(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1実施形態]
図1から
図3を参照して、スパッタ装置の第1実施形態を説明する。
図1から
図3では、スパッタ装置のうち、ターゲット、磁気回路、供給部、および、制御部のみが模式的に示されている。また、
図1から
図3では、ターゲットと磁気回路とが積み重なる方向から見たターゲットと磁気回路との平面構造が示されている。
図1から
図3では、磁気回路とターゲットとを区別しやすくする目的で、磁気回路にドットが付されている。
【0017】
図1が示すように、スパッタ装置は、ターゲット11、磁気回路12、供給部13、および、制御部14を備えている。ターゲット11は、被スパッタ面を含む円板状を有している。磁気回路12は、被スパッタ面とは反対側の面の一例である裏面11R上に位置し、被スパッタ面と対向する平面視において、ターゲット11の中心11Cに対して偏心した形状を有している。磁気回路12は、第1法線の一例である被スパッタ面の法線を中心として回転する。より詳しくは、磁気回路12は、被スパッタ面の法線のなかで、中心11Cを通る法線を中心として回転する。なお、磁気回路12は、被スパッタ面のなかで、中心11C以外の部分を通る法線を中心として回転する構成でもよい。
【0018】
供給部13は、ターゲット11の径方向におけるターゲット11よりも外側に位置する供給位置PsにスパッタガスGsを供給する。供給位置Psは、成膜対象が収容される処理槽の内部に設定することが可能な位置である。供給位置Psは、ターゲット11の径方向においてターゲット11よりも外側に位置していれば、スパッタ装置の高さ方向において、ターゲット11よりも上方に位置してもよいし、ターゲット11よりも下方に位置してもよい。
【0019】
磁気回路12のなかで、供給位置Psとターゲット11の径方向において向かい合ったときにおいて供給位置Psからの距離Lが最も大きい部分が遠隔部12aである。本実施形態では、磁気回路12は、円弧状を有する円弧部12bと、V字状を有するV字部12cとから構成されている。V字部12cは、円弧部12bの両端からの距離が等しい位置であって、円弧部12bによって囲まれる位置において屈曲する形状を有している。V字部12cにおける屈曲部が、磁気回路12の遠隔部12aである。なお、磁気回路12の形状は、
図1に示される形状に限らず、ターゲット11の中心11Cに対して偏心した形状であればよい。言い換えれば、ターゲット11の裏面11Rにおいて、磁気回路12によって区画される領域が、ターゲット11の中心11Cに対して偏心していればよい。磁気回路12は、例えば、円環状を有し、かつ、磁気回路12の中心がターゲット11の中心11Cに対して偏心した形状を有することができる。ターゲット11の径方向における供給位置Psと磁気回路12との間の距離Lは、遠隔部12aが供給位置Psと向かい合うときに、最大値Lmaxになる。
【0020】
ターゲット11の形成材料には、金属、金属化合物、半金属、および、半金属化合物などを挙げることができる。スパッタガスには、不活性ガス、および、不活性ガスと反応性ガスとを混合したガスを用いることができる。
【0021】
制御部14は、磁気回路12と供給部13との駆動を制御する。制御部14は、被スパッタ面と対向する平面視において、供給位置Psが径方向において遠隔部12aを含む部分と向かい合うときに、径方向において遠隔部12aを含む部分以外の部分が供給位置Psと向かい合うときよりも大きい流量で、供給部13に供給位置Psに対してスパッタガスGsを供給させる。
【0022】
磁気回路12がターゲット11の中心11Cに対して偏心した形状を有し、かつ、ターゲット11の外側に位置する供給位置PsにスパッタガスGsが供給される構成では、被スパッタ面に供給されるスパッタガスが以下の傾向を有する。すなわち、供給位置Psと磁気回路12との間の距離が大きいほど、供給位置Psに供給されたスパッタガスGsの流量に対して、被スパッタ面のなかで、磁気回路12と重なる位置に供給されるスパッタガスGsの流量の割合が小さくなる傾向を有する。この点で、ターゲット11の径方向において供給位置Psと遠隔部12aを含む部分とが向かい合うときに、磁気回路12における他の部分が供給位置Psと向かい合うときよりも大きい流量で供給位置Psにスパッタガスが供給されるため、遠隔部12aに向けて供給されるスパッタガスGsの流量が小さくなることが抑えられる。
【0023】
