(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
無線通信システム等に用いられている誤り訂正符号、例えばLDPC符号またはターボ符号の復号においては、受信信号の尤度比をビット毎に算出する必要がある。尤度比は、当該ビットが0である確率と1である確率との間の比であり、誤り訂正復号におけるメトリックとなるものである。この確率を表す尤度比を算出するためには、そのビットが含まれる受信シンボルの雑音分散を求める必要がある。
【0003】
OFDM伝送方式の受信装置では、雑音分散を求めるために、既知のキャリア信号であるTMCCキャリア信号、ヌルキャリア信号、ACキャリア信号またはデータキャリア信号を用いることが一般的である。例えば、帯域内にある全てのTMCCキャリア信号の振幅の分散から雑音分散を推定することができる。この場合、推定した雑音分散は、帯域内の平均値となる。
【0004】
伝搬路にマルチパス波が存在する場合は、受信信号に歪が生じるため、帯域内の周波数特性が平坦でなくなる。そして、信号電力がサブキャリア毎に異なることとなり、等化後の雑音分散も、サブキャリア毎に異なることとなる。
【0005】
しかしながら、帯域内の全てのTMCCキャリア信号等を用いて推定した雑音分散は、帯域内の平均の雑音分散であるから、これを全てのキャリアシンボルに等しく用いると、本来の尤度比とは異なる尤度比が算出され、誤り訂正復号の性能が劣化する。
【0006】
この問題を解決するため、マルチパス波によって生じた周波数特性(伝搬路応答)の推定結果を用いて、サブキャリア毎の雑音分散を求める手法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この手法は、サブキャリア毎の伝搬路応答に基づいて、サブキャリア毎の重み係数を求め、帯域内の平均の雑音分散にサブキャリア毎の重み係数を乗算することで、サブキャリア毎の雑音分散を推定するものである。
【0007】
図10は、従来技術において、マルチパス波が存在する場合の伝搬路応答の例、及び、伝搬路応答を用いて推定した雑音分散の例を示す図である。
図10左側のグラフの実線は、周波数に対する伝搬路応答の特性例を示し、横軸は周波数、縦軸は伝搬路応答を示す。また、
図10右側のグラフの実線は、周波数に対する雑音分散の特性例を示し、点線は、帯域内の平均の雑音分散である平均雑音分散を示す。横軸は周波数、縦軸は雑音分散の推定値を示す。
【0008】
図10右側の雑音分散は、
図10左側の伝搬路応答を用いて、平均雑音分散に重み付けすることにより推定される。これにより、サブキャリア毎に適切な雑音分散が得られ、これを用いて尤度比が算出されるから、誤り訂正復号の性能劣化を防ぎ、伝送特性の向上を図ることができる。
【0009】
誤り訂正復号の性能を劣化させる原因として、マルチパス波の存在の他に、隣接チャンネル等からの漏洩干渉波の存在もある。漏洩干渉波が存在すると、自帯域内の雑音が増えたことと等価となる。
【0010】
多くの場合、漏洩干渉波は周波数特性をもつ。例えば、干渉波の存在する隣接チャンネルに近い周波数のサブキャリアでは、漏洩干渉波成分が大きく、隣接チャンネルから離れた周波数のサブキャリアでは、漏洩干渉波成分が小さい。このように、漏洩干渉波が存在する場合も、雑音分散がサブキャリア毎に異なることとなる。
【0011】
図11は、従来技術において、漏洩干渉波が存在する場合の伝搬路応答及び漏洩干渉波電力の例、並びに雑音分散の例を示す図である。
図11左側のグラフの実線は、周波数に対する伝搬路応答の特性例を示し、点線は、漏洩干渉波電力の特性例を示す。横軸は周波数を示し、縦軸は伝搬路応答及び漏洩干渉波電力を示す。また、
