【実施例】
【0060】
≪実施例1≫
25ccのオートクレーブ容器に市販の針鉄鉱(α―FeOOH)2gを挿入し、混合溶媒でオートクレーブ容器の内部を満たした。ここで、1,2−グリコールの一つであるエチレングリコール(1,2−エタンジオール)を用い、エチレングリコール:99体積%、水:1体積%の割合で混合して混合溶媒とした。なお、エチレングリコールの沸点は197℃である。次に、200℃で72時間の加熱処理を施した後、生成した粉末を分離した。なお、原料として用いた針鉄鉱(α―FeOOH)の比表面積を測定したところ、17m
2/gであった。
【0061】
原料として用いた針鉄鉱(α―FeOOH)のSEM写真を
図4に示す。原料として用いた針鉄鉱は長軸が約1マイクロメートルのサイズを有する針状である。
【0062】
得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。この粉末がマグネタイト(Fe
3O
4)であることはX線回折の構造解析から確認した。具体的には、測定されたX線回折パターンは、国際回折センター(ICDD)から提供されている粉末回折パターン(マグネタイト , PDF#00−019−0629)と良い一致が見られ、 粉末はすべてマグネタイトであると同定された。得られたXRDパターンを
図5に示す。なお、原料として用いた針鉄鉱(α―FeOOH)は黄色〜黄緑色を有しており、ヘマタイト(Fe
2O
3)が生成した場合は赤褐色、マグネタイト(Fe
3O
4)が生成した場合は黒色となる。
【0063】
得られた粉末のSEM写真を
図6に示す。粒子径及び形状が比較的均一なマグネタイト粒子からなる粉末が得られていることが分かる。
【0064】
≪実施例2≫
混合溶媒をエチレングリコール:97.5体積%、水:2.5体積%の割合としたことと加熱処理時間を24時間にした以外は実施例1と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を
図7に示す。略球状のマグネタイト粉末が得られた。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0065】
≪実施例3≫
混合溶媒をエチレングリコール:95体積%、水:5体積%の割合としたことと加熱処理時間を24時間にした以外は実施例1と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を
図8に示す。略球状のマグネタイト粉末が得られた。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0066】
≪実施例4≫
混合溶媒をエチレングリコール:92.5体積%、水:7.5体積%の割合としたことと加熱処理時間を24時間にした以外は実施例1と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を
図9に示す。略球状のマグネタイト粉末が得られた。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0067】
≪実施例5≫
混合溶媒をエチレングリコール:90体積%、水:10体積%の割合としたことと加熱処理時間を24時間にした以外は実施例1と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を
図10に示す。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。略球状でサイズがほぼ揃ったマグネタイト粉末が得られた。当該粉末の磁化曲線を、カンタム・デザイン社の磁気特性測定装置を用いて評価した。得られた曲線から室温の飽和磁化(300K)を求めたところ、約85emu/gであった。
【0068】
≪実施例6≫
混合溶媒をエチレングリコール:87体積%、水:13体積%の割合としたことと加熱処理時間を24時間にした以外は実施例1と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を
図11に示す。8面体のマグネタイト粉末が得られた。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0069】
≪実施例7≫
混合溶媒をエチレングリコール:85体積%、水:15体積%の割合としたことと加熱処理時間を24時間にした以外は実施例1と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を
図12に示す。なお、得られた粉末は黄緑色と黒色の混合色となっており、磁石表面に付着した。
【0070】
≪実施例8≫
加熱処理時間を72時間としたこと以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0071】
≪実施例9≫
加熱処理時間を72時間としたこと以外は実施例6と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0072】
≪実施例10≫
加熱処理時間を72時間としたこと以外は実施例7と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0073】
≪実施例11≫
加熱処理温度を180℃としたことと加熱処理時間を24時間にした以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黄緑色と黒色の混合色となっており、磁石表面に付着した。