本実施形態では、ターゲット11の径方向における供給位置Psと磁気回路12との間の距離は、供給位置Psが円弧部12bと向かい合っているときにはほぼ一定である。一方で、供給位置PsがV字部12cと向かい合っているときには、供給位置Psと磁気回路12との間の距離Lは、供給位置Psが円弧部12bと向かい合っているときよりも小さくなる。
【0024】
そのため、制御部14は、供給部13に供給位置Psに対してスパッタガスGsを供給させる期間を、供給位置Psが径方向においてV字部12cと対向する期間の全体としてもよいし、V字部12cと対向する期間の一部であって、供給位置Psが遠隔部12aと対向する期間を含む期間としてもよい。
【0025】
これに対して、
図2が示すように、供給位置Psが径方向において円弧部12bと対向する期間は、制御部14は、供給部13に供給位置Psに対してスパッタガスGsを供給させなくてもよい。あるいは、制御部14は、供給位置Psが径方向において円弧部12bと対向する期間も、供給部13に供給位置Psに対してスパッタガスGsを供給させてもよい。この場合には、制御部14は、供給位置Psが径方向において遠隔部12aを含む部分と対向する期間において供給部13が供給位置Psに供給するスパッタガスGsの流量を、それ以外の期間において供給部13が供給位置Psに供給するスパッタガスGsの流量よりも大きくすればよい。
【0026】
あるいは、
図3が示すように、供給部13は、ターゲット11の周方向における複数の供給位置PsにスパッタガスGsを供給してもよい。この場合には、制御部14は、遠隔部12aを含む部分と向かい合う供給位置Psに供給されるスパッタガスGsの流量が、全ての供給位置Psのなかで最も大きくなるように、供給部13にスパッタガスGsを供給させる。なお、制御部14は、遠隔部12aを含む部分と向かい合う供給位置Psに対して供給部13にスパッタガスGsを供給させる一方で、それ以外の供給位置Psには、供給部13にスパッタガスを供給させない構成でもよい。また、制御部14は、供給位置Psのなかで、径方向における磁気回路12との間の距離が大きい部分ほど、その供給位置Psに供給するスパッタガスGsの流量が大きくなるように、供給部13の駆動を制御してもよい。なお、
図3では、供給部13を示す矢印の太さが太いほど、供給位置Psに対して供給されるスパッタガスGsの流量が大きいことを模式的に示している。
【0027】
供給部13が供給位置Psに向けてスパッタガスGsを供給する期間、および、供給位置Psに供給するスパッタガスGsの流量の少なくとも1つを変更する構成は、以下の構成によって具体化することができる。例えば、供給部13は、スパッタガスGsの供給を制御するマスフローコントローラーと、スパッタガスGsが通るガス通路とを含む構成として具体化することができる。
【0028】
以上説明したように、スパッタ装置の第1実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)ターゲット11の径方向において供給位置Psと遠隔部12aを含む部分とが向かい合うときに、径方向において他の部分が供給位置Psと向かい合うときよりも大きい流量で供給位置PsにスパッタガスGsが供給される。そのため、被スパッタ面のなかで、磁気回路12の遠隔部12aと重なる部分に向けて供給されるスパッタガスGsの流量が、被スパッタ面のなかで、磁気回路12の他の部分に供給されるスパッタガスGsの流量よりも小さくなることが抑えられる。
【0029】
(2)ターゲット11の径方向において、磁気回路12における遠隔部12a以外の部分と向かい合う供給位置PsにもスパッタガスGsが供給される分だけ、被スパッタ面のなかで、遠隔部12aと重なる部分に向けて供給されるスパッタガスGsの流量と、それ以外の部分に向けて供給されるスパッタガスGsの流量との差を小さくすることができる。それゆえに、被スパッタ面の各部に供給されるスパッタガスGsの流量に起因して、成膜対象の面内において薄膜の特性にばらつきが生じることが抑えられる。
【0030】
[第2実施形態]
図4から
図13を参照して、スパッタ装置の第2実施形態を説明する。第2実施形態は、第1実施形態と比べて、供給部がスパッタガスを供給する供給位置がターゲットの周方向における全体である点、および、こうした供給位置にスパッタガスを供給するための構成が主に異なっている。そのため、以下では、こうした相違点について詳しく説明する。また、以下では、スパッタ装置の構成、および、試験例を順に説明する。
【0031】
[スパッタ装置の構成]
図4から
図7を参照して、スパッタ装置の構成を説明する。
