【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年3月6日 新大阪丸ビル別館(大阪市東淀川区東中島)において開催された、第218回(一社)溶接学会溶接構造研究委員会、第35回(社)日本船舶海洋工学会材料・溶接研究会 合同講演会にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年3月27日 TWI,Abington Hall(Great Abington,Cambridge,United Kingdom)において開催された、国際溶接学会 中間会議(C−X intermediate meeting)にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年4月12日 HICO(Bomun−ro,Gyeongju−si,Gyeongsangbuk−do,Korea)において開催された、韓国国際溶接シンポジウム(IWJC−Korea 2017)にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年6月20日 溶接会館(東京都千代田区神田佐久間町)において開催された、第219回溶接学会溶接構造研究委員会+日本溶接会議(JIW)Com.X委員会にて公開
【文献】
荒井良祐 外4名,応力状態を考慮した破壊操作が可能な有限要素モデルの構築,電子情報通信学会技術研究報告,社団法人電子情報通信学会,2008年10月23日,Vol.108,No.270,pp.41−46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記評価部は、前記スカラー量として、前記テンソル量を用いて算出される、前記解析対象に含まれるき裂の表面の単位面積あたりのひずみエネルギーの解放量に相当する量を用いて、前記評価を行うこと、
を特徴とする請求項2に記載の破壊現象の解析装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の代表的な実施形態に係る破壊現象の解析装置、解析方法、及びプログラムを、図面を参照しつつ詳細に説明する。まず本発明を基礎付ける理論を説明し、次いで解析装置、解析方法、及びプログラムについて説明することとする。
なお、本発明はこれら図面に限定されるものではない。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために、必要に応じて寸法、比又は数を誇張又は簡略化して表している場合もある。
【0021】
[本発明を基礎付ける理論]
図1〜
図9を参照して、本発明を基礎付ける理論を説明する。まず、応力拡大係数Kないしその振幅Δを利用する伝統的な解析手法を述べたうえ、本発明において導入する特性テンソルχ
ij(き裂先端近傍の応力σ
ijの平均値を基に計算されるテンソル量)を説明することとする。
【0022】
(伝統的な解析手法)
構造物の破壊現象では、多くの場合、その構造物に含まれるき裂の先端のごく近傍の力学的状態が構造物の強度を支配していると考えられている。しかし、き裂先端の応力は理論上、無限大となり、き裂先端は特異点である。このため、最危険点であるき裂先端の応力を駆動力として、き裂材の強度を普遍的に定量化することができない。そこで、応力拡大係数Kなるスカラー量を導入し、き裂先端近傍の力学的状態を評価するための1つの有力な指標として使用してきた。
【0023】
具体的に述べると、き裂を有する構造物の変形は、モードI(引張形式)、モードII(面内せん断形式)、及びモードIII(面外せん断形式)という、3つの独立な変形様式に分けて考えることができる。モードIは、
図1(a)に示すように、き裂CRの面に直交する方向yに一様な引張応力σが作用する場合であり、モードIIは、