図11右側のグラフの実線は、周波数に対する雑音分散の特性例を示し、横軸は周波数、縦軸は雑音分散の推定値を示す。
【0012】
図11左側の点線のとおり、漏洩干渉波電力は、干渉波の存在する隣接チャンネルに近い周波数のサブキャリアでは大きい値となり、隣接チャンネルから離れた周波数のサブキャリでは小さい値となるような周波数特性をもつ。このため、
図11右側の実線のとおり、雑音分散は、隣接チャンネルに近い周波数のサブキャリアでは大きい値となり、隣接チャンネルから離れた周波数のサブキャリアでは小さい値となる。
【0013】
ここで、
図11左側の実線及び
図11右側の実線のとおり、伝搬路応答と雑音分散とは関係性がない。このため、漏洩干渉波が存在する場合に、
図10に示した手法(伝搬路応答を用いて平均雑音分散に重み付けすることで、雑音分散を推定する手法)を適用すると、誤り訂正復号の性能の劣化は避けられないことから、当該手法を適用することができない。
【0014】
この問題を解決するために、時間方向の複数のキャリアシンボルを用いる手法が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
図12は、従来技術において、時間方向の複数のキャリアシンボルを用いて、サブキャリア毎に雑音分散を推定する手法を説明する図である。横軸は周波数方向を示し、縦軸は時間方向を示す。
【0015】
図12に示すように、この手法は、時間方向の複数のキャリアシンボルを蓄積し、サブキャリア毎に、蓄積したキャリアシンボルにおける信号電力の振幅の分散を算出することで、サブキャリア毎に雑音分散を推定するものである。これにより、サブキャリア毎に適切な雑音分散を得ることができ、適切な雑音分散を用いて尤度比を算出することで、誤り訂正復号の性能劣化を防ぎ、伝送特性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。本発明のOFDM受信装置は、等化処理後における全てのキャリアの帯域を、複数の部分帯域に分割し、部分帯域毎に雑音分散を求め、部分帯域内のキャリア毎に雑音分散を求めることを特徴とする。
【0027】
これにより、キャリア毎の雑音分散は、帯域内の平均の雑音分散から求めたキャリア毎の雑音分散よりも、精度の高い値となるから、雑音分散から算出される尤度比の精度も高くなる。したがって、隣接チャンネル等からの漏洩干渉波が存在するフェージング環境において、誤り訂正復号の性能劣化を抑え、伝送特性を向上させることが可能となる。
【0028】
〔OFDM受信装置〕
以下、本発明の実施形態によるOFDM受信装置について説明する。
図1は、本発明の実施形態によるOFDM受信装置の構成例を示すブロック図である。このOFDM受信装置1は、直交復調部10、フーリエ変換部11、パイロット及びTMCC抽出部12、伝搬路応答推定部13、TMCC受信処理部14、等化処理部15、雑音分散推定部16、尤度比算出部17及び誤り訂正復号部18を備えている。
【0029】
OFDM受信装置1は、図示しないOFDM送信装置から送信されたOFDM信号を受信する。このOFDM信号は、軟判定復号により復号可能な誤り訂正符号により符号化された信号である。軟判定復号により復号可能な誤り訂正符号は、例えばLDPC符号、ターボ符号である。つまり、OFDM送信装置は、LDPC符号、ターボ符号等の誤り訂正符号により符号化したOFDM信号を送信する。
【0030】
OFDM受信装置1におけるLDPC符号またはターボ符号の復号処理としては、軟入力軟出力の繰り返し復号が行われる。OFDM受信装置1は、伝搬路の雑音分散を算出し、雑音分散を用いて、IQ平面上の受信キャリアシンボルの位置と送信キャリアシンボルの取り得る位置との間のユークリッド距離から尤度比を算出し、誤り訂正復号を行う。