図4が示すように、スパッタ装置20は、筒状を有する真空槽21を備え、真空槽21の内部には、成膜対象Sを支持する支持部22が位置している。真空槽21は、成膜対象Sに対する成膜処理が行われる処理空間21Sを区画する。支持部22は例えば成膜対象Sを支持するステージである。成膜対象Sには、例えば、シリコン基板、ガラス基板、および、樹脂基板などを用いることができる。
【0032】
真空槽21において、支持部22の上方には、支持部22と対向するようにターゲット11が位置している。ターゲット11は、バッキングプレート23を介して真空槽21に固定されている。なお、
図3では、ターゲット11とバッキングプレート23とが真空槽21内に位置しているが、これらのうち、少なくともターゲット11の被スパッタ面11Sが真空槽21に露出していればよい。バッキングプレート23には、ターゲット電源24が接続され、ターゲット電源24はバッキングプレート23に電力を供給することによって、ターゲット11に電力を供給する。
【0033】
真空槽21の外側には、バッキングプレート23に対してターゲット11とは反対側に、磁気回路12を含む磁気回路機構25が位置している。磁気回路機構25は筐体26によって取り囲まれている。筐体26は、真空槽21の周方向において磁気回路機構25の全体を取り囲む形状を有している。筐体26と磁気回路機構25との間に、処理空間21Sに供給されるスパッタガスGsが通るガス通路が位置している。ガス通路には、処理空間21Sに供給されるガスの流量を制御するマスフローコントローラー27が接続されている。マスフローコントローラー27は、スパッタ装置20の外部に位置するボンベに接続されている。なお、本実施形態では、マスフローコントローラー27とガス通路とが、スパッタガスGsを供給位置に供給する供給部に含まれる。
【0034】
真空槽21には、処理空間21S内のガスを排気する排気部28が接続されている。排気部28は、処理空間21Sの圧力を所定の圧力まで減圧する。排気部28は、例えば、ポンプとバルブとを含んでいる。
【0035】
スパッタ装置20は、制御部14を備えている。制御部14は、スパッタ装置20が備える各部の駆動を制御することによって、処理空間21S内において成膜対象Sに対して所定の薄膜を形成する。上述したように、制御部14は、磁気回路12の駆動と、供給部の駆動とを制御する。
【0036】
こうしたスパッタ装置20では、成膜対象Sが支持部22上に配置された後、制御部14が、排気部28に処理空間21Sの圧力を所定の圧力まで減圧させる。次いで、制御部14が、マスフローコントローラー27に所定の流量でスパッタガスGsを処理空間21Sに供給させる。そして、制御部14は、ターゲット電源24に電力をバッキングプレート23に供給させる。これにより、スパッタガスGsからプラズマが生成され、プラズマ中のイオンによって、ターゲット11の被スパッタ面11Sがスパッタされる。ターゲット11から放出されたスパッタ粒子が成膜対象Sに付着することによって、成膜対象Sに薄膜が形成される。
【0037】
図5は、真空槽21の径方向と高さ方向とによって規定される平面に沿う断面構造を示している。こうした断面構造において、真空槽21における径方向の中心を通る軸を対称軸とするとき、ガス通路は、対象軸に対する一方と他方とに対称な構成を有している。そのため、
図5では、ガス通路において、対称軸に対する一方のみを示し、他方の図示が省略されている。
【0038】
図5が示すように、筐体26と磁気回路機構25との間に、ガス通路30が位置している。ガス通路30は、処理空間21Sにおける互いに異なる2以上の供給位置に向けてスパッタガスGsを通す通路であり、本実施形態では、ガス通路30のなかで保持空間30aから処理空間21Sまでの部分が真空槽21の周方向に沿う環状を有することによって、環状を有した供給位置に向けてガスを通す。ガス通路30と処理空間21Sとが繋がる部分が供給位置である。これにより、供給部は、ターゲット11の周方向の全体にわたる環状を有した供給位置にスパッタガスGsを供給する。
【0039】
これにより、環状を有した供給位置にスパッタガスGsが供給されるため、遠隔部12aに向けて供給されるスパッタガスGsの流量と、それ以外の部分に向けて供給されるスパッタガスGsの流量との差を周方向の全体において小さくすることが可能である。また、ターゲット11の周方向における全体に対してスパッタガスGsが供給されるため、薄膜の形成速度を高めることができる。
【0040】
ガス通路30は、処理空間21Sに通じる途中に保持空間30aを含んでいる。保持空間30aは、真空槽21の周方向に沿う環状を有している。筐体26は、筐体26における他の部分に比べて、筐体26の径方向における外側に突き出た部分である突出部26aを含む。突出部26aによって区画される空間が、ガス通路30の一部である保持空間30aである。