図1(b)に示すように、き裂CRの面内に沿って変位が生ずるように一様なせん断応力τが作用する場合であり、モードIIIは、
図1(c)に示すように、き裂CRの面外に変位が生ずるように一様なせん断応力τが作用する場合である。き裂先端の応力場や変形場はこれら3つのモードの組み合わせとして表現できるとされている。
【0024】
そして、これらモードI〜IIIのそれぞれについて応力拡大係数K
I〜K
IIIが与えられる。例えば、モードIでは、
図2に示す平面座標系において、き裂CRの先端から距離rだけ離れた位置における引張応力σ
yは、次式で示すことができる(なお、次式は、無限弾性板中のき裂だけでなく、有限長さを有する弾性板中のき裂にも適用可能である)。
【数1】
【0025】
上式を含めた、モードIにおける応力σ
Iを示す式を一般化したものが次式である。
【数2】
【0026】
そして、かかる応力拡大係数Kないしその振幅ΔKを所定の基準値(閾値)と比較することで、き裂の進展の有無を評価し、また、パリス則などの進展速度の指標を参照することで、き裂の進展速度を決定している。ここで、応力拡大係数の振幅ΔKは、例えば疲労破壊の解析において、最大応力σ
maxと最小応力σ
minが繰り返し負荷される場合における、1サイクル中の応力拡大係数Kの最大値K
maxと最小値K
minとの差分として定義される。
【0027】
(特性テンソルχ
ijの導入)
ところで、構造物の破壊現象の解析において考慮されるべき応力には、例えば疲労破壊では、初期荷重(例えば重力)による応力σ
0、溶接などに伴う残留応力σ
R、及び負荷荷重による応力Δσ(=σ
max−σ
min)の3種類がある。
【0028】
また、疲労破壊の解析では、き裂進展の指標として応力拡大係数の振幅ΔKが用いられている。このとき、応力拡大係数の振幅ΔKは、初期応力σ
0、残留応力σ
R及び負荷荷重Δσの存在下における応力拡大係数K(σ
0,σ
R,Δσ)と、初期応力σ
0及び残留応力σ
Rの存在下における応力拡大係数K(σ
0,σ
R)と、の差分で与えられる。上述したとおり応力拡大係数Kは3つのモード毎に与えられることから、応力拡大係数の振幅ΔKは、合計6つの数値に基づいて決定されることになる。ところが、このような6つの数値から単一の応力拡大係数の振幅ΔKを合理的に決定することができるのか、疑問がある。
【0029】
そこで、発明者らは、応力拡大係数Kあるいはその振幅ΔKに代えて、後述する特性テンソルχ
ijを破壊現象の解析の出発点とすることにした。
【0030】
すなわち、特性テンソルχ
ijを、体積V、代表寸法Rをもつ所定の領域Aにおける平均的な応力μ
ijを用いて(
図8参照)、次式で定義する。
【数3】
【0031】
ここで、領域Aは、本実施形態では、
図8に例示するように、解析対象S内(例えばき裂先端の近傍)に仮想的に設定される、例えば円筒や球体のような三次元領域である。また代表寸法Rは、例えば、円筒状の領域Aでは底面の半径であり、球状の領域Aでは半径である。
もっとも、例えば二次元解析が行われる場合では、領域Aは、例えば円(代表寸法R:半径)のような二次元領域でもよい。
【0032】
上述のように定義された特性テンソルχ
ijは、上述した定義式からして、応力拡大係数K(あるいは応力拡大係数の振幅ΔK)に比例し、かつ、応力と同様に6成分を有する。したがって、特性テンソルχ
ijは、き裂先端の応力場の厳しさ(応力状態)を定量的に表すことができる。換言すれば、特性テンソルχ
ijは、き裂先端周りの応力の特異性を示すことができるテンソル量である。そのため、特性テンソルχ
ijは、応力拡大係数Kないしその振幅ΔKよりも一般性のある指標であると言える。それゆえ、ここでは、特性テンソルχ
ijを一般化応力と呼ぶことがある。
【0033】
また、領域Aの代表寸法Rが十分小さい有限値の場合は、特性テンソルχ
ijは、き裂先端の応力状態を近似的に表しており、しかも、特性テンソルχ
