加熱された銅板材において、結晶粒の平均結晶粒径(r)、最大結晶粒径(R)、および比(R/r)が小さい、すなわち、粗大粒の形成が抑制される。そのため、銀系ろう材などのろう材を介して、またはろう材を介さずに銅の共晶反応を利用して、銅板材と絶縁基板とを接合しても、得られる銅板材付き絶縁基板は、銅板材と絶縁基板との接合性に優れ、超音波探傷検査による品質検査の正確性を高めることができる。
【0042】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0043】
次に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1〜9および比較例1〜6)
大気下で高周波溶解炉により、銅素材を溶解し、これを鋳造して、表1に示すCuおよび不可避不純物の含有量の銅鋳塊を得た。次に、銅鋳塊に対して、700℃以上1000℃以下、10分間以上10時間以下の加熱条件で均質化熱処理を施した後、総加工率が90%以上98%以下となるように熱間圧延加工を施し、10℃/秒以上の冷却速度で室温まで冷却した。冷却した圧延材の表面には酸化被膜が形成されているので、この酸化被膜を面削した。次に、総加工率が75%以上となるように冷間圧延を施した後、200℃以上500℃以下で2時間の加熱条件で熱処理を施した。その後、表2に示す圧下率およびパス数で1方向に第2冷間圧延工程(工程8)を行った後、テンションレベラによって表2に示す方向および伸び率で矯正工程(工程9)を行って、厚さ0.5mmの銅板材を得た。続いて、絶縁基板である窒化ケイ素板の一方の面に、Ag−Cu−Ti系のろう材を介して、長さ50mm、幅50mmに切断した銅板材を設置し、アルゴン雰囲気の炉で、室温から昇温速度10℃/分で加熱し、800℃に到達後10分保持後、冷却速度10℃/分で冷却し、銅板材付き絶縁基板を得た。なお、表1中の「−」は、測定の検出限界値未満であることを示す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
[評価]
上記実施例および比較例で得られた銅板材および銅板材付き絶縁基板について、下記の評価を行った。結果を表3に示す。
【0048】
[1] GAM値および面積割合
GAM値は、上記実施例および比較例で得られた矯正工程後の銅板材に対して、高分解能走査型分析電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−7001FA)に付属するEBSD検出器を用いて連続して測定した結晶方位データから解析ソフト(TSL社製、OIM Analysis)を用いて算出した結晶方位解析データから得た。測定は、400μm×800μm視野においてステップサイズ1μmで行った。測定領域は、銅板材の表面について、電解研磨で鏡面仕上げされた表面とした。所定範囲内のGAM値の結晶粒の面積割合は、0°以上0.25°未満のGAM値を第1区分とし、0.25°刻みで15区分、0°以上3.75°未満までのGAM値を測定対象とし、SEM−EBSD法で得られるSEM画像全体に占める各区分の結晶粒の面積割合の合計から算出した。面積割合は、任意の5箇所を測定して、その平均値とした。
【0049】
[2] 熱処理後の平均結晶粒径(r)
上記実施例および比較例で得られた銅板材付き絶縁基板における銅板材の表面を鏡面研磨、続いてクロム酸水溶液によるエッチング処理をした後、金属顕微鏡(オリンパス株式会社製、システム倒立金属顕微鏡 GX53)を用いて観察した。得られた顕微鏡画像から、JIS H0501の切断法によって、圧延方向と圧延方向に対して垂直な方向とでそれぞれ線分によって完全に切られる結晶粒数を数え、平均値を算出した。そして、任意の5箇所を測定して、その平均値を平均結晶粒径(r)とした。また、平均結晶粒径(r)について、以下のランク付けをした。平均結晶粒径(r)が10μm以上300μm以内である場合、銅板材付き絶縁基板の銅板材における粗大粒の形成が抑制される。特に、平均結晶粒径(r)が10μm以上200μm以内である場合、銅板材における粗大粒の形成はさらに抑制される。一方、平均結晶粒径(r)が300μm超である場合、銅板材付き絶縁基板の銅板材には粗大粒が形成されやすい。
【0050】
◎:平均結晶粒径(r)が10μm以上200μm以下