【0041】
保持空間30a、すなわちガス通路30の途中には、供給部に含まれる調節部材31が位置している。調節部材31は、ターゲット11の周方向に沿う環状を有している。調節部材31は、被スパッタ面11Sと対向する平面視において、ターゲット11の径方向に沿うガス通路30の幅Wgを調節することによって、調節部材31から下流のコンダクタンスを調節する。また、調節部材31は、第2法線の一例である被スパッタ面11Sの法線を中心に回転する。調節部材31は、被スパッタ面11Sの法線のなかで、調節部材31の中心を通る法線を中心に回転するが、調節部材31の中心以外を通る法線を中心に回転する構成でもよい。また、調節部材31の回転の中心である第2法線は、磁気回路12の回転の中心である第1法線と互いに同じ法線であってもよいし、互いに異なる法線であってもよい。
【0042】
調節部材31は、保持空間30a内での位置が変わることによって、ガス通路30における保持空間30aから処理空間21Sにおける1つの供給位置に向かう部分のコンダクタンスを、保持空間30aから処理空間21Sにおける他の供給位置に向かう部分のコンダクタンスと異ならせるように構成されている。コンダクタンスは、スパッタガスGsが流れる方向と直交する方向に沿うガス通路30の断面を単位時間に通過するスパッタガスGsの流量である。調節部材31の位置は、図示されない位置変更部によって変更される。本実施形態では、位置変更部は、高さ方向Dhにおける位置と、径方向Drにおける位置とを個別に変えるように構成されている。位置変更部は、少なくとも径方向Drにおける調節部材31の位置を変えるように構成されていればよい。なお、本実施形態では、ターゲット11の径方向と、真空槽21の径方向Drとが等しい方向であるため、調節部材31を径方向Drに沿って移動させることによって、ターゲット11の径方向に沿うガス通路30の幅Wgを変えることができる。
【0043】
調節部材31の位置が変わることによって、1つの供給位置と他の供給位置との間において、保持空間30aから各供給位置に向かう部分のコンダクタンスを異ならせることができるため、真空槽21の周方向において、スパッタガスGsの流量における分布を変えることが可能である。しかも、保持空間30aの周方向における全体に調節部材31が位置し、かつ、ガス通路30のなかで、保持空間30aから処理空間21Sに向かう部分が周方向に沿う環状を有するため、真空槽21における周方向の全体で、真空槽21に供給されるスパッタガスの流量における分布を変えることができる。
【0044】
位置変更部は、例えば、突出部26aの内周面に含まれる面のなかで、高さ方向Dhにおける上面26a1と下面26a2との間において、調節部材31の位置を変えることができる。位置変更部は、例えば、径方向Drにおける調節部材31の位置を、磁気回路機構25に接する位置と突出部26aに接する位置との間で変えることができる。
【0045】
位置変更部はさらに、調節部材31を上述した法線を中心に回転させる。位置変更部は、磁気回路12が回転する方向と同じ方向に調節部材31を回転させる。調節部材31の回転速度は、磁気回路12の回転速度と等しくてもよいし、異なってもよい。位置変更部は、調節部材31の各部における高さ方向Dhの位置と径方向Drの位置とを保った状態で、調節部材31を回転させる。
【0046】
真空槽21には防着板21aが位置し、防着板21aは、ターゲット11の被スパッタ面11Sと対向する平面視において、ターゲット11の周方向における全体を取り囲む環状を有している。スパッタ装置20では、ガス通路30を流れるスパッタガスは、ガス通路30における保持空間30aを通って、処理空間21Sに供給される。この際に、保持空間30aにおける調節部材31の位置によって、保持空間30aから処理空間21Sに向かうコンダクタンスが調節される。スパッタガスGsは、保持空間30aを通った後に、バッキングプレート23およびターゲット11と、防着板21aとによって区画される空間であって、処理空間21Sの一部に含まれる空間を通る。なお、防着板21aは省略されてもよい。
【0047】
図6は、スパッタ装置20のうち、ターゲット11、磁気回路12、および、調節部材31をターゲット11の裏面11Rと対向する方向から見た平面構造を模式的に示している。なお、
図6では、磁気回路12の形状と調節部材31の形状とを分かりやすくする目的で、磁気回路12と調節部材31とにドットが付されている。
【0048】
図6が示すように、調節部材31は、ターゲット11の径方向においてターゲット11の外側に位置している。調節部材31は無端の円環状を有し、調節部材31の中心31Cは、ターゲット11の中心11Cよりも紙面の上方に位置している。言い換えれば、調節部材31の中心31Cの位置と、ターゲット11の中心11Cの位置とが、互いに異なっている。