ijの計算は、上式のとおり平均計算のみで単純である。つまり、特性テンソルχ
ijには、応力の平均と言う非常に簡単な方法で計算できるという利点がある。
【0034】
そして、上述の特性テンソルχ
ijを破壊現状の評価指標として使用してもよい。ただし、特性テンソルχ
ijは、上記計算式のとおり、代表寸法(半径)Rが無限小の場合の極限値であるため、数値計算により算出することができない。そこで、数値解析においては、有限値である代表寸法Rに対して算出されるテンソル量(以下、特性テンソルχ
ijの近似値という)を評価指標として使用することとする。具体的な手順としては、特性テンソルχ
ijないしその近似値に基づいて、解析対象が規定される座標系に依存しない量(不変量)を算出し、かかる不変量の中から、強度又は寿命の評価のために用いられるスカラー量を選択して良い。かかる不変量であるスカラー量の例を以下に示す。
【0035】
すなわち、特性テンソルχ
ijの最大固有値あるいはエネルギー解放率G(あるいはその振幅ΔG)に対応付けられる値を不変量として用いることができる。例えば、脆性破壊や応力腐食割れの解析では、特性テンソルχ
ijの最大固有値(スカラー量)を選択し、また、疲労破壊の解析では、特性テンソルχ
ijを用いて算出される後述のエネルギー解放率Gに対応付けられるスカラー量を選択することが考えられる。
【0036】
(特性テンソルχ
ijと、エネルギー解放率G及びその振幅ΔG、応力拡大係数K及びその振幅ΔKとの関係)
一般に、エネルギー解放率Gは、き裂の単位面積当たりのひずみエネルギーの解放量として定義されている。かかるエネルギー解放率Gを用いると、き裂が進展し、き裂の表面がaだけ増加した時に構造物から解放されるエネルギー(つまり、き裂を進展させる駆動力)wは、次のように書ける。
w=aG
【0037】
そして、初期応力σ
0がゼロの時、応力拡大係数Kとエネルギー解放率Gとの間には次の関係がある。
G=K
2/E
【0038】
さらに、特性テンソルχ
ijは応力拡大係数Kに比例することから、エネルギー解放率Gは、形式的に、次のように表すことができる(
図3参照)。
G∝(1/2)χ
2/E=(1/2)χ(χ/E)
=(1/2)σ
*ε
*=W
*∝K
2/E
ここで、E:ヤング率、一般化応力(特性テンソル)σ
*=χ,一般化ひずみε
*=χ/E,一般化ひずみエネルギー密度W
*=(1/2)σ
*ε
*の関係を用いた。
【0039】
同様に、解析対象に作用する応力が(σ
0+σ
R)から(σ
0+σ
R+Δσ)に変化した時における、応力拡大係数の振幅ΔKとエネルギー解放率の振幅ΔGとの関係は、次のように書ける(
図4参照)。
ΔG=G(σ
0+σ
R+Δσ)−G(σ
0+σ
R)
∝(1/2)[{χ(σ
0+σ
R+Δσ)}
2−{χ(σ
0+σ
R)}
2]/E
∝(1/2)[(σ
*0+σ
*R+Δσ
*)
2−(σ
*0+σ
*R)
2]/E
=(1/2)(2σ
*0+2σ
*R+Δσ
*)(Δσ
*/E)
=(1/2)(2σ
*0+2σ
*R+Δσ
*)(Δε
*)=W
0R*
∝(ΔK)
2/E
ここで、σ
*0=σ
0,σ
*R=σ
R,Δσ
*=Δσ,Δε
*=Δσ
*/Eの関係を用いた。
【0040】
したがって、次式により、応力から、応力拡大係数の振幅ΔKと等価なスカラー量を計算できる。
(ΔK)
2∝EW
*=(E/2)(2σ
*0+2σ
*R+Δσ
*)(Δε
*)
【0041】
このようにすれば、解析対象に作用する応力σ
0,σ
R,Δσと応力拡大係数K及びその振幅ΔKとを明確に関連付けることができる。
【0042】
(特性テンソルχ
ijの破壊現象への適用)
上述した考え方を脆性破壊及び応力腐食割れに適用することを考える。
まず、解析対象に残留応力がない状況では、先に
図3を参照して説明したとおり、応力拡大係数Kを次式で表すことができる。
【数4】
【0043】