【0031】
直交復調部10は、当該OFDM受信装置1が受信したOFDM信号を直交復調し、直交したI成分のI信号及びQ成分のQ信号に分離する。そして、直交復調部10は、IQ信号をフーリエ変換部11に出力する。
【0032】
フーリエ変換部11は、直交復調部10からIQ信号を入力し、I信号を実部の信号とし、Q信号を虚部の信号として、時間領域のIQ信号を離散フーリエ変換し、周波数領域のIQ信号を生成する。そして、フーリエ変換部11は、周波数領域のIQ信号をパイロット及びTMCC抽出部12、及び等化処理部15に出力する。
【0033】
パイロット及びTMCC抽出部12は、フーリエ変換部11から周波数領域のIQ信号を入力し、周波数領域のIQ信号から、予め設定されたキャリアシンボル位置のパイロットキャリア信号及びTMCCキャリア信号を抽出する。そして、パイロット及びTMCC抽出部12は、パイロットキャリア信号を伝搬路応答推定部13に出力し、TMCCキャリア信号をTMCC受信処理部14に出力する。
【0034】
伝搬路応答推定部13は、パイロット及びTMCC抽出部12からパイロットキャリア信号を入力する。伝搬路応答推定部13は、入力したパイロットキャリア信号を受信パイロットキャリア信号とし、当該受信パイロット信号及び予め設定された送信パイロット信号に基づいて、キャリア毎の伝搬路応答を推定する。そして、伝搬路応答推定部13は、キャリア毎の伝搬路応答を等化処理部15に出力する。
【0035】
TMCC受信処理部14は、パイロット及びTMCC抽出部12からTMCCキャリア信号を入力し、TMCCキャリア信号を復調することで、サブキャリア変調方式、誤り訂正の符号化率等の復調に必要な情報(伝送パラメータ)を抽出する。そして、TMCC受信処理部14は、伝送パラメータを尤度比算出部17及び誤り訂正復号部18に出力する。
【0036】
等化処理部15は、フーリエ変換部11から周波数領域のIQ信号を入力すると共に、伝搬路応答推定部13からキャリア毎の伝搬路応答を入力する。等化処理部15は、IQ信号を伝搬路応答で複素除算することで、IQ信号を等化して伝搬路歪を補正し、送信IQ信号の推定値(等化後のIQ信号)を求める。そして、等化処理部15は、等化後のキャリア毎のIQ信号を雑音分散推定部16及び尤度比算出部17に出力する。
【0037】
雑音分散推定部16は、等化処理部15から等化後のキャリア毎のIQ信号を入力し、等化後のキャリア毎のIQ信号における全周波数帯域(全帯域)を、複数の部分帯域に分割する。そして、雑音分散推定部16は、部分帯域毎に雑音分散(部分帯域の平均の雑音分散)を求め、部分帯域毎の雑音分散を用いた補間処理にて、キャリア毎に雑音分散を推定する。雑音分散推定部16は、キャリア毎の雑音分散を尤度比算出部17に出力する。雑音分散推定部16の処理の詳細については後述する。
【0038】
部分帯域毎に雑音分散を求める手法は、全帯域における平均の雑音分散を求める従来技術を適用することができる。例えば、雑音分散推定部16は、部分帯域内のTMCCキャリア信号、ヌルキャリア信号、ACキャリア信号またはデータキャリア信号の振幅の分散を算出し、当該振幅の分散から、部分帯域の平均の雑音分散を求める。
【0039】
尤度比算出部17は、等化処理部15から等化後のキャリア毎のIQ信号を入力すると共に、雑音分散推定部16からキャリア毎の雑音分散を入力し、さらに、TMCC受信処理部14から伝送パラメータを入力する。
【0040】
尤度比算出部17は、伝送パラメータに従い、等化後のキャリア毎のIQ信号と送信キャリアシンボルのIQ信号とからユークリッド距離を算出し、雑音分散及びユークリッド距離から、キャリア毎にそのキャリアに含まれるビット毎の尤度比を算出する。そして、尤度比算出部17は、ビット毎の尤度比を誤り訂正復号部18に出力する。
