特許第6982853号(P6982853)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982853
(24)【登録日】2021年11月25日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】磁性粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/08 20060101AFI20211206BHJP
【FI】
   C01G49/08 A
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-172761(P2017-172761)
(22)【出願日】2017年9月8日
(65)【公開番号】特開2019-48732(P2019-48732A)
(43)【公開日】2019年3月28日
【審査請求日】2020年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】特許業務法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】阿部 浩也
(72)【発明者】
【氏名】來間 和男
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06203774(US,B1)
【文献】 特開2016−032052(JP,A)
【文献】 特開平11−263623(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103253713(CN,A)
【文献】 特開平11−153882(JP,A)
【文献】 HAN, C., et al.,J. Chil. Chem. Soc.,2015年,Vol. 60,pp. 2799-2802
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/08
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2−グリコールと水とを含む混合溶液中で水酸化鉄を加熱・加圧し、前記水酸化鉄とは異なる形状の磁性粒子を混合溶液中に析出させ、
前記水酸化鉄の比表面積が10m2/g〜100m2/gであり、
前記混合溶液中における前記水の含有量が1体積%〜15体積%であり、
前記1,2−グリコールの沸点が水よりも高く、
前記加熱の温度が前記沸点の−20℃〜+35℃であること、
を特徴とする磁性粒子の製造方法。
【請求項2】
前記水酸化鉄がゲータイト、前記磁性粒子がマグネタイトであり、
前記マグネタイトが前記ゲータイトを原料として生成されること、
を特徴とする請求項1に記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項3】
前記水酸化鉄が針状であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の磁性粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性粒子及びその製造方法に関し、より具体的には、形状及びサイズの揃った磁性粒子の効率的な製造方法、及び当該製造方法によって得られる磁性粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁性粒子の利用分野は拡大しており、磁性流体、磁気粘性流体、造影剤、電磁波シールド材及びがん治療用誘導加熱材等、広く活用されている。ここで、ゲータイト(針鉄鉱、α−FeOOH)は安価であり、当該ゲータイトを原料として磁性粒子を製造する方法はコスト的にも大変魅力的である。実際、ゲータイトを水素で還元した針状の磁性粒子は、磁気テープ用の磁性粒子に使用されている。
【0003】
例えば、非特許文献1(Inorganic Chemistry, American Chemical Society, 45(2006) pp.5196−5200)では、ゲータイトを大気中で熱分解及び結晶化させる、ナノロッド状ヘマタイトの製造方法が開示されているが、得られるヘマタイトは均一性に欠け、サイズ分布も広くなってしまう。
【0004】
また、特許文献1(特開2014−94838号公報)では、板状の形状を有するゲータイト粒子及び/又は板状の形状を有するヘマタイト粒子を多価アルコールに分散させて加熱処理することを特徴とする強磁性酸化鉄粒子の製造方法が提案されている。
【0005】
前記特許文献1に記載されている強磁性酸化鉄粒子の製造方法においては、板状の形状を有するゲータイト粒子等の水酸化鉄粒子やヘマタイト粒子を多価アルコールに分散させて加熱処理することで、粒子の板状の形状の変形を引き起こすことなく、優れた発熱特性を有するマグネタイト粒子に変換でき、当該マグネタイト粒子は注射用媒体に対する分散安定性に優れる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−94838号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Inorganic Chemistry, American Chemical Society, 45(2006) pp.5196−5200