上式において、一般化応力σ
*として、特性テンソルχ
ijの固有値のうち最大のもの(最大固有値)を対応させることとする。これにより、き裂の進展に最も影響を及ぼす応力を評価指標として解析を行うことができる。
【0044】
また、残留応力がある場合、応力(σ
R+σ)を考慮することになる。この場合も、上記と同様に考えることができて、以下のように表すことができる(
図5参照)。
【数5】
【0045】
上の式において、一般化応力(σ
R*+σ
*)としては、やはり特性テンソルχ
ijの最大固有値を対応させればよい。
【0046】
次いで、上記の考え方を疲労破壊に適用することを考える。
まず、応力比(σ
min/σ
max)=ゼロ、かつ残留応力がない状況下では、エネルギー解放率の振幅ΔGを用いて、応力拡大係数の振幅ΔKを次のように表すことができる(
図6参照)。
【数6】
【0047】
また、応力比≠ゼロ、かつ残留応力がない場合には、応力がσ
0から(σ
0+Δσ)に変化する場面を考慮することになる。かかる状況下でも、上記と同様に考えることができて、応力拡大係数の振幅ΔKを次のように表すことができる(
図7参照)。
【数7】
【0048】
更に、応力比≠0かつ残留応力がある場合には、応力が(σ
0+σ
R)から(σ
0+σ
R+Δσ)に変化する場面を考慮することになる。かかる状況下では、先に
図4を参照して説明したとおり、応力拡大係数の振幅ΔKを次のように表すことができる。
【数8】
【0049】
以上の議論から、概念的に応力拡大係数の振幅ΔKは、特性テンソルχ
ijを用いて次のように書くことができる。
【数9】
ここで、C
ijklは弾性コンプライアンスであり、ヤング率Eとポアソン比νを用いて容易に算出することができる。
【0050】
同様に、応力拡大係数Kは、特性テンソルχ
ijを用いて次のように書くことができる。
【数10】
【0051】
(き裂進展の評価)
図9を参照して、上述した特性テンソルχ
ijないしその近似値を用いてき裂の進展を評価する手法について説明する。
き裂解析においては、例えば
図9(a)に示すような解析対象の応力分布のうち、本来き裂CRの先端だけがき裂CRの進展に対して意味を持つ。そこで、本実施形態では、
図9(b)に示すように、き裂CRの鞘を構成する部分(き裂CRの表面に隣接する要素、つまり、き裂CRを取り囲む1層分の要素群)のみに注目する。
【0052】
そして、かかる隣接する要素ごとに特性テンソルχ
ijないしその近似値を用いて算出された不変量のうち、最大の値を、所定の閾値(基準値)と比較する。例えば、脆性破壊、応力腐食割れ、熱疲労の影響を解析する場合には、評価指標(不変量)として特性テンソルχ
ijないしその近似値の最大固有値を選択し、閾値として材料固有の限界値K
ICを使用すればよい。また、疲労の影響を解析する場合には、評価指標(不変量)として特性テンソルχ
ijないしその近似値をエネルギー解放率Gに等価変換した値を選択し、進展速度v(例えば、上記式9を用いて算出される応力拡大係数の振幅ΔK(χ))を基準とすればよい。
【0053】
かかる最大の値が閾値以上であれば、き裂が進展すると評価し、かかる最大の値が閾値未満であれば、き裂は進展しないと評価する。
【0054】
そして、き裂が進展すると評価した場合、該当する最大の値に対応する隣接要素の方向にき裂が進展するものと評価し、その隣接要素を解析対象の形状(メッシュ)から取り除く処理を行う。基本的には、1回の評価に対して、該当する1個の隣接要素を除去するが、計算の効率化のために、1回の評価に対して複数の隣接要素を除去することも考えられてよい。後者の具体例としては、削除されるべき1個の隣接要素(最大の値を持つ隣接要素)の持つ値の一定割合(例えば95%)以上を有する隣接要素をも削除することが考えられる。
【0055】