【0049】
調節部材31とターゲット11との間の隙間がガス通路30の一部である。上述したように、調節部材31の中心31Cは、ターゲット11の中心11Cよりも紙面の上方に位置しているため、ガス通路30の幅Wgは、ターゲット11の周方向において偏りを有している。本実施形態では、ガス通路30のなかで、ターゲット11の中心11Cよりも紙面の上方に位置する部分の幅Wgは、ターゲット11の中心11Cよりも紙面の下方に位置する部分の幅Wgよりも大きい。これに対して、ターゲット11の中心11Cに対して紙面の左側に位置する部分の幅Wgは、ターゲット11の中心11Cに対して紙面の右側に位置する部分の幅Wgとほぼ等しい。また、ガス通路30のなかで、ターゲット11の中心11Cに対して紙面の上方に位置する部分の幅Wgは、ターゲット11の中心11Cに対して紙面の右側に位置する部分の幅Wg、および、ターゲット11の中心11Cに対して紙面の左側に位置する部分の幅Wgよりも大きい。
【0050】
ガス通路30のなかで、調節部材31から下流の各部におけるコンダクタンスは、ガス通路30の幅Wgが大きいほど大きくなる。そのため、ガス通路30において、ターゲット11の中心11Cに対して紙面の上方に位置する部分のコンダクタンスが、ターゲット11の中心11Cに対して紙面の下方に位置する部分のコンダクタンスよりも大きくなる。結果として、ターゲット11の被スパッタ面11Sにおいて、ターゲット11の中心11Cよりも紙面の上方に位置する部分に対して供給されるスパッタガスGsの流量が、ターゲット11の中心11Cよりも紙面の下方に位置する部分に対して供給されるスパッタガスGsの流量よりも大きくなる。
【0051】
調節部材31のなかで、ガス通路30の幅Wgを最大にする部分が最大幅部31Mである。
図6が示す調節部材31とターゲット11との状態では、調節部材31のなかで、ターゲット11の中心11Cに対して直上に位置する部分が最大幅部31Mである。制御部14は、ターゲット11の周方向において、最大幅部31Mの位置が遠隔部12aの位置に追従するように調節部材31を回転させる。制御部14は、ターゲット11の周方向において、最大幅部31Mの位置と遠隔部12aの位置とが一致するように、言い換えれば、ターゲット11における1つの径上に最大幅部31Mが位置し、かつ、1つの径の延長上に遠隔部12aとが位置するように、磁気回路12の回転と調節部材31の回転とを制御してもよい。あるいは、制御部14は、ターゲット11の周方向において、最大幅部31Mの位置と調節部材31の位置とが所定の範囲内でずれを有するように、磁気回路12の回転と調節部材31の回転とを制御してもよい。
【0052】
ターゲット11の周方向において、調節部材31における最大幅部31Mの位置が磁気回路12の遠隔部12aの位置に追従するため、供給位置と遠隔部12aとの間の距離Lが、供給位置と磁気回路12における他の部分との間の距離Lよりも大きいために、遠隔部12aに向けて供給されるスパッタガスの流量が小さくなることが抑えられる。それゆえに、磁気回路12が形成した漏洩磁場に応じてターゲット11の被スパッタ面11Sの周りに形成されたプラズマの状態にばらつきが生じることが抑えられ、結果として、成膜対象Sに形成された薄膜の特性にばらつきが生じることが抑えられる。
【0053】
磁気回路12の開角θは、ターゲット11の中心11Cからターゲット11の径方向に沿って延びる2つの直線によって規定される角度である。開角θを規定する2つの直線は、例えば、ターゲット11の裏面11Rにおいて、磁気回路12が位置する領域と、磁気回路12が位置しない領域との境界となる直線であってもよい。開角θを規定する2つの直線は、また例えば、ターゲット11の裏面11Rにおいて、磁気回路12における遠隔部12aを含む部分と、磁気回路12における遠隔部12aを含む部分以外の部分との境界となる直線であってもよい。
【0054】
本実施形態では、開角θを規定する2つの直線は、ターゲット11の裏面11Rにおいて、磁気回路12が位置する領域と、磁気回路12が位置しない領域との境界となる直線である。より詳しくは、V字部12cのなかで、遠隔部12aから遠隔部12aに対する一方側に向けて延びる辺と、遠隔部12aから遠隔部12aに対する他方側に向けて延びる辺とが形成する角度が開角θである。
【0055】