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記非特許文献及び特許文献に記載の磁性粒子の製造方法では、磁性粒子の形状を任意に制御することができないことに加え、得られる磁性粒子のサイズも不均一になってしまう。また、ナノ粒子については比較的均質な粒子を製造する方法が多く提案されているが、形状及びサイズが揃ったマイクロ磁性粒子(平均直径が1μm〜10μm程度の磁性粒子)を安定して製造することができる安価かつ簡便な方法は存在しない。加えて、従来の製造方法で得られる磁性粒子の形状は、基本的に球状、板状及び棒状等に限られる。
【0009】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、形状及びサイズが揃ったマイクロ磁性粒子を安定して得ることができる安価かつ簡便な製造方法、及びそれにより得られる特異な形状及び/又はサイズを有する磁性粒子を提供することにある。また、本発明の別の目的は、新規な形状及び/又はサイズを有する磁性粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記目的を達成すべく、磁性粒子の製造方法について鋭意研究を重ねた結果、適当な還元溶媒と水とを含む混合溶液中で、水酸化鉄を原料として磁性粒子を混合溶液中に直接析出させること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明は、1,2−グリコールと水とを含む混合溶液中で水酸化鉄を加熱及び加圧し、溶解した水酸化鉄を原料として、異なる形状の磁性粒子を析出させること、を特徴とする磁性粒子の製造方法、を提供する。
【0012】
加熱及び加圧の方法は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の方法を用いることができる。例えば、オートクレーブ等の耐圧容器の中で、1,2−グリコールと水とを含む混合溶液及び水酸化鉄を加熱・加圧処理することで、磁性粒子を得ることができる。なお、1,2−グリコールは還元溶媒として用いられている。
【0013】
耐圧容器中に密閉する1,2−グリコール、水及び水酸化鉄の量は、磁性粒子の形状、サイズ及び生成量等によって適宜決定すればよい。本発明の磁性粒子の製造方法では、水の添加が必須となっており、加熱加圧条件下で当該水が存在することによって、磁性粒子のサイズがほぼ均質化すると共に、水の添加量及び加熱加圧条件に依存して種々の形状を有する磁性粒子が得られることが明らかとなった。また、1,2−グリコールの還元作用によって、原料のゲータイトからマグネタイトを生成することができる。
【0014】
また、加熱条件は使用する1,2−グリコールの種類や水の添加量等によって異なり、磁性粒子の形状、サイズ及び生成量等も勘案して適宜決定すればよいが、1,2−グリコールの沸点近傍とすることで合成反応を円滑に進めることができる。ここで、1,2−グリコール、水及び水酸化鉄は耐圧容器中に密閉されているため、加熱によって常圧以上の圧力となる。
【0015】
本発明の磁性粒子の製造方法において、形状及びサイズに関して極めて均質な磁性粒子が得られる理由については必ずしも明らかにはなっていない。しかしながら、水の存在下でゲータイト(α―FeOOH)が3価の鉄イオンとして溶解し、それが1,2−グリコール中で一部還元されることにより、マグネタイト相(Fe)として析出する過程で、自己組織的な作用が働いたものと考えられる。なお、原料である水酸化鉄を完全に消費することで、磁性粒子のみを得ることができる。
【0016】
本発明の磁性粒子の製造方法に利用可能な還元溶媒には2価アルコールや3価アルコール等の多価アルコールを候補として挙げることができる。2価アルコールにも多くの種類が存在するが、1,2−グリコールを用いることで磁性粒子の合成反応を効率的に進行させることができる。1,2−グリコールは、隣合せの炭素にそれぞれ水酸基が結合しているものであり、エチレングリコールや1,2−プロパンジオール等を例示することができる。1,2−グリコールを用いた場合に磁性粒子の合成反応が効率的に進行する理由については必ずしも明らかにはなっていないが、1,2−グリコールの分子内にある二つ水酸基(−OH)の距離が他のグリコールと比べて短いことが、本合成反応の促進に寄与していると考えられる。例えば、二つ水酸基(−OH)の距離がより長い構造を持つ1,3−グリコールを用いた場合、磁性粒子の合成反応を効率的に進行させることができない。また、エチレングリコールが脱水縮合したジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールは、1,2−グリコールに比べて水酸基(−OH)同士の距離が長い構造を持っており、磁性粒子の合成反応を効率的に進行させることができない。
【0017】
また、グリセリン等の3価アルコールは粘度が高いことからハンドリングが難しく実用的でないことに加え、磁性粒子を得るための反応条件を制御することも困難である。
【0018】
なお、本発明の磁性粒子の製造方法では、1,2−グリコール、水及び水酸化鉄のみで形状及びサイズが揃った磁性粒子を得ることができ、簡便かつ低コストである。製造工程終了後において、原料である水酸化鉄を完全に消費した場合、耐圧容器中の残存物はほとんどが1,2−グリコールと水であり、磁性粒子を簡便に回収することができる。
【0019】
本発明の磁性粒子の製造方法においては、前記水酸化鉄がゲータイト、前記磁性粒子がマグネタイトであり、前記マグネタイトが前記ゲータイトを原料として直接形成されること、が好ましい。
【0020】