したがって、き裂が進展すると評価されると、自動的にき裂の進展方向及び進展速度が決まることになる。このように、従来の方法の多くはき裂の進展の方向そのものを別途計算する必要が有ったが、本発明の考え方では上述のように比較的簡単に決定できる。
【0056】
[解析装置]
図10を参照して、上述した理論をベースとする破壊現象の解析装置を説明する。すなわち、本実施形態に係る解析装置1は、CPU2、RAM3、ROM4、入力装置5、及び出力装置6を含む電子計算機として構成されている。ただし、解析装置1は、1台の電子計算機として構成されている必要はなく、例えば演算機能や記憶機能を複数の電子計算機で分担してもよい。また、解析装置1はサーバであり、入力装置及び出力装置を有する端末から入力を受け付けて計算結果を端末に出力してもよい。
【0057】
かかる解析装置1の各構成要素を説明すると、まずCPU2は、ROM4に格納された解析プログラム及び各種データをRAM3に読み出したうえで、各種演算を実行し、演算結果をROM4に記憶する。本実施形態では、CPU2は、取得部21、算出部22、及び評価部23として機能する。以下、これらの機能部について説明する。なお、以下に述べる各機能部の役割分担は便宜的なものであり、例えば、取得部21が行うと説明されている機能が算出部22において実行されたり、算出部22が行うと説明されている機能が評価部23において実行されたりしてもよい。
【0058】
取得部21は、解析対象となる構造物の形状を示すデータ(形状データ)を取得する。ここでいう構造物の典型例は金属やセラミックなどの素材で作成された構造物であるが、大きさに関わらず力学的負荷を受けて破壊する可能性を有する全ての構造物が含まれるものとする。また、構造物の形状には、その構造物に含まれるき裂の形状が含まれていてもよい。また、データ取得の態様には、例えば、ユーザによる入力、図示しない通信装置を介した外部の電子計算機や計測機器からの受信がある。
【0059】
取得部21はまた、解析対象に作用している応力の状態(応力状態)を示すデータ(応力データ)を取得する。応力データには、例えば初期荷重による応力σ
0、溶接などに伴う残留応力σ
R、及び負荷荷重による応力Δσのような、任意の応力情報が含まれていてもよく、また、き裂の進展後の新たな応力状態を示すデータを含んでいてよい。また、データ取得の態様には、例えば、ユーザによる入力、図示しない通信装置を介した外部の電子計算機や計測機器からの受信のほか、取得部21による算出が含まれる。
【0060】
取得部21は更に、平均応力μ
ijを算定するための領域Aの体積V、領域Aの代表寸法R、解析対象を構成する材料のヤング率E、ポアソン比ν、及び、き裂進展の基準値(閾値)を示すデータを、例えばユーザ入力や外部の電子計算機からの受信により取得する。
【0061】
算出部22は、取得部21において取得された各種データを用いて、上述した計算式に基づき、平均応力μ
ij、特性テンソルχ
ijの近似値及び不変量(例えば特性テンソルχ
ijの近似値の固有値、エネルギー解放率Gないしその振幅ΔGに相当する量(応力拡大係数Kないしその振幅ΔKに等価な指標))を算出する。
【0062】
評価部23は、算出部22において算出された不変量を、取得部21において取得されたき裂進展の基準値と比較する。具体的には、先に
図9との関係で説明したとおり、き裂の表面CRに隣接する要素ごとに算出された不変量のうち最大の値を、き裂進展の基準値と比較する。
【0063】
そして、比較結果に応じて、評価部23はき裂の進展の有無を判定する。つまり、上述した最大の値がき裂進展の基準値未満であると、評価部23は、き裂は進展しない(又はき裂の進展が停止する)と判定する。また、最大の値がき裂進展の基準値以上であると、評価部23は、き裂は進展すると判定する。
【0064】
き裂の進展方向は、上述した最大の値に対応する要素であり、き裂の進展速度は、例えば、この最大の値がき裂進展の基準値(例えば進展速度v)との比較結果に応じて決定される。