【0074】
≪実施例12≫
加熱処理温度を230℃としたこと以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0075】
≪実施例13≫
加熱処理温度を230℃としたこと以外は実施例3と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0076】
≪実施例14≫
1,2−グリコールの一種である1,2−プロパンジオール(沸点:188℃)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0077】
≪実施例15≫
1,2−グリコールの一種である1,2−プロパンジオール(沸点:188℃)を用いたこと以外は実施例3と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0078】
≪実施例16≫
1,2−グリコールの一種である1,2−プロパンジオール(沸点:188℃)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黄色と黒色で磁石表面に付着した。
【0079】
≪実施例17≫
1,2−グリコールの一種である1,2−プロパンジオール(沸点:188℃)を用い、加熱処理時間を72時間としたこと以外は実施例3と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0080】
≪実施例18≫
1,2−グリコールの一種である1,2−ブタンジオール(沸点:196℃)を用いたこと以外は実施例3と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0081】
≪実施例19≫
1,2−グリコールの一種である1,2−ブタンジオール(沸点:196℃)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色と黒色の混合色となっており、磁石表面に付着した。
【0082】
≪実施例20≫
1,2−グリコールの一種である1,2−ブタンジオール(沸点:196℃)を用い、加熱時間を72時間としたこと以外は実施例3と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0083】
≪実施例21≫
1,2−グリコールの一種である1,2−ブタンジオール(沸点:196℃)を用い、加熱時間を72時間としたこと以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色と黒色で磁石表面に付着した。
【0084】
≪実施例22≫
原料として針鉄鉱(α―FeOOH)ではなくレピドクロサイト(γ−FeOOH)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、当該レピドクロサイト(γ−FeOOH)の比表面積は52m
2/gである。得られた粉末のSEM写真を
図13に示す。非常に微細なナノ粒子が生成していることが分かる。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0085】
≪実施例23≫
加熱温度を180℃としたこと以外は実施例22と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を
図14に示す。非常に微細なナノ粒子が生成していることが分かる。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0086】
≪実施例24≫
原料として比表面積が40m
2/gの針鉄鉱(α―FeOOH)を用いたこと以外は実施例6と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を
図15に示す。非常に微細なナノ粒子が生成しており、針鉄鉱の比表面積を17m
2/gから40m
2/gに増加させることで、得られる粒子サイズが減少することが分かる。なお、得られた粉末は黒色で磁石表面に付着した。
【0087】
≪比較例1≫
水を添加せず、溶媒にエチレングリコールのみを使用し、加熱時間を24時間としたこと以外は実施例1と同様にして、粉末を得た。得られた粉末のSEM写真を
図16に示す。粉末の形状は原料の状態から大きく変化していない。なお、得られた粉末は黄緑色と赤褐色の混合色となっており、磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0088】
≪比較例2≫
水を添加せず、溶媒にエチレングリコールのみを使用したこと以外は比較例1と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黄緑色と赤褐色の混合色となっており、殆ど磁石表面に付着しなかった。
【0089】
≪比較例3≫
水を添加せず、溶媒にエチレングリコールのみを使用し、加熱温度を230℃としたこと以外は比較例1と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黒褐色となっており、磁石表面に付着した。マイクロ粒子サイズは得られず、略球状以外の形状も観察された。
【0090】
≪比較例4≫