より具体的には、原料としてゲータイト(α−FeOOH)を用いることで、ヘマタイト(Fe)を経ることなくマグネタイト(Fe)を直接得ることができる。ゲータイトからヘマタイトを経てマグネタイトを製造する方法は存在するが、本発明の製造方法は当該製造法に比べてマグネタイトの生成ルートがシンプルであり、反応速度や反応時間等によって形状及びサイズを容易に制御することができる。
【0021】
水酸化鉄にはゲータイトの他にもアカゲナイト(β−FeOOH)やレピドクロサイト(γ−FeOOH)が存在するが、形状及びサイズが整ったマグネタイト粒子を形成させるためには、ゲータイトを原料とすることが好ましい。なお、レピドクロサイトを原料とした場合は基本的にナノサイズのマグネタイト粒子が生成し、マイクロサイズのマグネタイト粒子を得ることは難しい。
【0022】
また、本発明の磁性粒子の製造方法においては、前記水酸化鉄が針状であること、が好ましい。針状のゲータイトは安価かつ入手容易であり、磁性粒子の大量生産に適している。
【0023】
また、本発明の磁性粒子の製造方法においては、前記ゲータイトの比表面積が10m/g〜100m/gであること、が好ましい。ゲータイトの比表面積を10m/g以上とすることで、磁性粒子の円滑な合成に十分な量の水酸化鉄を溶解させることができ、100m/g以下とすることで、ゲータイトからの溶解量が多すぎること及び溶解速度が速すぎること等に起因して、磁性粒子がナノ粒子となることを抑制することができる。
【0024】
また、本発明の磁性粒子の製造方法においては、前記混合溶液における前記水の含有量が1体積%〜15体積%であること、が好ましい。水の含有量を1体積%以上とすることで、原料の水酸化鉄とは異なる形状の磁性粒子を合成することができ、水の含有量を15体積%以下とすることで、形状の整った均質な磁性粒子を合成することができる。
【0025】
ここで、水の含有量を1体積%未満とすると合成反応が不均一となり、磁性粒子としてマグネタイトのみとすることが難しく、マグネタイトとヘマタイトの混合物となり易い。また、水の含有量を15体積%よりも大きくすると、マグネタイトの析出が遅くなり、原料のゲータイトが残存し易くなる。
【0026】
更に、本発明の磁性粒子の製造方法においては、前記1,2−グリコールの沸点が水よりも高く、前記加熱の温度が前記沸点の−20℃〜+35℃であること、が好ましい。1,2−グリコールの還元反応速度は温度に依存する。加熱温度を1,2−グリコールの沸点の−20℃以上とすることで、マグネタイトの合成を促進することができることに加え、得られるマグネタイト粒子の形状及びサイズを均一化することができる。一方で、加熱温度を1,2−グリコールの沸点の+35℃以上とすると、還元反応が著しく速くなることにより、マグネタイト粒子の形状及びサイズの制御性が低下する。
【0027】
また、本発明は、略球状のマグネタイト粒子からなる粉体であって、前記マグネタイト粒子の平均直径が1.0μm〜1.5μmであること、を特徴とする磁性粉体、も提供する。
【0028】
略球状のマグネタイト粒子は以前から存在するが、平均直径が1.0μm未満のナノ粒子である。これに対し、本発明の磁性粉体を構成するマグネタイト粒子は平均直径が1.0μm〜1.5μmであり、磁気粘性流体や電磁波シール材料等に好適に活用することができる。
【0029】
また、本発明は、8面体状を有するマグネタイト粒子からなる粉体であって、前記マグネタイト粒子の最長の一片の平均長が1.0μm〜1.5μmであること、を特徴とする磁性粉体、も提供する。
【0030】
8面体状を有するマグネタイト粒子は以前から存在するが、平均粒径が1.0μm未満のナノ粒子である。これに対し、本発明の磁性粉体を構成するマグネタイト粒子は最長の一片の平均長が1.0μm〜1.5μmであり、磁気粘性流体や電磁波シール材等に好適に活用することができる。
【0031】
更に、本発明は、8個の3角形と12個の6角形から構成される20面体状を有するマグネタイト粒子も提供する。8個の3角形と12個の6角形から構成される20面体状を有するマグネタイト粒子はこれまでに存在しておらず、極めて特異な形状を有している。ここで、当該マグネタイト粒子の平均直径は、1.0μm〜1.5μmであることが好ましい。
【0032】
これらの本発明の磁性粉体及びマグネタイト粒子は、本発明の磁性粒子の製造方法を用いて好適に得ることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、形状及びサイズが揃ったマイクロ磁性粒子を安定して得ることができる安価かつ簡便な製造方法、及びそれにより得られる特異な形状及び/又はサイズを有する磁性粒子を提供することができる。また、本発明によれば、新規な形状及び/又はサイズを有する磁性粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】球状粒子からなる磁性粉体の概略図である。
図2】8面体状マグネタイト粒子からなる磁性粉体の概略図である。
図3】20面体状マグネタイト粒子の概略図である。
図4】実施例1で原料として用いた針鉄鉱のSEM写真である。
図5】実施例1で得られた粉末のXRDパターンである。
図6】実施例1で得られた粉末のSEM写真である。
図7】実施例2で得られた粉末のSEM写真である。
図8】実施例3で得られた粉末のSEM写真である。
図9】実施例4で得られた粉末のSEM写真である。
図10】実施例5で得られた粉末のSEM写真である。
図11】実施例6で得られた粉末のSEM写真である。