【0065】
そして、CPU2は、評価部23の評価結果をROM4に記憶するとともに、出力装置6に出力する。出力の態様は、例えば、平均応力の主値の分布図(コンタ図)、き裂の進展(有無、速度、方向)及び停止の様子を示す図、破断面を示す図、構造物の寿命を示すグラフである。
【0066】
ROM4は、内蔵型の記憶装置でもよいし、取り外し可能な記憶装置(例えばUSB、DVD−ROM)でもよい。ROM4には、例えば、取得部21において取得されたデータ(例えば形状データ41、応力データ42)、算出部22において算出されたデータ(例えば平均応力データ43、特性テンソルデータ44)を含む各種データのほか、解析結果や、例えば有限要素法などの解析プログラム45が記憶されている。
【0067】
入力装置5は、データ入力を行うためのキーボード、マウスなどである。出力装置6は、CPU2から出力されたデータを表示するためのディスプレイ、プリンタなどである。
【0068】
[解析手順]
図11を参照して、上述した構成を有する解析装置1における破壊現象の解析手順を説明する。以下に述べる処理は、CPU2において行われる。ここでは、破壊現象の解析が有限要素法(FEM)を用いて行われるものとして説明を行う。
【0069】
まずステップS1において、解析対象の形状データを取得する。形状データには、き裂の形状を含む。併せて、解析対象を構成する材料のヤング率E、平均応力μ
ijを算定するための領域Aの体積V、代表寸法Rを取得する。なお、代表寸法Rは、メッシュのサイズと同程度か数倍程度大きくてよい。
【0070】
次いで、ステップS2において、ステップS1にて取得した形状データをメッシュに分割する。設定するメッシュのサイズは、解析対象の寸法に応じたものになるが、従来手法の下で設定されるメッシュよりも粗くてよい。
【0071】
そして、ステップS3において、解析対象の応力データσ(初期負荷応力σ
0、変動荷重Δσ、残留応力σ
Rを含む)を取得する。これにより、解析対象に作用する応力を陽に考慮した解析を行うことが可能となる。なお、このステップには、き裂が進展した後の応力σを計算(取得)することが含まれるものとする。
【0072】
ステップS4において、ステップS3で取得した応力データσ(該当する場合にはき裂進展後の応力σを示すデータ)と、領域Aの体積Vと、を用いて、領域Aにおける平均応力μ
ijを算出する。平均応力μ
ijの算出は、例えばメッシュごとに行う。
【0073】
次いで、ステップS5において、ステップS4において算出した平均応力μ
ijと、代表寸法Rと、を用いて、特性テンソルχ
ijの近似値を算出する。
更に、ステップS6において、ステップS3で取得された応力の種類に応じて、又はユーザの指示に基づいて、特性テンソルχ
ijの近似値を用いて不変量(例えば特性テンソルχ
ijの近似値の最大固有値やエネルギー解放率Gに相当する量など)を算出する。
【0074】
そして、ステップS7において、ステップS6で算出した不変量を所定の基準値(閾値)と対比することで、破壊現象の評価を行う。その際、基準値と対比するのは、き裂の表面に隣接する要素のうち、最大の値を示す要素における算出結果である(
図9参照)。
【0075】
かかる最大の値が基準値以上であれば、き裂が進展すると評価し、かかる最大の値が閾値未満であれば、き裂は進展しないと評価する。き裂が進展すると評価した場合、該当する最大の値に対応する要素の方向にき裂が進展するものと評価し、その要素を解析対象の形状(メッシュ)から取り除く処理を行う。これらの評価は、まとめて実行することができ、個別に計算を行う必要がない。また、所定の刻み時間ごとの破壊現象の解析を行う場合に、次の時刻における解析のために解析対象の形状(メッシュ)を更新する必要がない。
【0076】
このようにして、一連の解析手順が終了する。なお、所定の刻み時間ごとに一連の破壊現象の解析を行う場合には、上述したステップS3〜S6を繰り返せばよい。