【0041】
誤り訂正復号部18は、尤度比算出部17からビット毎の尤度比を入力すると共に、TMCC受信処理部14から伝送パラメータを入力し、伝送パラメータに従い、ビット毎の尤度比に基づいて誤り訂正復号を行い、元のデータを復元する。そして、誤り訂正復号部18は、復元した元のデータを出力する。
【0042】
〔雑音分散推定部16/実施例1〕
次に、
図1に示した雑音分散推定部16について、第一の実施形態(実施例1)を説明する。実施例1の雑音分散推定部16は、IQ信号の全帯域を部分帯域に分割し、部分帯域毎に雑音分散を算出し、部分帯域毎の雑音分散を用いた補間処理を行い、キャリア毎に雑音分散を推定する例である。
【0043】
図2は、実施例1の雑音分散推定部16の構成例を示すブロック図であり、
図3は、実施例1の雑音分散推定部16の処理例を示すフローチャートである。この雑音分散推定部16−1は、信号抽出部20、帯域分割部21、雑音分散算出部22及び補間処理部23を備えている。
【0044】
信号抽出部20は、等化処理部15から等化後のキャリア毎のIQ信号を入力する(ステップS301)。そして、信号抽出部20は、等化後のキャリア毎のIQ信号から、予め設定されたキャリアシンボル位置のTMCCキャリア信号を抽出し(ステップS302)、TMCCキャリア信号を帯域分割部21に出力する。
【0045】
帯域分割部21は、信号抽出部20からTMCCキャリア信号を入力する。そして、帯域分割部21は、等化処理部15により等化されたIQ信号の全帯域を、予め設定された周波数帯域幅の複数の部分帯域に分割し、部分帯域毎にTMCCキャリア信号を分割(グルーピング)する(ステップS303)。帯域分割部21は、部分帯域毎にグルーピングしたTMCCキャリア信号(部分帯域毎のTMCCキャリア信号)を雑音分散算出部22に出力する。
【0046】
図4は、OFDMキャリアシンボルの周波数配置及び部分帯域を説明する図である。横軸は周波数(キャリア)を示す。プラス+を中央に記述した丸印はTMCCキャリア信号を示し、中央が空白の丸印はデータキャリア信号を示し、黒丸はパイロットキャリア信号を示す。
【0047】
図4に示すように、IQ信号の全帯域は、予め設定された周波数帯域幅の複数の部分帯域T−1,T−2,T−3,・・・,T−Nに分割される。Nは、分割された部分帯域の数を示す。
【0048】
図2及び
図3に戻って、雑音分散算出部22は、帯域分割部21から部分帯域毎のTMCCキャリア信号を入力する。そして、雑音分散算出部22は、部分帯域毎に、当該部分帯域に含まれるTMCCキャリア信号の振幅に基づいて、雑音分散を算出し(ステップS304)、部分帯域毎の雑音分散を補間処理部23に出力する。雑音分散算出部22により算出された部分帯域毎の雑音分散は、部分帯域の平均の雑音分散であり、部分帯域における中央のキャリアの雑音分散でもある。
【0049】
補間処理部23は、雑音分散算出部22から部分帯域毎の雑音分散を入力し、部分帯域毎の雑音分散を用いた補間処理を行い、キャリア毎に雑音分散を算出(推定)する(ステップS305)。そして、補間処理部23は、キャリア毎の雑音分散を尤度比算出部17に出力する(ステップS306)。つまり、補間処理部23は、入力した部分帯域毎の雑音分散を、部分帯域毎の中央のキャリアの雑音分散として、部分帯域毎の中央のキャリアの雑音分散を用いた補間処理により、中央のキャリア以外のキャリア(または、中央のキャリア及び中央以外のキャリア)について雑音分散を算出する。
【0050】
補間処理の例として、内挿補間、外挿補間、最小二乗法により1次、2次または3次関数で近似する処理がある。
【0051】
図5は、補間処理としてゼロ次補間処理を用いた場合の雑音分散を説明する図である。