図12】実施例7で得られた粉末のSEM写真である。
図13】実施例22で得られた粉末のSEM写真である。
図14】実施例23で得られた粉末のSEM写真である。
図15】実施例24で得られた粉末のSEM写真である。
図16】比較例1で得られた粉末のSEM写真である。
図17】実施例6で得られた粉末の高倍のSEM写真である。
図18】実施例17で得られた粉末の高倍のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照しながら本発明の磁性粒子の製造方法及び磁性粒子の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0036】
(1)磁性粒子の製造方法
本発明の磁性粒子の製造方法は、1,2−グリコールと水とを含む混合溶液中で水酸化鉄を加熱及び加圧し、当該水酸化鉄とは異なる形状の磁性粒子を混合溶液中に析出させること、を特徴とするものである。
【0037】
本発明の磁性粒子の製造方法において、原料として用いる水酸化鉄とは異なる形状の磁性粒子が析出する理由については必ずしも明らかになっていない。水の存在下でゲータイト(FeOOH)が3価の鉄イオンとして溶解し、それが1,2−グリコール中で一部還元されることにより、マグネタイト相(Fe)として析出する過程で、自己組織的な作用が働いたものと考えられる。
【0038】
耐圧容器中に密閉する1,2−グリコール、水及び水酸化鉄の量は、磁性粒子の形状、サイズ及び生成量等によって適宜決定すればよい。本発明の磁性粒子の製造方法では、水の添加が必須となっており、加熱加圧条件下で当該水が存在することによって、磁性粒子のサイズが均一化すると共に、水の添加量及び加熱加圧条件に依存して種々の形状を有する磁性粒子が得られることが明らかとなった。また、1,2−グリコールの還元作用によって、原料のゲータイトをマグネタイトにすることができる。
【0039】
本発明の磁性粒子の製造方法においては、基本的に、混合溶媒中で水酸化鉄が溶解し、一部還元されて初めて磁性粒子が生成されると考えられる。ここで、還元力は、加熱加圧条件、水の量、添加する水酸化鉄の量、更には1,2−グリコールの種類によって変化する。即ち、本発明の磁性粒子の製造方法においては、これらの条件を変化させることで最終的に得られる形状及びサイズ等を制御することができる。
【0040】
加熱条件は使用する1,2−グリコールの種類や水の添加量等によって異なり、所望する磁性粒子の形状、サイズ及び生成量等を勘案して適宜決定すればよいが、水よりも高い沸点を有する1,2−グリコールの沸点近傍とすることで、合成反応を円滑に進めることができる。ここで、1,2−グリコール、水及び水酸化鉄は耐圧容器中に密閉されているため、加熱によって常圧以上の圧力となる。当該状況下では水酸化鉄が効率的に溶解すると考えられると共に、1,2−グリコールによる還元力を効率的に発現することができる。
【0041】
本発明の磁性粒子の製造方法において、形状及びサイズに関して極めて均質な磁性粒子が得られる理由については必ずしも明らかにはなっていないが、水の存在下でゲータイト(FeOOH)が3価の鉄イオンとして溶解し、それが1,2−グリコール中で一部還元されることにより、マグネタイト相(Fe)として析出する過程で、自己組織的作用が働いたものと考えられる。なお、原料である水酸化鉄を完全に消費することで、磁性粒子のみを得ることができる。
【0042】
なお、本発明の磁性粒子の製造方法では、1,2−グリコール、水及び水酸化鉄のみで形状及びサイズが揃った磁性粒子を得ることができ、簡便かつ低コストである。製造工程終了後において、原料である水酸化鉄を完全に消費した場合、耐圧容器中の残存物はほとんどが1,2−グリコールと水であり、磁性粒子を簡便に回収することができる。
【0043】
本発明の磁性粒子の製造方法においては、水酸化鉄がゲータイト、磁性粒子がマグネタイトである。適当な反応条件を選定することで、ヘマタイト(Fe)を経ることなくマグネタイト(Fe)を直接得ることができる。
【0044】
水酸化鉄にはゲータイトの他にも結晶構造の異なるアカゲナイト(β−FeOOH)やレピドクロサイト(γ−FeOOH)が存在するが、形状及びサイズが整ったマグネタイト粒子を形成させるためには、ゲータイトを原料とすることが好ましい。なお、レピドクロサイトを原料とした場合は基本的にナノサイズのマグネタイト粒子が生成し、マイクロサイズのマグネタイト粒子を得ることは難しい。
【0045】
また、本発明の磁性粒子の製造方法においては、還元溶媒として1,2−グリコールが使用される。1,2−グリコールは、隣合せの炭素にそれぞれ水酸基が結合しているものであり、1,2−エタンジオール(エチレングリコール,炭素数2)、1,2−プロパンジオール(炭素数3)、及び1,2−ブタンジオール(炭素数4)等を例示することができる。但し、炭素数が5以上の1,2−グリコールは粘度が高くなる等、使用することが困難である。
【0046】
還元溶媒に1,2−グリコールを用いることで、磁性粒子の合成反応を効率的に進行させることができる。1,2−グリコールを用いた場合に磁性粒子の合成反応が効率的に進行する理由については必ずしも明らかにはなっていないが、1,2−グリコールの分子内にある二つ水酸基(−OH)の距離が他のグリコールと比べて短いことが、本合成反応の促進に寄与していると考えられる。例えば、二つ水酸基(−OH)の距離がより長い構造を持つ1,3−グリコールを用いた場合、磁性粒子の合成反応を効率的に進行させることができない。また、エチレングリコールが脱水縮合したジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールは、1,2−グリコールに比べて水酸基(−OH)同士の距離が長い構造を持っており、磁性粒子の合成反応を効率的に進行させることができない。