開角θがターゲット11の周方向に占める割合は、θ°/360°で表すことができる。ターゲット11が、中心11Cを通る法線を中心に1回転する間、言い換えれば360°回転する間において、遠隔部12aを含む部分であるV字部12cが最大幅部31Mと対向する角度は、開角θよりも大きいことが好ましい。V字部12cが最大幅部31Mと対向する角度が開角θよりも大きいことによって、調節部材31を回転させることによる効果をより顕著に得ることができる。このように、制御部14は、磁気回路12の回転速度、および、調節部材31の回転速度を、遠隔部12aを含む部分が最大幅部31Mと対向する角度の範囲が、遠隔部12aよりも大きくなるように制御することが好ましい。
【0056】
また、制御部14は、磁気回路12の回転速度、および、調節部材31の回転速度は、以下を満たすように制御することが好ましい。すなわち、成膜対象Sに所定の厚さを有した薄膜を形成する際の磁気回路12および調節部材31の回転数をN回とするとき、磁気回路12と調節部材31との間の位相差は、θ°/(360・N)°であることが好ましい。言い換えれば、磁気回路12および調節部材31がN回回転する間に、磁気回路12の回転角度と調節部材31の回転角度との差が開角θ未満になるように、磁気回路12の回転速度、および、調節部材31の回転速度が設定されることが好ましい。すなわち、位相差とは、調節部材31の全回転数あたりにおける磁気回路12の回転角度と調節部材31の回転角度との差のことである。
【0057】
なお、ターゲット11の径方向に沿う1つの方向が基準方向であり、磁気回路12の外縁および調節部材31の外縁の各々における任意の点とターゲット11の中心11Cとを結ぶ直線と、基準方向とが形成する角度が、その点における位相である。また、磁気回路12および調節部材31の各々において、回転が開始されるときの位置が初期位置である。磁気回路12および調節部材31の各々が初期位置に位置するとき、最大幅部31Mにおける位相と、磁気回路12のなかで、開角θを規定する一方の直線が通る点における位相とが等しい。
【0058】
これにより、成膜対象Sに薄膜が形成される期間の全体にわたって、調節部材31の最大幅部31Mが、ターゲット11の径方向において、遠隔部12aを含む部分と対向した状態に保たれる。
【0059】
[試験例]
図7から
図13を参照して、試験例を説明する。
[ガス通路における流量差]
図7は、試験例のスパッタ装置における断面構造であって、真空槽21の高さ方向Dhと径方向Drとによって規定される平面に沿う断面構造を示している。
図7が示すように、試験例1のスパッタ装置20Tにおいて、保持空間30aにおける高さ方向Dhに沿う幅が第1幅Waであり、径方向Drに沿う幅が第2幅Wbである。第1幅Waと第2幅Wbとを等しい値とし、それぞれ20mmに設定した。保持空間30aが有する開口のうち、スパッタガスGsの流れる方向における下流に位置する開口が下流開口である。下流開口における径方向Drに沿う幅が第3幅Wcであり、第3幅Wcを2mmに設定した。調節部材31における高さ方向Dhに沿う幅が第4幅Wdであり、径方向Drに沿う幅が第5幅Weである。第4幅Wdと第5幅Weとを等しい値とし、それぞれ10mmに設定した。
【0060】
高さ方向Dhと径方向Drとによって規定される平面に沿う断面において、調節部材31のうち、紙面の中央よりも右側に位置する部分を第1部分31aに設定し、紙面の中央よりも左側に位置する部分を第2部分31bに設定した。また、ガス通路30のなかで、第1部分31aと磁気回路機構25との間の距離、および、第2部分31bと磁気回路機構25との間の距離における初期値を初期距離d0に設定し、径方向Drに沿って調節部材31が移動した距離を移動距離Δdに設定した。さらに、ガス通路30のなかで、第1部分31aと突出部26aの内周面における下面との間の距離、および、第2部分31bと下面との間の距離を第3距離d3に設定した。
【0061】
第1部分31aと磁気回路機構25との間におけるスパッタガスの流量を第1流量Q1に設定し、第2部分31bと磁気回路機構25との間における流量を第2流量Q2に設定した。そして、第1部分31aと第2部分31bとの両方において、各部分と突出部26aの内周面における下面との間における流量を第3流量Q3に設定した。
【0062】
また、ガス通路30のうち第1部分31aが位置する空間を通って処理空間21Sに供給されるスパッタガスGsの流量を第1総流量Qaに設定し、ガス通路30のうち31bが位置する空間を通って処理空間21Sに供給されるスパッタガスGsの流量を第2総流量Qbに設定した。第1総流量Qaおよび第2総流量Qbは、それぞれ以下の式で表すことが可能である。
Qa=Q1+Q3
Qb=Q2+Q3
【0063】