図5(1)は、伝搬路応答及び漏洩干渉波電力のグラフであり、横軸は周波数を示し、縦軸は伝搬路応答及び漏洩干渉波電力を示す。実線が伝搬路応答であり、点線が漏洩干渉波電力である。
図5(2)は、雑音分散のグラフであり、横軸は周波数を示し、縦軸は雑音分散の推定値を示し、丸印は、部分帯域T−1,T−2,・・・,T−N毎の中央のキャリアの雑音分散を示す。
【0052】
図5(1)に示すように、全帯域において伝搬路応答が一定であり、周波数が高くなるに従って漏洩干渉波電力が小さくなる場合、
図5(2)に示すように、雑音分散は、周波数が高くなるに従って小さくなる。
【0053】
図5(2)は、補間処理部23により、部分帯域T−1,T−2,・・・,T−N毎の中央のキャリアの雑音分散(
図5(2)の丸印)を用いてゼロ次補間処理が行われた結果を示している。キャリア毎の雑音分散は、部分帯域T−1,T−2,・・・,T−N毎に一定(同じ値)となり、部分帯域T−1,T−2,・・・,T−Nの周波数が高くなるに従って小さくなる。
【0054】
図6は、補間処理としてフィッティング処理を用いた場合の雑音分散を説明する図である。フィッティング処理とは、1次以上の関数を用いた近似処理である。
図6(1)は、伝搬路応答及び漏洩干渉波電力のグラフであり、横軸は周波数を示し、縦軸は伝搬路応答及び漏洩干渉波電力を示す。実線が伝搬路応答であり、点線が漏洩干渉波電力である。
図6(2)は、雑音分散のグラフであり、横軸は周波数を示し、縦軸は雑音分散の推定値を示し、丸印は、部分帯域T−1,T−2,・・・,T−N毎の中央のキャリアの雑音分散を示す。
図6(1)は
図5(1)と同じである。
【0055】
図6(1)に示すように、全帯域において伝搬路応答が一定であり、周波数が高くなるに従って漏洩干渉波電力が小さくなる場合、
図6(2)に示すように、雑音分散は、周波数が高くなるに従って小さくなる。
【0056】
図6(2)は、補間処理部23により、部分帯域T−1,T−2,・・・,T−N毎の中央のキャリアの雑音分散を用いて、1次以上の関数でフィッティング処理が行われた結果を示している。キャリア毎の雑音分散は、部分帯域T−1,T−2,・・・,T−Nの周波数が高くなるに従い、連続して徐々に小さくなる。
【0057】
以上のように、
図2に示した実施例1の雑音分散推定部16−1によれば、信号抽出部20は、等化後のキャリア毎のIQ信号からTMCCキャリア信号を抽出する。そして、帯域分割部21は、等化処理部15により等化されたIQ信号の全帯域を部分帯域に分割し、部分帯域毎にTMCCキャリア信号を分割する。
【0058】
雑音分散算出部22は、部分帯域毎に、当該部分帯域に含まれるTMCCキャリア信号の振幅に基づいて、雑音分散を算出し、補間処理部23は、部分帯域毎の雑音分散を用いた補間処理を行い、キャリア毎に雑音分散を算出する。
【0059】
これにより、漏洩干渉波が存在し、雑音分散がキャリア毎に異なる場合であっても、キャリア毎の雑音分散は、帯域内の平均の雑音分散から求めたキャリア毎の雑音分散よりも、精度の高い値となり、雑音分散から算出される尤度比の精度も高くなる。したがって、隣接チャンネル等からの漏洩干渉波が存在するフェージング環境において、誤り訂正復号の性能劣化を抑え、伝送特性を向上させることが可能となる。
【0060】
〔雑音分散推定部16/実施例2〕
次に、
図1に示した雑音分散推定部16について、第二の実施形態(実施例2)を説明する。実施例2の雑音分散推定部16は、IQ信号の全帯域を部分帯域に分割し、部分帯域毎に、予め設定されたシンボル数を単位として雑音分散を算出し、部分帯域毎の雑音分散を用いた補間処理を行い、キャリア毎に雑音分散を推定する例である。
【0061】