【0047】
また、本発明の磁性粒子の製造方法においては、前記水酸化鉄が針状であること、が好ましい。針状の水酸化鉄を用いることで、水酸化鉄同士が絡み合ったネットワーク構造が容易に形成され、水酸化鉄の表面に析出する磁性粒子の局所的な凝集及び成長を効果的に抑制することができる。加えて、針状のゲータイトは安価かつ入手容易であり、磁性粒子の大量生産に適している。
【0048】
また、本発明の磁性粒子の製造方法においては、ゲータイトの比表面積が10m/g〜100m/gであること、が好ましい。ゲータイトの比表面積を10m/g以上とすることで、磁性粒子の円滑な合成に十分な水酸化鉄を溶解させることができ、100m/g以下とすることで、磁性粒子がナノ粒子となることを抑制することができる。
【0049】
また、本発明の磁性粒子の製造方法においては、前記混合溶液における前記水の含有量が1質量%〜15質量%であること、が好ましい。水の含有量を1質量%以上とすることで、原料の水酸化鉄とは異なる形状の磁性粒子を合成することができ、水の含有量を15質量%以下とすることで、形状の整った均質な磁性粒子を合成することができる。
【0050】
本発明の磁性粒子の製造方法においては、溶解した水酸化鉄が1,2−グリコールによって還元されることで磁性粒子となることと考えられることから、溶解した水酸化鉄の濃度と1,2−グリコールによる還元力のバランスが重要となる。ここで、水の含有量を1体積%未満とすると、磁性粒子としてマグネタイトのみとすることが難しく、マグネタイトとヘマタイトの混合物となり易い。また、水の含有量を15体積%よりも大きくすると、磁性粒子の合成反応が円滑に進行せず、原料のゲータイトが残存し易くなる。なお、より好ましい水の含有量は5体積%〜13体積%であり、水の含有量を当該範囲とすることで、より均質なマイクロ磁性粒子を得ることができる。
【0051】
更に、本発明の磁性粒子の製造方法においては、前記1,2−グリコールの沸点が水よりも高く、前記加熱の温度が前記沸点の−20℃〜+35℃であること、が好ましい。加熱温度を1,2−グリコールの沸点の−20℃以上とすることで、マグネタイトの合成を促進することができることに加え、得られるマグネタイト粒子の形状及びサイズを均一化することができる。一方で、加熱温度を1,2−グリコールの沸点の+35℃以下とすることでも、ヘマタイトの合成を抑制することができる(マグネタイトの合成を促進することができる)ことに加え、得られるマグネタイト粒子の形状及びサイズを均一化することができる。
【0052】
(2)磁性粒子及び磁性粉体
(2−1)球状粒子からなる磁性粉体
図1に、球状粒子からなる磁性粉体の概略図を示す。磁性粉体1は、略球状マグネタイト粒子2からなる粉体であって、略球状マグネタイト粒子2の平均直径が1.0μm〜1.5μmであること、を特徴とする磁性粉体である。
【0053】
磁性粉体1は略球状マグネタイト粒子2の集合体であり、略球状マグネタイト粒子2は平均直径が1.0μm〜1.5μmとなっている。なお、略球状マグネタイト粒子2の平均直径は、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)観察像から20個程度の略球状マグネタイト粒子2の直径を測定して平均することで求めることができ、レーザー回折・散乱式の粒径分布(粒度分布)測定装置を用いて求めることもできる。
【0054】
(2−2)8面体状粒子からなる磁性粉体
図2に、8面体状を有するマグネタイト粒子からなる磁性粉体の概略図を示す。磁性粉体10は、8面体状マグネタイト粒子12からなる粉体であって、8面体状マグネタイト粒子12の最長の一片(L)の平均長が1.0μm〜1.5μmであること、を特徴とする磁性粉体である。
【0055】
磁性粉体10は8面体状マグネタイト粒子12の集合体であり、8面体状マグネタイト粒子12の最長の一片(L)の平均長さが1.0μm〜1.5μmとなっている。なお、最長の一片(L)の平均長さは、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)観察像から20個程度の8面体状マグネタイト粒子12のLを測定して、平均することで求めることができる。
【0056】
(2−3)20面体状マグネタイト粒子
図3に、本発明の20面体状のマグネタイト粒子の概略図を示す。20面体状マグネタイト粒子20は、8個の3角形22と12個の6角形24から構成される20面体状を有している。
【0057】
20面体状マグネタイト粒子20のサイズは特に限定されず、ナノ粒子からマイクロ粒子まで、幅広いサイズとすることができる。
【0058】
なお、本発明の種々の形状及びサイズを有するマグネタイト粒子及び当該マグネタイト粒子からなる磁性粉体は、本発明の磁性粒子の製造方法によって好適に製造することができる。
【0059】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0060】
≪実施例1≫