2価アルコールとして1,2−グリコール以外の1,3−プロパンジオール(沸点:211℃)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0091】
≪比較例5≫
2価アルコールとして1,2−グリコール以外の1,3−プロパンジオール(沸点:211℃)を用い、水の添加量を1体積%とし、加熱温度を230℃としたこと以外は比較例4と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面にほとんど付着しなかった。
【0092】
≪比較例6≫
2価アルコールとして1,2−グリコール以外の1,3−プロパンジオール(沸点:211℃)を用い、水の添加量を5体積%としたこと以外は比較例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0093】
≪比較例7≫
2価アルコールとして1,2−グリコール以外のジエチレングリコール(沸点:244℃)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0094】
≪比較例8≫
2価アルコールとして1,2−グリコール以外のジエチレングリコール(沸点:244℃)を用い、水の添加量を5体積%とし、加熱温度を230℃としたこと以外は比較例7と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0095】
≪比較例9≫
2価アルコールとして1,2−グリコール以外のジエチレングリコール(沸点:244℃)を用い、水の添加量を5体積%とし、加熱温度を250℃としたこと以外は比較例8と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0096】
≪比較例10≫
2価アルコールとして1,2−グリコール以外のトリエチレングリコール(沸点:289℃)を用いたこと以外は実施例3と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0097】
≪比較例11≫
水を添加せず、溶媒に1,2−ブタンジオールのみを使用したこと以外は実施例14と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は黄緑色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0098】
≪比較例12≫
還元溶媒として1,3−ブタンジオール(沸点:207℃)を用いたこと以外は実施例3と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0099】
≪比較例13≫
水の添加量を10体積%としたこと以外は比較例12と同様にして、粉末を得た。なお、得られた粉末は赤褐色で磁石表面に殆ど付着しなかった。
【0100】
実施例と比較例の結果から、還元溶媒に1,2−グリコールを用いることで形状及びサイズが揃った磁性粒子を安定して生成できることが分かる。一方で、還元溶媒にその他の多価アルコールを用いた場合、良好な磁性粒子を得ることができない。
【0101】
また、実施例7と実施例10の比較から、水の含有量が多い場合は磁性粒子の合成反応速度が遅くなるが、加熱時間を長くすることで磁性粒子のみが得られることが分かる。
【0102】
また、実施例5、実施例11及び実施例12の比較から、磁性粒子の合成反応速度は加熱温度にも依存し、加熱温度が低い場合は合成反応速度が遅くなることが分かる。
【0103】
また、実施例5、実施例22及び実施例23の比較から、原料に針鉄鉱(α―FeOOH)ではなくレピドクロサイト(γ−FeOOH)を用いた場合、加熱温度を調節してもマイクロ磁性粒子を得ることができないことが分かる。
【0104】
また、
図6〜
図12から、1,2−グリコールと水とを含む混合溶液中で水酸化鉄を加熱及び加圧することで、原料の水酸化鉄とは異なる形状の磁性粒子が生成していることが分かる。また、得られる磁性粒子の形状及び/又はサイズは水の添加量に依存し、水の添加量を1体積%〜10体積%とすることで略球状の磁性粒子が得られ、特に5体積%〜10体積%ではサブミクロンからミクロンオーダーの比較的大きな磁性粒子が得られている。なお、1,2−グリコールと水とを含む混合溶液中で水酸化鉄を加熱及び加圧し、均一な形状及びサイズを有する略球状のマイクロ磁性粒子を製造する観点からは、最も好ましい水の添加量は10体積%である。実施例5で得られた粉末(
図10)は、平均直径が1.0μm〜1.5μmの略球状となっている。
【0105】
また、1,2−グリコールと水とを含む混合溶液中で水酸化鉄を加熱及び加圧する場合、水の含有量を13体積%〜15体積%とすることで8面体状の磁性粒子が得られている。なお、水の添加量が15体積%の場合は原料の水酸化鉄の残存が認められる。これに対し、1,2−プロパンジオールと水とを含む混合溶液中で水酸化鉄を加熱及び加圧し、均一な形状及びサイズを有する8面体状のマイクロ磁性粒子を製造する観点からは、最も好ましい水の添加量は5体積%である。
【0106】
実施例6で得られた粉末の高倍のSEM写真を
図17に示す。極めて形状の整った8面体状粒子が生成しており、最長の一片の長さは1.0μm〜1.5μmとなっている。
【0107】
実施例17で得られた粉末の高倍のSEM写真を
図18に示す。得られた粒子は特異な形状を有しており、8個の3角形と12個の6角形から構成される20面体状となっている。