図7は、実施例2の雑音分散推定部16の構成例を示すブロック図であり、
図8は、実施例2の雑音分散推定部16の処理例を示すフローチャートである。この雑音分散推定部16−2は、信号抽出部20、帯域分割部21、複数シンボル蓄積部(メモリ)24、雑音分散算出部25及び補間処理部23を備えている。
図7において、
図2と共通する部分には
図2と同一の符号を付し、その詳しい説明は省略する。
【0062】
図2に示した実施例1の雑音分散推定部16−1と
図7に示す実施例2の雑音分散推定部16−2とを比較すると、両雑音分散推定部16−1,16−2は、信号抽出部20、帯域分割部21及び補間処理部23を備えている点で共通する。これに対し、実施例2の雑音分散推定部16−2は、実施例1の雑音分散算出部22とは異なる雑音分散算出部25を備え、さらに、帯域分割部21と雑音分散算出部25との間に複数シンボル蓄積部24を備えている点で相違する。
【0063】
信号抽出部20は、等化処理部15から等化後のキャリア毎のIQ信号を入力し(ステップS801)、等化後のキャリア毎のIQ信号からTMCCキャリア信号を抽出する(ステップS802)。
【0064】
帯域分割部21は、IQ信号の全帯域を複数の部分帯域に分割し、部分帯域毎にTMCCキャリア信号を分割(グルーピング)する(ステップS803)。そして、帯域分割部21は、シンボル毎に、部分帯域毎のTMCCキャリア信号を複数シンボル蓄積部24に蓄積する(ステップS804)。この場合、帯域分割部21は、予め設定されたシンボル数分のTMCCキャリア信号が複数シンボル蓄積部24に蓄積されるように、最新のシンボルのTMCCキャリア信号を蓄積し、最古のシンボルのTMCCキャリア信号を削除する。
【0065】
これにより、複数シンボル蓄積部24には、常に最新かつ予め設定されたシンボル数分の(予め設定されたシンボル数を単位とした)部分帯域毎のTMCCキャリア信号が蓄積され、1シンボル毎に更新される。
【0066】
雑音分散算出部25は、複数シンボル蓄積部24から、予め設定されたシンボル数分の(複数シンボルの)部分帯域毎のTMCCキャリア信号を読み出す(ステップS805)。そして、雑音分散算出部25は、部分帯域毎に、当該部分帯域に含まれる、予め設定されたシンボル数分のTMCCキャリア信号の振幅に基づいて、所定シンボルの雑音分散(部分帯域の平均の雑音分散)を算出する(ステップS806)。雑音分散算出部25は、所定シンボルの部分帯域毎の雑音分散を補間処理部23に出力する。
【0067】
図9は、複数シンボルを用いる実施例2において、OFDMキャリアシンボルの周波数配置及び部分帯域を説明する図である。横軸は周波数(キャリア)を示し、縦軸は時間(シンボル)を示す。プラス+を中央に記述した丸印はTMCCキャリア信号を示し、中央が空白の丸印はデータキャリア信号を示し、黒丸はパイロットキャリア信号を示す。
【0068】
図9に示すように、IQ信号の全帯域は、予め設定された周波数帯域幅の複数の部分帯域T−1,T−2,T−3,・・・,T−Nに分割される。前述のとおり、Nは、分割された部分帯域の数を示す。また、雑音分散算出部25は、シンボルを1つずつシフトさせながら、aに示す予め設定されたシンボル数分のシンボルを対象として、部分帯域毎の雑音分散を算出する。そして、雑音分散算出部25は、次のシンボルの処理において、bのシンボル数分のシンボルを対象として、部分帯域毎の雑音分散を算出し、c,dに示すシンボル数のシンボルを対象として順番に処理を行う。
【0069】
具体的には、雑音分散算出部25は、例えばシンボル番号Aのシンボルについて、予め設定されたL=4シンボル数分の連続したaの複数シンボルを対象として、当該部分帯域に含まれるTMCCキャリア信号の振幅に基づき、部分帯域毎の雑音分散を算出する。