25ccのオートクレーブ容器に市販の針鉄鉱(α―FeOOH)2gを挿入し、混合溶媒でオートクレーブ容器の内部を満たした。ここで、1,2−グリコールの一つであるエチレングリコール(1,2−エタンジオール)を用い、エチレングリコール:99体積%、水:1体積%の割合で混合して混合溶媒とした。なお、エチレングリコールの沸点は197℃である。次に、200℃で72時間の加熱処理を施した後、生成した粉末を分離した。なお、原料として用いた針鉄鉱(α―FeOOH)の比表面積を測定したところ、17m/gであった。
【0061】
原料として用いた針鉄鉱(α―FeOOH)のSEM写真を図4に示す。原料として用いた針鉄鉱は長軸が約1マイクロメートルのサイズを有する針状である。
【0062】
得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。この粉末がマグネタイト(Fe)であることはX線回折の構造解析から確認した。具体的には、測定されたX線回折パターンは、国際回折センター(ICDD)から提供されている粉末回折パターン(マグネタイト , PDF#00−019−0629)と良い一致が見られ、 粉末はすべてマグネタイトであると同定された。得られたXRDパターンを図5に示す。なお、原料として用いた針鉄鉱(α―FeOOH)は黄色〜黄緑色を有しており、ヘマタイト(Fe)が生成した場合は赤褐色、マグネタイト(Fe)が生成した場合は黒色となる。
【0063】
得られた粉末のSEM写真を図6に示す。粒子径及び形状が比較的均一なマグネタイト粒子からなる粉末が得られていることが分かる。
【0064】
≪実施例2≫
混合溶媒をエチレングリコール:97.5体積%、水:2.5体積%の割合としたことと加熱処理時間を24時間にした以外は実施例1と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を図7に示す。略球状のマグネタイト粉末が得られた。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0065】
≪実施例3≫
混合溶媒をエチレングリコール:95体積%、水:5体積%の割合としたことと加熱処理時間を24時間にした以外は実施例1と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を図8に示す。略球状のマグネタイト粉末が得られた。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0066】
≪実施例4≫
混合溶媒をエチレングリコール:92.5体積%、水:7.5体積%の割合としたことと加熱処理時間を24時間にした以外は実施例1と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を図9に示す。略球状のマグネタイト粉末が得られた。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0067】
≪実施例5≫
混合溶媒をエチレングリコール:90体積%、水:10体積%の割合としたことと加熱処理時間を24時間にした以外は実施例1と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を図10に示す。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。略球状でサイズがほぼ揃ったマグネタイト粉末が得られた。当該粉末の磁化曲線を、カンタム・デザイン社の磁気特性測定装置を用いて評価した。得られた曲線から室温の飽和磁化(300K)を求めたところ、約85emu/gであった。
【0068】
≪実施例6≫
混合溶媒をエチレングリコール:87体積%、水:13体積%の割合としたことと加熱処理時間を24時間にした以外は実施例1と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を図11に示す。8面体のマグネタイト粉末が得られた。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0069】
≪実施例7≫
混合溶媒をエチレングリコール:85体積%、水:15体積%の割合としたことと加熱処理時間を24時間にした以外は実施例1と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を図12に示す。なお、得られた粉末は黄緑色と黒色の混合色となっており、磁石表面に付着した。
【0070】
≪実施例8≫
加熱処理時間を72時間としたこと以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0071】
≪実施例9≫
加熱処理時間を72時間としたこと以外は実施例6と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0072】
≪実施例10≫
加熱処理時間を72時間としたこと以外は実施例7と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0073】
≪実施例11≫
加熱処理温度を180℃としたことと加熱処理時間を24時間にした以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黄緑色と黒色の混合色となっており、磁石表面に付着した。
【0074】
≪実施例12≫
加熱処理温度を230℃としたこと以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0075】
≪実施例13≫