○:平均結晶粒径(r)が200μm超300μm以下
×:平均結晶粒径(r)が300μm超
【0051】
[3] 熱処理後の最大結晶粒径(R)
上記の平均結晶粒径(r)で用いた顕微鏡画像から、結晶粒径が最大となるものを対象に当該結晶粒の切断長さを求め、その値を最大結晶粒径(R)とした。
【0052】
[4] 品質検査性
上記実施例および比較例で得られた銅板材付き絶縁基板に対して、超音波映像装置(株式会社日立パワーソリューションズ製、FineSAT III)を使用して、超音波探傷法による品質検査を実施した。検査は、銅板材付き絶縁基板を超音波映像装置の水槽内にセットした後、絶縁基板と銅板材との界面に焦点を結ぶようにプローブ高さなどを調整し、銅板材付き絶縁基板の全体を走査して超音波探傷画像を得た。周波数25MHz用のプローブを使用した。
【0053】
ここで、非破壊検査である超音波探傷法では、粗大粒や数十μm程度のボイドが存在すると、物質の密度差に起因して、粗大粒やボイドでは超音波が強く反射され、結果として、粗大粒やボイドは超音波探傷画像上に白色点として表示される。そこで、破壊検査として、超音波探傷画像上の白色点の10箇所について、SEMによる断面観察を行い、白色点が粗大粒またはボイドの断定を行った。SEMによる断面観察における、銅基板1とセラミックス基板2との界面において、図1に示すように、銅基板1に幅10μm以上で高さ10μm以上のボイド3が観察された場合、白色点がボイドであり、非破壊検査と破壊検査の結果が一致し、品質検査性が良好であると判断し、図2に示すように、銅基板に幅10μm以上で高さ10μm以上のボイドが観察されなかった場合、白色点が粗大粒であり、非破壊検査と破壊検査の結果に差異が生じ、品質検査性が不良であると判断した。そして、品質検査性について、以下のランク付けをした。9つの白色点がボイド、すなわち1つの白色点が粗大粒である場合、および全ての白色点がボイド、すなわち全ての白色点が粗大粒でない場合、超音波探傷法による品質検査が正常に行われていると判断した。一方、8つ以下の白色点がボイド、すなわち2つ以上の白色点が粗大粒である場合、超音波探傷法による品質検査が正常に行われていないと判断した。
【0054】
◎:全ての白色点がボイド
〇:9つの白色点がボイド
×:8つ以下の白色点がボイド
【0055】
【表3】
【0056】
表1〜3に示すように、実施例1〜9では、所定GAM値の結晶粒の面積割合が所定範囲内に制御され、平均結晶粒径(r)、最大結晶粒径(R)および比(R/r)がそれぞれ所定範囲内に制御されていたため、品質検査性が良好であった。
【0057】
一方、比較例1では、第2冷間圧延工程(工程8)の圧下率が5%未満であったため、所定GAM値の結晶粒の面積割合および最大結晶粒径(R)が所定範囲内に制御されておらず、品質検査性が不良であった。また、比較例2では、第2冷間圧延工程(工程8)の圧下率が25%超であったため、所定GAM値の結晶粒の面積割合、平均結晶粒径(r)、最大結晶粒径(R)および比(R/r)が所定範囲内に制御されておらず、品質検査性が不良であった。また、比較例3では、第2冷間圧延工程(工程8)のパス数は同一方向であるが複数パスであったため、所定GAM値の結晶粒の面積割合および最大結晶粒径(R)が所定範囲内に制御されておらず、品質検査性が不良であった。また、比較例4では、矯正工程(工程9)の方向が順方向であったため、所定GAM値の結晶粒の面積割合および最大結晶粒径(R)が所定範囲内に制御されておらず、品質検査性が不良であった。また、比較例5では、矯正工程(工程9)の伸び率が0.1%未満であったため、所定GAM値の結晶粒の面積割合、最大結晶粒径(R)および比(R/r)が所定範囲内に制御されておらず、品質検査性が不良であった。また、比較例6では、矯正工程(工程9)の伸び率が1.0%超であったため、所定GAM値の結晶粒の面積割合、平均結晶粒径(r)、最大結晶粒径(R)および比(R/r)が所定範囲内に制御されておらず、品質検査性が不良であった。


【要約】
実施形態の銅板材は、99.96質量%以上のCuおよび不可避不純物からなる組成を有し、SEM−EBSD法の結晶方位解析データから得られるGAM値が、0.5°未満である結晶粒の面積割合は5%以下であり、かつ0.5°以上1.0°未満である結晶粒の面積割合は50%以上である。
図1
図2