【0070】
そして、雑音分散算出部25は、次のシンボル番号A+1のシンボルについて、予め設定されたLシンボル数分の連続したbの複数シンボルを対象として、当該部分帯域に含まれるTMCCキャリア信号の振幅に基づいて、部分帯域毎の雑音分散を算出する。同様に、雑音分散算出部25は、次のシンボル番号A+2のシンボルについて、cの複数シンボルを対象として、部分帯域毎の雑音分散を算出する。そして、雑音分散算出部25は、次のシンボル番号A+3のシンボルについて、dの複数シンボルを対象として、部分帯域毎の雑音分散を算出する。
【0071】
図7及び
図8に戻って、補間処理部23は、雑音分散算出部25から所定シンボルの部分帯域毎の雑音分散を入力し、部分帯域毎の雑音分散を用いた補間処理を行い、キャリア毎に雑音分散を算出(推定)する(ステップS807)。そして、補間処理部23は、キャリア毎の雑音分散を尤度比算出部17に出力する(ステップS808)。
【0072】
以上のように、
図7に示した実施例2の雑音分散推定部16−2によれば、信号抽出部20は、等化後のキャリア毎のIQ信号からTMCCキャリア信号を抽出する。そして、帯域分割部21は、等化処理部15により等化されたIQ信号の全帯域を部分帯域に分割し、部分帯域毎にTMCCキャリア信号を分割し、シンボル毎に、部分帯域毎のTMCCキャリア信号を複数シンボル蓄積部24に蓄積する。
【0073】
雑音分散算出部25は、複数シンボル蓄積部24から、予め設定されたシンボル数分の部分帯域毎のTMCCキャリア信号を読み出す。そして、雑音分散算出部25は、部分帯域毎に、当該部分帯域に含まれる前記シンボル数分のTMCCキャリア信号の振幅に基づいて、所定シンボルの雑音分散を算出する。補間処理部23は、部分帯域毎の雑音分散を用いた補間処理を行い、キャリア毎に雑音分散を算出する。
【0074】
これにより、伝搬環境が準静的であり、漏洩干渉波が存在し、雑音分散がキャリア毎に異なる場合であっても、キャリア毎の雑音分散は、帯域内の平均の雑音分散から求めたキャリア毎の雑音分散よりも、精度の高い値となり、雑音分散から算出される尤度比の精度も高くなる。したがって、隣接チャンネル等からの漏洩干渉波が存在するフェージング環境において、誤り訂正復号の性能劣化を抑え、伝送特性を向上させることが可能となる。
【0075】
また、前述の、時間方向の複数のキャリアシンボルを用いて雑音分散を算出する特許文献2の手法では、雑音分散の精度を保つために、長時間にわたってキャリアシンボルを蓄積する必要があった。これに対し、実施例2では、部分帯域毎の雑音分散を算出する際に、時間方向に加え、周波数方向にもTMCCキャリア信号を蓄積する。したがって、同じ精度の雑音分散を算出するためには、同じ数のキャリアシンボルが必要となることから、周波数方向にキャリアシンボルを蓄積した分、時間方向のキャリアシンボルの蓄積は少なくて済む。つまり、実施例2では、時間方向のキャリアシンボルの蓄積は、特許文献2の手法に比べ、短い時間で済むようになる。
【0076】
例えば、伝送パラメータとして、キャリア数が6881、シンボル長がts=412.5μs、キャリア間隔が2.5kHz、ガードインターバルが12.5μsの場合であって、フェージングによるドップラー周波数がfd=130Hzの場合、時間的変動がなく一定とみなすことができるコヒーレンス時間は、tc=1/fd=7.7msとなる。このコヒーレンス時間に相当するシンボル数は、tc/ts≒18シンボルである。つまり、前述の特許文献2の手法では、特許文献1の全帯域を用いて雑音分散を推定する場合と同等の雑音分散の算出精度を得るには、時間方向のシンボル数6881のキャリアシンボルを蓄積し、雑音分散を算出する必要がある。しかし、このような時間変動がある場合、コヒーレンス時間を大幅に上回る蓄積時間となるため、正しい雑音分散を推定することができない。