加熱処理温度を230℃としたこと以外は実施例3と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0076】
≪実施例14≫
1,2−グリコールの一種である1,2−プロパンジオール(沸点:188℃)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0077】
≪実施例15≫
1,2−グリコールの一種である1,2−プロパンジオール(沸点:188℃)を用いたこと以外は実施例3と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0078】
≪実施例16≫
1,2−グリコールの一種である1,2−プロパンジオール(沸点:188℃)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黄色と黒色で磁石表面に付着した。
【0079】
≪実施例17≫
1,2−グリコールの一種である1,2−プロパンジオール(沸点:188℃)を用い、加熱処理時間を72時間としたこと以外は実施例3と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0080】
≪実施例18≫
1,2−グリコールの一種である1,2−ブタンジオール(沸点:196℃)を用いたこと以外は実施例3と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0081】
≪実施例19≫
1,2−グリコールの一種である1,2−ブタンジオール(沸点:196℃)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色と黒色の混合色となっており、磁石表面に付着した。
【0082】
≪実施例20≫
1,2−グリコールの一種である1,2−ブタンジオール(沸点:196℃)を用い、加熱時間を72時間としたこと以外は実施例3と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0083】
≪実施例21≫
1,2−グリコールの一種である1,2−ブタンジオール(沸点:196℃)を用い、加熱時間を72時間としたこと以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色と黒色で磁石表面に付着した。
【0084】
≪実施例22≫
原料として針鉄鉱(α―FeOOH)ではなくレピドクロサイト(γ−FeOOH)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、当該レピドクロサイト(γ−FeOOH)の比表面積は52m/gである。得られた粉末のSEM写真を図13に示す。非常に微細なナノ粒子が生成していることが分かる。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0085】
≪実施例23≫
加熱温度を180℃としたこと以外は実施例22と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を図14に示す。非常に微細なナノ粒子が生成していることが分かる。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0086】
≪実施例24≫
原料として比表面積が40m/gの針鉄鉱(α―FeOOH)を用いたこと以外は実施例6と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を図15に示す。非常に微細なナノ粒子が生成しており、針鉄鉱の比表面積を17m/gから40m/gに増加させることで、得られる粒子サイズが減少することが分かる。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0087】
≪比較例1≫
水を添加せず、溶媒にエチレングリコールのみを使用し、加熱時間を24時間としたこと以外は実施例1と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を図16に示す。粉末の形状は原料の状態から大きく変化していない。なお、得られた粉末は黄緑色と赤褐色の混合色となっており、磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0088】
≪比較例2≫
水を添加せず、溶媒にエチレングリコールのみを使用したこと以外は比較例1と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黄緑色と赤褐色の混合色となっており、殆ど磁石表面に付着しなかった。
【0089】
≪比較例3≫
水を添加せず、溶媒にエチレングリコールのみを使用し、加熱温度を230℃としたこと以外は比較例1と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒褐色となっており、磁石表面に付着した。マイクロ粒子サイズは得られず、略球状以外の形状も観察された。
【0090】
≪比較例4≫
2価アルコールとして1,2−グリコール以外の1,3−プロパンジオール(沸点:211℃)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0091】
≪比較例5≫
2価アルコールとして1,2−グリコール以外の1,3−プロパンジオール(沸点:211℃)を用い、水の添加量を1体積%とし、加熱温度を230℃としたこと以外は比較例4と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面にほとんど付着しなかった。