また、第1総流量Qaと第2総流量Qbとの和を全流量に設定し、第2総流量Qbから第1総流量Qaを引いた差を流量差に設定した。このとき、初期距離d0に対する移動距離Δdの比と、総流量(Qa+Qb)に対する流量差(Qb−Qa)の比との関係は、
図8および
図9に示す通りであることが認められた。
図8および
図9において、第1曲線から第7曲線L7は、それぞれ第3距離d3が以下の条件を満たすときに得られる曲線である。なお、
図9は、
図8において二点鎖線で囲まれる領域を拡大したグラフである。
第1曲線L1 d3=0
第2曲線L2 d3=0.2d0
第3曲線L3 d3=0.3d0
第4曲線L4 d3=0.5d0
第5曲線L5 d3=d0
第6曲線L6 d3=2d0
第7曲線L7 d3=3d0
【0064】
図8および
図9が示すように、第3距離d3が初期距離d0よりも小さいときには、特に、第3距離d3が初期距離の0.2倍以下であるときには、全流量に対する流量差の比が大きくなることが認められた。言い換えれば、調節部材31を径方向Drに沿って移動させることに従って、第1流量Q1と第2流量Q2との差が大きくなることが認められた。これに対して、第3距離d3が初期距離d0以上であるときには、調節部材31を径方向Drに沿って移動させたとしても、全流量に対する流量差の比が大きくは変わらないことが認められた。言い換えれば、調節部材31を径方向Drに沿って移動させても、第1流量Q1と第2流量Q2との差が大きくなりにくいことが認められた。すなわち、調節部材31を径方向Drに沿って移動させることによって、第1流量Q1と第2流量Q2との差を大きくしたい場合には、第3距離d3が初期距離d0よりも小さいことが好ましいことが認められた。
【0065】
[磁気回路および調節部材の回転と比抵抗値との関係]
上述したスパッタ装置20Tにおいて、主成分がチタンであるターゲット11を用い、かつ、供給部が処理空間21Sに供給するスパッタガスとして窒素を含むガスを用いた。なお、主成分であるとは、ターゲットにおいてチタンが90質量%以上含まれることであり、窒素を含むガスには、アルゴンガスと窒素ガスとを混合したガスを用いた。これにより、シリコン基板上に窒化チタン膜を形成した。このとき、磁気回路12と調節部材31との各々を10回回転させた。また、磁気回路12と調節部材31とが10回回転した時点において、磁気回路12と調節部材31との位相差が互いに異なる複数の値となるように、磁気回路12の回転速度と調節部材31との回転速度とを複数の条件で設定した。そして、各条件下において形成された窒化チタン膜における比抵抗値の分布を算出した。なお、各窒化チタン膜において、複数の位置における比抵抗値を測定し、これらの比抵抗値から比抵抗値の分布を算出した。
【0066】
図10が示すように、磁気回路12と調節部材31との位相差がθ未満であるときには、窒化チタン膜の面内において比抵抗値の分布が小さくなることが認められた。これに対して、磁気回路12と調節部材31との位相差がθ以上になることによって、窒化チタン膜の面内において比抵抗値の分布が急激に大きくなることが認められた。
【0067】
また、磁気回路12が360°回転する間に、磁気回路12において遠隔部12aを含む部分、すなわち磁気回路12のV字部12cと、調節部材31の最大幅部31Mとが径方向において対向する角度の範囲が対向範囲である。対向範囲が互いに異なる複数の値となるように、磁気回路12の回転速度と調節部材31の回転速度とを複数の条件で設定した。そして、各条件下において形成された窒化チタン膜における比抵抗値の分布を算出した。
【0068】
図11が示すように、調節部材31の最大幅部31MがV字部12cと対向する角度の範囲がθを超えると、窒化チタン膜の面内において比抵抗値の分布が急激に小さくなることが認められた。
【0069】
[比抵抗値の面内分布]
上述したスパッタ装置20Tを用いて、シリコン基板上に窒化チタン膜を形成した。そして、第1例の窒化チタン膜を形成するときには、位相差がθ未満であり、かつ、上述した対向範囲がθ以上であるように、磁気回路12の回転速度と、調節部材31の回転速度とを設定した。これに対して、第2例の窒化チタン膜を形成するときには、位相差がθ以上であり、かつ、対向範囲がθ未満であるように、磁気回路12の回転速度と、調節部材31の回転速度とを設定した。そして、シリコン基板の面内における各位置において窒化チタン膜の比抵抗値を測定した。第1例における測定の結果は、
図12に示す通りであり、第2例における測定の結果は、
図13に示す通りであった。なお、各例において、シリコン基板の任意の直径における第1端部から第2端部までの間に含まれる複数の位置において窒化チタン膜の比抵抗値を測定した。