【0077】
[本実施形態の効果]
以上のとおり、本実施形態では、所定領域Aにおける平均的な応力を示す特性テンソルχ
ij(その近似値を含む。以下、同じ。)を用いて破壊現象の解析を行っている。かかる特性テンソルχ
ijは、領域A内の応力の平均計算という簡単な処理であるから、高度な計算技術を必要としないし、計算時間が非常に短い。しかも、特性テンソルχ
ijは、当該領域A内の応力状態を十分な近似値を与えている。したがって、工学的に十分な精度の計算が短時間で可能である。
【0078】
また、特性テンソルχ
ijは、多次元である応力を陽に扱うことができるとともに、き裂以外の異なった種類の応力にも対応することができる。したがって、重力などによる初期応力、溶接残留応力、荷重負荷による応力を矛盾なく考慮することができるとともに、複雑な荷重(多軸荷重、非比例荷重、ランダム複合荷重)を対象とする事が可能であるため、実構造物のシミュレーションに柔軟に対応できる。
【0079】
特性テンソルχ
ijは、上述のとおり領域Aの応力状態を工学的に十分に精度よく近似しているので、き裂近傍でも粗いメッシュを使用することができる。また、最大の値を持つ要素(メッシュ)の除去を行うため、き裂進展に伴うメッシュの更新が不要である。き裂進展方向及び分岐は自動的に定められるので、これらのために別途計算処理を行う必要がない。これらの特徴もまた、解析時間の短縮に寄与する。
【0080】
そして、疲労破壊、応力腐食割れ、脆性破壊、微小降伏の破壊といった破壊モードに適用可能である。
【0081】
更に、上述した効果とも相俟って、取り扱うことのできる解析対象は、複雑な形状を有する構造物、大規模な構造物、複合荷重を受ける構造物にも広がる。また、適用可能な製品の幅は、船、自動車、車両、建設機械、電装品、航空機のような複雑な実構造物に広がる。
【0082】
溶接構造物は溶接継手から疲労などが原因で壊れる場合が多く、その原因は応力集中と残留応力であることは知られている。本実施形態におけるき裂先端での特性応力σ(特性テンソルχ)の概念を用いることで、残留応力や動的応力場を陽に考慮した設計法の体系化が可能となる。
【0083】
複雑な形状を有し負荷荷重も複雑な大型の実構造物の強度予測は困難であり、従来は膨大な費用を要するモックアップ試験が実施されていたが、本実施形態に基づくシミュレーションにより、試験の回数が大幅に少なくできる。また、実構造物に想定される数多くの状況を網羅するシミュレーションの実施も可能であり、製品の開発・設計の効率化および品質の向上、すなわち競争力向上に寄与する。
【0084】
本発明は、大きさに関わらず力学的負荷を受けて破壊する可能性を有する全ての構造物に適用可能であり、例えば次のような場面で利用可能である。
(1) 溶接残留応力が存在する構造物での疲労寿命や応力腐食割れによるき裂進展の予測、及び構造物の強度向上
(2) 溶接残留応力が存在する構造物での脆性き裂の予測とき裂停止(アレスト)法の提案
(3) 異材が接合された構造物における継手強度の予測
【0085】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それらも本発明に含まれる。
【0086】
また、上述した取得部21、算出部22、及び評価部23の各機能を実行させるためのプログラムは、モジュールないしサブルーチンとして、別の解析装置(電子計算機)の解析プログラムに組み込まれてもよい。例えば、特性テンソルχの近似値の算出プログラム、不変量の算出プログラム、き裂進展の評価プログラム、き裂の進展方向に位置する要素の除去プログラム、き裂の表面を検索するプログラム、き裂の進展速度を計算するプログラムが挙げられる。このようなプログラムがモジュールないしサブルーチンとして提供されることで、例えば計算時間の短縮化のような上述の効果を期待することができる。