【0092】
≪比較例6≫
2価アルコールとして1,2−グリコール以外の1,3−プロパンジオール(沸点:211℃)を用い、水の添加量を5体積%としたこと以外は比較例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0093】
≪比較例7≫
2価アルコールとして1,2−グリコール以外のジエチレングリコール(沸点:244℃)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0094】
≪比較例8≫
2価アルコールとして1,2−グリコール以外のジエチレングリコール(沸点:244℃)を用い、水の添加量を5体積%とし、加熱温度を230℃としたこと以外は比較例7と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0095】
≪比較例9≫
2価アルコールとして1,2−グリコール以外のジエチレングリコール(沸点:244℃)を用い、水の添加量を5体積%とし、加熱温度を250℃としたこと以外は比較例8と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0096】
≪比較例10≫
2価アルコールとして1,2−グリコール以外のトリエチレングリコール(沸点:289℃)を用いたこと以外は実施例3と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0097】
≪比較例11≫
水を添加せず、溶媒に1,2−ブタンジオールのみを使用したこと以外は実施例14と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黄緑色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0098】
≪比較例12≫
還元溶媒として1,3−ブタンジオール(沸点:207℃)を用いたこと以外は実施例3と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0099】
≪比較例13≫
水の添加量を10体積%としたこと以外は比較例12と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0100】
実施例と比較例の結果から、還元溶媒に1,2−グリコールを用いることで形状及びサイズが揃った磁性粒子を安定して生成できることが分かる。一方で、還元溶媒にその他の多価アルコールを用いた場合、良好な磁性粒子を得ることができない。
【0101】
また、実施例7と実施例10の比較から、水の含有量が多い場合は磁性粒子の合成反応速度が遅くなるが、加熱時間を長くすることで磁性粒子のみが得られることが分かる。
【0102】
また、実施例5、実施例11及び実施例12の比較から、磁性粒子の合成反応速度は加熱温度にも依存し、加熱温度が低い場合は合成反応速度が遅くなることが分かる。
【0103】
また、実施例5、実施例22及び実施例23の比較から、原料に針鉄鉱(α―FeOOH)ではなくレピドクロサイト(γ−FeOOH)を用いた場合、加熱温度を調節してもマイクロ磁性粒子を得ることができないことが分かる。
【0104】
また、図6図12から、1,2−グリコールと水とを含む混合溶液中で水酸化鉄を加熱及び加圧することで、原料の水酸化鉄とは異なる形状の磁性粒子が生成していることが分かる。また、得られる磁性粒子の形状及び/又はサイズは水の添加量に依存し、水の添加量を1体積%〜10体積%とすることで略球状の磁性粒子が得られ、特に5体積%〜10体積%ではサブミクロンからミクロンオーダーの比較的大きな磁性粒子が得られている。なお、1,2−グリコールと水とを含む混合溶液中で水酸化鉄を加熱及び加圧し、均一な形状及びサイズを有する略球状のマイクロ磁性粒子を製造する観点からは、最も好ましい水の添加量は10体積%である。実施例5で得られた粉末(図10)は、平均直径が1.0μm〜1.5μmの略球状となっている。
【0105】
また、1,2−グリコールと水とを含む混合溶液中で水酸化鉄を加熱及び加圧する場合、水の含有量を13体積%〜15体積%とすることで8面体状の磁性粒子が得られている。なお、水の添加量が15体積%の場合は原料の水酸化鉄の残存が認められる。これに対し、1,2−プロパンジオールと水とを含む混合溶液中で水酸化鉄を加熱及び加圧し、均一な形状及びサイズを有する8面体状のマイクロ磁性粒子を製造する観点からは、最も好ましい水の添加量は5体積%である。
【0106】
実施例6で得られた粉末の高倍のSEM写真を図17に示す。極めて形状の整った8面体状粒子が生成しており、最長の一片の長さは1.0μm〜1.5μmとなっている。
【0107】
実施例17で得られた粉末の高倍のSEM写真を図18に示す。得られた粒子は特異な形状を有しており、8個の3角形と12個の6角形から構成される20面体状となっている。
【符号の説明】
【0108】
1,10・・・磁性粉体、
2・・・略球状マグネタイト粒子、
12・・・8面体状マグネタイト粒子、
20・・・20面体状マグネタイト粒子、
22・・・3角形、
24・・・6角形。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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図18