【0077】
これに対し、実施例2では、特許文献1の全帯域のキャリアシンボルを用いた場合と同じ精度の雑音分散を得るためには、時間方向のシンボル数18のキャリアシンボルを蓄積するだけで済み、全帯域を18の部分帯域に分割すればよい。つまり、実施例2では、18の部分帯域毎に、18シンボル分のTMCCキャリア信号を複数シンボル蓄積部24に蓄積すればよい。したがって、実施例2では、フェージングによる時間変動に追従しながら、雑音分散の算出精度を保つことができ、かつ、キャリア毎の雑音分散を求めることができる。
【0078】
以上、実施例1,2を挙げて本発明を説明したが、本発明は前記実施例1,2に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。例えば、前記実施例1,2では、OFDM受信装置1の雑音分散推定部16−1,16−2は、等化後のキャリア毎のIQ信号からTMCCキャリア信号を抽出し、TMCCキャリア信号を用いて雑音分散を求めるようにした。本発明は、雑音分散を求めるためにTMCCキャリア信号を用いることに限定されるものではなく、他の信号を用いるようにしてもよい。
【0079】
例えば、雑音分散推定部16−1,16−2は、TMCCキャリア信号の代わりに、ヌルキャリア信号、ACキャリア信号またはデータキャリア信号を用いるようにしてもよい。いずれの場合も、雑音分散推定部16−1,16−2は、部分帯域毎にMER(Modulation Error Ratio:変調誤差比)を算出し、その逆数を雑音分散とし、部分帯域毎の雑音分散を用いた補間処理を行い、キャリア毎に雑音分散を算出する。
【0080】
ただし、データキャリア信号を用いた場合、誤り訂正の符号化率が低く、低C/Nで運用すると、信頼できるMERの値が得られない。この場合は、データキャリア信号に比べて相対的に変調多値数の小さいTMCCキャリア信号、ヌルキャリア信号またはACキャリア信号を用いることが望ましい。
【0081】
また、前記実施例1,2では、OFDM受信装置1の雑音分散推定部16−1,16−2は、TMCCキャリア信号のみを用いて雑音分散を求めるようにした。本発明は、雑音分散を求めるためにTMCCキャリア信号のみを用いることに限定されるものではなく、TMCCキャリア信号に加え、ヌルキャリア信号、ACキャリア信号またはデータキャリア信号等の他の信号を用いるようにしてもよい。また、雑音分散推定部16−1,16−2は、TMCCキャリア信号、ヌルキャリア信号、ACキャリア信号及びデータキャリア信号のうち、任意の2以上の信号を用いて、雑音分散を求めるようにしてもよい。
【0082】
また、前記実施例1,2では、OFDM受信装置1の雑音分散推定部16−1,16−2は、IQ信号の全帯域を、予め設定された周波数帯域幅の複数の部分帯域に分割するようにした。この場合、雑音分散推定部16−1,16−2は、全ての部分帯域が同じ周波数帯域幅となるように、IQ信号の全帯域を分割するようにしてもよい。
【0083】
また、雑音分散推定部16−1,16−2は、全ての部分帯域で、雑音分散を求める対象であるTMCCキャリア信号等のキャリア数が同じになるように、IQ信号の全帯域を分割するようにしてもよい。これにより、部分帯域の周波数帯域幅は、他の部分帯域の周波数帯域幅と必ずしも等しくならないが、部分帯域毎の雑音分散の算出精度が等しくなる。また、部分帯域内で、雑音分散を求める対象となるTMCCキャリア信号等のキャリア数が極端に少なくなることがない。したがって、雑音分散の算出精度が極端に低下することがなく、安定した誤り訂正復号を実現することができ、伝送特性を安定的に向上させることが可能となる。