【0070】
図12が示すように、第1例の窒化チタン膜では、シリコン基板の中央における比抵抗値が、第1端部および第2端部の各々における比抵抗値よりも大きいものの、窒化チタン膜の面内において比抵抗値がほぼ一定であることが認められた。
【0071】
これに対して、
図13が示すように、第2例の窒化チタン膜では、シリコン基板の中央における比抵抗値が、第1端部および第2端部の各々における比抵抗値よりも大幅に大きいことが認められた。なお、窒化チタン膜では、窒化チタン膜における窒化の度合いが小さいほど、窒化チタン膜における比抵抗値が高くなる傾向を有することが認められている。
【0072】
このように、試験例のスパッタ装置20Tによれば、窒化チタン膜を形成するときに、ターゲット11の被スパッタ面11Sと対向する平面視において、供給位置から磁気回路12までの距離が異なることによって、成膜対象Sに形成される窒化チタン膜の面内において比抵抗値にばらつきが生じることが抑えられた。なお、供給位置と磁気回路12との距離が大きいほど、ターゲット11よりも外側から供給される窒素を含むガスの流量を大きくすることによって、窒化チタン膜における窒化の度合いが窒化チタン膜の面内においてより均一になったことが、こうした効果の一因と考えられる。
【0073】
以上説明したように、スパッタ装置の第2実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(3)環状を有した供給位置にスパッタガスGsが供給されるため、被スパッタ面のなかで、遠隔部12aに重なる部分に向けて供給されるスパッタガスGsの流量と、それ以外の部分に向けて供給されるスパッタガスGsの流量との差を周方向の全体において小さくすることが可能である。それゆえに、成膜対象の面内において薄膜の特性にばらつきが生じることがより抑えられる。
【0074】
(4)ターゲット11の周方向において、調節部材31における最大幅部31Mの位置が磁気回路12の遠隔部12aの位置に追従する。そのため、供給位置と遠隔部12aとの間の距離Lが、供給位置と磁気回路12における他の部分との間の距離Lよりも大きいことによって遠隔部12aに向けて供給されるスパッタガスの流量が小さくなることが抑えられる。それゆえに、磁気回路12が形成した漏洩磁場に応じてターゲットの被スパッタ面の周りに形成されたプラズマの状態にばらつきが生じることが抑えられ、結果として、成膜対象Sに形成された薄膜の特性にばらつきが生じることが抑えられる。
【0075】
(5)窒化チタン膜を形成するときに、ターゲット11の被スパッタ面11Sと対向する平面視において、供給位置から磁気回路12までの距離が異なることによって成膜対象Sに形成される窒化チタン膜の面内において比抵抗値にばらつきが生じることが抑えられる。
【0076】
なお、上述した第2実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
・下流開口は、真空槽21の周方向に沿う環状を有しているが、周方向における位置が互いに異なる2以上の供給位置にスパッタガスを供給することが可能なように、周方向における互いに異なる複数の位置に配置された複数の開口によって構成されてもよい。この場合には、複数の開口を有する通路部材が真空槽に対して回転が可能であり、かつ、複数の開口が、開口径が互いに異なる2種以上の開口を含み、通路部材のなかで、開口径が最も大きい開口が位置する部分が、最大幅部として設定されればよい。こうした構成によっても、上述した(4)に準じた効果を得ることはできる。
【0077】
・スパッタ装置20,20Tは、スパッタガスGsが通り、かつ、調節部材31を保持する保持空間30aを含むガス通路30として、磁気回路機構25と筐体26とが形成するガス通路に限らず、スパッタ装置20,20Tを構成する他の部材によって形成されるガス通路を備えてもよい。
【0078】
・上述した試験例では、チタンが主成分であるターゲットと、窒素を含むスパッタガスとを用いて窒化チタン膜を形成する例を示した。すなわち、試験例では、反応性スパッタ法によって薄膜を形成する例を示した。これに限らず、例えば、タングステンを主成分とするターゲットと、不活性のスパッタガスとを用いてタングステン膜を形成するときにも、上述したスパッタ装置20,20Tによれば、成膜対象に形成されたタングステン膜において、比抵抗値におけるばらつきを抑えることが可能である。すなわち、反応性スパッタではないスパッタ法によって薄膜を形成するときにも、上述した試験例に準じた効果を得ることができる。なお、不活性のスパッタガスには、例えばアルゴンガスなどの希ガスを用いることができる。